JP2004014309A - アパーチャおよび集束イオンビーム装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】ガリウム液体金属イオン源を長期間、安定して稼働させる。
【解決手段】放出イオンの照射を受けるアパーチャを、スズを基板としイオン照射を受ける側に、インジウム薄片またはインジウムとガリウムの合金からなる薄片を配設した構造とする。
【選択図】図1
【解決手段】放出イオンの照射を受けるアパーチャを、スズを基板としイオン照射を受ける側に、インジウム薄片またはインジウムとガリウムの合金からなる薄片を配設した構造とする。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は極微小領域の二次イオン質量分析や超微細領域加工を実現する集束イオンビーム装置における、イオンビーム通過開口を有するアパーチャの構造およびこのアパーチャを搭載した集束イオンビーム装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
集束イオンビーム(Focused Ion Beam:以下、FIBと略記)装置は、FIB照射部の表面形状を画像化したり、試料の微細領域を加工したりするための装置であり、例えば半導体素子等におけるμmオーダの微小領域の断面形成や配線修正、透過電子顕微鏡のための試料作製などに用いられる。
【0003】
図2にFIB装置の従来例を示す。この装置は、所望のイオンを放出する液体金属イオン源1(Liquid Metal Ion Source:以下、LMISと略記)、液体金属イオン源1からイオンを引き出す引き出し電極21、放出イオン22の中央部のみを下流に通すアパーチャ23、放出したイオンの拡がりを抑制する集束レンズ24、イオンビームを一時的に試料32の表面に到達させないようにイオンビーム軌道をずらすブランカ25、ビーム直径とビーム電流を調整する絞り26、イオンビーム軌道を光軸上に補正するアライナ27、イオンビームを試料面上で走査掃引する偏向器28、イオンビームを試料面上で集束させる対物レンズ29、試料台31、集束イオンビーム30が試料32の表面に入射した際に放出される二次電子を捕獲する二次電子検出器33などから構成される。
【0004】
FIB装置における引き出し電極21やコンデンサレンズ24、対物レンズ29などはステンレス鋼、絞り26はモリブデンやタングステン等、電子顕微鏡に代表される電子ビーム装置において信頼性が高い素材で構成されている。
【0005】
ここで、FIBの概略および基本性能については、論文集ヌークリア・インスツルメンツ・アンド・メソッズ・イン・フィジクス・リサーチ第B55巻(1991年)第802頁から第810頁(Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B55(1991)802−810)にかけて、ザ・テクノロジー・オヴ・ファインリー・フォーカスト・イオン・ビームス(The technology of finely focused ion beams、以下文献1)において、ハリオット(L.R.Harriott)による解説が掲載されている。
【0006】
次に、上記LMISについて図3を用いて概略を説明する。LMIS1は、イオン化すべき材料(イオン材料2)を保持するリザーバ3と、イオン材料を溶融状態に維持するためのフィラメント4と、先端部に高電界を形成してイオン材料のイオンを放出させる先端が針状形状で溶融状態のイオン材料に覆われたエミッタ5、絶縁碍子6、上記碍子6に固定されフィラメント4への加熱電流導入やエミッタ5へのイオン加速電圧印加を行う電流導入端子7等から構成されている。エミッタ5の電位に対して−5から−10kVを引き出し電極21に印加することで、エミッタ先端からイオン材料の正イオンが放出される。符号22は放出イオンである。
【0007】
FIB装置において、最も広く用いられているイオン材料はガリウムである。ガリウムは低融点(約30℃)で、この時の蒸気圧はほとんど無視できるため、イオン材料の蒸発による消耗や真空容器内の汚れが無視できるなどの利点を有している。LMISは、放出イオンのエネルギ拡がりを抑制するためとガリウムの熱蒸発による無用の損失を防ぐために、通常はフィラメントを通電加熱することなく室温で動作させる。
【0008】
LMISの概略および基本性能については、論文集アプライド・サーフェス・サイエンス、第76/77巻(1994年)80から88頁(Applied Surface Science,76/77(1994)80−88)に、ユース・オヴ・ザ・リキッド・メタル・イオン・ソース・フォア・フォーカスト・ビーム・アプリケーション(Use of the liquid metal ion source for focused beam applications、以下文献2)におけるスワンソン(L.W.Swanson)による解説がある。
【0009】
FIB装置を半導体素子の配線修正や微小部加工、透過電子顕微鏡用の試料作成等の分野で用いる場合、FIBの電流変動が常に安定で、しかも長時間持続することが求められる。
【0010】
目的の試料を高速かつ高品位に微細加工するためには、高電流密度で高集束性のFIBを形成することが必須である。これを実現するためには、LMISを集束レンズに近づけることが得策であることは知られている。また、装置構成面から検討すると、LMISからの放出イオンが集束レンズの電極を照射しないように、LMIS直下、集束レンズ直前にアパーチャを設置し、集束レンズ内にイオンビームを導入させることが得策である。
【0011】
一方、放出イオン電流を安定化させるためには、酸化物や高融点金属など不純物をイオン放出部に付着させることは絶対避けねばならない。しかしながら、LMIS直下にアパーチャを設置すると、イオン照射によってアパーチャからスパッタ粒子が発生し、このスパッタ粒子がエミッタ上のイオン材料に付着し、放出イオン電流を不安定にさせることがある。ただし、LMIS直下に設置したアパーチャなどの部材の素材に、イオン材料に溶け込みやすい元素からなる素材を使うこと、例えばイオン材料がガリウムの場合、アパーチャをスズやインジウムで作成すると、従来のモリブデンやタングステンに比べてよい結果が得られることは知られている。
【0012】
上記に関しては、例えば論文集ジャーナル・オヴ・アプライド・フィジクス、第63巻10号、(1988年)4811から4818頁(Journal ofApplied Physics,63(10)(1988)4811−4818)に記載のイフェクツ・オヴ・バックスパッタード・マテリアルズ・オン・ガリウム・リキッド・メタル・イオン・ソース・ビヘビア(Effects of backsputtered materials on gallium liquid metal ion source behavior、以下文献3)において、ガリウムLMISを安定動作させるためには、LMIS直下でイオン照射を受ける部材に、従来のモリブデンに比べてスズを用いることが好ましいとの、ガロビック(C.S.Galovich)による記述がある。
【発明が解決しようとする課題】
図4に示すように、IMISではエミッタ5上の溶融状態のイオン材料2と引き出し電極21の間に高電界を形成し、エミッタ5先端からイオンを放出させる。放出イオン22の一部はアパーチャ23の開口34を通して下流に向かい、放出イオン22の大半はアパーチャ23を照射する。上記照射部からはスパッタ粒子35が発生し、その一部はイオン材料2に付着する。符号35Aはイオン材料に付着したスパッタ粒子である。
【0013】
このとき、アパーチャ23が電子顕微鏡のようにタングステンやモリブデン等でできていると、スパッタされたタングステンやモリブデン粒子35がガリウム2に付着するが、タングステンやモリブデンはガリウム2に溶け込まないので、ガリウム2のイオン生成部(エミッタ5の先端部)への安定した流れが阻害されたり、ガリウム表面が高融点材料に覆われてガリウムがイオン化されない状態になってしまう。
【0014】
上記の様子をさらに詳細に示したのが図5である。図5において、(a)はエミッタ5先端部でのイオン材料2とイオン放出方向に関して、イオン材料2面が正常な場合を、(b)はイオン材料2面が不純物(不溶性のスパッタ粒子35Aなど)で覆われたり、高融点合金を形成する場合を示している。
【0015】
イオン材料面が正常な場合、イオン放出部50は光軸51上にあり、放出イオン22の中心は光軸51と合致しているが、イオン材料面に不純物が漂っている場合、イオン放出部50Aは光軸51上になく、放出イオン22の中心は光軸51に沿わない。この場合、集束イオンビーム装置の試料面では、到達イオン電流が減少したり、未到達になったり、不安定な状態となり、所望の加工や観察ができないという問題を引き起こす。
【0016】
これに対し、アパーチャをスズもしくはインジウムで作成すると、アパーチャの材料がスパッタされイオン材料(ガリウム)2に付着したとしても、スズもしくはインジウム粒子35Bが僅かの量である場合、図6のように粒子35Bはイオン材料(ガリウム)2に溶け込み、低融点合金を形成する。このため、イオン材料2を常に液体状態で維持できるため、放出イオンは安定し、試料に到達する集束イオンビーム電流も変動することなく安定に保つことができる。
【0017】
図7を用いて、アパーチャ材料とLMIS動作時間の関係を説明する。横軸はLMISの動作時間、縦軸はイオン放出部のイオン材料の融点で、LMIS直下にあるアパーチャがモリブデン製の場合の温度曲線70と、スズ製の場合の温度曲線71を示している。LMIS動作開始時(図中0点)のイオン材料はガリウム100%であるためイオン材料の融点(T1)は約30℃である。
【0018】
アパーチャがモリブデン製の場合、LMISの動作と共にスパッタ粒子の一部がイオン材料2に付着し、動作時間とともにイオン材料表面に浮遊し、融点が上昇するとともに浮遊物がイオン放出部を覆う。イオン放出部の温度が、イオン材料が固化する温度(T2)に達するとイオン放出が停止する。イオン源の寿命である(図7の符号t1は寿命時間を示す)。
【0019】
一方、スズ製アパーチャの場合、スパッタされたスズ粒子はガリウムに溶け込み、図7の曲線71のようにイオン材料の融点は徐々に低下し、エミッタ表面ではイオン材料は液体状態が長期間維持され、安定したイオン放出が実現する。動作時間t2でLMISはイオン材料の枯渇のため停止する。このように、従来、モリブデンやタングステン等ガリウムに溶け込まない素材のアパーチャに比べてイオン源寿命が大幅に延びることが理解できる。
【0020】
しかし、更なる長期間、高安定なイオン放出を得るためにリザーバへのイオン材料の充填量を増加させ、LMIS直下にスズ製もしくはインジウム製のアパーチャを設置しても次のような問題が生じることがわかった。
【0021】
図8のように、イオン材料の充填量を増したLMISを動作させると、動作時間t2を超えてイオン放出は継続するが、必ずしも搭載したイオン材料全てを消耗するまでは動作せずにイオン放出が停止する。また、長期間動作によってエミッタ表面のイオン材料の融点は徐々に上昇し始め、開始直後の温度T1を超える。この時点ではイオン材料はまだ液体状態を維持して、安定にイオン放出を継続するが、さらに動作させ続けると、イオン材料が固化し始め、溶融イオン材料のイオン放出部への供給が不安定になり、それとともにイオン放出は不安定になる。動作時間t3に達した時点でイオン放出部が固化し、ついにはイオン放出が停止する。
【0022】
これは、スズの混入量がイオン材料であるガリウムへの許容量を超えたため融点が上昇したもので、室温動作におけるイオン源の寿命である。スズ製アパーチャの場合のイオン源寿命t3は、モリブデン製アパーチャの寿命t1に比べて10倍以上にできるため、ガリウムLMISに対するスズ製アパーチャによるイオン源の長寿命効果は大きい。インジウム製アパーチャの場合のイオン源寿命は、スズの場合よりさらに2倍程度よくなり、従来のモリブデンやタングステン製アパーチャに比べ、寿命に与える効果は非常に大きい。
【0023】
上述の従来技術を把握したうえで、さらに詳細にアパーチャ素材と長期間のイオン放出安定性との関係について実験を行った結果、以下の問題を見出した。つまり、イオン源動作時間が数100時間(図8のt2からt3の間)の場合、アパーチャをインジウムもしくはスズで作成することで安定したイオンビーム放出が実現できるが、イオン源を1000時間を越えて長時間(図8におけるt3以上)動作させると、エミッタ表面に付着したスパッタ粒子(スズまたはインジウム)がイオン材料であるガリウムに対して過剰となり、室温(イオン材料を加熱しない状態)では固化し始め、イオン源動作は停止する。
【0024】
このような問題点に鑑みて解決すべき課題は、イオンビーム照射を受ける部材からのスパッタ粒子による放出イオン電流安定性への影響を軽減し、長時間安定したイオンビーム放出を実現することであり、本発明は長時間、安定してイオン放出を可能にするアパーチャを提供すること、また、長時間、安定して集束イオンビームが形成できる集束イオンビーム装置を提供することを目的としている。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術を基に本発明者らは、更なる長寿命高安定なイオン放出を実現するために、種々の構成の部材を用いた実験から、以下に示す構成によって目的を達成できることを見出した。
【0026】
上記目的を達成するための本発明のアパーチャは、スズ製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部に、インジウム、インジウムとガリウムの合金、インジウムとスズの合金のうちの少なくとも何れかを配設したことを特徴とする。
【0027】
本発明と従来技術とが根本的に異なる点は、モリブデンやタングステンなど液体ガリウムに対して溶け込まずに液体金属イオン源にとって不純物となる材質は使わず、スズを基板にして、イオン照射を受ける少なくとも一部にインジウムもしくはインジウムとガリウムの合金、もしくはインジウムとスズの合金の少なくとも何れかを配設したことである。
【0028】
本発明によれば、アパーチャの断面の少なくとも一部がスズとインジウム、もしくはこれらを含む合金との多層構造となっていることで、イオン放出部に戻るスパッタ粒子の成分をスズとインジウムの両者になる。この構造によって、イオン放出部のイオン材料は長期間液体状態を保持でき、その結果、長期間にわたって安定したイオン放出を実現できる。
【0029】
このような観点から上記目的は、
(1)ガリウム液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置のアパーチャであって、スズ製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部にインジウム、インジウムとガリウムの合金、インジウムとスズの合金のうちの少なくとも何れかを配設したアパーチャ、または、
(2)ガリウム液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置のアパーチャであって、インジウム製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部にスズ、スズとガリウムの合金、スズとインジウムの合金のうちの少なくとも何れかを配設したアパーチャによって達成される。
【0030】
また、上記の別の目的は、
(3)ガリウムイオンを放出するガリウム液体金属イオン源、イオンビームを微細に集束化する集束レンズ、イオン通過途中にあってイオンの通過量を制限するアパーチャ、イオンビームを試料面で走査掃引する偏向器、試料へのイオンビーム照射によって上記イオンビーム照射部から発生する二次電子を検出する二次電子検出器、試料を載置する試料台を少なくとも有する集束イオンビーム装置において、上記アパーチャが上記(1)または(2)のうちの何れかに記載のアパーチャある集束イオンビーム装置によって達成される。
【0031】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
LMIS直下に設置されるアパーチャを、スズを基板にして上面にインジウム薄板を配置して構成した実施例を図9(a)を用いて説明する。本実施例で用いたアパーチャ40は、直径15mm、厚さ2mmのスズ製基板40Aの中央にイオンビームが通過する直径0.2mmの開口60があり、LMISと面する側(イオン照射を受ける面)に同じ直径の開口を有する直径15mm、厚さ約0.5mmのインジウム製薄板40Bを重ねたものである。
【0032】
図1は本実施例のアパーチャ40をイオン放出材料にガリウムを用いたLMISと組み合わせたFIB装置におけるイオン源部分の縦断面図である。本実施例において、LMISからのイオン照射領域は基板の中央を中心に直径約5mmの領域で、エミッタから放出されたイオンのほぼ全てがインジウム薄板40Bを照射することになる。
【0033】
図10の曲線72に、本実施例のアパーチャを用いたFIB装置の動作時間とイオン放出部周辺の融点の関係を示す。図の曲線70、71Aは比較のために従来例のアパーチャを用いた場合の温度曲線であり、曲線70はモリブデン製アパーチャ、曲線71Aはスズ製アパーチャでの温度曲線である。
【0034】
本発明の実施例において、イオン源動作初期のスパッタ粒子はインジウムで、その一部がエミッタ上のイオン材料面に付着すると、それらはガリウム中に溶解する。ガリウム中へのインジウムの混入により、イオン材料の融点は若干低下し、イオン材料は液体状態を維持し、安定してイオン放出を行う。動作時間が1500時間を過ぎる頃(t4)にはイオン材料の融点は上昇し始める。ガリウムに溶け込むインジウムの量が許容限に近づきかけているためである。しかし、この頃にはアパーチャ40のインジウム製薄板40Bはスパッタされなくなり、スズ製基板40Aからのスパッタ粒子が放出され始める。すると、インジウムを僅かに含んだイオン材料にスズが混入することで、再度融点は低下し始め、安定したイオン放出が継続する。しかし、長期間のLMISの動作の末、動作時間t5(本実施例では3000時間)で、ついにイオン材料の融点がT2に達し、室温で固化し、イオン放出が停止する。
【0035】
このように、本発明によるアパーチャを用いることで、従来の曲線70または71に比べて、室温での安定したイオン放出時間を大幅に延長させることができた。これによりFIBもビーム電流やビーム直径の変動が抑制され、連続した微細加工が行えるようになった。
(実施例2)
本発明の別の実施例によるアパーチャを図9(b)を用いて説明する。図9(b)において、アパーチャ401は、スズ製基板401Aに、インジウムとガリウムからなる合金(In:60原子%、Ga:40原子%)の薄板401Bを配置した例で、構造上、薄板401Bは基板401Aに嵌合され、両者の位置ずれを防止している。ビームが通過する開口は、薄板の開口601Bと基板の開口601Aが必ずしも同じ径である必要はなく、本実施例の場合、基板401Aの開口601Aの直径が0.2mmに対し、薄板401Bの開口601Bは0.3mmとした。
【0036】
このような形状にすることで、スパッタ粒子は常にインジウム、スズ、ガリウムの各元素が含まれるが、それらは何れもエミッタ上のガリウムに対して溶け込むため、イオン放出部に悪影響を与えない。特に、本実施例では薄板にガリウムを含む合金を用いたことで、実施例1に比べてイオン材料に到達するスパッタ粒子中のインジウムの比率を下げることができ、イオン材料(ガリウム)に与える影響が緩やかになり、ガリウム中のインジウム成分上昇による融点上昇までの時間が長くなり、安定イオン放出期間を延ばすことができる。
【0037】
さらに、本実施例では基板401Aからのスズ粒子も混入するため、イオン材料の融点上昇がより効果的に抑制され、液体状態が長期間維持される。本実施例によれば、約1500時間の連続運転に対しても安定なイオン放出を実現できた。
【0038】
このような観点から、基板をインジウムとし、スズとガリウムの合金を薄板状に加工したものを配設した構造であっても同じ効果をもたらす。
(実施例3)
本発明による別の実施例のアパーチャを図9(c)を用いて説明する。本実施例の特徴は、スズ製の基板402Aの中央に、小直径のインジウム製の薄板402Bを設置したことにある。薄板402Bの外径はイオン照射領域402Cに比べて小さいため、イオン照射によって基板402Aと薄板402Bの両方からのスパッタ粒子がイオン放出部に到達する。微量のスズとインジウムはガリウムと低融点の合金を形成するため、イオン材料は長時間にわたって液体状態を維持でき、安定したイオン放出を実現できる。
(実施例4)
図9(d)を用いてさらに別のアパーチャの実施例を説明する。図9(d)は本発明によるアパーチャ403の断面図であり、スズ製の基板403Aに密着させてインジウム製の薄板403Bを配置し、さらにその上に密着させてスズ製の薄板403Cを配置し、その上にインジウム製の薄板403Dを配置した4層構造のアパーチャである。アパーチャ403の中央には開口603が設けられている。
【0039】
これまで説明したように、LMISを動作させることでイオン照射を受けるアパーチャ403のうち、まず薄板403Dからインジウム粒子がスパッタされ飛散する。この時、スパッタ粒子の一部がエミッタやフィラメント、リザーバに付着する。液体ガリウムに付着部すると、インジウムはガリウムに解け込み、イオン材料の融点はLMIS動作当初より低下する傾向になり、イオン放出材料(ガリウム)の周辺は液体状態に保たれ、安定したイオン放出が実現する。
【0040】
LMIS稼働後数100時間経過すると、イオン放出材料に解け込むインジウム量が増加し、イオン放出材料の融点が上昇し始める。しかし、アパーチャ403の最上層であるインジウム薄板403Dはスパッタにより除去され、第2層目のスズ薄板403Cが露出し始め、スパッタ粒子の組成はスズが支配的になる。イオン放出材料は大半がガリウムであるが、第1層目のインジウムにより融点はやや低下し、インジウムの付着が過剰になり、融点が上昇し始めるる頃に、第2層目のスパッタ粒子であるスズが流入するため、イオン材料の融点は再び低下する。この繰り返しで、イオン放出材料の融点は長期間にわたって低融点に維持でき、これによって、その間エミッタ先端のイオン材料は液状に維持され、安定したイオン放出を継続できる。本実施例によれば、リザーバへのイオン材料の充填量にもよるが、連続3000時間の動作も可能となった。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、長期間にわたって安定したイオン放出ができ、これにより、長期間安定した集束イオンビームを形成できるようになる。また、これによって、長期間安定したFIB形成が実現し、連続した高品位の微細加工ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のFIB装置におけるイオン源部分の縦断面図。
【図2】集束イオンビーム装置の基本構成を示す縦断面図。
【図3】従来のFIB装置におけるイオン源部分の構造を示す縦断面図。
【図4】従来のLMISにおける問題点を説明する図。
【図5】従来のLMISにおける問題点の原因を詳細に説明する図。
【図6】従来のLMISにおける安定化を説明する図。
【図7】従来のLMISにおける動作時間とイオン放出材料の融点の関係を示す図。
【図8】従来のLMISにおける動作時間とイオン放出材料の融点の関係を示す図。
【図9】本発明の実施例によるアパーチャの構造を示す縦断面図。
【図10】本発明の実施例におけるLMIS動作時間とイオン放出材料の融点の関係を示す図。
【符号の説明】
1…液体金属イオン源、2…イオン材料、3…リザーバ、4…フィラメント、5…エミッタ、6…絶縁碍子、7…電流導入端子、21…引き出し電極、22…放出イオン、23…アパーチャ、24…コンデンサレンズ、25…ブランカ、26…絞り、27…アライナ、28…偏向器、29…対物レンズ、30…集束イオンビーム、31…試料台、32…試料、35、35A,35B…スパッタ粒子、40…アパーチャ、40A…基板、40B…薄片、50…イオン放出部、51…光軸。
【発明の属する技術分野】
本発明は極微小領域の二次イオン質量分析や超微細領域加工を実現する集束イオンビーム装置における、イオンビーム通過開口を有するアパーチャの構造およびこのアパーチャを搭載した集束イオンビーム装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
集束イオンビーム(Focused Ion Beam:以下、FIBと略記)装置は、FIB照射部の表面形状を画像化したり、試料の微細領域を加工したりするための装置であり、例えば半導体素子等におけるμmオーダの微小領域の断面形成や配線修正、透過電子顕微鏡のための試料作製などに用いられる。
【0003】
図2にFIB装置の従来例を示す。この装置は、所望のイオンを放出する液体金属イオン源1(Liquid Metal Ion Source:以下、LMISと略記)、液体金属イオン源1からイオンを引き出す引き出し電極21、放出イオン22の中央部のみを下流に通すアパーチャ23、放出したイオンの拡がりを抑制する集束レンズ24、イオンビームを一時的に試料32の表面に到達させないようにイオンビーム軌道をずらすブランカ25、ビーム直径とビーム電流を調整する絞り26、イオンビーム軌道を光軸上に補正するアライナ27、イオンビームを試料面上で走査掃引する偏向器28、イオンビームを試料面上で集束させる対物レンズ29、試料台31、集束イオンビーム30が試料32の表面に入射した際に放出される二次電子を捕獲する二次電子検出器33などから構成される。
【0004】
FIB装置における引き出し電極21やコンデンサレンズ24、対物レンズ29などはステンレス鋼、絞り26はモリブデンやタングステン等、電子顕微鏡に代表される電子ビーム装置において信頼性が高い素材で構成されている。
【0005】
ここで、FIBの概略および基本性能については、論文集ヌークリア・インスツルメンツ・アンド・メソッズ・イン・フィジクス・リサーチ第B55巻(1991年)第802頁から第810頁(Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B55(1991)802−810)にかけて、ザ・テクノロジー・オヴ・ファインリー・フォーカスト・イオン・ビームス(The technology of finely focused ion beams、以下文献1)において、ハリオット(L.R.Harriott)による解説が掲載されている。
【0006】
次に、上記LMISについて図3を用いて概略を説明する。LMIS1は、イオン化すべき材料(イオン材料2)を保持するリザーバ3と、イオン材料を溶融状態に維持するためのフィラメント4と、先端部に高電界を形成してイオン材料のイオンを放出させる先端が針状形状で溶融状態のイオン材料に覆われたエミッタ5、絶縁碍子6、上記碍子6に固定されフィラメント4への加熱電流導入やエミッタ5へのイオン加速電圧印加を行う電流導入端子7等から構成されている。エミッタ5の電位に対して−5から−10kVを引き出し電極21に印加することで、エミッタ先端からイオン材料の正イオンが放出される。符号22は放出イオンである。
【0007】
FIB装置において、最も広く用いられているイオン材料はガリウムである。ガリウムは低融点(約30℃)で、この時の蒸気圧はほとんど無視できるため、イオン材料の蒸発による消耗や真空容器内の汚れが無視できるなどの利点を有している。LMISは、放出イオンのエネルギ拡がりを抑制するためとガリウムの熱蒸発による無用の損失を防ぐために、通常はフィラメントを通電加熱することなく室温で動作させる。
【0008】
LMISの概略および基本性能については、論文集アプライド・サーフェス・サイエンス、第76/77巻(1994年)80から88頁(Applied Surface Science,76/77(1994)80−88)に、ユース・オヴ・ザ・リキッド・メタル・イオン・ソース・フォア・フォーカスト・ビーム・アプリケーション(Use of the liquid metal ion source for focused beam applications、以下文献2)におけるスワンソン(L.W.Swanson)による解説がある。
【0009】
FIB装置を半導体素子の配線修正や微小部加工、透過電子顕微鏡用の試料作成等の分野で用いる場合、FIBの電流変動が常に安定で、しかも長時間持続することが求められる。
【0010】
目的の試料を高速かつ高品位に微細加工するためには、高電流密度で高集束性のFIBを形成することが必須である。これを実現するためには、LMISを集束レンズに近づけることが得策であることは知られている。また、装置構成面から検討すると、LMISからの放出イオンが集束レンズの電極を照射しないように、LMIS直下、集束レンズ直前にアパーチャを設置し、集束レンズ内にイオンビームを導入させることが得策である。
【0011】
一方、放出イオン電流を安定化させるためには、酸化物や高融点金属など不純物をイオン放出部に付着させることは絶対避けねばならない。しかしながら、LMIS直下にアパーチャを設置すると、イオン照射によってアパーチャからスパッタ粒子が発生し、このスパッタ粒子がエミッタ上のイオン材料に付着し、放出イオン電流を不安定にさせることがある。ただし、LMIS直下に設置したアパーチャなどの部材の素材に、イオン材料に溶け込みやすい元素からなる素材を使うこと、例えばイオン材料がガリウムの場合、アパーチャをスズやインジウムで作成すると、従来のモリブデンやタングステンに比べてよい結果が得られることは知られている。
【0012】
上記に関しては、例えば論文集ジャーナル・オヴ・アプライド・フィジクス、第63巻10号、(1988年)4811から4818頁(Journal ofApplied Physics,63(10)(1988)4811−4818)に記載のイフェクツ・オヴ・バックスパッタード・マテリアルズ・オン・ガリウム・リキッド・メタル・イオン・ソース・ビヘビア(Effects of backsputtered materials on gallium liquid metal ion source behavior、以下文献3)において、ガリウムLMISを安定動作させるためには、LMIS直下でイオン照射を受ける部材に、従来のモリブデンに比べてスズを用いることが好ましいとの、ガロビック(C.S.Galovich)による記述がある。
【発明が解決しようとする課題】
図4に示すように、IMISではエミッタ5上の溶融状態のイオン材料2と引き出し電極21の間に高電界を形成し、エミッタ5先端からイオンを放出させる。放出イオン22の一部はアパーチャ23の開口34を通して下流に向かい、放出イオン22の大半はアパーチャ23を照射する。上記照射部からはスパッタ粒子35が発生し、その一部はイオン材料2に付着する。符号35Aはイオン材料に付着したスパッタ粒子である。
【0013】
このとき、アパーチャ23が電子顕微鏡のようにタングステンやモリブデン等でできていると、スパッタされたタングステンやモリブデン粒子35がガリウム2に付着するが、タングステンやモリブデンはガリウム2に溶け込まないので、ガリウム2のイオン生成部(エミッタ5の先端部)への安定した流れが阻害されたり、ガリウム表面が高融点材料に覆われてガリウムがイオン化されない状態になってしまう。
【0014】
上記の様子をさらに詳細に示したのが図5である。図5において、(a)はエミッタ5先端部でのイオン材料2とイオン放出方向に関して、イオン材料2面が正常な場合を、(b)はイオン材料2面が不純物(不溶性のスパッタ粒子35Aなど)で覆われたり、高融点合金を形成する場合を示している。
【0015】
イオン材料面が正常な場合、イオン放出部50は光軸51上にあり、放出イオン22の中心は光軸51と合致しているが、イオン材料面に不純物が漂っている場合、イオン放出部50Aは光軸51上になく、放出イオン22の中心は光軸51に沿わない。この場合、集束イオンビーム装置の試料面では、到達イオン電流が減少したり、未到達になったり、不安定な状態となり、所望の加工や観察ができないという問題を引き起こす。
【0016】
これに対し、アパーチャをスズもしくはインジウムで作成すると、アパーチャの材料がスパッタされイオン材料(ガリウム)2に付着したとしても、スズもしくはインジウム粒子35Bが僅かの量である場合、図6のように粒子35Bはイオン材料(ガリウム)2に溶け込み、低融点合金を形成する。このため、イオン材料2を常に液体状態で維持できるため、放出イオンは安定し、試料に到達する集束イオンビーム電流も変動することなく安定に保つことができる。
【0017】
図7を用いて、アパーチャ材料とLMIS動作時間の関係を説明する。横軸はLMISの動作時間、縦軸はイオン放出部のイオン材料の融点で、LMIS直下にあるアパーチャがモリブデン製の場合の温度曲線70と、スズ製の場合の温度曲線71を示している。LMIS動作開始時(図中0点)のイオン材料はガリウム100%であるためイオン材料の融点(T1)は約30℃である。
【0018】
アパーチャがモリブデン製の場合、LMISの動作と共にスパッタ粒子の一部がイオン材料2に付着し、動作時間とともにイオン材料表面に浮遊し、融点が上昇するとともに浮遊物がイオン放出部を覆う。イオン放出部の温度が、イオン材料が固化する温度(T2)に達するとイオン放出が停止する。イオン源の寿命である(図7の符号t1は寿命時間を示す)。
【0019】
一方、スズ製アパーチャの場合、スパッタされたスズ粒子はガリウムに溶け込み、図7の曲線71のようにイオン材料の融点は徐々に低下し、エミッタ表面ではイオン材料は液体状態が長期間維持され、安定したイオン放出が実現する。動作時間t2でLMISはイオン材料の枯渇のため停止する。このように、従来、モリブデンやタングステン等ガリウムに溶け込まない素材のアパーチャに比べてイオン源寿命が大幅に延びることが理解できる。
【0020】
しかし、更なる長期間、高安定なイオン放出を得るためにリザーバへのイオン材料の充填量を増加させ、LMIS直下にスズ製もしくはインジウム製のアパーチャを設置しても次のような問題が生じることがわかった。
【0021】
図8のように、イオン材料の充填量を増したLMISを動作させると、動作時間t2を超えてイオン放出は継続するが、必ずしも搭載したイオン材料全てを消耗するまでは動作せずにイオン放出が停止する。また、長期間動作によってエミッタ表面のイオン材料の融点は徐々に上昇し始め、開始直後の温度T1を超える。この時点ではイオン材料はまだ液体状態を維持して、安定にイオン放出を継続するが、さらに動作させ続けると、イオン材料が固化し始め、溶融イオン材料のイオン放出部への供給が不安定になり、それとともにイオン放出は不安定になる。動作時間t3に達した時点でイオン放出部が固化し、ついにはイオン放出が停止する。
【0022】
これは、スズの混入量がイオン材料であるガリウムへの許容量を超えたため融点が上昇したもので、室温動作におけるイオン源の寿命である。スズ製アパーチャの場合のイオン源寿命t3は、モリブデン製アパーチャの寿命t1に比べて10倍以上にできるため、ガリウムLMISに対するスズ製アパーチャによるイオン源の長寿命効果は大きい。インジウム製アパーチャの場合のイオン源寿命は、スズの場合よりさらに2倍程度よくなり、従来のモリブデンやタングステン製アパーチャに比べ、寿命に与える効果は非常に大きい。
【0023】
上述の従来技術を把握したうえで、さらに詳細にアパーチャ素材と長期間のイオン放出安定性との関係について実験を行った結果、以下の問題を見出した。つまり、イオン源動作時間が数100時間(図8のt2からt3の間)の場合、アパーチャをインジウムもしくはスズで作成することで安定したイオンビーム放出が実現できるが、イオン源を1000時間を越えて長時間(図8におけるt3以上)動作させると、エミッタ表面に付着したスパッタ粒子(スズまたはインジウム)がイオン材料であるガリウムに対して過剰となり、室温(イオン材料を加熱しない状態)では固化し始め、イオン源動作は停止する。
【0024】
このような問題点に鑑みて解決すべき課題は、イオンビーム照射を受ける部材からのスパッタ粒子による放出イオン電流安定性への影響を軽減し、長時間安定したイオンビーム放出を実現することであり、本発明は長時間、安定してイオン放出を可能にするアパーチャを提供すること、また、長時間、安定して集束イオンビームが形成できる集束イオンビーム装置を提供することを目的としている。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術を基に本発明者らは、更なる長寿命高安定なイオン放出を実現するために、種々の構成の部材を用いた実験から、以下に示す構成によって目的を達成できることを見出した。
【0026】
上記目的を達成するための本発明のアパーチャは、スズ製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部に、インジウム、インジウムとガリウムの合金、インジウムとスズの合金のうちの少なくとも何れかを配設したことを特徴とする。
【0027】
本発明と従来技術とが根本的に異なる点は、モリブデンやタングステンなど液体ガリウムに対して溶け込まずに液体金属イオン源にとって不純物となる材質は使わず、スズを基板にして、イオン照射を受ける少なくとも一部にインジウムもしくはインジウムとガリウムの合金、もしくはインジウムとスズの合金の少なくとも何れかを配設したことである。
【0028】
本発明によれば、アパーチャの断面の少なくとも一部がスズとインジウム、もしくはこれらを含む合金との多層構造となっていることで、イオン放出部に戻るスパッタ粒子の成分をスズとインジウムの両者になる。この構造によって、イオン放出部のイオン材料は長期間液体状態を保持でき、その結果、長期間にわたって安定したイオン放出を実現できる。
【0029】
このような観点から上記目的は、
(1)ガリウム液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置のアパーチャであって、スズ製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部にインジウム、インジウムとガリウムの合金、インジウムとスズの合金のうちの少なくとも何れかを配設したアパーチャ、または、
(2)ガリウム液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置のアパーチャであって、インジウム製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部にスズ、スズとガリウムの合金、スズとインジウムの合金のうちの少なくとも何れかを配設したアパーチャによって達成される。
【0030】
また、上記の別の目的は、
(3)ガリウムイオンを放出するガリウム液体金属イオン源、イオンビームを微細に集束化する集束レンズ、イオン通過途中にあってイオンの通過量を制限するアパーチャ、イオンビームを試料面で走査掃引する偏向器、試料へのイオンビーム照射によって上記イオンビーム照射部から発生する二次電子を検出する二次電子検出器、試料を載置する試料台を少なくとも有する集束イオンビーム装置において、上記アパーチャが上記(1)または(2)のうちの何れかに記載のアパーチャある集束イオンビーム装置によって達成される。
【0031】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
LMIS直下に設置されるアパーチャを、スズを基板にして上面にインジウム薄板を配置して構成した実施例を図9(a)を用いて説明する。本実施例で用いたアパーチャ40は、直径15mm、厚さ2mmのスズ製基板40Aの中央にイオンビームが通過する直径0.2mmの開口60があり、LMISと面する側(イオン照射を受ける面)に同じ直径の開口を有する直径15mm、厚さ約0.5mmのインジウム製薄板40Bを重ねたものである。
【0032】
図1は本実施例のアパーチャ40をイオン放出材料にガリウムを用いたLMISと組み合わせたFIB装置におけるイオン源部分の縦断面図である。本実施例において、LMISからのイオン照射領域は基板の中央を中心に直径約5mmの領域で、エミッタから放出されたイオンのほぼ全てがインジウム薄板40Bを照射することになる。
【0033】
図10の曲線72に、本実施例のアパーチャを用いたFIB装置の動作時間とイオン放出部周辺の融点の関係を示す。図の曲線70、71Aは比較のために従来例のアパーチャを用いた場合の温度曲線であり、曲線70はモリブデン製アパーチャ、曲線71Aはスズ製アパーチャでの温度曲線である。
【0034】
本発明の実施例において、イオン源動作初期のスパッタ粒子はインジウムで、その一部がエミッタ上のイオン材料面に付着すると、それらはガリウム中に溶解する。ガリウム中へのインジウムの混入により、イオン材料の融点は若干低下し、イオン材料は液体状態を維持し、安定してイオン放出を行う。動作時間が1500時間を過ぎる頃(t4)にはイオン材料の融点は上昇し始める。ガリウムに溶け込むインジウムの量が許容限に近づきかけているためである。しかし、この頃にはアパーチャ40のインジウム製薄板40Bはスパッタされなくなり、スズ製基板40Aからのスパッタ粒子が放出され始める。すると、インジウムを僅かに含んだイオン材料にスズが混入することで、再度融点は低下し始め、安定したイオン放出が継続する。しかし、長期間のLMISの動作の末、動作時間t5(本実施例では3000時間)で、ついにイオン材料の融点がT2に達し、室温で固化し、イオン放出が停止する。
【0035】
このように、本発明によるアパーチャを用いることで、従来の曲線70または71に比べて、室温での安定したイオン放出時間を大幅に延長させることができた。これによりFIBもビーム電流やビーム直径の変動が抑制され、連続した微細加工が行えるようになった。
(実施例2)
本発明の別の実施例によるアパーチャを図9(b)を用いて説明する。図9(b)において、アパーチャ401は、スズ製基板401Aに、インジウムとガリウムからなる合金(In:60原子%、Ga:40原子%)の薄板401Bを配置した例で、構造上、薄板401Bは基板401Aに嵌合され、両者の位置ずれを防止している。ビームが通過する開口は、薄板の開口601Bと基板の開口601Aが必ずしも同じ径である必要はなく、本実施例の場合、基板401Aの開口601Aの直径が0.2mmに対し、薄板401Bの開口601Bは0.3mmとした。
【0036】
このような形状にすることで、スパッタ粒子は常にインジウム、スズ、ガリウムの各元素が含まれるが、それらは何れもエミッタ上のガリウムに対して溶け込むため、イオン放出部に悪影響を与えない。特に、本実施例では薄板にガリウムを含む合金を用いたことで、実施例1に比べてイオン材料に到達するスパッタ粒子中のインジウムの比率を下げることができ、イオン材料(ガリウム)に与える影響が緩やかになり、ガリウム中のインジウム成分上昇による融点上昇までの時間が長くなり、安定イオン放出期間を延ばすことができる。
【0037】
さらに、本実施例では基板401Aからのスズ粒子も混入するため、イオン材料の融点上昇がより効果的に抑制され、液体状態が長期間維持される。本実施例によれば、約1500時間の連続運転に対しても安定なイオン放出を実現できた。
【0038】
このような観点から、基板をインジウムとし、スズとガリウムの合金を薄板状に加工したものを配設した構造であっても同じ効果をもたらす。
(実施例3)
本発明による別の実施例のアパーチャを図9(c)を用いて説明する。本実施例の特徴は、スズ製の基板402Aの中央に、小直径のインジウム製の薄板402Bを設置したことにある。薄板402Bの外径はイオン照射領域402Cに比べて小さいため、イオン照射によって基板402Aと薄板402Bの両方からのスパッタ粒子がイオン放出部に到達する。微量のスズとインジウムはガリウムと低融点の合金を形成するため、イオン材料は長時間にわたって液体状態を維持でき、安定したイオン放出を実現できる。
(実施例4)
図9(d)を用いてさらに別のアパーチャの実施例を説明する。図9(d)は本発明によるアパーチャ403の断面図であり、スズ製の基板403Aに密着させてインジウム製の薄板403Bを配置し、さらにその上に密着させてスズ製の薄板403Cを配置し、その上にインジウム製の薄板403Dを配置した4層構造のアパーチャである。アパーチャ403の中央には開口603が設けられている。
【0039】
これまで説明したように、LMISを動作させることでイオン照射を受けるアパーチャ403のうち、まず薄板403Dからインジウム粒子がスパッタされ飛散する。この時、スパッタ粒子の一部がエミッタやフィラメント、リザーバに付着する。液体ガリウムに付着部すると、インジウムはガリウムに解け込み、イオン材料の融点はLMIS動作当初より低下する傾向になり、イオン放出材料(ガリウム)の周辺は液体状態に保たれ、安定したイオン放出が実現する。
【0040】
LMIS稼働後数100時間経過すると、イオン放出材料に解け込むインジウム量が増加し、イオン放出材料の融点が上昇し始める。しかし、アパーチャ403の最上層であるインジウム薄板403Dはスパッタにより除去され、第2層目のスズ薄板403Cが露出し始め、スパッタ粒子の組成はスズが支配的になる。イオン放出材料は大半がガリウムであるが、第1層目のインジウムにより融点はやや低下し、インジウムの付着が過剰になり、融点が上昇し始めるる頃に、第2層目のスパッタ粒子であるスズが流入するため、イオン材料の融点は再び低下する。この繰り返しで、イオン放出材料の融点は長期間にわたって低融点に維持でき、これによって、その間エミッタ先端のイオン材料は液状に維持され、安定したイオン放出を継続できる。本実施例によれば、リザーバへのイオン材料の充填量にもよるが、連続3000時間の動作も可能となった。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、長期間にわたって安定したイオン放出ができ、これにより、長期間安定した集束イオンビームを形成できるようになる。また、これによって、長期間安定したFIB形成が実現し、連続した高品位の微細加工ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のFIB装置におけるイオン源部分の縦断面図。
【図2】集束イオンビーム装置の基本構成を示す縦断面図。
【図3】従来のFIB装置におけるイオン源部分の構造を示す縦断面図。
【図4】従来のLMISにおける問題点を説明する図。
【図5】従来のLMISにおける問題点の原因を詳細に説明する図。
【図6】従来のLMISにおける安定化を説明する図。
【図7】従来のLMISにおける動作時間とイオン放出材料の融点の関係を示す図。
【図8】従来のLMISにおける動作時間とイオン放出材料の融点の関係を示す図。
【図9】本発明の実施例によるアパーチャの構造を示す縦断面図。
【図10】本発明の実施例におけるLMIS動作時間とイオン放出材料の融点の関係を示す図。
【符号の説明】
1…液体金属イオン源、2…イオン材料、3…リザーバ、4…フィラメント、5…エミッタ、6…絶縁碍子、7…電流導入端子、21…引き出し電極、22…放出イオン、23…アパーチャ、24…コンデンサレンズ、25…ブランカ、26…絞り、27…アライナ、28…偏向器、29…対物レンズ、30…集束イオンビーム、31…試料台、32…試料、35、35A,35B…スパッタ粒子、40…アパーチャ、40A…基板、40B…薄片、50…イオン放出部、51…光軸。
Claims (3)
- ガリウム液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置のアパーチャであって、スズ製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部にインジウム、インジウムとガリウムの合金、インジウムとスズの合金のうちの少なくとも何れかを配設したことを特徴とするアパーチャ。
- ガリウム液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置のアパーチャであって、インジウム製の基板からなり、イオンビームを通過させるための開口と、上記ガリウム液体金属イオン源からのイオン照射を受ける面の少なくとも一部にスズ、スズとガリウムの合金、スズとインジウムの合金のうちの少なくとも何れかを配設したことを特徴とするアパーチャ。
- ガリウムイオンを放出するガリウム液体金属イオン源、イオンビームを微細に集束化する集束レンズ、イオン通過途中にあってイオンの通過量を制限するアパーチャ、イオンビームを試料面で走査掃引する偏向器、試料へのイオンビーム照射によって上記イオンビーム照射部から発生する二次電子を検出する二次電子検出器、試料を載置する試料台を少なくとも有する集束イオンビーム装置において、上記アパーチャが請求項1または2の何れかに記載のアパーチャであることを特徴とする集束イオンビーム装置。
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