JP2011132126A - 耐摩耗性部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】窒化ケイ素焼結体からなる耐摩耗性部材において、強度や破壊靭性に加えて、転がり寿命などの摺動特性を向上させる。
【解決手段】耐摩耗性部材は、窒化ケイ素粉末に、希土類化合物を酸化物に換算して0.5〜10質量%、チタン化合物を窒化チタンに換算して0.1〜5質量%、酸化アルミニウムを0.1〜5質量%、および窒化アルミニウムを5質量%以下の範囲で添加した混合原料粉末を成形、焼結してなる窒化ケイ素焼結体を具備する。該窒化ケイ素焼結体は、長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を0.2〜5質量%含有する。該窒化チタン粒子は、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の粒子を80%以上含む。該窒化ケイ素焼結体は気孔率が0.5%以下である。
【選択図】なし

Description

本発明は、窒化ケイ素を主成分とする焼結体からなる耐摩耗性部材に係り、特に転がり寿命特性に優れた窒化ケイ素製耐摩耗性部材に関する
耐摩耗性部材は、例えば軸受部材、圧延用などの各種ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、カムローラなどのエンジン部品など、各種の分野で使用されている。このような耐摩耗性部材には、従来からセラミックス材料が用いられている。特に、窒化ケイ素焼結体は耐摩耗性に優れることから、種々の分野で幅広く使用されている。
窒化ケイ素は難焼結性の材料であるため、焼結体の作製にあたっては種々の化合物が添加剤として用いられている。従来の窒化ケイ素焼結体の組成としては、窒化ケイ素―希土類酸化物―酸化アルミニウム系、窒化ケイ素―希土類酸化物―酸化アルミニウム―酸化チタン系などが知られている。これらの組成において、希土類酸化物などの焼結助剤は、焼結中にSi―R―Al―O―N化合物(R:希土類元素)などからなる粒界相(ガラス相)を生成し、焼結体を緻密化して高強度化するための成分である。
上記した従来組成の窒化ケイ素焼結体においても、曲げ強度や破壊靭性値、耐摩耗性などの向上が図られているものの、必ずしも満足な特性が得られているとは言えない。特に、転がり軸受部材などの耐摩耗性部材については、転がり寿命などの摺動特性をより一層高めることが強く求められている。
ここで、窒化ケイ素焼結体の原料組成に関しては、例えば特開平1−93470号公報に、焼結助剤として希土類酸化物を1〜10質量%、酸化アルミニウムを1〜10質量%および酸化チタンを0.1〜5質量%含み、残部が実質的に窒化ケイ素からなるセラミックス混合物を、成形および焼成してなる焼結体が記載されている。上記公報には、酸化チタンは焼成後には粒界相に窒化チタンなどとして析出し、焼結体の緻密化を促進して耐熱衝撃性の向上などに寄与することが記載されている。
しかしながら、原料混合物に単に酸化チタンを添加して焼成しただけでは、焼成時に酸化チタンから窒化チタンに急激に変換されるため、窒化チタン粒子の粒子径にバラツキが生じやすく、粗大な窒化チタン粒子が生成されてしまう。窒化ケイ素焼結体中に粗大な窒化チタン粒子が存在すると、窒化ケイ素粒子との熱膨張率の違いから逆にクラックの発生起点となって、強度や破壊靭性値などの特性を低下させるおそれがある。
窒化ケイ素焼結体の耐摩耗性の向上に関しては、例えば特開平6−122563号公報に、平均粒子径が10μm以下の窒化ケイ素マトリックス中に、長径と短径の比率(アスペクト比)が2以上のTi化合物を1〜50質量%の範囲で分散させたセラミックス複合材料が記載されている。ここでは、Ti化合物としてTiN、TiCまたはTiCNを主成分とするウィスカーが用いられている。
上記公報で用いられているアスペクト比が2以上のTi化合物(例えばTiNウィスカー)は、焼結体の強度や靭性などの向上に対しては効果を示すものの、窒化ケイ素焼結体を軸受部材などに用いる場合には、逆に転がり寿命などを劣化させるおそれがある。すなわち、形状異方性が大きいTiNウィスカーなどが摺動面に存在するとトゲ状の突起となり、この突起が破壊の起点となったり、また相手部材への攻撃性が高まるおそれが大きい。
さらに、特開平5−178668号公報には、窒化ケイ素と粒界相とから構成される母相中に、窒化チタンの微粒子を分散させた窒化ケイ素−窒化チタン複合焼結体が記載されている。この窒化ケイ素−窒化チタン複合焼結体は、窒化ケイ素を45〜95体積%の範囲で含み、以下に示す製造方法により作製される。まず、チタン元素を含む窒化ケイ素の有機前駆体に熱処理を施して、窒化ケイ素と窒化チタンの結晶質複合微粉末を作製する。次いで、この複合微粉末に焼結助剤を添加して混合し、この混合物を焼結することで複合焼結体を得ている。
上記した製造方法により得られる窒化ケイ素−窒化チタン複合焼結体においては、窒化チタンの微粒子は主として窒化ケイ素の結晶粒内に分散される。この窒化チタン微粒子は窒化ケイ素との熱膨張率の違いによって、窒化ケイ素粒内に残留圧縮応力を発生させる。このような残留圧縮応力はクラックの進展に対して抵抗として作用するため、破壊靭性などが高められる。しかしながら、軸受部材のように継続的に外部応力が印加される用途では、窒化ケイ素粒内の残留応力が逆に剥離などの原因となるおそれがある。
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、高強度および高靭性に加えて、摺動特性に優れた耐摩耗性部材、特に転がり寿命を向上させて軸受部材に好適な特性を付与した耐摩耗性部材を提供することを目的としている。
本発明の耐摩耗性部材は、窒化ケイ素粉末に、希土類化合物を酸化物に換算して0.5〜10質量%、チタン化合物を窒化チタンに換算して0.1〜5質量%、酸化アルミニウムを0.1〜5質量%、および窒化アルミニウムを5質量%以下の範囲で添加した混合原料粉末を成形、焼結してなる窒化ケイ素焼結体を具備する。該窒化ケイ素焼結体は、長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を0.2〜5質量%含有する。該窒化チタン粒子は、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の粒子を80%以上含む。該窒化ケイ素焼結体は気孔率が0.5%以下である。
本発明の耐摩耗性部材において、窒化チタン粒子は窒化ケイ素焼結体中に単独で粒子分散させることが好ましい。言い換えると、窒化チタンは窒化ケイ素や粒界相に固溶せずに、窒化チタン粒子として存在しているものである。窒化チタン粒子は、特に主として粒界相中に分散させることが好ましい。
耐摩耗性部材の製造方法は、気孔率が0.5%以下である窒化ケイ素焼結体を具備する耐摩耗性部材の製造方法であって、酸素含有量が1.7質量%以下で、α相型窒化ケイ素を90質量%以上含有し、平均粒子径が1.0μm以下の窒化ケイ素粉末に、希土類化合物を酸化物に換算して0.5〜10質量%、平均粒子径が0.7μm以下の窒化チタンまたは焼成により窒化チタンとなるチタン化合物を窒化チタンに換算して0.1〜5質量%、酸化アルミニウムを0.1〜5質量%、および窒化アルミニウムを5質量%以下の範囲で添加して原料混合物を調製する工程と、前記原料混合物を所望の形状に成形する工程と、前記成形工程により得られた成形体を脱脂した後、1300〜1450℃の範囲の温度かつ0.5気圧以下の不活性雰囲気で30〜120分熱処理する工程と、前記熱処理工程を経た成形体を1600〜1900℃の温度で焼結し、前記窒化ケイ素焼結体を作製する工程とを有することが好ましい。
耐摩耗性部材の製造方法において、窒化チタンまたは焼成により窒化チタンとなるチタン化合物は窒化ケイ素粉末に複数回に分けて添加することが好ましい。また、原料混合物は平均粒子径が0.5μm以下の酸化チタンを窒化チタンに換算して0.1〜5質量%の範囲で含むことが好ましい。耐摩耗性部材の製造方法は、さらに好ましくは、焼結工程により得られた窒化ケイ素焼結体に、300気圧以上の非酸化性雰囲気下にて1600〜1850℃の温度でHIP処理を施す工程を具備することが好ましい。
本発明の耐摩耗性部材においては、窒化ケイ素焼結体中に窒化チタン粒子を存在させている。窒化チタン粒子は主として粒界相に存在し、粒界相を強化することで窒化ケイ素焼結体の強度や破壊靭性などの向上に寄与する。ただし、窒化チタン粒子の粒子径が大きいと、粒界相の繋がりを局所的に分断してクラックの発生原因となったり、また窒化ケイ素粒子との熱膨張率の違いから、窒化チタン粒子と窒化ケイ素粒子との接触部がクラックの発生起点となる。これらによって、窒化ケイ素焼結体の強度や破壊靭性などを逆に低下させてしまう。
そこで、本発明では長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を窒化ケイ素焼結体中に存在させている。このような微細な窒化チタン粒子は粒界相中に良好に分散されるため、粒界相を再現性よく分散強化することができる。これにより、窒化ケイ素焼結体の強度、破壊靭性値、摺動特性などを向上させることが可能となる。窒化ケイ素焼結体中に分散させる窒化チタン粒子はアスペクト比が1.0〜1.2の範囲であることが好ましく、このような窒化チタン粒子を80%以上含むことによって、特に転がり寿命を向上させることができる。さらに、窒化チタン粒子は球状で丸みを帯びた形状を有することが望ましい。
上述したような窒化チタン粒子は、上記した製造方法を適用することで再現性よく得ることができる。特に、窒化チタンの形成原料として微細な酸化チタンを用いると共に、焼結温度(1600〜1900℃)まで昇温する過程で1300〜1450℃の範囲の温度で所定時間保持することによって、窒化ケイ素焼結体中に分散する窒化チタン粒子の形状や分散状態を制御することができる。これによって、特に転がり寿命に優れた耐摩耗性部材を提供することが可能となる。
以上説明したように、本発明の耐摩耗性部材によれば、窒化ケイ素焼結体中に所定量の窒化チタン粒子を分散させると共に、その長軸径を1μm以下に制御しているため、耐摩耗性部材に求められる強度、破壊靭性、転がり寿命などの特性を高めることが可能となる。特に、窒化チタン粒子を角の無い丸みを帯びた球状粒子とすることで、転がり寿命などの摺動特性を大幅に向上させることができる。このような本発明の窒化ケイ素製耐摩耗性部材は種々の用途に有効である。特に、転がり寿命に優れることから、ベアリングボールのように全面を摺動面とする耐摩耗性部材に好適である。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の耐摩耗性部材は、窒化ケイ素を75〜97質量%、長軸径1μm以下の窒化チタン粒子を0.2〜5質量%、およびSi−R−Al−O−N化合物(Rは希土類元素)を主として含む粒界相を2〜20質量%の範囲で含有する窒化ケイ素焼結体からなる。ここで、本発明で言う窒化ケイ素焼結体とは、窒化ケイ素を主成分とする焼結体であり、窒化ケイ素を75〜97質量%の範囲で含有するものである。
焼結体中の窒化ケイ素の量が75質量%未満であると、相対的に窒化チタンの形成成分を含む焼結助剤の量が多くなりすぎて、焼結体の曲げ強度、破壊靭性、転がり寿命などの摺動特性が劣化する。逆に、窒化ケイ素の量が97質量%を超える場合には、添加される焼結助剤の量が相対的に少なくなることから、焼結助剤による緻密化効果などを十分に得ることができない。焼結体中の窒化ケイ素の量は80〜95質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
耐摩耗性部材として用いる窒化ケイ素焼結体は、長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を0.2〜5質量%の範囲で含んでいる。窒化チタンの含有量が0.2質量%未満であると、窒化チタンによる特性向上効果を十分に得ることができない。一方、窒化チタンの含有量が5質量%を超えると、焼結体の曲げ強度、破壊靭性、転がり寿命などを逆に低下させてしまう。窒化チタンの含有量は0.5〜4質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
窒化チタン粒子は主として焼結体の粒界相中に存在し、粒界相を強化することで窒化ケイ素焼結体の特性向上に寄与する。このように、窒化チタンは窒化ケイ素や粒界相に固溶させることなく、窒化チタン粒子として焼結体中に分散される。窒化チタンが窒化ケイ素や粒界相と反応してしまうと、粒子分散強化による焼結体の強度向上効果が得られなくなる。窒化チタンの固溶の有無はTEMにより観察可能である。
ただし、窒化チタン粒子の長軸径が1μmを超えると、逆に焼結体の曲げ強度、破壊靭性、転がり寿命などが低下してしまう。すなわち、粗大な窒化チタン粒子が存在すると、粒界相の繋がりを局所的に分断してクラックの発生原因となる。さらに、窒化チタンは窒化ケイ素に比べて熱膨張率が大きいため、粗大な窒化チタン粒子が存在すると、窒化ケイ素粒子との熱膨張率の違いに基づくクラックなどが発生しやすくなる。このように、粗大な窒化チタン粒子は焼結体の曲げ強度、破壊靭性、転がり寿命などを逆に低下させてしまう。
さらに、窒化チタン粒子が凝集していると粒界相に悪影響を及ぼすため、窒化チタン粒子はそれぞれ単独で分散させることが好ましい。凝集している状態とは、窒化チタン粒子同士が直接接触して集合している状態である。窒化チタン粒子は粒界相を強化する機能を有するが、窒化チタン粒子が凝集している箇所が存在すると、耐摩耗性部材として摺動衝撃を受けた際に、応力の受け方にばらつきが生じてしまう。これによって、転がり寿命が低下してしまう。
上述したような窒化チタン粒子の影響を考慮して、本発明では窒化ケイ素焼結体中に長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を分散させている。窒化チタン粒子の長軸径は0.5μm以下であることがさらに好ましい。なお、本発明における長軸径とは、窒化チタン粒子の最も長い対角線の長さを示すものである。立体的に窒化チタン粒子の大きさを測定できれば問題ないが、簡易的には任意の単位面積(例えば100×100μm)の拡大写真を撮り、この拡大写真中に存在する窒化チタン粒子の最も長い対角線を長軸径として測定する方法が用いられる。特に、後述する丸みを帯びた窒化チタン粒子の形状測定に対しても、拡大写真を用いた測定方法が有効である。
このような拡大写真を用いた測定は、本発明で規定する窒化チタン粒子の長軸径の測定、アスペクト比の測定、長軸径と短軸径の差の測定、さらには後述する気孔率や最大気孔径の測定に対しても有効である。拡大写真を用いた測定方法に基づく各測定値は、任意の単位面積あたりの測定を少なくとも3ヶ所実施し、その平均値により算出するものとする。測定面積は例えば100×100μmの範囲とする。拡大写真の倍率は2000倍以上あれば十分である。
焼結体中に存在する窒化チタン粒子は、長軸径と短軸径の比を示すアスペクト比(長軸径/短軸径)が1.0〜1.2の範囲の粒子を80%以上含むことが好ましい。アスペクト比が1.2を超える長細い粒子の比率が20%を超えると、粒界相の強化に異方性やばらつきが生じてしまう。これによって、窒化ケイ素焼結体の転がり寿命特性などが部分的に低下するおそれがある。窒化チタン粒子のアスペクト比は1.0〜1.1の範囲であることがより好ましい。また、上記したアスペクト比を有する粒子の比率は90%以上であることがより好ましい。なお、窒化チタン粒子の短軸径とは、前述した長軸径とは逆に最も短い対角線の長さを示すものであり、長軸径と同様の方法で測定可能である。
窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差は0.2μm以下であることが好ましい。すなわち、より球状に近い形状を有する窒化チタン粒子を主として粒界相に分散させることによって、焼結体全体としての摺動衝撃に対する耐性などを向上させることができる。従って、窒化ケイ素焼結体を用いた耐摩耗性部材の転がり寿命などの摺動特性をより一層高めることが可能となる。窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差が大きくなると、窒化チタン粒子の形状が実質的に長楕円形になってしまい、粒界相への影響にばらつきが生じてしまう。これは窒化ケイ素焼結体の各種特性のばらつきの原因となると共に、転がり寿命などの低下要因となる。
さらに、窒化チタン粒子の表面形状については、角の無い丸みを帯びた形状であることが好ましい。繊維やウィスカーのような角のある窒化チタン粒子は、転がり寿命などの摺動特性に対して逆に悪影響を及ぼすため、角の無い丸みを帯びた形状を有する窒化チタン粒子を焼結体中に分散させることが好ましい。すなわち、従来から繊維強化を行った窒化ケイ素焼結体が知られており、ガスタービン翼のように直接摺動部を持たない構造材料であれば特に問題はない。しかし、ベアリングボールなどの軸受部材では、窒化ケイ素焼結体の表面がそのまま摺動面となるため、摺動面に繊維やウィスカーが剥き出しになってしまい、そこが破壊起点となって、かえって転がり寿命を低下させることになる。
ここで、角の無い丸みを帯びた形状とは、窒化チタン粒子を任意の方向から観察した際に、窒化チタン粒子の表面に90°以下の鋭角状の凸部がないことを示すものである。通常の粒子は微視的には表面に凹凸が存在し、その中には90°以下の鋭角部が存在する。耐摩耗性部材として繰り返し摺動や連続摺動を行った場合、このような鋭角部が存在すると、そこから粒界相に亀裂が入りやくなり、転がり寿命を低下させてしまう。
このようなことから、本発明の耐摩耗性部材においては、実質的に球状の窒化チタン粒子、特に実質的に真球状の窒化チタン粒子を焼結体中に分散させることが望ましい。球状(特に真球状)の窒化チタン粒子によれば、粒界相を均一に強化することができ、さらに摺動衝撃を有効に緩和することができると共に、強化材が逆に破壊の起点となるようなこともないため、転がり寿命などの摺動特性を大幅に向上させることが可能となる。このような窒化ケイ素焼結体は各種の耐摩耗性部材に適用可能であるが、特にベアリングボールのように全面が摺動部となる軸受部材に有効である。
なお、上述した窒化チタン粒子の鋭角部は、例えば窒化チタン粒子を10000倍(1μmを10mmで表示)に拡大した写真で観察することにより確認することができる。実質的に真球状もしくは真球に近い楕円形状の窒化チタン粒子であれば、どの方向から観察したとしても90°以下の鋭角部は確認されない。本発明の耐摩耗性部材においては、このような窒化チタン粒子を焼結体中に分散させることが望ましい。
角の無い丸みを帯びた窒化チタン粒子は、そのような形状を有する窒化チタン粉末を予め原料混合物中に配合して焼結体中に分散させることもできるが、特に後に詳述するように、チタンの酸化物、炭化物、硼化物、珪化物などのチタン化合物粉末を、焼結時に窒化チタン粒子に変換させる方法を適用することによって、角の無い丸みを帯びた窒化チタン粒子を低コストでかつ再現性よく焼結体中に分散させることができる。
特に、酸化チタン粉末は化学的に安定であることから取扱いが容易であり、さらに焼結体の強度向上に対して優れた効果を発揮する。通常、窒化ケイ素焼結体を焼結する際には、所定形状の窒化ケイ素成形体を作製した後に焼結することになる。焼結時に酸化チタンが窒化チタンへと変換されることに伴って、不要となった酸化チタンの酸素は粒界相と反応し、粒界相の融点を下げて緻密化を促進する。従って、窒化ケイ素焼結体の強度をさらに向上させることができる。
本発明の耐摩耗性部材を構成する窒化ケイ素焼結体は、Si―R―Al―O―N化合物(R:希土類元素)を主として含む粒界相を2〜20質量%の範囲で含有している。粒界相の含有量が2質量%未満であると、窒化ケイ素焼結体が十分に緻密化しないことから、気孔率が増大して曲げ強度や破壊靭性などが低下してしまう。一方、粒界相の含有量が 20質量%を超えると、過剰な粒界相により窒化ケイ素焼結体の曲げ強度、破壊靭性、転がり寿命などが低下する。粒界相の含有量は5〜15質量%の範囲であることがより好ましい。
Si―R―Al―O―N化合物から主としてなる粒界相の形成方法は、特に限定されるものではないが、焼結助剤としてSi―R―Al―O―N化合物を形成する成分を添加して粒界相を形成することが好ましい。上記した粒界相を形成するにあたっては、焼結助剤として希土類化合物やアルミニウム化合物を添加することが効果的である。
希土類化合物は特に限定されるものではないが、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)などの酸化物、窒化物、硼化物、炭化物、珪化物の少なくとも1種が好ましい。特に、Si―R―Al―O―N化合物から主としてなる粒界相を形成しやすいことから、Y、Ce、Sm、Nd、Erなどの酸化物を用いることが好ましい。
アルミニウム化合物は、アルミニウムを含有していれば特に限定されるものではないが、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムを用いることが好ましい。これらのアルミニウム化合物は、焼結時にSi―R―Al―O―N化合物を形成しやすい化合物である。特に、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの両方を添加することによって、Si―R―Al―O―N化合物から主としてなる粒界相が形成されやすくなる。なお、粒界相の構成成分については、EPMAなどにより測定可能である。
希土類化合物およびアルミニウム化合物の添加量は、最終的に窒化ケイ素焼結体中のSi―R―Al―O―N化合物から主としてなる粒界相の量が2〜20質量%の範囲となれば特に限定されるものではないが、希土類化合物は酸化物に換算して0.5〜10質量%の範囲、アルミニウム化合物は0.1〜10質量%の範囲で添加することが好ましい。アルミニウム化合物として酸化アルミニウムと窒化アルミニウムを併用する場合には、窒化アルミニウムの添加量を5質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは3質量%以下である。この際の酸化アルミニウムの添加量は0.1〜5質量%の範囲とすることが好ましい。
ここまでは、本発明の耐摩耗性部材を構成する窒化ケイ素焼結体の必須成分について説明したが、窒化ケイ素焼結体は他の成分を含有していてもよいことは言うまでもない。例えば、窒化ケイ素焼結体のさらなる緻密化のために、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)などの酸化物、窒化物、硼化物、珪化物などを含有していてもよい。特に、酸化マグネシウムは窒化ケイ素焼結体の緻密化に対して効果的である。これらの化合物の含有量は総量で0.1〜5質量%の範囲とすることが好ましい。
さらに、本発明の耐摩耗性部材を構成する窒化ケイ素焼結体は、基本的な強度特性や機械的特性を満足させる上で、気孔率が体積比で0.5%以下であることが好ましい。また、気孔の長軸径については2μm以下であることが好ましい。窒化ケイ素焼結体の気孔率が0.5%を超えたり、また気孔の長軸径が2μmを超えるような場合には、上述した粒界相や窒化チタン粒子の構成を満足させても、基本的な曲げ強度や摺動特性などが低下するおそれがある。
窒化ケイ素焼結体の気孔率は0.3%以下であることがさらに好ましい。窒化ケイ素焼結体の気孔率は、通常は実質的に零であることが望ましいが、本発明においては窒化ケイ素焼結体が0.01〜0.5%程度の気孔を含んでいても、良好な強度特性や転がり寿命特性を得ることができる。また、気孔の長軸径については1μm以下であることがさらに好ましい。
次に、本発明の耐摩耗性部材の製造方法について説明する。本発明の窒化ケイ素製耐摩耗性部材は、前述したような所定の窒化チタン粒子と粒界相とを含む構成が得られれば特に製造方法に限定されるものではないが、例えば以下に示す製造方法を適用して製造することが有効である。
窒化ケイ素原料粉末については、α相型のものとβ相型のものとが知られているが、本発明においてはα相型のものが適している。窒化ケイ素原料粉末はα相を90質量%以上含むことが好ましい。さらに、α相型窒化ケイ素を95質量%以上含む窒化ケイ素粉末を用いることが望ましい。
さらに、窒化ケイ素原料粉末は平均粒子径が1μm以下で、かつ酸素含有量が1.7質量%以下であることが好ましい。このような微細でかつ不純物の少ない窒化ケイ素粉末を用いることによって、気孔率および最大気孔径が小さい高強度の窒化ケイ素焼結体が得やすくなる。窒化ケイ素原料粉末の平均粒子径は0.4〜0.8μmの範囲であることがより好ましい。また、酸素含有量については0.5〜1.5質量%の範囲であることがより好ましい。
窒化チタン原料は、最終的に窒化チタン粒子の長軸径を1μm以下にできるチタン化合物であれば特に限定されるものではないが、平均粒子径が0.7μm以下の原料粉末を用いることが好ましい。窒化チタン原料としては、窒化チタン粉末自体を用いてもよいが、特にチタンの酸化物、炭化物、硼化物、珪化物などの焼成時に窒化チタンとなるチタン化合物を用いることが好ましい。これによって、微細でかつ球状性に優れる窒化チタン粒子(角の無い丸みを帯びた窒化チタン粒子)を安価にかつ再現性よく得ることができる。
焼結時の反応により窒化チタンとなる酸化チタンなどの化合物を、窒化チタン原料として用いる場合には、平均粒子径が0.5μm以下の微細な粉末を用いることが好ましい。これによって、最終的に窒化ケイ素焼結体中の窒化チタン粒子の長軸径を1μm以下にしやすくなる。窒化チタン粒子の微細化については、後述する焼結時の温度条件なども影響する。焼成時に窒化チタンとなるチタン化合物は、窒化チタンに換算して0.1〜5質量%の範囲で添加する。
希土類化合物やアルミニウム化合物、さらに他の添加物についても、平均粒子径が1μm以下の微細な粉末を用いることが好ましい。なお、各原料粉末は繊維やウィスカーのように表面にトゲ状の凸部を有するものではなく、粉末状のものを用いることが好ましい。前述したように、繊維やウィスカーは摺動面に突出して相手部材への攻撃性を高めたり、トゲ状の凸部が破壊起点となって転がり寿命などの耐摩耗性を劣化させる。窒化チタンの形成成分であるチタン化合物については、特に繊維やウィスカーの使用は好ましくない。
上述した各添加物粉末を窒化ケイ素原料粉末に対して所定量添加し、さらに有機バインダや分散媒などを加えてよく混合した後、一軸プレスやラバープレスなどの公知の成形法を適用して所望の形状に成形する。各原料粉末の混合にあたっては、特にチタン化合物が均一分散されるように混合する。具体的には、チタン化合物粉末を複数回、好ましくは3回以上に分けて添加、混合することが好ましい。これによって、チタン化合物同士の凝集を防ぎ、窒化チタン粒子を単独に分散させた状態が得られやすくなる。チタン化合物粉末を複数回に分けて添加する際、それぞれ30分以上間隔をあけて添加、混合すると効果的である。
次に、上記した成形体に脱脂処理を施して脱脂成形体を作製する。この脱脂成形体を1600〜1900℃の温度で焼結する際に、まず1300〜1450℃の温度で所定時間保持する。焼結温度まで昇温する前に、1300〜1450℃の範囲の温度で熱処理することによって、酸化チタンなどのチタン化合物から窒化チタンへの変換状態のばらつきを抑制することが可能となる。
このように、予め酸化チタンなどのチタン化合物から窒化チタンに変換しておくことによって、粗大な窒化チタン粒子の生成を抑え、長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を再現よく得ることが可能となる。さらに、得られる窒化チタン粒子は角の無い丸みを帯びた形状となる。窒化チタン粒子のアスペクト比や長軸径と短軸径との差についても、前述した条件を満足させることができる。なお、窒化チタン原料として窒化チタン粉末を用いる場合においても、予め1300〜1450℃の温度で保持することによって、窒化チタン粒子の凝集などを防ぐことができる。
焼結前の熱処理温度が1300℃未満であると、チタン化合物から窒化チタンへの変換を十分に促進することができず、窒化チタン粒子の形状などにばらつきが生じやすくなってしまう。逆に、熱処理温度が1450℃を超えると、本焼結と実質的に変りがなくなってしまい、焼結前に熱処理を行う効果が得られない。これでは粗大な窒化チタン粒子の生成を抑えることができない。
上記した熱処理温度(1300〜1450℃)での保持時間は30〜120分の範囲とすることが好ましい。保持時間が30分未満であると、焼結工程前にチタン化合物から窒化チタン粒子に変換される量が不十分となり、粗大な窒化チタン粒子が生成したり、またアスペクト比の大きい窒化チタン粒子の比率が増大する。例えば、酸化チタンなどの窒化反応により窒化チタンを生成する場合、保持温度や保持時間が異なると窒化チタンへの変換状態にばらつきが生じ、窒化ケイ素焼結体の強度や各種特性を劣化させてしまう。
つまり、所定の温度と時間で焼結前に熱処理を行うことによって、チタン化合物から窒化チタンに良好にかつ均質に変換させることができる。これによって、各窒化チタン粒子の大きさや形状のばらつきを抑制し、窒化チタン粒子の長軸径を1μm以下にすると共に、丸みを帯びた窒化チタン粒子を再現性よく形成することが可能となる。
なお、焼結前の熱処理は1300〜1450℃の範囲内の一定温度で所定時間保持することに限らず、例えば1300〜1450℃の温度範囲の昇温速度を十分に遅くすることによっても、同様な効果を得ることができる。この際の昇温速度は100℃/hr以下とすることが好ましく、より好ましくは50/hr以下である。
さらに、上述した熱処理時の雰囲気は1気圧以下の不活性雰囲気とすることが好ましい。特に、0.5気圧以下の不活性雰囲気中で熱処理を行うと、成形体中から不要な気体成分、例えば脱脂処理後に残存した微量の炭素成分が抜けやすくなる。これによって、気孔率の小さい窒化ケイ素焼結体が得られやすくなる。
上述したような熱処理の後に、1600〜1900℃で焼結することにより窒化ケイ素焼結体を得る。この焼結については、常圧焼結、加圧焼結(ホットプレス)、雰囲気加圧焼結、HIP(ホットアイソスタティックプレス)焼結などの様々な焼結方法が適用可能である。さらに、常圧焼結後にHIP処理を行うなど、複数の方法を組合せてもよい。特に、本発明の耐摩耗性部材をベアリングボールのような軸受部材に適用する場合には、常圧焼結後にHIP処理を行うことが有効である。HIP処理は300気圧以上の圧力下で 1600〜1850℃の温度で所定時間保持することにより行うことが好ましい。
本発明の耐摩耗性部材は、軸受部材、圧延用などの各種ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、カムローラなどのエンジン部品など、耐摩耗性が要求される各種の部材に適用することができる。特に、ベアリングボールのように全面が摺動部となる軸受部材に対して、本発明の耐摩耗性部材は有効である。
なお、耐摩耗性部材として使用する窒化ケイ素焼結体には、必要に応じて表面研磨や被覆処理などの仕上げ加工を行ってもよいことは言うまでもない。言い換えると、窒化ケイ素焼結体がそのまま耐摩耗性部材として使用可能な場合は、窒化ケイ素焼結体が直接耐摩耗性部材となる。
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
実施例1
酸素含有量が1.3質量%、α相型窒化ケイ素を97重量%含む、平均粒子径が0.55μmのSi(窒化ケイ素)原料粉末87.5質量%に、焼結助剤として平均粒子径が0.9μmのY(酸化イットリウム)粉末を5質量%、平均粒子径が0.7μmのAl(アルミナ)粉末を3質量%、平均粒子径が1.0μmのAlN(窒化アルミニウム)粉末を3質量%添加した。さらに、平均粒子径が0.3μmのTiO(酸化チタン)粉末を窒化チタン換算で1.5質量%添加した。TiO粉末は30分間隔で3回に分けて添加した。これらをエチルアルコール中で窒化ケイ素ボールを用いて72時間湿式混合した後に乾燥して原料混合物を調製した。
次に、得られた原料混合物に有機バインダを所定量添加して調合造粒粉とした後、98MPaの成形圧力でプレス成形し、曲げ強度測定用サンプルとして50×50×5mmの成形体、および転がり寿命測定用サンプルとして直径80mm×厚さ6mmの円柱状成形体をそれぞれ多数製作した。
得られた各成形体を450℃の空気気流中にて4時間脱脂した後、0.1気圧の窒素ガス雰囲気中にて1350℃×1時間の条件で保持した後、窒素ガス雰囲気中にて1750℃×4時間の条件で焼結した。次に、得られた焼結体を1000気圧の窒素ガス雰囲気中にて1700℃×1時間のHIP処理を行い、実施例1に係わる窒化ケイ素焼結体を作製した。
比較例1〜3
比較例1としてTiOを添加しない以外は、実施例1と同一条件で窒化ケイ素焼結体を作製した。比較例2については、平均粒子径が2μmのTiO粉末を使用する以外は実施例1と同一条件で窒化ケイ素焼結体を作製した。比較例3については、酸素含有量が1.7質量%、α相型窒化ケイ素を91重量%含み、平均粒子径が1.5μmのSi(窒化ケイ素)原料粉末を使用すると共に、TiO粉末を一度に全部添加する以外は実施例1と同一条件で窒化ケイ素焼結体を作製した。
このようにして得た実施例1および比較例1〜3による各窒化ケイ素焼結体の気孔率、最大気孔径、窒化チタン粒子の粒径範囲(長軸径の最小値〜最大値を表示)、窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の窒化チタン粒子が占める割合、室温での3点曲げ強度、マイクロインデンテーション法による破壊靭性値をそれぞれ測定した。さらに、スラスト型軸受試験機を用いて、相手材がJIS G−4805で規定するSUJ2鋼球、荷重39.2MPa、回転数1200rpm、タービン油の油浴潤滑条件下で、窒化ケイ素円板の表面が剥離するまで試験を行い、転がり寿命(繰り返し回数)を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
なお、気孔率、最大気孔径、窒化チタンの分散粒子の粒径範囲、窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の窒化チタン粒子が占める割合については、任意の単位面積(100×100μm)として、表面1ヶ所、断面2ヶ所の合計3ヶ所の拡大写真を撮り、各単位面積あたりの測定結果の平均値により示した。窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差の測定に関しては、任意の単位面積中で最も大きな長軸径を有する窒化チタン粒子について測定した。
Figure 2011132126
表1から明らかなように、実施例1の窒化ケイ素焼結体は3点曲げ強度、破壊靭性値、転がり寿命のいずれも優れた特性を示すことが分かった。また、窒化チタン粒子同士の凝集も見られず、粒界相はSi−Y−Al−O−N化合物により形成されていた。さらに、粒界相中に窒化チタンは固溶していなかった。
これに対し、比較例1は窒化チタンを含有していないことから特性が劣っている。また、比較例2のように窒化チタン粒子を含有していたとしても、長軸径が1μmを超えるようなサイズであると、特性が低下することが分かる。これは粒界相中に存在する窒化チタン粒子が大きすぎるため、粒界相の結合力などに悪影響を与えているためであると考えられる。
一方、比較例3の窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素原料粉末の平均粒子径が1.5μmと本発明の好ましい範囲1μmを超えているため、気孔率が低下する共に最大気孔径が増大したため、窒化チタン粒子の形状が類似していたとしても、特性が劣化してしまったものと考えられる。さらに、一度に全部のTiO粉末を添加、混合したため、一部の窒化チタン粒子が凝集しており、窒化チタン粒子の長軸径は1μmを超え、さらに長軸径と短軸径の差が0.2μmを超えたことが特性劣化の原因と考えられる。
なお、表1中には示していないが、実施例1、比較例2、比較例3による窒化チタン粒子は、いずれも添加した酸化チタンが窒化されたものであるため、角のない丸みを帯びた形状であった。実施例1のものは表1中に示したように窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差は0.2μmであった。これはTiO粉末が窒化される際に熱処理(保持処理)を行っているため、TiO粉末がほぼ均一に窒化されたためであり、これにより窒化チタン粒子が実質的に真球形状もしくは限りなく真球に近い楕円形状になったものと考えられる。
実施例2
実施例1と同様に調製した調合造粒粉を使用し、金型で球形に予備成形した後、98MPaの成形圧でラバープレスを行い、圧砕強度および転がり寿命測定用サンプルとして直径11mmの球状成形体を多数製作した。この成形体を実施例1と同一条件で脱脂、熱処理(保持処理)、焼結、HIP処理を実施し、緻密な焼結体を得た。次に、HIP処理後の焼結体を直径が9.52mm、表面粗さがRaで0.01μmのボールに研磨加工して、ベアリングボールとして使用可能な窒化ケイ素製耐摩耗性部材を作製した。表面粗さRaは触針式表面粗さ測定器によりボールの赤道上を測定して求めた中心線平均粗さである。
比較例4〜6
比較例4として比較例1で調製した調合造粒粉を使用する以外は、実施例2と同一条件で窒化ケイ素製ボールを作製した。同様に、比較例5として比較例2で調製した調合造粒粉、比較例6として比較例3で調製した調合造粒粉をそれぞれ使用する以外は、実施例2と同一条件でそれぞれ窒化ケイ素ボールを作製した。
こうして得られた実施例2および比較例4〜6に係わる窒化ケイ素製ボールの気孔率、最大気孔径、窒化チタン粒子の粒径範囲(長軸径の最小値〜最大値を表示)、窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の窒化チタン粒子が占める割合、室温での圧砕強度、マイクロインデンテーション法による破壊靭性値をそれぞれ測定した。さらに、スラスト型軸受試験機を用いて、相手材としてJIS G−4805で規定するSUJ2鋼製の平板上を回転させる方法で、荷重が一球当たりの最大接触応力で5.9GPa、回転数1200rpm、タービン油の油浴潤滑条件下で、窒化ケイ素製ボールの表面が剥離するまでの転がり寿命(時間)を測定した。これらの測定結果を表2に示す。
なお、気孔率、最大気孔径、窒化チタンの分散粒子の粒径範囲、窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の窒化チタン粒子が占める割合は、実施例1と同様に、任意の単位面積(100×100μm)として、表面1ヶ所、断面2ヶ所の合計3ヶ所の拡大写真を撮り、各単位面積当たりの測定結果の平均値により示した。破壊靭性値は上下面にポリッシュ加工を施して平面部を形成して測定した。
Figure 2011132126
表2から明らかなように、実施例2のベアリングボール用窒化ケイ素製耐摩耗性部材は圧砕荷重、破壊靭性、転がり寿命とも優れた特性を示すことが分かった。また、窒化チタン粒子同士の凝集も見られず、粒界相はSi−Y−Al−O−N化合物により形成されていた。さらに、粒界相中に窒化チタンは固溶していなかった。これに対し、比較例4、比較例5、比較例6はいずれも実施例2より特性が劣っている。これは比較例1〜3と同様な理由によるものである。
このように、本発明の窒化ケイ素製耐摩耗性部材は、ベアリングボールのような球状の形成を有するものに対しても有効であることが分かった。なお、実施例1と実施例2において、例えば破壊靭性値などの同一の測定項目について、測定値に若干の差が生じているが、これは焼結体の形状の違いによるものである。
実施例3〜16、比較例7〜14、および参考例1〜10
実施例3〜16、参考例1〜9として、実施例1で使用した窒化ケイ素原料粉末、Y粉末、Al粉末、AlN粉末、TiO粉末、さらに表3に示す平均粒子径が0.9〜1.0μmの各種希土類酸化物粉末、平均粒子径が0.5μmのMgO粉末、平均粒子径が0.4〜0.5μmの各種チタン化合物粉末を、それぞれ表3に示す組成比となるように調合して原料混合物を調製した。TiO粉末および各種チタン化合物粉末は、窒化チタンに換算した量で示している。また、これらは30分毎に3回に分けて添加、混合した。
次に、得られた各原料混合物を実施例1と同一条件で成形および脱脂処理した後、0.1気圧の窒素ガス雰囲気中にて表4に示す条件で熱処理(保持処理)し、さらに表4に示す条件で焼結およびHIP処理を施して、それぞれ実施例3〜16、参考例1〜9に係わる窒化ケイ素焼結体を作製した。
一方、比較例7として、焼結する際に1300〜1450℃の温度による途中保持を実施しないで焼結する以外は、実施例1と同一条件で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、表3に示すように比較例8〜14、参考例10として、Yを過少に添加した原料混合物(比較例8)、Yを過量に添加した原料混合物(比較例9)、TiOを過少に添加した原料混合物(比較例10)、TiOを過量に添加した原料混合物(比較例11)、Alを添加しない原料混合物(比較例12)、Alを過量に添加した原料混合物(比較例13)、AlNを過量に添加した原料混合物(比較例14)、MgOを過量に添加した原料混合物(参考例10)をそれぞれ調製した。
次に、得られた各原料混合物を実施例1と同一条件で成形および脱脂処理した後、0.1気圧の窒素ガス雰囲気中にて1400℃×1時間の条件で保持した後、表4に示す各条件で焼結およびHIP処理を行って、それぞれ比較例7〜14、参考例10に係わる窒化ケイ素焼結体を作製した。
こうして得られた実施例3〜16、比較例7〜14および参考例1〜10による各窒化ケイ素焼結体について、実施例1と同一条件で気孔率、最大気孔径、窒化チタンの分散粒子の粒径範囲、窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の窒化チタン粒子が占める割合、室温での3点曲げ強度、破壊靭性値、および繰り返し転がり寿命を測定した。これらの測定結果をそれぞれ表5に示す。
Figure 2011132126
Figure 2011132126
Figure 2011132126
表5から明らかなように、本発明の実施例に係る窒化ケイ素焼結体は、いずれも優れた特性を有していることが分かる。表中には示していないが、粒界相はいずれもSi−R−Al−O−N化合物から形成されていた。MgOを添加した実施例では、粒界相はSi−R−Al―Mg−O−N化合物で形成されていた。また、いずれも窒化チタン粒子の凝集および固溶は確認されず、単独で分散していた。窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差も0.2μm以下であった。
なお、予め窒化チタン粉末を添加した実施例17では、チタン化合物の窒化反応が行われないために、原料粉末の粒径に影響を受けることが確認された。このため、チタン化合物として窒化チタンを用いる場合には、予め長軸径を1μm以下に制御したものを用いることが好ましいことが分かった。
各実施例の窒化ケイ素焼結体は、いずれも繰り返し転がり寿命が1×10回以上と優れていることが分かる。また、破壊靭性値は6.6MPa・m1/2以上と高く、3点曲げ強度についても1050MPa以上と高強度のものが得られている。それに対して、各比較例の窒化ケイ素焼結体はいずれも本発明の窒化ケイ素焼結体より特性が劣っている。
実施例17〜30、比較例15〜22、および参考例11〜20
実施例3〜16、参考例1〜9と同様の原料混合物を用いると共に、実施例3〜16、参考例1〜9と同一条件で熱処理、焼結およびHIP処理を行う以外は実施例2と同様にして、実施例17〜30、参考例11〜19に係わるベアリングボール用窒化ケイ素焼結体を作製した。
一方、比較例15〜22、参考例20についても、比較例7〜14、参考例10と同様の原料混合物を用いると共に、比較例7〜14、参考例10と同一条件で熱処理(比較例15は途中保持処理を実施しない)、焼結およびHIP処理を行う以外は実施例2と同様にして、ベアリングボール用窒化ケイ素焼結体を作製した。
こうして得た実施例17〜30、比較例15〜22、および参考例11〜20による各窒化ケイ素製ボールについて、実施例2と同一条件で、気孔率、最大気孔径、窒化チタンの分散粒子の粒径範囲、窒化チタン粒子の長軸径と短軸径の差、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の窒化チタン粒子が占める割合、圧砕強度、破壊靭性値、および転がり寿命を測定した。それらの結果を表6示す。
Figure 2011132126
表6から明らかなように、本発明の実施例に係るベアリングボールはいずれも優れた特性を示すことが確認された。表中には示していないが、粒界相はいずれもSi−希土類元素−Al−O−N化合物から形成されていた。MgOを添加した実施例では、粒界相はSi−希土類元素−Al―Mg−O−N化合物で形成されていた。いずれも窒化チタン粒子の凝集および固溶は確認されず、窒化チタン粒子は単独で分散しており、長軸径と短軸径の差も0.2μm以下であった。

Claims (15)

  1. 窒化ケイ素粉末に、希土類化合物を酸化物に換算して0.5〜10質量%、チタン化合物を窒化チタンに換算して0.1〜5質量%、酸化アルミニウムを0.1〜5質量%、および窒化アルミニウムを5質量%以下の範囲で添加した混合原料粉末を成形、焼結してなる窒化ケイ素焼結体を具備し、長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を0.2〜5質量%、前記窒化チタン粒子は、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の粒子を80%以上含み、前記窒化ケイ素焼結体は気孔率が0.5%以下であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  2. 請求項1記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化チタン粒子は、前記窒化ケイ素焼結体中に単独で粒子分散していることを特徴とする耐摩耗性部材。
  3. 請求項1記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化チタンは、前記窒化ケイ素および前記粒界相に固溶していないことを特徴とする耐摩耗性部材。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化チタン粒子は、前記粒界相中に分散していることを特徴とする耐摩耗性部材。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化チタン粒子は、長軸径と短軸径の差が0.2μm以下であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化チタン粒子は、丸みを帯びた形状を有することを特徴とする耐摩耗性部材。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化ケイ素焼結体は、最大気孔径が2μm以下であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  8. 請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化ケイ素焼結体は、3点曲げ強度が1000MPa以上で、かつ破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  9. 請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    スラスト型軸受試験機を用いて、相手材がJIS G−4805で規定するSUJ2鋼球、荷重39.2MPa、回転数1200rpmの条件下で、前記耐摩耗性部材の表面が剥離するまでの転がり寿命を測定したとき、前記耐摩耗性部材は繰り返し回数で1×10回以上の転がり寿命を有することを特徴とする耐摩耗性部材。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記耐摩耗性部材はボール材を具備することを特徴とする耐摩耗性部材。
  11. 請求項10記載の耐摩耗性部材において、
    前記ボール材は、圧砕強度が200MPa以上で、かつ破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  12. 請求項11載の耐摩耗性部材において、
    スラスト型軸受試験機を用いて、相手材がJIS G−4805で規定するSUJ2鋼板、一球当りの最大接触応力5.9GPa、回転数1200rpmの条件下で、前記ボール材の表面が剥離するまでの転がり寿命を測定したとき、前記ボール材は400時間以上の転がり寿命を有することを特徴とする耐摩耗性部材。
  13. 請求項1ないし請求項12のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記粒界相は、希土類元素を酸化物に換算して0.5〜10質量%、酸化アルミニウムを0.1〜5質量%、窒化アルミニウムを5質量%以下の範囲で含むことを特徴とする耐摩耗性部材。
  14. 請求項1ないし請求項13のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記窒化ケイ素焼結体は、マグネシウム、ジルコニウム、ハフニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種の化合物を酸化物に換算して0.1〜5質量%の範囲で含有することを特徴とする耐摩耗性部材。
  15. 請求項1ないし請求項14のいずれか1項記載の耐摩耗性部材において、
    前記耐摩耗性部材は転がり軸受部材であることを特徴とする耐摩耗性部材。
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