JP2010277932A - 液体金属イオン銃 - Google Patents

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Abstract

【課題】ビーム制限アパーチャの寿命を延ばし、エミッションを長時間安定に維持することができ、再現良く安定な状態に回復することができる液体金属イオン銃を提供する。
【解決手段】タングステン(W)により形成され、液体金属ガリウム(Ga)を保持するリザーバ36と、Wにより形成されたエミッタ35とを有する液体金属イオン源31と、Wにより形成されたベース46にGaよりなる液体金属材44を載せて形成され、液体金属イオン源31から引き出されたイオンビーム2の通過を許容する開口41を有し、イオンビーム2の径を制限するビーム制限アパーチャ33とを備えた液体金属イオン銃3において、ビーム制限アパーチャ33は、液体金属44を開口41の周囲に集める溝構造45を備える。
【選択図】図5

Description

本発明は、液体金属イオン源(LMIS:Liquid Metal Ion Source)に関し、例えば、Ga液体金属イオン源からのイオン放射(エミッション)技術に関する。
液体金属イオン銃は、真空容器中に配置された液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source : 以下、LMISと称する)のエミッタ(電極)に、高電圧ケーブルを介して通電加熱したり、引出電極との間に高電圧(引出電圧)を印加したりすることにより、その電圧に応じたイオン放射量(エミッション電流)のイオンビームを照射する。LMISから照射されたイオンビームは、ビーム制限アパーチャで受けられ、その下流に放射されるイオンビームの拡がりやエミッション電流が制限される。
上記のような液体金属イオン銃、例えば、ガリウム液体金属イオン銃においては、イオン放射によりエミッタで消費されたガリウムの量とリザーバからエミッタに供給されるGaの量がバランスした状態、つまり、Gaの消費量と供給量が平衡した状態が保たれることにより、エミッションの安定性が保たれている。
しかしながら、Gaに異物が混入すると、その異物によってGaの供給が阻害されたり、Gaの純度が変化して液体金属の物理特性が変化してGaの消費量と供給量のバランスが崩れたりして、エミッションの安定性が悪くなる。
LMISの液体金属に混入する異物の一例としては、照射されるイオンビームによりビーム制限アパーチャがスパッタリングされるときに生じる粒子(スパッタ粒子)が挙げられる。
このようなスパッタ粒子のLMISの液体金属への混入を抑制する従来技術としては、特許文献1に記載のように、ビーム制限アパーチャのイオンビームによって照射される部分を低融点金属を浸透させた燒結体により構成し、スパッタ粒子が液体金属中に溶け込んでスラグとならないようにすることで、イオン電流の安定性の悪化を抑制するものが知られている。
また、LMISの液体金属と同種の金属を保護用絞りに用いたもの(特許文献2等参照)や、エミッタ電極の表面またはその全部をエミッタ電極の先端に設けられた溶融金属または合金を構成する金属の1種又は2種以上で構成するもの(特許文献3等参照)も知られている。
その他にも、LMISのエミッタ(電極)と同じ金属を母材としてビーム制限アパーチャを構成し、さらに、イオンビームが照射される領域にLMISと同じ液体金属の溜まりを設けたもの(特許文献4等参照)や、イオンビームが通過する絞り孔を表面最下点に持つ凹部を備えた容器に、LMISの液体金属を載せたもの(特許文献5等参照)が知られている。
特許第3190395号公報 特開2001−160369号公報 特公平4−14455号公報 特開2005−174604号公報 特開2006−79952号公報
しかしながら、特許文献1〜3記載の従来技術においては、ビーム制限アパーチャの構成材(母材)について言及されておらず、従って、イオンビームの照射を受けてビーム制限アパーチャの構成材(母材)が露出し、母材からのスパッタ粒子がLMISの液体金属に混入することによるエミッションの安定性悪化が懸念される。また、LMISは千時間以上の長時間に亘る使用が望ましく、使用累計時間が増加するにしたがって徐々に不安定になるエミッションを安定な状態に戻す必要があるが、その難易性についても言及されていない。
一方、特許文献4,5記載の従来技術においては、ビーム制限アパーチャの母材にLMISと同様の構成部材を用い、さらに、イオンビームの照射を受ける部分にLMISと同様の液体金属を用いることにより、スパッタ粒子のエミッションへの影響を抑制するとともに、エミッションの安定性を容易に回復できるようにしている。
しかし、液体金属イオン源においては更なる長寿命化が図られており、これに伴うビーム制限アパーチャの長寿命化の面で改善の余地が残されている。
ビーム制限アパーチャの長寿命化を実現するために、例えば、ビーム制限アパーチャに用いる液体金属(Ga)の量を増やすことが考えられるが、単純に液体金属の量を増加させると、イオンビームが通過する開口が液体金属によって塞がってしまう恐れがある。また、液体金属(Ga)によって開口が塞がりにくいように開口を大きく(広く)することも考えられるが、この場合は絞りとしての効果が半減してしまい、ビーム制限アパーチャの目的に反することになる。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、ビーム制限アパーチャの寿命を延ばし、エミッションを長時間安定に維持することができ、再現良く安定な状態に回復することができる液体金属イオン銃を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、第1金属材よりなる液体金属イオン材と、第2金属材により形成され前記液体金属イオン材を保持するリザーバと、前記第2金属材により形成されたエミッタとを有する液体金属イオン源と、前記第2金属材により形成されたベースに前記第1金属材よりなる液体金属材を載せて形成され、前記液体金属イオン源から引き出されたイオンビームの通過を許容する開口を有し、該イオンビームの径を制限するビーム制限アパーチャとを備えた液体金属イオン銃であって、前記ビーム制限アパーチャは、前記液体金属材を前記開口の周囲に集める構造を備えたものとする。
本発明によれば、ビーム制限アパーチャの寿命を延ばすことができ、液体金属イオン銃におけるエミッションを長時間安定に維持することができるとともに、エミッションの安定性を容易に回復することができる。
本発明の第1の実施の形態に係るイオンビーム装置の全体構成を示す概略図である。 本発明の第1の実施の形態に係る液体金属イオン銃におけるLMISの構成の詳細を示す図である。 一般的なビーム制限アパーチャを用いた液体金属イオン銃の構成例を示す図である。 単原子固体撮像装置のスパッタリング収量の入射角度依存性の例を示す図である。 本発明の第1の実施の形態に係るビーム制限アパーチャを示す断面図である。 ビーム制限アパーチャの開口周辺における液体金属の表面張力と内圧(ラプラス圧)の関係を説明する図である。 本発明の第1の実施の形態に対する比較例のビーム制限アパーチャを示す断面図である。 本発明の第1の実施の形態に係るビーム制限アパーチャの変形例を示す断面図である。 本発明の第2の実施の形態に係るビーム制限アパーチャを示す断面図である。 本発明の第3の実施の形態に係るビーム制限アパーチャを示す断面図である。 本発明の第4の実施の形態に係るビーム制限アパーチャを示す断面図である。 本発明の第5の実施の形態に係るビーム制限アパーチャを示す断面図である。 本発明の第5の実施の形態に対する比較例ビーム制限アパーチャを示す断面図である。 本発明の実施例に係るビーム制限アパーチャを示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施に形態に係るイオンビーム装置全体の構成を示す概略図である。
図1において、本実施の形態に係るイオンビーム装置は、真空容器1と、真空容器1内に配置され、その真空容器1内に配置された試料(図示せず)にイオンビーム2を照射する液体金属イオン銃3と、真空容器1にゲートバルブ11を介して接続され、真空容器1の排気を行う真空排気装置10と、真空容器1に接続され真空容器1の排気を行うイオンポンプ12と、液体金属イオン銃3に電力を供給する高電圧電源部20とを備えている。
液体金属イオン銃3は、液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source:以下、LMISと称する)31と、液体金属イオン源31からイオンビーム2(イオン)を引き出す引出電極32と、引出電極32に設けられ、イオンビーム2の拡がりを制限するビーム制限アパーチャ33と、ビーム制限アパーチャ33を通過したイオンビーム2を加速するアース電極34とを備えている。
高電圧電源部20は、接地されたアース21と、LMIS31と引出電極32の間にLMIS31からイオンビーム2を引き出すための引出電圧を印加する引出電源28と、アース21とLMIS31の間にイオンビーム2を加速するための加速電圧を印加する加速電源24と、LMIS31を通電加熱するための加熱電源29と、これらの高電圧電源部20の構成要素を接続する高電圧ケーブル22,25と、高電圧ケーブル22,25とLMIS31及び引出電極32をそれぞれ接続する高電圧接続部23,26とを備えている。
引出電極32によって液体金属イオン源31から引き出されて発生したイオンビーム2は、ビーム制限アパーチャ33においてビームの拡がりが制限されつつこれを通過し、通過したイオンビーム2はアース電極34により加速され下流に照射される。なお、図示は省略するが、上記構成に加えて、イオンビーム2をレンズで細く絞り、偏向制御して試料に照射する機能と、イオンビーム2の照射対象である試料からの信号を検出する信号検出系とを付加することにより、加工観察装置を形成することができる。
図2は、液体金属イオン銃3におけるLMIS31の構成の詳細を示す図である。
図2において、LMIS31は、例えば、ガリウム(以下、Gaと称する)により構成されたガリウム液体金属イオン源(以下、GaLMISと称する)である。GaLMIS31は、先端が円錐状(針状と言い換えることもできる)のエミッタ35と、Gaを溜めるリザーバ36と、エミッタ35及びリザーバ36のGaを通電加熱(フラッシング)するフィラメント37と、フィラメント37に接続された通電端子38と、通電端子38を固定する碍子ベース39とを備えている。エミッタ35、リザーバ36及びフィラメント37は、例えば、タングステン(以下、Wと称する)により形成されている。また、リザーバ36内にはGaが充填されている。
このように構成された、LMIS31のエミッション動作原理の概略について説明する。LMIS31に引出電圧が印加された状態においては、エミッタ35の先端が円錐状であるため先端ほど軸方向の電界勾配が強くなる。したがって、エミッタ35の先端付近の液体金属は、電界応力により、電界の強いエミッタ35の先端にGaが供給され点頂点の円錐状になる。このように、電界応力によって円錐形状となった液体金属の頂点は、V/Å程度の強電界であるため、イオン化ポテンシャルが下がり電子を失ってイオン化し易くなる。つまり、V/Å程度の強電界においてはイオンが真空中に飛び出してイオン流が発生する。
例えば、GaLMIS31を用いた場合、上記のようなイオン放射においては、放出されるGaイオンの放出量に見合う液体金属Gaを供給する必要があるが、Gaは流体的に振舞うため圧力勾配が生じ、連続流体の表層流が生じる。この流れは、表面張力に起因するポアゼイユ流であるため表面張力の変化で流量が変化する。また、純粋なGaは、清浄なWに対して濡れ性が良く、Wに細い溝がある場合には、表面張力による毛細管現象により溝を通して拡散する。したがって、エミッタ35の構成としては、Wで成形し、軸方向に細い縦溝を設けたものが知られており、同様にWで成形したリザーバ36内のGaを表面張力による毛細管現象で上記の溝を通して拡散させ、エミッタ先端付近まで供給する。Gaイオン放射によりエミッタ35で消費されたGaの量とリザーバ36からエミッタ35に供給されるGaの量がバランスした状態、つまり、Gaの消費量と供給量が平衡した状態が保たれることによりエミッションの安定性が保たれるが、Gaの表面張力が変化した場合には供給量が変わり、エミッション状態が変化する。
ここで、液体金属イオン銃3に一般的なビーム制限アパーチャ133を用いた場合を例に液体金属イオン銃3の基本構成について説明する。
図3は、液体金属イオン銃3の引出電極32に一般的なビーム制限アパーチャ133を用いた場合を示す図である。
図3において、基本構成例の液体金属イオン銃3は、GaLMIS31と、GaLMIS31からイオンビーム2(イオン)を引き出す引出電極32と、引出電極32の下流側(つまり、イオンビーム2の照射方向)に設けられ、イオンビーム2の拡がりを制限するビーム制限アパーチャ133とを備えている。
引出電極32は、例えば、ステンレス鋼で構成されており、GaLMIS31のエミッタ35と向き合う位置にイオンビーム2が通過する開口40が設けられている。例えば、開口40は、直径φ3mm、開口側壁の厚さ1mmで構成されている。また、引出電極32は、エミッタ35の先端から引出電極32の上面までの距離が0.8mmになるように配置されており、引出電極32にイオンビーム2が直接照射されないようになっている。なお、引出電極32の開口40以外の部分についてもGaLMIS31から放射されるイオンビーム2が直接照射されないような構造となっている。
ビーム制限アパーチャ133は、例えば、スズ(Sn)で構成されており、GaLMIS31から引き出されたイオンビーム2が照射される位置に、イオンビーム2が通過する開口41が設けられている。例えば、開口41は、直径φ0.3mm、開口側壁の厚さ3mmで構成されている。また、ビーム制限アパーチャ133は、引出電極32の上面からビーム制限アパーチャ133の上面の距離が5mmになるように配置されている。
ビーム制限アパーチャ133は引出電極32に内蔵されて構成され、ビーム制限アパーチャ133と引出電極32が同電位となるよう構成されている。なお、ビーム制限アパーチャ133と引出電極32は異なる機能を有しており、ビーム制限アパーチャ133は、その下流に照射されるイオンビーム2を制限するための絞りとしての機能を有し、引出電極32は、GaLMIS31のエミッタ35との間(エミッタ35と引出電極32上面の間)に電圧を印加することによりイオン(イオンビーム2)を放射させる機能を有する。
このように構成した液体金属イオン銃3においては、GaLMIS31から照射されたイオンビーム2によってビーム制限アパーチャ133がスパッタリングされ、スパッタ粒子42が生じる。ビーム制限アパーチャ133がスパッタリングされる速度(加工速度)には、入射角依存性がある。このような入射角依存性について図面を参照しつつ以下に説明する。
図4は、単原子固体撮像装置のスパッタリング収量の入射角度依存性の例を示す図であり、横軸には入射角(°)を、縦軸には入射角0°の場合を基準とした各入射角におけるスパッタリング収量の比(スパッタリングイールド)をそれぞれ示している。つまり、図4は、ビーム制限アパーチャ133のスパッタリング速度の入射角度依存性を示す図と見ることができる。
図4に示すように、単原子固体のスパッタリングイールドは、イオンビームの入射角θ(°)が大きくなるに従って、カスケード衝突がより表面側で発生するため、ジグムンドの理論が示すようにcos−fθ(f=1〜2)で入射角θ=θoptとなるまで増加し、入射角θ>θoptでは、入射角θが大きくなるに従って、表面にある隣接する原子の遮蔽効果により衝突係数が制限されてイオンビームが表面を通過しにくくなり、さらに入射角θが大きくなると入射されるイオンビームが殆どエネルギーを固体に付与することなく反射され、スパッタリング収量(スパッタリングイールド)が急激に減少する。
また、単原子固体にイオンビームを照射した場合、結晶粒の結晶方位の違いによってスパッタリング速度に違いが生じるため、その単原子固体の表面に結晶粒を起点とした凹凸が形成される。さらに、その凹凸はスパッタリング速度の入射角依存性のため益々助長され、したがって、単原子固体表面の加工速度が早くなる。つまり、ビーム制限アパーチャの寿命が短くなる。
本実施の形態に係るビーム制限アパーチャ33は、上記の基本構成例における液体金属イオン銃3のビーム制限アパーチャ133に換えて用いるものである。以下、その詳細について図面を参照しつつ説明する。
図5は、本実施の形態に係るビーム制限アパーチャ33を示す図であり、イオンビーム2の光軸を含む面における断面図である。なお、図5(a)〜図5(c)は、ビーム制限アパーチャ33上の液体金属の量の変化を示している。
図5において、ビーム制限アパーチャ33は、GaLMIS31から引き出されたイオンビーム2に対向するように設けられた凹部を有するベース46と、ベース46の凹部に載せられた液体金属44とを備えている。また、ベース46の凹部の表面最下点、つまり、GaLMIS31から最も遠い点には、イオンビーム2が通過する開口41が設けられている。ベース46はGaLMIS31のエミッタ35を形成する部材(つまり、W)で形成されており、液体金属44はGaLMIS31に用いられた液体金属(つまり、Ga)である。ビーム制限アパーチャ33の凹部には、開口41の周囲を囲むように溝部45が設けられている。また、ビーム制限アパーチャ33の凹部の外周部と溝部45の間には、溝部45側から外周部に向かって高くなるようにテーパ構造が設けられている。これにより、液体金属Ga44の量の変化に対して、その液体金属Ga44の表面形状が変化しにくくなる。
ビーム制限アパーチャ33に設けられた凹部の半径(開口から凹部の外周までの距離)は、液体金属Ga44の毛管長(k−1)よりも短く構成されている。毛管長(k−1)は、液体金属44の表面張力をγ、密度をρ、重力加速度をgとすると下記式により表される。
Figure 2010277932
上記式1により表される毛管長(k−1)よりも大きい距離範囲においては、液体金属Ga44の表面(界面)形状に対して重力が支配的となり、毛管長(k−1)よりも小さい距離範囲においては表面張力が支配的となる。液体金属Gaにおける毛管長(k−1)は、約3.5mmである。
このように構成したビーム制限アパーチャ33に液体金属44としてGaを載せた場合、Wの表面が清浄であればGaとの濡れ性が良いので、ビーム制限アパーチャ33の凹部はGaによって完全に濡れる。また、液体金属44Gaの表面形状は、頭部の側壁を外周とする球面になるように溜まり、したがって、ビーム制限アパーチャ33の開口41から離れるに従ってGaの表面高さが高くなる。これは、毛管長(k−1)(ガリウムの毛管長は約3.5mm)より大きい距離範囲では重力が支配的となって液体金属の表面形状が平面になり、毛管長(k−1)より小さい距離範囲では表面張力が支配的となって液体金属Ga44の表面形状が曲面になることによる。
また、液体金属Ga44の表面形状は、液体金属44が載せられた部分における毛管長(k−1)以下の大きさの構造からは影響を受けない。つまり、液体金属Ga44の表面形状は、溝部45の影響を受けないということである。したがって、液体金属Ga44の表面形状は、その液体金属Ga44の量によらず、図5(b)及び図5(c)に示すようにビーム制限アパーチャ33の凹部に載せられた液体金属Ga44の量が少なくなった場合においても、開口41から離れるにしたがって表面高さが高くなる。これにより、ビーム制限アパーチャ33の開口41の外周部の溝部45を形成した部分においては、その溝部45の深さ以上の厚さの液体金属Ga44で覆われる。
更に、ビーム制限アパーチャ33の凹部の底面部を上面部に比べ狭くなるように(つまり、断面形状が台形になるように)し、溝部45の外周が凹部の側辺長さに相当する範囲内にかかるように構成したので、図5(b)に示すように、液体金属Ga44が減少してもその表面の形状が大きく変わらない。また、図5(c)に示すように、液体金属Ga44の量が更に減っても、液体金属Ga44がその表面張力で凹部の側辺部から溝部45に流れ込んで埋め、平面に保たれる。
ここで、液体金属Ga44による開口41の詰まり易さについて、その内圧の観点から考察する。液体金属などの液体の形状は、重力ではなく表面張力による表面エネルギーが最小になるように、その表面張力と内圧(ラプラス圧)がバランスしている。図6は、開口41周辺において表面張力と内圧(ラプラス圧)がバランスしている様子を示す図である。図6において内圧ΔPは、開口41に平行な面と垂直な面に関する曲面の曲率をそれぞれr1,r2とすると下記式で表される。
Figure 2010277932
上記式2では、開口41における内圧ΔP(ラプラス圧)が液体金属44表面側から内部側に向く方向を正方向とする。また、曲率半径r1,r2のそれぞれについては、原点が液体金属内面方向に在る場合を正、外面方向に在る場合を負とする。図6においては、r1<0,0<r2であり、例えば、液体金属Ga44の量を増やして開口41の膜厚が開口径程度になり、θE(接触角)が大きいと直ちにラプラス圧が負(ΔP<0)となり開口41が液体金属Ga44で塞がってしまう。
また、前述したように、毛管長(k−1)よりも大きい距離範囲においては、液体金属44の表面(界面)形状に対して重力が支配的となり、毛管長(k−1)よりも小さい距離範囲においては表面張力が支配的となる。液体金属Gaにおける毛管長(k−1)は、約3.5mmである。例えば、ビーム制限アパーチャ33の凹部の内径をφ7mm以下(つまり、開口から外周までの距離を3.5mm以下)にしてGa44を載せた場合、液体金属Ga44の表面の曲率が3.5mm以下であれば、液体金属Ga44の表面張力が重力に勝り、重力から受ける影響は少なくなる。しかし、液体金属Ga44の表面の曲率が3.5mm以上になるような量の液体金属Ga44をビーム制限アパーチャ33に載せると、重力の影響力が大きくなり、特に、開口41付近における曲率は小さいので負の表面張力を持ち、したがって、開口41が液体金属Ga44により詰まり易い状態になる。
さらに、外部からの衝撃などにより開口41付近の液体金属Ga44に働く衝撃は数Gに及ぶので、衝撃による液体金属Ga44の移動により開口41が詰まらないようにするには、毛管長(k−1)が(1/√g)(g:撃力)に比例することを考慮し、ビーム制限アパーチャ33の液体金属Ga44を載せる量による式2のrを毛管長(k−1)より数倍小さくする必要がある。
以上のように構成した本実施の形態における効果を図面を参照しつつ説明する。
図7は、本実施の形態に対する比較例のビーム制限アパーチャ933を示す図である。図中、図5に示す部分と同様のものには同じ符号を付している。図7に示す比較例では、GaLMIS31から引き出されたイオンビーム2に対向するように設けられた凹部を有するベース946と、ベース946の凹部に載せられた液体金属44とを備えている。また、ベース946の凹部の底面には、イオンビーム2が通過する開口41が設けられている。ベース946はWで形成されており、液体金属44はGaである。
このように構成した比較例のビーム制限アパーチャ933においては、その凹部に載せられた液体金属Ga44の量が十分である場合、イオンビーム2によるスパッタ粒子はGa粒子であり、スパッタ粒子がGaLMIS31のエミッタ35に付着してもエミッタ35のGaの物性を変化させないため、GaLMIS31からのエミッションの安定性悪化を抑制することができる。
しかしながら、長時間のエミッションによりビーム制限アパーチャ933の凹部に載せられた液体金属Ga44の量が減少した場合は、母材であるタングステン(W)が露出し、そのWのスパッタ粒子が生成される。エミッタ35にWが付着すると、リザーバ36からエミッタ35へのGaの供給が妨げられ、GaLMIS31からのエミッションが減少してしまう。特に、大電流で高電流密度のイオンビーム2を照射する場合は、GaLMIS31とビーム制限アパーチャ933の距離を短くしてビーム径を絞るため、エミッタ35へのスパッタ粒子(W)の付着量が多くなり、エミッションの減少がより顕著となる。これは、GaLMIS31とビーム制限アパーチャ933の距離を短くすると、ビーム制限アパーチャ933へのイオンビーム2の照射領域が狭くなり照射電流密度が高くなるので、スパッタ粒子の単位面積当たりの発生数が多くなるため、エミッタ35へのスパッタ粒子の付着量が増加するとともに、GaLMIS31の見込み角(GaLMIS31に付着可能なスパッタ粒子が作る立体角であり、面積/距離で表される)が大きくなるため、エミッタ35へのスパッタ粒子の付着量が増加することによる。このように、エミッションの減少速度が大きくなる場合に、エミッションの減少に応じて引出電圧を変えることによってエミッションを一定に制御しようとすると、光軸とフォーカスが変わってしまい、引出電圧を制御せず、エミッションの減少を放置すると、イオンビーム2のビーム電流が減少し、照射対象の加工ができなくなる。
また、エミッタ35へのスパッタ粒子(W)の付着によるエミッションの減少は、適宜、フラッシングすることにより元のエミッションに戻すことができるが、Wのスパッタ粒子が生成される状態は、ビーム制限アパーチャ933の母材がスパッタリングされている状態であり、イオンビーム2の通過する開口が拡がり、ビーム制限アパーチャ933の寿命が短くなってしまう。
また、ビーム制限アパーチャ933の凹部に載せる液体金属44(Ga)の量を増やして母材であるWの露出を抑制することも考えられるが、単純にGaの量を増加させると、イオンビームが通過する開口がGaによって塞がってしまう恐れがある。また、Gaによって開口が塞がりにくいように開口を大きく広くすることも考えられるが、この場合はイオンビームのビーム径を絞る効果が低下し、ビーム制限アパーチャの目的に反する。
これに対し、本実施の形態においては、タングステン(W)により形成されたベース46に液体金属ガリウム(Ga)を載せて形成され、GaLMIS31から引き出されたイオンビーム2の通過を許容する開口を有し、イオンビーム2の径を制限するビーム制限アパーチャ33のベース46に、その開口を含むように凹部を設け、さらに、凹部の内側に開口41の周囲を囲むように設けられた溝部45とを設けて、液体金属Gaを開口の周囲に集める構造とした。したがって、ビーム制限アパーチャ33の開口の周辺に液体金属Gaが集まり、開口部付近の液体金属Gaが厚くなるので、イオンビーム2の照射によるスパッタリングによって液体金属Ga44の量が減少し、母材であるタングステンWが露出してスパッタリングされ始めるまでの時間を延ばすことができるので、ビーム制限アパーチャ33の寿命を延ばすことができる。また、溝部45を設けることにより、ビーム制限アパーチャ33に載せることが可能な液体金属Ga44の量が増えるので、さらに、ビーム制限アパーチャ33の寿命を延ばすことができる。さらに、ビーム制限アパーチャ33の開口41から凹部の外周までの距離を、液体金属Ga44の毛管長(k−1)よりも短く構成したので、液体金属Ga44が減少しても、開口41における表面張力で流動的に開口41の周囲に集まり、ビーム制限アパーチャ33の寿命を延ばすことができる。
また、ビーム制限アパーチャ33に液体金属としてガリウム(Ga)を載せたので、液体金属Ga44の量が十分である場合、イオンビーム2によるスパッタ粒子はGa粒子であり、スパッタ粒子がGaLMIS31のエミッタ35に付着してもエミッタ35のGaの物性を変化させないため、GaLMIS31からのエミッションの安定性悪化を抑制することができ、液体金属イオン銃におけるエミッションを長時間安定に維持することができる。例えば、液体金属イオン銃の到達真空度を10−7Paとして動作させると、エミッタ35と引出電極32の間に印加する引出電圧7kV、エミッション電流2.4μAの状態で、フラッシングやエミッション制御、ビームフォーカス調整などのメンテナンスを行うことなく連続して120時間、エミッションを安定に維持することができた。
さらに、ビーム制限アパーチャ33のベース64の母材をタングステン(W)で形成したので、液体金属Ga44が減少し、ベース46が露出してイオンビーム2によりスパッタリングされた場合に、エミッタ35にスパッタ粒子(W)が付着してエミッションが減少しても、適宜GaLMIS31をフラッシングすることにより元のエミッションに戻すことができる。したがって、液体金属イオン銃におけるエミッションの安定性を容易に回復することができる。
また、GaLMIS31の汚染としては、エミッションにより生成されるGaの酸化物が考えられ、そのGaの酸化物量が増加するに従ってエミッションが減少するが、約700度で約30秒間のフラッシング(加熱)を行うことにより、再現性が良くエミッション状態(エミッション電流と必要な引出電圧と安定性)を回復させることができる。
さらにまた、ビーム制限アパーチャ33のベース64の母材をタングステン(W)で形成したので、例えば、ベース64の母材をスズ(Sn)などで形成する場合と比較して、イオンビーム2によるスパッタリング速度が遅い。すなわち、Snの結晶粒径が約6〜10umであるのに対し、Wの結晶粒径は約1umと小さいので、Wはイオンビーム照射時に結晶粒の結晶方位の違いにより表面に形成される凹凸が形成されにくく、スパッタリング速度が小さい。したがって、ビーム制限アパーチャ33の寿命を延ばすことができる。
また、スパッタ粒子がスズ(Sn)の場合、そのスパッタ粒子(Sn)がGaLMIS31に付着すると、液体金属Gaと化合物を作る。この化合物の融点は、液体金属Gaに対する重量パーセント濃度が約10wt%以下では約30℃以下であるため、液体金属Gaの中に溶け込み、その結果、液体金属Gaの表面張力、融点などの物理特性が変化し、エミッションが不安定になってしまう。これに対し、本実施においては、ビーム制限アパーチャ33のベース64の母材をタングステン(W)で形成したので、液体金属イオン銃におけるエミッションを長時間安定に維持することができる。
なお、第1の実施の形態においては、ビーム制限アパーチャ33の外周部と溝部45の間に、溝部45側から外周部に向かって高くなるようにテーパ構造を設けたが、図8に示す第1の実施の形態の変形例のように、凹部の底面に相当する部分と外周部とが略直角に交差する構成としても良い。
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を図9を参照しつつ説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態における液体金属イオン銃のビーム制限アパーチャ33に換えてビーム制限アパーチャ233を設けた構成としたものである。
図9において、ビーム制限アパーチャ233は、GaLMIS31のエミッタ35を形成する部材(つまり、W)で形成された板状のベース246と、ベース246に載せられた液体金属244とを備えている。液体金属244はGaLMIS31に用いられた液体金属(つまり、Ga)である。また、ベース246のイオンビーム2が照射される位置には、イオンビーム2が通過する開口241が設けられている。ベース246には、開口241の周囲を囲むように溝部245が設けられている。液体金属244は、ビーム制限アパーチャ233の表面に液体金属Gaの塊を置いて、そのGaの塊を溶かし、さらに、ビーム制限アパーチャ233を−20℃の加冷却雰囲気にして固化することにより、ビーム制限アパーチャ233と一体的に移動可能とし、液体金属イオン銃への搭載を容易にした。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態においては、タングステン(W)により形成されたベース246に液体金属ガリウム(Ga)を載せてビーム制限アパーチャ233を形成し、そのビーム制限アパーチャ233の開口241の周囲を囲むように溝部245を設けて、液体金属Ga244を開口241の周囲に集める構造とした。したがって、ビーム制限アパーチャ33の開口の周辺に液体金属Gaが集まり、開口部付近の液体金属Gaが厚くなるので、イオンビーム2の照射によるスパッタリングによって液体金属Ga244の量が減少し、母材であるタングステンWが露出してスパッタリングされ始めるまでの時間を延ばすことができるので、ビーム制限アパーチャ233の寿命を延ばすことができる。また、溝部245を設けることにより、ビーム制限アパーチャ233に載せることが可能な液体金属Ga244の量が増えるので、さらに、ビーム制限アパーチャ233の寿命を延ばすことができる。
また、ビーム制限アパーチャ233に液体金属としてガリウム(Ga)を載せたので、液体金属Ga244の量が十分である場合、イオンビーム2によるスパッタ粒子はGa粒子であり、スパッタ粒子がGaLMIS31のエミッタ35に付着してもエミッタ35のGaの物性を変化させないため、GaLMIS31からのエミッションの安定性悪化を抑制することができ、液体金属イオン銃におけるエミッションを長時間安定に維持することができる。
さらに、ビーム制限アパーチャ233のベース264の母材をタングステン(W)で形成したので、液体金属Ga244が減少し、ベース246が露出してイオンビーム2によりスパッタリングされた場合に、エミッタ35にスパッタ粒子(W)が付着してエミッションが減少しても、適宜GaLMIS31をフラッシングすることにより元のエミッションに戻すことができる。したがって、液体金属イオン銃におけるエミッションの安定性を容易に回復することができる。
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態を図10を参照しつつ説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態における液体金属イオン銃のビーム制限アパーチャ233に溝部245の周囲を囲むように環状部材347を設けたものである。
図10において、ビーム制限アパーチャ333は、GaLMIS31のエミッタ35を形成する部材(つまり、W)で形成された板状のベース346と、ベース346に載せられた液体金属344とを備えている。液体金属344はGaLMIS31に用いられた液体金属(つまり、Ga)である。また、ベース346のイオンビーム2が照射される位置には、イオンビーム2が通過する開口341が設けられている。ベース346には、開口341の周囲を囲むように溝部345が設けられている。さらに、溝部345を囲むように、かつ、イオンビーム2の照射される領域にかからないように環状部材347が設けられており、開口341を含む凹部を形成している。環状部材347は、例えばタングステン、或いは、タングステン燒結体で形成されている。
以上のように構成した本実施の形態においても、第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態を図11を参照しつつ説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態における液体金属イオン銃のビーム制限アパーチャ33に換えてビーム制限アパーチャ433を設けた構成としたものである。
図11において、ビーム制限アパーチャ433は、GaLMIS31のエミッタ35を形成する部材(つまり、W)で形成された板状のベース446と、ベース446に載せられた液体金属444とを備えている。液体金属444はGaLMIS31に用いられた液体金属(つまり、Ga)である。また、ベース446のイオンビーム2が照射される位置には、イオンビーム2が通過する開口441が設けられている。ベース446には、開口441の周囲を囲むように溝部445が設けられている。さらに、溝部445を囲むように、かつ、イオンビーム2の照射される領域にかからないように環状部材447が設けられており、開口441を含む凹部を形成している。また、ベース446における凹部の外周部、すなわち、ベース446と環状部材447の境界部分に凹部を囲むように溝部449が形成されている。環状部材447は、100℃以下で液体金属Ga444と反応しない物質、例えば、酸化アルミニウム(Al)、或いは、モリブデン(Mo)等で形成されている。ここで、タングステン(W)とガリウム(Ga)の濡れ性について説明すると、WとGaは濡れ性が良いが、Wが酸化していると濡れにくい。酸化のない清浄なW表面を得るため、Wで形成したベース446を次亜塩素酸Na溶液に1時間浸漬する。あるいは、NaOHなどの電解液を使った電界研磨で表面の汚れを落としてから純水で超音波洗浄を行うことにより、酸化のない清浄なW表面が得られる。その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態においても、第2の実施の形体と同様の効果を得ることができる。
<第5の実施の形態>
本発明の第5の実施の形態を図12を参照しつつ説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態における液体金属イオン銃のビーム制限アパーチャ33に換えてビーム制限アパーチャ533を設けた構成としたものである。
図12において、ビーム制限アパーチャ533は、GaLMIS31のエミッタ35を形成する部材(つまり、W)で形成された板状のベース546と、ベース546に載せられた液体金属544とを備えている。液体金属544はGaLMIS31に用いられた液体金属(つまり、Ga)である。また、ベース546のイオンビーム2が照射される位置には、イオンビーム2が通過する開口541が設けられている。さらに、開口541を囲むように、かつ、イオンビーム2の照射される領域にかからないように環状部材547が設けられており、開口541を含む凹部を形成している。環状部材547は、液体金属Gaと濡れ性の悪い部材、例えば、ステンレス鋼(SUS)などで構成されている。また、この凹部の半径、すなわち開口541から凹部の外周までの距離は液体金属Ga544の毛管長よりも短くなるよう形成されている。さらに、ベース546に用いたWと液体金属Ga544の濡れ性を完全濡れ性にするために、真空中でベース546を1000℃以上に加熱、酸化や汚れを完全に除去した後、Gaを載せて溶融させた。その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態における効果を図面を参照しつつ説明する。
図13は、本実施の形態に対する比較例のビーム制限アパーチャ633を示す図である。図13に示す比較例では、Wで形成されたベース646と、ベース646に載せられた液体金属Ga644とを備えている。また、ベース646には、イオンビーム2が通過する開口641が設けられている。このように構成した比較例のビーム制限アパーチャ633においては、載せられた液体金属Ga644がベース646上に広がってしまい、イオンビーム2が照射される範囲において十分な厚みを得ることが困難であった。
これに対し、本実施の形態においては、タングステン(W)により形成されたベース546と、このベース546に設けた開口541を囲むように設けられ、開口541を含む凹部を形成する環状部材547とを備え、環状部材541を液体金属Ga544に対する濡れ性の悪い部材により形成したので、ビーム制限アパーチャ533の凹部に載せた液体金属Ga544によって環状部材541が濡れないために弾かれ、液体金属Ga544が開口541の周囲に集まる状態となる。したがって、ビーム制限アパーチャ533の開口541の周辺に液体金属Ga544が集まり、開口部付近の液体金属Gaが厚くなるので、イオンビーム2の照射によるスパッタリングによって液体金属Ga544の量が減少し、母材であるタングステンWが露出してスパッタリングされ始めるまでの時間を延ばすことができるので、ビーム制限アパーチャ533の寿命を延ばすことができる。
また、ビーム制限アパーチャ533の開口541から凹部の外周(つまり、環状部材541)までの距離を、液体金属Ga544の毛管長(k−1)よりも短く構成したので、液体金属Ga544が減少しても、開口541における表面張力で流動的に開口541の周囲に集まり、ビーム制限アパーチャ533の寿命を延ばすことができる。
さらに、ビーム制限アパーチャ533に液体金属としてガリウム(Ga)を載せたので、液体金属Ga544の量が十分である場合、イオンビーム2によるスパッタ粒子はGa粒子であり、スパッタ粒子がGaLMIS31のエミッタ35に付着してもエミッタ35のGaの物性を変化させないため、GaLMIS31からのエミッションの安定性悪化を抑制することができ、液体金属イオン銃におけるエミッションを長時間安定に維持することができる。
また、ビーム制限アパーチャ533のベース546の母材をタングステン(W)で形成したので、液体金属Ga544が減少し、ベース546が露出してイオンビーム2によりスパッタリングされた場合に、エミッタ35にスパッタ粒子(W)が付着してエミッションが減少しても、適宜GaLMIS31をフラッシングすることにより元のエミッションに戻すことができる。したがって、液体金属イオン銃におけるエミッションの安定性を容易に回復することができる。
さらにまた、GaLMIS31の汚染としては、エミッションにより生成されるGaの酸化物が考えられ、そのGaの酸化物量が増加するに従ってエミッションが減少するが、約700度で約30秒間のフラッシング(加熱)を行うことにより、再現性が良くエミッション状態(エミッション電流と必要な引出電圧と安定性)を回復させることができる。
なお、以上に本発明の幾つかの実施の形態を説明したが、これら実施の形態は本発明の精神の範囲内で種々の変形および組み合わせが可能である。
図14は、本実施例のビーム制限アパーチャを示す断面図であり、本発明を適用した場合の一例を示すものである。
図14において、ビーム制限アパーチャの形状は、外径φ10mm、厚さ1mmであり、上面のφ6.85mmから底面φ5mmまでは33°のテーパをつけており、上面から凹部の底面までの深さはφ0.6mmである。また、凹部の底面の中心にはφ0.4mmの開口を設け、さらに、底面のφ0.6mmからφ4mmの範囲に、深さ0.2mmの溝部を設けた。また、開口の裏面には高さ方向に0.2mmの面取りをした。
このように構成したビーム制限アパーチャの溝部に溜まる液体金属Gaの量は、約15mgであり、これは、GaLMISからのエミッションを3.2uAとして約1000hイオン照射を受けたときにスパッタリングにより減少する液体金属Gaの量に相当する。すなわち、溝部を設けない場合のビーム制限アパーチャに比べて寿命を約1000h延ばすことができた。
また、ビーム制限アパーチャ733に、60mgの液体金属Gaを載せた場合、その液体金属Gaの界面形状は、溝部を設けない場合に45mgの液体金属Gaを載せた時の界面形状に相当するので、イオンビーム2による液体金属Gaのスパッタリング状態を変えずに液体金属Gaの量を増やすことができる。
さらに、GaLMIS31からのエミッションが2uAのとき、GaLMIS31とビーム制限アパーチャ733の距離を5mmとすると、そのビーム制限アパーチャ733上におけるイオンビーム2の照射領域はφ2.6mmである。したがって、深さ0.2mmの溝部を設けたφ4mmの範囲内であり、液体金属Gaの量が減少した場合にも母材が露出しにくい範囲内であるので、溝部を設けない場合に比べてビーム制限アパーチャの寿命を延ばすことができる。
また、ビーム制限アパーチャの開口から凹部の外周までの距離を、液体金属Gaの毛管長(k−1≒3.5mm)よりも短く構成したので、液体金属Gaが減少しても、開口における表面張力で流動的に開口の周囲に集まり、ビーム制限アパーチャの寿命を延ばすことができる。
さらにまた、ビーム制限アパーチャに液体金属としてガリウム(Ga)を載せたので、液体金属Gaの量が十分である場合、イオンビームによるスパッタ粒子はGa粒子であり、スパッタ粒子がGaLMISのエミッタに付着してもエミッタのGaの物性を変化させないため、GaLMISからのエミッションの安定性悪化を抑制することができ、液体金属イオン銃におけるエミッションを長時間安定に維持することができる。
また、ビーム制限アパーチャのベースの母材をタングステン(W)で形成したので、液体金属Gaが減少し、ベースが露出してイオンビームによりスパッタリングされた場合に、エミッタにスパッタ粒子(W)が付着してエミッションが減少しても、適宜GaLMISをフラッシングすることにより元のエミッションに戻すことができる。したがって、液体金属イオン銃におけるエミッションの安定性を容易に回復することができる。
1 真空容器
2 イオンビーム
3 液体金属イオン銃
10 真空排気装置
11 ゲートバルブ
12 イオンポンプ
20 高電圧電源部
21 アース電極
22,25 高電圧ケーブル
23,26 高電圧接続部
24 加速電源
27 引出電源
29 加熱電源
31 液体金属イオン源
32 引出電極
33 ビーム制限アパーチャ
34 アース電極
35 エミッタ
36 リザーバ
37 フィラメント
38 通電端子
39 碍子ベース
40,41 開口
42 スパッタ粒子

Claims (17)

  1. 第1金属材よりなる液体金属イオン材と、
    第2金属材により形成され前記液体金属イオン材を保持するリザーバと、前記第2金属材により形成されたエミッタとを有する液体金属イオン源と、
    前記第2金属材により形成されたベースに前記第1金属材よりなる液体金属材を載せて形成され、前記液体金属イオン源から引き出されたイオンビームの通過を許容する開口を有し、該イオンビームの径を制限するビーム制限アパーチャとを備えた液体金属イオン銃であって、
    前記ビーム制限アパーチャは、前記液体金属材を前記開口の周囲に集める構造を備えたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  2. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記ベースは、前記開口の周囲を囲むように設けられた溝構造を備えたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  3. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記ベースは、前記開口を含むように設けられた凹部と、
    前記凹部の内側に前記開口の周囲を囲むように設けられた溝構造とを備えたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  4. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記ベースは、前記開口の周囲を囲むように設けられた溝構造を有し、
    前記溝構造を囲むように配置され、前記開口を含むように設けられた凹部を形成する環状部材を備えたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  5. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記ベースは、前記開口を含むように設けられた凹部を有し、
    前記凹部の内側の側面は、前記第1金属材よりなる液体金属材に対する濡れ性が少なくとも前記第2金属材に対する濡れ性よりも悪い金属材により形成されたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  6. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記開口を囲むように配置され、前記開口を含むように設けられた凹部を形成する環状部材を備え、
    前記環状部材は、前記第1金属材よりなる液体金属材に対する濡れ性が少なくとも第2金属材に対する濡れ性よりも悪い金属材により形成されたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  7. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記ベースは、前記開口を含むように設けられた凹部を有し、
    前記開口から前記凹部の外周までの距離は前記第1金属よりなる液体金属材の毛管長よりも短いことを特徴とする液体金属イオン銃。
  8. 請求項1記載の液体金属イオン銃において、
    前記開口を含むように配置され、前記開口を含むように設けられた凹部を形成する環状部材を備え、
    前記開口から前記凹部の外周までの距離は前記第1金属よりなる液体金属材の毛管長よりも短いことを特徴とする液体金属イオン銃。
  9. 請求項3〜6の何れか1項記載の液体金属イオン銃において、
    前記開口から前記凹部の外周までの距離は前記第1金属よりなる液体金属材の毛管長よりも短いことを特徴とする液体金属イオン銃。
  10. 請求項5又は6記載の液体金属イオン銃において、
    前記凹部の内側に前記開口の周囲を囲むように設けられた溝構造を備えたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  11. 請求項5又は6記載の液体金属イオン銃において、
    前記凹部の内側に前記開口の周囲を囲むように設けられた溝構造を備え、
    前記開口から前記凹部の外周までの距離は前記第1金属よりなる液体金属材の毛管長よりも短いことを特徴とする液体金属イオン銃。
  12. 請求項10記載の液体金属イオン銃において、
    前記溝構造は、前記凹部の底面内径に架からないことを特徴とする液体金属イオン銃。
  13. 請求項10記載の液体金属イオン銃において、
    前記凹部の外周から該凹部の深さに相当する距離に、前記溝構造の少なくとも一部が位置するように配置されたことを特徴とする液体金属イオン銃。
  14. 請求項1〜8の何れか1項記載の液体金属イオン銃において、
    前記第1金属材はガリウムであり、前記第2金属材はタングステンであることを特徴とする液体金属イオン銃。
  15. 請求項14記載の液体金属イオン銃において、
    前記ビーム制限アパーチャの表面を溶融ガリウムにより濡らした後にこれを固化することにより形成したものであることを特徴とする液体金属イオン銃。
  16. 第1金属材よりなる液体金属イオン材と、第2金属材により形成され前記液体金属イオン材を保持するリザーバと、前記第2金属材により形成されたエミッタとを有する液体金属イオン源から引き出されたイオンビームの径を制御するビーム制限アパーチャであって、
    前記第2金属材により形成されたベースに前記第1金属材よりなる液体金属材を載せて形成され、
    前記イオンビームの通過を許容する開口を有し、
    前記液体金属材を前記開口の周囲に集める構造を備えたことを特徴とするビーム制限アパーチャ。
  17. 真空容器と、
    第1金属材よりなる液体金属イオン材と、第2金属材により形成され前記液体金属イオン材を保持するリザーバと、前記第2金属材により形成されたエミッタとを有する液体金属イオン源と、前記第2金属材により形成されたベースに前記第1金属材よりなる液体金属材を載せて形成され、前記液体金属イオン源から引き出されたイオンビームの通過を許容する開口を有し、該イオンビームの径を制限するビーム制限アパーチャとを備えた液体金属イオン銃であって、前記ビーム制限アパーチャは、前記液体金属材を前記開口の周囲に集める構造を備えた液体金属イオン銃と、
    前記開口を通過したイオンビームを加速する加速電極と
    を備えたことを特徴とするイオンビーム装置。
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