JP2010159768A - シリンダライナの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】シリンダの軸方向における温度差の縮小を通じて燃料消費率の向上を図ることのできるシリンダライナの製造方法を提供する。
【解決手段】この製造方法では、ライナ上端23からライナ下端24までにわたり連続する態様の皮膜51を溶射装置52により形成する。具体的には、ライナ上部25の外周面22に皮膜51の高熱伝導部51Aを形成するとき、溶射装置52を同外周面22から基準溶射距離LAだけ離間させる。また、ライナ下部26の外周面22に皮膜51の低熱伝導部51Bを形成するとき、溶射装置52を同外周面22から基準溶射距離LAよりも大きい低率溶射距離LBだけ離間させる。
【選択図】図8

Description

本発明は、シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法に関する。
エンジンのシリンダブロックとしてシリンダライナを備えたものが実用化されている。一般には、アルミニウム合金製のシリンダブロックに対してシリンダライナが適用される。なお、こうした鋳ぐるみ用のシリンダライナとしては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
実開昭62−52255号公報
ところで、エンジンにおいては、シリンダの温度上昇によりシリンダボアが熱膨張するようになる。一方、シリンダの温度の大きさは軸方向の位置に応じて変化するため、これにともなってシリンダボアの変形量も軸方向において異なった大きさとなる。こうしたシリンダボアの変形量の違いは、ピストンのフリクションの増大をまねくため、燃料消費率を悪化させる要因の一つとなっている。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的はシリンダの軸方向における温度差の縮小を通じて燃料消費率の向上を図ることのできるシリンダライナの製造方法を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法において、軸方向の上部の外周面から軸方向の下部の外周面までにわたり連続する態様の溶射層を溶射装置により形成するものであって、前記上部の外周面に溶射層を形成する際に前記溶射装置を同外周面から第1の距離だけ離間させ、前記下部の外周面に溶射層を形成する際に前記溶射装置を同外周面から前記第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させることを要旨としている。
溶射に際して溶射材料の付着効率が低い場合、溶射装置から噴射された溶射材料においては、シリンダライナの外周面へ付着せずにその周囲で酸化する溶射材料の割合が多くなる。そして、こうした酸化後の溶射材料の一部は、外周面上の皮膜内に混入するようになるため、シリンダライナの外周面には内部に多くの酸化物を含む溶射層が形成されるようになる。
上記発明では、シリンダライナ上部に溶射層を形成する際に外周面と溶射装置との距離を第1の距離に設定するとともに、シリンダライナ下部に溶射層を形成する際の外周面と溶射装置との距離については、これを上記第1の距離での溶射に比べて溶射材料の付着効率が低くなる第2の距離に設定するようにしている。従って、シリンダライナ上部の溶射層とシリンダライナ下部の溶射層との間において熱伝導率に違いが生じるとともに、シリンダライナ上部の溶射層の熱伝導率がシリンダライナ下部の溶射層の熱伝導率よりも大きくなる。これにより、シリンダブロックとシリンダライナ上部との間の熱伝導性が向上する一方で、シリンダブロックとシリンダライナ下部との間の熱伝導性が低下するため、シリンダの軸方向における温度差を縮小することができるようになる。
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリンダライナの製造方法において、前記下部の外周面に形成される溶射層の厚さが前記上部の外周面に形成される溶射層の厚さよりも小さくなることを要旨としている。
上記発明によれば、シリンダライナ上部の溶射層の熱伝導率がシリンダライナ下部の溶射層の熱伝導率よりも大きくなるため、シリンダブロックとシリンダライナ上部との間の熱伝導性が向上する一方で、シリンダブロックとシリンダライナ下部との間の熱伝導性が低下するようになる。これにより、シリンダの軸方向における温度差とともにシリンダボアの変形量の差が縮小されるため、フリクションの低減を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシリンダライナの製造方法において、前記上部から前記下部へ向かうにつれて厚さが次第に小さくなる部位を含めて前記溶射層が形成されることを要旨としている。
上記発明によれば、溶射層の厚さが上部から下部へ向かうにつれて小さく設定されていることにより、シリンダの軸方向における急激な温度変化が抑制されるため、シリンダボアの変形の安定化を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
本発明にかかるシリンダライナを具体化した第1実施形態について、同シリンダライナを備えたエンジンの全体構成を示す構成図。 同実施形態のシリンダライナについて、その斜視構造を示す斜視図。 同実施形態のシリンダライナについて、その素材となる鋳鉄の組成割合の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、軸方向に沿った断面の構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、軸方向に沿った断面の構造を示す断面図。 〔A〕同実施形態のシリンダライナについて、軸方向に沿った断面構造を示す断面図。〔B〕同実施形態のシリンダライナについて、軸方向の位置とシリンダ壁温との関係の一例を示すグラフ。 本発明にかかるシリンダライナを具体化した第2実施形態について、軸方向に沿った断面の構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、その皮膜の製造工程の一例を示す工程図。 本発明にかかるシリンダライナを具体化した第3実施形態について、その斜視構造を示す斜視図。 同実施形態のシリンダライナについて、括れた形状の突起を模式的に示すモデル図。 同実施形態のシリンダライナについて、括れた形状の突起を模式的に示すモデル図。 同実施形態のシリンダライナについて、図9のZA部の断面構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図9のZB部の断面構造を示す断面図。 金型遠心鋳造によるシリンダライナの製造について、製造工程の一覧を示す工程図。 金型遠心鋳造によるシリンダライナの製造について、塗型層における括れた形状の凹穴の形成態様を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法による各パラメータの測定手順の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法により得られる等高線図の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、測定高さと等高線との関係を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法により得られる等高線図の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法により得られる等高線図の一例を示す図。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
本実施形態では、アルミニウム合金製エンジンのシリンダライナとして本発明を具体化した場合を想定している。
<エンジンの構成>
図1に、本発明にかかるシリンダライナを備えたエンジンの全体構成を示す。
エンジン1は、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12等を備えて構成されている。
シリンダブロック11は、複数のシリンダ13を備えて構成されている。
シリンダ13は、シリンダライナ2を備えて構成されている。
シリンダブロック11においては、シリンダライナ2の内周面(ライナ内周面21)によりシリンダ13の内周側の壁面(シリンダ内壁14)が形成されている。また、ライナ内周面21に囲まれてシリンダボア15が形成されている。
シリンダライナ2は、鋳造材料による鋳ぐるみを通じてその外周面(ライナ外周面22)側がシリンダブロック11と接合されている。
なお、シリンダブロック11の素材となるアルミニウム合金としては、例えば「JIS ADC10(関連規格:米国ASTM A380.0)」または「JIS ADC12(関連規格:米国ASTM A383.0)」を用いることができる。本実施形態では、アルミニウム合金として上記ADC12を採用してシリンダブロックを構成している。
<シリンダライナの構成>
図2に、本発明が適用されたシリンダライナの斜視構造を示す。
シリンダライナ2は、鋳鉄を素材として形成されている。
鋳鉄の組成は、例えば図3に示すように設定することができる。基本的には「基本組成」に示す成分を鋳鉄の組成として選択することができる。また、必要に応じて「補助組成」に示す成分を添加することもできる。
本実施形態においては、シリンダライナ2の各部位を次のように示す。
・シリンダライナ2の上端をライナ上端23とする。
・シリンダライナ2の下端をライナ下端24とする。
・ライナ上端23から軸方向の所定位置までの範囲をライナ上部25とする。
・ライナ下端24から軸方向の所定位置までの範囲をライナ下部26とする。
・ライナ上部25とライナ下部26との間の範囲をライナ中部27とする。
なお、ライナ上端23はエンジン1において燃焼室側に位置するシリンダライナ2の端部を示す。また、ライナ下端24は、エンジン1において燃焼室とは反対側に位置するシリンダライナ2の端部を示す。
図4に、軸方向に沿ったシリンダライナ2の断面構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ外周面22には高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4が形成されている。
高熱伝導皮膜3は、同皮膜が形成されていない状態と比べて、シリンダブロック11とシリンダライナ2との間の熱伝導性を向上させることのできる素材により形成されている。なお、高熱伝導皮膜3の素材や製造方法についての詳細は後述する。
低熱伝導皮膜4は、同皮膜が形成されていない状態と比べて、シリンダブロック11とシリンダライナ2との間の熱伝導性を低下させることのできる素材により形成されている。なお、低熱伝導皮膜4の素材や製造方法についての詳細は後述する。
高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4は、それぞれ次のように構成されている。
高熱伝導皮膜3は、ライナ上部25及びライナ中部27のライナ外周面22に形成されている。即ち、ライナ上端23からライナ下部26までの範囲に形成されている。
高熱伝導皮膜3は、ライナ上部25に位置する皮膜基礎部31とライナ中部27に位置する皮膜傾斜部32とから構成されている。
皮膜基礎部31と皮膜傾斜部32とは連続した1つの皮膜として形成されている。
皮膜基礎部31は、厚さが略一定となるように形成されている。一方で、皮膜傾斜部32は、厚さがライナ上端23側からライナ下端24側へかけて徐々に小さくなるように形成されている。
低熱伝導皮膜4は、ライナ下部26及びライナ中部27のライナ外周面22に形成されている。即ち、ライナ下端24からライナ上部25までの範囲に形成されている。
低熱伝導皮膜4は、ライナ下部26に位置する皮膜基礎部41とライナ中部27に位置する皮膜傾斜部42とから構成されている。
皮膜基礎部41と皮膜傾斜部42とは連続した1つの皮膜として形成されている。
皮膜基礎部41は、厚さが略一定となるように形成されている。一方で、皮膜傾斜部42は、厚さがライナ下端24側からライナ上端23側へかけて徐々に小さくなるように形成されている。
シリンダライナ2において、ライナ中部27のライナ外周面22には、高熱伝導皮膜3と低熱伝導皮膜4とが積み重なった皮膜積層部30が形成されている。皮膜積層部30においては、高熱伝導皮膜3がライナ外周面22上に形成されているとともに、低熱伝導皮膜4が高熱伝導皮膜3上に形成されている。
本実施形態のシリンダライナ2では、上述のように皮膜積層部30を構成しているが、皮膜積層部30における高熱伝導皮膜3と低熱伝導皮膜4との関係を図5に示すように変更することもできる。即ち、低熱伝導皮膜4をライナ外周面22上に形成するとともに、高熱伝導皮膜3を低熱伝導皮膜4上に形成した状態で皮膜積層部30を構成することもできる。
<皮膜の形成態様>
シリンダライナ2における高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の形成態様(皮膜の形成位置及び皮膜の厚さ)について説明する。
〔1〕「皮膜の形成位置」
図6を参照して、高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の形成位置の設定態様について説明する。図6〔A〕は、軸方向に沿ったシリンダライナ2の断面構造を示す。図6〔B〕は、エンジンの定常運転状態におけるシリンダの温度(シリンダ壁温TW)について、軸方向の変化傾向の一例を示す。なお、以降では、シリンダライナ2から高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4を除いた状態のシリンダライナを基準シリンダライナとする。また、基準シリンダライナを備えたエンジンを基準エンジンとする。
本実施形態では、基準エンジンのシリンダ壁温TWに基づいてシリンダライナ2における高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の形成位置を設定するようにしている。
ここで、基準エンジンにおけるシリンダ壁温TWの変化傾向について説明する。なお、図6〔B〕において、実線は基準エンジンのシリンダ壁温TWを、破線は本実施形態のエンジン1のシリンダ壁温TWを示す。また、以降では、シリンダ壁温TWにおける最大の温度を最大シリンダ壁温TWHとし、シリンダ壁温TWにおける最小の温度を最小シリンダ壁温TWLとする。
基準エンジンにおいては、シリンダ壁温TWが次のように変化する。
(A)ライナ下端24からライナ中部27までの範囲においては、燃焼ガスの影響が小さいため、ライナ下端24からライナ中部27へかけてシリンダ壁温TWが緩やかに上昇する。また、ライナ下端24近傍においてシリンダ壁温TWが最小シリンダ壁温TWL1となる。
(B)ライナ中部27からライナ上端23までの範囲においては、燃焼ガスの影響が大きいため、シリンダ壁温TWが急激に上昇する。また、ライナ上端23近傍においてシリンダ壁温TWが最大シリンダ壁温TWH1となる。
上記基準エンジンをはじめとした通常のエンジンにおいては、シリンダ壁温TWの上昇によりシリンダボアが熱膨張するようになる。一方で、上述のようにシリンダ壁温TWは軸方向の位置に応じて変化するため、これにともなってシリンダボアの変形量も軸方向において異なった大きさとなる。こうしたシリンダボアの変形量の違いは、ピストンのフリクションの増大をまねくため、燃料消費率を悪化させる要因の一つとなっている。
そこで、本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ上部25のライナ外周面22に高熱伝導皮膜3を形成する一方で、ライナ下部26のライナ外周面22に低熱伝導皮膜4を形成することで、最大シリンダ壁温TWHと最小シリンダ壁温TWLとの差(シリンダ壁温差△TW)の縮小を図るようにしている。
本実施形態のエンジン1においては、高熱伝導皮膜3によりシリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性が高められる。これにより、ライナ上部25のシリンダ壁温TWが低下するため、最大シリンダ壁温TWHは最大シリンダ壁温TWH1よりも小さい最大シリンダ壁温TWH2となる。
また、エンジン1においては、低熱伝導皮膜4によりシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされる。これにより、ライナ下部26のシリンダ壁温TWが上昇するため、最小シリンダ壁温TWLは最小シリンダ壁温TWL1よりも大きい最小シリンダ壁温TWL2となる。
このように、エンジン1においては最大シリンダ壁温TWHと最小シリンダ壁温TWLとの差(シリンダ壁温差△TW)が小さくされる。これにより、シリンダ13の軸方向におけるシリンダボア15の変形量の幅が縮小される(変形量の均一化が図られる)ため、フリクションの低減を通じて燃料消費率の向上が図られるようになる。また、皮膜積層部30が形成されていることにより、ライナ中部27でのシリンダ壁温TWの急激な変化が抑制されるため、より好適にシリンダボア15の変形量の均一化が図られるようになる。
なお、ライナ上部25とライナ中部27との境界(壁温境界28)は、基準エンジンのシリンダ壁温TWに基づいて把握することができる。一方で、ライナ上部25の長さ(シリンダ上端23から壁温境界28までの長さ)は、多くの場合、シリンダライナ2の長さ(ライナ上端23からライナ下端24までの長さ(ライナ全長))の「1/3〜1/4」程度となることが確認されている。そこで、高熱伝導皮膜3の形成位置の設定に際しては、壁温境界28を厳密に把握することなくライナ上端23からライナ全長の1/3〜1/4までの範囲をライナ上部25として取り扱うこともできる。
〔2〕「皮膜の厚さ」
高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の厚さの設定態様について説明する。
シリンダライナ2においては、高熱伝導皮膜3の皮膜基礎部31の厚さと低熱伝導皮膜4の皮膜基礎部41の厚さとを略同じ大きさに設定している。また、皮膜積層部30の厚さを高熱伝導皮膜3の皮膜基礎部31の厚さ及び低熱伝導皮膜4の皮膜基礎部41の厚さと略同じ大きさに設定している。即ち、ライナ上端23からライナ下端24へかけて略均一の厚さの皮膜が形成されるように高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の厚さを設定している。
<高熱伝導皮膜の形成態様>
高熱伝導皮膜3の素材としては、次の(A)及び(B)の少なくとも一方の条件を満たす材料を用いることができる。
(A)鋳造材料の溶湯の温度(基準溶湯温度TC)以下の融点を有する材料、またはそうした材料を含む材料。なお、基準溶湯温度TCは、より正確には次のように説明することができる。即ち、シリンダブロック11の鋳造材料の溶湯について、シリンダライナ2を鋳ぐるむ際に金型内へ供給されるときの同溶湯の温度が基準溶湯温度TCに相当する。
(B)シリンダブロック11の鋳造材料と冶金的に接合する材料、またはそうした材料を含む材料。
高熱伝導皮膜3の製造方法としては、主に次の製造方法を採用することができる。
[1]溶射
[2]ショットコーティング
[3]めっき
以下に、高熱伝導皮膜3の具体的な構成として主要なものを例示する。
〔1〕「高熱伝導皮膜の構成1」
シリンダライナ2においては、溶射を通じて形成した溶射層を高熱伝導皮膜3として採用することができる。溶射層の素材としては、主にアルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金を採用することができる。
高熱伝導皮膜3をアルミニウム合金(Al−Si合金)の溶射層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
ライナ上部25と高熱伝導皮膜3との接合状態について、高熱伝導皮膜3が溶射を通じて形成されていることにより、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3とは十分な密着性及び接合強度をもって機械的に接合される。なお、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3との密着性は、基準エンジンにおけるシリンダブロックと基準シリンダライナとの密着性よりも高いものとなる。
シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との接合状態について、基準溶湯温度TC以下の融点を有するとともにシリンダブロック11の鋳造材料とのぬれ性が高いAl−Si合金を通じて高熱伝導皮膜3が形成されていることにより、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とは十分な密着性及び接合強度をもって機械的に接合される。なお、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との密着性は、基準エンジンにおけるシリンダブロックと基準シリンダライナとの密着性よりも高いものとなる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ上部25とが接合されていることにより、次のような効果が得られるようになる。
[A]高熱伝導皮膜3を通じてシリンダブロック11とライナ上部25との密着性が確保されているため、シリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性が向上するようになる。
[B]高熱伝導皮膜3を通じてシリンダブロック11とライナ上部25との接合強度が確保されているため、シリンダブロック11とライナ上部25との剥離が抑制されるようになる。これにより、シリンダボア15の膨張時においてもシリンダブロック11とライナ上部25との密着性が確保されるため、熱伝導性の低下が抑制されるようになる。
また、高熱伝導皮膜3の構成として上記構成を採用した場合には、次のような効果が得られるようにもなる。
[C]Al−Si合金の溶射層を通じて高熱伝導皮膜3が構成されていることにより、シリンダブロック11の膨張度合いと高熱伝導皮膜3の膨張度合いとの差が小さくなるため、シリンダボア15の膨張時においてもシリンダブロック11とシリンダライナ2との密着性が確保されるようになる。
[D]シリンダブロック11の鋳造材料とのぬれ性が高いAl−Si合金が採用されているため、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との密着性及び接合強度がより向上するようになる。
なお、エンジン1においては、シリンダブロック11及びライナ上部25と高熱伝導皮膜3との密着性が低下するにつれてこれら部材の間における空隙の量が多くなるため、シリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性が低下するようになる。また、シリンダブロック11及びライナ上部25と高熱伝導皮膜3との接合強度が低下するにつれてこれら部材同士が剥離しやすくなるため、シリンダボア15の膨張時にシリンダブロック11とライナ上部25との密着性の低下をまねくようになる。
ところで、高熱伝導皮膜3の融点が基準溶湯温度TC以下の場合には、シリンダブロック11の製造時に高熱伝導皮膜3が溶融して鋳造材料と冶金的に接合すると考えられる。しかし、本発明者が実施した試験結果によれば、上記にて説明したようにシリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とが機械的に接合されることが確認されている。なお、一部においては冶金的に接合されている箇所の存在も確認されているが、基本的には機械的に接合されている。
また、本発明者の実施した試験によれば、さらに次のことが確認されている。即ち、鋳造材料と高熱伝導皮膜3とが冶金的に接合されていなくとも(または一部のみで冶金的に接合されていても)、高熱伝導皮膜3が基準溶湯温度TC以下の融点を有するものであるときには、シリンダブロック11とライナ上部25との密着性及び接合強度の向上が図られるようになる。なお、そのしくみについては今のところ正確に把握されていないものの、鋳造材料の熱が高熱伝導皮膜3により奪われにくいことに起因して鋳造材料の凝固速度が低減されていることが一因であると考えられている。
〔2〕「高熱伝導皮膜の構成2」
シリンダライナ2においては、ショットコーティングを通じて形成したショットコーティング層を高熱伝導皮膜3として採用することができる。ショットコーティング層の素材としては、主にアルミニウム、アルミニウム合金及び亜鉛を採用することができる。
高熱伝導皮膜3をアルミニウムのショットコーティング層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
ライナ上部25と高熱伝導皮膜3との接合状態について、高熱伝導皮膜3がショットコーティングを通じて形成されていることにより、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3とは十分な密着性及び接合強度をもって機械的及び冶金的に接合される。即ち、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3とは、機械的に接合されている箇所と冶金的に接合されている箇所とが入り交じった状態で接合される。なお、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3との密着性は、基準エンジンにおけるシリンダブロックと基準シリンダライナとの密着性よりも高いものとなる。
シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との接合状態について、基準溶湯温度TC以下の融点を有するとともにシリンダブロック11の鋳造材料とのぬれ性が高いアルミニウムを通じて高熱伝導皮膜3が形成されていることにより、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とは十分な密着性及び接合強度をもって機械的に接合されている。なお、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との密着性は、基準エンジンにおけるシリンダブロックと基準シリンダライナとの密着性よりも高いものとなる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ上部25とが接合されていることにより、上記『〔1〕「高熱伝導皮膜の構成1」』にて記載した[A]及び[B]の効果が得られるようになる。なお、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との機械的な接合に関しては、上記『〔1〕「溶射による高熱伝導皮膜」』での説明と同様の説明を適用することができる。
また、高熱伝導皮膜3の構成として上記構成を採用した場合には、次のような効果が得られるようにもなる。
[C]ショットコーティングでは、コーティング材料を溶融させることなく高熱伝導皮膜3を形成することができるため、高熱伝導皮膜3内に酸化物が含まれにくくなる。従って、酸化に起因する高熱伝導皮膜3の熱伝導率の低下が抑制されるようになる。
〔3〕「高熱伝導皮膜の構成3」
シリンダライナ2においては、めっきを通じて形成しためっき層を高熱伝導皮膜3として採用することができる。めっき層の素材としては、主にアルミニウム、アルミニウム合金、銅及び銅合金を採用することができる。
高熱伝導皮膜3を銅合金のめっき層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。なお、皮膜積層部30は図5に示すように構成される。
ライナ上部25と高熱伝導皮膜3との接合状態について、高熱伝導皮膜3がめっきを通じて形成されていることにより、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3とは十分な密着性及び接合強度をもって機械的に接合されている。なお、ライナ上部25と高熱伝導皮膜3との密着性は、基準エンジンにおけるシリンダブロックと基準シリンダライナとの密着性よりも高いものとなる。
シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との接合状態について、基準溶湯温度TCよりも高い融点を有する銅合金により高熱伝導皮膜3が形成されているものの、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とは十分な密着性及び接合強度をもって冶金的に接合されている。なお、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3との密着性は、基準エンジンにおけるシリンダブロックと基準シリンダライナとの密着性よりも高いものとなる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ上部25とが接合されていることにより、上記『〔1〕「高熱伝導皮膜の構成3」』にて記載した[A]及び[B]の効果が得られるようになる。
また、高熱伝導皮膜3の構成として上記構成を採用した場合には、次のような効果が得られるようにもなる。
[C]シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とが冶金的に接合されるため、シリンダブロック11とライナ上部25との密着性及び接合強度がより向上するようになる。
[D]高熱伝導皮膜3がシリンダブロック11よりも熱伝導率の大きい銅合金を通じて形成されているため、シリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性がより向上するようになる。
なお、シリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とを冶金的に接合させるためには、基本的には基準溶湯温度TC以下の融点を有する金属材料により高熱伝導皮膜3を形成する必要があると考えられる。しかし、本発明者の実施した試験結果によれば、基準溶湯温度TCよりも高い融点の金属材料により高熱伝導皮膜3が形成されていても、上記にて説明したようにシリンダブロック11と高熱伝導皮膜3とが冶金的に接合する場合もあることが確認されている。
<低熱伝導皮膜の形成態様>
低熱伝導皮膜4の素材としては、次の(A)及び(B)の少なくとも一方の条件を満たす材料を用いることができる。
(A)シリンダブロック11の鋳造材料との密着性を低下させる材料、またはそうした材料を含む材料。
(B)シリンダブロック11及びシリンダライナ2の少なくとも一方よりも小さい熱伝導率を有する材料、またはそうした材料を含む材料。
低熱伝導皮膜4の製造方法としては、主に次の製造方法を採用することができる。
[1]溶射
[2]塗装
[3]樹脂コーティング
[4]化成処理
以下に、低熱伝導皮膜4の具体的な構成として主要なものを例示する。
〔1〕「低熱伝導皮膜の構成1」
シリンダライナ2においては、溶射を通じて形成した溶射層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。溶射層の素材としては、主にアルミナやジルコニア等のセラミック材料を採用することができる。また、この他に、酸化物及び気孔を多数含む鉄系材料の溶射層により低熱伝導皮膜4を構成することもできる。
低熱伝導皮膜4をアルミナの溶射層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11よりも熱伝導率の小さいアルミナを通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは熱伝導性が低い状態で機械的に接合される。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、低熱伝導皮膜4を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。
〔2〕「低熱伝導皮膜の構成2」
シリンダライナ2においては、塗装を通じて形成したダイカスト用の離型剤の層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。離型剤としては、例えば次のようなものを採用することができる。
・バーミキュライトとヒタゾールと水ガラスとを調合した離型剤。
・シリコンを主成分とした液状材料と水ガラスとを調合した離型剤。
低熱伝導皮膜4を離型剤の層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い離型剤を通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは空隙を介して接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、空隙を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。また、シリンダブロック11の製造時に用いられるダイカスト用の離型剤またはその素材を流用することが可能となるため、工数やコストの低減が図られるようになる。
〔3〕「低熱伝導皮膜の構成3」
シリンダライナ2においては、塗装を通じて形成した金型遠心鋳造用の塗型剤の層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。塗型剤としては、例えば次のようなものを採用することができる。
・珪藻土を主成分として調合した塗型剤。
・黒鉛を主成分として調合した塗型剤。
低熱伝導皮膜4を塗型剤の層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い塗型剤を通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは空隙を介して接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、空隙を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。また、シリンダライナ2の製造時に用いられる金型遠心鋳造用の塗型剤またはその素材を流用することが可能となるため、工数やコストの低減が図られるようになる。
〔4〕「低熱伝導皮膜の構成4」
シリンダライナ2においては、塗装を通じて形成したメタリック塗料の層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。
低熱伝導皮膜4をメタリック塗料の層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低いメタリック塗料を通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは空隙を介して接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、空隙を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。
〔5〕「低熱伝導皮膜の構成5」
シリンダライナ2においては、塗装を通じて形成した低密着剤の層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。低密着剤としては、例えば次のようなものを採用することができる。
・黒鉛と水ガラスと水とを調合した低密着剤。
・窒化ボロンと水ガラスとを調合した低密着剤。
低熱伝導皮膜4を低密着剤の層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い低密着剤を通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは空隙を介して接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、空隙を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。
〔6〕「低熱伝導皮膜の構成6」
シリンダライナ2においては、樹脂コーティングを通じて形成した耐熱樹脂の層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。
低熱伝導皮膜4を耐熱樹脂の層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い耐熱樹脂を通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは空隙を介して接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、空隙を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。
〔7〕「低熱伝導皮膜の構成7」
シリンダライナ2においては、化成処理を通じて形成した化成処理層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。化成処理層としては、例えば次のような層を形成することができる。
・りん酸塩の化成処理層。
・四三酸化鉄の化成処理層。
低熱伝導皮膜4を化成処理層により構成した場合、シリンダブロック11とシリンダライナ2とは次のような状態で接合される。なお、皮膜積層部30は図5に示すように構成される。
シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が化成処理層を通じて低熱伝導皮膜4が形成されていることにより、シリンダブロック11と低熱伝導皮膜4とは空隙を介して接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ下部26とが接合されることにより、次のような効果が得られるようになる。即ち、空隙を通じてシリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低くされるため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。また、突起6の括れ部63においても十分な厚さの低熱伝導皮膜4が形成されることにより、括れ部63周辺に空隙が形成されるやすくなるため、熱伝導性の低下の効果が高められるようになる。
<皮膜積層部の構成>
高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4について、製造方法(主にめっきや化成処理)によってはこれら皮膜の形状を任意に設定することが困難なものもある。従って、上記にて例示した高熱伝導皮膜3と低熱伝導皮膜4とを適宜組み合わせてシリンダライナ2に形成するためには、各製造方法に応じた皮膜積層部30の構成を採用する必要がある。即ち、製造方法に応じて各皮膜の形成順序を適切に設定することにより、選択することのできない組み合わせが生じるといった不都合を解消することができるようになる。
ここで、皮膜積層部30の構成を次の「第1積層構成」及び「第2積層構成」に分類する。
・第1積層構成は、皮膜積層部30において高熱伝導皮膜3がライナ外周面22上に位置する一方で低熱伝導皮膜4が高熱伝導皮膜3上に位置する構成を示す。即ち、図4に示される皮膜積層部30の構成に相当する。
・第2積層構成は、皮膜積層部30において低熱伝導皮膜4がライナ外周面22上に位置する一方で高熱伝導皮膜3が低熱伝導皮膜4上に位置する構成を示す。即ち、図5に示される皮膜積層部30の構成に相当する。
以下、各高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の製造方法に適した皮膜積層部30の構成(皮膜の形成順序)について説明する。
(A)高熱伝導皮膜3の製造方法として溶射またはショットコーティングを採用する場合、皮膜積層部30の構成として第1積層構成と第2積層構成との両方を選択することができる。即ち、皮膜の形成順序を任意に設定することができる。
(B)高熱伝導皮膜3の製造方法としてめっきを採用する場合、皮膜積層部30の構成として第2積層構成のみを選択することができる。即ち、皮膜の形成順序を次のように設定することで、適切な構成の皮膜積層部30が得られるようになる。
[1]溶射、塗装または樹脂コーティングのいずれかの製造方法により低熱伝導皮膜4を形成する。
[2]低熱伝導皮膜4の形成後にめっきを通じて高熱伝導皮膜3を形成する。
(C)低熱伝導皮膜4の製造方法として溶射を採用する場合、皮膜積層部30の構成として第1積層構成と第2積層構成との両方を選択することができる。即ち、皮膜の形成順序を任意に設定することができる。
(D)低熱伝導皮膜4の製造方法として塗装または樹脂コーティングを採用する場合、皮膜積層部30の構成として一応は第1積層構成と第2積層構成との両方を選択することができる。ただし、素材によっては皮膜の成形性が大きく低下することもあるため、皮膜積層部30の構成として第1積層構成を選択することが望ましい。即ち、皮膜の形成順序を次のように設定することで、皮膜積層部30の成型性が高められるようになる。
[1]溶射またはショットコーティングのいずれかの製造方法により高熱伝導皮膜3を形成する。
[2]高熱伝導皮膜3の形成後に塗装または樹脂コーティングを通じて低熱伝導皮膜4を形成する。
(E)低熱伝導皮膜4の製造方法として化成処理を採用する場合、皮膜積層部30の構成としては、第1積層構成のみを選択することができる。即ち、皮膜の形成順序を次のように設定することで、適切な構成の皮膜積層部30が得られるようになる。
[1]溶射またはショットコーティングのいずれかの製造方法により高熱伝導皮膜3を形成する。
[2]高熱伝導皮膜3の形成後に化成処理を通じて低熱伝導皮膜4を形成する。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、本実施形態のシリンダライナ及びその製造方法によれば以下に示すような効果が得られるようになる。
(1)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ上部25のライナ外周面22に高熱伝導皮膜3を形成する一方で、ライナ下部26のライナ外周面22に低熱伝導皮膜4を形成するようにしている。これにより、エンジン1における最大シリンダ壁温TWHと最小シリンダ壁温TWLとの差が小さくなるため、シリンダ13の軸方向におけるシリンダボア15の変形量の幅が縮小されるようになる。そして、こうしたシリンダボア15の変形量の均一化を通じてフリクションが低減されるため、燃料消費率を向上させることができるようになる。
(2)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ中部27のライナ外周面22に皮膜積層部30を形成するようにしている。これにより、シリンダ13の軸方向におけるシリンダ壁温TWの急激な変化が抑制されるため、シリンダボア15の変形の安定化を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
(3)本実施形態のシリンダライナ2では、高熱伝導皮膜3の皮膜傾斜部32の厚さをライナ上端23側からライナ下端24側へかけて徐々に小さく設定するようにしている。これにより、ライナ上部25からライナ下部26へ向かうにつれて高熱伝導皮膜3による熱伝導性の向上の効果が小さくなるため、シリンダ壁温TWの急激な変化をより好適に抑制することができるようになる。
(4)本実施形態のシリンダライナ2では、低熱伝導皮膜4の皮膜傾斜部42の厚さをライナ下端24側からライナ上端23側へかけて徐々に小さく設定するようにしている。これにより、ライナ下部26からライナ上部25へ向かうにつれて低熱伝導皮膜4による熱伝導性の低下の効果が小さくなるため、シリンダ壁温TWの急激な変化をより好適に抑制することができるようになる。
(5)基準エンジンにおいては、ライナ上部25のシリンダ壁温TWが過度に高い温度となることに起因してエンジンオイルの消費が促進されるため、ピストンリングの張力をより大きい値に設定することが要求される。即ち、ピストンリングの張力の増加にともなう燃料消費率の悪化が避けられないものとなっている。
本実施形態のシリンダライナ2によれば、シリンダブロック11とライナ上部25とがより密着した状態、即ちライナ上部25の周囲において空隙がより少ない状態が得られるため、シリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性が高められるようになる。これにより、ライナ上部25のシリンダ壁温TWの低減が図られるため、エンジンオイルの消費を抑制することができるようになる。そして、こうしたエンジンオイルの消費の抑制を通じて、基準エンジンに比べてより張力の小さいピストンリングを採用することが可能となるため、燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
(6)基準エンジンにおいては、ライナ下部26のシリンダ壁温TWが比較的小さい温度となることにより、ライナ下部26のライナ内周面21におけるエンジンオイルの粘度が過度に高い状態となる。即ち、シリンダ13のライナ下部26におけるピストンのフリクションが大きいため、こうしたフリクションの増大に起因する燃料消費率の悪化が避けられないものとなっている。なお、こうしたシリンダ壁温TWに起因する燃料消費率の悪化は、アルミニウム合金製エンジン等をはじめとしたシリンダブロックの熱伝導率が比較的大きいエンジンにおいてより顕著に現れるようになる。
本実施形態のシリンダライナ2によれば、シリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低いため、ライナ下部26のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。これにより、ライナ下部26のライナ内周面21においてエンジンオイルの粘度が小さくされるため、フリクションの低減を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
<実施形態のその他の構成>
なお、上記第1実施形態は、これを適宜変更した、例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記第1実施形態では、ライナ中部27に皮膜積層部30を形成するようにしたが、皮膜積層部30の形成位置は、要求されるシリンダ壁温TWとの関係に応じて適宜の位置に変更することができる。皮膜積層部30の形成位置について、上記実施形態以外の設定態様としては次の[A]〜[D]の設定態様が挙げられる。
[A]ライナ上部25に皮膜積層部30を形成する。
[B]ライナ上部25とライナ中部27とにまたがって皮膜積層部30を形成する。
[C]ライナ中部27とライナ下部26とにまたがって皮膜積層部30を形成する。
[D]ライナ上部25とライナ下部26とにまたがって皮膜積層部30を形成する。
[E]ライナ下部26に皮膜積層部30を形成する。
・高熱伝導皮膜3の製造方法は、上記第1実施形態にて例示した製造方法(溶射、ショットコーティング及びめっき)に限られず適宜の製造方法を採用することができる。
・低熱伝導皮膜4の製造方法は、上記第1実施形態にて例示した製造方法(溶射、塗装、樹脂コーティング及び化成処理)に限られず適宜の製造方法を採用することができる。
・上記第1実施形態において、高熱伝導皮膜3の皮膜厚さTPをライナ上端23からライナ中部27へかけて徐々に大きく設定することもできる。この場合、シリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性がライナ上端23からライナ中部27へ向かうにつれて低下するため、ライナ上部25の軸方向におけるシリンダ壁温TWの差をより小さくすることができるようになる。
・上記第1実施形態において、低熱伝導皮膜4の皮膜厚さTPをライナ下端24からライナ中部27へかけて徐々に小さく設定することもできる。この場合、シリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性がライナ下端24からライナ中部27へ向かうにつれて向上するため、ライナ下部26の軸方向におけるシリンダ壁温TWの差をより小さくすることができるようになる。
・上記第1実施形態において、高熱伝導皮膜3の形成態様を次のように変更することもできる。即ち、以下の(A)及び(B)の少なくとも一方の条件が満たされる範囲内で適宜の素材を用いて高熱伝導皮膜3を形成することもできる。
(A)高熱伝導皮膜3の熱伝導率がシリンダライナ2の熱伝導率よりも大きい。
(B)高熱伝導皮膜3の熱伝導率がシリンダブロック11の熱伝導率よりも大きい。
・上記各実施形態において、低熱伝導皮膜4の形成態様を次のように変更することもできる。即ち、以下の(A)及び(B)の少なくとも一方の条件が満たされる範囲内で適宜の素材を用いて低熱伝導皮膜4を形成することもできる。
(A)低熱伝導皮膜4の熱伝導率がシリンダライナ2の熱伝導率よりも小さい。
(B)低熱伝導皮膜4の熱伝導率がシリンダブロック11の熱伝導率よりも小さい。
・上記第1実施形態では、シリンダライナ2の周方向の全体にわたって低熱伝導皮膜4を形成するようにしたが、低熱伝導皮膜4の形成位置を次のように変更することもできる。即ち、シリンダ13の配列方向において、シリンダボア15間のライナ外周面22には皮膜4を形成しないようにすることもできる。換言すると、シリンダ13の配列方向において、隣り合うシリンダライナ2のライナ外周面22と対向するライナ外周面22を除いた範囲内で低熱伝導皮膜4を形成することもできる。こうした構成を採用した場合には、次の(イ)及び(ロ)の効果が奏せられるようになる。
(イ)シリンダボア15間においては、隣り合うシリンダ13からの熱がこもりやすいため、シリンダ13の周方向におけるシリンダボア15間以外の箇所よりもシリンダ壁温TWが高くなる傾向を示す。従って、上記低熱伝導皮膜4の形成態様を採用することにより、シリンダ13の周方向においてシリンダボア15間に位置する箇所のシリンダ壁温TWが過度に高くなることを抑制することができるようになる。
(ロ)シリンダ13においては、上述のようにシリンダ壁温TWが周方向の位置に応じて異なるため、これにともなってシリンダボア15の変形量も周方向において異なった大きさとなる。こうしたシリンダボア15の変形量の違いは、ピストンのフリクションの増大をまねくため、燃料消費率を悪化させる要因の一つとなる。
上記皮膜の形成態様を採用した場合、シリンダ13の周方向においてシリンダボア15間以外の箇所の熱伝導性が低下する一方、シリンダボア15間の熱伝導性は通常のエンジンと同じになるため、シリンダボア15間以外の箇所のシリンダ壁温TWとシリンダボア15間のシリンダ壁温TWとの差が縮小されるようになる。これにより、周方向におけるシリンダボア15の変形量の差が小さくされる(変形量の均一化が図られる)ため、ピストンのフリクションの低減を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図7を参照して、皮膜の形成態様について説明する。図7〔A〕は、軸方向に沿ったシリンダライナ2の断面構造を示す。図7〔B〕は、軸方向の位置と皮膜の厚さとの関係を示す。
シリンダライナ2においては、ライナ上端23からライナ下端24までのライナ外周面22に皮膜51が形成されている。
皮膜51は、Al−Si合金の溶射層により構成されている。また、ライナ上部25に位置する高熱伝導部51Aとライナ下部26に位置する低熱伝導部51Bとライナ中部27に位置する皮膜傾斜部51Cとから構成されている。なお、高熱伝導部51Aと低熱伝導部51Bと皮膜傾斜部51Cとは連続した1つの皮膜として形成されている。
皮膜51においては、各部の厚さが次のように設定されている。
・高熱伝導部51Aの厚さは、略一定の大きさに設定されている。
・低熱伝導部51Bの厚さは、略一定の大きさに設定されている。
・低熱伝導部51Bの厚さは、高熱伝導部51Aの厚さよりも小さく設定されている。
・皮膜傾斜部51Cの厚さは、ライナ上端23側からライナ下端24側へかけて徐々に小さくなるように設定されている。
<皮膜の製造方法>
図8を参照して、皮膜51の製造方法について説明する。
本実施形態では、溶射による皮膜51の形成に際して、溶射装置52の噴射口とライナ外周面22との距離(溶射距離L)を調整することにより上記形状の皮膜51を形成するようにしている。即ち、基準溶射距離LAでの溶射を通じてライナ上部25のライナ外周面22に皮膜を形成する一方で、低率溶射距離LBでの溶射を通じてライナ下部26のライナ外周面22に皮膜を形成するようにしている。
基準溶射距離LA及び低率溶射距離LBは、それぞれ次のように設定される。
(A)基準溶射距離LAは、溶射材料53の付着効率が最も高くなるときの溶射距離Lとして設定される。
(B)低率溶射距離LBは、溶射距離Lを基準溶射距離LAに設定した場合よりも溶射材料53の付着効率が低くなるときの溶射距離Lとして設定される。即ち、基準溶射距離LAよりも大きい溶射距離Lとして設定される。
溶射に際して溶射材料53の付着効率が低い場合、溶射装置52から噴射された溶射材料53においては、ライナ外周面22へ付着せずにその周囲で酸化する溶射材料53の割合が多くなる。そして、こうした酸化後の溶射材料53の一部は、ライナ外周面22上に形成中の溶射層内へ混入するようになるため、形成後の溶射層の内部には多くの酸化物が含まれるようになる。
こうしたことから、溶射に際して溶射距離Lを低率溶射距離LBに設定した場合、ライナ外周面22には内部に多くの酸化物を含む溶射層、即ち熱伝導率の低い溶射層が形成されるようになる。一方で、溶射に際して溶射距離Lを基準溶射距離LAに設定した場合には、溶射距離Lを低率溶射距離LBに設定した場合よりも熱伝導率の高い溶射層がライナ外周面22に形成されるようになる。
本実施形態では、上述のようにライナ上部25へ溶射層を形成する際の溶射距離Lを基準溶射距離LAに設定する一方で、ライナ下部26へ溶射層を形成する際の溶射距離Lを低率溶射距離LBに設定するようにしている。従って、ライナ上部25の高熱伝導部51Aとライナ下部26の低熱伝導部51Bとの間において熱伝導率に違いが生じるとともに、高熱伝導部51Aの熱伝導率が低熱伝導部51Bの熱伝導率よりも大きくなる。これにより、シリンダブロック11とライナ上部25との間の熱伝導性が向上する一方で、シリンダブロック11とライナ下部26との間の熱伝導性が低下するため、エンジン1における最大シリンダ壁温TWHと最小シリンダ壁温TWLとの差が縮小されるようになる。
以下、皮膜51の具体的な形成方法について説明する。
皮膜51は、具体的には次の手順をもって形成することができる。
[1]溶射距離Lを基準溶射距離LAに設定した状態において、溶射装置52をライナ上端23からライナ上部25とライナ中部27との境界まで移動させることにより、ライナ上部25のライナ外周面22に皮膜51の高熱伝導部51Aを形成する(図8〔A〕)。[2]溶射装置52がライナ上部25とライナ中部27との境界まで移動した後、溶射距離Lを基準溶射距離LAから低率溶射距離LBへ変化させつつ溶射装置52をライナ中部27とライナ下部26との境界まで移動させることにより、ライナ中部27のライナ外周面22に皮膜51の皮膜傾斜部51Cを形成する(図8〔B〕)。
[3]溶射装置52がライナ中部27とライナ下部26との境界まで移動した後、溶射距離Lを低率溶射距離LBに設定した状態において、溶射装置52をライナ下端24まで移動させることにより、ライナ下部26のライナ外周面22に皮膜51の低熱伝導部51Bを形成する(図8〔C〕)。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第2実施形態にかかるシリンダライナ及びその製造方法によれば、以下に示すような効果に加えて、先の第1実施形態による前記(5)及び(6)の効果が得られるようになる。
(7)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ上部25のライナ外周面22に皮膜51の高熱伝導部51Aを形成する一方で、ライナ下部26のライナ外周面22に皮膜51の低熱伝導部51Bを形成するようにしている。これにより、エンジン1における最大シリンダ壁温TWHと最小シリンダ壁温TWLとの差が小さくなるため、シリンダ13の軸方向におけるシリンダボア15の変形量の幅が縮小されるようになる。そして、こうしたシリンダボア15の変形量の均一化を通じてフリクションが低減されるため、燃料消費率を向上させることができるようになる。
(8)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ中部27のライナ外周面22に皮膜51の皮膜傾斜部51Cを形成するようにしている。これにより、シリンダ13の軸方向におけるシリンダ壁温TWの急激な変化が抑制されるため、シリンダボア15の変形の安定化を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
(9)本実施形態のシリンダライナ2の製造方法では、溶射距離Lを基準溶射距離LAと低率溶射距離LBとの間で変更することにより、皮膜51の高熱伝導部51A及び低熱伝導部51Bを形成するようにしている。これにより、単一の溶射材料53によりシリンダ壁温差△TWの縮小を図るための皮膜51を形成することが可能となるため、溶射材料53にかかるコストや管理の手間を削減することができるようになる。
<実施形態のその他の構成>
なお、上記第2実施形態は、これを適宜変更した、例えば次のような形態として実施することもできる。
・皮膜51の素材としては、次の(A)及び(B)の少なくとも一方の条件を満たす材料を用いることができる。
(A)基準溶湯温度TC以下の融点を有する材料、またはそうした材料を含む材料。
(B)シリンダブロック11の鋳造材料と冶金的に接合する材料、またはそうした材料を含む材料。
・上記第2実施形態において、皮膜51の製造方法を以下のように変更することもできる。
[1]溶射距離Lを低率溶射距離LBに設定した状態において、溶射装置52をライナ下端24からライナ下部26とライナ中部27との境界まで移動させることにより、ライナ下部26のライナ外周面22に皮膜51の低熱伝導部51Bを形成する。
[2]溶射装置52がライナ下部26とライナ中部27との境界まで移動した後、溶射距離Lを低率溶射距離LBから基準溶射距離LAへ変化させつつ溶射装置52をライナ中部27とライナ上部25との境界まで移動させることにより、ライナ中部27のライナ外周面22に皮膜51の皮膜傾斜部51Cを形成する。
[3]溶射装置52がライナ中部27とライナ上部25との境界まで移動した後、溶射距離Lを基準溶射距離LAに設定した状態において、溶射装置52をライナ上端23まで移動させることにより、ライナ上部25のライナ外周面22に皮膜51の高熱伝導部51Aを形成する。
・上記第2実施形態では、溶射材料53の付着効率が最も高くなるときの溶射距離Lを基準溶射距離LAとして設定したが、基準溶射距離LAの設定態様はこうした設定態様に限られるものではない。要するに、熱伝導性を向上させることのできる高熱伝導部51Aの形成が可能となる溶射距離Lであれば、適宜の溶射距離Lを基準溶射距離LAとして設定することができる。
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について、図9〜図20を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナの構成を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については前記第1実施形態と同様となっている。
<シリンダライナの構成>
図9に、シリンダライナの斜視構造を示す。
シリンダライナ2の外周面(ライナ外周面22)には、括れた形状の突起(突起6)が複数形成されている。
突起6は、シリンダライナ2の上端(ライナ上端23)からシリンダライナ2の下端(ライナ下端24)までにわたってライナ外周面22の全体に形成されている。
シリンダライナ2において、突起6の表面を含めたライナ外周面22には、高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4が形成されている。
<突起の構成>
図10に、突起6のモデル図を示す。以降では、シリンダライナ2の径方向(矢印A方向)を突起6の軸方向とする。また、シリンダライナ2の軸方向(矢印B方向)を突起6の径方向とする。図10では、突起6の径方向からみた突起6の形状を示している。
突起6は、シリンダライナ2と一体に形成されている。また、基端部61においてライナ外周面22とつながっている。
突起6の先端部62には、突起6の先端面に相当する頂面62Aが形成されている。頂面62Aは、略平滑に形成されている。
突起6の軸方向において、基端部61と先端部62との間には括れ部63が形成されている。
括れ部63は、径方向に沿う断面の面積(径方向断面積SR)が基端部61及び先端部62の径方向断面積SRよりも小さくなるように形成されている。
突起6は、括れ部63から基端部61及び先端部62へかけて径方向断面積SRが徐々に大きくなるように形成されている。
図11に、シリンダライナ2の括れ空間64に印を付けた突起6のモデル図を示す。
シリンダライナ2においては、突起6の括れ部63を通じて括れ空間64(斜線の領域)が形成されている。
括れ空間64は、突起6の軸方向に沿って最大先端部62Bを通過する曲面(図11においては直線D−Dが同曲面に相当する)と括れ部63の表面(括れ面63A)とにより囲まれた領域に相当する。なお、最大先端部62Bは、先端部62において突起6の径方向の長さが最も大きい箇所を示す。
シリンダライナ2を備えたエンジン1においては、シリンダブロック11の一部が括れ空間64へ入り込んだ状態(シリンダブロック11と突起6とが噛み合った状態)でシリンダブロック11とシリンダライナ2とが接合されるため、シリンダブロック11とシリンダライナ2との接合強度(ライナ接合強度)が十分に確保されるようになる。また、ライナ接合強度の向上によりシリンダボア15の変形が抑制されるため、フリクションの低下を通じて燃料消費率の向上が図られるようになる。
<皮膜の形成態様>
本実施形態においては、基本的には前記第1実施形態での形成態様に準じた態様をもって高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4が形成されている。また、ライナ外周面22に突起6が設けられていることにともなって、高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の厚さが次のように設定されている。なお、高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4の厚さは、顕微鏡等を通じて測定することができる。
〔1〕「高熱伝導皮膜の厚さ」
シリンダライナ2においては、高熱伝導皮膜3の厚さ(皮膜厚さTP)が0.5mm以下に設定されている。皮膜厚さTPが0.5mmよりも大きい場合、突起6によるアンカー効果が小さくなるため、シリンダブロック11とライナ上部25との接合強度が大幅に低下するようになる。
本実施形態では、ライナ上部25の複数箇所における皮膜厚さTPの平均値が0.5mm以下となるように高熱伝導皮膜3を形成しているが、ライナ上部25の全体において皮膜厚さTPが0.5mm以下となるように高熱伝導皮膜3を形成することもできる。
〔2〕「低熱伝導皮膜の厚さ」
シリンダライナ2においては、低熱伝導皮膜4の厚さ(皮膜厚さTP)が0.5mm以下に設定されている。皮膜厚さTPが0.5mmよりも大きい場合、突起6によるアンカー効果が小さくなるため、シリンダブロック11とライナ下部26との接合強度が大幅に低下するようになる。
本実施形態では、ライナ下部26の複数箇所における皮膜厚さTPの平均値が0.5mm以下となるように低熱伝導皮膜4を形成しているが、ライナ下部26の全体において皮膜厚さTPが0.5mm以下となるように低熱伝導皮膜4を形成することもできる。
<突起周辺の状態>
図12に、図9のZA部の断面構造を示す。
シリンダライナ2においては、ライナ外周面22及び突起6の表面に沿って高熱伝導皮膜3が形成されている。また、括れ空間64が埋められることのないように高熱伝導皮膜3が形成されている。即ち、シリンダライナ2を鋳ぐるんだ際に括れ空間64へ鋳造材料が流れ込むように高熱伝導皮膜3が形成されている。なお、括れ空間64が高熱伝導皮膜3により埋められている場合、括れ空間64へ鋳造材料が充填されないため、ライナ上部25において突起6によるアンカー効果が得られないようになる。
図13に、図9のZB部の断面構造を示す。
シリンダライナ2においては、ライナ外周面22及び突起6の表面に沿って低熱伝導皮膜4が形成されている。また、括れ空間64が埋められることのないように低熱伝導皮膜4が形成されている。即ち、シリンダライナ2を鋳ぐるんだ際に括れ空間64へ鋳造材料が流れ込むように低熱伝導皮膜4が形成されている。なお、括れ空間64が低熱伝導皮膜4により埋められている場合、括れ空間64へ鋳造材料が充填されないため、ライナ下部26において突起6によるアンカー効果が得られないようになる。
<突起の形成状態>
表1を参照して、シリンダライナ2における突起6の形成状態について説明する。
本実施形態では、突起6の形成状態を示すパラメータ(形成状態パラメータ)として、「第1面積率SA」、「第2面積率SB」、「標準断面積SD」、「標準突起数NP」及び「標準突起長HP」を規定している。
ここで、形成状態パラメータの基礎となる「測定高さH」、「第1基準平面PA」及び「第2基準平面PB」について説明する。
(A)「測定高さH」は、ライナ外周面22を基準とした突起6の軸方向の距離(突起6の高さ)を示す。ライナ外周面22において測定高さHは0mmとなる。また、突起6の頂面62Aにおいて測定高さHは最も大きくなる。
(B)「第1基準平面PA」は、測定高さ0.4mmの位置において突起6の径方向に沿う平面を示す。
(C)「第2基準平面PB」は、測定高さ0.2mmの位置において突起6の径方向に沿う平面を示す。
形成状態パラメータの内容について説明する。
〔A〕「第1面積率SA」:第1面積率SAは、ライナ外周面22上の第1基準平面PAの単位面積に占める突起6の面積(径方向断面積SR)の割合を示す。
〔B〕「第2面積率SB」:第2面積率SBは、ライナ外周面22上の第2基準平面PBの単位面積に占める突起6の面積(径方向断面積SR)の割合を示す。
〔C〕「標準断面積SD」:標準断面積SDは、ライナ外周面22上の第1基準平面PAにおける1つの突起6の面積(径方向断面積SR)を示す。
〔D〕「標準突起数NP」:標準突起数NPは、ライナ外周面22上の単位面積(1cm)当たりに形成されている突起6の数を示す。
〔E〕「標準突起長HP」:標準突起長HPは、突起6における複数箇所の測定高さHの平均値を示す。
Figure 2010159768

本実施形態では、上記〔A〕〜〔E〕の形成状態パラメータを表1の選択範囲内の値に設定することで、突起6によるライナ接合強度の向上の効果をさらに高めるとともに、突起6間における鋳造材料の充填性の向上を図るようにしている。ちなみに、鋳造材料の充填性が高められることにより、シリンダブロック11とシリンダライナ2との間に空隙が形成されにくくなるため、シリンダブロック11とシリンダライナ2とがより密着した状態で接合されるようになる。
本実施形態では、上記〔A〕〜〔E〕のパラメータの設定の他に、第1基準平面PA上において各突起6が独立して存在するようにシリンダライナ2を形成することで、より高い密着性が得られるようにもしている。
<シリンダライナの製造方法>
図14、図15及び表2を参照してシリンダライナ2の製造方法について説明する。
本実施形態では、金型遠心鋳造によりシリンダライナ2を製造するようにしている。また、上記形成状態パラメータの値を表1の選択範囲内におさめるため、金型遠心鋳造に関連するパラメータ(以下の〔A〕〜〔F〕)の値を表2の選択範囲内に設定するようにしている。
〔A〕懸濁液71における耐火基材71Aの配合割合。
〔B〕懸濁液71における粘結剤71Bの配合割合。
〔C〕懸濁液71における水71Cの配合割合。
〔D〕耐火基材71Aの平均粒径。
〔E〕懸濁液71に対する界面活性剤72の添加割合。
〔F〕塗型剤73の層(塗型層74)の厚さ。
Figure 2010159768

シリンダライナ2の製造は、図14に示す手順をもって行われる。
[工程A]耐火基材71A、粘結剤71B、及び水71Cを所定の割合で配合して懸濁液71を作成する。この工程において、耐火基材71A、粘結剤71B及び水71Cの配合割合、並びに耐火基材71Aの平均粒径は、表2の選択範囲内の値に設定される。
[工程B]懸濁液71に所定量の界面活性剤72を添加して塗型剤73を作成する。この工程において、懸濁液71に対する界面活性剤72の添加割合は、表2の選択範囲内の値に設定される。
[工程C]回転状態の金型75を規定の温度まで加熱した後、その内周面(金型内周面75A)に塗型剤73を噴霧塗布する。このとき、塗型剤73の層(塗型層74)が金型内周面75Aの全周にわたって略均一の厚さに形成されるように塗型剤73の塗布を行う。この工程において、塗型層74の厚さは、表2の選択範囲内の値に設定される。
金型75の塗型層74においては、上記[工程C]が行われた後に括れた形状の凹穴が形成される。
図15を参照して、括れた形状の凹穴の形成態様について説明する。
[1]金型75の金型内周面75Aにおいては、複数の気泡74Aを含んだ状態で塗型層74が形成される。
[2]気泡74Aに対して界面活性剤72が作用することにより、塗型層74の内周側に凹穴74Bが形成される。
[3]凹穴74Bの先端が金型内周面75Aに突き当たるまで拡大することにより、塗型層74内に括れた形状の凹穴74Cが形成される。
[工程D]塗型層74が乾燥した後、回転状態の金型75内へ鋳鉄の溶湯76を鋳込む。このとき、塗型層74の括れた形状の凹穴74Cへ溶湯76が流れ込むため、鋳造後のシリンダライナ2に括れた形状の突起(突起6)が形成されるようになる。
[工程E]溶湯76が凝固してシリンダライナ2が形成された後、塗型層74とともにシリンダライナ2を金型75から取り出す。
[工程F]ブラスト処理装置77により塗型層74(塗型剤73)をシリンダライナ2の外周から除去する。
<形成状態パラメータの測定方法>
図16を参照して、3次元レーザ測定方法による形成状態パラメータの測定方法について説明する。なお、標準突起長HPについては、別途の方法により測定される。
各形成状態パラメータの測定は、次の手順をもって行うことができる。
[1]シリンダライナ2から突起測定用試験片81を作成する。
[2]非接触式の3次元レーザ測定器82において、レーザ光83の照射方向と突起6の軸方向とが略平行となるように突起測定用試験片81を試験台84へセットする(図16〔A〕)。
[3]3次元レーザ測定器82から突起測定用試験片81へ向けてレーザ光83を照射する。(図16〔B〕)。
[4]3次元レーザ測定器82の測定結果を画像処理装置85に取り込む。
[5]画像処理装置85による画像処理を通じて突起6の等高線図86(図17)を表示し、等高線図86に基づいて各形成状態パラメータを算出する。
<突起の等高線図>
図17及び図18を参照して、突起6の等高線図86について説明する。図17は、等高線図86の一例を示す。図18は、測定高さHと等高線HLとの関係を示す。なお、図17においては、図18の突起6と異なる突起6についての等高線図86を示している。
等高線図86においては、一定の測定高さH毎に等高線HLが表示される。
例えば、測定高さ0mmから測定高さ1.0mmまで範囲において等高線HLを0.2mm毎に表示するようにした場合、等高線図86においては、測定高さ0mmの等高線HL0、測定高さ0.2mmの等高線HL2、測定高さ0.4mmの等高線HL4、測定高さ0.6mmの等高線HL6、測定高さ0.8mmの等高線HL8及び測定高さ1.0mmの等高線HL10が表示される。
図18において、等高線HL4は第1基準平面PAに相当する。また、等高線HL2は第2基準平面PBに相当する。なお、ここでは等高線HLを0.2mm間隔毎に表示する場合を例示しているが、実際の等高線図86では適宜の間隔で等高線HLを表示することができる。
図19及び図20を参照して、等高線図86の第1領域RA及び第2領域RBについて説明する。図19は、測定高さ0.4mmの等高線HL4以外の等高線HLを非表示にした等高線図86(第1等高線図86A)を示す。図20は、測定高さ0.2mmの等高線HL2以外の等高線HLを非表示にした等高線図86(第2等高線図86B)を示す。なお、図19及び図20において、実線は表示状態の等高線HLを、破線は非表示状態の等高線HLをそれぞれ示す。
本実施形態では、等高線図86において等高線HL4に囲まれた領域を第1領域RAとしている。即ち、第1等高線図86Aにおける斜線の領域が第1領域RAに相当する。また、等高線図86において等高線HL2に囲まれた領域を第2領域RBとしている。即ち、第2等高線図86Bにおける斜線の領域が第2領域RBに相当する。
<形成状態パラメータの算出方法>
本実施形態のシリンダライナ2について、形成状態パラメータは等高線図86に基づいてそれぞれ次のように算出することができる。
〔A〕「第1面積率SAについて」
第1面積率SAは、等高線図86の面積に占める第1領域RAの面積の割合として算出することができる。即ち、下記計算式により第1面積率SAの算出を行うことができる。

SA = SRA/ST×100 [%]

上記計算式において、「ST」は等高線図86の全面積を示す。また、「SRA」は等高線図86における第1領域RAの面積を合計した面積を示す。例えば、図19の第1等高線図86Aをモデルとした場合、四角の領域の面積が「ST」となる。また、斜線の領域の面積が「SRA」となる。なお、第1面積率SAの算出に際して、等高線図86にはライナ外周面22以外の部分が含まれていないものとする。
〔B〕「第2面積率SBについて」
第2面積率SBは、等高線図86の面積に占める第2領域RBの面積の割合として算出することができる。即ち、下記計算式により第2面積率SBの算出を行うことができる。

SB = SRB/ST×100 [%]

上記計算式において、「ST」は等高線図86の全面積を示す。また、「SRB」は等高線図86における第2領域RBの面積を合計した面積を示す。例えば、図20の第2等高線図86Bをモデルとした場合、四角の領域の面積が「ST」となる。また、斜線の領域の面積が「SRB」となる。なお、第2面積率SBの算出に際して、等高線図86にはライナ外周面22以外の部分が含まれていないものとする。
〔C〕「標準断面積SDについて」
標準断面積SDは、等高線図86における個々の第1領域RAの面積として算出することができる。例えば、図19の第1等高線図86Aをモデルとした場合、斜線の領域の面積が標準断面積SDとなる。
〔D〕「標準突起数NPについて」
標準突起数NPは、等高線図86の単位面積(ここでは1cm)あたりにおける突起6の数として算出することができる。例えば、図19の第1等高線図86Aまたは図20の第2等高線図86Bをモデルとした場合、図中の突起の数(1個)が標準突起数NPとなる。なお、本実施形態のシリンダライナ2においては、単位面積(1cm)あたりに5個〜60個の突起6が形成されているため、実際の標準突起数NPと第1等高線図86A及び第2等高線図86Bの標準突起数NPとは異なった値となる。
〔E〕「標準突起長HPについて」
標準突起長HPは、各突起6について測定した1箇所または複数箇所の高さの平均値として算出することができる。なお、突起6の高さは、ダイヤルディプスゲージ等の測定機器により測定することができる。
なお、第1基準平面PA上において各突起6が独立して存在するか否かについては、等高線図86における第1領域RAに基づいて確認することができる。即ち、第1領域RA同士が干渉していないことをもって、第1基準平面PA上において各突起6が独立していることを確認することができる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、本実施形態のシリンダライナ及びエンジンによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(6)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(10)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ外周面22に複数の突起6を形成するようにしている。これにより、シリンダブロック11と突起6とが噛み合った状態でシリンダブロック11とシリンダライナ2とが接合されるため、シリンダブロック11とシリンダライナ2との接合強度を十分に確保することができるようになる。そして、こうした接合強度の向上を通じてシリンダブロック11と高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4との剥離が抑制されるため、これら皮膜による熱伝導性の向上及び低下の作用を好適に維持することができるようになる。また、接合強度の向上を通じてシリンダボア15の変形を抑制することができるようになる。
(11)本実施形態のシリンダライナ2では、皮膜厚さTPが0.5mm以下となるように高熱伝導皮膜3を形成している。これにより、シリンダブロック11とライナ上部25との接合強度の低下を抑制することができるようになる。
(12)本実施形態のシリンダライナ2では、皮膜厚さTPが0.5mm以下となるように低熱伝導皮膜4を形成している。これにより、シリンダブロック11とライナ下部26との接合強度の低下を抑制することができるようになる。
(13)本実施形態のシリンダライナ2では、標準突起数NPが「5個〜60個」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、ライナ接合強度を向上させることができるようになる。また、突起6間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
なお、標準突起数NPが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準突起数NPが5個よりも少ない場合、突起6の数の不足していることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。標準突起数NPが60個よりも多い場合、突起6同士の間隔が狭いことにより、突起6間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
(14)本実施形態のシリンダライナ2では、標準突起長HPが「0.5mm〜1.0mm」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、ライナ接合強度及びシリンダライナ2の外径精度を向上させることができるようになる。
なお、標準突起長HPが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準突起長HPが0.5mmよりも小さい場合、突起6の高さが不足していることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。標準突起長HPが1.0mmよりも大きい場合、突起6が折れやすくなることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。また、突起6の高さが不均一となるため、外径精度が低下するようになる。
(15)本実施形態のシリンダライナ2では、第1面積率SAが「10%〜50%」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、十分な大きさのライナ接合強度を確保することができるようになる。また、突起6間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
なお、第1面積率SAが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。第1面積率SAが10%よりも小さい場合、第1面積率SAが10%以上の場合に比べてライナ接合強度の大幅な低下をまねくようになる。第1面積率SAが50%よりも大きい場合、第2面積率SBが上限値(55%)を上回るため、突起6間への鋳造材料の充填性が大幅に低下するようになる。
(16)本実施形態のシリンダライナ2では、第2面積率SBが「20%〜55%」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、突起6間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。また、十分な大きさのライナ接合強度を確保することができるようになる。
なお、第2面積率SBが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。第2面積率SBが20%よりも小さい場合、第1面積率SAが下限値(10%)を下回るため、ライナ接合強度の大幅な低下をまねくようになる。第2面積率SBが55%よりも大きい場合、第2面積率SBが55%以下の場合に比べて突起6間への鋳造材料の充填性が大幅に低下するようになる。
(17)本実施形態のシリンダライナ2では、標準断面積SDが「0.2mm〜3.0mm」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、シリンダライナ2の製造工程における突起6の破損を抑制することができるようになる。また、突起6間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
なお、標準断面積SDが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準断面積SDが0.2mmよりも小さい場合、突起6の強度が不足することにより、シリンダライナ2の製造工程において突起6の破損をまねくようになる。標準断面積SDが3.0mmよりも大きい場合、突起6同士の間隔が狭いことにより、突起6間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
(18)本実施形態のシリンダライナ2では、第1基準平面PA上において各突起6(第1領域RA)が独立して存在するように突起6を形成している。これにより、突起6間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。なお、第1基準平面PA上において各突起6(第1領域RA)が独立していない場合、突起6同士の間隔が狭いことにより、突起6間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
<実施形態のその他の構成>
なお、上記第3実施形態は、これを適宜変更した、例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記第3実施形態について、その構成を上記第2実施形態のシリンダライナ2に適用することもできる。
・上記第3実施形態では、第1面積率SA及び第2面積率SBの選択範囲を表1の選択範囲に設定するようにしたが、次のように変更することもできる。

第1面積率SA:10% 〜 30%
第2面積率SB:20% 〜 45%

こうした設定を採用することで、ライナ接合強度及び突起6間への鋳造材料の充填性をより向上させることができるようになる。
・上記第3実施形態では、突起6の形成状態パラメータが表1の選択範囲内に設定されたシリンダライナ2に対して高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4を形成するようにしたが、突起6を有するシリンダライナに対しても高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4を形成することができる。
(その他の実施形態)
その他、上記各実施形態に共通して変更することができる要素を以下に列挙する。
・上記各実施形態では、アルミニウム合金製エンジンに対して本発明のシリンダライナを適用したが、その他に、例えばマグネシウム合金製エンジンに対して本発明のシリンダライナを適用することも可能である。要するに、シリンダライナを備えるエンジンであればいずれのエンジン対しても本発明のシリンダライナを適用することができる。また、そうした場合にあっても、上記各実施形態に準じた態様をもって本発明を具体化することにより、上記各実施形態の作用効果に準じた作用効果が奏せられるようになる。
1…エンジン、11…シリンダブロック、12…シリンダヘッド、13…シリンダ、14…シリンダ内壁、15…シリンダボア。
2…シリンダライナ、21…ライナ内周面、22…ライナ外周面、23…ライナ上端、24…ライナ下端、25…ライナ上部、26…ライナ下部、27…ライナ中部、28…壁温境界。
3…高熱伝導皮膜、31…皮膜基礎部、32…皮膜傾斜部、30…皮膜積層部。
4…低熱伝導皮膜、41…皮膜基礎部、42…皮膜傾斜部。
51…皮膜、51A…高熱伝導部、51B…低熱伝導部、51C…皮膜傾斜部、52…溶射装置、53…溶射材料。
6…突起、61…基端部、62…先端部、62A…頂面、62B…最大先端部、63…括れ部、63A…括れ面、64…括れ空間。
71…懸濁液、71A…耐火基材、71B…粘結剤、71C…水、72…界面活性剤、73…塗型材、74…塗型層、74A…気泡、74B…凹穴、74C…括れた形状の凹穴、75…金型、75A…金型内周面、76…溶湯、77…ブラスト処理装置、81…突起測定用試験片、82…3次元レーザ測定器、83…レーザ光、84…試験台、85…画像処理装置、86…等高線図、86A…第1等高線図、86B…第2等高線図。
TC…基準溶湯温度、TW…シリンダ壁温、TWH…最大シリンダ壁温、TWL…最小シリンダ壁温、△TW…シリンダ壁温差、L…溶射距離、LA…基準溶射距離、LB…低率溶射距離、SR…径方向断面積、H…測定高さ、PA…第1基準平面、PB…第2基準平面、SA…第1面積率、SB…第2面積率、SD…標準断面積、NP…標準突起数、HP…標準突起長、HL…等高線、RA…第1領域、RB…第2領域。

Claims (3)

  1. シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法において、
    軸方向の上部の外周面から軸方向の下部の外周面までにわたり連続する態様の溶射層を溶射装置により形成するものであって、前記上部の外周面に溶射層を形成する際に前記溶射装置を同外周面から第1の距離だけ離間させ、前記下部の外周面に溶射層を形成する際に前記溶射装置を同外周面から前記第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させる
    ことを特徴とするシリンダライナの製造方法。
  2. 請求項1に記載のシリンダライナの製造方法において、
    前記下部の外周面に形成される溶射層の厚さが前記上部の外周面に形成される溶射層の厚さよりも小さくなる
    ことを特徴とするシリンダライナの製造方法。
  3. 請求項1または2に記載のシリンダライナの製造方法において、
    前記上部から前記下部へ向かうにつれて厚さが次第に小さくなる部位を含めて前記溶射層が形成される
    ことを特徴とするシリンダライナの製造方法。
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