JP5537924B2 - シルバースキン抽出物を用いたヒアルロニダーゼ阻害剤およびその製造方法 - Google Patents

シルバースキン抽出物を用いたヒアルロニダーゼ阻害剤およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたシルバースキン(多くはコーヒー焙煎工場で多量に発生する)の有効利用に関するもので、特に、シルバースキン抽出物を用いたヒアルロニダーゼ阻害剤に関する。
シルバースキン(銀皮)とは、コーヒー豆を包み込んでいる薄皮のことをいう。コーヒーの果実は植物学的には核果であり、図18に示すように、コーヒー果実は、外側から中心に向かって、外皮、果肉、ミューシレージ(粘液質)、パーチメント(内果皮)、シルバースキン、種子の順に配置されている。種子は、胚と胚乳とを有しており、1つのコーヒー果実の中に互いに向き合うようにして配置されている。コーヒー果実が成熟するにつれて、胚乳の互いに向かい合う側の平面部が窪んで胚乳内部側に折り込まれてゆき、この平面部の中央にセンターカットと呼ばれる溝が形成されている。
種子の外側の部分を取り除いたものが生豆であり、コーヒー果実から生豆を取り出す処理を精製という。コーヒー生豆の精製工程において、シルバースキンは一部取り除かれ、付着したままのものも焙煎時に殆どが剥がれ落ち、通常、産業廃棄物となる。
従来シルバースキンは、プシコースの製造(特許文献1)、紙の製造(特許文献2)、社用封筒、名刺、年賀状、包装紙への利用、おもちゃへの利用など、材料として、一部は利用されてきた。
しかしながら、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたシルバースキンを、ヒアルロニダーゼ阻害剤といった機能性素材として有効利用することは、過去には行われていなかった。
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸分解酵素であり、ヒアルロン酸は生体内組織の細胞外マトリクスに存在し、多岐に渡り、重要な働きをしているものである。ヒアルロン酸は例えば、関節液に多く含まれ関節にかかる負荷を和らげるクッションの役割を果たしたり、皮膚の細胞と細胞の間に存在し、皮膚の水分を維持して健康な肌を維持したり、栄養や老廃物の運搬に関与したりする。生体内のヒアルロン酸量が低下すると、関節炎、関節症、関節リウマチ、乾燥肌、シワ形成、感染症予防力の低下、アトピー性皮膚炎の悪化、細胞の老化、動脈硬化等様々な症状が表れる。このように生体内で重要な役割を担うヒアルロン酸であるが、加齢とともにその量は減少していく。外から補給しようにも、ヒアルロン酸は食物に僅かしか存在せず、また、熱安定性に乏しい、高分子のため生体内に吸収されにくい等の理由から日常的に充分な量を摂取することは困難である。
ヒアルロニダーゼ阻害剤は、生体内でのヒアルロン酸分解を阻害することで、もともとあるヒアルロン酸の安定化に寄与し、生体内のヒアルロン酸量の低下に起因する諸症状を緩和することが期待される。
従来、ヒアルロニダーゼ阻害剤の既存薬として知られるものにはクロモグリク酸ナトリウムやトラニラスト、インドメタシン、アスピリンなどがあるが、副作用の問題が指摘されており、より人体に安全な天然由来のヒアルロニダーゼ阻害剤の開発が求められている。
一方で、天然抽出物から得たヒアルロニダーゼ阻害剤としては、チンピ、キジツ、羅漢果(特許文献3)、ウルシ科植物(特許文献4)、ヤエヤマヒルギ属植物、オヒルギ属植物、ハマザクロ属植物(特許文献5)、セイヨウヤナギ、ライム、ビワ、カキ、タマネギ(特許文献6)、カシューナッツ殻油(特許文献7)由来のものなどが知られている。このように、多種多様の植物からヒアルロニダーゼ阻害剤を得ることができるが、それらは高価な材料を使用するためコストが高く、また材料をコンスタントに得られないといった問題がある。さらに、これらの天然抽出物の場合、独特の臭いや苦味、渋みなどの味覚面の問題がある。
また、その他様々な植物において、ヒアルロニダーゼ阻害活性が報告されており、例えば、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、モチノキ科植物の各種植物の抽出物に強いヒアルロニダーゼ阻害活性があり、その活性本体がクロロゲン酸を含む桂皮酸誘導体であることが知られている(特許文献8)。
特開2004−143062号公報 特開2008−255519号公報 特開平4−255423号公報 特開平7−10765号公報 特開2008−24664号公報 特開2006−104098号公報 特開平6−329526号公報 特開2007−161632号公報
上記状況に鑑み、本発明は、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたコーヒーのシルバースキンを有用な機能性素材として有効利用することを目的とする。
本発明者らは、地球環境のため、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたコーヒーのシルバースキンを有用な素材として有効利用すべく、鋭意研究を重ねた結果、コーヒーのシルバースキンに所定の抽出工程を施すことにより、ヒアルロニダーゼ阻害剤として有効利用が可能であるという知見を得て、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたコーヒーのシルバースキンの抽出物を有効成分としてヒアルロニダーゼ阻害剤を提供できるというものである。
なお、本発明において、シルバースキンとは、アカネ科植物(コフィア属、マスカロコフィア属等)の胚乳を取り囲んでいる薄皮のことを示し、それは生でも焙煎したものでも構わない。
上記のシルバースキンから得られるヒアルロニダーゼ阻害剤は、シルバースキンから抽出溶媒に水を用いて抽出した抽出物を固液分離し、上清部分を乾燥させた固形分を有効成分とすることが好ましい。
水による抽出物は、後述する実施例に示すように、シルバースキンからの収率が16%程度と高く、ヒアルロニダーゼ阻害機能を有する。
ここで、抽出方法として、実施例では121℃の熱水を用いて抽出を行い上清部分から固形分(以下、本明細書においては、熱水抽出物と称する。)を得ているが、温水抽出、常温水抽出、冷水抽出のいずれでもよく、特段、水温は限定されるものではない。
また、上記のシルバースキンから得られるヒアルロニダーゼ阻害剤は、シルバースキンから抽出溶媒に水を用いて抽出した抽出物を固液分離し、残渣部分に酵素処理を施したものを固液分離し、上清部分を乾燥させた固形分(以下、本明細書においては、酵素処理物と称する。)を有効成分とすることが好ましい。
酵素処理液は、例えば、酢酸緩衝液およびセルラーゼが好適に用いることができる。
酵素処理物は、後述する実施例に示すように、シルバースキンからの収率が20%程度と高く、ヒアルロニダーゼ阻害機能を有する。また、酵素処理物の高分子画分は、ヒアルロニダーゼ阻害剤の既存薬として知られるクロモグリク酸ナトリウムと同等の優れたヒアルロニダーゼ阻害機能を有する。
また、上記のシルバースキンから得られるヒアルロニダーゼ阻害剤は、シルバースキンから抽出溶媒にエタノール溶液、希酸、或いは、希アルカリを用いて抽出した抽出物を有効成分とすることが好ましい。
エタノール溶液、希酸、希アルカリで抽出された抽出物もまた、ヒアルロニダーゼ阻害機能を有する。
また、上記のシルバースキンから得られるヒアルロニダーゼ阻害剤は、シルバースキンから抽出溶媒に水(熱水)を用いて抽出した抽出物を固液分離して得られた上清部分に含まれる高分子画分(以下、本明細書においては、熱水抽出物高分子画分と称する。)を有効成分とすることが好ましい。
熱水抽出物高分子画分は、ヒアルロニダーゼ阻害剤の既存薬として知られるクロモグリク酸ナトリウムと同等かそれ以上の優れたヒアルロニダーゼ阻害機能を有する。
また、上記のシルバースキンから得られるヒアルロニダーゼ阻害剤は、シルバースキンから抽出溶媒に水を用いて抽出した抽出物を固液分離し、残渣部分に酵素処理を施したものを固液分離して得られた上清部分に含まれる高分子画分(以下、本明細書においては、酵素処理物高分子画分と称する。)を有効成分とすることが好ましい。
酵素処理物高分子画分は、ヒアルロニダーゼ阻害剤の既存薬として知られるクロモグリク酸ナトリウムと同等の優れたヒアルロニダーゼ阻害機能を有する。
上記の本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、天然物であるコーヒーのシルバースキンの抽出物から得られることから、化粧品、飲食品、医薬組成品として好適に利用できる。
ヒアルロニダーゼ阻害剤を飲食品、化粧品または医薬組成品等に使用することにより、ヒアルロン酸量の低下に起因する皮膚の老化、炎症反応、アレルギー反応等を抑制することができる。
次に、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法について説明する。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法は、天然物であるコーヒーのシルバースキンを用いて製造される点が特徴である。上述の如く、従来、シルバースキンは焙煎工場で多量に発生し一部は材料として活用されてきたが、殆どが産業廃棄物として処理されていた。しかし、本発明者らは、シルバースキンに所定の抽出工程を施してシルバースキンの抽出物を得、その抽出物にヒアルロニダーゼ阻害活性を見出したことにより、シルバースキンを用いたヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法を完成したのである。
以下、具体的なヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法について説明する。
まず、シルバースキンを用いたヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法の一態様は、
A1)シルバースキンを抽出溶媒に水、例えば121℃の熱水を用いて抽出する抽出工程と、
A2)抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する固液分離工程と、
A3)固液分離工程で得られた上清部分に含まれる高分子画分を分画する分画工程と、
分画工程で分画された画分を乾燥する乾燥工程と、
)乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程と、
を具備する。
これは、シルバースキンを用いたヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法のうち、上述の熱水抽出物高分子画分を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法である。抽出工程後の分画方法は、エタノール沈殿分画、ゲル濾過分画、限外濾過膜による分画等を用いる。
次に、シルバースキンを用いたヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法の他の態様は、
B1)シルバースキンを抽出溶媒に水、例えば121℃の熱水を用いて抽出する抽出工程と、
B2)抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する第1固液分離工程と、
B3)第1固液分離工程で得られた残渣部分に酵素処理を施す酵素処理工程と、
B4)酵素処理工程で得られた処理物を上清と残渣に分離する第2固液分離工程と、
B5)第2固液分離工程で得られた上清部分に含まれる高分子画分を分画する分画工程と、
分画工程で分画された画分を乾燥する乾燥工程と、
)乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程と、
を具備する。
これは、シルバースキンを用いたヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法のうち、上述の酵素処理物高分子画分を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法である。酵素処理工程後の分画方法は、エタノール沈殿分画、ゲル濾過分画、限外濾過膜による分画等を用いる。
なお、上述の製造方法における抽出工程において最も効率の良い抽出方法は、抽出溶媒に水を用いるものであり、その後、高分子の分画を行うやり方である。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたシルバースキンを機能性素材として高い収率で有効利用できるといった効果がある。
また、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤に用いるシルバースキンは、天然物に由来するものであるため、人体に対する安全性が高く、日常的に化粧品、飲食品、医薬品等として塗布、摂取、投与等することにより、ヒアルロン酸量の低下に起因する皮膚の老化、炎症反応、アレルギー反応を抑制できることが期待される。
なお、従来の天然抽出物のヒアルロニダーゼ阻害剤の場合、独特の臭いや苦味、渋みなどの味覚面の問題が指摘されていたが、本発明のシルバースキンを用いたヒアルロニダーゼ阻害剤は、上述の製造工程を経ることで、臭い、苦味が改善される。
シルバースキンの熱水抽出および酵素処理フロー図 熱水抽出物の製造工程フロー図 酵素処理物の製造工程フロー図 シルバースキンのエタノール抽出フロー図 エタノール抽出残渣可溶画分の製造工程フロー図 シルバースキンの熱水抽出物のエタノール沈殿フロー図 熱水抽出物高分子画分の製造工程フロー図 シルバースキンの酵素処理物のエタノール沈殿フロー図 酵素処理物高分子画分の製造工程フロー図 シルバースキンの熱水抽出物の段階的エタノール沈殿フロー図 ヒアルロニダーゼ阻害活性を示すグラフ1 ヒアルロニダーゼ阻害活性を示すグラフ2 ヒアルロニダーゼ阻害剤としての利用効率の説明図 加熱条件と固形収率を示すグラフ 加熱条件と糖収率を示すグラフ 加水比と固形収率の経時変化を示すグラフ 加水比と糖収率の経時変化を示すグラフ シルバースキンの説明図
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
図1は、シルバースキンの熱水抽出および酵素処理フローを示している。また、図2と図3は、それぞれ熱水抽出物の製造工程フローと酵素処理物の製造工程フローを示している。
ここで、図2のフロー中のA1〜A4の工程については以下の通りである。
A1)シルバースキンを熱水で抽出する熱水抽出工程
A2)抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する固液分離工程として行われる濾過工程
A3)濾過工程で得られた上清部分を乾燥する乾燥工程
A4)乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程
また、図3のフロー中のB1〜B6の工程については以下の通りである。
B1)シルバースキンを熱水で抽出する熱水抽出工程
B2)抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する第1固液分離工程として行われる濾過工程
B3)濾過工程で得られた残渣部分に酵素処理を施す酵素処理工程
B4)酵素処理工程で得られた処理物を上清と残渣に分離する第2固液分離工程として行われる濾過工程
B5)濾過工程で得られた上清部分を乾燥する乾燥工程
B6)乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程
次に、具体例で、熱水抽出物の製造工程と酵素処理物の製造工程を説明する。
まず、図1に示されるように、シルバースキン4938gに蒸留水180Lを加え、121℃で15分間、加温抽出を行った。得られた抽出液を、メッシュで濾過して上清と残渣に分離した(1次濾過)。そして、一次濾過の上清を、濾過助剤シリカを用いて濾過した(2次濾過)。次に、上清を0.45μmのフィルターに通して除菌を行い、濃縮後、121℃にて20分間殺菌を行い、更にスプレードライを行って831.6gの固形物を得た。
得られた固形物を熱水抽出物とする。
一方、上記の1次濾過で得られた抽出残渣11kg(水を含んだ重量)に対しては、0.05M酢酸緩衝液(pH5.0)180mLおよび市販のセルラーゼ
60mLを加えて、40℃で16時間30分、酵素処理を行った。次に、酵素処理を行った液を濾過し、0.45μmのフィルターに通して除菌を行った。濃縮後、121℃で15分間殺菌を行い1027.2gの液体を得た。
得られた液体を酵素処理物とする。
図4は、抽出溶媒に水以外を用いた抽出方法の一つとしてシルバースキンの20%エタノール抽出フローを示している。また、図5は、20%エタノール抽出によって得られる精製物のうち抽出残渣可溶画分の製造工程フローを示している。ここで、図5のフロー中のC1〜C6の工程については以下の通りである。
C1)シルバースキンをエタノール溶液で抽出するエタノール抽出工程
C2)エタノール抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する第1固液分離工程として行われる濾過工程
C3)濾過工程で得られた残渣部分を水で抽出する水抽出工程
C4)水抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する第2固液分離工程として行われる濾過工程
C5)濾過工程で得られた上清部分を乾燥する乾燥工程
C6)乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程
次に、具体例で、エタノール抽出残渣可溶画分の製造工程を説明する。
図4に示されるように、20L容積のポリタンクに、シルバースキン60.5gと20%(v/v)エタノール3000mLを加え、振とう培養器(Thermostatic shaking incubator AT−24R、トーマス科学器械株式会社製)にて25℃、50rpmの条件で16時間抽出を行った。
得られた抽出液は濾紙(東洋濾紙No.51)にて濾過を行い、上清と残渣に分離した。この残渣に対し蒸留水3000mLを加え、再度、振とう培養器にて25℃、50rpmの条件で抽出を行った。得られた抽出液は、濾紙にて濾過を行い、上清と残渣に分離した。この上清をロータリーエバポレーターで濃縮後、凍結乾燥を行い、0.85gの固形物を得た。
得られた固形物を20%エタノール抽出残渣可溶画分とする。
図6は、上述のシルバースキンの熱水抽出物のエタノール沈殿フローを示している。図7は、熱水抽出物高分子画分の製造工程フローを示している。ここで、図7のフロー中のD1〜D3の工程については以下の通りである。
D1)シルバースキンを熱水で抽出する熱水抽出工程
D2)熱水抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する固液分離工程として行われる濾過工程
D3)濾過工程で得られた上清部分に含まれる高分子画分を分画する分画工程
また、図8は、上述のシルバースキンの酵素処理物のエタノール沈殿フローを示している。図9は、酵素処理物高分子画分の製造工程フローを示している。ここで、図9のフロー中のE1〜E5の工程については以下の通りである。
E1)シルバースキンを熱水で抽出する熱水抽出工程
E2)熱水抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する第1固液分離工程として行われる濾過工程
E3)濾過工程で得られた残渣部分に酵素処理を施す酵素処理工程
E4)酵素処理工程で得られた処理物を上清と残渣に分離する第2固液分離工程として行われる濾過工程
E5)濾過工程で得られた上清部分に含まれる高分子画分を分画する分画工程
次に、具体例で、熱水抽出物高分子画分の製造工程ならびに酵素処理物高分子画分の製造工程を説明する。
図6に示されるように、シルバースキンの熱水抽出物5gに対し、蒸留水50mLを加え、90℃で加温溶解させた。この溶液に対し、99.5%エタノールを200mL加えて撹拌し、−80℃にて静置後、遠心分離によって沈殿と上清に分けた。
得られた沈殿を凍結乾燥させたものを熱水抽出物高分子画分とする。この熱水抽出物高分子画分に対して、ヒアルロニダーゼ阻害活性を測定した。
一方、図8に示されるように、酵素処理物820mLを、遠心分離にかけ、得られた上清をロータリーエバポレーターで濃縮した。その後、終濃度が80%になるよう99.5%エタノールを加えて撹拌し、−80℃にて静置後、遠心分離によって沈殿と上清に分けた。
得られた沈殿を凍結乾燥させたものを酵素処理物高分子画分とする。この酵素処理物高分子画分に対して、ヒアルロニダーゼ阻害活性を測定した。
図10は、シルバースキンの熱水抽出物に対して、段階的にエタノール濃度を変えて、エタノール沈殿を行い、分子量依存的に分画したフローを示している。シルバースキンの熱水抽出物5gに対し、蒸留水150mLを加え、90℃で加温溶解させた。この溶液に99.5%エタノール30mLを加えて撹拌し、−80℃にて1時間静置後、遠心分離によって沈殿と上清に分けた。得られた沈殿は、凍結乾燥させ、これを0−20%ppt画分とした。
上清は、さらに終濃度が40%になるよう99.5%エタノールを加えて撹拌し、同様に−80℃にて1時間静置後、遠心分離によって沈殿と上清に分けた。得られた沈殿は、凍結乾燥させ、これを20−40%ppt画分とした。
更に得られた上清に対し、同様の操作をあと2回繰り返し、沈殿の凍結乾燥物をそれぞれ40−60%ppt画分、60−80%ppt画分として得た。
最終的に得られた上清は、ロータリーエバポレーターで濃縮後、103℃にて乾燥させ、これをsup画分とした。
得られた各画分を用い、ヒアルロニダーゼ阻害活性を測定した。
図11は、ヒアルロニダーゼ阻害活性を示すグラフを示している。ヒアルロニダーゼ阻害効果に関する評価は、Morgan−Elson法を応用した方法に準じて実施した。これは、ヒアルロニダーゼによるヒアルロン酸の加水分解によってN−アセチルヘキソサミンが生じるため、その量を指標として測定するものである。
まず、100mM酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解させた被検試料溶液200μLに、同緩衝液に溶解させた10mg/mLヒアルロニダーゼ(ウシ睾丸由来、ナカライテスク社製)を40μL添加し、37℃で20分間、プレインキュベートした。
次に、同緩衝液に、0.1%(w/v)のCompound48/80(ナカライテスク社製)、2.5mMのCaCl、150mMのNaClを溶解させた活性化剤160μLを加え、37℃で20分インキュベートし、ヒアルロニダーゼを活性化させた。この溶液に1mg/mLのヒアルロン酸カリウム(ヒトヘソ緒由来、ナカライテスク社製)400μLを加え、37℃で40分間インキュベートして酵素反応させた後、0.5NのNaClを100μL加えて水冷し反応を停止させた。
さらに、この溶液に100mMホウ酸緩衝液(pH9.1)を100μL加えて、95℃で3分間加温した後、再び水冷した。この反応溶液360μLに対し、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド試薬を300μL加え、37℃で5分間反応させた後、マイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社製)で550nmの波長にて吸光度を測定した。ヒアルロニダーゼ阻害活性は下記式(1)により阻害率として算出した。
(数1)
ヒアルロニダーゼ阻害率(%)
=[(A−B)−(C−D)]/(A−B)×100・・・式(1)
ここで、Aは、被検試料を添加していない反応液の吸光度(コントロール)を示している。また、Bは、被検試料および酵素を添加していない溶液の吸光度(ブランク)を示している。また、Cは、被検試料を添加した反応液の吸光度を示している。また、Dは、酵素を添加していない溶液の吸光度(試料ブランク)を示している。
ポジティブコントロールとして、既知成分のクロモグリク酸ナトリウムと比較した。熱水抽出物高分子画分および酵素処理物高分子画分については、いずれもクロモグリク酸ナトリウムとほぼ同等の阻害活性を示した。
図12は、シルバースキンの熱水抽出物をエタノール沈殿法によって分子量依存的に分画した試料(0−20%ppt、20−40%ppt、40−60%ppt、60−80%ppt、sup)のヒアルロニダーゼ阻害活性を示している。分子量が大きい程、強いヒアルロニダーゼ阻害活性を示す傾向が示された。
各試料の阻害活性からIC50を算出した結果を、下記の表1、2に示している。表中、値が小さいほど、ヒアルロニダーゼ阻害効果が強いことを示している。
図13は、各試料の収率を示している。上述の如く、シルバースキン4938gから、ヒアルロニダーゼ阻害活性機能を有する熱水抽出物が831.6g得られた。このことから、シルバースキンから機能性素材として熱水抽出物が16.84%の高い収率で回収できたことになる。さらに熱水抽出物は、上述したように、エタノール沈殿法によって更に分子量依存的に分画した試料に分けることができ、それらは分子量が大きい程、強いヒアルロニダーゼ阻害活性を示すのである。すなわち、更に強力なヒアルロニダーゼ阻害剤を得たい場合には、抽出溶媒に水を用いた抽出物から高分子画分を回収すると良い。
また、上述の如く、シルバースキン4938gから、ヒアルロニダーゼ阻害活性機能を有する酵素処理物が1027.2g得られた。このことから、シルバースキンから機能性素材として酵素処理物が20.80%の高い収率で回収できたことになる。
すなわち、従来、産業廃棄物として処理されてきたシルバースキンから、ヒアルロニダーゼ阻害活性機能を有する機能性素材として熱水抽出物と酵素処理物が、合計で37.64%という非常に高い収率で回収できたのである。
実施例6では、上記実施例において行った、溶出溶媒に水を用いた抽出に際し、温度、時間、加水比の違いによって、機能性素材としての抽出物の回収収率および成分組成に与える影響を調べたものである。
図14〜17は、抽出温度や抽出時間を変えたときの抽出物の固形収率および糖収率を示している。
加熱条件に関して説明する。まず、耐熱瓶にシルバースキン1.5gと蒸留水150mLをいれ、予め加熱したオートクレーブを用いて、105℃で1分間、105℃で20分間、121℃で1分間、121℃で20分間の条件で加熱を行った。加熱後、100℃まで下がった時点でオートクレーブから瓶を取り出し、キムタオル(登録商標)によって残渣を除去した。
得られた抽出液について固形分および全糖量の測定を行った。固形分測定はまず、遠心分離によって抽出物中の不溶物を除去し、上清3mLをアルミ皿に入れて99℃にて4時間乾燥させた。乾燥後の重量を測定し、固形収率を算出した。全糖量についてはフェノール硫酸法によって測定した。抽出液の希釈サンプル0.5mLに対し、5%(v/v)フェノール0.5mLと硫酸2mLを反応させ、反応液を200μL分取し、マイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社製)にて450nmの吸光度を測定した。検量線作成にはグルコースを用い、検量線から希釈サンプル中の糖量を算出し、糖収率を求めた。それぞれの測定結果を図14、図15に示す。
また、抽出時間と加水比について、以下のように実験を行った。
シルバースキンと蒸留水を、3g:300mL、6g:300mLまたは9g:300mLの割合で三角フラスコに入れ、振とう培養器にて25℃で撹拌した。加水後、シルバースキンが全て水に浸った直後を0時間とし、4時間後、8時間後、14時間後、18時間後、24時間後に上澄みを回収した。
回収した溶液は遠心分離によって不溶物を除き、抽出液を得た。
得られた抽出液は、上記と同様の方法で固形収率および糖収率を算出した。それぞれの測定結果を図16、図17に示す。
測定結果から、抽出時間、抽出温度および加水比が異なっても、抽出効率に顕著な差は見られないことがわかる。このことから、抽出に際し、温度、時間、加水比は特に制限がないことが理解できる。また、温度、時間、加水比の条件の違いによって収率および抽出物の成分組成に差はないことがわかる。
すなわち、抽出溶媒に水を用いた抽出において、常温水と熱水で抽出物のヒアルロニダーゼ阻害活性に顕著な差はなく、また、収率、阻害活性に顕著な差もないのである。
本発明によれば、従来、主に産業廃棄物として処理されてきたコーヒーのシルバースキンをヒアルロニダーゼ阻害剤といった機能性素材として有効利用できる。

Claims (4)

  1. シルバースキンから抽出溶媒に水を用いて抽出した抽出物を固液分離して得られた上清部分に含まれる高分子画分であって、
    クロモグリク酸ナトリウムと同等かそれ以上の優れたヒアルロニダーゼ阻害機能を有する画分を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤。
  2. シルバースキンから抽出溶媒に水を用いて抽出した抽出物を固液分離し、残渣部分に酵素処理を施したものを固液分離して得られた上清部分に含まれる高分子画分であって、
    クロモグリク酸ナトリウムと同等かそれ以上の優れたヒアルロニダーゼ阻害機能を有する画分を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤。
  3. シルバースキンを抽出溶媒に水を用いて抽出する抽出工程と、
    前記抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する固液分離工程と、
    前記固液分離工程で得られた上清部分に対して分子量依存的に分画する分画工程と、
    前記分画工程で分画された画分を乾燥する乾燥工程と、
    前記乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程と、
    を具備するヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法。
  4. シルバースキンを抽出溶媒に水を用いて抽出する抽出工程と、
    前記抽出工程で得られた抽出物を上清と残渣に分離する第1固液分離工程と、
    前記第1固液分離工程で得られた残渣部分に酵素処理を施す酵素処理工程と、
    前記酵素処理工程で得られた処理物を上清と残渣に分離する第2固液分離工程と、
    前記第2固液分離工程で得られた上清部分に対して分子量依存的に分画する分画工程と、
    前記分画工程で分画された画分を乾燥する乾燥工程と、
    前記乾燥工程で得られた固形分を回収する回収工程と、
    を具備するヒアルロニダーゼ阻害剤の製造方法。
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