JP2010270373A - 潤滑処理鋼板および潤滑皮膜形成用処理液 - Google Patents

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Abstract

【課題】脱膜性、成処理性、成形性、防錆性を具備し、かつ接着性と皮膜性能の経時安定性が改善され、接着により自動車部品などを製造するのに適した潤滑処理鋼板を提供する。
【解決手段】アルカリ金属ホウ酸塩からなる皮膜形成成分、ステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスとの混合物からなる潤滑成分、リン酸塩、バナジウムの酸素酸塩、モリブデンの酸素酸塩およびメルカプト化合物の少なくとも1種からなる防錆成分、好ましくはさらに有機酸から構成される潤滑皮膜を、亜鉛系めっき鋼板などの鋼板表面に形成する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、加工後の脱膜性、従って化成処理性に優れ、十分な潤滑性能、防錆性に加えて、良好な接着性を具備し、かつ皮膜性能の経時安定性に優れた潤滑皮膜を鋼板の表面に備える潤滑処理鋼板と、この潤滑皮膜の形成に使用される潤滑皮膜形成用処理液とに関する。
本明細書において、「鋼板」とは「鋼帯」をも含む意味である。即ち、「鋼板」は、鋼帯から切断された狭義の意味での鋼板(切断鋼板、プレス加工用にブランキングされた鋼板を含む)と、切断される前の鋼帯(例、コイルに巻き取られた鋼帯)、のいずれの形態であってもよい。
熱延鋼板、冷延鋼板を問わず、最近では、各種用途に対して、強度改善或いは軽量化のために高張力鋼板が広く採用されるようになってきている。高張力鋼板はもともと成形性が十分でないので、高張力鋼板を成形する際には金型の焼付きが起こり易い。そのため、鋼板の成形性を高める手段を講じて、金型の焼付き防止を図ることが求められる。
鋼板の成形性を改善する手段として、例えば、ミルボンドで代表される有機系の潤滑皮膜を鋼板表面に塗布する方法がある。有機系の潤滑皮膜は、成形性の改善効果は大きいが、皮膜の厚みが大きいため、プレス加工時に潤滑皮膜の剥離によるプレスかすの発生が不可避である。
発生したプレスかすは、加工表面を汚染する、表面欠陥の原因になる、といった問題がある。特に、自動車用トルクコンバータ部品といった精密機器では、加工後に残存するプレスかす、汚れ等は、内部の機械動作不良の原因にもなるので、許容されない。
また、自動車の車体用鋼板、特に車体外層用鋼板では、激しいプレス加工後も美麗な外観を有することが要求される。しかし、上述のミルボンド等の有機系の潤滑皮膜では、剥離したプレスかすが、プレス加工後の押し込み欠陥となり、加工後の外観品質を著しく損なう。そのため、ミルボンドの適用ができなかった。
このような背景から、プレスかすが低減でき、良好な成形性が確保できる鋼板の処理が求められてきた。この要望に対して、次のように無機物をベースとする潤滑皮膜を鋼板表面に形成する潤滑処理に関する提案がいくつかなされている。
特開2002−307613号公報(特許文献1)には、化成処理性、成形性に優れた潤滑処理鋼板として、リチウムシリケート皮膜が開示されている。具体的には、リチウムシリケートのLi分がLi/Si(原子比)=0.4〜0.7であり、かつ潤滑剤/リチウムシリケート質量比を0.1〜2.0とすることで、良好な化成処理性、成形性を得ることができる。
特開2000−309793号公報(特許文献2)には、化成処理後の金属材料の塑性加工用水系潤滑剤として「無機塩+金属石鹸+ワックス」の組合せを用いた処理が示されている。
特開2004−99949号公報(特許文献3)には、塑性加工用金属材料の表面に、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩から選ばれた少なくとも1種の無機化合物と、金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトから選ばれた少なくとも1種の滑剤を主成分とする水系処理液を接触させた後、乾燥して、金属との界面側に位置する前記無機化合物を主成分とするベース層と表面側に位置する前記滑剤を主成分とする滑剤層とに分離した2層潤滑皮膜を形成することが開示されている。
これらの無機化合物を皮膜形成成分として利用した潤滑皮膜は必ずしも満足できるとは言えない。特に、有機系皮膜であるミルボンドでは良好であった、耐型かじり性と脱膜性が不十分である。自動車車体用鋼板のようにプレス加工後に塗装が施される用途では、プレス加工が終わると潤滑皮膜が脱脂処理により除去され、塗装下地処理としてリン酸亜鉛処理のような化成処理が施された後、塗装が行われる。脱脂時の潤滑皮膜の脱膜性が不十分であると、次に行われる化成処理において形成される化成皮膜が不均一となり、美麗な塗装を施すことができなくなる。
本出願人らは、安定した脱膜性と化成処理性を確保でき、かつ良好なプレス成形性、耐型かじり性を発現することができる潤滑処理鋼板として、アルカリ金属ホウ酸塩またはこれとリチウムシリケートとの混合物からなる皮膜形成成分中にステアリン酸亜鉛とワックスとの混合物からなる潤滑成分を含有させた潤滑皮膜を鋼板表面に形成することを、特開2007−275706号公報(特許文献4)および特開2006−240157号公報(特許文献5)に提案した。
潤滑処理をした鋼板は、プレス加工等の処理を行うまでに、輸送、保管等を行う必要があり、その外部環境によっては発錆が問題となる。プレス作業の効率化を図るため、昨今は、厳しいプレス加工に必要な高度の潤滑性を付与するためのボンデ・ボンダリューベ等の前処理を実施することなく、そのままプレスできる鋼材を強く要望されている。
ボンデ・ボンダリューベ処理とは、リン酸亜鉛層を化学反応で形成した後、金属石鹸を塗布する処理であり、厳しいプレス加工を可能にする高度の潤滑性を鋼板表面に付与することができる。しかし、この処理により形成された皮膜は吸水性が高く、湿潤環境下に長時間さらされると錆の発生を生じやすい。即ち、ボンデ・ボンダリューベ処理は、処理後の鋼板を長時間保管することが実質的に不可能であるため、ブランキング後の鋼板にバッチ処理で適用することが前提となっており、作業効率の低下をもたらしていた。
在庫が長期化しても、潤滑処理を施した鋼板の良好な防錆性が確保できれば、スケジュールフリーとすることができ、プレス作業者にとって作業工程の自由度が増し、有利である。従って、ボンデ・ボンダリューベ処理のような前処理を行なわずに厳しいプレス加工を施すことができる高度の潤滑性に加えて、防錆性を併せ持つ潤滑処理鋼板が強く求められてきた。
特に、ブランキング前の鋼帯にそのままプレスできる潤滑処理を施した潤滑処理鋼帯の場合、製造、出荷からユーザでのプレス加工までに非常に長い時間が経過するので、高度の防錆性を持った潤滑皮膜が必須となる。前述のミルボンドのような有機系の潤滑処理も、皮膜の吸水性が高く、その防錆性は不十分であって、防錆油だけを塗油した鋼板に比べて防錆性が劣る。従って、潤滑処理を施された鋼帯として出荷する場合には、外部環境によっては錆を完全に防止することができない。
また、長時間保管しなくても、ボンデ・ボンダリューベ処理された鋼板は、梅雨時期によくプレス割れが発生すると言われており、湿潤雰囲気下ではプレス性が低下するという問題がある。プレス時の外部環境が変化しても、良好な防錆性を確保するとともに、安定した潤滑性を発揮できる潤滑処理鋼板または鋼帯が強く望まれてきた。
特開平10−36876号公報(特許文献6)には、防錆剤を加えた金属材料塑性加工用潤滑剤が開示されている。防錆剤としてアルカノールアミンが例示されているが、防錆効果は他の皮膜形成成分、潤滑成分と一体になって発現するため、単に公知の防錆成分を添加しても効果を得ることはできない。また、防錆成分により脱膜性、化成処理性、および成形性などの物性が阻害されないことが必要であり、上述の経時変化を起こさないことも考慮することが必要である。
特許文献6では、対象が潤滑剤組成物及び潤滑性金属材料と広く記載されているものの、実質的に伸線加工用であり、鋼板や鋼帯のプレス加工等を対象としていない。伸線加工と鋼板のプレス加工では、皮膜が必要とする物性が異なっているので、伸線加工用の組成物をプレス加工にそのまま応用することはできない。
一方、無機潤滑皮膜を有する亜鉛めっき鋼板は、他の部材と接着されることにより製品を組み上げていくことが多いので、鋼板の接着性が非常に重要となってくる。従来から、無機潤滑皮膜を有する鋼板の接着性についての検討が進められてきた。例えば、特開2007−217784号公報(特許文献7)には、亜鉛めっき鋼板表面に形成されたリン酸亜鉛のP−O結合の鋼板表面における配向が、鋼板表面に対して垂直方向に多いと、優れた潤滑性を維持したまま接着性を改善することができることが開示されている。
しかし、特許文献7に開示された技術は皮膜形成成分がリン酸亜鉛である場合にのみ有効であって、皮膜形成成分が他の成分からなる場合には、同じメカニズムで接着性を改善することはできない。
特開2002−307613号公報 特開2000−309793号公報 特開2004−99949号公報 特開2007−275706号公報 特開2006−240157号公報 特開平10−36876号公報 特開2007−217784号公報
本発明は、ボンデ・ボンダリューベ処理のような前処理を施さずに、そのまま厳しいプレス加工に施すことができる高度の潤滑性を発揮し、同時に防錆性が良好であって、輸送や保管等の期間が長期化しても錆の発生が防止され、かつ経時的に潤滑性が低下せず、安定したブレス性を確保でき、さらに接着剤による接着性が良好な潤滑処理鋼板と、その製造に用いることのできる、潤滑性、防錆性、接着性および経時安定性に優れた潤滑皮膜形成用処理液を提供する。
より具体的には、本発明は、自動車車体用鋼板として要求される脱膜性と化成処理性を備え、自動車車体のプレス加工に必要な高度の成形性に加えて、防錆性、接着性も具備した潤滑処理熱延および冷延鋼板、ならびにその製造に用いるための潤滑皮膜形成用処理液を提供する。
本発明は、皮膜形成成分、潤滑成分および防錆成分を含有する潤滑皮膜を鋼表面に備えた、鋼板又は鋼帯の形態の潤滑処理鋼板であって、該皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩であり、該潤滑成分がステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスとの混合物であり、該防錆成分が、リン酸塩、バナジウムの酸素酸塩、モリブデンの酸素酸塩およびメルカプト化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする潤滑処理鋼板である。
本発明はまた、溶媒中にアルカリ金属ホウ酸塩からなる皮膜形成成分と、ステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスとの混合物からなる潤滑成分と、リン酸塩、バナジウムの酸素酸塩、モリブデンの酸素酸塩およびメルカプト化合物から選ばれる少なくとも1種からなる防錆成分とを含有することを特徴とする、潤滑皮膜形成用処理液である。
本発明に係る潤滑処理鋼板および潤滑皮膜形成用処理液の各種態様を列挙すると次の通りである。
・前記潤滑皮膜または潤滑皮膜形成用処理液がさらに有機酸成分を含有し、該有機酸成分は好ましくはオキシカルボン酸であり、より好ましくはリンゴ酸、酒石酸およびクエン酸から選ばれた1種または2種以上である。
・前記防錆成分が、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウム、バナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム四水和物、及びメルカプトエタノールから選ばれた1種または2種以上である。
・潤滑成分/皮膜形成成分の固形分質量比が0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/パラフィンワックスの質量比が0.3〜5.0の範囲内であり、有機酸成分を含有する場合の有機酸成分/皮膜形成成分の質量比が0.2〜1.2の範囲内であり、防錆成分/皮膜形成成分の質量比が0.001〜0.2の範囲内である。
・前記潤滑皮膜における皮膜形成成分、潤滑成分、防錆成分、および含有すれば有機酸成分の総量が10〜1000mg/m2である。
・前記鋼板が鋼帯である。
・前記潤滑皮膜形成用処理液が、さらにポリアクリル酸および非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を分散剤として含有する。
・前記潤滑皮膜形成用処理液のpHが6以下である。
本発明によれば、アルカリ金属ホウ酸塩、ステアリン酸亜鉛、パラフィンワックス、特定の防錆成分、および場合により有機酸成分からなる処理液を用いて鋼板表面に潤滑皮膜を形成することにより、基材鋼板が熱延鋼板と冷延鋼板のいずれであっても、プレス成形後に塗装が施される自動車車体用鋼板に要求される、潤滑皮膜の脱膜性、化成処理性、および成形性が良好であって、さらに接着剤による接着性も良好な潤滑処理鋼板を製造することができる。
得られた潤滑処理鋼板は、輸送や保管が長期化し、または湿潤環境におかれた場合であっても、錆発生が防止される優れた耐錆発生特性を示す。また、この潤滑処理鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の接着性を損なわずに、過酷なプレス成形に耐えるように加工性を大幅に向上させることができる。それにより、従来のアルカリ金属ホウ酸塩を皮膜形成成分とする無機潤滑皮膜では困難であった、接着性と加工性の両立が可能となり、自動車車体用に使用されている多様な接着剤による接着を可能にする広範囲の接着剤適合性が付与された潤滑処理鋼板が提供される。この潤滑処理鋼板は、各種条件での接着強度が良好であって、潤滑皮膜がない状態(即ち、亜鉛系めっき鋼板そのまま)と同じように接着剤を使用することができる。
円筒深絞り成形による成形性評価方法の模式図である。 耐型カジリ性の評価試験方法およびその測定方法を示す模式図である。
本発明に係る潤滑処理鋼板のベース鋼板は、金型かじりなどが問題となる限り、高張力鋼はもちろん、一般の低炭、極低炭軟鋼、各種の合金鋼等を含む広範囲の鋼種の鋼板からその要求性能に応じて選択できる。ベース鋼板は熱延鋼板と冷延鋼板のいずれでもよい。また、亜鉛または亜鉛系合金めっき鋼板等の各種表面処理鋼板も、加工性の向上を期待する限りにおいて、ベース鋼板として使用可能である。但し、本発明の潤滑処理鋼板は、優れたプレス成形性を付与できるので、プレス成形が困難な高張力鋼板をベース鋼板とする場合に、特に優れた成形性改善効果を得ることができる。
前述したように、「鋼板」とは鋼帯をも含む意味である。即ち、鋼板は、コイル状もしくは巻き戻された鋼帯、鋼帯から所定長さに切断された鋼板、並びにプレス加工前に打ち抜きなどにより所定形状にブランキンングされた鋼板、のいずれをも包含する。本発明の潤滑処理鋼板が示す優れた防錆能を生かし、かつプレス加工の作業効率を高めるには、ベース鋼板が鋼帯であることが好ましい。
本発明の潤滑処理鋼板の用途は、自動車車体等の自動車構造材を念頭においているが、それに制限されるものではなく、プレス成形用の任意の鋼板に本発明を適用することができる。本発明の潤滑処理鋼板の有利な特性を生かすには、化成処理性、プレス成形性が要求される用途が好ましく、かつ接着性が要求される用途が好ましい。即ち、プレス成形と接着を利用して製品形状に賦形し、かつ塗装を施す用途である。自動車車体の他、自動車その他の各種部品、家電製品その他の筐体などの用途にも適用できる。
本発明の潤滑処理鋼板は、ベース鋼板の表面に、アルカリ金属ホウ酸塩から成る皮膜形成成分中に潤滑成分および防錆成分を含有させた潤滑皮膜を備える。この潤滑皮膜の皮膜形成成分は、従来の一般的な潤滑皮膜に皮膜形成成分として含有されているアクリル樹脂、ウレタン樹脂といった有機樹脂を実質的に含有していない。つまり、皮膜形成成分は、実質的に完全に無機質であって、かつ本質的にアルカリ金属ホウ酸塩からなる。但し、固形分基準で皮膜形成成分の10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下の量であれば、他の皮膜形成成分(有機、無機を問わない)の1種または2種以上を共存させることもできる。
皮膜形成成分のアルカリ金属ホウ酸塩(以下、単にホウ酸塩ともいう)としては、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウムなどを使用することができるが、これらに限られるものではない。アルカリ金属ホウ酸塩からなる皮膜形成成分とすることにより、十分な成形性を確保しながら、特に脱膜性と化成処理性に優れた皮膜となる。
プレス成形性を確保するために、潤滑皮膜に潤滑成分を含有させる。本発明では潤滑成分として、ワックスと金属石鹸、具体的にはパラフィンワックスとステアリン酸亜鉛との組み合わせを使用する。
ワックスは、一般に比較的融点の低いもの(融点≦130℃)が多く、特に室温からワックス融点の温度域での成形性改善効果が大である。しかし、強加工時の金型焼付きを起こしやすい高温時(≧130℃)では、ワックスの潤滑性は不充分であるので、このような高温時の潤滑性を確保するために金属石鹸を併用する。潤滑成分として金属石鹸とワックスとを併用することにより、広い温度域で良好な潤滑性、したがって成形性改善効果を確保することができる。特に、皮膜形成成分のアルカリ金属ホウ酸塩と潤滑成分(金属石鹸+ワックス)との組み合わせからなる皮膜は、高い潤滑性能、特に高い耐型かじり性を示し、優れた潤滑皮膜を形成し、プレスかす発生を抑制できる。
潤滑成分として用いる金属石鹸がステアリン酸亜鉛であると、他の金属石鹸を使用した場合に比べて、潤滑皮膜の脱膜性が著しく向上することが判明した。その結果、例えば、繰り返し使用された脱脂液のように脱脂力が低下した脱脂液を用いた場合にも良好な脱膜性が得られるので、脱脂液の使用寿命が延び、化成処理性が安定化する。従って、本発明では、金属石鹸としてステアリン酸亜鉛を使用する。
ワックスには、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、ふっ素樹脂ワックス等多くの種類がある。鋼板の潤滑皮膜においては、自己潤滑性の観点からポリエチレンワックスが従来より好んで使用されていたが、ポリエチレンワックスは潤滑皮膜の接着性を低下させる。これに対し、パラフィンワックスを使用すると、自己潤滑性と接着性を共に満たすことが可能であることが判明した。したがって、本発明では、ワックスとしてパラフィンワックスを使用する。
パラフィンワックスを使用すると接着性が著しく改善される理由については定かではないが、次のように考えられる。もともとワックスは接着性に対してはマイナスに作用するが、アルカリ金属ホウ酸塩を皮膜形成成分とする皮膜に限ると、パラフィンワックスを使用した場合にワックスの接着性へのマイナス要因が打ち消される。
金属石鹸としては、上述したようにステアリン酸亜鉛を使用する。但し、ステアリン酸亜鉛より少量であれば、他の金属石鹸を併用してもよい。他の金属石鹸を併用する場合、他の金属石鹸の量は金属石鹸全体の30質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
ワックスについても同様である。即ち、ワックスとしてはパラフィンワックスを使用するが、それより少量であれば他のワックスを併用することもでき、その場合の他のワックスの量はワックス全体の30質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
潤滑成分は、成形性以外に化成処理性にも影響を及ぼす。そのため、潤滑成分の量(ワックスと金属石鹸の合計量)は、潤滑成分/皮膜形成成分の質量比が0.1〜2.0となる量とすることが好ましく、この質量比はより好ましくは0.5〜1.5である。潤滑成分の量がこの範囲内であると、潤滑処理鋼板の成形性、化成処理性の確保も可能となる。上記質量比が2.0を越えると、成形性改善効果が飽和してしまうか、むしろ、皮膜の脆弱化に伴い、成形性が劣化傾向となる。一方、上記質量比が0.1を下回ると、成形性が十分でなくなる。
ステアリン酸亜鉛/パラフィンワックスの質量比は0.3〜5.0とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0の範囲とする。この範囲内では、耐型かじり性を重視する場合に高温時の潤滑性を改善することができる。
潤滑成分の化成処理性への影響に関しては、潤滑成分の添加量が多くなると、脱膜性が向上し、従って化成処理性が向上する。化成処理性の確保の観点からも、潤滑成分/皮膜形成成分の質量比を0.1以上とし、ステアリン酸亜鉛/パラフィンワックスの質量比を0.3以上にすることが好ましい。
ステアリン酸亜鉛に他の金属石鹸を併用する場合には、金属石鹸の合計量をステアリン酸亜鉛の代わりに代入した時にも上記のステアリン酸亜鉛の質量比を満たすようにすることが好ましい。ワックスについても同様である。
本発明に係る潤滑処理鋼板において、潤滑皮膜はさらに有機酸成分を含有することが望ましい。潤滑皮膜に有機酸成分を含有させることにより、その接着性をさらに向上させることができる。無機酸では接着性向上の効果は得られない。本発明で使用する好ましい有機酸成分はオキシカルボン酸(ヒドロキシル基を含有するカルボン酸)であり、より好ましいのはリンゴ酸、酒石酸およびクエン酸から選ばれた1種または2種以上である。
本発明における潤滑皮膜は、さらに特定の防錆成分を含有する。本発明者らは、潤滑皮膜が形成された鋼帯を長期保管可能にするために、長期にわたり防錆性が低下せず、かつ湿潤雰囲気下でも加工性が低下しない潤滑皮膜の形成を目指して、種々の防錆成分について検討した。その結果、ある特定の防錆成分を選択することによって、良好な長期防錆性と安定した加工性が確保でき、しかも潤滑皮膜の持つ脱膜性、化成処理性および成形性といった基本性能を阻害しないことを見いだした。
皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩、潤滑成分がステアリン酸亜鉛+パラフィンワックスである潤滑皮膜において上記要求を満たす防錆成分としては、リン酸塩、バナジウムの酸素酸塩、モリブデンの酸素酸塩、およびメルカプト化合物を挙げることができる。本発明では、防錆成分としてこれらから選んだ1種または2種以上を使用する。
リン酸塩としては、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウムを挙げることができるが、特に好ましいのは、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウムである。なお、リン酸塩は、トリポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸などの縮合リン酸の塩も包含する。
バナジウムの酸素酸塩としては、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ストロンチウム、バナジン酸水素ナトリウムを挙げることができるが、特に好ましいのはバナジン酸アンモニウムである。
モリブデンの酸素酸塩としては、モリブデン酸アンモニウム(四水和物)、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸ナトリウム(二水和物)、モリブデン酸バリウムを挙げることができるが、特に好ましいのはモリブデン酸アンモニウムである。
メルカプト化合物は、チオール基(−SH)を有する化合物(一般には有機化合物)である。本発明で使用するのに適したその例としては、メルカプトエタノール、メルカプトこはく酸、メルカプト酢酸、メルカプトベンズイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾールを挙げることができるが、特に好ましいのはメルカプトエタノールである。
防錆成分の量は、防錆成分/皮膜形成成分の質量比が0.001〜0.2となる量とすることが好ましく、この質量比はより好ましくは0.01〜0.1である。防錆成分の量がこの範囲内であると、潤滑処理鋼板の脱膜性、化成処理性、および成形性が良好で、長期にわたる耐発錆性の確保も可能となる。上記質量比が0.2を越えると、液の安定性が悪くなり、耐発錆性が劣化することがある。また、上記質量比が0.001を下回ると、耐発錆性が十分でなくなる。
潤滑処理鋼板を湿潤雰囲気で保管、輸送等をした場合に、潤滑皮膜の特性、特に潤滑性が劣化する場合がある。この理由は、完全には解明されていないが、次に述べるように、潤滑成分として使用する金属石鹸(本発明ではステアリン酸亜鉛)が潮解性を有していることに起因していると推定される。すなわち、潮解性を有する金属石鹸が吸水するため、金属石鹸が一部イオン化して皮膜の強度が変化するか、或いは、吸水性の高い金属石鹸を介して、湿潤状態で鋼板が経時的に腐食され、皮膜と鋼板の界面の密着性が低下するのが原因と考えられる。
本発明においては、加工性と化成処理性を高度に両立することを目的として金属石鹸の適用を前提としているため、金属石鹸の存在下でも潤滑皮膜が安定した成形性を維持することができるようにすることができる防錆成分の添加が必要である。湿潤雰囲気でも経時的に安定した潤滑特性を維持するためには、防錆成分として、上述した特定の種類を選択する。上記の中でも、特にバナジウムの酸素酸塩およびメルカプト化合物が好ましく、具体的にはバナジン酸アンモニウムまたはメルカプトエタノールが好ましいことが判明した。ただし、リン酸塩やモリブデン酸塩でも、その量や潤滑皮膜の量を選べば十分な性能を得ることができる。
潤滑皮膜は、上記成分に加えて、処理液の安定性と潤滑皮膜の成形性を改善する目的で、ポリアクリル酸および非イオン性界面活性剤から選ばれた少なくとも1種を分散剤としてさらに含有することが好ましい。好ましい分散剤はポリアクリル酸(PA)であるが、慣用の非イオン界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(POLE)などのポリオキシエチレンエーテル類も使用できる。
ポリアクリル酸および非イオン界面活性剤から選ばれた分散剤を使用する場合、潤滑皮膜中(従って、処理液の全固形分中)の分散剤の量は0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%とする。0.1質量%より少ないと目的とする効果が十分に得られず、5質量%より多いと、相対的に他の成分の含有量が少なくなり、潤滑皮膜の密着性や成形性に悪影響を及ぼすことがある。
本発明の潤滑処理鋼板は、適当な溶媒(後述するように、通常は水系)中に上述した成分を含有する潤滑皮膜形成用処理液を鋼板表面に塗布し、乾燥することにより製造される。即ち、潤滑皮膜形成用処理液は、皮膜形成成分のアルカリ金属ホウ酸塩と、潤滑成分のパラフィンワックスおよびステアリン酸亜鉛と、前述した防錆成分と、場合によりさらに有機酸成分および上記分散剤といった他の成分を含有する。各成分の含有量または皮膜形成成分に対する質量比については前述した通りである。
潤滑皮膜形成用処理液のpHは酸性領域であるpH6以下が好ましい。これにより接着性が一層向上する。このpH領域は、酸の添加により調整することができる。無機酸または有機酸単独での調整、あるいは併用しての調整のいずれも可能であるが、好ましいのは、前述したように接着性改善効果のある有機酸である。中でも、他の成分との関係においてその特性を阻害しないオキシカルボン酸が好ましく、さらにはリンゴ酸、酒石酸およびクエン酸から選ばれた1種または2種以上を使用することが好ましい。
本発明の潤滑皮膜形成用処理液は、例えば、アルカリ金属ホウ酸塩の水溶液に、必要な場合は有機酸を添加し、分散剤のポリアクリル酸および/または非イオン界面活性剤(使用する場合)、潤滑成分のワックスと金属石鹸、ならびに選択した1種もしくは2種以上の防錆成分を添加して、よく撹絆し、潤滑成分、防錆成分を液中に分散させることにより調製することができる。従って、処理液の溶媒は通常は水であるが、水に少量の水混和性有機溶媒(例、アルコール)を混合した混合溶媒も使用可能である。
潤滑皮膜の付着量については、皮膜形成成分、潤滑成分、防錆成分、および有機酸成分の合計量が10〜1000mg/m2の範囲とすることが好ましい。この合計量は、潤滑皮膜が有機酸成分を含有しない場合には、皮膜形成成分、潤滑成分および防錆成分の合計量である。また、有機酸の量は、その固形分としての量である。この付着量が10mg/m2未満であると、高潤滑性防錆油なみの成形性を確保することが困難となる。一方、付着量が1000mg/m2を超えると、潤滑皮膜が厚くなりすぎて、アルカリ脱脂による脱膜が不完全になり易く、化成処理性が劣化することがある。潤滑皮膜の付着量が100mg/m2以上あれば、成形性に優れるミルボンド以上の成形性が確保でき、500mg/m2未満であれば、冷延鋼板と同等の化成処理性が確保できるので、付着量のより好適な範囲は100〜500mg/m2である。
潤滑皮膜は、ベース鋼板の両面に形成することが好ましいが、用途によっては片面だけに形成することも可能である。いうまでもないが、上記の付着量は片面あたりの付着量である。
処理液の塗布方法は、所定付着量の潤滑皮膜を形成できれば、特に問わない。具体的な塗布方法としては、処理液をスプレーし、所定量にロールで絞るシャワーリンガー法、ロールにてコーティングするロールコート法等があげられる、また、処理液塗布後の乾燥については、塗布後、直ちに乾燥することが望ましい。直ちに乾燥しないと塗装ムラができやすくなるためである。処理後の乾燥は、皮膜が乾燥すれば充分であり、温風乾燥で対応可能であるが、加熱炉で加熱してもよい。乾燥温度は特に制限されないが、使用するワックスの融点より低い温度とすることが好ましい。
鋼板が鋼帯である場合には、巻きだした鋼帯に対して上記のようにして潤滑皮膜を形成した後、コイルに巻き取って、保管することができる。即ち、ブランキング後のようなバッチ処理ではなく連続処理によって、例えば鋼帯の製造業者が鋼帯に潤滑処理を施すことができる。鋼帯が亜鉛または亜鉛系合金めっき鋼帯のような表面処理鋼帯である場合には、表面処理に続いて本発明に係る潤滑処理を施してもよい。本発明に従って形成される潤滑皮膜は耐ブロッキング性が良好であるので、潤滑処理鋼板をコイルまたは積み重ね状態で保管しても、潤滑皮膜のブロッキングは起こらない。
本発明に係る潤滑処理鋼板は、必要であればブランキングした後、ボンデ・ボンダリューベ処理のような前処理を施すことなく、そのままプレス加工に供することができる。ただし、プレス加工に慣用されている鉱物油を主成分とした一般加工油、もしくは、鋼板表面の汚れ,異物の除去を目的とした洗浄油といった油分をプレス加工前に塗布(即ち、塗油)してもよい。
プレス加工の終了後、塗装が施される場合には、通常は塗装前に脱脂と化成処理を行う。本発明の潤滑処理鋼板は脱膜性に優れ、通常の脱脂処理によって潤滑皮膜が除去されるので、その後の化成処理において化成結晶の成長が阻害されず、均一性に優れた良好な化成皮膜を形成することができ、従って、良好な塗装外観が得られる。
皮膜形成成分となる四ホウ酸カリウムの水溶液に、有機酸を添加し、ワックス、金属石鹸、防錆成分および分散剤を添加し、よく撹拌して均一に分散させて、本発明例または比較例の潤滑皮膜形成用処理液を調製した。
各処理液の組成を表1にまとめて示す。表中、ホウ酸塩はアルカリ金属ホウ酸塩である四ホウ酸カリウムを意味する。使用したワックス、金属石鹸、防錆成分および分散剤は次の通りであった(カッコ内は表1に用いた記号)。
ワックス:
水溶性ポリエチレンワックス(PE)、
水溶性パラフィンワックス(PF)。
金属石鹸:
ステアリン酸亜鉛(St−Zn)、
ステアリン酸カルシウム(St−Ca)。
防錆成分:
リン酸マグネシウム(P−Mg)、
リン酸アンモニウム(P−Am)、
バナジン酸アンモニウム(VA)、
モリブデン酸アンモニウム四水和物(MA)、
メルカプトエタノール(ME)、
ベンゾトリアゾール(BT)、
セバシン酸ジヒドラジド(SH)、
アミノポリアクリルアミド(AP)、
P−MgからMEまでが本発明において使用される防錆成分である。
分散剤:
ポリアクリル酸(PA)。
有機酸成分:
リンゴ酸(MA)、
酒石酸(TA)、
クエン酸(CA)。
Figure 2010270373
この処理液を、次に述べるように、試験ごとに定められた所定の鋼板の片面に、選択した付着量となるようにロールコートし、熱風乾燥(板温=50℃)を行って、潤滑皮膜を形成した。
形成された潤滑皮膜または潤滑処理鋼板について、化成処理性、脱膜性、成形性、耐型かじり性、耐プレスかす性、耐発錆性、接着性を評価した。また湿潤状態に潤滑処理鋼板を保持した際の潤滑皮膜の経時安定性評価はピンオンディスク型摩耗摩擦試験器を用いて摩擦係数の変動により評価した。
各試験の試験方法と判定基準は以下の通りである。これらの試験結果は表2にまとめて示す。
(化成処理性)
日本鉄鋼連盟規格の590MPa級高降伏比型冷延鋼板JSC590R(板厚=1.0mm)を処理原板(ベース鋼板)とし、この鋼板の片面に試験する潤滑皮膜を形成した潤滑処理鋼板を、化成処理性試験に供した。本試験において高張力鋼板を採用した理由は高張力鋼板はもともと化成処理性が一般軟鋼に比較して劣っているためである。
試験する潤滑処理鋼板を、pH=10に調整した市販脱脂液FC−E2001(日本パーカライジング製)に120秒間浸漬した後、スプレーにて水洗することにより脱脂処理を行った。次いで、市販リン酸亜鉛化成処理液PB−WL35(日本パーカライジング製)を用いて、指定の条件でリン酸塩化成処理を行った。試験鋼板の潤滑処理表面上に形成された化成皮膜の外観観察と化成結晶成長状態のSEM観察(倍率:×500倍)により、結晶のミクロ的なスケ状態を観察した。
判定基準
化成処理皮膜のSEMにより求めたスケ発生面積率(%)によって、次の基準で評価した:
◎:1%未満、○:1〜5%、△:5〜10%、×:10%超;
均一な塗装外観を得るには、スケ発生面積率は0%(すなわち、評価が◎)であることが求められる。
(脱膜性)
試験する潤滑処理鋼板に、上記のようにpH=10の処理液を用いたアルカリ脱脂と水洗(水温は常温)を実施した後、30秒間放置してから、潤滑処理した鋼板表面の水濡れ面積率を測定し、次の基準で評価した:
判定基準
鋼板の水濡れ面積率
◎:90%以上,○:80%以上,90%未満,×:80%未満。
○以上で脱脂による脱膜が十分であると評価される。
(プレス成形性)
日本鉄鋼連盟規格の軟鋼板JSC270D(板厚=0.8mm)を処理原板として用い、この鋼板の片面に試験する潤滑皮膜を形成した潤滑処理鋼板を作製した。この試験鋼板の潤滑処理表面に一般防錆油を2g/m2塗油した後、図1に示す要領で、潤滑処理表面が円筒の外側となるようにして円筒深絞り試験を実施した。その評価基準は、以下の通りである。
判定基準
成形限界しわ抑え圧(kN)によって、次のように評価した。
◎+:425kN以上、◎:375kN(ミルボンド以上)以上、
○:150〜375kN(高潤滑性防錆油以上)、×:150kN未満。
(耐型かじり性、プレスかす)
日本鉄鋼連盟規格の490MPa級汎用型の熱延鋼板JSH440W(板厚=3.2mm)を処理原板として用い、その片面に試験する潤滑皮膜を形成した潤滑処理鋼板を作製した。この試験鋼板の潤滑処理表面に一般防錆油を2g/m2塗油した後、クランクプレス曲げ(潤滑処理表面が外面となるように曲げる)による型かじり性評価を実施した。その際の加工条件と評価方法は図2に示す通りであった。クリヤランス−50%で連続5枚成形した後、5枚目のサンプルにおける本試験摺動部である側壁部外面の正常部残存率を評価した。
判定基準として耐型かじり性が良好なミルボンド(MC560J、塗布量=1.2g/m2)の同条件での正常部残存率が75%であることから、それ以上を合格とし、全く型かじりが発生しないものを最良とした。
加工条件:
サンプルサイズ:50×300mm;クリアランス;−50%;
成形回数:連続5枚
耐型かじり性の判定基準:正常部残存率で評価
◎:100%、○:75〜100%(ミルボンド以上)、×:75%未満。
あわせて、連続成形後した5枚目のサンプルにおける加工後の側壁部外観を観察することにより、摺動部でのプレスかすの発生状況を評価した。型かじり試験により、潤滑皮膜が擦れ、剥離し、皮膜が型にビルドアップして鋼板に再付着することで、かじり部にプレスかすが再付着するのであるが、蒸気脱脂により除去可能な場合は問題なしと判断した。
プレスかすの判定基準:側壁外観観察により評価
◎:プレスかすによる黒変発生なし、
○:プレスかすにより黒変発生するも蒸気脱脂により黒変除去可能、
×:プレスかすによる黒変発生し、蒸気脱脂により除去不可能。
(耐発錆性)
日本鉄鋼連盟規格の軟鋼板JSC270D(板厚=0.8mm)を処理原板として用い、この鋼板の片面に試験する潤滑皮膜を形成した潤滑処理鋼板を作製した。この試験鋼板 に一般防錆油を2g/m2塗油した後、50℃、相対湿度90%の湿潤試験機内に入れ 、水蒸気を吹きかけながら60日保持した後の赤錆発生率により次のように評価した。
判定基準:赤錆発生率(%)により評価
◎:赤錆発生なし、○:10%未満、
△:10%以上、30%未満、×:30%以上。
(接着性)
防錆油(パーカ興産社製、NOX−RUST550S)および加工油(パーカ興産社製、NOX−RUSTS320)を塗油付着させた塗装鋼板を25mm×140mmに2枚切断し、共に25mm×100mmの部分にエポキシ系接着剤を0.5mm厚に均等に塗りつけ、クリップで重ね合わせ、プリベークして乾燥させた(170℃×20分)。冷却後、試験片をT曲げに折り曲げ、オートグラフ試験機により引張試験を行い、ピール接着力を測定した。
判定基準:無処理冷延鋼板を同様に試験した場合(100%)と比較して、
◎:接着強度が増大(110%超)、○:同等(90〜110%)、
△:劣る(90%未満)、×:著しく劣る(50%未満)。
(潤滑皮膜の経時安定性)
片面に試験する潤滑被膜を形成した潤滑処理鋼板(形状:70×150mm、原板:軟鋼板JSC270D(板厚=0.8mm))を、50℃、相対湿度90%の湿潤試験機内に7日間保持した後、ピンオンディスク型摩耗摩擦試験機(高千穂製)を用いて摩擦係数を測定した。測定条件は、110℃、荷重150N、回転数30rpmの条件で500回転まで試験し、摩擦係数が0.2以上に増大するまでの回転数により評価した。
判定基準:摩擦係数が0.2以上に増大するまでの回転数により評価
◎:500回転以上、
○:200回以上、500回未満、
△:100回以上、200回未満、
×:100回未満。
Figure 2010270373
表2に示すように、潤滑成分のワックスとしてパラフィンワックスを含有する潤滑皮膜を備えた本発明に係る潤滑処理鋼板(試験No.1〜18)は、ワックスがポリエチレンワックスである比較例の潤滑処理鋼板(No19〜30)に比べて、接着性が顕著に向上している。また、オキシカルボン酸を添加して処理液のpHを4付近またはそれ以下とした場合(試験No.1、2、4、6、8、9、13〜18)には、添加しない場合に比べ接着性が向上し、無処理の同じ冷延鋼板を接着した場合より接着性が高くなるという、予期しえないレベルまで潤滑処理鋼板の接着性が改善されることがわかる。ワックスを含有する潤滑皮膜を形成すると鋼板の接着性は一般にかなり低下することが知られているので、この接着性の改善は当業者にとって意外である。
本発明に係る潤滑処理鋼板は、接着性の向上に加えて、脱膜性、化成処理性、成形性、耐型かじり性、耐発錆性、潤滑性能の経時安定性など必要とするすべての物性を具備し、性能バランスがすぐれている。

Claims (16)

  1. 皮膜形成成分、潤滑成分および防錆成分を含有する潤滑皮膜を鋼表面に備えた、鋼板又は鋼帯の形態の潤滑処理鋼板であって、該皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩であり、該潤滑成分がステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスとの混合物であり、該防錆成分が、リン酸塩、バナジウムの酸素酸塩、モリブデンの酸素酸塩およびメルカプト化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、潤滑処理鋼板。
  2. 前記防錆成分が、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウム、バナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム四水和物、及びメルカプトエタノールから選ばれた1種または2種以上である、請求項1記載の潤滑処理鋼板。
  3. 前記潤滑皮膜がさらに有機酸成分を含有する請求項1または2に記載の潤滑処理鋼板。
  4. 前記有機酸成分がオキシカルボン酸である、請求項3記載の潤滑処理鋼板。
  5. 前記オキシカルボン酸が、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸から選ばれた1種または2種以上である、請求項4記載の潤滑処理鋼板。
  6. 潤滑成分/皮膜形成成分の固形分質量比が0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/パラフィンワックスの質量比が0.3〜5.0の範囲内であり、防錆成分/皮膜形成成分の質量比が0.001〜0.2の範囲内であり、有機酸成分/皮膜形成成分の質量比が0.2〜1.2の範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑処理鋼板。
  7. 皮膜形成成分、潤滑成分、防錆成分および有機酸成分の総量が10〜1000mg/mである、請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑処理鋼板。
  8. 鋼板が鋼帯である、請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑処理鋼板。
  9. アルカリ金属ホウ酸塩からなる皮膜形成成分と、ステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスとの混合物からなる潤滑成分と、リン酸塩、バナジウムの酸素酸塩、モリブデンの酸素酸塩およびメルカプト化合物から選ばれた少なくとも1種からなる防錆成分とを含有することを特徴とする、鋼板表面に潤滑皮膜を形成するための処理液。
  10. 前記防錆成分が、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウム、バナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム四水和物、及びメルカプトエタノールから選ばれた1種または2種以上である、請求項9記載の処理液。
  11. 処理液がさらに有機酸成分を含有する請求項9または10記載の処理液。
  12. 前記有機酸成分が、オキシカルボン酸である請求項11記載の処理液。
  13. 前記オキシカルボン酸が、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸から選ばれた1種または2種以上である、請求項12に記載の処理液。
  14. pHが6以下である、請求項9〜13のいずれか記載の処理液。
  15. 潤滑成分/皮膜形成成分の固形分質量比が0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/パラフィンワックスの質量比が0.3〜5.0の範囲内であり、防錆成分/皮膜形成成分の質量比が0.001〜0.2の範囲内であり、有機酸成分/皮膜形成成分の質量比が0.2〜1.2の範囲内である、請求項9〜14いずれかに記載の処理液。
  16. ポリアクリル酸および非イオン界面活性剤から選ばれた少なくとも1種を分散剤としてさらに含有する、請求項9〜15のいずれかに記載の処理液。
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