JP2011026686A - クロム系ステンレス鉄筋の製造方法 - Google Patents

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幸太郎 松浦
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Abstract

【課題】狙いとする強度区分に安定して製造することが容易なクロム系ステンレス鉄筋の製造方法を提供すること。
【解決手段】質量%で、C:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:0.60%以下、Cr:11.0〜13.5%、N:0.15%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼材を熱間圧延した後、600℃以上の温度であって、かつ焼もどしパラメータであるT(20+logt)/1000(T:焼なまし温度(K)、t:焼なまし時間(hr)、logは常用対数)が17.0〜23.0の範囲となる条件で焼なまし処理を施すことを特徴とするクロム系ステンレス鉄筋の製造方法である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、クロム系ステンレス鉄筋に関し、強度を狙いとする強度区分に精度良く製造することを可能とするためのステンレス鉄筋の製造方法に関する。
従来、土木及び建築に使用されるコンクリート用鉄筋としては、普通鉄筋が用いられていることが多く、その規格としてはJISG3112に規定されている。この規格には、得られる強度別に、SD295A、SD295B、SD345、SD390及びSD490の5種類が規定されている。
しかしながら、普通鉄筋は耐食性が極めて劣るため、コンクリートが中性化した場合や、コンクリート中に塩化物イオンが侵入した場合には、短時間に容易に腐食してしまう。
このような状況から、特に腐食が許されないような環境で使用される場合には、耐食性の優れたステンレス鉄筋が選択される場合が増加している。特にステンレス鉄筋を用いる場合、耐食性が優れるという利点がある反面、普通鉄筋に比べかなりのコスト高となることから、ステンレス鋼の中では比較的安価なクロム系ステンレス鋼の鉄筋が注目されている。
そして、ステンレス鉄筋についても、普通鉄筋と同様にその規格がJISG4322により定められている。そして、従来普通鉄筋を用いていた用途について、耐食性に対する懸念を解決するためにステンレス鉄筋を用いる場合が多いことから、強度については、ほぼ同様の規定がされており、普通鉄筋のSD295Aと同一の強度を保証するステンレス鉄筋については強度区分295A、その他も同様に295B、345、390の強度区分で表示することが定められている。
この規格に規定されたステンレス鉄筋に関し強度面で品質の安定した製品を提供するためには、狙いとするステンレス強度区分の鉄筋を安定して製造できる方法の開発が不可欠となる。
そして、上記の強度区分の条件を満たすステンレス鉄筋を提供可能とするため、最近様々な検討がされており、例えば特許文献1〜3に示す発明が提案され、公開されている。
特開2008−266708号公報 特開2007−197786号公報 特開平4−26719号公報
このうち、特許文献1に記載の発明は、所定の成分範囲に規定されたクロム系ステンレス鉄筋を熱間圧延にて製造し、さらに300〜600℃の温度で熱処理することにより、0.2%耐力を高めようとするものである。
次に、特許文献2に記載の発明は、所定の成分範囲に規定されたクロム系ステンレス鋼について、焼なまし処理を行なうのではなく、熱間圧延前の加熱中の組織をフェライト相+オ−ステナイト相とすることにより、熱間圧延ままにてフェライト相とマルテンサイト相からなる組織を有し、かつフェライト相の体積率を30〜90%の組織となるよう製造することにより、狙いとする機械的性質を得ようとするものである。
また、特許文献3に記載の発明は、特許文献2と同様に熱間圧延後の熱処理に頼ることなく狙いとする機械的性質を得ようとするものである。その内容は、C+N等の化学成分とNi−balを適切に制御し、さらに熱間圧延時の終了温度を調整して、狙いとする機械的特性が得られるようにすることを特徴とするものである。
しかしながら、上記の従来技術では、以下の問題がある。
まず、特許文献1に記載の発明は、低炭素鋼に冷間加工等により歪を加えて転位を生じさせ、その後焼なましを行なうことにより、転位が侵入型原子であるCやNにより固着され、降伏点が上昇する、いわゆる歪時効の考え方を適用していると考えられる。
すなわち、特許文献1に記載の発明は、熱間圧延終了後の鋼材に対し300〜600℃の温度で時効処理を行い、熱処理前に生じていた転位を鋼中のC及びNで固着させ、その効果により0.2%耐力を狙いとする値に改善することを特徴としている。ところが、再結晶温度域以上で行われる熱間圧延を行なった後に残存する転位密度を安定した量に制御することは難しく、転位密度を高めるために追加で冷間加工を行うことになるとコスト高となり、どちらにしても熱処理直前に転位密度を狙いとする範囲に調整することは難しい。
転位密度がばらついた状態で熱処理を行うということは、安定して狙いとする強度区分のステンレス鉄筋を製造することが困難であることを意味する。
次に特許文献2に記載の発明は、組織を二相組織とし、フェライト相及びマルテンサイト相の体積率の調整により強度を調整しようとするものであるが、このうちマルテンサイト相についてはわずかな体積率の変化で強度に大きな変化が生じ、狙いとする強度区分となるよう安定して製造することが難しいという問題がある。
また、特許文献3の発明の場合、化学成分のうち特にC+NとNi−balの制御により0.2%耐力を調整しようとするものであるが、本文献の実施例に記載されているように、C+N、Ni−balのわずかな変化でも0.2%耐力が大きく変化してしまうため、狙いとする強度区分となるよう安定して製造することが難しいという問題がある。
さらに、ステンレス鉄筋を製造する場合には、同一鋼種でもユーザーから様々なサイズの鉄筋の製造が要求される。鉄筋サイズが変化すると、熱間圧延時の加工歪量や熱間圧延後の冷却速度等が影響し、得られる強度が変化する。従って、同一鋼種で同一強度区分の狙いで製造する場合であっても、製造する鉄筋サイズが異なると、同じ製造条件で安定した強度のステンレス鉄筋を製造することが難しいという問題があった。
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、クロム系ステンレス鉄筋の0.2%耐力を従来の製造方法に比べはるかに精度良く安定して狙いとする強度区分に製造することができ、特に同一鋼種で同一強度区分のステンレス鉄筋を製造するのであれば、サイズに関係なく同じ製造条件で強度ばらつきの小さいステンレス鉄筋の製造を可能とする、クロム系ステンレス鉄筋の製造方法を提供するものである。
本発明は、質量%で、C:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:0.60%以下、Cr:11.0〜13.5%、N:0.15%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼材を熱間圧延した後、600℃以上の温度であって、かつ焼もどしパラメータであるT(20+logt)/1000(T:焼なまし温度(K)、t:焼なまし時間(hr)、logは常用対数)が17.0〜23.0の範囲となる条件で焼なまし処理を施すことを特徴とするクロム系ステンレス鉄筋の製造方法である。
本発明のクロム系ステンレス鉄筋の製造方法は、所定の式により定めた焼もどしパラメータを狙いとする強度区分に合わせて調整することにより、製造したい強度区分のステンレス鉄筋を容易に製造可能とするものである。
そして、焼もどしパラメータ自体は、熱処理炉の条件設定で正確に調整が可能であり、ステンレス鉄筋の製造に用いる鋼種及び狙いの強度区分に合わせた焼もどしパラメータをあらかじめ設定された適切な値に固定して製造することにより、強度ばらつきの小さいステンレス鉄筋を容易に製造することが可能となる。
従って、従来提案されていた時効処理とかマルテンサイト相を含む二相組織の制御やC+N及びNi−balの制御を行う場合と比較して、強度ばらつきの小さいステンレス鉄筋を容易に製造することができる。
本発明のクロム系ステンレス鉄筋の製造方法は、上述したように、質量%でC:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:0.60%以下、Cr:11.0〜13.5%、N:0.15%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼からステンレス鉄筋を製造する際に、製造上最も容易かつ確実に製品の強度を制御する方法を提案するものである。
強度を変化させる手法としては、従来より焼なまし等の熱処理、制御圧延、成分調整、組織制御等多数の方法が公知となっている。ところが、クロム系ステンレス鉄筋を製造した場合に、工業的生産過程において、その中のどの手法を採用した場合において、強度ばらつきの小さいステンレス鉄筋を大量生産することが可能となるかについては、明確となっていなかった。
本発明者らは、多数の実験を繰返した結果、クロム系ステンレス鉄筋の場合には、熱間圧延後の焼なましをあるパラメータで条件を設定し、ユーザーから要求される強度区分に合わせて、鋼種毎に最適なパラメータ値を求め、熱処理を施すことが最も容易かつ確実に強度制御を可能にすることを見出し、本発明を完成させたものである。
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明では、質量%でC:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:0.60%以下、Cr:11.0〜13.5%、N:0.15%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を用いて製造する。しかし、これは本発明の範囲が明確になるよう記載したものにすぎず、その範囲はステンレス鋼棒の規格であるJISG4303で規定されているSUS410、SUS410L等のJIS規格鋼とほとんどが重複する範囲であって、従来製造されていないような特別な成分のステンレス鋼を製造することを意味するものではない。すなわち、使用する材料は従来公知のステンレス鋼にすぎないので、成分範囲の限定理由については特に説明する必要はないと考えられるため、説明を省略し、熱間圧延後の熱処理条件についてのみ、以下に説明する。
本発明では、前記した化学成分からなる鋼を溶解し、熱間圧延により所定の形状からなるステンレス鉄筋を製造した後、焼なまし処理により狙いとする強度区分に調整する。そして本発明では、600℃以上の温度で焼なまし処理を行なうことを特徴としている。これは、600℃未満の熱処理温度では、熱処理中の強度低下が非常に遅くなり、大量生産する場合に許容できる時間内に目的とする強度に調整することが困難となるからである。
さらに、本発明では、前記した通り、600℃以上の熱処理温度でかつT(20+logt)/1000(T:焼なまし温度(K)、t:焼なまし時間(hr)、logは常用対数)で定められた焼もどしパラメータが17.0〜23.0の範囲内で焼なまし処理を行なう。
ここで、焼もどしパラメータの下限を17.0としたのは、17.0未満では熱処理による強度低下が小さく、狙いとする強度区分のステンレス鉄筋を得ることが困難なためであり、逆に23.0を超える条件で熱処理した場合には、それ以上に高い焼もどしパラメータで処理しても、強度低下の効果が飽和し、熱処理に必要なエネルギーが無駄となるためである。
次に本発明の効果を実施例により説明する。
表1に、実施例として用いた供試材の化学成分を示す。このうち、A−1とA−5〜A−7がJIS規格のSUS410Lに相当する供試材であり、A−2〜A−4がSUS410に相当する供試材である。
Figure 2011026686
そして、表1に記載の化学成分からなる供試材を用い熱間圧延によりサイズがD10〜D38の範囲のステンレス鉄筋を製造し、冷却後、後述の表2、表3に示す条件で焼なまし処理を行い、熱処理後に引張試験を実施して0.2%耐力を求め、その強度ばらつき幅を測定した。また、比較例として、焼もどしパラメータの値が指定した範囲をはずれた実験例に加え、熱間圧延ままで強度を調整した場合の結果も同時に示した。これは、前記した従来技術に記載の通り、従来の強度調整が、熱間圧延後の熱処理を行わずにされていた場合が多いことを考慮し、本発明により製造したステンレス鉄筋との強度ばらつきの水準の違いを比較するために行なったものである。
Figure 2011026686
Figure 2011026686
表2に示す通り、本発明の実施例では、全ての鋼種について、狙いの強度区分に合わせて焼もどしパラメータを調整して熱処理することにより、鉄筋サイズがD10からD38まで変化した場合でも、全く同じ製造条件で、0.2%耐力のばらつきを54N/mm2以下に抑えて製造することができた。
JIS規格では、強度区分295Aでは0.2%耐力は下限のみの指定となっており、強度区分295Bの場合は、0.2%耐力の範囲が295〜390N/mm2、強度区分345の場合は、345〜440N/mm2と上下限の差が95N/mm2、強度区分390の場合、0.2%耐力の範囲が390〜510N/mm2で上下限の差が120N/mm2となっており、本発明の方法で製造したステンレス鉄筋は、焼もどしパラメータを適切に調整することにより、サイズが変化しても、全く同じ熱処理条件でJIS規格で指定された条件を満足する0.2%耐力の範囲に抑えることができることを確認できた。
これに対し表3に示す通り、熱間圧延後熱処理をせずに製造した比較例の場合には、本発明のような焼もどしパラメータによる0.2%耐力の調整は困難であることから、0.2%耐力の調整は成分調整に頼らざるをえず、化学成分によっては、A−1の比較例の結果(試験No.13)のように0.2%耐力を狙い値に調整することが困難になるとともに、同じ材料を使って製造した場合でも試験No.14〜16の結果から明らかなように、D10の鉄筋とD38の鉄筋を製造した場合で100N/mm2を超える強度差が生じてしまうことがわかる。実際の製造においては、使用する材料の化学成分ばらつきも考慮しなければならず、さらにばらつきは大きいものとなる。その結果、規格を満足する強度のステンレス鉄筋を製造するには、鉄筋サイズによって狙いの化学成分を細かく調整する等の対策が追加で必要となり、必然的に製造条件の管理が複雑になるという大きな問題が生じる。
また、比較例No.17は、焼もどしパラメータが本発明で指定した下限の値をはずれた場合の結果であるが、この場合には0.2%耐力が十分に低下せず、狙いの強度区分に調整できないことがわかった。
以上の比較例に対し、本発明の方法で製造した場合には、前記した通り焼もどしパラメータを最適に調整することにより、鉄筋サイズに関係なく同じ製造条件で製造が可能なため、製造条件の指定が容易であり、かつ強度ばらつきの小さいステンレス鉄筋を確実に製造することができる。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:0.60%以下、Cr:11.0〜13.5%、N:0.15%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼材を熱間圧延した後、600℃以上の温度であって、かつ焼もどしパラメータであるT(20+logt)/1000(T:焼なまし温度(K)、t:焼なまし時間(hr)、logは常用対数)が17.0〜23.0の範囲となる条件で焼なまし処理を施すことを特徴とするクロム系ステンレス鉄筋の製造方法。
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