以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る車両用前照灯装置の内部構造を説明する概略鉛直断面図である。本実施形態の車両用前照灯装置200は、前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1灯ずつ配置された配光可変式前照灯である。左右に配置された前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明し、左側の前照灯ユニットの説明は適宜省略する。なお、左側の前照灯ユニットの各部材について記載する場合には、説明の便宜上、各部材に対して前照灯ユニット210Rの対応する部材と同一の符号を付す。
前照灯ユニット210Rは、車両前方側に開口部を有するランプボディ212と、この開口部を覆う透光カバー214で形成される灯室216を有する。灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218はランプボディ212の内壁面に固定されたボディブラケット220とネジなどの締結部材によって接続されている。したがって、灯具ユニット10は灯室216内の所定位置に固定されるとともに、ピボット機構218aを中心として、前傾姿勢または後傾姿勢などに姿勢変化可能である。
また、灯具ユニット10の下面には、曲線道路走行時などに進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)などを構成するためのスイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、対向車や先行車を含む前方車両と自車との相対位置の関係などに基づいて、灯具ユニット10を、ピボット機構218aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット10の照射領域が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視認性を向上させる。スイブルアクチュエータ222は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このような、レベリング調整をすることで車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯装置200による前方照射光の到達距離を最適な距離に調整することができる。
なお、このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は車両姿勢は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、車両用前照灯装置200の照射方向も車両の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで実行することで走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
灯具ユニット10下方の灯室216の内壁面には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する照射制御部228(制御部)が配置されている。図1の場合、前照灯ユニット210Rを制御するための照射制御部228Rが配置されている。この照射制御部228Rは、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226などの制御も実行する。
灯具ユニット10はエーミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エーミング調整時の揺動中心となるエーミングピボット機構(図示せず)を配置する。また、ボディブラケット220とランプブラケット218の接続部分に、車両前後方向に進退する一対のエーミング調整ネジ(図示せず)を車幅方向に間隔をあけて配置する。例えば2本のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエーミング調整ネジを後方に引き戻せば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエーミング調整は、車両出荷時や車検時、車両用前照灯装置200の交換時に行われる。そして、車両用前照灯装置200が設計上定められた規定の姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施形態の配光パターンの形成制御が行われる。
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20を備える。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16はバルブ14から放射される光を反射する。そして、バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
図2は、回転シェードの概略斜視図である。回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒形状の部材である。また、回転シェード12は軸方向に一部が切り欠かれた切欠部22を有し、当該切欠部22以外の外周面12b上に板状のシェードプレート24を複数保持している。回転シェード12はその回転角度に応じて、光軸O上であって投影レンズ20の後方焦点位置に切欠部22またはシェードプレート24のいずれか1つを移動させることができる。これにより、光軸O上に配置されたシェードプレート24の稜線部形状に応じた配光パターンが形成される。例えば、回転シェード12のシェードプレート24のいずれか1つを光軸O上に移動させてバルブ14から照射された光の一部を遮光することで、ロービーム用配光パターンまたは一部にハイビーム用配光パターンの特徴を含む配光パターンを形成する。また、光軸O上に切欠部22を移動させてバルブ14から照射された光を非遮光とすることでハイビーム用配光パターンを形成する。
回転シェード12は、例えばモータ駆動により回転可能であり、モータの回転量を制御することで所望の配光パターンを形成するためのシェードプレート24または切欠部22を光軸O上に移動させる。なお、回転シェード12の外周面12bの切欠部22を省略して、回転シェード12に遮光機能だけを持たせてもよい。そして、ハイビーム用配光パターンを形成する場合は、例えばソレノイドなどを駆動して回転シェード12を光軸Oの位置から退避させるようにする。このような構成にすることで、例えば、回転シェード12を回転させるモータがフェールしてもロービーム用配光パターンまたはそれに類似する配光パターンで固定される。つまり、回転シェード12がハイビーム用配光パターンの形成姿勢で固定されてしまうことを確実に回避してフェールセーフ機能を実現できる。
図1に戻って、リフレクタ16は、その少なくとも一部が楕円球面状であり、この楕円球面は、灯具ユニット10の光軸Oを含む断面形状が楕円形状の少なくとも一部となるように設定されている。リフレクタ16の楕円球面状部分は、バルブ14の略中央に第1焦点を有し、投影レンズ20の後方焦点面上に第2焦点を有する。
投影レンズ20は車両前後方向に延びる光軸O上に配置され、バルブ14は投影レンズ20の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として車両用前照灯装置200前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。なお、灯具ユニット10の構成は特にこれに限定されず、投影レンズ20を持たない反射型の灯具ユニットなどであってもよい。
図3は、上述のように構成された前照灯ユニットの照射制御部と車両側の車両制御部との動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、上述のように右側の前照灯ユニット210Rおよび左側の前照灯ユニット210Lの構成は基本的に同一であるため、前照灯ユニット210R側のみの説明を行い前照灯ユニット210L側の説明は省略する。
前照灯ユニット210Rの照射制御部228Rは、車両300に搭載された車両制御部302から得られた情報に基づいて電源回路230の制御を行い、バルブ14の点灯制御を実行する。また、照射制御部228Rは車両制御部302から得られた情報に基づいて可変シェード制御部232、スイブル制御部234、レベリング制御部236を制御する。可変シェード制御部232は、回転シェード12の回転軸12aにギア機構を介して接続されたモータ238を回転制御して、所望のシェードプレート24または切欠部22を光軸O上に移動させる。なお、可変シェード制御部232には、モータ238や回転シェード12に備えられたエンコーダなどの検出センサから回転シェード12の回転状態を示す回転情報が提供されてフィードバック制御により正確な回転制御が実現される。
スイブル制御部234は、スイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸を車幅方向について調整する。例えば、曲路走行や右左折走行などの旋回時に灯具ユニット10の光軸をこれから進行する方向に向ける。また、レベリング制御部236は、レベリングアクチュエータ226を制御して、灯具ユニット10の光軸を車両上下方向について調整する。例えば、加減速時における車両姿勢の前傾、後傾に応じて灯具ユニット10の姿勢を調整して前方照射光の到達距離を最適な距離に調整する。車両制御部302は、前照灯ユニット210Lに対しても同様の情報を提供し、前照灯ユニット210Lに設けられた照射制御部228L(制御部)が、照射制御部228Rと同様の制御を実行する。
本実施形態の場合、前照灯ユニット210L,210Rによって形成される配光パターンは、運転者によるライトスイッチ304の操作内容に応じて切り替え可能である。この場合、ライトスイッチ304の操作に応じて、照射制御部228L,228Rが可変シェード制御部232を介してモータ238を制御して配光パターンを決定する。また、ライトスイッチ304は、パッシング信号を発信するパッシングスイッチとしても機能する。ライトスイッチ304が操作されてパッシング信号が発信されると、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302を介して当該パッシング信号を受信する。そして、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号を受信している間だけパッシング用配光パターンを形成する。
本実施形態の前照灯ユニット210L,210Rは、ライトスイッチ304の操作によらず、車両周囲の状況を各種センサで検出して、車両300の状態や車両周囲状況に最適な配光パターンを形成するように自動制御してもよい。例えば、自車の前方に先行車や対向車、歩行者などが存在することが検出できた場合には、照射制御部228L,228Rは車両制御部302から得られた情報に基づいてグレアを防止するべきであると判定し、ロービーム用配光パターンを形成する。また、自車の前方に先行車や対向車、歩行者などが存在しないことが検出できた場合には、照射制御部228L,228Rは運転者の視認性を向上させるべきであると判定して回転シェード12による遮光を伴わないハイビーム用配光パターンを形成する。また、ロービーム用配光パターンおよびハイビーム用配光パターンに加えて、後述する特殊ハイビーム用配光パターンや特殊ロービーム用配光パターンを形成可能な場合には、前方車両の存在状態に応じて前方車両を考慮した最適な配光パターンを形成してもよい。このような制御モードをADB(Adaptive Driving Beam)モードという場合がある。
このように先行車や対向車などの対象物を検出するために、車両制御部302には対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ306が接続されている。カメラ306で撮影された画像フレームデータは、画像処理部308で対象物認識処理などの所定の画像処理が施され、その認識結果が車両制御部302へ提供される。例えば、画像処理部308から提供された認識結果データの中に車両制御部302が予め保持している車両を示す特徴点を含むデータが存在する場合、車両制御部302は車両の存在を認識して、その情報を照射制御部228L,228Rに提供する。照射制御部228L,228Rは、車両制御部302から車両の情報を受けて、その車両を考慮した最適な配光パターンを形成する。ここで、前記「車両を示す特徴点」とは、例えば前方車両の前照灯や、テールランプなどの標識灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点である。また、画像処理部308から提供された認識結果データの中に予め保持している歩行者を示す特徴点を含むデータが存在する場合、車両制御部302がその情報を照射制御部228L,228Rに提供し、照射制御部228L,228Rは、その歩行者を考慮した最適な配光パターンを形成する。
また、車両制御部302は、車両300に通常搭載されているステアリングセンサ310、車速センサ312などからの情報も取得可能である。そして、これにより照射制御部228L,228Rは車両300の走行状態や走行姿勢に応じて形成する配光パターンを選択したり、光軸の方向を変化させて簡易的に配光パターンを変化させたりすることができる。例えば、車両制御部302がステアリングセンサ310からの情報に基づいて車両が旋回していると判定した場合、車両制御部302から情報を受け取った照射制御部228L,228Rは、回転シェード12を回転制御して旋回方向の視界を向上させるような配光パターンを形成するシェードプレート24を選択することができる。また、回転シェード12の回転状態は変化させずに、スイブル制御部234によりスイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸を旋回方向に向けて視界を向上させてもよい。このような制御モードを旋回感応モードという場合がある。
また、夜間に高速走行しているときには、遠方から接近する対向車や先行車、道路標識やメッセージボードの認識をできるだけ早く行えるように自車前方を照明することが好ましい。そこで、車両制御部302が車速センサ312からの情報に基づき高速走行していると判定したときに、照射制御部228L,228Rは回転シェード12を回転制御してロービーム用配光パターンの一部の形状を変えたハイウェイモードのロービーム用配光パターンを形成するシェードプレート24を選択してもよい。同様の制御は、レベリング制御部236によりレベリングアクチュエータ226を制御して灯具ユニット10を後傾姿勢に変化させることでも実現できる。上述したレベリングアクチュエータ226による加減速時のオートレベリング制御は、照射距離を一定に維持するような制御である。この制御を利用して、積極的にカットオフラインの高さを制御すれば、回転シェード12を回転させて異なるカットオフラインを選択する制御と同等の制御ができる。このような制御モードを速度感応モードという場合がある。
また、車両制御部302は、車両300に搭載されている図示しない車間距離センサからの情報も取得可能であり、照射制御部228L,228Rは前方車両と自車との距離(車間距離)に応じて配光パターンのカットオフラインの高さを調整することができる。例えば、車両制御部302が車間距離センサからの情報に基づき前方車両が比較的遠方にいると判定した場合、照射制御部228L,228Rはレベリング制御部236によりレベリングアクチュエータ226を制御して灯具ユニット10を後傾姿勢に変化させる。これによりロービーム用配光パターンのカットオフラインをわずかに上昇させて、前方車両へのグレアを防ぎつつ、運転者の視認性を向上させることができる。このような制御で形成する配光パターンをダイナミックカットオフラインという場合がある。
なお、灯具ユニット10の光軸調整は、スイブルアクチュエータ222やレベリングアクチュエータ226を用いずに実行することもできる。例えば、エーミング制御をリアルタイムで実行するようにして灯具ユニット10を旋回させたり前傾姿勢や後傾姿勢にして、所望する方向の視認性を向上させてもよい。
この他、車両制御部302は、ナビゲーションシステム314から道路の形状情報や形態情報、道路標識の設置情報などを取得することもできる。これらの情報を事前に取得することにより、照射制御部228L,228Rはレベリングアクチュエータ226、スイブルアクチュエータ222、モータ238などを制御して、走行道路に適した配光パターンをスムーズに形成することもできる。このような制御モードをナビ感応モードという場合もある。以上説明した各種制御モードを含む配光パターンの自動形成制御は、例えばライトスイッチ304によって自動形成制御が指示された場合に実行される。
次に、車両用前照灯装置200の各前照灯ユニット210L,210Rにより形成可能な配光パターンについて説明する。図4(A)〜図4(F)は、配光パターンの形状を示す説明図である。なお、図4(A)〜図4(F)では、灯具前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成された配光パターンを示している。
上述の通り、前照灯ユニット210Lおよび前照灯ユニット210Rは実質的に同一の構造を有し、したがって同一の配光パターンを形成可能である。また、図1に示すように、投影レンズ20は前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであるため、各配光パターンは、それぞれに対応するシェードプレート24によって遮光された部分を含む光源像が上下左右に反転した像となる。したがって、各配光パターンのカットオフライン形状と各シェードプレート24の稜線形状とが対応している。
図4(A)に示す配光パターンは、ベーシックロービーム用配光パターンLo1である。ベーシックロービーム用配光パターンLo1は、左側通行時に前方車両や歩行者にグレアを与えないように配慮された配光パターンである。ベーシックロービーム用配光パターンLo1は、その上端のV−V線よりも右側に、水平ラインであるH−H線と平行に延びる対向車線側カットオフラインを、またV−V線よりも左側に、対向車線側カットオフラインよりも高い位置でH−H線と平行に延びる自車線側カットオフラインを、そして対向車線側カットオフラインと自車線側カットオフラインとの間に、両者をつなぐ斜めカットオフラインをそれぞれ有する。斜めカットオフラインは、対向車線側カットオフラインとV−V線との交点から左斜め上方へ45°の傾斜角で延びている。
図4(B)に示す配光パターンは、いわゆる「ドーバーロービーム」を形成するドーバーロービーム用配光パターンLo2である。ドーバーロービーム用配光パターンLo2は、右側通行時に前方車両や歩行者にグレアを与えないように配慮された配光パターンである。ドーバーロービーム用配光パターンLo2は、V−V線を対称軸としてベーシックロービーム用配光パターンLo1と略線対称である。
図4(C)に示す配光パターンは、ハイビーム用配光パターンHi1である。ハイビーム用配光パターンHi1は、前方の広範囲および遠方を照明する配光パターンであり、例えば、前方車両や歩行者へのグレアを配慮する必要のない場合に形成される。具体的には、前方車両や歩行者が存在しないか、あるいは前方車両などがハイビーム用配光パターンHi1を形成してもグレアを受けない程度に遠距離に存在する場合に形成される。ハイビーム用配光パターンHi1は、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域である上部領域を含む付加配光パターンに相当する。また、ハイビーム用配光パターンHi1は、後述する左片ハイ用配光パターンHi2の第1遮光領域と右片ハイ用配光パターンHi3の第2遮光領域とを照射領域に含む第3付加配光パターンに相当する。
図4(D)に示す配光パターンは、いわゆる「左片ハイビーム」を形成する左片ハイ用配光パターンHi2である。左片ハイ用配光パターンHi2は、左側通行時にハイビーム用配光パターンHi1の対向車線側を遮光し、自車線側のみハイビーム領域で照射する特殊ハイビーム用配光パターンである。左片ハイ用配光パターンHi2は、自車線に先行車や歩行者が存在せず、対向車線に対向車や歩行者が存在する場合に利用することが好ましく、対向車や歩行者にグレアを与えず、自車線側のみのハイビーム照射により運転者の視認性を高めることができる。左片ハイ用配光パターンHi2は、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域である上部領域を含む付加配光パターンに相当する。また、左片ハイ用配光パターンHi2は、対向車線側の上部領域に第1遮光領域を有する第1付加配光パターンに相当する。
図4(E)に示す配光パターンは、いわゆる「右片ハイビーム」を形成する右片ハイ用配光パターンHi3である。右片ハイ用配光パターンHi3は、左側通行時にハイビーム用配光パターンHi1の自車線側を遮光し、対向車線側のみハイビーム領域で照射する特殊ハイビーム用配光パターンである。右片ハイ用配光パターンHi3は、対向車線に対向車や歩行者が存在せず、自車線に先行車や歩行者が存在する場合に利用することが好ましく、先行車や歩行者にグレアを与えず、対向車線側のみのハイビーム照射により視認性を高めることができる。右片ハイ用配光パターンHi3は、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域である上部領域を含む付加配光パターンに相当する。また、右片ハイ用配光パターンHi3は、自車線側の上部領域に第2遮光領域を有する第2付加配光パターンに相当する。
図4(F)に示す配光パターンは、いわゆる「Vビーム」を形成するVビーム用配光パターンLo3である。Vビーム用配光パターンLo3は、自車線側カットオフラインおよび対向車線側カットオフラインの両方が水平ラインと同程度の高さであり、ロービームとハイビームの中間的な特徴を有する特殊ロービーム用配光パターンである。Vビーム用配光パターンLo3は、前照灯ユニット210Lで形成したベーシックロービーム用配光パターンLo1L(説明の便宜上、前照灯ユニット210Lで形成した配光パターンには、各配光パターンの符号の後に符号「L」を付し、前照灯ユニット210Rで形成した配光パターンには、各配光パターンの符号の後に符号「R」を付す。以下、同様。)と、前照灯ユニット210Rで形成したドーバーロービーム用配光パターンLo2Rを重ね合わせることで形成することができる。上述のように、ベーシックロービーム用配光パターンLo1Lは斜めカットオフラインを有し、またドーバーロービーム用配光パターンLo2Rはベーシックロービーム用配光パターンLo1Lと線対称である。そのため、Vビーム用配光パターンLo3は、中央部の水平ラインより下側に2本の斜めカットオフラインで形成される略V字状の遮光領域を有する。また、ベーシックロービーム用配光パターンLo1Lとドーバーロービーム用配光パターンLo2Rとが重畳されるため、Vビーム用配光パターンLo3の対向車線側の光照射領域はベーシックロービーム用配光パターンLo1の対向車線側の光照射領域よりも上方に移動する。一方、ドーバーロービーム用配光パターンLo2に対しては自車線側の光照射領域が上方に移動する。したがって、Vビーム用配光パターンLo3は、ベーシックロービーム用配光パターンLo1およびドーバーロービーム用配光パターンLo2よりも運転者の視認性を向上させることができる配光パターンとなる。Vビーム用配光パターンLo3は、比較的遠方にある前方車両や歩行車にグレアを与えず、水平ラインと同程度の高さまでの光照射により運転者の視認性を高めることができる。Vビーム用配光パターンLo3は、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域である上部領域を含む付加配光パターンに相当する。
上述の構成を備えた車両用前照灯装置200はさらに、いわゆるスプリット配光パターンを形成することができる。このスプリット配光パターンは、水平ラインよりも上方の中央部に遮光領域を有し、この遮光領域の水平方向両側にハイビーム領域を有する特殊ハイビーム用配光パターンである。スプリット配光パターンは、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域である上部領域を含む付加配光パターンに相当する。スプリット配光パターンは、前照灯ユニット210Lで形成した左片ハイ用配光パターンHi2Lと、前照灯ユニット210Rで形成した右片ハイ用配光パターンHi3Rとを重ね合わせることで形成することができる。スプリット配光パターンを形成する際、左片ハイ用配光パターンHi2Lのハイビーム領域と右片ハイ用配光パターンHi3Rのハイビーム領域とが接しないように両配光パターンが重畳され、これにより遮光領域が形成される。遮光領域は、前照灯ユニット210L,210Rの灯具ユニット10をスイブルさせて左片ハイ用配光パターンHi2Lおよび右片ハイ用配光パターンHi3Rの少なくとも一方を水平方向に移動させることで、水平方向にその範囲を変化させることができる。
ライトスイッチ304によって配光パターンの自動形成制御の指示がなされている状態で、カメラ306から得られた情報によって車両制御部302が前方車両の存在を検知すると、車両制御部302から情報を受け取った照射制御部228L,228Rは、前方車両が遮光領域の形成可能範囲内に存在するか否か判定する。前方車両が遮光領域の形成可能範囲内に存在する場合には、照射制御部228L,228Rは、前方車両を遮光領域に含むようなスプリット配光パターンを形成する。また、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302からの指示に応じて、移動する前方車両の位置に合わせて遮光領域を変形させる。前方車両が遮光領域の形成可能範囲から外れたら、照射制御部228L,228Rは前方車両が照射領域に含まれないように、左片ハイ用配光パターンHi2Lおよび右片ハイ用配光パターンHi3Rの少なくとも一方の照度を低減する。以上の制御により、前方車両に与えるグレアを防ぎながら、他の領域、特に左右の路肩領域における運転者の視認性を向上させることができる。なお、前記「低減」には、配光パターンを形成したままその照度を前方車両にグレアを与えない程度にまで下げる場合と、配光パターンの照度を0にする場合とを含む。配光パターンの照度を0にする場合には、照射制御部228L,228Rがベーシックロービーム用配光パターンLo1に切り換えることを含む。
続いて、上述の構成を備えた本実施形態に係る車両用前照灯装置200によるパッシング用配光パターンの形成制御の一例を説明する。図5は、ADBモードでの配光パターン形成とパッシング用配光パターン形成との関係を説明するための図である。
本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、照射制御部228L,228Rが前方車両の存在に応じて灯具ユニット10により所定の付加配光パターンを形成するADBモード(自動制御モード)を実行するとともに、パッシング信号を受けてパッシング用配光パターンを形成する。そして、照射制御部228L,228Rは、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合、付加配光パターンから当該付加配光パターンの照度低減状態を経由してパッシング用配光パターンに切り換える制御を実行する。付加配光パターンは、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域である上部領域を含む配光パターンである。
本実施形態では、付加配光パターンとして、ハイビーム用配光パターンHi1、左片ハイ用配光パターンHi2、および右片ハイ用配光パターンHi3が形成される場合を例に説明する。なお、左片ハイ用配光パターンHi2は、上部領域の一部に第1遮光領域を有する第1付加配光パターンに相当する。また、右片ハイ用配光パターンHi3は、上部領域における第1遮光領域と異なる部分に第2遮光領域を有する第2付加配光パターンに相当する。また、ハイビーム用配光パターンHi1は、第1遮光領域および第2遮光領域を照射領域に含む第3付加配光パターンに相当する。
具体的には図5に示すように、照射制御部228L,228Rは、例えばライトスイッチ304の一部を構成する図示しないADBモードスイッチがONにされると、車両制御部302の指示に基づいてADBモードを実行する。ADBモードにおいて、照射制御部228L,228Rは、前方車両の存在状態に応じて図4に示すベーシックロービーム用配光パターンLo1(図5における「ADBロー」)、ハイビーム用配光パターンHi1(図5における「ADBハイ」)、左片ハイ用配光パターンHi2(図5における「左片ハイ」)、もしくは右片ハイ用配光パターンHi3(図5における「右片ハイ」)を形成する。また、照射制御部228L,228Rは、運転者によるライトスイッチ304の手動操作に応じて、ベーシックロービーム用配光パターンLo1(図5における「手動ロー」)と、ハイビーム用配光パターンHi1(図5における「手動ハイ」)を形成する。さらに、照射制御部228L,228Rは、ライトスイッチ304から発せられたパッシング信号を受けると、ハイビーム用配光パターンHi1と同形状のパッシング用配光パターンを形成する(図5における「パッシングハイ」)。
パッシング用配光パターンの形成は、自車両の周囲に存在する他車両や歩行者に対して注意を促す目的で実行されるものである。よって、一般にパッシング用配光パターンの形状は、遮光領域を含まないために周囲に注意を喚起しやすいハイビーム用配光パターンHi1と同形状とされる。本実施形態でも、パッシング用配光パターンはハイビーム用配光パターンHi1と同形状である。そのため、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1が形成されている状態でパッシング用配光パターンを形成しても、光照射領域は変化しない。したがって、パッシング動作を行っても自車両周囲に対して注意を促すことができない可能性が高い。
そこで、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、ハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)から、ハイビーム用配光パターンHi1の照度低減状態としてのベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図5における矢印a1)、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図5における矢印b1)。そして、ライトスイッチ304が操作されてパッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)に戻す(図5における矢印a2)。
このように、ハイビーム用配光パターンHi1からADBモードでベーシックロービーム用配光パターンLo1に切り換え、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由してパッシング用配光パターンに切り換えることで、上部領域の照度を増減させることができる。そのため、パッシング用配光パターンの形成によって、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができる。
なお、付加配光パターンとして左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)または右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、照射制御部228L,228Rは、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由させることなくパッシング用配光パターンに切り換え(図5における矢印c1、d1)、パッシング信号の発信が停止したらパッシング用配光パターンから元の付加配光パターンに戻す(図5における矢印c2、d2)。左片ハイ用配光パターンHi2または右片ハイ用配光パターンHi3の場合には、上部領域の一部に遮光領域を有する。そのため、パッシング用配光パターンとの切り換えによって少なくともこの遮光領域では明滅することになるので、周囲に注意を促すことができる。また、ベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、通常通り、パッシング信号を受信している間だけパッシング用配光パターンを形成する(図5における矢印b1、b2)。
図6は、実施形態1に係る車両用前照灯装置における配光パターン形成の制御フローチャートである。このフローは、照射制御部228L,228Rが所定のタイミングで繰り返し実行する。
まず、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302から得られた情報に基づいて、ADBモードの実行指示がなされているか判断する(ステップ101:以下S101と略記する。他のステップも同様)。ADBモードの実行指示がなされていない場合(S101_No)、本ルーチンを終了する。ADBモードの実行指示がなされていた場合(S101_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードを実施して前方車両の存在に応じた配光パターンを形成する(S102)。
続いて、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号を受信したか判断する(S103)。パッシング信号を受信していない場合(S103_No)、照射制御部228L,228Rは、再度ADBモードの実行指示の有無を判断する(S101)。パッシング信号を受信した場合(S103_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1が形成されているか判断する(S104)。ハイビーム用配光パターンHi1が形成されていた場合(S104_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードでベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成した後(S105)、パッシング用配光パターンを形成する(S106)。ハイビーム用配光パターンHi1が形成されていなかった場合(S104_No)、照射制御部228L,228Rは、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成することなくパッシング用配光パターンを形成する(S106)。
その後、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の受信を終了したか判断する(S107)。パッシング信号の受信を終了していない場合(S107_No)、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターンの形成を維持して、パッシング信号の受信を終了したか否かの判断を繰り返す(S107)。パッシング信号の受信を終了した場合(S107_Yes)、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンを形成し(S108)、本ルーチンを終了する。
以上説明した構成による動作と作用効果を総括する。本実施形態に係る車両用前照灯装置200において、照射制御部228L,228Rは、付加配光パターンを前方車両の存在に応じて形成するADBモードを実行するとともに、パッシング信号を受けてパッシング用配光パターンを形成する。そして、照射制御部228L,228Rは、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、付加配光パターンから付加配光パターンの照度低減状態を経由してパッシング用配光パターンに切り換えている。これにより、付加配光パターンとパッシング用配光パターンとの間に付加配光パターンの照度低減状態を挟まない場合と比べて、パッシング用配光パターンの形成によって明暗が変化する領域を増大させることができる。したがって、本実施形態の車両用前照灯装置200によれば、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させるADBモードの実行中にパッシング用配光パターンを形成する場合に、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができる。
また、本実施形態では、ハイビーム用配光パターンHi1が形成されているときにパッシング信号を受けた場合に、ハイビーム用配光パターンHi1からベーシックロービーム用配光パターンLo1に切り換えられた後、パッシング用配光パターンが形成される。これにより、パッシング用配光パターンの形成によって明滅する領域が非常に少ないか全くないハイビーム用配光パターンHi1については、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができる。また、上部領域に遮光領域を含む左片ハイ用配光パターンHi2および右片ハイ用配光パターンHi3については、ベーシックロービーム用配光パターンLo1への切り換えを行わないため、照射制御部228L,228Rにかかる負荷を軽減できる。
(実施形態2)
実施形態2に係る車両用前照灯装置は、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、パッシング用配光パターンから付加配光パターンの照度低減状態を経由して付加配光パターンに戻す点が実施形態1と異なる。以下、本実施形態について説明する。なお、車両用前照灯装置の主な構成や、形成可能な配光パターンの形状などは実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
図7は、実施形態2に係る車両用前照灯装置におけるADBモードでの配光パターン形成とパッシング用配光パターン形成との関係を説明するための図である。本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、照射制御部228L,228RがADBモードを実行するとともに、パッシング信号を受けてパッシング用配光パターンを形成する。そして、照射制御部228L,228Rは、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合、パッシング用配光パターンに切り換えた後、パッシング用配光パターンから付加配光パターンの照度低減状態を経由して付加配光パターンに戻す制御を実行する。
具体的には図7に示すように、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、ハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)からパッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図7における矢印a3)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からハイビーム用配光パターンHi1の照度低減状態としてのベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図7における矢印b2)、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)に戻す(図7における矢印a4)。
このように、パッシング用配光パターンからベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成し、ベーシックロービーム用配光パターンLo1からADBモードでハイビーム用配光パターンHi1に切り換えることで、上部領域の照度を増減させることができる。そのため、パッシング用配光パターンの形成によって、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができる。
なお、付加配光パターンとして左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)または右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、照射制御部228L,228Rは、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由させることなくパッシング用配光パターンに切り換える(図7における矢印c1、d1)。そして、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の発信が停止したらパッシング用配光パターンから元の付加配光パターンに戻す(図7における矢印c2、d2)。また、ベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、通常通り、パッシング信号を受信している間だけパッシング用配光パターンを形成する(図7における矢印b1、b2)。
図8は、実施形態2に係る車両用前照灯装置における配光パターン形成の制御フローチャートである。このフローは、照射制御部228L,228Rが所定のタイミングで繰り返し実行する。
まず、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302から得られた情報に基づいて、ADBモードの実行指示がなされているか判断する(S201)。ADBモードの実行指示がなされていない場合(S201_No)、本ルーチンを終了する。ADBモードの実行指示がなされていた場合(S201_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードを実施して前方車両の存在に応じた配光パターンを形成する(S202)。
続いて、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号を受信したか判断する(S203)。パッシング信号を受信していない場合(S203_No)、照射制御部228L,228Rは、再度ADBモードの実行指示の有無を判断する(S201)。パッシング信号を受信した場合(S203_Yes)、照射制御部228L,228Rはパッシング用配光パターンを形成する(S204)。その後、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の受信を終了したか判断する(S205)。パッシング信号の受信を終了していない場合(S205_No)、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターンの形成を維持して、パッシング信号の受信を終了したか否かの判断を繰り返す(S205)。パッシング信号の受信を終了した場合(S205_Yes)、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンがハイビーム用配光パターンHi1であったか判断する(S206)。
パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンがハイビーム用配光パターンHi1であった場合(S206_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードでベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成した後(S207)、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1を形成し(S208)、本ルーチンを終了する。パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンがハイビーム用配光パターンHi1でなかった場合(S206_No)、照射制御部228L,228Rは、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成することなくパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンを形成し(S208)、本ルーチンを終了する。
以上説明したように、本実施形態では、ADBモードでハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、パッシング用配光パターンに切り換えた後、パッシング用配光パターンから付加配光パターンの照度低減状態であるベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由してハイビーム用配光パターンHi1に戻している。このような構成によっても、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
(実施形態3)
実施形態3に係る車両用前照灯装置は、ADBモードで左片ハイ用配光パターンHi2および右片ハイ用配光パターンHi3を形成している場合にも、照度低減状態を経由してパッシング用配光パターンに切り換える点が実施形態1と異なる。以下、本実施形態について説明する。なお、車両用前照灯装置の主な構成や、形成可能な配光パターンの形状などは実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
図9は、実施形態3に係る車両用前照灯装置におけるADBモードでの配光パターン形成とパッシング用配光パターン形成との関係を説明するための図である。本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、照射制御部228L,228RがADBモードを実行するとともに、パッシング信号を受けてパッシング用配光パターンを形成する。そして、照射制御部228L,228Rは、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合、付加配光パターンから当該付加配光パターンの照度低減状態を経由してパッシング用配光パターンに切り換える。
具体的には図9に示すように、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、ハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)からベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図9における矢印a1)、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図9における矢印b1)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)に戻す(図9における矢印a2)。
また、照射制御部228L,228Rは、左片ハイ用配光パターンHi2または右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているときにパッシング信号を受けた場合にも、左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)あるいは右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)からベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図9における矢印c3、d3)、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図9における矢印b1)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンである左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)あるいは右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)に戻す(図9における矢印c2、d2)。
このように、左片ハイ用配光パターンHi2または右片ハイ用配光パターンHi3を形成している場合にも、ADBモードでベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由してパッシング用配光パターンに切り換えることで、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができるパッシング動作が可能となる。なお、ベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、通常通り、パッシング信号を受信している間だけパッシング用配光パターンを形成する(図9における矢印b1、b2)。
上述した本実施形態に係る車両用前照灯装置200における配光パターンの形成制御は、次の制御フローに従って実行される。すなわち、図6に示すフローチャートにおいて、ステップ104で、ハイビーム用配光パターンHi1だけでなく左片ハイ用配光パターンHi2あるいは右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているか判断し、これらの付加配光パターンが形成されていた場合にベーシックロービーム用配光パターンLo1が形成されるようにする。それ以外のフローは図6に示すフローチャートと同一である。
以上説明したように、本実施形態では、ADBモードでハイビーム用配光パターンHi1、左片ハイ用配光パターンHi2、または右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、これらの付加配光パターンの照度低減状態を経由してパッシング用配光パターンに切り換えている。これによれば、実施形態1の構成と比べて照射制御部228L,228Rにかかる負荷は増大するが、ADBモードの実行中にパッシング用配光パターンを形成する場合に、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができる。
(実施形態4)
実施形態4に係る車両用前照灯装置は、ADBモードで左片ハイ用配光パターンHi2および右片ハイ用配光パターンHi3を形成している場合にも、パッシング用配光パターンから付加配光パターンの照度低減状態を経由して付加配光パターンに戻す点が実施形態2と異なる。以下、本実施形態について説明する。なお、車両用前照灯装置の主な構成や、形成可能な配光パターンの形状などは実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
図10は、実施形態4に係る車両用前照灯装置におけるADBモードでの配光パターン形成とパッシング用配光パターン形成との関係を説明するための図である。本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、照射制御部228L,228RがADBモードを実行するとともに、パッシング信号を受けてパッシング用配光パターンを形成する。そして、照射制御部228L,228Rは、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合、パッシング用配光パターンに切り換えた後、パッシング用配光パターンから付加配光パターンの照度低減状態を経由して付加配光パターンに戻す制御を実行する。
具体的には図10に示すように、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、ハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)からパッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図10における矢印a3)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図10における矢印b2)、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)に戻す(図10における矢印a4)。
また、照射制御部228L,228Rは、左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)または右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)を形成しているときにパッシング信号を受けた場合にも、左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)あるいは右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)からパッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図10における矢印c1、d1)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図10における矢印b2)、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンである左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)あるいは右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)に戻す(図10における矢印c4、d4)。なお、ベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、通常通り、パッシング信号を受信している間だけパッシング用配光パターンを形成する(図10における矢印b1、b2)。
上述した本実施形態に係る車両用前照灯装置200における配光パターンの形成制御は、次の制御フローに従って実行される。すなわち、図8に示すフローチャートにおいて、ステップ206で、ハイビーム用配光パターンHi1だけでなく左片ハイ用配光パターンHi2あるいは右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているか判断し、これらの付加配光パターンが形成されていた場合にベーシックロービーム用配光パターンLo1が形成されるようにする。それ以外のフローは図8に示すフローチャートと同一である。
以上説明したように、本実施形態では、ADBモードでハイビーム用配光パターンHi1、左片ハイ用配光パターンHi2、または右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、パッシング用配光パターンに切り換えた後、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由して元の付加配光パターンに戻している。このような構成によっても、実施形態3と同様の効果を得ることができる。
(実施形態5)
実施形態5に係る車両用前照灯装置は、ADBモードで左片ハイ用配光パターンHi2を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に右片ハイ用配光パターンHi3を形成し、右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に左片ハイ用配光パターンHi2を形成する点が実施形態1と異なる。以下、本実施形態について説明する。なお、車両用前照灯装置の主な構成や、形成可能な配光パターンの形状などは実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
図11は、実施形態5に係る車両用前照灯装置におけるADBモードでの配光パターン形成とパッシング用配光パターン形成との関係を説明するための図である。本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、照射制御部228L,228RがADBモードを実行するとともに、パッシング信号を受けてパッシング用配光パターンを形成する。そして、照射制御部228L,228Rは、ADBモードで付加配光パターンを形成しているときにパッシング信号を受けた場合、付加配光パターンから当該付加配光パターンの照度低減状態を経由してパッシング用配光パターンに切り換える。
具体的には図11に示すように、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、ハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)からベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)を経由して(図11における矢印a1)、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)に切り換える(図11における矢印b1)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターン(パッシングハイ)からパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1(ADBハイ)に戻す(図11における矢印a2)。
また、照射制御部228L,228Rは、左片ハイ用配光パターンHi2を形成しているときにパッシング信号を受けた場合には、左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)から右片ハイ用配光パターンHi3(パッシング右片ハイ)に切り換える(図11における矢印c5)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、右片ハイ用配光パターンHi3(パッシング右片ハイ)からパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンである左片ハイ用配光パターンHi2(左片ハイ)に戻す(図11における矢印c6)。
また、照射制御部228L,228Rは、右片ハイ用配光パターンHi3を形成しているときにパッシング信号を受けた場合には、右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)から左片ハイ用配光パターンHi2(パッシング左片ハイ)に切り換える(図11における矢印d5)。そして、パッシング信号の発信が停止すると、照射制御部228L,228Rは、左片ハイ用配光パターンHi2(パッシング左片ハイ)からパッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンである右片ハイ用配光パターンHi3(右片ハイ)に戻す(図11における矢印d6)。
このように、左片ハイ用配光パターンHi2を形成している場合に右片ハイ用配光パターンHi3に切り換えた場合には、上部領域における照射領域と遮光領域とが入れ替わる。すなわち、対向車線側の遮光領域は照射領域に、自車線側の照射領域は遮光領域にそれぞれ入れ替わる。そのため、右片ハイ用配光パターンHi3を左片ハイ用配光パターンHi2形成時のパッシング用配光パターンとした場合には、左片ハイ用配光パターンHi2から、ハイビーム用配光パターンHi1と同形状であるパッシング用配光パターンに切り換える場合と比べて、上部領域における明暗が変化する領域を増大させることができる。したがって、左片ハイ用配光パターンHi2を形成している場合に、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができるパッシング動作が可能となる。
また、右片ハイ用配光パターンHi3を形成している場合に左片ハイ用配光パターンHi2に切り換えた場合には、自車線側の遮光領域は照射領域に、対向車線側の照射領域は遮光領域にそれぞれ入れ替わる。そのため、左片ハイ用配光パターンHi2を右片ハイ用配光パターンHi3形成時のパッシング用配光パターンとした場合には、右片ハイ用配光パターンHi3からパッシング用配光パターンに切り換える場合と比べて、上部領域における明暗が変化する領域を増大させることができる。したがって、右片ハイ用配光パターンHi3を形成している場合に、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができるパッシング動作が可能となる。
なお、ベーシックロービーム用配光パターンLo1(ADBロー)が形成されているときにパッシング信号を受信した場合には、通常通り、パッシング信号を受信している間だけパッシング用配光パターンを形成する(図11における矢印b1、b2)。
図12は、実施形態5に係る車両用前照灯装置における配光パターン形成の制御フローチャートである。このフローは、照射制御部228L,228Rが所定のタイミングで繰り返し実行する。
まず、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302から得られた情報に基づいて、ADBモードの実行指示がなされているか判断する(S301)。ADBモードの実行指示がなされていない場合(S301_No)、本ルーチンを終了する。ADBモードの実行指示がなされていた場合(S301_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードを実施して前方車両の存在に応じた配光パターンを形成する(S302)。
続いて、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号を受信したか判断する(S303)。パッシング信号を受信していない場合(S303_No)、照射制御部228L,228Rは、再度ADBモードの実行指示の有無を判断する(S301)。パッシング信号を受信した場合(S303_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいてハイビーム用配光パターンHi1が形成されているか判断する(S304)。ハイビーム用配光パターンHi1が形成されていた場合(S304_Yes)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードでベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成した後(S305)、パッシング用配光パターンを形成する(S306)。
ハイビーム用配光パターンHi1が形成されていなかった場合(S304_No)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいて左片ハイ用配光パターンHi2が形成されているか判断する(S307)。左片ハイ用配光パターンHi2が形成されていた場合(S307_Yes)、照射制御部228L,228Rは、右片ハイ用配光パターンHi3を形成する(S308)。左片ハイ用配光パターンHi2が形成されていなかった場合(S307_No)、照射制御部228L,228Rは、ADBモードにおいて右片ハイ用配光パターンHi3が形成されているか判断する(S309)。右片ハイ用配光パターンHi3が形成されていた場合(S309_Yes)、照射制御部228L,228Rは、左片ハイ用配光パターンHi2を形成する(S310)。右片ハイ用配光パターンHi3が形成されていなかった場合(S309_No)、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成することなくパッシング用配光パターンを形成する(S311)。
その後、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の受信を終了したか判断する(S312)。パッシング信号の受信を終了していない場合(S312_No)、照射制御部228L,228Rは、パッシング用配光パターンの形成を維持して、パッシング信号の受信を終了したか否かの判断を繰り返す(S312)。パッシング信号の受信を終了した場合(S312_Yes)、照射制御部228L,228Rは、パッシング信号の受信を開始したときに形成していた配光パターンを形成し(S313)、本ルーチンを終了する。
以上説明したように、本実施形態では、ADBモードで付加配光パターンであるハイビーム用配光パターンHi1を形成しているときにパッシング信号を受けた場合に、ベーシックロービーム用配光パターンLo1を経由してパッシング用配光パターンに切り換えている。これにより、ハイビーム用配光パターンHi1を形成している状態でパッシング動作を実行した場合に、パッシング用配光パターンの形成によって明暗が変化する領域を増大させることができる。また、左片ハイ用配光パターンHi2が形成されている場合には、パッシング用の配光パターンとして右片ハイ用配光パターンHi3を形成し、右片ハイ用配光パターンHi3が形成されている場合には、パッシング用の配光パターンとして左片ハイ用配光パターンHi2を形成している。これにより、左片ハイ用配光パターンHi2または右片ハイ用配光パターンHi3を形成している状態でパッシング動作を実行した場合に、明暗の変化する領域を増大させることができる。したがって、本実施形態の車両用前照灯装置200によれば、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させるADBモードの実行中にパッシング用配光パターンを形成する場合に、より確実に周囲の車両や歩行者に対して注意を促すことができる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、各実施形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。上述の各実施形態同士、および上述の各実施形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
上述の各実施形態は、付加配光パターンとしてハイビーム用配光パターンHi1、左片ハイ用配光パターンHi2、および右片ハイ用配光パターンHi3を形成する構成であるが、他の付加配光パターンであるスプリット配光パターンやVビーム用配光パターンLo3を形成しているときにパッシング信号を受けた場合にも、同様の制御を実行することで、同様の効果を得ることができる。なお、スプリット配光パターンは、第1遮光領域および第2遮光領域を照射領域に含む第3付加配光パターンに相当する。
また、上述の各実施形態では、付加配光パターンの照度低減状態としてベーシックロービーム用配光パターンLo1を形成しているが、付加配光パターンの照度が所定の低照度となるように電源回路230からバルブ14に出力する電力の大きさを変化させることで、付加配光パターンの照度低減状態を形成してもよい。ここで、前記「所定の低照度」は、自車両の周囲に存在する他車両の乗員や歩行者が、照度の低減前後の照度差を視覚的に認識できる程度となる照度である。この照度は、設計者による実験やシミュレーションに基づき設定することが可能である。
また、上述の各実施形態では、照射制御部228L,228Rが自車両の走行状態や前方車両の存在状態を判断しているが、車両制御部302がこれらの判断を実行するようにしてもよい。この場合、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302からの指示に基づいてバルブ14の点消灯や、スイブルアクチュエータ222およびモータ238の駆動などを制御する。
また、上述の各実施形態において、照射制御部228L,228Rはパッシング動作を実施している間もADBモードにおける前方車両の存在の判定を継続している。この場合、自車両の形成したパッシング用配光パターンの光が、道路上に設けられたデリニエータや看板などの光反射物によって反射され、照射制御部228L,228Rが当該光反射物を前方車両と誤認してしまうおそれがある。そこで、パッシング動作を実施している間に新たに認識された特徴点については、前方車両として認識しないようにしてもよい。これにより、自車両で実施したパッシング動作によってADBモードで誤った付加配光パターンが形成されてしまうのを防ぐことができる。