JP2010285323A - セラミックス、酸化物被膜及び摺動構造 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本セラミックスは、組成式[MαSi6−βAlβOδN8−β]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、0.6≦δ≦4、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表されるものであり、水等の酸化源を含有する炭化水素系燃料中における摩擦により、被摩擦面に、組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表される酸化物被膜を形成可能である。
【選択図】図2
Description
しかしながら、近年では、燃焼効率の向上及び低公害化の推進という観点から、ディーゼルエンジン等の内燃機関においては、燃料噴射圧力が増加する傾向にあり、摺動部における耐焼き付き性や耐摩耗性の改善が必要とされており、窒化物セラミックスよりも、耐摩耗特性(トライボロジー特性)に優れる部材が求められている。
一方、焼結助剤成分を含むセラミックス中のAlの含有量が、そのセラミックスからなるセラミックス部材の被摩擦面に形成される酸化物被膜にどのような効果を与えるかについては、全く検討されていない。更に、そのような被膜が、セラミックス部材及び軸受鋼等の相手材の摩耗特性にどのような効果を及ぼすかについても全く明らかにされていないのが現状である。
一方、炭化水素系燃料中において、Al含有量の多い特定組成のセラミックスからなるサイアロン系セラミックス部材と、軸受鋼等を加工してなる金属部材とを摺動させた場合に、炭化水素系燃料に含有される酸化源(水)により、良好な耐摩耗特性(トライボロジー特性)を示し、且つ密着性に優れる酸化物被膜が、セラミックス部材の被摩擦面に、その場形成されることを見いだした。更に、被摩擦面に形成される酸化物被膜の組成は、セラミックス部材の組成に由来しており、一定量以上のAlを含むサイアロン系セラミックスにおいて、前記酸化物被膜が形成されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
[1]酸化源を含有する炭化水素系燃料中における摩擦により、被摩擦面に、組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表される酸化物被膜を形成可能であることを特徴とするセラミックス。
[2]組成式[MαSi6−βAlβOδN8−β]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、0.6≦δ≦4、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表される前記[1]に記載のセラミックス。
[3]組成式[Si6−zAlzOzN8−z](0.6≦z≦3)で表されるβ−サイアロン粉末と、金属酸化物からなる焼結助剤と、を焼成することにより得られ、
前記β−サイアロン粉末及び前記焼結助剤の合計を100質量%とした場合に、該焼結助剤の配合量が0〜15質量%である前記[1]又は[2]に記載のセラミックス。
[4]組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表されることを特徴とする酸化物被膜。
[5]セラミックス部材と、摺動相手材とが、互いに摺動する摺動構造において、
前記セラミックス部材と前記摺動相手材の各々の摺動面の間に、酸化源を含有する炭化水素系燃料が介在しており、
且つ、前記セラミックス部材は、前記[1]乃至[3]のうちのいずれかに記載のセラミックスからなることを特徴とする摺動構造。
[6]前記摺動相手材が、鉄又は鉄基合金からなる金属部材である前記[5]に記載の摺動構造。
[7]前記炭化水素系燃料中における前記酸化源が水であり、
前記水の含有量が、該炭化水素系燃料を100質量%とした場合に、1.5×10−3〜3×10−1質量%である前記[5]又は[6]に記載の摺動構造。
本発明の酸化物被膜は、特定の組成式により表されるものであり、耐摩耗性に優れ且つ低相手攻撃性であるため、耐摩耗性等が要求される用途において好適に用いることができる。
本発明の摺動構造によれば、セラミックス部材と摺動相手材とが各々の摺動面の間に、酸化源を含有する炭化水素系燃料が介在した状態で互いに摺動して摩擦が生じた際、燃料中に含まれる微量な水等の酸化源による酸化によって、セラミックス部材の被摩擦面に特定組成の酸化物被膜がその場形成される。この酸化物被膜は、低摩耗性及び低相手攻撃性であり良好なトライボロジー特性を有しているとともに、密着性に優れるため、セラミックス部材及び摺動相手材のいずれの部材の摩耗量を十分に低減させることができる。そのため、従来使用されている窒化ケイ素焼結体等からなるセラミック部材を用いた場合よりも、耐摩耗性及び低相手攻撃性等のトライボロジー特性を向上させることができる。
また、前記酸化源が水であり、この水の含有量が、1.5×10−3〜3×10−1質量%である場合、セラミックス部材及び摺動相手材のそれぞれの摩耗をより十分に低減させることができる。
[1]セラミックス
本発明のセラミックスは、酸化源を含有する炭化水素系燃料中における摩擦により、被摩擦面に、組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表される酸化物被膜を形成可能であることを特徴とする。
前記組成式[MαSi6−βAlβOγ]で表される酸化物被膜における金属元素Mとしては、2〜4族の金属元素等が挙げられる。具体的には、例えば、Y、Mg、Ca、La、Yb、Lu、Zr、Hf等が挙げられる。
尚、金属元素Mは1種のみ含有されていてもよいし、2種以上含有されていてもよい。
前記βは、0.6≦β≦3の範囲を満たすものであり、0.8≦β≦2.8であることが好ましく、より好ましくは0.8≦β≦2.5である。βの値が、0.6≦β≦3を満たす場合、金属部材等の摺動相手材と摺動させた際に、十分な耐摩耗性を有し、且つ低相手攻撃性を示す被膜として働く。
前記γは、10.5≦γ≦12.2の範囲を満たすものであり、10.6≦γ≦12.1であることが好ましく、より好ましくは10.75≦γ≦12である。γの値が、10.5≦γ≦12.2を満たす場合、金属部材等の摺動相手材と摺動させた際に、十分な耐摩耗性を有し、且つ低相手攻撃性を示す被膜として働く。
本発明のセラミックスは、酸化源を含有する炭化水素系燃料中における摩擦により、前記酸化物被膜が被摩擦面に形成される限り特に限定されない。
ここで、「酸化源を含有する炭化水素系燃料中における摩擦」とは、後段の実施例の[2]摺動試験(1)における摺動条件(酸化源;水)を意味する。尚、炭化水素系燃料(ケロシン)中の水分濃度は35〜1000ppm(特に35ppm)とする。
この金属元素Mは1種のみ含有されていてもよいし、2種以上含有されていてもよい。
尚、金属元素Mは、通常、サイアロン系セラミックス製造時に用いられる金属酸化物からなる焼結助剤由来の成分である。
前記βは、0.6≦β≦3の範囲を満たすものであり、0.8≦β≦2.8であることが好ましく、より好ましくは0.8≦β≦2.5である。βの値が、0.6≦β≦3を満たす場合、金属部材等の摺動相手材と摺動させた際に、十分な耐摩耗性を有し、且つ低相手攻撃性を示す。
前記δは、0.6≦δ≦4の範囲を満たすものであり、0.8≦δ≦3.8であることが好ましく、より好ましくは0.8≦δ≦3.5である。δの値が、0.6≦δ≦4を満たす場合、金属部材等の摺動相手材と摺動させた際に、十分な耐摩耗性を有し、且つ低相手攻撃性を示す。
ここで「主成分」とは、サイアロン系セラミックスを100質量%とした場合に、β−サイアロンがマトリックスとして85質量%以上、特に90質量%以上含有されていることを意味する。
これらの焼結助剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
焼成温度は、例えば、1500〜1900℃であることが好ましく、より好ましくは1550〜1800℃である。この焼成温度が、1500〜1900℃である場合、金属部材等の摺動相手材と摺動させた際に、十分な耐摩耗性を有し、且つ低相手攻撃性の焼結体を得ることができる。
また、焼成時間は、例えば、0.5〜24時間であることが好ましく、より好ましくは1〜10時間である。この焼成温度が、0.5〜24時間である場合、金属部材等の摺動相手材と摺動させた際に、十分な耐摩耗性を有し、且つ低相手攻撃性の焼結体を得ることができる。
更に、焼成雰囲気は、例えば、不活性ガス雰囲気、還元雰囲気、真空中等とすることができる。
本発明の酸化物被膜は、組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表されることを特徴とする。
尚、前記組成式[MαSi6−βAlβOγ]については、前述の[1]セラミックスにおける(1−1)酸化物被膜の説明をそのまま適用することができる。
本発明の摺動構造は、セラミックス部材と、摺動相手材とが、互いに摺動する摺動構造であって、セラミックス部材と摺動相手材の各々の摺動面の間に、酸化源を含有する炭化水素系燃料が介在しており、且つ、セラミックス部材は、サイアロン系セラミックスからなることを特徴とする。
この摺動構造では、セラミックス部材と摺動相手材とが各々の摺動面の間に、酸化源を含有する炭化水素系燃料が介在した状態で互いに摺動して摩擦が生じるときに、燃料中に含まれる微量な水等(酸化源)による酸化によって、セラミックス部材の被摩擦面に特定組成の酸化物被膜(トライボフィルム)がその場形成される。被摩擦面に形成される酸化物被膜は、低摩耗性及び低相手攻撃性であり良好なトライボロジー特性を有しているとともに、密着性に優れるため、セラミックス部材及び摺動相手材のいずれの部材の摩耗量を十分に低減させることができる。そのため、従来使用されている窒化ケイ素焼結体からなるセラミック部材を用いた場合よりも、トライボロジー特性(耐摩耗性及び低相手攻撃性等)をより向上させることができる。
この摺動相手材は、前記セラミックス部材との摺動に耐えられる優れた耐摩耗性及び十分な強度等を有していることが好ましい。
金属からなる摺動相手材を構成する金属は特に限定されないが、例えば、鉄、鉄基合金、ニッケル基合金、コバルト基合金、アルミニウム基合金、マグネシウム基合金等が挙げられる。本発明においては、特に、この摺動相手材として、鉄又は鉄基合金からなる金属部材を用いるものとすることができる。
前記鉄基合金としては、鉄に少量のニッケル、クロム等が配合されたステンレス鋼、鉄に少量の炭素、ケイ素等が配合された炭素鋼、鉄に少量の炭素、ケイ素、クロム等が配合された軸受鋼等が挙げられる。本発明の摺動構造では、摺動相手材が過酷な摺動に曝される軸受鋼等を加工してなる金属部材である場合でも、優れた耐摩耗性が発現され、セラミックス部材及び摺動相手材のいずれの部材の摩耗量も低減させることができる。
これらのセラミックスのなかでも、優れた耐摩耗性及び十分な強度等を有する、窒化ケイ素、サイアロン、炭化ケイ素等であることが好ましく、窒化ケイ素及びサイアロンのうちの少なくとも一方を主成分とすることがより好ましい。更に、これらの特定のセラミックスが用いられる場合、焼結助剤を除くセラミックスの全量が窒化ケイ素及び/又はサイアロンであってもよく、他のセラミックスが含有されていてもよい。尚、ここで「主成分」とは、窒化ケイ素及び/又はサイアロンと、他のセラミックスとの合計を100質量%とした場合に、窒化ケイ素及び/又はサイアロンが90質量%以上、特に95質量%以上含有されていることを意味する。
この炭化水素系燃料としては、具体的には、例えば、ガソリン、軽油(ケロシン)、灯油等の、自動車のエンジン、ジェットエンジン、温風ヒータ等の家庭用品等に用いられる燃料が挙げられる。これらの燃料は、いずれもパラフィン系炭化水素を主成分(炭化水素系燃料を100質量%とした場合に、パラフィン系炭化水素を50質量%以上、特に80質量%以上含有する。)とする燃料である。本発明の摺動構造では、特に、前記パラフィン系炭化水素を主成分として含有する燃料を介在させることによって、耐摩耗性をより向上させることができる。
前記炭化水素系燃料に含有される水の含有量は、1.5×10−3〜3×10−1質量%であることが好ましく、より好ましくは2×10−3〜2×10−1質量%、更に好ましくは2×10−3〜1.2×10−1質量%である。この炭化水素系燃料の水分含有量が1.5×10−3〜3×10−1質量%である場合、前記酸化物被膜が、セラミックス部材の被摩擦面に確実に形成されるため、セラミックス部材及び摺動相手材ともに十分な耐摩耗性を有する摺動構造とすることができる。
(1−1)サイアロン系セラミックスの製造
<実施例1>
β−サイアロン粉末(イスマンJ社製、商品名「S1−NF」)90質量%と、焼結助剤としてY2O3粉末(第一希元素社製、商品名「NR」)5質量%、及びMgO粉末(関東科学社製、純度99.99%)5質量%と、エタノールに分散させ、その後、ボールミルにより湿式混合した。次いで、エタノールを減圧乾燥により除去し、その後、整粒して混合粉末を得た。次いで、この混合粉末を使用し、温度1600℃、圧力40MPaで、窒素雰囲気下、1時間保持し、ホットプレス焼成してサイアロン系セラミックスを得た。
そして、得られたサイアロン系セラミックスについて、脱水重量ICP発光分光併用法、加圧酸分解−ICP発光分光法、不活性ガス溶融−熱伝導度法、不活性ガス溶融−赤外線吸収法を用いて元素分析を行った結果、Y0.14Mg0.39Si5Al1O1.6N7で表されるサイアロン系セラミックスであることが確認できた。この測定結果における各元素の含有割合(atom%)、及び、[β/(α+6)]の値を表1に示す。
また、得られたサイアロン系セラミックスについて、JIS R 1634−1998により、かさ密度(g/cm3)を測定した。更に、JIS R 1607−1990により、ビッカース硬さを測定した。これらの結果を表2に示す。
<比較例1>
Si3N4粉末(宇部興産社製、商品名「E10」)88質量%と、焼結助剤として前記Y2O3粉末5質量%、前記MgO粉末5質量%、及びAl2O3粉末(住友化学社製、商品名「AKP−50」)2質量%と、エタノールに分散させ、その後、ボールミルにより湿式混合した。次いで、エタノールを減圧乾燥により除去し、その後、整粒して混合粉末を得た。次いで、この混合粉末を使用し、温度1600℃、圧力40MPaで、窒素雰囲気下、1時間保持し、ホットプレス焼成して窒化ケイ素セラミックスを得た。
そして、得られた窒化ケイ素セラミックスについて、実施例1と同様にして元素分析を行った。この測定結果における各元素の含有割合(atom%)を表1に併記する。
また、得られた窒化ケイ素セラミックスについて、実施例1と同様にして、かさ密度、及びビッカース硬さを測定した。これらの結果を表2に併記する。
セラミックス部材として、実施例1及び比較例1の各セラミックス材料を用いて成形したプレート試験片を使用し、摺動相手材として、軸受鋼(SUJ2)を用いて成形したディスク試験片を使用し、この複合部材と摺動相手材との間に、水(酸化源)の含有量の異なる炭化水素系燃料を介在させて摺動させ、水の含有量が耐摩耗性に及ぼす影響を評価した。
実施例1のサイアロン系セラミックス及び比較例1の窒化ケイ素セラミックスを、切削加工により、縦10mm、横15mm、厚さ4mmのプレート状に加工することによって、プレート試験片を作製した。
プレート試験片複(セラミックス部材)と摺動させる相手材である金属部材として、軸受鋼(SUJ2)を、外径40mm、内径20mm、厚さ4mmのディスク状に研削加工し、外周面を摺動面とするディスク試験片を作製した。
市販の軽油等の炭化水素系燃料には様々な添加剤が含まれることから、その影響を排除し、燃料中に含まれる水分(酸化源)の影響を正確に評価するため、炭化水素系燃料としては、ケロシン(軽油主成分のモデル燃料)を用いた。
また、このケロシンは、水分濃度を5ppm(5×10−4質量%)、35ppm(3.5×10−3質量%)、100ppm(1×10−2質量%)、300ppm(3×10−2質量%)、1000ppm(1×10−1質量%)と変化させて、供試燃料とした。尚、購入したケロシンには最初から不純物として35ppm程度の水が含まれている。従って、水分濃度5ppmのケロシンについては、モレキュラーシーブ3Aを用いて、市販ケロシンから水分を除去することにより調整した。この5ppmという値はモレキュラーシーブ処理したケロシンの分析結果である。また、水分濃度100〜1000pmのケロシンについては、超純水(水道水をMILLIPORE社製Elix5にて一時処理した後、同社製Milli−Q Academicにより処理して調整)を所定量添加することにより調整した。
図1のような摺動試験装置(この図1における横方向への矢印は、荷重が加わり、押圧される方向を表す。)を使用し、水の含有量が調整されたケロシンが投入された密閉容器11内で、前記(2−1)で作製したプレート試験片2と、前記(2−2)で作製したディスク試験片3とがケロシンに浸漬された状態で、回転するディスク試験片3の外周面に各プレート試験片2の一方の平面(摺動面)を押し付け、ディスク試験片3を回転させることによって、摩擦摩耗特性を評価した。尚、ケロシンは、アルゴン曝気により溶存酸素を除去したうえで試験に供した。
セラミックス部材(プレート試験片)の比摩耗量(mm2/N)=摩耗体積(mm3)/[押付け荷重(N)×摺動距離(mm)](尚、摩耗体積は、プレート試験片の摺動面の摩耗痕形状より算出した数値であり、使用した試験片2個の測定値の平均である。)
金属部材(ディスク試験片)の比摩耗量(mm2/N)=[試験前重量(g)−試験後重量(g)]/[ディスク試験片の密度(g/cm3)×押付け荷重(N)×摺動距離(m)]
摩擦係数=回転軸のトルク値(Nm)/[押付荷重(N)×ディスク試験片の外径(mm)](尚、この摩擦係数は試験終了前5kmの摺動における平均値である。)
また、図3によれば、水分濃度5ppmにおいては、比較例1の焼結体からなるプレート試験片(Si3N4)を用いた場合の方が、実施例1の焼結体からなるプレート試験片(ym−SiAlON)を用いた場合よりも、ディスク比摩耗量が低かった。但し、それ以上の水分濃度においては、実施例1の焼結体からなるプレート試験片(ym−SiAlON)を用いた場合の方が、ディスク比摩耗量がより低かった。
尚、摩擦係数は、プレート試験片を構成するセラミックスの種類、及びケロシン中の水分濃度に依らず、ほぼ一定で推移していた。
前記[2]の摺動試験に用いた各プレート試験片(実施例1及び比較例1の各焼結体からなる試験片)の摩擦面について、XPSによる深さ分析を行い、摩擦面表面、及び深さ方向の構成元素、存在量、その化学結合状態を明らかにし、摩擦面の状態及びそこで生じている反応を推定した。
前処理として、前記摺動試験[2]後の各プレート試験片を脱水アセトン中で超音波洗浄し、各プレート試験片に付着していた試験液を除去した。
その後、洗浄した各サンプルについて、XPS(アルバック・ファイ社製)を用いて測定を行った。尚、この測定は、Arイオンエッチングと測定を繰り返すことにより、各サンプルの摩擦面の深さ方向について分析を行った。また、Arイオンエッチングは、加速電圧2kVで実施し、その際のエッチングレートは、シリコンの酸化膜換算で4nm/minである。
そして、図4に、実施例1の焼結体からなるサンプル(ym−SiAlON)におけるO濃度とArイオンスパッタ時間との相関を示す。また、図5に、比較例1の焼結体からなるサンプル(Si3N4)におけるO濃度とArイオンスパッタ時間との相関を示す。更に、図6に、XPSの分析結果から求めた、水分濃度1000ppmで摺動試験を実施した、実施例1の焼結体からなるサンプルにおける、Al濃度比[(Al濃度)/(Al濃度+Si濃度+Y濃度+Mg濃度)]とArイオンスパッタ時間との相関を示す。
一方、比較例1の焼結体からなるプレート試験片(Si3N4)においても燃料中に含まれる微量の水によって酸化が起こるが、この酸化物被膜は機械的に弱く、摩擦によって容易に除去(剥離)されるため、摩耗低減に寄与しないことが分かった。
一方、比較例1の焼結体においては、被摩擦面に、Al濃度の低い薄い酸化物被膜が生成されるが、その後の摩擦によって簡単に除去されてしまうために、トライボロシー特性に劣っていると考えられる。
(4−1)サイアロン系セラミックスの製造
<実施例2>
前記β−サイアロン粉末95質量%と、焼結助剤として前記Y2O3粉末5質量%と、をエタノールに分散させ、その後、ボールミルにより湿式混合した。次いで、エタノールを減圧乾燥により除去し、その後、整粒して混合粉末を得た。次いで、この混合粉末を使用し、温度1700℃、圧力40MPaで、窒素雰囲気下、1時間保持し、ホットプレス焼成してサイアロン系セラミックスを得た。
そして、得られたサイアロン系セラミックスについて、前記[1]の実施例1と同様にして元素分析を行った結果、Y0.13Si5Al1O1.2N7で表されるサイアロン系セラミックスであることが確認できた。この測定結果における各元素の含有割合(atom%)、及び[β/(α+6)]の値を表3に示す。
また、得られたサイアロン系セラミックスについて、前記[1]の実施例1と同様にして、かさ密度、及びビッカース硬さを測定した。これらの結果を表4に示す。
前記β−サイアロン粉末88質量%と、焼結助剤として前記Y2O3粉末5質量%、前記MgO粉末5質量%、及び前記Al2O3粉末2質量%と、をエタノールに分散させ、その後、ボールミルにより湿式混合した。次いで、エタノールを減圧乾燥により除去し、その後、整粒して混合粉末を得た。次いで、この混合粉末を使用し、温度1650℃、圧力40MPaで、窒素雰囲気下、1時間保持し、ホットプレス焼成してサイアロン系セラミックスを得た。
そして、得られたサイアロン系セラミックスについて、前記[1]の実施例1と同様にして元素分析を行った結果、Y0.14Mg0.39Si4.9Al1.1O1.76N6.86で表されるサイアロン系セラミックスであることが確認できた。この測定結果における各元素の含有割合(atom%)、及び[β/(α+6)]の値を表3に併記する。
また、得られたサイアロン系セラミックスについて、前記[1]の実施例1と同様にして、かさ密度、及びビッカース硬さを測定した。これらの結果を表4に併記する。
セラミックス部材として、実施例2及び実施例3の各セラミックス材料を用いて成形したプレート試験片を使用し、炭化水素系燃料として、35ppm(3.5×10−3質量%)のケロシンを用いたこと以外は、前記[2]摺動試験(1)と同様にして、摺動試験を行った。
これらの結果を図7及び図8に記載する。ここで、図7は、セラミック部材(プレート試験片)の材種とセラミックス部材(プレート試験片)の比摩耗量との相関を示し、図8は、セラミック部材(プレート試験片)の材種と金属部材(ディスク試験片)の比摩耗量との相関を示す。
尚、これらの図におけるは「y−SiAlON」及び「yma−SiAlON」は、それぞれ、実施例2及び実施例3から得られたプレート試験片を意味する。また、これらの図には、前記実施例1の焼結体からなるプレート試験片(ym−SiAlON)及び比較例1の焼結体からなるプレート試験片(Si3N4)を用いた場合の結果についても併記した。
また、図8によれば、実施例2及び実施例3の各焼結体からなる各プレート試験片(「y−SiAlON」及び「yma−SiAlON」)を用いた場合には、実施例1の焼結体からなるプレート試験片(ym−SiAlON)を用いた場合と同様に、比較例1の焼結体からなるプレート試験片(Si3N4)を用いた場合よりもディスク比摩耗量が低かった。
以上のことから、焼結助剤が実施例1と異なる、実施例2及び実施例3の各焼結体からなる各プレート試験片(「y−SiAlON」及び「yma−SiAlON」)においても、燃料中に含まれる微量の水(酸化源)によって酸化が起こり、耐摩耗性に優れる酸化物被膜が試験片の表面に生成し、これが、自身及び相手材の摩耗を低減していることが分かった。
Claims (7)
- 酸化源を含有する炭化水素系燃料中における摩擦により、被摩擦面に、組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表される酸化物被膜を形成可能であることを特徴とするセラミックス。
- 組成式[MαSi6−βAlβOδN8−β]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、0.6≦δ≦4、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表される請求項1に記載のセラミックス。
- 組成式[Si6−zAlzOzN8−z](0.6≦z≦3)で表されるβ−サイアロン粉末と、金属酸化物からなる焼結助剤と、を焼成することにより得られ、
前記β−サイアロン粉末及び前記焼結助剤の合計を100質量%とした場合に、該焼結助剤の配合量が0〜15質量%である請求項1又は2に記載のセラミックス。 - 組成式[MαSi6−βAlβOγ]〔M;任意の1種又は2種以上の金属元素、0≦α≦1.2、0.6≦β≦3、10.5≦γ≦12.2、0.085≦β/(α+6)≦0.5〕で表されることを特徴とする酸化物被膜。
- セラミックス部材と、摺動相手材とが、互いに摺動する摺動構造において、
前記セラミックス部材と前記摺動相手材の各々の摺動面の間に、酸化源を含有する炭化水素系燃料が介在しており、
且つ、前記セラミックス部材は、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のセラミックスからなることを特徴とする摺動構造。 - 前記摺動相手材が、鉄又は鉄基合金からなる金属部材である請求項5に記載の摺動構造。
- 前記炭化水素系燃料中における前記酸化源が水であり、
前記水の含有量が、該炭化水素系燃料を100質量%とした場合に、1.5×10−3〜3×10−1質量%である請求項5又は6に記載の摺動構造。
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