本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態においては、電動機駆動装置1が、三相交流により動作する交流電動機としての埋込磁石構造の同期電動機4(IPMSM、以下単に「電動機4」という。)を駆動する装置として構成されている場合を例として説明する。この電動機4は、必要に応じて発電機としても動作するように構成されている。この電動機4は、例えば、電動車両やハイブリッド車両等の駆動力源として用いられる。電動機駆動装置1は、直流電圧Vdcを交流に変換して電動機4に供給するインバータ6を有して構成されている。そして、本実施形態では、図2に示すように、制御装置2は、ベクトル制御の手法を用いて電動機駆動装置1の制御を行う。この際、制御装置2は、インバータ6に最大トルク制御と共にPWM(パルス幅変調)制御を行わせる第一制御モードと、インバータ6に弱め界磁制御と共に矩形波制御を行わせる第二制御モードとを備え、更に、一定の条件下で、第一制御モードに代えて強め界磁制御と共に矩形波制御をインバータ6に行わせる第三制御モードを備える点に特徴を有している。以下、本実施形態に係る電動機駆動装置1及びその制御装置2について詳細に説明する。
1.電動機駆動装置の構成
まず、本実施形態に係る電動機駆動装置1の構成について図1に基づいて説明する。この電動機駆動装置1は、直流電圧Vdcを交流電圧に変換して電動機4に供給するインバータ6を備えている。また、電動機駆動装置1は、直流電圧Vdcを発生させる直流電源3と、直流電源3からの直流電圧Vdcを平滑化する平滑コンデンサC1と、を備えている。直流電源3としては、例えば、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の各種二次電池、キャパシタ、或いはこれらの組合せ等が用いられる。直流電源3の電圧である直流電圧Vdcは、電圧センサ41により検出されて制御装置2へ出力される。
インバータ6は、直流の直流電圧Vdcを交流電圧に変換して電動機4に供給するための装置であり、本発明における直流交流変換部に相当する。インバータ6は、複数組のスイッチング素子E1〜E6と、ダイオードD1〜D6と、を備えている。ここでは、インバータ6は、電動機4の各相(U相、V相、W相の3相)のそれぞれについて一対のスイッチング素子、具体的には、U相用上アーム素子E1及びU相用下アーム素子E2、V相用上アーム素子E3及びV相用下アーム素子E4、並びにW相用上アーム素子E5及びW相用下アーム素子E6を備えている。これらのスイッチング素子E1〜E6として、本例では、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いる。各相用の上アーム素子E1、E3、E5のエミッタと下アーム素子E2、E4、E6のコレクタとが、電動機4の各相のコイルにそれぞれ接続されている。また、各相用の上アーム素子E1、E3、E5のコレクタはシステム電圧線51に接続され、各相用の下アーム素子E2、E4、E6のエミッタは負極線52に接続されている。また、各スイッチング素子E1〜E6には、それぞれフリーホイールダイオードとして機能するダイオードD1〜D6が並列接続されている。なお、スイッチング素子E1〜E6としては、IGBTの他に、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。
スイッチング素子E1〜E6のそれぞれは、制御装置2から出力されるスイッチング制御信号S1〜S6に従ってオンオフ動作を行う。これにより、インバータ6は、直流電圧Vdcを交流電圧に変換して電動機4に供給し、目標トルクTMに応じたトルクを電動機4に出力させる。この際、各スイッチング素子E1〜E6は、スイッチング制御信号S1〜S6に従って、後述するPWM(パルス幅変調)制御又は矩形波制御に従ったスイッチング動作を行う。本実施形態では、スイッチング制御信号S1〜S6は、各スイッチング素子E1〜E6のゲートを駆動するゲート駆動信号である。一方、電動機4が発電機として機能する際には、発電された交流電圧を直流電圧に変換してシステム電圧線51に供給する。インバータ6と電動機4の各相のコイルとの間を流れる各相電流、具体的には、U相電流Iur、V相電流Ivr、及びW相電流Iwrは、電流センサ42により検出されて制御装置2へ出力される。
また、電動機4のロータの各時点での磁極位置θは、回転センサ43により検出されて制御装置2へ出力される。回転センサ43は、例えばレゾルバ等により構成される。ここで、磁極位置θは、電気角上でのロータの回転角度を表している。電動機4の目標トルクTMは、図示しない車両制御装置等の他の制御装置等からの要求信号として制御装置2に入力される。
2.制御装置の構成
次に、図1に示される制御装置2の機能について、図2〜図5を用いて詳細に説明する。以下に説明する制御装置2の各機能部は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うためのハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により構成されている。上記のとおり、制御装置2には、目標トルクTM及び磁極位置θが入力される。そこで、制御装置2は、これらの目標トルクTM、磁極位置θ、及び磁極位置θから導出される電動機4の回転速度ωに応じて電動機4を駆動するためのスイッチング制御信号S1〜S6を生成して出力し、インバータ6を駆動する。この際、制御装置2は、目標トルクTM及び回転速度ωに基づいて定まる交流電圧指令値Vd、Vqに基づいて、直流電圧Vdcに対する交流電圧指令値Vd、Vqの大きさを表す電圧指標としての変調率偏差Δm(後述する式(5)参照)を導出し、当該変調率偏差Δmに基づいてインバータ6に複数の制御モードのいずれかを実行させる。
本実施形態においては、制御装置2は、インバータ6における直流−交流変換に際して、インバータ6に最大トルク制御と共にPWM制御を行わせる第一制御モードと、インバータ6に弱め界磁制御と共に矩形波制御を行わせる第二制御モードと、インバータ6に強め界磁制御と共に矩形波制御を行わせる第三制御モードと、のいずれかを実行する。これらの各制御モードに係る制御方法には、インバータ6から電動機4に供給する交流電圧の波形に関してPWM制御及び矩形波制御の2つがあり、インバータ6から電動機4に供給する交流電流の位相に関して最大トルク制御、弱め界磁制御、及び強め界磁制御の3つがある。制御装置2が実行する3つのモードはこれらを組み合わせて構成されている。
本実施形態では、PWM制御には、正弦波PWM制御と過変調PWM制御の2つの制御方式が含まれる。正弦波PWM制御では、インバータ6の各スイッチング素子E1〜E6のオンオフを、正弦波状の電圧指令値Vu、Vv、Vwと搬送波との比較に基づいて制御する。具体的には、U、V、Wの各相のインバータ6の出力電圧波形が、上アーム素子E1、E3、E5がオン状態となるハイレベル期間と、下アーム素子E2、E4、E6がオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成されると共に、その基本波成分が一定期間で正弦波となるように、各パルスのデューティ比を制御する。直流電圧Vdcに対するインバータ6の出力電圧波形の基本波成分の実効値の比率を変調率m(後述する式(4)参照)とすると、正弦波PWM制御では、変調率mは0〜0.61の範囲で変化させることができる。
過変調PWM制御では、正弦波PWM制御に比べて各パルスのデューティ比を基本波成分の山側で大きく谷側で小さくすることにより、インバータ6の出力電圧波形の基本波成分の波形を歪ませて振幅が正弦波PWM制御よりも大きくなるように制御する。過変調PWM制御では、変調率mは0.61〜0.78の範囲で変化させることができる。この過変調PWM制御において変調率mを最大の0.78まで高めた状態が矩形波制御となる。矩形波制御では、U、V、Wの各相のインバータ6の出力電圧波形が、1周期につき前記ハイレベル期間と前記ローレベル期間とが1回ずつ交互に表れるとともにこれらのハイレベル期間とローレベル期間との比が1:1の矩形波となるように制御する。これにより、矩形波制御は、インバータ6に矩形波状電圧を出力させる。矩形波制御では、変調率mは0.78で固定される。
ところで、電動機4は、回転速度ωが高くなるに従って誘起電圧が高くなり、電動機4を駆動するために必要となる交流電圧(以下「必要電圧」という。)も高くなる。そして、この必要電圧が、そのときの直流電圧Vdcを変換してインバータ6から出力し得る最大の交流電圧(以下「最大出力電圧」という。)を超えると、コイルに必要な電流を流すことができなり、電動機4を適切に制御することができない。そこで、本実施形態では、電動機4の必要電圧に応じてPWM制御(正弦波PWM制御又は過変調PWM制御)における変調率mを0〜0.78の範囲で変化させつつ、その範囲内での最大出力電圧より電動機4の必要電圧が低い状態ではPWM制御と共に最大トルク制御を行う。この状態が第一制御モードである。そして、電動機4の必要電圧が、PWM制御の最大変調率(m=0.78)での最大出力電圧に達すると矩形波制御と共に弱め界磁制御を行う。この状態が第二制御モードである。ここで、最大トルク制御は、同一電流に対して電動機4の出力トルクが最大となるように電流位相を調節する制御である。また、弱め界磁制御は、電動機4の界磁磁束を弱める方向の磁束がコイルから発生するように電流位相を調節する(電流位相を最大トルク制御よりも進める)制御である。
更に、本実施形態においては、PWM制御における最大変調率(m=0.78)での最大出力電圧より電動機4の必要電圧が低い状態でも、後述する所定の矩形波制御許可条件を満たす場合には、PWM制御に代えて矩形波制御をインバータ6に行わせる。そして、このような矩形波制御に際しては、制御装置2は、電動機4の界磁磁束を強める強め界磁制御を併せて行う。この状態が第三制御モードである。強め界磁制御は、電動機4の界磁磁束を強める方向の磁束がコイルから発生するように電流位相を調節する(電流位相を最大トルク制御よりも遅らせる)制御である。なお、上記の必要電圧及び最大出力電圧は、共に交流電圧の実効値として互いに比較することができる。
図3は、回転速度ωと目標トルクTMとにより規定される電動機4の動作可能領域の中における、第一制御モードが実行される第一領域A1と、第二制御モードが実行される第二領域A2と、第三制御モードが実行される第三領域A3とを示した図である。図3において、曲線L1は、最大トルク制御中における変調率mが最大変調率(すなわち矩形波制御となる変調率m=0.78)となる電動機4の回転速度ω及びトルクにより定まる線であり、曲線L2は、最大トルク制御中における変調率mが前記最大変調率より低い変調率m(例えばM=0.71)となる電動機4の回転速度ω及びトルクにより定まる線である。図3に示すように、第一領域A1は曲線L1よりも低回転側に設定され、第二領域A2は曲線L1よりも高回転側に設定されている。第三領域は、曲線L1よりも低回転側であって曲線L2よりも高回転側の所定領域内に設定されている。上記のとおり、電動機4の回転速度ωが高くなるに従って誘起電圧が高くなるため、電動機4の必要電圧もこれに応じて高くなる。そこで、制御装置2に入力された目標トルクTMとそのときの電動機4の回転速度ωとにより定まる動作点が、曲線L1よりも高回転側の領域A2内に位置する場合には矩形波制御及び弱め界磁制御を行う第二制御モードが実行される。一方、当該動作点が、曲線L1よりも低回転側の領域内に位置する場合には、基本的には最大トルク制御及びPWM制御を行う第一制御モードが実行されるが(領域A1)、曲線L1に近い比較的高回転の領域A3内では強め界磁制御及び矩形波制御を行う第三制御モードが実行される。このような第三制御モードを設定していることにより、電動機4の動作可能領域の中における矩形波制御の領域が拡大されている。なお、各制御モード間の境界については後で詳細に説明する。
次に、図2に示す制御装置2の機能ブロック図に基づいて、制御装置2の機能について説明する。図2に示すように、d軸電流指令値導出部21には、目標トルクTMが入力される。d軸電流指令値導出部21は、入力された目標トルクTMに基づいて基本d軸電流指令値Idbを導出する。ここで、基本d軸電流指令値Idbは、最大トルク制御を行う場合におけるd軸電流の指令値に相当する。本実施形態では、d軸電流指令値導出部21は、図4に示す基本d軸電流指令値テーブルを用いて、目標トルクTMの値に応じた基本d軸電流指令値Idbを導出する。図示の例では、目標トルクTMとして「tm1」の値が入力された場合には、これに応じて、d軸電流指令値導出部21は、基本d軸電流指令値Idbとして「Id1」を導出する。同様に、d軸電流指令値導出部21は、目標トルクTMとして「tm3」、「tm5」の値が入力された場合には、基本d軸電流指令値Idbとして「Id3」、「Id5」をそれぞれ導出する。このように導出された基本d軸電流指令値Idbは、加算器23へ入力される。加算器23には、更に、後述する積分器32により導出されたd軸電流調整指令値ΔIdが入力される。加算器23は、下記の式(1)に示すように、基本d軸電流指令値Idbにd軸電流調整指令値ΔIdを加算し、最終的なd軸電流指令値Idを導出する。
Id=Idb+ΔId・・・(1)
q軸電流指令値導出部22には、目標トルクTM及びd軸電流調整指令値ΔIdが入力される。q軸電流指令値導出部22は、入力された目標トルクTMとd軸電流調整指令値ΔIdとに基づいてq軸電流指令値Iqを導出する。本実施形態では、q軸電流指令値導出部22は、図5に示すq軸電流指令値テーブルを用いて、目標トルクTM及びd軸電流調整指令値ΔIdの値に応じたq軸電流指令値Iqを導出する。図5において、細い実線は、tm1〜tm5の各トルクを出力するためのd軸電流及びq軸電流の値を示す等トルク線61であり、太い実線は最大トルク制御を行うためのd軸電流及びq軸電流の値を示す最大トルク制御線62である。また、図5において、太い一点鎖線は、そのときの電動機4の回転速度ω及び直流電圧Vdcにより制限されるd軸電流及びq軸電流が取り得る値の範囲を示す電圧制限楕円63である。この電圧制限楕円63の径は、電動機4の回転速度ωに反比例し、直流電圧Vdcに比例する。d軸電流指令値Id及びq軸電圧指令値Vqがこの電圧制限楕円63上の値をとる際には、変調率mは最大(m=0.78)となる。このとき、制御装置2はインバータ6に矩形波制御を行わせる。
また、図5にハッチングを施して示す領域A3は、強め界磁制御及び矩形波制御を行う第三制御モードが実行される領域を示している。この第三制御モードが実行される領域A3の上限は最大トルク制御線62が電圧制限楕円63と交差する点で規定される。また、この領域A3の下限は矩形波制御を行うための正のd軸電流調整指令値ΔId(強め界磁電流指令値)の大きさで規定され、ここでは図5に示される最大トルク制御線62上から電圧制限楕円63上に移行するためのd軸電流調整指令値ΔIdが所定の終了しきい値ΔIds未満である領域として規定される。言い換えれば、領域A3は、d軸電流調整指令値ΔIdがゼロより大きく終了しきい値ΔIds未満の領域として規定される(0<ΔId<ΔIds)。ここで、終了しきい値ΔIdsは、第三制御モード(強め界磁制御及び矩形波制御)を終了するためのd軸電流調整指令値ΔIdのしきい値であり、矩形波制御によるスイッチング損失の低減に伴う効率向上が強め界磁電流の増大(強め界磁の程度の増大)による効率低下を上回る範囲内に設定すると好適である。
図示の例では、目標トルクTMとして「tm1」の値が入力された場合には、q軸電流指令値導出部22は、目標トルクTM=tm1の等トルク線61と最大トルク制御線62との交点のq軸電流の値である「Iq1」をq軸電流指令値Iqとして導出する。この場合、弱め界磁制御及び強め界磁制御の双方が行われず、後述する積分器32から入力されるd軸電流調整指令値ΔIdはゼロ(ΔId=0)である。このとき制御装置2は、第一制御モードを実行し、インバータ6に最大トルク制御及びPWM制御を行わせる。
また、目標トルクTMとして「tm3」の値が入力された場合には、q軸電流指令値導出部22は、目標トルクTM=tm3の等トルク線61と最大トルク制御線62との交点のq軸電流の値である「Iq3」を基本q軸電流指令値として導出する。ここで、基本q軸電流指令値は、最大トルク制御を行う場合におけるd軸電流の指令値に相当する。この際、基本d軸電流指令値Idb及び基本q軸電流指令値Iqは、第三制御モードが実行される領域A3内に入っており強め界磁制御が行われるため、d軸電流調整指令値ΔIdとして正の値、ここでは「ΔId1」(ΔId1>0)が後述する積分器32から入力される。従って、q軸電流指令値導出部22は、目標トルクTM=tm3の等トルク線61に沿ってd軸の正方向に「ΔId1」だけ移動した電圧制限楕円63上のq軸電流の値である「Iq4」をq軸電流指令値Iqとして導出する。このとき制御装置2は、第三制御モードを実行し、インバータ6に強め界磁制御及び矩形波制御を行わせる。
また、目標トルクTMとして「tm5」の値が入力された場合には、q軸電流指令値導出部22は、目標トルクTM=tm5の等トルク線61と最大トルク制御線62との交点のq軸電流の値である「Iq5」を基本q軸電流指令値として導出する。この際、基本d軸電流指令値Idb及び基本q軸電流指令値は、電圧制限楕円63よりも外側にあり弱め界磁制御が行われるため、d軸電流調整指令値ΔIdとして負の値、ここでは「−ΔId2」(−ΔId2<0)が後述する積分器32から入力される。従って、q軸電流指令値導出部22は、目標トルクTM=tm5の等トルク線61に沿ってd軸の負方向に「−ΔId2」だけ移動した電圧制限楕円63上のq軸電流の値である「Iq6」をq軸電流指令値Iqとして導出する。このとき制御装置2は、第二制御モードを実行し、インバータ6に弱め界磁制御及び矩形波制御を行わせる。
なお、図5のq軸電流指令値テーブルにより求められる基本q軸電流指令値(Iq1、Iq3、Iq5)に対応するd軸電流の値(Id1、Id3、Id5)は、図4に示す基本d軸電流指令値テーブルを用いて求められる基本d軸電流指令値Idbの値と一致し、このd軸電流の値(Id1)からd軸電流調整指令値ΔId(0、ΔId1、−ΔId2)を加算して求められるd軸電流の値(Id2)は、加算器23により導出される最終的なd軸電流指令値Id(=Idb+ΔId)と一致する。よって、d軸電流指令値Idをこの図5に示すテーブルにより求めることも可能である。
電流制御部24には、上記のように導出されたd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqが入力される。更に、電流制御部24には、三相二相変換部27から実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrが入力され、回転速度導出部28から電動機4の回転速度ωが入力される。実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrは、電流センサ42(図1参照)により検出されたU相電流Iur、V相電流Ivr、及びW相電流Iwrと回転センサ43(図1参照)により検出された磁極位置θとに基づいて、三相二相変換部27により三相二相変換を行って導出される。また、電動機4の回転速度ωは、回転センサ43(図1参照)により検出された磁極位置θに基づいて回転速度導出部28により導出される。
電流制御部24は、d軸電流指令値Idと実d軸電流Idrとの偏差であるd軸電流偏差δId、及びq軸電流指令値Iqと実q軸電流Iqrとの偏差であるq軸電流偏差δIqを導出する。そして、電流制御部24は、d軸電流偏差δIdに基づいて比例積分制御演算(PI制御演算)を行って電圧降下のd軸成分であるd軸電圧降下Vzdを導出すると共に、q軸電流偏差δIqに基づいて比例積分制御演算を行って電圧降下のq軸成分であるq軸電圧降下Vzqを導出する。
そして、電流制御部24は、下記の式(2)に示すように、d軸電圧降下Vzdからq軸電機子反作用Eqを減算してd軸電圧指令値Vdを導出する。
Vd=Vzd−Eq
=Vzd−ω・Lq・Iqr・・・(2)
この式(2)に示されるように、q軸電機子反作用Eqは、電動機4の回転速度ω、実q軸電流Iqr、及びq軸インダクタンスLqに基づいて導出される。
更に、電流制御部24は、下記の式(3)に示すように、q軸電圧降下Vzqにd軸電機子反作用Ed及び永久磁石の電機子鎖交磁束による誘起電圧Emを加算してq軸電圧指令値Vqを導出する。
Vq=Vzq+Ed+Em
=Vzq+ω・Ld・Idr+ω・MIf・・・(3)
この式(3)に示されるように、d軸電機子反作用Edは、電動機4の回転速度ω、実d軸電流Idr、及びd軸インダクタンスLdに基づいて導出される。また、誘起電圧Emは、永久磁石の電機子鎖交磁束の実効値により定まる誘起電圧定数MIf及び電動機4の回転速度ωに基づいて導出される。
本実施形態においては、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、インバータ6から電動機4に供給する交流電圧の指令値である交流電圧指令値とする。従って、上述したd軸電流指令値導出部21、q軸電流指令値導出部22、及び電流制御部24により、電動機4の目標トルクTM及び回転速度ωに基づいて交流電圧指令値Vd、Vqを決定する交流電圧指令決定部7が構成されている。
二相三相変換部25には、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力される。また、二相三相変換部25には、回転センサ43(図1参照)により検出された磁極位置θも入力される。二相三相変換部25は、磁極位置θを用いて二相三相変換を行い、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwに変換して導出する。
PWMパルス生成部9には、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwが入力される。PWMパルス生成部9は、正弦波状の各相の電圧指令値Vu、Vv、Vwと搬送波との比較に基づいて、図1に示すインバータ6の各スイッチング素子E1〜E6を制御するスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。そして、インバータ6の各スイッチング素子E1〜E6がスイッチング制御信号S1〜S6に従ってオンオフ動作を行うことにより、PWM制御(正弦波PWM制御又は過変調PWM制御)又は矩形波制御が行われる。本実施形態では、搬送波の振幅を、正弦波PWM制御における上限の変調率m(=0.61)に相当する各相の電圧指令値Vu、Vv、Vwの振幅と同じ値に固定している。これにより、PWMパルス生成部9は、入力された各相の電圧指令値Vu、Vv、Vwが、正弦波PWM制御における上限の変調率m(=0.61)を超える変調率m(=0.61〜0.78)に相当する振幅である場合には、インバータ6の出力電圧波形が基本的にPWMパルスとなると共に電圧指令値Vu、Vv、Vwが搬送波の振幅を超える部分において連続的にハイレベル又はローレベルとなる過変調PWM制御を実行するためのスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。更に、PWMパルス生成部9は、入力された各相の電圧指令値Vu、Vv、Vwが、過変調PWM制御における上限の変調率m(=0.78)に相当する振幅である場合には、インバータ6の出力電圧波形が1周期につきハイレベル期間とローレベル期間とが1回ずつ交互に表れる矩形波となる矩形波制御を実行するためのスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。
後述するように、本実施形態においては、変調率mから最大変調率の値である「0.78」を減算した値である変調率偏差Δmを電圧指標として導出する(後述する式(5)参照)構成である。そして、制御装置2は、PWM制御と矩形波制御とを切り替えるための波形切替しきい値を、直流電圧Vdcによって出力し得る最大の交流電圧の値に交流電圧指令値Vd、Vqが一致したときの変調率偏差Δmの値、すなわちゼロ(Δm=0)に設定している。これを変調率mに換算すると、波形切替しきい値は最大変調率の値(m=0.78)に相当する。上記のとおり、PWMパルス生成部9は、変調率mが「0.78」以上である場合(変調率偏差Δmが「0」以上である場合)にはインバータ6に矩形波制御を行わせ、変調率mが「0.78」未満である場合(変調率偏差Δmが「0」未満である場合)には、後述する矩形波制御許可条件を満たす場合を除いて基本的に、インバータ6にPWM制御を行わせる。よって、このPWMパルス生成部9が本発明における電圧波形制御部に相当する。
変調率導出部29には、電流制御部24により導出されたd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力される。また、変調率導出部29には、電圧センサ41により検出された直流電圧Vdcの値が入力される。変調率導出部29は、これらの値に基づいて変調率mを、下記の式(4)に従って導出する。
m=√(Vd2+Vq2)/Vdc・・・(4)
本実施形態では、変調率mは、直流電圧Vdcに対するインバータ6の出力電圧波形の基本波成分の実効値の比率であり、ここでは、3相の線間電圧実効値を直流電圧Vdcの値で除算した値として導出される。上記のとおり、変調率mの最大値は、矩形波制御を実行している際の変調率mに相当する「0.78」である。
減算器30には、変調率m及び当該変調率mの最大値である「0.78」の値が入力される。減算器30は、下記の式(5)に示すように、変調率mから「0.78」を減算した変調率偏差Δmを導出する。
Δm=m−0.78・・・(5)
本実施形態においては、この変調率偏差Δmが、そのときの直流電圧Vdcによって出力し得る最大の交流電圧の値に対する交流電圧指令値Vd、Vqの大きさを表す電圧指標に相当する。本実施形態では、変調率偏差Δmは、交流電圧指令値Vd、Vqがそのときの直流電圧Vdcによって出力し得る最大の交流電圧の値を超えている程度を表す。従って、変調率偏差Δmは、実質的には直流電圧Vdcの不足の程度を表す電圧不足指標として機能する。
積分入力調整部31には、減算器30により導出された変調率偏差Δmが入力される。積分入力調整部31は、変調率偏差Δmの値に対して所定の調整を行い、当該調整後の値である調整値yを積分器32へ出力する。図6は、この積分入力調整部31により用いられる変換マップの一例を示す図である。この図に示すように、本実施形態においては、積分入力調整部31は、入力された変調率偏差Δmが所定の強め界磁しきい値Δms以上である場合には、当該変調率偏差Δmの符号を反転した値を調整値yとして出力する。一方、積分入力調整部31は、入力された変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms未満である場合には調整値yとしてゼロ(y=0)を出力する。ここで、強め界磁しきい値Δmsは、第三制御モード(強め界磁制御及び矩形波制御)を開始するための変調率偏差Δmのしきい値であり、波形切替しきい値(Δm=0)未満の値に設定される。この強め界磁しきい値Δmsは、矩形波制御によるスイッチング損失の低減に伴う効率向上が強め界磁電流が大きい(強め界磁の程度が大きい)ことによる効率低下を上回る範囲内に設定すると好適である。ここでは、一例として、強め界磁しきい値Δmsを「−0.07」(変調率mに換算すると「0.71」)に設定する。この強め界磁しきい値Δmsの役割は、上述した終了しきい値ΔIdsと同様であるが、強め界磁しきい値Δmsは第三制御モードの開始条件を構成し、終了しきい値ΔIdsは第三制御モードの終了条件を構成している点で相違している。第三制御モードの開始と終了とが短時間で繰り返されることを抑制するため、強め界磁しきい値Δmsと終了しきい値ΔIdsとの関係は、終了しきい値ΔIdsが強め界磁しきい値Δmsよりも緩い条件となるように設定すると好適である。なお、積分入力調整部31が、変調率偏差Δmに所定の定数(ゲイン)を乗算した値を調整値yとして出力する構成としても好適である。
積分器32には積分入力調整部31により導出された調整値yが入力される。積分器32は、この調整値yを所定のゲインを用いて積分し、当該積分値をd軸電流調整指令値ΔIdとして導出する。本実施形態では、このd軸電流調整指令値ΔIdが、電動機4の界磁磁束を調整するための界磁調整指令値に相当する。また、変調率導出部29、減算器30、積分入力調整部31、及び積分器32により、交流電圧指令値Vd、Vqと直流電圧Vdcとに基づいてd軸電流調整指令値ΔIdが決定される。よって、本実施形態では、変調率導出部29、減算器30、積分入力調整部31、及び積分器32により、界磁調整部8が構成されている。ここで、d軸電流調整指令値ΔIdがゼロである場合(ΔId=0)には最大トルク制御が行われる。d軸電流調整指令値ΔIdが正の値をとる場合(ΔId>0)、すなわち正のd軸電流調整指令値ΔIdである強め界磁電流が流れる場合には、最大トルク制御に比べて電動機4の界磁磁束が強められることになり強め界磁制御が行われる。d軸電流調整指令値ΔIdが負の値をとる場合(ΔId<0)、すなわち負のd軸電流調整指令値ΔIdである弱め界磁電流が流れる場合には、最大トルク制御に比べて電動機4の界磁磁束が弱められることになり弱め界磁制御が行われる。
また、減算器30により導出される変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)より大きい場合(Δm>0)、すなわち変調率mが「0.78」より大きい場合(m>0.78)には、調整値yとして負の値が出力され、積分器32から出力されるd軸電流調整指令値ΔIdは負方向(電動機4の界磁磁束を弱める方向)に変化する。すなわち、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)より大きい場合(Δm>0)には、界磁調整部8は、電動機4の界磁磁束を弱める方向にd軸電流調整指令値ΔIdを変更する。一方、減算器30により導出される変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)より小さく強め界磁しきい値Δmsより大きい場合(Δms<Δm<0)には、調整値yとして正の値が出力され、積分器32から出力されるd軸電流調整指令値ΔIdは正方向(電動機4の界磁磁束を強める方向)に変化する。すなわち、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)より小さく強め界磁しきい値Δmsより大きい場合(Δms<Δm<0)には、界磁調整部8は、電動機4の界磁磁束を強める方向にd軸電流調整指令値ΔIdを変更する。
ところで、d軸電流調整指令値ΔIdがゼロであって最大トルク制御が行われている状態から、変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms以上(Δm≧Δms)となった場合には、調整値yとして正の値が積分器32に入力され、d軸電流調整指令値ΔIdとして正の値(ΔId>0)が出力される。これによって、電流位相が最大トルク制御に対して遅れる方向に変化し、目標トルクTMを出力するために導出される交流電圧指令値Vd、Vqの実効値が増加し、変調率mも増加する。このような変調率mの増加は、変調率偏差Δmがゼロ(変調率m=0.78)になったところで収束する。よって、強め界磁制御が行われる際には変調率偏差Δmがゼロ、すなわち変調率mが0.78となり、PWMパルス生成部9において矩形波制御が行われることになる。これにより、第三制御モードが実行される。すなわち、界磁調整部8は、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)未満であって後述する矩形波制御許可条件を満たす場合に、強め界磁制御を行うようにd軸電流調整指令値ΔIdを決定することで変調率偏差Δmをゼロ(波形切替しきい値)又はそれ以上とし、それによりPWMパルス生成部9は、インバータ6に矩形波制御を行わせる。またこの状態から、電動機4の目標トルクTMや回転速度ωが変化することに伴って変調率偏差Δm(変調率m)が変化した場合、当該変調率偏差Δmの値に応じて界磁磁束を強める方向又は弱める方向にd軸電流調整指令値ΔIdが適宜変更される。これにより、d軸電流調整指令値ΔIdは、強め界磁制御が行われる正の値から弱め界磁制御が行われる負の値まで適宜変化する。d軸電流調整指令値ΔIdが負の値になった状態では、第二制御モードが実行される。このような強め界磁制御及び弱め界磁制御のいずれが行われる場合においても、変調率偏差Δmはゼロ(変調率m=0.78)に収束し、PWMパルス生成部9において矩形波制御が行われる状態が維持される。これにより、界磁調整部8は、強め界磁制御を行う際及び弱め界磁制御を行う際のいずれにおいても、最終的には、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)となるようにd軸電流調整指令値ΔIdを決定することになる。
ここで、弱め界磁制御は、交流電圧指令値Vd、Vqに対して直流電圧Vdcが不足する状態で実行される制御であるため、負のd軸電流調整指令値ΔId(弱め界磁電流の値)に関わらず実行する必要がある。しかし、交流電圧指令値Vd、Vqに対して直流電圧Vdcが足りている状態で強制的に矩形波制御を行うために実行される強め界磁制御は、正のd軸電流調整指令値ΔId(強め界磁電流)が増大することによる効率低下が矩形波制御によるスイッチング損失の低減に伴う効率向上を上回るまでに終了し、最大トルク制御及びPWM制御に移行することが望ましい。しかし、上記のとおり、強め界磁制御中は変調率偏差Δmがゼロ(変調率m=0.78)に固定されるため、一旦強め界磁制御に入ると、電動機4の目標トルクTMや回転速度ωが低下してもd軸電流調整指令値ΔIdの値が正方向に大きくなるだけで、最大トルク制御及びPWM制御に復帰することができない。そこで、本実施形態においては、制御装置2は、強め界磁制御を強制的に終了するための強め界磁終了制御部5を備えている。
強め界磁終了制御部5には、d軸電流調整指令値ΔId、目標トルクTM、回転速度ωが入力される。強め界磁終了制御部5は、これらに基づいて、強め界磁制御を終了する条件である所定の強め界磁終了条件を判定し、強め界磁終了条件を満たす場合には、強め界磁制御を終了するようにd軸電流調整指令値ΔIdを決定する。具体的には、強め界磁終了制御部5は、強め界磁終了条件を満たす場合には、d軸電流調整指令値ΔIdをゼロとする制御を行う。本実施形態においては、強め界磁終了条件は、以下の(a)〜(c)の3つの条件のいずれかを満たすこととしている。
(a)d軸電流調整指令値ΔId≧終了しきい値ΔIds
(b)目標トルクTM>トルクしきい値TMs
(c)回転速度ω<速度しきい値ωs
ここで、トルクしきい値TMsは、例えば、電動機4に流れる交流電流の基本波成分以外の高調波成分が大きくなり易い矩形波制御を行った際に、当該電動機4に流れる電流が制限値を超えないような目標トルクTMの上限値付近に設定すると好適である。また、速度しきい値ωsは、例えば、トルク変動が大きくなり易い矩形波制御を行った際に、電動機4の振動が許容範囲内に収まるような回転速度ωの下限値付近に設定すると好適である。そして、強め界磁終了制御部5は、電動機4又は制御装置2の動作状態が強め界磁終了条件を満たす場合には、d軸電流調整指令値ΔIdをゼロとする指令を積分器32へ出力する。これにより、積分器32が出力するd軸電流調整指令値ΔIdをゼロとし、変調率偏差Δmをゼロ(波形切替しきい値)未満とする(Δm<0)。これに伴い、強め界磁制御及び矩形波制御が終了されて最大トルク制御及びPWM制御が実行される。強め界磁終了制御部5は、上記強め界磁終了条件(a)〜(c)の全てが満たされなくなったときには、強め界磁制御を強制的に終了する制御を停止する。これにより、積分器32が調整値yを積分してd軸電流調整指令値ΔIdを導出する制御が再開される。
また本実施形態では、上記のとおり、強め界磁制御を開始する条件である強め界磁開始条件は、以下の(d)の条件を満たすこととしている。
(d)変調率偏差Δm≧強め界磁しきい値Δms
そして、制御装置2は、強め界磁開始条件(d)を満たしたときに強め界磁制御及び矩形波制御を行う第三制御モードの実行を開始し、強め界磁終了条件(a)〜(c)を満たしたときに強め界磁制御及び矩形波制御を行う第三制御モードの実行を終了する。従って、本実施形態においては、これらの強め界磁終了条件及び強め界磁開始条件を合わせた条件が、本発明における矩形波制御許可条件に相当する。
以上より、本実施形態における各制御モード間の境界は、以下のように規定されている。図3に示すように、第三制御モードと第二制御モードとの境界は、曲線L1により規定されている。曲線L1は、上記のとおり、最大トルク制御中における変調率mが最大変調率m=0.78となる電動機4の回転速度ω及びトルクにより定まる線である。この曲線L1は、第一制御モードと第二制御モードとの境界も規定している。第三制御モードと第一制御モードとの境界は、曲線L2とトルクしきい値TMsと速度しきい値ωsとにより規定される。ここで、曲線L2は、最大トルク制御中における変調率mが前記最大変調率より低い変調率mに設定された、強め界磁しきい値Δms(本例ではΔm=−0.07)に対応する変調率m(本例ではm=0.71)となる電動機4の回転速度ω及びトルクにより定まる線である。すなわち、制御装置2は、第三制御モードを、変調率mが「0.71」以上「0.78」未満(0.71≦m<0.78)であって、且つ、回転速度ωが速度しきい値ωs以上(ω≧ωs)であって、且つ、目標トルクTMがトルクしきい値TMs以下(TM≦TMs)である場合に実行する。また、制御装置2は、第二制御モードを、変調率mが最大変調率m=0.78以上となった場合に実行する。そして、制御装置2は、これらの場合以外に、第一制御モードを実行する。車両の駆動力源として用いられる電動機4では、変調率mが最大変調率m=0.78より低くPWM制御及び最大トルク制御を行う領域の使用頻度が高い。本実施形態に係る制御装置2によれば、このような使用頻度が高い領域において強め界磁制御と共に矩形波制御を行うことができる(第三制御モードの領域A3)。従って、電動機4の実用上の効率を大幅に高めることができる。
3.制御装置の動作
次に、制御装置2の各部の動作について、図7〜図9を用いて詳細に説明する。図7は、本実施形態に係る制御装置2の各部の動作の流れを示すフローチャートである。
図7に示すように、制御装置2は、まず、変調率導出部29により変調率mを導出する(ステップ#01)。次に、減算器30により、変調率mから当該変調率mの最大値である「0.78」を減算した変調率偏差Δm(=m−0.78)を導出する(ステップ#02)。その後、制御装置2は、d軸電流調整指令値ΔIdがゼロより大きい(ΔId>0)か否かを判定する(ステップ#03)。この判定は、そのときに制御装置2が強め界磁制御中であるか否かを判定するものである。d軸電流調整指令値ΔIdがゼロ以下(ΔId≦0)である場合には(ステップ#03:No)、制御装置2が最大トルク制御中又は弱め界磁制御中であると判定できる。そこで次に、変調率偏差Δmがゼロ未満(Δm<0)であるか否かを判定する(ステップ#04)。この判定は、変調率偏差Δmが波形切替しきい値未満であるか否かを判定するものである。変調率偏差Δmがゼロ以上(Δm≧0)である場合には(ステップ#04:No)、処理はステップ#06へ進み、当該変調率偏差Δmに基づいて積分入力調整部31から出力されるゼロ以下の調整値y(図6参照)を積分器32により積分し、d軸電流調整指令値ΔIdを導出する(ステップ#06)。これにより、d軸電流調整指令値ΔIdは負方向、すなわち電動機4の界磁磁束を弱める方向に変化する。このとき、最大トルク制御中であれば弱め界磁制御が開始され、弱め界磁制御中であれば弱め界磁の程度が増大する。
変調率偏差Δmがゼロ未満(Δm<0)である場合には(ステップ#04:Yes)、次に、変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms以上(Δm≧Δms)であるか否かを判定する(ステップ#05)。変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms未満(Δm<Δms)である場合には(ステップ#05:No)、積分入力調整部31により調整値yとしてゼロが出力される(図6参照)。従って、積分器32による調整値yの積分は行わず、処理はステップ#11へ進む。よって、d軸電流調整指令値ΔIdは変化しない。このとき、最大トルク制御中であれば当該最大トルク制御が継続され、弱め界磁制御中であれば当該弱め界磁制御が継続される。変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms以上(Δm≧Δms)である場合には(ステップ#05:Yes)、積分入力調整部31により調整値yとして正の値が出力される(図6参照)。そこで、積分器32により正の調整値yを積分し、d軸電流調整指令値ΔIdを導出する(ステップ#06)。これにより、d軸電流調整指令値ΔIdは正方向、すなわち電動機4の界磁磁束を強める方向に変化する。このとき、最大トルク制御中であれば強め界磁制御が開始され、弱め界磁制御中であれば弱め界磁の程度が減少し或いは強め界磁制御に移行する。
一方、d軸電流調整指令値ΔIdがゼロより大きい(ΔId>0)場合には(ステップ#03:Yes)、制御装置2が強め界磁制御中であると判定できる。そこで次に、強め界磁終了制御部5により、強め界磁終了条件を判定する。具体的には、d軸電流調整指令値ΔIdが終了しきい値ΔIds以上(ΔId≧ΔIds)であるか否か(ステップ#07)、目標トルクTMがトルクしきい値TMsより大きい(TM>TMs)か否か(ステップ#08)、及び回転速度ωが速度しきい値ωs未満(ω<ωs)であるか否か(ステップ#09)を判定する。これらいずれかの条件を満たす場合(ステップ#07:Yes、ステップ#08:Yes、又はステップ#09:Yes)には、強め界磁制御を終了するために、強め界磁終了制御部5によりd軸電流調整指令値ΔIdをゼロにする(ステップ#10)。これにより、強め界磁制御が終了し、最大トルク制御が実行される。上記のいずれの条件も満たさない場合(ステップ#07:No、ステップ#08:No、及びステップ#09:No)には、強め界磁制御を継続することとし、処理はステップ#06へ進む。従って、変調率偏差Δmに応じて積分入力調整部31により出力された調整値yを積分器32により積分し、d軸電流調整指令値ΔIdを導出する(ステップ#06)。これにより、強め界磁制御中も、変調率偏差Δmに応じてd軸電流調整指令値ΔIdが適切に調整される。この際、d軸電流調整指令値ΔIdが負方向に変化して強め界磁制御から弱め界磁制御へ移行することもある。
その後、d軸電流指令値導出部21により導出された基本d軸電流指令値Idbと積分器32により導出されたd軸電流調整指令値ΔIdとを加算してd軸電流指令値Idを導出する(ステップ#11)。また、q軸電流指令値導出部22によりq軸電流指令値Iqを導出する(ステップ#12)。そして、これらのd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqに基づいて、電流制御部24により交流電圧指令値Vd、Vqを導出する(ステップ#13)。以上で処理を終了する。
次に、図7に示すフローチャートに従う制御装置2の動作の具体例について、図8及び図9を用いて説明する。図8は、図3の線Ltに沿って回転速度ωを一定としたまま目標トルクTMをゼロから最大トルクTMmaxまでの間で変化させた際のd軸電流調整指令値ΔIdの変化の一例を示す図であり、(a)は時間軸に沿った目標トルクTMの変化の一例、(b)はそのときのd軸電流調整指令値ΔIdの変化を示している。図9は、図3の線Lωに沿って目標トルクTMを一定としたまま回転速度ωをゼロから「ω2」までの間で変化させた際のd軸電流調整指令値ΔIdの変化の一例を示す図であり、(a)は時間軸に沿った回転速度ωの変化の一例、(b)はそのときのd軸電流調整指令値ΔIdの変化を示している。
まず、図8に基づいて目標トルクTMを変化させた場合の例について説明する。図8(a)に示すように、本例では、目標トルクTMは、ゼロから次第に上昇し、「TM2」で一定の状態が時刻t12〜t13の間維持された後、更に上昇して最大トルクTMmaxとなる。そして、最大トルクTMmaxの状態が一定時間維持された後、目標トルクTMは次第に低下し、「TM2」で一定の状態が時刻t16〜t17の間維持された後、更に低下してゼロとなる。ここで、目標トルクTMが「TM1」となったときには、図3に示すように、目標トルクTM及び回転速度ωにより規定される電動機4の動作点が領域A3の境界を構成する曲線L2上となる。上記のとおり、曲線L2は変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δmsとなる線に対応している。従って、目標トルクTMがゼロから次第に上昇し、時刻t11以後の目標トルクTMが「TM1」以上となったときには、変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms以上となり(ステップ#05:Yes)、積分入力調整部31から正の調整値yが出力され(図6参照)、積分器32により導出されるd軸電流調整指令値ΔIdが急激に上昇する。その後、時刻t12までの間は目標トルクTMが上昇するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に低下する。時刻t12〜t13において目標トルクTMが「TM2」で一定となっている間はd軸電流調整指令値ΔIdも一定となる。時刻t13からは、目標トルクTMが上昇するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に低下する。そして、時刻t13において目標トルクTMがトルクしきい値TMsとなったときに(ステップ#08:Yes)、図3に示すように、電動機4の動作点が領域A3の外になる。従って、強め界磁終了制御部5により強め界磁制御が終了され、d軸電流調整指令値ΔIdは急激に低下してゼロとなる(ステップ#10)。目標トルクTMがトルクしきい値TMs以上の状態では、d軸電流調整指令値ΔIdはゼロに維持される。
一方、目標トルクTMが最大トルクTMmaxから次第に低下し、時刻t15において目標トルクTMがトルクしきい値TMs以下となったときには、強め界磁終了制御部5により強め界磁制御を強制的に終了する制御が停止され、強め界磁制御が再開される。従って、積分入力調整部31から出力された正の調整値yが積分器32により積分される制御が再開され、d軸電流調整指令値ΔIdが急激に上昇する。その後、時刻t16までの間は目標トルクTMが低下するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に上昇する。時刻t16〜t17において目標トルクTMが「TM2」で一定となっている間はd軸電流調整指令値ΔIdも一定となる。時刻t17からは、目標トルクTMが低下するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に上昇する。そして、時刻t18においてd軸電流調整指令値ΔIdが終了しきい値ΔIdsとなったときに(ステップ#07:Yes)、強め界磁終了制御部5により強め界磁制御が強制的に終了されるため、d軸電流調整指令値ΔIdは急激に低下してゼロとなる(ステップ#10)。その後、目標トルクTMは領域A3の境界を構成する曲線L2に対応する「TM1」以下となっており、変調率偏差Δmが強め界磁しきい値Δms未満であるので(ステップ#05:No)、d軸電流調整指令値ΔIdはゼロに維持される。
次に、図9に基づいて回転速度ωを変化させた場合の例について説明する。図9(a)に示すように、本例では、回転速度ωは、ゼロから次第に上昇して「ω2」となり、「ω2」で一定の状態が時刻t23〜t24の間維持された後、次第に低下してゼロとなる。ここで、回転速度ωがゼロから次第に上昇し、時刻t21において回転速度ωが速度しきい値ωs以上となったときには(ステップ#09:No)、図3に示すように、電動機4の動作点が領域A3内となる。従って、積分入力調整部31から出力された正の調整値yが積分器32により積分される制御が開始され、d軸電流調整指令値ΔIdが急激に上昇する。その後、時刻t22まで、回転速度ωが上昇するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に低下する。このとき、制御装置2は、強め界磁制御を行いながら、強め界磁電流(正のd軸電流調整指令値ΔId)を次第に減少させる。ここで、回転速度ωが「ω1」となったときには、図3に示すように、電動機4の動作点が領域A3の境界を構成する曲線L1上となる。上記のとおり、曲線L1は変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)となる線に対応している。従って、時刻t22以後の回転速度ωが「ω1」以上となったときには、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)以上となり(ステップ#04:No)、積分入力調整部31から負の調整値yが出力され(図6参照)、積分器32により導出されるd軸電流調整指令値ΔIdが負の値となる。これにより弱め界磁制御が実行される。その後、時刻t23まで、回転速度ωが上昇するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に低下する。このとき、制御装置2は、弱め界磁制御を行いながら、弱め界磁電流(負のd軸電流調整指令値ΔId)を次第に増加させる。時刻t23〜t24において回転速度ωが「ω2」で一定となっている間はd軸電流調整指令値ΔIdも一定となる。
一方、回転速度ωが「ω2」から次第に低下する際には、時刻t25まで、回転速度ωが低下するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に上昇する。このとき、制御装置2は、弱め界磁制御を行いながら、弱め界磁電流(負のd軸電流調整指令値ΔId)を次第に減少させる。そして、時刻t25以後の回転速度ωが「ω1」未満となったときには、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)未満となり(ステップ#04:Yes)、積分入力調整部31から正の調整値yが出力され(図6参照)、積分器32により導出されるd軸電流調整指令値ΔIdが正の値となる。これにより強め界磁制御が実行される。その後、時刻t26まで、回転速度ωが上昇するのに伴ってd軸電流調整指令値ΔIdは次第に上昇する。このとき、制御装置2は、強め界磁制御を行いながら、強め界磁電流(正のd軸電流調整指令値ΔId)を次第に増加させる。そして、時刻t26において回転速度ωが速度しきい値ωs未満となったときには(ステップ#09:Yes)、図3に示すように、電動機4の動作点が領域A3の外になる。従って、強め界磁終了制御部5により強め界磁制御が終了され、d軸電流調整指令値ΔIdは急激に低下してゼロとなる(ステップ#10)。回転速度ωが速度しきい値ωs未満の状態では、d軸電流調整指令値ΔIdはゼロに維持される。
以上より、本実施形態に係る構成によれば、図3に示すように、変調率偏差Δmがゼロ(波形切替しきい値)未満、すなわち変調率mが「0.78」未満であって、通常であれば第一制御モード(領域A1)に従ってPWM制御を行う領域においても、上述した矩形波制御許可条件を満たす場合には第三制御モード(領域A3)に従って矩形波制御が行われることになる。これにより、従来に比べて矩形波制御が行われる電動機の動作点の領域(運転領域)を広げることができる。従って、矩形波制御を行うことによるスイッチング損失の低減の効果を、より広い領域で得ることが可能となる。また、このような矩形波制御を行うに際して、d軸電流調整指令値ΔIdを正方向に変化させて電動機4の界磁磁束を強める強め界磁制御を行うため、変調率mが「0.78」に固定される矩形波制御中にも、必要な目標トルクTM及び回転速度ωを電動機4に出力させることができる。更に、矩形波制御許可条件として、d軸電流調整指令値ΔIdの値、目標トルクTM、及び回転速度ωに関する条件を設定し、第三制御モードによる矩形波制御及び強め界磁制御を行う範囲を適切に規定しているので、強め界磁の程度が大きくなることによる効率低下が拡大することが抑制されるとともに、電動機4の動作状態も適切な状態に維持される。従って、インバータ6におけるスイッチング損失を低減して電動機駆動装置1及び制御装置2の効率を高めることができる構成となっている。
4.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、変調率偏差Δmを電圧指標として用いる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。従って変調率mを電圧指標として用いる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、波形切替しきい値は「0.78」となり、強め界磁しきい値Δmsは、例えば「0.71」となる。また、変調率偏差Δmに代えて直流電圧Vdcと比較可能な値に換算した交流電圧指令値Vd、Vqと直流電圧Vdcとの偏差である電圧偏差を導出する構成とし、当該電圧偏差を電圧指標として用いる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(2)上記の実施形態では、強め界磁終了制御部5において、(b)目標トルクTM>トルクしきい値TMs、及び(c)回転速度ω<速度しきい値ωsの条件を判定する構成、すなわち、これら(b)及び(c)の条件を強め界磁終了条件として判定する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、これら(b)及び(c)の条件の一方又は双方を強め界磁制御を開始する条件である強め界磁開始条件として判定する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、制御装置2は、例えば図2において、目標トルクTM及び回転速度ωに応じて積分入力調整部31からの調整値yの出力を規制する制御を行う強め界磁開始制御部を備える構成とすることが可能である。また、これら(b)及び(c)の条件の一方又は双方を強め界磁制御の開始条件又は終了条件として用いない構成とすることも可能である。
(3)上記の実施形態では、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを交流電圧指令値とする場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、電動機4が必要とする交流電圧を表す指令値であって、直流電圧Vdcとの比較が可能なものであれば、他の値を交流電圧指令値として用いることが可能である。従って、例えば、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwを交流電圧指令値として変調率mの導出等に用いる構成とすることも可能である。
(4)上記の実施形態では、電動機駆動装置1が直流電源3からの直流電圧Vdcをインバータ6へ供給する構成である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、直流電源3からの電源電圧を変換して所望値のシステム電圧を生成するDC−DCコンバータ等の電圧変換部を備え、当該電圧変換部により生成されたシステム電圧を直流交流変換部としてのインバータ6に供給する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合において、電圧変換部は、電源電圧を昇圧する昇圧コンバータとすることができる他、電源電圧を降圧する降圧コンバータとし、或いは電源電圧の昇圧及び降圧の双方を行う昇降圧コンバータとすることもできる。
(5)上記の実施形態では、交流電動機4が三相交流により動作する埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM)である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、交流電動機4として、表面磁石構造の同期電動機(SPMSM)を用いることができ、或いは、同期電動機以外にも、例えば、誘導電動機等を用いることもできる。また、このような交流電動機に供給する交流として、三相以外の単相、二相、又は四相以上の多相交流を用いることができる。
(6)上記の実施形態では、電動機4が電動車両やハイブリッド車両等の駆動力源として用いられる場合を例として説明した。しかし、本実施形態に係る電動機4の用途はこれに限定されるものではなく、あらゆる用途の電動機について、本発明を適用することが可能である。