JP2010133424A - シリンダライナの製造方法 - Google Patents

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Toshihiro Takami
俊裕 高見
Kohei Hori
弘平 堀
Takeshi Tsukahara
猛 塚原
Noritaka Miyamoto
典孝 宮本
Masateru Hirano
雅揮 平野
Yukinori Ota
行紀 太田
Satoshi Yamada
里志 山田
Kohei Shibata
幸兵 柴田
Nobuyuki Yamashita
信行 山下
Toshihiro Mihara
敏宏 三原
Giichiro Saito
儀一郎 斎藤
Masami Horigome
正巳 堀米
Takashi Sato
喬 佐藤
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Abstract

【課題】シリンダの温度が過度に低くなることを抑制することのできるシリンダライナの製造方法を提供する
【解決手段】アーク溶射を通じて皮膜5を外周面に形成するとともに、該アーク溶射に用いるワイヤの直径を0.8mm以上に設定した。
【選択図】図22

Description

本発明は、エンジンのシリンダライナの製造方法に関する。
エンジンのシリンダブロックとしてシリンダライナを備えたものが実用化されている。シリンダライナとしては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
実開昭53−163405号公報
近年においては、環境等への配慮から、燃料消費率をより一層向上させることがエンジンに対して要求されている。一方で、エンジンの運転中において、シリンダの温度が適正温度を大幅に下回る箇所が存在する場合、その周辺におけるエンジンオイルの粘度が過度に大きい状態となるため、フリクションの増加にともなって燃料消費率の悪化をまねくことが確認されている。こうした、シリンダの温度に起因する燃料消費率の悪化は、シリンダブロックの熱伝導率が比較的大きいエンジン(例えばアルミニウム合金を素材としたエンジン)においてより顕著に現れるようになる。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的はシリンダの温度が過度に低くなることを抑制することのできるシリンダライナの製造方法を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法において、アーク溶射を通じて皮膜を外周面に形成するとともに、該アーク溶射に用いるワイヤの直径を0.8mm以上に設定することを要旨としている。
上記発明によれば、比較的粒径の大きいワイヤの粉末が外周面へ吹き付けられることにより、形成された溶射層内に多くの気孔が含まれるため、皮膜の断熱性能をより向上させることができるようになる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリンダライナの製造方法において、次の(1)および(2)の工程を含む(1)溶融した前記ワイヤを当該シリンダライナの外周面に吹き付けて1つの層を形成する工程。(2)前記(1)の工程により形成した前記層の上に、溶融した前記ワイヤを吹き付けて1つの層を形成する工程。ことを要旨としている。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダライナの製造方法において、前記(2)の工程で形成した前記層の厚さが所定の厚さよりも小さいときには、前記層の厚さが所定の厚さとなるまで前記(2)の工程を繰り返し行うことを要旨としている。
本発明にかかるシリンダライナを具体化した第1実施形態について、同シリンダライナを備えたエンジンの全体構成を示す構成図。 同実施形態のシリンダライナについて、その斜視構造を示す斜視図。 同実施形態のシリンダライナについて、その素材となる鋳鉄の組成割合の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、括れた形状の突起を示すモデル図。 同実施形態のシリンダライナについて、括れた形状の突起を示すモデル図。 〔A〕同実施形態のシリンダライナについて、軸方向に沿った断面構造を示す断面図。〔B〕同実施形態のシリンダライナについて、軸方向の位置とシリンダ壁温との関係の一例を示すグラフ。 〔A〕同実施形態のシリンダライナについて、軸方向に沿った断面構造を示す断面図。〔B〕同実施形態のシリンダライナについて、軸方向の位置と皮膜厚さとの関係の一例を示すグラフ。 同実施形態のシリンダライナについて、図6のZC部の拡大構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図1のZA部の断面構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図1のZB部の断面構造を示す断面図。 金型遠心鋳造によるシリンダライナの製造について、製造工程の一覧を示す工程図。 金型遠心鋳造によるシリンダライナの製造について、塗型層における括れた形状の凹穴の形成態様を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法による各パラメータの測定手順の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法により得られる等高線図の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、測定高さと等高線との関係を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法により得られる等高線図の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナについて、3次元レーザ測定方法により得られる等高線図の一例を示す図。 同実施形態のシリンダライナを備えたシリンダブロックについて、引っ張り試験によるライナ接合強度の評価手順の一例を示す図。 本発明にかかるシリンダライナを具体化した第2実施形態について、図6のZC部の拡大構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図1のZA部の断面構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、アーク溶射による皮膜の形成手順の一例を示す図。 本発明にかかるシリンダライナを具体化した第3実施形態について、図6のZC部の拡大構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図1のZA部の断面構造を示す断面図。 本発明にかかるシリンダライナを具体化した第4実施形態について、図6のZC部の拡大構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図1のZA部の断面構造を示す断面図。 本発明にかかるシリンダライナを具体化した第5、第6、第7、第8、第9及び第10実施形態について、図6のZC部の拡大構造を示す断面図。 同実施形態のシリンダライナについて、図1のZA部の断面構造を示す断面図。
本発明の実施形態について、図1〜図18を参照して説明する。
本実施形態では、アルミニウム合金を素材としたエンジンのシリンダライナとして本発明を具体化した場合を想定している。
<エンジンの構成>
図1に、本発明にかかるシリンダライナを備えたエンジンの全体構成を示す。
エンジン1は、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12等を備えて構成されている。
シリンダブロック11は、複数のシリンダ13を備えて構成されている。
シリンダ13は、シリンダライナ2を備えて構成されている。
シリンダブロック11においては、シリンダライナ2の内周面(ライナ内周面21)によりシリンダ13の内周側の壁面(シリンダ内壁14)が形成されている。また、ライナ内周面21に囲まれてシリンダボア15が形成されている。
シリンダライナ2は、鋳造材料による鋳ぐるみを通じてその外周面(ライナ外周面22)側がシリンダブロック11と接合されている。
なお、シリンダブロック11の素材となるアルミニウム合金としては、例えば「JIS
ADC10(関連規格:米国ASTM A380.0)」または「JIS ADC12(関連規格:米国ASTM A383.0)」を用いることができる。本実施形態では、シリンダブロックの素材となるアルミニウム合金として上記ADC12を採用している。
<シリンダライナの構成>
図2に、本発明が適用されたシリンダライナの斜視構造を示す。
シリンダライナ2は、鋳鉄を素材として形成されている。
鋳鉄の組成は、例えば図3に示すように設定することができる。なお、基本的には「基本組成」が鋳鉄の組成として選択されるが、必要に応じて「補助組成」に示す成分を添加することもできる。
シリンダライナ2において、ライナ外周面22には括れた形状の突起(突起3)が複数形成されている。
突起3は、シリンダライナ2の上端(ライナ上端23)からシリンダライナ2の下端(ライナ下端24)までにわたってライナ外周面22の全体に形成されている。なお、ライナ上端23はエンジン1において燃焼室側に位置するシリンダライナ2の端部を示す。また、ライナ下端24は、エンジン1において燃焼室とは反対側に位置するシリンダライナ2の端部を示す。
シリンダライナ2において、ライナ外周面22及び突起3の表面には、皮膜5が形成されている。
ライナ外周面22においては、軸方向の中間部(ライナ中間部25)からライナ下端24までの範囲に皮膜5が形成されている。また、周方向の全体にわたって皮膜5が形成されている。
皮膜5は、セラミック材料の溶射層(セラミック溶射層51)により構成されている。本実施形態では、セラミック溶射層51の素材となるセラミック材料として、アルミナを採用している。なお、溶射層は、溶射(プラズマ溶射またはHVOF溶射など)により形成された皮膜を示す。
<突起の構成>
図4に、突起3のモデル図を示す。以降では、シリンダライナ2の径方向(矢印A方向)を突起3の軸方向とする。また、シリンダライナ2の軸方向(矢印B方向)を突起3の径方向とする。図4では、突起3の径方向からみた突起3の形状を示している。
突起3は、シリンダライナ2と一体に形成されている。また、基端部31においてライナ外周面22とつながっている。
突起3の先端部32には、突起3の先端面に相当する頂面32Aが平滑に形成されている。
突起3の軸方向において、基端部31と先端部32との間には括れ部33が形成されている。
括れ部33は、径方向に沿う断面の面積(径方向断面積SR)が基端部31及び先端部32の径方向断面積SRよりも小さくなるように形成されている。
突起3は、括れ部33から基端部31及び先端部32へかけて径方向断面積SRが徐々に大きくなるように形成されている。
図5に、シリンダライナ2の括れ空間34に印を付けた突起3のモデル図を示す。
シリンダライナ2においては、突起3の括れ部33を通じて括れ空間34(斜線の領域)が形成されている。
括れ空間34は、突起3の軸方向に沿って最大先端部32Bを通過する曲面(図5においては直線D−Dが同曲面に相当する)と括れ部33の表面(括れ面33A)とにより囲まれる領域に相当する。なお、最大先端部32Bは、先端部32において突起3の径方向の長さが最も大きい箇所を示す。
シリンダライナ2を備えたエンジン1においては、括れ空間34へシリンダブロック11の素材が入り込んだ状態(シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態)でシリンダブロック11とシリンダライナ2とが接合されるため、シリンダブロック11とシリンダライナ2との接合強度(ライナ接合強度)が十分に確保されるようになる。また、ライナ接合強度の向上によりシリンダボア15の変形が抑制されるため、フリクションの低下を通じて燃料消費率の向上が図られるようになる。
<皮膜の形成態様>
図6、図7及び図8を参照して、シリンダライナ2における皮膜5の形成態様について説明する。なお、以降では、皮膜5の厚さを皮膜厚さTPとして示す。
〔1〕「皮膜の形成位置」
図6を参照して、皮膜5の形成位置の設定態様について説明する。図6〔A〕は、軸方向に沿ったシリンダライナ2の断面構造を示す。図6〔B〕は、エンジンの定常運転状態におけるシリンダの温度(シリンダ壁温TW)について、軸方向の変化傾向の一例を示す。なお、以降では、シリンダライナ2から皮膜5を除いた状態のシリンダライナを基準シリンダライナとする。また、基準シリンダライナを備えたエンジンを基準エンジンとする。
本実施形態では、基準エンジンのシリンダ壁温TWに基づいて、シリンダライナ2における皮膜5の形成位置を設定するようにしている。
ここで、基準エンジンにおけるシリンダ壁温TWの変化傾向について説明する。なお、図6〔B〕において、実線は基準エンジンのシリンダ壁温TWを、破線は本実施形態のエンジン1のシリンダ壁温TWを示す。また、以降では、シリンダ壁温TWにおける最大の温度を最大シリンダ壁温TWHとし、シリンダ壁温TWにおける最小の温度を最小シリンダ壁温TWLとする。
基準エンジンにおいては、シリンダ壁温TWが次のように変化する。
(a)ライナ下端24からライナ中間部25までの範囲においては、燃焼ガスの影響が小さいため、ライナ下端24からライナ中間部25へかけてシリンダ壁温TWが緩やかに上昇する。また、ライナ下端24近傍においてシリンダ壁温TWが最小シリンダ壁温TWL1となる。本実施形態では、シリンダライナ2においてシリンダ壁温TWがこうした変化傾向を示す箇所をライナ低温部27としている。
(b)ライナ中間部25からライナ上端23までの範囲においては、燃焼ガスの影響が大きいため、シリンダ壁温TWが急激に上昇する。また、ライナ上端23近傍においてシリンダ壁温TWが最大シリンダ壁温TWHとなる。本実施形態では、シリンダライナ2においてシリンダ壁温TWがこうした変化傾向を示す箇所をライナ高温部26としている。
上記基準エンジンをはじめとした通常のエンジンにおいては、ライナ低温部27に相当する箇所にてシリンダ壁温TWが適正温度を大幅に下回るため、その周辺におけるエンジンオイルの粘度が過度に大きくなる。従って、ピストンのフリクションの増大にともなう燃料消費率の悪化が避けられないものとなっている。なお、シリンダ壁温TWが低いことに起因する燃料消費率の悪化は、シリンダブロックの熱伝導率が比較的大きいエンジン(例えばアルミニウム合金を素材としたエンジン)においてより顕著に現れるようになる。
そこで、本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ低温部27への皮膜5の形成を通じてシリンダブロック11とライナ低温部27との間の熱伝導性を低下させることで、ライナ低温部27のシリンダ壁温TWの低減を図るようにしている。
本実施形態のエンジン1においては、シリンダブロック11とライナ低温部27とが断熱作用を有する皮膜5を介して接合されているため、シリンダブロック11とライナ低温部27との間の熱伝導性が低下するようになる。これにより、ライナ低温部27のシリンダ壁温TWが上昇するため、最小シリンダ壁温TWLは最小シリンダ壁温TWL1よりも大きい最小シリンダ壁温TWL2となる。そして、シリンダ壁温TWの上昇を通じてエンジンオイルの粘度が低下することにより、ピストンのフリクションが小さくされるため、燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
なお、ライナ高温部26とライナ低温部27との境界(壁温境界28)は、基準エンジンのシリンダ壁温TWに基づいて把握することができる。一方で、ライナ低温部27の長さ(シリンダ下端24から壁温境界28までの長さ)は、多くの場合、シリンダライナ2の長さ(ライナ上端23からライナ下端24までの長さ(ライナ全長))の「2/3〜3/4」程度となることが確認されている。そこで、皮膜5の形成位置の設定に際しては、壁温境界28を厳密に把握することなくライナ下端24からライナ全長の2/3〜3/4までの範囲をライナ低温部27として取り扱うこともできる。
〔2〕「皮膜の厚さ」
図7を参照して、皮膜厚さTPの設定態様について説明する。図7〔A〕は、軸方向に沿ったシリンダライナ2の断面構造を示す。図7〔B〕は、シリンダライナ2における軸方向の位置と皮膜厚さTPとの関係を示す。
シリンダライナ2においては、次のように皮膜厚さTPが設定されている。
(A)皮膜厚さTPは、壁温境界28からライナ下端24へかけて徐々に大きく設定されている。即ち、壁温境界28において「0」に設定されている一方で、ライナ下端24において最も大きい厚さ(最大厚さTPmax)に設定されている。
(B)皮膜厚さTPは、0.5mm以下に設定されている。なお、本実施形態では、ライナ低温部27の複数箇所における皮膜厚さTPの平均値が0.5mm以下となるように皮膜5を形成しているが、ライナ低温部27の全体において皮膜厚さTPが0.5mm以下となるように皮膜5を形成することもできる。
〔3〕「突起周辺における皮膜の形成態様」
図8に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2においては、ライナ外周面22及び突起3の表面に沿って皮膜5が形成されている。また、括れ空間34が埋められることのないように皮膜5が形成されている。即ち、シリンダライナ2を鋳ぐるんだ際に括れ空間34へ鋳造材料が流れ込むように皮膜5が形成されている。なお、括れ空間34が皮膜5により埋められている場合、括れ空間34へ鋳造材料が充填されないため、ライナ低温部27において突起3によるアンカー効果が得られないようになる。
<シリンダブロックとシリンダライナとの接合状態>
図9及び図10を参照して、シリンダブロック11とシリンダライナ2との接合状態について説明する。なお、図9及び図10は、それぞれシリンダ13の軸方向に沿ったシリンダブロック11の断面構造を示す。
〔1〕「ライナ低温部の接合状態」
図9に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11よりも熱伝導率の小さいアルミナを通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは熱伝導性が低い状態で機械的に接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、次のような効果が得られるようになる。
(A)皮膜5を通じてシリンダブロック11とライナ低温部27との間の熱伝導性が低くされているため、ライナ低温部27のシリンダ壁温TWの上昇が図られるようになる。
(B)突起3を通じてシリンダブロック11とライナ低温部27との接合強度が確保されているため、シリンダブロック11とライナ低温部27との剥離が抑制されるようになる。
〔2〕「ライナ高温部の接合状態」
図10に、シリンダブロック11とライナ高温部26との接合状態(図1のZB部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ高温部26とが接合されている。これにより、突起3のアンカー効果を通じてシリンダブロック11とライナ高温部26との接合強度が十分に確保されるようになる。また、シリンダブロック11とライナ高温部26との間の熱伝導性も十分に確保されるようになる。
<突起の形成状態>
表1を参照して、シリンダライナ2における突起3の形成状態について説明する。
本実施形態では、突起3の形成状態を示すパラメータ(形成状態パラメータ)として、「第1面積率SA」、「第2面積率SB」、「標準断面積SD」、「標準突起数NP」及び「標準突起長HP」を規定している。
ここで、形成状態パラメータの基礎となる「測定高さH」、「第1基準平面PA」及び「第2基準平面PB」について説明する。
(a)「測定高さH」は、ライナ外周面22を基準とした突起3の軸方向の距離(突起3の高さ)を示す。ライナ外周面22において測定高さHは0mmとなる。また、突起3の頂面32Aにおいて測定高さHは最も大きくなる。
(b)「第1基準平面PA」は、測定高さ0.4mmの位置において突起3の径方向に沿う平面を示す。
(c)「第2基準平面PB」は、測定高さ0.2mmの位置において突起3の径方向に沿う平面を示す。
形成状態パラメータの内容について説明する。
〔A〕「第1面積率SA」:第1面積率SAは、ライナ外周面22上の第1基準平面PAの単位面積に占める突起3の面積(径方向断面積SR)の割合を示す。
〔B〕「第2面積率SB」:第2面積率SBは、ライナ外周面22上の第2基準平面PBの単位面積に占める突起3の面積(径方向断面積SR)の割合を示す。
〔C〕「標準断面積SD」:標準断面積SDは、ライナ外周面22上の第1基準平面PAにおける1つの突起3の面積(径方向断面積SR)を示す。
〔D〕「標準突起数NP」:標準突起数NPは、ライナ外周面22上の単位面積(1cm)当たりに形成されている突起3の数を示す。
〔E〕「標準突起長HP」:標準突起長HPは、突起3における複数箇所の測定高さHの平均値を示す。
Figure 2010133424
本実施形態では、上記〔A〕〜〔E〕の形成状態パラメータを表1の選択範囲内の値に設定することで、突起3によるライナ接合強度の向上の効果をさらに高めるとともに、突起3間における鋳造材料の充填性の向上を図るようにしている。また、上記パラメータの設定の他に、第1基準平面PA上において各突起3が独立して存在するようにシリンダライナ2を形成することで、より高い充填性が得られるようにもしている。
<シリンダライナの製造方法>
図11、図12及び表2を参照してシリンダライナ2の製造方法について説明する。
本実施形態では、金型遠心鋳造によりシリンダライナ2を製造するようにしている。また、上記形成状態パラメータの値を表1の選択範囲内におさめるため、金型遠心鋳造に関連するパラメータ(以下の〔A〕〜〔F〕)の値を表2の選択範囲内に設定するようにしている。
〔A〕懸濁液61における耐火基材61Aの配合割合。
〔B〕懸濁液61における粘結剤61Bの配合割合。
〔C〕懸濁液61における水61Cの配合割合。
〔D〕耐火基材61Aの平均粒径。
〔E〕懸濁液61に対する界面活性剤62の添加割合。
〔F〕塗型剤63の層(塗型層64)の厚さ。
Figure 2010133424
シリンダライナ2の製造は、図11に示す手順をもって行われる。
[工程A]耐火基材61A、粘結剤61B、及び水61Cを所定の割合で配合して懸濁液61を作成する。この工程において、耐火基材61A、粘結剤61B及び水61Cの配合割合、並びに耐火基材61Aの平均粒径は、表2の選択範囲内の値に設定される。
[工程B]懸濁液61に所定量の界面活性剤62を添加して塗型剤63を作成する。この工程において、懸濁液61に対する界面活性剤62の添加割合は、表2の選択範囲内の値に設定される。
[工程C]回転状態の金型65を規定の温度まで加熱した後、その内周面(金型内周面65A)に塗型剤63を噴霧塗布する。このとき、塗型剤63の層(塗型層64)が金型内周面65Aの全周にわたって略均一の厚さに形成されるように塗型剤63の塗布を行う。この工程において、塗型層64の厚さは、表2の選択範囲内の値に設定される。
金型65の塗型層64においては、上記[工程C]が行われた後に括れた形状の凹穴が形成される。
図12を参照して、括れた形状の凹穴の形成態様について説明する。
[1]金型65の金型内周面65Aには、複数の気泡64Aを含んだ状態で塗型層64が形成される。
[2]気泡64Aに対して界面活性剤62が作用することにより、塗型層64の内周側に凹穴64Bが形成される。
[3]凹穴64Bの先端が金型内周面65Aに突き当たるまで拡大することにより、塗型層64内に括れた形状の凹穴64Cが形成される。
[工程D]塗型層64が乾燥した後、回転状態の金型65内へ鋳鉄の溶湯66を鋳込む。このとき、塗型層64の括れた形状の凹穴64Cへ溶湯66が流れ込むため、鋳造後のシリンダライナ2に括れた形状の突起(突起3)が形成されるようになる。
[工程E]溶湯66が凝固してシリンダライナ2が形成された後、塗型層64とともにシリンダライナ2を金型65から取り出す。
[工程F]ブラスト処理装置67により塗型層64(塗型剤63)をシリンダライナ2の外周から除去する。
<形成状態パラメータの測定方法>
図13を参照して、3次元レーザ測定方法による形成状態パラメータの測定方法について説明する。なお、標準突起長HPについては、別途の方法により測定される。
各形成状態パラメータの測定は、次の手順をもって行うことができる。
[1]シリンダライナ2から突起測定用試験片71を作成する。
[2]非接触式の3次元レーザ測定器81において、レーザ光82の照射方向と突起3の軸方向とが略平行となるように突起測定用試験片71を試験台83へセットする(図13〔A〕)。
[3]3次元レーザ測定器81から突起測定用試験片71へ向けてレーザ光82を照射する。(図13〔B〕)。
[4]3次元レーザ測定器81の測定結果を画像処理装置84に取り込む。
[5]画像処理装置84による画像処理を通じて突起3の等高線図85(図14)を表示し、等高線図85に基づいて各形成状態パラメータを算出する。
<突起の等高線図>
図14及び図15を参照して、突起3の等高線図85について説明する。図14は、等高線図85の一例を示す。図15は、測定高さHと等高線HLとの関係を示す。なお、図14においては、図15の突起3と異なる突起3についての等高線図85を示している。
等高線図85においては、一定の測定高さH毎に等高線HLが表示される。
例えば、測定高さ0mmから測定高さ1.0mmまで範囲において等高線HLを0.2mm毎に表示するようにした場合、等高線図85においては、測定高さ0mmの等高線HL0、測定高さ0.2mmの等高線HL2、測定高さ0.4mmの等高線HL4、測定高さ0.6mmの等高線HL6、測定高さ0.8mmの等高線HL8及び測定高さ1.0mmの等高線HL10が表示される。
図15において、等高線HL4は第1基準平面PAに相当する。また、等高線HL2は第2基準平面PBに相当する。なお、ここでは等高線HLを0.2mm間隔毎に表示する場合を例示しているが、実際の等高線図85では適宜の間隔で等高線HLを表示することができる。
図16及び図17を参照して、等高線図85の第1領域RA及び第2領域RBについて説明する。図16は、測定高さ0.4mmの等高線HL4以外の等高線HLを非表示にした等高線図85(第1等高線図85A)を示す。図17は、測定高さ0.2mmの等高線HL2以外の等高線HLを非表示にした等高線図85(第2等高線図85B)を示す。なお、図16及び図17において、実線は表示状態の等高線HLを、破線は非表示状態の等高線HLをそれぞれ示す。
本実施形態では、等高線図85において等高線HL4に囲まれた領域を第1領域RAとしている。即ち、第1等高線図85Aにおける斜線の領域が第1領域RAに相当する。また、等高線図85において等高線HL2に囲まれた領域を第2領域RBとしている。即ち、第2等高線図85Bにおける斜線の領域が第2領域RBに相当する。
<形成状態パラメータの算出方法>
本実施形態のシリンダライナ2について、形成状態パラメータは等高線図85に基づいてそれぞれ次のように算出することができる。
〔A〕「第1面積率SAについて」
第1面積率SAは、等高線図85の面積に占める第1領域RAの面積の割合として算出することができる。即ち、下記計算式により第1面積率SAの算出を行うことができる。

SA = SRA/ST×100 [%]

上記計算式において、「ST」は等高線図85の全面積を示す。また、「SRA」は等高線図85における第1領域RAの面積を合計した面積を示す。例えば、図16の第1等高線図85Aをモデルとした場合、四角の領域の面積が「ST」となる。また、斜線の領域の面積が「SRA」となる。なお、第1面積率SAの算出に際して、等高線図85にはライナ外周面22以外の部分が含まれていないものとする。
〔B〕「第2面積率SBについて」
第2面積率SBは、等高線図85の面積に占める第2領域RBの面積の割合として算出することができる。即ち、下記計算式により第2面積率SBの算出を行うことができる。

SB = SRB/ST×100 [%]

上記計算式において、「ST」は等高線図85の全面積を示す。また、「SRB」は等高線図85における第2領域RBの面積を合計した面積を示す。例えば、図17の第2等高線図85Bをモデルとした場合、四角の領域の面積が「ST」となる。また、斜線の領域の面積が「SRB」となる。なお、第2面積率SBの算出に際して、等高線図85にはライナ外周面22以外の部分が含まれていないものとする。
〔C〕「標準断面積SDについて」
標準断面積SDは、等高線図85における個々の第1領域RAの面積として算出することができる。例えば、図16の第1等高線図85Aをモデルとした場合、斜線の領域の面積が標準断面積SDとなる。
〔D〕「標準突起数NPについて」
標準突起数NPは、等高線図85の単位面積(ここでは1cm)あたりにおける突起3の数として算出することができる。例えば、図16の第1等高線図85Aまたは図17の第2等高線図85Bをモデルとした場合、図中の突起の数(1個)が標準突起数NPとなる。なお、本実施形態のシリンダライナ2においては、単位面積(1cm)あたりに5個〜60個の突起3が形成されているため、実際の標準突起数NPと第1等高線図85A及び第2等高線図85Bの標準突起数NPとは異なった値となる。
〔E〕「標準突起長HPについて」
標準突起長HPは、各突起3について測定した1箇所または複数箇所の高さの平均値として算出することができる。なお、突起3の高さは、ダイヤルディプスゲージ等の測定機器により測定することができる。
なお、第1基準平面PA上において各突起3が独立して存在するか否かについては、等高線図85における第1領域RAに基づいて確認することができる。即ち、第1領域RA同士が干渉していないことをもって、第1基準平面PA上において各突起3が独立していることを確認することができる。
<接合強度の評価方法>
シリンダブロック11とシリンダライナ2との接合強度について、その評価態様の一例について説明する。
図18に、接合強度の評価方法の一例を示す。
接合強度の評価は、次の[1]〜[5]の手順をもって行うことができる。
[1]シリンダライナ2を備えたアルミニウム合金製の単気筒シリンダブロック72をダイカストにより製造する(図18〔A〕)。
[2]単気筒シリンダブロック72のシリンダ73から強度評価用試験片74を作成する。なお、強度評価用試験片74は、シリンダライナ2のライナ低温部27の一部(ライナ片74A及び皮膜5)とシリンダ73のアルミ部(アルミ片74B)とから構成される。[3]引っ張り試験機のアーム86を強度評価用試験片74(ライナ片74A及びアルミ片74B)に接着する(図18〔B〕)。
[4]引っ張り試験機のアーム86の一方をクランプ87により保持した後、ライナ片74Aとアルミ片74Bとがシリンダの径方向(矢印Cの方向)へ剥離するように、他方のアーム86を通じて強度評価用試験片74に引っ張り荷重をかける(図18〔C〕)。
[5]引っ張り試験を通じてライナ片74Aとアルミ片74Bとが剥離したときの強度(単位面積あたりの荷重)をライナ接合強度として算出する。なお、シリンダライナ2のライナ高温部26についても、上記[1]〜[5]の手順をもって接合強度の評価を行うことができる。
本実施形態のエンジン1について、上記評価方法によりシリンダブロック11とシリンダライナ2との接合強度を測定したところ、基準エンジンよりも十分に高い接合強度を有することが確認されている。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、本実施形態のシリンダライナによれば以下に示すような効果が得られるようになる。
(1)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ低温部27のライナ外周面22に皮膜5を形成するようにしている。これにより、エンジン1においてライナ低温部27のシリンダ壁温TWが上昇するため、エンジンオイルの粘度の低下を通じて燃料消費率を向上させることができるようになる。
(2)本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ外周面22に複数の突起3を形成するようにしている。これにより、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とシリンダライナ2とが接合されるため、シリンダブロック11とシリンダライナ2との接合強度を十分に確保することができるようになる。また、接合強度の向上を通じてシリンダボア15の変形を抑制することができるようになる。
(3)本実施形態のシリンダライナ2では、皮膜厚さTPが0.5mm以下となるように皮膜5を形成している。これにより、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合強度の低下を抑制することができるようになる。なお、皮膜厚さTPが0.5mmよりも大きい場合には、突起3によるアンカー効果が小さくなるため、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合強度が大幅に低下するようになる。
(4)本実施形態のシリンダライナ2では、標準突起数NPが「5個〜60個」の範囲に含まれるように突起3を形成している。これにより、ライナ接合強度を向上させることができるようになる。また、突起3間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
なお、標準突起数NPが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準突起数NPが5個よりも少ない場合、突起3の数の不足していることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。標準突起数NPが60個よりも多い場合、突起3同士の間隔が狭いことにより、突起3間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
(5)本実施形態のシリンダライナ2では、標準突起長HPが「0.5mm〜1.0mm」の範囲に含まれるように突起3を形成している。これにより、ライナ接合強度及びシリンダライナ2の外径精度を向上させることができるようになる。
なお、標準突起長HPが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準突起長HPが0.5mmよりも小さい場合、突起3の高さが不足していることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。標準突起長HPが1.0mmよりも大きい場合、突起3が折れやすくなることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。また、突起3の高さが不均一となるため、外径精度が低下するようになる。
(6)本実施形態のシリンダライナ2では、第1面積率SAが「10%〜50%」の範囲に含まれるように突起3を形成している。これにより、十分な大きさのライナ接合強度を確保することができるようになる。また、突起3間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
なお、第1面積率SAが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。第1面積率SAが10%よりも小さい場合、第1面積率SAが10%以上の場合に比べてライナ接合強度の大幅な低下をまねくようになる。第1面積率SAが50%よりも大きい場合、第2面積率SBが上限値(55%)を上回るため、突起3間への鋳造材料の充填性が大幅に低下するようになる。
(7)本実施形態のシリンダライナ2では、第2面積率SBが「20%〜55%」の範囲に含まれるように突起3を形成している。これにより、突起3間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。また、十分な大きさのライナ接合強度を確保することができるようになる。
なお、第2面積率SBが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。第2面積率SBが20%よりも小さい場合、第1面積率SAが下限値(10%)を下回るため、ライナ接合強度の大幅な低下をまねくようになる。第2面積率SBが55%よりも大きい場合、第2面積率SBが55%以下の場合に比べて突起3間への鋳造材料の充填性が大幅に低下するようになる。
(8)本実施形態のシリンダライナ2では、標準断面積SDが「0.2mm〜3.0mm」の範囲に含まれるように突起3を形成している。これにより、シリンダライナ2の製造工程における突起3の破損を抑制することができるようになる。また、突起3間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
なお、標準断面積SDが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準断面積SDが0.2mmよりも小さい場合、突起3の強度が不足することにより、シリンダライナ2の製造工程において突起3の破損をまねくようになる。標準断面積SDが3.0mmよりも大きい場合、突起3同士の間隔が狭いことにより、突起3間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
(9)本実施形態のシリンダライナ2では、第1基準平面PA上において各突起3(第1領域RA)が独立して存在するように突起3を形成している。これにより、突起3間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。なお、第1基準平面PA上において各突起3(第1領域RA)が独立していない場合、突起3同士の間隔が狭いことにより、突起3間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
(10)エンジンにおいては、シリンダ壁温TWの上昇によりシリンダボアが熱膨張するようになる。一方、シリンダ壁温TWは軸方向において異なるため、これにともなってシリンダボアの変形量も軸方向において異なった大きさとなる。こうしたシリンダボアの変形量の違いは、ピストンのフリクションの増大をまねくため、燃料消費率を悪化させる要因の一つとなっている。
そこで、本実施形態のシリンダライナ2では、ライナ低温部27のライナ外周面22に皮膜5を形成する一方で、ライナ高温部26のライナ外周面22には皮膜5を形成しないようにしている。
これにより、エンジン1のライナ低温部27のシリンダ壁温TW(図6〔B〕の破線)が基準エンジンのライナ低温部27のシリンダ壁温TW(図6〔B〕の実線)よりも上昇する一方で、エンジン1のライナ高温部26のシリンダ壁温TW(図6〔B〕の破線)は基準エンジンのライナ高温部26のシリンダ壁温TW(図6〔B〕の実線)と略同じ大きさとなる。
従って、エンジン1においては、最小シリンダ壁温TWLと最大シリンダ壁温TWHとの差(シリンダ壁温差△TW)が基準エンジンのシリンダ壁温差△TWよりも小さくなるため、軸方向におけるシリンダボア15の変形量の差が小さくされる(変形量の均一化が図られる)ようになる。そして、こうした変形量の均一化を通じてピストンのフリクションが低減されるため、燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
(11)本実施形態のシリンダライナ2では、壁温境界28からライナ下端24へかけて皮膜厚さTPを徐々に大きく設定するようにしている。これにより、ライナ下端24へ向かうにつれてシリンダブロック11とシリンダライナ2との間の熱伝導性が低下するため、ライナ低温部27の軸方向におけるシリンダ壁温TWの差を縮小することができるようになる。
<実施形態のその他の構成>
なお、上記第1実施形態は、これを適宜変更した、例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記第1実施形態では、壁温境界28からライナ下端24へかけて皮膜厚さTPが徐々に大きくなるように皮膜5を形成したが、ライナ低温部27において皮膜厚さTPを略均一に設定することもできる。要するに、皮膜厚さTPの設定態様は、ライナ低温部27の全体においてシリンダ壁温TWが適正温度から大きく乖離しない範囲内で適宜変更することができる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について、図19〜図21を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図19に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。
皮膜5は、鉄系材料の溶射層(鉄溶射層52)により構成されている。
鉄溶射層52は、複数の小溶射層52Aの積み重ねにより構成されている。また、鉄溶射層52(小溶射層52A)の内部には、酸化物の層及び気孔が多数含まれている。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図20に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、酸化物の層及び気孔を多数含む溶射層を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは熱伝導性が低い状態で機械的に接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<皮膜の製造方法>
図21を参照して、皮膜5の製造方法について説明する。
本実施形態では、アーク溶射を通じて皮膜5を形成するようにしている。
皮膜5の形成は、次の手順をもって行うことができる。
[1]アーク溶射装置91により溶融したワイヤ92をライナ低温部27のライナ外周面22へ吹き付けて小溶射層52Aを形成する(図21〔A〕)。
[2]1つの小溶射層52Aを形成した後、この小溶射層52Aの上に別の小溶射層52Aを形成する(図21〔B〕)。
[3]所定の厚さの皮膜5が形成されるまで上記[2]の作業を繰り返す。
上記製造方法によれば、溶融して粒子となったワイヤ92の表面が酸化するため、鉄溶射層52(小溶射層52A)の内部に酸化物の層が形成されるようになる。これにより、皮膜5の断熱性能がより高められるようになる。
本実施形態では、アーク溶射に用いるワイヤ92について、その直径を0.8mm以上に設定するようにしている。これにより、比較的粒径の大きいワイヤ92の粉末がライナ低温部27へ吹き付けられるため、形成された鉄溶射層52内に多くの気孔が含まれるようになる。即ち、より高い断熱性を有する皮膜5を形成することができるようになる。
なお、ワイヤ92の直径を0.8mmよりも小さくした場合、粒径の小さいワイヤ92の粉末がライナ低温部27へ吹き付けられるため、ワイヤ92の直径を0.8mm以上に設定した場合に比べて鉄溶射層52の内部に含まれる気孔の数が大幅に減少するようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第2実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(12)本実施形態のシリンダライナ2では、複数の小溶射層52Aから鉄溶射層52を構成するようにしている。これにより、鉄溶射層52の内部に酸化物の層が多数形成されるため、シリンダブロック11とライナ低温部27との間の熱伝導性をより低下させることができるようになる。
<実施形態のその他の構成>
なお、上記第2実施形態は、これを適宜変更した、例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記第2実施形態では、皮膜5の製造に際してワイヤ92の直径を0.8mm以上に設定するようにしたが、ワイヤ92の直径の選択範囲を次のように設定することもできる。即ち、ワイヤ92の直径の選択範囲を「0.8mm〜2.4mm」の範囲に設定することもできる。なお、ワイヤ92の直径を2.4mmよりも大きくした場合には、ワイヤ92の粒子が過度に大きくなることに起因して鉄溶射層52の強度が大幅に低下すると考えられる。
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について、図22及び図23を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおいて、皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図22に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、シリンダライナ2の表面に形成された第1溶射層53Aと、第1溶射層53Aの表面に形成された第2溶射層53Bとから構成されている。
第1溶射層53Aは、セラミック材料(アルミナやジルコニアなど)の溶射層により構成されている。なお、第1溶射層53Aの素材としては、シリンダブロック11とライナ低温部27との間の熱伝導性を低下させる素材を採用することができる。
第2溶射層53Bは、アルミニウム合金(Al−Si合金やAl−Cu合金など)の溶射層により構成されている。なお、第2溶射層53Bの素材としては、シリンダブロック11との接合性が高い素材を採用することができる。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図23に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11よりも熱伝導率の小さいアルミナを含めて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは熱伝導性が低い状態で機械的に接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
また、シリンダブロック11との接合性が高い第2溶射層53Bを含めて皮膜5が形成されていることにより、第1溶射層53Aのみを通じて皮膜5を構成した場合に比べてシリンダブロック11と皮膜5との接合強度が向上するようになる。
<皮膜の製造方法>
本実施形態では、プラズマ溶射を通じて皮膜5を形成するようにしている。
皮膜5の形成は、次の手順をもって行うことができる。
[1]プラズマ溶射装置によりライナ低温部27に第1溶射層53Aを形成する。
[2]第1溶射層53Aを形成した後、プラズマ溶射装置により第2溶射層53Bを形成する。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第3実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(13)本実施形態のシリンダライナ2では、第1溶射層53Aと第2溶射層53Bとから皮膜5を構成するようにしている。これにより、第1溶射層53Aを通じて皮膜5の断熱作用を確保しつつ、第2溶射層53Bを通じてシリンダブロック11と皮膜5との接合性の向上を図ることができるようになる。
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について、図24及び図25を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図24に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、酸化物の層(酸化物層54)により構成されている。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図25に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、酸化物を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは熱伝導性が低い状態で機械的に接合されている。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<皮膜の製造方法>
本実施形態では、高周波加熱を通じて皮膜5を形成するようにしている。
皮膜5の形成は、次の手順をもって行うことができる。
[1]高周波加熱装置によりライナ低温部27を加熱する。
[2]ライナ外周面22に所定の厚さの酸化物層54が形成されるまで加熱を継続する。
上記製造方法によれば、ライナ低温部27の加熱により突起3の先端部32が溶融するため、先端部32に他の部分よりも厚い酸化物層54が形成されるようになる。従って、突起3の先端部32周辺の断熱性能を向上させることができるようになる。また、突起3の括れ部33においても十分な厚さの皮膜5が形成されるため、括れ部33周辺での断熱性能をさらに向上させることができるようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第4実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(14)本実施形態のシリンダライナ2では、シリンダライナ2の加熱を通じて皮膜5を形成するようにしている。これにより、括れ部33周辺の断熱性能を向上させることができるようになる。また、皮膜5を形成するための材料を別途用意する必要がないため、材料の管理にかかる手間やコストの低減を図ることができるようになる。
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について、図26及び図27を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図26に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、ダイカスト用の離型剤の層(離型剤層55)により構成されている。
離型剤層55の形成に際しては、例えば次のような離型剤を用いることができる。
・バーミキュライト、ヒタゾール及び水ガラスを所定の割合で調合した離型剤。
・シリコンを主成分とした液状材料及び水ガラスを所定の割合で調合した離型剤。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図27に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い離型剤を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは空隙5Hを介して接合されている。なお、シリンダブロック11の製造に際しては、鋳造材料と離型剤層55とが十分に密着していない箇所が存在する状態で鋳造材料が凝固するため、シリンダブロック11と離型剤層55との間に空隙5Hが形成されるようになる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第5実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(15)本実施形態のシリンダライナ2では、ダイカスト用の離型剤を用いて皮膜5を形成するようにしている。これにより、皮膜5の形成に際して、シリンダブロック11の製造時に用いられるダイカスト用の離型剤またはその素材を流用することが可能となるため、工数やコストの低減を図ることができるようになる。
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について、図26及び図27を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図26に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、金型遠心鋳造用の塗型剤の層(塗型剤層56)により構成されている。
塗型剤層56の形成に際しては、例えば次のような塗型剤を用いることができる。
・珪藻土を主成分として調合した塗型剤。
・黒鉛を主成分として調合した塗型剤。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図27に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い塗型剤を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは空隙5Hを介して接合されている。なお、シリンダブロック11の製造に際しては、鋳造材料と塗型剤層56とが十分に密着していない箇所が存在する状態で鋳造材料が凝固するため、シリンダブロック11と塗型剤層56との間に空隙5Hが形成されるようになる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第6実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(16)本実施形態のシリンダライナ2では、金型遠心鋳造用の塗型剤を用いて皮膜5を形成するようにしている。これにより、皮膜5の形成に際して、シリンダブロック11の製造時に用いられる金型遠心鋳造用の塗型剤またはその素材を流用することが可能となるため、工数やコストの低減を図ることができるようになる。
(第7実施形態)
本発明の第7実施形態について、図26及び図27を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図26に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、低密着剤の層(低密着剤層57)により構成されている。なお、低密着剤は、シリンダブロック11との密着性が低い材料を含めて調合した液状材料を示す。
低密着剤層57の形成に際しては、例えば次のような低密着剤を用いることができる。
・黒鉛と水ガラスと水とを調合した低密着剤。
・窒化ボロンと水ガラスとを調合した低密着剤。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図27に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い低密着剤を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは空隙5Hを介して接合されている。なお、シリンダブロック11の製造に際しては、鋳造材料と低密着剤層57とが十分に密着していない箇所が存在する状態で鋳造材料が凝固するため、シリンダブロック11と低密着剤層57との間に空隙5Hが形成されるようになる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<皮膜の製造方法>
本実施形態では、低密着剤の塗装及び乾燥を通じて皮膜5を形成するようにしている。
皮膜5の形成は、次の手順をもって行うことができる。
[1]所定の温度に加熱された炉内においてシリンダライナ2を一定時間にわたった保持することにより、シリンダライナ2の予熱を行う。
[2]液体の低密着剤が貯留された容器内にシリンダライナ2を浸すことにより、ライナ外周面22に低密着剤を塗装する。
[3]上記[2]の工程を行った後、上記[1]の炉内においてシリンダライナ2を一定時間にわたった保持することにより、低密着剤を乾燥させる。
[4]乾燥して形成された低密着剤層57が所定の厚さになるまで上記[1]〜[3]の工程を繰り返して行う。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第7実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に準じた効果が得られるようになる。
<実施形態のその他の構成>
なお、上記第7実施形態は、これを適宜変更した、例えば次のような形態として実施することもできる。
・低密着剤として、例えば次のようなものを採用することもできる。
(a)黒鉛と有機溶剤とを調合した低密着剤。
(b)黒鉛と水とを調合した低密着剤。
(c)窒化ボロン及び無機バインダまたは有機バインダを主成分とする低密着剤。
(第8実施形態)
本発明の第8実施形態について、図26及び図27を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図26に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、メタリック塗料の層(塗料層58)により構成されている。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図27に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低いメタリック塗料を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは空隙5Hを介して接合されている。なお、シリンダブロック11の製造に際しては、鋳造材料と塗料層58とが十分に密着していない箇所が存在する状態で鋳造材料が凝固するため、シリンダブロック11と塗料層58との間に空隙5Hが形成されるようになる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第8実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に準じた効果が得られるようになる。
(第9実施形態)
本発明の第9実施形態について、図26及び図27を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図26に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、耐熱樹脂の層(耐熱樹脂層59)により構成されている。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図27に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い耐熱樹脂を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは空隙5Hを介して接合されている。なお、シリンダブロック11の製造に際しては、鋳造材料と耐熱樹脂層59とが十分に密着していない箇所が存在する状態で鋳造材料が凝固するため、シリンダブロック11と耐熱樹脂層59との間に空隙5Hが形成されるようになる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第9実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に準じた効果が得られるようになる。
(第10実施形態)
本発明の第10実施形態について、図26及び図27を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナにおける皮膜の形成態様を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については、前記第1実施形態と同様となっている。
<皮膜の形成態様>
図26に、図6〔A〕のZC部の拡大構造を示す。
シリンダライナ2において、ライナ低温部27のライナ外周面22には皮膜5が形成されている。皮膜5は、化成処理を通じて形成された層(化成処理層50)により構成されている。
化成処理層50としては、例えば次のような層を形成することができる。
・りん酸塩の化成処理層。
・四三酸化鉄の化成処理層。
<シリンダブロックとライナ低温部との接合状態>
図27に、シリンダブロック11とライナ低温部27との接合状態(図1のZA部の断面構造)を示す。
エンジン1においては、シリンダブロック11と突起3とが噛み合った状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されている。また、シリンダブロック11とライナ低温部27とが皮膜5を介して接合されている。
シリンダブロック11と皮膜5との接合状態について、シリンダブロック11との密着性が低い化成処理層を通じて皮膜5が形成されていることにより、シリンダブロック11と皮膜5とは空隙5Hを介して接合されている。なお、シリンダブロック11の製造に際しては、鋳造材料と化成処理層50とが十分に密着していない箇所が存在する状態で鋳造材料が凝固するため、シリンダブロック11と化成処理層50との間に空隙5Hが形成されるようになる。
エンジン1においては、こうした状態でシリンダブロック11とライナ低温部27とが接合されていることにより、前記第1実施形態の『〔1〕「ライナ低温部の接合状態」』にて記載した(A)及び(B)の効果が得られるようになる。
また、化成処理を通じて皮膜5を形成するようにしているため、突起3の括れ部33においても皮膜5の厚さが十分に確保されるようになる。これにより、シリンダブロック11の括れ部33周辺に空隙5Hが形成されやすくなるため、括れ部33周辺での断熱性能を向上させることができるようになる。
<実施形態の効果>
以上詳述したように、この第10実施形態にかかるシリンダライナによれば、先の第1実施形態による前記(1)〜(11)の効果に加えて、以下に示すような効果が得られるようになる。
(17)本実施形態のシリンダライナ2では、化成処理を通じて皮膜5を形成するようにしている。これにより、括れ部33周辺での断熱性能をより向上させることができるようになる。
(その他の実施形態)
その他、上記各実施形態に共通して変更することができる要素を以下に列挙する。
・上記各実施形態では、第1面積率SA及び第2面積率SBの選択範囲を表1の選択範囲に設定するようにしたが、次のように変更することもできる。

第1面積率SA:10% 〜 30%
第2面積率SB:20% 〜 45%

こうした設定を採用することで、ライナ接合強度及び突起3間への鋳造材料の充填性をより向上させることができるようになる。
・上記各実施形態では、標準突起長HPの選択範囲を「0.5mm〜1.0mm」に設定するようにしたが、次のように変更することもできる。即ち、標準突起長HPの選択範囲を「0.5mm〜1.5mm」に設定することもできる。
・上記各実施形態では、ライナ低温部27のライナ外周面22に皮膜5を形成する一方で、ライナ高温部26のライナ外周面22には皮膜5を形成しないようにしたが、例えば次のように変更することもできる。即ち、ライナ低温部27及びライナ高温部26のライナ外周面22に皮膜5を形成することもできる。こうした構成を採用した場合には、シリンダ壁温TWが過度に低くなる箇所が生じることをより確実に抑制することができるようになる。
・上記各実施形態では、シリンダライナ2の周方向の全体にわたって皮膜5を形成するようにしたが、皮膜5の形成位置を次のように変更することもできる。即ち、シリンダ13の配列方向において、シリンダボア15間のライナ外周面22には皮膜5を形成しないようにすることもできる。換言すると、シリンダ13の配列方向において、隣り合うシリンダライナ2のライナ外周面22と対向するライナ外周面22を除いた範囲内で皮膜5を形成することもできる。こうした構成を採用した場合には、次の(イ)及び(ロ)の効果が奏せられるようになる。
(イ)シリンダボア15間においては、隣り合うシリンダ13からの熱がこもりやすいため、シリンダ13の周方向におけるシリンダボア15間以外の箇所よりもシリンダ壁温TWが高くなる傾向を示す。従って、上記皮膜5の形成態様を採用することにより、シリンダ13の周方向においてシリンダボア15間に位置する箇所のシリンダ壁温TWが過度に高くなることを抑制することができるようになる。
(ロ)シリンダ13においては、上述のようにシリンダ壁温TWが周方向の位置に応じて異なるため、これにともなってシリンダボア15の変形量も周方向において異なった大きさとなる。こうしたシリンダボア15の変形量の違いは、ピストンのフリクションの増大をまねくため、燃料消費率を悪化させる要因の一つとなる。
上記皮膜5の形成態様を採用した場合、シリンダ13の周方向においてシリンダボア15間以外の箇所の熱伝導性が低下する一方で、シリンダボア15間の熱伝導性は通常のエンジンと同じになるため、シリンダボア15間以外の箇所のシリンダ壁温TWとシリンダボア15間のシリンダ壁温TWとの差が縮小されるようになる。これにより、周方向におけるシリンダボア15の変形量の差が小さくされる(変形量の均一化が図られる)ため、ピストンのフリクションの低減を通じて燃料消費率の向上を図ることができるようになる。
・皮膜5の製造方法は、上記各実施形態にて例示した製造方法(溶射、塗装、樹脂コーティング及び化成処理)に限られず適宜の製造方法を採用することができる。
・上記各実施形態において、皮膜5の形成態様を次のように変更することもできる。即ち、以下の(A)及び(B)の少なくとも一方の条件が満たされる範囲内で適宜の素材を用いて皮膜5を形成することもできる。
(A)皮膜5の熱伝導率がシリンダライナ2の熱伝導率よりも小さい。
(B)皮膜5の熱伝導率がシリンダブロック11の熱伝導率よりも小さい。
・上記各実施形態では、突起3の形成状態パラメータが表1の選択範囲内に設定されたシリンダライナ2に対して皮膜5を形成するようにしたが、突起3が設けられたいずれのシリンダライナに対しても皮膜5を形成することができる。
・上記各実施形態では、突起3が設けられたシリンダライナ2に対して皮膜5を形成するようにしたが、括れた形状以外の形状の突起が設けられたシリンダライナに対して皮膜5を形成することもできる。
・上記各実施形態では、突起3が設けられたシリンダライナ2に対して皮膜5を形成するようにしたが、突起が設けられていないシリンダライナに対して皮膜5を形成することもできる。
・上記各実施形態では、アルミニウム合金製エンジンに対して本発明のシリンダライナを適用したが、その他に、例えばマグネシウム合金製エンジンに対して本発明のシリンダライナを適用することも可能である。要するに、シリンダライナを備えるエンジンであればいずれのエンジンに対しても本発明のシリンダライナを適用することができる。また、そうした場合にあっても、上記各実施形態に準じた態様をもって本発明を具体化することにより、上記各実施形態の作用効果に準じた作用効果が奏せられるようになる。
1…エンジン、11…シリンダブロック、12…シリンダヘッド、13…シリンダ、14…シリンダ内壁、15…シリンダボア。
2…シリンダライナ、21…ライナ内周面、22…ライナ外周面、23…ライナ上端、24…ライナ下端、25…ライナ中間部、26…ライナ高温部、27…ライナ低温部、28…壁温境界。
3…突起、31…基端部、32…先端部、32A…頂面、32B…最大先端部、33…括れ部、33A…括れ面、34…括れ空間。
5…皮膜、51…セラミック溶射層、52…鉄溶射層、52A…小溶射層、53A…第1溶射層、53B…第2溶射層、54…酸化物層、55…離型剤層、56…塗型剤層、57…低密着剤層、58…塗料層、59…耐熱樹脂層、50…化成処理層、5H…空隙。
61…懸濁液、61A…耐火基材、61B…粘結剤、61C…水、62…界面活性剤、63…塗型材、64…塗型層、64A…気泡、64B…凹穴、64C…括れた形状の凹穴、65…金型、65A…金型内周面、66…溶湯、67…ブラスト処理装置。
71…突起測定用試験片、72…単気筒シリンダブロック、73…シリンダ、74…強度評価用試験片、74A…ライナ片、74B…アルミ片。
81…3次元レーザ測定器、82…レーザ光、83…試験台、84…画像処理装置、85…等高線図、85A…第1等高線図、85B…第2等高線図、86…アーム、87…クランプ。
91…アーク溶射装置、92…ワイヤ。
SR…径方向断面積、TW…シリンダ壁温、TP…皮膜厚さ、TPmax…最大厚さ、H…測定高さ、PA…第1基準平面、PB…第2基準平面、SA…第1面積率、SB…第2面積率、SD…標準断面積、NP…標準突起数、HP…標準突起長、HL…等高線、RA…第1領域、RB…第2領域。

Claims (3)

  1. シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法において、
    アーク溶射を通じて皮膜を外周面に形成するとともに、該アーク溶射に用いるワイヤの直径を0.8mm以上に設定する
    ことを特徴とするシリンダライナの製造方法。
  2. 請求項1に記載のシリンダライナの製造方法において、
    次の(1)および(2)の工程を含む
    (1)溶融した前記ワイヤを当該シリンダライナの外周面に吹き付けて1つの層を形成する工程
    (2)前記(1)の工程により形成した前記層の上に、溶融した前記ワイヤを吹き付けて1つの層を形成する工程
    ことを特徴とするシリンダライナの製造方法。
  3. 請求項2に記載のシリンダライナの製造方法において、
    前記(2)の工程で形成した前記層の厚さが所定の厚さよりも小さいときには、前記層の厚さが所定の厚さとなるまで前記(2)の工程を繰り返し行う
    ことを特徴とするシリンダライナの製造方法。
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