本発明の位相差フィルムは、前記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位構造を有する変性セルロースエステルと円盤状化合物とを含有し、当該円盤状化合物の含有量が0.1〜7質量%であり、かつ前記関係式(1)〜(4)を満たすことを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項8に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、発明の効果発現の観点から、前記円盤状化合物が、1,3,5−トリアジン環を有する化合物であることが好ましい。この場合、当該1,3,5−トリアジン環を有する化合物が、前記一般式(TA1)で表される化合物であることが好ましい。また、当該円盤状化合物が、ポルフィリン骨格を有する化合物である態様も好ましい。
本発明においては、当該円盤状化合物の含有量が、1〜5質量%であることが好ましい。
本発明の位相差フィルムの製造方法としては、延伸をする際の温度が130〜170℃の範囲内であり、かつ、少なくとも幅手1軸方向に20%以上延伸する態様の製造方法であることが好ましい。
本発明の位相差フィルムは、偏光板に好適に用いることができる。従って、液晶表示装置にも好適に用いることができる。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。
(変性セルロースエステル)
本発明の位相差フィルムは、下記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位構造を有する変性セルロースエステルを含有することを特徴とする。
(上記一般式中、A及びBは、炭素数1〜12の2価の炭化水素基又はヒドロキシル基で置換された炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。但しA及びBは同じでも異なってもよい。)
以下にAの具体例を挙げる。
A−1:−CH2CH2−
A−2:−CH2CH2CH2CH2CH2−
A−3:−CH=CH−
A−6:−CH2C(CH3)2−
以下Bの具体例を挙げる。
B−1:−CH2CH2−
B−2:−CH2CH2CH2CH2−
本発明に係る一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位構造を有するセルロースエステル樹脂は、未置換のヒドロキシル基(水酸基)を有するセルロースエステル樹脂、又はアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタリル基等のアシル基によってすでに一部のヒドロキシル基(水酸基)が置換されているセルロースエステル樹脂の存在下で、多塩基酸又はその無水物と多価アルコールとのエステル化反応、又はL−ラクチド、D−ラクチドの開環重合、L−乳酸、D−乳酸の自己縮合、γ−ブチロラクトン、δ−ベレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン環の開環重合を行わせることによる公知の方法によって得ることができる。
これらの成分は、単独でも2種以上を混合しても反応させることができ、いわゆる繰り返し単位構造がセルロースエステルにグラフトしたグラフト重合体となる。
エステル化反応に用いる多塩基酸無水物として、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水フマル酸が挙げられるが特に限定されない。
エステル化反応に用いることができる多価アルコールとして、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
エステル化反応に用いる触媒としては、無触媒で反応をすることもできるが、公知のルイス酸触媒などを用いることができる。使用できる触媒としてはスズ、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属及びその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。
具体的にはオクチルスズ、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示することができる。
また、触媒としてパラトルエンスルホン酸に代表される酸触媒を用いることもできる。また、カルボン酸とアルコールとの脱水反応を促進するためにカルボジイミド、ジメチルアミノピリジンなど公知の化合物を添加してもよい。
この反応は、セルロースエステル及びその他の反応させる化合物を溶解させることが可能な有機溶媒中における反応によってもよいし、剪断力を付加しながら加熱攪拌が可能なバッチ式ニーダーを用いた反応によるものであってもよいし、一軸あるいは二軸のエクストルーダーを用いた反応によるものであってもよい。
本発明に係る繰り返し単位構造はセルロースに対して0.5〜190質量%の範囲で適宜含有させることができる。
セルロースエステル樹脂の置換度の総和は、適宜選択することができるが、2.2〜3.0であることが、熱可塑性、熱加工性の点から好ましい。
本発明に係るセルロースエステル樹脂において、セルロースのヒドロキシル基(水酸基)の一部が、本発明に係る繰り返し単位構造以外の脂肪族アシル基により置換されているとき、脂肪族アシル基は、炭素原子数が2〜20、具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられ、アセチル、プロピオニル、ブチリルから選択されることが好ましく、アセチル基とプロピオニル基であることが最も好ましい。
この場合の置換度は、アセチル基が置換度0.5〜2.5、プロピオニル基が置換度0.5〜2.8であることが好ましい。
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
本発明に係る繰り返し単位構造は、当該部分の数平均分子量として50〜10000であり、200〜5000が好ましく、300〜2000であることが最も好ましい。
なお、当該セルロースエステルが有する繰り返し単位構造のみの数平均分子量は、エステル化反応する前のセルロースエステル樹脂と反応後のセルロースエステル樹脂をポリスチレン換算したGPCデータ又は、1H−NMR(日本電子製JNM−EX−270:溶媒:重塩化メチレン)により比較して求めた。
本発明に係る繰り返し単位構造をセルロースに導入する際に副反応として、一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位構造を有するオリゴマー、ポリエステルが生成することあるが、これらの化合物は可塑剤として作用することから精製により必ずしも完全に除去する必要はなくセルロースエステルに含んでもよい。
含有量としてはセルロースエステル樹脂に対して30質量%以下であればセルロースエステル樹脂の性質を大きく変化させることは少ない。可塑性の点から、好ましくは0.5〜20質量%である。
これらのオリゴマー、ポリエステルの数平均分子量は、300〜10000であり、可塑性の点から好ましくは500〜8000である。
本発明に係る位相差フィルムは、本発明に係るセルロースエステル樹脂の溶液流延法、溶融流延製膜法によって製造することができる。
(円盤状化合物)
本発明の位相差フィルムは、前記変性セルロースエステルと円盤状化合物とを含有し、当該円盤状化合物の含有量が0.1〜7質量%であことを特徴とする。
本願において、「円盤状化合物」とは、一般的に、ベンゼンや1,3,5−トリアジン、カリックスアレーンなどのような環状母核を分子の中心に配し、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された構造を有する化合物をいう。
円盤状化合物として代表的なものは、例えば、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.Liq.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されている、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体や、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されているシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系のマクロサイクルが挙げられる。
本発明において、円盤状化合物は、位相差フィルムのレターデーション上昇剤として機能することができる。一般に、円盤状化合物は位相差フィルム内で、円盤面がフィルム面と垂直になる向きで含まれる傾向があるが、円盤面がフィルム面から傾いた状態で含まれている円盤状化合物は、フィルムを延伸することにより、円盤面の向きを制御することができる。
円盤状化合物は、化合物の分子の円盤状母核にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、分子の入りうる最初の直方体の3個の稜をa、b、cとして形状を規定したとき、母核の形状がa≧b>cかつb≧0.5aであることが好ましい。母核の形状は、さらに、b≧0.7aであることが好ましい。また、0.5b>cであることも好ましい。
本発明においては、円盤状化合物として、1,3,5−トリアジン環を有する化合物又はポルフィリン骨格を有する化合物(ポリフィリン及びその誘導体)を好ましく用いることができる。
1,3,5−トリアジン環を有する化合物としては、下記一般式(TA1)〜一般式(TA4)で表される化合物であることが好ましい。
本発明において、本発明の効果発現の観点から、変性セルロースエステルに対して、0.1〜7質量%含有させることが好ましい。
〈一般式(TA1)で表される化合物〉
上記式中、R1はオルト位及び/又はメタ位に置換基を有する芳香族環又は複素環を表し、R2は置換基を有する芳香族環又は複素環を表すが、R1がオルト位及び/又はメタ位に置換基を有する芳香族環を表し、R2が置換基を有する芳香族環を表すとき、双方が同一となることはない。X1は単結合又はNR3−を表し、X2は単結合又はNR4−を表し、X3は単結合又はNR5−を表す。R3、R4及びR5は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。
更に詳しく説明すると、R1はオルト位及び/又はメタ位に置換基を有する芳香族環また複素環を表し、R2は置換基を有する芳香族環又は複素環を表す。R1及びR2がそれぞれ表す芳香族環は、フェニル又はナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。R1が表す芳香族環はオルト位及び/又はメタ位に置換基を少なくとも有し、他の位置にも置換基を有していてもよい。R2が表す芳香族環はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有する。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、カルボキシル、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基及びアシル基が含まれる。なお、R1がオルト位及び/又はメタ位に置換基を有する芳香族環を表し、R2が置換基を有する芳香族環を表すとき、双方が同一となることはない。「同一でない」とは、置換基を含めて同一でないことを意味し、例えば、同一の芳香族環であっても置換基が異なる場合、さらに置換基が同一であっても置換位置が異なる場合は、「同一でない」場合に含まれる。
R1及びR2がそれぞれ表す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環は、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環又は7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジル又は4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記アリール部分の置換基の例と同様である。X1、X2及びX3がそれぞれ単結合である場合の複素環基は、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基は、5員環、6員環又は7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがさらに好ましく、5員環であることが最も好ましい。複素環基は、複数の窒素原子を有していてもよい。また、複素環基は、窒素原子以外のヘテロ原子(例、O、S)を有していてもよい。以下に、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基の例を示す。
式中、X1は単結合又はNR3−を表し、X2は単結合又はNR4−を表し、X3は単結合又はNR5−を表す。R3、R4及びR5は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、ルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。R3、R4及びR5がそれぞれ表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基を表すのがより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えばメトキシエトキシ)及びアシルオキシ基(例、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ)が含まれる。
R3、R4及びR5がそれぞれ表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。R3、R4及びR5がそれぞれ表す芳香族環基及び複素環基は、R1及びR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基及び複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR1及びR2の芳香族環及び複素環の置換基と同様である。
〈一般式(TA2)で表される化合物〉
式中、R6はパラ位に置換基を有する芳香族環又は複素環を表し、R7は置換基を有する芳香族環又は複素環を表すが、R6がパラ位に置換基を有する芳香族環を表し、R7は置換基を有する芳香族環を表すとき、双方が同一となることはない。X4は単結合又はNR13−を表し、X5は単結合又はNR14−を表し、X6は単結合又はNR15−を表す。R13、R14及びR15は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。
R6及びR7がそれぞれ表す芳香族環及び複素環については、前記一般式(I)中のR1およびR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環と同義であり、好ましい範囲も同様である。また、置換基についても、R1及びR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環有する置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。R6が表す芳香族環はパラ位に置換基を少なくとも有し、他の位置にも置換基を有していてもよい。R7は任意の位置に置換基を少なくとも一つ有する。なお、R6がパラ位に置換基を有する芳香族環を表し、R7は置換基を有する芳香族環を表すとき、双方が同一となることはない。「同一でない」とは、置換基を含めて同一でないことを意味し、例えば、同一の芳香族環であっても置換基が異なる場合、さらに置換基が同一であっても置換位置が異なる場合は、「同一でない」場合に含まれる。
X4は単結合又はN13−を表し、X5は単結合又はNR14−を表し、X6は単結合又は−NR15−を表す。R13、R14及びR15は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。R13、R14及びR15がそれぞれ表す置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基については、前記一般式(I)中のR3、R4及びR5がそれぞれ表す各基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
〈一般式(TA3)で表される化合物〉
式中、R8はオルト位及び/又はメタ位に置換基を有する芳香族環又は複素環を表す。X7は単結合又はNR23−を表し、X8は単結合又はNR24−を表し、X9は単結合又はNR25−を表す。R23、R24及びR25は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。
R8が表す芳香族環及び複素環については、前記一般式(I)中のR1及びR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環と同義であり、好ましい範囲も同様である。また、置換基についても、R1及びR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環有する置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。R8が表す芳香族環はオルト位及び/又はメタ位に少なくとも置換基を有し、他の位置にも置換基を有していてもよい。
X7は単結合又はNR23−を表し、X8は単結合又はNR24−を表し、X9は単結合又は−NR25−を表す。R23、R24及びR25は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。R23、R24及びR25がそれぞれ表す置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基については、前記一般式(I)中のR3、R4及びR5がそれぞれ表す各基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
〈一般式(TA4)で表される化合物〉
式中、R9、R10及びR11はそれぞれ異なる芳香族環又は複素環を表す。X10は単結合又はNR33−を表し、X11は単結合又はNR34−を表し、X12は単結合又はNR35−を表す。R33、R34及びR35は各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。
R9、R10及びR11がそれぞれ表す芳香族環又は複素環については、前記一般式(I)中のR1及びR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環と同義であり、好ましい範囲も同様である。置換基についても、R1及びR2がそれぞれ表す芳香族環及び複素環有する置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。なお、「異なる芳香族環又は複素環」とは、置換基を含めて芳香族環及び複素環が同一でないことを意味し、例えば、同一の芳香族環又は複素環であっても置換基が異なる場合、さらに置換基が同一であっても置換位置が異なる場合は、「異なる芳香族環又は複素環」に含まれる。
X10は単結合又はNR33−を表し、X11は単結合又はNR34−を表し、X12は単結合又はNR35−を表す。R33、R34及びR35は、各々独立して、水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基を表す。R33、R34及びR35がそれぞれ表す置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又は複素環基については、前記一般式(TA1)中のR3、R4及びR5がそれぞれ表す各基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
本発明に係る円盤状化合物の分子量は、300〜2,000であることが好ましい。本発明に係る円盤状化合物の沸点は、260℃以上であることが好ましい。沸点は、市販の測定装置(例えば、TG/DTA100、セイコー電子工業(株)製)を用いて測定できる。
以下に本発明に係る1,3,5−トリアジン環を有する化合物の具体例を示す。
〈ポルフィリン骨格を有する化合物〉
本発明においては、円盤状化合物として、上記の1,3,5−トリアジン環を有する化合物以外に、ポルフィリン骨格を有する化合物(ポリフィリン及びその誘導体)を用いることもできる。
本発明において、好ましくも用いられるポルフィリン骨格を有する化合物としては、ポルフィリン、テトラメチルポルフィリン、テトラエチルポルフィリン、テトラ(o−アミノフェニル)ポルフィリン、テトラメチルフェニルポルフィリン、テトラフェニルポリフィリン、テトラ(N−メトキシフェニル)ポリフィリンなどを挙げることができる。
(その他の樹脂)
本発明の位相差フィルムには、前記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位構造を有するセルロースエステル樹脂以外の後述する樹脂を含有させてもよい。
〈セルロースエステル〉
本発明においては、前記変性セルロースエステルとは異なる構造を有するセルロースエステルを含有させることもできる。このようなセルロースエステルとしては、光学フィルムの分野で従来使用されているセルロースエステルであれば特に制限されない。
当該樹脂を構成する化合物としては、例えば、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、又は、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどが使用可能であり、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。2種類以上のセルロースエステルを組み合わせて用いてもよい。
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
セルロースエステルは、セルロース原料をアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて合成する。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。アシル基をセルロース分子の水酸基に反応させる。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
本発明において用いられるセルロースエステルは、特に脆性の改善や透明性の観点から、アシル基の平均置換度が2.0〜2.5、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が0〜1.2であることが好ましい。
本発明において前記アシル基は、脂肪族アシル基であっても、芳香族アシル基であってもよい。脂肪族アシル基の場合は、直鎖であっても分岐していても良く、さらに置換基を有してもよい。本発明におけるアシル基の炭素数は、アシル基の置換基を包含するものである。
上記セルロースエステルが、芳香族アシル基を置換基として有する場合、芳香族環に置換する置換基Xの数は0〜5個であることが好ましい。この場合も、置換基を含めた炭素数が3〜7であるアシル基の置換度が0〜1.2となるように留意が必要である。
本発明に係るセルロースエステルとしては、特にセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、即ち、炭素原子数3又は4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースプロピオネートである。
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
本発明に係るセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、脆性の改善の観点から75000以上であり、75000〜300000の範囲であることが好ましく、100000〜240000の範囲内であることが更に好ましく、160000〜240000のものが特に好ましい。本発明では2種以上のセルロース樹脂を混合して用いることもできる。
〈アクリル樹脂〉
本発明の位相差フィルムには、本発明の位相差フィルムに求められる光学特性を損なわない範囲でアクリル樹脂を混合して用いてもよい。本発明で用いることができるアクリル樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。樹脂としては特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、及びこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが好ましい。
共重合可能な他の単量体としては、アルキル数の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上の単量体を併用して用いることができる。
これらの中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
本発明に係る位相差フィルムにアクリル樹脂を混合する場合は、特に位相差フィルムとしての脆性の改善及びセルロースエステル樹脂と相溶した際の透明性の改善の観点で、重量平均分子量(Mw)が80000〜1000000の範囲が好ましい。
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、110000〜600000の範囲内であることがさらに好ましく、110000〜400000の範囲内であることが特に好ましい。
本発明で用いることのできるアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=100〜2,800,000迄の16サンプルによる校正曲線を使用した。16サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
本発明におけるアクリル樹脂の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系及びアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。
重合温度については、懸濁又は乳化重合では30〜100℃、塊状又は溶液重合では80〜160℃で実施しうる。得られた共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
本発明に係るアクリル樹脂としては、市販のものも使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。アクリル樹脂は2種以上を併用することもできる。
(その他の添加剤)
本発明の位相差フィルムには、フィルムに加工性を付与する可塑剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)等の添加剤を含有させることが好ましい。
〈可塑剤〉
可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ系等が挙げられる。
この中で、ポリエステル系とフタル酸エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れるが、可塑化効果や相溶性にはやや劣る。
従って、用途に応じてこれらの可塑剤を選択、あるいは併用することによって、広範囲の用途に適用できる。
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
特に、アジピン酸、フタル酸などを用いると可塑化特性に優れたものが得られる。グリコールとしてはエチレン、プロピレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、ネオペンチレン、ジエチレン、トリエチレン、ジプロピレンなどのグリコールが挙げられる。これらの二価カルボン酸及びグリコールはそれぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。
このエステル系の可塑剤はエステル、オリゴエステル、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは600〜3000の範囲が、可塑化効果が大きい。末端芳香族ポリエステルであることも好ましい。
さらには、モノペットSB(第一工業製薬(株)製)等の糖エステル化合物を含有させることも好ましい。
可塑剤の粘度は分子構造や分子量と相関があるが、アジピン酸系可塑剤の場合相溶性、可塑化効率の関係から200〜5000MPa・s(25℃)の範囲が良い。さらに、いくつかのポリエステル系可塑剤を併用してもかまわない。
可塑剤は本発明に係る位相差フィルム100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。可塑剤の添加量が30質量部を越えると、表面がべとつくので、実用上好ましくない。
〈酸化防止剤〉
本発明では、酸化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。
特に、ラクトン系、イオウ系、ヒンダードアミン系、フェノール系、二重結合系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。
例えば、チバ・ジャパン株式会社から、“IrgafosXP40”、“IrgafosXP60”という商品名で市販されているものを含むものが好ましい。
上記フェノール系化合物としては、2,6−ジアルキルフェノールの構造を有するものが好ましく、例えば、チバ・ジャパン株式会社、“Irganox1076”、“Irganox1010”、(株)ADEKA“アデカスタブAO−50”という商品名で市販されているものが好ましい。
上記リン系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“SumilizerGP”、株式会社ADEKAから“ADK STAB PEP−24G”、“ADK STAB PEP−36”及び“ADK STAB 3010”、チバ・ジャパン株式会社から“IRGAFOS P−EPQ”、堺化学工業株式会社から“GSY−P101”という商品名で市販されているものが好ましい。
上記ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、チバ・ジャパン株式会社から、“Tinuvin144”及び“Tinuvin770”、“Tinuvin111FDL”、株式会社ADEKAから“ADK STAB LA−52”という商品名で市販されているものが好ましい。
上記イオウ系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“Sumilizer TPL−R”及び“Sumilizer TP−D”という商品名で市販されているものが好ましい。
上記二重結合系化合物は、住友化学株式会社から、“Sumilizer GM”及び“Smilizer GS”という商品名で市販されているものが好ましい。
さらに、酸捕捉剤として米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物を含有させることも可能である。
これらの酸化防止剤等は、再生使用される際の工程に合わせて適宜添加する量が決められるが、一般には、フィルムの主原料である樹脂に対して、0.05〜20質量%、好ましくは0.1〜1質量%の範囲で添加される。
これらの酸化防止剤は、一種のみを用いるよりも数種の異なった系の化合物を併用することで相乗効果を得ることができる。例えば、ラクトン系、リン系、フェノール系及び二重結合系化合物の併用は好ましい。
〈着色剤〉
本発明においては、着色剤を使用することもできる。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果又はイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。
着色剤としては各種の染料、顔料が使用可能だが、アントラキノン染料、アゾ染料、フタロシアニン顔料などが有効である。
〈紫外線吸収剤〉
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。高分子型の紫外線吸収剤としてもよい。
〈マット剤〉
本発明では、フィルムの滑り性を付与するためにマット剤を添加することが好ましい。
本発明で用いられるマット剤としては、得られるフィルムの透明性を損なうことがなく、溶融時の耐熱性があれば無機化合物又は有機化合物どちらでもよく、例えば、タルク、マイカ、ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレー、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン、炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、ホワイトカーボンなどが挙げられる。これらのマット剤は、単独でも二種以上併用しても使用できる。
粒径や形状(例えば針状と球状など)の異なる粒子を併用することで高度に透明性と滑り性を両立させることもできる。
これらの中でも、セルロースエステルと屈折率が近いので透明性(ヘイズ)に優れる二酸化珪素が特に好ましく用いられる。
二酸化珪素の具体例としては、アエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKEP−10、シーホスターKEP−30、シーホスターKEP−50(以上、株式会社日本触媒製)、サイロホービック100(富士シリシア製)、ニップシールE220A(日本シリカ工業製)、アドマファインSO(アドマテックス製)等の商品名を有する市販品などが好ましく使用できる。
粒子の形状としては、不定形、針状、扁平、球状等特に制限なく使用できるが、特に球状の粒子を用いると得られるフィルムの透明性が良好にできるので好ましい。
粒子の大きさは、可視光の波長に近いと光が散乱し、透明性が悪くなるので、可視光の波長より小さいことが好ましく、さらに可視光の波長の1/2以下であることが好ましい。粒子の大きさが小さすぎると滑り性が改善されない場合があるので、80nmから180nmの範囲であることが特に好ましい。
なお、粒子の大きさとは、粒子が1次粒子の凝集体の場合は凝集体の大きさを意味する。また、粒子が球状でない場合は、その投影面積に相当する円の直径を意味する。
上記本発明に係るセルロースエステル中の安定化剤は、少なくとも1種以上選択出来、添加する量は、セルロースエステルの質量に対して、安定化剤の添加量は0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以上3質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上0.8質量%以下である。
〈アクリル粒子〉
本発明の位相差フィルムは、アクリル粒子を含有することができる。
本発明に係る「アクリル粒子」とは、前記アクリル樹脂及びセルロースエステル樹脂を相溶状態で含有する位相差フィルム中に粒子の状態(非相溶状態ともいう)で存在するアクリル成分を表す。
上記アクリル粒子は、例えば、作製した位相差フィルムを所定量採取し、溶媒に溶解させて攪拌し、充分に溶解・分散させたところで、アクリル粒子の平均粒子径未満の孔径を有するPTFE製のメンブレンフィルターを用いて濾過し、濾過捕集された不溶物の重さが、位相差フィルムに添加したアクリル粒子の90質量%以上あることが好ましい。
本発明に用いられるアクリル粒子は特に限定されるものではないが、2層以上の層構造を有するアクリル粒子であることが好ましく、特に下記多層構造アクリル系粒状複合体であることが好ましい。
本発明に係るアクリル粒子としては、市販のものも使用することができる。例えば、メタブレンW−341(C1)(三菱レイヨン(株)製)、ケミスノーMR−2G(C2)、MS−300X(綜研化学(株)製)、カネエース(鐘淵化学工業(株)製)、パラロイド(呉羽化学工業(株)製)、アクリロイド(ロームアンドハース(株)製)、スタフィロイド(ガンツ化成工業(株)製)及びパラペットSA(クラレ(株)製)等を挙げることができる。
本発明に係る位相差フィルムにおいて、該フィルムを構成する樹脂の総質量に対して、0.5〜30質量%のアクリル粒子を含有することができ、1.0〜15質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
<位相差フィルムの物性>
本発明においては、脆性の指標としては、「延性破壊が起こらない位相差フィルム」であるかどうかという基準により判断することができる。延性破壊が起こらない、脆性が改善された位相差フィルムを得ることで、大型の液晶表示装置用の偏光板を作製する際にも、製造時の破断や割れが発生せず、取扱い性に優れた位相差フィルムとすることができる。
ここで、延性破壊とは、ある材料が有する強度よりも、大きな応力が作用することで生じる破断のことであり、最終破断までに材料の著しい伸びや絞りを伴う破壊と定義される。
本発明では、「延性破壊が起こらない位相差フィルム」であるか否かは、フィルムを2つに折り曲げるような大きな応力を作用させても破断等の破壊がみられないことにより評価するものとする。(この評価は耐折度と呼ばれる。)
このような大きな応力が加えられても延性破壊が起こらない位相差フィルムであれば、大型化された液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして用いられた場合であっても製造時の破断等の問題を十分に低減することが可能となり、さらに、一度貼り合わされた後に再度引き剥がして位相差フィルムを使用する場合においても、破断が発生せず、位相差フィルムの薄型化へも十分に対応可能である。
耐折度は50〜100回であれば、大型化された液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして用いられた場合であっても製造時の破断等の問題を十分に低減することが可能となり、さらに、一度貼り合わされた後に再度引き剥がして位相差フィルムを使用する場合においても、破断が発生せず、位相差フィルムの薄型化へも十分に対応可能である。
本発明においては、耐熱性の指標として、張力軟化点を用いる。液晶表示装置が大型化され、バックライト光源の輝度が益々高くなっていることに加え、デジタルサイネージ等の屋外用途への利用により、より高い輝度が求められていることから、位相差フィルムはより高温の環境下での使用に耐えられることが求められているが、張力軟化点が、105℃〜145℃であれば、十分な耐熱性を示すものと判断できる。
特に110℃〜130℃に制御することがより好ましい。張力軟化点が105℃未満だと、バックライト光源が発する熱量に耐え切れず、フィルムが変形したり、光漏れが生じやすくなる。またアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂を相溶状態で含有したような構成では145℃までしか確認できていない。そのため、張力軟化点は105℃〜145℃が適当である。
位相差フィルムの張力軟化点を示す温度の具体的な測定方法としては、例えば、テンシロン試験機(ORIENTEC社製、RTC−1225A)を用いて、位相差フィルムを120mm(縦)×10mm(幅)で切り出し、10Nの張力で引っ張りながら30℃/minの昇温速度で昇温を続け、9Nになった時点での温度を3回測定し、その平均値により求めることができる。
また、耐熱性の観点では、位相差フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上である。特に好ましくは150℃以上である。
なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
本発明における位相差フィルムの透明性を判断する指標としては、ヘイズ値(濁度)を用いる。特に屋外で用いられる液晶表示装置においては、明るい場所でも十分な輝度や高いコントラストが得られることが求められる為、ヘイズ値は1.0%以下であることが必要とされ、0.5%以下であることがさらに好ましい。
通常使用される条件において、寸法変化率(%)が0.5%未満であれば、十分な低吸湿性を示す位相差フィルムであると評価できる。さらに、0.3%未満であることが好ましい。
また、本発明に係る位相差フィルムは、フィルム面内の直径5μm以上の欠点が1個/10cm四方以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。
ここで欠点の直径とは、欠点が円形の場合はその直径を示し、円形でない場合は欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その最大径(外接円の直径)とする。
欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影の大きさである。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認する。
なお、反射光で観察する場合に、欠点の大きさが不明瞭であれば、表面にアルミや白金を蒸着して観察する。
このような欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、ポリマー溶液を流延直前に高精度濾過することや、流延機周辺のクリーン度を高くすること、また、流延後の乾燥条件を段階的に設定し、効率よくかつ発泡を抑えて乾燥させることが有効である。
欠点の個数が1個/10cm四方より多いと、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を基点としてフィルムが破断して生産性が低下する場合がある。また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。
また、目視で確認できない場合でも、該フィルム上にハードコート層などを形成したときに、塗剤が均一に形成できず欠点(塗布抜け)となる場合がある。ここで、欠点とは、溶液製膜の乾燥工程において溶媒の急激な蒸発に起因して発生するフィルム中の空洞(発泡欠点)や、製膜原液中の異物や製膜中に混入する異物に起因するフィルム中の異物(異物欠点)を言う。
また、本発明に係る位相差フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が、10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。
破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。
本発明に係る位相差フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。
かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。
本発明に係る位相差フィルムは、上記のような物性を満たしていれば、大型の液晶表示装置や屋外用途の液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして特に好ましく用いることができる。
<位相差フィルムの製造方法>
位相差フィルムの製造方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明に係る位相差フィルムの製造方法としては、通常のインフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液流延製膜法、溶融流延製膜法が好ましい。ここでは、溶液流延法について述べる。
(有機溶媒)
本発明に係る位相差フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースエステル樹脂及びその他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのセルロースエステル樹脂の溶解を促進する役割もある。
特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、セルロースエステル樹脂は、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
以下、本発明に係る位相差フィルムの好ましい製膜方法について説明する。
1)溶解工程
セルロースエステル樹脂に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースエステル樹脂その他の添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいは該セルロースエステル樹脂、その他の添加剤溶液を混合して主溶解液であるドープを形成する工程である。
セルロースエステル樹脂の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、又は特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
溶解中又は後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。
この方法では、粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去できる。
返材とは、位相差フィルムを細かく粉砕した物で、位相差フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトした位相差フィルム原反のことをいい、これも再使用される。
また、あらかじめセルロースエステル樹脂、その他の添加剤を混練してペレット化したものも、好ましく用いることができる。
2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が乾燥効率が良く好ましい。又、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃であり、さらに好ましくは11〜30℃である。
なお、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、さらには、剥離できる最低張力〜166.6N/m、次いで、最低張力〜137.2N/mで剥離することが好ましいが、特に好ましくは最低張力〜100N/mで剥離することである。
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置35、及び/又はクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブを乾燥する。
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥は概ね40〜250℃で行われる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
テンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になる迄テンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜160℃が好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、70〜140℃が最も好ましい。
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
6)巻き取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってから位相差フィルムとして巻き取り機37により巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。特に0.00〜0.10質量%で巻き取ることが好ましい。
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
本発明に係る位相差フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
本発明に係る位相差フィルムの膜厚に特に制限はないが、偏光板保護フィルムに使用する場合は20〜200μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、30〜80μmであることが特に好ましい。
〈鹸化処理〉
本願でいう「鹸化処理」とは、位相差フィルムのエステル構造部分を元の構成要素である酸とアルコールに分解するため、アルカリを加えて酸の塩とアルコールに分解する化学処理をいう。本発明においては、従来公知の種々の鹸化処理法を採用できるが、下記の方法に準拠した方法であることが好ましい。
(1)アルカリ液に浸漬する法
アルカリ液の中に位相差フィルムを適切な条件で浸漬して、フィルム全表面のアルカリと反応性を有する全ての面を鹸化処理する手法であり、特別な設備を必要としないため、コストの観点で好ましい。アルカリ液は、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などが好ましい。好ましい濃度は0.5〜3mol/Lであり、特に好ましくは1〜2mol/Lである。好ましいアルカリ液の液温は30〜75℃、特に好ましくは40〜70℃である。また好ましい浸漬時間は、30秒〜300秒、特に好ましくは60秒〜120秒である。
前記の鹸化条件の組合せは比較的穏和な条件同士の組合せであることが好ましいが、光散乱フィルムや反射防止フィルムの素材や構成、目標とする接触角によって設定することができる。
アルカリ液に浸漬した後は、フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
鹸化処理することにより、透明支持体の防眩層や反射防止層を有する表面と反対の表面が親水化される。位相差フィルムは、透明支持体の親水化された表面を偏光膜と接着させて使用する。
親水化された表面は、ポリビニルアルコールを主成分とする接着層との接着性を改良するのに有効である。
鹸化処理は、防眩層や低屈折率層を有する側とは反対側の透明支持体の表面の水に対する接触角が低いほど、偏光膜との接着性の観点では好ましいが、一方、浸漬法では同時に防眩層や低屈折率層を有する表面から内部までアルカリによるダメージを受ける為、必要最小限の反応条件とすることが重要となる。アルカリによる各層の受けるダメージの指標として、反対側の表面の透明支持体の水に対する接触角を用いた場合、特に透明支持体がトリアセチルセルロースであれば、好ましくは10度〜50度、より好ましくは30度〜50度、更に好ましくは40度〜50度となる。50度以上では、偏光膜との接着性に問題が生じる為、好ましくない。一方、10度未満では、該ダメージが大きすぎる為、物理強度を損ない、好ましくない。
(2)アルカリ液を塗布する方法
上述の浸漬法における各膜へのダメージを回避する手段として、適切な条件でアルカリ液を防眩層や低屈折率層等の機能層を有する表面と反対側の表面のみに塗布、加熱、水洗、乾燥するアルカリ液塗布法が好ましい。
なお、この場合の塗布とは、鹸化を行う面に対してのみアルカリ液などを接触させることを意味し、塗布以外にも噴霧、液を含んだベルト等に接触させる、などによって行われることも含む。これらの方法を採ることにより、別途、アルカリ液を塗布する設備、工程が必要となるため、コストの観点では(1)の浸漬法に劣る。一方で、鹸化処理を施す面にのみアルカリ液が接触するため、反対側の面にはアルカリ液に弱い素材を用いた層を有することができる。例えば、蒸着膜やゾル−ゲル膜では、アルカリ液によって、腐食、溶解、剥離など様々な影響が起こるため、浸漬法では設けることが望ましくないが、この塗布法では液と接触しないため問題なく使用することが可能である。
前記(1)、(2)のどちらの鹸化方法においても、ロール状の支持体から巻き出して各層を形成後に行うことができるため、前述の防眩性反射防止フィルム製造工程の後に加えて一連の操作で行ってもよい。更に、同様に巻き出した支持体からなる偏光板との貼り合わせ工程もあわせて連続で行うことにより、枚葉で同様の操作をするよりもより効率よく偏光板を作製することができる。
(機能性層の形成)
本発明の位相差フィルム製造に際し、延伸の前及び/又は後で透明導電層、ハードコート層、反射防止層、易滑性層、易接着層、防眩層、バリアー層、光学補償層等の機能性層を塗設してもよい。
特に、透明導電層、ハードコート層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選ばれる少なくとも1層を設けることが好ましい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
<位相差フィルムの特性>
本発明の位相差フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光子を保護するための偏光板保護フィルムとして有用であり、またレターデーションを調整することにより、液晶表示装置の光学補償フィルムとしても使用することができる。
なお、本発明の位相差フィルムは、下記の関係式を満たすように調整されることを特徴とする。
関係式(1):15μm<d<55μm
関係式(2):45nm<Ro<85nm
関係式(3):200nm<Rt<280nm
関係式(4):0.8<Ro(450)/Ro(630)<1.00
なお、Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
式中、nxは光学補償フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、nzは厚さ方向の屈折率を、dは光学補償フィルムの厚さ(nm)をそれぞれ表す。屈折率の測定波長は590nmである。Ro(450)及びRo(630)は、それぞれ波長480nm、630nmで測定したときのRoを表す。
上記関係式を満たすように調整する方法としては、延伸操作による屈折率制御や円盤状化合物が代表するようなレターデーション値上昇剤の添加を挙げることができる。例えば、本発明の位相差フィルムに用いられる一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位構造を有する変性セルロースエステルは、延伸方向に屈折率が大きくなる特性(正の固有複屈折性)を有しており、延伸倍率を調整することで、Ro及びRtを調整することが可能である。一軸延伸若しくは異なる延伸倍率で2軸延伸した場合は、延伸方向あるいは延伸倍率の高い方向の屈折率が大きくなり、Ro及びRtを増加させることができる。また、2軸延伸の際にそれぞれの延伸倍率を実質的に等しくすることで、面内の2軸方向のそれぞれの屈折率を増加させることにより、Roを増加させることなくRtを増加させることも可能である。また、延伸処理を施す際の温度を低くすることで、位相差の発現性を高めることも可能であるが、低温で延伸処理すると破断が生じたり、滑り性が悪化する場合がある為、好ましくは、120〜180℃の範囲で延伸処理を施すことが好ましい。また、レターデーション値上昇剤として円盤状化合物を添加することで位相差、特にRtを発現させることが可能であるが、ブリードアウト等の問題を発生させないためには、0.1〜7質量%の範囲内で添加することが必要である。
(偏光板)
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明の位相差フィルムをアルカリ鹸化処理し、処理したフィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明のセルロースエステルフィルムを用いても、別の光学フィルムや偏光板保護フィルムを用いてもよい。
本発明のセルロースエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる光学フィルムや偏光板保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC10UDR、KC4FR、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
あるいは、さらにディスコチック液晶、棒状液晶、コレステリック液晶などの液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している光学補償フィルムを兼ねる光学フィルムを用いることも好ましい。
例えば、特開2003−98348号公報記載の方法で光学異方性層を形成することができる。本発明のセルロースエステルフィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることができる。
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。該偏光子の面上に、本発明のセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
本発明に従い溶融流延製膜方法により製造される長尺状セルロースエステルフィルムは、長尺状の偏光子(偏光フィルム)とアルカリケン化処理を施して貼合することができるため、特に100m以上の長尺で生産的効果が得られ、1500m、2500m、5000mとより長尺化する程偏光板製造の生産的効果が高まる。
また、本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板はリワーク性に優れるため、偏光板収率が向上するという効果も得ることができる。
(液晶表示装置)
本発明の位相差フィルムを含む偏光板は、通常の偏光板と比較して高い表示品質を発現させることができる。
本発明に係る偏光板は、TNモード、OCB(Optical Compensated Bend)モード、IPS(In−Plane Switching)モード等に用いることができる。
液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置として応用され、本発明により表示品質が改良され、コントラストの改善や偏光板の耐性が向上したことにより、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
(セルロースエステルC−1の合成)
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(酢化度55%、平均重合度160)100質量部と、60℃、24時間の真空乾燥によって絶乾状態としたL−ラクチド(ピュラック社製)200質量部を、ジムロート冷却管及び熱電対を付け、N2雰囲気とした4つ口フラスコに仕込み、このフラスコをオイルバス中に浸漬して140℃とし、60分間撹拌して系を溶解させた。その後、開環重合触媒として、オクタン酸スズ0.2質量部を添加し、30分間反応させた。反応終了後、フラスコをオイルバスより取り出して冷却し、クロロホルムを添加して、系を完全に溶解させた。反応物のクロロホルム溶液は、大過剰のメタノール中にて再沈殿させ、フレーク状の沈殿物を得た。この沈殿物を濾集し、乾燥させた後、質量を測定した。得られたセルロースエステルをC−1とする。仕込みセルロースジアセテートの質量に対する質量増加率(グラフト率)は、49%であった。
[合成例1:例示化合物TA1−2の合成]
(1)2,4−ジ−m−トルイジノ−6−クロル−1,3,5−トリアジンの合成
攪拌機、温度計、滴下ロートを装着した500mlの三ツ口フラスコに、塩化シアヌル25g(0.136モル)を入れ、メチルエチルケトン200mlで溶解した。次いで、m−トルイジン29.1g(0.27モル)を5℃以下で滴下し、その後、ジイソプロピルエチルアミン35.2g(0.27モル)を5℃以下で滴下した。滴下後、室温下で2時間反応させたのち、反応液を氷水500ml中に注ぎ込み、有機層を酢酸エチル500mlで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去した。次いで、得られた残渣をイソプロピルアルコール100mlに溶解し再結晶した。得られた結晶を乾燥することにより目的物を得た(収量37.7g、収率85%)。
(2)例示化合物TA1−2の合成
攪拌機、温度計を装着した100ml三ツ口フラスコに、2,4−ジ−m−トルイジノ−6−クロル−1,3,5−トリアジン8.1g(25ミリモル)と、p−アニシジン3.1g(25ミリモル)とを入れ、DMF20mlで溶解した。次いで、炭酸カリウム5.2g(37.5ミリモル)を加え120℃で2時間反応させた。冷却後、酢酸エチル100mlで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。酢酸エチルを減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:n−ヘキサン/酢酸エチル=5/1(体積比))で単離し目的物を得た(収量9.1g、収率88%)。化学構造はNMRスペクトル、MSスペクトル及び元素分析で確認した。
ドープの調整
[実施例1]
セルロースエステルC−1 100質量部
ジクロロメタン 320質量部
メタノール 83質量部
1−ブタノール 3質量部
可塑剤A 7.6質量部
可塑剤B 3.8質量部
UV剤a 0.7質量部
UV剤b 0.3質量部
微粒子 0.05質量部
例示化合物TA1−2 2質量部
可塑剤Aは、トリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bは、ジフェニルフォスフェートであり、UV剤aは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールであり、UV剤bは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾールであり、クエン酸エステル化合物はクエン酸とモノエチルエステルとジエチルエステルとトリエチルエステルとの混合物であり、微粒子は平均粒径が15nm、モース硬度が約7の二酸化ケイ素である。そして、レターデーション上昇剤として、TA1−2に示す化合物をフィルムとしたときの全質量に対して2質量%となるように添加した。
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調製した。次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は50℃に制御した。
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力70N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
剥離したセルロースエステルフィルムを、160℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に40%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は20%であった。
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は120℃で、搬送張力は90N/mとした。
以上のようにして膜厚が40μの位相差フィルム101を作製した。
以下、位相差フィルム102〜109、比較例201〜205を円盤状化合物や製造条件を変え実施例1と同様の手順で製造した。その一覧を表1及び表2に示す。
《レターデーションRo、Rtの測定》
得られたフィルムから試料35mm×35mmを切り出し、25℃、55%RHで2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRAWR、王子計測(株))で、450nm、590nm及び630nmにおける垂直方向から測定した値とフィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値より算出した。
<滑り性(ブロッキング耐性)>
巻き取ったフィルム原反試料をポリエチレンシートで2重に包み、25℃、50%RHの条件下で30日間保存した。その後、ポリエチレンシートを開け、フィルムを巻きだし、ブロッキングの発生を下記基準にて目視で評価した。
◎:ブロッキングなし
○:軽い剥離音がする程度でサンプルに跡、変形がない
△:変形はないがサンプルに少し跡が残る
×:サンプルをほぐす時に強い抵抗がある
《ブリードアウト耐性評価》
出来上がったフィルムを60℃90%の条件下に300時間置き、フィルム表面に添加剤が析出していないかを目視で評価した。
○:析出なし
×:析出している
評価の結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2に示した結果から、本発明に係るフィルム101〜109は比較フィルムと比べて所望のレターデーションを維持したまま、波長分散性・滑り性において優れていることがわかる。
<偏光板の作製>
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と前記セルロースエステルフィルム101〜203と、裏面側にはコニカミノルタタックKC4UY(コニカミノルタオプト(株)製セルロースエステルフィルム)を偏光板保護フィルムとして貼り合わせて偏光板を作製した。
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化したセルロースエステルフィルムを得た。
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
工程4:工程3で積層したセルロースエステルフィルムと偏光子と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子と本発明及び比較セルロースエステルフィルム101〜205とコニカミノルタタックKC4UYとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板101〜205を作製した。
〈液晶表示装置の作製〉
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
SONY製40型ディスプレイKLV−40V1000の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板101〜109、201〜205をそれぞれ液晶セルのガラス面の両面に貼合した。その際、その偏光板の貼合の向きは、本発明に係る光学補償フィルムの面が、液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、本発明の液晶表示装置101〜109、比較の液晶表示装置201〜205を各々作製した。
(色調変動の評価)
上記作製した各液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて色調変動について測定した。画面を黒表示にし、CIE1976、UCS座標において、表示装置の法線方向から角度を斜め60°に傾け、ぐるりと360°観察したときのデータから最大色調変動幅Δu′v′を比較した。
液晶表示装置の評価の結果を表3に示す。
表3に示した結果から本発明の偏光板・液晶表示装置101−109は比較例と比べて色調変動(カラーシフト)が少なく優れていることがわかる。