JP2011021097A - 透明耐熱フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】寸法安定性および耐熱性を備えているだけでなく、十分なレベルの透明性をも備えたポリアリールケトン系透明耐熱フィルム、特に透明性および寸法安定性が良好なポリアリールケトン系透明耐熱フィルムを提供する。
【解決手段】結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)、及び下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸してなるフィルムであって、線膨張係数が50ppm/℃以下であり、フィルムの厚みが50μm以下でのヘーズ値が30%以下であり、フィルム厚みが80μm以下でのヘーズ値が43%以下である、透明耐熱フィルム。
Figure 2011021097

【選択図】なし

Description

本発明は、透明耐熱フィルムに関し、詳細には、透明性、耐熱性、寸法安定性が要求される用途において好適に使用できるポリアリールケトン系耐熱性フィルムに関する。
ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代表される結晶性ポリアリールケトン樹脂は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、耐薬品性などに優れているため、航空機部品、電気・電子部品を中心に多く採用されている。しかしながら、ポリアリールケトン樹脂は原料価格が非常に高価な上、樹脂自体のガラス転移温度が140℃〜170℃と比較的低いことから、耐熱性等を改良する検討が行われてきた。その中で、ポリアリールケトン樹脂と良好な相溶性を示す非晶性ポリエーテルイミド樹脂とのブレンドが検討されている。
例えば、特許文献1および2には、結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂との混合組成物が開示されている。
結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂との混合組成物は、該混合組成物の溶融ポリマーを急速に冷却することにより、低結晶性であって、透明性が良好なフィルムまたはシートを得ることができる。しかし、このままでは機械的強度や耐熱性が不十分であるため、熱処理(結晶化処理)によって結晶化を進める必要がある。しかしながら、機械的強度および耐熱性を向上させるべく結晶化処理を行うと、生成した球晶による可視光の散乱などが主な原因で、フィルムの透明性が大幅に低下してしまうという問題があった。
透明性の改良を試みたものとしては、例えば、特許文献3には結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶融混練し、急冷製膜により低結晶性フィルムを調整した後、熱処理により結晶化された耐熱性フィルムが開示されている。特許文献3の実施例には厚み75μmで、ヘーズ値が27.5%〜45.9%の透明性を有するフィルムが開示されている。
特開昭59−187054号公報 特表昭61−500023号公報 特開2002−321285号公報
しかしながら、特許文献3の結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂との混合組成物からなるフィルムは、フィルムが有する耐熱性、耐薬品性などの特性を保持しつつ、透明性の改善されたフィルムではあるが、透明性が必ずしも十分なレベルでは無く、用途が限定されてしまうという問題があり、その改良が望まれていた。
また、耐熱性を有するポリアリールケトン系フィルムは、基板材料として用いられるが、その時、積層する金属箔との線膨張係数差を小さくして、内部応力の発生を抑える必要がある。その点から、耐熱性を有するポリアリールケトン系フィルムは、線膨張係数が金属に近く、寸法安定性がよいことが必要とされる。
そこで、本発明は、寸法安定性および耐熱性を備えているだけでなく、十分なレベルの透明性をも備えたポリアリールケトン系透明耐熱フィルム、特に透明性および寸法安定性が良好なポリアリールケトン系透明耐熱フィルムを提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の非晶性ポリエーテルイミド樹脂と結晶性ポリアリールケトン樹脂との混合樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸することにより上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
第1の本発明は、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)、及び、下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸してなるフィルムであって、線膨張係数が50ppm/℃以下であり、フィルムの厚みが50μm以下でのヘーズ値が30%以下であり、フィルム厚みが80μm以下でのヘーズ値が43%以下である、透明耐熱フィルムである。
Figure 2011021097
第1の本発明において、混合樹脂組成物の結晶融解ピーク温度が260℃以上であることが好ましく、
結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)とポリエーテルイミド樹脂(B)との混合質量比が、A/B=90〜40/10〜60であることが好ましい。
第1の本発明において、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)は、下記構造式(2)の繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂を主成分とするものであることが好ましい。
Figure 2011021097
第2の本発明は、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)、及び下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を溶融混練する工程、急冷製膜により成形体を調製する工程、および、少なくとも1方向に延伸する工程、を備えてなる透明耐熱フィルムの製造方法である。
Figure 2011021097
第2の本発明において、急冷製膜を、得られる成形体が、下記式(I)を満たすように行うことが好ましい。
[(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]≦0.50・・・式(I)
第2の本発明において、さらに、「混合樹脂組成物の結晶化温度−20℃」〜「混合樹脂組成物の融点」にて、延伸後に、熱処理を行うことが好ましい。また、該熱処理は、得られる透明耐熱フィルムが、下記式(II)を満たすように行うことが好ましい。
[(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]≧0.90・・・式(II)
本発明のフィルムは、結晶性ポリアリールケトン樹脂中に、特定の非晶性ポリエーテルイミド樹脂を主成分として含むことで、特定の高次構造を有し、これにより延伸された後に、透明性、耐熱性、および、寸法安定性を示す。
<透明耐熱フィルム>
以下、本発明の透明耐熱フィルムについて詳細に説明する。
なお、本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意味である。当該主成分が意味する含有割合は特に限定されないが、組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100質量%も含む)である。
また、「X〜Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意味であると共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意味でもある。また、イ号製品が本発明が規定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に含まれる。
本発明のフィルムは、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)および非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸してなるフィルムである。なお、本発明でいうフィルムには肉厚が比較的厚い500μm以上のシートも含む。
(結晶性ポリアリールケトン樹脂(A))
結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)は、その構造単位に芳香族環、エーテル結合及びケトン結合を含む熱可塑性樹脂である。その代表例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等がある。本発明においては、下記構造式(2)に示す繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが好適に使用される。この繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンとしては、VICTREX社製の商品名「PEEK151G」、「PEEK381G」、「PEEK450G」などが市販されている。なお、使用する結晶性ポリアリールケトン樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
Figure 2011021097
(非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B))
また、非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、下記構造式(1)に示す繰り返し単位を有するポリエーテルイミドであり、例えば、ゼネラルエレクトリック社の商品名「UltemCRS5001」として市販されている。
Figure 2011021097
本発明を限定する趣旨ではないが、式(2)の繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンと、式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂との混合樹脂組成物における分子間の電子的な相互作用と、式(2)の繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンと、下記式(3)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂との混合樹脂組成物における分子間の電子的な相互作用とは異なる。この差異により相溶性に相違が生じ、本発明の混合樹脂組成物においては特有の高次構造を形成し、これより、延伸後において、透明性、耐熱性、および、寸法安定性を示すと考えられる。
Figure 2011021097
非晶性ポリエーテルイミド樹脂の製造方法は特に限定されるものではないが、通常、上記構造式(1)を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、4,4’−[イソプレンピリデンビス(p−フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物とp−フェニレンジアミンとの重縮合物として公知の方法によって合成される。また、上記構造式(3)を有する非晶性ポリイミド樹脂は、4,4’−[イソプロピレンビス(p−フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物とm−フェニレンジアミンとの重縮合物として公知の方法によって合成される。また、上記した非晶性ポリエーテルイミド樹脂には、本発明の主旨を超えない範囲で共重合可能な他の単量体単位を導入してもかまわない。なお、使用する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明のフィルムを透明性が要求される耐熱フィルム用途として使用する場合には、混合樹脂組成物の結晶融解ピーク温度は260℃以上であることが好ましく、ポリアリールケトン樹脂(A)と非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)との混合質量比は、A/B=90〜40/10〜60である樹脂組成物を用いることが好ましい。
ここで、混合樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)が40質量%未満であったり、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)が60質量%以上では、組成物全体としてのガラス転移温度を向上させる効果が不十分となったり、結晶成分が少ないために耐熱性が不十分となったり、後述するフィルム製膜時の成形性が不十分となったりする虞がある。
<透明耐熱フィルムの製造方法>
本発明の透明耐熱フィルムは、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)およびポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を溶融混練し、急冷製膜することにより成形体とし、この成形体を少なくとも1方向に延伸することにより得られる。
(成形体の製造)
まずは、成形体の製造方法について説明する。なお、本発明における成形体とは延伸する前のシート状成形物である。本発明における成形体の製造方法には公知の各種の製造方法が適用でき、本発明の趣旨を超えなければ特に限定されるものではない。成形体の製造方法としては、例えば、インフレーション成形法、Tダイを用いる押出しキャスト成形法、カレンダー成形法などを挙げることができる。中でも、フィルム製膜性や安定生産性等の観点からTダイを用いる押出しキャスト成形法が好ましい。Tダイを用いる押出しキャスト成形法での成形温度は、組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね融点以上、430℃以下である。また、成形体の厚みは、特に制限されるものではないが、通常10μm〜800μm程度である。
本発明の成形体は、上述した混合組成物からなる溶融物を急冷製膜することによって得ることができる。本発明において急冷製膜とは、得られた成形体を用いて示差走査熱量測定を行った際に、少なくとも結晶化ピーク温度が観察される製膜法であることを意味し、好ましくは成形体が下記式(I)を満たすことをいう。
[(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]≦0.50・・・式(I)
上記の式(I)において、ΔHmは、示差走査熱量測定により昇温した時に測定される結晶融解熱量(J/g)のことであり、ΔHcは、昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量(J/g)のことである。
なお、結晶融解熱量ΔHm(J/g)と結晶化熱量ΔHc(J/g)は、次のようにして求めた値である。すなわち、パーキンエルマー社製DSC−7を用いて、試料10mgをJIS−K7122に準じて、加熱速度10℃/分で室温から400℃まで昇温したときのサーモグラムから求めた。
上記の式(I)の[(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]の値は、原料ポリマーの種類・分子量・組成物の比率等にも依存するが、成形体の成形・加工条件に大きく依存する。すなわち、成形体を製膜する際に、原料ポリマーを溶融させた後、速やかに冷却すれば上記値を小さくすることができる。また、上記値は、結晶化処理において、ある処理温度で処理時間を長くすれば大きくすることができる。上記値の最大値は1.0であり、該値が大きいほど結晶化が進行していることを意味している。ここで該値が0.50を超えると、後述する延伸工程時にフィルムの破断が発生するなど成形性が不十分となったり、延伸時にフィルムが白化したり、といった問題が生じる虞があるため好ましくない。
(成形体の延伸方法)
次に、成形体の延伸方法について説明する。本発明において、上記成形体を延伸することにより、高い透明性を維持しつつ、耐薬品性、耐熱性を有すると共に、寸法安定性(低線膨張係数化)を有するフィルムが得られる。本発明における延伸方法としては、公知の方法が採用でき、特に限定されるものではない。延伸方法の具体例としては、例えば、ロール延伸法、圧延法、テンター延伸法などを挙げることができる。中でも、本発明においては、ロール延伸法、テンター延伸法が延伸条件の選択幅が広いために好ましく、これらを単独であるいは組み合わせて少なくとも1方向に延伸する方法を採用することが好ましい。具体的な延伸法としては、ロール延伸法等により縦方向(MD)に延伸する一軸延伸法、縦方向への一軸延伸後引き続きテンター延伸法等により横方向(TD)に延伸する逐次二軸延伸法、又はテンター延伸法を用いて縦方向および横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法が挙げられる。
各延伸方法について、以下、さらに詳細に記載する。
(一軸延伸法)
前記の成形体を特定温度範囲で一方向に延伸する方法である。一軸延伸の延伸温度は結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂組成比率に依存し、混合樹脂組成物のガラス転移温度から混合樹脂組成物の冷結晶化温度の温度範囲で延伸することが好ましいが、具体的な延伸温度を挙げると、好ましくは140℃〜210℃である。延伸温度が140℃未満では、混合樹脂組成物のガラス転移温度以下となるため延伸時に脆化し、延伸することが困難となる場合が多く、210℃以上では、混合樹脂組成物の冷結晶化温度以上となるため延伸時に結晶化が生じてしまうため、フィルムの透明性が大幅に低下したり、延伸することが困難となる場合がある。延伸温度は150℃〜200℃がより好ましく、160℃〜200℃がさらに好ましい。
また、一軸延伸の延伸倍率は、1.5倍〜10倍とするのが好ましい。延伸倍率が1.5倍未満では延伸時の配向が弱く耐熱性が乏しくなる場合があり、10倍超では延伸中に高度に配向し、延伸時に破れを起こしたりするなどの問題が起こる場合があったり、得られるフィルムの寸法安定性が逆に悪くなる場合がある。延伸倍率は延伸温度との兼ね合いもあるため一概には言えないが、2.0倍〜8.0倍がより好ましく、2.0倍〜6.0倍がさらに好ましい。
延伸させる手段としては、一対以上のロール群を用いて延伸するロール延伸法、ロールを用いた圧延による圧延法、テンターを用いて延伸するテンター延伸法等が挙げられる。延伸時の延伸速度は、500〜100000%/分の範囲が好ましい。延伸速度が500%/分未満では延伸中に結晶化が生じてしまうため、フィルムの透明性が大幅に低下したり、延伸することが困難になる場合があり、100000%/分超では、延伸製膜時のハンドリングが難しくなるといった生産時の課題が発生する場合がある。延伸速度は1000〜50000%/分がより好ましく、5000〜50000%/分がさらに好ましい。
成形体の予熱は、成形体の結晶化が進行しない程度行い、成形体を延伸する前には所望する延伸温度と同様の温度となっていることが円滑な延伸を施す点で好ましい。具体的な予熱温度は延伸温度と同様に結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂組成比率に依存し、特に混合樹脂組成物の冷結晶化温度以下で予熱することが好ましい。このような点から、具体的な予熱温度は、延伸温度と同様であり、140℃〜210℃が好ましく、150℃〜200℃がより好ましく、160℃〜200℃がさらに好ましい。
(逐次二軸延伸法)
逐次二軸延伸法とは、成形体を特定温度範囲で一方向に延伸し、その後、該方向と直角方法に特定温度範囲で延伸する方法である。具体的な延伸温度は上記の一軸延伸法と同様の理由から一段目の延伸と二段目の延伸共に、140℃〜210℃が好ましく、150℃〜200℃がより好ましく、160℃〜200℃がさらに好ましい。延伸倍率は一段目に1.5〜4.0倍延伸し、二段目に1.5〜3倍延伸することが好ましい。一段目の延伸倍率1.5倍未満では延伸時の配向が弱く耐熱性が乏しくなる場合があり、4.0倍以上では、二段目の延伸時に破断するといったトラブルが生じる場合がある。
延伸させる手段としては、一段目の延伸をロール延伸法等により縦方向(MD)に延伸し、二段目の延伸を縦方向への一軸延伸後引き続きテンター延伸法等により横方向(TD)に延伸する方法のような従来の方法を用いることができる。延伸速度、及び予熱条件については上記一軸延伸法と同様の観点から一軸延伸法と同様の条件範囲とすることが好ましい。
(同時二軸延伸法)
同時二軸延伸法とは、成形体を、互いに直交をなす二方向に特定温度範囲で同時に延伸する方法である。具体的な延伸温度は上記の一軸延伸法、及び逐次二軸延伸法と同様の観点から上記同様の温度範囲が好ましい。延伸する倍率は、面積倍率で2倍〜10倍の範囲で延伸することが好ましい。延伸倍率が2倍未満では延伸時の配向が弱く耐熱性が乏しくなる場合があり、10.0倍超では、延伸応力が高く延伸が不可である場合がある。延伸速度は上記一軸延伸法、及び、逐次二軸延伸法と同様の観点から上記同様の速度範囲が好ましい。
(延伸後の熱処理)
本発明の透明耐熱フィルムは、必要に応じて、延伸後に熱処理を行っても良い。熱処理温度については混合樹脂組成物を示差走査熱量測定で昇温した時に発生する結晶化温度−20℃以上から融点までであることが好ましい。熱処理温度が混合樹脂組成物を示差走査熱量測定で昇温したときに発現する結晶化温度−20℃未満では、結晶化の進行速度が極めて遅く実用性がほとんど無く、一方混合樹脂組成物を示差走査熱量測定で昇温したときに発現する融点以上では熱処理時にフィルムが溶融してしまう。
ここで熱処理の方式や時間は、特に制限されるものではないが、例えば、製膜ライン内で、熱処理ロールや熱風炉等により熱処理させる方法(インライン熱処理)及び製膜ライン外で、熱処理ロールや熱風炉等により熱処理させる方法や、恒温槽や熱プレス等により熱処理させる方法(アウトライン熱処理)などを挙げることができる。また、熱処理を複数回に亘って行ってもよく、このとき、線膨張係数を低減することができることから、前半の熱処理よりも後半の熱処理をより高温で行うことが好ましい。また、熱処理時間については、透明耐熱フィルムが下記式(II)を満たすようにすればよく、数秒〜数時間、好適には数十秒から数十分の範囲が適用できる。
[(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]≧0.90・・・式(II)
なお、本発明の透明耐熱フィルムにおいては、延伸後の熱処理により結晶化が高度に進行したとしても([(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]が1となっても)、フィルムは白色化しない。
(線膨張係数)
本発明の透明耐熱フィルムの線膨張係数は、縦方向(MD)及び横方向(TD)ともに少なくとも50ppm/℃以下であることが好ましい。また、線膨張係数は縦方向(MD)と横方向(TD)の差が出来るだけ小さいことが好ましい。例えば、該フィルムの縦方向(MD)と横方向(TD)の線膨張係数の差が大きいと、フィルムが高温環境下に置かれると、反りが発生するなどの問題が発生する場合がある。
尚、本発明における線膨張係数とは、熱応力歪み測定装置を用い、引っ張り加重0.1gで固定し、室温から5℃/分の割合で昇温させた場合の50〜100℃の範囲の熱膨張の温度依存性から算出した値である。
本発明の透明耐熱フィルムでは、任意の平面方向における線膨張係数は、下限が好ましくは−10ppm/℃以上、より好ましくは−5ppm/℃以上、さらに好ましくは−2ppm/℃以上であり、上限は好ましくは50ppm/℃以下、より好ましくは40ppm/℃以下、さらに好ましくは20ppm/℃以下である。かかる範囲内であれば高温環境下に置かれた場合の寸法増加分が少ないため実用特性上問題となることが無いため好ましい。例えば、基板材料としての寸法安定性を満足させるために用いる金属箔と同等の線膨張係数となるため、部品搭載工程であるリフロー工程やフロー工程において、線膨張係数差に起因した内部応力が発生することが無いため好ましい。
上記した線膨張係数は、主に延伸温度や延伸倍率などの延伸条件や、熱処理温度や熱処理時間などの熱処理条件を変化させることにより所望の範囲に調整することができる。例えば、線膨張係数が所望の値よりも大きい場合には延伸時の配向が弱く結晶化が完了していない場合や延伸時の配向が強すぎ収縮ひずみが残ってしまっている場合等が考えられる。上記延伸時の配向が弱い場合には、例えば、本発明の範囲内で延伸温度を低くすることや、延伸倍率を上げたり等の延伸条件を適宜調整すればよい。上記延伸時の配向が強すぎる場合には、本発明の範囲内で延伸温度を高くすることや、延伸倍率を下げたりなどの延伸条件や、熱処理温度を高くしたり、熱処理時間を長くするなどの熱処理条件を適宜調整すればよい。また、逆に線膨張係数が所望の値よりも小さい場合には延伸時の配向が強すぎる場合が考えられ、この場合には延伸温度を高くすることや延伸倍率を下げたりなどの延伸条件を適宜調整すればよい。
上記したように線膨張係数は、主に延伸温度や延伸倍率などの延伸条件や熱処理温度や熱処理時間などの熱処理条件を変化させることにより所望の範囲に調整することができるが、特に延伸温度や延伸倍率などの延伸条件の調整が効果的である。この現象は詳細については不明であるが、延伸により高分子鎖が延伸方向に配向することにより線膨張係数を軽減できることを示唆している。以下の比較例2及び実施例1〜3に示すように、本発明の範囲の組成物の延伸前の成形体の延伸方向の線膨張係数が53ppm/℃(比較例2)であるものが2倍延伸することで延伸方向の線膨張係数が20ppm/℃(実施例1)となり、3倍延伸では10ppm/℃(実施例2)、4倍延伸では−10ppm/℃(実施例3)となり、延伸倍率の調整で線膨張係数を所望の範囲に調整することができることが確認できる。
(ヘーズ値)
本発明の透明耐熱フィルムのヘーズ値は、フィルムの厚みが50μm以下で少なくとも30%以下であることが必要であり、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。ここで、フィルムの厚みが50μm以下でのヘーズ値が30%を超えると、例えば、フィルムを通して見た内容物あるいは下地の文字や基準線への位置合わせなどの視認性や、太陽光や紫外線〜赤外線などの各種光線透過率が低下するといった問題が生じる場合があるため好ましくない。
また、同様の理由から、フィルム厚みが80μm以下でのヘーズ値が43%以下であることが必要であり、30%以下が好ましく、27%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。
また、フィルム厚みが75μm以下でのヘーズ値が、27%以下であることが好ましく、25%以下がより好ましく、23%以下がさらに好ましい。
上記したヘーズ値は、主に延伸温度や延伸倍率などの延伸条件や熱処理温度や熱処理時間などの熱処理条件を変化させることにより所望の範囲に調整することができる。例えば、ヘーズ値が所望の値よりも大きい場合には、延伸時に結晶化を伴いながら延伸されてフィルムが白化する場合や、熱処理時にフィルムの結晶化が生じフィルムが白化する場合等が挙げられる。延伸時に結晶化を伴いながら延伸される場合には、例えば、延伸温度が混合樹脂組成物を示差走査熱量測定で昇温したときに発現する結晶化温度付近であることが挙げられ、この場合には延伸温度を下げたり、延伸倍率を下げる等の延伸条件を適宜調整すればよい。熱処理時にフィルムの結晶化が生じる場合には、例えば、延伸時の配向が弱いことが挙げられ、この場合には延伸温度を下げたり、延伸倍率をあげる等の延伸条件や、熱処理温度を適宜調整すればよい。
(他の層)
続いて、本発明の透明耐熱フィルムは、上記した結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)と非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とからなる混合樹脂組成物をαとした場合、混合樹脂組成物αを主成分とするα層の他に、樹脂組成物βを主成分とするβ層を有しても良い。本実施形態に係る透明耐熱フィルムの積層構成は特に限定されないが、例えば、α層/β層の二層構成、α層/β層/α層、或いはβ層/α層/β層の三層構成を挙げることができ、更に多層構造とすることもできる。本発明において、積層構成を形成する方法としては、例えば、押出しラミネート、サンドラミネート、共押出等の方法があり、更にはα層とβ層の間に接着剤(接着性シートを含む)を介在させる方法、α層とβ層とを接着剤を使用せずに熱融着する方法等の積層方法があるが、特に限定されるものではない。
樹脂組成物βを構成する樹脂としては、フィルム状に成形できる熱可塑性樹脂で本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されず、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールケトン(PAr)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、全芳香族ポリエステル(PE)などが挙げられる。樹脂組成物αを構成する樹脂と同じ樹脂を選択しても良い。
(添加剤)
本発明フィルムを構成する樹脂組成物には、その性質を損なわない程度に、他の樹脂や各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤等を適宜配合しても良い。更にフィルムの表面にはハンドリング性の改良のために、エンボス加工やコロナ処理などを適宜施しても構わない。
以下に実施例および比較例を示し、本発明の透明耐熱フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は、該実施例および比較例によって、何ら制限を受けるものではない。
透明耐熱フィルムについての評価は次のようにして行った。なお、フィルムの押出機からの引き取り(流れ)方向を縦方向(MD)、その直交方向を横方向(TD)とよぶ。
<評価方法>
(1)成形体の(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
成形体の(ΔHm−ΔHc)/ΔHmは、試料10mg(成形体)を用いて、パーキンエルマー社製DSC−7を用いて、JIS K7122に準じて、加熱速度を10℃/分で昇温した時のサーモグラムから、結晶融解熱量ΔHm(J/g)と結晶化熱量ΔHc(J/g)を求め、算出した。
(2)透明耐熱フィルムの線膨張係数
透明耐熱フィルムの線膨張係数は、熱応力ひずみ測定装置(セイコーインスルメンツ社製、TMA/SS6100)を用い、熱機械分析(TMA法)により測定した。測定条件は、試験片幅:45mm、チャック間距離:15mm、荷重:0.1gとして、室温〜350℃まで、昇温速度:5℃/分で加熱する際に、50℃から100℃の間で測定される試験片の寸法変化から求めた。
(3)透明耐熱フィルムのヘーズ値
透明耐熱フィルムのヘーズ値は、JIS K7105に準じて評価した。
(4)透明耐熱フィルムの(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
透明耐熱フィルムの(ΔHm−ΔHc)/ΔHmは、試料10mg(透明耐熱フィルム)を用いて、パーキンエルマー社製DSC−7を用いて、JIS K7122に準じて、加熱速度を10℃/分で昇温した時のサーモグラムから、結晶融解熱量ΔHm(J/g)と結晶化熱量ΔHc(J/g)を求め、算出した。
(5)透明耐熱フィルムのはんだ耐熱性
透明耐熱フィルムのはんだ耐熱性は、JIS C6481の常態のはんだ耐熱性に準拠し、透明耐熱フィルムを260℃のはんだ浴と接触するように20秒間浮遊させ、フィルムの変形状態を評価した。変形が無ければ「○」、変形したものは「×」と表示した。
<実施例1>
結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)として、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス社製、PEEK450G、Tg:144℃、Tm:340℃、Tc:174℃、以下、単に「PEEK」と略記する場合がある。)60質量%と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)として、ポリエーテルイミド樹脂(ゼネラルエレクトリック社製、Ultem−CRS5001、Tg:226℃、以下、単に「PEI−1」と略記する場合がある)40質量%とからなる混合組成物を、Tダイを具備した押出機より設計温度380℃で溶融混練し、キャストロールで急冷製膜することにより、平均厚さ80μmの成形体を得た。更に得られた成形体をテンター設備を用い、設定温度200℃で10秒間予熱した後、設定温度200℃で横方向(TD)に延伸速度が約3800%/分の速度にて設定倍率2倍で延伸し、設定温度250℃で30秒間熱処理し、平均厚さ38μmの透明耐熱フィルムを得た。得られた透明耐熱フィルムの評価結果を表1に示す。
<実施例2>
延伸条件を、延伸速度が約5600%/分の速度にて設計倍率3倍で延伸した以外は、実施例1と同様の方法で、平均厚さ30μmの透明耐熱フィルムを得た。得られた透明耐熱フィルムの評価結果を表1に示す。
<実施例3>
延伸条件を延伸速度が約7500%/分の速度にて設計倍率4倍で延伸した以外は、実施例1と同様の方法で、平均厚さ23μmの透明耐熱フィルムを得た。得られた透明耐熱フィルムの評価結果を表1に示す。
<実施例4>
PEEKとPEI−1の組成割合を「PEEK」/「PEI−1」=40/60(質量%)とした以外は、実施例1と同様の方法にて、平均厚さ41μmの透明耐熱フィルムを得た。得られた透明耐熱フィルムの評価結果を表1に示す。
<実施例5>
実施例3において得た平均厚さ23μmの透明耐熱フィルムをA4サイズに切り出し、枠に固定した後、設定温度280℃の恒温槽で30秒間熱処理して平均厚さ24μmの透明耐熱フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。表1から判るように熱処理を施すことで透明性を維持したまま線膨張係数を軽減できることが確認できた。
<比較例1>
実施例1で得た平均厚さ80μmの成形体をA4サイズに切り出し、枠に固定した後、設計温度240℃の恒温槽で60分間結晶化処理し、延伸をせずに結晶化させたフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。表1から判るように結晶化は十分進行しているものの、ヘーズ値で46%と透明性がよくないフィルムとなった。
<比較例2>
実施例1で得た平均厚さ80μmの成形体を用いて評価を実施した。評価結果を表1に示す。表1から判るように透明性は良好であるが、線膨張係数に劣り、はんだ耐熱性が低く耐熱性が乏しいことが確認できる。
<比較例3>
樹脂組成物をPEEK単体とした以外は実施例1と同様の方法で透明耐熱フィルムを得ようと試みたが、延伸時にフィルムが破断してしまいフィルムを採取することが出来なかった。
Figure 2011021097
表1より、本発明で規定する範囲を有する実施例1〜5の透明耐熱フィルムは、結晶化が十分進行しているにも関わらず、ヘーズ値が30%以下と透明性が良好なフィルムであった。また、線膨張係数は縦方向(MD)及び横方向(TD)ともに50ppm/℃以下であり、寸法安定性に優れたフィルムであった。
これに対して、延伸せずに熱処理により結晶化を十分進行させたフィルム(比較例1)では、結晶化は十分進行しているが、ヘーズ値が46%と透明性に劣っていることがわかった。また、延伸も熱処理も行っていない成形体(比較例2)では、透明性は良好であるが耐熱性と線膨張係数に劣っていることがわかった。また、結晶性ポリアリールケトン樹脂単体(比較例3)では、延伸時にフィルムが破断してしまう結果となった。
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う透明耐熱フィルム、および、透明耐熱フィルムの製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
本発明の透明耐熱フィルムは、優れた透明性を有し、かつ耐熱性、寸法安定性を有しているため、これら各種性能が要求される用途、例えば、太陽電池用部材(フロントシート、バックシートなど)、フレキシブルプリント配線基板などのエレクトロニクス用部材に好適に利用することができる。

Claims (7)

  1. 結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)、及び下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸してなるフィルムであって、
    線膨張係数が50ppm/℃以下であり、フィルムの厚みが50μm以下でのヘーズ値が30%以下であり、フィルム厚みが80μm以下でのヘーズ値が43%以下である、透明耐熱フィルム。
    Figure 2011021097
  2. 前記混合樹脂組成物の結晶融解ピーク温度が、260℃以上であり、結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)とポリエーテルイミド樹脂(B)との混合質量比が、A/B=90〜40/10〜60である、請求項1記載の透明耐熱フィルム。
  3. 前記結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)が、下記構造式(2)の繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂を主成分とする、請求項1または2に記載の透明耐熱フィルム。
    Figure 2011021097
  4. 結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)、及び下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(B)を主成分とする混合樹脂組成物を溶融混練する工程、
    急冷製膜により成形体を調製する工程、および、
    少なくとも1方向に延伸する工程、を備えてなる透明耐熱フィルムの製造方法。
    Figure 2011021097
  5. 前記急冷製膜を、得られる成形体が、下記式(I)を満たすように行う、請求項4に記載の透明耐熱フィルムの製造方法。
    [(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]≦0.50・・・式(I)
  6. さらに、「混合樹脂組成物の結晶化温度−20℃」〜「混合樹脂組成物の融点」にて、延伸後に、熱処理を行う、請求項4または5に記載の透明耐熱フィルムの製造方法。
  7. 前記熱処理を、得られる透明耐熱フィルムが、下記式(II)を満たすように行う、請求項6に記載の透明耐熱フィルムの製造方法。
    [(ΔHm−ΔHc)/ΔHm]≧0.90・・・式(II)
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