JP5126906B2 - イオンビーム発生装置 - Google Patents
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そこで、我々は、それらの課題を解決するため、「イオン液体」を含有する溶液をエレクトロスプレー法により気相中に放出させることを用いるイオンビーム発生方法ならびに発生装置を既に発案した(特許文献1参照)。
運転中以外の時間において、イオン液体を含有する溶液が細管(キャピラリー)から流れ出ることがあり、溶液の損失となる。特に、真空中でエレクトロスプレーする場合には、細管内部の溶液が圧力差により真空側に引き込まれるため大きな問題となりうる。具体的には、溶液の損失のみならず、溶液供給ラインが減圧になるため、溶存空気の気泡化や大気側からの空気の混入を誘発する。
シリンジ(=注射器のようなもの)等を用いて、イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー部に供給する場合、シリンジ等と溶液供給ラインを接続する部分に空気が混入する問題が発生しがちである。溶液供給ラインへの空気の混入は、エレクトロスプレーの不安定性を引き起こすため、イオンビームの安定生成が困難となる。
エレクトロスプレー用に金属製細管を用いる場合には、電気化学的反応によって、金属細管材料中の金属原子の溶出が起こりうる。そのような場合、金属細管の腐食ならびにイオンビーム中への金属の混入が問題となる。
イオン液体は、蒸発しないため真空中でも液体として存在する。エレクトロスプレーによって放出されたイオン液体がイオン源内部にある引出電極や加速電極等の電極表面に付着すると凸状の液滴となりうるため、結果として電極間の電界を乱すことが問題となる。
例えば、イオン液体として、N, N−Diethyl−N−methyl−N−(2−methoxyethl)ammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide, (C10H20O5N2S2F6:分子量 426.4)を用いた場合には、以下のような酸化還元反応(化学式1または化学式2)が導電性キャピラリー先端部で起こりうる。
(1)上記課題1に対して
ア エレクトロスプレー部への溶液供給ラインに開閉式バルブを設け、運転中以外は、バルブを閉じることで、細管(キャピラリー)先端から溶液が垂れて流れ出ることを防止する。
イ エレクトロスプレー部の細管(キャピラリー)付近に冷却機構を設け、運転時以外の時間においては、細管付近の温度を下げて、イオン液体を含有する溶液を凍結することで、溶液が流れ出ることを防止する。
ウ イオン液体を含有する溶液を貯留する容器を真空容器内部に備える構造とすることで、空気の混入を本質的に防止する。
(2)上記課題2に対して
イオン液体を含有する溶液の供給ラインに、空気抜き用のT字型等のバイパスラインを設けることで、溶液供給ラインにシリンジ等を接続した際に混入した空気をバイパスラインに移動させることで、エレクトロスプレー部への空気の混入を防止する。
(3)上記課題3に対して
ア エレクトロスプレーの発生場所となる細管(キャピラリー)材料として、電気化学的に不活性な炭素を原料とする炭素細管(カーボンチューブ)を用いることで、電気化学的反応に起因する金属の溶出や混入を防止する。
イ イオン液体を含有する溶液中(イオン液体の濃度が100%の場合も含む)に、あらかじめ電子授受のしやすい性質を有する物質を溶解させておくことで、金属細管中の金属の溶出を防止する。
(4)上記課題4に対して
イオン源内部にある引出電極や加速電極等の電極部材の構造として、表面に一つ以上の微小な孔ならびにその孔から通じる空洞を内部に有する構造とすることで、付着したイオン液体を含有する溶液が電極表面に凸状に溜まることを防止する。
また、本発明は、イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、エレクトロスプレー用細管として、電気化学的に不活性な炭素細管を用いることを特徴とする。
また、本発明は、イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、エレクトロスプレー用細管を金属材料で構成するとともに、イオン液体を含有する溶液中に、エレクトロスプレー用細管を構成する金属材料よりも電子授受のしやすい性質を有する物質を溶解させ、エレクトロスプレー用細管を構成する金属材料が、イオン液体を含有する溶液中へ金属イオンとして溶出することを抑制することを特徴とする。
また、本発明は、イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、引出電極及び加速電極の電極構造を、電極表面に一つ以上の微小な孔ならびに電極内部に前記孔に連通する空洞を有する構造とし、電極表面に付着したイオン液体を含有する溶液が前記孔を通って前記空洞に溜まるようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、イオン液体の濃度が100%の溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により真空中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、エレクトロスプレー用細管に供給するイオン液体の濃度が100%の溶液を貯留する貯留容器を真空容器内部に備え、イオンビームの安定生成を阻害する原因となる空気の混入を本質的に抑制することを特徴とする。
(1)「イオン液体」を含有する溶液が、エレクトロスプレー用細管(キャピラリー)から無駄に流れ出ることがなくなるため、溶液の利用率が高まる。また、それにより、運転時間の長時間化も可能となる。
(2)溶液中への空気の混入がないため、エレクトロスプレー電流を安定に生成でき、結果として、イオンビームの安定性が向上する。
(3)金属製細管を用いた場合に問題となりうる腐食や金属の溶出が防止できる。
(4)イオン源内部にある電極等の部材表面に付着したイオン液体に起因する電界の乱れが防止でき、イオンビームを安定に生成することが可能となる。
図1は、本発明の参考例の概略図である。図1において、溶液供給ラインから供給されるイオン液体を含有する溶液(イオン液体の濃度が100%の場合も含む)は、エレクトロスプレー用細管(キャピラリー)である金属細管の先端からエレクトロスプレー現象によって帯電液滴として気相中(真空中を含む)に放出され、引出電極、加速電極、走査電極などの各種電極を通ることで加速されて高エネルギーのイオンビームが生成される。
金属細管としては、例えば、材質はステンレス製で内径は30μm〜100μm程度のものである。溶液供給ラインは、内径100μm程度のチューブであり、例えば、PEEKチューブである。溶液供給ラインには、図示しない溶液供給機構(例えば、マイクロシリンジ等)を有しており、イオン液体を含有する溶液を連続的に金属細管に供給する。溶液供給ラインには、開閉用バルブが設けられており、運転時には開であるが、停止中は閉状態となり、停止中にエレクトロスプレー用細管の先端から溶液が流れ出ることを防止できるとともに空気の混入も防止できる。
図3は、本発明の一実施例の概略図である。基本的構成は、図1と同じであるが、図1の開閉用バルブに代えて、エレクトロスプレー用細管である金属細管に温度調節機構が設けられており、この温度調節機構は運転時以外において、エレクトロスプレー用細管付近の温度を下げてイオン液体を含有する溶液を凍結させて溶液の流れを遮断する冷却機構であって、所定の冷却温度に制御可能である構造をもつ点が異なっている。運転停止中は冷却機構により金属細管の温度を低下させて、溶液を凍結させることで、金属細管の先端から溶液が流れ出ることを防止できるとともに空気の混入も防止できる。
図4は、本発明の参考例の概略図である。基本的構成は、図1と同じであるが、図1の溶液供給ラインの開閉用バルブ上流側には、さらに、混入空気抜き用のT字型バイパスラインならびに切替バルブが設けてあり、溶液供給ラインに混入した空気をT字型バイパスラインから除去可能となっている。これにより、溶液供給ラインにシリンジを取り付ける際に混入した空気を除去できるため、エレクトロスプレー電流を安定に生成でき、結果としてイオンビーム電流の安定性を向上できる。
図5は、本発明の他の実施例の概略図である。基本的構成は、図1と同じである。図1ではエレクトロスプレー用細管として金属細管を用いていたが、図5の実施例では、金属細管に代えて、炭素細管(カーボンチューブ)が設けられている。炭素は電気化学的に不活性のため、金属材料の場合には問題となり得る腐食や金属の溶出が生じないので、エレクトロスプレー用細管として炭素細管を用いれば、このような問題点が解消できる。
図6は、本発明の他の実施例の概略図である。基本的構成は、図1と同じである。図6の実施例では、イオン液体を含有する溶液中(イオン液体の濃度が100%の場合も含む)に、エレクトロスプレー用金属細管を構成する材料中の金属よりも電子授受のしやすい性質を有する物質を溶解させているものである。
前述(段落0011や段落0013)の通り、エレクトロスプレー現象の際には、キャピラリー先端部において、酸化反応や還元反応という電子授受プロセスを基本とする反応(いわゆる“電気化学反応”)が起こる。電気化学反応の起こりやすさは、物質によって異なり、電気化学反応の起こりやすい物質から優先的に反応が起こるという性質がある。仮に、キャピラリーを構成する材料中の物質(例えば、鉄(Fe)など)が最も電気化学反応しやすい場合には、その物質が電気化学反応を起こし、結果として鉄イオン(Fe2+)等の溶出が起こってしまう。
一方、(キャピラリー材料中の物質よりも)電気化学反応をしやすい物質が溶液中に存在する場合には、その物質が先に電気化学反応を起こすため、結果として金属イオンの溶出等の問題を防止することが可能となる。
例えば、電解質である塩化ナトリウム(NaCl)や酢酸(CH3C00H)溶解させることで、エレクトロスプレー用細管である金属細管を構成する材料中の金属イオンが、イオン液体を含有する溶液中へ溶出することを抑制できる。さらに、ガラス等非金属細管の表面に金属コーティングを施したエレクトロスプレー用細管であっても、金属コーティング中の金属イオンが、すなわち、エレクトロスプレー用細管を構成する材料中のイオンが、イオン液体を含有する溶液中へ溶出することを同様に抑制できる。
図7は、本発明の他の実施例の概略図であり、引出電極、加速電極などの電極の構造に特徴を有している。電極表面はメッシュ(網目)状となっており、内部にメッシュの孔部と連通する空洞を有した構造となっている。このため、イオン液体を含有する溶液が電極表面に入射した場合でも、電極表面に付着した溶液はメッシュの孔部を通って電極内部の空洞に入るので、電極表面に溶液が溜まることを抑制できる。したがって、従来のように、溶液が電極表面に凸状に付着して電極間の電界を乱すことはない。
なお、空洞に連通する微小な孔が電極表面に多数設けられていれば、イオン液体を含有する溶液が電極表面に入射した場合でも、電極表面に付着した溶液は微小な孔を通って電極内部の空洞に入りそこに溜まるので、微小な孔の形状や配置はメッシュ状に限定されるものではない。
また、必要であれば、内部空洞に、電極外部に流れ出る流路を設けて、その流路を介して空洞に溜まった溶液を取り除くことができる構造としてもよい。
図8は、本発明の他の実施例の概略図である。図8では、イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により真空中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置であって、イオン液体を含有する溶液を貯留する貯留容器を真空容器内部に備える構造となっている。したがって、溶液容器ならびに溶液供給ラインは、真空中にあるため空気の混入は起こらず、イオンビームの安定生成を阻害する原因となる空気の混入を抑制できる。
なお、イオン液体の濃度が100%の場合は、真空中でもなんら問題がないが、それ以外の場合には、溶液の蒸発や凍結が発生してしまうため、貯留容器には、温度調整機構を設け、適切な温度管理を行う必要がある。
また、本発明は、既存の二次イオン質量分析(SIMS)装置に容易に応用することが可能である。SIMSは、鉄鋼や半導体などのナノテクノロジー計測技術分野において、欠くことのできない重要な分析技術である。さらに、最近ではライフサイエンス分野におけるイメージング質量分析技術等としても、その重要性が広く認識されるようになってきているので、本イオンビーム発生装置を、二次イオン質量分析法(SIMS)に用いることで、非常に高い精度の分析が可能となり、SIMSの高度化と発展にも貢献できるものである。
Claims (5)
- イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、
エレクトロスプレー用細管近傍に、運転時以外において、エレクトロスプレー用細管付近の温度を下げてイオン液体を含有する溶液を凍結させて前記溶液の流れを遮断する冷却機構を設け、
運転時以外においては、前記冷却機構によりエレクトロスプレー用細管付近の温度を下げて前記溶液を凍結させることで溶液の流れを遮断し、溶液の損失を抑制するとともに空気の混入を防止することを特徴とするイオンビーム発生装置。 - イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、
エレクトロスプレー用細管として、電気化学的に不活性な炭素細管を用いることを特徴とするイオンビーム発生装置。 - イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、
エレクトロスプレー用細管を金属材料で構成するとともに、イオン液体を含有する溶液中に、エレクトロスプレー用細管を構成する金属材料よりも電子授受のしやすい性質を有する物質を溶解させ、エレクトロスプレー用細管を構成する金属材料が、イオン液体を含有する溶液中へ金属イオンとして溶出することを抑制することを特徴とするイオンビーム発生装置。 - イオン液体を含有する溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により気相中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、
引出電極及び加速電極の電極構造を、電極表面に一つ以上の微小な孔ならびに電極内部に前記孔に連通する空洞を有する構造とし、電極表面に付着したイオン液体を含有する溶液が前記孔を通って前記空洞に溜まるようにしたことを特徴とするイオンビーム発生装置。 - イオン液体の濃度が100%の溶液をエレクトロスプレー用細管の先端からエレクトロスプレー法により真空中に放出させてイオンビームを発生させるイオンビーム発生装置において、
エレクトロスプレー用細管に供給するイオン液体の濃度が100%の溶液を貯留する貯留容器を真空容器内部に備え、イオンビームの安定生成を阻害する原因となる空気の混入を本質的に抑制することを特徴とするイオンビーム発生装置。
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