以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における燃料電池システム100の全体構成の一例を示す図である。本実施形態の燃料電池システム100は、図示しない強電バッテリ及び駆動モータを備える電気自動車において、この燃料電池(燃料電池スタック)を駆動源の1つとして用いられるものである。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1に対して発電に必要となるアノードガス(水素)及びカソードガス(空気)を外部から供給して、電気負荷に応じて燃料電池スタック1を発電させる電源システムを構成する。本実施形態の燃料電池システム100及びその制御装置は、後述するアノードガスの循環制御時の過渡状態における制御に特化している。そのため、以下の説明では、過渡時の制御に特化して説明し、通常の制御や公知の制御については適宜その説明を省略している。
燃料電池システム100は、図1に示すように、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、負荷装置5と、インピーダンス測定装置6と、コントローラ200とを含む。
燃料電池スタック1は、負荷装置5としての駆動モータから要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池が積層された積層電池である。燃料電池スタック1は、負荷装置5に接続されて負荷装置5に電力を供給する。燃料電池スタック1は、例えば数百V(ボルト)の直流の電圧を生じる。
図2は、図1に示す燃料電池スタック1内に含まれる燃料電池10の構成を説明するための図である。燃料電池スタック1には、この燃料電池10が図2の紙面の手前から奥に向かう方向に積層されている。
図2に示すように、燃料電池10は、膜電極接合体(MEA)11により、アノードガス流路121と、カソードガス流路131とに分けられている。なお、図示を省略するが、アノードガス流路121を形成するようにアノードセパレータが配置されており、カソードガス流路131及び冷却水流路141を形成するようカソードセパレータが配置されている。
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード電極112を有しており、他方の面側にカソード電極113を有している。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、適度な湿潤度で良好な電気伝導性を示す。ここでいう電解質膜111の湿潤度とは、電解質膜111に含まれる水分の量(含水量)に相当する。
アノード電極112は、図示しないが、触媒層とガス拡散層とを積層して構成される。触媒層は、電解質膜111と接するように設けられ、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子により形成される。ガス拡散層は、触媒層及びアノードセパレータと接するように触媒層の外側に配置され、ガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスで形成される。
カソード電極113は、図示しないが、アノード電極112と同様に、触媒層とガス拡散層とを積層して構成される。
アノードガス流路121は、アノードセパレータ内に複数の溝状通路として形成される。アノードガス流路121は、アノード電極112にアノードガスを供給するための燃料流路を構成する。
カソードガス流路131は、カソードセパレータ内に複数の溝状通路として形成される。カソードガス流路131は、カソード電極113にカソードガスを供給するための酸化剤流路を構成する。
冷却水流路141は、カソードガス流路131に隣接して、カソードセパレータ内に複数の溝状通路として形成される。冷却水流路141は、アノードガスとカソードガスの電気化学反応で温度が上昇した燃料電池10を冷却するための冷媒を通す冷媒流路を構成する。本実施形態では、冷媒として、冷却水が用いられる。
図2に示すように、カソードセパレータは、冷却水流路141を流れる冷却水の流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。なお、これらの流れ方向が互いに同じ向きとなるように構成されてもよい。また、これらの流れ方向が所定の角度をもつように構成されてもよい。
また、アノードセパレータ及びカソードセパレータは、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。なお、これらの流れ方向が所定の角度をもつように構成されてもよい。
MEA11が上記のように構成されることにより、図2の矢印Xで示すように、アノードガス流路121からカソードガス流路131にアノードガスがリークするとともに、カソードガス流路131からアノードガス流路121にカソードガス中の窒素ガスや電気化学反応で生成された水蒸気(水分)がリークする。
図1に戻って、カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガス(酸化剤ガス)を供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを大気に排出する装置である。すなわち、カソードガス給排装置2は、燃料電池10の電解質膜111に酸化剤(空気)を供給する酸化剤供給手段を構成する。
カソードガス給排装置2は、図1に示すように、カソードガス供給通路21と、コンプレッサ22と、流量センサ23と、圧力センサ24と、カソードガス排出通路25と、カソード調圧弁26とを含む。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するための通路である。カソードガス供給通路21の一端は開口しており、他端は、燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
コンプレッサ22は、カソードガス供給通路21に設けられる。コンプレッサ22は、カソードガス供給通路21の開口端から酸素を含有する空気を取り込み、その空気をカソードガスとして燃料電池スタック1に供給する。コンプレッサ22の回転速度データは、コントローラ200によって制御される。
流量センサ23は、コンプレッサ22と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。流量センサ23は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量のことを単に「カソードガス流量」という。この流量センサ23により検出したカソードガス流量データは、コントローラ200に出力される。このように検出したカソードガス流量は、後述する制御量補完処理において利用される。
圧力センサ24は、コンプレッサ22と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。圧力センサ24は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力のことを単に「カソードガス圧力」という。この圧力センサ24により検出したカソードガス圧力データは、コントローラ200に出力される。このように検出したカソードガス圧力は、後述する制御量補完処理において利用される。
カソードガス排出通路25は、燃料電池スタック1からカソードオフガスを排出するための通路である。カソードガス排出通路25の一端は、燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端は開口している。
カソード調圧弁26は、カソードガス排出通路25に設けられる。カソード調圧弁26としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。カソード調圧弁26は、コントローラ200によってその開閉が制御される。この開閉制御によってカソードガス圧力が所望の圧力に調節される。カソード調圧弁26の開度が大きくなるほど、カソード調圧弁26が開き、カソードオフガスの排出量が増加する。一方、カソード調圧弁26の開度が小さくなるほど、カソード調圧弁26が閉じ、カソードオフガスの排出量が減少する。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガス(燃料ガス)を供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを燃料電池スタック1に循環させる装置である。すなわち、アノードガス給排装置3は、燃料電池10の電解質膜111に燃料(水素)を供給する燃料供給手段を構成する。
アノードガス給排装置3は、図1に示すように、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、エゼクタ34と、アノードガス循環通路35と、アノード循環ポンプ36と、圧力センサ37と、パージ弁38とを含む。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31に貯蔵されたアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32の一端は、高圧タンク31に接続され、他端は、燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、高圧タンク31とエゼクタ34との間のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。アノード調圧弁33は、コントローラ200によってその開閉が制御される。この開閉制御によって、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力が調節される。
エゼクタ34は、アノード調圧弁33と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。エゼクタ34は、アノードガス供給通路32に対してアノードガス循環通路35が合流する部分に設けられる機械式ポンプである。エゼクタ34をアノードガス供給通路32に設けることにより、簡易な構成で燃料電池スタック1にアノードオフガスを循環させることができる。
エゼクタ34は、アノード調圧弁33から供給されるアノードガスの流速を加速させて負圧を生じさせることにより、燃料電池スタック1からのアノードオフガスを吸引する。エゼクタ34は、アノード調圧弁33から供給されるアノードガスとともに、吸引したアノードオフガスを燃料電池スタック1に吐出する。
エゼクタ34は、具体的には図示しないが、例えば、アノード調圧弁33から燃料電池スタック1に向かって開口を狭くした円錐状のノズルと、燃料電池スタック1からアノードオフガスを吸引する吸引口を備えたディフューザとにより構成される。なお、本実施形態では、アノードガス供給通路32とアノードガス循環通路35との接合部にエゼクタ34を用いたが、この接合部は、単にアノードガス供給通路32にアノードガス循環通路35を合流させる構成であってもよい。
アノードガス循環通路35は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスと、高圧タンク31からアノード調圧弁33を介して燃料電池スタック1に供給されるアノードガスとを混合させて、アノードガス供給通路32に循環させる通路である。アノードガス循環通路35の一端は、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端は、エゼクタ34の吸引口に接続される。
アノード循環ポンプ36は、アノードガス循環通路35に設けられる。アノード循環ポンプ36は、エゼクタ34を介して燃料電池スタック1にアノードオフガスを循環させる。アノード循環ポンプ36の回転速度は、コントローラ200によって制御される。これにより、燃料電池スタック1を循環するアノードガス(及びアノードオフガス)の流量が調整される。以下では、燃料電池スタック1を循環するアノードガスの流量のことを「アノードガス循環流量」という。
ここで、コントローラ200は、アノード循環ポンプ36の単位時間当たりの回転数と、後述する燃料電池スタック1内の温度(又は、図示しない温度センサにより検出されるアノードガス給排装置3の雰囲気温度)と、後述する圧力センサ37により検出されるアノードガス循環通路35内のアノードガスの圧力とに基づいて、標準状態の流量として、アノードガス循環流量を推定(演算)する。このように推定されるアノードガス循環流量は、後述する制御量補完処理における各種演算に利用される。
圧力センサ37は、エゼクタ34と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。圧力センサ37は、アノードガス循環系におけるアノードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力のことを単に「アノードガス圧力」という。この圧力センサ37により検出したアノードガス圧力データは、コントローラ200に出力される。
パージ弁38は、アノードガス循環通路35から分岐したアノードガス排出通路に設けられる。パージ弁38は、アノードオフガスに含まれる不純物を外部に排出する。不純物とは、燃料電池スタック1内の燃料電池10のカソードガス流路131)から電解質膜111を透過してきたカソードガス中の窒素ガスや、発電に伴うアノードガスとカソードガスの電気化学反応により生成される水などのことである。パージ弁38の開度や開閉頻度は、コントローラ200によって制御される。
なお、図示されていないが、アノードガス排出通路は、カソード調圧弁26よりも下流側のカソードガス排出通路25に合流する。これにより、パージ弁38から排出されるアノードオフガスはカソードガス排出通路25内でカソードオフガスと混合される。これにより、混合ガス中の水素濃度を排出許容濃度(4%)以下に制御することができる。
スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1内の各燃料電池10を冷却するための冷媒を燃料電池スタック1に供給し、燃料電池スタック1を発電に適した温度に調整する装置である。本実施形態では、冷媒として冷却水が用いられる。
また、スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1から排出されるカソードガス中の水蒸気量を増やすために、カソードガス流路131を通過するカソードガスの温度を高くするガス温度調整装置として機能する。すなわち、スタック冷却装置4は、燃料電池10に供給される酸化剤の温度を調整する温度調整手段を構成する。
スタック冷却装置4は、図1に示すように、冷却水循環通路41と、冷却水ポンプ42と、ラジエータ43と、バイパス通路44と、三方弁45と、入口水温センサ46と、出口水温センサ47と、ラジエータファン48とを含む。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1に冷却水を循環させる通路である。冷却水循環通路41の一端は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に接続され、他端は、燃料電池スタック1の冷却水出口孔に接続される。
冷却水ポンプ42は、冷却水循環通路41に設けられる。冷却水ポンプ42は、ラジエータ43や三方弁45を介して燃料電池スタック1に冷却水を供給する。冷却水ポンプ42の回転速度は、コントローラ200によって制御される。
燃料電池スタック1内の温度が燃料電池スタック1に流入する冷却水の温度よりも高い状態においては、冷却水ポンプ42の回転速度が高くなるほど、燃料電池10から冷却水へ放熱する熱量が増加する。これにより、燃料電池スタック1の温度が低下する。一方、同じ状態においては、冷却水ポンプ42の回転速度が低くなるほど、熱交換率が低下するため、燃料電池スタック1の温度が上昇する。
ラジエータ43は、冷却水ポンプ42よりも下流の冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ43は、後述するラジエータファン48の回転による送風によって、燃料電池スタック1において温められた冷却水を冷却する。
バイパス通路44は、一部の冷却水にラジエータ43をバイパスさせるための通路であって、燃料電池スタック1から排出される冷却水を燃料電池スタック1に直接循環させる通路である。バイパス通路44の一端は、冷却水ポンプ42とラジエータ43との間の冷却水循環通路41に接続され、他端は、三方弁45の1つのノズルに接続される。なお、バイパス通路44には、燃料電池システム100の零下起動時に燃料電池スタック1を暖機するためのヒータが設けられてもよい。
三方弁45は、ラジエータ43を介して冷却された冷却水と、バイパス通路44を通って冷却されていない冷却水とを混合させることにより、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を調整するものである。本実施形態では、三方弁45は、例えば、サーモスタットにより実現される。しかしながら、三方弁45は、各ノズルの開度(弁開度)がコントローラ200により制御される電動弁などであってもよい。三方弁45は、ラジエータ43と燃料電池スタック1の冷却水入口孔との間の冷却水循環通路41におけるバイパス通路44が合流する部分に設けられる。
三方弁45は、冷却水の温度が所定の開弁温度以下のときにはラジエータ43から燃料電池スタック1への冷却水循環通路41が遮断された状態となり、バイパス通路44を経由してきた冷却水のみを燃料電池スタック1に供給する。これにより、燃料電池スタック1には、ラジエータ43を経由してくる冷却水に比べて高温の冷却水が流れることになる。
一方、冷却水の温度が所定の開弁温度よりも高くなると、ラジエータ43から燃料電池スタック1へのノズルの弁開度が徐々に大きくなり始める。そして、三方弁45は、バイパス通路44を経由してきた冷却水と、ラジエータ43を経由してきた冷却水とを混合して、混合した冷却水を燃料電池スタック1に供給する。これにより、燃料電池スタック1には、バイパス通路44を経由してくる冷却水に比べて低温の冷却水が流れることになる。
入口水温センサ46は、燃料電池スタック1に形成された冷却水入口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度のことを「スタック入口水温」という。入口水温センサ46により検出したスタック入口水温データは、コントローラ200に出力される。
出口水温センサ47は、燃料電池スタック1に形成された冷却水出口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。出口水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度のことを「スタック出口水温」という。出口水温センサ47により検出したスタック出口水温データは、コントローラ200に出力される。
ラジエータファン48は、ラジエータ43の近傍に設けられ、ラジエータファン48を回転させることにより、ラジエータ43内を通過する冷却水を空冷する。ラジエータファン48の回転速度は、スタック入口水温及びスタック出口水温に基づいて、コントローラ200により制御される。
冷却水の温度は、所定の処理を施すことにより、燃料電池スタック1の温度やカソードガスの温度として用いられる。例えば、入口水温センサ46により検出したスタック入口水温と、出口水温センサ47により検出したスタック出口水温との平均値を冷却水の温度又は燃料電池スタック1の温度とすればよい。以下では、冷却水の温度のことを「冷却水温度」といい、燃料電池スタック1の温度のことを「スタック温度」という。
負荷装置5は、燃料電池スタック1から供給される発電電力を受けることにより駆動する。負荷装置5としては、例えば、車両を駆動する駆動モータ(電動モータ)や、燃料電池スタック1の発電を補助する補機の一部、駆動モータを制御する制御ユニットなどによって構成される。燃料電池スタック1の補機としては、例えば、コンプレッサ22や、アノード循環ポンプ36、冷却水ポンプ42などが挙げられる。
また、負荷装置5は、燃料電池スタック1の出力側に、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧するDC/DCコンバータを含むとともに、DC/DCコンバータと駆動モータとの間に、直流電力を交流電力に変換する駆動インバータを含んでもよい。この場合、駆動モータに対して燃料電池スタック1と電気的に並列になるように、高圧バッテリが設けられてもよい。さらに、負荷装置5は、DC/DCコンバータと高圧バッテリとの間の電力線に補機の一部を接続する構成であってもよい。なお、負荷装置5を制御する制御ユニット(図示せず)は、燃料電池スタック1に要求する要求電力をコントローラ200に出力する。例えば、車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み量が大きくなるほど、負荷装置5の要求電力は大きくなる。
負荷装置5と燃料電池スタック1との間の電力線には、電流センサ51と電圧センサ52とが配置される。
電流センサ51は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負荷装置5との間の電力線に接続される。電流センサ51は、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流を燃料電池スタック1の出力電力として検出する。以下では、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流のことを「スタック出力電流」という。電流センサ51により検出したスタック出力電流データは、コントローラ200に出力される。
電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間に接続される。電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間の電位差である端子間電圧を検出する。以下では、燃料電池スタック1の端子間電圧のことを「スタック出力電圧」という。電圧センサ52により検出したスタック出力電圧データは、コントローラ200に出力される。
インピーダンス測定装置6は、燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定する装置である。燃料電池スタック1の内部インピーダンスは、電解質膜111の湿潤状態と相関がある。そのため、燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定することにより、その測定結果に基づいて、電解質膜111の湿潤状態を検出(推定)することができる。
一般に、電解質膜の含水量が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、燃料電池スタック1の内部インピーダンスは大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、燃料電池スタック1の内部インピーダンスは小さくなる。このため、電解質膜111の湿潤状態を示すパラメータとして、燃料電池スタック1の内部インピーダンスが用いられる。
ここで、インピーダンス測定装置6の構成を説明する。図3は、図1に示す燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置6の回路図である。実線により示される接続は、電気的な接続を示し、破線(ダッシュ線)で示される接続は、電気信号の接続を示す。
このインピーダンス測定装置6は、燃料電池スタック1の正極端子(カソード極側端子)1pから伸びる端子1Bと、負極端子(アノード極側端子)1nから伸びる端子1Aと、中途端子1Cとに接続されている。なお、中途端子1Cに接続された部分は図に示すようにアースされている。
図3に示すように、インピーダンス測定装置6は、正極側電圧センサ62と、負極側電圧センサ63と、正極側電源部64と、負極側電源部65と、交流調整部66と、インピーダンス演算部61と、を備えている。
正極側電圧センサ62は、端子1Bと中途端子1Cとに接続され、所定の周波数における中途端子1Cに対する端子1Bの正極側交流電位差V1を測定し、交流調整部66及びインピーダンス演算部61にその測定結果を出力する。負極側電圧センサ63は、中途端子1Cと端子1Aとに接続され、所定の周波数における中途端子1Cに対する端子1Aの負極側交流電位差V2を測定し、交流調整部66及びインピーダンス演算部61にその測定結果を出力する。
正極側電源部64は、例えば、図示しないオペアンプによる電圧電流変換回路によって実現され、端子1Bと中途端子1Cからなる閉回路に所定の周波数の交流電流I1が流れるように、交流調整部66により制御される。また、負極側電源部65は、例えば、オペアンプ(OPアンプ)による電圧電流変換回路によって実現され、端子1Aと中途端子1Cからなる閉回路に所定の周波数の交流電流I2が流れるように、交流調整部66により制御される。
ここで、「所定の周波数」とは、電解質膜111のインピーダンスを検出(測定)するのに適した周波数である。以下、この所定の周波数のことを「電解質膜応答周波数」という。
交流調整部66は、例えば、図示しないPI制御回路によって実現され、上述のような交流電流I1、I2が各閉回路に流れるように、正極側電源部64及び負極側電源部65への指令信号を生成する。このように生成された指令信号に応じて正極側電源部64及び負極側電源部65の出力が増減されることにより、各端子間の交流電位差V1及びV2がともに所定のレベル(所定値)に制御される。これにより、交流電位差V1及びV2は等電位になる。
インピーダンス演算部61は、図示しないAD変換器やマイコンチップ等のハードウェア、及びインピーダンスを算出するプログラム等のソフトウェア構成を含む。インピーダンス演算部61は、各部62,63,64,65から入力された交流電圧(V1、V2)及び交流電流(I1、I2)をAD変換器によりデジタル数値信号に変換し、インピーダンス測定のための処理を行う。
具体的には、インピーダンス演算部61は、正極側交流電位差V1の振幅を交流電流I1の振幅で除算することにより、中途端子1Cから端子1Bまでの第1インピーダンスZ1を算出する。また、インピーダンス演算部61は、負極側交流電位差V2の振幅を交流電流I2の振幅で除算することにより、中途端子1Cから端子1Aまでの第2インピーダンスZ2を演算する。さらに、インピーダンス演算部61は、第1インピーダンスZ1と第2インピーダンスZ2を加算することにより、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを演算する。
なお、負荷装置5としてDC/DCコンバータを備えている場合には、燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定する際に、コントローラ200は、まず、そのDC/DCコンバータに燃料電池スタック1の出力電圧を昇圧させればよい。これにより、駆動インバータから燃料電池スタック1側を見た場合のインピーダンスが上昇し、負荷変動があってもインピーダンス測定に悪影響を与えないという効果を奏する。
図3では、図示の都合上、端子1B及び端子1Aを燃料電池スタック1の各出力端子に直接的に接続するように示している。しかしながら、本実施形態の燃料電池システム100では、このような結線に限らず、端子1B及び端子1Aは、燃料電池スタック1内に積層される複数の燃料電池の最も正極側の燃料電池の正極端子と、最も負極側の燃料電池の負極端子とに接続されてもよい。
また、本実施形態では、インピーダンス演算部61は、マイコンチップ等のハードウェアが図示しないメモリに予め記憶されているプログラムを実行することにより、燃料電池スタック1の内部インピーダンスを演算する構成としている。しかしながら、インピーダンス演算部61は、このような構成に限らない。例えば、インピーダンス演算部61は、アナログ演算ICを用いたアナログ演算回路で実現されてもよい。アナログ演算回路を用いることにより、時間的に連続したインピーダンスの変化を出力することができる。
ここで、本実施形態では、インピーダンス測定装置6は、交流電流及び交流電圧として、正弦波信号からなる交流信号を用いている。しかしながら、これらの交流信号は、正弦波信号に限らず、矩形波信号や三角波信号、鋸波信号などであってもよい。
以下では、電解質膜応答周波数に基づいて測定される内部インピーダンスのことをHFR(High Frequency Resistance:高周波数抵抗)という。インピーダンス測定装置6は、算出したHFRをコントローラ200に出力する。
図1に戻って、コントローラ200は、図示しないが、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ200には、流量センサ23、圧力センサ24、圧力センサ37、入口水温センサ46、出口水温センサ47、電流センサ51、電圧センサ52、及びインピーダンス測定装置6の各出力信号と負荷装置5の要求電力とが入力される。これらの信号は、燃料電池システム100の運転状態に関するパラメータとして用いられる。
コントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、コンプレッサ22及びカソード調圧弁26を制御することにより、燃料電池スタック1に供給するカソードガスの流量及び圧力を制御する。また、コントローラ200は、アノード調圧弁33及びアノード循環ポンプ36を制御することにより、燃料電池スタック1に供給するアノードガスの流量及び圧力を制御する。さらに、コントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、冷却水ポンプ42、三方弁45及びラジエータファン48を制御することにより、燃料電池スタック1内の各燃料電池10の温度(冷却水温度又はスタック温度)、及び、燃料電池スタック1に供給したカソードガスの温度を制御する。
例えば、コントローラ200は、後述するように、負荷装置5の要求電力に基づいて、カソードガスの目標流量及び目標圧力と、アノードガスの目標流量及び目標圧力と、冷却水の目標温度(目標冷却水温度)とを演算する。コントローラ200は、カソードガスの目標流量及び目標圧力に基づいて、コンプレッサ22の回転速度とカソード調圧弁26の開度とを制御する。また、コントローラ200は、アノードガスの目標流量及び目標圧力に基づいて、アノード循環ポンプ36の回転速度とアノード調圧弁33の開度とを制御する。
また、コントローラ200は、燃料電池スタック1の発電性能を維持するための目標冷却水温度を演算し、その目標冷却水温度に基づいて、冷却水ポンプ42の回転速度を制御する。例えば、コントローラ200は、冷却水温度が目標冷却水温度よりも高い場合には、冷却水温度が目標冷却水温度よりも低い場合に比べて、冷却水ポンプ42の回転速度を高くするように制御する。
このような燃料電池システム100では、各電解質膜111の湿潤度(含水量)が高くなり過ぎたり低くなり過ぎたりすると、その発電性能が低下する。燃料電池スタック1を効率的に発電させるためには、燃料電池スタック1の電解質膜111を適度な湿潤度に維持することが重要である。そのため、コントローラ200は、負荷装置5の要求電力を確保できる範囲内において、燃料電池スタック1の湿潤状態が発電に適した状態となるように、燃料電池スタック1の湿潤状態を操作している。
以下では、燃料電池スタック1の湿潤状態を乾燥(ドライ)側に遷移させること、すなわち、電解質膜111の余剰な水分を減らすことを「ドライ操作」という。また、燃料電池スタック1の湿潤状態を湿潤(ウェット)側に遷移させること、すなわち、電解質膜111の水分を増やすことを「ウェット操作」という。
本実施形態では、燃料電池スタック1の湿潤状態を操作する湿潤制御のために、コントローラ200は、カソードガス流量、カソードガス圧力、アノードガス流量、及び冷却水温度の少なくとも一つを制御する。具体的な湿潤制御については、後述する。
次に、本実施形態の燃料電池システム100を制御するコントローラ200の制御機能について説明する。図4は、本実施形態における燃料電池システム100を制御するコントローラ200の機能構成の一例を示すブロック図である。なお、図4に示すコントローラ200の機能ブロック図は、本発明に係る機能を主として記載しており、燃料電池システム100の通常の運転制御に関する機能については一部省略しているものもある。
図4に示すように、本実施形態のコントローラ200は、湿潤状態検出部210と、運転状態検出部220と、湿潤状態制御部230と、優先順位設定部240と、アノードガス循環流量制御部250とを備える。また、アノードガス循環流量制御部250は、制御量補完部260と、アノードガス循環流量制限部270と、冷却水温度制限部280とを含む。
湿潤状態検出部210は、燃料電池スタック1内の燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を検出する。具体的には、湿潤状態検出部210は、インピーダンス測定装置6により測定した燃料電池スタック1のHFRを取得する。そして、湿潤状態検出部210は、図示しないメモリに予め格納されているインピーダンス−湿潤度マップを参照して、電解質膜111の湿潤度を検出する。検出した湿潤度データは、湿潤状態制御部230に出力される。なお、以下では、インピーダンス測定装置6から出力されるHFRのことを「測定HFR」という。
本実施形態では、湿潤状態検出部210は、インピーダンス測定装置6により測定した燃料電池スタック1のHFRに基づいて、燃料電池スタック1内の燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を検出・演算するものとして説明した。しかしながら、湿潤状態検出部210は、取得したHFRをそのまま後段に出力し、後段の各部がそのHFRを用いて制御を行ってもよい。
運転状態検出部220は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47により検出したスタック入口水温データ及びスタック出口水温データを取得し、スタック入口水温とスタック出口水温の平均値を演算して、燃料電池スタック1のスタック温度(冷却水温度)を検出する。また、運転状態検出部220は、電流センサ51及び電圧センサ52により検出した燃料電池スタック1のスタック出力電流データ及びスタック出力電圧データを取得し、スタック出力電流とスタック出力電圧を乗算することにより、燃料電池スタック1の出力電力を検出する。
さらに、運転状態検出部220は、流量センサ23により検出したカソードガス流量データと、圧力センサ24により検出したカソードガス圧力データとを取得し、カソードガス給排装置2の運転状態を検出する。同様に、運転状態検出部220は、圧力センサ37により検出したアノードガス圧力データを取得し、アノードガス循環流量を推定することにより、アノードガス給排装置3の運転状態を検出する。
なお、運転状態検出部220は、コントローラ200内の図示しない各種演算部により演算した各種指令値データも取得する。各種指示データとしては、コンプレッサ22の回転速度データ、カソード調圧弁26の開度データ、アノード調圧弁33の開度データ、アノード循環ポンプ36の回転速度データ、冷却水ポンプ42の回転速度データ、三方弁45の各ノズルの開度データ、及びラジエータファン48の回転速度データを少なくとも含む。
また、本実施形態では、運転状態検出部220は、上述のように、取得したデータに基づいて、検出・演算をするものとして説明した。しかしながら、運転状態検出部220は、湿潤状態検出部210と同様に、取得したデータをそのまま後段に出力し、後段の各部がそれらのデータを用いて制御を行ってもよい。
湿潤状態制御部230は、アノードガス循環流量を含む複数の物理量を操作(対応するアクチュエータを制御)することにより、燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を制御する。湿潤状態制御部230は、湿潤状態検出部210により検出した電解質膜111の測定HFRと、運転状態検出部220により検出した湿潤度に関する運転データとを取得し、現在の水収支を演算するとともに、目標水収支を演算する。そして、湿潤状態制御部230は、演算した目標水収支を制御量補完部260に出力する。なお、目標水収支は、電解質膜111の湿潤度と相関があり、電解質膜111の目標とする湿潤状態に対しての水分の過不足を示すパラメータである。目標水収支は、ドライ操作時には、燃料電池スタック1への目標給水・生成量(すなわち、アノードガス循環通路35を介して供給される水量及び電気化学反応により生成される水量)を意味し、ウェット操作時には、目標排出水量(すなわち、カソードガス排出通路25を介して排出される水量及びパージ弁38を介して排出される水量)を意味する。
ここで、湿潤状態制御部230は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて設定された燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態目標値と、湿潤状態検出部210により検出した現在の燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態検出値とに基づいて、複数のアクチュエータ(アノード循環ポンプ36等)を制御することにより、燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を制御してもよい。
なお、本実施形態における「水収支」とは、燃料電池スタック1の発電(電気化学反応)により生成した水分量と、アノードガス循環通路35に保管(保持)している循環保管水の水分量とを加算して、その加算値からカソードオフガス内に含まれて燃料電池スタック1から排出されてしまった水分量を減算した値をいう。定常状態では、発電により生成した水分量がカソードオフガスとともに排出される水分量と概ね等しいため、循環保管水の増減に基づいて、電解質膜111の湿潤状態が決まることとなる。
例えば、湿潤状態制御部230は、測定HFRが目標とする値よりも小さい場合には、電解質膜111の水分が多いと判定し、目標水収支としてゼロ(0)よりも小さなマイナス(負)の値を設定する。一方、湿潤状態制御部230は、測定HFRが目標とする値よりも大きい場合には、電解質膜111の水分が少ないと判定し、目標水収支をゼロよりも大きなプラス(正)の値に設定する。
ここで、本実施形態では、「複数の物理量」には、アノードガス循環通路35を流れるアノードガス循環流量に加え、コンプレッサ22から燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量(以下、単に「カソードガス流量」という)及び圧力(以下、単に「カソードガス圧力」という)と、冷却水ポンプ42により燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度(以下、単に「冷却水温度」という)とが含まれる。冷却水温度としては、例えば、スタック入口水温を利用してもよく、スタック入口水温及びスタック出口水温の平均値であるスタック温度を利用してもよい。
優先順位設定部240は、特に、ドライ操作やウェット操作の開始時のために、湿潤状態制御部230により操作される複数の物理量(すなわち、アノードガス循環流量、カソードガス流量、カソードガス圧力、及び冷却水温度)に対して、定常的な操作の優先順位を設定する。優先順位設定部240は、ドライ操作の場合には、(1)カソードガス圧力の低下、(2)アノードガス流量の低下、(3)冷却水温度の上昇、(4)カソードガス流量の増加、の順番に優先度が下がっていくように、複数の物理量に優先順位を設定する。一方、優先順位設定部240は、ウェット操作の場合には、(1)カソードガス流量の低下、(2)冷却水温度の低下、(3)アノードガス流量の増加、(4)カソードガス圧力の増加、の順番に優先度が下がっていくように、複数の物理量に優先順位を設定する。
ここで、各物理量の制御方法を簡単に説明する。カソードガス流量制御は、主にコンプレッサ22により実行され、カソードガス圧力制御は、主にカソード調圧弁26により実行される。また、アノードガス循環流量制御は、主にアノード循環ポンプ36により実行される。冷却水温度制御は、主に冷却水ポンプ42により実行される。
例えば、ドライ操作では、コントローラ200のアノードガス循環流量制御部250及び制御量補完部260は、燃料電池スタック1から排出する水分を増やすために、カソードガス圧力を低くしたり、アノードガス流量を小さくしたり、冷却水温度を高くしたり、カソードガス流量を大きくしたりする。一方、ウェット操作では、コントローラ200のアノードガス循環流量制御部250及び制御量補完部260は、カソードガス流量を小さくしたり、冷却水温度を低くしたり、アノードガス流量を大きくしたり、カソードガス圧力を高くしたりする。なお、カソードガス圧力の増減により水収支が増減するのは、カソードガスに含まれる水分(水蒸気)の体積流量が変化するためである。
複数の物理量に対してこのように優先順位を設定するのは、湿潤状態制御部230により演算した目標水収支をできるだけ早く達成するという目的に加え、複数の物理量を制御するコンプレッサ22、カソード調圧弁26、アノード循環ポンプ36、及び冷却水ポンプ42の消費電力やその応答性を考慮したためである。
コンプレッサ22の回転数の上昇は、特に消費電力を増加につながり、冷却水ポンプ42やアノード循環ポンプ36の回転数の上昇も消費電力の増加につながる。一方、カソード調圧弁26の開閉はそれほど消費電力を消費しない。そのため、優先順位設定部240により設定される優先順位は、ドライ操作とウェット操作とでちょうど反対になっている。
また、複数の物理量を同時に制御せず、優先順位をつけて制御しているのは、これらの補機22、26、36、42の制御が目標水収支に対してどれだけ寄与しているかリアルタイムで確認することはできず、制御が行き過ぎたり、ハンチングを起こしたりする可能性があるからである。特に、ドライ操作制御が行き過ぎてしまう場合には、燃料電池10の電解質膜111の破損や劣化等の可能性もあるため、本実施形態では、複数の物理量に優先順位をつけて制御するようにしている。
アノードガス循環流量制御部250は、湿潤状態検出部210により検出した電解質膜111の湿潤状態に基づいて、アノードガス循環通路35を流れるアノードガス循環流量を制御する。アノードガス循環流量制御部250は、運転状態検出部220により推定したアノードガス循環流量と、負荷装置5から入力される負荷装置5の要求電力と、運転状態検出部220により検出した燃料電池スタック1の出力電力とに基づいて、アノード調圧弁33の開度を制御するとともに、アノード循環ポンプ36の回転速度を制御する。これにより、アノードガス循環通路35を循環するアノードガス循環流量を制御することができる。
なお、アノード循環ポンプ36の回転速度が所定速度以下の状態(アノード循環ポンプ36を停止させるアイドルストップ制御時を含む)から回転速度を上昇させる過渡状態においては、アノードガス循環流量制御部250は、後述するような目標アノードガス循環流量を演算する。ここで、上述したように、図2に示すアノードガス流路121を流れるアノードガスは、カソードガス流路131の下流側から電解質膜111を介してリーク(透過)してきた水蒸気によって加湿される。加湿されたアノードガスの循環流量を増加させると、アノードガスに含まれる水分が、アノードガス流路121の上流から下流まで行き渡りやすくなり、燃料電池スタック1の湿潤度が増加しやすくなる。
そのため、例えば、ドライ操作の開始時には、アノードガス流路121内の状態を考慮すると、アノードガス循環流量を小さくするので、燃料電池スタック1から持ち出される水分に対し、燃料電池スタック1に流入してくる水分が多くなる。そのため、ドライ操作の開始時には、過渡的にウェット操作が行われることとなってしまう。
一方、ウェット操作の開始時には、アノードガス流路121内の状態を考慮すると、アノードガス循環流量を大きくするので、燃料電池スタック1から持ち出される水分に対し、燃料電池スタック1に流入してくる水分が少なくなる。そのため、ウェット操作の開始時には、過渡的にドライ操作が行われることとなってしまう。
本実施形態の燃料電池システム100では、このような問題を低減又は抑制するために、後述するように、アノードガス循環流量を増減させる場合には、アノードガス循環流量の変化率(変化量)を制限するとともに、その他の物理量を優先順位に従って制御している。
制御量補完部260は、後述するように、少なくともアノードガス循環流量制限部270によりアノードガス循環流量の変化率が制限されている場合には、アノードガス循環流量の制限により不足した湿潤状態の制御量分(目標水収支に到達するために必要な制御量分)について、優先順位設定部240により設定されたアノードガス循環流量より定常的な操作の優先順位が低い物理量の操作で補完する。制御量補完部260の動作については、詳細に後述する。
アノードガス循環流量制限部270は、上述のように、ドライ操作やウェット操作の開始時に過渡的に逆の操作を行ってしまうことを抑制するために、燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において、アノードガス循環流量の単位時間当たりの変化率(又は変化量)を制限する。
本実施形態では、アノードガス循環流量制限部270は、ドライ操作においては、アノードガス循環流量制御部250により設定される目標アノードガス循環流量が現在のアノードガス循環流量よりも小さい場合に、その目標アノードガス循環流量の変化率を制限するように指令値(制限値)を設定する。
また、アノードガス循環流量制限部270は、ウェット操作においては、アノードガス循環流量制御部250により設定される目標アノードガス循環流量が現在のアノードガス循環流量よりも大きい場合に、その目標アノードガス循環流量の変化率を制限するように指令値を設定する。
ここで、アノードガス循環流量に対する変化率の制限値を決定する方法の一例について簡単に説明する。アノードガス循環流量に対する変化率は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスがアノードガス循環通路35、エゼクタ34及びアノードガス供給通路32を介して燃料電池スタック1に戻ってくるまでの時間を勘案して決定する。特に、アノードガス循環通路35が長く、一巡するまでに時間が掛かる場合であっても、過渡的な逆操作とならないような変化率が決定される。
具体的には、以下の演算式により演算される。アノードガス循環流量制限部270は、この演算式(1)、(2)に基づいて、例えば、10m秒毎に演算を行い、アノードガス循環流量の変化率を制御する。
tmax:最低流量でアノードガス循環通路35を一巡(一周)するのに掛かる時間、
ΔQ:最低流量と最大流量との差、
Δt:制御周期(本実施形態では、上述のように、10m秒)、
Qn:現在の目標流量、
Qtarget:変化率制限なしの次回の目標流量、
Qn+1:次回の目標流量。
冷却水温度制限部280は、ドライ操作の開始時に過渡的に逆の操作を行ってしまうことを抑制するために、電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において、冷却水の温度の単位時間当たりの変化率を制限する。本実施形態では、冷却水温度制限部280は、ドライ操作における冷却水温度よりも優先順位が高い物理量、すなわち、カソードガス圧力及びアノードガス流量の制御を行ったとしても、アノードガス循環流量制限部270による目標アノードガス循環流の変化率の制限が完了していない場合のみ、冷却水温度の単位時間当たりの変化率を制限する。
冷却水温度に対する変化率の制限値を決定する方法の一例について簡単に説明する。冷却水温度に対する変化率は、ドライ操作の過渡時において、冷却水温度よりも優先順位が低いカソードガス流量による補完が働くように、カソードガス流量に対する応答時間(時定数や整定時間)を勘案して決定する。この場合、目標冷却水温度に対する応答時間が長いほど、冷却水温度に対する変化率が厳しく制限されるように決定する。特に、冷却水温度の応答性は、他の物理量に比べて緩慢であるので、制御が行き過ぎないように変化率を決定する。
具体的には、以下の演算式により演算される。冷却水温度制限部280は、この演算式に基づいて、例えば、10m秒毎に演算を行い、冷却水温度の変化率を制御する。
τmax:カソードガス流量の応答(整定)時間、
ΔTmax:最低冷却水温度と最高冷却水温度との差、
Δt:制御周期(本実施形態では、上述のように、10m秒)、
Tn:現在の目標冷却水温度、
Ttarget:変化率制限なしの次回の目標冷却水温度、
Tn+1:次回の目標冷却水温度。
ここで、アノードガス循環流量制限部270及び冷却水温度制限部280の制御量の変化率の制限方法の一例を説明する。図5及び図6は、図4に示すアノードガス循環流量制限部及び冷却水温度制限部の変化率の制限方法の一例を示す図である。なお、点線は、制御量の変化率を制限しない場合の指令値を示し、実線は、制御量の変化率を制限した場合の指令値を示す。なお、本例では、制御量を増加させる場合のみを図示するが、制御量を減少させる場合には、初期値と最終指令値の平均値を示す線S(図5(a)参照)に対して線対称にした指令値となる。
図5(a)は、制御量の変化率を単純に制限したものである。単位時間当たりの指令値の変化量を一定、すなわち、過渡時における時間に対する指令値の傾きを一定にすることにより、この制御量の変化率の制限を設けることができる。
本実施形態では、アノードガス循環流量制限部270及び冷却水温度制限部280の制御量の変化率の制限方法は、このような単純な変化率の制限に限定するものではない。例えば、一次遅れ処理(図5(b)参照)や二次遅れ処理(図5(c)参照)を用いて制御量の変化率を制限してもよい。
また、図6(a)〜図6(c)に示すように、図5(a)〜図5(c)に示す変化率の制限方法に対して、無駄時間を先に設定することにより、アノードガス循環流量や冷却水温度の変化率をさらに緩やかにしてもよい。さらに、本実施形態では、一次遅れや二次遅れだけでなく、非線形フィルタ等により変化率を制限してもよい。
アノードガス循環流量制御部250、並びに、その中の制御量補完部260、アノードガス循環流量制限部270及び冷却水温度制限部280により演算された各種指令値は、対象となるコンプレッサ22、カソード調圧弁26、アノード調圧弁33及び冷却水ポンプ42のそれぞれに出力される。
次に、本実施形態のコントローラ200の制御量補完部260の機能について、ドライ操作の場合とウェット操作の場合に分けて説明する。
まず、ドライ操作の場合のコントローラ200の制御量補完部260の機能について説明する。図7は、図4に示す制御量補完部260のドライ操作における機能構成の一例を示す図である。ここでは、コントローラ200によりドライ操作を実行するときの制御パラメータが示されている。図7に示すように、アノードガス循環流量制御部250は、目標アノードガス循環流量演算部251を含む。また、制御量補完部260は、目標カソードガス圧力演算部261と、目標冷却水温度演算部262と、目標カソードガス流量演算部263とを含む。
本実施形態では、上述のように、優先順位設定部240により、ドライ操作においては、図の上から順に制御対象の優先順位が高く設定されている。以下、優先順位の高い順に各演算部261〜263、251が対応する目標制御量を演算する。
まず、湿潤状態制御部230は、湿潤状態検出部210により検出した電解質膜111の湿潤度データと、運転状態検出部220により検出した湿潤度に関する運転データとを取得し、現在の水収支を演算するとともに、目標水収支を演算する。演算した目標水収支は、目標カソードガス圧力演算部261、目標アノードガス循環流量演算部251、目標冷却水温度演算部262、及び目標カソードガス流量演算部263のそれぞれに出力される。
次いで、目標カソードガス圧力演算部261は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を設定するためのカソードガス圧力の目標値(以下、「目標カソードガス圧力」という)を演算する。本実施形態では、カソードガス圧力は、ドライ操作において優先順位の一番高い物理量である。
目標カソードガス圧力演算部261は、目標水収支と、コントローラ200の図示しないメモリに予め保存されている各ポンプ・コンプレッサの定格値とに基づいて、目標カソードガス圧力を演算する。各ポンプ・コンプレッサの定格値は、アノード循環ポンプ36による吐出可能なアノードガス循環流量の最大値(以下、「最大アノードガス循環流量」という)と、冷却水ポンプ42により冷却不要な冷却水温度の最低値(以下、「最低冷却水温度」という)と、コンプレッサ22により吐出可能なカソードガス流量の最小値(最小カソードガス流量)とを含む。このように、優先順位の一番高い物理量を演算する場合には、その他の物理量に対する制御がドライ操作に全く寄与しないように設定される。
具体的には、目標カソードガス圧力演算部261は、目標水収支と、最大アノードガス循環流量と、最低冷却水温度と、最小カソードガス流量とに基づいて、目標カソードガス圧力を演算する。そして、目標カソードガス圧力演算部261は、演算した目標カソードガス圧力に基づいて、カソード調圧弁26の目標開度を演算し、その演算した目標開度に基づいて、カソード調圧弁26の開閉を制御する。
目標カソードガス圧力演算部261は、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の湿潤度(水分)を減らすために、カソード調圧弁26の開度を大きくなるように設定する。これにより、燃料電池10のカソードガス流路131内の水分の体積流量が増え、燃料電池スタック1から排出される水分が増えることとなる。
次いで、目標アノードガス循環流量演算部251は、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの循環流量を設定するためのアノードガス循環量の目標値(以下、「目標アノードガス循環流量」という)を演算する。本実施形態では、アノードガス循環流量は、ドライ操作において優先順位の二番目に高い物理量である。目標アノードガス循環流量演算部251は、目標水収支と、カソードガス圧力の計測値と、最低冷却水温度と、最小カソードガス流量とに基づいて、目標アノードガス循環流量を演算する。このように、優先順位が下がるにつれて、自身の優先順位よりも高い優先順位の物理量については、実測値又は推定値等を用いて、対象となる目標値を演算することとなる。これにより、優先順位の高い物理量の制御だけでは所望の水収支(湿潤度)まで到達しないときに、次に優先順位の高い物理量の制御によりドライ操作の制御量(湿潤状態の制御量分)を補完することができる。
具体的には、目標アノードガス循環流量演算部251は、圧力センサ24により検出され、運転状態検出部220に出力されたカソードガス圧力(以下、「計測カソードガス圧力」ともいう)を取得する。そして、目標アノードガス循環流量演算部251は、目標水収支と、計測カソードガス圧力と、最低冷却水温度と、最小カソードガス流量とに基づいて、目標アノードガス循環流量を演算する。目標アノードガス循環流量演算部251は、演算した目標アノードガス循環流量をアノードガス循環流量制限部270に出力する。
アノードガス循環流量制限部270は、運転状態検出部220により検出した現在のアノードガス循環流量(図4参照)と、目標アノードガス循環流量演算部251から取得した目標アノードガス循環流量とに基づいて、アノードガス循環流量の単位制御時間(本実施形態では、10m秒)当たりの変化率を制限するための制限値を演算する。
アノードガス循環流量制限部270は、アノードガス循環流量の指令値として、上記演算した指令値(回転速度の制限値)をアノード循環ポンプ36に出力する。アノード循環ポンプ36は、この指令値に基づいて、徐々に回転速度を下げていく。このように、アノードガス循環流量の目標値を比較的大きなステップ状の指令値で制御することなく、微小な階段状の(又は、シームレスな傾きを持った)指令値で制御することにより、ドライ操作の過渡状態において、燃料電池スタック1内の燃料電池10の電解質膜111が制御方向とは逆のウェット状態になることを効果的に軽減・抑制することができる。
次いで、目標冷却水温度演算部262は、燃料電池スタック1を冷却するための冷却水温度を設定するための冷却水温度の目標値(以下、「目標冷却水温度」という)を演算する。本実施形態では、冷却水温度は、ドライ操作において優先順位の三番目に高い物理量である。目標冷却水温度演算部262は、目標水収支と、計測カソードガス圧力と、アノードガス循環流量の推定値と、最小カソードガス流量とに基づいて、目標冷却水温度を演算する。
具体的には、目標冷却水温度演算部262は、アノードガス給排装置3の運転状態に基づいて運転状態検出部220により推定したアノードガス循環流量の推定値(以下、「推定アノードガス循環流量」という)を取得する。そして、目標冷却水温度演算部262は、目標水収支と、計測カソードガス圧力と、推定アノードガス循環流量と、最小カソードガス流量とに基づいて、目標冷却水温度を演算する。目標冷却水温度演算部262は、演算した目標冷却水温度を冷却水温度制限部280に出力する。
冷却水温度制限部280は、冷却水温度よりも優先順位の高い物理量の制御、すなわち、カソードガス圧力及びアノードガス循環流量の制御では目標水収支を達成することができるか否かを判定する。冷却水温度制限部280は、目標水収支を達成することができないと判定した場合には、冷却水温度の単位制御時間当たり(本実施形態では、10m秒)の変化率を制限するための制限値を演算する。すなわち、冷却水温度制限部280は、運転状態検出部220により検出した現在の冷却水温度(図4参照)と、目標冷却水温度演算部262から取得した目標冷却水温度とに基づいて、冷却水温度の単位制御時間(本実施形態では、10m秒)当たりの変化率を制限するための制限値を演算する。
冷却水温度制限部280は、冷却水温度の指令値として、上記演算した指令値(回転速度の制限値)を冷却水ポンプ42に出力する。冷却水ポンプ42は、この指令値に基づいて、徐々に回転速度を下げていく。このように、冷却水温度の目標値を比較的大きなステップ状の指令値で制御することなく、微小な階段状の(又は、シームレスな傾きを持った)指令値で制御することにより、ドライ操作の過渡状態において、燃料電池スタック1内の燃料電池10の電解質膜111が制御方向とは逆のウェット状態になることを効果的に軽減・抑制することができる。
なお、冷却水温度制限部280は、目標水収支を達成することができると判定した場合には、冷却水温度の変化率の制限値を演算することなく、目標冷却水温度演算部262により演算した目標冷却水温度に基づいて、冷却水ポンプ42の回転速度を演算し、演算した回転速度を指令値として冷却水ポンプ42に出力する。
また、本実施形態では、冷却水温度(スタック入口水温又はスタック温度)を制御するために、冷却水ポンプ42の回転速度をパラメータとして用いている。しかしながら、必要に応じて、三方弁45の各ノズルの開度やラジエータファン48の回転速度などもパラメータとして利用してもよい。
次いで、目標カソードガス流量演算部263は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を設定するためのカソードガス流量の目標値(以下、「目標カソードガス流量」という)を演算する。本実施形態では、カソードガス流量は、ドライ操作において優先順位の四番目に高い(すなわち、一番低い)物理量である。目標カソードガス流量演算部263は、目標水収支と、計測カソードガス圧力と、推定アノードガス循環流量と、冷却水温度の計測値とに基づいて、目標カソードガス流量を演算する。
具体的には、目標カソードガス流量演算部263は、運転状態検出部220により取得・演算した冷却水温度の計測値(以下、「計測冷却水温度」という)を取得する。そして、目標カソードガス流量演算部263は、目標水収支と、計測カソードガス圧力と、推定アノードガス循環流量と、計測冷却水温度とに基づいて、目標カソードガス流量を演算する。目標カソードガス流量演算部263は、演算した目標カソードガス流量に基づいて、コンプレッサ22の目標回転速度を演算し、その演算した目標回転速度に基づいて、コンプレッサ22の運転を制御する。
次に、燃料電池システム100のドライ操作における各物理量の状態変化について説明する。まず、本実施形態のアノードガス循環流量制限部270及び冷却水温度制限部280を備えていない従来の燃料電池システムの動作を説明する。
図8は、従来の燃料電池システムにおけるドライ操作時の各物理量の状態変化を示すタイムチャートである。なお、図8における点線は指令値を示し、実線は実際の値を示す。また、図8では、アノードガス循環流量よりも優先順位の高い冷却水温度のタイムチャートを省略している。
この場合、アノードガス循環流量の指令値がステップ状に変化しているので、アノード循環ポンプ36の回転速度を急激に低下させることとなる。これにより、アノードガス循環流量が急激に減少する。そのため、カソードガス圧力及びカソードガス流量は、初期の指令値に対してほとんど上昇・増加することなく、途中で指令値に追いついて、その後は追従して低下し、最終的に定常状態になる。
しかしながら、アノードガス循環流量の急激な減少により、燃料電池スタック1内の水分は、過渡状態では、排出される量よりも流入してくる量が多くなる。そして、図示のように、水収支は、目標水収支に基づいて低下させる必要があるにもかかわらず、過渡状態では上昇してしまう。
すなわち、燃料電池スタック1の燃料電池10内では、過渡的に過湿潤の状態となり、アノードガス流路121の出口付近において、水が詰まってしまい、燃料電池10内のアノードガス(水素)が欠乏する可能性が生じる。
次いで、本実施形態の燃料電池システム100におけるドライ操作時の各物理量の状態変化について説明する。ここでは、アノードガス循環流量制限部270のみが物理量の変化率の制限をする場合(図9参照)と、アノードガス循環流量制限部270及び冷却水温度制限部280の両方が物理量の変化率の制限をする場合(図10参照)とをそれぞれ説明する。
図9は、アノードガス循環流量の変化率を制限した場合におけるドライ操作時の各物理量の状態変化を示すタイムチャートである。なお、図9における点線は指令値を示し、実線は実際の値を示す。また、図9では、カソードガス圧力のタイムチャートを省略している。
まず、図示しないカソードガス圧力の指令値に基づいて、カソード調圧弁26の開度が増加する。アノードガス循環流量には、変化率の制限が掛かっているため、アノードガス循環流量の指令値はゆっくりと減少する。そのため、アノード循環ポンプ36の回転速度は、変化率制限の指令値に基づいて、徐々に低下していく。また、本例では、変化率の制限により、アノードガス循環流量の制御だけでは目標水収支に到達することができないので、次いで、冷却水温度の制御を行い、さらにカソードガス流量の制御を行う。冷却水温度及びカソードガス流量は、初期の指令値まで上昇することなく、途中で指令値に追いついて、その後は追従して低下し、最終的に定常状態になる。
一方、アノードガス循環流量は、他の物理量の制御が追従することにより、途中からさらに低下速度が緩まり、最終的に定常状態になる。このような制御を行うことにより、図示のように、水収支は、ステップ状の初期の指令値に短時間で到達することはないが、過渡状態において、制御方向(減少方向)とは逆方向に増えることなく、確実に減少していく。このように、図9に示す制御によれば、水収支が制御方向は逆方向の制御となることがないので、従来のようなアノードガスの欠乏を防止することができる。
図10は、アノードガス循環流量及び冷却水温度の変化率を制限した場合におけるドライ操作時の各物理量の状態変化を示すタイムチャートである。なお、図10における点線は指令値を示し、実線は実際の値を示す。また、図10では、図9と同様に、カソードガス圧力のタイムチャートを省略している。
まず、図示しないカソードガス圧力の指令値に基づいて、カソード調圧弁26の開度が増加する。アノードガス循環流量には、変化率の制限が掛かっているため、アノードガス循環流量の指令値はゆっくりと減少する。そのため、アノード循環ポンプの回転速度は、変化率制限の指令値に基づいて、徐々に低下していく。
本例では、アノードガス循環流量の制御だけでは目標水収支に到達することができないので、冷却水温度及びカソードガス流量の制御を行うが、冷却水温度についても、変化率の制限をかけている。そのため、図示のように、冷却水温度の指令値は徐々に上昇し、ある程度の上昇後低下して、定常状態となる。冷却水温度の指令値に対応して、冷却水ポンプ42の回転速度の指令値は、徐々に上昇し、途中から低下することになる。
冷却水温度は、制御の応答性が低いため、指令値に追従することなく、定常状態となる。また、カソードガス流量は、初期の指令値まで上昇することなく、途中で指令値に追いついて、その後は追従して低下し、最終的に定常状態になる。
本例では、図9に示す制御に比べて、水収支が目標水収支に到達するまでの時間が多少長くなってしまう。しかしながら、水収支が制御方向とは逆方向の制御となることを確実に防止することができるので、従来のようなアノードガスの欠乏をより確実に防止することができる。
次に、ウェット操作の場合のコントローラ200の制御量補完部260の機能について説明する。図11は、図4に示す制御量補完部260のウェット操作における機能構成の一例を示す図である。ここでは、コントローラ200によりウェット操作を実行するときの制御パラメータが示されている。図11に示すように、アノードガス循環流量制御部250は、目標アノードガス循環流量演算部251を含む。また、制御量補完部260は、ドライ操作の場合と同様に、目標カソードガス圧力演算部261と、目標冷却水温度演算部262と、目標カソードガス流量演算部263とを含む。
本実施形態では、上述のように、優先順位設定部240により、ウェット操作においては、図の下から順に制御対象の優先順位が高く設定されている。以下、優先順位の高い順に各演算部263〜261、251が対応する目標制御量を演算する。
まず、湿潤状態制御部230は、湿潤状態検出部210により検出した電解質膜111の湿潤度データと、運転状態検出部220により検出した湿潤度に関する運転データとを取得し、現在の水収支を演算するとともに、目標水収支を演算する。演算した目標水収支は、目標カソードガス圧力演算部261、目標アノードガス循環流量演算部251、目標冷却水温度演算部262、及び目標カソードガス流量演算部263のそれぞれに出力される。
次いで、目標カソードガス流量演算部263は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を設定するための目標カソードガス流量を演算する。本実施形態では、カソードガス流量は、ウェット操作において優先順位の一番高い物理量である。
目標カソードガス流量演算部263は、目標水収支と、コントローラ200の図示しないメモリに予め保存されている各ポンプ・コンプレッサの最もドライ操作を行ったときの定格値(以下、「最ドライ操作定格値」という)とに基づいて、目標カソードガス流量を演算する。最ドライ操作定格値は、燃料電池システム100において最もドライ操作を行う際の各指令値であり、最ドライ操作時におけるカソードガス圧力(以下、「最ドライカソードガス圧力」という)と、アノードガス循環流量(以下、「最ドライアノードガス循環流量」という)と、冷却水温度(以下、「最ドライ冷却水温度」という)とを含む。このように、優先順位の一番高い物理量を演算する場合には、その他の物理量に対する制御がウェット操作に全く寄与しないように設定される。
具体的には、目標カソードガス流量演算部263は、目標水収支と、最ドライカソードガス圧力と、最ドライアノードガス循環流量と、最ドライ冷却水温度とに基づいて、目標カソードガス流量を演算する。そして、目標カソードガス流量演算部263は、演算した目標カソードガス流量に基づいて、コンプレッサ22の目標回転速度を演算し、その演算した目標回転速度に基づいて、コンプレッサ22の運転を制御する。
目標カソードガス流量演算部263は、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の湿潤度(水分)を増やすために、コンプレッサ22の回転速度を小さくなるように設定する。これにより、燃料電池スタック1から排出される水分が減ることとなる。
次いで、目標冷却水温度演算部262は、燃料電池スタック1を冷却するための冷却水温度を設定するための目標冷却水温度を演算する。本実施形態では、冷却水温度は、ウェット操作において優先順位の二番目に高い物理量である。目標冷却水温度演算部262は、目標水収支と、最ドライカソードガス圧力と、最ドライアノードガス循環流量と、カソードガス流量の計測値(以下、「計測カソードガス流量」という)とに基づいて、目標冷却水温度を演算する。このように、優先順位が下がるにつれて、自身の優先順位よりも高い優先順位の物理量については、実測値又は推定値等を用いて、対象となる目標値を演算することとなる。これにより、優先順位の高い物理量の制御だけでは所望の水収支(湿潤度)まで到達しないときに、次に優先順位の高い物理量の制御によりウェット操作の制御量(湿潤状態の制御量分)を補完することができる。
具体的には、目標冷却水温度演算部262は、流量センサ23により検出され、運転状態検出部220に出力されたカソードガス流量(以下、「計測カソードガス流量」ともいう)を取得する。そして、目標冷却水温度演算部262は、目標水収支と、最ドライカソードガス圧力と、最ドライアノードガス循環流量と、計測カソードガス流量とに基づいて、目標冷却水温度を演算する。目標冷却水温度演算部262は、演算した目標冷却水温度に基づいて、冷却水ポンプ42の目標回転速度を演算し、その演算した目標回転速度に基づいて、冷却水ポンプ42の運転を制御する。
次いで、目標アノードガス循環流量演算部251は、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの循環流量を設定するための目標アノードガス循環流量を演算する。本実施形態では、アノードガス循環流量は、ウェット操作において優先順位の三番目に高い物理量である。目標アノードガス循環流量演算部251は、目標水収支と、最ドライカソードガス圧力と、冷却水温度の計測値と、計測カソードガス流量とに基づいて、目標アノードガス循環流量を演算する。
具体的には、目標アノードガス循環流量演算部251は、運転状態検出部220により取得・演算した冷却水温度の計測値(以下、「計測冷却水温度」という)を取得する。そして、目標アノードガス循環流量演算部251は、目標水収支と、最ドライカソードガス圧力と、計測冷却水温度と、計測カソードガス流量とに基づいて、目標アノードガス循環流量を演算する。目標アノードガス循環流量演算部251は、演算した目標アノードガス循環流量をアノードガス循環流量制限部270に出力する。
アノードガス循環流量制限部270は、運転状態検出部220により検出した現在のアノードガス循環流量(図4参照)と、目標アノードガス循環流量演算部251から取得した目標アノードガス循環流量とに基づいて、アノードガス循環流量の単位制御時間(本実施形態では、10m秒)当たりの変化率を制限するための制限値を演算する。
アノードガス循環流量制限部270は、アノードガス循環流量の指令値として、上記演算した指令値(回転速度の制限値)をアノード循環ポンプ36に出力する。アノード循環ポンプ36は、この指令値に基づいて、徐々に回転速度を上げていく。このように、アノードガス循環流量の目標値を比較的大きなステップ状の指令値で制御することなく、微小な階段状の(又は、シームレスな傾きを持った)指令値で制御することにより、ウェット操作の過渡状態において、燃料電池スタック1内の燃料電池10の電解質膜111が制御方向とは逆のドライ状態になることを効果的に軽減・抑制することができる。これにより、燃料電池10内の電解質膜111を破損又は劣化する可能性を効果的に抑制することができる。
次いで、目標カソードガス圧力演算部261は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を設定するための目標カソードガス圧力を演算する。本実施形態では、カソードガス圧力は、ウェット操作において優先順位の四番目に高い(すなわち、一番低い)物理量である。目標カソードガス圧力演算部261は、目標水収支と、アノードガス循環流量の推定値と、計測冷却水温度と、計測カソードガス流量とに基づいて、目標カソードガス圧力を演算する。
具体的には、目標カソードガス圧力演算部261は、アノードガス給排装置3の運転状態に基づいて運転状態検出部220により推定したアノードガス循環流量の推定値(以下、「推定アノードガス循環流量」という)を取得する。そして、目標カソードガス圧力演算部261は、目標水収支と、推定アノードガス循環流量と、計測冷却水温度と、計測カソードガス流量とに基づいて、目標カソードガス圧力を演算する。目標カソードガス圧力演算部261は、演算した目標カソードガス圧力に基づいて、カソード調圧弁26の目標開度を演算し、その演算した目標開度に基づいて、カソード調圧弁26の開閉を制御する。
本例では、ウェット操作時において、アノードガス循環流量よりも優先順位の低い物理量は、カソードガス圧力だけであるので、カソードガス圧力の変化率の制限を行っていない。ウェット操作により燃料電池スタック1内の水分を増加させる際、特に、アノード循環ポンプ36の急激な運転が過渡的な問題を発生させやすい。そのため、本実施形態では、アノードガス循環流量よりも優先順位が低く、水収支の制御に悪影響を及ぼさない物理量のみに制限をかけるようにしている。
次に、燃料電池システム100のウェット操作における各物理量の状態変化について説明する。まず、本実施形態のアノードガス循環流量制限部270を備えていない従来の燃料電池システムの動作を説明する。
図12は、従来の燃料電池システムにおけるウェット操作時の各物理量の状態変化を示すタイムチャートである。なお、図12における点線は指令値を示し、実線は実際の値を示す。また、図12では、アノードガス循環流量よりも優先順位の高いカソードガス流量及び冷却水温度のタイムチャートを省略している。
この場合、アノードガス循環流量の指令値がステップ状に変化しているので、アノード循環ポンプ36の回転速度を急激に増加させることとなる。これにより、アノードガス循環流量が急激に増加する。そのため、カソードガス圧力は、初期の指令値に対してほとんど増加することなく、途中で指令値に追いついて、その後は追従して低下し、最終的に定常状態になる。
しかしながら、アノードガス循環流量の急激な増加により、燃料電池スタック1内の水分は、過渡状態では、流入される量よりも排出してくる量が多くなる。そして、図示のように、水収支は、目標水収支に基づいて上昇させる必要があるにもかかわらず、過渡状態では低下してしまう。
すなわち、燃料電池スタック1の燃料電池10内では、過渡的に過乾燥の状態となり、燃料電池10内の電解質膜111を破損又は劣化する可能性が生じる。
次いで、本実施形態の燃料電池システム100におけるウェット操作時の各物理量の状態変化について説明する。図13は、アノードガス循環流量の変化率を制限した場合におけるウェット操作時の各物理量の状態変化を示すタイムチャートである。図13における点線は指令値を示し、実線は実際の値を示す。また、図13では、カソードガス流量及び冷却水温度のタイムチャートを省略している。
まず、図示しないカソードガス流量の指令値に基づいて、コンプレッサ22の回転速度が低下する。また、図示しない冷却水温度の指令値に基づいて、冷却水ポンプ42の回転速度が増加する。アノードガス循環流量には、変化率の制限が掛かっているため、アノードガス循環流量の指令値はゆっくりと増加する。そのため、アノード循環ポンプ36の回転速度は、変化率制限の指令値に基づいて、徐々に増加していく。
本例では、変化率の制限により、アノードガス循環流量の制御だけでは目標水収支に到達することができないので、カソードガス圧力の制御を行う。カソードガス圧力は、初期の指令値近くまで上昇して指令値に追いつき、その後は追従して低下し、最終的に定常状態になる。
一方、アノードガス循環流量は、他の物理量の制御が追従することにより、途中からさらに増加速度が緩まり、最終的に定常状態になる。このような制御を行うことにより、図示のように、水収支は、ステップ状の初期の指令値に短時間で到達することはないが、過渡状態において、制御方向とは逆方向に減少することなく、確実に増加していく。このように、図13に示す制御によれば、水収支が制御方向とは逆方向の制御となることがないので、従来のような電解質膜111の破損又は劣化の可能性を効果的に抑制することができる。
次に、図14〜図26に示すフローチャートを用いて、本実施形態の燃料電池システム100の動作を説明する。図14は、本実施形態におけるコントローラ200により実行される制御量補完処理の一例を示すフローチャートである。この制御量補完処理は、上述のように、燃料電池システム100のコントローラ200により、例えば、10m秒毎に実行される。なお、各フローチャートのステップの順序は、矛盾の生じない範囲において変更してもよい。
この制御量補完処理では、まず、コントローラ200の運転状態検出部220は、燃料電池システム100全体の運転状態を検出するためのシステム運転状態検出処理を実行する(ステップS1)。そして、コントローラ200の湿潤状態制御部230は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、目標水収支を演算するための目標水収支演算処理を実行する(ステップS2)。
次いで、コントローラ200の湿潤状態制御部230は、ステップS2において取得した目標水収支と、湿潤状態検出部210から取得した湿潤度に関する運転データに応じて演算した現在の水収支とに基づいて、燃料電池スタック1に対してドライ操作が必要であるか否かを判定する(ステップS3)。
燃料電池スタック1に対してドライ操作が必要であると判定した場合には、コントローラ200は、ドライ操作時における各物理量の制御量を演算するためのドライ操作用制御量演算処理を実行する(ステップS4)。一方、燃料電池スタック1に対してドライ操作が必要ではなく、ウェット操作が必要であると判定した場合には、コントローラ200は、ウェット操作時における各物理量の制御量を演算するためのウェット操作用制御量演算処理を実行する(ステップS5)。
次いで、コントローラ200は、ステップS4又はS5における演算結果に基づいて、水収支の制御を行う際のアクチュエータとなるコンプレッサ22、カソード調圧弁26、アノード循環ポンプ36、及び冷却水ポンプ42を制御するための各アクチュエータ制御処理を実行し(ステップS6)、この制御量補完処理を終了する。なお、制御量補完処理のサブルーチンである各アクチュエータ制御処理については、図7及び図11を用いて上述しているので、フローチャートの図示及びその説明を省略する。以下、その他のサブルーチンについて詳細に説明する。
図15は、制御量補完処理のステップS1に対応するサブルーチンであるシステム運転状態検出処理の一例を示すフローチャートである。このシステム運転状態検出処理では、運転状態検出部220は、まず、圧力センサ24を用いて、カソードガスの圧力を検出し(ステップS11)、流量センサ23を用いて、カソードガスの流量を検出する(ステップS12)。
次いで、運転状態検出部220は、燃料電池スタック1のスタック温度(冷却水温度)を演算する(ステップS13)。上述のように、運転状態検出部220は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47からスタック入口水温とスタック出口水温を取得し、その平均値を演算することにより、燃料電池スタック1のスタック温度、すなわち、上述の冷却水温度を演算する。
次いで、運転状態検出部220は、アノード循環ポンプ36の回転速度と、圧力センサ37により検出したアノードガス圧力と、スタック温度とに基づいて、アノードガス循環流量を推定する(ステップS14)。そして、運転状態検出部220は、このシステム運転状態検出処理を終了し、制御量補完処理のメインフローに戻る。上述のように、アノード循環流量は、燃料電池スタック1のスタック温度と、圧力センサ37により検出されるアノードガス循環通路35内のアノードガスの圧力とに基づいて、標準状態の流量として推定される。
運転状態検出部220は、湿潤状態制御部230及びアノードガス循環流量制御部250に対して、このように検出・演算・推定した各種物理量を出力する。なお、運転状態検出部220は、電流センサ51により検出されるスタック出力電流と、電圧センサ52により検出されるスタック出力電圧とに基づいて、燃料電池システム100の出力電力を演算する。これらの制御は、本実施形態の制御とはあまり関係がないので、更なる説明は省略する。
図16は、制御量補完処理のステップS2に対応するサブルーチンである目標水収支演算処理の一例を示すフローチャートである。この目標水収支演算処理では、湿潤状態検出部210は、まず、インピーダンス測定装置6に対して、燃料電池スタック1のHFRを測定・演算させる(ステップS21)。インピーダンス測定装置6は、上述のように燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定し、測定した内部インピーダンス(測定HFR)を湿潤状態検出部210に出力する。そして、湿潤状態制御部230は、湿潤状態検出部210を介して、測定HFRを取得する(ステップS22)。
次いで、湿潤状態制御部230は、運転状態検出部220から取得した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、目標HFRを演算する(ステップS23)。湿潤状態制御部230は、ステップS22において取得した測定HFRがステップS23において演算した目標HFRになるように、目標水収支を演算する(ステップS24)。そして、湿潤状態制御部230は、この目標水収支演算処理を終了し、制御量補完処理のメインフローに戻る。
なお、目標HFRに対して測定HFRが大きい場合には、燃料電池10内の電解質膜111が目標値よりも乾燥気味である、そのため、湿潤状態制御部230は、ウェット操作を実行させるように目標水収支を設定する。一方、目標HFRに対して測定HFRが小さい場合には、燃料電池10内の電解質膜111が目標値よりも湿潤気味である。そのため、湿潤状態制御部230は、ドライ操作をさせるように目標水収支を設定する。
図17は、制御量補完処理のステップS4に対応するサブルーチンであるドライ操作用制御量演算処理の一例を示すフローチャートである。制御量補完処理のステップS3において燃料電池スタック1に対してドライ操作が必要であると判定した場合には、このドライ操作用制御量演算処理が実行される。なお、ドライ操作用制御量演算処理は、主に、アノードガス循環流量制御部250と、制御量補完部260と、アノードガス循環流量制限部270と、冷却水温度制限部280とにより実行される。
このドライ操作用制御量演算処理では、アノードガス循環流量制御部250は、運転状態検出部220により検出した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、最大アノードガス循環流量を演算する(ステップS41)。なお、最大アノードガス循環流量は、燃料電池システム100のシステム設計や各ポンプ類の定格出力等に基づいて、予め設定され、図示しないメモリに格納されていてもよい。
次いで、制御量補完部260は、運転状態検出部220により検出した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、最低冷却水温度を演算する(ステップS42)。なお、最低冷却水温度は、図示しない温度センサにより検出される燃料電池システム100の雰囲気温度(外気温)としてもよく、燃料電池システム100のシステム設計や各ポンプ類の定格出力等に基づいて、予め設定され、図示しないメモリに格納されていてもよい。
次いで、制御量補完部260は、運転状態検出部220により検出した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、最小カソードガス流量を演算する(ステップS43)。なお、最小カソードガス流量は、燃料電池システム100のシステム設計や各ポンプ類の定格出力等に基づいて、予め設定され、図示しないメモリに格納されていてもよい。
次いで、制御量補完部260は、ステップS41〜S43において演算した最大アノードガス循環流量、最低冷却水温度及び最小カソードガス流量に基づいて、目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)を実行する(ステップS44)。そして、アノードガス循環流量制御部250は、最低冷却水温度及び最小カソードガス流量等に基づいて、目標アノードガス循環流量演算処理(ドライ)を実行する(ステップS45)。
次いで、制御量補完部260は、最小カソードガス流量等に基づいて、目標冷却水温度演算処理(ドライ)を実行する(ステップS46)。最後に、制御量補完部260は、各種計測値や推定値に基づいて、目標カソードガス流量演算処理(ドライ)を実行する(ステップS47)。そして、アノードガス循環流量制御部250及び制御量補完部260は、このドライ操作用制御量演算処理を終了し、制御量補完処理のメインフローに戻る。
なお、ドライ操作用制御量演算処理のステップS44〜S47は、優先順位設定部240により設定された各物理量の優先順位に基づいてその順番が設定されている。そのため、これらのステップは、その順序を変更すべきではない。
図18は、ドライ操作用制御量演算処理のステップS44に対応するサブルーチンである目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)の一例を示すフローチャートである。ドライ操作用制御量演算処理のステップS43までに最大アノードガス循環流量、最低冷却水温度及び最小カソードガス流量が演算されると、制御量補完部260は、この目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)を実行する。
制御量補完部260は、まず、ドライ操作用制御量演算処理のステップS41〜S43において演算した最大アノードガス循環流量、最低冷却水温度及び最小カソードガス流量と、目標水収支演算処理のステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS441)。これらのデータは、必要に応じて、図示しないメモリに格納されている。
次いで、制御量補完部260は、読み出した各種データに基づいて、目標カソードガス圧力を演算する(ステップS442)。そして、制御量補完部260は、この目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)を終了し、ドライ操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
図19は、ドライ操作用制御量演算処理のステップS45に対応するサブルーチンである目標アノードガス循環流量演算処理(ドライ)の一例を示すフローチャートである。アノードガス循環流量制御部250は、目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)の終了後、この目標アノードガス循環流量演算処理(ドライ)を実行する。
アノードガス循環流量制御部250は、まず、圧力センサ24により検出したカソードガス圧力を取得(計測)する(ステップS451)。そして、アノードガス循環流量制御部250は、ステップS451において取得したカソードガス圧力と、ステップS42〜S43において演算した最低冷却水温度及び最小カソードガス流量と、ステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS452)。これらのデータは、必要に応じて、図示しないメモリに格納されている。
次いで、アノードガス循環流量制御部250は、読み出した各種データに基づいて、目標アノードガス循環流量を演算する(ステップS453)。また、アノードガス循環流量制御部250は、アノード循環ポンプ36の回転速度と、圧力センサ37により検出したアノードガス圧力と、スタック温度とに基づいて、運転状態検出部220により推定した現在のアノードガス循環流量を取得する(ステップS454)。
次いで、アノードガス循環流量制限部270は、取得した現在のアノードガス循環流量と、目標アノードガス循環流量とに基づいて、アノードガス循環流量の変化率の制限値を演算する(ステップS455)。なお、変化率の制限値の計算方法は、上記で詳述したので、ここではその詳細な説明を省略する。
そして、アノードガス循環流量制御部250は、この目標アノードガス循環流量演算処理(ドライ)を終了し、ドライ操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
図20は、ドライ操作用制御量演算処理のステップS46に対応するサブルーチンである目標冷却水温度演算処理(ドライ)の一例を示すフローチャートである。制御量補完部260は、目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)及び目標アノードガス循環流量演算処理(ドライ)の終了後、この目標冷却水温度演算処理(ドライ)を実行する。
制御量補完部260は、まず、ステップS451において計測した計測カソードガス圧力と、ステップS454において取得したアノードガス循環流量と、ステップS43において演算した最小カソードガス流量と、ステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS461)。そして、制御量補完部260は、読み出した各種データに基づいて、目標冷却水温度を演算する(ステップS462)。
次いで、制御量補完部260は、ステップS455において演算したアノードガス循環流量の変化率の制限値と、目標水収支等に基づいて、アノードガス循環流量を制限したとしても、目標水収支を達成することができるか否かを判定する(ステップS463)。目標水収支が達成可能であると判定した場合には、制御量補完部260は、そのままこの目標冷却水温度演算処理(ドライ)を終了し、ドライ操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
一方、目標水収支を達成することができないと判定した場合には、制御量補完部260は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47により検出したスタック入口水温とスタック出口水温に基づいて、現在の冷却水温度を演算・計測する(ステップS464)。
次いで、冷却水温度制限部280は、ステップS464において計測した現在の冷却水温度と、ステップS462において演算した目標冷却水温度とに基づいて、冷却水温度の変化率の制限値を演算する(ステップS465)。なお、変化率の制限値の計算方法は、上記で詳述したので、ここではその詳細な説明を省略する。
そして、制御量補完部260は、この目標冷却水温度演算処理(ドライ)を終了し、ドライ操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
図21は、ドライ操作用制御量演算処理のステップS47に対応するサブルーチンである目標カソードガス流量演算処理(ドライ)の一例を示すフローチャートである。制御量補完部260は、目標カソードガス圧力演算処理(ドライ)、目標アノードガス循環流量演算処理(ドライ)及び目標冷却水温度演算処理(ドライ)の終了後、この目標カソードガス流量演算処理(ドライ)を実行する。
制御量補完部260は、まず、ステップS451において計測した計測カソードガス圧力と、ステップS464において計測した冷却水温度と、ステップS454において取得したアノードガス循環流量と、ステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS461)。
制御量補完部260は、読み出した各種データに基づいて、目標カソードガス流量を演算する(ステップS472)。そして、制御量補完部260は、この目標カソードガス流量演算処理(ドライ)を終了し、ドライ操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
以上のようにドライ操作における各目標値を演算すると、コントローラ200は、制御量補完処理のメインフローに戻り、演算した各目標値に基づいて、各アクチュエータを駆動制御するための各アクチュエータ制御処理を実行し(ステップS6)、この制御量補完処理を終了する。
図22は、制御量補完処理のステップS5に対応するサブルーチンであるウェット操作用制御量演算処理の一例を示すフローチャートである。制御量補完処理のステップS3において燃料電池スタック1に対してウェット操作が必要であると判定した場合には、このウェット操作用制御量演算処理が実行される。なお、ウェット操作用制御量演算処理は、主に、アノードガス循環流量制御部250と、制御量補完部260と、アノードガス循環流量制限部270により実行される。
このウェット操作用制御量演算処理では、制御量補完部260は、運転状態検出部220により検出した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、最低カソードガス圧力(すなわち、最ドライカソードガス圧力)を演算する(ステップS51)。なお、最低カソードガス圧力は、燃料電池システム100のシステム設計や各ポンプ類の定格出力等に基づいて、予め設定され、図示しないメモリに格納されていてもよい。
次いで、アノードガス循環流量制御部250は、運転状態検出部220により検出した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、最小アノードガス循環流量(すなわち、最ドライアノードガス循環流量)を演算する(ステップS52)。なお、最小アノードガス循環流量は、燃料電池システム100のシステム設計や各ポンプ類の定格出力等に基づいて、予め設定され、図示しないメモリに格納されていてもよい。
次いで、制御量補完部260は、運転状態検出部220により検出した燃料電池システム100の運転状態に基づいて、最高冷却水温度(すなわち、最ドライ冷却水温度)を演算する(ステップS53)。なお、最高冷却水温度は、図示しない温度センサにより検出される燃料電池システム100の雰囲気温度(外気温)にしてもよく、燃料電池システム100のシステム設計や各ポンプ類の定格出力等に基づいて、予め設定され、図示しないメモリに格納されていてもよい。
次いで、制御量補完部260は、ステップS51〜S53において演算した最低カソードガス圧力、最小アノードガス循環流量及び最高冷却水温度に基づいて、目標カソードガス流量演算処理(ウェット)を実行する(ステップS54)。そして、制御量補完部260は、最低カソードガス圧力及び最小アノードガス循環流量等に基づいて、目標冷却水温度演算処理(ウェット)を実行する(ステップS55)。
次いで、アノードガス循環流量制御部250は、最低カソードガス圧力等に基づいて、目標アノードガス循環流量演算処理(ウェット)を実行する(ステップS56)。最後に、制御量補完部260は、各種計測値や推定値に基づいて、目標カソードガス圧力演算処理(ウェット)を実行する(ステップS57)。そして、アノードガス循環流量制御部250及び制御量補完部260は、このウェット操作用制御量演算処理を終了し、制御量補完処理のメインフローに戻る。
なお、ウェット操作用制御量演算処理のステップS54〜S57は、優先順位設定部240により設定された各物理量の優先順位に基づいてその順番が設定されている。そのため、これらのステップは、その順序を変更すべきではない。
図23は、ウェット操作用制御量演算処理のステップS54に対応するサブルーチンである目標カソードガス流量演算処理(ウェット)の一例を示すフローチャートである。ウェット操作用制御量演算処理のステップS53までに最低カソードガス圧力、最小アノードガス循環流量及び最高冷却水温度が演算されると、制御量補完部260は、この目標カソードガス流量演算処理(ウェット)を実行する。
制御量補完部260は、まず、ウェット操作用制御量演算処理のステップS51〜S53において演算した最低カソードガス圧力、最小アノードガス循環流量及び最高冷却水温度と、目標水収支演算処理のステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS541)。これらのデータは、必要に応じて、図示しないメモリに格納されている。
次いで、制御量補完部260は、読み出した各種データに基づいて、目標カソードガス流量を演算する(ステップS542)。そして、制御量補完部260は、この目標カソードガス流量演算処理(ウェット)を終了し、ウェット操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
図24は、ウェット操作用制御量演算処理のステップS55に対応するサブルーチンである目標冷却水温度演算処理(ウェット)の一例を示すフローチャートである。制御量補完部260は、目標カソードガス流量演算処理(ウェット)の終了後、この目標冷却水温度演算処理(ウェット)を実行する。
制御量補完部260は、まず、流量センサ23により検出したカソードガス流量を取得(計測)する(ステップS551)。そして、制御量補完部260は、ステップS551において取得したカソードガス流量と、ウェット操作用制御量演算処理のステップS51〜S52において演算した最低カソードガス圧力及び最小アノードガス循環流量と、目標水収支演算処理のステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS552)。これらのデータは、必要に応じて、図示しないメモリに格納されている。
次いで、制御量補完部260は、読み出した各種データに基づいて、目標冷却水温度を演算する(ステップS553)。そして、制御量補完部260は、この目標冷却水温度演算処理(ウェット)を終了し、ウェット操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
図25は、ウェット操作用制御量演算処理のステップS56に対応するサブルーチンである目標アノードガス循環流量演算処理(ウェット)の一例を示すフローチャートである。アノードガス循環流量制御部250は、目標カソードガス流量演算処理(ウェット)及び目標冷却水温度演算処理(ウェット)の終了後、この目標アノードガス循環流量演算処理(ウェット)を実行する。
アノードガス循環流量制御部250は、まず、入口水温センサ46及び出口水温センサ47により検出したスタック入口水温とスタック出口水温に基づいて演算した冷却水温度を取得(計測)する(ステップS561)。そして、アノードガス循環流量制御部250は、ステップS551において取得したカソードガス流量と、ステップS561において取得した冷却水温度と、ステップS51において演算した最低カソードガス圧力と、目標水収支演算処理のステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS562)。
次いで、アノードガス循環流量制御部250は、読み出した各種データに基づいて、目標アノードガス循環流量を演算する(ステップS563)。また、アノードガス循環流量制御部250は、アノード循環ポンプ36の回転速度と、圧力センサ37により検出したアノードガス圧力と、スタック温度とに基づいて、運転状態検出部220により推定した現在のアノードガス循環流量を取得する(ステップS564)。
次いで、アノードガス循環流量制限部270は、取得した現在のアノードガス循環流量と、目標アノードガス循環流量とに基づいて、アノードガス循環流量の変化率の制限値を演算する(ステップS565)。なお、変化率の制限値の計算方法は、上記で詳述したので、ここではその詳細な説明を省略する。
そして、アノードガス循環流量制御部250は、この目標アノードガス循環流量演算処理(ウェット)を終了し、ウェット操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
図26は、ウェット操作用制御量演算処理のステップS57に対応するサブルーチンである目標カソードガス圧力演算処理(ウェット)の一例を示すフローチャートである。制御量補完部260は、目標カソードガス流量演算処理(ウェット)、目標冷却水温度演算処理(ウェット)及び目標アノードガス循環流量演算処理(ウェット)の終了後、この目標カソードガス圧力演算処理(ウェット)を実行する。
制御量補完部260は、まず、ステップS564において推定したアノードガス循環流量と、ステップS561において取得した冷却水温度と、ステップS551において取得したカソードガス流量と、目標水収支演算処理のステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS571)。
次いで、制御量補完部260は、読み出した各種データに基づいて、目標カソードガス圧力を演算する(ステップS572)。そして、制御量補完部260は、この目標カソードガス圧力演算処理(ウェット)を終了し、ウェット操作用制御量演算処理のメインフローに戻る。
以上のようにウェット操作における各目標値を演算すると、コントローラ200は、制御量補完処理のメインフローに戻り、演算した各目標値に基づいて、各アクチュエータを駆動制御するための各アクチュエータ制御処理を実行し(ステップS6)、この制御量補完処理を終了する。
以上説明したように、本実施形態の燃料電池システム100は、アノードガス及びカソードガスを燃料電池10(燃料電池スタック1)に供給して発電させる燃料電池システム100であって、燃料電池10から排出されるアノードオフガスと、燃料電池10に供給するアノードガスとを混合させて燃料電池10に供給するアノードガス循環通路35と、燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を検出する湿潤状態検出部210と、アノードガス循環流量を含む複数の物理量(本実施形態では、カソードガス流量、カソードガス圧力、及び冷却水温度)を操作することにより、電解質膜111の湿潤状態を制御する湿潤状態制御部230と、を備えている。そして、本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)は、湿潤状態検出部210により検出した電解質膜111の湿潤状態に基づいて、アノードガス循環通路35のアノードガス循環流量を制御するアノードガス循環流量制御部250と、湿潤状態制御部230により操作される複数の物理量に対して、定常的な操作の優先順位を設定する優先順位設定部240とを備える。ここで、アノードガス循環流量制御部250は、電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において、アノードガス循環流量の単位時間当たりの変化率を制限するアノードガス循環流量制限部270と、アノードガス循環流量制限部270によりアノードガス循環流量の変化率が制限されている場合には、アノードガス循環流量の制限により不足した湿潤状態の制御量分について、優先順位設定部240により設定されたアノードガス循環流量より定常的な操作の優先順位が低い物理量の操作で補完する制御量補完部260とを備えている。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)をこのように構成しているので、アノードガス循環流量の制御においてその変化率に制限を設けることにより、過渡的に意図した制御(例えば、ドライ操作又はウェット操作)とは逆の制御になることを効果的に抑制することができる。そして、アノードガス循環流量の変化率に制限を設けた場合には、アノードガス循環流量よりも優先順位の低い物理量で不足した制御量分を補うことができる。したがって、本実施形態の燃料電池システム100の制御装置によれば、定常的な優先順位を守りつつ、制御の開始時に過渡的に逆効果となるような影響を軽減することができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、燃料電池10の電解質膜111を湿潤させる操作において、アノードガス循環流量より定常的な操作の優先順位が低い操作対象として、燃料電池スタック1に供給するカソードガスの圧力(カソードガス圧力)を含み、燃料電池10を湿潤させる操作を開始すると、アノードガス循環流量制限部270は、アノードガス循環流量の単位時間当たりの変化率を制限するとともに、制御量補完部260(目標カソードガス圧力演算部261)は、アノードガス循環流量の制限により不足した湿潤状態の制御量分を供給するカソードガスの圧力を上げる操作で補完している。ウェット操作においてアノードガス循環流量を制御する場合、アノードガス循環流量の指令値をステップ状に急激に変化させると、過渡的に電解質膜111がドライになる可能性がある。そのため、本実施形態では、アノードガス循環流量の変化率に制限を設けるとともに、不足分の制御量をカソードガス圧力の制御により補完することとしている。これにより、アノードガス循環流量とカソードガス圧力における定常的な優先順位を守りつつ、制御の開始時に過渡的に逆効果となるような影響を軽減することができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、燃料電池10の電解質膜111を乾燥させる操作において、アノードガス循環流量より定常的な操作の優先順位が低い操作対象として、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度(冷却水温度)と、燃料電池スタック1に供給するカソードガスの流量(カソードガス流量)とを含み、燃料電池10の電解質膜111を乾燥させる操作を開始すると、アノードガス循環流量制限部270は、アノードガス循環流量の単位時間当たりの変化率を制限するとともに、制御量補完部260(目標冷却水温度演算部262又は目標カソードガス流量演算部263)は、アノードガス循環流量の変化率の制限により不足した湿潤状態の制御量分を冷却水の温度を上げる操作及びカソードガス流量を増やす操作の少なくとも一つで補完している。ドライ操作においてアノードガス循環流量を制御する場合、アノードガス循環流量の指令値をステップ状に急激に変化させると、過渡的に電解質膜111がウェットになる可能性がある。そのため、本実施形態では、アノードガス循環流量の変化率に制限を設けるとともに、不足分の制御量を冷却水温度の制御又はカソードガス流量の制御により補完することとしている。これにより、アノードガス循環流量と、冷却水温度及びカソードガス流量とにおける定常的な優先順位を守りつつ、制御の開始時に過渡的に逆効果となるような影響を軽減することができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において、アノードガス循環流量制御部250は、冷却水の温度(冷却水温度)の単位時間当たりの変化率を制限する冷却水温度制限部280をさらに備え、制御量補完部260は、冷却水温度の制限により不足した湿潤状態の制御量分もカソードガスの流量を増やす操作で補完している。本実施形態では、ドライ操作において、アノードガス循環流量の変化率に制限を加えるとともに、冷却水温度の変化率にも制限を加え、不足分の制御量をカソードガスの流量により補完することとしている。これにより、アノードガス循環流量の操作による過渡的な逆方向への操作を軽減しつつ、冷却水温度とアノードガス循環流量との関係によって逆方向への操作になってしまうことも同時に軽減することができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において水素欠乏が懸念される場合や、燃料電池システム100の起動時に、水素フロントによるカソード触媒層の劣化を防止するために、燃料電池スタック1に素早くアノードガスを供給すべき場合には、アノードガス循環流量制限部270は、アノードガス循環流量の変化率の制限を解除するように構成している。このように、燃料電池10にアノードガスを素早く供給する必要がある場合には、本実施形態のアノードガス循環流量の変化率の制限を解除することにより、多くのアノードガスを燃料電池10に供給することができる。これにより、燃料電池スタック1の燃料電池10のアノードガス流路121の出口近傍の水詰まりや起動時の触媒劣化等を効果的に防止することができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、湿潤状態検出部210により検出される湿潤状態は、燃料電池スタック1に流入する水(水分)及び燃料電池スタック1内部で生成される水の量と、燃料電池から排出される水の量との収支として計算される水収支であればよい。このように、水収支を用いることにより、圧力、流量、温度等の異なる物理単位(ディメンジョン:次元)間でも不足した制御量分の補完を実現することができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、アノードガス循環流量制御部250は、アノード循環ポンプ36を含むように構成される。アノード循環ポンプ36を用いることにより、エゼクタの多段切り換え等と比較しても、流量制御をシームレスに行うことができる。これにより、アノードガス循環流量制限部270の変化率の制限も容易に行うことができる。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、複数の物理量は、アノードガス循環流量に加え、燃料電池スタック1に供給するカソードガスの圧力と、燃料電池スタック1に供給するカソードガスの流量と、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度の4つを含む。このように4つの物理量を順次制御することにより、制御の跳ね返りや行き過ぎを抑制しつつ、燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を効率的に制御することができる。一方、複数の物理量の1つとしてスタック出力電流を用いる場合には、燃料電池スタック1の出力自体が変動してしまうので、制御の行き過ぎや跳ね返りが起こり得る。そのため、本実施形態では、上記4つの物理量を制御対象としている。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、優先順位設定部240は、燃料電池10の電解質膜111を乾燥させる操作では、カソードガス圧力を下げる操作、アノードガス循環流量を下げる操作、冷却水の温度を上げる操作、カソードガスの流量を上げる操作の順に下がる定常的な優先順位を設定している。また、優先順位設定部240は、燃料電池10の電解質膜111を湿潤させる操作では、カソードガスの流量を下げる操作、冷却水の温度を下げる操作、アノードガス循環流量を上げる操作、カソードガスの圧力を上げる操作の順に下がる定常的な優先順位を設定している。このように制御対象となる複数の物理量に優先順位を付けているのは、各補機の消費電力を考慮するとともに、これらを同時に操作した場合における他の物理量の制御との干渉を防止するためである。これにより、無駄な操作を排除しつつ、無駄な消費現力を抑制することができる。
なお、ドライ操作では、優先順位として、アノードガス循環流量を下げるよりも先にカソードガス圧力を下げている。これは、消費電力を考慮して、消費電力を下げるものを先に操作しているためである。例えば、コンプレッサ22でカソードガスを供給する場合、カソードガス圧力が高いほど、コンプレッサ22の消費電力が大きくなる。また、アノード循環ポンプ36の消費電力よりもコンプレッサ22の消費電力が大きいので、カソードガス圧力の操作を優先させている。
また、ウェット操作において、アノードガス循環流量の優先順位を最後にしないのは、制御量の補完ができないためである。さらに、ウェット操作では、冷却水温度を下げるよりも先にカソードガスの流量を下げている。これは、消費電力だけでなく、制御の応答性を考慮したためである。冷却水温度の操作応答性は、他の物理量に比べて悪いので、制御性の悪化を防止するためである。
本実施形態における燃料電池システム100の制御方法は、アノードガス及びカソードガスを燃料電池スタック1に供給して発電させるとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスと、燃料電池スタック1に供給するアノードガスとを混合させて燃料電池スタック1に供給するアノードガス循環通路35を備える燃料電池システム100の制御方法であって、燃料電池10の電解質膜111の湿潤状態を検出するステップと、検出した電解質膜111の湿潤状態に基づいて、アノードガス循環通路35のアノードガス循環流量を制御するステップと、アノードガス循環流量を含み、定常的な操作の優先順位がそれぞれに設定された複数の物理量を操作(対応するアクチュエータを制御)することにより、電解質膜111の湿潤状態を制御するステップと、電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において、アノードガス循環流量の単位時間当たりの変化率を制限するステップと、アノードガス循環流量の変化率が制限されている場合には、アノードガス循環流量の制限により不足した湿潤状態の制御量分について、アノードガス循環流量より定常的な操作の優先順位が低い物理量の操作で補完するステップと、を含んでいる。燃料電池システム100をこのように制御することにより、上述と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
上記実施形態では、アノードガス循環流量以外にドライ操作及びウェット操作で制御される物理量として、カソードガス圧力と、冷却水温度と、カソードガス流量とを列挙して説明した。しかしながら、本発明は、これらの物理量に限らず、例えば、これらの1つが制御対象の物理量に含まれなくてもよい。この場合、アノードガス循環流量の変化率に制限をかける必要があるので、アノードガス循環流量よりも優先順位が低い物理量が少なくとも1つ必要となる。そのため、ドライ操作とウェット操作の両方から排除可能な物理量は、カソードガス流量のみとなる。
また、上記実施形態では、制御対象の物理量として、アノードガス循環流量と、カソードガス圧力と、冷却水温度と、カソードガス流量との4つを列挙したが、本発明は、これら4つに限らない。例えば、制御対象として、4つの物理量に加え、循環保管水を含めてもよい。
パージ弁38は、アノードガス循環通路35から分岐したアノードガス排出通路に設けられる。パージ弁38は、アノードオフガスに含まれる不純物を外部に排出する。不純物とは、燃料電池スタック1内の燃料電池10のカソードガス流路131から電解質膜111を透過してきたカソードガス中の窒素ガスや、発電に伴うアノードガスとカソードガスの電気化学反応により生成される水などのことである。パージ弁38の開度や開閉頻度は、コントローラ200によって制御される。
冷却水温度制限部280は、ドライ操作の開始時に過渡的に逆の操作を行ってしまうことを抑制するために、電解質膜111の湿潤状態を変化させる過渡運転時において、冷却水の温度の単位時間当たりの変化率を制限する。本実施形態では、冷却水温度制限部280は、ドライ操作における冷却水温度よりも優先順位が高い物理量、すなわち、カソードガス圧力及びアノードガス流量の制御を行ったとしても、アノードガス循環流量制限部270による目標アノードガス循環流量の変化率の制限が完了していない場合のみ、冷却水温度の単位時間当たりの変化率を制限する。
制御量補完部260は、まず、ステップS451において計測した計測カソードガス圧力と、ステップS464において計測した冷却水温度と、ステップS454において取得したアノードガス循環流量と、ステップS24において演算した目標水収支とを読み出す(ステップS471)。
本実施形態の燃料電池システム100の制御装置(コントローラ200)では、優先順位設定部240は、燃料電池10の電解質膜111を乾燥させる操作では、カソードガス圧力を下げる操作、アノードガス循環流量を下げる操作、冷却水の温度を上げる操作、カソードガスの流量を上げる操作の順に下がる定常的な優先順位を設定している。また、優先順位設定部240は、燃料電池10の電解質膜111を湿潤させる操作では、カソードガスの流量を下げる操作、冷却水の温度を下げる操作、アノードガス循環流量を上げる操作、カソードガスの圧力を上げる操作の順に下がる定常的な優先順位を設定している。このように制御対象となる複数の物理量に優先順位を付けているのは、各補機の消費電力を考慮するとともに、これらを同時に操作した場合における他の物理量の制御との干渉を防止するためである。これにより、無駄な操作を排除しつつ、無駄な消費電力を抑制することができる。