以下、本発明の内燃機関制御装置を具体化した各実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態で適用されるエンジン(内燃機関)は車載用ディーゼルエンジンであり、燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射する方式の、多気筒4ストロークエンジンを想定している。
(第1実施形態)
先ず、エンジンの吸排気系システムの構成について図1を用いて説明する。
当該エンジンは、排気系から吸気系に排気を還流させるEGR配管10を備えており、排気の一部をEGRガスとして吸気管11に戻すことで、燃焼室12における燃焼温度を下げて排ガス中のNOx低減等を図っている。
EGR配管10にはEGR弁13(流量調整手段)が備えられている。このEGR弁13は、EGR配管10の流路断面開度を調整することでEGRガスの流量(EGR流量)を調整するバルブであり、電動モータ131(アクチュエータ)により駆動される。そして、EGR弁13を全開作動させるとEGR流量は最大となり、全閉作動させるとEGR流量はゼロとなる。
EGR配管10のうちEGR弁13の上流側部分には、EGRガスを冷却するEGRクーラ14が備えられている。このようにEGRガスを冷却することで、EGRガスの体積減少(密度上昇)を図り、これによって燃焼室12に流入する吸気の充填効率向上を図っている。ちなみに、EGRクーラ14の内部には、冷却液が循環する冷却液通路と、EGRガスが流通するガス通路とが形成されており、ガス通路を流通するEGRガスは冷却液通路を循環するエンジン冷却水(冷却液)と熱交換して冷却される。なお、冷却液の循環流量を調整することでEGRクーラ14による冷却度合いを調整するようにしてもよい。
EGR配管10のうちEGR弁13の上流側部分には、EGRガスをEGRクーラ14に対して迂回させるバイパス通路15(バイパス配管)が設けられている。また、EGR配管10のうちEGR弁13の上流側部分には、切替弁16(温度調整手段)が備えられている。この切替弁16は、EGR配管10のうちEGRクーラ14への流入口14aとバイパス通路15とを切替開閉するバルブである。
切替弁16が図1の実線位置に駆動すると、バイパス通路15を閉塞してEGRクーラ14への流入口14aを開放するクーラモードとなり、EGRガスはEGRクーラ14により冷却された後、流出口14bからEGR弁13へと流れる。一方、切替弁16が図1の点線位置に駆動すると、EGRクーラ14への流入口14aを閉塞してバイパス通路15を開放するバイパスモードとなり、EGRガスはEGRクーラ14で冷却されることなくバイパス通路15からEGR弁13へと流れる。したがって、切替弁16を駆動させてモードを切り替えることで、EGRガスを吸気系に再循環させることによるNOx低減の効果が最大限に発揮されるEGRガス温度となるよう、EGRガス温度を最適値に調整できる。
EGR弁13及び切替弁16は単一の電動モータ131で駆動されるよう構成されている。つまり、電動モータ131を作動させてEGR弁13を駆動させると、カム機構によりEGR弁13の駆動に連動して切替弁16が駆動する。
図2は前記カム機構の構成を示す図であり、EGR弁13の回転軸13aにはロータリギヤ13bが取り付けられている。一方、切替弁16の回転軸16aにはカム16b,16cが取り付けられている。電動モータ131を作動させると、ロータリギヤ13b、回転軸13a及びEGR弁13が一体となって回転する。
そして、ロータリギヤ13bに設けられたピン13cがカム16bに当接した状態でロータリギヤ13bがさらに時計方向に回転すると、カム16bはピン13cに押し動かされて、回転軸16a及び切替弁16と一体となって回転し、切替弁16の回転位置は図2(a)に示す位置で板ばね161により保持される。この保持位置は、図1の実線に示すクーラモードの位置である。
一方、ピン13cがカム16cに当接した状態でロータリギヤ13bが反時計方向に回転すると、カム16cはピン13cに押し動かされて、回転軸16a及び切替弁16と一体となって回転し、切替弁16の回転位置は図2(b)に示す位置で板ばね161により保持される。この保持位置は、図1の点線に示すバイパスモードの位置である。
このように、EGR弁13は電動モータ131の作動に伴い連続的に回転するのに対し、切替弁16は、EGR弁13の回転が所定領域を超えて回転した時に、保持位置を切り替えるよう間欠的に回転する。つまり、ピン13cが2つのカム16b,16cの間を当接することなく回転する領域では、切替弁16を駆動させることなくEGR弁13を駆動させることができる。なお、図2(a)のEGR弁13の実線位置は、クーラモードにおいてEGR量を最大にする位置であり、図2(b)のEGR弁13の実線位置は、バイパスモードにおいてEGR量を最大にする位置である。
図3はEGR弁13の弁開度と、EGR弁13により調整されるEGR流量との関係(特性)を示す図である。以降の説明では、EGR弁13の全閉位置(図2(a)の点線に示す位置)を開度ゼロとし、クーラモード側での弁開度をプラスで表現し、クーラモード側での弁開度をマイナスで表現する。そして、弁開度の絶対値が大きいほどEGR流量は増大するよう調整される。
図1の説明に戻り、吸気管11のうち、EGR配管10が接続される部分の上流側には、燃焼室12に流入する吸気のうち新気の流量を調整するスロットル弁17aが備えられている。スロットル弁17aは電動モータ17bにより開閉作動し、全開作動時に新気量は最大となり、全閉作動時に新気量はゼロとなる。
吸気管11と排気管18との間にはターボチャージャ19(過給機)が配設されている。ターボチャージャ19は、吸気管11に設けられたコンプレッサインペラ19aと、排気管18に設けられたタービンホイール19bとを有し、それらがシャフト19cにて連結されている。ターボチャージャ19では、排気管18を流れる排気によってタービンホイール19bが回転し、その回転力がシャフト19cを介してコンプレッサインペラ19aに伝達される。そして、コンプレッサインペラ19aにより、吸気管11内を流れる吸入空気が圧縮されて過給が行われる。
また、本実施形態に係るターボチャージャ19には、排気の流体エネルギをシャフト19cの回転駆動力に変換する割合を設定変更可能にする容量可変型のターボチャージャが採用されている。具体的には、タービンホイール19bには、吹き付けられる排気の流速を可変とするための複数の可変ベーン19dが設けられている。これらの可変ベーン19dは互いに同期した状態で開閉動作する。そして、隣り合う可変ベーン19d間の隙間の大きさ、すなわち可変ベーン19dの開度を変化させることで、前記排気流速を調整し、これによりタービンホイール19bの回転速度が調整される。そして、タービンホイール19bの回転速度が調整されることにより、燃焼室12に強制的に供給される空気の量、すなわち過給圧が調整される。
ターボチャージャ19にて過給された空気は、インタークーラ20によって冷却された後、その下流側に給送される。インタークーラ20によって吸入空気を冷却して体積減少(密度上昇)を図ることで、燃焼室12に流入する吸気の充填効率向上を図っている。
吸気管11のうちコンプレッサインペラ19aの上流側、かつ、エアクリーナ21の下流側には、単位時間あたりに流入する吸入空気の質量流量MAF(以下、単に吸入空気量又は吸気量と呼ぶ)を検出するエアフロメータ22(吸気量センサ)が取り付けられている。
排気管18のうちタービンホイール19bの下流側には、排気を浄化する浄化装置23が取り付けられている。浄化装置23の具体例としては、排気中のPMを捕集するためのDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)、排気中のNOxを浄化するNOx触媒や排気中のHCやCOを浄化する酸化触媒等が挙げられる。
排気管18のうち浄化装置23の下流側には、排気中の酸素濃度を検出するA/Fセンサ24が取り付けられている。A/Fセンサ24は、時々の排気中酸素濃度に応じた酸素濃度検出信号O2を出力する酸素濃度センサである。A/Fセンサ24のセンサ出力としての酸素濃度検出信号は、酸素濃度に応じてリニアに変化するように調整される。なお、A/Fセンサ24に替えて、排気がリッチかリーンかに応じて異なる起電力信号を出力する起電力出力型のO2センサを採用してもよい。
上述した各種センサ22,24及びクランク角センサ25から出力される検出信号は、エンジンECU29(電子制御ユニット)に入力される。ECU29はこれらの検出信号に基づき、以下の如く燃料噴射量、過給圧、EGR弁13の開度、スロットル弁17aの開度、及び切替弁16の切替位置等を制御することでエンジン制御を行う。
ECU29(制御手段)に備えられたマイコン29aは、クランク角センサ25から入力される検出信号に基づき、エンジンの出力軸(クランク軸)の回転速度(エンジン回転速度Ne)を算出する。また、図示しないアクセルセンサから入力される検出信号に基づき、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏込み量)が算出される。そしてマイコン29aは、時々のエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度Ne)やアクセルペダル操作量等に基づき燃料の目標噴射量Qfinを算出し、その目標噴射量Qfinとなるようインジェクタ26(燃料噴射弁)の作動を制御する。
ECU29のマイコン29aは、容量可変型ターボチャージャ19の容量を調整することで過給圧を制御する。すなわち、前述の目標噴射量Qfin、及びエンジン回転速度Ne等をパラメータとして、マップ等を用いて可変ベーン19dの目標開度を算出する。そして、目標開度となるよう図示しないアクチュエータを駆動制御することにより、可変ベーン19dが目標開度となるよう制御する。なお、エンジン回転速度Neが高いほど、或いは目標噴射量Qfinが多いほど目標開度は大きく設定され、ひいては過給圧が増加する。さらにECU29は、吸気圧センサ25により検出した過給圧P1の値、或いは排気圧センサ(図示せず)により検出した排気圧P2の値が目標値に近づくよう、可変ベーン19dの開度をフィードバック制御する。
ECU29のマイコン29aはEGR弁13の開度を制御することで、排気管18からEGR配管10に流入して還流するEGR流量を制御する。すなわち、前述の目標噴射量Qfin及びエンジン回転速度Ne等をパラメータとして、マップ等を用いて基本目標EGR量Gegrtrgbを算出する。
ちなみに、EGR流量が過小の場合には十分なNOx低減効果が得られず、EGR流量が過大の場合には、気筒内の酸素が不足して粒子状物質(PM:Particulate Matter)が増加するとともに、燃焼が不安定になる。これらを鑑みて、PM発生許容量ぎりぎりまでEGR流量を増やしてNOxを低減させるよう、前記マップ中の基本目標EGR量Gegrtrgbは最適化されている。
そして、この基本目標EGR量Gegrtrgbを、後に詳述する補償制御により補正することで最終目標EGR量Gegrtrgを算出し、この最終目標EGR量Gegrtrgとなるようマイコン29aは電動モータ13bを作動させてEGR弁13の開度を制御する。
なお、排気中の酸素濃度(排気酸素濃度)の目標値(目標排気酸素濃度)も目標噴射量Qfin及びエンジン回転速度Ne等をパラメータとして算出されており、A/Fセンサ24により検出された排気酸素濃度が目標排気酸素濃度に近づくようEGR弁13の開度はフィードバック制御される。
ECU29のマイコン29aは切替弁16の位置を制御することで、EGRガス温度を制御する。すなわち、前述の目標噴射量Qfin及びエンジン回転速度Ne等をパラメータとして、バイパスモード及びクーラモードのいずれに切り替えるかを判定する。例えば、図4に示すように目標噴射量Qfin及びエンジン回転速度Neからなる領域をクーラ領域及びバイパス領域に区分けして、現時点での目標噴射量Qfin及びエンジン回転速度Neがいずれの領域であるかに基づきモード判定する。なお、高負荷高回転の側をクーラ領域として設定し、低負荷低回転の側をバイパス領域として設定している。
ところで、図2に示す如くEGR弁13と切替弁16とを単一の電動モータ131で駆動させる構成であることに起因して、バイパスモード及びクーラモードを切り替えるべく切替弁16を駆動させようとすると、EGR弁13も連動して駆動させることを要するため、切替弁16の駆動過渡時にはEGR流量が一時的に変化してしまう。例えば図3に示す特性の場合には、EGR流量を一定に保ちながら切替弁16によるモード切り替えを行うことはできず、バイパスモード及びクーラモードを切り替える際にはEGR量が一旦ゼロとなる。すると、一時的にNOx(特定成分)の排出量が増加して、排気エミッション悪化が懸念される。
次に、上述の如く一時的にNOx増加が生じる態様の一例を、図4及び図5を用いて説明する。なお、図5は、後述する補償制御を実施しない場合の例を示すタイムチャートであり、(a)はアクセル開度、(b)は燃料噴射量、(c)はエンジン回転速度Ne、(d)は切替弁16の切り替え位置、(e)はEGR弁13の目標開度、(f)中の実線は目標EGR量、破線は実際のEGR量、(g)中の実線は目標NOx量、破線は実際のNOx量について、それぞれの変化を示す。
車両運転者がアクセルペダルを踏み込んで燃料噴射量を増大させると(図5(a)(b)参照)、エンジン回転速度Neが徐々に増大する(図5(c)参照)。つまり、図4の状態Aから状態B,C,Dへと変化する。そして、エンジン回転速度Neの増大に伴って、EGR量の目標値が徐々に低下して(図5(f)参照)、EGR弁13の目標開度も徐々に低流量側へ変化する(図5(e)中のt10〜t20参照)。そして、状態Cとなるt20の時点で切替弁16をバイパスモードからクーラモードに切り替えることとなる(図5(d)参照)。
この状態Cへと変化したt20の時点(モード切替時点)で、EGR弁13の目標開度はマイナス側からプラス側へと移行する。そのため、EGR弁13の実際の開度がプラス側の目標開度となるまでの過渡期間(t20〜t21の期間)、実際のEGR量が目標EGR量より少なくなってしまい(図5(f)中の破線参照)、ひいては、実際のNOx量が目標NOx量より一時的に増加する(図5(g)中の破線参照)。これが、先述した排気エミッション悪化の一態様である。
この問題に対し本実施形態では、切替弁16の駆動が完了した後において、目標EGR量を増量補正することで、NOx発生量を通常時に比べて低減させる補償制御を実施している。これにより、上述の如く一時的に増加したNOxの増加分を、補償制御によるNOxの低減分で補償する。
図6は、補償制御を実施した場合の例を示すタイムチャートであり、(a)はアクセル開度、(b)は燃料噴射量、(c)はエンジン回転速度Ne、(d)は切替弁16の切り替え位置、(e)は補償制御による目標EGR量に対する補正量、(f)は補償制御による補正が指令される時間、(g)はEGR弁13の目標開度、(h)中の実線は目標EGR量、破線は実際のEGR量、(i)中の実線は目標NOx量、破線は実際のNOx量について、それぞれの変化を示す。
車両運転者がアクセルペダルを踏み込んで燃料噴射量を増大させると(図6(a)(b)参照)、エンジン回転速度Neが徐々に増大して(図6(c)参照)。図4の状態Aから状態B,C,Dへと変化する。そして、エンジン回転速度Neの増大に伴って、EGR量の目標値が徐々に低下して(図6(h)参照)、EGR弁13の目標開度も徐々に低流量側へ変化する(図6(g)中のt10〜t20参照)。そして、状態Cとなるt20の時点で切替弁16をバイパスモードからクーラモードに切り替えると同時に、補償制御を開始して、目標EGR量を増量補正する(図6(e)(f)(h)参照)。
モード切替を開始したt20時点から実際のEGR量が目標EGR量に一致するまでの過渡期間(t20〜t21の期間)においては、NOxが一時的に増加する。図6(i)中の斜線S1に示す面積は、過渡期間t20〜t21におけるNOx増加量を示す。この過渡期間t20〜t21が終了した後においては、目標EGR量を増量補正していることにより、当該補正をしていない場合に比べてNOx発生量を低減できている。図6(i)中の網点S2に示す面積は、過渡期間t20〜t21終了後におけるNOx低減量を示す。
そして、NOx低減量S2がNOx増加量S1を上回ったt31時点で補償制御を終了する。なお、補償制御の指令が終了してから所定時間t31〜t32の間に、補償制御によるEGR増量補正を徐々に低下させてゼロにする徐変制御を行う。以上により、切替弁16の切り替え駆動に伴い一時的に生じたNOx増加量S1を、補償制御によるNOx低減量S2で補う。
先述したように、PM発生許容量ぎりぎりまでEGR流量を増やしてNOxを低減させるよう、目標EGR量は最適化されている。但し、外気温度の変化や大気圧の変化等、エンジンの運転環境の変化に対する余裕を見越して、その余裕分だけ目標EGR量は少なく設定されている。上記補償制御では、前記余裕分だけ目標EGR量を増量補正している。
次に、上記補償制御の処理手順について、図7のフローチャートを用いて説明する。図7に示す一連の処理は、所定周期(例えばマイコン29aが有するCPUの演算周期)又は所定のクランク角度毎に、ECU29のマイコン29aが繰り返し実行する処理である。また、以下の説明では、図4の状態Aから状態B,C,Dへと変化した状況を想定している。
<状態C到達直後の1サイクル目>
以下、状態Bから状態Cに到達した直後に実行される図7の処理サイクルについて説明する。まず、ステップS101において、基本目標EGR量Gegrtrgb(通常時の目標EGR量)、現在導入している実EGR量Gegract、及びバイパスモードへの切り替え要求を指令するバイパス要求フラグXbypreqを算出する。
具体的には、状態Cにおけるエンジン回転速度Ne及び目標噴射量Qfinを取得し、取得したNe,Qfinに基づき基本目標EGR量Gegrtrgbを算出する。例えば、エンジン回転速度Ne及び目標噴射量Qfinに対する基本目標EGR量Gegrtrgbの最適値が記憶されたマップを用いて算出する(Gegrtrgb=MAP(Ne,Qfin))。また、状態Cにおける過給圧Pim、吸気量Gair、及び吸気温度Timを取得し、取得したPim,Gair,Timに基づき実EGR量Gegractを算出する(Gegract=f(Pim,Gair,Tim))。
また、取得したNe,Qfinに基づき、図8(a)のマップを用いてバイパス要求フラグXbypreqを算出する(Xbypreq=MAP(Ne,Qfin))。取得したNe,Qfinが、マップ中の実線に示す境界線よりも高負荷高Neの側にあればクーラモードとするようバイパス要求フラグXbypreqをゼロに設定し、低負荷低Neの側にあればバイパスモードとするようバイパス要求フラグXbypreqを1に設定する。
続くステップS102では、切替弁16により切り替えられる流路(モード)に関し、要求流路と現在の流路が異なるか否かを判定する。つまり、ステップS101で算出したバイパス要求フラグXbypreqの設定値と、現在の切替弁16の回転駆動位置Xbypactとが異なっており切替弁16の回転駆動が要求される状態にあるか否かを判定する。今回の処理サイクルでは、状態Cに到達直後であるためXbypreq≠Xbypactと判定(S102:YES)されることとなり、処理はステップS104へ移行する。
続くステップS104(増加量算出手段)では、ステップS101で算出した現在の実EGR量Gegractに基づき、図8(c)のマップを用いて、モード切替により生じたNOxの増加分(NOx増加量Noxinc)を算出する(Noxinc=MAP(Gegract))。また、モード切替が複数回行われた場合を想定し、NOx増加量Noxincを前回値に累積加算することで、NOx増加積算量Noxinctotalも算出する(Noxinctotal=前回値+Noxinc)。図8(c)のマップでは、実EGR量Gegractが多い時ほどNOx増加量Noxincを多く推定している。これは、モード切替開始時点における実EGR量が多い時ほど、モード切替により実EGR量が一旦ゼロになったときの実EGR量の減少量が多くなるためである。
続くステップS107では、モード切替により発生したNOx増加量の積算値Noxinctotalと、補償制御によるNOx低減量の積算値Noxdectotal(後に詳述)を比較し、NOx悪化分が解消されて補償制御が終了したか否かを判定する。今回の処理サイクルでは、状態Cに到達直後であるため未だ解消できていないため、Noxinctotal≦Noxdectotalと判定され、処理はステップS109へ移行する。
続くステップS109では、補償制御を実行させるよう、補償制御終了フラグXegrstpをゼロに設定する(Xegrstp=0)。そして、ステップS101で算出した基本目標EGR量Gegrtrgbに基づき、図8(d)のマップを用いてEGR補正係数Megrを算出する(Megr=MAP(Gegrtrgb))。図8(d)のマップでは、目標EGR量Gegrtrgbが多い時ほど補正係数を小さくして、目標EGRの増量補正を少なくするように設定している。これは、目標EGR量Gegrtrgbが多い時には、補正係数Megrを僅かに増加させるだけでPM増大量が許容範囲を超えるほどに大きくなるおそれが高くなるからである。
続くステップS110では、基本目標EGR量GegrtrgbにEGR補正係数Megrを乗じることで最終目標EGR量Gegrtrgを算出し(Gegrtrg=Gegrtrgb×Megr)、最終目標EGR量Gegrtrgから実EGR量Gegractを減算することでEGR量偏差Gegrdelを算出する(Gegrdel=Gegrtrg−Gegract)。そして、EGR量偏差Gegrdelに応じたEGR弁13の弁開度f(Gegrdel)を算出し、目標弁開度Pegrtrgの前回値に弁開度f(Gegrdel)を加算することで、目標弁開度Pegrtrgの今回値を算出する(Pegrtrg=前回値+f(Gegrdel))。
続くステップS111では、バイパス要求フラグXbypreq=1であり、要求流路がバイパスモードであるか否かを判定する。要求流路がバイパスモードであれば(Xbypreq=1)ステップS112へ移行し、ステップS110で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のマイナス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=−Pegrtrgとする。一方、要求流路がバイパスモードでなければ(Xbypreq=0)ステップS113へ移行し、ステップS110で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のプラス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=Pegrtrgとする。なお、今回の処理サイクルでは、状態Cに到達直後であるためクーラモードが要求されることとなり(S111:NO)、処理はステップS113へ移行する。
<状態C到達直後の2サイクル目>
以下、状態Bから状態Cに到達した直後に実行される処理の2サイクル目について説明する。まず、ステップS101にて、基本目標EGR量Gegrtrgb、実EGR量Gegract及びバイパス要求フラグXbypreqを算出した後、続くステップS102では、要求流路と現在の流路が同じとなっているため、Xbypreq=Xbypactと判定(S102:NO)されることとなり、処理はステップS103へ移行する。
続くステップS103では、補償制御が実行中かどうか判定する。今回の処理では前回サイクルのステップS109にて補償制御終了フラグXegrstp=0と設定されて補償制御が継続中となっているため、ステップS105へ移行する。
このステップS105(低減量算出手段)では、ステップS101で算出した基本目標EGR量Gegrtrgbに基づき、図8(b)のマップを用いて、補償制御により低減されたNOxの低減分(NOx低減量Noxdec)を算出する(Noxdec=MAP(Gegrtrgb))。また、モード切替が複数回行われた場合を想定し、NOx低減量Noxdecを前回値に累積加算することで、NOx低減積算量Noxdectotalも算出する(Noxdectotal=前回値+Noxdec)。図8(b)のマップでは、目標EGR量Gegrtrgbが多い時ほどNOx低減量Noxdecを少なく推定している。これは、図8(d)のマップにおいて目標EGR量Gegrtrgbが多い時ほど補正係数を小さくして、目標EGRの増量補正を少なくするように設定していることに起因する。
続くステップS107では、先述したようにNOx増加積算値NoxinctotalとNOx低減積算値Noxdectotalを比較し、NOx悪化分が解消されて補償制御が終了したか否かを判定する。今回の処理サイクルでは解消できたと判定されたことを想定し、ステップS108へ移行する。
このステップS108では、補償制御を終了させるよう、補償制御終了フラグXegrstpを1に設定する(Xegrstp=1)。そして、EGR補正係数Megrを1にすることで補償制御による目標EGR量の増量補正を終了させる。その後、ステップS110において、最終目標EGR量Gegrtrg、EGR量偏差Gegrdel、目標弁開度Pegrtrgを順次算出する。続くステップS111では、今回の処理サイクルでもクーラモードが要求されることとなり(S111:NO)、処理はステップS113へ移行する。
<状態C到達直後の3サイクル目>
以下、状態Bから状態Cに到達した直後に実行される処理の3サイクル目について説明する。まず、ステップS101にて、基本目標EGR量Gegrtrgb、実EGR量Gegract及びバイパス要求フラグXbypreqを算出した後、続くステップS102では、要求流路と現在の流路が同じとなっているため、Xbypreq=Xbypactと判定(S102:NO)されることとなり、処理はステップS103へ移行する。
続くステップS103では、今回の処理では前回サイクルのステップS108にて補償制御終了フラグXegrstp=1と設定されて補償制御が終了しているため、ステップS106へ移行する。このステップS106では、補償制御が終了したので、NOx増加量とその積算値、NOx低減量とその積算値をリセットする(Noxinc=0、Noxinctotal=0、Noxdec=0、Noxdectotal=0)。
続くステップS107では、今回の処理ではNoxinctotal=Noxdectotalと判定されることとなり、補償制御は終了しているので、処理はステップS108へ移行して補償制御終了フラグXegrstp=1とし、EGR補正係数Megr=1とする。その後、ステップS110において、最終目標EGR量Gegrtrg、EGR量偏差Gegrdel、目標弁開度Pegrtrgを順次算出する。続くステップS111では、今回の処理サイクルでもクーラモードが要求されることとなり(S111:NO)、処理はステップS113へ移行する。
そして、状態Cに到達した直後の4サイクル目以降は、上述した3サイクル目の処理手順を繰り返し実行して、図4の状態Cに到達することとなる。
以上に詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)切替弁16を切替駆動させた場合には、その駆動開始とともに、基本目標EGR量Gegrtrgbを増量補正する補償制御を実施するので、切替弁16の切替駆動が完了した後においてNOx発生量を低減させることができる。よって、切替弁16の切替駆動期間中には一時的にはNOx発生量増大を招くものの、その後の補償制御実施期間も含めたトータル的な期間で考慮すれば、NOx発生量の増大抑制を図ることができると言える。
(2)切替弁16を駆動させたことに起因して増加したNOx発生量の増加分(NOx増加量Noxinc)を算出し、補償制御の実施に起因して低減されたNOx発生量の低減分(NOx低減量Noxdec)を算出し、前記低減分が前記増加分を上回るまで補償制御を実施する。そのため、補償制御によるNOx低減分が不足するといった懸念を解消できる。
しかも、前記低減分及び増加分の各々について累積値(NOx低減積算量Noxdectotal、NOx増加積算値Noxinctotal)を算出し、低減分の累積値が増加分の累積値を上回るまで補償制御を実施するので、前記低減分が前記増加分を上回るまで補償制御を継続できずに途中で中断した場合であっても、補償制御による低減分が不足するといった懸念を解消できる。
(3)NOx増加量Noxincを算出するにあたり、切替弁16を駆動させた時における実EGR量Gegract(エンジン運転状態)に基づき図8(c)のマップを用いて算出するので、NOx増加量Noxincの算出精度を向上できる。なお、実EGRガス量Gegractに加え、その時のエンジン回転速度Ne及びエンジン負荷(例えば目標噴射量Qfin)に応じて前記増加分を算出すれば、前記算出精度をさらに向上できる。
(4)NOx低減量Noxdecを算出するにあたり、補償制御の実施時における基本目標EGR量Gegrtrgb(エンジン運転状態)に基づき図8(d)のマップを用いて算出するので、NOx低減量Noxdecの算出精度を向上できる。なお、基本目標EGR量Gegrtrgbに加え、その時のエンジン回転速度Ne及びエンジン負荷(例えば目標噴射量Qfin)に応じて前記増加分を算出すれば、前記算出精度をさらに向上できる。
(5)EGR補正係数Megr(NOx発生量を低減させる低減度合い)をエンジン運転状態に応じて可変設定するので、PMが許容量を超えない範囲でNOx低減量を最大にする最適値にEGR補正係数Megrを設定することを、高精度で実現できる。また、EGR補正係数Megrを算出するにあたり、補償制御の実施時における基本目標EGR量Gegrtrgb(エンジン運転状態)に基づき図8(b)のマップを用いて算出するので、EGR補正係数Megrを上記最適値に精度良く近づけることができる。なお、基本目標EGR量Gegrtrgbに加え、その時のエンジン回転速度Ne及びエンジン負荷(例えば目標噴射量Qfin)に応じて前記増加分を算出すれば、EGR補正係数Megrを上記最適値に近づける精度をさらに向上できる。
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、切替弁16の駆動に起因して一時的に増加したNOxの増加分を、補償制御を実行することで補っている。これに対し本実施形態では、燃焼が行われていない燃料カット状態の時に切替弁16を駆動させることで、上記NOx増加の回避を図っている。
以下、本実施形態にかかるEGR弁13及び切替弁16の駆動制御の処理手順について、図9のフローチャートを用いて説明する。図9に示す一連の処理は、所定周期(例えばマイコン29aが有するCPUの演算周期)又は所定のクランク角度毎に、ECU29のマイコン29aが繰り返し実行する処理である。なお、本実施形態におけるエンジン制御システムのハード構成は、図1及び図2に示す上記第1実施形態と同じである。
まず、ステップS201において、図7のステップS101と同様にして、現時点でのエンジン回転速度Ne及び目標噴射量Qfinに基づき基本目標EGR量Gegrtrgbを算出する。また、現時点における過給圧Pim、吸気量Gair及び吸気温度Timに基づき実EGR量Gegractを算出する。
続くステップS202では、エンジン運転中に燃料の噴射を停止させる、燃料カット制御を実施している最中(燃料カット状態)であるか否かを判定する。この燃料カット制御は、車両運転者によるアクセルペダルの踏み込みがなく減速走行している時のように車両が惰性走行をしている時に、インジェクタ26からの燃料噴射を停止させることで燃費向上を図る制御である。
目標噴射量Qfinがゼロであり燃料カット状態であると判定された場合には(S202:YES)、続くステップS203において、切替弁16の駆動を許可するよう切替許可フラグXbypperを1に設定する。一方、燃料カット状態でないと判定された場合には(S202:NO)、続くステップS204において、切替弁16の駆動を許可させないよう切替許可フラグXbypperを0に設定する。
続くステップS205では、バイパスモードへの切り替え要求を指令するバイパス要求フラグXbypreqを算出する。具体的には、図7のステップS101と同様にして、取得したNe,Qfinに基づき、図8(a)のマップを用いてバイパス要求フラグXbypreqを算出する(Xbypreq=MAP(Ne,Qbyp))。
但し、燃料カット状態の時には、現時点での目標噴射量Qfin(=0)からバイパス要求フラグXbypreqを算出しようとすると正確な算出ができない。そこで、燃料カット状態の時には、ステップS203にて燃料カット状態の直前における目標噴射量Qfinに基づきバイパス要求フラグ算出用の噴射量Qbypを算出し(Qbyp=Qbyp前回値)、上記ステップS205において、算出用噴射量Qbypをその時の目標噴射量Qfinに置き換えて、図8(a)のマップを用いてバイパス要求フラグXbypreqを算出する。なお、燃料カット状態でない時には、上記ステップS204にてQbyp=Qfinに設定する。
続くステップS206では、図7のステップS102と同様にして、要求流路と現在の流路が異なるか否かを判定する。つまり、ステップS205で算出したバイパス要求フラグXbypreqの設定値と、現在の切替弁16の回転駆動位置Xbypactとが異なっており切替弁16の回転駆動が要求される状態にあるか否かを判定する。
Xbypreq≠Xbypactと判定(S206:YES)された場合には、続くステップS207において、切替弁16の駆動が許可されているか否か、つまり切替許可フラグXbypperが1に設定されているか否かを判定する。
この時、切替許可状態(Xbypper=1)であると判定されれば(S207:YES)、切替弁16の駆動させてモードを切り替えるよう流路切替実行フラグXbypを1に設定する(S208)。一方、切替が許可されていない状態(Xbypper=0)であれば(S207:NO)、或いはXbypreq=Xbypactと判定(S206:NO)されれば、現状の流路(切替モード)を維持するよう流路切替実行フラグXbypを0に設定する(S209)。
続くステップS210では、基本目標EGR量Gegrtrgbから実EGR量Gegractを減算することでEGR量偏差Gegrdelを算出する(Gegrdel=Gegrtrgb−Gegract)。そして、EGR量偏差Gegrdelに応じたEGR弁13の弁開度f(Gegrdel)を算出し、目標弁開度Pegrtrgの前回値に弁開度f(Gegrdel)を加算することで、目標弁開度Pegrtrgの今回値を算出する(Pegrtrg=前回値+f(Gegrdel))。
その後、流路切替実行フラグXbypが切替弁16の駆動を指令するよう設定されている(Xbyp=1)と判定された場合において(S211:YES)、現在の要求流路がバイパスモード(Xbypreq=1)であると判定されれば(S213:YES)、ステップS210で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のマイナス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=−Pegrtrgとする(S214)。一方、Xbypreq=0と判定されれば(S213:NO)、ステップS210で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のプラス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=Pegrtrgとする(S215)。
また、Xbyp=0と判定された場合において(S211:NO)、現在の流路がバイパスモード(Xbypact=1)であると判定されれば(S212:YES)、ステップS210で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のマイナス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=−Pegrtrgとする(S216)。一方、Xbypact=0と判定されれば(S212:NO)、ステップS210で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のプラス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=Pegrtrgとする(S217)。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(6)要求流路と現在の流路が異なる(Xbypreq≠Xbypact)と判定された場合であっても、現時点で燃料カット状態でなければ切替弁16の駆動が許可されず、燃料カット状態の時に切替弁16を駆動させる。そのため、切替弁16の駆動に連動してEGR弁13が駆動しても、この駆動時にはそもそも燃料カット状態で燃焼が行われていないので、NOx発生量増大を回避でき排気エミッションの悪化を免れることができる。
(第3実施形態)
本実施形態は、上記第1及び第2実施形態を組み合わせた制御である。つまり、燃料カット状態の時に切替弁16を駆動させるといった上記第2実施形態の制御を実施しつつ、長時間に亘って燃料カット制御が実施されない場合には、切替弁16の駆動を例外的に許可して、上記第1実施形態の補償制御を実行する。
以下、本実施形態にかかるEGR弁13及び切替弁16の駆動制御の処理手順について、図10、図11及び図12のフローチャートを用いて説明する。図10〜図12に示す一連の処理は、所定周期(例えばマイコン29aが有するCPUの演算周期)又は所定のクランク角度毎に、ECU29のマイコン29aが繰り返し実行する処理である。なお、本実施形態におけるエンジン制御システムのハード構成は、図1及び図2に示す上記第1実施形態と同じである。
まず、ステップS301〜S307において、図9のステップS201〜S207と同様の処理を実行する。
すなわち、基本目標EGR量Gegrtrgb及び実EGR量Gegractを算出し(S301)、燃料カット状態であれば(S302:YES)切替弁16の駆動を許可するよう切替許可フラグXbypperを1に設定するとともに、バイパス要求フラグ算出用の噴射量Qbypを算出する(S303)。一方、燃料カット状態でなければ(S302:NO)、切替弁16の駆動を許可させないよう切替許可フラグXbypperを0に設定する(S304)。
そして、現時点での目標噴射量Qfin又はバイパス要求フラグ算出用の噴射量Qbypに基づきバイパス要求フラグXbypreqを算出し(S305)、続くステップS306では、ステップS305で算出したバイパス要求フラグXbypreqの設定値と、現在の切替弁16の回転駆動位置Xbypactとが異なっており切替弁16の回転駆動が要求される状態にあるか否かを判定する。Xbypreq=Xbypactと判定(S306:NO)されれば、現状の流路(切替モード)を維持するよう流路切替実行フラグXbypを0に設定する(S308)。
Xbypreq≠Xbypactと判定(S306:YES)された場合には、続くステップS307において、切替弁16の駆動が許可されているか否か、つまり切替許可フラグXbypperが1に設定されているか否かを判定する。そして、切替許可状態(Xbypper=1)であると判定されれば(S307:YES)、切替弁16を駆動させてモードを切り替えるよう流路切替実行フラグXbypを1に設定するとともに、補償制御を実施させないよう補償制御実施フラグXegrincを0に設定する(S310)。
一方、切替が許可されていない状態(Xbypper=0)、つまりXbypreq≠Xbypactであるにも拘わらず燃料カット状態でないために切替弁16の駆動が許可されていない待機状態であれば(S307:NO)、続くステップS309において、この流路切替待機時間Cbypstbyが所定時間継続したか否かを判定する。この判定に用いる所定時間には予め設定した定数を用いてもよいが、本実施形態では、前記所定時間をエンジン運転状態(例えば目標噴射量Qfin等に反映されるエンジン負荷や、エンジン回転速度Ne)に応じて可変設定している。
流路切替待機時間Cbypstbyが所定時間継続した場合には(S309:YES)、続くステップS311において、燃料噴射中であっても例外的に切替弁16を駆動させてモードを切り替えるよう、流路切替実行フラグXbypを1に設定する。そして、この場合には上記第1実施形態と同様の補償制御を実施するよう補償制御実施フラグXegrincを1に設定する。
一方、流路切替待機時間Cbypstbyが所定時間継続していない場合には(S309:NO)、続くステップS311において、前記待機状態を継続させる。つまり、現状の流路(切替モード)を維持するよう流路切替実行フラグXbypを0に設定するとともに、補償制御を実施させないよう補償制御実施フラグXegrincを0に設定する。そして、続くステップS313にて、流路切替待機時間Cbypstbyをカウントアップさせる(Cbypstby=Cbypstbyの前回値+1)。
次に、ステップS314において、燃料噴射中に切替弁16を駆動させることで補償制御が必要となっているか否か、つまりステップS311により補償制御実施フラグXegrincが1に設定されているか否かを判定する。補償制御が不要(Xegrinc=0)であれば(S314:NO)、続くステップS323において、EGR補正係数Megrを1にする(Megr=1)。一方、補償制御が必要(Xegrinc=1)であれば(S314:YES)、続くステップS315において、切替弁16の駆動が指令されている状態(流路切替実行フラグXbyp=1)であるか否かを判定する。
そして、以降のステップS316〜S322では、図7のステップS103〜S109と同様の処理を実行する。
すなわち、流路切替実行フラグXbyp=1であれば(S315:YES)、実EGR量Gegractに基づき図8(c)のマップを用いてNOx増加量Noxincを算出するとともに、NOx増加積算量Noxinctotalを算出する(S317(増加量算出手段))。一方、流路切替実行フラグXbyp=0であれば(S315:NO)、続くステップS316にて補償制御が実行中かどうか判定する。
補償制御実行中であれば(Xegrstp=0)、基本目標EGR量Gegrtrgbに基づき図8(b)のマップを用いてNOx低減量Noxdecを算出するとともに、NOx低減積算量Noxdectotalを算出する(S318(低減量算出手段))。一方、補償制御実行中でなければ(Xegrstp=1)、NOx増加量とその積算値、NOx低減量とその積算値をリセットする(S319)。
そして、続くステップS320では、NOx増加積算値NoxinctotalとNOx低減積算値Noxdectotalとを比較し、NOx悪化分が解消されて補償制御が終了したか否かを判定する。解消できたと判定されれば(S320:YES)、補償制御を終了させるよう補償制御終了フラグXegrstpを1に設定するとともに、EGR補正係数Megrを1にする(S321)。そして、流路切替待機時間Cbypstbyをリセットする(Cbypstby=0)とともに、補償制御実施フラグXegrincを0に設定する(S324)。
一方、解消できていないと判定されれば(S320:NO)、補償制御を実行させるよう補償制御終了フラグXegrstpをゼロに設定する。そして、基本目標EGR量Gegrtrgbに基づき図8(d)のマップを用いてEGR補正係数Megrを算出する(S322)。
続くステップS325では、図7のステップS110と同様の処理を実行し、それ以降のステップS326〜S332では、図9のステップS211〜S217と同様の処理を実行する。
すなわち、ステップS325において、最終目標EGR量Gegrtrg、EGR量偏差Gegrdel、目標弁開度Pegrtrgを順次算出する。その後、Xbyp=1かつXbypreq=1と判定されれば(S326:YES、S227:YES)、ステップS325で算出した目標弁開度Pegrtrgを図3のマイナス側で制御するよう、最終目標弁開度Pegrtrgf=−Pegrtrgとする(S329)。
Xbyp=1かつXbypreq=0と判定されれば(S326:YES、S227:NO)、目標弁開度Pegrtrgを図3のプラス側で制御するよう最終目標弁開度Pegrtrgf=Pegrtrgとする(S330)。また、Xbyp=0かつXbypreq=1と判定されれば(S326:NO、S328:YES)、目標弁開度Pegrtrgを図3のマイナス側で制御するよう最終目標弁開度Pegrtrgf=−Pegrtrgとする(S331)。また、Xbyp=0かつXbypreq=0と判定されれば(S326:NO、S328:NO)、目標弁開度Pegrtrgを図3のプラス側で制御するよう最終目標弁開度Pegrtrgf=Pegrtrgとする(S332)。
以上詳述した本実施形態によれば、上記(1)〜(6)の効果が得られるとともに、以下の効果が得られるようになる。
(7)例えば、車両運転者がアクセルペダルを踏み込んでエンジン運転状態が図4の状態Aから、状態B、状態Cに変化した場合において、状態Cに到達後、燃料カット状態で切替弁16をクーラモードに切り替えることができれば上記第2実施形態による効果(6)を発揮できるが、状態Cに到達してから所定時間が経過しても燃料カット状態にならなければ、燃料噴射中であっても切替弁16を例外的に駆動させてクーラモードに切り替える。これにより、「EGRガスの温度を最適値に制御してNOx低減効果を促進する、といった効果が長時間発揮されなくなる」とのデメリットを解消できる。
しかも、このように燃料噴射中に切替弁16を例外的に駆動させた場合には、補償制御を実施するので、切替弁16の切替駆動に伴い生じたNOx発生量増大分は、切替弁16の切替駆動が完了した後における補償制御によるNOx発生量低減分で補われる。よって、トータル的な期間においてNOx発生量の増大抑制を図ることができる。
(8)前記所定時間を、エンジン運転状態に応じて可変設定するので、「燃料カット時に切替弁16を駆動させることにより排気エミッション悪化を免れる」とのメリットと上記デメリットとのバランスをきめ細かく調整できる。
(第4実施形態)
上記第1及び第3実施形態にかかる補償制御では、EGR量を増量補正することでNOx発生量低減を図っているのに対し、本実施形態にかかる補償制御では、インジェクタ26からの燃料の噴射時期を遅角させることで、NOx発生量低減を図っている。なお、噴射時期を遅角させるほどNOx発生量を低減できる反面、PM発生量は増大する。
本実施形態にかかる制御では、図7に示す第1実施形態の制御に対してステップS109,S110を次のように変更する。すなわち、本実施形態にかかるステップS109では、EGR補正係数Megrを算出することに替えて、基本目標EGR量Gegrtrgbに基づき噴射時期補正係数(遅角量)を算出する。
この算出でも図8(d)のマップと同様にして、目標EGR量Gegrtrgbが多い時ほど補正係数を小さくして、目標噴射時期の遅角補正量を少なくするように設定する。なお、本実施形態にかかるステップS110では、燃料の基本目標噴射時期に噴射時期補正係数(遅角量)を加算することで最終目標噴射時期を算出する。
以上により、本実施形態によっても、上記第1及び第3実施形態にかかる補償制御による効果と同様の効果が得られる。
(第5実施形態)
上記第1及び第3実施形態にかかる補償制御では、EGR量を増量補正することでNOx発生量低減を図っているのに対し、本実施形態にかかる補償制御では、インジェクタ26から噴射される燃料の噴射圧力を制御することで、NOx発生量低減を図っている。なお、噴射圧力が低いほどNOx発生量を低減できる反面、PM発生量は増大する。
本実施形態にかかる制御では、図7に示す第1実施形態の制御に対してステップS109,S110を次のように変更する。すなわち、本実施形態にかかるステップS109では、EGR補正係数Megrを算出することに替えて、基本目標EGR量Gegrtrgbに基づき噴射圧力補正係数(圧力減少量)を算出する。
この算出でも図8(d)のマップと同様にして、目標EGR量Gegrtrgbが多い時ほど補正係数を小さくして、噴射圧力の減少量を少なくするように設定する。なお、本実施形態にかかるステップS110では、燃料の基本噴射圧力に圧力減少量を加算することで最終目標噴射圧力を算出する。
なお、図示しない高圧ポンプ(例えばプランジャポンプ)から蓄圧室(コモンレール)へ圧送供給された燃料が、インジェクタ26へ供給される構成において、高圧ポンプからコモンレールへの圧送量をECU29が制御することで、コモンレール内の燃料圧力、つまりインジェクタ26の噴射圧力を制御している。そして、ステップS110で算出した最終目標噴射圧力となるよう、ECU29は高圧ポンプの作動を制御する。
以上により、本実施形態によっても、上記第1及び第3実施形態にかかる補償制御による効果と同様の効果が得られる。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
・図2に示す切替弁16(温度調整手段)では、切替弁16によるクーラモード及びバイパスモードの切り替え時に、EGR弁13が一時的に全閉となる構成であるが、このような構成に替え、切替弁16による切替駆動時に、EGR弁13が一時的に全開となる構成を採用してもよい。
但しこの場合には、切替弁16によりモードを切り替える際にはEGR量が一旦最大となる。すると、一時的にPM(特定成分)の排出量が増加して、排気エミッション悪化が懸念される。よって、上記構成の場合における補償制御では、NOxを低減させることに替えて、PM排出量を低減させる補償制御を実施する。つまり、EGR量の低減、燃料噴射時期の進角、或いは燃料噴射圧力の増加を補償制御として実施する。
・図2に示す切替弁16(温度調整手段)は、EGRクーラ14への流入口14aとバイパス通路15とを切替開閉するバルブであるが、このように単に切替開閉するのみならず、流入口14a及びバイパス通路15の両方を開口させた中間開度位置においてその開度を調整することで、EGRガスをEGRクーラ14へ流通させる流量とバイパス配管15により迂回させる流量との流通割合を調整する構成として、EGRガスの温度を微調整可能としてもよい。
・図2に示す切替弁16(温度調整手段)では、EGR弁13の回転が所定範囲を超えて回転した時に切替弁16は保持位置を切り替えるよう間欠的に回転駆動する構成であるが、このような構成に替え、EGR弁13の駆動(つまり電動モータ131の作動)に伴い、切替弁16が連続的に回転駆動する構成を採用してもよい。
・図8(d)に示すようにEGR補正係数Megrをエンジン運転状態に応じて可変設定することに替え、EGR補正係数Megrを一定の値に固定してもよい。
・図7のステップS104において、実EGR量Gegractに基づきNOx増加量Noxinc及びその積算値Noxinctotalを算出しているが、この算出手法に替え、切替弁16を切替駆動させた回数、その時のエンジン回転速度Ne及びエンジン負荷(例えばQfin)に基づきNOx増加量積算値Noxinctotalを算出するようにしてもよい。これによれば、実EGR量Gegractに基づきマップを用いてNOx増加量Noxinc等を算出する場合に比べて、マイコン29aの演算処理負荷の軽減を図ることができる。
・図7のステップS105において、基本目標EGR量Gegrtrgbに基づきNOx低減量Noxdec及びその積算値Noxdectotalを算出しているが、この算出手法に替え、補償制御を実施させた時間と回数、その時のエンジン回転速度Ne及びエンジン負荷(例えばQfin)に基づきNOx低減量積算値Noxdectotalを算出するようにしてもよい。これによれば、基本目標EGR量Gegrtrgbに基づきマップを用いてNOx低減量Noxdec等を算出する場合に比べて、マイコン29aの演算処理負荷の軽減を図ることができる。