JP2010251096A - 燃料電池システムおよびその制御方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】運転の最適化を図りつつ、特に高温環境下で燃料電池においてドライアップが生じるという事態を抑制する。
【解決手段】反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、該燃料電池に反応ガスを供給するためのガス配管系と、を有する燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池における水収支が所定値以下となった場合に、反応ガスの供給状態を変更し、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の優先順位でこれらの処理を行い、当該燃料電池の出力を制限した後に水収支を回復させる。
【選択図】図2

Description

本発明は、燃料電池システムおよびその制御方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、燃料電池システムの運転制御の最適化に関する。
固体高分子電解質型燃料電池においては、膜含水量が減少すると当該電解質膜におけるプロトン伝導性が低下して膜抵抗が増大し、出力電圧が低下し、性能低下に至る。このような現象は、特に、外気温が高い環境下で燃料電池システムを高出力運転したような場合、ラジエータの冷却能力が不足し、燃料電池から十分に放熱することができなくなる結果、当該燃料電池にてドライアップ(燃料電池の電解質膜の含水量が不十分になること)が生じることによって引き起こされる。特に、燃料電池システムの冷却水が限界水温に到達するなど高温になればなるほどドライアップが生じる蓋然性が高くなるため、このような事態を抑制する必要がある。
従来、燃料電池のこのようなドライアップを回避するための技術として種々のものが提案されている。例示すれば、燃料電池における水収支(燃料電池における水分の出入り、またはその量のバランス)が所定値以下の場合には当該燃料電池の出力を制限し、ユーザに通知するもの(例えば特許文献1参照)、水収支が所定値以下の場合にアノード出力を低下させるもの(例えば特許文献2参照)、燃料電池の高温時にドライアップが生じていると推定し、カソード圧力を増加させるもの(例えば特許文献3参照)、燃料電池の高温時、当該燃料電池を搭載した車両(燃料電池車両)の空調を制限し、ドライアップを抑制するもの(例えば特許文献4参照)、等がある。
特開2008−146971号公報 特開2008−103137号公報 特開2008−130471号公報 特開2007−234452号公報
しかしながら、上述のようにドライアップ対策が施されている燃料電池システムにおいても、特に高温環境下ではなおドライアップが生じることがある。
そこで、本発明は、特に高温環境下での燃料電池においてドライアップが生じるという事態を抑制しうる燃料電池システムおよびその制御方法を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため、本発明者は種々の検討を行った。例えば上述した特許文献1の場合には、最低必要出力を確保可能なときにカソード圧力を上昇させて膜含水量の回復を図っている(図5(D)参照)。しかし、カソード圧力を上昇させようとすればエアコンプレッサの補機動力損が増加する(補機動力損の消費電力を確保する必要が生じる)ため、最低必要出力の値が小さくなってしまう点で問題である。
また、特許文献2の場合、燃料電池の含水量が低下した際に、アノード圧力のみ下げることにより、補機動力損を増加させずに膜含水量の回復を図っている(図5参照)。しかし、必要な含水量の増加量がアノード圧力低下のみでは確保しきれず、含水量が十分に回復しないような場合に、膜含水量を回復させるための他の手段を持たないことから、当該燃料電池システムを搭載した車両が走行できなくなるといった問題が生じうる。
特許文献3の場合、水温に応じてカソード圧力を上昇させて膜含水量の回復を図っていることから(図5参照)、このようにカソード圧力を上昇させる際の補機動力損の増加が避けられない。
さらに、空調制限ありの燃料電池車両を常温環境下で運転している場合でも、水温の上昇、過度の運転、エアコン使用時のヒータ動力損の影響などにより、ドライアップが生じる可能性がある。
また、燃料電池のドライアップを回避するため、水素と酸素の反応による生成水が多くなるように電流値を増加させる電流制御手段を利用するという技術もある。しかし、電流値を増加させる手段は冷却性能が確保されている場合には有効であるが、冷却能力が限られる場合においては電流値増加が水温増加につながることから実施が難しいことがある。特に、車両では、意匠上の影響、走行抵抗などの理由などで搭載可能領域が制限され、十分なサイズのラジエータを搭載することができず、最大負荷時の水温を燃料電池の限界水温以下に設定することが難しい。このため、電流値増加手段を有効に利用することは実際には難しい場合がある。
以上のように、高温環境下で水温が上昇すると燃料電池にドライアップが生じる可能性があるため、このような事態を回避すべく運転条件に何らかの制限を設ける必要がある。このような背景の下、本発明者は、燃料電池の運転条件に必要な制限を設けながら運転方法を最適化することについて検討を重ね、課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。本発明はかかる知見に基づくものであり、反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、該燃料電池に反応ガスを供給するためのガス配管系と、を有する燃料電池システムにおいて、燃料電池における発電要求に応じて反応ガスの供給状態の変更を行う制御部であって、燃料電池における水収支が所定値以下となった場合に、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の優先順位でこれらの処理を行い、当該燃料電池の出力を制限した後に水収支を回復させる制御部、をさらに有するというものである。
従来の構成では、カソード圧力の増加、アノード圧力の低減などにより電解質膜の含水量(燃料電池の水収支)の回復を図っているものの、例えばカソード圧力を増加させた場合、含水量は増加するが動力損が多くなるため出力制限の割合が多くなるし、アノード圧力の低減を行った場合には、動力損の増加は少ないが含水量の増加の割合が少ないため、短時間に含水量を回復することが難しい。この点、本発明においては、出力制限の割合が少ない順に各時点で最適な方法を選択し、含水量(水収支)をより短時間で回復させるようにしている。つまり、本発明にかかる燃料電池システムは、システム中の制御部により、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加というように出力制限の割合が少ない順に当該燃料電池の出力を制限することとし、これにより、高温環境下でドライアップが生じるという事態を効果的に抑制し、含水量を回復させる。
すなわち、燃料電池の含水量が低下した場合に、エアストイキ比を低減させ、場合によってはさらにアノード圧力を低減させることにより、補機等の電力消費装置による消費電力を低減させ、例えば燃料電池車両であれば当該車両で必要な電力を低減させることができる。また、これでも電解質膜の含水量が回復しなければ続いてアノード循環量を増加させる。
さらに、本発明では、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の各処理によっても水収支が回復基調にないと判断した場合に、カソード圧力増加処理をさらに行う。
また、本発明にかかる燃料電池システムは、空調システムを備えており、水収支が所定値以下となった場合に空調システムの動力を低減させるというものである。このような燃料電池システムは、空調出力を制限しうるものとして例えば燃料電池車両などに好適である。
水収支が所定値以下となった場合に出力制限をする際、当該出力制限が行われていることをユーザに通知することが好ましい。これによれば、燃料電池車両のドライバ等のユーザが抱きうる違和感や不安感を解消することができる。
さらに、本発明にかかる制御方法は、反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、該燃料電池に反応ガスを供給するためのガス配管系と、を有する燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池における水収支が所定値以下となった場合に、反応ガスの供給状態を変更し、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の優先順位でこれらの処理を行い、当該燃料電池の出力を制限した後に水収支を回復させる、というものである。
本発明によれば、当該燃料電池の運転の最適化を図りつつ、高温環境下で燃料電池においてドライアップが生じるという事態を抑制することができる。
本発明の一実施形態を示す燃料電池システムの構成図である。 分(min)当たり含水量増加量を横軸、燃料電池の出力制限値(当該時点で出力可能な値を示すしきい値)を縦軸にとって両者の関係を表すグラフである。 分(min)当たり含水量増加量を横軸、バッテリ補完電力量を縦軸にとって両者の関係を表すグラフである。 水収支の時間経過の一例を示すグラフである。 (A)カソードストイキ比と水収支の関係、(B)アノード圧力と水収支の関係、(C)アノード循環量と水収支の関係、(D)カソード圧力と水収支の関係を示すグラフである。 燃料電池の出力を制限することにより水収支を回復させる場合の処理の一例を示すフローチャートである。 エアコン(空調システム)の動力の制限方法の一例を示すフローチャートである。 エアコン(空調システム)からの要求で水温を上昇させる場合における水収支の制御例を示すフローチャートである。 水収支がマイナスのときにレッドゾーンを指針する水温メータを示す図である。 水収支がマイナスのときにレッドゾーンの最大値以上の領域を指針する水温メータを示す図である。
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の燃料電池システムは、特に図示していないが、燃料電池本体(FC)、該燃料電池の電流を計測する電流検出手段(電流計など)、高電圧バッテリ、バッテリ昇圧コンバータ、駆動モータ、リレー(燃料電池とバッテリ昇圧コンバータおよび駆動モータを接続するもの)、バッテリリレー(高電圧バッテリとバッテリ昇圧コンバータとを接続するリレー)、駆動モータを駆動するインバータなどを備えた構成となっている。この燃料電池システムは、燃料電池と高電圧バッテリとの電力でインバータによりモータを駆動する燃料電池ハイブリッドシステムである。
燃料電池システムは例えば燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の車載発電システムとして適用可能なものであるが特にこれに限られることなく、この他、各種移動体(例えば船舶や飛行機など)やロボットなどといった自走可能なものに搭載される発電システム、さらには定置の発電システムとしても利用することが可能である。以下において説明する本発明の各実施形態では、当該燃料電池システムを搭載した燃料電池車両において本発明を適用した例を示す。なお、各図においては、燃料電池を「FC」、高電圧バッテリを「BAT」と表す場合がある。
図1は、本実施形態における燃料電池システム1の構成図である。燃料電池システム1は、燃料電池自動車(FCHV)、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両100に搭載できる。ただし、燃料電池システム1は、車両100以外の各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボット等)や定置型電源、さらには携帯型燃料電池システムにも適用可能である。
燃料電池システム1は、燃料電池2と、酸化ガスとしての空気を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4と、燃料電池2に冷媒を供給する冷媒配管系5と、システム1の電力を充放電する電力系6と、システム1の運転を統括制御する制御装置7と、を備える。酸化ガス及び燃料ガスは、反応ガスと総称できる。
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型燃料電池で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造となっている。単セルは、プロトン導電性を有する固体高分子膜を電解質層に備えており、電解質の一方の面に空気極(カソード)を有し、他方の面に燃料極(アノード)を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有する。一方のセパレータの酸化ガス流路2aに酸化ガスが供給され、他方のセパレータの燃料ガス流路2bに燃料ガスが供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの電気化学反応により、燃料電池2は電力を発生する。
酸化ガス配管系3は、燃料電池2に供給される酸化ガスが流れる供給路11と、燃料電池2から排出された酸化オフガスが流れる排出路12と、を有する。供給路11は、酸化ガス流路2aを介して排出路12に連通する。酸化オフガスは、燃料電池2の電池反応により生成された水分を含むため高湿潤状態となっている。
供給路11には、エアクリーナ13を介して外気を取り込むコンプレッサ14と、が設けられる。また、この供給路11には、コンプレッサ14により燃料電池2に圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15が必要に応じて設けられる。加湿器15は、供給路11を流れる低湿潤状態の酸化ガスと、排出路12を流れる高湿潤状態の酸化オフガスとの間で水分交換を行い、燃料電池2に供給される酸化ガスを適度に加湿する。
燃料電池2の空気極側の背圧は、カソード出口付近の排出路12に配設された背圧調整弁16によって調整される。背圧調整弁16の近傍には、排出路12内の圧力を検出する圧力センサP1が設けられる。酸化オフガスは、背圧調整弁16及び加湿器15を経て最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
燃料ガス配管系4は、水素供給源21と、水素供給源21から燃料電池2に供給される水素ガスが流れる供給路22と、燃料電池2から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路22の合流点Aに戻すための循環路23と、循環路23内の水素オフガスを供給路22に圧送するポンプ24と、循環路23に分岐接続されたパージ路25と、を有する。元弁26を開くことで水素供給源21から供給路22に流出した水素ガスは、調圧弁27その他の減圧弁、及び遮断弁28を経て、燃料電池2に供給される。パージ路25には、水素オフガスを水素希釈器(図示省略)に排出するためのパージ弁33が設けられる。
冷媒配管系(冷却機構)5は、燃料電池2内の冷却流路2cに連通する冷媒流路41と、冷媒流路41に設けられた冷却ポンプ42と、燃料電池2から排出される冷媒を冷却するラジエータ43と、ラジエータ43をバイパスするバイパス流路44と、ラジエータ43及びバイパス流路44への冷却水の通流を設定する切替え弁45と、を有する。冷媒流路41は、燃料電池2の冷媒入口の近傍に設けられた温度センサ46と、燃料電池2の冷媒出口の近傍に設けられた温度センサ47と、を有する。温度センサ47が検出する冷媒温度(燃料電池の関連温度)は、燃料電池2の内部温度(以下、FC温度という。)を反映する。なお、温度センサ47は、冷媒温度の代わりに(あるいは加えて)、燃料電池周辺の部品温度(燃料電池の関連温度)や燃料電池周辺の外気温度(燃料電池の関連温度)を検出するようにしても良い。また、燃料電池の冷却ポンプ42は、モータ駆動により、冷媒流路41内の冷媒を燃料電池2に循環供給する。
電力系6は、高圧DC/DCコンバータ61、バッテリ62、トラクションインバータ63、トラクションモータ64、及び各種の補機インバータ65,66,67を備えている。高圧DC/DCコンバータ61は、直流の電圧変換器であり、バッテリ62から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ63側に出力する機能と、燃料電池2又はトラクションモータ64から入力された直流電圧を調整してバッテリ62に出力する機能と、を有する。高圧DC/DCコンバータ61のこれらの機能により、バッテリ62の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ61により、燃料電池2の出力電圧が制御される。
バッテリ(蓄電器)62は、充放電可能な二次電池であり、例えばニッケル水素バッテリなどにより構成されている。その他、種々のタイプの二次電池を適用することができる。また、バッテリ62に代えて、二次電池以外の充放電可能な蓄電器、例えばキャパシタを用いても良い。
トラクションインバータ63は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ64に供給する。トラクションモータ64は、例えば三相交流モータである。トラクションモータ64は、燃料電池システム1が搭載される例えば車両100の主動力源を構成し、車両100の車輪101L,101Rに連結される。補機インバータ65、66、67は、それぞれ、コンプレッサ14、ポンプ24、冷却ポンプ42のモータの駆動を制御する。
制御装置7は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、通常運転の制御及び後述する暖機運転の制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
タイマー70、電圧センサ72及び電流センサ73は、制御装置7に接続される。タイマー70は、燃料電池システム1の運転を制御するために必要な各種の時間を計測する。電圧センサ72は、燃料電池2の出力電圧(FC電圧)を検出する。具体的には、電圧センサ72は、燃料電池2の多数の単セルの個々が発電する電圧(以下、「セル電圧」という。)を検出する。これにより、燃料電池2の各単セルの状態が把握される。電流センサ73は、燃料電池2の出力電流(FC電流)を検出する。
制御装置7は、各種の圧力センサP1や温度センサ46、47、並びに車両100のアクセル開度を検出するアクセル開度センサなど、各種センサからの検出信号を入力し、各構成要素(コンプレッサ14、背圧調整弁16など)に制御信号を出力する。また、制御装置7は、所定のタイミングで燃料電池2の水分状態の診断等を行い、診断結果に基づき燃料電池2の水分制御を行う。
さらに、本実施形態の燃料電池システム1においては、制御装置7により、燃料電池2における水収支が所定値以下となった場合に、所定の優先順位で当該燃料電池2の出力を制限し、電解質膜の含水量を回復させることとしている。詳細な手順は以下に示すが、ここでは、燃料電池2の温度を一定値以下にするため、当該燃料電池2の出力に制限を設けつつ、燃料電池2のスタックが乾かない運転を行うために補機動力損の最も少なくなる運転を優先して行い、スタックの発熱量が少なくなるようにしながら所定の出力(想定されるセル電圧)を確保する。以下、膜含水量を回復させる出力制限技術について説明する(図2等参照)。
ここで、まず、燃料電池2の水収支とは、当該燃料電池2における水分の出入りまたはその量のバランスのことをいう。当該燃料電池2の電解質膜の含水量が増えれば(または減れば)すなわちこれが水収支の増加(または減少)となる。水収支の管理(燃料電池2の水分管理)の方法には種々のものがあり、一般的には、燃料ガス(水素ガス)に水分を含ませることにより外部から水分を送る方法、当該燃料電池2内で生成する水分を利用する方法、燃料電池2内を多湿に保って管理する内部管理法などがある。本実施形態では、燃料電池2における水収支が所定値以下となった場合に、制御装置7により、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加、カソード圧力増加の優先順位で当該燃料電池2の出力を制限することとしている。
一般に、燃料電池2においては、電気化学反応に伴ってカソードで水が生成されることから、当該燃料電池2から外部へと排出される水分のうちの多くは、カソードオフガスとともに水蒸気として排出される水分である。このため、カソード側におけるガス圧力を高めると、カソード側流路(供給路11、排出路12)において水が水蒸気ではなく液水として存在しやすくなり、カソードオフガスとともに水蒸気として排出される水分の量が抑えられることから、燃料電池2の水収支を増加させることができる(図5(D)参照)。また、カソード側のガス圧力をアノード側に対して相対的に高めれば、水が生成されるカソード側からアノード側へと向かう電解質膜内での水の移動が促進され、電解質膜の含水量(水収支)を増加させることができる。一方、アノード側におけるガス圧力を高めると、これとは逆にカソード側流路(供給路11、排出路12)において水が液水として存在し難くなり、カソードオフガスとともに水蒸気として排出される水分の量が増える結果、燃料電池2の水収支が低下する(図5(B)参照)。
また、カソード(CA)におけるエアストイキ比が低減すると、カソードオフガスとともに水蒸気として排出される水分の量が増える結果、燃料電池2の水収支が低下する(図5(A)参照)。一方で、アノード(AN)におけるガス循環量が増加すると、燃料電池2の水収支が増加する(図5(C)参照)。
ここで、出力制限により水収支を回復させる場合の処理の一例を以下に示す(図6参照)。本実施形態では、燃料電池スタックの乾燥状態に応じて各種補機を調整し、発熱と水収支を制御する。すなわち、まず、燃料電池システム1の運転時、制御装置7によって常時水収支を計算する(ステップSP1)。ここで、算出した水収支が0を超えているか(プラスの状態か)を判断し(ステップSP2)、0を超えていれば出力制限処理ルーチンを終了し、運転が継続していれば再び水収支計算を行う。一方、水収支がマイナスになっていれば(図4参照)、本実施形態では、カソード(CA)におけるエアストイキ比の変更(低減)、アノード(AN)の燃料ガス圧力の変更(低減)、アノード(AN)のガス循環量増加をこの順に実施する(ステップSP2にてNO、ステップSP3)。
なお、エアストイキ比低減の後、カソード(CA)圧力を増加させる処理を行い、その後にアノードガス圧力低減、アノードガス循環量増加の処理を行うこともできる。ただし、カソード圧力の体積流量増加の方法としてのカソード圧力増加処理は補機動力の増加および発熱量の増加に繋がりやすいので、本実施形態では、以下に示すように他の3つの手段を優先し(ステップSP3)、それでも膜含水量が回復基調となれなければカソード圧力増加を後段(ステップSP5)にて行うこととしている。
ところで、水収支は、燃料電池スタックから持ち去られる水分量(持ち去り量)をカソードエア量、アノード排気量、温度(水温)に基づき算出し、この持ち去り量から、発電量に基づき算出される生成水量を差し引くことによって求めることができる。例えばカソードエアによる水分持去り量は、飽和水蒸気以下のマップに基づき計算を行うことによって算出することができる。燃料電池システム1の制御装置7は、この水収支が0以下(マイナス)になった場合には0以上(プラス)に転じるように各種制御を行う。なお、これとは別に、カソード出口に露点計を設けて計測を行い水収支を算出するといった手段を採用することもできる。
ここで、分(min)当たり含水量増加量を横軸、出力制限値(当該時点で出力可能な値を示すしきい値)を縦軸にとって両者の関係を表示し、さらに燃料電池システム1に要求される電力(ただし、燃料電池2の出力制限が設定されていない状態)を一定値として破線で表示して説明する(図2参照)。図中における各○印は動作点であり、当該時点において燃料電池2が出力可能な値を示しており、当該動作点と破線との間隔(図中の矢印参照)が、バッテリ62により補完する必要がある出力の大きさとなる。例えば、車両のエアコンプレッサやエアコンディショナー等の補機を稼動(動作)させればこれらに要する動力のぶんが余計に消費されることになり(補機動力損)、車両走行のための出力が低下してしまうから、この補機動力損の分の消費電力を確保する必要が生じる。
このように、一般に、燃料電池2の出力制限値は水温(当該燃料電池2の冷却水温度)に応じて決まることから、燃料電池2の冷却性能が変わらないとすれば、燃料電池2の発熱量は上述の動作点により決定する。したがって、補機動力損が低減すれば燃料電池2の出力制限値は増加する(制限が緩和される)ことになり、逆に、補機動力損が増加すれば燃料電池2の出力制限値は低下する(さらに制限される)ことになる(図2参照)。
ここで一例を挙げて説明すると、当初、含水量増加量と出力制限しきい値とが図2中の動作点(a)の状態にあったとした場合、上述のようにステップSP3においてエアストイキ比を低減させることにより、補機(コンプレッサ14)の電力消費量を低減させることができる。例えば、当該時点での燃料電池2に対する出力要求電力(出力制限がある状態での要求電力)がW1であり、動作点(a)での出力制限値がこのW1を下回っている場合、エアストイキ比を低減させて動作点を(a)から(b)へと移動させ、補機動力損の分、出力制限値を増加させて出力要求電力W1と同等またはこれ以上とすることができる。なお、カソード(CA)のエアストイキ比低減は、低減に伴う燃料電池スタックの電圧低下を伴わない範囲で行うことが好ましい。
また、本実施形態では、アノード(AN)圧力の変更(低減)も行う(ステップSP3)。この処理に従い、動作点は(b)から(c)へと移動する。アノード圧力を低減すれば、ポンプ24等の補機の電力消費量を低減させ、燃料電池2の出力制限値をこの補機動力損の分さらに増加させることができる。なお、アノード圧力低減は、アノード循環系内の水素濃度が所定の値以上となる範囲内で行うようにする。また、アノード圧力低減は、パージ弁(排気排水弁)33により排気した場合にカソード背圧による逆流が生じない程度の圧力の範囲内で行うようにする。さらに、アノード圧力低減は、水素濃度低下によるセル電圧低下が発生しない程度の圧力範囲内で行うようにする。
以上のように、燃料電池2の出力制限を考慮し、まずは補機動力損の分だけ当該出力制限値を増加させる(制限を緩和させる)本実施形態においては、この動作点(c)における出力制限値が極大値(または最大値)となり(図2参照)、バッテリ62により補完する必要がある出力の大きさは極小値(または最小値)となる(図3参照)。
続いて、本実施形態では、アノード(AN)循環量の変更(増加)を行う(図2参照)。アノード循環量を増加させると、動作点が(c)から(d)へと移動し、これに伴い水収支が増加するが(図5(C)参照)、ポンプ24等の補機の電力消費量が増えることから出力制限値は低下する。なお、アノード循環量を増加させることは動力損に繋がるので、上述した2つの処理(カソードのエアストイキ比低減、アノード圧力低減)を経て出力制限値が極大値(最大値)となった後でこのような循環量増加処理を行うことが好ましい。アノード循環量を増加させる処理は、カソード圧力を増加させる処理に比べると水収支などの変化の感度が小さい。また、これまで説明した各種処理を行って運転状況を変更する際、セル電圧が想定値より低くなっている場合には変更後の運転によりスタックが乾燥するように作用するので、ガス流量を増加し、セル電圧が増加する方向に運転することが好ましい。
ここで、本実施形態では、この時点での水収支が0を超えているか(プラスの状態か)を判断し(ステップSP4)、0を超えていれば(ステップSP4にてYES)、ステップSP9の処理を行う(図6参照)。一方、0を超えていなければ(ステップSP4にてNO)、さらにカソード(CA)圧力を増加させる処理を行う(ステップSP5)。
ステップSP5にてカソード(CA)圧力を増加させると、動作点が(d)から(e)へと移動し、これに伴い水収支が増加するが(図5(D)参照)、コンプレッサ14等の補機の電力消費量が増えることから出力制限値は低下する。
その後、本実施形態では再び水収支が0を超えているか(プラスの状態か)を判断し(ステップSP6)、0を超えていれば(ステップSP6にてYES)、ステップSP9の処理を行う。一方、この時点でもなお0を超えていなければ(ステップSP6にてNO)、燃料電池2の出力を制限し、水収支が0を超えるまで(プラスとなるまで)ドライアップを抑制して膜含水量の回復を図る(ステップSP7、ステップSP8)。水収支が0を超えれば(ステップSP8にてYES)、ステップSP9の処理を行う。
ステップSP9では、燃料電池2の出力が所定値となっているかどうか(燃料電池2のセル電圧が想定値を超えているかどうか)の判断を行う。セル電圧が想定値を超えていれば(ステップSP9にてYES)、一連の処理ルーチンを終了する。一方、セル電圧が想定値を超えていなければ(ステップSP9にてNO)、ステップSP3に戻りカソードストイキ比変更(低減)等の処理を再び行う。
以上のように、本実施形態の燃料電池システム1においては、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加(以上、ステップSP3)、さらにはカソード圧力増加(ステップSP5)の順番で膜含水量の回復を図ることで、燃料電池2の出力制限値の低下を避けつつ水収支を管理することが可能となっている。例えば、アノード圧力低減のみ行うとすれば、出力の制限幅は少ないものの水収支の増加量が少ないため膜含水量の回復に時間がかかることになるが、各種処理を適宜行う本実施形態によれば膜含水量回復に要する時間をより短縮させることが可能である。また、水収支の増加量が多くなるようにこれら処理のすべてを行うとすれば、その分、より多くの出力制限が実施されることとなるが、本実施形態では補機動力損が少ない処理から順に行うことにより、スタックの発熱量が少なくなるようにしながら所定の出力(想定されるセル電圧)を確保するという、いわば運転の最適化を図ることができる。
なお、本実施形態では、バッテリ62で補うことが可能な電力量はバッテリSOC(バッテリ残存電力量、あるいはバッテリ蓄電状態)から判定し、不足している膜含水量に対して短時間で補うことが可能な含水量増加量を選択することとしている。すなわち、下記数式1が成立する条件、つまり、バッテリ62で補うことが可能な時間(左辺)が、膜含水量回復までの時間(右辺)を上回っているという条件下にて、当該膜含水量が回復するまでの時間が最短になるものを適宜選択する。ただし、バッテリ62のSOCが最低になり燃料電池車両の走行性能に影響がでるおそれがある場合には、出力制限による影響が少ない条件(図2中に示す出力制限値が大きくなる条件)を適宜選択することが好ましい。
[数1]
(バッテリ残存電力量)/(バッテリ補完電力量/分)>(不足含水量)/(含水量増加量/分)
以上の説明では分(min)当たりのバッテリ補完電力量および含水量増加量を例示したが、これは単位時間当たり量の例示にすぎず、時間の単位が適宜変更可能であることはいうまでもない。
続いて、エアコン(エアコンディショナー、図7等ではACと示す)の動力の制限方法について説明する。
燃料電池車両に搭載されているエアコンシステム81およびエアコン補助熱交換器82を常温(あるいは低温)環境下で連携動作させながら当該車両の運転を行っている場合、水温の上昇、過度の運転、エアコン連携によるヒータの影響などにより、燃料電池2にてドライアップが生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、特に外部加湿レス(外部装置によって加湿されることがない構成)の場合でもドライアップが生じるのを回避するべく、各種条件に応じてエアコンの動作要求に応じた制御を実施する(図7、図8参照)。
まず、燃料電池システム1の運転時、制御装置7によって常時水収支を計算(ステップSP11)、エアコンで例えば暖房または除湿を行っているときに燃料電池スタックの乾燥状態を検出した場合、つまり、水収支がマイナスになっている場合は(ステップSP12でNO)、エアコンシステム81ヘの動力低減要求を行い、エアコン側へ熱連携を行い燃料電池2の冷却水温を低下させる(ステップSP13)。エアコン側への熱連携は、例えばエアコン補助熱交換82を使って熱をエアコン側へと放出させることによって行うことができる。また、これでもなお燃料電池スタックの乾燥状態を検出した場合には、エアコンの動作モードが冷房であればエアコンの動力を低減させることで燃料電池2の動力損を低減させ、ドライアップが生じるのを回避する。以上の手法によってもドライアップが回避できない場合(ステップSP14にてNO)、水収支は回復したがセル電圧が想定値を超えていない場合(ステップSP16にてNO)には、上述した燃料電池2の出力制限処理(図6参照)を行う(ステップSP15)。一方、以上の手法によりドライアップを回避できた場合には、上述した燃料電池2の出力制限処理(図6参照)を省略することが可能となる。
また、エアコン連携時、エアコンシステム81からの要求で水温(冷却水の温度)を上昇させる場合においては(ステップSP21)、水温が上昇した場合でも燃料電池2の水収支がプラスとなるように水収支の制御を行い、当該制御開始前と同等の水収支になるように制御後に水温を上昇させ、ドライアップを回避することが好ましい(ステップSP22〜25)。
次に、出力制限を行う場合のユーザヘの通知方法について説明する。
上述したように、燃料電池2の水収支がマイナスとなっているとき等に出力制限を行う場合は、出力制限が行われていることをユーザ(特にドライバ)が認識できるように通知することが好ましい。このような情報を適宜通知して認識してもらうことにより、燃料電池車両のドライバといったユーザが抱きうる違和感や不安感を解消し、当該システムをより安心して利用してもらうことができる。
この場合の通知方法としては種々のものを採用することができ、例示すれば、水収支がマイナスのときに水温メータ83のレッドゾーンを指針することを挙げることができる(図9参照)。あるいは、水収支マイナス時に水温メータ83のレッドゾーンの最大値以上の領域を指針する(水温が最高温度に到達しても指針されない領域を指針する)ことにより、出力制限状態であることをより明確に通知することも好ましい(図10参照)。もちろん、水収支がマイナスである等の燃料電池スタックの状態を、インストルメントパネルやフロントガラス等のその他の表示器を使って、あるいはブザー等の警告音を使ってユーザに通知することとしてもよい。簡単に例示すれば、乾燥度合に応じて音を徐々に変化させたり音楽を変えたりすること、出力の制限値を表示すること、アクセルに対する出力マップを変更すること(アクセル100%での出力を制限された出力の最大値にすること)、生暖かい風を出すなどエアコンの効きを悪くしてユーザに感知させること、シートやハンドルを振動させてユーザに感知させること、等の手段を採用することができる。
なお、上述した実施形態は本発明の好適な実施例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態ではカソードストイキ比変更(低減)、アノード圧力変更(低減)、アノード循環量変更(増加)の各処理をステップSP3において実施する態様を示したが(図6参照)、もちろんこれは好適な態様の一例に過ぎず、このほか、それぞれの処理を独立したステップにて実施し、水収支が0を超えているかどうかの判断をステップ毎に行うようにしても構わない。
また、上述した実施形態では、水収支がプラスかマイナスか、つまり水収支0を基準として出力制限の判断を行ったが、これ以外、つまり0以外の値を基準として出力制限の判断を行うようにしてもよい。
本発明によれば、燃料電池の開放電圧と高電圧バッテリの開放電圧とが近い場合にも、当該燃料電池のリレー溶着の状態を検出することができる。よって、本発明は、そのような要求のある燃料電池や燃料電池システムにおいて広く利用することができる。
1…燃料電池システム、2…燃料電池、3…酸化ガス配管系(ガス配管系)、4…燃料ガス配管系(ガス配管系)、7…制御装置(制御部)、81…エアコンシステム(空調システム)、83…水温メータ(出力制限が行われていることをユーザに通知する装置)

Claims (5)

  1. 反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、該燃料電池に反応ガスを供給するためのガス配管系と、を有する燃料電池システムにおいて、
    前記燃料電池における発電要求に応じて前記反応ガスの供給状態の変更を行う制御部であって、前記燃料電池における水収支が所定値以下となった場合に、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の優先順位でこれらの処理を行い、当該燃料電池の出力を制限した後に前記水収支を回復させる制御部、をさらに有する燃料電池システム。
  2. 前記エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の各処理によっても前記水収支が回復基調にないと判断した場合に、カソード圧力増加処理をさらに行う、請求項1に記載の燃料電池システム。
  3. 空調システムを備えており、前記水収支が所定値以下となった場合に前記空調システムの動力を低減させる、請求項1または2に記載の燃料電池システム。
  4. 前記水収支が所定値以下となった場合に出力制限をする際、当該出力制限が行われていることをユーザに通知する装置を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
  5. 反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、該燃料電池に反応ガスを供給するためのガス配管系と、を有する燃料電池システムの制御方法であって、
    前記燃料電池における水収支が所定値以下となった場合に、前記反応ガスの供給状態を変更し、エアストイキ比低減、アノード圧力低減、アノード循環量増加の優先順位でこれらの処理を行い、当該燃料電池の出力を制限した後に前記水収支を回復させる、燃料電池の制御方法。
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