以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いたエアフロメータ18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。また、シリンダブロック2には機関冷却水温を検出するための水温センサ22が取り付けられている。
一方、図1に示した実施形態ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、さらに実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示した実施形態ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35及び出力ポート36を具備する。エアフロメータ18、空燃比センサ21及び水温センサ22の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。さらに入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42と車速に比例した出力パルスを発生する車速センサ43とが接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火プラグ6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内にはそれぞれ断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示したように一対のカムシャフト54、55が設けられており、各カムシャフト54、55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54、55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54、55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示したようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示したようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54、55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示したように互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示したように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示した方向に回転させると図3(C)に示したように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)にはそれぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)を比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、したがって各カムシャフト54、55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示したように各カムシャフト54、55をそれぞれ反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸にはそれぞれ螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61、62が取付けられており、これらウォーム61、62と噛合するウォームホイール63、64がそれぞれ各カムシャフト54、55の端部に固定されている。この実施形態では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。なお、図1から図3に示される可変圧縮比機構Aは一例を示すものであっていかなる形式の可変圧縮比機構でも用いることができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転し且つ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側にはそれぞれ進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76、77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76、77にそれぞれ連結された油圧ポート79、80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83、84と、各ポート79、80、82、83、84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示した中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。したがって可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。したがって吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、したがって吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1及び図4に示した可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A)、(B)、(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A)、(B)、(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示した例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。すなわち、図6(B)に示したように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。したがって実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示した例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示した例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7及び図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A)、(B)、(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。すなわち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、すなわち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、すなわち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。したがって通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見出されたのである。すなわち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。したがって膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、したがって実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示した通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示した場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、したがって機関運転時における熱効率を向上させるためには、すなわち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示した超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、したがってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。したがって本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ運転制御全般について説明する。
図9には機関負荷に応じた機械圧縮比、膨張比、吸気弁7の閉弁時期、実圧縮比、吸入空気量、スロットル弁17の開度およびポンピング損失の各変化が示されている。なお、本発明による実施例では触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOxを同時に低減しうるように通常燃焼室5内における平均空燃比は空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示した通常のサイクルが実行される。したがって図9に示したようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示したように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開又はほぼ全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
一方、図9において実線で示したように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、したがって機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、したがって燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。このときにもポンピング損失は零となる。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。すなわち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。したがってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示した例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷がさらに低くなると機械圧縮比はさらに増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる最大限界機械圧縮比に達する。機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に保持される。したがって低負荷側の機関中負荷運転時及び機関低負荷運転時には、すなわち機関低負荷運転側では、機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示した実施形態では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示した実施形態ではこのとき、すなわち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。したがって、図9において実線で示した場合と破線で示した場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施形態では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができるが、以下本発明について吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させた場合を例にとって説明する。
ところで前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。したがって本発明では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
さて、図9に示したようにアイドル運転時には通常、吸気弁7の閉弁時期は限界閉弁時期付近となっている。しかしながら、本実施形態では、アイドル運転時における吸気弁7の閉弁時期は必要に応じて種々に変更せしめられる。例えば、サージタンク12内の負圧によって作動する装置(ブレーキブースター等)のためにサージタンク12内に負圧を発生させることが必要な場合等においては、スロットル弁開度が比較的小さくされ、これに伴って吸気弁7の閉弁時期が或る程度進角せしめられる。したがって、本実施形態では、吸気弁7の閉弁時期は、限界閉弁時期から進角側の時期までの間で様々な時期に設定せしめられることになる。
ところで、一般に、アイドル運転時には、機関回転数が目標アイドル回転数からずれたときには機関回転数が目標アイドル回転数となるようにスロットル弁開度を変化させて吸入空気量を制御する回転数制御が行われる。一方、上述したように本実施形態の火花点火式内燃機関では、アイドル運転時には限界閉弁時期から進角側の時期までの間の様々な時期に設定される。特に、アイドル運転時に吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期付近の遅角側の時期にされていると、回転数の収束性や制御性が悪化する。以下、このことについて説明する。
図10は、機関回転数とクランクシャフト一回転当たりに燃焼室5内に供給される吸入空気量との関係を示している。図10からわかるように、吸気弁7の閉弁時期が比較的進角側の時期となっている場合(例えば、図中の60°ABDC)、機関回転数が小さくなるにつれて一回転当たりの吸入空気量が大きく増大する。このため、アイドル運転時において機関回転数が目標アイドル回転数よりも低下すると、燃焼室5内に供給される吸入空気量が増大し、これに伴って発生トルクが増大し、結果的に機関回転数が増大することになる。このため、吸気弁7の閉弁時期が比較的進角側の時期となっている場合には、特に積極的な制御を行わなくても機関回転数が目標アイドル回転数付近に収束するようになる。
一方、図10からわかるように、アイドル運転時において吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期付近の遅角側の時期となっている場合(例えば、図中の130°ABDC)、機関回転数が小さくなっても一回転当たり吸入空気量はそれほど増大しない。このため、アイドル運転時において機関回転数が目標アイドル回転数よりも低下しても、燃焼室5内に供給される吸入空気量はそれほど増大せず、よって発生トルクもそれほど増大せず、結果的に機関回転数はあまり増大しないことになる。このため、吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期付近の遅角側の時期となっている場合には、機関回転数の収束性が低下することになる。
図11は、吸気管内(サージタンク12内)負圧とクランクシャフト一回転当たりに燃焼室5内に供給される吸入空気量との関係を示している。図11からわかるように、吸気弁7の閉弁時期が比較的進角側の時期となっている場合(例えば、図中の60°ABDC)、吸気管内負圧の変化量に対する一回転当たりの吸入空気量の変化量が大きい。このため、機関回転数が目標アイドル回転数からずれている場合に、このずれがなくなるように燃焼室5内に供給される吸入空気量を変化させるのに必要な吸気管負圧の変化量は小さい。このため、吸気弁7の閉弁時期が比較的進角側の時期となっている場合には、機関回転数が目標アイドル回転数からずれていても、比較的迅速に機関回転数を目標アイドル回転数に近づけることができ、よって回転数制御における応答性は比較的高い。
ところが、吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期付近の遅角側の時期となっている場合(例えば、図中の130°ABDC)、吸気管内負圧の変化量に対する一回転当たりの吸入空気量の変化量が小さい。このため、機関回転数が目標アイドル回転数からずれている場合に、このずれがなくなるように燃焼室5内に供給される吸入空気量を変化させるのに必要な吸気管負圧の変化量は大きい。このため、吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期付近の遅角側の時期となっている場合には、機関回転数が目標アイドル回転数からずれると、機関回転数を目標アイドル回転数に迅速に近づけることができず、よって回転数制御における応答性は比較的低いものとなってしまう。
ところで、アイドル運転時において機関回転数が目標アイドル回転数からずれたときに目標アイドル回転数になるように機関回転数を制御する方法としては、スロットル弁開度を変化させる他に、吸気弁7の閉弁時期を変化させることが挙げられる。吸気弁7の閉弁時期を進角させると燃焼室5内に供給される吸入空気量が増大せしめられるため、発生トルクを大きくさせることができ、結果的に機関回転数を上昇させることがでる。一方、吸気弁7の閉弁時期を遅角させると燃焼室5内に供給される吸入空気量が減少せしめられるため、発生トルクを小さくさせることができ、結果的に機関回転数を低下させることができる。
また、スロットル弁開度を変化させて燃焼室5内に供給される吸入空気量を変化させる場合には、スロットル弁開度の変化によってサージタンク12内の負圧が変化し、この負圧の変化によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が変化せしめられるため、スロットル弁開度を変化させてから燃焼室5内に供給される吸入空気量が変化するまでに時間がかかる。このため、スロットル弁開度を変化させることで機関回転数を制御する場合には、応答性はそれほど高くない。
一方、吸気弁7の閉弁時期を変化させて燃焼室5内に供給される吸入空気量を変化させる場合には、吸気弁7の閉弁時期を変化させると直ぐに燃焼室5内に供給される吸入空気量が変化する。このため、吸気弁7の閉弁時期を変化させることで機関回転数の制御をする場合には、比較的高い応答性で機関回転数を制御することができる。
そこで、本発明の実施形態では、吸気弁7の閉弁時期が遅角側の時期となっている場合、すなわち機関回転数の収束性が悪化すると共にスロットル弁開度による回転数制御の応答性が低い場合には、スロットル弁開度及び吸気弁7の閉弁時期のうち吸気弁7の閉弁時期によって機関回転数の制御を行う割合を大きくすると共に、吸気弁7の閉弁時期が進角側の時期となっている場合、すなわち機関回転数の収束性が良く且つスロットル弁開度による回転数制御の応答性が高い場合には、スロットル弁開度及び吸気弁7の閉弁時期のうちスロットル弁開度によって機関回転数の制御を行う割合を大きくするようにしている。
以下、本実施形態における、機関回転数が目標アイドル回転数からずれたときの吸気弁7の閉弁時期の補正量の算出方法について説明する。
図12は、目標アイドル回転数に対する機関回転数のズレ量と吸気弁7の閉弁時期(IVC)の暫定補正量との関係を示す図である。図12における吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な補正量となっている。したがって、機関回転数のズレ量が図12中のaである場合には、吸気弁7の閉弁時期をxだけ進角させることにより、機関回転数がズレ量aだけ上昇するのに必要な分だけ燃焼室5内に供給される吸入空気量が増大する。その結果、スロットル弁開度等を変更することなく機関回転数を目標アイドル回転数にすることができる。図12からわかるように、吸気弁7の閉弁時期は、機関回転数が目標アイドル回転数よりも高いときには遅角せしめられ、機関回転数が目標アイドル回転数よりも低いときには進角せしめられる。また、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量の絶対値は、目標アイドル回転数からの機関回転数のズレ量が大きくなるほど大きくなる。
図13は、吸気弁7の閉弁時期等の補正を行う前における吸気弁7の閉弁時期と補正反映率との関係を示す図である。図13からわかるように、補正前における吸気弁7の閉弁時期が予め設定された基準閉弁時期よりも進角側の時期にある場合には補正反映率はほぼゼロとされる。一方、吸気弁7の閉弁時期が基準閉弁時期よりも遅角側の時期にある場合には吸気弁7の閉弁時期が遅角されるのに伴って補正反映率が高くなり、吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期にまで遅角されているときには補正反映率がほぼ1とされる。
本実施形態では、図12に示したような目標アイドル回転数に対する機関回転数のズレ量と吸気弁7の閉弁時期(IVC)の暫定補正量との関係を表すマップに基づいて吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量を算出すると共に、図13に示したような吸気弁7の閉弁時期と補正反映率との関係を表すマップに基づいて補正反映率を算出し、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量に補正反映率を乗算することで得られた吸気弁7の閉弁時期の補正量の分だけ吸気弁7の閉弁時期が変更せしめられる。
したがって、補正前の吸気弁7の閉弁時期が基準閉弁時期よりも進角側の時期にある場合には、目標アイドル回転数に対して機関回転数がずれていても補正反映率がゼロであるため吸気弁7の閉弁時期は補正されない。一方、補正前の吸気弁7の閉弁時期が基準閉弁時期よりも遅角側の時期にある場合には、目標アイドル回転数に対して機関回転数がずれていると、目標アイドル回転数に対する機関回転数のズレ量と補正反映率とに応じて吸気弁7の閉弁時期が補正されることになる。このときの吸気弁7の閉弁時期の補正量は、目標アイドル回転数に対する機関回転数のズレ量が大きくなるほど及び補正前の吸気弁7の閉弁時期が遅角側であるほど大きくなる。
一方、目標アイドル回転数に対して機関回転数がずれているにも関わらず吸気弁7の閉弁時期が補正されない場合や、目標アイドル回転数に対する機関回転数のズレ量に対する吸気弁7の閉弁時期の補正量が十分でない場合には、機関回転数が目標アイドル回転数になるようにスロットル弁開度が補正されることになる。したがって、補正前の吸気弁7の閉弁時期が進角側の時期にある場合には、吸気弁7の閉弁時期は補正されずにスロットル弁開度のみが補正されることになる。一方、補正前の吸気弁7の閉弁時期が遅角側にある場合には、補正前の吸気弁7の閉弁時期が遅角側であるほど吸気弁7の閉弁時期の補正量が大きくなり、逆にスロットル弁開度の補正量が小さくなることになる。
なお、上記実施形態では、吸気弁7の閉弁時期に対する補正反映率は、吸気弁7の閉弁時期に基づいて図13に示したように算出される。しかしながら、必ずしも吸気弁7の閉弁時期に基づいて図13に示したように算出される必要はなく、例えば図14(a)、図14(b)に示したように算出されてもよい。
図14(a)に示した例では、補正前における吸気弁7の閉弁時期が最も進角されているときのみ補正反映率がほぼゼロとされると共に、補正前における吸気弁7の閉弁時期が遅角されるのに伴って補正反映率が高くされる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期にまで遅角される前に補正反映率が1とされ、そこから限界閉弁時期までは補正反映率が1とされている。一方、図14(b)に示した例では、補正前における吸気弁7の閉弁時期が予め定められた基準閉弁時期よりも進角側の時期にある場合には補正反映率はゼロ又はほぼゼロとされ、補正前における吸気弁7の閉弁時期が予め定められた基準閉弁時期よりも遅角側の時期にある場合には補正反映率は1又はほぼ1とされる。
したがって、これら図13及び図14(a)、(b)に示した例をまとめると、本実施形態では、補正前の吸気弁7の閉弁時期が遅角側の時期である場合には、進角側の時期である場合に比べて、目標アイドル回転数に対する機関回転数の同一ズレ量に対する吸気弁7の閉弁時期の補正量が大きくされると共にスロットル弁開度の補正量が小さくされると言える。
図15は、アイドル運転時における回転数制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔毎に実行される。
まず、ステップS11では、車両状態及び機関運転状態に関するパラメータが検出される。具体的には、車速センサ43によって内燃機関を搭載した車両の車速が検出されると共に、負荷センサ41、水温センサ22、クランク角センサ43によってそれぞれ機関負荷、機関冷却水の温度、機関回転数等が検出され、また、現在の吸気弁7の閉弁時期等も検出される。
次いで、ステップS12では、ステップS11で算出された車両状態及び機関運転状態に関するパラメータに基づいて、内燃機関がアイドル運転中であるか否かが判定される。内燃機関がアイドル運転中でないと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、内燃機関がアイドル運転中であると判定された場合にはステップS13へと進む。
ステップS13では、目標アイドル回転数NetrgとステップS11で検出された現在の機関回転数Neとのズレ量ΔNe(=Ne−Netrg)が算出される。目標アイドル回転数Netrgは予め定められた一定値であっても良いし、機関冷却水の温度や外気温等に基づいて変化するような値であってもよい。
ステップS14では、図12に示したようなマップに基づいて、ステップS13で算出された機関回転数のズレ量ΔNeを用いて、IVC暫定補正量ΔIVCbaseが算出される。次いで、ステップS15では、図13に示したようなマップに基づいて、ステップS11で検出された吸気弁7の閉弁時期を用いて、補正反映率Kが算出される。ステップS16では、ステップS14で算出されたIVC暫定補正量ΔIVCbaseに補正反映率Kを乗算してIVC補正量ΔIVCが算出される。
次いで、ステップS17では、ステップS16で算出されたIVC補正量ΔIVC分だけ吸気弁7の閉弁時期が補正されるように可変バルブタイミング機構Bが制御される。次いで、ステップS18では、機関回転数と目標アイドル回転数Netrgとのズレ量ΔNeがゼロになるようにスロットル弁開度が補正される。このとき、スロットル弁開度の補正量は、ズレ量ΔNeに加えて、吸気弁7の閉弁時期の補正量に基づいて設定される。
なお、上記実施形態では、ステップS18では、スロットル弁開度のみを補正している。しかしながら、機関回転数と目標アイドル回転数Netrgとのズレ量ΔNeがゼロになるように、スロットル弁開度に加えて点火プラグ6による点火時期を補正してもよい。この場合においても、スロットル弁開度の補正量及び点火時期の補正量は、ズレ量ΔNeに加えて、吸気弁7の閉弁時期の補正量に基づいて設定される。
次に、図16を参照して本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態における内燃機関の制御装置は、第一実施形態の制御装置と基本的に同様である。しかしながら、第二実施形態では、機関回転数のズレ量と吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量とのマップとして、図13に示したマップとは異なるマップが用いられる。
図16は、第二実施形態において用いられる機関回転数のズレ量と吸気弁7の閉弁時期(IVC)の暫定補正量との関係を示す図である。図16における吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、回転数ズレ量がマイナスである領域(すなわち、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも低い領域)において、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な補正量となっている。しかしながら、回転数ズレ量がプラスである領域(すなわち、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも高い領域)では、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な量よりも小さい量となっている。
したがって、本実施形態では、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも高いときにおける吸気弁7の閉弁時期の遅角量の絶対値は、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも同一量だけ低いときにおける吸気弁7の閉弁時期の進角量の絶対値よりも小さくされる。
ここで、吸気弁7の閉弁時期を遅角すると、実圧縮比は低下する。実圧縮比が低下し過ぎると燃焼室5内における混合気の燃焼が悪化する場合がある。本実施形態では、吸気弁7の閉弁時期の遅角に関してはその遅角量が低く抑えられるため、混合気の燃焼悪化を抑制することができる。
次に、図17を参照して本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態における内燃機関の制御装置は、基本的に第一実施形態の制御装置と同様である。しかしながら、第三実施形態でも、機関回転数のズレ量と吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量とのマップとして、図13に示したマップとは異なるマップが用いられる。
図17は、第三実施形態において用いられる機関回転数のズレ量と吸気弁7の閉弁時期(IVC)の暫定補正量との関係を示す図である。図17における吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、回転数ズレ量がマイナスである領域(すなわち、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも低い領域)において、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な補正量となっている。しかしながら、回転数ズレ量がプラスである領域(すなわち、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも高い領域)では、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、機械圧縮比に応じて変化するようになっている。
具体的には、回転数ズレ量がプラスである領域では、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、機械圧縮比が低いほど遅角側の補正量が小さくされており、機械圧縮比が限界機械圧縮比となるまで高められているときには、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な補正量となっている。
このように、機械圧縮比が低いほど遅角側の補正量を小さくすることにより、上記第二実施形態と同様に、実圧縮比の低下を抑制することができ、これにより混合気の燃焼悪化を抑制することができる。
次に、図18を参照して本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態における内燃機関の制御装置は第一実施形態の制御装置と基本的に同様である。しかしながら、本実施形態では、機関回転数が目標アイドル回転数からずれているときに、吸気弁7の閉弁時期等に加えて機械圧縮比も補正される。
図18は、本実施形態において用いられる機関回転数のズレ量と、吸気弁7の閉弁時期(IVC)の暫定補正量及び機械圧縮比の補正量との関係を示す図である。図18における吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、回転数ズレ量がマイナスである領域(すなわち、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも低い領域)において、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な補正量となっている。しかしながら、回転数ズレ量がプラスである領域(すなわち、実際の機関回転数が目標アイドル回転数よりも高い領域)では、吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量はゼロとなっている。したがって、回転数ズレ量がプラスである領域では、吸気弁7の閉弁時期の補正は行われない。
一方、図18からわかるように、回転数ズレ量がマイナスである領域では、機械圧縮比の補正量はゼロとされる。これに対して、回転数ズレ量がプラスである領域では、機械圧縮比が低下するように補正されると共に、その補正量は回転数ズレ量が大きくなるにつれて大きくされる。
したがって、本実施形態では、回転数ズレ量がプラスである領域では、吸気弁7の閉弁時期を進角することにより機関回転数の補正が行われ、回転数ズレ量がマイナスである領域では、機械圧縮比を低下させることにより機関回転数の補正が行われる。
ここで、燃費向上の観点から機関低負荷運転時には吸気弁7の閉弁時期は限界閉弁時期まで遅角されているのが好ましい。しかしながら、機関低負荷運転時に吸気弁7の閉弁時期を限界閉弁時期にまで遅角させていると、アイドル運転時における回転数制御において、吸気弁7の閉弁時期をそれ以上遅角させることができなくなってしまう。
本実施形態では、アイドル運転中の回転数制御を行うに当たっては吸気弁7の閉弁時期を遅角側に補正する必要はないため、アイドル運転時における吸気弁7の閉弁時期の基本設定を限界閉弁時期にまで遅角させることができる。
なお、上記実施形態で機械圧縮比の補正量は回転数ズレ量が大きくなるほど大きくされている。しかしながら、機械圧縮比の補正量が大きくなり過ぎると、すなわち機械圧縮比が低下し過ぎると失火を招く恐れがあることから、補正後の機械圧縮比が所定の下限値を超える場合には機械圧縮比をこの所定の下限値に設定するようにしてもよい。
次に、図19を参照して、本発明の第五実施形態について説明する。第五実施形態における内燃機関の制御装置は第一実施形態の制御装置と基本的に同様である。しかしながら、本実施形態では、アイドル運転時の回転数制御において機関回転数のハンチングが生じた場合には吸気弁7の閉弁時期の補正量を小さくするように学習制御が行われる。
ところで、図12に示したようなマップは、予め実験により又は計算により内燃機関の種類毎に求められる。図12における吸気弁7の閉弁時期の暫定補正量は、上述したように吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な量となっている。しかしながら、同一種類の内燃機関でも個体差があったり、内燃機関に経年劣化が生じたりすると、この暫定補正量が、吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な量よりも多くなったり少なくなったりしてしまう。特に、この暫定補正量が吸気弁7の閉弁時期のみを変更することにより機関回転数のズレ量を完全に補償するのに必要な量よりも多くなってしまうと、過補正により機関回転数のハンチングが生じてしまう。
そこで、本実施形態では、図12に示したマップ等によって算出される暫定補正量、又はこの暫定補正量に補正反映率を乗算して求められる吸気弁7の閉弁時期の補正量に学習値を乗算すると共に、ハンチングが生じていると判定した場合にはこの学習値を小さくするようにしている。これにより、吸気弁7の閉弁時期を過補正してしまうことが無くなり、回転数制御を安定させることができる。
図19は、本実施形態のアイドル運転時における回転数制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔毎に実行される。
ステップS21〜S25は、図15のステップS11〜S15と同様であるので説明を省略する。ステップS26では、ステップS24で算出されたIVC暫定補正量ΔIVCbaseに補正反映率K及び学習値Gを乗算してIVC補正量ΔIVCが算出される。
次いで、ステップS27では、ステップS25で算出されたIVC補正量ΔIVC分だけ吸気弁7の閉弁時期が補正されるように可変バルブタイミング機構Bが制御される。次いで、ステップS28では、機関回転数と目標アイドル回転数Netrgとのズレ量ΔNeがゼロになるようにスロットル弁開度が補正される。このとき、スロットル弁開度の補正量は、ズレ量ΔNeに加えて、吸気弁7の閉弁時期の補正量に基づいて設定される。
ステップS29では、機関回転数のハンチングが生じているか否かが判定される。具体的な判定方法としては、一定時間内に機関回転数が目標アイドル回転数に対して上下した回数が所定回数以上である場合等に機関回転数にハンチングが生じていると判定される。ステップS30では、ハンチングが生じているか否かが判定され、ハンチングが生じていないと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS30においてハンチングが生じていると判定された場合にはステップS31へと進む。ステップS31では学習値Gから予め定められた一定値Aを減算した値が新たな学習値Gとされ、次回の制御ルーチンにおけるステップS26では、この新たな学習値Gが用いられる。
なお、上記実施形態では、ハンチングが生じていると判定した場合にのみ学習値を小さくするようにしているが、長期間ハンチングが生じていない場合には学習値を大きくするようにしてもよい。