(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態を詳細に説明する。まず、本実施形態で適用するインクジェット記録装置の本体構成を説明する。
図3は、本実施形態で適用するインクジェット記録装置F102の要部の概略構成図である。記録装置の外装部材内に収納されたシャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって構成されて、記録装置の骨格を成すものであり、以下に説明する各機構を保持する。自動給送部M3022は、用紙(記録媒体)を装置本体内へと自動的に給送する。搬送部M3029は、自動給送部M3022から1枚ずつ送出される記録媒体を所定の記録位置へと導くと共に、その記録位置から排出部M3030へと記録媒体を導く。矢印Yは、記録媒体の搬送方向(副走査方向)である。記録位置に搬送された記録媒体は、記録部によって所望の記録が行われる。この記録部に対しては、回復部M5000によって回復処理が行われる。M2015は紙間調整レバー、M3006は搬送ローラM3001の軸受けである。
記録部において、キャリッジM4001は、キャリッジ軸M4021によって副走査方向とは交差する矢印Xの主走査方向(第2の方向)に移動可能に支持されている。このキャリッジM4001には、インクを吐出可能な記録ヘッドカートリッジH1001が着脱可能に搭載される。
図4は、本実施形態に適用可能な記録カートリッジH1001の構成を説明するための斜視図である。記録ヘッドカートリッジH1001(以下、単に記録ヘッドとも言う)は、吐出を行うための記録素子を備えた記録ヘッド部とインクタンクホルダから構成されている。インクタンクH1900のそれぞれは、記録ヘッドカートリッジH1001に対し、図のように着脱可能になっており、それぞれのタンクから、対応する記録素子列へインクを供給する。本実施形態では、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの4色のインクを用い、各色で複数段階の量のインクを吐出可能な記録ヘッド構成とする。
本実施形態における記録ヘッドの記録素子は、インク路内に備えられたヒータに対し、電圧を印加することにより膜沸騰を生じさせ、所定量のインクを滴として吐出させる仕組みになっている。同色、同量を吐出する吐出口は、副走査方向(第1の方向)に所定のピッチで配列されており、互いに異なる色のインクを吐出する吐出口列は、主走査方向(第2の方向)に並列されている。
再度図3を参照する。キャリッジM4001には、キャリッジM4001上の所定の装着位置に記録ヘッドH1001を案内するためのキャリッジカバーM4002が設けられている。さらに、キャリッジM4001には、記録ヘッドH1001のタンクホルダーと係合して、記録ヘッドH1001を所定の装着位置にセットさせるヘッドセットレバーM4007が設けられている。ヘッドセットレバーM4007は、キャリッジM4001の上部に位置するヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられており、記録ヘッドH1001と係合する係合部には、ばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が備えられている。そのばね力によって、ヘッドセットレバーM4007は、記録ヘッドH1001を押圧しながらこれをキャリッジM4001に装着する。キャリッジH4001に搭載された記録ヘッドH1001は、不図示のメイン基板からフレキシブルケーブルE0012を経由して記録に必要なヘッド駆動信号を得る。
回復部M5000には、記録ヘッドカートリッジH1001におけるインク吐出口の形成面をキャップするキャップ(図示せず)が備えられている。このキャップには、その内部に負圧を導入可能な吸引ポンプを接続してもよい。その場合には、記録ヘッドカートリッジH1001のインク吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入して、インク吐出口からインクを吸引排出させる。これにより、記録ヘッドH1001の良好なインク吐出状態を維持すべく回復処理(「吸引回復処理」ともいう)をすることができる。また、キャップ内に向かって、インク吐出口から画像の記録に寄与しないインクを吐出させることによって、記録ヘッドH1001の良好なインク吐出状態を維持すべく回復処理(「吐出回復処理」または「予備吐出」ともいう)をすることができる。
図5は、本実施形態の記録装置F102における制御系の構成を説明するための概略ブロック図である。CPU B100は、記録装置全体の動作制御や画像データ処理等を実行する。ROM B101には、CPU B100が制御を行うために必要なプログラムや、本発明特有のドット配置パターンやマスクパターンなどの記録に必要なデータが格納されている。CPU B100は、ROM B101に格納されたプログラムやデータを適宜参照し、RAM B102をワークエリアとして使用しながら、各種処理を実行する。RAM B102には、このようなワークエリアの他にも、受信した画像データを一時的に保存する受信バッファF115や、記録ヘッドH1001を駆動するための記録データを保存するプリントバッファF118などが用意されている。
本実施形態の記録装置F102は、外部に接続されたホスト装置F101から、インターフェイス(I/F) F114を介して画像データを受信する。CPU B100は、受信した画像データを、一時的にRAM B102内の受信バッファF115に保存し、ROM B101に格納された様々なパラメータを用いながら画像処理を施す。一連の画像処理が施された画像データは、RAM B102内のプリントバッファF118に保存され、記録ヘッドH1001の記録動作の進行に伴いながら、順次ヘッドドライバH1001Aに転送される。ヘッドドライバF1001Aは、受信した記録信号に基づいて、記録ヘッドH1001を駆動する。記録ヘッドH1001からのインクの吐出は、CPU B100が電気熱変換体などの駆動データ(記録データ)および駆動制御信号(ヒートパルス信号)をヘッドドライバH1001Aに供給することにより行われる。CPU B100は、記録ヘッドのH1001の吐出動作と共に、キャリッジモータドライバB103Aを介して、キャリッジモータB103を駆動させ、キャリッジM4001を所定速度で走査させる。これにより、1回の記録主走査が実行される。1回の記録主走査が終了すると、CPU B100は、搬送モータドライバB104Aを介して、搬送モータB104を駆動させ、記録媒体を第1の方向に所定量搬送(副走査)する。上記第2の方向への記録主走査と第1の方向への副走査とを交互に繰り返すことにより、ホスト装置F101から受信した画像を記録媒体に記録することが出来る。
図6は、本実施形態の記録装置F102とこれに画像データを供給するホスト装置F101によって構成される記録システムの一連の画像処理工程を説明するためのブロック図である。本実施形態において、ホスト装置F101では、まずRGBの多値(8ビット(256値))の輝度データF110を、記録要素分離手段F111によって、記録装置が備えるインク色に対応したCMYKの多値(8ビット(256値))の濃度データに変換する。このときの濃度データは、600dpiの画像解像度を有しているものとする。次に、n値(nは2以上の整数)化処理手段F112を用いて、解像度はそのままに、多値の濃度データをインク色ごとにn値化(2≦n<256)する。本実施形態においては、例えば多値誤差拡散法などを利用し、256値を6値または16値に量子化する。更に、記録コード化手段F113によって、n値化された600dpiの画像データをインクジェット記録装置F102で認識できる命令形態のコードに変換する。コード化された濃度データは、インターフェイスF114を介して記録装置F102に転送される。
記録装置F102では、受信した画像データを受信バッファF115に一時的に記憶し、次にコード解析手段F116を用いて、受信バッファF115に記憶しているコードを解析する。解析された画像データは600dpiの6値または16値で表されており、ドット配置パターン化手段F117ではこの多階調の画像データに対しドット配置パターン化処理を施す。つまり、6または16段階の濃度(n階調)で表現される濃度レベルに応じて、1画素(600dpiの1画素)を記録するためのドット配置パターンをROM B101に格納されている複数種類のパターンの中から選択する。これにより、各色の多階調の画像データは、1記録画素(1200dpi)に相当する個々のエリアに対するドットを記録するか否かを定める2値の記録データに変換され、インク色別にプリントバッファF118に展開される。
プリントバッファF118に展開された2値の記録データは、さらにマスクデータ変換手段F119によってマスクデータ変換処理が施され、個々のノズルがそれぞれの記録走査で実際に記録する2値の記録データに変換される。その後、この2値の記録データは記録ヘッドドライバH1001Aに転送される。記録ヘッドドライバH1001Aは、記録ヘッド上の各インク色に対応した記録素子を、受信した記録データに従ってそれぞれ駆動する。以上が、本実施形態において実行される一連の画像処理工程である。
本実施形態では、記録位置ずれが発生した場合でも濃度変動を小さく抑えるために、記録媒体の同じエリア(1200dpiの1画素)に対し、異なる記録走査で複数のドットを重複して記録する箇所を予め設けておく。以下、このように記録媒体に重複して2つずつ記録されるドットを重複ドットと称する。一方、記録媒体で重複せずに単独で記録されるドットを単独ドットと称する。
図12(a)および(b)は、全てのドットが単独ドットであった場合の記録位置ずれの濃度への影響を説明する図である。黒く示したドットは第1の記録走査で記録される第1のドット群であり、白く示したドットは第1の記録走査とは異なる第2の記録走査で記録される第2のドット群とする。2つの記録走査の間に記録位置ずれが存在しない場合、ドットの配列は図12(a)のようになり、第1のドット群と第2のドット群は単独ドットの状態で、副走査方向において互いに補完するように配置する。しかし、2つの記録走査の間に副走査方向への記録位置ずれが発生した場合、第1のドット群に対し第2のドット群は副走査方向にずれ、ドットの補完関係が崩れる。結果、単独ドットが減少し重複ドットが増えることにより、図12(b)のように記録媒体がドットに被覆されない箇所が所々現れ、同図(a)の場合に比べて濃度が低下する。
これに対し、図13(a)および(b)は、全てのドットが重複ドットであった場合の記録位置ずれの濃度への影響を説明する図である。第1の記録走査で記録される第1のドット群(黒ドット)の全てに、第2の記録走査で記録される白ドットが重複して記録される。2つの記録走査の間に記録位置ずれが存在しない場合、ドットの配列は図13(a)のようになり、第1のドット群と第2のドット群は重複ドットの状態で一様に配置する。しかし、2つの記録走査の間に副走査方向への記録位置ずれが発生した場合、第1のドット群に対し第2のドット群は副走査方向にずれ、重複していた2つのドットは互いに分離する。結果、図13(b)のように記録媒体がドットに被覆される面積が増え、同図(a)の場合に比べて濃度は上昇する。
このように、記録位置ずれの発生に伴う濃度の変動は、複数回走査の中で記録位置がずれた場合とずれなかった場合とで、記録媒体の被覆面積が変化することによって引き起こされる。そして、この被覆面積は単位領域における単独ドットと重複ドットの数や割合に影響を受けている。よって、記録位置ずれが発生した場合でも、記録位置ずれが発生しなかった場合と同等の被覆面積、すなわち単位領域における単独ドットと重複ドットの数や割合が維持出来れば、記録位置ずれに伴う濃度変動を抑制することが出来る。本実施形態では、そのような記録を実現するために、上記説明したドット配置パターン化処理およびマスクデータ変換処理を利用する。
図8は、本実施形態の第1の記録モードでドット配置パターン設定手段F119が参照するドット配置パターンの一例を説明するための模式図である。図の左側は、コード解析手段F116より入力される0〜5のレベル値を示し、その右側は各レベルに対応して用意されているドット配置パターンを4種類ずつ示している。個々のドット配置パターンはデータ上4カラム×2ラスタで構成されており、黒は記録媒体の該当するエリアにドットを記録(1)することを示し、白はドットを記録しない(0)ことを示している。レベル値が上昇するにつれ、ドットを記録するエリア(黒)が増えて行くのがわかる。
個々のレベルについて用意された4つのドット配置パターンは、主走査方向および副走査方向に代わる代わる使用され、同一のレベル値が連続する場合でも1つのパターンに偏らないように配慮されている。このような、複数のドット配置パターンは、記録装置のROM B101に予め記憶されている。ドット配置パターン設定手段F117によって得られた2値の画像データは、その後、奇数カラムデータと偶数カラムデータに分類される。
図7は、第1の記録モードにおける奇数カラムデータと偶数カラムデータの取り扱いを、図式的に説明したものである。ここでは、ドット配置パターン設定手段F117にレベル3の4ビットデータ601が入力された場合を例に示している。レベル3の4ビットデータ601は、図8に示したドット配置パターンを参照することによって、4カラム×2ラスタの領域を有するドット配置パターン602に変換される。
ここで、ドット配置パターン602は、奇数カラム(第1カラムと第3カラム)で構成される奇数カラムデータ603と、偶数カラム(第2カラムと第4カラム)で構成される偶数カラムデータ604に分類される。そして、これら奇数カラムデータ603と偶数カラムデータ604は異なる記録走査で記録される。すなわち、ドット配置パターン設定手段F117は、多値の階調データを、異なる走査で記録するための2種類(N1種類)のドット配置パターンに変換していることになる。さらに、奇数カラムデータ603は、単位領域に対する1パス目と3パス目の2回(M1回)の記録走査に対応する画像データに分配される。一方偶数カラムデータ604は、単位領域に対する2パス目と4パス目の2回(M1回)の記録走査に対応する画像データに分配される。このような奇数カラムデータおよび偶数カラムデータそれぞれの各記録走査への分配は、マスクデータ変換手段F119によって行われる。すなわち、ドット配置パターン設定手段F117とマスクデータ変換手段F119により、多階調の画像データは4回(N1×M1回)の記録走査に分配される。
図9は、ある一色のノズル列1000と、ノズル列に対応するマスクパターン1001との関係を説明するための図である。ここでは、簡単のため、64個のノズルを具えたノズル列1000を例に説明する。マスクパターン1001は、ノズルの数64に対応した副走査方向のエリアと所定量の主走査方向のエリア(ここでは32エリア)を有し、各エリアはドットの記録を許容する(1)あるいは許容しない(0)が予め定められている。このようなマスクパターンは、記録ヘッドに具えられた複数のノズル列に共通して使用されても良いが、個々のノズル列に対応して複数用意されていても良い。
本実施形態のような4パスのマルチパス記録の場合、64のノズルは16ずつの4つのノズル群(第1〜第4ノズル群)に分割して考えることが出来る。そして、記録媒体は記録走査のたびに1つのノズル群に対応した距離(16ノズル分)だけ副走査方向に搬送される。このように、個々のノズル群の幅(16ノズル幅)に対応する記録媒体の領域を、単位領域と称する。各単位領域は、第1ノズル群による1パス目の記録走査から第4ノズル群による4パス目の記録走査までの4回の記録走査によって、ドットが記録されることになる。
個々のノズル群には、それぞれに対応するマスクパターンが宛がわれている。以下、第1ノズル群に宛がわれ、単位領域に対し1回目の記録走査(1パス目)で使用するマスクパターンを1パス目マスクパターンとする。同様にして、2回目の記録走査(2パス目)で使用する2パス目マスクパターン、3回目の記録走査(3パス目)で使用する3パス目マスクパターン、および4回目の記録走査(4パス目)で使用する4パス目マスクパターンが図のように定められる。ここで、1パス目マスクパターンと3パス目マスクパターンは互いに補完関係を有している。また2パス目マスクパターンと4パス目マスクパターンは互いに補完関係を有している。
図7で説明した奇数カラムデータと偶数カラムデータのそれぞれは、このようなマスクパターンとの間で論理積が取られ、画像データが記録(1)でマスクパターンが記録を許容する(1)エリアのみドットが記録(1)されるような記録走査が実行される。そしてこのような論理積処理および記録走査を、奇数カラムデータのためと偶数カラムデータのために交互に行うことによって、ドット配置パターン設定手段F117から出力された2値の画像データが記録媒体で表現される。
この場合、例えば、1パス目および3パス目によって奇数カラムデータが記録される単位領域には、2パス目および4パス目によって偶数カラムデータが記録される。また、1パス目および3パス目によって偶数カラムデータが記録される単位領域には、2パス目および4パス目によって奇数カラムデータが記録される。
本実施形態では、ドット配置パターンの奇数カラムデータと偶数カラムデータを異なる記録走査で記録しながら、それぞれのカラムデータに対応するドットを記録媒体で重複させるようにしている。具体的には、1カラム目と2カラム目のデータが互いに重複するように、また3カラム目と4カラム目のデータが互いに重複するように記録動作を行っている。
すなわち、図8に示したドット配置パターンを使用することによって、あるいはドット配置パターンにおける記録エリアの位置を調整することによって、重複ドットと単独ドットを予め一定の割合で混在させておくことが出来る。よって、記録位置ずれが発生した場合であっても、2つの単独ドットが重なり合う箇所や重複ドットが分離する箇所を混在させることが出来るので、大きな濃度変動は回避される。また、図9に示したマスクパターンを使用することによって、あるいはマスクパターンにおける記録許容エリアの位置を調整することによって、個々のドットを記録媒体に記録するタイミング(パス)を制御することが出来る。
既に、図2で説明したように、記録位置ずれが発生した場合、単位領域によって濃度変動の程度は異なる。図2で説明した4パスのマルチパス記録の場合には、2パス目と3パス目の間で記録位置ずれが発生する単位領域Bが、最も濃度低下が大きかった。従って、この単位領域Bにおいて、重複ドットを形成する2つのドットが、なるべく2パス目と3パス目の間(中央パス間)を挟んだ2つのパスで記録されるようにすれば、濃度低下を抑えることが出来る。具体的には、単位領域Bにおける重複ドットが、1パス目あるいは2パス目のどちらか一方と、3パス目あるいは4パス目のどちらか一方の組み合わせによって重複して記録される割合が高ければ良い。このようにすれば、どのタイミングで搬送ずれが発生しても、この搬送動作を2パス目と3パス目の間に持つ(中央パス間に持つ)最も濃度低下が懸念される単位領域において、濃度低下を緩和することが可能となる。
しかしながら、従来法で作成した一般的なマスクパターンを用いた場合には、そのような効果を得ることは出来ない。
図10(a)および(b)は、従来法で作成したマスクパターンにおける重複ドットが記録される記録走査(パス)の組み合わせの割合を示す図である。補完関係にある1パス目と3パス目では、50%ずつの記録許容率を有しているのが一般である。一方、1パス目で記録が許容されたエリアに重複してドットを記録できるのは2パス目と4パス目であり、従来のマスクパターンにおいては、これらも互いに半分の割合で記録許容エリアが設けられている。結果、1パス目と2パス目で記録が許容されるエリアは全体の25%(701)となり、同様に1パス目と4パス目で記録が許容されるエリアも全体の25%(702)となる。このようにして考えると、各パスの組み合わせにおける記録許容エリアの割合は、図10(a)に示したように全て25%となる。
図10(b)は、同図(a)の割合より、各パスの間に行われる搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合を示した図である。例えば、1パス目と2パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と2パス目で記録される重複ドットの割合と1パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、25%+25%=50%となる。また、2パス目と3パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合と2パス目と3パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、やはり25%+25%=50%となる。更に、3パス目と4パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合についても、1パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合と3パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、同様に25%+25%=50%となる。以上から判るように、従来法に従って作成したマスクパターンにおいては、2パス目と3パス目の間、すなわち中央パス間の搬送動作を挟んでより多くの重複ドットが記録されるようにはなっていない。
これに対し、本実施形態では、2パス目と3パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合を、他のパス間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合よりも高く設定したマスクパターンを用意する。
図23(a)および(b)は、本実施形態で使用するマスクパターンの重複ドットが記録される記録走査の組み合わせの割合を、図10(a)および(b)に示した従来法のマスクパターンと比較して説明するための図である。本実施形態では、1パス目と2パス目で記録が許容されるエリアは全体の12.5%(801)とし、図10で示した従来法に比べて約半分に抑えている。その分、1パス目と4パス目で記録が許容されるエリアは全体の37.5%(802)となり、従来法よりも増大させている。同様に、2パス目と3パス目で記録が許容されるエリアは全体の35.5%と増大させ、3パス目と4パス目で記録が許容されるエリアは全体の12.5%に低減している。
図23(b)は、同図(a)の割合より、各パスの間に行われる搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合を示した図である。図によれば、1パス目と2パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と2パス目で記録される重複ドットの割合と1パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、12.5%+37.5%=50%となる。また、2パス目と3パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合と2パス目と3パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、37.5%+37.5%=75%となる。更に、3パス目と4パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合と3パス目と4パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、同様に37.5%+12.5%=50%となる。
図11は、各パスの間を挟んで重複ドットが記録される割合を、図23で示した本実施形態で使用するマスクパターンと、図10で説明した従来のマスクパターンとで比較した図である。破線が従来のマスクパターンを示しており、図10(b)で示したように、いずれのパス間を挟んで記録される重複ドットの割合も均等に50%になっている。一方、実線は本実施形態で使用するマスクパターンを示しており、図23(b)で示したように、2パス目と3パス目の間を挟んで記録される重複ドットの割合が75%、他のパス間を挟んで記録される重複ドットの割合が50%となっている。
なお、本実施形態のようなマスクパターンは、例えば、従来法で作成したマスクパターンの記録許容エリアと非記録許容エリアを入れ替える作業を、上記割合が実現されるまで繰り返し行うことによって、作成することが出来る。また、上記割合を実現することを条件に加えた上で、従来のマスクパターン作成方法に従って、作成することも出来る。
いずれの方法で作成するにせよ、図11の実線で示したようなマスクパターンが使用されれば、2パス目と3パス目の間の搬送動作で搬送ずれが発生した単位領域において、濃度低下の緩和を期待することができる。すなわち、図8で示したドット配置パターンと上記説明したマスクパターンを用いて4パスのマルチパス記録を実行することにより、突発的な記録位置ずれが生じても、濃度変動を低く抑えた一様な画像を取得することが可能となる。
以上説明したような、特徴的なマスクパターンを用意することによって中央パス間を挟んで記録される重複ドットの数を多くする方法は、マルチパス記録の中でも特に4パス程度の少ないマルチパス記録において、その効果が現れる。その一方、マルチパス数が多い場合には、従来のマスクパターンであっても、中央パス間を挟んで重複ドットが記録される割合は高まる傾向がある。
図16は、8パスのマルチパス記録を行う場合の奇数カラムデータと偶数カラムデータの取り扱いを、図7と比較して示した図である。8パス記録の場合、奇数カラムデータ603は、単位領域に対する1パス目と3パス目と5パス目と7パス目に対応する画像データに分配される。一方偶数カラムデータ604は、単位領域に対する2パス目と4パス目と6パス目と8パス目に対応する画像データに分配される。
図17(a)および(b)は、従来法で作成した8パス用のマスクパターンにおける重複ドットが記録される記録走査(パス)の組み合わせの割合を図10と比較しながら説明するための図である。補完関係にある1パス目と3パス目と5パス目と7パス目では、25%ずつの記録許容率を有している。一方、1パス目で記録が許容されたエリアに重複してドットを記録できるのは2パス目と4パス目と6パス目と8パス目であり、従来のマスクパターンにおいては、これらも等しく25%ずつの割合で記録許容エリアが設けられている。結果、1パス目と2パス目で記録が許容されるエリアは全体の6.25%(1701)となり、1パス目と4パス目で記録が許容されるエリアも全体の6.25%(1702)となる。さらに、1パス目と6パス目で記録が許容されるエリアも、1パス目と8パス目で記録が許容されるエリアも、全て6.25%(1703および1704)となる。
図17(b)は、同図(a)の割合より、各パスの間に行われる搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合を示した図である。例えば、1パス目と2パス目の間の搬送動作を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と2パス目、1パス目と4パス目、1パス目と6パス目および1パス目と8パス目で記録される重複ドットの割合の和であるから、6.25%×4=25%となる。また、2パス目と3パス目の間を挟んで重複ドットが記録される割合は、1パス目と4パス目、1パス目と6パス目、1パス目と8パス目、2パス目と3パス目、2パス目と5パス目、2パス目と7パス目の割合の和であるから、6.25%×6=37.5%となる。このように各パス間における重複ドットが記録される割合を算出すると、その結果は図17(b)のようになる。図によれば、8パスのマルチパス記録においては、従来法に従って作成したマスクパターンであっても、4パス目と5パス目の間(中央パス間)を挟む重複ドットの割合(50%)が、他のパス間に比べて高くなっているのが判る。
図18は、各パスの間を挟んで重複ドットが記録される割合を、マルチパス数の異なる従来の3種類のマスクパターンで比較した図である。ここでは、4パス、8パスおよび16パスのそれぞれの場合を図10で説明した方法により算出し、図11と同様に示している。但し、横軸についてはマルチパス数が互いに異なっているので、それぞれの中央パス間が“0.5”となるように、幅を調整して表示してある。図に見るように、4パスの場合は、どのパス間においても重複ドットが記録される割合は一定であるが、8パス、16パスとマルチパス数が多くなるにつれて、中央パス間を挟んで重複ドットが記録される割合は他のパス間に比べて大きくなる。従って、より大きなマルチパス数である場合には、図11の実線で示したようなマスクパターンをあえて用意しなくても、従来法で作成したマスクパターンによって、その役割を十分に果たすことが出来る。むしろ、「中央パス間を挟んで重複ドットを記録する割合」を条件に加えてマスクパターンを作成すると、そのマスクパターンが有する他の目的への効果(例えば、高分散性への効果)を損なわせる恐れも生じる。よって、本実施形態においては、4パスのマルチパス記録を行う場合のみ、図8で示したドット配置パターン(第1のドット配置パターン)を用いてドット配置パターン設定処理を行い、図21で示したマスクパターンを用いてマスクデータ変換処理を行う。以下、このような記録モードを第1の記録モードと称す。
ところで、図23で示した特徴を有するマスクパターンは、重複ドットが発生する程度の階調以上すなわち図8で示したレベル2以上の中間調で、有効である。レベル1以下のハイライト領域では、重複ドット自体が含まれていないので、記録位置ずれを利用して濃度低下を抑制することは難しい。しかしながら、ハイライト領域であっても、記録位置ずれによってドット間の分散性が崩れ、距離を置いていたドットが隣接するようになると、部分的に重なり合う領域が発生して、やはりある程度の濃度低下は招致される。この場合には、ハイライト領域であっても、ドットの分散性のみを重視するのではなく、異なる記録走査で記録される2つのドットが、隣接して記録されるような箇所を、所々に設けておくことが有効となる。このようにすれば、記録位置ずれが発生しても、距離を置いていたドットが部分的に重なり合う箇所も発生するが、部分的に重なり合っていたドットが分離する箇所も発生するので、被覆面積を所定の範囲内に保つことが出来るからである。
しかしながら、図8に示した4カラム×2エリアから成る4種類のドット配置パターンを順番に配置させる構成では、レベル1以下のハイライト領域において、ドットを隣接して記録させる箇所を広い範囲でコントロールすることは難しい。
よって、本実施形態においては、このような課題に対応するための第2のドット配置パターンを、図8で示した第1のドット配置パターンとは別に用意する。
図14は、第2ドット配置パターンを用いた場合の、ドット配置パターン設定処理におけるデータの取り扱いを具体的に説明するための図である。但し、ドット配置パターンそのものについては、本実施形態の特徴的な第2のドット配置パターンではなく、図14では記録位置ずれの影響を受け易いドット配置パターンの例をまず説明する。
600dpiの1画素に対応する第2のドット配置パターン100は、図のような8カラム×2ラスタで構成されている。ここではカラムおよびラスタで決まるぞれぞれのエリアに対し、数字とアルファベットの組み合わせで便宜上の名称をつけている。第2のドット配置パターン100は、600dpiの17値の階調データを1200dpiの2値の記録データに変換する。図14では、レベル0〜レベル16のうちのレベル4の画像データに対するドット配置パターンの一例100が示されており、黒丸は該当するエリアにドットを記録(1)することを示し、空欄はドットを記録しないエリア(0)であることを示している。
第1のドット配置パターンは偶数ラスタデータと奇数ラスタデータの2つ(N1種類)に分類したが、第2のドット配置パターン100の各エリアに対応する2値データは、A〜Dの4つの種類(N2種類)に分類する。そして異なる記録走査によってこれらを記録媒体で重ねて記録する。A〜Dのそれぞれの2値データを同じ記録走査で記録すれば4パスのマルチパス記録となるが、本実施形態においては、4つの群それぞれを更に2回(M2回)の記録走査に分け計8パス(N2×M2回)のマルチパス記録を行う。具体的に説明すると、4n+1で表されるカラムのデータ1A、1B、1Cおよび1Dは記録データ101として分類され、互いに補完関係のある50%のマスクパターンによって2回の記録走査に分けて記録される。4n+2で表されるカラムのデータ2A、2B、2Cおよび2Dは記録データ102として分類され、互いに補完関係のある50%のマスクパターンによって2回の記録走査に分けて記録される。4n+3で表されるカラムのデータ3A、3B、3Cおよび3Dは、記録データ103として分類され、互いに補完関係のある50%のマスクパターンによって2回の記録走査に分けて記録される。更に、4n(+4)で表されるカラムのデータ1A、1B、1Cおよび1Dは、記録データ104として分類され、互いに補完関係のある50%のマスクパターンによって2回の記録走査に分けて記録される。
分類された101〜104の記録データは、互いに重複する状態で図に示す配置でドットが記録される。すなわち、記録媒体における2×2エリアの左上の位置は、1Aと2Aと3Aと4Aのデータが重ねて記録され、本例の場合、左上の位置には4Aによるドットが1つ記録される。また、右上の位置は1Bによるドットが、左下の位置は2Cによるドットが、さらに右下の位置は3Dによるドットが、それぞれ1つずつ記録され、記録媒体における記録状態は105のようになる。
ここでは、ドット配置パターン設定手段F117への入力データがレベル4である場合を例に説明しているが、より大きなレベルの場合には、2×2のエリアの少なくともいずれかは2つ以上のドットが重複して記録される状態となる。そして、最高レベルの場合には、全てのエリアに4つずつのドットが重複されて記録される状態となる。
ここで、8回のパスの間に行われる搬送動作にずれが発生せず、全てのパスにおいてドットが目的の位置に記録された場合、4つのドットの相対的な位置関係は105のようになる。しかし、例えばある1回の搬送動作でずれが発生して、ドット1Bおよび2Cに対しドット3Dおよび4Aがずれて配置すると、これら4つのドットの相対的な位置関係は106のようになる。
105と106を比較すると、106では4Aと2Cのドットが部分的に重複している分、記録媒体に対する被覆面積が低下し、白紙部分が目立つ。すなわち、106のようなドットの配置状態は、105のドットの配置状態に比べて濃度が低く検出される。
一方、図15は、記録位置ずれの影響を受け易いドット配置パターンの別例を図14と比較しながら説明するための図である。ここでも、同じレベル4に対するドット配置パターンを示しているが、本例のドット配置パターン200では、ドットが実際に配置されるエリアが、図14で説明した比較例と異なっている。本例の場合、4つの記録データ201、202、203および204が重複する状態で記録されると、記録媒体におけるドットの配列状態は205のようになる。すなわち、2×2エリアの左上の位置は1Aと4Aによる2つのドットが重ねて記録され、右下の位置には2Dと3Dによる2つのドットが重ねて記録され、左下と右上の位置には1つのドットも記録されない。
このようなドット配置の状態で、図14で説明した比較例と同様の記録位置ずれが発生した場合、4つのドットの相対的な位置関係は206のようになる。すなわち、重複して記録されている1Aのドットと4Aのドットが互いに分離し、同じく重複して記録されている2Dのドットと3Dのドットが互いに分離する。結果、記録媒体に対する被覆面積は記録位置ずれが発生していない205の状態に比べて上昇し、濃度が高く検出される。
すなわち、図14のように全てのドットが互いに重複せずに記録されている状態では、記録位置ずれが発生すると濃度は低下し、図15のように全てのドットが互いに重複して記録されている状態では、記録位置ずれが発生すると濃度は上昇する傾向がある。本発明者らは、このような状況を鑑み、以下の知見に至った。すなわち、記録位置ずれが発生しても濃度の低下も上昇も起こらないようにするためには、同じ位置で重複させたり隣接させて部分的に重複させたりするドットの数を、予め適量に調整したドット配置パターンを用意しておくことが有効であると判断した。
特にハイライト領域においては、上述したように、異なる記録走査で記録される2つのドットが、隣接して記録されるような箇所を、予め広い範囲で所々に設けておくことが要される。そのために、本実施形態では、8カラム×2ラスタよりも更に広い範囲のドット配置パターンを第2のドット配置パターンとして用意する。
図24は、第2のドット配置パターンにおけるレベル1を示した図である。太線で囲った領域が600dpiの1画素領域に相当し、その中の個々の四角は、図14および図15で示した8カラム×2ラスタの領域を示している。このように、本実施形態の第2のドット配置パターンは、8カラム×2ラスタの16のエリアを更に縦横に4つずつ並列した、16画素(600dpi)分の領域を有している。
図25は、図24で示したドット配置パターンに従って記録データを重複した場合の、記録データの配置状態を示す図である。図24で示した8カラム×2ラスタの16のエリアは、図14および図15で説明した構成によって4つの記録データに分類され、互いに異なる記録走査によって記録媒体で重複して記録される。その結果、8エリア×8エリアの領域では、図25に示すように、記録と定められたエリアが横あるいは斜め方向に隣接しながら分散し、記録媒体においては、図26に示すように、隣接して位置するドット同士が互いに部分的に重複して記録されている。本実施形態における第2のドット配置パターンは、このように異なる記録走査で記録される2つのドットが、隣接して記録されるような箇所が、所々に設けられるように作成されている。
以上では、ハイライト領域に注目したレベル1について説明したが、これ以上のレベルであっても、同様の効果を実現することが出来る。すなわち、異なる記録走査で隣接する位置に記録されるドットを所定数に納めておくような、ある程度広い領域を有するドット配置パターンを用意すれば、記録位置ずれが発生しても濃度変動を抑えることが可能となる。そして、重複ドットが発生する程度の中間調のレベルについては、上述した4パス記録のように、重複ドットがなるべく中央パス間を挟んで記録されるようなドット配置パターンを用意することも出来る。すなわち、第2のドット配置パターンのようなある程度広い領域のドット配置を制御するドット配置パターンを用意し、4つ以上のデータ群による4パス以上のマルチパスで記録する形態であれば、全ての階調レベルにおいて濃度変動を抑制することが可能となる。
さらに、この場合には、マルチパス数がドット配置パターンによって予め高く設定されているので、図18で説明したように、従来一般的に使用されてきたマスクパターンを使用しても、記録位置ずれに伴う濃度変動を低く抑えることが出来る。具体的には、ドット配置パターンによって既に4パスに分割されているデータを更に8パスに分配するためのマスクパターンであるので、図10や図11の破線で示したような記録許容率が50%の従来法によるマスクパターンであってもよい。このようなマスクパターンであっても、マルチパス数が大きければ、中央パス間を挟んで重複ドットが記録される割合は、図18で説明したように、他のパス間を挟んで重複ドットが記録される割合よりも高くなるからである。
よって、本実施形態においては、8パス以上のマルチパス記録を行う場合に、上述した第2のドット配置パターンを用いてドット配置パターン設定処理を行い、従来法によって作成された分散性の高いマスクパターンを用いてマスクデータ変換処理を行う。以下、このような記録モードを第2の記録モードと称す。
図19は、本実施形態のホスト装置F101および記録装置F102が、記録モードによって上記2つの記録方法を切り替える工程を説明するためのフローチャートである。記録装置F102に記録動作を実行させる際、ユーザは記録媒体や画像の種類、また所望の画像品位などを、プリンタドライバを介して設定し、記録開始コマンドをホスト装置に入力する。ホスト装置は、記録コマンドを受信するとその内容を解析し、記録モードを設定する(ステップS1)。
ステップS2において、ホスト装置は設定された記録モードのマルチパス数を調べ、4パスのマルチパスであればステップS3へ、8パス以上のマルチパスであればステップS4へ進む。
ステップS3では、第1の記録モードに従って記録動作が実行される。具体的には、図6を参照するに、n値化処理手段F112は多値の濃度データを6値に変換し、ドット配置パターン設定手段F117は第1のドット配置パターンを使用し、マスクデータ変換手段F119は、図23で示した第1のマスクパターンを使用する。そして、得られた記録データに従って、4パスのマルチパス記録が実行される。
一方、ステップS4では、第2の記録モードに従って記録動作が実行される。具体的には、n値化処理手段F112は多値の濃度データを16値に変換し、ドット配置パターン設定手段F117は第2のドット配置パターンを使用し、マスクデータ変換手段F119は、従来の一般的な第2のマスクパターンを使用する。そして、得られた記録データに従って、8パスのマルチパス記録が実行される。以上で本処理が終了する。
以上説明したように、本実施形態においては、記録位置ずれが発生しても記録媒体に対する被覆面積を所定範囲内に維持させるように、特徴的なドット配置パターンとマスクパターンを用意している。そして、これらドット配置パターンとマスクパターンを、マルチパス数に応じて異ならせることにより、記録位置ずれの影響を受け難い画像を、記録モードによらず安定して出力することが可能となっている。
(第2の実施形態)
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に図3〜図6で示した記録装置およびホスト装置から構成される記録システムを用いる。但し、本実施形態で使用する記録ヘッドには、同色でありながら5plのインクを吐出するノズル列と、2plのインクを吐出するノズル列の2列を、主走査方向に並列して備えた形態とする。そして、本実施形態では、n値化処理手段によって多値データが4ビット9値のデータに変換され、レベル0〜レベル8の各レベルに対するドット配置パターンが、5pl用と2pl用にそれぞれ用意されているものとする。
図21は、本実施形態のドット配置パターン設定手段F119が参照するドット配置パターンの一例を説明するための模式図である。ここでは簡単のため、レベル0〜レベル4に対応するドット配置パターンが示されている。図の左側は、コード解析手段F116より入力される0〜4のレベル値を示し、その右側は各レベルに対応して用意されているドット配置パターンを5pl用2pl用ともに2種類ずつ示している。個々のドット配置パターンはデータ上2カラム×2ラスタで構成されており、黒は記録媒体の該当するエリアにドットを記録(1)することを示し、白はドットを記録しない(0)ことを示している。レベル値が上昇するにつれ、ドットを記録するエリア(黒)が増えて行くのがわかる。
個々の吐出量および個々のレベルについて用意された2つのドット配置パターンは、主走査方向に代わる代わる使用され、同一のレベル値が連続する場合でも1つのパターンに偏らないように配慮されている。
図20は、本実施形態のドット配置パターン設定手段F117におけるデータの取り扱いを、図式的に説明したものである。ここでは、ドット配置パターン設定手段F117にレベル2の4ビットデータ2001が入力され、5pl用の2値データ2002と2pl用の2値データ2003に変換された様子を示している。5pl用のドット配置パターンと、2pl用のドット配置パターンは、記録媒体において重ねて記録される。
5pl用の2値データ2002は、マスクデータ変換手段F119によって、2つの記録走査に対応する画像データに分配される。一方2pl用の2値データも、2つの記録走査に対応する画像データに分配される。本実施形態のように5plのノズル列と2plのノズル列が主走査方向に並列して配備されている構成では、単位領域に対する5plのインクを吐出する記録と2plのインクを吐出する記録を同じ記録走査で実行することが出来る。すなわち、本例の場合、2パスのマルチパス記録によって、5pl用の2値データ2002および2pl用の2値データの記録が完了する。
このような構成を採用すると、ドット配置パターンを様々に工夫することによって、同じレベルであっても、5plのドットと2plのドットを重複させたり、単独で記録したりすることが可能となる。さらに、マスクパターンの記録許容エリアの分布を工夫することによって、5plのドットと2plのドットが1パス目と2パス目に分かれて記録が許容されるエリアの数を制御することも可能である。例えば、1パス目の5pl用のマスクパターンと2パス目の2pl用のマスクパターンが完全に補完の関係にあれば、全ての重複ドットが1パス目と2パス目に分かれて、すなわち中央パス間を挟んで記録される状態を生み出すことが出来る。すなわち、本実施形態の構成によれば、記録位置ずれが発生しても濃度変動を招致させないようにすることが可能となる。
本実施形態では、このように、図21に示したドット配置パターンを用い、5plと2plによる重複ドットの記録タイミング(パス)が制御されたマスクパターンを用いて2パスのマルチパス記録を行う記録モードを第1の記録モードと称す。一方、図21示したドット配置パターンを用いながらも、重複ドットの記録タイミング(パス)は特に制御されていない従来のマスクパターンを用いるマルチパス記録を行う記録モードを第2の記録モードと称す。
図22は、本実施形態のホスト装置F101および記録装置F102が、記録モードによって上記2つの記録方法を切り替える工程を説明するためのフローチャートである。記録装置F102に記録動作を実行させる際、ユーザは記録媒体や画像の種類、また所望の画像品位などを、プリンタドライバを介して設定し、記録開始コマンドをホスト装置に入力し、ホスト装置がこれを受信する(ステップS21)。
ステップS22において、ホスト装置はステップS21で設定された情報を調べ、記録媒体が光沢専用紙などの高品位メディアであり且つ高速記録が設定された場合はステップS23へ進む。一方、記録媒体の種類が高品位メディアであり且つ高画質記録が設定された場合、および記録媒体の種類が普通紙などの低品位メディアである場合にはステップS24へ進む。
ステップS23では、第1の記録モードに従って記録動作が実行される。すなわち、図21示したドット配置パターンを用い、5plと2plによる重複ドットの記録タイミング(パス)が制御されたマスクパターンを用いて2パスのマルチパス記録を行う。
一方、ステップS4では、第2の記録モードに従って記録動作が実行される。すなわち、図21示したドット配置パターンを用い、重複ドットの記録タイミング(パス)は特に制御されていない従来のマスクパターンを用いる一般のマルチパス記録を行う。以上で本処理が終了する。
以上説明したように本実施形態によれば、5plのインクを吐出するノズル列と、2plのインクを吐出するノズル列の2列を備えた構成において、記録位置ずれが発生しても記録媒体に対する被覆面積を所定範囲内に維持させることが可能となる。また、記録位置ずれの影響を受け難い画像を、記録モードによらず安定して出力することが可能となる。
なお、特許文献4には、本発明と同様、与えられた階調を表現するために、1つのエリア(スーパーピクセル)に複数のドットを配置する構成が開示されている。特許文献4によれば、ドットのサイズ、濃度、重複面積のそれぞれについて複数段階を用意し、これらを段階的に切り替えながら、より高精度な濃度表現を実現しようとしている。しかしながら、特許文献4は、マルチパス記録についての言及はなく、マルチパス記録時の主走査方向あるいは副走査方向への記録位置ずれには着目していない。よって、特許文献4の技術を取り入れてマルチパス記録を行った場合、記録位置ずれが発生した際に、スーパーピクセル内のあるいはスーパーピクセル間のドット配置は大きく崩れ、濃度変動が招致されることが懸念される。
以上説明したように本発明によれば、マルチパス記録を実行する際に複数の記録走査間で記録位置ずれが発生しても、単位領域の濃度変動を確実且つ適量に抑え、濃度むらのない画像を出力することが可能となる。また、このような高品位な画像をマルチパス数の異なる様々な記録モードのいずれにおいても出力可能とすることが可能となる。