JP2011057943A - 親水性樹脂フィルム、インクジェット記録材およびディスプレー材 - Google Patents

親水性樹脂フィルム、インクジェット記録材およびディスプレー材 Download PDF

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Abstract

【課題】インク受容性と耐水性のトレードオフを解決する共に、印刷パターンによって接着性の影響を受けない、インクジェット用記録材料を提供する。
【解決手段】親水性樹脂と、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーとを含む親水性樹脂組成物からなるフィルムであって、該フィルムの硬化後の伸び率が100%以上である、親水性樹脂フィルム。
【選択図】図1

Description

本発明は、親水性樹脂フィルムおよびインクジェット記録材に関し、より具体的には、インク受容層として好適に使用できる親水性樹脂フィルム、および該親水性樹脂フィルムからなるインク受容層を備えたインクジェット記録材に関する。
親水性樹脂には、水になじみやすいものから始まり、水を吸収するものや水に溶解するものと様々なものがある。親水性樹脂としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸・ヒアルロン酸・ポリグルタミン酸等の塩、キトサン、ポリリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリジオキソラン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。一般的にこれらの親水性樹脂は、その組成や配合により、また、熱処理等の後処理によって、吸収性、水溶性等の親水性が決まる。そして、親水性を決定した後は、その親水性を変化させることは難しい。
インクジェット記録方式は、近年解像度が向上してきたことや設備コストが低減されたことにより、オンデマンド印刷分野において急激に成長してきた。シルク印刷やグラビア印刷等のように他の方式で印刷を行う場合は、製版が必要であり、印刷設備が大規模なものとなるため、小ロット印刷には不向きであった。また、昇華転写方式や感熱方式等の印刷方式も普及してきたが、被印刷物への加熱接触が必要であり素材へのダメージが免れないという欠点があった。また、印刷インク/トナーの組成により被印刷物の材料組成が限定されることも多かった。また、その方式ゆえに印刷幅が限定され、広幅印刷は困難であった。インクジェット方式は、これらの問題を解決するものであり、業者向けの広幅機から一般家庭向けの小型機まで、広く普及している。また、インクジェット方式は、視認性が高くまた印刷時に転写フィルムなどの廃棄物がでないことから、利便性に優れている。
インクジェット記録方式において、印刷が施されるインクジェット記録材には、インク受容層が必要である。インク受容層にはいわゆる空隙型と膨潤型の二種類がある。空隙型のインク受容層としては、多孔質無機微粒子をバインダーで固めたものが用いられている。この空隙型のインク受容層では、多孔質無機微粒子がインクを吸収する。このため、バインダーに耐水性を持たせればインク受容層の耐水性を向上させることができる。ただし多孔質無機微粒子の空隙分のみがインクを吸収する構造であることから、それ以上インクが噴射されるとオーバーフローするため、インクの吸収性の点で問題があり、それを補うためにインク受容層の厚みを厚くすることが試みられてきた。
また、膨潤型のインク受容層は、上記で説明したような親水性樹脂により形成されており、この親水性樹脂そのものがインクを吸収する構造である。このことからインクの吸収性はその親水性樹脂の吸水倍率により決定される。膨潤型のインク受容層は、親水性樹脂自体が膨潤して吸収することから、一般的に耐水性に劣る。また、逆に、膨潤を抑制することにより耐水性を持たせることができるが、この場合インク受容性が低下する。このように、インク受容性と耐水性とはトレードオフの関係にあるため、一般的なインクジェット記録材のインク受容層としては、空隙型のインク受容層が用いられてきた。
近年、インクジェット印刷したものを更に後加工し、ディスプレー材等に使用されることが増えてきている。例えば、インクジェット印刷したシートの印刷面に透明なシートを粘着材を介して積層することにより、表面保護を施したもの等である。このようなディスプレー材を作製する際、空隙型のインク受容層を備えたインクジェット記録材を用いた場合は、インク受容層自体に流動性が無いことから一般的に粘着材を介して透明シート等が積層される。
このとき、染料タイプのインクであればインク受容層内部の多孔質無機微粒子にインクが吸収されるために、インク受容層表面と透明シート等とを粘着することができる。しかし、近年増加してきた顔料タイプのインクにおいては、インク受容層に吸収されるのはほとんどが溶媒成分のみであり、顔料成分がインク受容層表面に残留しているため、この顔料成分と透明シート等とが粘着することになってしまい、該顔料成分がインク受容層から剥離してしまうという問題が発生し易かった。
一方、膨潤型のインク受容層を備えたインクジェット記録材においては、インク受容層自体を接着剤化することができ、これにより被接着物に接着させディスプレー材とすることができる。このため、ディスプレー材を形成するためには、膨潤型のインク受容層を使用することが好ましいのであるが、上記したように、インク受容性と耐水性とがトレードオフの関係にあることが問題であった。
特許文献1には、少なくとも基材層と、親水性樹脂を含むインク受容層とを有するインクジェット記録材料であって、インク受容層における親水性樹脂が、架橋構造を形成しているインクジェット記録材料が記載されており、これにより、インク吸収性と耐熱性に優れたインク受容層を有するインクジェット記録材料を提供すると記載されている。
特許文献2には、インク受容層に印刷した後、その表面に透明プラスチック層を転写するにあたり、インク受容層に架橋剤を添加しておき、転写時の熱により架橋させることによって密着強度を向上させることが提案されている。特許文献3には、親水性樹脂と硬化性樹脂を組み合わせることにより、インクジェット印刷性と耐水性とを両立させた記録材料が提案されている。
特開2006−56099号公報 特開2001−315427号公報 特開2008−222974号公報
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2に記載のインクジェット記録材料においては、耐水性について考慮されてなく、インク受容性と耐水性のトレードオフは解決されていない。また、インクジェット印刷パターンが高画質化することによって、印刷時のインク量が多くなっており、このような状況下、特許文献3のインクジェット記録材においては、印刷後の貼り合わせ面の接着性が低下する問題があった。
そこで、本発明では、インク受容性と耐水性のトレードオフを解決する共に、印刷パターンによって接着性の影響を受けない、インクジェット用記録材料を提供することを課題とする。
第1の本発明は、親水性樹脂と、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーとを含む親水性樹脂組成物からなるフィルムであって、該フィルムの硬化後の伸び率が100%以上である、親水性樹脂フィルムである。
第1の本発明において、親水性樹脂は、下記一般式(1)で表される樹脂であることが好ましい。
Figure 2011057943
[一般式(1)において、Xは活性水素基を2個以上有する有機化合物の残基であり、Rはジカルボン酸類化合物残基またはジイソシアネート系化合物残基であり、Aは下記一般式(2)によって表される。
Figure 2011057943
一般式(2)において、Zは炭素数1以上の炭化水素基であり、a、bおよびcはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44(a+c)/(炭素数3以上のα−オレフィンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。]
第2の本発明は、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、およびこれらの樹脂の変性物からなる群から選ばれる一種以上の樹脂から構成される支持体、および、該支持体の上に積層された第1の本発明の親水性樹脂フィルムから構成されるインク受容層、を備えてなるインクジェット記録材である。
第3の本発明は、親水性樹脂フィルム上にインクジェット印刷を施した第2の本発明のインクジェット記録材と、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、アクリルブタジエンスチレン共重合体、および、ポリ乳酸からなる群から選ばれる1種以上の樹脂からなる基材とを備え、該インクジェット記録材の印刷面に、該基材が貼り合わされており、前記支持体と該基材との剥離強度が0.5N/mm以上である、ディスプレー材である。
本発明の親水性樹脂フィルムを用いて製造したインクジェット記録材およびディスプレー材は、インク受容性と耐水性とのトレードオフを解決すると共に、印刷パターンによって影響を受けない良好な接着性を備えている。
(a)は本発明のインクジェット記録材の層構成を示す模式図であり、(b)および(c)は、該インクジェット記録材に印刷を施している形態を示す模式図であり、(d)は、本発明のディスプレー材の層構成を示す模式図である。
<親水性樹脂フィルム>
本発明の親水性樹脂フィルムは、親水性樹脂と、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーとを含む親水性樹脂組成物からなるフィルムである。本発明の親水性樹脂フィルムは、吸水性を備えると共に、吸水後には耐水性をも備えている必要があるような用途、例えば、インクジェット記録材およびディスプレー材におけるインク受容層を形成するための材料、表面保護材等として用いることができ、硬化により耐水性・耐久性・耐傷性等も向上することから屋外での使用も可能になる。
(親水性樹脂)
親水性樹脂としては、例えば、ポリアルキレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸・ヒアルロン酸・ポリグルタミン酸等の塩、キトサン、ポリリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリジオキソラン、ポリエチレンイミン、またはこれらの変性体が挙げられる。
親水性樹脂は、高い吸水性を有すると共に、他の基材へホットメルト接着可能であるように熱融着性を有するものであることが好ましい。さらに、熱可塑性および優れた加工性を有するものであることが好ましい。このような観点から、親水性樹脂としては、特に、下記一般式(1)で表される樹脂(ポリアルキレンオキシド)を用いることが好ましい。
Figure 2011057943
一般式(1)において、「X」は活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールA、アニリンプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。「R」はジカルボン酸類化合物残基もしくはジイソシアネート系化合物残基であり、ジカルボン酸類化合物残基としては、環状ジカルボン酸化合物または直鎖状ジカルボン酸化合物が望ましく、例えば、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸の低級アルキルエステルが挙げられる。
上記ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、イタコン酸が挙げられる。上記ジカルボン酸無水物としては、上記各種ジカルボン酸の無水物が挙げられる。
また、上記ジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、上記各種のジカルボン酸のメチルエステル、ジメチルエステル、エチルエステル、ジエチルエステル、プロピルエステル、ジプロピルエステル等が挙げられる。特に好ましくは、炭素数12〜36の直鎖状ジカルボン酸およびその低級アルキルエステルが挙げられ、1,10−デカメチレンジカルボン酸、1,14−テトラデカメチレンジカルボン酸、1,18−オクタデカメチレンジカルボン酸、1,32−ドトリアコンタンメチレンジカルボン酸等が挙げられる。
ジイソシアネート系化合物残基の例としては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
上記の中でも、「R」としては、反応の容易性という観点から、上記ジカルボン酸無水物およびジカルボン酸の低級アルキルエステルを用いることが好ましい。これらは単独で、または2種以上併用して用いることができる。
また、「A」は下記一般式(2)によって表される。
Figure 2011057943
一般式(2)において、Zは炭素数1以上の炭化水素基であり、例えば好ましいものとしてはエチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられる。a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数3以上のα−オレフィンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。
ここで、炭素数3以上のα−オレフィンオキシドの分子量とは、式(2)中における
Figure 2011057943
の分子量を意味している。
この質量比が、小さすぎる場合は、低温度域での熱ラミネート性が低下し、大きすぎる場合は、耐水性が悪化する。また、c/(a+c)は、0.5以上1.0未満に設定される。
上記の一般式(1)で表される樹脂の具体例としては、エチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合した後、ブチレンオキシドを付加重合し、さらにエチレンオキシドを付加重合して得たポリアルキレンオキシドに、オクタデカン−1,18−ジカルボン酸メチルを加えエステル交換反応を行って得た樹脂(重量平均分子量:15万、融点:50℃、分解温度:230℃)を挙げることができる。また、一般式(1)で表される樹脂には、トコフェロール等の酸化防止剤を添加することができ、これにより、熱分解等の問題を回避できる。
また、親水性樹脂は、溶融押出法により作製すると高品質な厚膜を生産性よく作製することができることから、そのような成型ができるように、インク受容層に使用する親水性樹脂は、熱可塑性を有し、融点と分解温度との差が100℃以上あるものであることが好ましく、この点からも上記ポリアルキレンオキシドが好ましい。
(硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマー)
硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマー(以下、「硬化性アクリレート系モノマー等」と省略する場合がある。)は、これを単体で硬化させた場合に、硬化後の伸び率が100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましい。硬化後の伸び率が100%より小さいと、インクジェット印刷後に、印刷面を基材と貼り合わせた時に、十分な接着力が得られない虞がある。これは、印刷したインクが接着面外層を覆ってしまっている状況において、伸び率の小さい樹脂組成物ではインク層を通して接着性を発揮できないためと考えられる。伸び率の計算方法、および、親水性樹脂フィルムの伸び率との関係については後述する。
硬化性アクリレート系モノマー、硬化性アクリレート系オリゴマーは、ベースである親水性樹脂と反応したり、これを変質させたりするものでなければ、特に限定されるものではない。印刷性を損なわないためには、透明性の高いものが好ましく、得られる重合体が、親水性樹脂との屈折率差が小さいものであることが好ましい。
具体的には、分子内に1以上のアクリレート基を含むモノマーまたはオリゴマーである。好ましくは、さらに1以上のアクリレート基、エポキシ基、ウレタン基、ポリエステル基を含むモノマー、または、オリゴマーであり、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等のモノマーやオリゴマーが用いられる。
一般にアクリレート基の官能基数が増加すると、硬化後の架橋密度が上がり硬化後の膜は硬くなる傾向にある。それに伴い、硬化後の伸び率は低下する傾向にある。例えば、硬化性アクリレート系モノマーまたはオリゴマーの分子量にもよるが、アクリレート基が5官能、6官能の材料を含む場合は硬化膜の伸び率は低下するため、伸び率を向上させるためには一般的にはアクリレート基が3官能以下の材料を選択することが好ましい。
これらの硬化性アクリレート系モノマーをいくつかを例示すると、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチレンングリコールジメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートが挙げられる。
また、硬化性アクリレート系オリゴマーを例示すると、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートなどが挙げられる。
後に説明するように、親水性樹脂フィルムはディスプレー材とした後に、硬化するのであるが、硬化方法としては、熱、紫外線(UV)、電子線(EB)による方法が挙げられるが、中でも、簡便なUVにより硬化する方法が好ましい。
(多孔質無機微粒子)
本発明における親水性樹脂組成物は、さらに多孔質無機微粒子を含有していてもよい。親水性樹脂組成物を親水性樹脂フィルムとして、非透水性のシート基材間で挟んだ構成の積層体とした場合において、積層体の端部においては、親水性樹脂フィルムがむき出しになっているので、浸水試験等の際に該むき出しの部分から水の浸透等がどうしても生じる。架橋により膨張率が抑制されているとはいえ、未架橋部分等が存在しているので膨張はゼロではない。よって、長時間水中に浸漬した場合に、剥離等の不具合が発生する虞がある。親水性樹脂組成物に多孔質無機微粒子を添加した場合は、水が浸透してきた際に多孔質無機微粒子が水を吸収し、水が内部へ浸透するのを抑制する効果がある。よって、多孔質無機微粒子を添加した場合は、耐水性をさらに向上させる効果がある。
多孔質無機微粒子の添加量は、親水性樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは7質量%以上11質量%以下である。多孔質無機微粒子の量が少なすぎると、耐水性を向上させる効果が付与できなくなる場合があり、逆に多すぎると、透明性(画像視認性)の低下や再凝集による外観不良、流動性の低下等の問題がある。
(硬化開始剤)
本発明における親水性樹脂組成物は、さらに硬化開始剤を含有していることが好ましい。硬化開始剤としては、アクリレート系モノマーおよび/またはアクリレート系オリゴマー、場合によっては親水性樹脂をも含めて、架橋反応を開始できるものであれば、特に限定されない。例えば、紫外線硬化開始剤を用いることができる。
紫外線硬化開始剤としては、紫外線の照射により架橋反応を開始することができる化合物であれば特に限定されず、例えば、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物が挙げられる。紫外線硬化開始剤は、製作工程において使用する紫外線の波長に応じて適宜選択される。
また、紫外線硬化開始剤の中でも、水素引き抜き型の紫外線硬化開始剤を使用するのが好ましい。硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーについては、耐久性について問題は少ないが、親水性樹脂は一般的に耐久性が劣っている。よって、親水性樹脂組成物全体としての耐久性を向上させたい場合は親水性樹脂においても何らかの処理が必要である。一般的な紫外線硬化開始剤は、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーにおいて架橋反応を進行させるが、親水性樹脂には影響しない。一方、水素引き抜き型の紫外線硬化開始剤の場合、親水性樹脂自体においても架橋構造を促進させることができ、ひいては硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーと親水性樹脂との間で架橋構造をとることができる。このように、一般的な紫外線硬化開始剤を用いた場合でも、架橋硬化後の親水性樹脂組成物が耐久性を備えることは十分に可能であるが、より高い耐久性を備えることが必要な場合においては、水素引き抜き型の紫外線硬化開始剤を使用することが好適である。
硬化開始剤の添加量は、親水性樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
(親水性樹脂組成物の組成)
親水性樹脂フィルムを構成する親水性樹脂組成物の組成は、該親水性樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、親水性樹脂が30質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。親水性樹脂の含有量が少なすぎると吸水性が低下し、インクジェットによる印刷ができない虞がある。また、親水性樹脂の含有量が多すぎると耐水性が低下する。
親水性樹脂組成物中の硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーの含有量は、該親水性樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、5質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーの含有量が少なすぎると、耐水性や基材への接着性が低下する虞があり、含有量が多すぎると、吸水性が低下しインクジェットによる印刷ができない虞がある。
(親水性樹脂フィルムの製法、インクジェット記録材およびディスプレー材としての用途)
上記した親水性樹脂組成物を、熱溶融させて押出機により製膜することにより、本発明の親水性樹脂フィルムが得られる。図1(a)に模式図を示すように、得られた親水性樹脂フィルム10を、後に説明する支持体20に熱圧着等の方法により貼り付けてインクジェット記録材100としてもよいし、押出製膜と同時に支持体20とラミネートすることにより、インクジェット記録材100を作製することもできる。また、親水性樹脂組成物を有機溶剤や水に溶解させて、支持体20上にコートして乾燥することで親水性樹脂フィルム10を支持体20上に作製することもできる。
図1(b)および(c)に模式図を示すように、上記で作製されたインクジェット記録材100は、親水性樹脂フィルム10表面にインクジェット印刷が施され、その後、該印刷表面30を基材40に貼り合わせてディスプレー材200が製造される。本発明の親水性樹脂フィルム10は、インクジェット印刷に対応できる高い吸水性を備えると共に、加熱圧着によるヒートシール性を有するものである。また、ヒートシール後に追加の熱処理や紫外線照射、電子線照射を親水性樹脂フィルム10に行うことによって、耐水性や接着性を向上させることができる。
(親水性樹脂フィルムの伸び率)
親水性樹脂フィルムは、印刷後における基材との接着性を確保するため柔軟性をもつことが必要となる。本発明者らは、親水性樹脂フィルムを紫外線等により硬化させた後において、該硬化後のフィルムの伸び率が100%以上であると、印刷後における基材との接着性が確保できることを見出した。
硬化後の親水性樹脂フィルムの伸び率が100%未満であると、印刷後の接着性が確保できず剥がれてしまう虞がある。また、伸び率が大きくなりすぎると、親水性樹脂フィルムの強度が低下し、製膜しにくくなることがあるため、伸び率は500%以下が好ましい。
本発明の伸び率(親水性樹脂フィルムの伸び率、および、硬化性アクリレート系モノマー等の単体硬化体の伸び率)は、引張り試験による破断時の伸びを示している。伸び率は、「(破断時の長さ−初期長さ)÷初期長さ×100」(%)で計算される。先に説明した硬化性アクリレート系モノマー等の単体硬化体の伸び率と、親水性樹脂フィルムの伸び率とは、それぞれ100%以上であればよく、両者が一致している必要はない。親水性樹脂と硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーとの組み合わせによっては、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマー単体の伸び率と親水性樹脂フィルムの伸び率とが異なることがある。これは、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーの分子量の違い、親水性樹脂との相溶性の違いによって異なってくると考えられる。
<インクジェット記録材>
図1(a)に層構成を示すように、本発明のインクジェット記録材100は、上記した親水性樹脂フィルム10を支持体20上に積層して製造される。支持体20上への積層方法は特に限定されず、作製した親水性樹脂フィルム10を熱圧着させてもよいし、該フィルムを製膜すると同時に支持体20上にラミネートさせて積層してもよい。また、親水性樹脂組成物を溶媒に溶解させて、これを支持体20上の塗布乾燥させることにより、積層させてもよい。製造したインクジェット記録材100において、親水性樹脂フィルム10はインク受容層として働く。図1(b)および(c)に示すように、インク受容層である親水性樹脂フィルム10側に印刷が施される。
(支持体20)
本発明の親水性樹脂フィルム10だけでは強度が不足し、印刷や貼り合せ工程にて取り扱いにくいことがある。そのため、親水性樹脂フィルム10を保護するための支持体20を積層させて、インクジェット記録材100としてから、印刷を施すことが好ましい。また、本発明の好ましい形態は、親水性樹脂フィルム10を支持体20と積層させてインクジェット記録材100とし、該記録材100の親水性樹脂フィルム10の表面にインクジェット印刷を施し、該印刷面を後に説明する基材に貼り付ける形態である。この形態では、インクジェット記録材100の印刷時において、支持体20が親水性樹脂フィルムをサポートすることができる。
支持体20は、透明で耐水性があり親水性樹脂フィルム10と接着する材料であれば、特に限定されない。親水性樹脂フィルム10との接着性・密着性、耐水性、剛性を考慮すると、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびこれらの樹脂の変性物からなる群から選ばれる一種以上の樹脂から構成されるものであることが好ましい。
また、親水性樹脂フィルム10は支持体20と別の離型フィルムに挟まれていても良い。離型フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルム、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、フッ素系フィルムなどが用いられる。離型フィルム表面には、シリコーンなどの離型剤を塗布してもよい。この場合、インクジェット印刷時には離型フィルムを剥離し、その後、親水性樹脂フィルム10表面に印刷を施すのであるが、印刷直前まで離型フィルムがフィルム10表面を保護しているので、印刷面の汚れ、傷を防止できる。また、支持体20において、親水性樹脂フィルム10を積層する反対面側に離型剤が塗布されていても良い。これは、本発明のフィルムをロール状にした場合に親水性樹脂フィルムとの貼り付きを防止し離型フィルムを用いたことと同じ効果を発現するためである。
<ディスプレー材200>
(基材40)
図1(d)に層構成の模式図を示すように、上記したインクジェット記録材100における親水性樹脂フィルム10の印刷した表面に、基材40を貼り合わせることで、ディプレー材200が製造される。ディスプレー材200の基材40としては、透明または着色したポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、アクリルブタジエンスチレン共重合体、および、ポリ乳酸からなる群から選ばれる1種以上の樹脂からなるシート、プレート、発泡成型体などを用いることができる。
また、印刷した表面に基材40を貼り合わせることにより、支持体20が印刷記録を保護する役目を担うことができる。
また、ディスプレー材200において、支持体20と基材40との剥離強度は0.5N/mm以上であることが好ましく、1N/mm以上であることがより好ましい。なお、剥離強度は、180°剥離試験(JIS K6854)で求めた値である。
<実施例1>
(親水性樹脂フィルムの作製)
エチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合した後、ブチレンオキシドを付加重合し、さらにエチレンオキシドを付加重合して得たポリアルキレンオキシドにオクタデカン−1,18−ジカルボン酸メチルを加えエステル交換反応を行った。このようにしてえられた重量平均分子量15万の試料100質量部に対して、熱安定剤としてトコフェノール(BASF社製、UVINUL2000AO)を1質量部添加して樹脂Aを得た。親水性樹脂として、この樹脂Aを用い、硬化性アクリレート系モノマー等として、ニューフロンティアR−1303(3官能ウレタンアクリレート含有:第一工業製薬社製)を使用した。紫外線硬化開始剤として、イルガキュア819(チバスペシャリティーケミカルズ社製)、多孔質無機粒子としてミズカシルP78A(水澤化学社製)をもちいて、下記割合にて配合した。
親水性樹脂A:70部、
硬化性アクリレート系モノマー等:20部、
紫外線硬化開始剤:1部、
多孔質無機微粒子:9部。
上記材料を加熱溶融・混合したのち、30μmの厚みにシート化して、本発明の親水性樹脂フィルムを作製した。
(伸び率の測定)
作製した親水性樹脂フィルムに対し、高圧水銀灯(160W/cm)をもちいて150mJ/cmで紫外線を照射して、親水性樹脂フィルムを硬化させた。
該硬化させた親水性樹脂フィルムを、5mm幅の短冊状にサンプリングし、引張り試験機(インテスコ)にて、引張り速度300mm/分で引張り試験を行い伸び率を測定した。伸び率は、「(破断時の長さ−初期長さ)÷初期長さ」×100」(%)で計算した。
評価結果は表1に記載した。なお、硬化性アクリレル系モノマー等であるニューフロンティアR−1303(第一工業製薬社製)を単体で硬化させたフィルムの伸び率についても、上記と同様の測定方法で評価したところ、伸び率は274%であった(表2参照)。
(インクジェット記録材の作製)
上記で作製した親水性樹脂フィルム(硬化前)を、厚さ100μmの塩ビフィルム(ビニホイル、三菱樹脂社製)(支持体)に貼り合わせて、インクジェット記録材とした。
作製したインクジェット用記録材に、EPSON製プリンター、PX−G930で印刷して以下の評価を行った。
(1)印刷適性
親水性樹脂フィルム表面に、写真と文字からなる画像を印刷して印刷のムラ、にじみなどの画像品位を確認し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:鮮明な画像で印刷できている状態
×:印刷ムラやにじみが発生している状態
(2)接着力試験
インクジェット記録材の親水性樹脂フィルム表面に、黒ベタパターンを印刷し、該印刷面を、厚み560μmの白色塩ビシート(ビニホイル、三菱樹脂製)(基材)に重ね、熱ロールでラミネート(120℃×6mm/分)した。その後、高圧水銀灯(160W/cm)をもちいて150mJ/cmで紫外線を照射して、ディスプレー材とした。
製造したディスプレー材を、10mm幅に切断し基材と支持体との180°剥離強度の測定を実施し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:0.5N/mm以上のもの。
×:0.5N/mmより小さいもの
(3)耐水性試験
上記(1)印刷適性、において、印刷したインクジェット記録材の印刷面を、厚み560μmの白色塩ビシート(ビニホイル、三菱樹脂製)(基材)に重ね、熱ロールでラミネート(120℃×6mm/分)した。その後、高圧水銀灯(160W/cm)をもちいて150mJ/cmで紫外線を照射して、ディスプレー材とした。
作製したディスプレー材を、蒸留水に24時間浸漬して画像の変化、ディスプレー材の状態を確認し、以下の基準で評価した。
○:24時間後も画像に変化はなかった。
×:画像ににじみが発生して、画像品質が劣化した。
<実施例2>
硬化性アクリレート系モノマー等として、R−1213(2官能ウレタンアクリレート含有:第一工業製薬社製)を使用した以外は実施例1と同様にして、親水性樹脂フィルム、インクジェット記録材、および、ディスプレー材を作製した。評価結果を表1を示した。
なお、R−1213(第一工業製薬製)単体を硬化させたフィルムの伸び率についても、上記と同様の測定方法で評価したところ、伸び率は395%であった(表2参照)。
<比較例1>
硬化性アクリレート系モノマー等として、以下の組成を有する硬化樹脂Bを使用した以外は、実施例1と同様にして、親水性樹脂フィルム、インクジェット記録材、および、ディスプレー材を作製した。
(硬化樹脂B)
ポリウレタンアクリレート:66質量%
ペンタエリスリトールトリアクリレート(3官能):2質量%
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(4官能):20質量%
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(5官能):2質量%
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6官能):10質量%
評価結果は表1に示した。なお、上記硬化性アクリレート系モノマー等(硬化樹脂B)を単体で硬化させたフィルムの伸び率についても、上記と同様の測定方法で評価したところ、伸び率は20%であった(表2参照)。
<比較例2>
実施例1で用いた親水性樹脂Aのみでフィルムを作製して、インクジェット記録材、ディスプレー材を作製した。比較例2においては紫外線照射をしなかった以外は、実施例1と同様の評価を行った。
接着力試験の結果は0.8N/mmで○評価であるが、耐水性試験の結果が×評価であり、総合評価は×評価であった。
Figure 2011057943
Figure 2011057943
以上のように、本発明の親水性樹脂フィルムを用いたインクジェット記録材およびディスプレー材においては、印刷適性と耐水性とが共に良好であり、黒ベタ印刷であっても基材と支持体との接着性が良好であることが分かった。これに対し、比較例1のサンプルでは、印刷適性および耐水性は良好であるが、フィルムの硬化後の伸び率が本願範囲を外れて小さいため、黒ベタ印刷時の接着性が不良であった。また、比較例2のサンプルでは、フィルムが親水性樹脂のみから形成されている。このため、インク受容性は良好で、印刷適性および印刷時の接着性は良好であるが、耐水性が劣っていた。
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う親水性樹脂フィルム、インクジェット記録材、および、ディスプレー材もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
本発明の親水性樹脂フィルムは、インクジェット印刷適性に優れているため、該フィルムは、インクジェット記録材のインク受容層として好適に使用できる。また、優れた印刷適性、耐水性、および、接着性を有しているディスプレー材としても使用できる。
100 インクジェット記録材
200 ディスプレー材
10 親水性樹脂フィルム
20 支持体
30 印刷
40 基材

Claims (4)

  1. 親水性樹脂と、硬化性アクリレート系モノマーおよび/またはオリゴマーとを含む親水性樹脂組成物からなるフィルムであって、該フィルムの硬化後の伸び率が100%以上である、親水性樹脂フィルム。
  2. 親水性樹脂が下記一般式(1)で表される樹脂である、請求項1に記載の親水性樹脂フィルム。
    Figure 2011057943
    [一般式(1)において、Xは活性水素基を2個以上有する有機化合物の残基であり、Rはジカルボン酸類化合物残基またはジイソシアネート系化合物残基であり、Aは下記一般式(2)によって表される。
    Figure 2011057943
    一般式(2)において、Zは炭素数1以上の炭化水素基であり、a、bおよびcはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44(a+c)/(炭素数3以上のα−オレフィンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。]
  3. ポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、およびこれらの樹脂の変性物からなる群から選ばれる一種以上の樹脂から構成される支持体、および、該支持体の上に積層された請求項1または2に記載の親水性樹脂フィルムから構成されるインク受容層、を備えてなるインクジェット記録材。
  4. 親水性樹脂フィルム上にインクジェット印刷を施した請求項3に記載のインクジェット記録材と、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、アクリルブタジエンスチレン共重合体、および、ポリ乳酸からなる群から選ばれる1種以上の樹脂からなる基材を備え、該インクジェット記録材の印刷面に、該基材が貼り合わされており、前記支持体と該基材との剥離強度が0.5N/mm以上である、ディスプレー材。
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