JP2010233980A - 血液浄化用中空糸膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】低分子量タンパク質の除去性能を高めた血液浄化用中空糸膜を提供すること。
【解決手段】ポリビニルピロリドンを含む血液浄化用中空糸膜であって、
放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜。
【選択図】なし

Description

本発明は、血液浄化用中空糸膜に関する。
慢性腎不全患者に対する維持療法として血液透析が行われてきている。また、近年、急性腎不全や敗血症などの重篤な病態の患者に対して、急性血液浄化療法として、持続血液濾過、持続血液濾過透析、持続血液透析などの療法の実施例が増大しつつある。これらの療法に使用される血液浄化膜の素材としては、セルロース、セルロース誘導体などの天然由来の素材と、ポリスルホン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合体などの合成高分子素材が利用されている。中でも、ポリスルホン系樹脂からなる膜は、良好な機械的特性、耐熱性、生体適合性などの長所を持つことから、近年特に注目されている。
ポリスルホン系樹脂は比較的疎水性が強いため、血液と接触した際に、血漿タンパク質を吸着しやすい傾向がある。このためポリスルホン系樹脂で血液浄化膜を製造する場合には、親水性を付与して血液適合性を向上させるため、親水性高分子を添加するのが一般的である。
また、前述のとおり疎水性の強い材料は血漿タンパクを吸着しやすいので、長時間にわたって血液と接触して使用した場合には、表面に吸着した血漿タンパクの影響で膜性能が経時的に低下してしまう。親水性の付与によって血漿タンパクの吸着が低減されるので、親水性高分子添加は血液適合性向上のほか、膜として安定した溶質除去性能を発揮するためにも有効である。
こういった目的で使用される親水性高分子としては、ポリビニルピロリドンが一般的である。しかしながら、親水性高分子を用いると水溶液中で膨潤し膜の孔を閉塞して、透過性能が低下する傾向にあった。
特許文献1では、基材ポリマーであるポリスルホン系ポリマーのみを残存させて、ポリビニルピロリドンの一部を次亜塩素酸ナトリウム水溶液で分解除去してしまう膜の製造方法が開示されている。しかしながら、当該方法では、親水化剤であるポリビニルピロリドンを除去してしまうので、膜の親水性が低下してしまう問題があった。
血液浄化用中空糸膜においては、主に中空糸膜の膜構造、膜組成および膜物性を検討して特定物質の透過性を改善する検討が数多くなされている。具体的には、尿毒症タンパク質(低分子量タンパク質とも称される)を除去するための膜の大孔径化、さらには、生体に有用なアルブミンの透過またはロスを抑制しつつ、それより分子量の小さい低分子量タンパク質を透過させるような分画性の改善、あるいは、低分子量タンパク質に限らず、荷電を有する低分子量の非タンパク性尿毒症物質をより選択的に透過させるための膜表面特性の改善等を例示することができる。
透析治療の長期化により顕在化する合併症で、尿毒性の低分子量タンパク質に起因する合併症の代表的な例として、透析アミロイドーシスがよく知られている。これに対しては、生体に有用なアルブミンの透過を抑制しつつ、透析アミロイドーシスの原因物質であるβ2−マイクログロブリンの除去性能を向上させるべく、中空糸膜の分画性をシャープにするための改善が種々検討されている。また、透析アミロイドーシスをさらに効果的に改善するために、β2−マイクログロブリンと同様に尿毒性の低分子量タンパク質であるα1−マイクログロブリンも除去しようとする検討もなされている。
例えば、特許文献2には、膜内表面近傍の緻密層に親水性高分子を集中させ、膜の透過のバランスを改善し、高い透水性を有するにもかかわらずタンパク質のリークが少ない膜が開示されている。
また、特許文献3には、α1−マイクログロブリンの吸着量と総括物質移動係数の関係が開示されている。
特開平5-161833公報 特開平4−300636号公報 特開平2005―131177号公報
しかしながら、特許文献2及び3に開示された技術では、低分子量タンパク質の除去性能が十分なものではなく改良が求められている。
本発明が解決しようとする課題は、低分子量タンパク質の除去性能を高めた血液浄化用中空糸膜を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である血液浄化用中空糸膜とすることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)
ポリビニルピロリドンを含む血液浄化用中空糸膜であって、
放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜。
(2)
放射線照射後のα1マイクログロブリンの吸着量が0.50mg/m2以下である、(1)に記載の血液浄化用中空糸膜。
(3)
アルブミンの透過率が0.35%以下である、(1)又は(2)に記載の血液浄化用中空糸膜。
(4)
前記血液浄化用中空糸膜が、ポリスルホン系ポリマーをさらに含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
(5)
前記血液浄化用中空糸膜の内径が160μm以上190μm以下、膜厚が25μm以上40μm以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
(6)
前記血液浄化用中空糸膜の破断強度が6MPa以上、破断伸度が60%以上であり、
前記血液浄化用中空糸膜の膜厚が35μm以下では破断強度が7MPa以上、且つ破断伸度が65%以上であり、
前記血液浄化用中空糸膜の膜厚が30μm以下では破断強度が7.5MPa以上、且つ破断伸度が70%以上である、(1)〜(5)のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
(7)
前記血液浄化用中空糸膜中のポリビニルピロリドンを動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
(8)
前記血液浄化用中空糸膜が、膜外表面から膜内表面に向かって連続的に孔径が小さくなる構造を有している、(1)〜(7)のいずれかに記載の中空糸膜。
(9)
前記血液浄化用中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、(1)〜(8)のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
(10)
前記血液浄化用中空糸膜中の前記ポリビニルピロリドンが、
架橋度調整剤を含む溶液を血液浄化用中空糸膜内に注入し、次いで前記架橋度調整剤を含む溶液を前記血液浄化用中空糸膜内から取り除き、その後、前記血液浄化用中空糸膜に放射線照射することによって、架橋度を80%以上100%未満にされたものである、
(1)〜(9)のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
(11)
ポリビニルピロリドンを含む血液浄化用中空糸膜を製造する方法であって、
原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液を濾過する工程と、
前記濾過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程と、
ポリビニルピロリドンを含む溶液により前記中空糸膜の膜内表面をコーティングする工程と、
前記中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンを架橋させる工程と、
を含み、
放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜を製造する方法。
(12)
架橋度調整剤を含む溶液を血液浄化用中空糸膜内に注入する工程をさらに含む、11の血液浄化用中空糸膜を製造する方法。
本発明によれば、放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である血液浄化用中空糸膜とすることにより、低分子量タンパク質の除去性能を高めた血液浄化用中空糸膜を提供することができる。
ポリビニルピロリドン溶液を動的光散乱法にて測定した粒径分布の例である。 血液浄化用中空糸膜がクリンプ形状である一実施形態の模式図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の血液浄化用中空糸膜は、ポリビニルピロリドンを含む血液浄化用中空糸膜であって、
放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜である。
以下に、本発明の血液浄化用中空糸膜(以下、単に「膜」又は「中空糸膜」と記載する場合がある。)の構成について詳細に説明する。
本発明の血液浄化用中空糸膜は、ポリビニルピロリドン(以下、単に「PVP」と記載する場合がある。)を含む。
本発明では、低分子量タンパク質の挙動を示す指標としてα1マイクログロブリンの総括物質移動係数を用いる。α1マイクログロブリンの総括物質移動係数とは、膜に対するα1マイクログロブリンの透過のし易さを意味する。
総括物質移動係数は、下記の式(1)から求められる係数である。
Ko=Ln[(1−CL/QD)/(1−CL/QB)]/[A×(1/QB−1/QD)] (1)
(Lnは自然対数を意味する)
ここで、
Ko:総括物質移動係数(cm/分)
L:測定して得られたクリアランス値(mL/分)
A:クリアランス測定に使用した血液浄化器の有効膜面積(cm2)
B:クリアランス測定に使用した血液浄化器の血液側流量(mL/分)
D:クリアランス測定に使用した血液浄化器の透析液側流量(mL/分)
を意味する。膜面積とは、中空糸膜の内径側の面積をいう。
本発明において総括物質移動係数は、膜面積とQB、QDによる補正が加味された上記式により求められる係数であり、α1マイクログロブリンの膜の透過のし易さを示す指標であり、斯かる総括物質移動係数を0.0040cm/分以上とすることにより、血液浄化用中空糸膜として、低分子量タンパク質の除去性能に優れた膜とすることができる。
近年ではアミロイド骨関節症を引き起こさないために、ポリスルホン系の透析膜ではβ2マイクログロブリン(分子量11,800ダルトン)を除去できることが一般的になってきている。ところが、腎障害、特に重篤な尿細管障害では、血清や尿中のβ2マイクログロブリンだけでなくα1マイクログロブリン濃度が上昇することが知られている。したがって、重篤な腎障害を抑制するためには血液中のα1マイクログロブリン(分子量約33,000ダルトン)を効率よく除去できる膜が本来必要である。しかしながら、α1マイクログロブリンの除去性能を向上させると人体に極めて有用なアルブミン(分子量約66,000ダルトン)の損失も大きくなるという欠点があった。本発明では、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数を0.0040cm/分以上とすることにより、アルブミンの損失を従来の透析膜以上に低く抑えることに成功したものである。
市販の最新の透析器(旭化成クラレメディカル(株)社製 商品名:REXEED 有効膜面積1.5m2(血液側流速200mL/分、透析液側流速500mL/分の測定))では、尿素は99%以上、リンは98%以上、β2マイクログロブリンは60%以上の除去性能を有している。透析対象物の分子量が大きい程除去性能が低下する傾向にあるが、重篤な腎障害を抑制するためにはα1マイクログロブリンの除去性能を市販の最新の透析器のβ2マイクログロブリンの除去性能(60%)と同等以上にする必要がある。本発明の中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数は0.0040cm/分以上であり、この値はα1マイクログロブリンの除去性能を60%以上にすることが可能な値である。
該総括物質移動係数は、好ましくは0.0045cm/分以上、より好ましくは0.0050cm/分以上、0.0060cm/分以上がさらに好ましい。
α1マイクログロブリンの中空糸膜への吸着量とは、α1マイクログロブリンに対する膜の耐汚染性を意味する。
α1マイクログロブリンの中空糸膜への吸着量が増えるに従って、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が経時低下する傾向にある。したがって、総括物質移動係数を0.0040cm/分以上にするには、α1マイクログロブリンの中空糸膜への吸着量は0.50mg/m2以下にすることが好ましい。α1マイクログロブリンの中空糸膜への吸着量が0.40mg/m2以下にすることがより好ましい。α1マイクログロブリンの総括物質移動係数を0.0060cm/分以上にするにすることが可能なので、α1マイクログロブリンの中空糸膜への吸着量を0.30mg/m2以下にすることが特に好ましい。
α1マイクログロブリンの吸着量は、下記実施例に記載の方法により測定することができる。
アルブミンの透過率とは、人体に極めて有用なアルブミンの損失量を意味する。
本発明の中空糸膜は、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数を0.0040cm/分以上とすることにより、低分子量タンパク質の除去性能を高めることができるものであると同時に、アルブミンの損失を従来の透析膜以上に低く抑えることに成功したものであり、アルブミンの透過率は、0.35%以下であることが好ましく、より好ましくは0.30%以下であり、0.25%以下であることがさらに好ましい。
アルブミンの生体内貯蔵量は成人男子で約300g(4.6g/kg)であり、全体の約40%は血管内に、残りの60%は血管外に分布し、相互に交換しながら平衡状態を保っている。アルブミンの分解は筋肉、皮膚、肝、腎などで行われ、1日のアルブミンの分解率は生体内貯蔵量のほぼ4%(0.18g/kg/日)である。また生体内でのアルブミンの半減期は約17日である。一方、アルブミンの生成は主に肝臓(0.20g/kg/日)で行われている。したがって、生体内でのアルブミンの収支は±0に近い状態である。一般に透析患者は週に3回の人工透析により血液浄化を受けている。したがって、アルブミン透過率が0.35%の膜で人工透析を受けると約0.02g/kg/週のアルブミン損失となる。故に、アルブミン透過率が0.35%を超えると生体内でのアルブミンの平衡状態が崩れ他の疾病を引き起こす原因ともなり、好ましくない。
アルブミンの透過率は、下記実施例に記載の方法により測定することができる。
本発明の中空糸膜は、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数を0.0040cm/分以上とするために、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜であり、以下の構成を備えることが好ましい。
本発明の中空糸膜は、ポリビニルピロリドン(以下、単に「PVP」ともいう。)を含む。好ましい態様においては、中空糸膜は、ポリビニルピロリドンと疎水性高分子化合物を主成分とする。ここで、「ポリビニルピロリドンと疎水性高分子化合物を主成分する」とは、ポリビニルピロリドンと疎水性高分子化合物の合計が中空糸膜を構成する材料の80質量%以上を占めることをいい、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
疎水性高分子化合物としては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。ここで、ポリスルホン系ポリマーとは、スルホニル基(−SO2−)を含む繰り返し構造を有する高分子化合物をいい、従来中空糸膜において使用されている公知のものを使用できる。
中空糸膜の内径が160μm以上190μm以下であることが好ましく、より好ましくは170μm以上190μm以下である。
内径が160μm未満では、中空糸膜の中空部内に血液を流したときに、剪断速度や圧力損失が上がることによって溶血する傾向にあるので好ましくない。また、内径が190μmを超えると、低分子量タンパク質の総括物質移動係数が低下する傾向にあるので好ましくない。
本発明において、中空糸膜の膜厚は25μm以上40μm以下が好ましく、より好ましくは、25.5μm以上35μm以下である。本発明者の研究によれば、膜厚が薄い中空糸膜の不純物除去性能が高くなる傾向にあることが判明した。もっとも、膜厚が25μm未満では接着時に中空糸膜の糸潰れが多発し、糸潰れにより性能不良を起こすので、結果として透析用血液浄化器の不純物除去性能が低下する傾向にある。膜厚が40μmを超えると透析用血液浄化器の不純物除去性能を高性能化でき難い傾向にあるので好ましくない。なお、本発明でいう膜厚とは、中空糸膜100本の平均値である。
本発明の中空糸膜の膜厚は好ましい態様では25μm以上40μm以下と薄いので、糸の長手方向の破断強度は6MPa以上、糸の長手方向の破断伸度は60%以上であることが好ましい。膜厚が薄い程、膜の絶対強度が低くなるので、接着時に中空糸膜が接着剤の圧力で潰れる危険性がある。したがって、膜厚が薄くなるにつれて破断強度を高くする必要がある。膜厚が35μm以下であれば破断伸度は7MPa以上が好ましく、膜厚が30μm以下であれば破断伸度は7.5MPa以上が好ましい。また、膜厚が薄いと接着剤界面で膜が切れる危険性がある。したがって、膜厚が35μm以下であれば破断伸度は65%以上が好ましく、膜厚が30μm以下であれば破断伸度は70%以上が好ましい。本発明においては、高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少ない膜とすることができる。
本発明の中空糸膜は、動的光散乱装置にて測定した時の粒径分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下であるポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。このポリビニルピロリドンを用いることにより放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である中空糸膜を得ることが可能である。
ポリビニルピロリドンはポリスルホン系ポリマー等の中空糸膜の骨格を構成する疎水性高分子化合物を親水化にすることに寄与する。しかしながら、本発明者の研究により、ポリビニルピロリドンは必ずしも疎水性高分子化合物の骨格の周りを均一に被っているわけではなく、塊状で存在しているものもあることが分かった。そして、この塊状のポリビニルピロリドンが、膜の濾過抵抗を上げ、膜の透過性能を低下させていると推測される。本発明では、塊状のポリビニルピロリドンが生じる原因を特定すべく、ポリビニルピロリドンについて詳細に調査したところ、ポリビニルピロリドンには、製造過程で生じる複数の分子が絡み合った凝集成分が含まれることを見出し、これが塊状のポリビニルピロリドンを生じさせる原因となっている可能性があることに想到した。そして、中空糸膜中に存在させるポリビニルピロリドンとして、そのような凝集成分の含有量が少ないもの、具体的には、動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であるものを使用することが、放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である中空糸膜を得ることができるため好適である。
本発明においては、ビニル中空糸膜中のエタノール可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは60nm以下である。
本発明者の研究によれば、中空糸膜中のポリビニルピロリドンとして、動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であるものを用いると、血液中の不純物である低分子量タンパク質の除去性能が高くなることが分かった。また、ビタミンB12除去性能も高くすることができる。その理由は以下のように推測される(ただし、これに限定されない)。
すなわち、従来の中空糸膜に使用されている通常のポリビニルピロリドンには、製造過程で生じる複数の分子がからみあった凝集成分が含まれ、これが、塊状で中空糸膜中に存在している。この塊状のポリビニルピロリドンは、膜の濾過抵抗を上げ、膜の透過性能を低下させると考えられる。ポリビニルピロリドンとして、凝集成分の少ないもの、具体的には、その動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下のものを使用すると、ポリビニルピロリドンが塊状で存在することなく、中空糸膜の骨格(例えば、ポリスルホン系ポリマー等の疎水性高分子化合物で構成される骨格)の周りを均一に被うようになるため、膜の濾過抵抗が下がり、膜の透過性能が向上すると推測される。
一般に、ポリビニルピロリドン溶液中に存在するポリビニルピロリドンの粒径分布を動的光散乱装置にて測定すると、粒径値が1〜5,000nmの範囲では、2つのピークが観察される(図1参照)。ここで、図1に示すように小粒径側から順に、一次ピーク(A)、二次ピーク(B)とする。
一次ピークは、協同拡散モードであり、通常の高分子濃厚溶液で観察されるピークである(『ドジャン 高分子の物理学』久保亮五監修、高野宏、中西秀共訳、吉岡書店出版、1997、pp208−210)。協同拡散モードのピークは、ポリビニルピロリドン溶液をフィルター濾過しても濾過の前後で出現するピーク位置は変化しない。
これに対して、二次ピークはポリビニルピロリドン溶液で見られる特有のピークである。本発明者の研究によれば、二次ピークのモード径(ピークにおける粒子径)が小さいほど不純物除去性能が向上し、特に二次ピークのモード径を300nm以下にすると、ビタミンB12のクリアランス値が150mL/分以上という、極めて優れた不純物除去性能が得られることが判明した。二次ピークのモード径は小さいほど好ましく、二次ピークが存在しないポリビニルピロリドンを使用することがさらに好ましい(この場合、「動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピーク」は、一次ピークとなる)。
故に、本発明での理想的なポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は60nm以下である。
なお、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布においてピークの数が2つである場合(典型的な例)を例にとって説明したが、本発明において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンは、動的光散乱法により測定される粒径分布においてピークの数が2つであるものには限られず、最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であるという条件を満たしている限り、2つ以上のピークが存在するポリビニルピロリドンを用いてもよい。
本発明において、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、ポリビニルピロリドンが5.0質量%の濃度になるように調整したジメチルアセトアミド溶液(ポリビニルピロリドン溶液)を、動的光散乱装置(大塚電子(株)社製 FPAR−1000又は同等機)を用いて、25℃の温度で測定することにより求められる。解析条件は、NNLS(非負拘束最少自乗法)を用い、ヒストグラム範囲の設定は自動設定で行なう。但し、粒径値が1〜5,000nmの範囲で得られたピークのみを解析する。また、ポリビニルピロリドン溶液の粘度、屈折率の値としては、25℃のジメチルアセトアミドの物性値を用いる。
本発明において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径とは、中空糸膜からエタノール用いて抽出したエタノール可溶性ポリビニルドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径をいう。
エタノールを用いた中空糸膜からのエタノール可溶性ポリビニルピロリドンの抽出は、下記の方法で行う。
血液浄化器を純水で洗浄し、血液浄化器中の水分量が中空糸膜に対して0.3質量%以下になるまで乾燥する。なお、純水での洗浄は、血液浄化器から架橋度調整剤等が抽出されなくなるまで行う。具体的には、血液浄化器の開口端から純水を注入して血液浄化器の内部を純水で充填し、3分間振とうした後、純水を排出する、という操作を10回繰り返す。次に、50℃のエタノール中に血液浄化器を浸漬して中空糸膜の外表面側から内表面側に該エタノールを3時間濾過循環させる。エタノールの循環には、循環回路にコンタミネーションの無いチューブとジョイント並びにエアポンプを使用する。濾過循環量は30mL/分とする。この時、血液浄化器全体がエタノールに浸漬していることを確認する。3時間後、中空糸膜中を循環したエタノールを、5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD−5、有効濾過面積40cm2)で濾過し、エバポレーターを用いて濾液のエタノールのみを蒸発させてエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを得る。エバポレーターでの加熱は50℃以下で行う。動的光散乱装置にて測定できる量の可溶性ポリビニルピロリドンが得られるまで、同じ種類(製造ロット)の中空糸膜を有する複数の血液浄化器を用いて上記の操作を繰り返す。
透析用途では血液を中空部(膜内表面側)に流すことが主流である。膜内表面に血液中のタンパク質等が膜の孔を塞ぎ難いように、膜内表面に高濃度のポリビニルピロリドンを保持させると同時に透析による濾過における物質移動をスムースにするために中空糸膜の構造を膜外表面から膜内表面に向かって孔径が連続的に小さくなる構造にすることが好ましい。さらに、中空糸膜の構造はスポンジ構造であることが好ましい。ここで、スポンジ構造とは膜断面に孔径(二軸平均径、すなわち、短径と長径の平均値をいう。ここで、短径、長径とは、それぞれ、ボイドに外接する面積が最小となる外接長方形の短辺、長辺とする)が5μm以上のボイドを有さない構造をいう。
中空糸膜が膜外表面から膜内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造である場合、膜厚部の大部分に「フィブリル」という網目状の骨格部分を有する。中空糸膜中に存在する全フィブリルの平均太さは100nm以上200nm以下であることが好ましい。全フィブリルの平均太さが100nm未満では、破断強度と破断伸度が低下する傾向にあるので好ましくない。
全フィブリルの平均太さが200nmを超えると本発明の中空糸膜を透析使用時にアルブミンの透過率が0.35%を超えるので好ましくない。人体に有用であるアルブミン(分子量:67,000)をほとんど透過させない分画性を有する膜が求められているが、本発明における中空糸膜は、膜内表面を構成するフィブリルへの低分子量タンパク質の吸着量を少なくすることにより、低分子量タンパク質の除去性能を高めることができると共に、牛血漿アルブミンの透過率が0.35%以下を実現できる。アルブミンの透過率が0.35%を超えることは体内に有効なアルブミンを大きく損失することを意味することから透析用の膜としては好ましくない。
さらに本発明においては、中空糸膜の膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さYと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さXの比(Y/X)が大きいと、不純物除去性能が向上することも分かった。具体的にはY/Xが1.2以上2.0以下であることが好ましい。膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比は1.2未満では、膜外表面から膜内表面に向かって孔径が連続的に小さくなる傾斜度が小さいために、低分子量タンパク質の除去性能が劣り、また、ビタミンB12やリンのクリアランスが小さくなる傾向にあり、さらに、アルブミンの透過率が0.35%を超える傾向にあるので好ましくない。膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比が大きい程濾過速度(例えば透析でいう不純物除去性能)を向上させるのみではなく、アルブミンの透過率も低く抑えることが可能であるので好ましい。もっとも、2.0を超える膜は後述する(紡速とエアギャップ)並びに(紡口吐出断面積と膜面積)との関係である(Ga/Vs’×Am/As)において製造しにくい条件にあるので好ましくない。
フィブリル(網目状の骨格)の太さは、以下の方法により測定する。対象となる中空糸膜を水で膨潤させた後、−30℃で凍結させた状態で長手方向に垂直に割断することにより、横断面割断試料を得る。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて得られた試料の断面を撮影する。撮影は、加速電圧10kV、撮影倍率10,000倍で行う。この条件により、膜厚方向の断面の部の幅15μm相当の構造を観察できる。
膜厚部の最内側(膜内表面側)を視野の端に合わせてSEM写真を撮影し、これを用いて、膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さを測定する。次に、最外側を視野の端に合わせてSEM写真を撮影し、これを用いて、膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さを測定する。
全フィブリルの平均太さは、膜厚が30μm以下の中空糸膜の場合には、上記の2枚の写真を用いて測定する。一方、膜厚が30μmを超える中空糸膜の場合には、上記2枚の写真ではカバーされない(撮影できていない)部分があるので、膜厚方向において膜内表面と膜外表面からの距離が等しい点である中心点を決めた後、視野の中央をその中心点に合わせてSEM写真を撮影することによって上記2枚の写真で撮影ができない部分を撮影し、これを用いて膜厚方向の中心部にあるフィブリルの平均太さを測定する。
但し、膜厚方向の中心部にあるフィブリルの太さを求めるときは、膜内表面と膜外表面側の写真に含まれない部分を用いる。
本発明で定義するフィブリル(網目状の骨格)の太さとは、前記写真で観察される各フィブリルの中央部付近の最も細くなっている部分の太さ、すなわちフィブリル同士の接合部と接合部の間で最も幅が狭い部分の太さを、フィブリルの長手方向に対して垂直の角度で読み取ったものである。
フィブリルの太さを測定する部位は、幅15μm相当を撮影した各部位の断面SEM写真において、膜厚方向の中央部幅5μm相当の領域帯とし、その領域帯にあるフィブリルを任意に100本選択して太さを測定する。これを各部位の断面SEM写真それぞれについて実施する。それぞれの100本の値の平均値を、各部位(膜厚方向の外側、内側及び中心部(膜厚が30μmを超えるときのみ))のフィブリルの平均太さとする。また各平均値を相加平均した値を全フィブリルの平均太さとする。
本発明において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、80%以上100%未満であることが好ましく、好ましくは80%以上99%以下、より好ましくは85%以上95%以下である。
中空糸膜中のPVPの架橋度が80%未満であると、中空糸膜中に存在して中空糸膜の親水化に寄与しているポリビニルピロリドンが膜から溶出する可能性がある。一方、架橋度を100%にしてしまうと、溶出量を低減できる一方で、透析時にロイコペニア症状が観察されることがある。
本発明において、ポリビニルピロリドンの架橋度は、下記の式(2)で定義される。
PVPの架橋度(%)
=水に不溶であるPVP量/全PVP量×100 (2)
ここで、水に不溶であるPVP量とは、全ポリビニルピロリドンの量(全PVP量)から水に可溶であるPVP量を差し引いたものである。
そして、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、単位重量の中空糸膜に含まれる、全PVP量と、(そのうちの)水に不溶であるPVP量から求めることができる。単位重量の中空糸膜中の全PVP量は、乾燥した中空糸膜0.2〜0.5mgを横型反応炉(800〜950℃)で気化・酸化させ生成した一酸化窒素の濃度を化学発光法で測定し(装置は三菱化学製TN−10を使用)、得られた濃度から単位重量の中空糸膜中に含まれるPVP量に換算する。定量に際しては、予め、含窒素ポリマーの標準試料を用いて作成した検量線を用意し、これを用いて濃度を決定する。また、水に可溶であるPVP量は、以下の方法により求めることができる。
すなわち、単位質量の中空糸膜を水分量が0.3質量%以下になるように乾燥し、これをN−メチル−2−ピロリドンに、2.5質量%の濃度になるように溶解し、溶液を作成する。その溶液に、その体積の1.7倍の量の水を添加して10分間攪拌することにより、中空糸膜中のポリスルホン系ポリマーを十分に析出させる。水に可溶であるPVPは、析出したポリスルホン微粒子とともに溶液中に含まれる。次いで、溶液中のポリスルホン微粒子をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)用の非水系フィルター(東ソー製、孔径:2.5μm)で濾過して除去し、濾液中に含まれるポリビニルピロリドンをHPLCにて定量する(装置:Waters、GPC−244、カラム:TSKgelGMPWXL2本、溶媒:0.1M塩化アンモニウム(0.1Nアンモニア)、pH9.5の塩化アンモニウム水溶液,流速:1.0ml/分、温度:23℃)。以上のようにして定量した濾液中に含まれるポリビニルピロリドンの量が、中空糸膜の単位重量当たりに含まれる水に可溶であるPVP量である。なお、PVPの架橋度を算出する際の水に可溶であるPVP量としては、上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いる。
中空糸膜の形態は特に限定する必要はなく、いわゆるストレート糸であってもよいが、血液透析に用いる際の拡散効率の観点から、クリンプが付与されている方が好ましい。図2に示すようにクリンプの形状は波長(1)と振幅(2)で定義する。波長は2mm以上20mmが好ましく、より好ましくは4mm以上8mm以下である。一方、振幅は0.1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以上1mm以下である。波長が短い程血液浄化器への充填率が高くなるのでよいが、2mm未満の波長にするのが難しい傾向にある。波長が20mmを超えるとクリンプの効果が出にくい傾向にある。振幅が0.1mm未満でもクリンプの効果が出にくい傾向にあり、5mmを超えると接着時の血液浄化器化が難しい傾向にある。
本発明の中空糸膜は膜孔保持材を実質的に用いないことが好ましい。
本発明でいう膜孔保持剤とは、乾燥時の性能低下を防ぐために、乾燥前までの製造過程で膜中の空孔部分に詰めておく物質である。膜孔保持剤を含んだ溶液に湿潤膜を浸漬することによって膜中の空孔部分に該保持剤を詰めることが可能である。乾燥後も膜孔保持剤を洗浄・除去さえすれば、膜孔保持剤の効果により湿潤膜と同等の透水量、阻止率等の性能を保持することが可能である。しかしながら、膜孔保持剤が膜中及び/又は血液浄化器封入液中に微量に存在することにより、膜孔保持剤との化学反応により生成した様々な誘導体を問題視する報告がある。本発明の膜はこの膜孔保持剤を製造工程で使用していないことから、膜孔保持剤由来の溶出物は実質的に存在しないことが好ましい。
本発明の膜の溶出物試験液の吸光度は0.1以下であることが好ましい。ここで、溶出物試験液とは、人工腎臓装置承認基準に準じて調整したものであり、2cmに切断した乾燥中空糸状膜1.5gと注射用蒸留水150mLを日本薬局方の注射用ガラス容器試験のアルカリ溶出試験に適合するガラス容器に入れ、70±5℃で1時間加温し、冷却後膜を取り除いた後蒸留水を加えて150mLとしたものを意味する。吸光度は220〜350nmでの最大吸収波長を示す波長にて紫外吸収スペクトルで測定する。厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準では吸光度を0.1以下にすることが定められているが、本発明の膜は膜孔保持剤を保持しないことから、溶出物試験液の0.04未満の吸光度を達成することが可能である。また、膜孔保持剤の有無については、該溶出物試験液を濃縮又は水分除去したものをガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、示差屈折計、紫外分光光度計、赤外線吸光光度法、核磁気共鳴分光法、及び元素分析等の公知の方法により測定することにより検知可能である。また、膜中に膜孔保持剤を含むか否かについてもこれらの測定方法により検知可能である。
膜孔保持剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2−ブチン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400等のグリコール系又はグリセロール系化合物及び蔗糖脂肪酸エステル等の有機化合物および塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機塩を挙げることができる。
本発明の中空糸膜は、下記の製造方法により製造されることが好ましく、下記の製造方法により中空糸膜を製造することにより、放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜とすることができる。
本発明の中空糸膜を製造する方法は、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を製造する方法であって、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液を濾過する工程と、前記濾過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程と、ポリビニルピロリドンを含む溶液により前記中空糸膜の膜内表面をコーティングする工程と、前記中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンを架橋させる工程と、を含む製造方法であることが好ましく、架橋度調整剤を含む溶液を血液浄化用中空糸膜内に注入する工程をさらに含むことが拠り好ましい。本発明において、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液を濾過する工程は、動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であるポリビニルピロリドンを含む溶液を用意する工程であってもよく、ポリビニルピロリドンを含む溶液により前記中空糸膜の膜内表面をコーティングする工程と、前記中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンを架橋させる工程とが、前記中空糸膜の開口端から、ポリビニルピロリドンを含むコーティング溶液及び架橋度調整剤溶液を中空糸膜内に注入し、次いでこれらの溶液を中空糸膜内から取り除き、その後中空糸膜に放射線照射する工程であってもよい。
本発明における中空糸膜の製造方法の具体例について説明する。
中空糸膜の製膜原液は、温調可能な容器に、必要に応じて超音波振動を加えながら、ポリビニルピロリドン溶液と、その他の材料(例えば、ポリスルホン系ポリマー(又はポリスルホン系ポリマーと溶剤))を入れ、攪拌機またはヘンシルミキサー等の混合機を用いて溶解することにより製造することができる。
ポリスルホン系ポリマー等中にも不純物等が混入している可能性があることから、製膜原液を調製後、不純物又は未溶解物等を取り除くために孔径40μm以下程度のフィルターで濾過することも可能である。
本発明において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径を300nm以下にする方法の具体例としては、中空糸膜を製造する際に用いるポリビニルピロリドン溶液を、予めフィルターを用いて濾過しておくことが挙げられる。その際、ビニルピロリドン溶液に超音波振動を加えながら濾過することも可能である。
ポリビニルピロリドン溶液中のポリビニルピロリドン濃度は、用いるポリビニルピロリドンの分子量により異なるが、重量平均分子量1,200,000のポリビニルピロリドンであれば0.1〜15質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では実用的でなく、15質量%を超えるとフィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えるため好ましくない。
ポリビニルピロリドン溶液の温度は、用いる溶剤及びフィルターの材質により異なるが、35〜120℃であることが好ましい。35℃未満では、フィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えることもあり、120℃以上で長時間保温するとポリビニルピロリドンが架橋または変性する恐れがあり好ましくない。
ポリビニルピロリドン溶液の濾過流量は、0.01〜3mL(ミリリットル)/(分(単位時間)・cm2(フィルター単位有効濾過面積あたり))であることが好ましい。0.01mL/(分・cm2)未満では濾過流量が遅いため実用的でなく、3mL/(分・cm2)を超えるとフィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えることがあるため好ましくない。
フィルターの最小孔径(以下、単に「孔径」という)は0.01〜3μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.5μm、さらに好ましくは0.1〜2μmである。フィルターの孔径が3μmより大きくなると、動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径を300nm以下にするのが難しく、孔径が0.01μm未満では濾過速度が低くて実用的でない。
フィルター濾過時にポリビニルピロリドン溶液に加える超音波振動の周波数は、20kHz以上1000kHz以下であることが好ましく、より好ましくは40kHz以上100kHz以下である。20kHz未満では効果が低い傾向にあるので好ましくない。1000kHzを超えると繰返し長時間超音波振動を与えたときにフィルター並びにフィルターハウジングが破損する怖れがあるので好ましくない。
中空糸膜の製膜原液は、温調可能な容器に、必要に応じて超音波振動を加えながら、ポリビニルピロリドン溶液と、その他の材料(例えば、ポリスルホン系ポリマー(又はポリスルホン系ポリマーと溶剤))を入れ、攪拌機またはヘンシルミキサー等の混合機を用いて溶解することにより製造することができる。
ポリスルホン系ポリマー等中にも不純物等が混入している可能性があることから、製膜原液を調製後、不純物又は未溶解物等を取り除くために孔径40μm以下程度のフィルターで濾過することも可能である。
本発明で用いることのできるポリスルホン系ポリマーとしては、下記の一般式(1)、または一般式(2)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。なお、式中のArはパラ位での2置換のフェニル基を示し、重合度や分子量については特に限定しない。
−O−Ar−C(CH32−Ar−O−Ar−SO2−Ar− (1)
−O−Ar−SO2−Ar− (2)
ポリビニルピロリドン溶解液や製膜原液の溶剤としては、ポリビニルピロリドンとその他の膜の材料を溶解するものであればよく、例えば、ポリスルホン系ポリマーを用いる場合であれば、溶剤はN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド等が用いられる。
本発明で用いられるポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、10,000〜1,300,000の範囲であることがより好ましい。本発明は、特に重量平均分子量800,000以上の高分子量のポリビニルピロリドンを用いる場合に有効であり、重量平均分子量800,000以上の高分子量のポリビニルピロリドンを用いてもピンホールや膜破れ等の欠陥部が少ない。
製膜原液中の疎水性高分子化合物(ポリスルホン系ポリマー等)の濃度は、該原液からの製膜が可能で、かつ得られた膜が膜としての性能を有するような濃度の範囲であれば特に制限されず、1〜50質量%、好ましくは10〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%である。高い透水性能又は大きな分画分子量を達成するためには、ポリマー濃度は低い方がよく、10〜25質量%が好ましい。また、製膜原液には、原液粘度、溶解状態を制御する目的で、水、塩類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、グリコール類等の非溶剤を複数添加することも可能であり、その種類、添加量は組み合わせにより随時決定すればよい。
製膜原液中のポリビニルピロリドンの量は、1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%であるが、用いるポリビニルピロリドンの分子量により最適濃度が決定される。
中空糸膜は、例えば、上記の製膜原液を、内部液とともに2重環状ノズルから凝固浴中に同時に吐出させ、凝固させることにより製造することができる。
中空糸膜の製造に用いられる内部液は、中空糸膜の中空部を形成させるために用いるものである。外表面に緻密層を形成させる場合は、内部液としてジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等からなる郡より選ばれる溶剤の高濃度水溶液を用いることができる。内表面に緻密層を形成させる場合は、内部液には後述する凝固浴に記載したものを採用することができる。また、内部液の粘性を制御する目的でテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類及びグリセリン等の非溶剤を加えることも可能である。
中空糸膜は、公知のチューブインオリフィス型の2重環状ノズルを用いて製膜することができる。より具体的には、前述の製膜原液と内部液とをこの2重環状ノズルから同時に吐出させ、エアギャップを通過させた後、凝固浴で凝固させることにより本発明の中空糸膜を得ることができる。
ここで、エアギャップとは、ノズルと凝固浴との間の距離(隙間)を意味する。膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造を有する膜を得るためには、紡速(m/分)に対するエアギャップ(m)の比率が極めて重要である。何故ならば膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造は、内部液中の非溶剤が製膜原液と接触することによって該製膜原液の内表面部位から外表面部位側へと経時的に相分離が誘発され、さらに該製膜原液が凝固浴に入るまでに膜内表面部位から外表面部位までの相分離が完了しなければ、得られないからである。
紡速(Vs)に対するエアギャップ(Ga)の比率(Ga/Vs)は、中空糸膜の膜厚が34μm以上である場合には0.01〜0.1m/(m/分)であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.05m/(m/分)である。紡速に対するエアギャップの比率が0.01m/(m/分)未満では、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造の膜を得ることが難しく、0.1m/(m/分)を超える比率では、膜へのテンションが高いことからエアギャップ部で膜切れを多発し、製造しにくい傾向にある。一方、膜厚が34μm未満である場合には製膜原液中の良溶剤量が少ないのでGa/Vsが低くても膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造を得ることが可能である。膜厚が34μm未満である場合には、Ga/Vsが0.001〜0.01m/(m/分)であることが好ましい。
ここで、紡速(Vs)(m/分)とはノズルから内部液とともに吐出した製膜原液がエアギャップを通過して凝固浴にて凝固した膜が巻き取られる中空糸膜の一連の製造工程における膜の移動速度をいい、延伸操作がある場合には延伸操作をする前までの中空糸膜の移動速度を意味する。
また、エアギャップを円筒状の筒などで囲み、一定の温度と湿度を有する気体を一定の流量でこのエアギャップに流すと、より安定した状態で中空糸膜を製造することができる。
さらに、製膜原液が吐出する紡口の断面積(As)と得られた膜の断面積(Am)の関係がフィブリルの太さに影響することが分かった。Am/Asは単位時間当たりの製膜原液の吐出量に対する膜形成ポリマーの残存率を意味する。したがって、Am/Asが大きい程フィブリルの太い膜が得られる。本発明ではGa/Vs’(ここで、Vs’(m/秒)は前述の紡速Vs(分速)を、秒速に換算した値である。)とAm/Asの積(単位:m/(m/秒))が0.15以上0.75以下であれば、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造であって、膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比が1.2以上2.0以下であるの膜構造にすることが可能である。Ga/Vs’とAm/Asの積が0.15未満では膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比は1.2未満となりGa/Vs’とAm/Asの積が0.75を超えると膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比は2.0未満を超える傾向にある。
さらに、本発明ではGa/Vs’とAm/Asの積の関係と他の製膜条件を調整することにより全フィブリルの平均太さを100nm以上200nm以下に調整することが可能である。
凝固浴としては、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;エーテル類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類など重合体を溶解しない、製膜原液に対して相分離を誘発させる液体(非溶剤)が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、凝固浴に前記重合体の良溶剤を添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。
凝固浴の温度は、−30〜100℃、好ましくは0〜98℃、さらに好ましくは10〜95℃である。凝固浴の温度が100℃を超えたり、又は、−30℃未満であると、凝固浴中の膜の表面の状態が安定しにくい。
中空糸膜に電子線及びガンマー線等の放射線を照射することにより、膜中のPVPを架橋することが可能である。放射線の照射は、中空糸膜を血液浄化器化前又は血液浄化器化後のどちらでもよい。
ポリビニルピロリドンの架橋度が高い膜では血液適合性が低くなる傾向にある。血液浄化器では膜の内表面に血液を流すのが一般的である。本発明ではポリビニルピロリドンを含む膜を製造した後、さらに膜の内表面にポリビニルピロリドンをコートしてコーティング層を設けることが好適である。膜の内表面にポリビニルピロリドンをコートすることにより、ポリビニルピロリドンの架橋度が高くても膜内表面に存在するポリビニルピロリドンの量が多いので血液適合性が向上する傾向にあるため好ましい。
中空糸膜は、ポリビニルピロリドンでコートすることにより、フィブリルがポリビニルピロリドンでコートされていることが好ましく、該中空糸膜は、膜内表面にフィブリルにコートされたポリビニルピロリドン層を有する膜である。
中空糸膜を血液浄化器に成型してから該中空糸膜の内表面にポリビニルピロリドンを接触させるには、架橋度調整剤溶液にポリビニルピロリドンを溶解した水溶液を中空糸膜内に注入してから、該中空糸膜内の水溶液を取り除いた後に放射線照射することにより行うことができ、ポリビニルピロリドンを溶解した溶液を中空糸膜内に注入してから、架橋度調製剤溶液を溶解した溶液を中空糸膜内に注入してから放射線照射することにより行うこともできる。
使用するポリビニルピロリドンの分子量は、上述した製膜原液に使用するポリビニルピロリドンと同様であることが好ましい。溶液中のポリビニルピロリドンの濃度は、ポリビニルピロリドンの分子量に影響されるが、0.01質量%以上20質量%以下が好ましい。より好ましくは、0.05質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。溶液中のポリビニルピロリドンの濃度が0.01質量%未満では、コートの効果がない傾向にある。一方、コーティング溶液中のポリビニルピロリドンの濃度が20質量%を超えると膜の透過性能が大きく低下する傾向にある。また、中空糸膜内部へのポリビニルピロリドンのコーティングの際の放射線照射と、ポリビニルピロリドン架橋の際の放射線照射を同時に行うべく、ポリビニルピロリドンを含むコーティング溶液及び架橋度調整剤溶液をこの順で中空糸膜内に注入し、これらの溶液を中空糸膜内から取り除いた後に、放射線照射を行うこともできる。コーティング溶液と架橋度調整剤溶液の混合液を中空糸膜内に注入し、この混合液を中空糸膜内から取り除いた後に、放射線照射を行うこともできる。
ポリビニルピロリドンに対して架橋処理を行う前に、上記架橋度調整剤を含む溶液で中空糸膜の膜内表面をコーティングすることで、ポリビニルピロリドンを必要以上に架橋されることを抑制できる。架橋度調製剤を含む溶液で中空糸膜内の膜内表面をコーティングする前に、ポリビニルピロリドンを含む溶液で、ポリビニルピロリドン層をコートすることが好ましく、また、架橋度調製剤とポリビニルピロリドンを含む溶液をコーティングすることも好ましい。この場合、架橋度調整剤の溶液におけるポリビニルピロリドンの含有量0.05質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上である。
特に、本発明の中空糸膜を医療用として用いる場合、衛生上の観点から放射線照射等により滅菌処理を行うが、この放射線処理によって必要以上にゲル化が進んでしまうことを防止できる。
中空糸膜に架橋度調整剤を付着した状態で放射線照射することにより、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度を適宜調整することが可能である。
架橋度調整剤としては、放射線照射に対してポリビニルピロリドンの架橋反応を阻害するものであれば特に限定されるものではない。しかしながら、血液浄化用途に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、生理的水溶液で洗浄しやすく、且つ毒性の低いものが好適に用いられる。なかでも水溶性ビタミン、グリセリン、マンニトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テロラエチレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリグリコール類、エタノール等のアルコール類、ポリエチレンイミン、ポリフェノール、トレハロース、グルコースなどの糖類、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩、二酸化炭素などが挙げられ、好適に使用される。これらの架橋度調整剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。中でも人体に害が少ないグルコースなどの糖類が好ましい。
中空糸膜に付着させる架橋度調整剤の量や種類並びに中空糸膜の周りに存在させる架橋度調整剤の水溶液中の濃度については、放射線照射線量並びに照射時間、目的とする架橋度により適宜調整することが可能である。
中空糸膜に架橋度調整剤を付着した状態で放射線照射する方法としては、例えば、中空糸膜を架橋度調整剤を含む溶液に浸漬させ、架橋度調整剤を含む溶液中で中空糸膜に放射線を照射する方法が挙げられる。この場合、架橋度調整剤を含む溶液中の酸素を除くことが目的の架橋度を再現よく制御するのに有効である。溶液の脱酸素は窒素、アルゴン等の不活性気体をバブリングすることにより可能である。また、市販のデガッサーを用いることにより又は加熱、減圧にすることにより脱酸素することも可能である。溶液中の酸素濃度は1気圧下において0.1mg/L以上1mg/L以下であることが好ましい。酸素濃度が0.1mg/L未満では90%未満の架橋度を得るのが難しい傾向にある。一方、1mg/Lを超えると90%以上の架橋度を再現よく得るのが難しい傾向にある。
気体中でドライタイプの中空糸膜中のポリビニルピロリドンを架橋させるには、血液浄化器の開口端から架橋度調整剤溶液をいったん中空糸膜内に注入してから、該中空糸膜内の架橋度調整剤溶液を取り除き、その後、放射線照射する方法が挙げられる。この場合、該中空糸内の架橋調整剤を取り除いた後、血液浄化器内の酸素濃度を0.01体積%以上10体積%以下にして、放射線照射することが好ましい。より好ましくは酸素濃度0.1体積%以下5体積%以下で放射線照射する。血液浄化器内の酸素濃度が0.01体積%未満になると、容器やヘッダーの着色が付き、製品外観が悪くなるので好ましくない。一方、血液浄化器内の酸素濃度が10体積%を超えると、空気中の酸素からラジカルが発生し、中空糸膜中のポリビニルピロリドンが分解してしまうと考えられ、溶出物が増加する傾向にある。酸素濃度を調節するために、脱酸素剤を用いてもよい。
本発明でいう放射線照射とは、電子線、ガンマー線等を用いた放射線照射をいい、その線量は5kGy以上50kGy以下であり、好ましくは15kGy以上30kGy以下、より好ましくは25kGy付近である。
一般に、血液浄化用中空糸膜は、血液中の尿素、水分等の不要物の除去並びに血液、血漿からの病気原因物質等の除去のために用いられる。例えば、高脂血病患者であれば、血液から血漿のみを取り出して、該血漿から脂質を除去することも可能である。本発明の血液浄化用中空糸膜は、特に透析用途に用いることが好ましい。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。各測定方法は、下記のとおりである。
なお、測定サンプルとして使用した中空糸膜は、すべて十分に水を含浸させた状態のものを用いた。
得られた中空糸膜を1.5m2の有効膜面積(膜内表面)になるように血液浄化器化し、ダイアライザー性能評価基準(昭和57年9月日本人工臓器学会編)に準じて実施した。
牛血清(凍結品:Valley Biomedical,Inc)を37℃で加温溶解した後、総タンパク量が6.5g/dLとなるように生理食塩水で希釈した。この血清に精製α1マイクログロブリン(栄研化学(株)製 α1−Mハイグレード栄研、濃度0.4mg/mL)を添加してα1マイクログロブリン濃度が8±1mg/Lになるような調整液を作成した。
血液側にこの調整液を血液側流量200mL/分で循環し、透析液側には生理食塩水を透析液側流量500mL/分で流して濾過がない条件で透析を行い、血液入口側および出口側から循環液をサンプリングした。サンプリングした液中のα1マイクログロブリン濃度を、全自動免疫化学分析装置(栄研化学(株)製LX−6000、又は同等機)を用いて測定した。
総括物質移動係数は下記の式(1)から求めた。
Ko=Ln[(1−CL/QD)/(1−CL/QB)]/[A×(1/QB−1/QD)] (1)
(Lnは自然対数を意味する)
ここで、
Ko:総括物質移動係数(cm/分)
L:測定して得られたクリアランス値(mL/分)
A:クリアランス測定に使用した血液浄化器の有効膜面積(cm2)
B:クリアランス測定に使用した血液浄化器の血液側流量(mL/分)
D:クリアランス測定に使用した血液浄化器の透析液側流量(mL/分)
を意味する。
[α1マイクログロブリンの吸着量の測定方法について]
α1マイクログロブリンのクリアランス測定で使用した調整液と生理食塩水及び血液浄化器を用いて、下記の式(3)からα1マイクログロブリンの吸着量を測定した。
吸着量={[クリアランス測定前の調整液の量(L)×測定前の調整液中のα1MG
濃度(mg/L)]−[クリアランス測定後の調整液の量(L)×測定後の調 整液中のα1MG濃度(mg/L)]−[クリアランス測定後の生理食塩水量(L)×測定後の生理食塩水中のα1MG濃度(mg/L)]−[クリアランス測 定後の血液浄化器の乾燥前後の重量差(g)/1000(g/L)×測定後の生理食 塩水中のα1MG濃度(mg/L)]}/血液浄化器の有効膜面積(m2) (3)
ここで、 1000(g/L)は水の比重を意味する。血液浄化器の乾燥は含水率が0.3%以下になるまで乾燥した。
[α1マイクログロブリンのクリアランスの測定方法]
クリアランスは下記の式(4)により算出した。なお、乾燥状態にある血液処理器については、湿潤化処理を行い60分経過した後測定に使用した。
クリアランス(mL/分)=[(CB(in)−CB(out))/CB(in)]×QB (4)
B(in):血液浄化器入口側のα1マイクログロブリン濃度
B(out):血液浄化器出口側のα1マイクログロブリン濃度
B:血液側流量(mL/分)=200
[アルブミンの透過率の測定方法]
アルブミン(以下単にAlb.ともいう)の透過率は、以下のような方法で測定した。中空糸膜を100本束ねて有効長18cmのミニモジュールを作製した。
生理食塩水を加えて総タンパク濃度を6.5g/dLに調整した牛血清を元液とし、これを線速0.4cm/秒でミニモジュールに通液し、膜間圧力差25mmHgの圧力をかけて濾液を採取した。元液と測定環境の温度は25℃とした。なお、ミニモジュールを構成する中空糸膜は湿潤状態でも乾燥状態でも構わない。続いて、アルブミンの濃度をBCG法によって求め、下記の式(5)で求められる値をアルブミンの透過率として求めた。
Alb.の透過率(%)=濾液のAlb.濃度/元液のAlb.濃度×100 (5)
ここで、アルブミンの透過率は60分間通液後の値を使用する。
膜の破断強度は、(株)島津製作所製のオートグラフAGS−5Dを使用し、サンプル長さ30mm、25℃、引っ張りスピード50mm/分で測定した。
破断強度は、中空糸膜1本当たりの破断時荷重を、引っ張る前の膜断面積当たりの算出(kgf/cm2)で表し、破断伸度(伸び)は、元の長さに対する破断までに伸びた長さ(%)で表した。
[実施例1]
(ポリビニルピロリドン溶解液の作製及び該溶解液の濾過)
100℃以下の温度での乾燥により含水率を0.3質量%以下としたポリビニルピロリドン(BASF社製、K90、重量平均分子量1,200,000)84gをジメチルアセトアミド1576gに溶解して均一な溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)とした(ポリビニルピロリドン濃度5.06質量%)。
この溶液を70℃に保温して孔径2μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS−02S2、有効濾過面積20cm2)を用いて濾過流量2mL/(分・cm2)にて濾過した。濾過中は焼結フィルターを超音波洗浄機中に浸漬して、ポリビニルピロリドン溶解液に常時59kHz(出力3kW)の超音波振動を付与した。
フィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液を5.0質量%の濃度になるように調整して、動的光散乱装置にて測定したときのポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、130nmであった。ここで、動的光散乱装置にて測定したときのポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径としては、10回測定し、最大値と最小値を除いた8点の平均値を用いた。
(製膜原液の作製及び製膜)
上記のフィルター濾過後の溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)830gに芳香族ポリスルホン(Amoco Engineering Polymers社製 P−1700)170gを添加して溶解することにより均一な溶液(製膜原液)を作製した。ポリスルホンの未溶解物等を除去するために、この製膜原液を孔径5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD−5、有効濾過面積40cm2)を用いて濾過した。
この溶液(製膜原液)を脱泡後60℃に保ち、ジメチルアセトアミド54質量%と水46質量%との混合溶液からなる内部液とともに、紡口(2重環状ノズル 0.1mm−0.2mm−0.3mm)から吐出(内部液は内壁直径0.1mmの環状ノズルから吐出、製膜原液は外壁直径0.2mmと内壁直径0.3mmの間から吐出)させ、380mmのエアギャップを通過させて70℃の水からなる凝固浴に浸漬させた。この時、紡口から凝固浴までを円筒状の筒で囲み、筒の中のエアギャップの湿度を100%、温度を45℃に制御した。紡速は27m/分に固定した。得られた中空糸膜を巻取る前にクリンパー(中空糸膜へのクリンプ付与装置)で波長6mm、振幅0.6mmのクリンプを付与した。クリンパーでの乾燥温度を155℃、乾燥時間を120秒に設定した。
巻き取った9600本の中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積が1.5m2となるように設計したポリプロピレン製筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。さらに、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。
2gのポリビニルピロリドンK90(BASF社製、K90、重量平均分子量1,200,000)を70℃の純水1,998gに溶解した溶液(PVPコーティング溶液)を作成した。この溶液を70℃に保温して孔径2μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS−02S2、有効濾過面積20cm2)を用いて濾過流量2mL/(分・cm2)にて濾過した。なお、濾過中は焼結フィルターを超音波洗浄機中に浸漬して、ポリビニルピロリドン溶解液に常時59kHz(出力3kW)の超音波振動を付与した。この溶液を開口端から中空糸膜の中空部に2.3秒間注入し、0.3MPaのエアーで10秒間フラッシュさせた。
さらに、グルコース(和光純薬社製、特級)360gを70℃の純水1,640gに溶解した架橋度調整剤溶液を作成した。
この溶液を開口端から中空糸膜の中空部に2.3秒間注入し、0.3MPaのエアーで10秒間フラッシュさせた後、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。血液流出入側ノズルに栓を施した後、滅菌袋に脱酸素剤(三菱ガス化学社製 エージレス(登録商標))と共に入れ、酸素濃度を3.5%に調整後、電子線を20kGy照射した。
この血液浄化器のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0046[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。
血液浄化器からエタノール抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの粒径分布を動的光散乱装置にて測定したところ、粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、130nmであり、中空糸膜を製造する際に用いたポリビニルピロリドンの値と変わらないことが確認できた。
この血液浄化器の性能を表1に示す。
なお、本中空糸膜を1.5m2の血液浄化器に作成して放射線照射後にビタミンB12のクリアランス値並びにリンのクリアランス値を測定した値は、それぞれ154mL/分、188mL/分であった。また、アルブミンの透過率は、0.25%であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例2]
内部液濃度を51質量%にして、実施例1と同様な操作を行った。膜厚は40.0μmであった。この中空糸膜の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0043[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例3]
内部液濃度を53質量%、エアギャップを180mm、紡速を39m/分にして、実施例1と同様な操作を行った。(Ga/Vs’×Am/As)の値は0.159であった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0050[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例4]
内部液濃度を53質量%、エアギャップを615mm、紡速を36m/分にして、実施例1と同様な操作を行った。(Ga/Vs’×Am/As)の値は0.728であった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0042[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例5]
内部液濃度を53質量%、エアギャップを210mm、紡速を33m/分にして、実施例1と同様な操作を行った。膜厚は25.5μmであった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0049[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例6]
架橋度調整剤溶液中のグルコース濃度を2質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は99.2%であった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0046[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例7]
架橋度調整剤溶液中のグルコース濃度を5質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は94.3%であった。この血液浄化器の性能を表1に示す。
この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0046[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例8]
架橋度調整剤溶液中のグルコース濃度を40質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は80.7%であった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0046[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例9]
架橋度調整剤溶液中のグルコース濃度を30質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は85.8%であった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0046[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例10]
ポリビニルピロリドン溶解液の濾過に用いるフィルターを孔径3μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS−03S2、有効濾過面積20cm2)にした以外は、実施例2と同様な操作を行った。フィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液を希釈して、動的光散乱装置にて測定した時のポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、290nmであった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0040[cm/分]、0.49[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例11]
フィルター濾過時のポリビニルピロリドン溶解液の温度を90℃にした以外は、実施例2と同様な操作を行った。フィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液を希釈して、動的光散乱装置にて測定した時のポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、40nmであった。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0045[cm/分]、0.45[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例12]
PVPコーティング溶液中のポリビニルピロリドン濃度を0.5質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0056[cm/分]、0.39[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[実施例13]
PVPコーティング溶液中のポリビニルピロリドン濃度を1.0質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。この血液浄化器の性能を表1に示す。この中空糸膜のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数並びに吸着量は、それぞれ、0.0069[cm/分]、0.28[mg/m2]であった。また、膜孔保持材を有していない中空糸膜であって、人工腎臓装置承認基準に基づいた溶出物試験液で溶出がなく且つ該溶出物試験で溶出物試験液中に膜孔保持材を含まなかった。
高破断強度、高破断伸度で且つ溶出量が少なく、α1マイクログロブリンの総括物質移動係数が高く、アルブミンの透過率が低い中空糸膜であることが明らかとなった。
[製造例1]
ポリビニルピロリドン溶解液の濾過に用いるフィルターを孔径5μmのステンレス製の焼結フィルター(富士フィルター(株)社製、FD−5、有効濾過面積40cm2)にしてポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例2と同様な操作を行った。フィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液を希釈して、動的光散乱装置にて測定した時のポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、550nmであった。この血液浄化器の性能を表2に示す。なお、本中空糸膜を1.5m2の血液浄化器に作成して放射線照射後にビタミンB12のクリアランス値並びにリンのクリアランス値を測定した値は、それぞれ147mL/分、183mL/分であった。また、アルブミンの透過率は、0.20%であった。実施例2と比べて血液中の不純物の除去性能が低いことが明らかとなった。
[製造例2]
内部液濃度を51質量%にして、実施例1と同様な操作を行った。膜厚は40.8μmであった。この血液浄化器の性能を表2に示す。破断強度が6.0MPa未満、破断伸度が60%未満であった。
[製造例3]
内部液濃度を53質量%、エアギャップを180mm、紡速を39m/分にして、実施例1と同様な操作を行った。(Ga/Vs’×Am/As)の値は0.145であった。この膜の性能を表2に示す。
[製造例4]
内部液濃度を53質量%、エアギャップを585mm、紡速を24m/分にして、実施例1と同様な操作を行った。(Ga/Vs’×Am/As)の値は0.755であった。この血液浄化器の性能を表2に示す。膜切れが多発して、長時間安定的な生産が困難な結果となった。
[製造例5]
内部液濃度を53質量%、エアギャップを210mmにして、実施例1と同様な操作を行った。この血液浄化器の性能を表2に示す。
[製造例6]
架橋度調整剤溶液を純水にして、水溶液中の酸素を除去しない以外は、実施例1と同様な操作を行った。中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は100%であった。この血液浄化器の性能を表2に示す。ポリビニルピロリドンの架橋度が100%であったので、可溶性ポリビニルピロリドンを得られなかった。従って、ポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径を測定することはできなかった。この血液浄化器を臨床血液評価したところ、透析患者の白血球数が一時的に低下するロイコペニア症状が観察された。
[製造例7]
架橋度調整剤溶液中のグルコース濃度を45質量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は77.9%であった。この血液浄化器の性能を表2に示す。
[製造例8]
ポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例10と同様な操作を行った。フィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液を希釈して、動的光散乱装置にて測定した時のポリビニルピロリドンの粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、320nmであった。この血液浄化器の性能を表2に示す。血液中の不純物の除去性能が低いことが明らかとなった。
本発明の血液浄化用中空糸膜は、血液透析などの血液浄化に用いられる医療機器の分野において産業上利用可能である。
A 一次ピーク
B 二次ピーク
1 波長
2 振幅

Claims (12)

  1. ポリビニルピロリドンを含む血液浄化用中空糸膜であって、
    放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜。
  2. 放射線照射後のα1マイクログロブリンの吸着量が0.50mg/m2以下である、請求項1に記載の血液浄化用中空糸膜。
  3. アルブミンの透過率が0.35%以下である、請求項1又は2に記載の血液浄化用中空糸膜。
  4. 前記血液浄化用中空糸膜が、ポリスルホン系ポリマーをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液浄化用中空糸膜。
  5. 前記血液浄化用中空糸膜の内径が160μm以上190μm以下、膜厚が25μm以上40μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液浄化用中空糸膜。
  6. 前記血液浄化用中空糸膜の破断強度が6MPa以上、破断伸度が60%以上であり、
    前記血液浄化用中空糸膜の膜厚が35μm以下では破断強度が7MPa以上、且つ破断伸度が65%以上であり、
    前記血液浄化用中空糸膜の膜厚が30μm以下では破断強度が7.5MPa以上、且つ破断伸度が70%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液浄化用中空糸膜。
  7. 前記血液浄化用中空糸膜中のポリビニルピロリドンを動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液浄化用中空糸膜。
  8. 前記血液浄化用中空糸膜が、膜外表面から膜内表面に向かって連続的に孔径が小さくなる構造を有している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空糸膜。
  9. 前記血液浄化用中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の血液浄化用中空糸膜。
  10. 前記血液浄化用中空糸膜中の前記ポリビニルピロリドンが、
    架橋度調整剤を含む溶液を血液浄化用中空糸膜内に注入し、次いで前記架橋度調整剤を含む溶液を前記血液浄化用中空糸膜内から取り除き、その後、前記血液浄化用中空糸膜に放射線照射することによって、架橋度を80%以上100%未満にされたものである、
    請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液浄化用中空糸膜。
  11. ポリビニルピロリドンを含む血液浄化用中空糸膜を製造する方法であって、
    原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液を濾過する工程と、
    前記濾過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程と、
    ポリビニルピロリドンを含む溶液により前記中空糸膜の膜内表面をコーティングする工程と、
    前記中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンを架橋させる工程と、
    を含み、
    放射線照射後のα1マイクログロブリンの総括物質移動係数が0.0040cm/分以上である、血液浄化用中空糸膜を製造する方法。
  12. 架橋度調整剤を含む溶液を血液浄化用中空糸膜内に注入する工程をさらに含む、請求項11の血液浄化用中空糸膜を製造する方法。
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