以下、本発明に係る内燃機関の制御装置の各実施例を図面に基づいて詳述する。
この実施例では、車両として自動変速機(オートマチックトランスミッション)を備え、いわゆるドライブレンジ(Dレンジ)やニュートラルレンジ(Nレンジ)などのシフト切り換えが可能になっている。また、内燃機関としては、火花点火式ガソリン仕様のいわゆる4サイクルの内燃機関に適用したものを示している。
この内燃機関は、図1に示すように、一般的な構造であって、シリンダブロック01とシリンダヘッド02との間にピストン03を介して燃焼室04が形成されていると共に、前記シリンダヘッド02のほぼ中央位置に点火プラグ05が設けられている。また、前記シリンダブロック01には、ウォータジャケット内の水温を検出する水温センサ06が取り付けられていると共に、シリンダヘッド02には、燃焼室04内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁07と後述の吸気ポートIP内に燃料を噴射する第2燃料噴射弁08がそれぞれ設けられている。
さらに、シリンダヘッド02の内部に形成された一気筒当たりそれぞれ2つの吸気ポートIPや排気ポートEPを開閉する一気筒当たりそれぞれ2つの吸気弁4、4及び排気弁5、5が摺動自在に設けられていると共に、前記吸気弁4側と排気弁5側には、可変動弁システムが設けられている。
前記可変動弁システムは、図2〜図4に示すように、内燃機関の両排気弁5,5のバルブリフト及び作動角(開期間)を制御する排気弁開弁時期可変機構である排気VEL1と、排気弁5,5の開閉時期(バルブタイミング)を制御する同じく排気弁開弁時期可変機構である排気VTC2と、両吸気弁4,4のバルブリフト及び作動角を制御する実圧縮比可変機構としての吸気VEL3と、吸気弁4の開閉時期を制御する同じく実圧縮比可変機構としての吸気VTC4と、を備えている。また、前記排気VEL1と排気VTC2、吸気VEL3及び吸気VTC4は、後述するコントローラ22によって機関運転状態に応じてそれぞれの作動が制御されるようになっている。
前記排気VEL1は、本出願人が先に出願した例えば特開2003−172112号公報(吸気弁側に適用)などに記載されたものと同様の構成であるから、図2に基づいて簡単に説明すると、シリンダヘッド02上部の図外の軸受に回転自在に支持された中空状の駆動軸6と、該駆動軸6の外周面に圧入等により固設された駆動カム7と、前記駆動軸6の外周面に揺動自在に支持されて、各排気弁5,5の上端部に配設された各バルブリフター8、8の上面に摺接して各排気弁5,5を開作動させる2つの揺動カム9,9と、駆動カム7と揺動カム9,9との間に介装されて、駆動カム7の回転力を揺動運動に変換して揺動カム9,9に揺動力として伝達する伝達機構とを備えている。
前記駆動軸6は、一端部に設けられたタイミングスプロケット33を介して前記クランクシャフトから図外のタイミングチェーンによって回転力が伝達されており、この回転方向は図2中、時計方向(矢印方向)に設定されている。
前記駆動カム7は、ほぼリング状を呈し、内部軸方向に形成された駆動軸挿通孔を介して駆動軸6に貫通固定されていると共に、カム本体の軸心が駆動軸6の軸心から径方向へ所定量だけオフセットしている。
前記両揺動カム9は、図2〜図4などにも示すように、円筒状のカムシャフト10の両端部に一体的に設けられていると共に、該カムシャフト10が内周面を介して駆動軸6に回転自在に支持されている。また、下面にベースサークル面やランプ面及びリフト面からなるカム面9aが形成されており、該ベースサークル面とランプ面及びリフト面が、揺動カム9の揺動位置に応じて各バルブリフター8の上面の所定位置に当接するようになっている。
前記伝達機構は、駆動軸6の上方に配置されたロッカアーム11と、該ロッカアーム11の一端部11aと駆動カム7とを連係するリンクアーム12と、ロッカアーム11の他端部11bと揺動カム9とを連係するリンクロッド13とを備えている。
前記ロッカアーム11は、中央に有する筒状の基部が支持孔を介して後述する制御カムに回転自在に支持されていると共に、一端部11aがピン14によってリンクアーム12に回転自在に連結されている一方、他端部11bがリンクロッド13の一端部13aにピン15を介して回転自在に連結されている。
前記リンクアーム12は、円環状の基端部12aの中央位置に有する嵌合孔に前記駆動カム7のカム本体が回転自在に嵌合している一方、基端部12aから突出した突出端12bが前記ピン14によってロッカアーム一端部11aに連結されている。
前記リンクロッド13は、他端部13bがピン16を介して揺動カム9のカムノーズ部に回転自在に連結されている。
また、駆動軸6の上方位置に同じ軸受部材に制御軸17が回転自在に支持されていると共に、該制御軸17の外周に前記ロッカアーム11の支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム11の揺動支点となる制御カム18が固定されている。
前記制御軸17は、駆動軸6と並行に機関前後方向に配設されていると共に、駆動機構19によって回転制御されている。一方、前記制御カム18は、円筒状を呈し、軸心位置が制御軸17の軸心から所定分だけ偏倚している。
前記駆動機構19は、図外のハウジングの一端部に固定された電動モータ20と、ハウジングの内部に設けられて電動モータ20の回転駆動力を前記制御軸17に減速して伝達する減速機構であるボール螺子伝達手段21とから構成されている。
前記電動モ−タ20は、比例型のDCモータによって構成され、機関運転状態を検出する制御機構であるコントローラ22からの制御信号によって駆動するようになっている。
前記ボール螺子伝達手段21は、電動モータ20の駆動シャフトとほぼ同軸上に配置されたボール螺子軸23と、該ボール螺子軸23の外周に螺合する移動部材であるボールナット24と、前記制御軸17の一端部に直径方向に沿って連結された連係アーム25と、該連係アーム25と前記ボールナット24とを連係するリンク部材26とから主として構成されている。
前記ボール螺子軸23は、両端部を除く外周面全体に所定幅のボール循環溝が螺旋状に連続して形成されていると共に、一端部にモータ駆動軸を介して連結され電動モータ20によって回転駆動されるようになっている。
前記ボールナット24は、ほぼ円筒状に形成され、内周面に前記ボール循環溝と共同して複数のボールを転動自在に保持するガイド溝が螺旋状に連続して形成されていると共に、各ボールを介してボール螺子軸23の回転運動をボールナット24に直線運動に変換しつつ軸方向の移動力が付与されるようになっている。また、このボールナット24は、付勢手段であるコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側(最小リフト側)に付勢されている。したがって、機関停止時には、かかるボールナット24が、前記コイルスプリング30のばね力によってボール螺子軸23の軸方向に沿って最小リフト側に移動するようになっている。
前記コントローラ22は、エンジンコントロールユニット(ECU)の内部に組み込まれており、現在の機関回転数N(rpm)を検出するクランク角センサからのクランク角信号や機関回転数信号、アクセル開度センサ、車速センサ、ギア位置センサ、前記水温センサ06などから各種情報信号から現在の機関運転状態を検出している。また、駆動軸6の回転角度を検出する駆動軸角度センサ28からの検出信号や、前記制御軸17の回転位置を検出するポテンショメータ29からの検出信号を入力して、前記スプロケット33と駆動軸6との相対回転角度や各排気弁5,5のバルブリフト量や作動角を検出するようになっている。
以下、前記排気VEL1の基本動作を説明すると、所定の運転領域で、前記コントローラ22からの制御電流によって一方向へ回転駆動した電動モータ20の回転トルクによってボール螺子軸23が一方向へ回転すると、ボールナット24がコイルスプリング30のばね力にアシストされながら最大一方向(電動モータ20に接近する方向)へ直線状に移動し、これによって制御軸17がリンク部材39と連係アーム25を介して一方向へ回転する。
したがって、制御カム18は、図3A、B(リアビュー)に示すように、軸心が制御軸17の軸心の回りを同一半径で回転して、肉厚部が駆動軸6から上方向に離間移動する。これにより、ロッカアーム11の他端部11bとリンクロッド13の枢支点は、駆動軸6に対して上方向へ移動し、このため、各揺動カム9は、リンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に引き上げられて全体が図3に示す反時計方向へ回動する。
よって、駆動カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター16に伝達され、これによって、排気弁5,5は、そのバルブリフト量が図5のバルブリフト曲線で示すように小リフト(L0)になり、その作動角D0(クランク開弁期間の半分)が小さくなる。
なお、ここで、前記揺動カム9とバルブリフター16との間には、バルブクリアランスが存在し、バルブリフト量はカムリフト量よりバルブクリアランス分だけ小さくなっている。また、前記バルブリフトの開時期から閉時期までが作動角となっている。
別の運転状態では、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20が他方向へ回転して、この回転トルクがボール螺子軸23に伝達されて回転すると、この回転に伴ってボールナット24がコイルスプリング30のばね力に抗して反対方向へ直線移動する。これにより、制御軸17が、図3中、反時計方向へ所定量だけ回転駆動する。
このため、制御カム18は、軸心が制御軸17の軸心から所定量だけ下方の回転角度位置に保持され、肉厚部が下方へ移動する。このため、ロッカアーム11は、全体が図2の位置から時計方向へ移動して、これによって各揺動カム9がリンク部材13を介してカムノーズ部側が強制的に押し下げられて、全体が時計方向へ僅かに回動する。
したがって、駆動カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して各揺動カム9及びバルブリフター8に伝達され、排気弁5,5のリフト量が図5に示すように、小リフト(L1)を経由して中リフト(L2)になり、作動角もD1を経由してD2まで大きくなる。これによって、排気弁5,5の閉時期が遅角側の下死点近傍に制御されることから、燃焼室04内の残留ガスが低減して冷機始動性が向上する。
また、例えば高回転高負荷領域に移行した場合などは、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20がさらに他方向に回転し、制御軸17は、制御カム18をさらに図3中、反時計方向へ回転させて、図4A、Bに示すように軸心を下方向へ回動させる。このため、ロッカアーム11は、全体がさらに駆動軸6方向寄りに移動して他端部11bが揺動カム9のカムノーズ部を、リンクロッド13を介して下方へ押圧して該揺動カム9全体を所定量だけさらに時計方向へ回動させる。
よって、駆動カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター8に伝達されるが、そのバルブリフト量は図5に示すようにL2からL3に連続的に大きくなる。その結果、高回転域での排気効率を高め、もって出力を向上させることができる。
すなわち、排気弁5,5のリフト量は、機関の運転状態に応じて小リフトのL0から大リフトL3まで連続的に変化するようになっており、したがって、各排気弁5,5の作動角も小リフトD0から大リフトのD3まで連続的に変化する。
また、機関の停止時には、前述したように、ボールナット24がコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側へ付勢されて自動的に移動することから、小作動角D0及び小リフトL0域に安定に保持される。これによって、動弁フリクションが低減し、この点からも良好な始動性が得られる。
一方、前記排気VTC2は、いわゆるベーンタイプのものであって、図6〜図8に示すように、機関のクランクシャフトによって回転駆動されて、この回転駆動力を前記駆動軸6に伝達するタイミングスプロケット33と、前記駆動軸6の端部に固定されてタイミングスプロケット33内に回転自在に収容されたベーン部材32と、該ベーン部材32を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。
前記タイミングスプロケット33は、前記ベーン部材32を回転自在に収容したハウジング34と、該ハウジング34の前端開口を閉塞する円板状のフロントカバー35と、ハウジング34の後端開口を閉塞するほぼ円板状のリアカバー36とから構成され、これらハウジング34及びフロントカバー35,リアカバー36は、4本の小径ボルト37によって駆動軸6の軸方向から一体的に共締め固定されている。
前記ハウジング34は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面の周方向の約90°位置に4つの隔壁であるシュー34aが内方に向かって突設されている。
この各シュー34aは、横断面ほぼ台形状を呈し、ほぼ中央位置に前記各ボルト37の軸部が挿通する4つのボルト挿通孔34bが軸方向へ貫通形成されていると共に、各内端面に軸方向に沿って切欠形成された保持溝内に、コ字形のシール部材38と該シール部材38を内方へ押圧する図外の板ばねが嵌合保持されている。
前記フロントカバー35は、円盤プレート状に形成されて、中央に比較的大径な支持孔35aが穿設されていると共に、外周部に前記各シュー34aの各ボルト挿通孔34bに対応する位置に図外の4つのボルト孔が穿設されている。
前記リアカバー36は、後端側に前記タイミングチェーンが噛合する歯車部36aが一体に設けられていると共に、ほぼ中央に大径な軸受孔36bが軸方向に貫通形成されている。
前記ベーン部材32は、中央にボルト挿通孔を有する円環状のベーンロータ32aと、該ベーンロータ32aの外周面の周方向のほぼ90°位置に一体に設けられた4つのベーン32bとを備えている。
前記ベーンロータ32aは、前端側の小径筒部が前記フロントカバー35の支持孔35aに回転自在に支持されている一方、後端側の小径な円筒部が前記リアカバー36の軸受孔36bに回転自在に支持されている。
また、ベーン部材32は、前記ベーンロータ32aのボルト挿通孔に軸方向から挿通した固定ボルト39によって駆動軸6の前端部に軸方向から固定されている。
前記各ベーン32bは、その内の3つが比較的細長い長方体形状に形成され、他の1つの幅長さが大きな台形状に形成されて、前記3つのベーン32bはそれぞれの幅長さがほぼ同一に設定されているのに対して1つのベーン32bはその幅長さが前記3つのものよりも大きく設定されて、ベーン部材32全体の重量バランスが取られている。
また、各ベーン32bは、各シュー34a間に配置されていると共に、各外面の軸方向に形成された細長い保持溝内に前記ハウジング34の内周面に摺接するコ字形のシール部材40及び該シール部材40をハウジング34の内周面方向に押圧する板ばねが夫々嵌着保持されている。また、各ベーン32bの前記駆動軸6の回転方向と反対側のそれぞれの一側面には、ほぼ円形状の2つの凹溝32cがそれぞれ形成されている。
また、この各ベーン32bの両側と各シュー34aの両側面との間に、それぞれ4つの進角側油圧室41と遅角側油圧室42がそれぞれ隔成されている。
前記油圧回路は、図6に示すように、前記各進角側油圧室41に対して作動油の油圧を給排する第1油圧通路43と、前記各遅角側油圧室42に対して作動油の油圧を給排する第2油圧通路44との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路43,44には、供給通路45とドレン通路46とが夫々通路切り換え用の電磁切換弁47を介して接続されている。前記供給通路45には、オイルパン48内の油を圧送する一方向のオイルポンプ49が設けられている一方、ドレン通路46の下流端がオイルパン48に連通している。
前記第1、第2油圧通路43,44は、円柱状の通路構成部39の内部に形成され、この通路構成部39は、一端部が前記ベーンロータ32aの小径筒部から内部の支持穴32d内に挿通配置されている一方、他端部が前記電磁切換弁47に接続されている。
また、前記通路構成部39の一端部の外周面と支持穴14dの内周面との間には、各油圧通路43,44の一端側間を隔成シールする3つの環状シール部材27が嵌着固定されている。
前記第1油圧通路43は、前記支持穴32dの駆動軸6側の端部に形成された油室43aと、ベーンロータ32aの内部にほぼ放射状に形成されて油室43aと各進角側油圧室41とを連通する4本の分岐路43bとを備えている。
一方、第2油圧通路44は、通路構成部39の一端部内で止められ、該一端部の外周面に形成された環状室44aと、ベーンロータ32の内部にほぼL字形状に折曲形成されて、前記環状室44aと各遅角側油圧室42と連通する第2油路44bとを備えている。
前記電磁切換弁47は、4ポート3位置(ポジション)型であって、内部の弁体が各油圧通路43、44と供給通路45及びドレン通路46とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記コントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
この排気VTC2の電磁切換弁47は、制御電流が作用しない場合に、供給通路45が遅角側油圧室42に連通する第2油圧通路44と連通し、ドレン通路46が進角側油圧室41と連通する前記第1油圧通路43に連通するようになっている。また、電磁切換弁47内のコイルスプリングによって機械的にかかるポジションとなるように形成されている。
このコントローラ22は、排気VEL1と共通のものであって、機関運転状態を検出すると共に、クランク角センサ27及び駆動軸角度センサ28からの信号によってタイミングスプロケット33と駆動軸6との相対回転位置を検出している。
また、前記ベーン部材32とハウジング34との間には、このハウジング34に対してベーン部材32の回転を拘束及び拘束を解除する拘束手段であるロック機構が設けられている。このロック機構は、図6に示すように、前記幅長さの大きな1つのベーン32bとリアカバー36との間に設けられ、前記ベーン32bの内部の駆動軸6の軸方向に沿って形成された摺動用穴50と、該摺動用穴50の内部に摺動自在に設けられた有蓋円筒状のロックピン51と、前記リアカバー36に有する固定孔内に固定された横断面カップ状の係合穴構成部52に設けられて、前記ロックピン51のテーパ状先端部51aが係脱する係合穴52aと、前記摺動用穴50の底面側に固定されたスプリングリテーナ53に保持されて、ロックピン51を係合穴52a方向へ付勢するばね部材54とから構成されている。
また、前記係合穴52aには、図外の油孔を介して前記遅角側油圧室42内の油圧あるいはオイルポンプ49の油圧が直接供給されるようになっている。
そして、前記ロックピン51は、前記ベーン部材32が最遅角側に回転した位置で、先端部51aが前記ばね部材54のばね力によって係合穴52aに係合してタイミングスプロケット31と駆動軸6との相対回転をロックする。また、前記遅角側油圧室42から係合穴52a内に供給された油圧あるいはオイルポンプ49の油圧によって、ロックピン51が後退移動して係合穴52aとの係合が解除されるようになっている。
また、前記各ベーン32bの一側面と該一側面に対向する各シュー34aの対向面との間には、ベーン部材32を最遅角側へ回転付勢する付勢部材である一対のコイルスプリング55、56が配置されている。
このコイルスプリング55,56は、図7、図8では、両者が重なるように見えるが、実際にはそれぞれ独立して形成されて互いに並列に配置されていると共に、それぞれの軸方向の長さ(コイル長)は、前記ベーン32bの一側面とシュー34aの対向面との間の長さよりも大きく設定されて、両者とも同一の長さに設定されている。
各コイルスプリング55,56は、最大圧縮変形時にも互いが接触しない軸間距離をもって並設されていると共に、各一端部がベーン32bの凹溝32cに嵌合する図外の薄板状のリテーナを介して連結されている。
以下、排気VTC2の基本動作を説明すると、まず、機関停止時には、コントローラ22から電磁切換弁47に対する制御電流の出力が停止されて、弁体がコイルスプリング55,56によって機械的に図7に示すデフォルト位置になり、供給通路45と遅角側の第2油圧通路44とが連通されると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43が連通される。また、かかる機関が停止された状態ではオイルポンプ49の油圧が作用せず供給油圧も0になる。
したがって、ベーン部材32は、図7に示すように、前記各コイルスプリング55,56のばね力によって最遅角側に回転付勢されて1つの幅広ベーン32bの一端面が対向する1つのシュー34aの一側面に当接する、と同時に前記ロック機構のロックピン51の先端部51aが係合穴52a内に係入して、ベーン部材32をかかる最遅角位置に安定に保持する。すなわち、最遅角位置に排気VTC2が機械的に安定するデフォルト位置になっていると共に、このデフォルト位置で、後述する図12に示すように、前記各排気弁5,5の閉時期をピストン上死点に対して機関始動可能な位置となっている。
ここで、デフォルト位置とは、非作動時、つまり、制御信号が発せられない場合にメカニカルに自動的に安定する位置のことである。
次に、機関始動時、つまりイグニッションスイッチをオン操作して、スタータモータを回転駆動させてクランクシャフトをクランキング回転させると、電磁切換弁47にコントローラ22から制御信号が出力されるようになる。しかしながら、この始動直後の時点では、まだオイルポンプ49の吐出油圧が十分に上昇していないことから、ベーン部材32は、ロック機構と各コイルスプリング55,56のばね力とによって最遅角側に保持されている。
このとき、コントローラ22から出力された制御信号によって電磁切換弁47が供給通路45と第2油圧通路44を連通させると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43とを連通させている。そして、オイルポンプ49から圧送された油圧の油圧上昇とともに第2油圧通路44を通って遅角側油圧室42に供給される一方、進角側油圧室41には、機関停止時と同じく油圧が供給されずにドレン通路46から油圧がオイルパン48内に開放されて低圧状態を維持している。
ここで、油圧が上昇した後は、電磁切換弁47による自在のベーン位置制御ができるようになる。すなわち、遅角側油圧室42の油圧の上昇に伴ってロック機構の係合穴52a内の油圧も高まってロックピン51が後退移動し、先端部51aが係合穴52aから抜け出してハウジング34に対するベーン部材32の相対回転を許容するため、自在なベーン位置制御が可能になる。
例えば、暖機完了後のアイドリング状態では、電磁切換弁47が供給通路45と第2油圧通路44を連通させると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43を連通させる。したがって、ベーン部材32は、遅角側油圧室42内の高圧化に伴い各コイルスプリング55,56のばね力とともに、図7に示す位置に維持されて駆動軸6がタイミングスプロケット33に対して遅角側に相対回転した状態となっている。
その後、例えば所定の低回転中負荷域に移行すると、コントローラ39からの制御信号によって電磁切換弁47が作動して、供給通路45と第1油圧通路43を連通させる一方、ドレン通路46と第2油圧通路44を連通させる。
したがって、今度は遅角側油圧室42内の油圧が、第2油圧通路44を通ってドレン通路46からオイルパン48内に戻され、該遅角側油圧室42内が低圧になる一方、進角側油圧室41内に油圧が供給されて高圧となる。
したがって、ベーン部材32は、かかる進角側油圧室41内の高圧化によって各コイルスプリング55,56のばね力に抗して図中時計方向へ回転して図8に示す位置に相対回転して、タイミングスプロケット33に対する駆動軸6の相対回転位相を進角側に変換する。また、電磁切換弁47のポジションを中立ポジションにすることで、任意の相対回転位相に保持できる。
さらに、機関の低回転域から通常の中回転域、さらに高回転域に移行すると、電磁切換弁47を前述の暖機完了後のアイドリング運転状態と同様の制御を行うことで、ベーン部材32は、進角側油圧室41に供給された油圧が低下して、逆に遅角側油圧室42の油圧が上昇し、各コイルスプリング55,56のばね力との合成力によって、タイミングスプロケット33と駆動軸6の相対回転位相を遅角側に変換する(図7参照)。
次に、前記吸気VEL3について説明すると、これは基本構成が前記排気VEL1と同じであるから、詳細な説明は省略する。
次に、前記吸気VTC4について説明する。これは図9、図10に示すように、基本構成は、前記図6〜図8に示す排気VTC2と同様にベーンタイプのものであるから、簡単に説明すると、吸気カムシャフトの端部に配置されてクランクシャフトから回転駆動力が伝達されるタイミングスプロケット60と、該タイミングスプロケット60の内部に回転自在に収容されたベーン部材61と、該ベーン部材61を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。
前記タイミングスプロケット60は、前記ベーン部材61を回転自在に収容したハウジング62と、図外のフロントカバー及びリアカバーなどから構成され、これらが4本の小径ボルト63によって軸方向から一体的に共締め固定されている。前記ハウジング62は、内周面の周方向の約90°位置に4つのシュー62aが内方に向かって突設されている。なお、リアカバーの外周には、タイミングチェーンが巻回される歯車60aが設けられていることは排気VTC2と同様である。
前記ベーン部材61は、中央にボルト挿通孔を有する円環状のベーンロータ61aと、該ベーンロータ61aの外周面の周方向のほぼ90°位置に一体に設けられた4つのベーン61bとを備えている。
また、ベーン部材61は、前記ベーンロータ61aのボルト挿通孔に軸方向から挿通した固定ボルト64によって吸気カムシャフトの前端部に軸方向から固定されている。また、前記各ベーン61bの両側と各シュー62aの両側面との間に、それぞれ4つの進角室65と遅角室66がそれぞれ隔成されている。
前記油圧回路は、基本的に排気VTC2のものと同様であるが、前述の3ポジション(図6参照)が左右で逆となっており、前記各進角室65に油圧を給排する第1油圧通路と、前記各遅角室66に油圧を給排する第2油圧通路との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路には、供給通路とドレン通路とが夫々通路切り換え用の電磁切換弁を介して接続されている。
前記電磁切換弁は、内部の弁体が各油圧通路と供給通路及びドレン通路とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記同じコントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
この吸気VTC4側の電磁切換弁は、制御電流が作用していない場合に、供給通路が進角側油圧室65につながる第1油圧通路と連通し、ドレン通路が遅角側油圧室66につながる第2油圧通路に連通するようになっている。また、電磁切換弁内のコイルスプリングによって機械的にかかるポジションになるようになっている。
また、幅広のベーン61bとリアカバーとの間には、ロックピン67や係合穴などから構成されて、ベーン部材61をハウジング62にロックするロック機構が設けられている。なお、このロック機構は、機関の停止時などでベーン部材61が最進角側に位置した場合(図9に示す位置)に、スプリングのばね力でロックピン67が係合穴に係合してベーン部材61の自由な回転を規制して安定保持するようになっている。
さらに、前記各ベーン61bの一側面と該一側面に対向する各シュー62aの対向面との間には、ベーン部材61を進角側へ回転付勢する付勢部材である2つの第2コイルスプリング68,69がそれぞれ配置されている。この両コイルスプリング68,69は、例えば機関始動前や始動直後などにおいてオイルポンプからの供給油圧が0あるいは所定以下の低い場合にベーン部材61を図9に示す時計方向に付勢して排気側カムシャフトを最進角方向へ回転させるようになっている。
以下、本実施例の作用について説明する。機関の始動前、つまり機関停止後には、吸気VTC4のベーン部材61は、各コイルスプリング68,69のばね力及びロック機構のロックピン67によって図9に示す回転位置に機械的に安定に保持されるように構成され、したがって、各吸気弁4,4は、その開閉時期が最進角側に安定保持されている。
一方、排気VTC2のベーン部材32は、前述のように各コイルスプリング55,56のばね力及びロック機構によって図7に示す回転位置に機械的に安定に保持されように構成され、したがって、各排気弁5,5は、その開閉時期が最遅角側に機械的に安定保持されている。さらに、各排気弁5,5は、排気VEL1のコイルスプリング30のばね力によってその作動角が小作動角D0(リフトL0)の位置に機械的に安定保持されている。
図11は内燃機関のアイドリング運転時、つまり、オートマチックトランスミッション(CVTを含む)の前記DレンジとNレンジのアイドリング運転時における前記排気弁5,5と吸気弁4,4のバルブタイミング(開閉時期)を示し、図12はそのときのP−V線図(指圧線図)を示している。この図12中、Pは筒内圧、Vは筒内容積である。
まず、前記Dレンジアイドリング運転時(以下、Dレンジアイドルという。)を考察すると、このDレンジアイドルでは、運転者はブレーキペダルを踏み込んでいても、内燃機関の動力はトランスアクスルに伝達され、トルクコンバータ(トルコン)が回転することによる流体トラクション(クリープ現象)を発生させるだけのある程度の負荷が作用している。
このDレンジアイドル運転中の吸気弁4,4は、排気上死点付近のIVO1(開弁時期)で開き始め、IVC1(閉弁時期)で閉じるが、その間にピストンがS1だけストロークする。ピストンのフルストロークをS0とすると、前記S1は短くなっている。この短いストロークS1によってスロットルバルブに依らずに吸入空気量をアイドル相当まで絞る。
ここで、IVCがピストン下死点付近とし、スロットルバルブで吸気量を絞る通常の内燃機関よりも吸気行程でのポンピングロス(図12の斜線部面積)を低減させることができ、この結果、燃費の向上が図れる。すなわち、いわゆる吸気弁4,4の早閉じアトキンソンサイクルとなっているのである。
また、このとき、実圧縮比E1(公称圧縮比E0×S1/S0)は比較的小さな値であり、筒内ピーク圧Pmaxは比較的低く、ピストン荷重(サイドフォース)が小さくなる。このため、ピストンなどの主運動系のフリクションが低下して、この点からも燃費が一層向上する。
ここで、ピストン03のフルストロークS0は、膨張ストロークEと一致している。ちなみに、膨張比とは、下死点での気筒容積を上死点の気筒容積で割算したものであり、公称圧縮比EOと一致する。
このとき、排気弁5,5の開時期(EVO)は、図11に示すように、ピストン下死点付近のEVO1であるが、後述する膨張行程時のポンピングロス(図12のF1、H1、I1で囲まれた面積)は殆ど発生しないことが明らかである。
また、この時点での吸気VEL3は、小作動角D1(小リフトL1)に制御した位置となり、吸気VTC4は、進角側に制御した位置になる。
次に、Nレンジアイドリング運転(以下、Nレンジアイドルという。)にした場合を考察する。
この場合は、内燃機関からの自動変速機(トランスアクスル)へのトルク伝達が遮断されるため、駆動フリクションが低減して、負荷がさらに低減して極低負荷になるため、Dレンジアイドルよりも燃費を向上させることができる。
車両の上り坂道発進の際に、クリープ現象がなくなることで自然後退させないためのブレーキ制御を付加すれば、車両停止時にNレンジに自動的に切り換え、燃費を低減させる方法が考えられているが、実際には十分な燃費効果が得られない。
この理由を図13に基づいて説明する。Nレンジアイドルでは、内燃機関の駆動フリクションが低く極低負荷になるため、より小さな作動角D0、リフトL0に切り換えられるが、これによって、図13に示すように、ピーク燃焼圧力(Pmax)が低下する。また、吸入空気量を減少させるために、吸気弁4,4の閉弁時期(IVC)をIVC2まで進角させ、吸入ピストンストロークをS2まで減少させる。このため、実圧縮比E2はDレンジアイドルでのE1よりさらに低下してPmaxも低下することになる。
したがって、膨張行程の後半では、筒内圧は負圧なる領域が出てきてさらに膨張下死点では大きな負圧になる。これによって、膨張行程でのポンピングロスが増加するのである。
すなわち、排気弁5,5が、図13に示すEVO1(F2)で開弁すると、筒内が負圧なので、排気ポートEPから排気ガスが筒内に流入する。そして、ピストンが上昇するにつれて再度排気ポートEP側に筒内ガスが流出ため、これによる大きなポンピングロス(膨張行程ポンピングロス)が発生してしまうのである(F2、G2、H2、I2で囲まれた斜線部Bの面積)。
したがって、この膨張行程のポンピングロスの急増により、吸気行程のポンピングロスの減少(図中斜線部Aの面積)にもかかわらず、極低負荷に移行しても十分には燃費を低減できないのである。
これに対して、本実施例では、図11に示すように、排気弁5,5の開弁時期をEVO2(後述の図14のF2’)まで遅らせるのである。具体的には、排気VEL1の作動角を、大作動角(D3)付近から中作動角(D2)付近まで縮小すると共に、排気VTC2によって遅角制御させるのである。
このようにすると、図14に示すように、負圧になった筒内が再び排気圧付近になった時点で排気弁5,5が開かれることになるので、排気ポートEP側から筒内へのガスの流入を防止し、膨張行程のポンピングロス(F2’、H2’、I2’で囲まれるB’の面積)の発生が抑制されることになる。この結果、極低負荷で吸気行程時のポンピングロスの低減にみあった燃費の低減効果を得ることができるのである。
ここで、排気弁5,5の開弁時期(EVO2 点F2’)での筒内圧は、厳密には排気圧に対して僅かなΔPだけ小さな圧力になっている。したがって、仮に、排気圧と一致するポイントI2’ないし、それ以降までEVOを遅らせると、排気VTC2や排気VEL1の可変レンジを拡大する必要が出てきて、可変動弁装置の大型化を招くおそれがある。よって、前記点F2’の時点でEVOを迎えるようにすれば、可変動弁装置の可変レンジを小さくできる抑えることができることから、可変動弁装置の大型化を回避することが可能になる。
また、排気弁5,5が開弁した際の筒内圧が高いことに起因する排気吹き出し損失(ブローダウン損失)が低減されることから、燃費の低減化が図れる。
また、排気ガスのブローダウンに起因する排気系の騒音発生も抑制することができる。
しかも、膨張行程時のポンピングロスは、図14の前記B’に示すように、ほんの僅かであるから、狙い通りの大幅な燃費の低減化が図れる。
また、実圧縮比が十分に低下しており、Pmaxが小さいので、ピストンのサイドフォースが十分に小さくなるので、ピストンなどの主運動系のフリクションが低下して、その点からも燃費が一層低減されるのである。
さらに、吸気側に加え排気弁5,5の作動角が減少するので、吸気側に加えて排気側の動弁フリクションも低減することから、燃費がさらに低減する。
なお、Dレンジアイドル時の極軽負荷状態で懸念される機関の回転変動も実圧縮比が低下することによって抑制される。
図15は機関負荷と排気弁・吸気弁のバルブタイミング及び実圧縮比との関係を示し、これに基づいて、本実施例の他の作用効果を以下に説明する
DレンジアイドルとNレンジアイドルとの間で、吸気弁開弁時期(IVO)や排気弁閉弁時期(EVC)はほぼ不変であり、前記IVOやEVCの変化を抑制できるので、バルブオーバーラップの急激な変化が抑えられる。したがって、筒内残留ガスの急変を抑制して過渡時の燃焼を安定化することができる。
ここで、可変動弁装置の機械的安定方向(デフォルト位置)についてみると、吸気弁4,4は、吸気VEL3によってリフト減少方向へ圧縮ばね30によって付勢されており、吸気VTC4によって進角方向へコイルスプリング68、69によって付勢されている。したがって、DレンジのIVC1からNレンジのIVC2に至る応答性を高くすることができる。また、この際に、排気VEL1,VTC2の作動応答性も高くなっている。
なぜなら、排気VEL1は、吸気側と同様にリフト減少方向へ圧縮ばね30によって付勢され、排気VTC2側では、コイルスプリング55,56によって遅角方向へ付勢されていることから、EVO1からEVO2への変換速度が速くなるのである。
すなわち、DレンジからNレンジに切り換えられた場合に、IVC変化を速くできるのに加えて、このIVC変化に呼応したEVO変化も速くできるのである。この結果、所望の燃費効果を早く得られ、また、DレンジからNレンジに変化した場合のEVOの追従性が良いので、膨張行程時のポンピングロスが過渡的に生じるのを防止することができる。よって、機関ストール(ポンピングロスにより機関トルクが急激に減少することによるストール)などの不安定化を回避できる。
また、本実施例では、図2に示すように、2つの燃料噴射弁07、08を備えており、Nレンジアイドルの場合には、有効圧縮比E1が低下すると共に、Pmaxの低下によって燃焼が緩慢になる傾向があり、そのため、この領域では吸気ポートIPに第2燃料噴射弁08から燃料を噴射して予混合を促進し、かつ極リフトの吸気弁隙間により筒内でガス流速が高まることによって燃焼を改善することができる。
機関高回転高負荷域では、図15に示すように、実圧縮比が増加するので、ノッキングが発生しやすくなる。そこで、第1燃料噴射弁07から筒内へ燃料を直接噴射して新気を冷却し、これによって耐ノック性をも向上させることが可能になり、出力トルクを高めることができる。この領域では、第2噴射弁からは噴射しなくてもよい。
図16は前記コントローラ22による排気VEL1と排気VTC2及び吸気VEL3の制御フローチャートを示している。
まず、ステップ1では、機関回転数Neや負荷、油温、ギア位置(通常Dレンジ)などの運転状態を読み込み、ステップ2では、機関アイドル状態か否かを判断する。ここで、アイドル状態ではないと判断した場合はリターンするが、アイドル状態であると判断した場合は、ステップ3に移行する。
このステップ3では、ギアの目標位置を読み込み、ステップ4で、ギアの目標位置がNレンジに変更されたか否かを判断する。前述のように、Dレンジアイドル状態が比較的長い時間継続されていた場合は、燃費の良いNレンジアイドルに切り換えする制御信号が出力されるのである。
レンジがNに変更されていない場合はリターンするが、変更されたと判断した場合は、ステップ5に移行し、ここでは、吸気弁4,4の目標IVCを演算する。
Nレンジになると、内燃機関とトランスアクスルとの接続が解除されることから、機関の駆動フリクションを低減できるので機関負荷が低下する。これによって、吸気弁のIVCを下死点から遠ざけることができる(有効圧縮比の低減)。
一方、前記駆動フリクションは、油温やアイドル回転数などによって変化するので、これらを考慮して目標IVCを演算するのである。
次に、ステップ6では、目標IVCへの切り換え信号を出力し、Nレンジへの切り換え信号を出力する。一方、上りの坂道などで車両を停止させた場合には、車両の傾斜を確認して車両の不用意な後退を防止するために、ブレーキ力を増大させる制御も行う。
ステップ7では、変換後の前記吸気弁4,4の実際のIVCを検出する。
ステップ8では、実際のIVCに基づいて排気弁5,5のEVOの筒内圧が目標筒内圧の値(排気圧Pe−ΔP)になるようなEVOを求める。大気圧や気温の影響により、排気圧の値も変化するので、その分の補正を入れてもよい。
ステップ9では前記排気弁5,5のEVOの切り換え信号を出力する。
続いて、制御精度を高めるために、以下の制御を行う。つまり、ステップ10では、目標EVOになったか否かを判断し、ノーの場合はステップ9に戻るが、イエスの場合はステップ11において筒内圧を計測、確認する。この筒内圧の計測は、例えば点火プラグ05に内蔵された筒内圧センサなどを用いる。
ステップ12では、前記筒内圧が目標値Pになっているか否かを判断し、目標値Pになっている場合は終了するが、乖離している場合は、ステップ13でEVOの補正値を演算によって求める。ここでEVOの補正値は、例えば目標値Pとの差値から求めればよい。つまり、低すぎればEVOをさらに遅延補正させてEVOでの値Pを増加させ、高すぎればEVOを進角補正させる。
そして、ステップ14では、EVOの補正値が可変範囲内か否かを判断し、可変範囲を越える場合は、ステップ17でEVOを下死点から最大限下死点よりも乖離した位置に固定する制御を行う。一方、可変範囲内である場合は、ステップ15において、目標値PになるようにEVO補正値に切り換え信号を出力する。具体的には、排気VEL1と排気VTC2によって目標EVOに合わせる。ここで、EVCはほぼ不変であり、バルブオーバーラップの変化を抑制して過渡時の燃焼を安定させる。
ステップ16では、目標値Pになったか否かを判断し、目標値Pになった場合はこれを確認してフローを終了するが、まだ、目標値と差異がある場合は、ステップ13に戻って再度EVOの補正を行う。
なお、本実施例では、前記各排気VEL1と排気VTC2、並びに吸気VEL3と吸気VTC4をそれぞれ制御することによって、IVOの変化をIVCの変化よりも小さくし、またEVC変化をEVOの変化よりも小さくすることができるので、バルブオーバーラップの変化を利用して筒内の残留ガスの急激な変化を抑制して過渡時の燃焼を安定化することができるのである。
〔第2実施例〕
図17及び図18は第2実施例を示し、排気弁5,5の開弁時期(EVO2)を第1実施例の場合よりも下死点前の早開き位置に設定したものである。
すなわち、図18のP−V線図で示すように、圧縮上死点から筒内圧が下がって行って排気圧より僅かにΔPだけ下がった時点(F2’)でEVOを迎えるのである。そうすると、排気ガスが筒内に僅かに流入して、筒内は排圧レベルとなりながら膨張下死点に至る。さらにピストン03が再上昇しても排圧レベルを継続する。つまり、膨張行程時のポンピングロス(F2’、H2’、I2’で囲まれる部分)は殆ど発生しないのである。
また、仮に排気圧と一致するポイントI2’ないしそれ以前までのEVOを早めると、排気VTC2や排気VEL1の可変巾を増大させることになるが、本実施例のように、F2’(排気圧よりも僅かにΔP下がった時点)をEVOとすれば、可変巾を縮小しつつ膨張行程時のポンピングロスを実質的に殆ど発生させないことができるのである。また、排気系の騒音を低減できるのは実施例1と同様である。
また、これによれば、排気弁5,5が早く開く、つまり燃焼ガスの温度があまり下がらないうちに排気弁5,5が開くので、第1実施例に比較して排気温度が高く、排気触媒の活性化が図れ、排気エミッション性能が向上する。
ここで、排気VTC2には、第1実施例とは逆の進角側への付勢用のコイルスプリング55,56が設けておけば、第1実施例と同様のEVO2への応答性を高めることができ、DレンジからNレンジに変化した場合のEVOの追従性が良くなるので、膨張行程時のポンピングロスが過渡的に生じるのを抑制することができ、この結果、過渡トルク低下による機関ストールなどの不安定な状態を除去することができる。
〔第3実施例〕
図19は第3実施例を示し、排気VEL1を廃止して排気VTC2のみとしたもので、この場合は、排気弁5,5の作動角が変わらないので、Nアイドル時の閉弁時期(EVC2)は排気上死点より進角しており、上死点前に排気弁5,5が閉弁するので、筒内の残留ガスがやや増加する。これによって、燃焼状態が悪化する傾向になるが、この残留ガスは外部EGRのように低温ではなく、高温になっているので、燃焼の悪化はさほどではない。したがって、排気VTC2のみの簡素な可変動弁装置で、膨張行程時のポンピングロスを低減でき、この結果、燃費の向上が図れる。
〔第4実施例〕
図20、図22は第4実施例を示し、吸気弁4,4側の閉弁時期(IVC)を下死点よりも十分に遅らせた、いわゆる遅閉じアトキンソンサイクルについて適用したものである。
これは、Dレンジアイドル時に、吸気弁4,4の閉弁時期(IVC)を、第1〜第3実施例のように下死点より早めるのではなく、下死点から遅らせる(IVC1)方向へ遠ざけるものである。
したがって、この場合も、圧縮行程が開始される際のピストンストロークSを短くすることによって、吸入空気量を絞ることができる。これにより、スロットルバルブに依らずにトルクを低下させることができ、吸気行程時のポンピングロスを低減できることから、燃費の低減化が図れる。
ここで、図20に示すように、DレンジアイドルからNレンジアイドルに変化した際に、吸気弁4,4のIVCをさらに遅角させてIVC1からIVC2に設定して、ピストンストロークを図12に示すS1と同レベルの状態から図22に示すS2まで短くすると、図21に示すように、膨張行程時に比較的大きなポンピングロスが発生する(H2、G2、F2、I2で囲まれた斜線部分)。
そこで、本実施例では、第2実施例のように、排気弁5,5の開弁時期(EVO)を下死点から進角側へ遠ざける(EVO1→EVO2)と、同じように膨張行程時のポンピングロスを抑制することができる。
すなわち、下死点から進角側へ遠ざけることによって、図22に示すように、EVOを変化させない場合(図21参照)に比較して膨張行程時のポンピングロス(F2’、H2’、I2’で囲まれた部分)を十分に抑制することができる。
また、ここでの前記ΔPは、図22に示すように、排気圧と大気圧の差とほぼ等しくなっている。したがって、排気弁5,5の開弁時期(EVO)と対応するF2’は大気圧とほぼ一致している。
機関のアイドル状態では、排気圧は大気圧に対して僅かに大きいだけなので、この差をΔPにとれば膨張行程時のポンピングロスを十分に低減できる。
また、膨張行程時において、筒内負圧により吸気弁4,4のシーティング部(傘部とバルブシートとの間)から新気が筒内に不整に浸入するのを抑制し、もって排気空燃比を安定させることができるので、排気エミッション性能の悪化を抑制できる。特に、図22に示すような、吸気弁4,4の閉弁時期(IVC)が遅閉じ型でF2’をほぼ大気圧とすれば、サイクル全体をほぼ大気圧以上にすることができるので、筒内が負圧になって吸気弁4,4のシーティング部から新気が筒内に不整に浸入するのを十分に抑制できる。
〔第5実施例〕
図23は第5実施例を示し、前記第4実施例を基本構成として、吸気弁4,4側の吸気VEL3を廃止して、吸気VTC4のみとした場合としたものである。
この場合は吸気弁4,4の作動角が変化しないので、IVO2は上死点より遅角しており、上死点後に吸気弁4,4が開く。このため、吸気行程の初期の吸気ポンピングロスがやや増加するが、開弁時には吸気が筒内へ勢いよく入り込むので、吸気攪拌効果によって燃焼が改善されて燃費の低下を抑制できる。したがって、吸気VTC4のみの簡単な装置で、膨張行程時のポンピングロスの低減効果が得られ、燃費の向上が図れる。
また、この第5実施例と第3実施例を組み合わせて考えると、吸気VTC4と排気VTC2のみでVELを使用しない実施例も可能である。
以下、前記実施形態から導かれる前記各請求項の発明以外の技術的思想について説明する。
〔請求項a〕
請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記実圧縮比可変機構は、吸気弁の閉弁時期をピストン下死点から遠ざける吸気弁閉弁時期可変機構であることを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、ピストンの位置を変化させる可変圧縮比機構のような主運動系の構造の大幅な変更をせずに、実圧縮比を低減することができる。また、実圧縮比の低減に伴って吸気行程のポンピングロスを低減できるので、燃費をさらに低減できる。
〔請求項b〕
請求項aに記載の内燃機関の制御装置において、
前記排気弁が開弁する際の排気圧と気筒内圧の差分は、排気圧と大気圧の差分とほぼ同等であることを特徴とする内燃機関の制御装置。
アイドリング状態では、排気圧は大気圧に対して僅かに大きいだけなので、この差をΔPにとれば、膨張行程のポンピングロスを十分に低減できる。また、膨張行程おいて、筒内負圧により吸気弁のシーティング部から新気が筒内に不整に浸入することを抑制することができる。したがって、排気空燃比を安定化させ、排気エミッション性能の低下を抑制できる。
〔請求項c〕
請求項1〜bのいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の負荷が所定負荷よりも低下したときに、前記排気弁開弁時期可変機構によって排気弁の開弁時期をピストン下死点から遅角する方向へ変化させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、小作動角によって排気側の動弁フリクションを低減させることができため、燃費を効果的に低減できると共に、Nレンジのアイドリング状態である極軽負荷における機関の回転変動が一層抑制されて機関の安定化が促進される。
〔請求項d〕
請求項1〜bのいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の負荷が所定負荷よりも低下したときに、前記排気弁開弁時期可変機構によって排気弁の開弁時期をピストン下死点から進角する方向へ変化させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、排気弁開時の排気ガス温度を高くできるので、触媒転化効率を高め、排気エミッションを低減できる。
〔請求項e〕
請求項1〜dのいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記排気弁開弁時期可変機構は、排気弁の閉弁時期の変化量が開弁時期の変化量よりも小さくなることを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、機関過渡時のバルブオーバーラップ変化を抑制することができるので、該過渡時の燃焼の安定化を図れる。
〔請求項f〕
請求項1〜eのいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関は、オートマチックトランスミッションを備えた車両に搭載され、
前記所定負荷とは、Dレンジのアイドリング状態の負荷であり、前記所定負荷より低下した状態とは、Nレンジのアイドリング状態の負荷であることを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、車両停止中における機関アイドリング状態時に、DレンジからNレンジに自動的に切り換えるシステムにおいて、Nレンジでの燃費をより低減させることができる。
〔請求項g〕
請求項1〜eのいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記所定負荷とは、機関低温状態におけるアイドリング状態の負荷であり、前記所定負荷より負荷が低下した状態とは、機関高温状態におけるアイドリング状態の負荷であることを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、機関の低温時におけるアイドリング状態では実圧縮比が高いことから燃焼を安定化させることができ、高温アイドリング時では燃費の向上が図れる。
〔請求項h〕
請求項1〜gのいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
気筒内に直接燃料を噴射する第1燃料噴射装置と、
吸気ポートに燃料を噴射する第2燃料噴射装置と、を備え、
機関の負荷が大きくなると前記第1燃料噴射装置によって燃料を供給し、
機関の負荷が小さくなると前記第2燃料噴射装置によって燃料を供給することを特徴とする内燃機関の制御装置。
この発明によれば、機関の高負荷域では実圧縮比が増加した際に懸念されるノッキングを筒内直噴による新気冷却によって改善するとともに、Nレンジアイドリング状態で懸念される燃料の霧化不良を吸気ポート噴射による予混合性向上によって改善することができる。
本発明は、前記各実施例の構成に限定されるものではなく、例えば排気側あるいは吸気側の一方をVTCのみとし、あるいは両方をVTCのみとすることも可能である。また、前記吸気VEL3としては、特開平11−264307号公報に記載された技術のような、吸気弁4,4のIVOの変化量がIVCの変化量よりも小さいものであれば吸気VTC4を廃止することも可能である。
また、排気VEL1も排気弁5,5のEVCの変化量がEVOの変化量よりも小さいものであれば、排気VTC2を廃止することも可能である。
さらに、実圧縮比可変装置としては、前記実施例では吸気弁4,4のIVCを可変にできるものを示したが、例えば、特開2009−36076号公報の図11に示すような、ピストン位置自体を変化させるものであってもよい。
また、排気VTC2や吸気VTC4のアクチュエータを油圧式ではなく、例えば特開2002−227615号公報に記載されているような電磁式あるいは電動式とすることも可能である。