実施の形態を説明する。先ず、発明者は、先に開発した人工飼育水を観賞魚用に使用出来ないかと考え、実験、考察した。その結果、先に開発した人工飼育水に、未確認の成分を補充することで、養殖などの大規模な飼育と異なる観賞魚の飼育にも応用出来るのではないかとの推察に基づき、実験を試みた。
以下に、観賞魚用飼育水に添加する成分とその量を特定するために行った実験を説明する。先に開発した人工飼育水は、
海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、比重が1.004以上1.025以下となるように飼育水中に少なくともナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムを添加し、それぞれの添加量はカリウムは0.0951[g/l]以上0.380[g/l]以下であり、カルシウムは0.0993[g/l]以上0.401[g/l]以下であり、ナトリウムは2.777[g/l]以上10.656[g/l]以下となるように添加するもの、
であり、更に、先に開発した前記人工飼育水を生成する人工飼育水生成物質は、
水中に溶解させて海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水を作る固形または粒状あるいは粉末状の物質であって、少なくとも飼育水中にカリウムは0.0951[g/l]以上0.380[g/l]以下、カルシウムは0.0993[g/l]以上0.401[g/l]以下、ナトリウムは2.777[g/l]以上10.656[g/l]以下の割合でナトリウム、カリウム、カルシウムを存在させるように調合され、飼育水中にナトリウム、カリウム、カルシウムが該量存在するよう用いる、
ものである。
上記人工飼育水は、河川水や地下水・水道水・雨水などの所謂淡水に、天然海水中に含有されている塩類より少ない種類の塩類と、人工海水中の該塩類の含有量を充分に減少して、単位人工海水当りに使用する塩類の種類及び使用量を充分に少なくして低コストで製造できる人工海水とした。
この人工飼育水は、大きな水槽で、大量の飼育水を利用して、大量の飼料を与えて飼育を行う養殖に適していた。
発明者は、更に研究を重ね、一般家庭などで行われる観賞魚の飼育に適しているかを確認するために種々の実験を行った。
一般家庭などで観賞魚として海水魚や淡水魚を飼育する際には、飼育水そのものを何10[t]あるいは何100[t]というような大量で使用することは水族館のような施設でしかなく、むしろ数リットルから数十リットルで専ら使用される。
そこで先ず、発明者は、前記人工海水(以下、好適環境水という。)のうち添加する塩類の量が最も少ない場合の好適環境水を用いて飼育試験を行った。即ち、前記好適環境水に記載された発明における各塩類、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンそれぞれの添加量が、ナトリウムイオンを2.777[g/l]添加して標準海水含有量比26.061%とし、カルシウムイオンを0.0993[g/l]添加して標準海水含有量比24.763%とし、カリウムイオンを0.0951[g/l]添加して標準海水含有量比25.026%となるように、塩化ナトリウム、塩化カルシウム2水和塩、塩化カリウムをそれぞれ添加した人工飼育水を用いて飼育試験を行った。
この実験に於ける飼育環境は、簡易上部式濾過槽による水質浄化フィルターを備えた容積55[l]程度のガラス水槽を用いておこない、飼育魚としては、色鮮やかであるとか比較的小型の魚種であるなどを想定し、熱帯性海水魚であるキンチャクダイ科のルリヤッコ、チョウチョウウオ科のアミメチョウ、モンガラカワハギ科のクラカケモンガラ、ハコフグ科のラクダハコフグ、メギス科のバイカラードティバック、ニザダイ科のゴマハギを飼育試験対象とした。
飼育魚は、それぞれ3匹ずつを水槽に入れ、計18匹の飼育試験を行った。観賞用海水魚として一般的なカクレクマノミについては、前記好適環境水において、既に長期間に亙る飼育が可能であることが知見されているので、試験対象魚から外してある。
なお、以下に表す各実験では、特に断らない限り、水槽等の飼育環境は、上記実験環境と同じであり、飼育魚の数も各魚種毎に3匹ずつを水槽に入れて飼育試験を行っている。
図32(a)は、飼育試験を行った魚類と生存日数、魚種の属する科、平均寿命を表した一覧表であり、最下行に述べ生存日数と総平均寿命とを表している。同図(b)は、横軸が生存日数を表し縦軸が飼育魚固体を表しそれぞれの飼育魚固体の生存日数を表したグラフである。
図32に示す実験では、塩化ナトリウムを7.0587[g/l]、塩化カルシウム2水和塩を0.3641[g/l]、塩化カリウムを0.17763[g/l]、それぞれ飼育水に添加して、ナトリウムイオンの標準海水含有量比を26.061%とし、カルシウムイオンの標準海水含有量比24.763%とし、カリウムイオンの標準海水含有量比25.026%としている。ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンそれぞれの存在比率は、前記好適環境水の生存比率を守っており、このように、各成分比率を守ったナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンの各成分が、標準海水に対して略25%となっているので、以後、前記好適環境水を従来25%飼育水という。
従来25%飼育水による実験では、図32(a)に示すように、総平均寿命が5.72日と各魚種共に短命であり、同図(b)に示すように、ハコフグ科のラクダハコフグの10日生存が最長であって、チョウチョウウオ科のアミメチョウの2日が最短であり、観賞魚飼育水としては不適当であると判断した。
図32に示す従来25%飼育水での実験結果を受け、従来25%飼育水は、最も添加量が少ない飼育水であったので、各成分の標準海水に対する存在比を上昇させる実験を試みた。
この実験では、塩化ナトリウム、塩化カルシウム2水和塩、塩化カリウム相互の存在比を変更させないように添加量を増して、標準海水に対する存在比を塩化カリウムが33%となるように各成分量を調整して添加した人工飼育水を用いた。即ち、使用する人工飼育水は、塩化ナトリウムを9.308[g/l]、塩化カルシウム2水和塩を0.4801[g/l]、塩化カリウムを0.2390[g/l]添加して、飼育水中のナトリウムイオンの存在量が3.662[g/l]、同カルシウムイオンの存在量が0.131[g/l]、同カリウムイオンの存在量が0.125[g/l]となるように調整してある。この人工飼育水では、ナトリウムイオンの標準海水に対する存在比は34.365%、同カルシウムイオンは32.653%、同カリウムイオンは33.000%となる。以下、この人工飼育水を、従来33%飼育水という。
従来33%飼育水による飼育実験の結果を図33に示す。
図33(a)は、図32と同様に、飼育試験を行った魚類と生存日数、魚種の属する科、平均寿命を表した一覧表であり、最下行に述べ生存日数と総平均寿命とを表している。同図(b)は、横軸が生存日数を表し縦軸が飼育魚固体を表しそれぞれの飼育魚固体の生存日数を表したグラフである。
尚、以後、断らない限り、各図とも(a)は飼育試験を行った魚類と生存日数、魚種の属する科、平均寿命を表した一覧表であり、最下行に述べ生存日数と総平均寿命とを表し、(b)は横軸が生存日数を表し縦軸が飼育魚固体を表しそれぞれの飼育魚固体の生存日数を表したグラフを表すものとする。
従来33%飼育水による実験では、図33(a)に示すように、総平均寿命は、従来25%飼育水による実験に比べ、7.22日と伸びたものの、観賞魚の飼育水としては利用出来ない結果となった。また、同図(b)に示すように、各個体毎の生存日数のグラフも、従来25%飼育水による実験と同じような形状を示しており、アミメチョウ、バイカラードティバックの生存日数が思わしくなかった。
発明者は、従来33%飼育水による実験結果を受けて、前記好適環境水の成分比では、観賞魚用の飼育水として適さないのではないかと思ったが、これを検証するために、更に従来25%飼育水から従来33%飼育水へ各塩類を増量したのと同様に従来44%飼育水を作成し、従来44%飼育水による飼育実験を行った。
従来44%飼育水は、従来33%飼育水同様、塩化ナトリウム、塩化カルシウム2水和塩、塩化カリウム相互の存在比を変更させないように添加量を増して、標準海水に対する存在比を塩化カリウムが44%となるように各成分量を調整して添加した人工飼育水を用いた。即ち、使用する人工飼育水は、塩化ナトリウムを12.410[g/l]、塩化カルシウム2水和塩を0.6401[g/l]、塩化カリウムを0.3187[g/l]添加して、飼育水中のナトリウムイオンの存在量が4.882[g/l]、同カルシウムイオンの存在量が0.175[g/l]、同カリウムイオンの存在量が0.167[g/l]となるように調整してある。この人工飼育水では、ナトリウムイオンの標準海水に対する存在比は45.820%、同カルシウムイオンは43.538%、同カリウムイオンは44.000%となる。
この従来44%飼育水による飼育実験の結果を図34に示す。実験の結果、図34(a)に示すように、総平均寿命は、従来33%飼育水による実験に比べ、9.56日と2.44日伸びたものの、観賞魚の飼育水としては利用出来ない結果となった。また、同図(b)に示すように、各個体毎の生存日数のグラフでも、最長12日の生存を記録したものの、固体によっては4日や5日と短命な固体も存在し、やはり観賞魚用の飼育水としては不的確であるという結果に終わった。
発明者は、図34に示す従来44%飼育水による飼育実験を受け、前記好適環境水を用いて更に濃度を上昇させても、観賞魚用飼育水として用いることが困難であると推測した。
一方で、淡水の観賞魚の飼育試験を行った。観賞用の淡水魚は、金魚や錦鯉などの日本産淡水魚とネオンテトラなどに代表される熱帯性淡水魚とに大きく分けられる。そこで、実験魚としてこれら2種のものを混在させて行った。日本産淡水魚では、コイ科のランチュウ、コイ科のカネヒラ、コイ科のワタカ、コイ科のニシキゴイを用い、熱帯性淡水魚では、カラシン科のピラニア・ナッテリー、カラシン科のネオンテトラ、シクリット科のディスカスを用いた。
試験に使用した飼育水は、従来25%飼育水である。飼育試験の結果を図35に示す。図35(a)および(b)に示すように、熱帯性淡水魚では、最長10日で最短5日の生存日数であり、熱帯性淡水魚の飼育水としては適用出来ないことが知見された。これに対し、日本産淡水魚では、それぞれ30日の生存が確認出来た。飼育期間が30日に達したところで飼育試験を終了した。
熱帯性淡水魚は、早期に死亡したので詳細な観察結果を特に述べないが、長期に亙って生存したランチュウ、ニシキゴイ、カネヒラ、ワタカの各日本産淡水魚では、飼育期間は延びたが、飼育中に観察した結果では、体色の衰え、体表のあれ、鱗の逆立ちなどの現象が見られた。
これらの日本産淡水魚および熱帯性淡水魚の飼育結果から、正常に飼育出来ているとは到底言えず、従来25%飼育水は淡水魚の飼育水としても不適切であることが判明した。
発明者は、上記各実験に亙り、pHの推移を見たところ、飼育日数が経過するに従いpHが高くなっていく現象が現れていた。pHが7を越えた当たりから、飼育水中に存在しているアンモニウムイオンがアンモニアとなって水中に溶融した状態となる。アンモニアは、魚類にとっての毒性が強いことは既知であり、pHを一定に保つ必要が有るのではないかと予想された。
そこで、発明者は、従来からpH緩衝材とし広く用いられている無水リン酸水素二ナトリウムと無水リン酸水素二カリウムとを用いてpHの調整を図った飼育水による実験を試みた。即ち、図32に示した実験に用いた従来25%飼育水に、無水リン酸水素二ナトリウムと無水リン酸水素二カリウムとを6:4の比率で、無水リン酸水素二ナトリウムを0.3969[g/l]、無水リン酸水素二カリウムを0.2663[g/l]添加し、pHを7に固定した飼育水による実験を試みた。
pHを7に固定する飼育水による飼育実験の結果を図36に示す。図36(a)に示すように、各魚種の平均寿命は、9.28日であり、図34に示す従来44%飼育水の飼育実験結果による平均寿命と略同じような平均寿命であった。この実験結果から、pH緩衝材による飼育水のpH7への固定は、観賞用海水魚に対して有効ではないということが判明した。
同時に、図36に示したpH緩衝材を用いた飼育水を用いて、観賞用淡水魚の飼育実験を試みた。即ち、25%飼育水にpH緩衝材を、pH7となるようにリン酸水素ナトリウムとリン酸二水素カリウムとを6:4の比率で添加した飼育水を用い飼育実験を行った。また、図35に示す実験では、長期間の飼育が確認出来ていたので、この実験では、図35に示した実験の魚種に、アロワナ科のシルバーアロワナを1匹加え、また、個体数を魚種共に各5匹と増加させて飼育実験を行った。この実験の結果を、図37に示す。
実験の結果、やはり観賞用淡水魚の飼育では、略全ての魚種が、実験終了までの30日間の飼育に成功した。中でも、図35に示す実験では短命に終わったネオンテトラ、ディスカス、ピラニアナッテリーの熱帯性淡水魚の寿命が格段に向上した。しかしながら、ネオンテトラのみは、やはり個体によっては30日以前に死亡してしまったものがあり、更に、熱帯性淡水魚では各魚種共に長期飼育下では、体色の減衰、体表のあれ、鱗の逆立ちなど、良好ではない飼育状態を示す現象が見られた。一方、日本産淡水魚では、これら飼育状況が良好でない現象は見られず、良好な飼育が行えているようであった。
この結果、飼育水に対するpH緩衝材によるpH7への固定は、日本産淡水魚にとっては有効であることが判った。
そこで、他の熱帯性淡水魚に対する飼育実験を行った。図38に示す実験がそれであり、魚種を、カリクティス科のコリドラス、ダトニオイデス科のダトニオ、ロリカリア科のセルフィンプレコ、シクリット科のカウルレウス、同じくシクリット科のディスカス、ポリプテル科のエンドリケリー、シクリット科のオスカー、とした。そして、図37に示した実験結果を受けて、実験期間を30日から60日と長期化して行った。尚、エンドリケリーおよびオスカーは、個体を1匹として実験を行った。
すると、コリドラスおよびエンドリケリーの寿命は短命に終わったものの、他の略全ての魚種において、60日間の飼育実験期間を終了しても生存していた。
これを受け、従来25%飼育水にpH緩衝材を添加してpH7とした飼育水は、熱帯性の観賞用淡水魚の飼育水として有効であると判断した。
pH緩衝材による飼育水のpH7への固定が、観賞用淡水魚に有効であると判断されたので、観賞用海水魚に対する飼育水としての考察を更に深めることとした。
発明者は、生息環境の違いかあるいは体重体長等個体の大きさに左右されるのではないかと推察し、同じキンチャクダイ科で、魚体の大きさの異なる複数種を選択し、30日間の長期飼育実験を試みた。
その結果、図39に示すように、キンチャクダイ科の大型ヤッコの中で、フレンチエンゼル、サザナミヤッコのみ長期成長が確認された。このフレンチエンゼル、サザナミヤッコは試験期間満了後も色彩の衰えや鱗が逆立つ現象は見られず、半年以上の長期に亙って生息し、現在も良好な飼育が続けられている。同じキンチャクダイ科に属するイナズマヤッコが非常に短命であり、タテジマキンチャクダイは次いで短命で有った。
この結果からすると、同じ科に属する魚種でも、大型のものがなぜ長命であると考察され、生息環境の違いかあるいは体重体長等個体の大きさに左右されるのではないかと推察できた。
発明者は、図36および図37に示した実験結果から、観賞魚の浸透圧の制御要因と思われる飼育水のpHを魚類の血液のpHと同じ値にすることを思いつき、観賞用海水魚および観賞用淡水魚について、該pH7.3に調整した飼育水を用いてそれぞれ飼育実験を行った。
図40は、従来25%飼育水に、無水リン酸水素二ナトリウムと無水リン酸水素二カリウムとを7.5:2.5の比率となるように、無水リン酸水素二ナトリウムを0.4961[g/l]、無水リン酸二水素カリウムを0.1668[g/l]添加し、pH緩衝材が飼育水のpHを7.3となるように調整した飼育水を用いて、観賞用海水魚の飼育実験を行った結果である。実験に使用した魚種は、キンチャクダイ科のルリヤッコ、キンチャクダイ科のナメラヤッコ、ハゼ科のハタタテハゼ、チョウチョウウオ科のアミメチョウ、スズメダイ科のデバスズメである。そして、キンチャクダイ科では、飼育が困難と思われるが観賞魚としては広く用いられる小型のルリヤッコとナメラヤッコとを用い、各魚種共に3匹の飼育とした。ただし、デバスズメは5匹とした。
飼育実験の結果では、図40(a)に示すように、平均寿命は4.53日と非常に短く、中でもデバスズメは、体表の荒れや、鱗の逆立ち現象が顕著に現れた。ルリヤッコ、ナメラヤッコ、ハタタテハゼでも同様の現象が見られ、生存は著しく悪かった。発明者は、前記好適環境水開発の経験から、海水魚については未解明成分の欠如が考えられるのではないかと推察した。
そして、図40に示す、従来25%飼育水をpH7.3に調整した飼育水は、観賞魚飼育用としては不適であると判断された。
しかしながら、従来25%飼育水をpH7.3に調整した飼育水による実験を、他の魚種に対して行っていないことや、飼育環境を大型の水槽に変えての飼育で実験してみることを思いつき、1000[l]水槽を用いて飼育実験を行った。用いた魚種は、カリクティス科のコリドラス、ロリカリア科のプレコ、ハゼ科のハタタテハゼ、ハタ科のキンギョハナダイ、ゴンベ科のサラサゴンベ、キンチャクダイ科のアカハラヤッコ、同じくキンチャクダイ科のルリヤッコであり、それぞれを3匹ずつ飼育した。
その結果、図41(a)に示すように、キンギョハナダイ、コリドラスは、それぞれ短命に終わったが、図40に示した55[l]水槽による飼育実験と比較すると、ルリヤッコ、ハタタテハゼの寿命は延びていることが判る。これらから、飼育魚1匹当たりの飼育水の量が増量すると寿命が延びており、図40に示す飼育実験の結果から推察された未確認成分の欠如と、図41に示す飼育魚1匹当たりの飼育水の増量による延命とを合わせると、確認出来てはいないが、何らかの成分が、飼育中に欠乏していくのではないかと推察され、前記好適環境水にこの未確認の成分を補うことで、観賞魚用飼育水の開発が可能であるとの考えに至った。
また、同様の観賞魚用飼育水を利用して、更に、魚体のトリートメントを行うための観賞魚用トリートメント水は、当然ながら、従来はなかった。
そこで、図1に示すような、55[l]という一般家庭でも利用される程度のガラス水槽1と、簡易上部式濾過槽からなる水質浄化用フィルター2とを用いて飼育実験を行った。
また、3はエアポンプであり、ホース5を介してガラス水槽1内の飼育水中へエア供給管4からエア供給を行っている。
水質浄化用フィルター2は、ガラス水槽1の上部に設置され、内部には濾過材21を備える。濾過材21は、スポンジ状の発泡樹脂、活性炭、不織布のように細かく絡み合わせた樹脂材などからなる。そして水質浄化用フィルター2は、飼育水を汲み上げる揚水ポンプ24を駆動させてガラス水槽1内から吸水管22を経由して汲み上げ、濾過材21を経由させて放水管23から再びガラス水槽1へ戻す構造となっている。
このように、実験に用いる装置は、極一般的に飼育に用いられているようなシンプルなものである。
発明者は、図1に示す実験装置によって、観賞魚用の飼育水を生成するのに必要な添加物質を特定するなどのために、観賞用海水魚および観賞用淡水魚の飼育実験を行った。
発明者は、従来例に示した各実験の結果、図31乃至図40に示した各実験において、(1)マグネシウム添加量は0.166[g/l]に調整しておりマグネシウム濃度の変化はない、(2)魚類の骨格成分はリン酸、カリウム、カルシウムが主でありマグネシウムの存在量は僅かである、(3)細胞内液はリン酸、カリウム、カルシウムが占めておりマグネシウムの存在量は僅かであるということと、日本産淡水魚、デバスズメ、キンチャクダイなどの飼育過程で、体表の荒れ、鱗の逆立ちなどの現象が顕著に表れたことを勘案すると、発明者の過去の経験から、魚の低カルシウム血漿が疑われた。
一方、図31乃至図40に示した飼育実験では、観賞用淡水魚の長期飼育は良好に行われた例があるにもかかわらず、観賞用海水魚は、長期飼育ができておらず、前記好適環境水では、同じ海水魚である食用海水魚の飼育が良好に行われた。尚、上記で用いたマグネシウムは硫酸マグネシウムであるが、魚体に対する毒性が無ければ他のマグネシウム塩でも良く、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、金属マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、クエン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、有機酸マグネシウム、リン酸四水素マグネシウム等でも代用出来る。
これらを勘案して、発明者は、先ず、観賞用海水魚の長期飼育が可能となる成分を添加した観賞魚用飼育水の開発実験を行った。
発明者は、これらの事実を勘案し、前記好適環境水と同様の飼育条件で既に3ヶ月以上養殖飼育しているヒラメの水槽の飼育水の各成分量を測定した。この飼育実験で使用している飼育水は、図11に示す飼育実験と同様な従来25%飼育水である。
その結果、前記好適環境水として添加したカルシウムイオンが、飼育水生成時0.0992[g/l]であったにもかかわらず、測定時には0.320[g/l]と増加した値となっていた。従って、カルシウムイオンは、3ヶ月の間に0.2208[g/l]増量していることになる。そして、3ヶ月間の飼育環境において、(1)水槽の材質はFRPと塩化ビニールであり水槽からのカルシウムイオンの溶出はない、(2)濾過材はセラミック製であり濾過材からの溶出はないなど、実験装置からの溶出はあり得ないことが判る。
してみると、3ヶ月の飼育中では、外部から供給する飼料以外に、カルシウムイオンの増量に繋がるものが考えられないので、増加したカルシウムイオンは、供給した飼料のうちの残餌から溶出したものと思われた。
一方、観賞用海水魚の飼育水中に於けるカルシウムイオンの量を測定した。即ち、上記養殖飼育実験と同様の観賞用海水魚の飼育実験である図32に示す従来25%飼育水による実験において、実験開始時に添加したカルシウムイオン量が0.0992[g/l]であるのに対し、実験終了時の飼育水中に於けるカルシウムイオン量を測定したところ、実験開始時に添加したカルシウムイオン量と略同量であるという事実が判明した。
これらの結果から、発明者の推察通りだとすれば、飼育実験の失敗が低カルシウム血漿によるものと言えることになるので、発明者は、基礎実験(1)として、図2に示すように、図31乃至図40に示す実験において短命であったキンチャクダイ科でも小型の海水魚を選択し、キンチャクダイ科のルリヤッコ、キンチャクダイ科のアブラヤッコ、キンチャクダイ科のナメラヤッコをそれぞれ1匹ずつと、ハゼ科のハタタテハゼ、スズメダイ科のデバスズメダイをぞれぞれ3匹ずつとを、図1に示す実験装置(図31乃至図40に示す実験に用いた装置と同じもの)に入れ、飼育実験を開始した。尚、実験中の給餌は、市販されている一般的な熱帯魚用の餌を、定められた量を守り与えた。
そして、図2に示す実験では、図11に示す実験に用いた飼育水と同様の従来25%飼育水よりもカルシウムイオン量の多い、標準海水における存在量である0.401[g/l]となるように無水塩化カルシウムを添加した飼育水を用いた。更に、pH緩衝材として無水リン酸水素二ナトリウムと無水リン酸水素二カリウムとを6:4の比率でpHを7に固定する飼育水を用いた。即ち、塩化ナトリウムを7.125[g/l][ナトリウムでは、2.774[g/l]]、無水塩化カルシウムを1.1689[g/l][カルシウムでは、0.401[g/l]]、塩化カリウムを0.17763[g/l](カリウムでは、0.0951[g/l])となり、更に、pH緩衝材としての無水リン酸水素二ナトリウムを0.3969[g/l]、無水リン酸水素二カリウムを0.2663[g/l]添加した状態となっている。以後、この飼育水をCa401飼育水という。
飼育実験の結果は、図2に示すとおりとなった。即ち、図2(a)に示すとおり、各魚種の平均寿命が26.76日と、従来例に示した観賞用海水魚の飼育実験に比し、劇的な長期飼育が可能となった。また、図2(b)に示すとおり、最も寿命の短いものでも、デバスズメダイの18日であり、特にハタタテハゼでは、従来の実験では、ハタタテハゼの寿命が最長で4日(図35、図39参照)であったにもかかわらず生存日数が33日と大幅に伸びた。
この実験結果から、観賞用海水魚の飼育水として、カルシウムイオン量を増量することが有効であることが知見された。
図2に示したカルシウムイオンを増量した従来25%飼育水に更にカルシウムイオンを増量させた飼育水が有効であることを裏付けるために、発明者は、基礎実験(2)として、図11に示す実験に用いた従来25%飼育水にpH緩衝材として無水リン酸水素二ナトリウムを0.3969[g/l]、無水リン酸水素二カリウムを0.2663[g/l]を添加した飼育水を用い、図2に示す実験同様の魚種による飼育実験を行った。その結果、図3(a)に示すように、平均寿命は13.53日と大幅に減少した。尚、図34(b)との比較から明らかなように、アブラヤッコのみは生存日数が増しているが、これは、図2および図3に示す実験に使用したアブラヤッコ個体の差によるものと思われ、Ca401飼育水による飼育実験に用いたアブラヤッコ個体が弱かったものと思料される。上記のように、カルシウムイオンを増量したCa401飼育水による飼育の優位性が確認出来た。
次いで、発明者は、飼育環境を、前記好適環境水による実験用の飼育槽と同様の飼育槽である1000[l]の水槽で観賞用海水魚および観賞用淡水魚の飼育実験を行った。
即ち、図4に表すように、1000[l]程度の水槽6に密閉式濾過槽からなる濾過フィルター7を使用して実験を行った。そして、濾過フィルター7中には濾過材8となる棒状セラミックス25[l]と前記サンゴ砂5[l]を加えてある。尚、図4には、泡沫分離装置9が記載されているが、泡沫分離装置9は飼育水を長期に亙り使用するために飼育水中の魚糞や余剰餌等の浮遊物を除去するためのものであり、短期間の実験では使用していない。また、飼育水冷却装置10も記載されているが、これは夏場の屋外に設置した水槽では飼育水の温度が上昇しすぎるため、飼育水温度を実験環境に合わせて一定に保つために設置したものである。
そして、図5に示す、この水槽6を用いた基礎実験(3)では、観賞用淡水魚として、カラシン科のネオンテトラを10匹、レインボーフィッシュ科のネオンドワーフ2匹、カリクティス科のコリドラス2匹を飼育魚として選択し、観賞用海水魚として、ベラ科のニセモチノウオを2匹、フグ科のシマキンチャクフグを2匹、ハゼ科のハタタテハゼを3匹、キンチャクダイ科のナメラヤッコを1匹、キンチャクダイ科のルリヤッコを1匹、キンチャクダイ科のアブラヤッコを1匹として、全24匹の飼育実験を行った。
実験の結果は、図5に示すように、海水魚では、比較的飼育が難しいとされるルリヤッコとシマキンチャクフグについては、良好な結果となった。また、ハタタテハゼも良好な飼育結果となったが、ニセモチノウオは短命で終わった。また、淡水魚は、全て短い飼育期間となっており、従来25%飼育水にpH緩衝材を添加してpH7とした飼育水による実験結果(図37に示す)でコリドラスが平均25.67日生存したのに対して、基礎実験(3)では9日と短命で終わった。同様に、ネオンドワーフでも平均寿命が9日と短く、ネオンテトラに至っては,全てが生存日数1日であり、極短命であった。
図36や図37に示した飼育実験では、観賞用淡水魚は、pH7で良好に飼育出来ていたのに対し、基礎実験(3)では、観賞用淡水魚が短命に終わった。これは、図36や図37ではカルシウムイオンを前記好適環境水に基づき添加しており、また、基礎実験(1)では、図36や図37より大量にカルシウムイオンを添加しているが小さな水槽であって魚体による吸収や濾過材21による吸着等によって減少しいくと考えられる。これに対、基礎実験(3)では、飼育水の量が、基礎実験(1)に比べ約20倍となっているので、フィルター7による吸着等によって減少するカルシウムイオン量が少なく、カルシウムの過剰添加が影響しているものと思われた。
図6に示すように、基礎実験(3)に続き、他の魚種の熱帯性海水魚の飼育実験を基礎実験(4)として、基礎実験(3)と同様の装置および飼育水で行った。実験に使用した魚種は、キンチャクダイ科のナメラヤッコを2匹、キンチャクダイ科のルリヤッコを2匹、キンチャクダイ科のアブラヤッコを1匹、チョウチョウウオ科のミゾレチョウチョウウオを4匹、チョウチョウウオ科のアケボノチョウチョウウオを5匹、ハタ科のキンチャクハナダイを3匹、ゴンベ科のサラサゴンベを4匹、ハゼ科のハタタテハゼを4匹、ニザダイ科のゴマハギを5匹である。
実験の結果、アブラヤッコの寿命が短かったが、実験に使用したアブラヤッコの個体が健康ではなかったのかもしれない。また、サラサゴンベは半数が短命であり、2匹が長命であったが、個体のせいなのか、環境の所為なのかは不明であった。
基礎実験(2)や基礎実験(3)の結果、観賞用海水魚では、キンチャクダイ科、チョウチョウウオ科、ニザダイ科、ハゼ科、ハタ科において飼育が良好であるということが知見された。
発明者は、熱帯性の海水観賞魚の飼育の際のカルシウムイオン濃度の良好な範囲を明らかにするために、従来25%飼育水にpH緩衝材を添加してpH7とした飼育水に、更にカルシウムイオン濃度が200[mg/l]となるように無水塩化カルシウムを添加した飼育水を用い、図2に示す基礎実験(1)と同一魚種、同一飼育条件に於ける基礎実験(5)を行った。従って、この基礎実験(5)は、基礎実験(1)のカルシウムイオン濃度401[mg/l]と比べ、カルシウムイオン濃度を200[mg/l]とした実験である。
この基礎実験(5)の結果を図7に示す。図7から明らかなように、基礎実験(1)の平均寿命と比べ、基礎実験(5)では、平均寿命が14.27日と明らかに短くなり、カルシウムイオン濃度が200[mg/l]では、実験1に比し、良好な飼育が行えないという結論となった。
図7に示す基礎実験(5)では、熱帯性の観賞用海水魚の飼育に適さなかったことから、更にカルシウムイオン濃度を250[mg/l]に増加させてた基礎実験(6)を試みた。この基礎実験(6)も、前記基礎実験(5)と同様に図2に示す基礎実験(1)と同一魚種、同一飼育条件で行った。
その結果、図8に示すように、平均寿命が27.40日と、基礎実験(1)における平均寿命26.67日と略同等の平均寿命であった。この結果から、カルシウムイオン濃度が250[mg/l]であっても、図2に示した基礎実験(1)におけるカルシウムイオン濃度401[mg/l]の飼育水による飼育と何ら変わらない結果となった。
更に、カルシウムイオン濃度が有る一定量以上であれば、観賞用海水魚の飼育が可能であることを裏付ける実験として、図9に示すように、基礎実験(6)よりもカルシウムイオンのみ増量してカルシウムイオン濃度を300[mg/l]とした飼育水による基礎実験(7)を試みた。
その結果、図9に示すように、平均寿命が27.67日と、基礎実験(4)や基礎実験(6)と同様良好な飼育ができることを知見した。
尚、最高カルシウムイオン濃度を401[mg/l]として実験したのは、カルシウムイオン濃度は一時的であれば大量に溶解させて1000[mg/l]以上の濃度とすることも可能であるが、飼育魚からの非出や設置場所などの影響によって、遊離炭酸と反応し、炭酸カルシウムあるいはリン酸カルシウムとなって結晶化して沈殿が発生する。この結晶化では順に結晶化が進んでしまし、飼育水のpHが下がってしまうことを実験によって知見している。そして、炭酸カルシウムあるいはリン酸カルシウムの結晶化によって、pHが6以下となるような飼育環境に陥ってしまう場合も生じ、飼育魚にとっては劣悪な環境となってしまい、飼育魚の大量斃死が発生する可能性がある。
上記のことから、カルシウムイオン濃度200[mg/l]で飼育が良好ではなく、カルシウムイオン濃度250[mg/l]で良好な飼育ができたことから、従来25%飼育水にpH緩衝材を添加してpH7とした飼育水に更に無水塩化カルシウムを添加したカルシウムイオン濃度が250[mg/l]の飼育水が、良好な飼育が可能な飼育水のカルシウムイオン濃度の最低量であると判断した。尚、カルシウムイオン濃度の限界値は、正確には、200[mg/l]のカルシウムイオン濃度と250[mg/l]のカルシウムイオン濃度との間の数値となる。
発明者は、上記各実験の結果を踏まえ、前記好適環境水の各成分範囲で、前記各実験から得たカルシウムイオン濃度を増量した飼育水が、観賞用海水魚の良好な飼育に使用可能であるかを実験した。
実験に使用した観賞用海水魚は、家庭で飼育されている観賞用海水魚の一般的なものとしてルリスズメを選択した。
前記好適環境水では、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンの各成分が、ナトリウムイオン含有量2.777[g/l](26.061%)以上含有量10.656[g/l](100%)以下、カリウムイオン含有量0.0951[g/l](25.026%)以上含有量0.380[g/l](100%)以下、カルシウムイオン含有量0.0993[g/l](24.763%)以上含有量0.401[g/l](100%)以下となるようにそれぞれの成分が飼育水中に存在していれば、観賞魚の飼育を良好に出来ることが知見されている。括弧内に%で示した数値は、標準海水を100%としたときの比率を表している。
尚、標準海水は、海域等により各成分の含有量はことなるが、ここでは生物海洋学入門(講談社サイエンティフィク発行)に記載されている標準海水の各成分を参照して各成分の海水濃度といい、ナトリウムイオンでは10780[mg/kg]、同様にカリウムイオンでは399[mg/kg]、カルシウムイオンでは412[mg/kg]である。
前記好適環境水の飼育実験によって、ナトリウムイオンの最低含有量が2.777[g/l](26.061%)以上、カルシウムイオン含有量が0.0993[g/l](24.763%)以上、カリウムイオン含有量が0.0951[g/l](25.026%)以上となるように飼育水中に含有していれば、養殖用の海水魚は良好に飼育出来ることが知見されている。なお、この発明では、カリウムとナトリウムとの成分についての記載が多々現出するが、ナトリウムにおいては便宜上の含有量が2.777[g/l](26.061%)の場合を25%といい、カルシウムにおいても、含有量が0.0993[g/l](24.763%)のものを25%といい、カリウムにおいても含有量が0.0951[g/l](25.026%)のものを25%という。同様に、また、以下の各記述において、単に100%などと%表示した場合には、常に標準海水に対する存在比を表すものとし、100%と記載した場合には、標準海水に対する存在比が100%である、即ち、標準海水に含まれる量と同じ量が含まれていることを表すものとする。
他方、上記各実験から、観賞用海水魚の飼育では、フィルター等によって吸着されるなどの理由で飼育水中のカルシウムイオンが減少していることが知見されている。
これらから、前記好適環境水の飼育水中に、カルシウムイオンが250[mg/l]以上となるように添加してあげれば、観賞用海水魚の飼育が可能ではないかと推察し、実験を試みた。
先ず、飼育水中に存在させるナトリウムイオン濃度25%であるナトリウムイオン存在量2.777[g/l]となるように塩化ナトリウムを7.0587[g/l]添加し、カリウムイオン濃度25%であるカリウムイオン存在量0.0951[g/l]となるように塩化カリウムを0.724[g/l]添加した。このナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度は、前記好適環境水のナトリウムイオンとカリウムイオンの最低濃度である。
そして、このナトリウムとカリウムとを添加した水に、標準海水に対するカルシウムイオン存在比が、25%(好適環境水の最低濃度)、50%、75%、100%となる飼育水をそれぞれ作成し、それぞれの飼育水を満たした水槽で、ルリスズメ5匹を入れて飼育実験を行った。尚、念のため、観賞用淡水魚の飼育が可能であることも同時に実装するために、観賞用淡水魚として、ディスカスを5匹飼育した。また、アンモニアによる魚体への影響を抑えるためpHが略7を保てるように、pH調整剤として、無水リン酸2ナトリウムを0.3969[g/l]と無水リン酸2水素カリウムを0.26631[g/l]とを添加している。
飼育期間は4日間とし、良好な状態か、鱗の逆立ちや体色の衰え等良好でない状況が起こるかを観察した。尚、飼育期間を4日としたのは、これまでの飼育実験の結果、鱗の逆立ちや体色の衰えなどの変化は、4日の飼育期間が有れば発生していることが判り、4日間良好に飼育出来ていれば、それ以上飼育しても鱗の逆立ちなどの変化が発生しないことを知見していたからである。
そして、観賞魚用飼育実験(1)の結果、全ての水槽において、良好な飼育が行えた。観賞魚用飼育実験(1)の結果を、図10に示す。
この実験結果から、観賞用海水魚では、ナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度とが、前記好適環境水の最低濃度を満足しており、カルシウムイオン濃度も最低濃度以上であれば、観賞用海水魚の飼育が可能であると言えた。
但し、カルシウムイオン濃度が高いと、長期飼育中に水質浄化用フィルターなどによってカルシウムが吸着されるなどしてカルシウムイオン濃度が低下していってしまうことも知見されているので、先に記載したとおり、家庭用の観賞魚用飼育水としては、250[mg/l]程度の添加量とすることが望ましい。これ以上多い場合には、pH緩衝剤を使用しているときなど、pH緩衝剤との作用によって、まれに、カルシウムの結晶化による低カルシウム血漿を起こすことも考えられる。
次いで、観賞魚用飼育実験(2)として、カルシウムイオン濃度を、標準海水に対する100%濃度とし、ナトリウムイオン濃度を、前記好適環境水の最低ナトリウムイオン濃度とし、カリウムイオン濃度を同様に最低ナトリウムイオン濃度から標準海水に対して100%となるように変化させた場合の飼育実験を行った。尚、カルシウムイオン濃度は、標準海水に対する最低存在比である100%(存在量0.401[g/l])となるように、塩化カルシウム2水和塩1.470[g/l]添加した。このナトリウムイオン濃度は、観賞魚用飼育実験(1)で良好に飼育出来た量である。また、飼育期間は6日間である。尚、アンモニアによる魚体への影響を抑えるためpHが略7を保てるように、pH調整剤として、無水リン酸2ナトリウムを0.3969[g/l]と無水リン酸2水素カリウムを0.26631[g/l]とを添加している。
図11は、観賞魚用飼育実験(2)の結果を示している。そして、同実験の結果、実験終了後にも、飼育魚は元気であり、鱗の逆立ちや体表のただれ、体色の衰えなどは見当たらず、良好に飼育出来ている。尚、実験期間は6日としたが、それ以降も良好に飼育されていた。従って、同実験の結果によれば、ナトリウムイオン濃度が前記好適環境水の最低濃度であり、カルシウムイオン濃度が良好に飼育出来る濃度である場合、カリウムイオン量は、最低濃度以上で有れば、良好に飼育出来ていることが判明した。
次いで、ナトリウムイオン濃度が標準海水に対する存在比で100%であり、カルシウムイオン濃度が標準海水に対する存在比100%の時、ナトリウムイオン濃度を前記最低濃度から標準海水に対する存在比100%まで変化させて、各ナトリウムイオン濃度での飼育が良好に行えるか否かを確認する実験を、観賞魚用飼育実験(3)として行った。尚、アンモニアによる魚体への影響を抑えるためpHが略7を保てるように、pH調整剤として、無水リン酸2ナトリウムを0.3969[g/l]と無水リン酸2水素カリウムを0.26631[g/l]とを添加している。
図12は、観賞魚用飼育実験(3)の結果を示している。同実験の結果、図12が示すとおり、標準海水に対する存在比が30%のナトリウムイオン濃度の水槽では、飼育魚に斃死したものが現れたが、それ以外のナトリウムイオン濃度では、良好に飼育出来ることが判明した。
この結果から、良好に飼育出来ている各ナトリウムイオン濃度のうちナトリウムイオン濃度30%の場合にだけ斃死した魚が発生したが、前後の濃度での良好な飼育が確認されていることから、斃死した魚の実験時の健康状態に問題があったのではないかと推察される。そこで、観賞魚用飼育実験(3)においても、ナトリウムイオン濃度は、前記好適環境水の最低濃度から100%濃度まで良好に飼育出来ると判断した。
観賞魚用飼育実験(1)では、ナトリウムイオン濃度およびカリウムイオン濃度を、前記好適環境水の飼育可能な最低濃度とし、このナトリウムイオン濃度およびカリウムイオン濃度において、カルシウムイオン濃度を、やはり前記好適環境水の飼育可能な最低濃度から標準海水に対する存在比100%まで変化させ、一般家庭に於ける飼育環境に対して飼育可能なカルシウムイオン濃度を求めることができた。
また、観賞魚用飼育実験(2)(3)では、カルシウムイオン濃度を良好に飼育出来る量のうち標準海水の100%として結晶化が発生しないよう注意しながら、ナトリウムイオン濃度およびカリウムイオン濃度を変化させる実験を行った。その結果、ナトリウムイオン濃度およびカリウムイオン濃度の変化に対しても、カルシウムイオン濃度が良好に飼育出来る濃度であれば、良好な飼育ができることが判明した。
即ち、観賞魚用飼育実験(1)乃至観賞魚用飼育実験(3)では、良好に飼育出来るカルシウムイオン濃度において、ナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度とが、前記好適環境水の良好に飼育出来る最低濃度の場合と標準海水に対する100%濃度の場合では、良好に飼育出来ることが知見された。また、ナトリウムイオン濃度を同最低濃度とした場合にカリウムイオン濃度を同最低濃度から同100%濃度へと変化させても良好に飼育出来ることが知見されており、同様にカリウムイオン濃度を同100%濃度とのした場合にナトリウムイオン濃度を同最低濃度から同100%濃度へと変化させても良好に飼育出来ることが知見されている。
これらの結果を受けて、最終的に、カルシウムイオン濃度を標準海水に対する存在比が略75%となる250[mg/l]の場合と100%となる401[mg/l]の場合とで、ナトリウムイオン濃度が前記好適環境水の良好に飼育出来る標準海水に対する最低濃度であってカリウムイオン濃度が標準海水に対する100%濃度の飼育水を作成し、更に、ナトリウムイオン濃度が標準海水に対して100%濃度でありカリウムイオン濃度が前記好適環境水の良好に飼育出来る最低濃度の飼育水を作成し、それぞれ飼育実験を試みた。この実験を観賞魚用飼育実験(4)とし、同実験の結果を図13に示す。尚、実験に使用した観賞用海水魚はこれまで同様ルリスズメであり、各水槽に5匹ずつを入れ、飼育期間は6日間とした。尚、アンモニアによる魚体への影響を抑えるためpHが略7を保てるように、pH調整剤として、無水リン酸2ナトリウムを0.3969[g/l]と無水リン酸2水素カリウムを0.26631[g/l]とを添加している。
この結果、カルシウムイオン濃度が良好に飼育出来る濃度の場合に、ナトリウムイオン濃度を前記最低濃度としカリウムイオン濃度を前記100%濃度とした時にも良好に飼育出来ることが知見され、ナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度とを逆にして、ナトリウムイオン濃度を前記100%濃度としカリウムイオン濃度を前記最低濃度とした時にも良好に飼育出来ることが知見された。
従って、前記実験(1)乃至実験(7)の各実験から、観賞用海水魚の飼育においては、飼育環境において飼育水中のカルシウムイオン濃度が低くなってしまい、良好な飼育ができない場合が生じ、これを解決するために、飼育水中のカルシウムイオン濃度を所定値以上となるように設定することで良好な飼育が可能であることが知見された。
また、前記観賞魚用飼育実験(1)乃至観賞魚用飼育実験(4)の結果から、ナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度を前記好適環境水の前記最低濃度から前記100%濃度の範囲で、カルシウムイオン濃度を実験(1)乃至実験(7)によって得られた値となるようにした飼育水で、観賞用海水魚が良好に飼育出来ることが実証された。
そして、上記各実験の結果から、飼育水中のカルシウムイオン濃度は、飼育時の給餌量が、観賞魚の飼育では比較的少ないこと、沈殿が発生しにくい状態の飼育水とすることを考慮すると、300[mg/l]程度とするのが好ましいという結論に達した。
そして、良好に飼育出来るカルシウムイオン濃度は、飼育水中の存在量が250[mg/l]以上であり、結晶化しない存在量まで可能であることが判った。この結晶化しない存在量は、飼育条件によって変化するが、標準海水に対する存在比が100%である401[mg/l]で良好に飼育出来ているので、401[mg/l]とした。
上記各実験において、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンの各存在量と数値を図14に纏めて示しておく。
そして、上記各実験の結果から、塩化ナトリウムを7.0587[g/l]以上27.085[g/l]以下と、塩化カリウムを0.1813[g/l]以上0.7242[g/l]以下と、塩化カルシウム2水和塩を1.1028[g/l]以上1.4703[g/l]以下とを調合して、観賞魚用飼育水製造剤として、観賞魚用飼育水用にもちいることができた。上記各実験では、同様に、各成分を配合した薬剤を汲み置いた水道水や河川水・地下水・雨水などの淡水に添加して飼育水を作成した。
また、pH調整剤(pH緩衝剤)は、これとは別に、無水リン酸水素2ナトリウムを0.3969[g/l]と無水リン酸2水素カリウムを0.26631[g/l]とを調合して上記飼育水に添加した。
しかしながら、pH調整剤は、pHを7やそれ以外の数値となるように調合して用いることから別途調合したが、例えば、pH7となるように調合したpH調整剤を、観賞魚用飼育水製造剤に予め調合しておいて、1剤として汲み置いた水道水などの淡水に混ぜ合わせてから飼育水に添加してもよい。
pH調整剤としては、リン酸系のpH調整剤として、リン酸水素2ナトリウムとリン酸2水素カリウムとを用いた。リン酸水素2ナトリウムとリン酸2水素カリウムとは、所定の比となるように添加することで、溶媒である飼育水のpH値を所望値にできることは既知である。例えば、リン酸2水素カリウム対リン酸水素2ナトリウムの比を大凡4:6として飼育水に添加することで大凡pH7となる。該pH調整剤は、大凡pH6からpH8の間でpH値の調整ができる。また、上記pH調整剤以外にも、観賞魚の生体に影響を与えない物質からなるものであれば使用可能であり、例えば、グッド緩衝剤であるMES、ADA、PIPES、MOPS、および、HEPES等が既知の緩衝剤として知られており使用可能である。尚、前記リン酸水素2ナトリウムおよびリン酸2水素カリウムによるpH調整剤や、前記グッド緩衝剤についての詳細な説明は、既知のものなので省略する。
次いで、観賞用海水魚と観賞用淡水魚とが飼育可能な観賞魚用飼育水における、観賞用海水魚および観賞用淡水魚の飼育可能pH範囲を特定するために、上記各実験と同様の簡易上部式濾過槽による水質浄化フィルターを備えた容積55[l]程度のガラス水槽を用いて各pH値における飼育実験を行った。実験に試用した観賞魚用飼育水は、ナトリウムイオン含有量が2.777[g/l](26.061%)、カリウムイオン含有量が0.0951[g/l](25.026%)であり、カルシウムイオン含有量が0.3[g/l]となるように調整したものを用い、観賞用海水魚および観賞用淡水魚の飼育実験を行った。飼育実験に試用した観賞用海水魚は、カクレクマノミ5匹、ルリスズメ5匹、キイロハギ2匹であり、観賞用淡水魚は、金魚5匹、ヤリタナゴ5匹、グッピー5匹である。上記条件でリン酸水素2ナトリウムとリン酸2水素カリウムとをpH5、pH6、pH7、pH7.5、pH8となるように調整したpH調整剤を用いて観賞魚用飼育水のpH値を各値に調整して実験した。実験するpH最小値をpH5とし、同最高値をpH8としたのは、従前の実験の経験からである。即ち、pH5で淡水魚および海水魚の生存率が悪くなることは従前の実験にて知見しており、また、既知の事実として、pH8以上に調整しなければならない観賞魚は僅かであることから、前記pH値とした。
図15乃至図19は、上記pH範囲特定の実験結果を示している。各図に示す実験は、観賞魚種および数、並びに、飼育環境を同条件にし、pH値を前記pH5乃至pH8に変化させた夫々のpH値における生体生存数および生存率を示している。図15乃至図19に示す各実験では、飼育魚および数は前記の通りであり、飼育観察期間を30日とし、水温25度にて行った。
図15に示す実験は、前記リン酸水素2ナトリウムおよびリン酸2水素カリウムによってpH5に調整した観賞魚用飼育水で、前記魚種および魚数を飼育した結果である。図15は、表の項目を、左から魚種、海水魚数、淡水魚数、30日後生存魚数、30日後生存率とし、30日後生存率の最下段に全飼育魚の平均生存率を示している。図15による実験の結果、pH5に調整した前記観賞魚用飼育水では、30日後には観賞用海水魚が12匹中3匹のみ生存し、観賞用淡水魚が15匹中7匹のみ生存していた。このように、pH5による実験では、観賞用海水魚および観賞用淡水魚共に生存率が低く、平均して33.3[%]であった。また、生存した魚体でも、鱗が立っているものなどが観察された。この結果、30日後生存率が33.3[%]では、観賞魚用飼育水としては不十分であると判断した。尚、図16乃至図24に示す各項目は、図15に示した各項目同様に記載してある。
次いで、pH値をpH6として実験を試みた。pH6による実験の結果を図16に示す。pH6とした観賞魚用飼育水では、観賞用海水魚では、カクレクマノミおよびキイロハギが夫々1匹死亡し、観賞用淡水魚では金魚およびグッピーが1匹死亡した。そして、30日後の平均生存率は81.7[%]であった。また、生存した魚体にも迂路小立のような異常は見当たらず、良好な飼育状態であることが確認された。この結果を受けて、30日後、8割以上のが生存していること、生存している魚体に異常が見当たらないことなどから、観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図17は、pH値を7に調整した観賞魚用飼育水を用いた実験の結果を示す。図17に示す通り、pH7に調整した飼育水では、観賞用海水魚のルリスズメが1匹死亡したが、他の飼育魚は全て30日後にも生存していた。この実験でも、pH6とした実験と同様に、生存している魚体に特に異常が見当たらなかった。そして、全体としての生存率は96.7[%]であった。これを受け、pH7とした前記飼育水でも観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図18は、pH値を7.5に調整した観賞魚用飼育水を用いた実験の結果を示す。図18に示す通り、pH7.5に調整した飼育水では、観賞用海水魚のカクレクマノミが1匹死亡し、観賞用淡水魚の金魚が1匹死亡したが、他の飼育魚は全て30日後にも生存していた。また、生存している魚体にも特に異常が見当たらなかった。そして、全体としての生存率は93.3[%]であった。この結果を受け、pH7.5とした前記飼育水でも観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図19は、pH値を8に調整した観賞魚用飼育水を用いた実験の結果を示す。図19に示す通り、pH8に調整した飼育水では、観賞用海水魚のカクレクマノミが1匹死亡し、観賞用淡水魚の金魚、ヤリタナゴ、グッピーが各1匹死亡したが、他の飼育魚は全て30日後にも生存していた。また、生存している魚体にも特に異常が見当たらなかった。そして、全体としての生存率は86.7[%]であった。この結果を受け、pH8とした前記飼育水でも観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
また、図4に示すような1000[l]程度の大きな水槽を用いた場合についても、上記図15乃至図19に示す実験と同様に、pH値を変化させた場合の観賞用海水魚および観賞用淡水魚の飼育実験を試みた。大きな水槽を用いたpH変動実験の結果を図20乃至図24に示す。図20乃至図24に示す各実験では、観賞用海水魚および観賞用淡水魚の魚種は、前記図15乃至図19に示す実験に合わせ、観賞用海水魚は同様とし、観賞用淡水魚は、新たにシルバーグラーミィを追加した。そして、観賞用海水魚の数は、カクレクマノミを50匹、ルリスズメを50匹、キイロハギを10匹とした。また、観賞用淡水魚の数は、金魚を30匹、ヤリタナゴを30匹、グッピーを100匹、シルバーグラーミィを20匹とした。
図20に示す実験は、前記リン酸水素2ナトリウムおよびリン酸2水素カリウムによってpH5に調整した観賞魚用飼育水で、前記魚種および魚数を飼育した結果である。図20は、表の項目を、左から魚種、海水魚数、淡水魚数、30日後生存魚数、30日後生存率とし、30日後生存率の最下段に全飼育魚の平均生存率を示している。図20による実験の結果、pH5に調整した前記観賞魚用飼育水では、30日後には観賞用海水魚が110匹中14匹のみ生存し、観賞用淡水魚が180匹中64匹のみ生存していた。このように、pH5による実験では、観賞用海水魚および観賞用淡水魚共に生存率が低く、平均して28[%]であった。また、生存した魚体でも、鱗が立っているものなどが観察された。この結果、30日後生存率が28[%]では、観賞魚用飼育水としては不十分であると判断した。
次いで、pH値をpH6として実験を試みた。pH6による実験の結果を図21に示す。pH6とした観賞魚用飼育水では、観賞用海水魚でカクレクマノミおよびルリスズメが夫々10匹、キイロハギが5匹死亡し、観賞用淡水魚で金魚が2匹、ヤリタナゴが1匹、グッピーが5匹、シルバーグラーミィが3匹死亡した。そして、30日後の平均生存率は83.3[%]であった。また、生存した魚体にも迂路小立のような異常は見当たらず、良好な飼育状態であることが確認された。この結果を受けて、30日後、8割以上のが生存していること、生存している魚体に異常が見当たらないことなどから、観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図22は、pH値を7に調整した観賞魚用飼育水を用いた実験の結果を示す。図22に示す通り、pH7に調整した飼育水では、観賞用海水魚でカクレクマノミが3匹、ルリスズメが2匹、キイロハギが2匹死亡し、観賞用淡水魚で金魚およびシルバーグラーミィが全て生存しており、ヤリタナゴが2匹、グッピーが5匹死亡した。この実験でも、pH6とした実験と同様に、生存している魚体に特に異常が見当たらなかった。そして、全体としての生存率は94[%]であった。これを受け、pH7とした前記飼育水でも観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図23は、pHを7.5に調整した観賞魚用飼育水を用いた実験の結果を示す。図23に示す通り、pH7.5に調整した飼育水では、観賞用海水魚でカクレクマノミが3匹、ルリスズメが2匹、キイロハギが1匹死亡し、観賞用淡水魚でヤリタナゴは全て生存しており、金魚が1匹、グッピーが5匹、シルバーグラーミィが3匹死亡したが、他の飼育魚は全て30日後にも生存していた。また、生存している魚体にも特に異常が見当たらなかった。そして、全体としての生存率は95.5[%]であった。この結果を受け、pH7.5とした前記飼育水でも観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図24は、pHを8に調整した観賞魚用飼育水を用いた実験の結果を示す。図24に示す通り、pH8に調整した飼育水では、観賞用海水魚でキイロハギが全て生存しており、カクレクマノミが5匹、ルリスズメが4匹死亡し、観賞用淡水魚で金魚が5匹、ヤリタナゴが1匹、グッピーが5匹、シルバーグラーミィが2匹死亡したが、他の飼育魚は全て30日後にも生存していた。また、生存している魚体にも特に異常が見当たらなかった。そして、全体としての生存率は92.4[%]であった。この結果を受け、pH8とした前記飼育水でも観賞魚用飼育水として利用可能であると判断した。
図15乃至図24に示すpH値を変化させた各実験の結果から、観賞魚用飼育水は、pH値がpH6乃至pH8の範囲で良好な飼育環境を保てることが知見された。
観賞魚用飼育水中に存在する陽イオンであるナトリウムイオン、カルシウムイオン、および、カリウムイオンの存在量については、上記各実験に記載した通りであるが、陰イオンである塩化物イオンの観賞魚用飼育水中の存在量を一覧表として図25に示しておく。
図25は、観賞魚用飼育水中の陽イオンであるカリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオンと、陰イオンである塩化物イオンの、標準海水に対する存在比および単位体積当たりの存在量を示した一覧表である。尚、図25中では、イオンであることを表す「−」や「+」の記号は省略してある。図25に示す塩化物イオンは、標準海水に対する存在比が、カリウムイオン、カリウムイオン、および、ナトリウムイオン夫々100[%]の時に最大となり、図25中、右欄の塩化物欄最下段に記載した標準海水に対する存在比比91.42935[%]、17.69158[g/l]となる。また、該塩化物イオンは、標準海水に対する存在比が、カリウムイオンおよびナトリウムイオンが夫々25[%](カリウムイオン0.0951[g/l]、ナトリウムイオン2.777[g/l])であり、カリウムイオンが62.34[%](0.25[g/l])の時に最小となり、図25中、右欄の塩化物欄の上段に記載した標準海水に対する存比24.85475[%](4.809394[g/l])となる。また、実用的には、カリウムイオンおよびナトリウムイオンは25[%](カリウムイオン0.0951[g/l]、ナトリウムイオン2.777[g/l])とし、カルシウムイオンを75[%](0.30075[g/l])とするのが好ましく、該存在比とすることで、カルシウムイオンが結晶化して析出することも無く、また、カルシウムイオンの存在が不足することも無い。その他のカリウム、ナトリウム、および、カルシウムイオンの各存在比の時の塩化物イオンの存在比および存在量は、図25に示す通りである。
また、発明者は、健康状態の良くない観賞魚に対して、健康状態を良くするためのトリートメント飼育水を思いつき、従来から亜鉛に殺菌作用が有ることから、水に良く溶ける硫酸亜鉛を、上記観賞魚用飼育水に微量添加してみる実験を行った。
実験対象とした観賞魚は、上記各実験やその他の実験において、鱗の逆立ちや体色の衰えなどの症状が見られた観賞魚とした。
図26に、カクレクマノミを試験魚とした観賞用海水魚に対する亜鉛添加トリートメント水による各濃度の実験をトリートメント水実験(1)として行った。
トリートメント水実験(1)では、観賞魚用飼育水実験で、観賞魚用飼育水として良好に飼育可能であると検証された、ナトリウムイオン濃度およびカリウムイオン濃度がそれぞれ最小濃度であり、カルシウムイオン濃度は標準海水に対する濃度が100%である観賞魚用飼育水を用いることとした。即ち、ナトリウムとして塩化ナトリウムを7.0587[g/l]添加して、ナトリウムイオン量が2.777[g/l](対標準海水比26.061%)となるようにした。また、カリウムイオンとして塩化カリウムを0.1813[g/l]添加して、カリウムイオン量が0.0951[g/l](対標準海水比25.026%)となるようにした。更にまた、カルシウムイオンとして塩化カルシウム2水和塩を1.4703[g/l]添加し、カルシウムイオン量が0.401[g/l]となるようにした。
上記飼育水に、亜鉛イオンの存在量が0.0005[g/l]となるように硫酸亜鉛を添加し、病魚の状態と病原のアミルウーディニウム原虫の状態を観察し、病魚が斃死せず、アミルウーディニウム原虫が繁殖あるいは変化が無い状態であれば、徐々に硫酸亜鉛を追加していき、アミルウーディニウム原虫の減少・死滅が確認出来る亜鉛イオン量を確認した。
その結果、亜鉛イオン濃度が0.0005[g/l]となるように硫酸亜鉛を添加した時に、カクレクマノミの病魚は斃死せずに飼育出来ており、アミルウーディニウム原虫の増殖が見られなくなった。アミルウーディニウムの増殖減少が見られたので、亜鉛イオンの添加量を0.001[g/l]まで増加させ、経過観察した。その結果、アミルウーディニウム原虫は死滅し、カクレクマノミは健康体へと回復した。
尚、試験に使用した水槽は、トリートメント水200[l]を入れた水槽に、前記各実験で用いた上部フィルター濾過方式の水質浄化用フィルターを用いて行った。実験に使用した装置は、水槽の容量と水質浄化用フィルターの容量が大きいこと以外は、図1に示す実験装置と同じである。
トリートメント水実験(1)では、飼育期間を20日として亜鉛イオンの増量をしながら経過観察した。その結果、図26に示すように、トリートメント水実験(1)では、病原であるアミルウーディニウム原虫の死滅が確認でき、病魚は健康魚へと回復した。
次いで、亜鉛イオンが、海水ではどの様に作用するかを実験した。この実験を、トリートメント水実験(2)として、図27にその実験の結果を示す。トリートメント水実験(2)では、カクレクマノミ、ペルクラウンアネモネフィッシュ、マダイの病魚を、トリートメント水実験(1)と同様な装置によって飼育実験した。なお、いずれの実験においても、飼育魚は死亡することはなかった。
その結果、病魚のカクレクマノミでは、図27(a)に示すように、亜鉛イオンの添加量を0.002[g/l]まで添加しても、アミルウーディニウムの現象・死滅が確認できなかった。
この結果とトリートメント水実験(1)の実験とから、標準海水への亜鉛イオンの添加による効果は、少なくとも亜鉛イオン添加量0.002[g/l]でも発揮されないが、カルシウムイオンを添加した観賞魚用飼育水では、0.0005[g/l]でも効果を発揮することがわかり、病魚のカクレクマノミについては、カルシウムイオンを添加した観賞魚用飼育水の方が、亜鉛イオンによるアミルウーディニウムの減少・死滅効果が少ない量で発揮できることがわかった。
また、図27(b)に示すように、病魚のペルクラウンアネモネフィッシュでは、標準海水に亜鉛イオンを0.001[g/l]となるように添加しても、アミルウーディニウムの減少・死滅が確認できなかった。しかしながら、亜鉛イオンの添加量を0.002[g/l]まで増量したところ、アミルウーディニウムの減少・死滅が確認できた。そして、マダイについても同じように実験を試みたところ、図27(c)に示すように、亜鉛イオンの添加量が0.001[g/l]ではアミルウーディニウムの減少・死滅は確認できなかったものの、亜鉛イオンの添加量を0.002[g/l]に増量したところ、アミルウーディニウムの減少・死滅が確認できた。
このように、標準海水に亜鉛イオンを添加してアミルウーディニウムの減少・死滅させるには、前記した観賞魚用飼育水に添加するよりも効果が薄く、大量に添加しなければならないことが知見された。
次いで、発明者は、健康魚に対する亜鉛イオンの影響を調べるために、カルシウムイオンを0.401[g/l]添加した観賞魚用飼育水(ナトリウムイオン2.777[g/l]、カリウムイオン0.0951[g/l])に亜鉛イオンを0.0001[g/l]添加した飼育水を用意し、健康な観賞用海水魚としてカクレクマノミを飼育し、徐々に亜鉛イオンの存在量を増量し、健康な観賞用海水魚への亜鉛の影響を調査した。その結果図28に示すように、亜鉛イオン添加量0.0001[g/l]の場合には良好に飼育可能であったが、亜鉛イオン添加量0.00025[g/l]にした場合には飼育魚の死亡が確認できた。そして、0.00025[g/l]が健康な観賞用海水魚に対する亜鉛の限界値であることを確認するために、同観賞魚用飼育水に亜鉛イオン添加量を0.0005[g/l]、0.001[g/l]、0.002[g/l]とした各水槽を用意し、それぞれに健康なカクレクマノミを入れて飼育したが、いずれの場合も死亡してしまった。
この結果から、発明者は、健康な観賞用海水魚を飼育する前記観賞用海水魚への亜鉛イオン添加が0.00025[g/l]以上で正常に飼育できないことを知見した。
次いで、上記と同様に、健康な観賞用淡水魚への亜鉛の影響を調べるために、カルシウムイオンを0.401[g/l]添加した観賞魚用飼育水(ナトリウムイオン2.777[g/l]、カリウムイオン0.0951[g/l])に亜鉛イオンを0.0001[g/l]添加した飼育水を用意し、健康な観賞用淡水魚として金魚を飼育した。そして、亜鉛イオン存在量を徐々に増量し、健康な観賞用淡水魚への亜鉛の影響を調査した。
その結果、図29に示すように、亜鉛イオン添加量0.0001[g/l]で正常に飼育できることが確認されたので、亜鉛イオン添加量を0.00025[g/l]に増量したが、やはり正常に飼育できた。
これを受け、更に亜鉛イオン添加量を0.0005[g/l]、0.001[g/l]、0.002[g/l]と増量していったが、飼育魚を正常に飼育できた。
これらの結果から、飼育水に添加した亜鉛イオンは、観賞用淡水魚への影響は少なくとも0.005[g/l]までは無いものの、観賞用海水魚では、0.00025[g/l]以上で飼育魚が死亡してしまうことが確認できた。従って、少なくとも、健康な観賞用海水魚は、図26に示した病魚である観賞用海水魚の治療が可能なトリートメント水での飼育ができないことから、亜鉛イオン添加量0.0005[g/l]添加した観賞魚用飼育水(ナトリウムイオン2.777[g/l]、カリウムイオン0.0951[g/l]、カルシウムイオン0.401[g/l])は、観賞用海水魚のアミルウーディニウムの減少・死滅を目的とした治療に用いることが可能であることが知見できた。一般的に、亜鉛は、防腐剤として機能し殺菌作用があることは既知でる。このことから、病魚の観賞用淡水魚に関する実験は行っていないが、亜鉛の殺菌作用を考慮すれば、観賞用海水魚同様に治療効果を有することが容易に理解出来る。
上記、各実験から、発明者は、先に行った結果から得られた観賞魚用飼育水のナトリウムイオン、カリウムイオンの最低濃度と最大濃度との組み合わせに、カルシウムイオンの最低濃度と最大濃度とを組み合わせた各観賞魚用飼育水に、亜鉛イオンを0.0005[g/l]添加した飼育水で、健康な観賞用海水魚であるカクレクマノミの飼育実験を行ったところ、図30に示すように、カリウムイオンの最低濃度0.0951[g/l]添加とナトリウムイオンの最低濃度2.777[g/l]添加とカルシウムイオン0.250[g/l]を添加した観賞魚用飼育水に亜鉛イオン添加量0.0005[g/l]添加した飼育水でも、アミルウーディニウムの減少・死滅が確認でき、病魚の回復が確認できた。
また、観賞魚用飼育水の成分をそれぞれ、 カリウムイオン0.380[g/l](100%)、ナトリウムイオン2.777[g/l](26.061%)、カルシウムイオン0.25[g/l]、亜鉛イオン0.0005[g/l]としても、アミルウーディニウムの減少・死滅と病魚の回復とが見られた。
同様に、観賞魚用飼育水の成分をそれぞれ、 カリウムイオン0.0951[g/l](25.026%)、ナトリウムイオン10.656[g/l](100%)、カルシウムイオン0.25[g/l]、亜鉛イオン0.0005[g/l]としても、アミルウーディニウムの減少・死滅と病魚の回復とが見られた。
同様に、観賞魚用飼育水の成分をそれぞれ、 カリウムイオン0.380[g/l](100%)、ナトリウムイオン2.777[g/l](26.061%)、カルシウムイオン0.401[g/l]、亜鉛イオン0.0005[g/l]としても、アミルウーディニウムの減少・死滅と病魚の回復とが見られた。
同様に、観賞魚用飼育水の成分をそれぞれ、 カリウムイオン0.0951[g/l](25.026%)、ナトリウムイオン10.656[g/l](100%)、カルシウムイオン0.401[g/l]、亜鉛イオン0.0005[g/l]としても、アミルウーディニウムの減少・死滅と病魚の回復とが見られた。
同様に、観賞魚用飼育水の成分をそれぞれ、 カリウムイオン0.380[g/l](100%)、ナトリウムイオン10.656[g/l](100%)、カルシウムイオン0.25[g/l]、亜鉛イオン0.0005[g/l]としても、アミルウーディニウムの減少・死滅と病魚の回復とが見られた。
同様に、観賞魚用飼育水の成分をそれぞれ、 カリウムイオン0.380[g/l](100%)、ナトリウムイオン10.656[g/l](100%)、カルシウムイオン0.401[g/l]、亜鉛イオン0.0005[g/l]としても、アミルウーディニウムの減少・死滅と病魚の回復とが見られた。
以上の結果から、原虫であるアミルウーディニウムに起因する病魚に対して、亜鉛イオン添加量を0.0005[g/l]とした観賞魚用飼育水が治療効果を持っていることが知見された。
尚、標準海水を示す数値を図31に示しておく。
また、上記各実験においては、塩化ナトリウムを用いたが、魚体に対する毒性が無ければ他のナトリウム塩を用いても良く、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、有機酸ナトリウム等を用いてもよい。更に、観賞魚用飼育水、観賞魚用トリートメント水については、金属ナトリウムを直接添加してもよい。
同様に、塩化カルシウムについても、魚体に対する毒性が無ければ他のカルシウム塩を用いても良く、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸一水素カルシウム、酸化カルシウム、リン酸三カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、有機酸カルシウム等を用いてもよい。更に、観賞魚用飼育水、観賞魚用トリートメント水については、金属カルシウムを直接添加してもよい。
同様に、塩化カリウムについても、魚体に対する毒性が無ければ他のカリウム塩を用いても良く、ヨウ化カリウム、硫酸カリウム、臭化カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸三カリウム、炭酸カリウム、有機カリウム等を用いてもよい。更に、観賞魚用飼育水、観賞魚用トリートメント水については、金属カリウムを直接添加してもよい。
また、この実施の形態の観賞魚用トリートメント水に含ませる亜鉛としては、硫酸亜鉛を添加することで観賞魚用トリートメント水に亜鉛イオンを含ませたが、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、塩基性硫酸亜鉛、塩基性塩化亜鉛などの他の亜鉛化合物を添加することで亜鉛イオンを含ませてもよく、更には、金属亜鉛を直接的に添加して亜鉛イオンを含ませてもよい。
尚、上記各飼育実験では、飼育水温を25度として行った。