JP2010281264A - 車両の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数の学習値を好適に学習することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】この装置は、フィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づき学習される学習値とにより補正して点火時期指令値を設定する。基本学習領域についての基本学習値AG[i]と多点学習領域についての多点学習値AGdp[n]とを学習値として定め、各学習値を所定周期毎に実行される学習処理を通じて更新する。基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴があるときに学習が完了したと判断して多点学習値AGdp[n]の学習の実行を許可する優先学習処理と、上限ガード値GDにより基本学習値AG[i]の変更を制限するガード処理とを実行する。上記履歴がない状態で基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったときにも、その学習が完了したと判断して、多点学習値AGdp[n]の学習の実行を許可する(時刻t2)。
【選択図】図8
【解決手段】この装置は、フィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づき学習される学習値とにより補正して点火時期指令値を設定する。基本学習領域についての基本学習値AG[i]と多点学習領域についての多点学習値AGdp[n]とを学習値として定め、各学習値を所定周期毎に実行される学習処理を通じて更新する。基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴があるときに学習が完了したと判断して多点学習値AGdp[n]の学習の実行を許可する優先学習処理と、上限ガード値GDにより基本学習値AG[i]の変更を制限するガード処理とを実行する。上記履歴がない状態で基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったときにも、その学習が完了したと判断して、多点学習値AGdp[n]の学習の実行を許可する(時刻t2)。
【選択図】図8
Description
本発明は、車両運転状態によって区画されるとともに各別に学習値が定められた複数の学習領域が設定されて、特定の学習領域の学習値の学習が完了したことを条件に他の学習領域の学習値の学習が許可される車両の制御装置に関するものである。
車両の制御装置としては、車両パラメータ(例えば自動変速機に供給される作動油圧や、内燃機関の吸入空気量、燃料噴射量、点火時期)を調節するものなど、種々の装置が提案されている。こうした制御装置としては、車両運転状態に基づき設定した制御基本値を車両の実際の状態に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づき学習される学習値とによって補正することにより、上記車両パラメータについての制御目標値を設定するものが知られている。なお、上記学習値は車両の経時変化や個体差に起因して生じるフィードバック補正項とその基準値(例えば「0」)との差分(同フィードバック補正項による補正分)を補償するための値であり、同学習値としては、例えばフィードバック補正項に徐変処理を施した値が算出される。
また上記学習値が設定される装置において、車両運転状態によって区画された複数の学習領域を設定するとともに各学習領域についてそれぞれ学習値を定め、それら学習値の学習を各別に実行するものが提案されている。この装置では、上記差分を補償することの可能な学習値が車両運転領域によって異なる場合に、学習値として、複数の車両運転領域(詳しくは、学習領域)についてそれぞれ上記差分を的確に補償することの可能な値を学習することが可能になる。
さらに学習値が設定される装置において、学習値が異常な値になることを回避するために、学習値についてのガード値(具体的には上限ガード値や下限ガード値など)を定めて同学習値の変更を制限することが多用されている。
また、複数の学習領域のうちの特定の学習領域についての学習値(特定の学習値)の学習が完了したことをもって他の領域についての学習値の学習を許可するといったように、複数の学習値のうちのいずれかを他の学習値より優先して学習する処理(優先学習処理)を実行する装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
ここで、前記ガード値が設定された装置において同ガード値によって学習値の変更が制限される状況になると、ガード値が学習値として設定されるようになって同学習値が変化しなくなる。そのため優先学習処理が実行される装置において、仮に前記特定の学習値が所定回数以上変化したことをもって同特定の学習値の学習が完了したと判断するようにすると、特定の学習値の学習が未完了であるときに同特定の学習値の変更がガード値によって制限された場合にその学習の完了を判断することができなくなってしまう。そして、この場合には特定の学習値を更新することができなくなることはもとより、その他の学習値を更新することができなくなってしまい、それら学習値による学習機能が得られなくなる。
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の学習値の学習を好適に実行することのできる車両の制御装置を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、車両の運転状態に基づき設定した制御基本値を同車両の実際の状態に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づき学習される学習値とにより補正して車両パラメータの制御目標値を設定し、前記学習値を前記車両の運転状態により区画した複数の学習領域について各別に定めて所定周期毎に実行される学習処理を通じて更新し、前記学習値のうちの特定の前記学習領域に対応する特定の学習値が所定回数以上変化した履歴があるときに同特定の学習値の学習が完了したと判断するとともに該学習が完了したと判断したことを条件に前記特定の学習値以外の前記学習値の学習の実行を許可する優先学習処理と、前記特定の学習値についてのガード値を定めて同特定の学習値の変更を制限するガード処理とを実行する車両の制御装置において、前記履歴がない状態で前記特定の学習値が前記ガード値になったときに同特定の学習値の学習が完了したと判断することをその要旨とする。
請求項1に記載の発明は、車両の運転状態に基づき設定した制御基本値を同車両の実際の状態に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づき学習される学習値とにより補正して車両パラメータの制御目標値を設定し、前記学習値を前記車両の運転状態により区画した複数の学習領域について各別に定めて所定周期毎に実行される学習処理を通じて更新し、前記学習値のうちの特定の前記学習領域に対応する特定の学習値が所定回数以上変化した履歴があるときに同特定の学習値の学習が完了したと判断するとともに該学習が完了したと判断したことを条件に前記特定の学習値以外の前記学習値の学習の実行を許可する優先学習処理と、前記特定の学習値についてのガード値を定めて同特定の学習値の変更を制限するガード処理とを実行する車両の制御装置において、前記履歴がない状態で前記特定の学習値が前記ガード値になったときに同特定の学習値の学習が完了したと判断することをその要旨とする。
上記構成によれば、特定の学習値がガード値によって制限されて変化しなくなることによって同特定の学習値の変化回数が所定回数以上にならない場合に、同特定の学習値がガード値になったことによって学習が完了したと判断することができ、この判断を通じて特定の学習値以外の学習値の学習実行を開始することができる。したがって、特定の学習値の変化がガード値によって制限された場合であっても、同特定の学習値以外の学習値の学習を実行することができるようになり、複数の学習値の学習を好適に実行することができるようになる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制御装置において、前記車両パラメータは、駆動源として前記車両に搭載される内燃機関の運転状態の調節に用いられる機関パラメータであることをその要旨とする。
近年、車載内燃機関の吸入空気量や燃料噴射量、点火時期などの機関パラメータは、車両の燃費性能の向上や排気性状の悪化抑制を図るために、その調節が緻密に行われる。そのため、機関パラメータの調節制御が実行される車両の制御装置においては、同機関パラメータについての学習処理や優先学習処理、ガード処理が採用されて実行される可能性が高い。
上記構成によれば、そうした装置において各学習値の学習を好適に実行することができ、それら学習値に基づいて機関パラメータを適正に調節することができるようになる。
なお請求項3によるように、前記機関パラメータとしては内燃機関の点火時期を採用することができ、前記フィードバック補正項としてはノッキングの発生の有無に応じて更新される値を採用することができる。
なお請求項3によるように、前記機関パラメータとしては内燃機関の点火時期を採用することができ、前記フィードバック補正項としてはノッキングの発生の有無に応じて更新される値を採用することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車両の制御装置において、前記複数の学習領域は、いずれも前記内燃機関の運転状態に応じて区画された同内燃機関の経時変化による点火時期への影響のばらつきが大きい第1の学習領域と前記影響のばらつきが小さい第2の学習領域とを含んでなり、前記第1の学習領域は、前記内燃機関の運転状態に応じてさらに区画された複数の多点学習領域からなるとともにそれら多点学習領域毎に前記第1の学習値が設定されてなり、前記第2の学習領域は、前記特定の学習領域であって前記特定の学習値としての第2の学習値が設定されてなり、前記第1の学習領域では前記複数の多点学習領域のうちの現在の前記内燃機関の運転状態が含まれる領域についての前記第1の学習値を更新して、前記第2の学習領域では前記第2の学習値を更新し、前記第1の学習領域では前記第1の学習値および前記第2の学習値によって前記制御基本値を補正して前記制御目標値を設定し、前記第2の学習領域では前記第2の学習値のみによって前記制御基本値を補正して前記制御目標値を設定することをその要旨とする。
上記構成によれば、内燃機関の経時変化(例えば機関燃焼室内へのデポジットの付着)による点火時期への影響のばらつきが大きい第1の学習領域では、同経時変化による点火時期の変化分を補償することの可能な値を第1の学習値として学習することができる。また、上記影響のばらつきが小さい第2の学習領域(特定の学習領域)では、内燃機関の経時変化以外の要因(例えば燃料性状の変化)による点火時期の変化分を補償することの可能な値を第2の学習値(特定の学習値)として学習することができる。そして、そのようしてノッキングの発生要因に応じたかたちで各別に学習された第1の学習値および第2の学習値に基づいて点火時期の制御目標値を設定することにより、点火時期を適正に制御することができるようになる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両の制御装置において、前記優先学習処理における前記履歴があるとの判断を、前記内燃機関の運転を開始するべく運転スイッチが操作された後に前記第2の学習値が前記所定回数以上変化したときにおいて行うことをその要旨とする。
例えばレギュラー燃料が備蓄されていた燃料タンクにハイオク燃料が補給されるなど、それまで備蓄されていた燃料と異なる性状の燃料が燃料タンクに補給されると、その後において内燃機関に供給される燃料の性状が変化してノッキングの発生状況が変化するために、フィードバック補正項が大きく変化するようになる。
上記構成によれば、運転スイッチの操作を通じて燃料補給が行われた可能性があると判断し、その後の所定期間(言い換えれば、内燃機関に供給される燃料の性状変化によってフィードバック補正項が大きく変化する可能性のある期間)にわたって第1の学習値の更新を禁止することができる。そのため、燃料性状の変化に伴う点火時期の変化分が第1の学習値に反映されることを抑えることができる。また、このとき第2の学習値の更新が許容されるために、燃料性状の変化に伴う点火時期の変化分を第2の学習値に反映させることができる。そのため、この第2の学習値によって、燃料性状の変化に起因する点火時期の変化分を第1の学習領域および第2の学習領域ともに補償することができる。しかも、所定期間が経過した後、第1の学習領域において第1の学習値が学習されるようになるために、内燃機関の経時変化によって点火時期が変化すると、その変化分が第1の学習値に反映される。そのため、この第1の学習値によって、内燃機関の経時変化による点火時期の変化分が補償されるようになる。このように上記構成によれば、燃料補給時における機関点火時期の学習を適切に行うことができるようになる。
以下、本発明にかかる車両の制御装置を具体化した一実施の形態について説明する。
図1に、本実施の形態にかかる車両の制御装置の概略構成を示す。
同図1に示すように、内燃機関10の燃焼室11には吸気通路12を通じて空気が吸入されるとともに、燃料噴射弁13から噴射された燃料が供給される。燃料噴射弁13には、燃料タンク14内に備蓄された燃料が燃料ポンプ15によって圧送されている。そして、そうした吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ16による点火が行われると、その混合気が燃焼してピストン17が往復移動し、内燃機関10のクランクシャフト18が回転する。燃焼後の混合気は排気として内燃機関10の燃焼室11から排気通路19に送り出される。なお上記内燃機関10は駆動源として車両に搭載されている。
図1に、本実施の形態にかかる車両の制御装置の概略構成を示す。
同図1に示すように、内燃機関10の燃焼室11には吸気通路12を通じて空気が吸入されるとともに、燃料噴射弁13から噴射された燃料が供給される。燃料噴射弁13には、燃料タンク14内に備蓄された燃料が燃料ポンプ15によって圧送されている。そして、そうした吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ16による点火が行われると、その混合気が燃焼してピストン17が往復移動し、内燃機関10のクランクシャフト18が回転する。燃焼後の混合気は排気として内燃機関10の燃焼室11から排気通路19に送り出される。なお上記内燃機関10は駆動源として車両に搭載されている。
本実施の形態にかかる制御装置は、内燃機関10の運転のための各種制御を実行する電子制御装置30を備えている。この電子制御装置30は、各種制御に関係する各種の演算処理を実行する中央処理装置(CPU)、その演算に必要なプログラムやデータが記憶された不揮発性メモリ(ROM)、CPUの演算結果が一時的に記憶される揮発性メモリ(RAM)、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えている。
電子制御装置30の入力ポートには各種のセンサ類が接続されている。そうしたセンサ類としては、例えばアクセルペダル20の踏み込み量(アクセル踏み込み量AC)を検出するためのアクセルセンサ31や、吸気通路12に設けられたスロットルバルブ21の開度(スロットル開度TA)を検出するためのスロットルセンサ32、内燃機関10におけるノッキングの発生を検出するためのノックセンサ33が設けられている。その他、吸気通路12を通過する空気の量(通路空気量GA)を検出するための空気量センサ34や、クランクシャフト18の回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ35、内燃機関10の運転開始や運転停止に際して乗員によって操作される運転スイッチ36等も設けられている。
電子制御装置30は、各種センサ類の出力信号に基づき、機関回転速度NEや機関負荷KLなどといった内燃機関10の運転状態を把握する。なお機関負荷KLは、アクセル踏み込み量AC、スロットル開度TAおよび通路空気量GAに基づいて求められる内燃機関10の吸入空気量と機関回転速度NEとに基づき算出される。電子制御装置30は、そのようにして把握した内燃機関10の運転状態に応じて、出力ポートに接続された各種の駆動回路に指令信号を出力する。このようにして、電子制御装置30によって内燃機関10の点火時期制御などといった各種制御が実行される。
次に、内燃機関10の点火時期制御について、図2を参照しつつ説明する。
本実施の形態の点火時期制御では、内燃機関10の運転状態等から求められる制御目標値(具体的には、点火時期指令値ST)に基づいて内燃機関10の点火時期が制御され、同点火時期指令値STが小さい値であるときほど内燃機関10の点火時期が遅角側の時期に制御される。
本実施の形態の点火時期制御では、内燃機関10の運転状態等から求められる制御目標値(具体的には、点火時期指令値ST)に基づいて内燃機関10の点火時期が制御され、同点火時期指令値STが小さい値であるときほど内燃機関10の点火時期が遅角側の時期に制御される。
図2に示すように、点火時期指令値STは基本的に、内燃機関10の運転状態に基づき算出されるノック限界点火時期(BT−R)に対して、ノッキングの発生の有無に応じて増減するフィードバック補正項Fによる補正と同フィードバック補正項Fに基づき更新される基本学習値AG[i]による補正とを加えることによって算出される。
ノック限界点火時期(BT−R)としては、ベース点火時期BT(実線L1)からノック余裕代Rを減算した値が算出される。なおベース点火時期BTは、標準的な環境条件下においてノッキングを生じさせない最も進角側の点火時期に相当する値であり、機関負荷KLおよび機関回転速度NEに基づき算出される。また、ノック余裕代Rは、実験等により予め定められた固定値である。
このように算出されるノック限界点火時期(BT−R)は、ベース点火時期BTからノック余裕代Rだけ遅角させた値(破線L2)、言い換えれば、最もノッキングが発生しやすい環境条件下においてノッキングを生じさせない点火時期の範囲における最も進角側の点火時期を表す値となる。なお、上記環境条件としては気温、湿度、大気圧、および機関冷却水温等が挙げることができ、これらの条件に応じて内燃機関10におけるノッキングの発生しやすさが変化する。本実施の形態では、このノック限界点火時期(BT−R)が制御基本値として機能する。
フィードバック補正項Fは、ノックセンサ33の出力信号に基づきノッキングが発生していると判断されたときには予め定められた遅角更新量a分だけ減量されて点火時期を遅角させる一方、ノッキングが発生していないと判断されたときには予め定められた進角更新量b分だけ増量されて点火時期を進角させるといったように機能する値である。このフィードバック補正項Fにより、ノッキング発生時においては点火時期を直ちに遅角させてその発生の抑制が図られ、ノッキングが発生していないときには点火時期を進角させて機関出力の増大が図られる。
基本学習値AG[i]は、機関運転状態(詳しくは、機関負荷KLおよび機関回転速度NE)により区画された複数(本実施の形態では三つ)の基本学習領域i(i=1,2,3)毎に用意されている。図3は、上記基本学習領域iを示したものであり、同図に示す例では機関回転速度NEに応じて三つに区画された基本学習領域i(i=1,2,3)が設定されている。そして点火時期指令値STを算出する際には、基本学習値AG[i]として、そのときどきの機関回転速度NEに対応する基本学習領域iの値が用いられる。この基本学習値AG[i]は、フィードバック補正項Fの変化傾向に基づいて学習更新される。具体的には、上記フィードバック補正項Fに徐変処理を施した値が、そのときどきの機関回転速度NEにより定まる基本学習領域iに対応する新たな基本学習値AG[i]として記憶される。こうした基本学習値AG[i]により、ノッキングの発生を抑制するべく点火時期(具体的には、点火時期指令値ST)が定常的に補正される。なお上記徐変処理は例えば、直前の算出周期において更新された基本学習値AG[i]を「前回学習値」とし、1.0以上の正の数を「n」とすると、関係式[AG[i]={「前回学習値」×(n−1)+「フィードバック補正項F」}/n]を通じて基本学習値AG[i]を算出するといったように実行される。
図2に示すように、点火時期指令値STは、ノック限界点火時期(BT−R)に対して基本学習値AG[i]による補正を加えることにより、通常はノック限界点火時期(BT−R)よりも進角側の時期に相当する値になる。この状態にあって、ノッキング発生の有無に応じてフィードバック補正項Fが増減されると、フィードバック補正項Fの増減分だけ点火時期指令値STが図中に矢印Y1または矢印Y2で示すように増減する。そして、このように増減するフィードバック補正項Fを徐変処理した値が新たな基本学習値AG[i]として記憶されることによって同基本学習値AG[i]の更新が行われる。
ところで、内燃機関10の燃焼室11内にデポジットが付着するなどといった内燃機関10の経時変化が生じた場合に、同内燃機関10においてノッキングが発生しやすくなることがあり、そうした場合には基本学習値AG[i]が減少側の値に更新されるようになる。この場合の基本学習値AG[i]の更新量は、内燃機関10の経時変化に起因して点火時期のノック限界が遅角側の時期に移行する移行量に対応した値となる。したがって、更新後の基本学習値AG[i]を用いて点火時期(直接的にはノック限界点火時期(BT−R))を補正することにより、内燃機関10の経時変化に伴ってノッキングが発生しやすくなるといった不都合の発生が抑えられる。
ただし、内燃機関10の経時変化によるノッキング発生への影響は、同一の基本学習領域i内であっても、その領域i内における更に細かな機関運転領域毎に大きく異なったものとなる可能性がある。そして、そうした場合には、基本学習領域i毎に設定された基本学習値AG[i]のみを用いて点火時期の補正を行うと、同基本学習領域i内における機関運転状態によっては上記基本学習値AG[i]が内燃機関10の経時変化に起因するノッキングの発生を抑制するうえで不適切な値となるおそれがある。詳しくは、ノッキングの発生を抑制するうえで上記基本学習値AG[i]が大きすぎる値となってノッキング発生を効果的に抑制することができなくなったり、上記基本学習値AG[i]が小さすぎる値となって点火時期が過度に遅角側に補正されて内燃機関10の出力低下を招いたりするおそれがある。
本実施の形態では、点火時期指令値STが、ノック限界点火時期(BT−R)、フィードバック補正項F、および合計学習値AGTに基づいて以下の関係式(1)から求められる。
ST=(BT−R)+F+AGT …(1)
なお、関係式(1)における合計学習値AGTは、基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]とに基づいて、以下の関係式(2)から求められる値である。
AGT=AG[i]+AGdp[n] …(2)
関係式(2)における多点学習値AGdp[n]は、内燃機関10の燃焼室11内にデポジットが付着するなどといった内燃機関10の経時変化が生じたときに、ノッキング発生に対する同経時変化の影響のばらつきに応じたかたちで点火時期(具体的には、点火時期指令値ST)を補正するための補正項である。
本実施の形態では、基本学習領域i内の中でもノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化による影響のばらつきが大きい領域に、内燃機関10の運転状態(詳しくは、機関負荷KLおよび機関回転速度NE)に応じて区画された同基本学習領域iよりも更に細かい複数の多点学習領域nが設定されている。そして、上記多点学習値AGdp[n]は、それら多点学習領域n毎に設定されている。
この多点学習値AGdp[n]は、そのときどきの内燃機関10の運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する値がフィードバック補正項Fに基づき更新される。詳しくは、前述した基本学習値AG[i]の更新と同様に、フィードバック補正項Fに徐変処理を施した値を新たな多点学習値AGdp[n]として記憶することにより、同多点学習値AGdp[n]の更新が行われる。
このように多点学習値AGdp[n]を更新することにより、ノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化による影響のばらつきが大きい領域において、そのばらつきに応じて同領域を細分化した多点学習領域n毎の多点学習値AGdp[n]をそれぞれノッキングの発生を抑制するうえで適切な値とすることができる。
なお本実施の形態では、基本的に、そのときどきの内燃機関10の運転状態が多点学習領域n内にあるときには、その多点学習領域nの存在する基本学習領域iの基本学習値AG[i]の更新は行わず、多点学習値AGdp[n]の更新のみが行われる。すなわち、機関運転状態が多点学習領域nのいずれかに含まれる場合には多点学習値AGdp[n]のみが学習され、機関運転状態が多点学習領域n以外の領域に含まれる場合には、基本学習値AG[i]のみが学習される。
そして点火時期指令値STを求める際に、そのときどきの内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域n内のいずれかに含まれるときには、多点学習値AGdp[n]として、同運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する値が用いられる。一方、そのときどきの内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれにも含まれないときには、多点学習値AGdp[n]として「0」が設定される。すなわち、現在の機関運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれにも含まれないときには、多点学習値AGdp[n]を用いることなく点火時期指令値STが算出されて、多点学習値AGdp[n]による点火時期の補正が行われない。
このようにして点火時期指令値STを求めることにより、基本学習領域i内にあってノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化による影響のばらつきが大きい領域(多点学習領域n)では、ノック限界点火時期(BT−R)に対して基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]との双方によって補正が加えられるようになる。
これにより、基本学習領域i内であって内燃機関10の経時変化によるノッキング発生への影響のばらつきが大きい領域においても、その経時変化等に起因する内燃機関10での定常的なノッキングの発生を的確に抑制することができるようになる。言い換えれば、基本学習領域i内であって内燃機関10の経時変化によるノッキング発生への影響のばらつきが大きい領域において、点火時期が適正な時期より進角側に補正されてノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり点火時期が適正な時期より遅角側に補正されて内燃機関10の出力低下を招いたりするといった不具合の発生を抑えることができるようになる。
図3に、上記多点学習領域nの設定態様を示す。
図3に示すように、複数の多点学習領域nは、複数の基本学習領域iのうちの機関回転速度NEの変化方向について最も低回転側に存在する基本学習領域i[i=1]内において、機関負荷KLの変化方向について低負荷側の領域に設定されている。これは、こうした領域において、ノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化に起因する影響の度合いのばらつきが大きくなるためである。そして、この領域が機関回転速度NEの変化方向において4つに区画されるとともに機関負荷KLの変化方向において6つに区画されることにより、同領域には合計で24の多点学習領域n(n=1〜24)が設定されている。なお本実施の形態では、多点学習領域nが第1の学習領域として機能し、多点学習値AGdp[n]が第1の学習値として機能し、基本学習領域i[i=1]の上記多点学習領域nを除く領域が第2の学習領域として機能し、基本学習領域i[i=1]に対応する基本学習値AG[i(i−1)]が第2の学習値として機能する。
図3に示すように、複数の多点学習領域nは、複数の基本学習領域iのうちの機関回転速度NEの変化方向について最も低回転側に存在する基本学習領域i[i=1]内において、機関負荷KLの変化方向について低負荷側の領域に設定されている。これは、こうした領域において、ノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化に起因する影響の度合いのばらつきが大きくなるためである。そして、この領域が機関回転速度NEの変化方向において4つに区画されるとともに機関負荷KLの変化方向において6つに区画されることにより、同領域には合計で24の多点学習領域n(n=1〜24)が設定されている。なお本実施の形態では、多点学習領域nが第1の学習領域として機能し、多点学習値AGdp[n]が第1の学習値として機能し、基本学習領域i[i=1]の上記多点学習領域nを除く領域が第2の学習領域として機能し、基本学習領域i[i=1]に対応する基本学習値AG[i(i−1)]が第2の学習値として機能する。
ここで、内燃機関10の経時変化の有無による点火時期指令値STの変化について、最も低回転側の基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域nとそれ以外の領域との違いを説明する。
図4は、上記基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域n以外の領域において、内燃機関10の経時変化の有無による点火時期指令値STの変化態様の一例を示したものである。なお、同図における実線および二点差線は共に機関回転速度NEが一定の条件のもとでの機関負荷KLの変化に対する点火時期指令値STの推移の一例を示しており、実線は内燃機関10の経時変化なしの条件下での推移の一例を、二点差線は同経時変化ありの条件下での推移の一例をそれぞれ示している。
図4に示すように、基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域n以外の領域では、内燃機関10の経時変化が生じてノッキングが発生しやすくなると、点火時期指令値STが実線で示す状態から二点差線で示す状態へと機関負荷KLの変化方向について一律の幅をもって遅角側に変化する。この点火時期指令値STの遅角側への変化量は、内燃機関10の経時変化の発生に起因するノッキングの発生を抑えるために上記基本学習領域iの基本学習値AG[i]が遅角側に変化した変化分に対応している。そうした基本学習値AG[i]による点火時期の補正を通じて、上記基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域n以外の領域においては、内燃機関10の経時変化によってノッキングが発生しやすくなることを抑制することが可能である。これは、上記領域内においては、ノッキングの発生に対する内燃機関10の経時変化による影響がほぼ一律となるためである。
一方、図5は、上記基本学習領域i[i=1]内における各多点学習領域nの設定された領域(ここでは例えばn=1〜6の多点学習領域nに対応する領域)において、内燃機関10の経時変化の有無による点火時期指令値STの変化を示したものである。なお同図における実線及び破線は共に機関回転速度NE一定の条件のもとでの機関負荷KLの変化に対する点火時期指令値STの推移の一例を示しており、実線は内燃機関10の経時変化なしの条件下での推移の一例を、破線は同経時変化ありの条件下での推移の一例をそれぞれ示している。
図5に示すように、基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域nでは、内燃機関10の経時変化が生じてノッキングが発生しやすくなると、点火時期指令値STが実線で示される状態から破線で示される状態へと機関負荷KL毎に異なる幅をもって遅角側に変化する。この点火時期指令値STの遅角側への変化量には、上記基本学習値AG[i]の遅角側への変化分に加えて、内燃機関10の経時変化の発生に伴うノッキング発生を抑制するために各多点学習領域nの多点学習値AGdp[n]が遅角側に変化した分も含まれている。
本実施の形態では、そうした基本学習領域i[i=1]内にあって各多点学習領域nの設定された領域において、内燃機関10の経時変化によってノッキングが発生しやすくなることを、多点学習値AGdp[n]による点火時期の補正を通じて抑制可能である。これは、ノッキングの発生に対する内燃機関10の経時変化による影響の度合いが多点学習領域n毎に大きくばらつくとしても、そのばらつきを考慮して細分化した多点学習領域n毎の多点学習値AGdp[n]がそれぞれノック発生を抑制するうえで適切な値に更新され、それら多点学習値AGdp[n]を用いて点火時期の補正が行われるためである。
ちなみに、複数の多点学習領域nにおけるノッキングの発生に対する内燃機関10の経時変化による影響は、それら多点学習領域n(図3参照)のうちの機関回転速度NEが低い速度側に設定される領域ほど大きくなる。また、上記影響は、複数の多点学習領域nのうちの特定の機関負荷KL(例えば全ての多点学習領域nを含む機関負荷KLの幅における中央値)を含む領域において最も大きくなり、同領域から遠い領域ほど小さくなる。したがって、各多点学習値AGdp[n]は、内燃機関10の低回転側に位置する多点学習領域nに対応するものほど小さい値になるとともに、特定の機関負荷KLを含む多点学習領域nに近い領域に対応するものほど小さい値になる傾向がある。
ところで、例えばレギュラー燃料が備蓄されていた燃料タンク14にハイオク燃料が補給されるなど、それまで備蓄されていた燃料と異なる性状の燃料が燃料タンク14に補給されると、その後において内燃機関10に供給される燃料の性状が変化してノッキングの発生状況が変化するために、フィードバック補正項Fが大きく変化するようになる。
そのため、単に内燃機関10の運転状態に応じて多点学習値AGdp[n]が学習される状態と同学習が禁止される状態(基本学習値AG[i]が学習される状態)とを切り替えるようにすると、上述したように燃料タンク14内に燃料が補給される際に、以下のような不都合が生じる。すなわち、燃料補給直後における多点学習領域nでの内燃機関10の運転に際して、燃料性状の変化によって点火時期(詳しくは、フィードバック補正項F)が大きく変化するのにもかかわらず、これが内燃機関10の経時変化による点火時期の変化分(具体的には、経時変化による点火時期への影響の度合いのばらつき)を補償するための多点学習値AGdp[n]に反映されてしまう。これは基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]とを共にその補償対象に見合う値に精度良く学習する上で、それを妨げる一因となるために好ましくない。
そのため本実施の形態では、燃料タンク14への燃料補給が行われた可能性の有無が判定され、その可能性が有ると判定されたときに、その後の所定期間にわたって多点学習値AGdp[n]の学習の実行を禁止するとともに基本学習値[i]の学習の実行を許可するとの優先学習処理が実行される。
図6はそうした優先学習処理の具体的な実行手順を示すフローチャートであり、このフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として電子制御装置30により実行される。
同図6に示すように、この処理では先ず、内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれかに含まれるか否かが判断される(ステップS101)。
そして、機関運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれにも含まれない場合には(ステップS101:NO)、フィードバック補正項Fに基づく基本学習値AG[i]の学習が実行される(ステップS102)。その後、予め定められた上限ガード値GDによって基本学習値AG[i]の変更を制限するとのガード処理が実行される(ステップS103およびステップS104)。このガード処理では、詳しくは、ステップS102の処理において算出した基本学習値AG[i]が上限ガード値GDより大きい場合には(ステップS103:YES)、同基本学習値AG[i]として上限ガード値GDが記憶される(ステップS104)。また、ステップS102の処理において算出した基本学習値AG[i]が上限ガード値GD以下であるときには(ステップS103:NO)、同基本学習値AG[i]が上限ガード値に変更されない(ステップS104の処理がジャンプされる)。こうしたガード処理の実行を通じて、基本学習値AG[i]が明らかに異常な値に更新されることが回避されるようになる。
そして、機関運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれにも含まれない場合には(ステップS101:NO)、フィードバック補正項Fに基づく基本学習値AG[i]の学習が実行される(ステップS102)。その後、予め定められた上限ガード値GDによって基本学習値AG[i]の変更を制限するとのガード処理が実行される(ステップS103およびステップS104)。このガード処理では、詳しくは、ステップS102の処理において算出した基本学習値AG[i]が上限ガード値GDより大きい場合には(ステップS103:YES)、同基本学習値AG[i]として上限ガード値GDが記憶される(ステップS104)。また、ステップS102の処理において算出した基本学習値AG[i]が上限ガード値GD以下であるときには(ステップS103:NO)、同基本学習値AG[i]が上限ガード値に変更されない(ステップS104の処理がジャンプされる)。こうしたガード処理の実行を通じて、基本学習値AG[i]が明らかに異常な値に更新されることが回避されるようになる。
一方、機関運転状態が複数の多点学習領域nのいずれかに含まれる場合には(ステップS101:YES)、許可フラグがオン操作されているか否かが判断される(ステップS105)。この許可フラグは、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作されたときに「オフ状態」のフラグであり、同運転スイッチ36の操作後に基本学習値AG[i(i−1)]が所定回数(例えば20回)以上変化したときにオン操作されるフラグである。そして、上記許可フラグがオフ状態である場合には(ステップS105:NO)、このときの機関運転状態が多点学習領域nに含まれるとはいえ、同多点学習領域nが含まれる基本学習領域i[i=1]に対応する基本学習値AG[i(i−1)]が学習されるとともに上記ガード処理が実行される(ステップS102〜ステップS104)。これに対して、許可フラグがオン操作されている場合には(ステップS105:YES)、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了しているとして、このときの機関運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する多点学習値AGdp[n]が学習される。
こうした優先学習処理を実行することにより以下のような作用効果が得られる。
通常、燃料タンク14への燃料補給は内燃機関10の運転を停止させた状態で行われるために、運転スイッチ36の操作による内燃機関10の運転開始時においては、その直前において燃料タンク14への燃料補給が行われた可能性があると云える。
通常、燃料タンク14への燃料補給は内燃機関10の運転を停止させた状態で行われるために、運転スイッチ36の操作による内燃機関10の運転開始時においては、その直前において燃料タンク14への燃料補給が行われた可能性があると云える。
本実施の形態では、内燃機関10の運転を開始するべく乗員によって運転スイッチ36が操作された後における基本学習値AG[i(i−1)]の変化回数が所定回数CT未満である場合に、機関運転状態が多点学習領域nであっても、同多点学習領域nが含まれる基本学習領域AG[i(i−1)]に対応する基本学習値AG[i(i=1)]の学習が実行される。この場合には、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作されたために燃料タンク14への燃料補給が行われた可能性があり、内燃機関10に供給される燃料の性状が大きく変化する可能性があるとして、所定期間にわたって多点学習値AGdp[n]の学習が禁止されて、基本学習値AG[i]の学習が優先的に実行される。
これにより、異なる性状の燃料が燃料タンク14に補給されたときに、その後の所定期間(言い換えれば、内燃機関10に供給される燃料の性状変化によってフィードバック補正項Fが変化するおそれのある期間)にわたって多点学習値AGdp[n]の学習を禁止することができる。そのため、燃料性状の変化に伴う点火時期の変化分が多点学習値AGdp[n]に反映されることを抑えることができる。また、このとき基本学習値AG[i]の学習が許容されるために、燃料性状の変化に伴う点火時期の変化分が同基本学習値AG[i]に反映される。そのため、基本学習値AG[i]により、燃料性状の変化に起因する点火時期の変化分が多点学習領域nおよびそれ以外の領域ともに補償されるようになる。さらに、本実施の形態では、多点学習値AGdp[n]の学習禁止時に、多点学習領域nにおけるフィードバック補正項Fに基づく基本学習値AG[i(i=1)]の学習が実行される。そのため、多点学習値AGdp[n]の更新が禁止される期間において基本学習値AG[i]の学習が実行されない比較例の装置と比較して、内燃機関10に供給される燃料の性状変化に伴う点火時期の変化分を基本学習値AG[i(i=1)]に早期に反映させることができる。
しかも、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断された後においては、多点学習領域nにおける多点学習値AGdp[n]の学習が実行されるようになるために、内燃機関10の経時変化によって点火時期が変化すると、その変化分が多点学習値AGdp[n]に反映されるようになる。そのため、この多点学習値AGdp[n]によって、内燃機関10の経時変化による点火時期の変化分が補償されるようになる。
このように本実施の形態では、燃料補給時において基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]とを共にその補償対象の変化に見合う値に適切に学習することができ、点火時期の学習を適切に行うことができる。
ここで、前述したガード処理(図6のステップS103およびS104参照)において基本学習値AG[i(i=1)]の変更が上限ガード値GDによって制限される状況になると、同上限ガード値GDが基本学習値AG[i(i=1)]として設定されるようになって該基本学習値AG[i(i=1)]が変化しなくなる。本実施の形態では、前述のように基本学習値AG[i(i=1)]の学習完了が、同基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化したことをもって判断される。そのため、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が未完了であるときに同基本学習値AG[i(i=1)]の変更が上限ガード値GDによって制限されて基本学習値AG[i(i=1)]が変化しなくなると、基本学習値AG[i(i=1)]の学習完了を判断することができなくなってしまう。この場合には、基本学習値AG[i(i=1)]を更新することができなくなることはもとより、多点学習値AGdp[n]を更新することもできなくなってしまい、それら基本学習値AG[i(i=1)]および多点学習値AGdp[n]による学習機能が得られなくなる。
この点をふまえて本実施の形態では、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作された後に基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴がない状態で同基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったときに、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断して許可フラグをオン操作するようにしている。
これにより、基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDによって制限されて変化しなくなることによって同基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT以上にならない場合であっても、基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったことによって学習が完了したと判断されるようになる。そして、この判断を通じて多点学習値AGdp[n]の学習実行を開始することができるようになる。そのため、基本学習値AG[i(i=1)]および多点学習値AGdp[n]の学習を好適に実行することができるようになる。
以下、基本学習値AG[i(i=1)]の学習完了を判断する処理、詳しくは許可フラグを操作する処理(フラグ操作処理)について図7および図8を参照しつつ詳細に説明する。
なお図7はフラグ操作処理の具体的な実行手順を示すフローチャートであり、このフローチャートに示される一連の処理は所定周期毎の処理として電子制御装置30により実行される。また図8はフラグ操作処理の実行態様の一例を示すタイミングチャートである。
このフラグ操作処理では先ず、内燃機関10の運転を開始するべく乗員によって運転スイッチ36が操作されると(図8の時刻t1)、その後において基本学習値AG[i(i=1)]が変化した回数が前記所定回数CT以上であるか否かが判断される(図7のステップS201)。
基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT未満である場合には(ステップS201:NO)、同基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDであるか否かが判断される(ステップS202)。そして基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになっていない場合には(ステップS202:NO、図8の時刻t1〜t2)、未だ基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了していないとして許可フラグはオン操作されない。
その後、本処理が繰り返し実行されて、基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が前記所定回数CT未満の状態で(図7のステップS201:NO)、上限ガード値GDに制限されることによって基本学習値AG[i(i=1)]が同上限ガード値GDになると(ステップS202:YES)、許可フラグがオン操作される(ステップS203、図8の時刻t2)。この場合、基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴がない状態、すなわち基本学習値AG[i(i=1)]の学習が未完了の状態で該基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったとして、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断され、多点学習値[n]の学習が許可されるようになる。
図8中に一点鎖線で併せ示すように、基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上になったときにおいてのみ許可フラグがオン操作される比較例の装置では、基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになって同基本学習値AG[i(i=1)]が変化しなくなると許可フラグがオン操作されない。そのため、以後において基本学習値AG[i(i=1)]および多点学習値AGdp[n]の学習を共に実行することができなくなってしまう。この点、本実施の形態では、そうした場合において許可フラグがオン操作されて多点学習値AGdp[n]の実行が許可されるために(時刻t2)、同多点学習値AGdp[n]をノッキングの発生を抑える上で適切な値に更新することができるようになる。
なお、上述したような状況(図7のステップS201:NO、かつステップS202:YES)に限らず、基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT以上になった場合にも(ステップS201:YES)、同基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断されて許可フラグがオン操作される(ステップS203)。これにより、以後において多点学習値[n]の学習が許可されるようになる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作された後に基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴がない状態で同基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったときに、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断するようにした。そのため、基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDによって制限されて変化しなくなることによって同基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT以上にならない場合であっても、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断し、その判断を通じて多点学習値AGdp[n]の学習実行を開始することができるようになる。したがって、基本学習値AG[i(i=1)]および多点学習値AGdp[n]の学習を好適に実行することができるようになる。
(1)内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作された後に基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴がない状態で同基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDになったときに、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断するようにした。そのため、基本学習値AG[i(i=1)]が上限ガード値GDによって制限されて変化しなくなることによって同基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT以上にならない場合であっても、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断し、その判断を通じて多点学習値AGdp[n]の学習実行を開始することができるようになる。したがって、基本学習値AG[i(i=1)]および多点学習値AGdp[n]の学習を好適に実行することができるようになる。
(2)内燃機関10の経時変化によるノッキング発生への影響のばらつきが大きい多点学習領域nでは、同経時変化による点火時期の変化分を補償することの可能な値を各多点学習値AGdp[n]として学習することができる。また、上記影響のばらつきが小さい基本学習領域iでは、内燃機関10の経時変化以外の要因による点火時期の変化分を補償することの可能な値を基本学習値AG[i]として学習することができる。そして、そのようしてノッキングの発生要因に応じたかたちで各別に学習された多点学習値AGdp[n]および基本学習値AG[i]に基づいて点火時期指令値STを設定することにより、点火時期を適正に制御することができるようになる。
(3)内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作されてから基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴があるときに、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断するようにした。そのため、燃料補給時において基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]とを共にその補償対象の変化に見合う値に適切に学習することができ、点火時期の学習を適切に行うことができる。
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上限ガード値GDに代えて、あるいは加えて、基本学習値AG[i]の変更を制限するための下限ガード値を設定するようにしてもよい。こうした構成においては、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作された後に基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴がない状態で同基本学習値AG[i(i=1)]が下限ガード値になったときに、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断して許可フラグをオン操作すればよい。同構成によれば、基本学習値AG[i(i=1)]が下限ガード値によって制限されて変化しなくなることによって同基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT以上にならない場合であっても、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断し、その判断を通じて多点学習値AGdp[n]の学習実行を開始することができるようになる。
・上限ガード値GDに代えて、あるいは加えて、基本学習値AG[i]の変更を制限するための下限ガード値を設定するようにしてもよい。こうした構成においては、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作された後に基本学習値AG[i(i=1)]が所定回数CT以上変化した履歴がない状態で同基本学習値AG[i(i=1)]が下限ガード値になったときに、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断して許可フラグをオン操作すればよい。同構成によれば、基本学習値AG[i(i=1)]が下限ガード値によって制限されて変化しなくなることによって同基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数が所定回数CT以上にならない場合であっても、基本学習値AG[i(i=1)]の学習が完了したと判断し、その判断を通じて多点学習値AGdp[n]の学習実行を開始することができるようになる。
・基本学習値AG[i(i=1)]の変化回数を判定する期間は、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ36が操作された直後の所定期間に限らず、例えばフューエルキャップが操作された直後の所定期間など、任意に変更することができる。
・機関運転状態により区画された複数の学習領域毎に学習値が定められ、特定の学習領域に対応する学習値(特定の学習値)が所定回数以上変化したことを条件に他の学習領域に対応する学習値の学習の実行が許可される装置であれば、上記実施の形態にかかる制御装置は適用することができる。そうした制御装置としては、例えば多点学習領域nおよび多点学習値AGdp[n]が設定されない装置や、基本学習領域iとして一つの領域のみが設定される装置などを挙げることができる。
・本発明は、点火時期制御を実行する装置に限らず、内燃機関の運転状態の調節に用いられる機関パラメータであって点火時期以外の機関パラメータ(例えば内燃機関の吸入空気量や燃料噴射量など)を調節する調節制御を実行する装置にも適用することができる。近年、車載内燃機関の吸入空気量や燃料噴射量、点火時期などの機関パラメータは、車両の燃費性能の向上や排気性状の悪化抑制を図るために、その調節が緻密に行われる。そのため、そうした機関パラメータの調節制御が実行される車両の制御装置では、同機関パラメータについての学習処理や優先学習処理、ガード処理が採用されて実行される可能性が高い。上記構成によれば、そうした装置において複数の学習値の学習を好適に実行することができ、それら学習値に基づいて機関パラメータを適正に調節することができるようになる。
・本発明は、機関パラメータの調節制御を実行する装置の他、例えば車両に搭載された自動変速機の作動油圧などの車両パラメータを調節する調節制御を実行する装置にも適用することができる。
10…内燃機関、11…燃焼室、12…吸気通路、13…燃料噴射弁、14…燃料タンク、15…燃料ポンプ、16…点火プラグ、17…ピストン、18…クランクシャフト、19…排気通路、20…アクセルペダル、21…スロットルバルブ、30…電子制御装置、31…アクセルセンサ、32…スロットルセンサ、33…ノックセンサ、34…空気量センサ、35…クランクセンサ、36…運転スイッチ。
Claims (5)
- 車両の運転状態に基づき設定した制御基本値を同車両の実際の状態に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づき学習される学習値とにより補正して車両パラメータの制御目標値を設定し、前記学習値を前記車両の運転状態により区画した複数の学習領域について各別に定めて所定周期毎に実行される学習処理を通じて更新し、前記学習値のうちの特定の前記学習領域に対応する特定の学習値が所定回数以上変化した履歴があるときに同特定の学習値の学習が完了したと判断するとともに該学習が完了したと判断したことを条件に前記特定の学習値以外の前記学習値の学習の実行を許可する優先学習処理と、前記特定の学習値についてのガード値を定めて同特定の学習値の変更を制限するガード処理とを実行する車両の制御装置において、
前記履歴がない状態で前記特定の学習値が前記ガード値になったときに同特定の学習値の学習が完了したと判断する
ことを特徴とする車両の制御装置。 - 請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記車両パラメータは、駆動源として前記車両に搭載される内燃機関の運転状態の調節に用いられる機関パラメータである
ことを特徴とする車両の制御装置。 - 請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記機関パラメータは前記内燃機関の点火時期であり、前記フィードバック補正項はノッキングの発生の有無に応じて更新される値である
ことを特徴とする車両の制御装置。 - 請求項3に記載の車両の制御装置において、
前記複数の学習領域は、いずれも前記内燃機関の運転状態に応じて区画された同内燃機関の経時変化による点火時期への影響のばらつきが大きい第1の学習領域と前記影響のばらつきが小さい第2の学習領域とを含んでなり、
前記第1の学習領域は、前記内燃機関の運転状態に応じてさらに区画された複数の多点学習領域からなるとともにそれら多点学習領域毎に前記第1の学習値が設定されてなり、
前記第2の学習領域は、前記特定の学習領域であって前記特定の学習値としての第2の学習値が設定されてなり、
前記第1の学習領域では前記複数の多点学習領域のうちの現在の前記内燃機関の運転状態が含まれる領域についての前記第1の学習値を更新して、前記第2の学習領域では前記第2の学習値を更新し、
前記第1の学習領域では前記第1の学習値および前記第2の学習値によって前記制御基本値を補正して前記制御目標値を設定し、前記第2の学習領域では前記第2の学習値のみによって前記制御基本値を補正して前記制御目標値を設定する
ことを特徴とする車両の制御装置。 - 請求項4に記載の車両の制御装置において、
前記優先学習処理における前記履歴があるとの判断を、前記内燃機関の運転を開始するべく運転スイッチが操作された後に前記第2の学習値が前記所定回数以上変化したときにおいて行う
ことを特徴とする車両の制御装置。
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2009
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