JP2010138489A - 引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】成分組成として、Si+Mn:1.0%以上を含有する。主相組織は、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で65%以上である。さらに、フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で75%以上とすることで、圧延方向の曲げ性および耐遅れ破壊特性が優れることになる。上記鋼板は、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト相が組織全体に対する体積率で20%以下であり、パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である組織を有し、ビッカース硬さがHV200以上の鋼板に対して、圧延率:60%以上(好適には75%以上)で冷間圧延を施すことで得られる。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車用鋼板等に使用される、引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法に関するものである。
近年、地球環境保全の観点からCO2の排出量を規制するため、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、衝突時に乗員の安全を確保するため、自動車車体の衝突特性を中心とした安全性向上への要求も高まっている。
このような要求を受けて、自動車車体の軽量化と高強度化を同時に満たすには、部品素材を高強度化し、剛性に問題とならない範囲で板厚を減ずることによる軽量化が効果的であると言われており、最近では、1180MPa級の高強度鋼板も自動車部品に一般的にも使用され始めている。さらに近年では、1500MPaを超えるより高強度な鋼板への要望も強まっている。しかし、このような1500MPaを超える高強度材では、延性や張り出し性などが低下し、冷間プレスによる成形が難しい。そのため、熱間プレスによる成形や曲げ加工主体の成形が適用されることが多い。さらに、1500MPaを超える高強度鋼板では、従来、薄鋼板では問題とされなかった遅れ破壊の問題も懸念され始めている。
一方、超高強度材として、よく知られている材料にピアノ線と呼ばれる鋼線材料がある。これは、フルパーライト組織である共析鋼を伸線加工により強加工することで、4000MPa級以上の超高強度鋼線を実現しているものである。そして、これまで、線材の分野ではその組織に関するさまざまな検討がなされている。
例えば、特許文献1には、化学成分を規定し、伸線加工前のパテンティングと呼ばれるパーライト組織を得るための熱処理で初析セメンタイトの生成を抑制し、かつパーライトの平均ラメラ間隔を0.15μm以下と微細にすることにより伸線加工性に優れる高強度鋼線材を提案している。
また、共析鋼を伸線加工ではなく、圧延加工により高強度化を試みた報告として、非特許文献1では、共析鋼を用いた冷間圧延板の機械的特性の評価を行った結果を報告している。
特開2003-193195号公報
Wantang Fu, T. Furuhara, and T. Maki:ISIJ International, 44 (2004)1,p.171
特許文献1に挙げたように、共析鋼の強加工については、線材での検討は多数なされている。しかしながら、圧延加工での検討はほとんど行われていない。これは、線材のような引き抜きによる加工では基本的に円周断面方向に均一な圧縮加工となるのに対して、圧延による加工は断面方向の変形が複雑となるために板端部での横割れや内部割れの発生などにより圧延できない場合が多いためである。
例えば、非特許文献1に示されている成分系では、冷間圧延時の加工性が問題となり、圧延時に割れが発生しやすく、試料作製が困難であることが予想される。
本発明は、かかる事情に鑑み、自動車用鋼板等に使用される、引張強さが1500MPa以上の、さらには、曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
発明者らは、上記問題点を解決するため、鋼板のミクロ組織、化学成分および製造方法の観点から、鋭意研究調査を重ねた。
その結果、フェライトと炭化物が層をなした組織を主相とし、前記炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、その層間隔が50nm以下である層状組織を組織全体に対する体積率で65%以上とする鋼板を得ることに成功した。そしてこのようにして得られた鋼板は、引張強さが1500MPa以上の高強度を有する鋼板であることを見出した。
さらには、フェライトと炭化物からなる層状組織中の炭化物のうちのアスペクト比が10以上の伸展した炭化物であって圧延方向に対して25°以内の角度を有する炭化物の分率が面積率で75%以上であるときに、上記特性に加え、曲げ性および耐遅れ破壊特性にも優れることも見出した。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]成分組成は、mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、主相組織は、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で65%以上であることを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板。
[2]前記[1]において、さらに、フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で75%以上であることを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板。
[3]mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織が組織全体に対する体積率で20%以下(0%含む)であり、前記パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である組織を有し、ビッカース硬さがHV200以上の鋼板に対して、圧延率:60%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[4]mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを1100℃以上に加熱し、次いで、仕上圧延出側温度:850℃以上で熱間圧延を施した後、冷却速度:15℃/s以上で冷却し、巻取温度:550〜650℃で巻取り、次いで、圧延率:60%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[5]mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延板を、加熱温度:820℃以上で加熱し、冷却速度:15℃/s以上で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃で保持した後、室温まで冷却し、次いで、圧延率60%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[6]前記[3]〜[5]のいずれかにおいて、圧延率:75%以上で前記冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[7]前記[3]〜[6]のいずれかにおいて、前記冷間圧延後、さらに、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべてmass%である。また、本発明の高強度鋼板とは、引張強さが1500MPa以上の、冷間圧延鋼板および鋼板上に亜鉛を主体とするめっき皮膜が形成された鋼板(例えば、電気亜鉛系めっき鋼板、溶融亜鉛系めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)である。
本発明によれば、引張強さ1500MPa級以上の、さらには曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼板が得られる。本発明により得られる高強度鋼板は、自動車部品素材として十分な基本的性能を維持しつつ、高強度であるため、自動車用鋼板として好適に使用される。
組織の求め方を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、化学成分(成分組成)およびミクロ組織と、機械的特性との関係を詳細に調査した。
従来のパーライト鋼板はフェライトとセメンタイトのラメラ組織のため、他の低温変態相と比べると低強度であった。そこで、特別な元素を含有せずに、パーライト鋼板を高強度化する方法について検討した。その結果、組織を、冷間圧延により強加工されたフェライトと炭化物の層をなした組織(以下、層状組織と称することもある)とすることで高強度化が達成できることを見出した。そして、上記組織を有する鋼板は、冷間圧延前の鋼板として、SiとMnの固溶強化を活用した成分組成で、パーライト組織を主相とし、フェライト組織が20%以下であり、パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である組織を有し、ビッカース硬さがHV200以上の鋼板を用い、冷間圧延することで得られることも見出した。
従来は、パーライト鋼板を冷間圧延する際には加工性が問題となり、圧延時に割れが発生しやすく、試料作製が困難であった。これに対し、本発明では、冷間圧延前の鋼板を特定の成分および特定の組織からなる鋼板とすることで、強加工によりパーライト組織由来の高強度鋼板を得ることに成功した。これは本発明における特徴であり、重要な要件である。
そして、その鋼組織は、主相組織が、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で65%以上とする。このような組織とすることで1500MPa以上の高強度鋼板が得られることになる。
このように特別な元素を含有しない場合でも、冷間圧延加工が可能となった理由については明らかではないが、SiやMnがフェライト中に固溶することにより、フェライトが固溶強化されボイドの発生が抑制され、冷間加工性が向上したことなどが考えられる。
以上述べたように、本発明は、従来では安定して得ることができなかったパーライト組織を有する鋼板での高強度化を、化学成分と組織、すなわち、フェライトと炭化物からなる層状組織とし、層状組織内の炭化物のアスペクト比と層間隔を制御することにより、達成し、発明を完成するに至ったものである。
次に、上記1500MPa以上の高強度鋼板の曲げ性および耐遅れ破壊特性の向上について検討した。そうしたところ、フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率を面積率で75%以上とすることで、1500MPa以上の高強度鋼板でありながらも曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れることがわかった。これは、圧延方向に伸展した炭化物が繊維組織のように、その曲げ方向に対して強化するためであると考えられる。
以上より、好適には、フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率を面積率で75%以上とする。
以下、本発明の実施に際し、組織的な限定範囲やその限定理由を記す。
主相組織:フェライトと炭化物からなる層状組織
上述したように、所定のパーライト組織を有する鋼板を冷間圧延して、フェライトと炭化物が、圧延方向に対して、層をなして伸展した組織を形成することにより、これまでのパーライト組織にない強度を達成できることを確認した。
この時、層状組織は圧延方向と略平行で伸展しており、伸展方向は概ね圧延方向と40°以内の角度となる。
なお、この層状組織は、概ね冷間圧延前のパーライト組織由来である。すなわち、層状組織は冷間圧延前のパーライト組織を基とし冷間加工により得られる。ゆえに、全組織に対する層状組織率は、冷間圧延前のパーライト組織の分率により決まり、冷間圧延前のパーライト組織が全組織に対して75%以上であれば、層状組織も75%以上となり、本発明の高強度鋼板の主相組織を形成し、冷間圧延前のパーライト組織が全組織に対して80%以上であれば、層状組織も80%以上となり、本発明の高強度鋼板の主相組織を形成する。
そして、目的とする強度(引張強さ1500MPa以上)を得るためには、層状組織を次のようにする必要がある。
炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織を組織全体に対する体積率で65%以上とする。
炭化物のアスペクト比が小さい、つまり粒状の炭化物が多数存在する組織では、炭化物と接するフェライトとの界面がボイドの発生起点となり、所望の特性が得られなくなると考えられる。そして、アスペクト比が10未満では、伸展していない炭化物となり、その炭化物と接するフェライトとの界面からボイドが発生し、延性の低下を招くことになる。よって、炭化物のアスペクト比は10以上とする。
また、層間隔は微細になるほど強度上昇に効果があり、目的とする引張強さを得るために、層間隔は50nm以下とする。層間隔が50nm超えでは、目標とする強度(引張強さ1500MPa以上)が得られない。
以上から、層状組織内の炭化物は、アスペクト比は10以上であり、かつ、炭化物とフェライトとの層間隔:50nm以下であることが好ましい。このような層状組織が組織全体に対する体積率で65%以上であれば、1500MPa以上の高強度が得られるので、本発明においては、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で65%以上とする。
また、上記組織は、圧延方向に平行な断面をナイタールによりエッチングし、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、5,000倍以上で5視野以上撮影し、画像解析などの手法により下記のように測定することができる。ここで、層間隔は隣り合うフェライト層と炭化物層の各々の層の厚さ方向の中心点間の平均距離を意味する。そして前記平均距離は、例えば、フェライト1層と炭化物1層を一組の層としてとらえ、組織観察において層の展伸方向に対して垂直方向の所定長さの線分により何組の層が切断されるかを測定して求めればよい。なお、線分の両端で線分により完全には切断されない層は、計測しない。
すなわち、層間隔=線分長さ÷(線分により切断される組数×2)により算出される。
また、層間隔が50nm以下、かつ、炭化物のアスペク比10以上である層状組織の体積率は、以下のようにして求めることができる。
すなわち、5,000倍以上のSEM写真(圧延方向断面)で圧延方向に垂直な線分を引き、その線分が切断する層状組織のうち、炭化物のアスペクト比が10以上かつ層間隔が50nm以下の層構造を有する部分の分率(線分長さ)を求める。5視野以上について、前記分率を求め、その平均値を体積率とする。線分の例を図1に示す。
さらに、曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れた引張強さ1500MPa級以上の高強度鋼板を得るためには、組織を次のようにする必要がある。
フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で75%以上
曲げ加工では、フェライト/セメンタイト界面がボイドの発生起点となりやすい。そこで、圧延方向を曲げサンプルの長手方向とすると、圧延方向に炭化物が伸展した組織では、曲げ方向(曲げサンプルの長手方向)に対し、炭化物の長径方向が25°以内となる炭化物が75%以上存在することにより曲げ加工性が向上し、耐遅れ破壊特性も向上する。より好ましくは、80%以上である。
また、このような炭化物の伸展方向については、次のような方法で測定することができる。圧延方向に平行な板厚断面(圧延方向断面)をナイタールエッチングし、走査顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍以上で5視野以上撮影し、画像解析などの手法により以下のように測定することができる。フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比10以上の炭化物について、炭化物の長径に対し平行に直線を引き、該直線が圧延方向となす角度が25°以内となる炭化物のフェライトと層をなす炭化物に対する分率を面積率で求める。5視野以上について、前記分率を求め、その平均値をフェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率とする。
次に、化学成分(成分組成)の限定範囲および限定理由について説明する。
C:0.3〜1.0%
Cは、強度確保のために必要不可欠な成分であり、目的とする強度(引張強さ1500MPa以上)を得るために必要なパーライト組織を生成させるためには、0.3%以上含有する必要がある。C量が0.3%未満では、十分な量のパーライト組織を得ることが困難である。好ましくは0.4%以上である。一方、1.0%を超えるCの含有は、延性の低下を招き、加工性を低下させる。以上より、C量は0.3%以上1.0%以下とする。好ましくは、0.4%以上1.0%以下である。
Si:2.5%以下
Siは、固溶強化に有効な元素であるため、0.01%以上含有することが好ましい。しかし、Si量が2.5%を超えると、熱間圧延時に赤スケールと称される表面欠陥が発生する。また、溶融亜鉛めっき(合金化を含む)を施す場合には、めっきの濡れ性を悪くしてめっきむらの発生を招き、表面外観を悪くする。よって、Si量は2.5%以下とする。また、めっき処理性の観点から好ましくは1.5%以下、表面性状やめっき性向上の観点からより好ましくは0.5%以下である。
Mn:2.5%以下
Mnは、固溶強化の観点から、0.01%以上含有することが好ましい。しかし、Mn量が2.5%を超えると偏析が生じ、加工性が低下する。よって、Mn量は2.5%以下とする。
Si+Mn:1.0%以上
SiとMnの固溶強化を活用するため、SiとMnを合計で1.0%以上とする.1.0%未満ではその効果が小さく、冷間加工時に割れが発生し、目的の組織を得ることができない。
P:0.005〜0.1%
Pは、固溶強化に対して効果がある元素である。しかしながら、P量が0.005%未満では、その効果が現れないため、0.005%以上、好ましくは0.01%以上含有する。一方、0.1%を超える過剰なPの含有は、Pが粒界に偏析し、脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする際には、合金化速度を大幅に遅延させる。よって、P量は0.1%以下とする。
S:0.05%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストの面から0.05%以下とする。
Al:0.005〜0.1%
Alは、鋼の固溶強化元素、脱酸元素として有用である。また、不純物として存在する固溶Nを固定して耐常温時効性を向上させる作用がある。このような作用を発揮させるためには、Al量は0.005%以上とする。一方、Al量が0.1%を超えると高合金コストを招き、さらに表面欠陥を誘発する原因となる。以上よりAl量は0.005%以上0.1%以下とする。
N:0.01%以下
Nは、耐常温時効性を劣化させる元素である。また、N量が多くなると、固溶Nを固定するために多量のTiやAl添加が必要となる。よって、これらの点からできるだけ低減することが好ましいが、0.01%程度までは許容できるため、N量は0.01%以下とする。
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として、例えば、Oは非金属介在物を形成し品質に悪影響を及ぼすため、0.003%以下に低減するのが望ましい。また、本発明では、本発明の作用効果を害さない微量元素として、Cu、W、V、Zr、Sn、Sbを0.1%以下の範囲で含有してもよい。
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度鋼板は、上記化学成分範囲に調整され、パーライト組織を主相とし、フェライト組織を20%以下含み、かつパーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である組織を有し、ビッカース硬さがHV200以上の鋼板に対して、圧延率60%以上(好適には75%以上)の冷間圧延を施すことにより得られる。
冷間圧延後に前記したフェライトと炭化物の層状組織を得るためには、冷間圧延前の組織としては、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織を組織全体に対する体積率で20%以下とすることが必要である。なお、パーライト組織を主相とするとは、パーライト組織の組織全体に対する体積率が75%以上であることを意味する。
フェライト組織は分率が大きいほど冷間加工性は向上するが、冷間圧延後の強度を確保するためには、20%以下(0%を含む)とする必要がある。すなわち、冷間圧延後に前記層状組織とするためには、パーライト組織からなることが好ましいが、フェライト組織を20%以下含んでいてもよい。フェライト組織が20%より多いと、圧延率60%以上の冷間圧延を施しても1500MPa以上の強度が得られない。なお、パーライト組織およびフェライト組織以外には炭化物、マルテンサイトなどが不可避的に存在する場合もあるが、体積率で5%以下であれば本発明の効果を得る上で問題はない。
さらに、パーライトのラメラ間隔は500nm以下であることが必要である。500nmより大きいと、その後の冷間圧延時に横割れが発生し、十分な冷間加工性が得られない。また、圧延後の組織も粗大となってしまうため、強度も確保できない。好ましくは300nm以下である。
ここで、パーライトのラメラ間隔は、ラメラを構成する隣り合うフェライト層と炭化物層各々の厚さ方向の中心点間の平均距離を意味する。前記平均距離は、例えば、フェライト層1層と炭化物層1層を一組の層としてとらえ、組織観察において層の展伸方向に対して垂直方向の所定長さの線分により何組の層が切断されるかを測定して求めればよい。なお、線分の両端で線分により完全には切断されない層は、計測しない。
すなわち、ラメラ間隔=線分長さ÷(線分により切断される組数×2)により算出される。
なお、上記組織は、圧延方向に平行な断面をナイタールによりエッチングし、走査顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍以上で3視野以上撮影し、画像解析などの手法により測定することができる。また、簡便には、フェライトと炭化物が交互に並んでいるため、(線分により切断される組数)を(炭化物数)として求めてもよい。
さらに、ビッカース硬さはHV200以上であることが必要である。ビッカース硬さがHV200より小さいと、冷間圧延による強度上昇が小さく、目的とする強度が得られない。
そして、上記圧延前組織を有する鋼板は、以下の2通りの方法により製造することができる。
1)熱延プロセスを規定することにより上記冷間圧延前組織を有する鋼板を製造する。
上記化学成分範囲に調整された鋼スラブを1100℃以上に加熱し、次いで、仕上圧延出側温度:850℃以上とする熱間圧延を施した後、冷却速度:15℃/s以上で冷却し、巻取温度:550〜650℃で巻取り熱延板とする。次いで、圧延率:60%以上で冷間圧延を施す。
スラブ加熱温度が1100℃未満では、圧延加重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大する。よって、スラブ加熱温度は1100℃以上にする。なお、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることが好ましい。
上記条件で加熱された鋼スラブに粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延を施す。ここで、鋼スラブは粗圧延によりシートバーとされる。なお、粗圧延の条件は特に規定する必要はなく、通常の条件で行えばよい。
次いで、シートバーを仕上圧延して熱延板とする。このとき、仕上圧延出側温度(以下、FTと称することもある)は850℃以上とする。 FTが850℃未満では、熱間圧延時の負荷が高くなる。よって、FTは850℃以上とする。
仕上圧延後、コイル巻取温度(以下、CTと称することもある)までの冷却速度は15℃/s以上とする。冷却速度が15℃/sより小さいと、CT以上でパーライト変態が進行し、ラメラ間隔の大きなパーライトとなり、冷間圧延しても目的とする特性が得られない。よって、冷却速度は15℃/s以上とする。
コイル巻取温度(CT)は、550℃〜650℃とする。650℃より高温では、パーライトのラメラ間隔が粗大となってしまう他、粒状の炭化物が生成してしまうため、冷間加工時の加工性の低下を招いてしまう。また、550℃より低温ではパーライト変態の進行が遅くなり、変態が完了しないことが考えられる。よって、CT は550℃以上650℃以下とする。
以上により得られた鋼板に対して、圧延率:60%以上で冷間圧延を施し、目的とする強度(引張強さが1500MPa以上)を得る。圧延率が60%よりも小さいと1500MPa以上の引張強度を得ることが困難な場合がある。なお、本発明において、圧延率とは圧下率を意味して下式により定義される。
圧延率(%)=(t−t)/t×100
:初期板厚(mm)、t:仕上板厚(圧延後板厚)(mm)
2)熱延板を熱処理することにより上記圧延前組織を有する鋼板を製造する。
別の方法としては、上記化学成分範囲に調整された鋼に対して熱間圧延まで施し、得られた熱延板に対して、加熱温度:820℃以上で加熱し、冷却速度:15℃/s以上で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃で保持した後、室温まで冷却する。次いで、圧延率60%以上で冷間圧延を施す。
粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延の条件については、特に規定する必要はなく、通常の条件で行い、熱延板とする。
熱延板を820℃以上に加熱する。820℃未満では、フェライト相(フェライト組織)が多く、目的とする強度が得られない。安定して均一な組織を得るために、好ましくは850℃以上とする。
その後、パーライト変態を抑制できる15℃/s以上の冷却速度で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃の温度範囲で保持することによりパーライト組織を得る。冷却速度が15℃/sより小さいと、保持温度以上でパーライト変態が進行し、ラメラ間隔の大きなパーライトとなり、冷間圧延しても目的とする特性が得られない。パーライト変態について、保持温度が650℃より高温では、パーライトのラメラ間隔が粗大となってしまう他、粒状の炭化物が生成してしまうため、冷間加工時の加工性の低下を招いてしまう。また、保持温度が550℃より低温ではパーライト変態の進行が遅くなり、変態が完了しないことが考えられる。なお、保持時間は、パーライト変態が十分に進行する時間保持すればよく、15秒以上が好ましい。
次いで、室温まで冷却後、冷間圧延を施す。室温までの冷却は特に規定しない。冷間圧延は、圧延率:60%以上で施し、目的とする強度(引張強さが1500MPa以上)を得る。圧延率が60%よりも小さいと1500MPa以上の引張強度を得ることが困難な場合がある。
さらに、曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れた引張強さ1500MPa級以上の高強度鋼板を製造する場合には、上記圧延率を75%以上とする。冷間圧延率が75%より小さいと、圧延方向に伸展した炭化物を規定量確保できず、優れた曲げ性を得ることができない。より好ましくは80%以上である。
以上により、引張強さが1500MPa以上のさらには曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼板が得られる。さらに、前記冷間圧延後、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施すこともできる。また、常法に従い、電気亜鉛めっき等の電気めっき処理を施すこともできる。
溶融亜鉛めっきを施す場合は、めっき浴の浴温420〜480℃で鋼板をめっき浴中に浸入させて行い、ガスワイピングなどで付着量を調整する。
さらに合金化処理を施す場合には480〜550℃以下で処理することが望ましい。550℃超えでは、冷間圧延による加工組織が再結晶を開始し、目標とする特性、組織が得られない場合がある。また、パウダリング性も劣化する。480℃未満では合金化が進行しない。
また、めっき付着量は片面当たり20〜150g/m2が好ましい。20g/m2未満は耐食性が劣化する。150 g/m2越えはコストアップし、かつ耐食効果が飽和する。
合金化度は7〜15%が好ましい。7%未満では合金化ムラが生じ外観性が劣化し、いわゆるζ相が生成し摺動性が劣化する。15%越えは硬質で脆いΓ相が多量に形成しめっき密着性が劣化する。
表1に示す組成からなる鋼No.A〜Gを転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。次いで、これらスラブを1250℃に加熱後、表2に示す仕上圧延出側温度で仕上圧延を施した後、15℃/sの冷却速度で冷却し、巻取温度550〜650℃の温度範囲で巻取り、鋼板No.1〜8を得た。
また、上記スラブを1250℃に加熱後、仕上圧延温度880℃、巻取り温度600℃で熱間圧延を行い得られた熱延板に対して、1000℃で1時間の加熱後、表3に示す条件で、冷却、保持し、室温まで冷却して鋼板No.9〜17を得た。なお、保持時間は60sとした。
以上により得られた鋼板に対して、冷間圧延を行う前の鋼板組織観察として、パーライト体積率、フェライト体積率、パーライトラメラ間隔、ビッカース硬さの測定を行った。なお、各々の組織の体積率は、各々の面積率を測定しこれを体積率とした。
引き続き、上記鋼板No1〜17に対して、表2および表3に示す冷間圧延率で冷間圧延を行い、冷間加工性を評価し、加工性に優れるものは、冷間圧延後の組織観察および引張特性、曲げ加工性および耐遅れ破壊特性の調査を行った。各調査方法の詳細は下記の通りである。
また、一部については、冷間圧延後、合金化溶融亜鉛めっき処理を行い、めっき処理鋼板とした。めっき処理は、浴温463℃のめっき浴にて行い、500℃で合金化処理を施した。
冷間圧延前の組織観察
フェライト分率は、各冷間圧延前の鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面(L断面)をナイタールエッチングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、1,000倍で3視野以上撮像し、画像解析などの手法により測定した。
また、パーライトのラメラ間隔(S0)は、SEMを用い、3,000倍以上で3視野以上撮像し、前述の方法に則り次式で求めた。なお、ここで、フェライトと炭化物は交互に並んでいるため、(線分により切断される組数)を炭化物数(n)として用いた。
S0=L/2 (1)
L:任意長さl中の炭化物数nで割った平均切片間隔
なお、任意長さlは、n≧20となる長さとした。
ビッカース硬さ
JIS Z 2244の規定に準拠して測定した。なお、試験力は9.8N(1kgf)とした。
冷間加工性
冷間加工性の評価は、横割れが発生せずに圧延できる圧延率を限界圧延率とし、60%以上割れが発生せずに圧延できるか否かを評価した。すなわち、冷間圧延率が60%以上で横割れが発生せずに圧延できたものを○とした。
冷間加工後の組織
フェライトと鉄系炭化物からなる層状組織内の炭化物のアスペクト比は、各冷間圧延後の鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面(L断面)をナイタールエッチングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、5,000倍以上で5視野以上撮像し、画像解析の手法により測定した。
アスペクト比は「炭化物の長径(長さ(最大径))/短径(厚さ(最小径))」で定義され、明らかに10倍以上のものは、詳細な測定を省略した。また、層間隔および層状組織の体積率は前記の方法にて求めた。なお、線分長さは層の数N≧20となるようにした。
また、アスペクト比10以上を満たす炭化物の長径と圧延方向のなす角度については、以下のように測定した。圧延方向に平行な板厚断面(L断面)をナイタールエッチングし、走査顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍以上で5視野以上撮影し、画像解析の手法により測定した。アスペクト比10以上の炭化物の長径に対し平行に直線を引き、該直線が圧延方向に対して25°以内となる炭化物について、フェライトと層をなす炭化物に対する分率(面積率)を求め、その平均値を求めた。
引張特性
得られた各冷間圧延焼鈍板から圧延方向に対して90°方向(C方向)にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、引張強さ(TS(MPa))、降伏強度(YS(MPa))、全伸び(El(%))を求めた。
曲げ加工性
曲げ加工性は、圧延方向に対して0°方向(L方向) を長手方向とする試験片(幅30mm、長さ100mm、厚さ1mm)を採取し、V曲げ試験により評価した。割れなく成形可能な曲げ半径が板厚の4倍以下(R/t≦4、R:曲げ半径(mm)、t:板厚(mm))の場合を良好と判断した。
耐遅れ破壊特性
耐遅れ破壊特性は、圧延方向に対して0°方向(L方向)に試験片(幅30mm、長さ100mm、厚さ1mm)を採取し、U曲げ(R=10mm)後にボルト締結をしたサンプルをpH=3の塩酸に浸漬し、48時間以上未破壊のものを良好と判断した。
以上により得られた結果を条件と併せて表2および表3に示す。
表2および表3より、本発明例では、十分な基本的性能を維持しつつ、引張強さ1500MPa級以上の高強度鋼板が得られているのがわかる。また、圧延方向に対して25°以内の角度を有している組織を75%以上とすることで、さらに曲げ性および耐遅れ破壊特性に優れることがわかる。
本発明の鋼板は、自動車の外板を中心に、高強度化を必要とする各種自動車などの部品に対して好適に使用できる。

Claims (7)

  1. 成分組成は、mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、主相組織は、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で65%以上であることを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板。
  2. さらに、フェライトと層をなす炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して25°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で75%以上であることを特徴とする請求項1に記載の引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板。
  3. mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織が組織全体に対する体積率で20%以下(0%含む)であり、前記パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である組織を有し、ビッカース硬さがHV200以上の鋼板に対して、圧延率:60%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
  4. mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを1100℃以上に加熱し、次いで、仕上圧延出側温度:850℃以上で熱間圧延を施した後、冷却速度:15℃/s以上で冷却し、巻取温度:550〜650℃で巻取り、次いで、圧延率:60%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
  5. mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Si+Mn:1.0%以上、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延板を、加熱温度:820℃以上で加熱し、冷却速度:15℃/s以上で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃で保持した後、室温まで冷却し、次いで、圧延率60%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
  6. 圧延率:75%以上で前記冷間圧延を施すことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
  7. 前記冷間圧延後、さらに、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
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