以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関システムの概略構成図である。
図1を参照して、同内燃機関システムは、エンジン1、エンジン1に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、および該センサからの信号に基づきアクチュエータを制御する制御器としての制御ユニット100を有する。
エンジン1は、火花点火式内燃機関であって、4つの気筒11を有するものであるが、いかなる数の気筒11を有するものであってもよい。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、そのクランクシャフト14は、前記車両に搭載された動力伝達装置(変速機やディファレンシャル機構)を介して前記車両の車輪(駆動輪)に連結されており、エンジン1の動力が、動力伝達装置によって車輪に伝達されて、車両を推進する。
エンジン1は、13以上の幾何学的圧縮比を持ち、この幾何学的圧縮比は、14以上16以下であるのが好ましい。幾何学的圧縮比が大きいということは、膨張比が大きいことを意味するので、幾何学的圧縮比が大きいほど、エンジン1の運転効率は上がる。そこで、本実施形態では、幾何学的圧縮比を13以上に設定し、点火リタード等の方法によってノッキングを回避しつつ高トルクと燃費の大幅な低減とを図ることとしている。
尤も、圧縮比が高いほど、異常燃焼発生の可能性が高まるので、有効圧縮比を小さくする、すなわち、気筒空気充填量を下げる必要が生じる。そうなると、気筒容積の割に得られる出力が低下するために、エンジン1の重量比で見たときの効率は低下し、また、エンジン1の、車両のエンジンルーム内への搭載性に問題が生じる。従って、幾何学的圧縮比の上限は、16以下にするのが好ましい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、それらの内部に、後述のピストン15と共に燃焼室17を規定する4つの気筒11が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナルやベアリング等によりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14がピストン15に対し、コネクティングロッド16を介して連結されている。
ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されて燃焼室17を区画している。シリンダヘッド13には、気筒11毎に2つの吸気ポート18(図1には1つのみ示す)が形成されて、それぞれ燃焼室17に連通している。同様に、シリンダヘッド13には、気筒11毎に2つの排気ポート19(図1には1つのみ示す)が形成されて、それぞれ燃焼室17に連通している。シリンダヘッド13には、吸気弁21および排気弁22が、それぞれ、吸気ポート18および排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)可能なように配設されている。吸気弁21は、動弁装置としての吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動されて、所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18および排気ポート19をそれぞれ開閉するものである。
吸気弁駆動機構30は、後述のインナシャフト105を有し、排気弁駆動機構40は、排気カムシャフト41を有する。インナシャフト105および排気カムシャフト41は、クランクシャフト14により、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介して、該クランクシャフト14に同期して駆動される。この動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、インナシャフト105および排気カムシャフト41が一回転するように構成される。吸気弁21および排気弁22は、インナシャフト105および排気カムシャフト41によりそれぞれ駆動される、つまりクランクシャフト14により、該クランクシャフト14に同期して駆動されることになる。尚、吸気弁駆動機構30については、後に詳細に説明する。
インナシャフト105の位相角は、位相センサ35により検出され、その位相センサ35による検出信号θVCT_Aが制御ユニット100に入力される。
シリンダヘッド13における各気筒11の中心軸線上には、点火プラグ51が配設されている。この点火プラグ51は、例えばねじ等の周知の構造によってシリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ51による点火を行わせる点火システム52は、制御ユニット100からの制御信号SADを受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
シリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)には、燃料噴射弁53が、例えばブラケットを使用する等の周知の構造で取り付けられている。この燃料噴射弁53の先端は、上下方向については2つの吸気ポート18の下方に、また、水平方向についてはそれら2つの吸気ポート18の中間に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。
燃料噴射弁53に燃料を供給する燃料供給システム54は、図示は省略するが、燃料噴射弁53に燃料を昇圧して供給する高圧ポンプと、この高圧ポンプに燃料タンクから燃料を送給する配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路とを備えている。この電気回路は、制御ユニット100からの制御信号FPDを受けて燃料噴射弁53のソレノイドを作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を燃焼室17内に噴射させる。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55b(吸気ポート18と共に、燃焼室17内へ導入される空気が通過する吸気通路を構成する)によってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流は、スロットルボデー56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56にはスロットル弁57が配置されており、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。そして、スロットルアクチュエータ58が、制御ユニット100からの制御信号TVODを受けて、スロットル弁57を駆動してその開度(以下、スロットル開度という)を調整する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管内の通路に連通している。排気マニホールド60よりも下流の排気通路には、一つ以上の触媒コンバータ61を有する排気ガス浄化システムが配置される。触媒コンバータ61は、周知の三元触媒、リーンNOx触媒、酸化触媒等とすることができ、それ以外にも、特定の燃料制御手法による排気ガス浄化の目的にかなうものであれば、いかなるタイプの触媒としてもよい。
また、排気ガスの一部を吸気系に循環させる(以下、EGRともいう)ために、吸気マニホールド55(スロットル弁57よりも下流側)と排気マニホールド60との間がEGRパイプ62によって接続されている。排気側の圧力は吸入側よりも高いので、排気ガスの一部は、EGRパイプ62を介して吸気マニホールド55に流れ込むようになり(この流れ込むガスをEGRガスと呼ぶ)、吸気マニホールド55から燃焼室17に吸入される新気と混ざることになる。EGRパイプ62にはEGR弁63が配設され、EGRガスの流量を調整するようになっている。そして、EGR弁アクチュエータ64が、制御ユニット100からの制御信号EGROPENを受けて、EGR弁63を駆動してその開度を調整する。
制御ユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央算出処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラムおよびデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスとを備えている。
制御ユニット100は、エアフローセンサ71から吸気流量AF、吸気圧センサ72から吸気マニホールド圧MAP、クランク角センサ73からクランク角パルス信号、というように種々の入力を受け入れる。制御ユニット100は、例えば、クランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転速度(以下、機関速度ともいう)NENGを計算する。また、制御ユニット100は、酸素濃度センサ74から排気ガスの酸素濃度EGOについての入力も受け入れる。さらに、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル開度信号αを受け入れる。また、制御ユニット100は、自動変速機5の変速機構4の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号VSPを受け入れる。
より具体的に、制御ユニット100は、前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度TVO、燃料噴射量FP、点火タイミングSA、バルブ位相角θVCT、EGR量QEGR(EGRガス流量)等である。そして、それら制御パラメータに基づいて、対応する制御信号として、スロットル開度信号TVOD、燃料噴射パルス信号FPD、点火パルス信号SAD、バルブ位相角信号θVCT_D、およびEGR開度信号EGROPENを、スロットルアクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、後述の吸気カムシャフト位相可変機構32、およびEGR弁アクチュエータ64にそれぞれ出力する。
次に、図2および図3を参照して、本実施形態に係る吸気弁駆動機構30の詳細について説明する。図2は、図1の実施形態に係る吸気弁駆動機構30の具体的な構成を示す斜視図であり、図3は、図1の吸気弁駆動機構30の要部を示す断面図である。図3において、(A)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(B)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示し、(C)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(D)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示している。
本実施形態の吸気弁駆動機構30は、吸気カムシャフト位相可変機構(可変カムタイミングメカニズム;以下、VCT機構という)32を備えており、これはチェーンドライブ機構によってクランクシャフト14に駆動連結されている。このチェーンドライブ機構は、ドリブンスプロケット104の他に、図示しないが、クランクシャフト14のドライブスプロケットと、それら両スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備える。
VCT機構32は、ドリブンスプロケット104に一体に回転するように固定されたケースと、それに収容され且つインナシャフト105に一体に回転するように固定されたロータとを有する。ケースとロータとの間には複数の液圧室が、インナシャフト105の中心軸X(図3に示す)の周りに(周方向に)並んで形成される。そして、ポンプにより加圧された液体(例えばエンジンオイル)が各々の液圧室に選択的に供給されて、互いに対向する液圧室の間に圧力差を形成する。
VCT機構32を制御するVCT制御ユニットとして機能する制御ユニット100が、VCT機構32の電磁バルブ32aに制御信号θVCT_Dを出力し、この制御信号θVCT_Dを受けて、電磁バルブ32aが液圧のデューティ制御をすることで、前記液圧室に供給する液体の流量や圧力等を調整する。これにより、スプロケット104とインナシャフト105との間の実際の位相差が変更され、それによって、周知のようにインナシャフト105の所望の回転位相が達成される。なお、制御ユニット100とは別構成の制御ユニットでVCT制御ユニットを構成してもよい。
インナシャフト105は、図3(A)〜(D)に示すように各々の気筒11に対応して一体的に設けられたディスク形状の偏心カム106を有する。この偏心カム106は、インナシャフト105の軸芯(中心軸X)から偏心して設けられ、VCT機構32により規定される位相で回転する。この偏心カム106の外周にはリング状アーム107の内周が回転自在に嵌め合わされており、インナシャフト105がその中心軸X周りに回転すると、リング状アーム107は、同じ中心軸Xの回りを公転しながら偏心カム106の中心の周りを回動する。
また、前記インナシャフト105には、気筒11毎にロッカーコネクタ110が配設されている。このロッカーコネクタ110は円筒状で、インナシャフト105に外挿されて同軸に軸支され、換言すれば、その中心軸X周りに回動可能に支持されている一方、該ロッカーコネクタ110の外周面はベアリングジャーナルとされ、シリンダヘッド13に配設されたベアリングキャップ(図示せず)によって回転可能に支持されている。
前記ロッカーコネクタ110の両端には、第1および第2のロッカーカム111、112がそれぞれ一体的に設けられている。両者の構成は同じなので、図3(A)〜(D)にはロッカーカム111について示すが、このロッカーカム111は、カム面111aと円周状のベース面111bとを有し(図3(D)参照)、それらはいずれもタペット115の上面に摺接するようになっている。ロッカーカム111は、連続的には回転せず、揺動運動することを除いては、一般的な吸気弁駆動機構のカムと同様にタペット115を押圧してバルブを開くものである。タペット115はバルブスプリング116で支えられている。バルブスプリング116は、周知のように保持器117、118の間に支持されている。
再度、図2を参照すると、インナシャフト105およびロッカーカム部品110〜112の組立体と並んで、その上方にコントロールシャフト120が配置されている。このコントロールシャフト120は、図示しないベアリングによって回転可能に支持されており、その長手方向の中央付近には、外周面から突出する同軸状のウォームギヤ121が一体的に設けられている。
ウォームギヤ121はウォーム122と噛合している。このウォーム122は、可変バルブリフト機構(VVL)のアクチュエータである例えばステッピングモータ123の出力軸に固定されている。そして、制御ユニット100からの制御信号(バルブリフト量信号)θVVL_Dを受けたステッピングモータ123の作動により、コントロールシャフト120を所望の位置に回動させることができる。こうして回動されるコントロールシャフト120には、気筒11毎のコントロールアーム131が取り付けられており、これらコントロールアーム131は、コントロールシャフト120の回動によって一体的に回動される。
また、そうして回動されるコントロールアーム131は、コントロールリンク132によってリング状アーム107に連結されている。すなわち、コントロールリンク132の一端部は、コントロールピボット133によってコントロールアーム131の先端部に回転自在に連結され、該コントロールリンク132の他端部は、コモンピボット134によってリング状アーム107に回転自在に連結されている。
ここで、コモンピボット134は、前記のようにコントロールリンク132の他端部をリング状アーム107に連結するとともに、このリング状アーム107を貫通してそれをロッカーリンク135の一端部にも回転自在に連結している。そして、このロッカーリンク135の他端部が、ロッカーピボット136によってロッカーカム111に回転自在に連結されており、これによりリング状アーム107の回転がロッカーカム111に伝えられるようになっている。
より具体的に、インナシャフト105が回転して、これと一体に偏心カム106が回転するとき、図3(A)および(C)に示すように偏心カム106が下側に位置すれば、リング状アーム107も下側に位置するようになり、一方、図3(B)および(D)に示すように偏心カム106が上側に位置すれば、リング状アーム107も上側に位置するようになる。
その際、リング状アーム107とコントロールリンク132とを連結するコモンピボット134の位置は、コントロールピボット133の位置と、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心位置との、3者相互の位置関係によって規定されるから、図示のようにコントロールピボット133の位置が変化しない(コントロールシャフト120が回動しない)とすれば、コモンピボット134は、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心周りの回転のみに対応して概略上下に往復動作するようになる。
そのようなコモンピボット134の往復動作は、ロッカーリンク135によって第1のロッカーカム111に伝えられ、該第1のロッカーカム111を、ロッカーコネクタ110で連結された第2のロッカーカム112と共に中心軸X周りに揺動させる。こうして揺動するロッカーカム111は、図3(B)および(C)に示すように、カム面111aがタペット115の上面に接触する間は、当該タペット115をバルブスプリング116のばね力に抗して押し下げ、このタペット115が吸気弁21を押し下げて、吸気ポート18を開かせる。
一方、図3(A)および(D)に示すように、ロッカーカム111のベース面111bがタペット115の上面に接触するとき、タペット115は押し下げられない。これは、中心軸Xを中心とするロッカーカム111のベース面111bの半径が、その中心軸Xとタペット115の上面との間隔以下に設定されているからである。
上述の如きコントロールピボット133と、コモンピボット134と、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心との相互の位置関係において、コントロールピボット133の位置が変化すれば、これにより3者相互の位置関係に変化が生じ、コモンピボット134は前記とは異なる軌跡を描いて往復動作するようになる。
よって、ステッピングモータ123の作動によりコントロールシャフト120およびコントロールアーム131を回転させて、コントロールピボット133の位置を変えることにより、ロッカーカム111,112の揺動範囲を変更することができる。例えば、コントロールアーム131を図3において時計回りに回動させて、コントロールピボット133を、図3(A)に示す位置から図3(C)に示すように左斜め上側にずらすと、ロッカーカム111の揺動範囲は、相対的にベース面111bがタペット115の上面に接触する傾向の強いものとなる。
図4は、本実施形態に係る吸気弁駆動機構30の設定例を示す図である。
図4を参照して、本実施形態では、上述した吸気弁駆動機構30およびこれに関連する構成部品(特にVCT機構32および可変バルブリフト機構)により、バルブリフト量θVVLは、例えばθVVL_minからθVVL_maxまでの範囲で、各気筒11への目標空気充填量CEの増加に応じて増大するように制御されるとともに、吸気弁21の閉弁時期(吸気弁閉タイミングともいう)は、バルブリフト量θVVLの増大に応じてθVCT_minからθVCT_maxの範囲で連続的に遅角する。吸気弁21の開弁時期および閉弁時期は、必要に応じていかなる組合せも可能であり、例えば、バルブリフト量を0にするいわゆるロストモーション動作も可能である。このように吸気弁駆動機構30(特にVCT機構32および可変バルブリフト機構)は、吸気弁21の閉弁時期を制御する吸気閉弁時期可変機構を構成することになる。そして、VCT機構32の電磁バルブ32aおよび可変バルブリフト機構のステッピングモータ123が、吸気弁21の閉弁時期を制御するためのアクチュエータに相当する。
本実施形態では、例えばエンジン回転速度NENGが1500rpmの時の吸気行程において吸気弁21を開閉する際、吸気弁21の開弁時期については、殆どの運転領域で排気上死点直前(クランク角度で例えば20°CA)から開弁を開始し、エンジン1の要求トルク(目標トルクTQ)に応じて閉弁時期を変更するようにしている。
ここで、本実施形態では、吸気弁21の閉弁時期として、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1st(早閉じ範囲に相当)と、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され且つ前記第1閉弁タイミング範囲IVC1stから離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2nd(遅閉じ範囲に相当)とが設定されており、吸気弁21が第1閉弁タイミング範囲IVC1stで閉じるように運転される早閉じモードMEIVCと、吸気弁21が第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで閉じるように運転される遅閉じモードMLIVCと、運転モードを遅閉じモードMLIVCから早閉じモードMEIVCに切り換える進角遷移モードMTR-Aと、運転モードを早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCに切り換える遅角遷移モードMTR-Rとを設定可能に構成されている。なお、第1および第2閉弁タイミング範囲IVC1st,IVC2ndは、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングを挟んで進角側および遅角側にそれぞれ設定されており、詳しくは後述するように、必ずしも吸気下死点を基準として設定されるものではない(後述する図14参照)。
前記遅閉じモードMLIVCは、エンジン1における機関負荷(要求負荷、つまり目標空気充填量CEと言い換えることができる)と機関速度(エンジン回転速度NENG)とからなるエンジン運転状態(機関運転状態)が高負荷低速側の運転領域(第1運転領域に相当)にあるときに選択されるモードであり、この遅閉じモードMLIVCでは、吸気弁21のバルブリフト量θVVLを大きくし、このバルブリフト量θVVLに対応して吸気弁閉タイミングを例えば吸気下死点よりも遅角する。以下、前記高負荷低速側の運転領域のことを、遅閉じ運転領域という。
一方、前記早閉じモードMEIVCは、前記エンジン運転状態が前記遅閉じ運転領域よりも低負荷ないし高速側の運転領域(第2運転領域に相当)にあるときに選択されるモードであり、この早閉じモードMEIVCでは、吸気弁21のバルブリフト量θVVLを小さくし、このバルブリフト量θVVLに対応して吸気弁閉タイミングを例えば吸気下死点よりも進角する。以下、前記遅閉じ運転領域よりも低負荷ないし高速側の運転領域のことを、早閉じ運転領域という。
なお、本実施形態では、後述の如く、運転モードの切換にヒステリシスを設けているために、遅閉じ運転領域から早閉じ運転領域への切換え時と、早閉じ運転領域から遅閉じ運転領域への切換え時とで、両運転領域が変化することになる(図7参照)。
前述の如く、早閉じモードMEIVCが設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stは、遅閉じモードMLIVCが設定される第2閉弁タイミング範囲IVC2ndよりも進角し且つ離間している。これら閉弁タイミング範囲IVC1st,IVC2ndの間には、遅閉じモードMLIVCおよび早閉じモードMEIVCでは吸気弁21が閉じることのない中間閉弁タイミング範囲IVCIMが設定されている。後述の如く、遅角遷移モードMTR-Rおよび進角遷移モードMTR-Aにおいて、吸気弁閉タイミングが中間閉弁タイミング範囲IVCIMとなる。
次に、上述のような運転モードを設定している理由について説明する。
エンジン1の出力を高め、燃費を低減するために膨張比を高くする一方で、異常燃焼発生を抑制するために、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも進角または遅角させて、有効圧縮比を低くする方法として、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも進角する早閉じでエンジン1を運転制御する場合には、図3(A)および(B)から明らかなように、ロッカーカム111の揺動量は、小さくなり、バルブスプリング116の抵抗も小さくなるので、低負荷側では好ましいものとなる。しかし、要求負荷の増加に応じて、機関速度が上昇するのに連れて、所定の気筒空気充填量を得るための吸気弁21の閉弁時期は遅角する。また、機関速度上昇に伴い、気筒内の混合気の流動性が高まる等の理由により異常燃焼発生可能性は低くなるので、目標とする吸気弁閉タイミングの進角側への制限量は低下する。従って、吸気弁閉タイミングIVCを、機関速度上昇に伴い高い速度で遅角させる必要がある。しかしながら、吸気弁駆動機構30の応答遅れにより、吸気弁21の閉弁時期を目標に沿って高い速度で遅角させることは困難であるので、実際の吸気弁閉タイミングが、目標とする吸気弁閉タイミングよりも進角側となって、気筒空気充填量の低下を招く虞れがある。
他方、吸気弁閉タイミングIVCを、当該エンジン回転速度NENGにおいて気筒空気充填量が最大となるタイミングよりも遅角側に設定した場合、ピストン15が下死点に移動するまで気筒11内に空気を導入する。更に下死点を越えてピストン15が上昇中に、気筒内の空気を吸気通路内に戻すことで有効圧縮比を低減する。これを実現するためには、吸気弁21のバルブリフト量および動弁範囲を最大値近傍まで大きく設定する必要があり(図4参照)、機械的損失が大きくなる懸念がある。
そこで、本実施形態では、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとを設定し、高圧縮比エンジンにおいて、可及的に連続的な運転領域で膨張比を高めるとともに、異常燃焼懸念の高い中間閉弁タイミング範囲IVCIMでは、ノッキング対策を講じることによって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、出力の向上と燃費の低減とを図ることとしているのである。
このような構成を実現するため、本実施形態では、図5および図6のフローチャートが実行されるように設定されている。
図5および図6は、本発明の実施形態に係るエンジン1の制御例を示すフローチャートである。
まず、図5を参照して、制御ユニット100は、最初に諸設定の初期化を実行する(ステップS1)。この初期化において、制御ユニット100は、現在の運転モードMを早閉じモードMEIVCに設定する。
次いで、制御ユニット100は、アクセル開度センサ75からのアクセル開度信号α、クランク角パルス信号に基づくエンジン回転速度NENG、車速センサ76からの車速信号VSPを読み取りまたは算出し、これらの情報に基づいて、目標トルクTQを算出する(ステップS2)。
次いで、制御ユニット100は、目標トルクTQおよびエンジン回転速度NENGに基づき、燃料噴射量FP(或いは空燃比)、目標空気充填量CE、EGR量QEGR、および点火タイミングSAを算出する(ステップS3)。
次いで、制御ユニット100は、予め前記メモリに記憶された制御マップM1のデータを読み取り、この制御マップM1に基づいて目標空気充填量CEとエンジン回転速度NENGの値とに適合する現在の運転領域Rを判定する(ステップS4)。この結果、制御ユニット100は、運転領域Rを図7に示すように判定する。
図7は、図5のフローチャートにおいて判定される運転領域の例を示す特性図である。
図7に示すように、本実施形態では、エンジン回転速度NENGに比例する特性線L1,L2(機関速度毎に定めた所定空気充填量(所定負荷)であるとも言える)を設定し、特性線L1に対して高負荷低速側である遅閉じ運転領域RLIVC(特性線L1上も含む)、つまり目標空気充填量が前記所定空気充填量以上である(要求負荷が前記所定負荷以上である)遅閉じ運転領域RLIVCでは遅閉じモードMLIVCが、特性線L2に対して低負荷ないし高速側の早閉じ運転領域REIVC、つまり目標空気充填量が前記所定空気充填量よりも少ない(要求負荷が前記所定負荷よりも小さい)早閉じ運転領域REIVCでは、早閉じモードMEIVCが、それぞれ選定されるように設定されている。図示の例において、特性線L1と特性線L2との間の過渡領域RTRは、ヒステリシスを設けて運転モードの切換に用いられる領域であり、早閉じ運転領域REIVCから要求負荷が高くなっても、特性線L1に達するか又は特性線L1を越えるまでは、運転モードは早閉じモードMEIVCが維持され、遅閉じ運転領域RLIVCから要求負荷が低くなっても、特性線L2を越えるまでは、運転モードは遅閉じモードMLIVCが維持される。なお、ヒステリシスを設ける必要は必ずしもないが、過渡的で不安定な進角遷移モードMTR-Aや遅角遷移モードMTR-Rが生じる機会を出来る限り少なくするためには、ヒステリシスを設けることが好ましい。
図5を参照して、制御ユニット100は、現在の運転モードMが早閉じモードMEIVCであるか否かを判定する(ステップS5)。仮に運転モードMが早閉じモードMEIVCである場合、制御ユニット100は、さらに現在の目標空気充填量CEおよびエンジン回転速度NENGに基づき現在の運転領域Rを判定し、現在の運転領域Rが遅閉じ運転領域RLIVC以外であるか、すなわち要求負荷に基づく吸気弁閉タイミングIVCが第2閉弁タイミング範囲IVC2nd以外にあるか否かを判定する(ステップS6)。現在の運転領域Rが遅閉じ運転領域RLIVC以外である場合、制御ユニット100は、運転モードMを早閉じモードMEIVCに設定する(ステップS7)。次いで、制御ユニット100は、この早閉じモードMEIVCでの目標空気充填量CE、エンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、スロットル開度TVOを算出し(ステップS8)、この算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCTおよびスロットル開度TVO、並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、EGR量QEGRおよび点火タイミングSAにそれぞれ対応する制御信号θVVL-D、θVCT-D、TVOD、FPD、EGROPENおよびSADを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS9)。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図8は、図5のフローチャートによって設定される早閉じモードMEIVCでの吸気弁閉タイミングの制御例を示す図である。
図8を参照して、同図に示した制御例では、運転領域Rが遅閉じ運転領域RLIVC以外、すなわち吸気弁12の閉弁時期が第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉弁時期は遅角する。また、目標空気充填量CEが増加するほど、吸気弁21の閉弁時期は遅角する。この結果、第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合では、吸気弁21の閉弁時期が遅角することによって、空気充填量CEを増加させ、要求トルクに見合うトルクを出力できるようになっている。
図9は、図5のフローチャートによって設定される早閉じモードMEIVCでのスロットル開度の制御例を示す図である。
図9を参照して、同図に示した制御例では、特性線L1と平行にエンジン回転速度NENGに比例する特性線L3を低負荷側に設定している。特性線L3は、図7に示す特性線L2よりも低負荷ないし高速側であってもよく、特性線L2と同じかまたは特性線L2に対して高負荷ないし低速側であってもよい。この特性線L3に対して低負荷ないし高速側の運転領域では、スロットル開度TVOは、全開になっており、目標空気充填量CEは、専ら、吸気弁21の閉弁時期で制御されるようになっている。このため、充分な空気充填量CEを確保し、ポンプ損失が生じないように制御することが可能になる。他方、特性線L1と特性線L3との間では、要求負荷が高まるに連れて、或いはエンジン回転速度NENGが低減するのに連れて、スロットル開度TVOを小さくするように制御される。このため、エンジン運転状態が、低中負荷中高速運転領域から運転モードMを遅閉じモードMLIVCに設定する必要のある高負荷低速運転領域に近づくに連れて、スロットル弁57下流における、吸気ポート18を含む吸気通路内の圧力を低減する。これにより、高圧縮比エンジンを採用した本実施形態において、運転モードMを切り換える過渡的で不安定な運転領域であっても、吸気弁閉タイミングの変化に伴い一時的に気筒空気充填量が過大となることを抑制して、プリイグニション等の異常燃焼を回避することができる。
次に、図5を参照して、ステップS6において、現在の運転領域Rが遅閉じ領域RLIVCである場合(ステップS6においてNOの場合)、制御ユニット100は、運転モードMを遅角遷移モードMTR-Rに設定する(ステップS10)。次いで、制御ユニット100は、所定のカウント時間CTR-Rをカウント値CTRとして設定し(ステップS11)、この遅角遷移モードMTR-Rでの目標空気充填量CE、エンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、EGR量QEGRおよびスロットル開度TVOを算出する(ステップS12)。所定のカウント時間CTR-Rを設けているのは、吸気弁駆動機構30による吸気弁閉タイミング設定が切り換わるまでの間、一時的に目標空気充填量CEを低減してプリイグニション等の異常燃焼を回避するためである。
ステップS12が実行された後は、ステップS9に移行することにより、遅角遷移モードMTR-Rで算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、EGR量QEGRおよびスロットル開度TVO、並びにステップS3で算出した燃料噴射量FPおよび点火タイミングSAにそれぞれ対応する制御信号θVVL-D、θVCT-D、EGROPEN、TVOD、FPDおよびSADを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図10は、図5のフローチャートによる遅角遷移モードMTR-R(本発明の運転領域移行工程に相当)での制御例を示すタイミングチャートである。
図10に示すように、遅角遷移モードMTR-Rでの制御が実行されると、その開始タイミングt0からカウント値CTRがデクリメントされ(図6のステップS27参照)、タイミングt2で終了する。吸気弁駆動機構30は、カウントを開始したタイミングt0から吸気弁閉タイミングを第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに移動するために、遅角を開始する。この遅角遷移モードMTR-Rにおいては、スロットルアクチュエータ58がスロットル弁57を一時的に閉方向に駆動して、吸気通路内の圧力を低下させる。すなわち、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側で吸気弁21を閉じる場合には、スロットル開度TVOが、吸気弁21の閉弁時期が遅角するのに連れて(例えば遅角に比例して)低減し、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側で吸気弁21を閉じる場合には、スロットル開度TVOが、吸気弁21の閉弁時期が遅角するのに連れて増大する。これにより、当該気筒11において、吸気弁21がプリイグニション等の異常燃焼が懸念される中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入り込んだとしても、スロットル弁57の一時的閉作動による吸気通路内の圧力の低下によって異常燃焼が防止される。
また、遅角遷移モードMTR-Rにおいて、EGR弁アクチュエータ64がEGR弁63を一時的に開方向に駆動して、EGR弁63の開度(EGR量QEGR)を増大させる。すなわち、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側で吸気弁21を閉じる場合には、EGR量QEGRが、吸気弁21の閉弁時期が遅角するのに連れて(例えば遅角に比例して)増大し、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側で吸気弁21を閉じる場合には、EGR量QEGRが、吸気弁21の閉弁時期が遅角するのに連れて低減する。前記EGR弁63の一時的開動作により、筒内残留ガスである内部EGRよりも低温の外部EGRが筒内に導入されるので、より確実に異常燃焼を回避することが可能になる。
吸気弁閉タイミングの遷移は、カウントの終了タイミングt2よりも早いタイミングt1で終了するように、諸元が設定される。すなわち、このタイミングt1を経過した時点では、ステップS12で設定されるEGR量QEGRおよびスロットル開度TVOが、遅閉じモードMLIVCと同様の値に切り換えられる。このため、タイミングt1を経過した時点では、未だ遅角遷移モードMTR-Rではあるが、運転モードの遷移は実際には終了していることになる。
次に、図5に示したフローチャートのステップS5において、制御ユニット100に設定されている運転モードMが早閉じモードMEIVCではなかった場合(ステップS5において、NOの場合)の制御例について、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
運転モードMが早閉じモードMEIVCではなかった場合、制御ユニット100は、さらに運転モードMが遅閉じモードMLIVCであるか否かを判定する(ステップS20)。仮に運転モードMが遅閉じモードMLIVCである場合、制御ユニット100は、さらに現在の目標空気充填量CEおよびエンジン回転速度NENGに基づき運転領域Rを判定し、現在の運転領域Rが早閉じ運転領域REIVC以外であるか、すなわち要求負荷に基づく吸気弁閉タイミングIVCが第1閉弁タイミング範囲IVC1st以外にあるか否かを判定する(ステップS21)。現在の運転領域Rが早閉じ運転領域REIVC以外である場合、制御ユニット100は、運転モードMを遅閉じモードMLIVCに設定する(ステップS22)。次いで、制御ユニット100は、この遅閉じモードMLIVCでの目標空気充填量CEおよびエンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、スロットル開度TVOを算出し(ステップS23)、この算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCTおよびスロットル開度TVO、並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、EGR量QEGRおよび点火タイミングSAにそれぞれ対応する制御信号θVVL-D、θVCT-D、TVOD、FPD、EGROPENおよびSADを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS9)。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図11は、図6のフローチャートによって設定される遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御例を示す図であり、図12は、図6のフローチャートによって設定される遅閉じモードMLIVCでのスロットル開度の制御例を示す図である。各図において、(A)は目標空気充填量CEに応じてスロットル開度を並行して制御する場合であり、(B)はスロットル開度を一定に維持する場合である。
図11(A)および図12(A)を参照して、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じる場合において、スロットル開度TVOを変更しながら目標空気充填量CEを制御する場合には、目標空気充填量CEの増減に拘わらず、吸気弁閉タイミングを一定にし、スロットル弁57下流における、吸気ポート18を含む吸気通路内の圧力を制御することで、気筒空気充填量が変化する。
他方、図11(B)および図12(B)に示すように、機関速度が一定の条件のもとでスロットル開度TVOを一定に維持し、目標空気充填量CEが増加するに連れて吸気弁閉タイミングを進角させる場合には、吸気弁閉タイミングが第2閉弁タイミングIVC2nd内で進角するに連れて、そのときの最大気筒空気充填量が得られる吸気弁閉タイミングに近づくので、気筒空気充填量が制御される。その際に、スロットル開度TVOは比較的大きな値で一定に維持され、吸気通路内の圧力が高く維持されるので、ポンプ損失が低い状態が維持される。
図11(A)および(B)の何れの場合においても、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉弁時期は遅角する。また、図12(A)および(B)の何れの場合においても、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、スロットル開度TVOは、大きく制御される。これは、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気慣性力が増加し、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングが遅角することに対応しているのであり、この制御によって、所要の目標空気充填量CEを確保することができるのである。
次に、図6を参照して、ステップS21において、現在の要求負荷に基づく吸気弁閉タイミングIVCが第1閉弁タイミング範囲IVC1stにある場合(ステップS21において、NOの場合)、制御ユニット100は、運転モードMを進角遷移モードMTR-Aに設定する(ステップS24)。次いで、制御ユニット100は、所定のカウント時間CTR-Aをカウント値CTRとして設定し(ステップS25)、この進角遷移モードMTR-Aでの目標空気充填量CEおよびエンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、EGR量QEGRおよびスロットル開度TVOを算出する(ステップS26)。
ステップS26が実行された後は、ステップS9に移行することにより、進角遷移モードMTR-Aで算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、EGR量QEGRおよびスロットル開度TVO、並びにステップS3で算出した燃料噴射量FPおよび点火タイミングSAにそれぞれ対応する制御信号θVVL-D、θVCT-D、EGROPEN、TVOD、FPDおよびSADを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図13は、図6のフローチャートによる進角遷移モードMTR-A(本発明の運転領域移行工程に相当)での制御例を示すタイミングチャートである。
図13に示すように、進角遷移モードMTR-Aでの制御が実行されると、その開始タイミングt0からカウント値CTRがデクリメントされ(図6のステップS27参照)、タイミングt2で終了する。吸気弁駆動機構30は、カウントを開始したタイミングt0から吸気弁閉タイミングを第1閉弁タイミング範囲IVC1stに移動するために、進角を開始する。この進角遷移モードMTR-Aにおいては、スロットルアクチュエータ58がスロットル弁57を一時的に閉方向に駆動して、吸気通路内の圧力を低下させる。すなわち、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側で吸気弁21を閉じる場合には、スロットル開度TVOが、吸気弁21の閉弁時期が進角するのに連れて(例えば進角に比例して)低減し、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側で吸気弁21を閉じる場合には、スロットル開度TVOが、吸気弁21の閉弁時期が進角するのに連れて増大する。これにより、当該気筒11において、吸気弁21がプリイグニション等の異常燃焼が懸念される中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入り込んだとしても、スロットル弁57の一時的閉作動による吸気通路内の圧力の低下によって異常燃焼が防止される。
また、進角遷移モードMTR-Aにおいて、EGR弁アクチュエータ64がEGR弁63を一時的に開方向に駆動して、EGR弁63の開度(EGR量QEGR)を増大させる。すなわち、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側で吸気弁21を閉じる場合には、EGR量QEGRが、吸気弁21の閉弁時期が進角するのに連れて(例えば進角に比例して)増大し、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側で吸気弁21を閉じる場合には、EGR量QEGRが、吸気弁21の閉弁時期が進角するのに連れて低減する。前記EGR弁63の一時的開動作により、筒内残留ガスである内部EGRよりも低温の外部EGRが筒内に導入されるので、より確実に異常燃焼を回避することが可能になる。
吸気弁閉タイミングの遷移は、カウントの終了タイミングt2よりも早いタイミングt1で終了するように、諸元が設定される。すなわち、このタイミングt1を経過した時点では、ステップS26で設定されるEGR量QEGRおよびスロットル開度TVOが、早閉じモードMEIVCと同様の値に切り換えられる。このため、タイミングt1を経過した時点では、未だ進角遷移モードMTR-Aではあるが、運転モードの遷移は実際には終了していることになる。
次に、図6のフローチャートにおいて、制御ユニット100に設定されている運転モードMが遅閉じモードMLIVCではなかった場合(ステップS20において、NOの場合)、運転モードMは、遅角遷移モードMTR-Rおよび進角遷移モードMTR-Aのうちの何れかである。
そこで、本実施形態では、まず、制御ユニット100がカウント値CTRをデクリメントし(ステップS27)、運転モードMが進角遷移モードMTR-Aであるか否かを判定する(ステップS28)。
仮に運転モードMが進角遷移モードMTR-Aである場合、制御ユニット100は、カウント値CTRが0よりも大きいか否かを判定する(ステップS29)。仮にカウント値CTRが0よりも大きい場合、制御ユニット100は、ステップS26以降の制御を実行する。これにより、進角遷移モードMTR-Aでの運転制御が継続される。
ステップS29において、カウント値CTRが0以下である場合、既に吸気弁駆動機構30による吸気弁21の運転モード切換は完全に終了しているので、ステップS7以降のステップに移行して、運転モードMを早閉じモードMEIVCに切り換え、上述した早閉じモードでの運転制御を繰り返す。
ステップS28において、運転モードMが遅角遷移モードMTR-Rである場合、制御ユニット100は、カウント値CTRが0よりも大きいか否かを判定する(ステップS30)。仮にカウント値CTRが0よりも大きい場合、制御ユニット100は、ステップS12以降の制御を実行する。これにより、遅角遷移モードMTR-Rでの運転制御が継続される。他方、ステップS30において、カウント値CTRが0以下である場合、既に吸気弁駆動機構30による吸気弁21の運転モード切換は完全に終了しているので、ステップS22以降のステップに移行して、運転モードMを遅閉じモードMLIVCに切り換え、上述した遅閉じモードでの運転制御を繰り返す。
図14は、図5および図6のフローチャートを実行した制御例を示す吸気弁閉タイミングと目標空気充填量CEとの関係のグラフである。図14において、(A)は遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を並行して制御する場合、(B)は遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を一定に維持する場合である。
図14(A)を参照して、遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を並行して制御する場合、吸気弁21の閉弁時期を最も進角側に固定して目標空気充填量CEを制御することができるので、早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCへ切り換える時の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)も最小となり、早閉じモードMEIVCからの切り換えに要する時間を可及的に短くすることができる。
他方、図14(B)を参照して、遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を一定に維持する場合、早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCへ切り換える時の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)は最大となるが、吸気通路内の圧力を高く維持することができるので、ポンプ損失を最小のものとし、高い出力を維持することができる。
何れの場合においても、エンジン回転速度NENGが上昇するにつれて、吸気弁閉タイミングが遅角するので、エンジン回転速度NENGが高いほど第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の中間閉弁タイミング範囲IVCIMが小さくなり、ある回転速度(例えば、2500rpm)以上では、専ら第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じることとなり、運転モードMの切り換えは不要となる。
上述した図5および図6におけるエンジン1の運転モードMの切り換えに関する制御(以下、通常制御という)は、前記吸気閉弁時期可変機構の応答速度、つまり吸気弁閉タイミングの変化速度が速い前提で実行されるものである。すなわち、エンジン1の始動後間もないときのようにエンジン1の温度が低くて潤滑油の粘性が高いときには、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が遅くなって、第1閉弁タイミング範囲IVC1st(早閉じ範囲)と第2閉弁タイミング範囲IVC2nd(遅閉じ範囲)との間の移行に要する時間(運転領域移行工程の期間)が長くなり、その長くかかる移行中においては要求空気量が更に変化し易く、要求空気量が更に変化すると、各制御パラメータの時間関数から推定される空気充填量や有効圧縮比が、実際の値と大きくずれる可能性が高くなる。この結果、噴射された燃料に対して空気が過剰となるか又は不足して、内燃機関の出力トルクが要求トルクからずれてしまい、十分なトルク過渡応答性を得ることができなくなるという問題がある。
そこで、本実施形態では、以下の第1例〜第3例で説明する対策を講じて、前記移行中にエンジン1のトルク過渡応答性が低下するのを抑制する。
(第1例)
本例では、制御ユニット100が、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定して、その判定される吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認される前では、各気筒サイクルにおいて、第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21を閉じるようにする(本発明の確認前工程に相当)。エンジン1の始動時も、第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21を閉じる。一方、前記判定される吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認された場合には、前記通常制御を実行する(本発明の確認後工程に相当)。
この制御ユニット100の処理動作を、図15のフローチャートに基づいて説明する。
最初のステップS51で、各種信号を読み込み、次のステップS52で、エンジン1の始動が完了したか否かを判定する。
前記ステップS52の判定がNOであるときには、ステップS53に進んで、運転モードMを遅閉じ始動モードMLIVC_STARTに設定する。この遅閉じ始動モードMLIVC_STARTでは、吸気弁閉タイミングを、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの中で最大に遅角したタイミングとする。これにより、エンジン1の始動時に、十分な空気充填量を確保する。
一方、前記ステップS52の判定がYESであるときには、ステップS54に進んで、エンジン水温TENG(水温センサにより検出されて制御ユニット100に入力される)が所定閾値T1以上であるか否かを判定する。この所定閾値T1は、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が前記所定速度以上となるような温度ないしそれよりも僅かに低い温度に設定されている。
前記ステップS54の判定がNOであるときには、ステップS55に進んで、運転モードMを遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEに設定する。この遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEでは、エンジン運転状態が早閉じ運転領域になっても、早閉じモードMEIVCへの移行はなされず、遅閉じモードMLIVCに固定された状態となる。すなわち、エンジン運転状態が遅閉じ運転領域であれば、前記通常制御時の遅閉じモードMLIVCと同様の制御となるが、エンジン運転状態が早閉じ運転領域になっても、遅閉じモードMLIVCのままであり、この遅閉じモードMLIVCで、目標空気充填量CEが少なくなることに対応するために、通常制御時の遅閉じモードMLIVCよりもスロットル弁57を絞ることになる。このことは、ポンプ損失による機関運転効率の悪化により燃費には不利となるが、エンジン1の暖機促進には有利となる。
一方、前記ステップS54の判定がYESであるときには、ステップS56に進んで、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であるか否かを判定する。
前記ステップS56の判定がNOであるとき(応答速度が求まっていないときを含む)には、ステップS57に進んで、吸気閉弁時期可変機構の応答速度を確認可能な状況にあるか否かを判定する。すなわち、運転モードMを、応答速度を求めるために吸気弁閉タイミングを第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で強制的に変化させる応答速度確認モードMLIVC_CHECKに設定してもエンジン1の運転上問題がない状況にあるか否かを判定する。
前記ステップS57の判定がNOであるときには、ステップS54の判定がNOであるときと同様に、ステップS55に進んで、運転モードMを遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEに設定し、しかる後にリターンする。
一方、前記ステップS57の判定がYESであるときには、ステップS58に進んで、運転モードMを前記応答速度確認モードMLIVC_CHECKに設定し、次のステップS59で、吸気弁閉タイミングの変化からその変化速度(つまり吸気閉弁時期可変機構の応答速度)を演算し、しかる後にリターンする。
前記ステップS56の判定がYESであるときには、ステップS60に進んで、前記通常制御を実行する。すなわち、エンジン運転状態が早閉じ運転領域にあるか遅閉じ運転領域にあるかに応じて、運転モードMを、早閉じモードMEIVC、遅閉じモードMLIVC、進角遷移モードMTR-A、および、遅角遷移モードMTR-Rのいずれかに設定する。ステップS60の後は、リターンする。
なお、図15のフローチャートでは、吸気閉弁時期可変機構の応答速度を求めるために、運転モードMを応答速度確認モードMLIVC_CHECKに設定するようにしたが、それに代えて、後述の第2例の如く、遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEでの制御によって吸気弁閉タイミングが変化する毎にその変化速度を求めるようにしてもよい。
前記制御ユニット100の処理動作により、エンジン水温が所定閾値よりも低い状態(潤滑油の粘度が高い状態)、又は、エンジン水温が所定閾値以上であっても、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度未満であるときには、運転モードMが遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEに設定される。そして、エンジン水温が所定閾値以上となって、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認されると、前記通常制御が実行される。
従って、本例では、エンジン水温が低くて、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度よりも小さいために運転領域移行工程にかかる時間が長くなるような場合には、吸気弁21の閉弁時期が、第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内に固定されて、第1閉弁タイミング範囲IVC1stへの移行が行われず、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上となれば、前記通常制御が実行される。このときの、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の移行に要する時間は短くて済む。この結果、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の移行中に要求空気量が更に変化してエンジン1のトルク過渡応答性が低下するのを抑制することができる。また、前記確認後にスロットル弁57が一時的に閉じられても、その時間は短いので、ポンプ損失増大による機関運転効率の低下を抑制することができる。
(第2例)
本例では、制御ユニット100が、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定して、その判定される吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認される前では、各気筒サイクルにおいて、第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じるようにする(本発明の確認前工程に相当)。エンジン1の始動時も、第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じる。一方、前記判定される吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認された場合には、前記通常制御を実行する(本発明の確認後工程に相当)。
この制御ユニット100の処理動作を、図16のフローチャートに基づいて説明する。
最初のステップS71で、各種信号を読み込み、次のステップS72で、エンジン1の始動が完了したか否かを判定する。
前記ステップS72の判定がNOであるときには、ステップS73に進んで、運転モードMを早閉じ始動モードMEIVC_STARTに設定する。この早閉じ始動モードMEIVC_STARTでは、吸気弁閉タイミングを、第1閉弁タイミング範囲IVC1stの中で最大に遅角した吸気弁閉タイミングとする。これにより、エンジン1の始動時に、出来る限り空気充填量を確保する。
一方、前記ステップS72の判定がYESであるときには、ステップS74に進んで、エンジン水温TENGが所定閾値T1(前記第1例の所定閾値T1と同じ値)以上であるか否かを判定する。エンジン水温TENGは、エンジン1の温度に相当しており、ステップS74の判定は、エンジン1の温度が所定温度以上であるか否かの判定に相当する。
前記ステップS74の判定がNOであるときには、ステップS75に進んで、運転モードMを早閉じセーフモードMEIVC_SAFEに設定する。この早閉じセーフモードMEIVC_SAFEでは、エンジン運転状態が遅閉じ運転領域になっても、遅閉じモードMLIVCへの移行はなされず、早閉じモードMEIVCに固定された状態となる。すなわち、エンジン運転状態が早閉じ運転領域であれば、前記通常制御時の早閉じモードMEIVCと同様の制御となるが、エンジン運転状態が遅閉じ運転領域になっても、早閉じモードMEIVCのままであり、この早閉じモードMEIVCで、目標空気充填量CEが多くなることに対応するために、通常制御時の早閉じモードMEIVCよりも吸気弁閉タイミングを遅角しかつスロットル弁57を開けることになる。なお、要求負荷が最大ないしそれに近い運転領域は、早閉じモードMEIVCで対応することができず、その場合には、出力が低下することになる。但し、エンジン水温が低い状態で、そのような運転領域になることは殆どなく、大きな問題とはならない。
ステップS75の次に進むステップS76では、今回検出された、吸気弁閉タイミングの変化速度ΔIVC_nが、現時点までに検出された、吸気弁閉タイミングの変化速度の最大値ΔIVCmaxよりも大きいか否かを判定する。
前記ステップS76の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS76の判定がYESであるときには、ステップS77に進んで、今回検出された変化速度ΔIVC_nを最大値ΔIVCmaxとし、しかる後にステップS78に進む。
ステップS78では、前記最大値ΔIVCmaxが、早閉じセーフモード解除のための変化速度閾値ΔIVCTH以上であるか否かを判定する。すなわち、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が前記所定速度以上であるか否かを判定する。
前記ステップS78の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS78の判定がYESであるときには、ステップS79に進んで、早閉じセーフモード解除フラグF1を1に設定し、しかる後にリターンする。
前記ステップS74の判定がYESであるときには、ステップS80に進んで、前記早閉じセーフモード解除フラグF1が1に設定されているか否かを判定する。
前記ステップS80の判定がNOであるときには、前記ステップS74の判定がNOであるときと同様に、ステップS75に進む一方、ステップS78の判定がYESであるときには、ステップS81に進んで、前記通常制御を実行し、しかる後にリターンする。
前記制御ユニット100の処理動作により、エンジン1の始動完了後間もない、エンジン水温が低い状態(潤滑油の粘度が高い状態)では、運転モードMが早閉じセーフモードMEIVC_SAFEに設定される。そして、エンジン水温が所定閾値よりも高くなり且つ吸気閉弁時期可変機構の応答速度が前記所定速度以上となると、前記通常制御が実行される。
また、エンジン水温TENGが所定閾値T1未満であるとき(エンジン1の温度が所定温度未満であるとき)から、エンジン水温TENGが所定閾値T1以上となり(エンジン1の温度が所定温度以上となり)且つ吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認されるまで、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさが判定されるが、前記確認後の通常制御では、前記応答速度が所定速度以上であるものとして、本例では、応答速度の大きさは判定されない。
従って、本例では、エンジン水温が低くて、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度よりも小さいために運転領域移行工程にかかる時間が長くなるような場合には、吸気弁21の閉弁時期が、第1閉弁タイミング範囲IVC1st内に固定されて、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndへの移行が行われない。この結果、前記第1例と同様に、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の移行中に要求空気量が更に変化してエンジン1のトルク過渡応答性が低下するのを抑制することができる。また、その移行時におけるポンプ損失増大による機関運転効率の低下を抑制することができる。
なお、エンジン1の始動時は遅閉じ始動モードMLIVC_STARTとし、その始動完了後に早閉じセーフモードMEIVC_SAFEに移行するか、又は、始動完了後に遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEとし、エンジン水温TENGが、前記所定閾値T1よりも小さい第2所定閾値T2になったときに、早閉じセーフモードMEIVC_SAFEに移行し、エンジン水温TENGが所定閾値T1以上となり且つ吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上となる前は、第2例の如く、早閉じセーフモードMEIVC_SAFEを維持し、エンジン水温TENGが所定閾値T1以上となり且つ吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認されると、前記通常制御を実行するようにしてもよい。この場合、遅閉じ始動モードMLIVC_START又は遅閉じセーフモードMLIVC_SAFEから早閉じセーフモードMEIVC_SAFEへの移行に要する時間は、長くかかる可能性が高いが、エンジン水温がかなり低い状態であるため、その移行中に要求空気量が大きく変化することが殆どなく、問題はない。また、その移行中は、スロットル弁57を出来る限り絞ることで、異常燃焼を防止することができる。
(第3例)
本例では、前記第2例と同様に、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認される前では、各気筒サイクルにおいて、第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じる一方、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認された場合には、前記通常制御を実行するが、この通常制御の進角遷移モードMTR-Aおよび遅角遷移モードMTR-R(つまり確認後工程における運転領域移行工程)において、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定して、その応答速度が小さいほど、運転領域移行工程開始時における吸気弁21の閉弁時期を、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期に近付けるようにする。すなわち、図7で説明した特性線L1を、前記応答速度が小さいほど高負荷ないし低速側へ移動させ、特性線L2を、前記応答速度が小さいほど低負荷ないし高速側へ移動させる。
この制御ユニット100の処理動作を、図17のフローチャートに基づいて説明する。なお、図17のフローチャートのステップS101〜S111は、前記第2例に係る図16のフローチャートのステップS71〜S81とそれぞれ同様であるので、その説明は省略する。
ステップS111にて通常制御が実行された後のステップS112では、運転モードMが進角遷移モードMTR-Aであるか否かを判定する。このステップS112の判定がYESであるときには、ステップS113に進んで、今回検出された、進角遷移モードMTR-Aにおける吸気弁閉タイミングの変化速度ΔIVCA_nが、現時点までに検出された、進角遷移モードMTR-Aにおける吸気弁閉タイミングの変化速度の最大値ΔIVCAよりも大きいか否かを判定する。
前記ステップS113の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS113の判定がYESであるときには、ステップS114に進んで、今回検出された変化速度ΔIVCA_nを最大値ΔIVCAとし、しかる後にステップS115に進む。
ステップS115では、前記特性線L2を修正する。すなわち、前記最大値ΔIVCAから、進角遷移モードMTR-Aにおける吸気弁閉タイミングの変化速度に関する設計速度の最大値ΔIVCA_Dを引いた値の絶対値|ΔIVCA−ΔIVCA_D|を計算し、図18に示す如く、|ΔIVCA−ΔIVCA_D|と補正量との関係を示すマップ(予め前記メモリに記憶されている)を用いて、その計算した絶対値|ΔIVCA−ΔIVCA_D|から補正量を求める。この補正量は、吸気弁閉タイミングの変化速度が前記設計速度の最大値である場合に対応したL2基準線(図19に一点鎖線で示す)に対する、特性線L2の低負荷ないし高速側へのずれ量である。吸気弁閉タイミングの変化速度(吸気閉弁時期可変機構の応答速度)が小さい(遅い)ほど補正量が大きくなって、図19に示すように、特性線L2が低負荷ないし高速側に移動することになる。これにより、次に進角遷移モードMTR-Aが開始される際の吸気弁閉タイミングは、図20に示すように、吸気弁閉タイミングの変化速度(吸気閉弁時期可変機構の応答速度)が小さい(遅い)ほど、進角側に移動することになる。つまり、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndが、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期の側(進角側)へ拡がって、中間閉弁タイミング範囲IVCIMが狭くなる。なお、進角遷移モードMTR-Aが開始される際の吸気弁閉タイミングが進角側に移動することに対応して、異常燃焼を防止するべく、進角側に移動するほど、進角遷移モードMTR-Aが開始される際のスロットル弁57の開度が小さくされる。
ステップS115に続くステップS116では、前記絶対値|ΔIVCA−ΔIVCA_D|に基づいて、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCTおよびスロットル開度TVOを修正する。すなわち、図20に示すように、次回の進角遷移モードMTR-Aにおいて、吸気弁閉タイミングの変化速度(吸気閉弁時期可変機構の応答速度)が小さい(遅い)ほど、吸気弁閉タイミングを進角側にするとともにスロットル弁57の開度を小さくする。ステップS116の後は、リターンする。
前記ステップS112の判定がNOであるときには、ステップS117に進んで、運転モードMが遅角遷移モードMTR-Rであるか否かを判定する。このステップS117の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS117の判定がYESであるときには、ステップS118に進んで、今回検出された、遅角遷移モードMTR-Rにおける吸気弁閉タイミングの変化速度ΔIVCR_nが、現時点までに検出された、遅角遷移モードMTR-Rにおける吸気弁閉タイミングの変化速度の最大値ΔIVCRよりも大きいか否かを判定する。
前記ステップS118の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS118の判定がYESであるときには、ステップS119に進んで、今回検出された変化速度ΔIVCR_nを最大値ΔIVCRとし、しかる後にステップS120に進む。
ステップS120では、前記特性線L1を修正する。すなわち、前記最大値ΔIVCRから、遅角遷移モードMTR-Rにおける吸気弁閉タイミングの変化速度に関する設計速度の最大値ΔIVCR_Dを引いた値の絶対値|ΔIVCR−ΔIVCR_D|を計算し、|ΔIVCR−ΔIVCR_D|と補正量との関係を示す、図18と同様のマップ(予め前記メモリに記憶されている)を用いて、その計算した絶対値から補正量を求める。この補正量は、吸気弁閉タイミングの変化速度が前記設計速度の最大値である場合に対応したL1基準線(図19に一点鎖線で示す)に対する、特性線L1の高負荷ないし低速側へのずれ量である。吸気弁閉タイミングの変化速度(吸気閉弁時期可変機構の応答速度)が小さい(遅い)ほど補正量が大きくなって、図19に示すように、特性線L1が高負荷ないし低速側に移動することになる。これにより、次に遅角遷移モードMTR-Rが開始される際の吸気弁閉タイミングは、図21に示すように、吸気弁閉タイミングの変化速度(吸気閉弁時期可変機構の応答速度)が小さい(遅い)ほど、遅角側に移動することになる。つまり、第1閉弁タイミング範囲IVC1stが、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期の側(進角側)へ拡がって、中間閉弁タイミング範囲IVCIMが狭くなる。なお、遅角遷移モードMTR-Rが開始される際の吸気弁閉タイミングが遅角側に移動することに対応して、異常燃焼を防止するべく、遅角側に移動するほど、遅角遷移モードMTR-Rが開始される際のスロットル弁57の開度が小さくされる。
ステップS120に続くステップS121では、前記絶対値|ΔIVCR−ΔIVCR_D|に基づいて、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCTおよびスロットル開度TVOを修正する。すなわち、図21に示すように、次回の遅角遷移モードMTR-Rにおいて、吸気弁閉タイミングの変化速度(吸気閉弁時期可変機構の応答速度)が小さい(遅い)ほど、吸気弁閉タイミングを遅角側にするとともにスロットル弁57の開度を小さくする。ステップS121の後は、リターンする。
前記制御ユニット100の処理動作により、通常制御の進角遷移モードMTR-Aおよび遅角遷移モードMTR-R(つまり確認後工程における運転領域移行工程)において、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定して、その応答速度が小さいほど、運転領域移行工程開始時における吸気弁21の閉弁時期が、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期に近付いて、中間閉弁タイミング範囲IVCIMが狭くなる。この結果、吸気閉弁時期可変機構の応答速度に関係なく、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の移行に要する時間が短時間で安定するようになる。よって、通常制御における前記移行中にトルク過渡応答性が低下するのを出来る限り抑制することができるようになる。
ここで、通常制御を実行しても、進角遷移モードMTR-A又は遅角遷移モードMTR-Rとならない場合には、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定することができない。この場合、応答速度の大きさが判定される前の、運転領域移行工程開始時における吸気弁21の閉弁時期は、該応答速度の大きさが判定された後の該閉弁時期よりも、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期から離間していることが好ましい。これは、安全性を考慮して、空気充填量が過剰になるのを確実に防止するためである。
また、同様の理由で、前記応答速度の大きさが判定される前の、運転領域移行工程におけるスロットル弁57の開度は、該応答速度の大きさが判定された後の該開度よりも小さいことが好ましい。
なお、本例では、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が所定速度以上であることが確認される前では、前記第2例と同様に、各気筒サイクルにおいて、第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じるようにするようにしたが、前記第1例の如く、各気筒サイクルにおいて、第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21を閉じるようにしてもよい。
また、本例では、通常制御の進角遷移モードMTR-Aおよび遅角遷移モードMTR-R(運転領域移行工程)において、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定するようにしたが、これに代えて、或いは、これに加えて、通常制御の早閉じモードMEIVCおよび遅閉じモードMLIVCにおいて、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定するようにしてもよい。
以上のように、本例では、通常制御においても、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定して、その応答速度が小さいほど、運転領域移行工程開始時における吸気弁21の閉弁時期を、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期に近付けるので、本例の所定閾値T1としての値を、第2例の所定閾値T1よりも小さくすることが可能になる。すなわち、吸気閉弁時期可変機構の応答速度が小さい(遅い)状態で通常制御を実行したとしても、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の移行に要する時間は、応答速度が大きい(速い)場合とほぼ同じになり、その移行中にエンジン1のトルク過渡応答性が低下するのを出来る限り回避することができる。
このような観点から、エンジン1の始動完了後に、早閉じモードや遅閉じモードに固定することなく、始動完了後直ぐに通常制御を行うようにしてもよい。そして、この通常制御において、吸気閉弁時期可変機構の応答速度の大きさを判定して、その応答速度が小さいほど、運転領域移行工程開始時における吸気弁21の閉弁時期を、当該機関速度において空気充填量が最大となる時期に近付けるようにする。これにより、前述の如く、吸気閉弁時期可変機構の応答速度に関係なく、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の移行に要する時間を短時間で安定させることができる。なお、エンジン1の始動時は、前記遅閉じ始動モードMLIVC_STARTに設定するのが好ましいが、前記早閉じ始動モードMEIVC_STARTに設定してもよい。