JP2010197175A - X線分析装置及びx線分析方法 - Google Patents

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裕之 岩本
Takashi Murayama
尚 村山
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Abstract

【課題】蛋白単分子等の微小標的粒子にX線ビームを照射するX線分析装置において、コンテナレス法やコンテナ法では解決が難しかった種々の技術的課題を一挙に解決する。
【解決手段】保持基板1に保持されている標的粒子Pの位置形状測定を行うプローブ式測定手段2と、前記プローブ式測定手段2のプローブ2aを、標的粒子Pの測定が可能な位置である測定位置と、前記X線照射機構による標的粒子へのX線ビームの照射に干渉しない位置である退避位置との間で移動可能に保持する移動機構3と、前記保持基板1及びX線照射機構の相対位置を調整する位置調整機構5とを設け、前記プローブ式測定手段2で位置が特定された標的粒子Pに対し、前記保持基板1及びX線照射機構の相対位置を調整してX線ビームを照射できるように構成した。
【選択図】 図1

Description

この発明は、微小径X線ビームを用いたX線分析装置又はX線分析方法に関するものである。
近年の挿入光源としてアンジュレータあるいはウィグラーを備えたいわゆる第三世代放射光源による放射光X線発生技術の進歩により、従来にない高輝度でかつ指向性の高いX線ビームの生成が可能になってきている。そしてフレネルゾーンプレートや高精度K−Bミラーなどの集光素子により集光することで、あるいは単にピンホールなどのアパーチャー光学素子を用いることで、この放射光X線よりマイクロメートル〜サブマイクロメートルオーダーの微小径の高輝度X線ビーム(マイクロビームまたはナノビーム)を生成することができる。
これらの微小径X線ビームを1マイクロメーター以下のナノ粒子に照射すれば、X線弾性散乱によってその構造を原子分解能で決定し、あるいは蛍光X線のエネルギー測定によって含まれる元素組成に関する情報を得ることが原理的に可能である。とくに現在開発中のX線自由電子レーザー(第4世代放射光源)を用い、径が10〜数10ナノメートルの蛋白単分子に同じく数10ナノメートルに絞ったX線レーザービームを照射することにより、結晶化困難な膜蛋白分子の原子分解能構造が得られるものと期待されている。現在ある医薬の70%は膜蛋白を標的にしていると言われており(非特許文献1)、膜蛋白分子の構造を原子分解能で決定することは多くの新薬の開発につながる重要な過程である。
X線自由電子レーザーによる膜蛋白分子の原子分解能構造解明における最重要の課題は、最大でも30ナノメートルしかない蛋白単分子に同程度の大きさに絞ったX線レーザービームをいかに正確に当てるかということである。同程度の大きさに絞るのは、X線レーザーパルス(持続時間フェムト秒オーダー)に含まれる光子フラックスをできるだけ有効に標的蛋白分子に照射し、かつ標的蛋白分子以外の物質によるバックグラウンド散乱を最小限にするためである。
現在、X線レーザーパルスを標的蛋白分子に照射する方法として、2種類の方法が提唱されている。1つはいわゆる「コンテナレス法」で、質量分析器の原理を応用して標的蛋白分子を含む液滴を分子ビームの形で飛ばし、X線レーザーパルスの照射されるタイミングに合わせX線の光路に標的蛋白分子を導くものである(非特許文献2)。X線の照射が終わった蛋白分子(高強度のX線パルスにより破壊されると予想されている)は、質量分析器に入り、それが目的とする蛋白単分子であったかが解析される仕組みである。もう1つは従来ながらの「コンテナ法」、すなわち何らかの手段により位置を固定された蛋白分子をX線の光路に置き、X線パルスを照射するものである。
いずれの場合も、単分子の散乱は極めて弱いため、得られたX線散乱像のうち、同じ向きの分子から得られたもの同士を極めて多数加算し、オーバーサンプリング法というアルゴリズムを用いて蛋白分子の構造復元を行うことを前提とする。X線散乱像には構造復元に必要な位相情報を含んでいないが、加算された散乱像に10程度のダイナミックレンジがあればオーバーサンプリング法により位相が復元され、実空間における標的単粒子の構造が復元できることが非特許文献3により実証されている。
以上の2つの方法のうち、X線自由電子レーザー計画において先行する欧米で最も有力視されているのがコンテナレス法である。しかしながらこの方法に関して、次のような重要な技術的困難が存在する。
(1)最大でも30ナノメートルの単粒子に同サイズのX線ビームを照射するためには同程度の大きさまで分子ビームを絞る必要がある。ところが現在達成されている分子ビームの径はこれより10000倍も大きい(非特許文献4)。
(2)X線レーザーパルスは―定の時間間隔で照射され、個々のパルスの持続時間はフェムト秒オーダーである。これにタイミングを厳密に合わせて分子ビームを発射するには極めて高度な技術が必要である。現在はタイミングが制御されない方法で分子を発射するしかなく、分子がX線パルスに照射される確率は低いものになっている(非特許文献4)。
(3)さらに前2項の問題が解決されたとしても、飛行中の蛋白分子の向きを制御するのは困難なので、記録された単分子からの微弱な散乱像から分子の向きを推定するしかない。単分子にある程度以上の大きさがあれば、検出器の1画素あたりの散乱光子数が1個以下でも散乱像から分子の向きが決定できるとする論文も存在する(非特許文献5)。しかし、これは光源からの寄生散乱や蛋白分子の構造のばらつきなど、実際には不可避な要素の影響を考慮していない。
(4)飛行中の蛋白分子の状態が不明である。発射される液滴中に正確に1分子の蛋白を含めるのは実際には困難であり、ある液滴は全く蛋白分子を含まず、また他の液滴には複数の蛋白分子が含まれる可能性が高い。また蛋白分子でない侠雑物を含む可能性もある。これらは事後の質量分析により排除できるとはいえ、解析に値するX線散乱が記録される確率を更に下げる要因となる。さらに厄介なのが蛋白分子の変性である。また膜蛋白分子には濃度を下げただけで変性する不安定なものもあるが、分子ビームを生成した際の蛋白分子の安定性については検討されていない。変性した蛋白分子は質量が変わらないので、質量分析によって排除するのは不可能である。
一方、コンテナ法においては、具体的方法として薄膜にナノ加工技術を用いて一定間隔で穴を開け、その中に標的蛋白分子を埋め込むのが有力である。X線レーザーパルスによる測定中は穴の間隔に合わせて試料を走査することになる。しかし最も微細な加工が可能な集束イオンビーム法を用いても100ナノメートル径以下の穴を開けるのは困難で、量産向きの方法でもない。コンテナ法を用いても、上に列挙した技術的困難のうちタイミング合わせの問題が解決するのみで、分子の正確な位置決めや向きの決定はやはり不可能であり、質量分析の手段が使えないだけコンテナレス法より不利と言える。
現在、これらの技術的困難をすべて解決する方法は提唱されていない。
XFEL Technica1 Design Report, Part V, Chapter 3, Scientific Applications of XFEL Radiation. European XFEL ProjectTeam, Hamburg・ Neutze et al.,Potential for biomolecular imaging with femtosecond X-ray pulses.Nature,406:752-757 (2000). Miao et a1.,Extending the methodology of x-ray crystallography to allow imagingof micrometre-sized non-crystalline specimens. Natute, 400: 342-344(1999). Bogan et a1.,Single particle x-ray diffractive imaging.Nano Lett.,8: 310-316 (2008). Huldt et a1,,Diffraction imaging of single particles and biomolecules. J.Struct.Biol.,144: 219-227 (2003).
本発明の主たる所期課題は、蛋白単分子等の標的粒子にX線ビームを照射する際に、例えば原子間力顕微鏡(AFM装置)等のプローブ式測定手段を組み込むことで、その高い単粒子形状測定能力とサブナノメートルの位置決め精度を利用し、上に掲げた技術的課題を一挙に解決する点にある。
すなわち、請求項1の発明は、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の大きさの、生体を構成する構成物質又はこれに類似した性質を有する物質(以下、これらをまとめて標的粒子と言う)を静止した状態で保持することができる保持基板と、前記保持基板上の標的粒子に対して、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の径のX線ビームを照射するX線照射手段と、前記保持基板に保持されている標的粒子の位置、表面形状等の測定(以下、これらをまとめて位置形状測定とも言い、これにより得られる情報を位置形状情報とも言う)を行うプローブ式測定手段と、前記プローブ式測定手段を、標的粒子の位置形状測定が可能な位置である測定位置と、前記X線照射機構による標的粒子へのX線ビームの照射に干渉しない位置である退避位置との間で移動可能に保持する移動機構と、前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整する位置調整機構とを具備し、前記プローブ式測定手段で位置が特定された標的粒子に対し、前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整してX線ビームを照射できるように構成されていることを特徴とするX線分析装置に係るものである。
また、請求項2の発明は、請求項1記載のX線分析装置を用いて標的粒子を分析するX線分析方法に係るものであって、前記保持基板上に複数の標的粒子を分散させて保持させる分散ステップと、前記プローブ式測定手段を移動機構によって測定位置に位置づけた後、前記分散ステップで保持基板上に分散させた標的粒子の位置形状測定を前記プローブ式測定手段によって行う位置形状測定ステップと、前記位置形状測定ステップで位置を測定した標的粒子にX線ビームが照射されるように、前記位置調整機構で前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整する位置調整ステップと、前記プローブ式測定手段を移動機構によって退避位置に位置づけた後、前記X線照射機構からX線ビームを照射して標的粒子を分析する分析ステップとを行うことを特徴とする。
このように構成した請求項1又は2に係る発明によれば、プローブ式測定手段がその位置合わせ精度として通常1ナノメートル以下を保証できるため、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の径のX線ビームを、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の大きさの標的粒子に正確に照射してこれを分析することができるようになる。また、時間的な観点からも、静止した標的単粒子にX線ビームを照射する方式のため、X線ビームパルスのタイミングに左右されることなく、確実にX線ビームを標的粒子に照射することができる。そして、このことから、例えばX線自由電子レーザーを用いて、結晶化困難な膜蛋白分子の原子分解能構造等を高い精度で測定することが可能になる。
請求項3の発明は、前記分散ステップにおいて、保持基板上に複数の標的粒子をランダムなやり方で散布するのを可能にするという特徴をもつ。これは、プローブ式測定手段によって予め標的粒子の位置や表面形状を知ることができるからこそ、可能な方法である。そして、このようなものであれば、標的粒子を保持基板上に適当に散布すればよいだけなので、非常に簡便に標的粒子をセットできる。
請求項4の発明は、前記分析ステップにおいて、位置形状測定ステップで測定した標的粒子の表面形状をもパラメータとして該標的粒子を分析することを特徴とするものである。このようなものであれば、分析パラメータが増えることから、より正確な標的粒子のX線分析が可能となる。すなわち、プローブ式測定手段によって保持基板に固定された標的粒子の姿勢(向き)を特定し、単粒子解析法により単粒子をその向きによりクラス分けすることにより、X線散乱測定であれば、同じクラスに属する単粒子のX線散乱像同士を加算することで散乱像のS/N比を上げることができる。この操作はX線測定終了後にオフラインで行ってもよいし、計算機の計算が十分に適ければX線測定と同時に行ってもよい。なお、プローブ式測定手段はX線や電子線を弱くしか散乱しない蛋白単分子等であっても確実に検出できるため、X線散乱像や無染色蛋白分子の電子顕微鏡像を用いるよりも遥かに高い確度で分子の向きを決定できる。
請求項5の発明は、前記位置形状測定ステップで測定した位置形状情報に基づき、保持基板上の標的粒子のうちからX線分析に適切な標的粒子を選択する選択ステップをさらに有し、前記位置調整ステップにおいて、選択ステップで選択した標的粒子にX線ビームが照射されるように、前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整することを特徴とするものである。このようなものであれば、会合・凝集した標的粒子や、変性して形状が大きく変化した標的粒子、侠雑物など、X線分析には好ましくないものを排除し、真に測定に適した標的粒子のみを選択できるので、さらに測定精度を向上させることができるようになる。
請求項6の発明は、標的粒子と、これと異なる参照粒子を同時にX線照射し、標的粒子の直接結像を行うフーリエ変換ホログラフィーのアプリケーションにおいて、前記分散ステップにおいて参照粒子をも分散させるとともに、前記位置形状測定ステップにおいてプローブ式測定手段によって参照粒子の位置を測定し、前記分析ステップにおいて参照粒子の位置をもパラメータとして標的粒子の構造を復元するようにしたものであって、前記選択ステップにおいて、参照粒子との位置関係が前記分析ステップでの分析に好ましい標的粒子と参照粒子の組を選択するようにしていることを特徴とするものである。フーリエ変換ホログラフィーのアプリケーションにおいては、標的単粒子と参照物体がともにビーム中に含まれ、しかも標的単粒子と参照物体が近接しすぎないことが条件となる。原子分解能を追求する硬X線領域においてこの条件を満たすのは困難であるが、この請求項6に係る発明によれば、標的単粒子、参照粒子をともに基板上にランダムに散布するだけで、プローブ式測定手段によって条件を満たす標的粒子と参照粒子の組を見つけ出し、効果的なX線分析を行うことができる。
請求項7の発明は、前記標的粒子を急速凍結した後、凍結乾燥させる粒子処理ステップをさらに有していることを特徴とするものである。このようなものであれば、標的粒子の微細構造を保ったまま該標的粒子の電子密度のコントラストを上げてX線散乱・回折強度の増大を図るとともに、X線照射損傷を減じることができる。これは、水分子が少なくなりラジカルの発生が抑えられるためである。またX線照射時の冷却の必要性を軽減することができ、冷却構造を省略できるなどの効果を得られる。
このように構成した本発明によれば、プローブ式測定手段を併用することによって、空間的にも時間的にも、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の径のX線ビームを、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の大きさの標的粒子に正確に照射してこれを分析することができるようになる。そして、例えばX線自由電子レーザーを用いて、結晶化困難な膜蛋白分子の原子分解能構造等を高い精度で測定することが実用的に可能になる。
また、標的粒子の位置形状情報をプローブ式測定手段によって予め把握することができるから、分析に適当な標的粒子を選択することができるし、あるいは、標的粒子の姿勢も予め把握できるので、これを用いてクラス分けするなどし、より精度の高いX線分析を行うことができるようになる。さらに、標的粒子を制御された方法で配置する必要がなくなり、保持基板上にランダムに散布するだけの簡便な方法をとることも可能になる。
本発明の一実施形態に係るX線分析装置の特徴部分を示す模式的側断面図であり、AFM装置により標的粒子の位置形状測定を行っているところを示す図面である。 同実施形態に係るX線分析装置の特徴部分を示す模式的側断面図であり、移動機構を用いて探針位置をX線ビーム中心位置に合わせているところを示す図面である。 同実施形態に係るX線分析装置の特徴部分を示す模式的側断面図であり、標的粒子にX線ビームパルスを照射し、X線散乱像を記録しているところを示す図面である。 同実施形態に係るX線分析方法により、X線分析に不適な標的粒子が除外される仕組みを示すAFMによる測定画像(模式図)である。白い円がX線ビーム照射範囲である。 同実施形態に係るX線分析方法により、X線ホログラフィー法に好適な標的単粒子と参照粒子の組が選択される仕組みを示すAFMによる測定画像(模式図)である。白い円がX線ビーム照射範囲である。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るX線分析装置100は、基本的には、X線ビームを測定対象物に照射し、その弾性散乱光又は蛍光の強度分布から測定対象物を分析するものである。
しかしてこの実施形態でのX線分析装置100は、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の大きさの微小な標的粒子Pを測定できることを特徴とするものであり、そのために、プローブ式測定手段であるAFM装置2をはじめとする種々の特徴的構造を具備している。ここでの標的粒子Pとは、生体を構成する構成物質又はこれに類似した性質を有する物質のことであり、例えば、膜蛋白等の蛋白単分子を挙げることができる。
次に、このX線分析装置100の詳細を、図面を参照して以下に説明する。
図1〜図3は、X線分析装置100の特徴部分を側方から視た模式的構造図である。
これら図中、符号Hは、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の径の平行なX線ビームXi(図2、図3参照)を作成するためのピンホールを示している。このピンホールHよりも上流側には図示しないX線源が設置されており、このピンホールHと前記X線源とからX線照射手段が構成される。前記X線源は、X線自由電子レーザー装置や電子蓄積リング型X線発生装置である。なお、X線源が、X線自由電子レーザーの場合は、X線マイクロビーム(ナノビーム)は、ピンホールでなく、更に上流(図の左側)に設置されるK−Bミラーにより生成される。
符号1は、前記標的粒子Pを保持する保持基板である。この保持基板1は、例えば、標的粒子PからのX線散乱を妨害しない程度に薄く、また十分な機械的強度および平面性を持つことが予め証明された薄膜11を、多数の小孔を開けた金属箔12などに貼ったものである。この薄膜11は、X線ビームの光軸Cに対して垂直に配置されている。後述するが、標的粒子Pは、この薄膜11上に、ランダムに散布され、固定保持される。このように単粒子がサブミクロンオーダーの大きさである場合、それから得られる信号強度も小さいため、X線ビームの光路中にある気体分子の散乱なども妨害要素となることから、保持基板1や後述するAFM装置2、その他の各機構は真空中に設置してある。ただし気体分子による散乱が問題とならないアプリケーションにおいては真空中に置く必要はない。
符号2は、前記保持基板1に保持されている標的粒子Pの位置、表面形状及び近接する粒子との相互位置関係の測定(以下、この測定を位置形状測定とも言い、これにより得られる情報を位置形状情報とも言う)を行うAFM装置を示している。このAFM装置2は、プローブである探針2aを含むカンチレバー2b及びその保持・加振機構21と、前記探針2aのたわみ検出機構22と、探針2aに前記薄膜11上をナノメートル精度で2次元走査させるとともに探針2aと薄膜11との距離を微調整するための3次元微動ステージ23と、前記3次元微動ステージ23の初期位置等を粗動調整するための3次元粗動ステージ24と、各機構の制御やデータ収集のための情報処理機構(図示しない)とを具備したものである。
前記探針2aは、薄膜11の上流側(X線ビーム入射側)に設置されている。カンチレバー2b及びその保持・加振機構21は、既存のAFM装置と同様の構造であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
前記たわみ検出機構22は、赤色レーザダイオード等の発光素子22a、受光素子22b及び発光素子22aから射出された光を探針2aに照射してその反射光を受光素子に導くミラー等の光学素子22c等からなるものである。なお、カンチレバー2bに自己検知型を用いるときは、このたわみ検出機構22は、カンチレバー2bがその機能を兼ねるため、不要となる。
前記3次元微動ステージ23は、例えばピエゾ素子を駆動源としたものである。そして前記保持基板1が、この3次元微動ステージ23上に搭載してある。つまり、このAFM装置2では、走査測定時に探針2aを固定し、保持基板1が移動する構造を採用している。もちろん、逆の関係でも構わない。また、この3次元微動ステージ23は、標的粒子PからのX線散乱を妨げないようにするため、クリアーアパーチヤー型としている。その他、2台のXYZ型ピエゾステージを並列に置いて試料台で橋渡しする構造としたもの等でも構わない。また、試料(標的粒子P)を冷却する必要があるときは、冷却機構をこれに付加してもよい。
前記3次元粗動ステージ24は、例えばステッピングモータを駆動源としたものである。そして前記3次元微動ステージ23が、この3次元粗動ステージ24上に搭載してある。この3次元粗動ステージ24のXY軸方向(X線ビームの光軸Cと垂直な方向)の移動量については、3次元微動ステージ23による2次元走査時(XY軸方向)において、標的粒子Pを固定した保持基板1の略全領域を選択し走査できるだけの移動量が確保できるように構成されている。また、Z方向(X線ビームの光軸Cと平行な方向)の移動量については、保持基板1のマクロな凹凸に対応するほか、視野の変更時、探針2aの退避時、保持基板1、探針2aの交換時にこれらを妨げず、探針2aの損傷を防ぐのに十分な作動距離をもつように構成されている。
このAFM装置2の各部は、X線散乱像を好適に得るために、X線ビームの出射側で広角領域に生じる散乱を妨げないように構成されている。なお、X線ビーム入射光路は細いものでもよい
前記情報処理機構は、CPUやメモリ、I/Oチャネル、A/Dコンバータ、D/Aコンバータなどを具備し、前記メモリに格納した所定のプログラムにしたがってCPU及び周辺機器が協働して前記データ収集や制御機能を発揮するいわゆるコンピュータである。この情報処理機構は、既存のAFM装置に備えられる標準的機能のほかに、前記各ステージや後述する移動機構、位置調整機構等を駆動制御するための制御機能、さらには探針2aの走査によって測定された標的粒子Pの位置及び表面形状等から、標的粒子PがX線分析に適当であるか否かを画像処理によって自動判断する判断機能等も具備している。
符号3は、前記探針2aを、標的粒子Pに対する走査が可能な位置である測定位置と標的粒子PへのX線ビームの照射に干渉しない位置である退避位置との間で直線移動可能に保持する移動機構である。この移動機構3は、例えば駆動源であるステッピングモータ(図示しない)と、このステッピングモータによって駆動される1次元自動ステージ31とを具備したものであり、この1次元自動ステージ31が伸縮することによって、探針2aを前記測定位置と退避位置との間で移動させる。測定位置とは、探針2aの先端がX線ビーム光軸C(又は集光位置)に合致する位置のことであり、退避位置とは探針2aが前記光軸Cから外れてX線照射時に生じる粒子線による損傷を防ぎうるだけ、測定位置から離間した位置のことである。また、この移動機構3による測定位置及び退避位置での位置再現性は、測定誤差を発生させない程度に十分高く、かつ、X線ビームの薄膜11上での照射径の中心に測定位置を合わせることができるだけの移動精度を有するように構成されている。
符号4は、測定位置における探針2aの先端をX線ビームの光軸C上(又は集光位置)に設定するための初期位置設定機構である。この初期位置設定機構4は、ステッピングモータ等を駆動源とする2次元自動ステージ41を具備したものであり、この2次元自動ステージ41に、カンチレバー2b及びその保持・加振機構21と、たわみ検出機構22と、3次元粗動ステージ24と、これに支持された3次元微動ステージ23及び保持基板1と、移動機構3とが搭載してある。この実施形態では、X線照射機構が不動、すなわちX線ビームが常に一定の軌道であるため、測定位置における探針2aの先端をX線ビームの光軸C上(又は集光位置)に最初に設定することで、その位置を基準として、保持基板1上の標的粒子Pの位置等を定めることができるように構成してある。なお、測定位置における探針2aの先端位置は、X線ビームの光軸C(又は集光位置)との位置関係が明らかであれば、これに合致させる必要は必ずしもない。
さらにこの実施形態におけるX線分析装置100は、上記構成に加え、標的粒子Pに対してX線ビームが集光照射されるように前記保持基板1及びX線照射機構の相対位置を調整するための位置調整機構5を具備している。この実施形態では、前述したように、X線照射機構が不動であるため、保持基板1を移動させるように構成してあり、より具体的には、前述した3次元粗動ステージ24及び3次元微動ステージ23が、この位置調整機構5としての機能を兼ねるようにしてある。
次に、このように構成したX線分析装置100を用いて標的粒子Pを分析する方法について説明する。
まず、図2に示すように、測定位置における探針2aの先端をX線ビームXiの光軸C上(又は集光位置)に設定するための初期位置設定ステップを行う。その具体的な手順は、以下のとおりである。
(1)探針2aをもつカンチレバー2bを保持・加振機構21にマウントする。
(2)初期位置設定機構4における2次元自動ステージ41の位置を原点に合わせるとともに、移動機構3における1次元自動ステージ31を延伸させる。
(3)探針2aを損傷しない程度までX線ビームXiを減弱したうえで、前記2次元自動ステージ41を2次元方向に走査し、下流に置いたフォトダイオード等の検出器6により透過X線の光量を測定する。透過光量が最少になる地点、または既知のカンチレバー2bの形状から合理的に判断される透過光量が最少になる地点を測定位置と判断する。
(4)以上の操作は必要に応じて繰り返し行う。
次に、保持基板1上に標的粒子Pを分散させて保持させる分散ステップを行う。その具体的な手順は、以下のとおりである。
(1)薄膜11上に可溶化された標的粒子Pである膜蛋白の水溶液を滴下し、余分な液を吸い取った後、市販の電子顕微鏡試料作製用の急速凍結装置を用いて急速凍結する。
(2)市販のエッチング装置その他を用い、蛋白を覆う水分を昇華させ蛋白分子表面を露出させるか、凍結乾燥を行う。
(3)このようにして調製した、標的粒子Pの固定された保持基板1を、X線分析まで必要に応じて液体窒素中などに保管する。
次に、図1に示すように、前記分散ステップで保持基板1上に分散させた標的粒子Pの概略プロファイルをAFM装置2によって測定する位置形状測定ステップを行う。その具体的な手順は、以下のとおりである。
(1)移動機構3によって探針2aを退避位置に移動させるとともに、3次元粗動ステージ24を十分に下げた上で、上に述べた分散ステップで作成した保持基板1を3次元微動ステージ23上にマウントする。
(2)探針2aを移動機構3によって測定位置に位置づける。
(3)3次元粗動ステージ24のXY軸(X線ビームの光軸Cに垂直な軸)を用いて適切な視野(薄膜11における小孔に対応する位置)を選択した後、同じく3次元粗動ステージ24のZ軸(X線ビームの光軸Cと平行な軸)を用いて保持基板1をAFM測定可能な位置まで探針2aに近づける。
(4)3次元微動ステージ23を駆動して、薄膜11の小孔に対応する領域をカバーする範囲でAFM測定を行い、走査領域中の標的粒子Pの位置形状情報をメモリに登録する。
次に、前記位置形状測定ステップで測定した標的粒子Pの位置形状情報にそれぞれ基づき、走査した標的粒子Pのうちから、予め設定した基準を満たすX線分析に適切な標的粒子Pを選択する選択ステップを行う。この選択ステップでは、(1)単粒子P同士が近接しすぎていて、あるいは会合していて、複数の単粒子PがX線ビームにより照射されてしまうことがないか(各粒子Pの位置及び近接する粒子との相互位置関係の判断)、(2)単粒子の近傍に侠雑物があってX線測定を妨害することがないか、(3)単粒子の形状が正常であるか(蛋白分子の場合には変性していないか)などを判断する。
この実施形態では、前記情報処理装置が、位置形状情報から自動判断するが、人間によるAFM走査画像の目視による認識によっても可能である。なお、図4において、(a)は、X線散乱測定に好適な標的粒子P(4個のサブユニットからなる膜蛋白分子)の測定画像例、(b)は2個の標的単粒子が近接していてX線測定に不適な測定画像例、(c)は、標的粒子Pの近傍に侠雑物QがあってX線測定に不適な測定画像例、(d)は、標的粒子P’が変性していてX線測定に不適な測定画像例を示している。
次に、前記選択ステップで選択した標的粒子PにX線ビームが照射されるように前記保持基板1の位置を3次元粗動ステージ24及び必要に応じて3次元微動ステージ23を駆動して調整する位置調整ステップを行う。
次に、前記X線照射機構からX線ビームを照射して、選択された標的粒子Pを分析する分析ステップを行う。具体的な手順は、以下のとおりである。
(1)探針2aを退避位置に退避させる。
(2)X線ビームのパルス照射を行う。このX線パルス照射を行っているところの側面図を図3に示す。
(3)X線自由電子レーザーの場合、レーザーパルスにより小孔全体の薄膜11が破壊される可能性がある。その場合は薄膜11が破壊されていない新たな視野を選択したのち、測定を繰り返す。薄膜11が破壊されなければ、同じ小孔中にある他の適切な蛋白単粒子についてX線測定を繰り返す。
(4)単粒子解析法によって蛋白単粒子の向きをクラス分けし、それに従って同じ向きの単粒子からのX線散乱像同士を加算し、オーバーサンプリング法等の位相復元法により構造復元を行う。
以上が基本的なX線分析方法である。
なお、フーリエ変換ホログラフィー法を用いる場合は、試料調製に当たって、可溶化した膜蛋白とこれよりも小さな参照粒子である金属クラスターの混合溶液を基板に滴下し、膜蛋白と金属クラスターを吸着させる、または予め金属クラスターを散布しておいた基板に膜蛋白溶液を滴下し、吸着させる。
それ以降の操作は前述と同様であるが、X線ビームを照射する際にはビーム中に蛋白単粒子と、適切な距離にある金属クラスターが同時に含まれて、両者からの散乱光が干渉を起こすようにする。そのAFM測定画像例を図5に示す。適切な距離にある金属クラスターはR(1)であり、その他の金属クラスタはR(2)、R(3)は不適である。そしてデータ解析において、散乱像のパターソン関数を計算することで直接構造復元する。
しかしてこのように構成した本実施形態に係るX線分析装置100あるいはこれを用いたX線分析方法によれば、標的粒子Pを保持基板1に固定する際はランダムに散布しても粒子の位置がAFM装置2によって認識されるため、規則的に配置する必要がない。また標的粒子Pのほかに電子密度の高い、標的粒子Pよりも小さな粒子(重金属クラスターなど)を参照粒子として同時に散布し、X線ビームで標的粒子Pと同時に照射することでフーリエ変換ホログラフィーに基づく構造決定法を適用することができる。
またこの方法によれば、個々の標的粒子PがX線測定に適当であるかをX線ビーム照射前にAFM測定により判断することができるので、効率的な分析が可能になる。
さらに、標的粒子Pがどのような向きで保持基板1に固定されているかをAFM測定により知ることができるので、X線分析終了後または分析と平行して、電子顕微鏡観察に用いられるのと同様な単粒子解析法により単粒子をその向きによりクラス分けし、同じクラスに属する単粒子のX線散乱像同士を加算することで散乱像のS/N比を上げることができる。
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、標的粒子を固定する保持基板は、X線散乱像を記録するのであればX線を透過しやすく、また自ら散乱を生じにくい薄膜を具備したものが適当であるが、蛍光X線分析を行うのであれば薄膜である必要は必ずしもない。
また、標的粒子が蛋白分子のように、X線照射損傷を受けやすいものである場合には、試料を冷却する機構を設ける必要がある。ただし標的粒子が蛋白分子の場合であっても、X線自由電子レーザーを用いるときのように高強度のX線パルスで粒子が完全に破壊されることが予想される場合は冷却する意味がないため、冷却機構を省略することができる。
AFMによる形状観察の条件として標的粒子が測定環境中(真空またはガス雰囲気)に露出していることが挙げられるところ、標的粒子が蛋白分子のように液中で正常な形態を保つ性質のものである場合、正常な形態を保ったまま露出させるには標的粒子を液中で急速凍結し、周りの凍結した溶媒を昇華させて取り除く必要がある。この際に原子レベルで粒子の表面に溶媒分子がなく、粒子の内部には溶媒が残った状態に保つのは困難と予想される。このとき単粒子の内部の溶媒まで完全に昇華させるといわゆる凍結乾燥の状態となり、常温に戻しても正常な形態を保ち、そのうえX線散乱測定においては電子密度のコントラストが上昇するため(粒子の構成分子と溶媒とのコントラストであったものが粒子の構成分子と真空またはガスのコントラストとなるので)、散乱強度の上昇も期待できる。また単粒子の凍結状態を維持するための冷却機構も不要になる。標的粒子が蛋白分子の場合、酵素反応にしばしば重要な役割を果たす構造水の情報が失われるのはデメリットであるが、それと引き換えに得られる上記のメリットの大きさは計り知れない。
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
100・・・X線分析装置。
P・・・標的粒子
R・・・参照粒子(金属クラスタ)
1・・・保持基板
2・・・プローブ式測定手段(AFM装置)
2a・・・プローブ(探針)
3・・・移動機構
5・・・位置調整機構

Claims (7)

  1. マイクロメートルオーダー又はそれ以下の大きさの、生体を構成する構成物質又はこれに類似した性質を有する物質(以下、これらをまとめて標的粒子と言う)を静止した状態で保持することができる保持基板と、
    前記保持基板上の標的粒子に対して、マイクロメートルオーダー又はそれ以下の径のX線ビームを照射するX線照射手段と、
    前記保持基板に保持されている標的粒子の位置、表面形状等の測定(以下、これらをまとめて位置形状測定とも言い、これにより得られる情報を位置形状情報とも言う)を行うプローブ式測定手段と、
    前記プローブ式測定手段を、前記プローブによる標的粒子の位置形状測定が可能な位置である測定位置と、前記X線照射機構による標的粒子へのX線ビームの照射に干渉しない位置である退避位置との間で移動可能に保持する移動機構と、
    前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整する位置調整機構とを具備し、
    前記プローブ式測定手段で測定された標的粒子に対し、前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整してX線ビームを照射できるように構成されていることを特徴とするX線分析装置。
  2. 請求項1記載のX線分析装置を用いて標的粒子を分析するX線分析方法であって、
    前記保持基板上に複数の標的粒子を分散させて保持させる分散ステップと、
    前記プローブ式測定手段を移動機構によって測定位置に位置づけた後、前記分散ステップで保持基板上に分散させた標的粒子の位置形状情報を前記プローブ式測定手段によって測定する位置形状測定ステップと、
    前記位置形状測定ステップで位置を測定した標的粒子にX線ビームが照射されるように、前記位置調整機構で前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整する位置調整ステップと、
    前記プローブ式測定手段を移動機構によって退避位置に位置づけた後、前記X線照射機構からX線ビームを照射して標的粒子を分析する分析ステップとを行うことを特徴とするX線分析方法。
  3. 前記分散ステップにおいて、保持基板上に複数の標的粒子をランダムな状態で保持させることを特徴とする請求項2記載のX線分析方法。
  4. 前記分析ステップにおいて、位置形状測定ステップで測定した標的粒子の表面形状をもパラメータとして該標的粒子を分析することを特徴とする請求項2又は3記載のX線分析方法。
  5. 前記位置形状測定ステップで測定した位置形状情報に基づき、保持基板上の標的粒子のうちからX線分析に適切な標的粒子を選択する選択ステップをさらに有し、
    前記位置調整ステップにおいて、選択ステップで選択した標的粒子にX線ビームが照射されるように、前記保持基板及びX線照射機構の相対位置を調整することを特徴とする請求項2乃至4いずれか記載のX線分析方法。
  6. 前記分散ステップにおいて標的粒子とは異なる参照粒子をも分散させるとともに、前記位置形状測定ステップにおいてプローブ式測定手段によって参照粒子の位置を測定し、前記分析ステップにおいて参照粒子の位置をもパラメータとして標的粒子の構造を復元するようにしたものであって、
    前記選択ステップにおいて、参照粒子との位置関係が前記分析ステップでの分析に好ましい標的粒子を選択するようにしていることを特徴とする請求項5記載のX線分析方法。
  7. 前記標的粒子を急速凍結した後、凍結乾燥させる粒子処理ステップをさらに有していることを特徴とする請求項2乃至6いずれか記載のX線分析方法。
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