JP2011014439A - 正極体とその製造方法、並びに非水電解質電池 - Google Patents

正極体とその製造方法、並びに非水電解質電池 Download PDF

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Abstract

【課題】非水電解質電池の正極として利用した際、電池を繰り返し充放電させても破損し難い正極体を提供する。
【解決手段】正極集電体11と、この正極集電体11の少なくとも一面側に設けられる正極活物質層10とを備える正極体1Aにおいて、正極活物質層10を複数の複合髭状体10cで構成する。この複合髭状体10cは、正極集電体11に接合された導電性を有する髭状体10mと、この髭状体10mの表面に担持され、リチウムイオンの吸蔵と放出を行なう正極活物質10pとを備える構成とする。
【選択図】図2

Description

本発明は、非水電解質電池の正極に利用される正極体とその製造方法、ならびにその正極体を使用した非水電解質電池に関するものである。
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源として、繰り返し充放電を行なうことができる非水電解質電池が利用されている。非水電解質電池として、代表的には、正極と負極とこれら電極の間でリチウムイオンの伝導を媒介するリチウムイオン伝導層とを備えるリチウムイオン電池を挙げることができる(例えば、特許文献1や2を参照)。
特許文献1の非水電解質電池では、正極活物質を樹脂バインダーや溶剤と混合したペースト(スラリー)を作製し、このスラリーを基板(支持体)に塗布したものを正極として使用している。この正極では、支持体が正極集電体として機能し、支持体上に塗布されたスラリーが乾燥したものが正極活物質層として機能する。
特許文献2の非水電解質電池では、基板の上に金属製の集電体層を形成したものを支持体として、この支持体の上に正極活物質を気相法により成膜したものを正極として利用している。
特公平7−50617号公報 特開2005−251417号公報
しかし、上記特許文献1や2の電池は、充放電を繰り返すうちに正極活物質層に亀裂が生じたり、正極活物質層が正極集電体から剥離したりするという不具合が生じる虞がある。これは、充放電の際に、正極活物質層におけるリチウムイオンの吸蔵と放出により正極活物質層が膨張と収縮を繰り返すため、当該活物質層に応力が作用するからである。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、非水電解質電池の正極として利用した際、電池を繰り返し充放電させても破損し難い正極体とその製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、本発明正極体を使用した非水電解質電池を提供することにある。
(1)本発明正極体は、正極集電体と、この正極集電体の少なくとも一面側に設けられる正極活物質層とを備え、非水電解質電池の正極として利用される正極体に係る。本発明正極体の正極活物質層は、複数の複合髭状体を備え、この複合髭状体は、正極集電体に接合された導電性を有する髭状体と、この髭状体の表面に担持され、リチウムイオンの吸蔵と放出を行なう正極活物質とを備えることを特徴とする。
ここで、正極活物質は、髭状体の表面に付着された粒子状としても良いし、髭状体の表面にコーティングされた膜状としても良い。
上記本発明正極体を非水電解質電池の正極として利用すれば、電池の充放電に伴い正極活物質が膨張と収縮を繰り返しても、正極活物質層に亀裂などの破損が生じ難い電池、いわゆるサイクル特性に優れた電池とすることができる。これは、複合髭状体同士の間に適当な隙間があり、しかも、髭状体が柔軟性に富むので、正極活物質の体積変化に伴う応力を吸収することができるからであると推察される。
また、正極活物質層において導電性の髭状体が毛細血管のように配された状態にあるので、正極活物質と正極集電体との間の電力の遣り取りを円滑にできる。その結果、本発明正極体を使用すれば、放電容量に優れる電池を作製することができる。
(2)本発明正極体の一形態として、前記髭状体の一部が、前記正極集電体に埋没していることが好ましい。
髭状体が単に正極集電体上に堆積しているのではなく、髭状体の根元部分が正極集電体に埋没している構造とすることで、髭状体を正極集電体から脱落し難くすることができる。このような構造の正極体を電池の正極として使用すれば、電池の充放電を繰り返したとしても、複合髭状体を主体とする正極活物質層が正極集電体から剥離し難く、長期に渡って初期の放電容量を維持することができる。
(3)本発明正極体の一形態として、前記髭状体がカーボンナノチューブおよび炭素繊維の少なくとも一方であることが好ましい。
髭状体は導電性を有していれば特に限定されないが、上記カーボンナノチューブ(以下、CNT)や炭素繊維は、導電性に優れると共に、正極活物質との密着性も良好である。また、CNTや炭素繊維は、強度と柔軟性をバランスよく備えているので、破損し難い正極活物質層を備える正極体とすることができる。
(4)本発明正極体の一形態として、前記髭状体の直径が20μm以下、当該髭状体の直径と長さとの比が100以上であることが好ましい。
1本の髭状体の[長さ/直径]比を大きくすることで、正極活物質層に備わる全ての髭状体の合計表面積を大きくすることができる。髭状体の合計表面積が大きくなれば、髭状体の表面に担持させることができる正極活物質の量も多くすることができる。
(5)本発明正極体の一形態として、正極活物質層の厚さが15μm〜150μmであることが好ましい。
上記厚さの正極活物質層を備える正極体であれば、携帯電話などの薄型デバイスに好適な薄い非水電解質電池を作製することができるし、そのような薄型デバイスの電源として十分な放電容量を備える電池を作製することができる。
(6)本発明正極体の一形態として、前記正極活物質層は、前記複合髭状体同士の隙間に配されるリチウムイオン伝導性材料を備えることが好ましい。
上記構成によれば、複合髭状体同士の間、即ち各髭状体の表面に存在する正極活物質同士の間にリチウムイオンの伝導路を形成することができる。その結果、本発明正極体を非水電解質電池に使用したときの電池の放電容量を向上させることができる。このようなリチウムイオン伝導性材料としては、リチウムイオン伝導性を有する複合酸化物や、リチウムイオン伝導性を有する高分子を利用することができる。
(7)本発明非水電解質電池は、正極と、負極と、両電極の間でリチウムイオンの伝導を媒介するリチウムイオン伝導層とを備える非水電解質電池であって、前記正極が本発明正極体であることを特徴とする。
本発明正極体を備える非水電解質電池であれば、充放電を繰り返しても放電容量が低下し難い。そのため、本発明電池は、例えば携帯電話などの電源として好適に利用可能である。
(8)本発明正極体の製造方法は、正極集電体と、この正極集電体の少なくとも一面側に設けられる正極活物質層とを備え、非水電解質電池の正極として利用される正極体の製造方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
導電性の髭状体の表面に正極活物質を担持させた複合髭状体を作製する第1工程。
正極集電体となる金属基板の少なくとも一面に、前記複合髭状体を接合させる第2工程。
本発明正極体の製造方法によれば、本発明正極体を容易に製造することができる。
(9)本発明正極体の製造方法の一形態として、前記髭状体がカーボンナノチューブまたは炭素繊維であることが好ましい。
カーボンナノチューブや炭素繊維は、強度と柔軟性をバランス良く備えるので扱い易い上、破損し難い健全な正極活物質層を有する正極体を製造することができる。
(10)本発明正極体の製造方法の一形態として、前記金属基板に接合された複合髭状体同士の隙間にリチウムイオン伝導性材料を形成する第3工程を備えることが好ましい。
第3工程を備えることにより、複合髭状体の間にリチウムイオンの伝導路を形成した正極体を製造することができる。その正極体を電池に用いれば、電池の放電容量を向上させることができる。
(11)本発明正極体の製造方法の一形態として、前記第2工程はめっきにより行なうことができる。
めっきにより複合髭状体を正極集電体に強固に固定することができる。
(12)本発明正極体の製造方法の一形態として、前記第2工程は電着により行なうことができる。
電着によっても複合髭状体を正極集電体に強固に固定することができる。
本発明正極体を非水電解質電池の正極として使用すれば、電池を繰り返し充放電させても正極の部分に破損が生じ難い電池を作製できる。その結果、本発明正極体を用いた非水電解質電池は、携帯機器の電源に要求されるサイクル特性を満たす電池、即ち、繰り返しの充放電にも放電容量の低下し難い電池となる。
実施形態に示す非水電解質電池の概略構成図である。 実施形態に示す本発明正極体の概略構成図である。
[全体構成]
図1に例示するように、本発明非水電解質電池100は、正極1、負極2、および、両電極間に配置されるリチウムイオン伝導層3を備える。正極1は、正極活物質層10と正極集電体11とを備え、負極2は、集電体を兼ねる負極活物質層20を備える。さらに、この電池100は、正極活物質層10とリチウムイオン伝導層3との間にリチウムイオンの偏りを緩衝する緩衝層4を備える。この本発明非水電解質電池100の最も特徴とするところは、正極1(正極体1A)にある。以下、まず初めに本発明正極体1Aとその製造方法を詳細に説明し、次いで正極体以外の構成について簡単に説明する。
[正極体]
本発明正極体1Aの構成を具体的に説明すると、図2に示すように金属基板などの導電性板材からなる正極集電体11と、その一面側に接合される複合髭状体10cで構成される正極活物質層10とを備える。さらに、正極活物質層10は、複合髭状体10cの間を埋めるように配されるリチウムイオン伝導性材料10rを備えていても良い。ここで、正極集電体11の他面側にも正極活物質層10を設けても良い。正極集電体11の両面に正極活物質層10を設ける場合、各正極活物質層10のそれぞれに対してリチウムイオン伝導層3や負極2を積層すると良い。
正極体1Aの厚さは、携帯機器の電源として小型でありつつ十分な放電容量を備えるように選択することが好ましい。正極体1Aは、正極集電体11と正極活物質層10とを備えるので、例えば、正極集電体11の厚さを3〜300μm、正極活物質層10の厚さを15〜150μmとすると良い。なお、正極集電体11の表面から延びる複合髭状体10cの平均長さが、正極活物質層10の厚さと見なして良い。
<複合髭状体>
複合髭状体10cは、導電性を有する髭状体10mと、髭状体10mの表面に担持される正極活物質10pとからなる。
髭状体10mは、導電性を有する短尺の線状部材であり、正極集電体11に接合されている。この髭状体10mは、正極活物質10pを保持する役割を担うと共に、正極活物質10pと正極集電体11との間の電力の遣り取りを仲介する役割を担う。
髭状体10mの表面積は、電池の放電容量を決める正極活物質10pを保持すると言う観点からすれば、大きいほうが好ましい。ここで、1本の髭状体10mの表面積を大きくしようとすれば髭状体10mの直径を太くすれば良いが、その場合、正極集電体11に接合できる髭状体10mの数は少なくなる。従って、本発明正極体1Aでは逆に1本の髭状体10mの直径を細くして、正極集電体11に接合できる髭状体10mの数を多くし、正極集電体11に接合される全ての髭状体10mの合計表面積を大きくする。例えば、髭状体10mの直径が20μm以下とし、髭状体10mの[直径/長さ]比を100以上とすると、種々の用途に使用可能な量の正極活物質10pを備える正極活物質層10とすることができる。
また、髭状体10mは、その一端側が正極集電体11に埋設されていることが好ましい。このような構成であれば、髭状体10mが正極集電体11から脱落し難くなるからである。髭状体10mの一端側を正極集電体11に埋設させる代表的な方法については後述する。
上記のような髭状体10mは、導電性に優れる材質で構成されていれば特に限定されない。例えば、導電性に優れると共に、適度な強度と柔軟性を有するカーボンナノチューブや炭素繊維を使用することができる。
一方、髭状体10mの表面に担持される正極活物質10pは、リチウムイオンの吸蔵と放出を行なうことができる電池反応の主体となる物質である。この正極活物質10pは粒状体として髭状体10mの表面に付着させることで髭状体10mの表面に担持させても良いし、膜状体として髭状体10mの表面にコーティングさせることで髭状体10mの表面に担持させても良い。
使用する正極活物質10pの材料として代表的には、LiαOやLiβ(α、βはNi,Co,Mnの少なくとも一種を50%以上含む)などで表される物質、例えば、LiCoOや、LiNiO、LiMnO、LiCo0.5Fe0.5、LiMnなどを利用することができる。その他、正極活物質10pとしてLiFePOなどを使用できる。
<リチウムイオン伝導性材料>
複合髭状体10c同士の隙間に配されるリチウムイオン伝導性材料10rとしては、リチウムイオン伝導性を有する複合酸化物や、リチウムイオン伝導性を有する高分子を挙げることができる。このような構成とすることで、複合髭状体10cの間、即ち各髭状体の表面に存在する正極活物質同士の間にリチウムイオンの伝導路を形成することができる。
複合酸化物としては、Liと、Ti,NbおよびTaのうち少なくとも一種とを含有する酸化物、例えば、LiNbOや、LiTi12、LiTaOなどを利用できる。その他の複合酸化物として、Liと、Laと、ZrおよびTiのうち少なくとも一種とを含有する酸化物、例えば、LiLaZr12、Li0.33La0.56TiOなどを利用することができる。このような複合酸化物は、複合髭状体10cの表面に被膜として形成することができる。
一方、リチウムイオン伝導性の高分子としては、例えば、リチウムを含む化合物(例えば、LiPFやLiClOなど)を分散させた高分子化合物(例えば、ポリエチレンオキサイドなど)を利用できる。このような高分子は、複合髭状体10c同士の隙間に当該隙間を埋めるように充填させることができる。
以上の構成を備える正極体を非水電解質電池の正極として使用すれば、充放電に伴い放電容量が低下し難い電池とすることができる。その理由は、電池の充放電に伴い正極活物質が膨張と収縮を繰り返したとしても、その体積変化により生じる応力を髭状体で緩和することができるからである。
[正極体の製造方法]
本発明正極体は、例えば、以下に示す本発明正極体の製造方法により作製することができる。本発明正極体の製造方法は、導電性の髭状体の表面に正極活物質を担持させた複合髭状体を作製する第1工程と、正極集電体となる金属基板の少なくとも一面に、前記複合髭状体を電気的に接合させる第2工程とを備える。さらに、本発明正極体の製造方法は、前記金属基板に接合された複合髭状体同士の隙間にリチウムイオン伝導性材料を形成する第3工程を備えていても良い。以下、各工程について詳細に説明する。
<第1工程>
第1工程における複合髭状体を作製するための代表的な方法を以下に2つ例示する。
まず第1の作製方法は、髭状体の表面に粒状の正極活物質を付着させる方法である。例えば、極性溶媒中で正極活物質の粒子を正(または負)に帯電させると共に、前記溶媒とは別に用意した極性溶媒中で髭状体を負(または正)に帯電させ、両溶液を混ぜ合わせることで髭状体の表面に正極活物質粒子を吸着させると良い。
次に、複合髭状体の第2の作製方法は、髭状体の表面に膜状の正極活物質をコーティングさせる方法である。例えば、気相法などにより髭状体の表面に正極活物質をコーティングさせると良い。
<第2工程>
また、第2工程における正極集電体の表面に複合髭状体を接合するための代表的な方法を以下に2つ例示する。
まず1つ目の方法は、めっき法である。具体的には、正極集電体を浸漬しためっき液中に複合髭状体を分散させた状態でめっきを行なう。このようにすれば、正極集電体の表面にめっき液中の金属が析出する際に、複合髭状体が金属の析出に巻き込まれて正極集電体の表面に固定される。この場合、めっき層も導電性を有するため正極集電体の一部とみなせる。
正極集電体の表面に複合髭状体を接合するための2つ目の方法は、電着法である。具体的には、極性溶媒中に正極集電体を浸漬させると共に、複合髭状体を分散させ、直流電場を印加した電気泳動により正極集電体の表面に複合髭状体を堆積させ、固定させる。その際、印加する電場の大きさによって、複合髭状体を正極集電体の表面にめり込ませることができる。
<第3工程>
第3工程におけるリチウムイオン伝導性材料の配置方法も、代表的には以下の2つの方法を挙げることができる。
まず1つ目の方法は、リチウムイオン伝導性の複合酸化物(正極体の説明の際に例示)を複合髭状体同士の隙間に膜状に形成する方法である。例えば、複合酸化物の前駆物質となるアルコキシドを含む溶液を複合髭状体同士の隙間に含浸させた後、熱処理により前駆物質を複合酸化物の膜に変化させる。
次に、2つ目の方法は、リチウムイオン伝導性の高分子樹脂(正極体の説明の際に例示)を複合髭状体同士の隙間に充填させる方法である。例えば、リチウムイオン伝導性の化合物を高分子樹脂中に分散させ、この高分子樹脂を複合髭状体の隙間に含浸させた後、熱処理により高分子樹脂の粘度を高くすることで当該隙間に高分子樹脂を担持させる。
[正極体以外の構成]
次に、図1に示す正極1(正極体1A)以外の構成を簡単に説明する。
まず、リチウムイオン伝導層3は、リチウムを含有する固体電解質であり、正極1と負極2との間のリチウムイオンの伝導を媒介する。リチウムイオン伝導層3の材料としては、Li、P、OおよびNを含むもの(例えば、Li−P−O−N)や、Li、PおよびSを含むもの(例えば、LiS−P)を利用できる。
また、緩衝層4は、正極活物質層10とリチウムイオン伝導層3との間でリチウムイオンの偏りを緩衝する層である。但し、緩衝層4は、リチウムイオン伝導層が硫黄(S)を含まない場合、設ける必要はない。
負極2(負極活物質層20)は、Li金属、あるいはLiと合金を形成することのできるAl、Si、C、Sn、Bi、及びInなどの元素や、LiとTiの複合酸化物、Si、Sn、Vの酸化物などで形成することができる。また、負極2は、負極活物質層20と別個に負極集電体(例えば、Cu、Ni、Fe、Cr、及びこれらの合金など)を備えていても良い。
以下、本発明正極体を実際に作製し、その正極体を使用して非水電解質電池(試料1〜9)を作製すると共に、それら電池の電池特性を評価した。また、比較として焼結体からなる正極体を作製し、その正極体を使用して非水電解質電池(試料10)を作製すると共に、その電池の電池特性を評価した。
[試料1〜9の作製]
<正極活物質粒子の作製>
水酸化リチウム(LiOH)と酢酸コバルト(Co(CHCOO))とを等モル量、蒸留水中に投入して撹拌した後、乾燥させて前駆体粉末を得た。この粉末を1050℃×3時間の焼成を行ってLiCoO結晶からなる粉末を得た。
次に、この粉末を遊星ボールミル装置で15分間粉砕した後、超音波印加により凝集物を解砕処理してLiCoO粒子(正極活物質粒子)を得た。ここで、ボールミル装置の粉砕加速度を変化させることでLiCoO粒子の平均粒径を変化させた。粉砕加速度を25Gに設定すると粒子の平均粒径は約32nm、120Gに設定すると粒子の平均粒径は約8nm程度となった。なお、この平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
<髭状体の用意>
髭状体(A)…昭和電工製のカーボンナノチューブ(VGCF)を用意した。VGCFの直径は平均で0.15μm、長さは平均で15μmであった。
髭状体(B)…三菱樹脂製炭素繊維(品番6371T:直径1μm、長さ6mm)を切断処理して各種長さの炭素繊維を用意した。切断により用意した髭状体の長さは、50μmと120μmの2種類であった。
<複合髭状体の作製>
用意した髭状体(A)、(B)のそれぞれにLiCoO粒子を付着させた複合髭状体を作製した。具体的には、まず、髭状体(A)または(B)を無水ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒中に分散させた溶液(X)を作製し、溶液(X)中の髭状体(A)、(B)を負に帯電させた。一方、作製したLiCoO粒子をDMF無水溶媒中に分散させた溶液(Y)を作製し、溶液(Y)中の正極活物質粒子を正に帯電させた。そして、溶液(X)と溶液(Y)とを混合し、混合溶液(Z)中で髭状体(A)、(B)表面にLiCoO粒子を付着させた複合髭状体を作製した。
<金属基板の用意>
金属基板は、本発明正極体を非水電解質電池の正極に使用した際、正極集電体となる部材である。試料1〜9の作製にあたっては厚さ0.3mmのステンレス薄板(SUS316)を金属基板として用意した。その他、金属基板としては、例えば、Al、Ni、これらの合金などを利用することもできる。
<金属基板への複合髭状体の接合>
金属基板へ複合髭状体を接合するにあたって、一部の試料では電着法を用い、残りの試料ではめっき法を用いた。
≪電着法≫
電着法では、上記混合溶液(Z)を電気泳動可能な槽に移し、混合溶液(Z)中に金属基板を浸漬させる。そして、金属基板を電気泳動時の正極として、30Vの直流電場を印加する。この操作により、正に帯電させた金属基板の表面に複合髭状体が堆積され、金属基板の表面に複合髭状体がめり込むように接合される。
≪めっき≫
めっき法では、上記混合液(Z)をCuめっき液に添加し、この液中に金属基板を浸漬させる。そして、金属基板をめっき時の負極として、10Vの直流電圧を印加する。その操作により、複合髭状体は、めっきする金属が析出する際にその金属に取り込まれるようにして金属基板に電気的に接合される。ここで、複合髭状体は負に帯電しているものの、めっきする金属に物理的に取り込まれるので、負に帯電する金属基板上に接合させることができる。
<その他>
一部の試料については、複合髭状体からなる正極活物質層を形成後、当該層に対して次のような処理を行った。
まず、過塩素酸リチウム(LiClO)を5mol%溶解させたエチレンカーバイドとポリエチレンオキシドとを当重量混合した溶液(以下PEO溶液とする)を作製した。そして、このPEO溶液を減圧下(50kPa)で正極体の正極活物質層中に含浸させた。PEO溶液を含浸させた正極体に対してアルゴン雰囲気下で45℃×1時間の加熱処理を行い、正極活物質層の空隙部、即ち、複合髭状体の間に形成される隙間にリチウムイオン伝導性の高分子が保持されるようにした。
<正極体以外の電池要素の作製>
以上のようにして作製した正極体1Aの正極活物質層10側の面に緩衝層4、リチウムイオン伝導層3、および負極活物質層20を積層した(図1を参照)。
≪緩衝層の形成≫
まず、正極活物質層の上にLiNbOからなる厚さ20nmの緩衝層4をエキシマレーザアブレーション法により形成した。緩衝層4の成膜条件は、蒸発源出力500mJ、圧力1Paの酸素雰囲気下とし、成膜した後、400℃×0.5時間、大気炉で酸素アニールを行った。酸素アニールを行うことで、緩衝層4を構成するLiNbOを正極活物質層10に拡散させた。
≪リチウムイオン伝導層の作製≫
緩衝層4の一面側にLiS+Pからなるリチウムイオン伝導層3を形成した。同層3の形成は、1PaのAr雰囲気下、硫化リチウム(LiS)及び五硫化リン(P)をターゲットとするエキシマレーザアブレーション法により行なった。
≪負極活物質層の作製≫
リチウムイオン伝導層3の一面側にLiからなる負極活物質層20を形成した。この層20は、10−4Pa以下の真空下で行なう抵抗加熱法により形成した。
[試料10の作製]
試料1〜9の作製と同様に正極活物質粒子の前躯体粉末を作製した。この前駆体粉末を冷間等方加圧装置で80MPaの圧力をかけ、ペレット状に成形し、仮焼き900℃×5時間、本焼き1050℃×3時間の焼成を行って、LiCoOからなる焼結体を得た。
次いで、得られた焼結体の形状加工後に表面を研磨処理し、平均厚さ55μmの活物質部材を作製した。この活物質部材は、電池としたときに正極活物質層として機能する部材である。
最後に、研磨した正極体の一方の面にAlからなる平均厚さ0.1μmの正極集電体を気相蒸着法で形成し、正極活物質層と正極集電体とからなる正極体を得た。
以降は、試料1〜9の作製と同様にして正極体以外の電池要素を作製し、電池を完成させた。
[試料1〜10の評価]
作製した試料1〜10の電池について、0.05mAの定電流で4.2Vまで充電し、その後3Vで放電させる操作を1サイクルとする充放電サイクルを1000回繰り返し、正負極間で短絡が生じるか否かを調べた。また、短絡が生じたものについては短絡が生じる直前の放電容量を、短絡が生じなかったものについては1000サイクル目の放電容量を調べ、試料10の放電容量の値を1としたときの相対値で試料1〜9の放電容量を評価した。これらの結果、および各試料の構成や各試料の作製時に行なった操作などを表1に示す。
Figure 2011014439
表1に示すように、試料10の電池は、500回を過ぎて正負極間に短絡が生じた。試料10に短絡が生じた理由は、充放電の繰り返しによって、正極活物質が膨張と収縮を繰り返すために、正極体や固体電解質を含む部材に応力が発生し、これに起因した微小な歪みが積み重なることで最終的に部材にクラック等が発生したためと考えられる。
これに対して、本発明の構造を有する試料1〜9の電池では1000サイクルの充放電を繰り返しても正負極間の短絡は生じなかった。短絡が生じなかった理由は、柔軟性に富む複合髭状体が正極活物質の体積変化を吸収したからではないかと推察される。
また、本発明の構造を有する試料1〜9の電池は、単位体積あたりの放電容量に優れていた。例えば、正極活物質層の厚さが、試料10の1/10以下である試料1,4であっても、試料10の放電容量のおよそ9割程度の放電容量を有していた。しかも、試料10の1/10以下の厚さであってもPEO含浸処理を施した試料7は、試料10を凌ぐ放電容量を備えていた。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において実施形態の構成を適宜変更することができる。例えば、リチウムイオン伝導層が硫化物でない場合、緩衝層はなくてもかまわない。
本発明正極体を用いた非水電解質電池は、優れたサイクル特性と高い放電容量を備えることが求められる携帯機器の電源に好適に利用可能である。
100 非水電解質電池
1 正極 1A 正極体
10 正極活物質層 11 正極集電体
2 負極
20 負極活物質層
3 リチウムイオン伝導層
4 緩衝層
10c 複合髭状体
10m 髭状体 10p 正極活物質 10r リチウムイオン伝導性材料

Claims (12)

  1. 正極集電体と、この正極集電体の少なくとも一面側に設けられる正極活物質層とを備え、非水電解質電池の正極として利用される正極体であって、
    前記正極活物質層は、複数の複合髭状体を備え、
    前記複合髭状体は、
    前記正極集電体に接合された導電性を有する髭状体と、
    前記髭状体の表面に担持され、リチウムイオンの吸蔵と放出を行なう正極活物質と、
    を備えることを特徴とする正極体。
  2. 前記髭状体の一部が、前記正極集電体に埋没していることを特徴とする請求項1に記載の正極体。
  3. 前記髭状体がカーボンナノチューブおよび炭素繊維の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1または2に記載の正極体。
  4. 前記髭状体の直径が20μm以下、当該髭状体の直径と長さとの比が100以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の正極体。
  5. 前記正極活物質層の厚さが15μm〜150μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の正極体。
  6. 前記正極活物質層は、複合髭状体同士の隙間に配されるリチウムイオン伝導性材料を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の正極体。
  7. 正極と、負極と、両電極の間でリチウムイオンの伝導を媒介するリチウムイオン伝導層とを備える非水電解質電池であって、
    前記正極は、
    請求項1〜6のいずれか一項に記載される正極体であることを特徴とする非水電解質電池。
  8. 正極集電体と、この正極集電体の少なくとも一面側に設けられる正極活物質層とを備え、非水電解質電池の正極として利用される正極体の製造方法であって、
    導電性の髭状体の表面に正極活物質を担持させた複合髭状体を作製する第1工程と、
    正極集電体となる金属基板の少なくとも一面に、前記複合髭状体を接合させる第2工程と、
    を備えることを特徴する正極体の製造方法。
  9. 前記髭状体がカーボンナノチューブまたは炭素繊維であることを特徴とする請求項8に記載の正極体の製造方法。
  10. 前記金属基板上に接合された複合髭状体の隙間にリチウムイオン伝導性材料を形成する第3工程を備えることを特徴とする請求項8または9に記載の正極体の製造方法。
  11. 前記第2工程はめっきにより行なうことを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の正極体の製造方法。
  12. 前記第2工程は電着により行なうことを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の正極体の製造方法。
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