本発明は、先行技術に記載されるものよりも改良された性質を有しかつとくにトランスサイレチンアミロイドーシスの治療または予防に使用するのに好適である作用剤(agent)または化合物を提供することを目的とする。
〔式中、
各Yは、独立して、直接結合または-CH2-であり、
各Xは、独立して、-NH-、-O-、-S-、-CH2-、-NR-、-CO-、-CONH-、-CONR-、-C=N-O-、-NHCO-、-NRCO-、-O-N=C-、-SO-、-SO2-、または直接結合であり、
R1、R2、R3、およびR4のそれぞれは、独立して、F、Cl、Br、I、CF3、OCF3、R'、OR'、NR'R'、SOR'、またはSO2R'であり、
{ここで、RおよびR'は、それぞれ独立して、1個以上のハロゲン原子で場合により置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状のC1〜C3アルキルである}
かつ各m、n、p、およびqは、独立して、0〜4であり、ただし、m+n+p+q>0であり、
しかもリンカーは、C7〜C13アルキル、C7〜C13アルケニル、C7〜C13アルキニルのような7〜13個の炭素原子の直鎖もしくは分岐鎖であるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている〕
で示される化合物または製薬上許容されるその塩、エステル、もしくはプロドラッグを含む、四量体トランスサイレチンの安定化剤(agent for stabilising the tetrameric form of transthyretin)を提供する。
本発明はまた、任意の立体異性体、鏡像異性体、または幾何異性体、およびそれらの混合物を包含する。
添付の特許請求の範囲を含めて本特許出願では、上述の置換基は、以下の意味を有する。
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を意味する。
アルキル基およびその一部分(とくに定義されていないかぎり)は、直鎖または分岐鎖でありうる。
本明細書中で用いられる「C1〜C3アルキル」という用語は、1個以上のハロゲンで場合により置換されていてもよい、1〜3個の炭素原子よりなる直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状の炭素鎖を意味する。
本明細書中で用いられる「C2〜C3アルケニル」という用語は、各不飽和基の任意の位置に位置可能な1個の二重結合を含有し、かつ1個以上のハロゲン原子で場合により置換されていてもよい2〜3個の炭素原子よりなる鎖を意味する。
本明細書中で用いられる「C2〜C3アルキニル」という用語は、各不飽和基の任意の位置に位置可能な1個の三重結合を含有し、かつ1個以上のハロゲン原子で場合により置換されていてもよい2〜3個の炭素原子よりなる鎖を意味する。
本明細書中で用いられる「C1〜C3アルコキシ」という用語は、酸素原子を介して他の基に結合された1〜3個の炭素原子よりなる直鎖状もしくは分岐状もしくは環状の炭素鎖を意味する。
本明細書中で用いられる「C7〜C13-アルキル」という用語は、7〜13個の炭素原子よりなる飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素飽和鎖を意味する。
本明細書中で用いられる「C7〜C13-アルケニル」という用語は、各不飽和基の任意の位置に位置可能な少なくとも1個の二重結合を含有する7〜13個の炭素原子よりなる非分岐状もしくは分岐状の非環状炭素鎖を意味する。
本明細書中で用いられる「C7〜C13-アルキニル」という用語は、各不飽和基の任意の位置に位置可能な少なくとも1個の三重結合を含有する7〜13個の炭素原子よりなる非分岐状もしくは分岐状の非環状炭素鎖を意味する。
C7〜C13-アルキル基、C7〜C13-アルケニル基、またはC7〜C13-アルキニル基が1個以上のヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は、該鎖中の任意の位置にまたは該鎖をフェニル基に結合させるように鎖の末端に配置可能であり、かつ該鎖は、無置換でありうるか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換可能である。
本発明の一実施形態では、ヘテロ原子は、リンカー鎖の末端に配置可能である。本発明の他の実施形態では、ヘテロ原子は酸素である。
第2の態様では、一般式(I)で示される化合物または製薬上許容されるその塩、エステル、もしくはプロドラッグを含む、四量体トランスサイレチンの安定化剤を提供する。ただし、式中、
各Yは、直接結合であり、
各Xは、独立して、-NH-、-NR-、-CO-、-CONH-、-CONR- 、-NHCO-、-NRCO-、または直接結合であり、
R1、R2、R3、およびR4のそれぞれは、独立して、F、Cl、CF3、OCF3、R'、OR'、NRR'、SOR'、またはSO2R'であり、
{ここで、RおよびR'は、それぞれ独立して、1個以上のハロゲン原子で場合により置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状のC1〜C3アルキルである}
かつ各m、n、p、およびqは、独立して、0〜4であり、ただし、m+n+p+q>0であり、
しかもリンカーは、C7〜C13アルキル、C7〜C13アルケニル、C7〜C13アルキニルのような7〜13個の炭素原子の直鎖もしくは分岐鎖であるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルコキシ、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、もしくはC2〜C3アルキニルを含む1個以上の基で置換されている。
驚くべきことに、本発明に係る化合物は、四量体トランスサイレチン分子を強力に安定化させることが判明した。本化合物は、天然四量体トランスサイレチンによって高い親和性および結合活性で迅速かつ特異的に結合され、両方のリガンド結合ポケットを同時に顕著に占有する。溶媒pH、イオン強度、および組成の生理学的条件下で、本化合物は、単離された純粋なトランスサイレチンおよび全血漿中のトランスサイレチンの両方によって非常に迅速に結合され、トランスサイレチンの結合ポケットから甲状腺ホルモンを排除する。本化合物は、各リガンドが結合ポケットの1つを占有しかつリンカーがトランスサイレチン分子のコアを貫通するように結合する。そのような結合は、トランスサイレチンの四量体アセンブリーおよび天然折りたたみを顕著に安定化させ、アミロイド原繊維形成を引き起こす解離およびミスフォールディングを防止する。さらに、本化合物が全血漿中の天然トランスサイレチンによってこのように結合されることは、本化合物が先行技術の化合物と比較して薬剤としてかなり優れていることを意味する。
m+n+p+q>0であるので、本発明に係る安定化剤のフェニル環の少なくとも1つは、R1、R2、R3、およびR4から選択される置換基で置換されていなければならない。
リンカーに連結されたフェニル環(すなわち、R2およびR3を有するもの)の少なくとも1つで置換が行われることが好ましい。その場合、好ましくはm=q=0である。
これらの環の両方が同数の置換基を有するように、n=p>0であることが好ましい。より好ましくは、リンカーに連結されたフェニル環が二置換されるように、最も好ましくは、Xに対してメタ二置換されるように、n=p=2である。
置換基R2およびR3は、好ましくは、それぞれ独立して、I、Br、Cl、またはF、最も好ましくはClである。驚くべきことに、R2およびR3を有する環は、先行技術の教示とは対照的に、トランスサイレチンの結合ポケットの内側結合キャビティーを占有することが判明した。この配向に従えば、リンカーは、トランスサイレチン四量体を貫通する中央チャネル内に位置する。
内側結合キャビティーは、ファンデルワールス相互作用により置換基R2およびR3と相互作用可能な残基Ser117、Thr118、およびThr119を含む。内側結合キャビティーのさらに詳しい内容については、以下で説明する。
Xは、NHまたは-CONH-であることが好ましいが、以上に記載したように他の架橋性の原子または基を使用することも可能である。また、Yは、直接結合であることが好ましい。
リンカーは、C7〜C13アルキル、C7〜C13アルケニル、C7〜C13アルキニルのような7〜13個の炭素原子の直鎖もしくは分岐鎖であるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。リンカーは、各リガンドがトランスサイレチン四量体の結合ポケット内に位置しかつリンカーが中央チャネルを貫通するように2個のリガンドを互いに連結させる機能を有する。したがって、リンカーの鎖長は、四量体トランスサイレチンを安定化するように両方のリガンドの結合を可能にするのに適したものでなければならない。リンカーが短すぎると、リガンドが結合できなくなって、この安定化が行えなくなるであろう。リンカーが長すぎると、1つのリガンドが一方の結合ポケットにしか結合できなくなる可能性がある。本出願において、13原子の鎖長は、9原子の鎖長ほど好ましくないことが確認されている。なぜなら、9原子の鎖長は、2個のリガンドをより良好にそれらの各結合ポケット内に嵌合させうるからである。
リンカーは、場合によりヘテロ原子により各リガンドに結合されていてもよい炭化水素鎖を含みうる。
他の態様では、リンカーは、C8〜C12アルキル、C8〜C12アルケニル、C8〜C12アルキニルのような8〜12原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C9〜C11アルキル、C9〜C11アルケニル、C9〜C11アルキニルのような9〜11原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C7アルキル、C7アルケニル、C7アルキニルのような7原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C8アルキル、C8アルケニル、C8アルキニルのような8原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C9アルキル、C9アルケニル、C9アルキニルのような9原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C10アルキル、C10アルケニル、C10アルキニルのような10原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C11アルキル、C11アルケニル、C11アルキニルのような11原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C12アルキル、C12アルケニル、C12アルキニルのような12原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、C13アルキル、C13アルケニル、C13アルキニルのような13原子の鎖長を含みうるか、またはその炭素原子の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは、5〜11たとえば7〜11の整数である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、ただし、該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは、5〜11たとえば7〜11の整数である}を含む。
他の態様では、一般式(I)で示される化合物または製薬上許容されるその塩、エステル、もしくはプロドラッグを含む、四量体トランスサイレチンの安定化剤を提供する。ただし、式中、
各Yは、直接結合であり、
各Xは、独立して、-NH-、-NR、-CONH-、-CONR-、-NHCO- 、-NRCO-、または直接結合であり、
R1、R2、R3、およびR4のそれぞれは、独立して、F、Cl、CF3、OCF3、R'、またはOR'であり、
{ここで、RおよびR'は、それぞれ独立して、1個以上のハロゲン原子で場合により置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状のC1〜C3アルキルである}
かつ各m、n、p、およびqは、独立して、0〜4であり、ただし、m+n+p+q>0であり、
しかもリンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは、5〜11たとえば7〜11の整数である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
他の態様では、一般式(I)で示される化合物または製薬上許容されるその塩、エステル、もしくはプロドラッグを含む、四量体トランスサイレチンの安定化剤を提供する。ただし、式中、
各Yは、直接結合であり、
各Xは、独立して、-NH-、-NR、-CONH-、-CONR-、-NHCO- 、-NRCO-、または直接結合であり、
R1、R2、R3、およびR4のそれぞれは、独立して、F、Cl、CF3、OCF3、R'、またはOR'であり、
{ここで、RおよびR'は、それぞれ独立して、1個以上のハロゲン原子で場合により置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状のC1〜C3アルキルである}
かつ各m、n、p、およびqは、独立して、0〜4であり、ただし、m+n+p+q>0であり、
しかもリンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは、5〜11たとえば7〜11の整数である}を含み、ただし、該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
本発明のさらなる好ましい態様では、一般式(I)で示される化合物または製薬上許容されるその塩、エステル、もしくはプロドラッグを含む、四量体トランスサイレチンの安定化剤を提供する。ただし、式中、
各Yは、直接結合であり、
各Xは、独立して、-NH-であり、
R1、R2、R3、およびR4のそれぞれは、独立して、FまたはClであり、
かつ各m、n、p、およびqは、独立して、0〜4であり、ただし、m=q=0であり、
リンカーに連結されたフェニル環が二置換されるように、最も好ましくは、Xに対してメタ二置換されるように、n=p=2であり、しかもリンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは、5〜11たとえば7〜11の整数である}を含み、ただし、該鎖は、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルコキシ、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、もしくはC2〜C3アルキニルを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは5である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは6である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは7である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは8である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは9である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは10である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
さらなる態様では、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは11である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。
本発明に係る安定化剤は、ホモ二価化合物またはヘテロ二価化合物でありうる。
本発明に係る好ましい安定化剤としては、化合物4ajm15およびmds84、または製薬上許容されるそれらの塩、エステル、もしくはプロドラッグが挙げられる。
N連結型の式(I)で示される化合物を生成するための一般的経路は、以上のスキームにより例示されうる。
主要なビルディングブロックは、O-保護フェノールを有する官能基化アニリン(R2nにより表されるようにアレーン環の周りにさまざまに置換されていてもよく、R3pであってもよい)により例示される。以上のスキームでは、ベンジル基が利用されているが、tert-ブチルジメチルシリルやメトキシメチルのような他のO-保護基を利用することも可能である。このアニリン材料をパラジウム触媒カップリングによりアリールハリド(R1mにより表されるようにアレーン環の周りにさまざまに置換されていてもよく、R4qであってもよい)にカップリングさせてN連結型ビアリール誘導体を得ることが可能である。この材料をO-脱保護することにより、さまざまな連結基の結合を可能にする手段としてフェノール化合物を得ることが可能である。ジハロ化合物(X-R-X{ここで、Rは、以上に記載したように5〜11原子の鎖長であり、かつXはハロゲンである}で表される)を用いてO-アルキル化することにより、一連のさまざまなリンカーを結合させて、式(I)で示される医薬を提供することが可能である。ただし、式中、リンカーは、-O-(CH2)r-O-{ここで、rは、5〜11たとえば7〜11の整数である}を含み、かつ該リンカーは、そのCH2基の1個以上が、N、O、もしくはSのようなヘテロ原子または1個以上の二重結合もしくは三重結合で場合により置き換えられていてもよく、かつ該リンカーは、置換されていないか、あるいはハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で置換されている。さらに、連結されたジエステルのエステル加水分解を行うと、式(I)で示される化合物が提供される。他のX連結型ビアリール誘導体(式(I)で示される化合物に関連して以上に記載したとおり)の合成は、周知の合成方法により達成可能である。市販のアルケンビルディングブロックまたはアルキンビルディングブロックたとえばトリメチルシリルアセチレンをアルキル化し、続いて、当業者に公知の手順に従ってハロゲン化することにより、1個以上の二重結合または三重結合を含むリンカーを得ることが可能である。リンカーの他の結合形態、たとえば、炭素を介するフェニル環への直接結合は、フェニルO-トリフルオロメタンスルホネート誘導体と式X-R-X(ここで、Rは7〜13原子の鎖長である)で示されるジハロゲン化化合物との金属触媒クロスカップリング反応により(ただし、これに限定されるものではない)、達成可能である。式X-R-Xで示されるジハロゲン化化合物へのビフェニルユニットの段階的結合を利用するようにこの手順に変更を加えることにより、ヘテロ二価材料の生成を達成することも可能である。N、O、またはSのようなヘテロ原子を含み、かつハロゲン原子、O原子、もしくはN原子、またはOH、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、もしくはC1〜C3アルコキシを含む1個以上の基で場合により置換されていてもよいリンカーは、光延反応、標準的なアミド形成手順およびエステル形成手順、還元的アミノ化反応、還元的アルキル化反応、および還元的アシル化反応、オレフィンメタセシス(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとする当業者に公知の方法により、調製可能である。
本発明のさらなる態様では、式(I)で示される医薬の調製方法は、式IIaおよびIIbで示される2つの分子をカップリングすることによって式(I)で示される化合物を得ることによって達成可能である。置換基R'およびR''は、当技術分野で公知のカップリング条件下で以上に記載の7〜13原子の鎖を含むリンカーを提供する種々の鎖長のリンカー部分を表す。L'およびL''は、そうしたカップリング反応に関与しうる官能基を表し、その例としては、-COOH、-NH
2、-OH、ハロゲン、-COCl、-SO
2Cl、-COO(C
1〜C
3)アルキル、-OCO(C
1〜C
3)アルキル、NH(C
1〜C
3)アルキル、-OSO
2-(C
1〜C
3)アルキル、-トリ(C
1〜C
3)アルキルシリル、およびCNが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
さらなる態様では、本発明は、トランスサイレチンアミロイドーシスとくに全身性トランスサイレチンアミロイドーシスの治療または予防に使用するための本明細書中に記載の作用剤(agent)を提供する。
被験者におけるトランスサイレチンアミロイドーシスの治療または予防の方法をも提供する。この方法は、被験者(そのような治療を必要とする被験者)に治療上有効量の本明細書中に記載の作用剤を投与することを含む。本発明に従って治療可能なアミロイドーシスのタイプとしては、老人性心トランスサイレチンアミロイドーシス、常染色体優性成人発症型遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシス、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパシー、およびトランスサイレチンミスフォールディングに関連付けられる他の障害が挙げられる。作用剤を結合可能なトランスサイレチンは、野生型トランスサイレチンまたは変異体形態でありうる。その例としては、一残基置換V30M、T60A、V122Iを有するトランスサイレチン、またはトランスサイレチンアミロイドーシスを引き起こすことが報告されている他の>80の異なるトランスサイレチン変異体のいずれかが挙げられる。
本発明に係る作用剤または製薬上許容されるその塩、エステル、もしくはプロドラッグを含み、場合により、製薬上許容される担体、希釈剤、または賦形剤(それらの組合せを含む)を含んでもよい医薬組成物が製剤化可能である。「製薬上許容される塩」という用語は、医薬用途のための塩を形成することが当技術分野で知られており、許容されているアニオンまたはカチオンの塩を意味する。たとえば、酸付加塩は、作用剤の溶液を製薬上許容される非毒性の酸(たとえば、塩酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、またはリン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない)の溶液と混合することにより形成可能である。作用剤がカルボン酸基を有する場合、その塩、好ましくは非毒性の製薬上許容されるその塩(たとえば、そのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、および第四級アンモニウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない)もまた、本発明の対象になるとみなされる。
治療に使用することが許容される担体または希釈剤は、製薬技術分野で周知であり、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。医薬用の担体、賦形剤、または希釈剤の選択肢は、意図される投与経路および標準的な薬務に関連して選択可能である。医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として、またはそれらに加えて、任意の好適な結合剤(複数種可)、滑沢剤(複数種可)、懸濁化剤(複数種可)、コーティング剤(複数種可)、可溶化剤(複数種可)を含みうる。
保存剤、安定化剤、染料、さらには風味剤をも、医薬組成物中に提供することが可能である。抗酸化剤および懸濁化剤を使用することも可能である。
医薬組成物は、レシピエントにより代謝された時にのみ活性になる作用剤またはその誘導体を含むプロドラッグの形態をとりうる。そのような医薬組成物の成分の正確な性質および量は、経験的に決定可能であり、部分的には組成物の投与経路に依存するであろう。適切であれば、吸入により、坐剤もしくはペッサリーの形態で、ローション剤、溶液剤、クリーム剤、軟膏剤、もしくは散粉剤の形態で局所的に(経眼的な場合を含む)、皮膚貼付剤を用いて、デンプンやラクトースのような賦形剤を含有する錠剤の形態でまたは単独でもしくは賦形剤と混合してカプセル剤もしくはオビュール剤としてまたは風味剤もしくは着色剤を含有するエリキシル剤、溶液剤、またはサスペンジョン剤の形態で経口的に、本発明に係る医薬組成物を投与することが可能であるか、あるいは非経口的に、たとえば、静脈内、筋肉内、皮下、または動脈内に、注射することが可能である。
錠剤のような固形組成物を調製する場合、主要活性成分は、医薬担体、たとえば、従来の錠剤化成分、たとえば、トウモロコシデンプン、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、マグネシウムステアレート、リン酸二カルシウム、またはガム、および作用剤または非毒性の製薬上許容されるその塩の均一混合物を含有する固形予備製剤組成物を形成するための他の医薬希釈剤、たとえば、水、と混合される。経口投与または注射投与に供すべく本発明に係る組成物を組み込みうる液状製剤としては、メンジツ油、ゴマ油、ヤシ油、およびラッカセイ油のような食用油さらにはエリキシルおよび類似の医薬媒体を有する水性エマルジョン剤が挙げられる。水性サスペンジョン剤に好適な分散剤または懸濁化剤としては、合成および天然のガム、たとえば、トラガカント、アカシア、アルギネート、デキストラン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびゼラチンが挙げられる。
非経口投与に供する場合、溶液を血液と等張にするのに十分な塩やモノサッカリドなどの他の物質を含有しうる滅菌水溶液剤の形態で最も良好に組成物を使用することが可能である。頬腔内投与または舌下投与に供する場合、従来方式で製剤化可能な錠剤またはロゼンジ剤の形態で組成物を投与することが可能である。
使用上の便宜を図るために、本発明に係る投与量は、好ましくは、経口投与されるが、これは、実際の薬剤およびその生物学的利用能に依存するであろう。
本発明に係る化合物の使用は、体内の血流中のおよび他の可溶性トランスサイレチン分子をすべてリガンド薬剤で飽和させることを目的とする。したがって、所要の薬剤の用量は、毎日産生されるトランスサイレチン1molあたり少なくとも1molの薬剤を提供する用量である。正常健常者におけるトランスサイレチンの毎日の産生量は、70kgの被験者では9.5〜13μmol/日である(Robbins J., 2002)。急性期応答に関連付けられるすべての炎症性、感染性、および組織損傷性の疾患においてならびに栄養失調において、トランスサイレチン産生がアップレギュレートされたり合成が低減されたりする状況は存在しない。モル分子質量700Daの化合物では、毎日のトランスサイレチン産生量に対する等量は、6.65〜9.1mg/日に対応する。薬剤が経口的にまたは非経口投与後に生物学的に100%利用可能であるとすれば、その用量範囲自体は、必要最小量であろう。薬剤が経口投与され、次に、たとえば、生物学的に丁度10%利用可能であるとすれば、最小一日用量は、約70〜100mgであろう。薬剤の厳密な親和性、薬物動態、および薬力学に依存して、用量を1日あたり1g以上にすることが必要になる可能性もある。
製薬上許容される塩としては、有機であっても無機であってもよい塩基または酸との塩が挙げられる。無機塩基の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩が挙げられる。有機塩基としては、ピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、およびエタノールアミンが挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、およびリン酸が挙げられる。有機酸としては、塩基性であっても酸性であってもよいアミノ酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、およびシュウ酸が挙げられる。
医薬組成物の精密な形態およびその投与量はまた、体重を含めて、治療される被験者、投与経路、および疾患病態に依存しうる。これらは、当業者により慣例に従って決定されよう。
次に、単なる例にすぎないが、添付の図面を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
発明の詳細な説明
1. 野生型トランスサイレチン
1.1 精製。天然四量体トランスサイレチンを、先に記載されたように分画ヒト血漿から精製するか(Malpeli, 1996)、市販品として入手するか(Scipac Ltd, Sittingbourne, Kent, UK)、またはサブユニット交換研究のために同位体標識を行って組換え技術により産生した。
1.2 質量分析。正イオンまたは負イオンのいずれかのエレクトロスプレーモードでQuattro II三連四重極質量分析計を用いて質量分析を行った。正イオンまたは負イオンの質量分析に対してそれぞれアセトニトリル:水:ギ酸(1:1:0.01 v/v/v)またはアセトニトリル:水(1:1 v/v)にサンプルを10〜100 pmol/μlで溶解させた。ネブライジングガスとしてN2を用いてサンプルを10〜20μl/minでイオン源内に導入した。Masslynx 4.0を用いてスペクトルを再構築した。単離されたトランスサイレチンの正イオンエレクトロスプレー質量分析(ESMS)から、MAv 13715.2±0.2(10C→10G)、13732.3±1.0(10C→10dHA)、13777.0±2.1(13M→13M-O)、13791.9±2.8(10C-S.SH)、13841.3±0.2(10C-S.SO3H)、13880.2±0.7(10C-S.Cys)を有するいくつかの主成分の存在が示された。副成分には、「天然」トランスサイレチン(13760.5)、10C-S.Cys.Gly(13939.7)、および10C-S.GSH(14066.3)が含まれていた。これらの結果は、報告値と一致する。
1.3 ゲル濾過。PBSまたは150mM重炭酸アンモニウム(pH7.6)のいずれかを用いて、AKTA Explorer systemで操作されるSuperdex 200(30×1.0cm)カラムから、UV吸収ピーク(A280/A330 約30〜50:1)としてVe 14.4mlで天然トランスサイレチンを溶出させた(図1)。12.5mlで溶出する少量(<5%)のより高分子量の成分が常に観測された。
1.4 放射性ヨウ素化。血清から精製単離された天然野生型トランスサイレチンを125Iで酸化的ヨウ素化した(Reay, 1982)。比活性は、0.44 MBq/pmolであった。
1.5 脱塩および緩衝液交換。製造業者の説明書に従ってBiospin P6(BioRad)カラムを使用した。緩衝液交換のために、適切な緩衝液を用いて遠心分離によりカラムを4回洗浄した。
2. 薬剤およびリガンドの合成
2.1 溶媒および試薬
トリフェニルメタンの存在下で水素化アルミニウムリチウムおよび水素化カルシウムから乾燥窒素雰囲気下でTHFを蒸留した。水素化カルシウムからDCMを蒸留した。水素化カルシウムからトリエチルアミンを蒸留し、水酸化カリウム上で貯蔵した。水素ガス雰囲気下で行われる反応を膨張バルーンにより保持した。蒸留水(950mL)中にKH2PO4(85g)およびNaOH(14.5g)を溶解させることにより、pH7.0の緩衝液を調製した。事前の精製を行うことなく供給されたままの状態で、すべての他の試薬および溶媒を使用した。
2.2 クロマトグラフィー
Merck 60 F254シリカで被覆されたガラスプレート上で薄層クロマトグラフィー(TLC)を行い、UV光によりまたはモリブデン酸アンモニウムセリウムもしくは過マンガン酸カリウムで染色することにより可視化を達成した。Merck Kieselgel(230〜400メッシュ)を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィーを行った。
2.3 核磁気共鳴分光法
Bruker Avance 400(
1H:400 MHzおよび
13C:100 MHz)またはBruker Avance Cryo 500(
1H:500 MHzおよび
13C:125 MHz)を用いてNMRスペクトルを記録した。化学シフトをppm単位で引用し、残留非重水素化溶媒ピークを基準とし、次のように(解釈ではなく外観に基づいて)報告する。化学シフトδ/ppm(プロトン数、多重度、結合定数J/Hz、帰属)[br、広幅;s、一重線;d、二重線;t、三重線;q、四重線;qui、五重線;sept、七重線;m、多重線]
2.4 2,2'-(4,4'-(ウンデカン-1,11-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジ安息香酸(4ajm15)および2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジ安息香酸(mds84)の合成
2.4.1 反応スキーム
2.4.2 2-(ベンジルオキシ)-1,3-ジクロロ-5-ニトロベンゼン
アセトン(30mL)中の2,5-ジクロロ-3-ニトロフェノール(5g、24mmol)および炭酸カリウム(13.3g、96mmol)の攪拌溶液にベンジルブロミド(17.25mL、144mmol)を添加した。混合物を75℃に12時間加熱した後、室温に冷却して氷水(100mL)中に注いだ。混合物をクロロホルム(200mL)で抽出し、ブライン(100mL)で洗浄し、そして合わせた有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(9:1、ヘキサン/ジクロロメタン)により残渣を精製して、白色固体として2-(ベンジルオキシ)-1,3-ジクロロ-5-ニトロベンゼンを得た(収率99%)。
2.4.3 4-(ベンジルオキシ)-3,5-ジクロロアニリン
エタノール(80mL)中の2-(ベンジルオキシ)-1,3-ジクロロ-5-ニトロベンゼン(5.8g、19mmol)の攪拌溶液に塩化スズ(II)(22g、98mmol)を添加し、得られたサスペンジョンを70℃に加熱した。1時間後、混合物を室温に冷却し、エチルアセテート(200mL)で希釈した。混合物をブライン(100mL)中に注ぎ、得られたエマルジョンをナトリウムカリウムタルトレート溶液(200mL)と共に撹拌した。混合物をエチルアセテートで抽出し、合わせた有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、そして減圧下で濃縮して4-(ベンジルオキシ)-3,5-ジクロロアニリンを得た。これを精製することなく次の工程で直接使用した。
2.4.4 メチル2-(4-(ベンジルオキシ)-3,5-ジクロロフェニルアミノ)ベンゾエート
トルエン中の4-(ベンジルオキシ)-3,5-ジクロロアニリン(5.27g[前の工程からの粗製物]、19mmol)の攪拌溶液に炭酸セシウム(5.98g、19mmol)を添加した。rac-BINAP(0.6g, 7.5mol%)およびメチル2-ブロモベンゾエート(1.84ml、13mmol)を添加した。酢酸パラジウム(II)(0.147g、5mol%)を添加し、混合物を100℃に加熱した。12時間後、混合物を室温に冷却し、エチルアセテート(100mL)で希釈し、pH7緩衝溶液(50mL)で洗浄し、そしてエチルアセテート(100mL)で抽出した。合わせた有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、そして減圧下で濃縮して残渣を取得し、これをカラムクロマトグラフィー(3:1、石油エーテル/ジクロロメタン)により精製して、白色固体としてメチル2-(4-(ベンジルオキシ)-3,5-ジクロロフェニルアミノ)ベンゾエートを得た(収率94%)。
2.4.5 メチル2-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニルアミノ)ベンゾエート
THF(15mL)中のメチル2-(4-(ベンジルオキシ)-3,5-ジクロロフェニルアミノ)ベンゾエート(0.520g、1.3mmol)の脱酸素攪拌溶液にパラジウム担持カーボン(10質量%の10wt% Pd、50mg)を注意深く添加した。混合物を減圧排気および水素ガスパージのサイクルに3回付した後、水素ガス雰囲気下で撹拌した。3時間後、反応系を窒素でパージし、CeliteTMに通して濾過し(溶出液:THF)、そして減圧下で濃縮して白色固体としてメチル2-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニルアミノ)ベンゾエートを取得し、これをさらなる精製を行うことなく使用した。
2.4.6 ジメチル2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジベンゾエート
アセトン(3mL)中のメチル2-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニルアミノ)ベンゾエート(0.426g、1.4mmol)および炭酸カリウム(1.4g、10.1mmol)の攪拌溶液にジブロモヘプタン(0.088mL、0.54mmol)を添加し、混合物を60℃に加熱した。12時間後、混合物を冷却し、ジクロロメタン(50mL)で希釈し、そしてpH7緩衝溶液(50mL)で洗浄した。合わせた有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、そして減圧下で濃縮して残渣を取得し、これをカラムクロマトグラフィー(1:1、石油エーテル/ジクロロメタン)により精製して、白色固体としてジメチル2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジベンゾエートを得た(277mg、収率72%)。
2.4.7 ジメチル2,2'-(4,4'-(ウンデカン-1,11-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジベンゾエート
アセトン(3mL)中のメチル2-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニルアミノ)ベンゾエート(440mg、1.41mmol)、炭酸カリウム(0.390g、2.82mmol)、およびテトラ-n-ブチルアンモニウムヨージド(5mg)の攪拌溶液にジブロモウンデカン(0.133mL、0.56mmol)を添加し、混合物を60℃に加熱した。12時間後、混合物を冷却し、ジクロロメタン(50mL)で希釈し、そしてpH7緩衝溶液(50mL)で洗浄した。合わせた有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、そして減圧下で濃縮して残渣を取得し、これをカラムクロマトグラフィー(1:1、石油エーテル/ジクロロメタン)により精製して、白色固体としてジメチル2,2'-(4,4'-(ウンデカン-1,11-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジベンゾエートを得た(408mg、収率94%)。
2.4.8 2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジ安息香酸(mds84)
THF中のジメチル2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジベンゾエート(50mg)の攪拌溶液にメタノール(1mL)および水(1mL)を添加した。水酸化リチウム(25mg)を添加して混合物を室温で14時間撹拌した後、約2mLまで濃縮した。3M水性HClの添加により溶液をpH2に調節し、クロロホルム(50mL)で抽出した。有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、そして減圧下で濃縮して、アモルファス固体としてとして2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジ安息香酸を得た(48mg、定量的収率)。
δH(400MHz, (CD3)2CO):8.03 (2H, dd, J 8.0, 1.3, H-3), 7.43-7.47 (2H, m, H-5), 7.28-7.34 (6H, m, H-10, H-4), 6.84-6.88 (2H, m, H-6), 4.04 (4H, at, J 6.4, H-14), 1.85-1.89 (4H, m, H-15), 1.58-1.65 (4H, m, H-16), 1.28-1.31(2H, m, H-17)。
2.4.9 2,2'-(4,4'-(ウンデカン-1,11-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジ安息香酸(4ajm15)
THF中のジメチル2,2'-(4,4'-(ウンデカン-1,11-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジベンゾエート(400mg、0.51mmol)の攪拌溶液にメタノール(1mL)および水(1mL)を添加した。水酸化リチウム(100mg)を添加して混合物を室温で14時間撹拌した後、約2mLまで濃縮した。3M水性HClの添加により溶液をpH2に調節し、クロロホルム(100mL)で抽出した。有機層を脱水し(MgSO4)、濾過し、そして減圧下で濃縮して、アモルファス固体としてとして2,2'-(4,4'-(ヘプタン-1,7-ジイルビス(オキシ))ビス(3,5-ジクロロ-4,1-フェニレン))ビス(アザンジイル)ジ安息香酸を得た(372mg、収率96%)。
δH(500 MHz, CDCl3):7.92 (2H, dd, J 8, 1.6, H-3), 7.27-7.31 (2H, m, H-5), 7.25 (4H, s, H-10), 7.11-7.13 (2H, m, H-6), 6.70-6.74 (2H, m, H-4), 3.91 (4H, a-t, J 6.6, H-14), 1.73-1.79 (4H, m, H-15), 1.42-1.45 (4H, m, H-16), 1.25-1.30 (10H, m, H-17, H-18, H-19)。
2-(3,5-ジクロロフェニル)ベンゾ[d]オキサゾール-6-カルボン酸(FoldRx Pharmaceuticals, Inc., 300 Technology Square, Cambridge MA 02139, USA、化合物Fx-1006A、CA: 594839-88-0)の合成については、国際公開第2004/056315号パンフレット、Razavi et al 2003、Razavi et al 2005に記載されている。
3. トランスサイレチンへのリガンド結合。
3.1. トランスサイレチンと4ajm15およびmds84との複合体のゲル濾過。
3.1.1. トランスサイレチンへの4ajm15およびmds84の結合。DMSO中の4ajm15の濃厚(5.3mM)溶液1μl(5.3nmol)を100μl PBS中の3.8nmolのトランスサイレチンに添加し(1.4倍モル過剰のリガンド)、室温で30分間インキュベートした。Superdex 200を用いてサンプルをクロマトグラフィー分離した。その際、トランスサイレチン-4ajm15複合体は、結合に合致する低減されたA280/A330比(約5:1)を有して14.4 mlで溶出した。揮発性重炭酸アンモニウム緩衝液中でクロマトグラフィーを行った時も、トランスサイレチンおよび4ajm15で類似の結果が得られた。また、最初に、mds84(2nmol)を乾燥させてチューブに導入し、次に、5μlのDMSO中に再懸濁させ、その後、タンパク質溶液を添加した時も、類似の結果が得られた。さらなる実験では、2ナノモルの天然野生型トランスサイレチン(Scipac)を、1μlのDMSO(対照)と共にまたはDMSO中のmds84もしくは4ajm15の4mM溶液1μlと共に、55μlのPBS中で1時間インキュベートした。Superdex 200カラム(30×1cm)を用いてPBS中0.5ml/minでサンプルをクロマトグラフィー分離し、0.5mlの画分を捕集した(図1)。mds84または4ajm15のいずれのトランスサイレチン複合体も、単独のトランスサイレチンに類似したA280プロファイルを示したが、14.4mlで溶出する主成分は、330nmの吸光度の増大を呈したことから(A280/A330比、約4.6)、結合リガンドの存在が実証された。各場合において主成分の全UVスペクトルを測定したところ、約1:0.9のトランスサイレチン:リガンド比に合致した。トランスサイレチンとこれらのリガンドとのモル対モル相互作用が示唆されることに加えて、重要なこととして、ゲル濾過時に100体積の溶媒交換を行った後、トランスサイレチン-リガンド複合体は安定であり、複合体からのリガンドの解離は無視しうることも結果からわかる。
3.2. 蛍光クエンチング。
3.2.1. トランスサイレチンによる4ajm15およびmds84の結合。Perkin Elmer LS55蛍光光度計および標準的な光路長1cmの石英セルを用いて20℃で280nm励起による発光範囲300〜500nmの内因性蛍光をモニターすることにより、リガンド4ajm15またはmds84とトランスサイレチンとの相互作用を調べた。0〜2μMの範囲内で各リガンドの濃度を増大させながらpH7.4のPBS中の1μMのトランスサイレチンを滴定することにより、トリプトファンのクエンチングを達成した(図2A)。チロキシン(T4)で滴定した後、トランスサイレチンは、依然として60%の内因性蛍光を呈するが、これは、新規なリガンドのいずれでも40%に低減される(図2C)。同時に、発光範囲400〜600nmおよび4ajm15励起に特有の波長の340nm励起で、タンパク質への結合による4ajm15蛍光の変化をモニターした。これらの条件では、スペクトルを集積すると483nmに等吸収点を生じることが注目される(図2B)。mds84を用いることにより同一の結果を得た(図示せず)。トランスサイレチンの存在下および不在下での4ajm15の滴定の結果は、両方の結合部位がパリンドロームリガンドにより同時に占有されるという結合のモデルを裏付けている。
図2Aは、280nmで励起した後のトランスサイレチンおよび4ajm15の内因性蛍光を示している。図2Bは、340nmで励起した後のトランスサイレチンおよび4ajm15の発光スペクトルを示している。いずれの場合も、漸増濃度のリガンド(0〜2μM)を1μMのタンパク質に添加した。図2B中の矢印は、タンパク質リガンド複合体の形成により生じる483nmの等吸収点を表す。図2Cは、蛍光クエンチング%対リガンド濃度としてプロットされた漸増濃度の4ajm15およびT4でのトランスサイレチンの滴定曲線を示している。クエンチングパーセントは、ΔF/F0を表す。ただし、F0は、リガンド添加前の蛍光強度であり、かつΔFは、所与のリガンド濃度での蛍光の減少である。
3.2.2 トランスサイレチンによる4ajm15結合の速度論的挙動のストップトフロー分析。1.5mmのセル光路長を用いた蛍光検出システム(Claix, France)に結合されたBio-Logic SFM-300ストップトフロー装置を用いて、4ajm15へのトランスサイレチン結合の速度論的挙動を評価した。励起波長は280nmであった。また、カットオフフィルターを用いて320nm超の波長で発光を測定した。10μM 4ajm15の存在下、2μMの最終タンパク質濃度を用いて、5% DMSOを含有するPBS pH7.4中、20℃で、実験を行った。速度論的トレースは、2.17s(±0.02s)の時定数を有する単一指数関数に良好にあてはまる。したがって、トランスサイレチンは、生理的pHで非常に迅速に4ajm15に結合し、わずか約11秒後にクエンチング反応のプラトーに達する。
3.2.3. 単離されたトランスサイレチンからのおよび全血清中でのT4の排除。
3.2.3.1 純粋トランスサイレチンに関する定量的研究。先に記載の手順(Almeida et al., 1997; Saraiva et at, 1988)により、トランスサイレチンによる結合に関する4ajm15またはmds84とT4との競合を定量的にアッセイした。それらの効力についてFx-1006Aとの比較も行った。簡潔に述べると、0.1M Tris、0.1M NaCl、および0.001M EDTAよりなる緩衝液pH8.0中の125nMトランスサイレチンの溶液を痕跡量の
125I-T4+漸増濃度の阻害剤(0〜10μM)と共に4℃で一晩インキュベートした。Bio-Gel P6-DG(Bio-Rad)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより、トランスサイレチンによって結合された
125I-T4を未結合T4から分離した。結合パーセントを阻害剤濃度の対数に対してプロットし、IC
50(トランスサイレチンによるT4の結合を50%低減するリガンドの濃度)を決定した(表1)。
3.2.3.2. 血清中での定量的研究。さまざまなモル濃度の4ajm15またはmds84の存在下で125I-T4と共に血清をインキュベートし、続いて、抗トランスサイレチン抗体を用いて得られた免疫沈降物中の放射能を測定することにより、野生型トランスサイレチンに関してホモ接合である者および種々のアミロイド原性トランスサイレチン遺伝子突然変異に関してヘテロ接合である被験者に由来する全血清中でのトランスサイレチンからのT4の排除を調べた。簡潔に述べると、1μlの125I-T4(比放射能1250μCi/μg、濃度320μCi/ml、Perkin Elmer)、1μlのさまざまなモル濃度の4ajm15またはmds84、および33μlの0.1M Tris、0.1M NaCl、0.001M EDTA、pH8.0と共に、5μlの血清を4℃で一晩インキュベートした。40μlのインキュベーション混合物で充填されたBio-Gel P6-DG(Bio-Rad, Hercules, CA, U.S.A.)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより、トランスサイレチンに結合された125I-T4を未結合T4から分離した。結合されたT4を有する溶出されたタンパク質を、10μlのポリクローナル抗トランスサイレチン抗体(DAKO)および3%w/v PEG6000と共に、4℃で12時間インキュベートした。免疫沈降物を遠心分離により回収し、0.1M Tris、0.1M NaCl、pH8.0で2回洗浄し、そして計数した。上清中でのトランスサイレチンの特異的エレクトロイムノアッセイにより完全免疫沈降を確認し、SDS 15%ホモジニアスPAGE(GE Healthcare)によりペレットを分析した(図3A)。4ajm15に対して決定されたIC50値(平均、SD μM)は、野生型トランスサイレチン、27.0、4.9;トランスサイレチンIle122、29.43、4.8;トランスサイレチンAla60、26.5、7.2;トランスサイレチンTyr77、26.2、3.1;トランスサイレチンMet30、61.6、1.6であった(図3B)。mds84では、血清中での野生型トランスサイレチンに対するIC50は、11.88、1.37であった。野生型トランスサイレチンの場合、血清中でのFx-1006Aの平均IC50は、15.0μMであった。
図3Aは、125I-T4および4ajm15と共に血清をインキュベートした後のトランスサイレチン免疫沈降物のSDS-ホモジニアス15% PAGE分析の結果を示している(レーン1、単離されたトランスサイレチン単独;レーン2〜13、漸増濃度の4ajm15での免疫沈降物:それぞれ、0、0.069、0.129、0.259、0.5、1.03、2.07、4.15、8.3、16.6、33.2、および332μM)。これらのサンプルの対応する上清を天然アガロースゲル電気泳動により分離し、オートラジオグラフィーによる検出のためにニトロセルロース膜に移した。レーン1は、125I-T4と共にプレインキュベートされた対照の天然トランスサイレチンを示し、レーン2〜13は、結合された125I-T4を有するチロキシン結合グロブリン(TBG)に対応するバンドのみを示している。図3Bは、野生型トランスサイレチンを有する者および種々のアミロイド原性変異体のヘテロ接合体保有者に由来する全血清中での4ajm15によるトランスサイレチンからのT4の排除を示している。
3.2.3.3. トランスサイレチンリガンドの存在下でのT4結合タンパク質からのT4排除。125I-T4および漸増濃度のリガンドの存在下でのアガロースゲル電気泳動(Jeppson et al, 1979)により、全血清中のT4結合タンパク質上のトランスサイレチンリガンドの分布を評価した。電気泳動の後、タンパク質を毛管拡散によりニトロセルロース膜に移送し、蛍燐光体イメージング(Typhoon 8600; Molecular Diagnostics, Amersham Biosciences)に付した。2種の公知のT4結合タンパク質すなわちトランスサイレチンおよびチロキシン結合グロブリン(TBG)は、明瞭に可視化されたが、アルブミン結合は、それらの間に放射性スミアのように現れている。オートラジオグラフィー画像の濃度測定分析から、漸増濃度の4ajm15は、トランスサイレチンへの結合を阻害することとは対照的にTBGによるT4のTBG結合に影響を及ぼさないことが明瞭に示された。
3.3 さらなるin vitro結合性研究
3.3.1 野生型トランスサイレチン。これらの実験で使用された精製野生型トランスサイレチン(液体および凍結乾燥物)は、プールされた正常ヒト血漿から単離されたものであり、Scipac(Sittingboume, Kent, UK)から入手したものであった。320nmで光散乱の補正を行った後、吸収係数E1% 1cm=14.0を用いて280nmでの吸光度によりタンパク質濃度を決定した。還元変性条件下、ブリリアントブルーR350で染色されたSDSホモジニアス15% PAGE(Amersham Biosciences, UK)で、トランスサイレチン調製物は、単一の約15kDaの主バンド(単量体)として泳動したが、二量体およびSDS耐性四量体に対応する約36kDaおよび約55kDaの副バンドが高過負荷ゲルで観察された。ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析により、変性条件下で正常トランスサイレチン単量体およびシステイニル化トランスサイレチン単量体(Terazaki et al, 1998)の存在を確認し、温和な脱溶媒和条件下で溶媒結合トランスサイレチン四量体(Nettleton et al, 1998)の存在を確認した。
3.3.2 4ajm15によるトランスサイレチン凝集の阻害: パイロット実験では、トランスサイレチン凝集体は、37℃で酸性pHで3日間インキュベートした後、野生型トランスサイレチン(3.6μM)から生成された(Colon and Kelly, 1992)。次に、トランスサイレチン凝集体形成の阻害剤としての4ajm15の有効性を他のトランスサイレチンリガンド化合物と比較した。簡潔に述べると、0.1% NaN3(PBS-az)を有するPBS緩衝液pH7.4(Sigma-Aldrich, Poole, UK)中のトランスサイレチンのアリコート(495μl、7.2μM四量体)を、DMSO中の4ajm15もしくは対照化合物(ジクロフェナク、ジフルニサル、フルフェナム酸、およびL-チロキシン[T4])のアリコート(5μl、0.72mM)(すべてSigma-Aldrich)または単独のDMSOと共に、三重反復方式でプレインキュベートした。37℃で30分後、pHをpH4.4に調節し(0.2M酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0を用いた)、約1ml混合物を撹拌せずに37℃で3日間インキュベートした。次に、機器のブランキング(PBS-酢酸-DMSO)を行った後、280、320、400、および600nmにおいてUV-Vis走査型分光光度計(DU650; Beckman-Coulter UK Ltd, High Wycombe, Bucks)により21℃で各サンプルの吸光度を測定し、阻害剤を用いずにトランスサイレチンで得られたA400nm値に対して規格化して結果を濁度パーセント(図4)および濁度の阻害パーセント(表2)として表した(White and Kelly, 2001)。
トランスサイレチンに対してもアッセイで用いた濃度で個別に試験された阻害剤のいずれに対しても帰属しうる400nmの顕著な吸光度は存在しなかった。4ajm15の存在下で、トランスサイレチン凝集体形成は、劇的に低減された。これは、おそらく、四量体の安定化および単量体へのその解離の防止によるものと思われる。対照阻害剤(NSAID、T4)では、このタイプの実験で他者により報告されたものと一致する結果が得られた(Miroy et al, 1996; Miller et al, 2004)。
同一の方法により、3.6μMのタンパク質および1当量(3.6μM)もしくは3当量(10.8μM)の各リガンドを用いて、野生型トランスサイレチンおよび最も凝集性の強いトランスサイレチン変異体L55Pの両方の凝集の阻害剤としてmds84および4ajm15の活性を三重反復方式で評価した。野生型トランスサイレチンをpH4.4で試験し、L55PをpH5.0で試験した。また、阻害活性を化合物Fx-1006AおよびT4とも比較した。平均値および標準偏差を表2および図4に示す。そこには、1:1のモル比での結果がクロスハッチングで示され、3:1のモル比での結果が白抜きのバーで示されている。
野生型トランスサイレチン凝集は、1当量のmds84(3.6μM)の添加によりほとんど完全に阻害されるが、T4およびFx-1006は、3当量(10.8μM)を添加した場合にのみ、同一レベルの阻害を示す。T4の阻害効果は、3倍モル過剰で最大であり、この時、T4は、トランスサイレチン四量体の両方のリガンド結合ポケット内に結合されることが既に報告されている(Miroy et al, 1996)。
pH5.0でのL55P変異体トランスサイレチンの凝集は、mds84により同様に阻害された。mds84はまた、モル等量および3倍モル過剰の両方でT4またはFx-1006Aよりも強力であった。野生型TTRおよびL55Pを用いた試験では、4ajm15は、mds84の場合と同一の結果を生じた(図示せず)。
3.3.3 トランスサイレチン-mds84リガンド結合の等温滴定熱量測定(ITC): トランスサイレチン-mds84リガンド結合の熱力学パラメーターを等温滴定熱量測定(VP-ITC, MicroCal LLC, Milton Keynes, UK)により直接測定した。0.348mMで1μlのmds84の初期注入を0.029mM四量体の最終濃度のトランスサイレチン中に行い、続いて、240秒の間隔で35回の逐次的8μl注入を行った。希釈剤は、2%(v/v)DMSOを有するTris-NaCl pH8.0であった。サンプルセルを310rpmで撹拌し、セル内容物を37℃に保持した。体積変位の補正および注入リガンド対トランスサイレチン四量体のモル比に対するプロッティングを行った後、生のサーモグラム(図5、上側グラフ)を積分して結合等温線(図5、下側グラフ)を作成した。これは、ORIGIN v7.0(MicroCal LLC)の非線形最小二乗解析により、一群の同一部位のモデルに最もよくあてはめられた(χ2解析により決定された)。結果から、0.505μMの解離定数(Kd; Kaの逆数)、エンタルピー(ΔH)=-7.95kcal/mol、および化学量論比(n)=0.8(約1:1)を得た。4ajm15では、溶解性に限界があるので、この解析を行うことができなかった。
3.3.4 トランスサイレチン-4ajm15リガンド結合の示差走査熱量測定(DSC): 4ajm15は、ITCによる分析を行うには溶解性が低すぎるので、その代わりに4ajm15(0.2mM)の存在下および不在下で予備的示差走査熱量測定(DSC)実験(VP-DSC MicroCal LLC;0.02mMトランスサイレチン四量体、温度範囲25〜100℃、走査速度1.5℃/min、セル圧力約28 psi)を行った。希釈剤は、2% DMSOを有するPBS pH7.4であった。単独のトランスサイレチンの熱変性転移の中点(Tm)は、99.5℃に存在したが、4ajm15の存在下で103.6℃に増加したことから、リガンドの結合およびその結果として起こるタンパク質の顕著な安定化が示された。さらなる研究では、野生型およびL55P変異体のトランスサイレチンのTmに及ぼすmds84およびFx-1006Aの影響をタンパク質に対して5倍モル過剰のリガンドで比較した。mds84の存在下で、野生型トランスサイレチンのTmは、単独のトランスサイレチンの場合の101.3℃からリガンドを用いた場合の107.5℃に6.2℃増加した。Fx-10006Aでは、それよりも有意に小さい4.6℃のTmの増加を生じて100.3℃から104.9℃になった。L55P変異体トランスサイレチンは、野生型トランスサイレチンよりも低い温度で融解したが、mds84は、Tmを94.3℃から98.3℃に5.9℃上昇させた。これは、Fx-1006Aを用いた場合にそれよりも有意に小さい3.7℃の上昇を生じて94.6℃から98.3℃になることと対比される。これらの結果から、mds84は、野生型および変異体の両方のトランスサイレチンに対してFx-0006Aよりも強力な安定化剤であることが実証される。
4. 4ajm15による天然四量体トランスサイレチンの安定化
4.1. 分析用超遠心。An50Tiローターを備えたBeckman XL-I装置を用いて20℃で沈降速度および沈降平衡の分析用遠心実験を行った。この装置で、吸光度(280nmの波長で記録した)走査および干渉走査の両方を同時に記録した。リガンド(3.6μM)の存在下で停滞トランスサイレチン凝集阻害アッセイ(Petrassi et al., 2000)の条件下でタンパク質(3.6μM)を72時間インキュベートすることによりpH4.4で沈降分析を行った。また、10.8μMの凝集阻害濃度でDMSO中に溶解されたT4(Miroy et al., 1996)および単独のDMSOを同一条件でタンパク質と共にインキュベートし、対照として分析した。12mmの溶液柱高さを有する二セクターセル内で42,000rpmのローター速度で8時間かけて沈降速度データを取得した。ソフトウェアSEDFIT(Schuck, 2005)を用いて沈降係数の連続分布c(s)(Schuck, 2000)として吸光度値をモデル化した。5時間の間隔で測定された実験結果が完全に重なることにより示される平衡に達するまで、17,000rpmのローター速度で2mmの柱高さでAnTi 50ローター内で六セクターセルを用いて、沈降速度分析に使用したのと同一の条件でリガンドに結合されたトランスサイレチンの沈降平衡測定結果を取得した。曲線のあてはめで使用するためのバックグラウンドレベルを決定するために、実験終了時に42,000rpmで最終実験を行った。Origin Version 4.1(Microcal Inc.)への拡張機能として提供されたBeckmanソフトウェアを用いて、データ解析を行った。このために、アミノ酸配列から偏比容を0.7353ml/gとして計算した(Perkins, 1986)。プログラムSEDNTERP(Laue et al., 1992)を用いて、緩衝液の密度および粘度を計算した。沈降速度および沈降平衡の分析用超遠心実験を用いて、典型的には四量体を解離させて単量体ミスアセンブリーを可能にする条件下(37℃およびpH4.4で72時間)で、トランスサイレチン四次構造に及ぼす4ajm15の影響を評価した。こうした条件下では、4ajm15に結合したトランスサイレチンは、四量体の状態を保持し、トランスサイレチンがその天然リガンドに結合したもの(Miroy et al., 1996)に匹敵する3.7Sの沈降係数を有する単一種(図6)として沈降する。溶媒DMSOの存在下で行われた対照実験では、2つ以上の種が検出可能であった(図6の挿入図)。リガンドの存在下でのトランスサイレチンの沈降平衡分析は、4ajm15を有する四量体野生型トランスサイレチンの計算分子質量(55794Da)とよく一致する質量55,784±107.87Daの単一種と完全に合致した。
図6は、以上に記載の条件下での複合体トランスサイレチン-4ajm15の沈降速度c(s)分布を示しており、四量体の予想S値に対応する3.7Sに単一ピークを呈する。同一の実験条件下および4ajm15の不在下では、トランスサイレチンは、プロトマー(a)、四量体(b)、およびより高分子の種(c)で予想されるS値に対応するS値を有する複数種(挿入図)として沈降する。
4.2 サブユニット交換の質量分析。組換え野生型L55PおよびV30Mのトランスサイレチン変異体を先に記載されたように生合成により同位体[15N]および[15N、13C]で標識した(Keetch CA et al, 2005)。分析の直前に、Micro Biospinカラム(Bio-Rad, UK)を用いてタンパク質の緩衝液を20mM酢酸アンモニウム、pH7.0に交換した。DMSO中の2倍モル過剰の4ajm15または対照として単独の2.5% DMSOの存在下で、[15N]および[15N、13C]で標識されたタンパク質の等モル溶液(4.4μM)をインキュベートすることにより、トランスサイレチンのサブユニット組成を時間の関数としてモニターした。サブユニット交換は低温で促進されることが知られているので、室温でおよび4℃でも各実験を三重反復方式で行った。高質量動作用に改良されかつヨウ化セシウム(100mg/ml)を用いて外部校正されたQToF2装置(Waters/Micromass UK, Ltd.)によりナノフローESMSを行った(Sobott et al, (2002))。記載どおりに自社内で作製した金被覆ボロシリケートキャピラリーから各溶液1.5μlをエレクトロスプレーした(Nettleton EJ, et al, 1998)。トランスサイレチン四量体中の非共有結合性相互作用を保持するために、適用したMSパラメーターは、次のとおりであった。キャピラリー電圧1.6kV、サンプルコーン160V、エクストラクターコーン20V、イオントランスファーステージ圧力7.0×10-3mbar、四重極アナライザー圧力9.5×10-4mbar、およびToFアナライザー圧力1.7×10-6mbar。MassLynxソフトウェア(Waters/Micromass UK, Ltd.)でデータを処理した。そして最小限の平滑化を行ってかつバックグラウンド除去を行わずにデータを提供する。野生型トランスサイレチンのサブユニット交換では、図7に報告されるように、4ajm15リガンドは、天然条件下でかつ生物学的に適合するタイムスケールで行われるいかなるサブユニット交換をも回避することが示される(Scheider F et al, 2001)。変異体V30MおよびL55Pでは、まったく同一の効果が観測された(データは示されていない)。
図7は、DMSO(A)および2倍過剰のリガンド(B)の存在下で[15N]および[13C、15N]の野生型トランスサイレチン(4.4μM)で非解離性MS条件下で取得された質量スペクトルを示している。S、4×[15N]単量体の四量体、D、4×[13C、15N]単量体の四量体。室温および4℃で2日後に記録された対照サンプルの質量スペクトルは、顕著なサブユニット交換を示し、4ajm15の存在下では、7日後、交換はほぼ完全に不在である。トランスサイレチンへのリガンドの完全結合が確認される解離性MS条件下でも、リガンドを有する野生型トランスサイレチンの各スペクトルを取得した(図示せず)。
さらなる実験では、L55P変異体トランスサイレチンでのサブユニット交換の阻害に関してmds84およびFx-1006Aの能力を比較した。この最も不安定なトランスサイレチン変異体は、図8に示されるように、自発的なかなりのサブユニット交換を急速に引き起こす。図9〜11は、サブユニット交換の阻害に及ぼす漸減モル比のmds84の影響を示している。図12〜14は、同一の分析で漸減モル比のFx-1006Aの影響を示している。図15は、示されたモル比でそれぞれのリガンドの完全な取込みが行われて四量体トランスサイレチン分子との複合体を生じることを実証する。トランスサイレチン1モルあたり1モルのmds84が結合され、この結合がすべてのサブユニット交換を完全に阻害することは明らかである。より低いモル比のmds84では、いくらかの交換が起こるが、mds84に結合するトランスサイレチン分子は、依然として完全に安定化される。これとは対照的に、Fx-1006Aによる完全な安定化は、トランスサイレチン1モルあたり2モルのリガンドの結合を必要とし、より低いモル比では、安定化は、際立って有効であるわけではない。
4.3. 野生型トランスサイレチンおよびアミロイド原性変異体トランスサイレチンからの4ajm15の解離の質量分析。野生型トランスサイレチンおよびアミロイド原性変異体V30MおよびL55Pトランスサイレチンからのリガンドの段階的解離を誘発する漸増コーン電圧条件下でESMSスペクトルを取得した。コーン電圧が増加するにつれて、リガンドが解離し始めるので、アポ(単独タンパク質)トランスサイレチンおよびホロ(タンパク質+リガンド)トランスサイレチンに対応する四量体ピークのスプリットが明瞭になる。リガンド解離の開始および/またはアポトランスサイレチンピークの高さから、4ajm15に対する相対結合活性は、野生型トランスサイレチン<V30Mトランスサイレチン<L55Pトランスサイレチンであることが実証される。実際に、L55Pトランスサイレチンからの4ajm15の解離は、野生型よりも高い衝突エネルギーでのみ観測可能である(図8)。
図16は、2倍過剰の4ajm15で[15N]L55Pトランスサイレチンおよび[15N、13C]野生型トランスサイレチンの等モル溶液(4.4μM)で取得された質量スペクトルを示している。図16Aは、リガンド解離時のトランスサイレチン四量体スペクトルを示している。スペクトルβでは、野生型四量体からの4ajm15解離の開始が観測されるが(a)、L55Pトランスサイレチンからのリガンド解離は観測されない。野生型トランスサイレチンからの解離は、スペクトルγで衝突エネルギーの増加に伴って進行するが、L55Pトランスサイレチンからのリガンド解離が観測されるのは(a)、野生型の約50%がアポであるスペクトルδ以降である。図16Bは、スペクトルδの四量体部分の拡大図を示している(VA=アポL55P、VH=ホロL55P、WA=アポ野生型、WH=ホロ野生型)。
V30Mトランスサイレチンからのリガンド解離の開始は、同一のエネルギーレベルで生じるが、アポV30Mトランスサイレチンに対応するピーク高さは、野生型のものよりも低い(図17)。これらの2種は、非常によく似たアミノ酸配列を有するので(したがって、MSイオン化時に類似の荷電が行われる)、それらは、互いに内部標準として作用可能である。したがって、アポWTと比較してアポV30Mのピーク高さがより低いことは、アポV30Mの割合がアポWTよりも低いことの指標となる。漸増エネルギーレベルでは、アポV30Mは、アポWTと対比して常に少なく、WTからのリガンド解離が完了した時、ホロV30Mの一部は、依然として存在する。これらの結果から明確に示されるように、より安定性の低いアミロイド原性変異体トランスサイレチン四量体は、野生型よりも強く4ajm15に結合する。
図17は、2倍過剰のリガンドで[15N]V30Mトランスサイレチンおよび[15N、13C]野生型トランスサイレチンの等モル溶液(4.4μM)で取得された質量スペクトルを示している。Aでは、4ajm15解離の開始時(スペクトルβ)、アポV30Mトランスサイレチンに対応するピーク高さは、各電荷状態で野生型よりも低い(それぞれ、aおよびaと記されている)。高エネルギーレベル(γ)では、野生型からのリガンド解離は完了するが、ホロV30Mの一部は残存する(h)。Bでは、スペクトルβの四量体部分の拡大図は、アポV30Mのピーク高さが平均で約45%であり、一方、野生型が75%に近いことを示している。VA、アポ変異体(V30M)、VH、ホロ変異体(V30M)、WA、アポ野生型、WH、ホロ野生型。
5. X線結晶解析研究
トランスサイレチンの3D構造決定に関するBlakeおよび共同研究者(1978)の先駆的研究の後、現在、タンパク質データバンクは、多数の関連構造を含有する。こうした構造としては、実験室ベースのX線源およびシンクロトロン放射を用いて決定された、アミロイドーシス関連変異体タンパク質および一連のリガンド複合体の構造が挙げられる。Codyおよび共同研究者(Neumann et al 2005)は、トランスサイレチンに対する天然リガンドであるチロキシンおよび類似体が結合したいくつかの構造を決定し、リガンドを結晶対称軸上に配置した時の電子密度図の解釈およびこれらの複合体の精密化に関連する問題に注目した。データバンクに寄託されている他のタンパク質-リガンド複合体のいくつは、高分解能で測定されておらず、マップの解釈は、他の構造にあまりにも依存しすぎている。我々は、ときには以前の研究を再考して、トランスサイレチン-リガンド複合体の高分解能構造解析をいくつか行った。これらは、リガンド結合部位の性質および高結合親和性薬剤がいかにターゲッティングされうるかに関して文献で入手可能なものよりも優れた重要な知見を提供した。
5.1 3,5,3',5'-テトラヨード-L-チロニン(L-チロキシン、T4)
ハンギングドロップ法を用いて2週間にわたり室温で、L-チロキシン(T4)が結合したトランスサイレチンの結晶を成長させた。各液滴は、2μlの24mg/mlトランスサイレチンと、50%ジメチルスルホキシド(DMSO)中の1μlの30mM T4と、50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0、100mM NaCl、および25%ポリエチレングリコール550モノメチルエーテル(PEG 550 MME)で構成される3μlのウェル溶液と、を含有していた。European Synchrotron Radiation Source(ESRF)に於いてビームラインID14.2を用いて100Kでデータを収集し、Mosflm(Leslie, 1992)、CCP4スイート(CCP4, 1994)のプログラム、およびSHELX(Sheldrick and Schneider, 1997)を用いて処理した。構造決定の統計量を以下の表3に示す。
T4は、血液中に見られる甲状腺ホルモンの主要形態であるが、このうちのわずか10〜15%がトランスサイレチンにより担持されるにすぎない(Hamilton et al. 2001)。これまでに寄託されたT4および天然ヒトトランスサイレチンに対する最高分解能構造である構造1ETB(分解能1.7Å)を有する、種々の形態のトランスサイレチンに結合されたT4の構造が、国際タンパク質データバンク中に現在7つ存在するが(Hamilton et al, 1993)、より最近になって、単独の天然トランスサイレチンおよび薬剤複合体、たとえば、リバースモード結合を示すジブロモベンゾオキサゾール複合体について、高分解能構造が報告された(Johnson et al, 2008)。我々は、格子寸法(43Å×86Å×65Å、90°×90°×90°、P21212)を有するトランスサイレチン-T4複合体構造をかなり高い分解能1.2Åまで分解した。この構造により、各トランスサイレチンサブユニット上の3つのハロゲン結合ポケットの詳細な分析および定義が可能になり、高分解能データを用いることにより、T4分子が利用しうる多数のコンフォメーションのより精密な定義が可能になった。図18は、a)4つの単量体と2つのL-チロキシン分子の位置とを示すトランスサイレチン四量体、およびb)3対のハロゲン結合ポケット(内側、中央、および外側)の位置と結晶学的二回対称軸(破線)とを示すトランスサイレチン四量体を示している。
この空間群でのリガンド結合部位(これまでに解明されたトランスサイレチン構造の大多数に共通する)は、二回対称軸を横切って存在する。その結果、T4の2つの配向を密集状態内に構築することが可能である。いずれの配向でも、T4は、ヨウ素がタンパク質の中心方向を向く「フォワード」配向で結合され、いくつかの他のより低い分解能の構造(Muziol et al, 2001)に見られる曖昧性は解消される。さらに、マップが高品質であるため、トランスサイレチンの結合部位内でハロゲン原子対が利用しうる3つの識別可能な位置を正確に確定するが可能になり、新しいリガンドの開発および最適化できわめて重要な指針が提供される。これらの観測は、現在の既刊文献(Johnson et al, 2005)の範囲を超える。
5.2 4ajm15
ハンギングドロップ法を用いて2週間にわたり室温で、結合された4ajm15を有するトランスサイレチンの結晶を成長させた。各液滴は、1μlの10mg/mlトランスサイレチンと、60% DMSOを有する10mM酢酸ナトリウムpH6.0緩衝液中に約10mM 4ajm15を含有する1μlのスラリーと、70mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0、100mM NaCl、および25% PEG 550 MMEで構成される2μlのウェル溶液と、を含有していた。ESRFに於いてビームラインID14.2を用いて100Kでデータを収集し、Mosflm(Leslie, 1992)、CCP4スイート(CCP4, 1994)のプログラム、およびSHELX(Sheldrick and Schneider, 1997)を用いて処理した。構造決定の統計量を以下の表3に示す。
3位および5位に塩素置換基を有するビス-アリールアミン化合物を、各ヘッド基上の酸素および11炭素リンカーを介して架橋することにより、二価リガンド4ajm15を構築した。この化合物のヘッド基は、そのクロリド置換された環がタンパク質の外側方向を向いた状態で、トランスサイレチン四量体によって強固に結合されることが先に報告された(Oza et al, 2002)。この配向の選択は、外側ハロゲンがユニークな位置を占有し内側ハロゲンが2つの位置に分配されるT4の結合の観察から導かれたものであろう。トランスサイレチンを4ajm15化合物と共結晶化し、データを収集した。結晶は、トランスサイレチンとT4との複合体と同一の空間群であった。しかしながら、リガンドの電子密度は、不明瞭であることが判明した。トランスサイレチン-T4複合体構造に関する我々の研究に基づいて、我々は、4ajm15が4つの配向で結合されると判断することが可能であった。すなわち、2つは、以上の場合のように対称軸に基づくものであり、さらなる2つは、内側ハロゲンポケットと外側ハロゲンポケットとの間の化合物の往復に基づくものである。予想に反して、4ajm15は、トランスサイレチン四量体の中央を介して結合し、各ヘッド基は、先に文献に報告されたものと逆の配向で結合するものと思われた。図19は、内側ハロゲンポケットと外側ポケットとの間で摺動効果を呈する4ajm15の2つの配向を示している。塩素は、大きい球として示されている。各トランスサイレチン分子の2つのリガンド結合部位の間の距離はわずか9.5Åであり、かつリンカーの中央11炭素鎖は約11.5Åであるので、各4ajm15分子は、1つのヘッド基だけが内側ハロゲン結合ポケットを占有し、第2のものが外側ハロゲン結合ポケット内に押し込まれるように結合することができたのであろう。この観測に基づいて、かつ4ajm15が高親和性を有してトランスサイレチンに結合することを示唆する生物物理学的データと組み合わせて、我々は、同一のヘッド基を有するがわずか7個の炭素原子を含有する短くされた架橋剤を有するmds84で表される新しいリガンドをデザインした。
5.3 mds84
ハンギングドロップ法を用いて2週間にわたり室温で、mds84に結合されたトランスサイレチンの結晶を成長させた。各液滴は、60% DMSOを有する10mM酢酸ナトリウムpH6.0緩衝液中に約15mg/mlのトランスサイレチンおよび25mM mds84を含有する3μlのスラリーと、70mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5、100mM NaCl、および25% PEG 550 MMEで構成される3μlのウェル溶液と、で作製されたものであった。ESRFに於いてビームラインID14.1を用いて100Kでデータを収集し、Mosflm(Leslie, 1992)、CCP4スイート(CCP4, 1994)のプログラム、およびSHELX(Sheldrick and Schneider, 1997)を用いて処理した。構造決定の統計量を以下の表3に示す。
より短い7炭素で連結されたパリンドロームビス-アリール化合物mds84と複合体化されたトランスサイレチンの結晶に対してGrenobleのESRFに於いて1.4Åの分解能で収集されたデータにより、トランスサイレチン四量体の中央を介するその結合を確認した。より短いリンカー鎖長を用いることにより、各ヘッド基は、内側のより高親和性のハロゲン結合ポケットを占有することが可能であった。図20は、2個の対称性関連mds84分子を示す1.0×σの輪郭を有する2Fo-Fc密度を示している。内側ハリド結合ポケット内のクロリド置換された環および7炭素のリンカーで、良好な密度が観測された。生物物理学的測定から、この化合物は、トランスサイレチン四量体に強力に結合することが示される。
4ajm15およびmds84の塩素置換基は、トランスサイレチンプロトマー(参照プロトマー)の鎖GおよびHの方向に突出し、結合ポケットは、隣接するペプチド主鎖原子およびペプチド側鎖原子により規定される。最近接の接触は、鎖Hとの間で生じる。この鎖は、局所対称軸関連プロトマーの鎖H'と共に逆平行βシートを形成し、結晶の非対称ユニットを構成する。4Å未満のファンデルワールス相互作用は、主に、Ser117、Thr118、およびThr119の主鎖原子との間で生じる。塩素の閉込めは、一連のより遠位の原子により完成される。隣接する結晶対称性関連サブユニットの鎖GのLeu110の側鎖は、塩素置換された芳香環を挟むが、原子CβおよびCδ2''は、参照プロトマーの塩素原子から4.2Å以内に位置する。リンカー原子およびアントラニル酸環は、Leu17(鎖A)、Lys15(鎖A)、Val121(鎖H)、Ala108(鎖G)、およびそれらの結晶対称相手の側鎖により閉じ込められる。酸性基は、両方のLys15残基の末端側鎖アミノ基に接近する。トランスサイレチンと、結合されたmds84と、の複合体中の塩素ポケットを規定する隣接体は、図21に示される。