JP2011079760A - 植物からのシアル酸含有化合物の抽出法 - Google Patents

植物からのシアル酸含有化合物の抽出法 Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明は、入手が容易であり且つ動物罹患性病原体の混入の恐れがない原料(安全性の高い原料)から、人体や環境に有害な試薬の使用を必須とせずに、シアル酸含有化合物を安価で且つ容易に抽出することを目的とする。
【解決手段】 植物体(特に穀類や豆類の種子)もしくはその加工品を、水、アルコール又は含水アルコールを用いて可溶性成分を粗抽出し、得られた粗抽出液から、透析、塩析もしくはクロマトグラフィーカラムによって分離し回収することを特徴とする、シアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
【選択図】 図19

Description

本発明は、植物からのシアル酸含有化合物の抽出法に関し、詳しくは穀類及び/又は豆類の種子からのシアル酸含有化合物の抽出法に関する。
シアル酸は、アミノ糖であるノイラミン酸のアシル誘導体の総称であり、20種類以上の誘導体が存在するが、天然には、N-アセチルノイラミン酸およびN-グリコリルノイラミン酸として最も多量に存在しシアル酸含有スフィンゴ糖脂質である「ガングリオシド」やシアル酸含有糖鎖である「ポリシアル酸糖鎖」として、動物の脳、牛乳、鶏卵卵黄などに存在する。
ガングリオシドは、シアル酸を非還元末端側に有する糖脂質の総称であり、シアル酸の数と結合部位によって複数の種類がある。ポリシアル酸とは、シアル酸が数十個以上結合した糖鎖である。ポリシアル酸は、神経細胞の移動や神経突起の伸長、シナプス形成の場で機能している巨大な神経特異的糖蛋白質である神経接着因子(NCAM)の糖鎖部分を構成している。
シアル酸を分子構造中に含む化合物は、1)レゾルシノール−塩酸試薬を反応させる事により赤紫色ないし青紫色に発色する(例えば、非特許文献1参照)、2)セロトニンアフィニティーカラムに親和性を有する(例えば、非特許文献2参照)、といった性質を持つ。逆に、これらの性質を示す物質はシアル酸を分子構造中に有する化合物である。
シアル酸含有化合物は、脳を構成する神経の分化、成長、維持に必須の物質であり、経口摂取により学習能力向上作用も認められている、高い機能性を有する物質である(例えば、非特許文献3参照)。さらに、シアル酸含有化合物は、免疫活性化作用、抗癌作用を有することも知られている。従って、今後、シアル酸含有化合物は、高齢化社会の到来とともに、さらに増大する脳関連疾患や悪性腫瘍性疾患の治療に幅広く利用されることが予想される。
これまでシアル酸含有化合物は主として牛脳や牛乳から調製されてきたが、牛海綿脳症(BSE)問題の発生により牛脳や牛乳からの調製が困難となっている。また、鶏卵もシアル酸含有化合物の供給源であるが、鳥インフルエンザ問題の発生により鶏卵からのシアル酸含有化合物の製造もその安全性が疑問視されている。即ち、鳥インフルエンザウイルスは鶏卵には感染しないとされているが、消費者の安心を得ているとは言い難い。
なお、シアル酸含有化合物を人工的に化学合成することも行われているが、現時点ではその手法では収率やコストの面において実用可能なレベルに達しておらず、大量生産するには至っていない。
このような現状から、ウイルスやプリオンなどの動物罹患性病原体の混入の心配のない、新たな天然素材由来のシアル酸含有化合物の供給源が望まれている。
また、従来の天然物由来のシアル酸含有化合物の抽出方法においては、クロロホルム−メタノール混合溶媒、もしくは熱メタノールなどを用いて抽出されており(シアル酸含有化合物の化学合成法においても、クロロホルムをはじめとする様々な有機溶媒が使用されており)、環境問題及び人体への影響の観点から、有害な有機溶媒の使用を抑制しようとの動きもあり、これらに配慮したシアル酸含有化合物の抽出方法の開発が望まれている。
これまで、植物にシアル酸が存在することを示唆する報告は、Sharらの論文(非特許文献4,5参照)に記載されている。
しかしながら、Sharらの論文には、シロイヌナズナにシアル酸の存在を示唆する間接的な証拠の記載があるのみで、シアル酸含有化合物特有の性質の有無を直接調べた実験は行われておらず、さらに具体的な抽出方法も開示されていない。
なお、特許文献1には、植物を含む生体由来原料からのガングリオシドを含む糖脂質を抽出できる旨が並列的に記載されているが、詳しくはマウスの脳からの抽出方法しか開示されておらず、植物を材料としたガングリオシドを含む糖脂質の具体的な抽出方法は記載されていない。また、クロロホルムを用いるため好ましくない。
特開2003−129083号公報
新生化学実験講座4 脂質III 糖脂質, (1990) p149 Carbohydrate Research, 103 (1982) p213-219 ガングリオシド研究法I, (1995), p7-25 Nature Biotechnology, 21 (2003) p1470-1471 Nature Biotechnology, 22 (2004) p1351-1352
本発明は、上記従来の課題を解決し、入手が容易であり且つ動物罹患性病原体の混入の恐れがない原料(安全性の高い原料)から、人体や環境に有害な試薬の使用を必須とせずに、シアル酸含有化合物を安価で且つ容易に抽出することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、植物体、特に穀類及び豆類の種子、にシアル酸含有化合物が多量に存在することを見出した。
そして本発明者は、前記植物体を、水、アルコールもしくは含水アルコールを含む水を用いて可溶性成分を粗抽出し、得られた粗抽出液から精製を行うことで、動物罹患性病原体の混入の恐れがないシアル酸含有化合物を、容易に抽出できることを見出した。
本発明は、係る知見に基づいて完成されたものである。
即ち、請求項1に係る本発明は、植物体もしくは植物体の加工品を、水、アルコール又は含水アルコールを用いて可溶性成分を粗抽出し、得られた粗抽出液から、透析、塩析もしくはクロマトグラフィーカラムによって分離し回収することを特徴とする、シアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、前記植物体が、穀類及び/又は豆類の種子である、請求項1に記載のシアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、前記植物体もしくは植物体の加工品が、粉砕、磨砕、擂潰もしくは粉末化されたものである、請求項1又は2に記載のシアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、前記可溶性成分を粗抽出する工程において超音波処理を行う、請求項1〜3のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、前記水が、水道水、脱イオン水、蒸留水、もしくは、塩,酸,アルカリ,糖類又はpH緩衝剤を含む水である、請求項1〜4のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項6に係る本発明は、前記アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、もしくは、グリセロールである、請求項1〜5のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項7に係る本発明は、前記分離回収が、セロトニンアフィニティーカラム、レクチンアフィニティーカラム、ゲル濾過カラム、イオン交換カラム、もしくは、シリカゲルカラムによって行うものである、請求項1〜6のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法を提供するものである。
請求項8に係る本発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の抽出法から得られるシアル酸含有化合物を提供するものである。
本発明は、原料が植物(特に穀類、豆類の種子)由来であり、製造工程において有害な化学薬品等(特にクロロホルム)を用いないため、動物罹患性病原体の混入の恐れがなく、安全性の高いシアル酸含有化合物を、提供することを可能とする。
また、本発明は、原料の入手及び工程が容易であるため、シアル酸含有化合物を安価に提供することを可能とする。
さらに、本発明は、規格外や廃棄される穀類や豆類、穀類の加工時に生じる廃棄物(米糠やフスマなど)、規格外の豆を有効に利用することを可能にする。
試験例1〜3において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、大豆種子全粒の粉、小麦粉、玄米全粒の粉、又は玄米糊粉層部分の粉、からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例4において、抽出溶媒としてエチレングリコールを用いて抽出した、玄米糊粉層部分の粉又は米胚芽からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 図3の(a)は、試験例5において、抽出溶媒としてエチレングリコールもしくは水を用いて抽出した、玄米糊粉層部分の粉からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、ヨウ素蒸気雰囲気下で全有機化合物の存在を検出した図であり、図3の(b)は、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例6において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、玄米糊粉層部分の粉もしくは白米表層部分の粉からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例7において、抽出溶媒として水、塩酸を含有する水もしくはエチレングリコールを用いて抽出した、小豆種子の粉からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例8〜10において、玄米最外層部分、玄米糊粉層部分、白米表層部分、黒大豆種子の子葉又はトウモロコシの粉からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例11において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、米胚芽又は玄米糊粉層部分の粉からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 実施例1において、玄米糊粉層部分の粉からの水抽出物をセロトニンアフィニティーカラムにより分画した図である。 実施例2において、米胚芽からの水抽出物をセロトニンアフィニティーカラムにより分画した図である。 実施例3において、白米表層部分の粉からの水抽出物をセロトニンアフィニティーカラムにより分画した図である。 実施例3において、セロトニンアフィニティーカラムにより分画した画分を、薄層クロマトグラフィーで分離し、ヨウ素蒸気雰囲気下で全有機化合物の存在を検出した図(a)、および、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図(b)である。 試験例12において、抽出溶媒としてエチレングリコールを用いて抽出した、胚芽からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レクチン結合反応によりシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例13において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、玄米最外層部分を削り取った胚芽と糊粉層の残った米を炊飯したものからの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例14において、抽出溶媒としてグリセロールを用いて抽出した、小麦全粒粉または大麦全粒粉からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例15において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、小麦全粒粉、大麦全粒粉、小麦フスマ、大麦フスマ、米胚芽からの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例16において、抽出溶媒として水、もしくは11.83%酢酸、もしくは7.06%塩酸を用いて抽出した、小麦小ブスマの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例17において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、小麦小ブスマの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 試験例18において、抽出溶媒として水を用いて抽出した、米糠、小麦フスマ、大麦フスマからの粗抽出液を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レクチン結合反応によりシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。 実施例4において、米全粒の粉からのメタノール抽出物をゲル濾過カラムにより分画した図である。 実施例4において、ゲル濾過カラムにより分画した画分を、薄層クロマトグラフィーで分離し、レゾルシノール塩酸処理でシアル酸含有化合物の存在を検出した図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
植物(特に穀類、豆類の種子)由来の原料から、水やアルコールを用いて可溶性成分を粗抽出し、得られた粗抽出液から精製を行うことを特徴とする、シアル酸含有化合物の抽出法に関するものである。
<シアル酸含有化合物>
本発明における「シアル酸含有化合物」とは、シアル酸を分子構造中に有する化合物を指す。シアル酸は、アミノ糖であるノイラミン酸のアシル誘導体の総称であり、20種類以上の誘導体が存在するが、天然には、N-アセチルノイラミン酸およびN-グリコリルノイラミン酸として最も多量に存在する。下記の化学式(1)のN-アセチルノイラミン酸の構造が示すように、シアル酸は9個の炭素からなる骨格を有する九炭糖であり、官能基としてカルボキシル基やN-アシル基を有するという特徴がある。
1986年に、5位のアミノアシル基が水酸基で置換された2-keto-3-deoxy-D-glycero-D-galacto-nononic acid(KDN)が発見されたため、現在ではシアル酸の定義として、9炭糖骨格のαケト酸を持つ糖(2−ケト−3−デオキシノノン酸)が採用されている。
Figure 2011079760
シアル酸含有化合物に該当する分子種としては、‘シアル酸含有糖鎖’であるポリシアル酸糖鎖、‘前記糖鎖を含有するシアル酸含有糖タンパク質’であるフェチュイン、α1−酸性糖蛋白質及びムチン、‘シアル酸含有糖脂質’であるガングリオシド(スフィンゴ糖脂質)などが挙げられる。
ここで、ポリシアル酸とは、シアル酸が数十個以上結合した糖鎖である。特にポリシアル酸は、神経細胞の移動や神経突起の伸長、シナプス形成の場で機能している巨大な神経特異的糖蛋白質である神経接着因子(NCAM)の糖鎖部分を構成している。
また、ガングリオシドは、シアル酸を非還元末端側に有する糖脂質の総称であり、シアル酸の数と結合部位によって複数の種類がある。なお、後述する実施例から、本発明における植物由来のシアル酸含有化合物のほとんどは糖脂質と糖タンパク質であり、特に大部分が糖脂質であることが示唆されている。
また、シアル酸は陰性荷電を有し、細胞接着、細胞分化などに関与し、特に神経細胞の分化、成長、維持に必須の物質である。
なお、本発明においては、シアル酸含有化合物とは、シアル酸単体も含む概念である。
<原料>
本発明におけるシアル酸含有化合物の抽出原料としては、植物体、すなわち植物の器官や組織であれば如何なるものでも用いることができるが、好ましくは、穀類及び/又は豆類の種子を用いることが望ましい。
ここで「穀類」としては、イネ科植物のうち、食用となる澱粉質を含む種子をつける植物を指し、麦や稲だけでなく雑穀に分類される種類も含むものである。
具体的には、イネ科に属する稲(イネ)、小麦(コムギ)、大麦(オオムギ)、ライ麦(ライムギ)、燕麦(エンバク、オーツ麦、カラス麦の栽培種)、ワイルドグラス、シコクビエ、キビ、ヒエ、アワ、ハトムギ、トウモロコシ、モロコシ(タカキビ、コウリャン、ソルガム)、トウジンビエ、テフ、フェニオ、コドラ(コードンビエ)、マコモ、などを挙げることができる。
本発明では、これらの中でも、特に主要な穀類である「大麦」、「小麦」、「稲」、「トウモロコシ」を好適に用いることができる。また、小麦や大麦に近縁なライ麦、燕麦も好適に用いることができる。
‘大麦’(オオムギ、barley)としては、Hordeum vulgareに属する植物であれば、如何なる品種、系統のものも用いることができる。例えば、二条大麦、六条大麦、裸大麦、皮大麦、などを挙げることができる。
また、‘小麦’(コムギ、wheat)としては、コムギ属(Triticum)に属する植物であれば、如何なる種、品種、系統のものも用いることができる。例えば、T. aestivum(普通コムギ、パンコムギ)、T. compactum(クラブコムギ、密穂コムギ)、T. durum(デュラムコムギ、マカロニコムギ)、などを挙げることができる。
また、‘稲’(イネ)としては、Oryza sativaに属する植物であれば、ジャポニカ品種とインディカ品種を含めて、如何なる品種、系統のものも用いることができる。例えば、一般良食米(コシヒカリ、ヒトメボレなど)、低アミロース米、高アミロース米、低グリテリン米、もち米、黒米、赤米、紫米、などを挙げることができる。
また、‘トウモロコシ’(corn、maize)としては、Zea maysに属する植物であれば、如何なる品種、系統のものも用いることができる。例えば、スイートコーン(甘味種)、ポップコーン(ポップコーンの原料)、デントコーン(コーンスターチの原料)、フリントコーン、ワキシコーン、などを挙げることができる。
また、「豆類」としては、豆科に属する食用の種類を挙げることができ、例えば、大豆、小豆、リョクトウ、インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、などを挙げることができるが、特には、大豆、小豆を好適に用いることができる。
‘大豆’(ダイズ、Glycine max)としては、Glycine maxに属する植物であれば如何なる品種、系統のものも用いることができる。例えば、黒豆、赤豆、だだちゃ豆、青大豆、白大豆、雁食豆、ミヤギシロメ、大白、納豆小粒、などを挙げることができる。
また、‘小豆’(アズキ)としては、Vigna angularisに属する植物であれば如何なる品種、系統のものも用いることができる。例えば、大納言、中納言、白小豆、黒小豆、などを挙げることができる。
本発明の原料である穀類や豆類としては、植物体、すなわち植物の器官や組織であれば如何なるものでも用いることができるが、好ましくは、‘種子’を用いることが望ましい。
また、種子に由来する組織であれば、いかなる組織や部分でも用いることができるが、例えば、胚、胚芽、胚乳、種皮、糠、糊粉層、澱粉貯蔵部、糊粉層、子葉などを用いることができる。また、種子全体(全粒)を用いることもできる。
また、本発明の原料としては、加工品を用いることができる。例えば、小麦粉、大麦粉、米粉(玄米粉、白米粉など)、炊飯米、トウモロコシ粉、大豆粉、小豆粉、ココナッツパウダー、などを用いることができる。
またさらには、廃棄対象となる、精米や精白過程で生じる糠(米糠、コムギフスマ、オオムギフスマ、胚芽など)、澱粉を抽出した残り粕、焼酎絞りかす、大豆製品粕(オカラなど)、規格外や余剰の収穫物、なども好適に用いることができる。
<粗抽出工程>
本発明におけるシアル酸含有化合物の粗抽出は、次の方法により行うことができる。
前記原料は、用いる種類、組織、加工状態によっては、そのまま抽出工程に用いることができるが、抽出効率の向上の点を鑑みると、細断や破砕などの処理、好ましくは粉砕、磨砕、擂潰、粉末化などの処理(特に好ましくは粉末化)、を行った後で抽出工程に用いることが望ましい。
なお、これらの処理は、公知技術のどのような方法で行うことができる。例えば、穀類の種子を粉末化する場合は、粉砕機(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製、又はCyclone Sample Mill, UDY CORPORATION製)、ブラシ式精米機(HRG-122、みのる産業製)あるいは研削式精米機(Grain Testing Mill, SATAKE製)を用いて粉末化することができる。また、豆類を粉末化する場合は、粉砕機(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)を用いることができる。
なお、精米過程で脱落する米胚芽や小麦粉、米粉などのような粉状の加工品は、粉砕等をせずに、そのまま粗抽出に用いることができる。
本工程では、前記原料を溶媒に浸漬して粗抽出処理を行う。当該粗抽出処理に用いる溶媒としては、水、アルコール、含水アルコールであれば、如何なるものでも用いることができる。
本工程で抽出できるシアル酸含有化合物は、これらの溶媒に可溶性(特に水溶性)のものであれば、如何なる分子種のものでも抽出することが可能である。また、水溶性の性質が弱いものやpH変化で溶解性が変化するものであっても、塩、酸、アルカリ、糖類、pH緩衝剤、を水に含有させることで、溶解性が向上し抽出できるものもある。
本工程においては、溶媒として単に「水」を用いるだけで、前記原料からシアル酸含有化合物を得ることが可能である。
ここで、水としては、水道水、蒸留水、脱イオン水、硬度の高い水、など如何なる水を用いることもできる。
また、‘塩’としては、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどを挙げることができる。塩を含有させることによって、有効成分の溶解性を向上させ、抽出効率を向上させることができる。
また、‘酸’としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、好ましくは、塩酸、酢酸を好適に用いることができる。なお、酸を含有させることによって、シアル酸含有化合物を低分子化させ、溶出効率を向上させることができる。また、25〜40℃の温度範囲での長時間の浸漬中の雑菌繁殖を抑制できる効果がある。
また、‘アルカリ’としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニアなどを挙げることができ、好ましくは、水酸化マグネシウム、アンモニアを好適に用いることができる。25〜40℃の温度範囲での長時間の浸漬中の雑菌繁殖を抑制できる効果がある。
また、‘糖類’としては、ソルビトール、グルコース、ショ糖、トレハロース、キシリトールなどを挙げることができる。
本工程において、水に含有させる塩、酸、アルカリ、糖類、pH緩衝剤などの濃度は、用いる物質によって様々であるが、例えば、塩化ナトリウムを用いた場合では、0.1〜5%(w/v)を含有させることが望ましい。また、塩酸を用いた場合では、0.5〜12%(v/v)、好ましくは1%(v/v)〜7%(v/v)程度(0.28N〜2N程度)を含有させることが望ましい。また、酢酸を用いた場合では、0.5〜12%(v/v)、好ましくは1.7%(v/v)〜12%(v/v)程度(0.28N〜2N程度)を含有させることが望ましい。
また、本工程に用いる溶媒としては、「含水アルコール」や「(100%)アルコール」を用いることができる。なお、含水アルコールに混合する水は、通常の水(水道水、蒸留水、脱イオン水、など)を用いるものであるが、上記塩、酸、アルカリ、糖類、pH緩衝剤、などを含有する水を用いることができる。
ここで、アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなどのモノアルコール類(一価のアルコール)、;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、などのグリコール類(二価のアルコール)、;グリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン類(三価のアルコール)、を挙げることができる。
本発明に用いるアルコールとしては、上記のうち、モノアルコール類であるメタノール、エタノール、イソプロパノール(さらに特には、極性の高い炭素数の少ない低級アルコール類であるメタノール、エタノール)を用いることが望ましいが、摂取上の安全性を鑑みると、特にエタノールを用いることが望ましい。
また、グリコール類であるエチレングリコール、グリセリン類であるグリセリンも好適に用いることができる。
本粗抽出工程に用いる溶媒において、水に対するアルコールの濃度は、用いるアルコールによって様々であるが、例えば、エタノールを用いる場合では、5%(v/v)〜100%(v/v:含水率0%)、好ましくは5%(v/v)〜50%(v/v)を含有させることが望ましい。
また、エチレングリコールを用いる場合では、20%(v/v)〜100%(v/v:含水率0%)、好ましくは50%(v/v)〜100%(v/v:含水率0%)を含有させることが望ましい。
当該所定のアルコール濃度の溶媒を用いることによって、抽出効率が向上や夾雑物の減少効果が期待される。
本粗抽出工程では、前記原料1質量部に対して、1〜10質量部、好ましくは3〜5質量部の前記溶媒を注加して浸漬することで、有効成分の抽出を行うことができる。また、さらには超音波処理、などを行うことで、原料をより微細な状態に破砕することができ、抽出効率を向上させることもできる。例えば、超音波処理としては、従来の行われている如何なる方法でも行うことができるが、例えば、B-42J Ultrasonic Cleaner(BRANSON製)を用いることができる。
その後、1〜80℃、好ましくは5〜40℃の温度で、1分〜24時間、好ましくは5分〜12時間の粗抽出処理を行う。
なお、抽出効率を向上させたい場合は、少なくとも1時間以上行うことが望ましい。また、有効成分の酵素代謝による変化を防ぎたい場合は、10℃以下の温度で(特には5分〜4時間)の粗抽出処理を行うことが望ましい。
また、逆に、シアル酸含有化合物を低分子化、断片化させて(易溶性を向上させて)抽出効率を向上させるためには、室温程度(例えば20〜35℃程度)で4時間以上、好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間以上の粗抽出処理を行うことで、原料である植物体に含まれる内在性酵素を働かせることができる。
また、(特に、内在性酵素が失活した植物体加工品を原料に用いる場合には)、濃度の高い酸(例えば、2N程度塩酸や酢酸)を含む水において、40〜80℃程度、好ましくは80℃程度で粗抽出処理を行うことで、低分子化、断片化させることができる。
当該粗抽出処理においては、混合、攪拌、振盪、加圧などを行うことによって、溶出効率を向上することができる。(なお、特に抽出溶媒がアルコールの場合は、単純な攪拌混合だけでも十分な抽出が可能な場合がある。)
また、粗抽出処理後は、濾過、遠心分離、自然沈降などを行って、原料の残渣や不純物を除去することが望ましい。
また、抽出溶媒として、水(もしくは塩、酸、アルカリ、糖類、pH緩衝剤を含む水)を用いた場合、当該粗抽出液に、適量(例えば0.5〜5倍量)のエタノールを注加することで、核酸、多糖類などの高分子夾雑物を沈殿させて除去することができる。
<精製工程>
上記工程で得られた粗抽出液は、精製を行うことによって、シアル酸含有化合物の含有率を高めることができる。具体的には、透析、塩析、もしくはクロマトグラフィーカラムによって、シアル酸含有化合物を多く含む画分を分離し、回収することで行うことができる。
本工程において、‘透析’としては、電気透析法、単純透析、などによって行うことができる。
また、‘塩析’としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、などによって行うことができる。
また、‘クロマトグラフィーカラム’としては、アフィニティーカラム(セロトニンアフィニティーカラム、レクチンアフィニティーカラム、ヘパリンカラム、抗体カラム、など)、イオン交換カラム(4級アンモニウム基結合担体カラム、ジエチルアミノエチル基結合担体カラム、など)、ゲル濾過カラム(架橋アガロースゲルカラム、架橋デキストランゲルカラム、など)、吸着樹脂カラム(多孔性吸着樹脂カラム、活性炭カラムなど)、シリカゲルカラム、修飾基付きシリカゲルカラム、固相などによって行うことができる。
また、カラム形態も、高速クロマトグラフィーに用いられるような形態だけでなく、固相カートリッジのような使い捨てカラムでも問題なく用いることができる。
これらのうち、アフィニティーカラムやゲル濾過カラム(特にはアフィニティーカラム)が含有率の向上の点で好適である。また、工業的な実用の観点を踏まえると、吸着樹脂カラム、シリカゲルカラム、透析法、などを挙げることができる。
特に、‘アフィニティーカラム’としては、シアル酸含有化合物と強い特異的親和性を示すカラム担体を充填したものが好ましく、特にセロトニンアフィニティーカラムやレクチンアフィニティーカラム、(最も好適にはセロトニンアフィニティーカラム)が好適である。
具体的には、セロトニンアフィニティー担体(LAS-Serotonin担体、J−オイルミルズ製)を用いることができる。もしくは、セロトニンをリガンドとして適当な市販の担体(Pharmacia製Sephadexなど)に化学的にリガンドカップリングさせたセロトニンアフィニティー担体を作成し用いることができる。
なお、シアル酸との結合性を有する担体として、コンカナバリンA(ConA)担体を挙げることができるが、ConA担体は、マンノースとの親和性を利用して、マンノースを含むシアル酸糖鎖を回収するものであるため、本工程のカラム担体として用いるにはあまり好適ではない。
また、‘ゲル濾過カラム’としては、アガロースゲル、架橋アガロースゲル、アクリルアミド系ポリマーゲル、その他市販されている一般的なゲルを用いることができる。
これらの精製方法は、組み合わせて行うことで、さらにシアル酸含有化合物の純度を高めることができる。また、得られた精製物から、さらにHPLCでシアル酸含有化合物を含むピークを分取することで、さらに精製物の純度を高めたり、純品を単離することができる。
なお、上記精製を経て回収したシアル酸含有化合物を高含有する溶出画分(精製物)は、溶出溶媒等を揮発、透析除去、濃縮乾固等して、用いることが望ましい。
上記精製工程を経て回収したシアル酸含有化合物の回収量は、例えば、原料として穀類又は豆類の種子を3g用いて水抽出し、セロトニンアフィニティーカラムで精製した場合、2.5〜4.5mg程度が抽出できる。また、当該精製をすることによって、夾雑物の含有量は、ヨウ素蒸気雰囲気下で検出する全有機化合物量の検出限界以下にすることができる。
<用途>
シアル酸含有化合物は、神経細胞の分化、成長、維持に必須の物質であり、アルツハイマー病、認知症、脊髄損傷などの中枢神経障害、;糖尿病性神経障害、末梢神経疾患に付随する運動障害および知覚障害、;に有効な治療や予防効果を有する有効成分となることが期待できる。また、前記疾患以外にも、記憶改善作用が期待できる。
さらに当該化合物は、免疫活性化作用、抗癌作用を有することも知られている。
従って、上記工程を経て得た植物由来のシアル酸含有化合物(精製物)は、各種原料に混合することで、薬剤、機能性飲食品、機能性化粧品等とすることができる。
なお、本発明における有効成分である当該抽出物は、植物(特に穀類、豆類の種子)由来であるため、投与や摂取の上で安全性に優れたものである。
薬剤の形態としては、例えば経口投与の場合、粉末状、細粒状、顆粒状、などとすることができ、カプセルに充填する形態の他、水に分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態とすることもできる。
また、経皮投与の場合、クリーム状、ジェル状、シール状、有効成分を含んだ支持体を固定する形状、などの形態にすることができる。
また、機能性飲食品(特定保健用食品、栄養機能性食品、健康食品)としては、種々の食品、例えばハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子などに添加して使用したり、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。
また、機能性化粧品としては、例えば、化粧品に適した形態、例えば、クリーム状、ジェル状、化粧水、整髪料、などに添加し、当該化合物を経皮摂取の適した形態にすることができる。
以下に本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
<試験例1>(大豆種子の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
大豆種子(サチユタカ)全粒を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製、メッシュ径は0.5mmもしくは1mm)によって粉砕することで得た大豆粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料1−1)。この混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。この処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図1に示す。
<試験例2>(玄米全粒および玄米糊粉層部分の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
玄米(コシヒカリ)全粒を粉砕器(Cyclone Sample Mill, UDY Corporation製)によって粉砕することで得た粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料2−2)。
また、玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Satake Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料2−5)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図1に示す。
<試験例3>(小麦粉の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
小麦粉(農林61号)3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料3−3)。小麦粉(Western White)3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料3−4)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。この処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図1に示す。
なお、図1において、レーン1は大豆種子(サチユタカ)全粒の粉(試料1−1)、レーン2は玄米(コシヒカリ)全粒の粉(試料2−2)、レーン3は小麦粉(農林61号)(試料3−3)、レーン4は小麦粉(Western White)(試料3−4)、レーン5は玄米(コシヒカリ)糊粉層部分の粉(試料2−5)から、抽出溶媒として水を用いて上記工程より得られた粗抽出液を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
〔試験例1〜3の結果〕
その結果、図1が示すように、大豆種子全粒の粉(試料1−1)(レーン1)、玄米全粒の粉(試料2−2)(レーン2)、小麦粉(試料3−3,3−4)(レーン3,4)、玄米糊粉層部分の粉(試料2−5)(レーン5)を原料とし、上記工程より、抽出溶媒として水を用いて得られた粗抽出液には、シアル酸含有化合物が含まれることが明らかになった。また、これらの中でも、大豆種子全粒の粉(試料1−1)(レーン1)と玄米糊粉層部分の粉(試料2−5)(レーン5)に、上記方法で抽出可能なシアル酸含有化合物が、特に多く含まれることが示された。
この結果から、大豆、米及び小麦の種子に由来する粉末から、有害な有機溶媒を使用することなく、抽出溶媒として水を用いることで、シアル酸含有化合物を含有する粗抽出液が得られることが明らかになった。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料1−3,1−4(レーン3,4)における原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<試験例4>(エチレングリコールを用いた粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、100%(v/v)エチレングリコール15mLを加え、よく混合した(試料4−7)。また、米胚芽(コシヒカリ)3gに、100%(v/v)エチレングリコール15mLを加え、よく混合した(試料4−8)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図2に示す。
なお、図2において、レーン1はN−アセチルノイラミン酸標品(シアル酸含有)(N-Acetylneuraminic acid Type IV-S, Sigma製)、レーン2はガングリオシドGD1a標品(シアル酸含有)(Disialoganglioside-GD1a, Sigma製)、レーン3はガングリオシドGT1b標品(シアル酸含有)(Trisialoganglioside-GT1b, Sigma製)、レーン4はホスファチジルセリン標品(Phosphatidylserine from beef brain, SERDANY Research Laboratories製)、レーン5はホスファチジルエタノールアミン標品(L-α-Phosphatidylethanolamine from plant, AVANTI Polar−Lipids製)、レーン6はリゾホスファチジルコリン標品(L-α-Lysophosphatidylcholine from soybean, Sigma製)をシリカゲルプレート上で展開したものである。
レーン7は玄米(コシヒカリ)糊粉層部分の粉(試料4−7)、レーン8は米胚芽(コシヒカリ)(試料4−8)から、抽出溶媒として100%(v/v)エチレングリコールを用いて上記工程より得られた粗抽出液を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図2が示すように、抽出溶媒として100%(v/v)エチレングリコールを用い、玄米糊粉層部分の粉(試料4−7)(レーン7)又は米胚芽(試料4−8)(レーン8)を原料とし、上記工程より得られた粗抽出液にも、シアル酸含有化合物が含まれることが示された。
また、米胚芽部分(試料4−8)(レーン8)にも、玄米糊粉層部分(試料4−7)(レーン7)と同程度に多量のシアル酸含有化合物を含むことが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<試験例5>(エチレングリコールによる抽出への影響)
玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Satake Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料5−1)。また、前記玄米糊粉層部分の粉3gに、100%(v/v)エチレングリコール15mLを加え、よく混合した(試料5−2)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離した。
展開したシリカゲルプレートは、ヨウ素蒸気雰囲気下に室温にて72時間静置することで、全有機化合物の検出を行った。続いて、ヨウ素蒸気雰囲気から取り出したシリカゲルプレートを24時間静置し、充分にヨウ素を脱着させたのち、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図3に示す。なお、図3において、検出された全有機化合物を(a)に、検出されたシアル酸含有化合物を(b)に示す。
なお、図3において、レーン1は玄米糊粉層部分の粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料5−1)、レーン2は玄米糊粉層部分の粉から抽出溶媒として100%(v/v)エチレングリコールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料5−2)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図3の(a)と(b)の比較が示すように、抽出溶媒として100%(v/v)エチレングリコールを用いて抽出する(試料5−2)(レーン2)ことで、玄米糊粉層部分の粉から、抽出溶媒として水を用いて抽出する(試料5−1)(レーン1)よりも、夾雑物混入の少ないシアル酸含有化合物を含む粗抽出液が得られることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<試験例6>(エタノール沈殿処理の抽出への影響)
玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料6−1〜6−3)。また、玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると白米表層部分に相当する91〜86質量%部分(削り取って回収した白米表層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料6−4〜6−6)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
上記工程により、玄米糊粉層部分の粉又は白米表層部分の粉から得られた、「エタノール注加後の遠心上清」を試料6−1,6−4、「エタノール注加後の遠心沈殿の水再溶解液」を試料6−2,6−5、「最初の水粗抽出後の遠心沈殿の水再溶解液」を試料6−3,6−6とし、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図4に示す。
なお、図4において、レーン1は玄米糊粉層部分の粉から得られたエタノール注加後の遠心上清(試料6−1)、レーン2は玄米糊粉層部分の粉から得られたエタノール注加後の遠心沈殿の水再溶解液(試料6−2)、レーン3は玄米糊粉層部分の粉から得られた最初の水粗抽出後の遠心沈殿の水再溶解液(試料6−3)、レーン4は白米表層部分の粉から得られたエタノール注加後の遠心上清(試料6−4)、レーン5は白米表層部分の粉から得られたエタノール注加後の遠心沈殿の水再溶解液(試料6−5)、レーン6は白米表層部分の粉から得られた最初の水粗抽出後の遠心沈殿の水再溶解液(試料6−6)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
また、レーン7はガングリオシドGD1a標品(シアル酸含)(Disialoganglioside-GD1a, Sigma製)、レーン8はガングリオシドGT1b標品(シアル酸含)(Trisialoganglioside-GT1b, Sigma製)、レーン9はN−アセチルノイラミン酸標品(シアル酸含)(N-Acetylneuraminic acid Type IV-S, Sigma製)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図4が示すように、玄米糊粉層部分の粉又は白米表層部分から、上記の抽出方法により得られたエタノール注加後の遠心上清(粗抽出液)(試料6−1,6−4)(レーン1,4)には、シアル酸含有化合物が特に多量に含まれることが示された。
また、原料に玄米糊粉層部分の粉を用いた場合、エタノール注加後の遠心沈殿の水再溶解液(試料6−2)(レーン2)にも、シアル酸含有化合物が多量に含まれることが示された。
なお、玄米糊粉層部分の粉又は白米表層部分から、最初の水粗抽出後の遠心沈殿(残渣)の水再溶解液(試料6−3,6−6)(レーン3,6)には、シアル酸含有化合物がほとんど存在しないことから、最初の水粗抽出において、シアル酸含有化合物のほとんどが粗抽出液中に抽出されていたことが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料6−1,6−4(レーン1,4)における原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<試験例7>(各種溶媒を用いた粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
小豆種子を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)によって粉砕することで得た粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料7−1,7−4,7−7)。また、前記小豆種子の粉3gに、1%(v/v)塩酸15mLを加え、よく混合した(試料7−2,7−5,7−8)。また、前記小豆種子の粉3gに、100%(v/v)エチレングリコール15mLを加え、よく混合した(試料7−3,7−6,7−9)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃(試料7−7〜7−9)、25℃(試料7−4〜7−6)もしくは37℃(試料7−1〜7−3)で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図5に示す。
なお、図5において、レーン1は小豆種子の粉から抽出溶媒として37℃の水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−1)、レーン2は小豆種子の粉から抽出溶媒として37℃の1%(v/v)塩酸を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−2)、レーン3は小豆種子の粉から抽出溶媒として37℃の100%(v/v)エチレングリコールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−3)、レーン4は小豆種子の粉から抽出溶媒として25℃の水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−4)、レーン5は小豆種子の粉から抽出溶媒として25℃の1%(v/v)塩酸を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−5)、レーン6は小豆種子の粉から抽出溶媒として25℃の100%(v/v)エチレングリコールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−6)、レーン7は小豆種子の粉から抽出溶媒として10℃の水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−7)、レーン8は小豆種子の粉から抽出溶媒として10℃の1%(v/v)塩酸を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−8)、レーン9は小豆種子の粉から抽出溶媒として10℃の100%(v/v)エチレングリコールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料7−9)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図5が示すように、抽出溶媒として水、1%(v/v)塩酸、100%(v/v)エチレングリコールを用いて、10、25、37℃の温度で抽出することで、小豆種子の粉からもシアル酸含有化合物を含む粗抽出液が得られることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<試験例8>(玄米各層の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると最外層部分に相当する100〜96質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米最外層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料8−1)。また、玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料8−2)。また、玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると白米表層部分に相当する91〜86質量%の範囲の部分(削り取って回収した白米表層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料8−3)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図6に示す。
<試験例9>(黒大豆脱皮種子子葉部分の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
黒大豆脱皮種子の子葉部分を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)によって粉砕することで得た粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料9−4)。また、前記黒大豆脱皮種子の子葉部分の粉3gに、1%(v/v)塩酸15mLを加え、よく混合した(試料9−5)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図6に示す。
<試験例10>(トウモロコシ種子の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
トウモロコシ種子(ポップコーン種子)を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)によって粉砕することで得た粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料10−6)。また、前記トウモロコシ種子(ポップコーン種子)の粉3gに、1%(v/v)塩酸15mLを加え、よく混合した(試料10−7)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図6に示す。
なお、図6において、レーン1は玄米最外層部分の粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料8−1)、レーン2は玄米糊粉層部分の粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料8−2)、レーン3は白米表層部分の粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料8−3)、レーン4は黒大豆種子の子葉の粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料9−4)、レーン5は黒大豆種子の子葉の粉から抽出溶媒として1%(v/v)塩酸を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料9−5)、レーン6はトウモロコシ種子から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料10−6)、レーン7はトウモロコシ種子から抽出溶媒として1%(v/v)塩酸を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料10−7)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
また、レーン8はガングリオシドGD1a標品(シアル酸含)(Disialoganglioside-GD1a, Sigma製)、レーン9はガングリオシドGT1b標品(シアル酸含)(Trisialoganglioside-GT1b, Sigma製)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
〔試験例8〜10の結果〕
その結果、図6が示すように、玄米最外層部分の粉から、抽出溶媒として水を用い上記工程より得られた粗抽出液(試料8−1)(レーン1)にも、玄米糊粉層部分の粉もしくは白米表層部分の粉から、抽出溶媒として水を用い上記工程より得られた粗抽出液(試料8−2,8−3)(レーン2,3)と同程度に多量のシアル酸含有化合物が含まれることが示された。
また、黒大豆子葉の粉から、抽出溶媒として水もしくは1%(v/v)塩酸を用い上記工程より得られた粗抽出液(試料9−4,9−5)(レーン4,5)にも、玄米糊粉層部分の粉もしくは白米表層部分の粉から、抽出溶媒として水を用い上記工程より得られた粗抽出液(試料8−2,8−3)(レーン2,3)と同程度に多量のシアル酸含有化合物が含まれることが示された。
また、トウモロコシの粉から、抽出溶媒として水もしくは1%(v/v)塩酸を用い上記工程より得られた粗抽出液(試料10−6,10−7)(レーン6,7)においても、シアル酸含有化合物が含まれることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<試験例11>(抽出時間の抽出への影響)
米胚芽(コシヒカリ)3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料11−1,11−2,11−5,11−6)。また、玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料11−3,11−4,11−7,11−8)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で2.5時間(試料11−1〜11−4)もしくは12時間(試料11−5〜11−8)静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
上記工程により、米胚芽又は玄米糊粉層部分の粉から得られた、「エタノール注加後の遠心上清」を試料11−2,11−4,11−6,11−8とし、最初の「水粗抽出後の遠心上清」を試料11−1,11−3,11−5,11−7として、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図7に示す。
なお、図7において、レーン1は米胚芽から、2.5時間の水抽出を行った後の遠心上清(試料11−1)、レーン2は米胚芽から、2.5時間の水抽出を行い、上記工程により得られたエタノール注加後の遠心上清(試料11−2)、レーン3は玄米糊粉層部分の粉から、2.5時間の水抽出を行った後の遠心上清(試料11−3)、レーン4は玄米糊粉層部分の粉から、2.5時間の水抽出を行い、上記工程により得られたエタノール注加後の遠心上清(試料11−4)、レーン5は米胚芽から、10時間の水抽出を行った後の遠心上清(試料11−5)、レーン6は米胚芽から、10時間の水抽出を行い、上記工程により得られたエタノール注加後の遠心上清(試料11−6)、レーン7は玄米糊粉層部分の粉から、10時間の水抽出を行った後の遠心上清(試料11−7)、レーン8は玄米糊粉層部分の粉から、10時間の水抽出を行い、上記工程により得られたエタノール注加後の遠心上清(試料11−8)、を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図7が示すように、米胚芽又は玄米糊粉層部分の粉から、10℃で2.5〜10時間の水抽出により得られた粗抽出液には、シアル酸含有化合物が多量に含まれることが示された。また、水抽出を10時間行った場合(試料11−5〜11−8)(レーン5〜8)、2.5時間行った場合(試料11−1〜11−4)(レーン1〜4)よりも抽出できるシアル酸含有化合物の量が増えることが示された。
なお、水抽出後の遠心上清(試料11−1,11−3,11−5,11−7)(レーン1,3,5,7)とエタノール注加後の遠心上清(試料11−2,11−4,11−6,11−8)(レーン2,4,6,8)とでは、シアル酸含有化合物の抽出量に、大きな差は認められなかった。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料11−3,11−4,11−7(レーン3,4,7)における、原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<実施例1>(玄米糊粉層部分からの水抽出およびアフィニティーカラム精製)
〔セロトニンアフィニティーカラム精製〕
試験例2と同様に、玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると糊粉層部分に相当する96〜91質量%の範囲の部分(削り取って回収した玄米糊粉層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した。
この混合物に超音波処理を1分30秒施した。この処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した抽出上清に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液1mLを、セロトニンアフィニティー担体LAS-Serotonin担体、J−オイルミルズ製)を充填した直径4mm、長さ5cmのカラム(LAS-Serotonin、J−オイルミルズ製)にアプライし分画した。クロマトグラフィーの条件としては、流速0.2mL/分で、純水送液を90分間行い(区間1)非吸着成分の除去を行った後、次いで4mMから30mM酢酸アンモニウム溶液の送液を直線勾配条件で150分間行い(区間2)担体から解離したシアル酸含有化合物を回収した。なお、最後に純水の送液を90分間行いカラムの再生処理を行った(区間3)。
シアル酸含有化合物の検出は、セロトニンアフィニティー担体から溶出した化合物の量をOD280nmの吸光度で測定することにより行った。結果を図8に示す。
また、このセロトニンアフィニティーカラムによる分画を2回行い(前記粗抽出液1mLずつを2回)、2回分のシアル酸含有化合物が溶出した画分(区間2)を凍結乾燥機(Freezdryer FD-1, EYELA製)を用いて凍結乾燥し、重量を測定した。
その結果、図8が示すように、純水のカラムへの送液によってカラムからセロトニンアフィニティー担体非吸着成分を排出した後(区間1)、4mMから30mM酢酸アンモニウム溶液を直線勾配条件でカラムへ送液することで、セロトニンアフィニティー担体から解離したシアル酸含有化合物が溶出した画分(区間2)が回収できることが示された。また、区間2の中でも、溶出開始(区間1の最初)から130〜160分後付近の画分に、特に多量のシアル酸含有化合物が溶出されることが示された。
また、前記粗抽出液2mL(1mLずつを2回)をセロトニンアフィニティーカラムで分画した画分(区間2)から0.5mgの乾燥固形物が得られることから、原料の玄米糊粉層部分の粉3g(上記工程を経ることで玄米糊粉層部分の粉3gから前記粗抽出液20mLが得られる)からは、5mgのシアル酸含有化合物の乾燥固形物が得られことが示された。
<実施例2>(米胚芽からの水抽出および精製)
〔セロトニンアフィニティーカラム精製〕
米胚芽(コシヒカリ)3gに水15mLを加え、よく混合した。この混合物に超音波処理を1分30秒施した。この処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液0.1mLを、セロトニンアフィニティー担体(LAS-Serotonin担体、J−オイルミルズ製)を充填した直径4mm、長さ5cmのカラム(LAS-Serotonin、J−オイルミルズ製)にアプライし分画した。クロマトグラフィーの条件としては、流速0.2mL/分で、純水送液を285分間行い非吸着成分の除去を行った後、シアル酸含有化合物とセロトニンアフィニティー担体との相互作用を確実なものにするため12時間送液を停止した。その後、30mM酢酸アンモニウム溶液の送液を285分間行い担体から解離したシアル酸含有化合物を回収した。(なお、本実施例ではカラム再生処理は省略した。)
シアル酸含有化合物の検出は、セロトニンアフィニティー担体から溶出した化合物の量をOD280nmの吸光度で測定することにより行った。結果を図9に示す。
なお、図9において、純水送液時のOD280nmの吸光度の変化を(a)に、30mM酢酸アンモニウム溶液の送液時のOD280nmの吸光度の変化を(b)に示す。
その結果、図9が示すように、純水のカラムへの送液(a)によってカラムからセロトニンアフィニティー担体非吸着成分を排出し12時間送液を停止した後、30mM酢酸アンモニウム溶液をカラムへ送液(b)することで、セロトニンアフィニティー担体から解離したシアル酸含有化合物が溶出した画分が回収できることが示された。また、30mM酢酸アンモニウム溶液のカラムへの送液開始から、30〜80分後付近の画分に、特に多量のシアル酸含有化合物が溶出されることが示された。
<実施例3>(白米表層部分からの水抽出および精製)
〔セロトニンアフィニティーカラム精製〕
玄米(コシヒカリ)を研削式精米機(Grain Testing Mill, Satake製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると白米表層部分に相当する91〜86質量%の範囲の部分(削り取って回収した白米表層部分)由来の粉3gに、水15mLを加え、よく混合した。
この混合物に超音波処理を1分30秒施した。この処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液2mLを、セロトニンアフィニティー担体(LAS-Serotonin担体、J−オイルミルズ製)を充填し、担体の充填サイズが高さ4.6cmになった直径26mm、長さ20cmのカラム(XK26/20、Pharmacia Bioteck製)にアプライし分画した。クロマトグラフィーの条件としては、流速0.2mL/分で、純水送液を300分間行い、非吸着成分の除去を行った(区間1)後、次いで0Mから1M酢酸アンモニウム溶液の送液を直線勾配条件で240分間行い、担体から解離したシアル酸含有化合物を回収した(区間2)。なお、その後、1M酢酸アンモニウム溶液の送液を180分間行うことでカラム洗浄(カラム吸着成分の除去)(区間3)を行い、最後に1M酢酸アンモニウム溶液から純水への直線逆勾配での送液を60分、純水の送液を180分間行いカラムの再生処理(区間4)を行った。
シアル酸含有化合物の検出は、セロトニンアフィニティー担体から溶出した化合物の量をOD280nmの吸光度で測定することにより行った。結果を図10に示す。
図10はセロトニンアフィニティーカラムを通過した溶液のOD280nmの吸光度の経時変化を示したものである。
また、このセロトニンアフィニティーカラムによる分画は2回行い(前記粗抽出液2mLずつを2回)、2回分の上記の0Mから1M酢酸アンモニウム溶液を直線勾配条件でカラムへ送液した部分(区間2)に相当する画分を集め、凍結乾燥機(Freezdryer FD-1, EYELA製)を用いて凍結乾燥し、重量を測定した。
その結果、図10が示すように、純水のカラムへの送液によってカラムからセロトニンアフィニティー担体非吸着成分を排出した(区間1:0〜300分)後、0Mから1M酢酸アンモニウム溶液を直線勾配条件でカラムへ送液すること(区間2:300〜540分)により、セロトニンアフィニティー担体から解離したシアル酸含有化合物が溶出した画分が回収できることが示された。また、カラム洗浄のために1M酢酸アンモニウム溶液の送液した画分(区間3:540〜720分)においても、660分後付近までの画分には、セロトニンアフィニティー担体から解離したシアル酸含有化合物が溶出されることが示された。
また、区間2及び区間3の中でも、特に、430分後付近の画分(区間2での酢酸アンモニウム溶液のカラムへの送液開始から130分後付近の画分)をピークに、多量のシアル酸含有化合物が溶出されることが示された。
なお、区間2と区間3において、シアル酸含有化合物の溶出ピークがブロードになっているのは、本実施例で用いたカラムの体積(実施例1,2の40倍の体積のものを使用)に対して、送液の流速が遅いために、溶出ピークが拡散しているものと考えられる。
また、前記粗抽出液4mL(2mLずつを2回)をセロトニンアフィニティーカラムで分画した画分(区間2)から0.5〜0.9mgの乾燥固形物が得られることから、原料の白米表層部分の粉3g(上記工程を経ることで白米表層部分の粉3gから前記粗抽出液20mLが得られる)からは、2.5〜4.5mgのシアル酸含有化合物の乾燥固形物が得られことが示された。
〔レゾルシノール塩酸検出〕
次いで、上記精製工程を経てセロトニンアフィニティーカラムを通過した溶液は、10分ごとに一つの画分(フラクション)として96個に分画回収し、凍結乾燥した。
これらのうち、前記の区間1〜4の代表的な画分を再度純水に溶解し、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離した。
展開したシリカゲルプレートは、ヨウ素蒸気雰囲気下に室温にて72時間静置することで、全有機化合物の検出を行った。続いて、ヨウ素蒸気雰囲気から取り出したシリカゲルプレートを24時間静置し、充分にヨウ素を脱着させたのち、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図11に示す。図11において、前記の区間1〜4の代表的な画分を薄層クロマトグラフィーで分離し、検出された全有機化合物を(a)に、検出されたシアル酸含有化合物を(b)に示したものである。
なお、図11において、レーン1は110分から120分に溶出した画分12(試料ア)、レーン2は430分から440分に溶出した画分44(試料イ)、レーン3は470分から480分に溶出した画分48(試料ウ)、レーン4は530分から540分に溶出した画分54(試料エ)、レーン5は790分から800分に溶出した画分80(試料オ)、レーン6は880分から890分に溶出した画分89(試料カ)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図11の(b)が示すように、430分から440分に溶出した画分44(試料イ)(レーン2)、470分から480分に溶出した画分48(試料ウ)(レーン3)、及び530分から540分に溶出した画分54(試料エ)(レーン4)には、シアル酸含有化合物が含まれることが示された。
また、790分から800分に溶出した画分80(試料オ)(レーン5)、880分から890分に溶出した画分89(試料カ)(レーン6)には、シアル酸含有化合物が含まれないことが示された。
この結果から、図10で示した0Mから1M酢酸アンモニウム溶液を直線勾配条件でカラムへ送液した部分である区間2のピークを含む画分には、シアル酸含有化合物が含まれることが示され、カラムの再生過程である区間4に見られる低いピークには、シアル酸含有化合物が含まれないことが示された。
また、図11の(a)と(b)の比較の結果が示すように、430分から440分に溶出した画分44(試料イ)(レーン2)、470分から480分に溶出した画分48(試料ウ)(レーン3)、及び530分から540分に溶出した画分54(試料エ)(レーン4)からは、‘夾雑物混入が極めて少ない(夾雑物の含有量が、ヨウ素蒸気雰囲気下で検出する全有機化合物量の検出限界以下である)’シアル酸含有化合物が回収できることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
〔考察〕
これらの結果から、米に由来する粉末から、有害な有機溶媒を使用することなく、水抽出のみを行い、セロトニンアフィニティーカラムで精製することによって、夾雑成分の極めて少なく且つシアル酸含有化合物を高含有する画分が得られることが明らかになった。
なお、純水のカラムへの送液によってカラムからセロトニンアフィニティー担体非吸着成分を排出した区間1のピークである、110分から120分に溶出した画分12(試料ア)(レーン1)には、シアル酸含有化合物が多量に含まれることが示された。これは、使用したセロトニンアフィニティーカラムの担体が有するシアル酸含有化合物吸着能力を大幅に超える量のシアル酸含有化合物が、カラムにアプライした試料液に含まれているからと思われる。
従って、充分なシアル酸含有化合物吸着能力を有する、さらに大規模なカラム、例えばセロトニンアフィニティー担体の体積が10リットル程度以上の工業用カラムを用いれば、さらに効率よくシアル酸含有化合物を、分離、回収することが期待される。
<試験例12>(レクチンブロットによるシアル酸含有化合物の検出確認)
米胚芽(コシヒカリ)3gに、エチレングリコール15mLを加え、よく混合した。
この混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。この処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した(試料12)。
上記工程により得られた「米胚芽−エチレングリコール抽出液の遠心上清」(試料12)を、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)、もしくは、CH3Cl/CH3OH/水=4/4/1(V/V/V)によって展開することで成分ごとに分離したのち、冷風乾燥した。
このシリカゲルプレートをポリ(イソブチルメタクリレート)のn−ヘキサン/CH3Cl=9/1(V/V)溶液(濃度2g/500mL)に30秒間浸漬し、冷風乾燥した。
次いで、このポリ(イソブチルメタクリレート)処理をしたシリカゲルプレートを、プラスチック容器中でTRITIC蛍光標識MAAレクチン(E. Y. Labolatory製)の0.15M塩化ナトリウム−1%BSA入り0.01Mリン酸緩衝液(pH=7.2〜7.4)で100倍希釈した溶液、もしくは、TRITIC蛍光標識SNA−Iレクチン(E. Y. Labolatory製)を0.15M塩化ナトリウム−1%BSA入り0.01Mリン酸緩衝液(pH=7.2〜7.4)で100倍希釈した溶液に浸漬し、室温にて48時間振盪して、レクチン結合反応を行った。
なお、‘MAAレクチン’は、「N−アセチルノイラミン酸α(2→3)Gal」構造に特異的に結合するレクチンであり、‘SNA−Iレクチン’は、「N−アセチルノイラミン酸α(2→6)Gal」もしくは「N−アセチルノイラミン酸α(2→6)GalNAc」構造に特異的に結合するレクチンである。
レクチン結合反応終了後、ポリ(イソブチルメタクリレート)処理シリカゲルプレートに対し洗浄操作をおこない、目的物に結合していない蛍光レクチンを洗浄除去したのち、蛍光の観察される部分、すなわちシアル酸に特異的に結合するレクチンの存在部位を観察することで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を、検出条件の組合せの違いごとに、図12(A)〜(D)に示す。
なお、図12において、(A)は、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)で展開したシリカゲルプレートにTRITIC蛍光標識MAAレクチンを反応させた結果である。
(B)は、CH3Cl/CH3OH/水=4/4/1(V/V/V)で展開したシリカゲルプレートにTRITIC蛍光標識MAAレクチンを反応させた結果である。
(C)は、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)で展開したシリカゲルプレートにTRITIC蛍光標識SNA−Iレクチンを反応させた結果である。
(D)は、CH3Cl/CH3OH/水=4/4/1(V/V/V)で展開したシリカゲルプレートにTRITIC蛍光標識SNA−Iレクチンを反応させた結果である。
また、(A)〜(D)の各図において、左側の写真はレクチン結合反応を行う前のシリカゲルプレートの撮影画像であり、右はレクチン結合反応を行った後のシリカゲルプレートの撮影画像である。
その結果、図12(A)〜(D)が示すように、蛍光レクチン結合反応前(各図の左側写真)において発光していない部分が、蛍光レクチン結合操作後(各図の右側写真)では発光していることが観察された(矢印の部分)。この各図の右側写真の発光部分とは、蛍光標識されたMAAレクチンやSNA−Iレクチンが、上記N−アセチルノイラミン酸に特異的な構造を有する化合物と特異的に結合していることを示すものである。
詳しくは、図12(A)および(B)(MAAレクチンでの検出結果)から、シリカゲルプレート上で展開した矢印で示された部分の化合物のなかに、「N−アセチルノイラミン酸α(2→3)Gal」構造を有する化合物が存在することが示された。
また、図12(C)および(D)(SNA−Iレクチンでの検出結果)から、シリカゲルプレート上で展開した矢印で示された部分の化合物のなかに、「N−アセチルノイラミン酸α(2→6)Gal」構造もしくは「N−アセチルノイラミン酸α(2→6)GalNAc」構造を有する化合物が存在することが示された。
従って、本試験例の結果から、米胚芽のエチレングリコール抽出液中に、シアル酸(N−アセチルノイラミン酸)を含む化合物が存在することが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<試験例13>(炊飯米の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
玄米(コシヒカリ)をブラシ式精米機(HRG-122 みのる産業製)で外側から研削し、玄米を100質量%とすると「100〜96質量%の範囲の部分(玄米最外層部分)を削り取った胚芽と糊粉層の残った米」(換言すると、玄米最外層部分を削り取って、残った96質量%の部分にあたる、胚芽と糊粉層の残った米)を、20℃(試料13−1、13−2)もしくは25℃(試料13−3、13−4)の水に6時間浸漬し静置した。そして、軽く3回研いでから、当該米2質量部に水2質量部を加え、家庭用炊飯器で炊飯し、これら炊飯米3gに、水15mLを加え、よく混合した。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液に、同量のエタノールを注加し、よく混合後、10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/水=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図13に示す。
なお、図13において、レーン1は‘玄米最外層を削り取った胚芽と糊粉層の残った米’を炊飯前に20℃の水に6時間浸漬し静置したものを炊飯したものから、抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液2μL(試料13−1)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。また、レーン2はレーン1と同じもの4μL(試料13−2)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
レーン3は‘玄米最外層を削り取った胚芽と糊粉層の残った米’を炊飯前に25℃の水に6時間浸漬し静置したものを炊飯したものから、抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液2μL(試料13−3)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。また、レーン4はレーン3と同じもの4μL(試料13−4)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図13の結果が示すように、‘玄米最外層を削り取った胚芽と糊粉層の残った米’を炊飯処理しても、水抽出によってシアル酸含有化合物を含む粗抽出液が得られることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<試験例14>(グリセロールを用いた粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
小麦(農林61号)全粒および大麦(サチホゴールデン、Betzes、ダイシモチ、イチバンボシ、烏金1号)全粒を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)によって粉砕することで得た粉3gに、100%(v/v)グリセロール15mLを加え、よく混合した(試料14−1〜14−6)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を10℃で12時間静置したのち、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図14に示す。
なお、図14において、レーン1は小麦農林61号全粒粉から抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料14−1)を、レーン2は大麦サチホゴールデン全粒粉から抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料14−2)を、レーン3は大麦Betzes全粒粉から抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料14−3)を、レーン4は大麦ダイシモチ全粒粉から抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料14−4)を、レーン5は大麦イチバンボシ全粒粉から抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料14−5)を、レーン6は大麦烏金1号全粒粉から抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料14−6)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図14の結果が示すように、抽出溶媒として100%(v/v)グリセロールを用いて抽出することで、小麦および大麦の全粒粉からシアル酸含有化合物を含む粗抽出液が得られることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料14−1〜14−6(レーン1〜6)における原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<試験例15>(各種穀類由来の粉および加工品の粗抽出液からのシアル酸含有化合物の検出)
小麦(農林61号)全粒および大麦(サチホゴールデン、Betzes、ダイシモチ、イチバンボシ、烏金1号)全粒を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)によって粉砕することで得た粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料15−1〜15−6)。また、小麦(農林61号)、大麦(サチホゴールデン)の小ブスマ3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料15−7,15−8)。また、米(ハツシモ)胚芽を粉砕器(Ultracentrifugal Mill, MRK-RETSCH製)によって粉砕することで得た粉3gに、水15mLを加え、よく混合した(試料15−9)。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を直ちに、1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図15に示す。
なお、図15において、レーン1は小麦農林61号全粒粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−1)を、レーン2は大麦サチホゴールデン全粒粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−2)を、レーン3は大麦Betzes全粒粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−3)を、レーン4は大麦ダイシモチ全粒粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−4)を、レーン5は大麦イチバンボシ全粒粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−5)を、レーン6は大麦烏金1号全粒粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−6)を、レーン7は小麦農林61号小ブスマから抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−7)を、レーン8は大麦サチホゴールデン小ブスマから抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−8)を、レーン9は米ハツシモ胚芽粉砕粉から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料15−9)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図15の結果が示すように、抽出溶媒として水を用いて抽出することで、小麦および大麦の全粒粉や小ブスマ、米胚芽からシアル酸含有化合物を含む粗抽出液が得られることが示された。
米胚芽からは、小麦や大麦の全粒や小ブスマと比べて、特定の一種類のシアル酸含有化合物が高濃度で抽出できることが示された。小麦や大麦からは、米胚芽には含まれないシアル酸含有化合物が複数種抽出できることが示された。小麦や大麦に関して、小ブスマを抽出原料とすれば全粒粉からよりも高濃度でシアル酸含有化合物を抽出できることが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料15−1〜15−9(レーン1〜9)における、原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<試験例16>(酸の種類による抽出への影響)
小麦農林61号の小ブスマ3gに、水、もしくは11.83%(2N)酢酸、もしくは7.06%(2N)塩酸15mLを加え、よく混合した。これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を80℃で3時間振盪したのち(試料16−1〜16−3)、1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
また、小麦農林61号の小ブスマ3gに、水15mLを加え、よく混合した。この混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。この処理物を直ちに(試料16−4)、もしくは、10℃で28.5h(約3時間)静置したのち(試料16−8)、1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図16に示す。
なお、図16において、レーン1は小麦農林61号小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後に80℃で3時間振盪したのち遠心分離することにより得られた粗抽出液(試料16−1)を、レーン2は小麦農林61号小ブスマから抽出溶媒として2N酢酸を用い、超音波処理後に80℃で3時間振盪したのち遠心分離することにより得られた粗抽出液(試料16−2)を、レーン3は小麦農林61号小ブスマから抽出溶媒として2N塩酸を用い、超音波処理後に80℃で3時間振盪したのち遠心分離することにより得られた粗抽出液(試料16−3)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
また、レーン4は小麦農林61号小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後直ちに遠心分離することにより得られた粗抽出液(試料16−4)を、レーン8は小麦農林61号小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後10℃で約3時間静置したのち遠心分離することにより得られた粗抽出液(試料16−8)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
そして、レーン5はシアル酸含有化合物標品GD1a(SIGMA製)を、レーン6はシアル酸含有化合物標品GT1b(SIGMA製)を、レーン7はシアル酸含有化合物標品N−アセチルノイラミン酸(SIGMA製)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図16の結果が示すように、80℃、約3時間の酢酸処理、塩酸処理によって、水で抽出されるのとは異なるシリカゲルプレート上で高い位置に移動するシアル酸含有化合物が得られることが示された。この結果は、熱を加えた酸処理によって、シアル酸含有化合物の‘低分子化、断片化’が起こり、低極性化したためと考えられる。
すなわち、熱を加えた酸処理を行うことによって、低分子化、断片化させることが出来、易溶性を向上(溶出効率を向上)させることができることが示唆された。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料16−1,16−2,16−4,16−8(レーン1,2,4,8)における原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<試験例17>(室温抽出における抽出時間の影響)
小麦(シラサギコムギ)の小ブスマ2gに、水10mLを加え、よく混合した。これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。これら処理物を直ちに(試料17−1)、もしくは25℃で1時間(試料17−2)、4時間(試料17−3)、12時間(試料17−4)、24時間(試料17−5)振盪したのち、1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した粗抽出液は、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/アセトン/CH3OH/酢酸/水/ピリジン=75/45/30/25/5/20(V/V/V/V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を図17に示す。
なお、図17において、レーン1は小麦(シラサギコムギ)小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後直ちに上記工程より得られた粗抽出液(試料17−1)を、レーン2は小麦(シラサギコムギ)小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後25℃で1時間振盪後、上記工程より得られた粗抽出液(試料17−2)を、レーン3は小麦(シラサギコムギ)小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後25℃で4時間振盪後、上記工程より得られた粗抽出液(試料17−3)を、レーン4は小麦(シラサギコムギ)小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後25℃で12時間振盪後、上記工程より得られた粗抽出液(試料17−4)を、レーン5は小麦(シラサギコムギ)小ブスマから抽出溶媒として水を用い、超音波処理後25℃で24時間振盪後、上記工程より得られた粗抽出液(試料17−5)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図17の結果が示すように、小麦小ブスマを25℃の水に(4時間以上、特には12時間以上)浸漬することで、原点付近の発色バンドを、より上側に展開されるバンドに転化させることができることが示された。この結果は、内在性酵素の働きによって、シアル酸含有化合物の‘低分子化、断片化’が起こり、低極性化したためと考えられる。
すなわち、特別な酵素を添加することなく、小麦小ブスマ中のシアル酸含有化合物を低分子化、断片化させること(シアル酸含有化合物の組成を変化させること)が出来、易溶性を向上(溶出効率を向上)させることができることが示唆された。
また、検出されたシアル酸含有化合物の大部分は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。なお、試料17−1〜17−5(レーン1〜5)における原点付近から移動しないシアル酸含有化合物は、シリカゲルプレートに吸着した糖タンパク質であると考えられる。
<試験例18>(各穀類糠の粗抽出液からのレクチンブロットによるシアル酸含有化合物の検出確認)
米(ひとめぼれ)糠、小麦(ニシノチカラ)フスマ、大麦(マンネンボシ)フスマ3gに、水15mLを加え、よく混合した。
これら混合物に超音波処理装置(B-42J Ultrasonic Cleaner, BRANSON製)を用い超音波処理を1分30秒施した。この処理物を直ちに1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した(試料18−1〜18−3)。
上記工程により得られた粗抽出液を、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)によって展開することで成分ごとに分離したのち、冷風乾燥した。
このシリカゲルプレートをポリ(イソブチルメタクリレート)のn−ヘキサン/CH3Cl=9/1(V/V)溶液(濃度2g/500mL)に30秒間浸漬し、冷風乾燥した。
次いで、このポリ(イソブチルメタクリレート)処理をしたシリカゲルプレートを、プラスチック容器中でTRITIC蛍光標識MAAレクチン(E. Y. Labolatory製)の0.15M塩化ナトリウム−1%BSA入り0.01Mリン酸緩衝液(pH=7.2〜7.4)で100倍希釈した溶液に浸漬し、室温にて24時間振盪して、レクチン結合反応を行った。
なお、‘MAAレクチン’は、「N−アセチルノイラミン酸α(2→3)Gal」構造に特異的に結合するレクチンである。
レクチン結合反応終了後、ポリ(イソブチルメタクリレート)処理シリカゲルプレートに対し洗浄操作をおこない、目的物に結合していない蛍光レクチンを洗浄除去したのち、蛍光の観察される部分、すなわちシアル酸に特異的に結合するレクチンの存在部位を観察することで、シアル酸含有化合物の検出を行った。結果を、図18に示す。
なお、図18は、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)で展開したシリカゲルプレートにTRITIC蛍光標識MAAレクチンを反応させた結果である。すなわち、左側の写真はレクチン結合反応を行う前のシリカゲルプレートの撮影画像であり、右はレクチン結合反応を行った後のシリカゲルプレートの撮影画像である。
図18において、レーン1は米(ひとめぼれ)糠から抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料18−1)を、レーン2は小麦(ニシノチカラ)フスマから抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料18−2)を、レーン3は大麦(マンネンボシ)フスマから抽出溶媒として水を用い、上記工程より得られた粗抽出液(試料18−3)を、シリカゲルプレート上で展開したものである。
その結果、図18が示すように、蛍光レクチン結合反応前(各図の左側写真)において発光していない部分が、蛍光レクチン結合操作後(各図の右側写真)では発光していることが観察された(矢印の部分)。この各図の右側写真の発光部分とは、蛍光標識されたMAAレクチンが、上記N−アセチルノイラミン酸に特異的な構造を有する化合物と特異的に結合していることを示すものである。
詳しくは、「N−アセチルノイラミン酸α(2→3)Gal」構造を有する化合物が存在することが示すものである。
従って、本試験例の結果から、米糠、小麦フスマ、大麦フスマの水抽出液中に、シアル酸(N−アセチルノイラミン酸)を含む化合物が存在することが示された。
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
<実施例4>(米全粒からのメタノール抽出およびゲル濾過カラム精製)
〔ゲル濾過カラム精製〕
米(ひとめぼれ)の全粒を粉砕器(Cyclone Sample Mill, UDY CORPORATION製)によって粉砕することで得た粉3gに、メタノール15mLを加え、ガラス棒を用いて手でよく混合した。この処理物を直ちに3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。固液分離して得られた上清を窒素気流によって濃縮した粗抽出液を、ゲル濾過カラム(Shodex)を接続した高速液体クロマトグラフィーシステム(日本分析工業、本体 示差屈折検出器)で分画した。溶離液はメタノールを用いた。
その結果、図19に示すように、1〜9で示すピークが得られた。
〔レゾルシノール塩酸検出〕
次いで、上記ピーク1〜9で示す画分を、シリカゲルプレート上で、CH3Cl/CH3OH/0.2%CaCl2=4/4/1(V/V/V)により展開することで成分ごとに分離し、レゾルシノール塩酸を噴霧し、95℃で加熱発色処理を行うことで、シアル酸含有化合物の検出を行った。図20に結果を示す。また、図20におけるレーン番号は、図19におけるピーク番号に対応するものである。なお、レーンSはカラム分画前の粗抽出液をアプライしたものである。
その結果、図20に示すように、ピーク8にシアル酸含有化合物が多量に含まれることが示され、
また、検出されたシアル酸含有化合物は、原点から大きく移動していることから、展開溶媒と親和性の高い物質である糖脂質であることが示唆された。
〔考察〕
これらの結果から、米をメタノール抽出してゲル濾過カラムで精製することで、シアル酸含有化合物を高含有する画分(精製物)が得られることが示された。
本発明によれば、植物由来の原料、特に穀類又は豆類の種子およびその加工品、から、動物罹患性病原体の混入の恐れがなく、安全性の高いシアル酸含有化合物を、安価に提供することができる。
また、本発明によれば、植物由来廃棄物である米糠(赤糠、白糠)、コムギふすま、くず大豆、規格外小豆、トウモロコシから澱粉を抽出した残り粕、の新規用途を創出することができる。
さらに、本発明品である植物由来のシアル酸含有化合物は、シアル酸を含有する機能性食品、高付加価値化粧品および医薬品原料として利用することができる。

Claims (8)

  1. 植物体もしくは植物体の加工品を、水、アルコール又は含水アルコールを用いて可溶性成分を粗抽出し、得られた粗抽出液から、透析、塩析もしくはクロマトグラフィーカラムによって分離し回収することを特徴とする、シアル酸含有化合物の抽出法。
  2. 前記植物体が、穀類及び/又は豆類の種子である、請求項1に記載のシアル酸含有化合物の抽出法。
  3. 前記植物体もしくは植物体の加工品が、粉砕、磨砕、擂潰もしくは粉末化されたものである、請求項1又は2に記載のシアル酸含有化合物の抽出法。
  4. 前記可溶性成分を粗抽出する工程において超音波処理を行う、請求項1〜3のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法。
  5. 前記水が、水道水、脱イオン水、蒸留水、もしくは、塩,酸,アルカリ,糖類又はpH緩衝剤を含む水である、請求項1〜4のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法。
  6. 前記アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、もしくは、グリセロールである、請求項1〜5のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法。
  7. 前記分離回収が、セロトニンアフィニティーカラム、レクチンアフィニティーカラム、ゲル濾過カラム、イオン交換カラム、もしくは、シリカゲルカラムによって行うものである、請求項1〜6のいずれかに記載のシアル酸含有化合物の抽出法。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の抽出法から得られるシアル酸含有化合物。
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