JP2011058077A - アルミニウム合金板の連続処理装置および連続処理方法 - Google Patents

アルミニウム合金板の連続処理装置および連続処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】既存の連続焼鈍ラインで使用されている冷却設備を利用することで、大きな設備投資を伴うことなく、加熱処理後のアルミニウム合金板の冷却と表面洗浄を同時に実施することができる装置及び方法を提供することを目的とする。
【解決手段】連続処理装置10は、アルミニウム合金板Aを加熱する加熱帯4と、加熱帯4で加熱したアルミニウム合金板を冷却する冷却帯5と、を備えている。そして、冷却帯5は、冷却媒体として酸性水溶液を使用し、この酸性水溶液によってアルミニウム合金板Aの冷却および表面洗浄を同時に行なうことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、圧延後のアルミニウム合金板を連続的に加熱および冷却処理する連続処理装置および連続処理方法に関する。
アルミニウム合金板は、軽量であり成形性や耐食性にも優れているという理由から、缶材や自動車用部材等の幅広い分野で使用されている。アルミニウム合金板は、通常、アルミニウム合金鋳塊に均質化熱処理を施した後、熱間圧延および冷間圧延等を経て製造されるが、その組成によっては、冷間圧延後に成形性等の特性を向上させるための熱処理が行なわれる。この熱処理の方法としては、バッチ式焼鈍炉でコイル状のまま熱処理する方法と、連続処理装置(連続焼鈍ライン)で合金板を搬送しながら熱処理する方法と、があり、必要とされる特性により使い分けられている。
アルミニウム合金板は、自動車部材としては5000系や6000系等の合金が用いられるが、その用途によっては、製品板厚まで冷間圧延された後、O材化処理(焼き鈍し)、もしくは溶体化・焼き入れ処理が施され、このような処理は、急速加熱、急速冷却が可能である連続焼鈍ラインが用いられる場合が多い。
アルミニウム合金板は通常、前記の均質化熱処理、熱間圧延、焼き鈍し処理、溶体化処理等が施されると、表面に酸化皮膜が形成される。この酸化皮膜はアルミニウム合金板の脱脂性を劣化させて、化成処理時における化成処理ムラを発生させ、塗装外観および耐食性を低下させることになる。従って、従来からアルミニウム合金板を出荷する際には、酸やアルカリによる表面洗浄を行なっていた。
ここで、アルミニウム合金板の表面洗浄を行うには、前記した連続焼鈍ラインとは別に洗浄設備を設けるか、あるいは、特許文献1または特許文献2に示すように、連続焼鈍ラインに洗浄設備を組み込む必要があった。すなわち、特許文献1では、加熱帯および冷却帯からなる連続熱処理装置に連続して表面酸化皮膜除去のための表面処理装置を配設することが提案されており、特許文献2においても、連続焼鈍ラインに連続して酸洗浄装置を配設してアルミニウム合金板を酸洗することが提案されている。
特開平9−195019号公報(請求項2、図1) 特開平6−256980号公報(段落0014、図1)
しかしながら、連続焼鈍ラインとは別に洗浄設備を設けると、工程が煩雑になって生産性が低下するおそれがあった。また、特許文献1および特許文献2のように連続焼鈍ラインに洗浄設備を組み込むと、連続焼鈍ラインに洗浄設備設置のためのスペースを確保する必要があるとともに、洗浄設備の設置に多額の費用が必要であった。ここで、アルミニウム合金は、近年、軽量であるという特徴から自動車用部材として普及し、自動車の燃費向上に大きく寄与している。したがって、更なる普及のためには、コストの低減は不可欠であり、現行よりもコストを低減させる技術が必要である。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであって、既存の連続焼鈍ラインで使用されている冷却設備を利用することで、大きな設備投資を伴うことなく、加熱処理後のアルミニウム合金板の冷却と表面洗浄を並行して同時に実施することができる連続処理装置および連続処理方法を提供することを目的とする。
本発明者は、前記した課題を解決するために鋭意実験・検討を重ねた。その結果、連続焼鈍ラインにおいて、急速加熱したアルミニウム合金板を急速冷却するための冷却媒体として酸性水溶液を使用することで、既存の冷却設備を利用してアルミニウム合金板の冷却と表面洗浄を並行して実施できることを見出した。
すなわち、前記した課題を解決するために本発明に係るアルミニウム合金板の連続処理装置は、所望の板厚まで圧延したアルミニウム合金板を連続的に加熱および冷却処理する連続処理装置であって、前記アルミニウム合金板を加熱する加熱帯と、前記加熱帯で加熱した前記アルミニウム合金板を冷却する冷却帯と、を備え、前記冷却帯は、冷却媒体として酸性水溶液を使用し、前記酸性水溶液によって前記アルミニウム合金板の冷却および表面洗浄を同時に行なう構成とした。
かかる構成により、アルミニウム合金板の連続処理装置は、冷却帯の冷却媒体として酸性水溶液を使用することで、アルミニウム合金板の冷却と並行して表面洗浄を行ない、板表面のMg濃度を低下させ、酸化皮膜を除去することができる。
また、本発明に係るアルミニウム合金板の連続処理装置は、前記酸性水溶液が、硫酸水溶液、リン酸水溶液、またはこれらを混合したもの、のいずれかであり、かつ、その酸濃度が0.005〜3.000質量%の範囲内であることが好ましい。
かかる構成により、アルミニウム合金板の連続処理装置は、その後の脱脂工程での脱脂不良を防止できる範囲まで、アルミニウム合金板表面のMg濃度を低下させ、酸化皮膜を薄くすることができる。
さらに、本発明に係るアルミニウム合金板の連続処理方法は、所望の板厚まで圧延したアルミニウム合金板を連続的に加熱および冷却処理する連続処理方法であって、前記アルミニウム合金板を加熱帯内に搬送し、前記アルミニウム合金板を加熱する加熱工程と、加熱後の前記アルミニウム合金板を冷却帯内に搬送し、前記アルミニウム合金板を冷却する冷却工程と、を有し、前記冷却工程は、冷却媒体として酸性水溶液を使用し、前記酸性水溶液によって前記アルミニウム合金板の冷却および表面洗浄を同時に行なう構成とした。
かかる構成により、アルミニウム合金板の連続処理方法は、冷却帯の冷却媒体として酸性水溶液を使用することで、アルミニウム合金板の冷却と並行して表面洗浄を行ない、板表面のMg濃度を低下させ、酸化皮膜を除去することができる。
また、本発明に係るアルミニウム合金板の連続処理方法は、前記酸性水溶液が、硫酸水溶液、リン酸水溶液、またはこれらを混合したもの、のいずれかであり、かつ、その酸濃度が0.005〜3.000質量%の範囲内であることが好ましい。
かかる構成により、アルミニウム合金板の連続処理方法は、その後の脱脂工程での脱脂不良を防止できる範囲まで、アルミニウム合金板表面のMg濃度を低下させ、酸化皮膜を薄くすることができる。
本発明に係るアルミニウム合金板の連続処理装置および連続処理方法によれば、既存の連続焼鈍ラインで使用されている設備をそのまま用いて、加熱処理後のアルミニウム合金板の冷却と表面洗浄を並行して同時に行なうことができる。従って、新たな設備投資や連続処理装置の大型化を伴うことなく、かつ、従来よりも少ない工程で、アルミニウム合金板を製造することができる。
実施形態に係る連続処理装置の構成を示す概略図である。
(連続処理装置)
以下、実施形態に係るアルミニウム合金板の連続処理装置10について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、連続処理装置10は、最も上流に配設されてコイル状のアルミニウム合金板A(以下、合金板Aという)を繰り出すアンコイラ1と、予備洗浄装置2と、アキュームレータ3と、加熱帯4と、冷却帯5と、水洗帯6と、最も下流に配設されて合金板Aをコイル状に巻き取るリコイラ7と、を主な構成として備えている。
このような構成を備える連続処理装置(連続焼鈍装置)10は、所望の板厚まで圧延した合金板Aを連続的に加熱および冷却処理することで、合金板Aの強度や成形性等の性質を調整するための装置である。合金板Aは、一般的に冷間圧延を経ることによって加工硬化し、その成形性が低下する。しかし、連続処理装置10で加熱・冷却し、溶体化・焼き入れ処理、もしくは焼き鈍し処理を行うことにより、成形性やベークハード性(後工程の塗装焼付け時に強度が向上する特性)等の特性を向上させることができる。
合金板Aは、アルミニウム合金鋳塊に均熱処理を施した後、熱間圧延、冷間圧延等を経て製造されるものである。合金板Aの組成は特に限定されないが、例えばMgを含有する3000系、5000系、6000系等のアルミニウム合金であれば、加熱・冷却による合金板Aの機械的性質、表面処理性および接着特性の向上がより期待できる。
アンコイラ(繰出装置)1は、コイル状の合金板Aを連続処理装置10の下流側に繰り出すためのものである。アンコイラ1は、連続処理装置10において最も上流に配設される。アンコイラ1は、コイル状の合金板Aを支持するための図示しない心棒と、合金板Aを送出するための図示しない送出手段を備え、下流に位置する予備洗浄装置2に対して合金板Aを送出する。
予備洗浄装置2は、アンコイラ1から搬送される合金板Aを予備的に洗浄するための装置である。冷間圧延後の合金板Aには、冷間圧延油や塵、埃等が付着しているため、この予備洗浄装置2によって加熱・冷却前の合金板Aを洗浄する必要がある。予備洗浄装置2は、図1に示すように、アンコイラ1と上流側アキュームレータ3aの間に配設される。なお、予備洗浄に用いられる媒体は水であり、洗浄方法としては、例えば合金板Aの両面に水や温水等を噴霧して洗浄する方法が挙げられる。
アキュームレータ3は、連続焼鈍ラインを搬送される合金板Aを一旦蓄積して、その送り量や張力を調整するための装置である。アキュームータ3は、図1に示すように、連続処理装置10における加熱帯4の上流に配設された上流側アキュームレータ3aと、水洗帯6の下流に配設された下流側アキュームレータ3bと、からなる。
上流側アキュームレータ3aは、予備洗浄装置2で洗浄された合金板Aを受け入れて、送り量と張力を調整して加熱帯4へと送り出す。そして、下流側アキュームレータ3bは、後記する水洗帯6で水洗された合金板Aを受け入れて、送り量と張力を調整してリコイラ7へと送り出す。連続処理装置10は、このようなアキュームレータ3を備えることで、効率よく加熱・冷却処理を行うことができ、生産性を向上させることができる。
加熱帯4は、搬送される合金板Aを加熱するためのものである。加熱帯4は、合金板Aの両面に、例えば所定温度の熱風を吹きつけることにより、合金板Aの両面を均一に加熱する。冷間圧延後の合金板Aが6000系等の熱処理型合金である場合には、加熱帯4で所定温度に急速加熱されることで、溶け込んでいない元素が組織中に溶け込む溶体化処理が施され、冷間圧延後の合金板Aが5000系等の非熱処理型合金である場合には、加熱帯4で所定温度に急速加熱されることで、組織を再結晶化させる焼き鈍し処理が施される。
加熱帯4での加熱温度(合金板Aの温度)は、材料の特性に応じて設定され、例えば、熱処理型合金である6000系合金の溶体化処理であれば500〜550℃程度、非熱処理型合金である5000系合金の焼き鈍し処理であれば400〜500℃程度とすることができる。
冷却帯5は、加熱帯4に隣接して設けられ、加熱帯4で加熱された合金板Aを冷却するためのものである。冷却帯5は、合金板Aの両面に所定温度の冷却媒体を接触させることにより、合金板Aの両面を均一に冷却する。加熱帯4で加熱された合金板Aは、冷却帯5で所定温度に急速冷却され、特に合金板Aが6000系合金等の熱処理型合金である場合には、急速冷却により、室温でも固溶体として保つための焼き入れ処理が施される。
冷却帯5による冷却方法は特に限定されないが、例えば加熱した合金板Aの両面に冷却媒体を直接噴霧する方法や、加熱した合金板Aを冷却媒体に浸漬する方法等が挙げられる。冷却帯5で用いられる冷却媒体としては、酸性水溶液を用いる。このように、酸性水溶液を冷却媒体として用いることで、合金板Aの冷却と並行して、合金板A表面の酸化皮膜の洗浄除去も行うことができる。その結果、合金板A表面の脱脂性を向上させて、化成処理の処理ムラを防止することができる。
冷却帯5で用いられる酸性水溶液としては、無機酸水溶液を用いる。具体的には、硫酸水溶液、リン酸水溶液、硝酸水溶液等が挙げられ、その中でも硫酸水溶液、リン酸水溶液、あるいはこれらを混合したものを用いることが好ましい。また、酸性水溶液の酸濃度は、いずれの場合も0.005〜3.000質量%の範囲内であることが好ましく、0.01〜2.00質量%の範囲内であることがより好ましく、0.10〜2.00質量%の範囲内であることがさらに好ましい。酸性水溶液の酸濃度が0.005質量%未満だと、所望の洗浄能力を得ることができず、3.000質量%を超えると、所望の洗浄能力は得られるものの、排水処理や連続処理装置10の耐食性、酸性水溶液のコスト等が問題となる。
冷却帯5で用いられる酸性水溶液(冷却媒体)の温度は特に限定されないが、例えば室温〜60℃とすることが好ましい。酸性水溶液の温度をこのような範囲内とすることにより、合金板A表面の洗浄を行なうと同時に、合金板Aを所望の温度まで冷却することができる。なお、酸性水溶液の温度は、酸性水溶液用のタンクの温度を測定しながら、一定の温度に保つように調節することで制御する。酸性水溶液の供給量は、合金板Aの冷却速度に応じて設定されるが、洗浄効果を確保するためには1000L/h以上とすることが好ましい。
冷却帯5における合金板Aの冷却速度は、5℃/s以上とすることが好ましく、30℃/s以上とすることがより好ましい。また、合金板Aの冷却後の温度は、200℃以下とすることが好ましく、100℃以下とすることがより好ましい。冷却帯5における合金板Aの冷却速度および冷却温度をこのような範囲内とすることにより、合金板Aの機械的特性を十分に向上させることができる。なお、冷却帯5における冷却速度と冷却温度は、合金板Aと接触させる冷却媒体の供給量や冷却媒体の温度を増減することにより、制御することができる。
なお、冷却帯5の具体的構成は、一般的な連続処理装置と同様のものを用いる。ただし、酸性水溶液を導入または排出するための配管や、酸性水溶液を噴霧するためのノズル等の設備は、耐酸性のものを用いる必要があることは言うまでもなく、例えばステンレスの中でも特に耐酸性に優れたものを用いることができる。また、酸性水溶液を高温の合金板Aに接触させることにより発生する蒸気およびガスは、従来公知のフィルタ装置等を用いて除去する。
水洗帯6は、冷却・洗浄後の合金板A表面に残留した酸性水溶液を洗浄除去するためのものである。水洗帯6において洗浄に用いられる媒体は水であり、洗浄方法としては、例えば合金板Aの両面に水を噴霧して洗浄する方法が挙げられる。また、水洗帯6では、洗浄後に合金板A表面に残留した水分を、熱風等によって乾燥除去する。
リコイラ(巻取装置)7は、搬送された合金板Aをコイル状に巻き取るための装置である。リコイラ7は、連続処理装置10において最も下流に配設される。リコイラ7は、コイル状の合金板Aを支持するための図示しない心棒と、合金板Aを巻き取るための図示しない巻取手段を備え、合金板Aを巻き取る。
なお、実施形態に係る連続処理装置10は、ローラーレベラ、テンションレベラ等の矯正装置を別途設け、合金板Aの平面性および品質をさらに向上させる構成としてもよい。また合金板Aの組成によっては、冷却帯5の下流側に、冷却・洗浄後の合金板Aを50〜150℃に加熱する加熱装置を配設し、加熱した合金板Aをリコイラ7で巻き取る構成としてもよい。合金板Aが熱処理型の合金である6000系アルミニウム合金である場合は、合金板Aを高温の状態で巻き取ることによってその機械的性質をより向上させることができる。
このように、実施形態に係る連続処理装置10によれば、既存の連続焼鈍ラインで使用されている設備をそのまま用いて、加熱処理後の合金板Aの冷却と表面洗浄を並行して同時に行なうことができる。従って、新たな設備投資や連続処理装置の大型化を伴うことなく、かつ、従来よりも少ない工程で、合金板Aの成形性やベークハード性、脱脂性等の特性を向上させることができる。
また、実施形態に係る連続処理装置10によれば、加熱処理直後の高温の合金板Aに冷却媒体として酸性水溶液を接触させるため、従来よりも高い温度で表面洗浄を行うことができる。従って、合金板A表面の酸化皮膜に対する酸性水溶液の反応がより促進され、従来よりも合金板Aの表面洗浄に用いる酸性水溶液の酸濃度を低下させることができる。すなわち、従来と比較して薬剤のコストおよび環境に対する影響を低減させることができる。
(連続処理方法)
次に、図1を参照しながら、実施形態に係る連続処理装置10を用いた合金板Aの連続処理方法について説明する。
連続処理装置10を用いた合金板Aの連続処理方法は、主に予備洗浄工程と、加熱工程と、冷却工程とに分けることができる。
予備洗浄工程は、所望の製品板厚まで冷間圧延された合金板Aを予備洗浄装置2内に搬送し、その両面を予備洗浄する工程である。この予備洗浄工程を経ることによって、合金板Aの表面に付着した冷間圧延油、塵、埃等が除去され、その後の加熱・冷却工程に適した状態となる。
加熱工程は、予備洗浄された合金板Aを加熱帯4内に搬送して加熱する工程である。この加熱工程を経ることによって、合金板Aに溶体化処理あるいは焼き鈍し処理を施すことができる。
冷却工程は、加熱されたアルミニウム合金板Aを冷却帯5内に搬送して冷却する工程である。この冷却工程を経ることによって、前記加熱工程が溶体化処理である場合には、合金板Aに焼き入れ処理が施される。
なお、この冷却工程では、冷却媒体として酸性水溶液を使用し、合金板Aの冷却と同時にその表面洗浄も行う。このように、冷却工程で合金板Aの表面洗浄も同時に行なうことにより、新たな設備投資や連続処理装置の大型化を伴うことなく、かつ、従来よりも少ない工程で、合金板Aの成形性やベークハード性、脱脂性等の特性を向上させることができる。
また、加熱処理直後の高温の合金板Aに冷却媒体として酸性水溶液を接触させるため、従来よりも高い温度で表面洗浄を行うことができる。従って、合金板A表面の酸化皮膜に対する酸性水溶液の反応がより促進され、従来よりも合金板Aの表面洗浄に用いる酸性水溶液の酸濃度を低下させることができる。すなわち、従来と比較して薬剤のコストおよび環境に対する影響を低減させることができる。
(連続処理装置の動作)
次に、図1を参照しながら、本実施形態に係る連続処理装置10の動作について具体例を挙げて説明する。
まず、アンコイラ1がコイル状の合金板Aを連続処理装置10の下流側に繰り出すと、予備洗浄装置2は、搬送されてきた合金板Aの両面を洗浄して、合金板A表面の冷間圧延油、塵、埃等を除去する。そして、上流側アキュームレータ3aが、洗浄された合金板Aの送り量と張力を調整しながら、下流側の加熱帯4に搬送する。
加熱帯4は、搬送されてきた合金板Aの両面を熱風によって500〜550℃に急速加熱する。そして、冷却帯5は、急速加熱された合金板Aの両面に酸性水溶液を噴霧等して、5℃/s以上の冷却速度で200℃まで急速冷却する。また同時に、合金板A表面の酸化皮膜を酸性水溶液と反応させて除去する。
次に、水洗帯6が、急速冷却された合金板Aの両面に水を噴霧等して、合金板A表面に残留した酸成分を除去するとともに、熱風によって、合金板A表面の水分を乾燥除去する。そして、下流側アキュームレータ3bが、洗浄された合金板Aの送り量と張力を調整しながら、リコイラ7へと搬送し、リコイラ7が搬送されてきた合金板Aをコイル状に巻き取る。
次に、表1を参照しながら、本発明の効果を確認した実施例について説明する。本実施例は、連続処理装置を実際に稼働させ、冷却帯で使用する冷却媒体の種類および濃度を変更した場合におけるアルミニウム合金板の洗浄度を評価したものである。なお、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
Figure 2011058077
以下、表1における処理条件の欄について説明する。
(合金、処理板温度)
本実施例では、板厚1mmの6022アルミニウム合金板(以下、6022合金板という)および5182アルミニウム合金板(以下、5182合金板という)の2種類を用いた。この6022合金板および5182合金板を加熱帯に搬送し、それぞれ板温度が540℃および450℃となるように急速加熱した後、30秒間保持した。そして、保持後の6022合金板および5182合金板を冷却帯に搬送し、それぞれ100℃となるように30℃/sで急速冷却し、純水による洗浄後に乾燥してサンプルを作製した。
(冷却媒体の種類および濃度)
冷却媒体としては、硫酸水溶液、リン酸水溶液、硫酸水溶液とリン酸水溶液の混合酸性水溶液、硝酸水溶液、水の5種類を用いた。また、酸性水溶液と混合酸性水溶液における酸成分の水に対する濃度は、0.005〜10質量%の範囲内とした。なお、表1における「硫酸」は硫酸水溶液のことを、「リン酸」はリン酸水溶液のことを、「硝酸」は硝酸水溶液のことを示している。
以下、表1における測定結果の欄について説明する。
(酸化皮膜厚さ)
サンプルの酸化皮膜厚さは、グロー放電発光分光分析(以下、GD−OESという)の表面分析によって測定した。また、GD−OESの深さ方向組成分析の結果により、酸素濃度の最大値が1/2まで低下した厚みを、酸化皮膜厚さとして定義した。ここで、酸化皮膜厚さは、その値が小さい程(酸化皮膜が薄い程)、冷却帯における洗浄度が高いことを示している。
(Mg/Al比)
Mg/Al比も、GD−OESの表面分析によって測定した。Mg/Al比は、各合金板の最表層部のMg濃度とAl濃度を測定し、その比を算出して求めた。なお、アルミニウム合金板表面の酸化皮膜は、板表面のMgが酸化することによっても形成され、表面のMg濃度が高い場合には脱脂性が劣ることが知られている。本実施例では洗浄度の指標としてMg/Al比についても算出した。ここで、Mg/Al比は、その値が小さい程(Mg濃度の割合が低い程)、冷却帯における洗浄度が高いことを示している。
(脱脂後水濡れ面積)
脱脂後水濡れ面積の測定は、アルミニウム板表面の酸化皮膜の厚さが厚く、かつ、Mg/Al比が高い程、すなわち冷却帯における洗浄度が低い程、防錆油が脱脂しにくい(防錆油が残留する)という性質に着目し、洗浄度を示す指標として実際の水濡れ面積を測定したものである。また、アルミニウム合金板に防錆油が残留すると、化成処理時に化成処理膜が付着しにくくなり、化成処理ムラが発生し、塗装外観および耐食性が低下する。したがって、脱脂後水濡れ面積が大きい程、塗装外観および耐食性に優れているということがいえる。
脱脂後水濡れ面積の測定は、以下の手順で行なった。
まず、それぞれのサンプルの表面に市販の防錆潤滑油「油研工業社製 RP−75N」を塗油して油切りを行った後,気温40℃×湿度90%の環境に7日間放置した。次に、これらのサンプルを、60℃に保持した市販のアルカリ系脱脂剤「日本パーカライジング社製 FC−L4460」の劣化液(pH11、防錆油3000ppm添加)に40℃で2分間浸漬させた後、水で30秒間水洗した。そして、水洗後30秒間垂直放置した後の水濡れ面積を目視によって確認し、測定した。本実施例では、脱脂後水濡れ面積が10%以上のものを合格とした。
ここで、表1におけるサンプルNo.1〜26は、連続処理装置の冷却帯において、酸性水溶液を冷却媒体として用いて冷却と酸洗を並行して行なった本発明に係る実施例である。
また、サンプルNo.27〜30は、連続処理装置の冷却帯において、水を冷却媒体として用いて冷却のみを行ない、その後別途に、硫酸水溶液で酸洗を行なった従来技術に係る比較例である。なお、ここで用いられる硫酸水溶液の濃度は、実施例に係るサンプル7,8と同じ1.5質量%である。従って、本サンプルの測定結果を参照することによって、酸洗と冷却を同時に行なった場合と、酸洗と冷却を別に行った場合と、におけるアルミニウム合金板の表面状態を比較することができる。
また、サンプルNo.31,32は、連続処理装置の冷却帯において、水を冷却媒体として用いて冷却のみを行ない、その後別途に、酸性水溶液で酸洗を行なった従来技術に係る参考例である。なお、ここで用いられる硫酸水溶液の濃度は、従来の酸洗で用いられてきた硫酸水溶液の濃度である10質量%である。従って、本サンプルの測定結果を参照することによって、酸洗と冷却を並行して同時に行なうことで硫酸水溶液の濃度をどの程度低下させることができるか、を確認することができる。
表1に示すように、実施例に係るサンプルNo.1〜26は、冷却と並行して酸洗を行なっているため、脱脂後水濡れ面積が全て10%以上であった。特に、サンプルNo.1,2,7,8,13,14,19,20は、参考例に係るサンプルNo.31,32よりもはるかに低い濃度の硫酸水溶液を用いているにも関らず、酸化皮膜厚さおよびMg/Al比は、サンプルNo.31,32と同等かあるいはそれ以下である。従って、冷却と並行して酸洗を行なうことにより、酸洗を別工程で行なうよりも低い濃度の酸性水溶液であっても同等以上の洗浄度を達成できることが確認できた。
一方、比較例に係るサンプルNo.27〜30は、水のみで冷却を行ない、酸洗を行なっていないため、脱脂後水濡れ面積が全て10%以下であった。また、参考例に係るサンプルNo.31,32は、脱脂後水濡れ面積は全て10%以上であるものの、酸性水溶液の濃度が高く、薬剤のコストが高かった。また、比較例および参考例では、酸洗設備を別途に設けるため、設置スペースの確保および多額の設置費用が必要であるという問題点も生じた。
1 アンコイラ(繰出装置)
2 予備洗浄装置
3 アキュームレータ
3a 上流側アキュームレータ
3b 下流側アキュームレータ
4 加熱帯
5 冷却帯
6 水洗帯
7 リコイラ(巻取装置)
10 連続処理装置(連続焼鈍装置)
A アルミニウム合金板(合金板)

Claims (4)

  1. 所望の板厚まで圧延したアルミニウム合金板を連続的に加熱および冷却処理する連続処理装置であって、
    前記アルミニウム合金板を加熱する加熱帯と、
    前記加熱帯で加熱した前記アルミニウム合金板を冷却する冷却帯と、を備え、
    前記冷却帯は、冷却媒体として酸性水溶液を使用し、前記酸性水溶液によって前記アルミニウム合金板の冷却および表面洗浄を同時に行なうことを特徴とするアルミニウム合金板の連続処理装置。
  2. 前記酸性水溶液は、硫酸水溶液、リン酸水溶液、またはこれらを混合したもの、のいずれかであり、かつ、その酸濃度が0.005〜3.000質量%の範囲内であることを特徴とするアルミニウム合金板の連続処理装置。
  3. 所望の板厚まで圧延したアルミニウム合金板を連続的に加熱および冷却処理する連続処理方法であって、
    前記アルミニウム合金板を加熱帯内に搬送し、前記アルミニウム合金板を加熱する加熱工程と、
    加熱後の前記アルミニウム合金板を冷却帯内に搬送し、前記アルミニウム合金板を冷却する冷却工程と、を有し、
    前記冷却工程は、冷却媒体として酸性水溶液を使用し、前記酸性水溶液によって前記アルミニウム合金板の冷却および表面洗浄を同時に行なうことを特徴とするアルミニウム合金板の連続処理方法。
  4. 前記酸性水溶液は、硫酸水溶液、リン酸水溶液、またはこれらを混合したもの、のいずれかであり、かつ、その酸濃度が0.005〜3.000質量%の範囲内であることを特徴とするアルミニウム合金板の連続処理方法。
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