つぎに、この発明を具体例を参照して説明する。図13には車両に搭載された無段変速機1を対象とした油圧制御装置HCUに、この発明を適用した例を模式的に示してある。図13において、無段変速機1は、従来知られているベルト式のものであり、駆動プーリ2と従動プーリ3とに対してベルト4を巻き掛けて、これらのプーリ2,3の間でトルクを伝達しするとともに、各プーリ2,3に対するベルト4の巻き掛け半径を変化させることにより、変速比を変化させるように構成されている。
具体的には、各プーリ2,3は、固定シーブとその固定シーブに対して接近・離隔するように配置された可動シーブとを備えていて、それらの固定シーブと可動シーブとの間にV溝状のベルト巻き掛け溝2a,3aが形成されるように構成されている。そして、各プーリ2,3には、それぞれの可動シーブをその軸線の方向に前後動させるための油圧アクチュエータ5,6が設けられている。それら油圧アクチュエータ5,6のうちのいずれか一方、この図13で示す例では、駆動プーリ2における油圧アクチュエータ5には、駆動プーリ2の溝幅を変化させてベルト4の巻き掛け半径を変化させることによって変速を行うための油圧が供給され、また油圧アクチュエータ5,6のうちの他方、この図13で示す例では、従動プーリ3における油圧アクチュエータ6には、従動プーリ3の溝幅を変化させてその従動プーリ3がベルト4を挟み付ける挟圧力を発生させるための油圧が供給されている。
したがって、上記の駆動プーリ2が、発明における変速比制御側プーリに相当し、従動プーリ3が、この発明における挟圧力制御側プーリに相当している。また、上記の駆動プーリ2、およびその駆動プーリ2の可動シーブを動作させる油圧アクチュエータ5が、無段変速機1の変速比を設定するための変速比制御に関与する部分であって、この発明における変速比制御部に相当している。そして、上記の従動プーリ3、およびその駆動プーリ2の可動シーブを動作させる油圧アクチュエータ6が、無段変速機1の挟圧力を設定するための挟圧力制御に関与する部分であって、この発明における挟圧力制御部に相当している。
上記の無段変速機1には、ロックアップクラッチ(図示せず)を備えたトルクコンバータ(トルコン)7が設けられている。このトルクコンバータ7は、従来知られているものと同様の構成であり、ポンプインペラとタービンランナとの回転数差が大きい(すなわち速度比が所定値より小さい)コンバータ領域ではトルクの増幅作用が生じ、またその回転数差が小さい(すなわち速度比が所定値より大きい)カップリング領域では、トルクの増幅作用のない流体継手として機能するように構成されている。そして、ロックアップクラッチは、その入力側部材であるポンプインペラに一体のフロントカバーとタービンランナに一体のハブとを、摩擦板を介して直接連結するように構成されている。
さらに、上記の無段変速機1やトルクコンバータ7などを含む動力伝達装置には、相互に摩擦接触する箇所や軸受などのいわゆる摺動部分あるいは発熱部分である潤滑部8が多数存在していて、それらの潤滑部8にオイルを供給するようになっている。
つぎに、上記の変速比制御部や挟圧力制御部、あるいはトルクコンバータ7のロックアップクラッチ等に対して油圧を給排するための構成について説明する。この図13では、車両に搭載されているエンジン9によって駆動される油圧ポンプ10を油圧源とする例を示している。ここで、エンジン9は、例えばガソリンエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関であり、この発明では、そのエンジン9と併せてモータ・ジェネレータなどの電動機を設けることもできる。
油圧ポンプ10から吐出した油圧を所定の圧力に調圧する調圧弁(レギュレータバルブ)11が設けられている。この調圧弁11は、例えばこの油圧制御装置HCUの元圧を調圧するためのものであり、その下流側に前述の潤滑部8などが連通されている。また、前述のトルクコンバータ7におけるロックアップクラッチの摩擦板をフロントカバーに接触・離隔させるためのロックアップ油圧を制御するための制御弁(L/Uコントロールバルブ)12が設けられている。この制御弁12はロックアップクラッチに対する油圧の供給方向やその圧力を制御するためのものである。
さらに、油圧ポンプ10の吐出口は、逆止弁13を介してアキュムレータ(蓄圧器)14に連通されている。逆止弁13は、油圧ポンプ10からアキュムレータ14に向けて圧油が流れる場合に開弁し、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。また、アキュムレータ14は、蓄圧室に弾性体で押圧されたピストンや弾性膨張体などを容器内に収容し、その弾性力以上の圧力で油圧を蓄えるように構成されている。
そして、このアキュムレータ14から前述の無段変速機1における変速比制御部および挟圧力制御部に圧油を供給するように構成されている。すなわち、前述した駆動プーリ2における油圧アクチュエータ5と、従動プーリ3における油圧アクチュエータ6とが、アキュムレータ14に連通されている。
なお、アキュムレータ14と並列に、前述の油圧ポンプ10とは別に、他の油圧ポンプ、例えば電動機14によって駆動される電動油圧ポンプ15を設けてもよい。この電動油圧ポンプ15は、前述の油圧ポンプ10に対して補助的に設けられるものであるので、油圧ポンプ10によって十分な圧力および流量の油圧が供給可能な場合は省略することもできる。
アキュムレータ14から駆動プーリ2における油圧アクチュエータ5に圧油を供給する供給油路17には、供給側制御弁18が設けられていて、この供給側制御弁18を電気的に制御して供給油路17を開閉することにより、油圧アクチュエータ5に対して圧油を供給し、また圧油の供給を遮断するように構成されている。
また、駆動プーリ2における油圧アクチュエータ5をオイルパンなどのドレーン箇所19に連通させる排出油路20には、排出側制御弁21が設けられていて、この排出側制御弁21を電気的に制御して排出油路20を開閉することにより、油圧アクチュエータ5から圧油を排出し、また圧油の排出を遮断するように構成されている。
同様に、アキュムレータ14から従動プーリ3における油圧アクチュエータ6に圧油を供給する供給油路22には、供給側制御弁23が設けられていて、この供給側制御弁23を電気的に制御して供給油路22を開閉することにより、油圧アクチュエータ6に対して圧油を供給し、また圧油の供給を遮断するように構成されている。
また、従動プーリ3における油圧アクチュエータ6をドレーン箇所19に連通させる排出油路24には、排出側制御弁25が設けられていて、この排出側制御弁25を電気的に制御して排出油路24を開閉することにより、油圧アクチュエータ6から圧油を排出し、また圧油の排出を遮断するように構成されている。
これらの各制御弁18,21,23,25は、その閉弁状態においても油圧の漏れが生じないように構成された電磁弁であり、この具体例では、弁体の切り換え構造としては、弁座に対して弁体(ポペット)が垂直方向に移動して流路の開閉を行うポペット弁が適用されている。図14に、そのポペット弁18,21,23,25の構成の一例が示してある。ポペット弁18,21,23,25は、先端部がテーパ状もしくは半球状に形成された弁体(ポペット)101と、そのポペット101が押し付けられる弁座102のシート面102aと、ポペット101が取り付けられたアーマチュア103と、ポペット101を弁座102に向けて(図14では上側に)押圧するスプリング104と、通電されることによりアーマチュア103をスプリング104の弾性力に対抗させて弁座102とは反対方向(図14では下側)に引き戻す電磁力を生じさせる電磁コイル105とを備えている。
したがって、図14に示す構成の各制御弁(ポペット弁)18,21,23,25において、電磁コイル105に通電しないいわゆるOFF状態では、ポペット101がスプリング104によって弁座102に押し付けられるので、入力ポート106と出力ポート107との連通が遮断される。また反対に、電磁コイル105に通電するいわゆるON状態では、ポペット101がアーマチュア103と共に弁座102から離れるように引き戻されるので、入力ポート106と出力ポート107とが連通する。こうして前述の供給油路17および排出油路20が開閉されるようになっている。
このように、アキュムレータ14から各油圧アクチュエータ5,6へ至る油圧系統における供給側制御弁18,23および排出側制御弁21,25とに対して、上記のようなポペット弁を適用することにより、各制御弁18,21,23,25本体での油圧の漏洩を防止もしくは抑制することができ、この油圧制御装置HCUにおけるエネルギ損失を低減することができる。
上記のように、油圧ポンプ10やアキュムレータ14などの油圧供給源と油圧アクチュエータ5すなわち変速比制御部とを連通する供給油路17が、この発明における第1供給油路に相当し、油圧アクチュエータ5すなわち変速比制御部とドレーン個所19とを連通する排出油路20が、この発明における第1排出油路に相当している。そして、供給油路17に設けられた供給側制御弁18が、弁座102に押し付けられる弁体(ポペット)101を駆動することにより供給油路17を開閉するポペット弁であって、この発明における第1増圧制御弁(もしくは密閉増圧制御弁)に相当し、排出油路20に設けられた排出側制御弁21が、弁座102に押し付けられる弁体(ポペット)101を駆動することにより排出油路20を開閉するポペット弁であって、この発明における第1減圧制御弁(もしくは密閉減圧制御弁)に相当している。
同様に、油圧ポンプ10やアキュムレータ14などの油圧供給源と油圧アクチュエータ6すなわち挟圧力制御部とを連通する供給油路22が、この発明における第2供給油路に相当し、油圧アクチュエータ6すなわち変速比制御部とドレーン個所19とを連通する排出油路24が、この発明における第2排出油路に相当している。そして、供給油路22に設けられた供給側制御弁23が、弁座102に押し付けられる弁体(ポペット)101を駆動することにより供給油路23を開閉するポペット弁であって、この発明における第2増圧制御弁(もしくは密閉増圧制御弁)に相当し、排出油路24に設けられた排出側制御弁25が、弁座102に押し付けられる弁体(ポペット)101を駆動することにより排出油路25を開閉するポペット弁であって、この発明における第2減圧制御弁(もしくは密閉減圧制御弁)に相当している。
次に、上述した油圧制御装置HCUの作用について説明する。油圧ポンプ10はエンジン9に連結されているので、エンジン9が回転している場合には油圧ポンプ10も同様に回転し、油圧を発生する。そのエンジン9の回転は、エンジン9に燃料が供給されて自律回転している場合と、燃料の供給および点火を止めて車両の走行慣性力で強制的に回転させられている場合のいずれでも生じる。すなわち、エンジン9の駆動時とエンジンブレーキ状態の被駆動時とのいずれであっても油圧ポンプ10が回転して油圧を発生する。その油圧の圧力および流量は、油圧ポンプ10の仕様、および油圧ポンプ10の駆動時の回転数やトルクに応じたものとなる。
こうして発生した油圧は、一方で、前述の調圧弁11によって設計上、予め定めた低油圧に調圧された後、潤滑部8等に供給される。また、前述の制御弁12を介してトルクコンバータ7に供給される。他方で、油圧ポンプ10はエンジン9の動作状態に応じた油圧を発生するので、急加速時や大きいエンジンブレーキ力を生じさせている場合などにおいては、油圧ポンプ10の吐出圧が高くなる。このような場合に生じた高油圧は、逆止弁13を押し開いてアキュムレータ14に供給される。また、逆止弁13は、油圧ポンプ10の吐出圧がアキュムレータ14での油圧より低い場合に閉じるため、アキュムレータ14に供給された高油圧はここに蓄えられることになる。なお、アキュムレータ14に蓄えられる油圧は、無段変速機1で必要となる最高圧力より高い油圧となるように設定されている。
無段変速機1で設定する変速比は、アクセル開度などの駆動要求量と車速もしくはタービン回転数などとに基づいて変速マップから求められる。したがって、駆動プーリ2の溝幅が、目標とする変速比となるように制御される。その制御は、駆動プーリ2における油圧アクチュエータ5に対して圧油を給排することにより行われ、具体的には、供給側制御弁18および排出側制御弁21を開閉することにより行われる。例えば、アップシフトするべく溝幅を狭くする(ベルトの巻き掛け半径を大きくする)場合には、供給側制御弁18が開弁制御されて油圧アクチュエータ5に対して圧油が供給される。また反対にダウンシフトするべく駆動プーリ2の溝幅を広くする(ベルトの巻き掛け半径を小さくする)場合には、排出側制御弁21が開弁制御されて油圧アクチュエータ5から排圧される。
このように変速比を制御する供給側制御弁18および排出側制御弁21の開閉制御は、駆動プーリ2を構成している可動シーブのストローク量や、エンジン回転数もしくは入力回転数と出力回転数との比である実際の変速比と目標変速比との比較結果、あるいは各プーリ2,3における油圧アクチュエータ5,6の圧力の比較結果に基づいて行うことができる。
一方、無段変速機1の伝達トルク容量は、入力されたトルクを十分に伝達できる容量に制御され、これは従動プーリ3の油圧アクチュエータ6に供給される油圧に応じた挟圧力によって設定される。具体的には、アクセル開度やスロットル開度などに基づいて求められる要求駆動力に応じて挟圧力が制御され、要求駆動力が大きい場合には、従動プーリ3の油圧アクチュエータ6に供給される油圧が高くなるように制御される。その制御は、前述の図13に示すこの発明の油圧制御装置HCUでは、従動プーリ3の油圧アクチュエータ6に連通する供給側制御弁23を開弁し、アキュムレータ14からその油圧アクチュエータ6に油圧を供給することにより行われる。すなわち、その供給側制御弁23の電磁コイル105に通電して弁体101を弁座102から離隔させ、油圧アクチュエータ6と供給油路17とを連通させる。この供給側制御弁23の開閉制御は、従動プーリ3の油圧アクチュエータ6における目標圧力(あるいは目標挟圧力)と、その油圧アクチュエータ6における実際の油圧とに基づいて行うことができ、したがって、例えばその油圧アクチュエータ6における実際の油圧を検出する油圧センサ26や、アキュムレータ14から供給される実際の油圧を検出する油圧センサ27などを設けることが好ましい。
また、無段変速機1に対する入力トルクの低下に対応して挟圧力を低下させる場合、従動プーリ3の油圧アクチュエータ6に連通されている排出側制御弁25を開弁動作させることにより行われる。すなわち、その排出側制御弁25の電磁コイル105に通電して弁体101を弁座102から離隔させ、油圧アクチュエータ6をドレン個所19に連通させる。この排出側制御弁25に対する通電制御も、従動プーリ3の油圧アクチュエータ6における目標圧力(あるいは目標挟圧力)と、その油圧アクチュエータ6における実際の油圧とに基づいて行うことができる。
そして、アクセル開度および車速がほぼ一定に維持される定常走行状態では、変速比および挟圧力を一定に維持することになる。その場合、供給油路17および排出油路20にそれぞれ設けられた供給側制御弁18および排出側制御弁21、ならびに供給油路22および排出油路24にそれぞれ設けられた供給側制御弁23および排出側制御弁25を、いずれもOFF状態に制御して供給油路17,22および排出油路20,25を閉じることにより、各油圧アクチュエータ5,6に圧油を封じ込めることができる。
ここで、前述したように各制御弁18,21,23,25にはポペット弁が適用されていることから、例えば不可避的に油圧の漏洩が生じるスプール弁などと比較して、それら各制御弁18,21,23,25からの油圧の漏洩は生じない。そのため、アキュムレータ14に蓄えた油圧が低下したり、あるいは油圧アクチュエータ5の圧力を維持するべくアキュムレータ14から油圧を継続して供給したりする必要がなく、したがって、油圧の漏洩によるエネルギ損失を回避もしくは抑制することができる。なお、油圧の漏洩が生じないことは、各制御弁18,21,23,25が開弁状態に制御されている場合であっても同様である。
上記のように、アキュムレータ14と各油圧アクチュエータ5,6との間の油圧系統における各制御弁18,21,23,25に対して、密封性に優れたポペット弁を適用することにより、それら各制御弁18,21,23,25での油圧の漏洩を防止もしくは抑制することができる。そして、上記のように供給油路17,22と排出油路20,24とポペット弁を用いた各制御弁18,21,23,25とからいわゆる密閉油圧回路を形成することにより、特に、定常走行状態で変速比および挟圧力を一定に維持するような場合に、油圧の漏洩を回避して、この油圧制御装置HCUにおけるエネルギ損失を低減することができる。
その一方で、前述したように、ポペット弁は流量が発生した場合に不可避的に油圧が低下するオーバーライド特性があるので、例えばキックダウン変速が行われることにより、入力トルクの増大に対応する狭圧力の増大制御と、ダウンシフトに対応する変速比の増大制御とが同時に実行されるような場合に、狭圧力制御に関与している制御弁23,25で油圧が低下すると、挟圧力が不足してベルト滑りが発生してしまう可能性がある。そこで、この発明の油圧制御装置では、挟圧力制御における挟圧力の増大と変速比制御における変速比の増大とが同時に実行される様な場合であっても、ベルト滑りの発生を回避してそれら挟圧力制御と変速比制御とを適切に行うために、以下に示す制御を実行するように構成されている。
(第1の制御例)
図1は、この発明の油圧制御装置による第1の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1のフローチャートにおいて、先ず、挟圧力の増圧要求の有無が判断される(ステップS11)。すなわち、挟圧力制御により設定されている無段変速機1の現在の挟圧力に対して増圧要求があるのかもしくは減圧要求があるのかが判断される。挟圧力の増圧要求がないことにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、挟圧力の減圧要求があると判断されて、ステップS12へ進み、アップシフト要求の有無が判断される。すなわち、変速比制御により設定されている無段変速機1の現在の変速比に対して低下要求があるのかもしくは増大要求があるのかが判断される。
アップシフト要求がないことにより、このステップS12で否定的に判断された場合は、変速比の増大要求すなわちダウンシフト要求があると判断されて、ステップS13へ進み、挟圧力の減圧要求とダウンシフト要求とがあった場合の挟圧力制御が実行される。具体的には、先ず、このダウンシフト要求による変速比制御を実行する際に供給側制御弁23で圧油の流動が生じる場合の流量(変速流量)が推定される。そして、その推定された変速流量に基づいて、供給側制御弁23の開閉状態を制御することにより油圧アクチュエータ6に作用させる油圧が補正される。
より具体的には、この場合の挟圧力の減圧要求に対応するために、排出側制御弁25の開閉状態を制御するための電流(挟圧用電流)がその排出側制御弁25に通電される。そして、この場合のダウンシフト要求に対応するための変速比制御を実行した際に供給側制御弁23で発生する変速流量が推定され、その変速流量が発生することにより圧力降下する供給側制御弁23の油圧を補填するように、供給側制御弁23の開閉状態を制御するための電流(変速流量補正用電流)がその供給側制御弁23に通電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、前述のステップS12で、アップシフト要求があることにより肯定的に判断された場合には、変速比の低下要求があると判断されて、ステップS14へ進み、挟圧力の減圧要求とアップシフト要求とがあった場合の挟圧力制御が実行される。具体的には、先ず、このアップシフト要求による変速比制御を実行する際に排出側制御弁25で圧油の流動が生じる場合の流量(変速流量)が推定される。そして、その推定された変速流量に基づいて、排出側制御弁25の開閉状態を制御することにより油圧アクチュエータ6に作用させる油圧が補正される。
より具体的には、この場合の挟圧力の減圧要求に対応するために、排出側制御弁25の開閉状態を制御するための電流(挟圧用電流)がその排出側制御弁25に通電される。そして、この場合のアップシフト要求に対応するための変速比制御を実行した際に排出側制御弁25で発生する変速流量が推定され、その変速流量が発生することにより圧力降下する排出側制御弁25の油圧を補填するように、排出側制御弁25の開閉状態を制御するための電流(変速流量補正用電流)がその排出側制御弁25に通電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、前述のステップS11で、挟圧力の増圧要求があることにより肯定的に判断された場合には、ステップS15へ進み、ダウンシフト要求の有無が判断される。すなわち、変速比制御により設定されている無段変速機1の現在の変速比に対して増大要求があるのかもしくは低下要求があるのかが判断される。
ダウンシフト要求がないことにより、このステップS15で否定的に判断された場合は、変速比の低下要求すなわちアップシフト要求があると判断されて、ステップS16へ進み、挟圧力の増圧要求とアップシフト要求とがあった場合の挟圧力制御が実行される。具体的には、先ず、このアップシフト要求による変速比制御を実行する際に排出側制御弁25で圧油の流動が生じる場合の流量(変速流量)が推定される。そして、その推定された変速流量に基づいて、排出側制御弁25の開閉状態を制御することにより油圧アクチュエータ6に作用させる油圧が補正される。
より具体的には、この場合の挟圧力の増圧要求に対応するために、供給側制御弁23の開閉状態を制御するための電流(挟圧用電流)がその供給側制御弁23に通電される。そして、この場合のアップシフト要求に対応するための変速比制御を実行した際に排出側制御弁25で発生する変速流量が推定され、その変速流量が発生することにより圧力降下する排出側制御弁25の油圧を補填するように、排出側制御弁25の開閉状態を制御するための電流(変速流量補正用電流)がその排出側制御弁25に通電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、前述のステップS15で、ダウンシフト要求があることにより肯定的に判断された場合には、変速比の増大要求があると判断されて、ステップS17へ進み、挟圧力の増圧要求とダウンシフト要求とがあった場合の挟圧力制御が実行される。具体的には、先ず、このダウンシフト要求による変速比制御を実行する際に供給側制御弁23で圧油の流動が生じる場合の流量(変速流量)が推定される。そして、その推定された変速流量に基づいて、供給側制御弁23の開閉状態を制御することにより油圧アクチュエータ6に作用させる油圧が補正される。
より具体的には、この場合の挟圧力の増圧要求に対応するために、供給側制御弁23の開閉状態を制御するための電流(挟圧用電流)がその供給側制御弁23に通電される。そして、この場合のダウンシフト要求に対応するための変速比制御を実行した際に供給側制御弁23で発生する変速流量が推定され、その変速流量が発生することにより圧力降下する供給側制御弁23の油圧を補填するように、供給側制御弁23の開閉状態を制御するための電流(変速流量補正用電流)がその供給側制御弁23に通電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明の油圧制御装置における第1の制御例によれば、変速比制御を実行する際に挟圧力制御に関与する供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で変速流量が発生し、それら制御弁23,25のオーバーライド特性から、不可避的に油圧の低下が生じる場合には、その変速流量が推定され、その推定された変速流量に基づいて油圧の低下分が補正されて挟圧力制御が実行される。そのため、例えばキックダウン変速が行われて挟圧力制御部で油圧低下が生じる可能性がある場合であっても、挟圧力が不足してしまう事態を回避して、無段変速機1における変速比制御および挟圧力制御を適切に実行することができる。
(第2の制御例)
図2は、この発明の油圧制御装置による第2の制御例を説明するためのブロック図である。この第2の制御例は、前述の第1の制御例における変速流量発生時の油圧補正に関する制御を、より精度良く行うようにした制御例である。図2に示すように、この第2の制御例における無段変速機1の挟圧力制御は、入力トルクと変速比とから設定される目標挟圧力に基づいて無段変速機1の挟圧力をフィードフォワード制御する「圧力フィードフォワード制御」と、変速流量発生時の油圧補正値に基づいて無段変速機1の挟圧力をフィードフォワード制御する「変速流量補正制御」と、前記の目標挟圧力と実際の挟圧力との偏差に基づいて無段変速機1の挟圧力をフィードバック制御する「圧力フィードバック制御」との、3つの制御体系が統合されて行われる。
この図2に示す例は、例えばキックダウン変速が行われた場合のように、挟圧力の増圧要求がありかつダウンシフトの要求があった場合の制御例である。図2において、「圧力フィードフォワード制御」は、無段変速機1の入力トルクと変速比とから設定される目標挟圧力Ptgtが入力され、その目標挟圧力Ptgtと、油圧供給源すなわちこの具体例ではアキュムレータ14の吐出圧Paccとから、目標オリフィス前後差圧ΔP(ΔP=Ptgt−Pacc)と、その目標オリフィス前後差圧ΔPを実現するために供給側制御弁23へ通電する開弁電流Iaplとが算出される。そしてこの開弁電流Iaplが、増圧弁電流として供給側制御弁23に供給されることにより、無段変速機1の挟圧力Pactが設定される。すなわち、挟圧力制御がフィードフォワード制御により実行される。
また、「変速流量補正制御」は、挟圧力制御の実行時に変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23で圧油の流動が生じる場合の流量が変速流量Qshiftとして推定されて入力され、その変速流量Qshiftの値を基に、変速流量補正電流Ishiftが算出される。そしてこの変速流量補正電流Ishiftが、増圧弁電流として供給側制御弁23に供給されることにより、無段変速機1の挟圧力Pactが補正されて設定される。すなわち、推定された変速流量Qshiftによる挟圧力の補正制御がフィードフォワード制御により実行される。
上記の「変速流量補正制御」における変速流量Qshiftおよび変速流量補正電流Ishiftの算出手順を、図3のフローチャートチャートを参照して具体的に説明する。先ず、変速流量Qshiftが発生するか否かが判断される(ステップS21)。すなわち、前述したように、挟圧力制御の実行時に変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23で圧油の流動が生じるか否かが判断される。
変速流量Qshiftが発生しないことにより、このステップS21で否定的に判断された場合は、その変速流量Qshiftによる補正制御を行う必要はないので、以降の制御は実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、変速流量Qshiftが発生する、すなわち挟圧力制御の実行時に変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23で圧油の流動が生じることにより、ステップS21で肯定的に判断された場合には、変速流量Qshiftが推定して算出されるとともに、ステップS22へ進み、必要ばねストロークXshiftが算出される。
変速流量Qshiftは、図4に示すように供給側制御弁23のオリフィス部における必要流路面積をSxとし、オリフィス前後差を圧ΔP、オリフィス部の流量係数をc、オイルの密度をρとすると、次の(1)式により算出することができる。
ここで、上記の必要流路面積をSxは、必要ばねストロークXshiftの関数として表され、図4に示すように供給側制御弁23のオリフィス部におけるシート面102aのシート角をθ、ポペット102のボール面(シート面102aと当接する球面)の半径をrとし、必要ばねストロークをXshiftとすると、次の(2)式により必要流路面積をSxを算出することができる。
そして、必要ばねストロークXshiftは、上記の(1)式,(2)式から、次の(3)式により算出することができる。
変速流量Qshiftおよび必要ばねストロークXshiftが算出されると、続いて、必要吸引力Fshiftおよび変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftが算出される(ステップS23,S24)。必要吸引力Fshiftとは、供給側制御弁23のポペット102を上記の必要ばねストロークXshiftの長さ分だけスプリング104に対向して移動させるために必要な電磁コイル105の電磁吸引力のことであり、スプリング104のばね定数をKspとすると、次の(4)式により算出することができる。
変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftは、上記の必要吸引力Fshiftを電磁コイル105で発生させるために必要な電流値であり、電磁コイル105の特性値などにより決まる係数をαとすると、次の(5)式により算出することができる。
なお、上記の変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftは、例えば図5に示すような、オリフィス前後差圧ΔPと変速流量Qshiftと変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftとの関係を基に予め定めたマップから求めることもできる。
上記のようにして必要吸引力Fshiftおよび変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftが算出されると、無段変速機1に対するダウンシフト要求の有無が判断される(ステップS25)。すなわち、変速比制御により設定されている無段変速機1の現在の変速比に対して増大要求があるのかもしくは低下要求があるのかが判断される。
ダウンシフト要求があることにより、このステップS25で肯定的に判断された場合は、ステップS26へ進み、供給側制御弁23に対して変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftの電流が通電される。すなわち、変速流量Qshiftに基づいて補正された挟圧力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、ダウンシフト要求がないことにより、ステップS25で否定的に判断された場合には、変速比の低下要求すなわちアップシフト要求があると判断されて、ステップS27へ進み、排出側制御弁25に対して変速流量補正電流値(必要電流値)Ishiftの電流が通電される。すなわち、変速流量Qshiftに基づいて補正された挟圧力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明の油圧制御装置における第2の制御例によれば、無段変速機1の挟圧力制御を実行する場合、「圧力フィードフォワード制御」と「圧力補正制御」と「圧力フィードバック制御」との3つの制御が統合されて実行される。したがって、「圧力フィードフォワード制御」により、例えば油圧アクチュエータ6の油圧応答遅れ等に起因する制御遅れに対応した挟圧力制御を行うことができる。また、「圧力補正制御」により、例えばキックダウン変速が行われた場合のように、挟圧力制御の実行中に変速比制御が実行されることによって、供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25に流量が発生し、その結果不可避的に生じる挟圧力制御部の油圧降下を補正した挟圧力制御を行うことができる。そして、「圧力フィードバック制御」により、上記の「圧力フィードフォワード制御」および「圧力補正制御」でそれぞれ生じる誤差を修正した挟圧力制御を行うことができる。そのため、挟圧力制御を精度良くかつ適正に実行することができる。
(第3の制御例)
図6は、この発明の油圧制御装置による第3の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第3の制御例は、前述の第1の制御例、あるいは第2の制御例において推定される変速流量を必要に応じて補正して、挟圧力制御を適正に行うようにした制御例である。
図6のフローチャートにおいて、先ず、無段変速機1の変速比制御におけるフィードバック制御が実行中であるか否かが判断される(ステップS31)。変速比制御は、例えば車速と要求駆動力とに基づいて設定される目標変速比と、実際の変速比(実変速比)との偏差に基づくフィードバック制御によって実行される。したがってこのステップS31では、変速比制御のフィードバック制御が実行中であるか否かについて判断される。
変速比制御におけるフィードバック制御が実行中でないことにより、このステップS31で否定的に判断された場合は、以降の制御を行うことなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、変速比制御におけるフィードバック制御が実行中であることにより、ステップS31で肯定的に判断された場合には、ステップS32へ進み、変速流量の補正が必要であるか否かが判断される。この変速流量は、前述の第1の制御例あるいは第2の制御例での圧力補正制御において推定される変速流量のことであり、挟圧力制御の実行時に変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23で圧油の流動が生じる場合の流量である。
したがって、変速比制御による変速比の変化予測に対応させて変速流量を推定することにより、その変速流量を精度良く求めることができる。しかしながら、前述したように無段変速機1における変速比制御はフィードバック制御により実行されるので、実変速比の変化から変速流量を推定するのは困難であった。そのため、この第3の制御例では、例えば急速なあるいは大きな変速比制御が実行された場合などのように、変速流量を補正する必要がある場合には、後述するように変速比制御のフィードバック制御量に応じて変速流量が補正される。
変速流量の補正が必要でないことにより、このステップS32で否定的に判断された場合は、以降の制御を行うことなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、変速流量の補正が必要なことにより、ステップS32で肯定的に判断された場合には、ステップS33へ進み、シーブ位置偏差が算出される。シーブ位置偏差とは、無段変速機1の従動プーリ3における可動シーブの移動量のことであり、従動プーリ3の軸方向における、現在の可動シーブの位置と所定時間前の可動シーブの位置との偏差として求めることができる。
次いで、必要オイル量が算出される(ステップS34)。従動プーリ3の軸方向における可動シーブの位置は変速比に対応しているため、上記のステップS33で求めたシーブ位置偏差すなわち可動シーブの移動量と、従動プーリ3の可動シーブの受圧面積とを乗算することにより、前記の所定時間前から現在までの間に従動プーリ3の可動シーブが移動するのに要するオイルの容量が求められる。
必要オイル量が求められると、その必要オイル量を基に変速流量(ベース変速流量)が推定され(ステップS35)、そのベース変速流量に、変速比制御のフィードバック制御量に基づく補正分が加算される(ステップS36)。この補正分は、変速比制御のフィードバック制御量に応じて設定されるものであり、例えば、フィードバック制御量が大きいほど補正分も大きな値が設定される。また、この補正分は、フィードバック制御量を基に演算により求めることができ、あるいはフィードバック制御量との関係に基づいて予め定めたマップから求めることもできる。
そして、上記のようにベース変速流量に変速比制御のフィードバック制御量に基づいて設定された補正分を加算することにより、変速補正流量が決定され(ステップS37)、そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明の油圧制御装置における第3の制御例によれば、無段変速機1の変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で圧油の流動が生じる場合に推定される変速流量が、変速比制御のフィードバック制御を実行する際のフィードバック制御量に基づいて補正される。そのため、フィードバック制御の影響による補正タイミングの遅れを回避して、変速比制御の実行時に供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で発生する変速流量の推定値を適切に補正することができる。その結果、適正な変速流量に基づいて補正された挟圧力制御を実行することができ、したがってその挟圧力制御を精度良くかつ適正に実行することができる。
(第4の制御例)
図7は、この発明の油圧制御装置による第4の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第4の制御例は、前述の第3の制御例における変速流量の補正制御の精度をより向上させて、挟圧力制御を適正に行うようにした制御例である。
図7のフローチャートにおいて、先ず、無段変速機1の変速比制御におけるフィードバック制御が実行中であるか否かが判断される(ステップS41)。変速比制御におけるフィードバック制御が実行中でないことにより、このステップS41で否定的に判断された場合は、以降の制御を行うことなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、変速比制御におけるフィードバック制御が実行中であることにより、ステップS41で肯定的に判断された場合には、ステップS42へ進み、目標変速流量が算出される。この目標変速流量は、変速比制御のフィードバック制御において、目標変速比を実現する際に必要となる圧油の流量のことであり、変速比制御におけるフィードバック制御の制御内容に基づいて求めることができる。
次いで、目標変速流量が「レベル1」以下であるか否かが判断される(ステップS43)。これは、例えば、図8に示すような各制御弁23,25のオーバーライド特性を基に領域分けしたマップから判断することができる。前述したように、ポペット弁により構成される各制御弁23,25は、図8に示すようなオーバーライド特性があり、通過する圧油の流量が大きくなるほど、油圧の低下量(圧力低下代)が大きくなる。その特性に着目して、この第4の制御例では、各制御弁23,25に流量が生じた場合の油圧低下が実際に挟圧力制御に与える影響の度合いに応じて、レベル1〜3の3段階に領域分けを行い、そのレベルに応じて適切な変速流量の補正制御を実行するようになっている。
すなわち、油圧低下量が相対的に小さく、変速流量を補正しなくとも問題ないと判断される領域が「レベル1」とされ、油圧低下量が中程度であり、変速流量を補正する必要があると判断される領域が「レベル2」とされ、油圧低下量が相対的に大きく、変速流量を補正しただけでは適正な挟圧力制御を実行できないと判断される領域が「レベル3」として設定されている。なお、この具体例では、3段階に領域分けした例を示しているが、この領域訳の数は、3段階よりも多くてもよく、あるいは3段階よりも少なくてもよい。
目標変速流量が「レベル1」以下であることにより、このステップS43で肯定的に判断された場合は、ステップS44へ進み、変速流量の補正を行わない処置がとられる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。この変速流量の補正を行わない場合は、その変速流量が発生することによる油圧低下が若干生じることになるが、この「レベル1」であればその油圧低下は許容できる範囲内である。
一方、目標変速流量が「レベル1」よりも大きいことにより、ステップS43で否定的に判断された場合には、ステップS45へ進み、目標変速流量が「レベル2」以下であるか否かが判断される。目標変速流量が「レベル2」以下であることにより、このステップS45で肯定的に判断された場合は、ステップS46へ進み、変速流量の補正が行われる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。この変速流量の補正は、例えば、前述の第3の制御例における変速流量の補正制御により行うことができる。
これに対して、目標変速流量が「レベル2」よりも大きいことにより、ステップS45で否定的に判断された場合は、目標変速流量が「レベル3」であると判断されて、ステップS45へ進み、挟圧力の不足を生じさせないために、変速流量の大きさに応じて目標挟圧力が増大させられる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明の油圧制御装置における第4の制御例によれば、無段変速機1の変速比制御を実行する際の目標変速流量の大きさに応じて、変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で圧油の流動が生じる場合に推定される変速流量がそのまま適用されて挟圧力制御における油圧低下分が補正されるか、もしくは、その変速流量を補正したものが適用されて挟圧力制御における油圧低下分が補正されるか、もしくは、その変速流量に基づく補正ではなく目標変速流量に応じて挟圧力制御における目標挟圧力が増大補正されるかが適宜選択される。そのため、変速流量の推定誤差による影響を低減し、挟圧力制御を精度良くかつ適正に実行することができる。
(第5の制御例)
図9は、この発明の油圧制御装置による第5の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第5の制御例は、前述の第3の制御例における変速流量の補正制御の精度をより向上させて、挟圧力制御を適正に行うようにした制御例である。
図9のフローチャートにおいて、先ず、無段変速機1の変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中であるか否かが判断される(ステップS51)。変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中でないことにより、このステップS51で否定的に判断された場合は、以降の制御を行うことなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中であることにより、ステップS51で肯定的に判断された場合には、ステップS52へ進み、変速比モデルのシーブ位置偏差が算出される。変速比モデルのシーブ位置偏差とは、例えば図10に示すように、変速比制御のフィードフォワード制御を実行する場合に基準となる変速比モデル(回転数モデル)、言い換えると、フィードフォワード制御により変速比制御を実行する際の予測変速比に基づいて算出した無段変速機1の従動プーリ3における可動シーブの移動量のことであり、従動プーリ3の軸方向における、フィードフォワード制御の1ルーチン先の可動シーブの予測位置と現在の可動シーブの位置との偏差として求めることができる。
変速比制御のフィードフォワード制御では、図10に示すように、従動プーリ2の実回転数(太実線)が、フィードフォワード制御における最終目標回転数(一点鎖線)および過渡時目標回転数(破線)に基づいて設定される回転数モデル(細実線)上を追従するように制御される。したがって、変速比制御のフィードフォワード制御における変速比モデルすなわち予測変速比に基づいてシーブ位置偏差を求め、後述するように、そのシーブ位置偏差を基に変速流量の推定値を補正することによって、より精度のよい挟圧力制御を実行できる。
変速比モデルのシーブ位置偏差が算出されると、必要オイル量が算出される(ステップS53)。従動プーリ3の軸方向における可動シーブの位置は変速比に対応しているため、上記のステップS52で求めたシーブ位置偏差すなわち可動シーブの移動量と、従動プーリ3の可動シーブの受圧面積とを乗算することにより、前記の現在からフィードフォワード制御の1ルーチン先までの間に従動プーリ3の可動シーブが移動するのに要するオイルの容量が求められる。
そして、必要オイル量が求められると、その必要オイル量を基に、予測変速補正流量が算出される(ステップS54)。具体的には、上記の変速比制御のフィードフォワード制御において、所定時点nにおける回転数モデルをNINTFF(n)、所定時点nにおける過渡時目標回転数をNINT(n)、なまし係数(すなわち時定数)をkninとすると、
NINTFF(i+1)=NINTFF(i)+knin×(NINT(i)−NINTFF(i−1))
の関係があり、ここで、所定時点nにおける出力軸回転数をNOUT(n)とすると、予測変速補正流量RATIOFFPREは、
RATIOFFPRE=NINTFF(i+1)/NOUT(i)
として算出することができる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明の油圧制御装置における第5の制御例によれば、無段変速機1の変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で圧油の流動が生じる場合に推定される流量が、変速比制御のフィードフォワード制御を実行する際の予測変速比、すなわち変速比制御のフィードフォワード制御を実行する場合に基準となる変速比モデルに基づいて補正される。そのため、変速比制御における将来的な変化も加味して、変速比制御の実行時に供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で発生する流量の推定値を精度良くかつ適切に補正することができる。
(第6の制御例)
図11は、この発明の油圧制御装置による第6の制御例を説明するためのフローチャートであって、これらのフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第6の制御例は、オイルの温度変化や装置の個体差あるいは経年変化等を考慮し、前述した各制御例における変速流量の補正制御の精度をより向上させて、挟圧力制御を適正に行うようにした制御例である。
図11のフローチャートにおいて、先ず、無段変速機1の変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中であるか否かが判断される(ステップS61)。変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中でないことにより、このステップS61で否定的に判断された場合は、以降の制御を行うことなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中であることにより、ステップS61で肯定的に判断された場合には、ステップS62へ進み、変速流量補正項での圧力不足の回数が記録される。そして、その圧力不足の回数が、挟圧力制御に影響があると判断するために予め定めた所定回数以上であるか否かが判断される(ステップS63)。
この発明で対象とする無段変速機1およびその油圧制御装置HCUは、例えばオイルの油温の変化、あるいは無段変速機1もしくは油圧制御装置HCUの油圧回路を構成している各部の個体差や経時変化の影響により、前述した各制御例において推定もしくは補正された変速流量によって挟圧力制御を実行した際に、その変速流量の推定もしくは補正が不十分であったために挟圧力制御の目標挟圧力に対して実挟圧力が不足する場合がある。そのため、この第6の制御例では、それら油温の変化や各部の個体差あるいは経時変化などを考慮して、変速流量の推定値もしくは補正値を更に補正するように制御される。なお、圧力不足であるか否かは、例えば、目標挟圧力に対する実挟圧力の不足分を予め定めた閾値と比較することにより判断することができる。
すなわち、このステップS63で、変速流量補正項での圧力不足の回数が所定回数を超えた場合に、油温の変化や各部の個体差あるいは経時変化による影響が無視できないと判断される。したがって、変速流量補正項での圧力不足の回数が未だ所定回数を超えないことにより、このステップS63で否定的に判断された場合は、ステップS62へ戻り、従前の制御が繰り返される。
これに対して、変速流量補正項での圧力不足の回数が所定回数を超えたことにより、ステップS63で肯定的に判断された場合には、ステップS64へ進み、変速流量が補正される。具体的には、変速流量補正項に補正加算分αが加算される。この補正加算分αは、例えば変速比や温度などに応じて変化させることもでき、また、所定の閾値に到達するまで逐次、学習制御して設定することもできる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、図12は、上述した第6の制御例における他の制御例を説明するためのフローチャートであって、これらのフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図11のフローチャートで示した制御例が、変速流量補正項での圧力不足の回数を検出して変速流量の補正制御に反映させているのに対して、この図12のフローチャートで示す制御例は、変速流量補正項での圧力過剰の回数を検出して変速流量の補正制御に反映させるようにした例である。
図12のフローチャートにおいて、先ず、無段変速機1の変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中であるか否かが判断される(ステップS71)。変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中でないことにより、このステップS71で否定的に判断された場合は、以降の制御を行うことなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、変速比制御におけるフィードバック制御およびフィードフォワード制御が共に実行中であることにより、ステップS71で肯定的に判断された場合には、ステップS72へ進み、変速流量補正項での圧力過剰の回数が記録される。そして、その圧力過剰の回数が、挟圧力制御に影響があると判断するために予め定めた所定回数以上であるか否かが判断される(ステップS73)。なお、圧力過剰であるか否かは、例えば、目標挟圧力に対する実挟圧力の過剰分を予め定めた閾値と比較することにより判断することができる。
すなわち、このステップS73で、変速流量補正項での圧力過剰の回数が所定回数を超えた場合に、油温の変化や各部の個体差あるいは経時変化による影響が無視できないと判断される。したがって、変速流量補正項での圧力過剰の回数が未だ所定回数を超えないことにより、このステップS73で否定的に判断された場合は、ステップS72へ戻り、従前の制御が繰り返される。
これに対して、変速流量補正項での圧力過剰の回数が所定回数を超えたことにより、ステップS73で肯定的に判断された場合には、ステップS74へ進み、変速流量が補正される。具体的には、変速流量補正項から補正減算分βが減算される。この補正減算分βは、例えば変速比や温度などに応じて変化させることもでき、また、所定の閾値に到達するまで逐次、学習制御して設定することもできる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明の油圧制御装置における第6の制御例によれば、無段変速機1の変速比制御が実行されることにより供給側制御弁23もしくは排出側制御弁25で圧油の流動が生じる場合に推定される変速流量が、無段変速機1の挟圧力制御をフィードバック制御する際の目標挟圧力に対する実挟圧力の不足分もしくは過剰分に基づいて補正される。そのため、挟圧力制御をフィードバック制御する際のアンダーシュートやオーバーシュートを回避もしくは抑制して、適正な挟圧力制御を実行することができる。