JP2010138104A - メチルフェニデート貼付製剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】貼付製剤中で薬物(メチルフェニデートおよび/またはその塩)の安定性が高く、貼付製剤使用時に薬物の優れた皮膚透過性を示し、かつ薬物利用率に優れるメチルフェニデート貼付製剤を提供すること。
【解決手段】支持体と、支持体の少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有する貼付製剤であって、該粘着剤層は、メチルフェニデートおよび/またはその塩と、ポリイソブチレンと、液状可塑剤とを含むことを特徴とする貼付製剤。前記液状可塑剤は、その親水親油バランスを表すHLB値が1.0〜3.3の範囲内にあることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明はメチルフェニデート貼付製剤(薬物としてメチルフェニデートおよび/またはその塩を含む貼付製剤)に関し、詳しくは貼付製剤中での薬物の安定性、貼付製剤使用時の薬物の皮膚透過性、および薬物利用率に優れるメチルフェニデート貼付製剤に関する。
注意欠陥障害や注意欠陥多動障害は、子供における最も一般的な精神障害である。注意欠陥障害の罹患率は4%〜9%であると報告されている。
注意欠陥障害や注意欠陥多動障害は、不注意および衝動性によって特徴付けられ、多動を伴う場合もある。また、情緒障害を合併し、攻撃性、盗み、虚言、無断欠席、放火、家出、かんしゃく等を引き起こしたり、また、認識および学習能力低下問題や社会的能力の低下を伴う場合もある。
メチルフェニデートは、注意欠陥障害、および注意欠陥多動障害の治療に最もよく使用される精神興奮薬である。
この薬物は、他の精神興奮薬に比べて、良い効果を発現する率が高く、悪い影響を発現する率が低いと考えられる。注意力および行動的症状の改善におけるメチルフェニデートの効力は、多くの研究によって確認されている。
しかしながら、現在利用できるメチルフェニデート治療剤には、多くの欠点がある。例えば、「即放性錠剤」(経口投与用)においては、メチルフェニデートの血中濃度のバラツキがみられることやメチルフェニデートの半減期が短いため、子供の授業時間を通して、適切な治療を確実に行うために、短い間隔で頻繁に投与する必要があることが欠点として挙げられる。
徐放性メチルフェニデート錠剤も市販されているが、幼児にとっては飲み込みづらいこと、メチルフェニデートの徐放効果が不十分であるため、子供の授業時間を通して適切な治療効果を得られないこと、また、薬物乱用につながる可能性があることが欠点として挙げられる。
一方、貼付製剤は経口投与製剤に比べて多くの利点を持ち、投与が簡便であり、患者のコンプライアンスを改善できること、投与を簡単に中断できること、また、肝臓での初回通過効果を回避できることから、血中濃度を長時間維持でき、治療効果の改善につながることなどの利点がある。従って、貼付製剤はメチルフェニデートにおいても優れた投与形態であることが予想される。
しかしながら、貼付製剤における薬物として使用される場合、メチルフェニデートは粘着剤、透過促進剤、および添加剤を含む組成物であって、酸性官能基を含む組成物において不安定であり、分解され得ることが知られている(特許文献1など)。貼付製剤の粘着剤層におけるメチルフェニデートの安定性に関する文献としては特許文献1が挙げられ、特許文献1には、アクリル系粘着剤における置換基によるメチルフェニデートの安定化効果に関する開示がある。また、特許文献1には、粘着剤としてアクリル系粘着剤及びシリコーン系粘着剤を組み合わせることによる、貼付製剤におけるメチルフェニデートの徐放性効果についての開示もなされている。
ところで、一般に、貼付製剤における薬物の放出速度は、錠剤やカプセル剤などの経口投与製剤のそれと比較して遅いという特性がある。このため、放出速度が遅い結果、治療効果が長時間持続するという特長を活かして、徐放性製剤として用いられることが多い。しかしながら、注意欠陥障害、または注意欠陥多動障害の治療のために貼付製剤としてメチルフェニデートを経皮的に投与する場合、子供の授業時間という比較的短い時間内に治療効果が得られなければならないことから、メチルフェニデートの放出速度(特に初期放出速度)がある程度速いことが必要であり、そのために優れた皮膚透過性を有することが必要である。また、子供の授業時間を通して、適切な治療を確実に行うために、治療有効量を送達し得ることが必要であり、メチルフェニデートの皮膚に対する累積透過量が良好であること、すなわち薬物利用率に優れていることが必要である。
米国特許第6,348,211号明細書
本発明は、かかる事情に鑑み成されたものであり、その解決しようとする課題は、貼付製剤中で薬物(メチルフェニデートおよび/またはその塩)の安定性が高く、貼付製剤使用時に薬物の優れた皮膚透過性を示すメチルフェニデート貼付製剤を提供することにある。
また、貼付製剤中で薬物(メチルフェニデートおよび/またはその塩)の安定性が高く、貼付製剤使用時に薬物の優れた皮膚透過性を示し、しかも薬物利用率に優れるメチルフェニデート貼付製剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、支持体と、支持体の少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有する貼付製剤において、薬物としてのメチルフェニデートおよび/またはその塩と、粘着剤としてのポリイソブチレンと、液状可塑剤とを含んでなる膏体を粘着剤層として用いることにより、膏体(粘着剤層)中でメチルフェニデートおよび/またはその塩が安定化され、薬物含量の低下が少なく、薬物の皮膚透過性に優れ、かつ薬物利用率に優れるメチルフェニデート貼付製剤を実現できることを見出した。また、前記液状可塑剤として、親水性−親油性のバランスの指標であるHLB値が3.3以下であるものを使用すると、メチルフェニデートおよび/またはその塩の貼付製剤内での安定性がより向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)支持体と、支持体の少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有する貼付製剤であって、該粘着剤層は、メチルフェニデートおよび/またはその塩と、ポリイソブチレンと、液状可塑剤とを含むことを特徴とする貼付製剤。
(2)液状可塑剤のHLB値が1.0〜3.3の範囲内にある、前記(1)記載の貼付製剤。
(3)ポリイソブチレンが、粘度平均分子量が160,000〜6,000,000である第一のポリイソブチレンと、粘度平均分子量が30,000〜100,000である第二のポリイソブチレンとを含む、前記(1)記載の貼付製剤。
(4)第一のポリイソブチレンと第二のポリイソブチレンとの含有量比(第一のポリイソブチレン:第二のポリイソブチレン)が重量比で1:0.1〜10である、前記(3)記載の貼付製剤。
(5)粘着剤層が、タッキファイヤーをさらに含む前記(1)記載の貼付製剤。
に関する。
本発明によれば、薬物(メチルフェニデートおよび/またはその塩)を安定化し得、特に製剤保存時における薬物含量の低下を極めて少なくでき、しかも、使用時は優れた薬物の皮膚透過性、および優れた薬物利用率を示すメチルフェニデート貼付製剤を提供することができる。したがって、本発明の貼付製剤は、注意欠陥障害、注意欠陥多動障害などの治療・予防に好適に使用し得る。特に前記障害を患う子供を授業時間を通して、かつ比較的短い時間内に治療するのに効果的であり、鎮静効果を有し、衝動的行動を軽減し、集中力を高め得るなどの効果を有する。
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下に記載する粘着剤層を構成する各成分の重量%単位で示した含有量(配合量)は、粘着剤層を形成するために使用する溶媒を除く全成分の総重量、すなわち、粘着剤層全体当たりの各成分の割合(重量比率)を百分率で示したものである。
本発明の貼付製剤は、支持体と、支持体の少なくとも片面に設けられた粘着剤層とを有し、該粘着剤層が、薬物としてのメチルフェニデートおよび/またはその塩と、粘着剤としてのポリイソブチレンと、液状可塑剤とを含むことが主たる特徴である。
メチルフェニデートには4つの立体異性体(d−トレオ、d−エリトロ、l−トレオ、およびl−エリトロ)が存在するが、少なくともd−トレオ−メチルフェニデートを含むことが好ましく、dl−トレオラセミ体を特に好適に使用することができる。
本発明において、メチルフェニデートの塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩など薬学的に許容される塩が挙げられる。また、酸のエステル、例えば塩化メチル、臭化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化水素酸のエステルなどとメチルフェニデートとの反応により形成されたメチルフェニデートの第四級アンモニウム塩も挙げられる。
メチルフェニデートおよびメチルフェニデートの塩は水和物などの溶媒和物の形態であってもよい。これらは公知の合成手法によって得ることができる。
本発明の貼付製剤において、メチルフェニデートおよび/またはその塩(以下、「メチルフェニデート等」とも称する。)の薬理用途は特に限定されないが、本発明の貼付製剤は特に、注意欠陥障害治療薬、注意欠陥多動障害治療薬、ナルコレプシー治療薬等として好適に使用し得る。
メチルフェニデート(フリー体)とメチルフェニデートの塩は、粘着剤層中にいずれか一方が単独で存在していても両者が混在していてもよい。なお、本明細書で単に「メチルフェニデート」と表記する場合、フリー体を意味するものとする。本発明では、皮膚透過性の観点から、メチルフェニデートのフリー体が好適である。
メチルフェニデートおよび/またはその塩の粘着剤層における総含有量や粘着剤層における濃度は、患者の年齢、体重、症状の重篤度などに応じて適宜選択することができるが、一般的には、メチルフェニデート(dl−トレオラセミ体)を使用する場合、その粘着剤層中の総含有量は、治療有効量の薬物を送達する観点から、貼付製剤1個当たり10mg以上であることが好ましく、20mg以上であることがより好ましい。総含有量が多すぎる場合、それに見合う効果が得られにくくなることから、その上限としては、貼付製剤1個当たり300mg以下が好ましく、200mg以下であることがより好ましい。
メチルフェニデートおよび/またはその塩の粘着剤層における濃度としては、例えばメチルフェニデート(dl−トレオラセミ体)を使用する場合、薬物の放出速度や皮膚透過性の観点から、粘着剤層の総重量当たり1〜30重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。1重量%よりも少ないと、治療・予防効果が十分に得られない可能性があり、一方、30重量%より多いと高濃度薬物による副作用発現の可能性がある。
本発明の貼付製剤におけるメチルフェニデート等の患者への送達は、患者に単一の貼付製剤を貼付することによって行ってもよく、複数の貼付製剤を貼付することによって行ってもよいが、簡便に治療を行う観点から、単一の貼付製剤を貼付することによって行うことが好ましい。
また、貼付時間としては、治療有効量の薬物を送達する観点から少なくとも6時間以上が好ましく、貼付時間が長すぎると送達される薬物の単位時間あたりの量が低下してくることから、48時間以下であることが好ましい。より好ましい態様は6〜24時間である。
また、適用部位も特に限定されず、皮膚、粘膜(口腔内など)などに適用することができるが、皮膚、例えば、腕、腹部、背中、臀部などに適用することが一般的である。
なお、メチルフェニデートおよび/またはその塩の治療有効量としては、患者の年齢、体重、症状の重篤度、薬物の塩の種類などにもよるが、例えば、メチルフェニデート(dl−トレオラセミ体)を使用する場合、子供および大人の双方について、1日あたり好ましくは0.05〜1.0mg/kgであり、より好ましくは0.075〜0.3mg/kgである。従って、最初の投与の後の患者の症状をみながら、治療有効量が得られるように、粘着剤層中のメチルフェニデートおよび/またはその塩の総含有量(貼付製剤1枚当たりの含有量)や粘着剤層中の濃度、後述する粘着剤としてのポリイソブチレン、液状可塑剤等の種類や配合量、貼付時間等を調整して、投与量を適宜調節することができる。
本発明の貼付製剤の形状としては、実質的に平面状の扁平な形態であり、略矩形のほか、三角形、五角形などの多角形、すなわち略直線で輪郭付けられる形状、楕円、円形などの曲線で輪郭づけられる形状、それらの組み合わせなどが挙げられるがこれらに限定されない。貼付製剤の寸法としては、特に限定されないが、上記の薬物の総含有量を満たす寸法であることが好ましい。貼付製剤の寸法は、適宜選択することができるが、例えば貼付製剤が略矩形の形状の場合、その1辺の長さが10〜100mmであり、他辺の長さが10〜80mmであることが一般的である。
本発明で使用される支持体としては、特に制限なく自体公知のフィルム状またはシート状材料を用いることができるが、液状可塑剤、薬物が支持体中を通って貼付製剤背面から失われて含有量が低下することを抑制し得るもの、即ちこれらの成分に対する不透過性を有するものが好ましい。
このような不透過性を有する材料としては、限定されないが、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン−6、ナイロン−66などのナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂等の単層フィルム、金属箔、これらのラミネートフィルム等が挙げられる。
なお、粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させる観点から、支持体には、上記材料からなる無孔フィルムと多孔性フィルムとのラミネートフィルムを用いてもよい。
特に好ましい支持体としては、メチルフェニデート等の粘着剤層成分の低透過性の観点からポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル製フィルムが好ましい。
支持体の厚さは、貼付製剤の柔軟性等を考慮して、10〜500μmであることが好ましく、より好ましくは10〜200μmであり、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の貼付製剤の場合は、10〜100μmであることが好ましい。支持体を無孔フィルムと多孔性フィルムとのラミネートフィルムとする場合、無孔フィルムの厚さは、薬物の透過の抑制等を考慮して、5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは5〜100μmである。
支持体の少なくとも片面に形成される粘着剤層は、ポリイソブチレンを含む。ポリイソブチレンは、粘着剤層においてメチルフェニデートおよびその塩を安定化させる効果やメチルフェニデートおよびその塩の皮膚への透過を促進する効果を有していることが考えられ、粘着剤層の粘着特性、皮膚に対する安全性、ならびにメチルフェニデートおよびその塩の安定性のバランスの観点からも粘着剤として好適であり、本発明の貼付製剤の粘着剤層を構成する成分として好適に使用される。ポリイソブチレンは、単一の粘度平均分子量のものを用いてもよく、粘度平均分子量の異なる2種類以上のものを混合して用いてもよいが、適度な粘着力および薬物溶解性を得る等の種々の観点から、粘度平均分子量の異なる2種類以上のものを混合して用いることが好ましい。
以下、粘着剤層に必要な凝集性を有し、必須の成分として粘着剤層に配合されるポリイソブチレンを第一のポリイソブチレンといい、これに加えて粘着剤層の粘着力を増強するなどの種々の目的で配合されるさらなるポリイソブチレンを第二のポリイソブチレンなどという。
第一のポリイソブチレンとしては、特に限定されないが、粘度平均分子量が160,000〜6,000,000のものが好ましく,1,000,000〜5,000,000のものがより好ましく、3,500,000〜4,500,000のものが最も好ましい。粘度平均分子量が160,000に満たない場合、粘着剤層の凝集力が低下する場合があり、貼付製剤の剥離時に糊残り(粘着剤層の成分の皮膚面への残留)を引き起こす可能性がある。一方、6,000,000を越える場合、粘着剤層の他の成分との相溶性が低くなり、粘着剤層の均一性を保てなくなり、貼付製剤の剥離時にやはり糊残りを引き起こす可能性がある。
第二のポリイソブチレンが粘着剤層の粘着力を強化するなどの種々の目的で配合される場合、第二のポリイソブチレンとしては、粘度平均分子量が30,000〜100,000のものが好ましく、40,000〜80,000のものがより好ましく、50,000〜60,000のものが最も好ましい。30,000に満たないと粘着剤層の凝集力が弱くなるとして配合量に制限を受ける可能性がある。また100,000を超えると第一のポリイソブチレンと同等かまたはさほど変わらない分子量になり、粘着力向上の効果が発揮されにくいおそれがある。
なお本発明における粘度平均分子量は、シュタウディンガーインデックス(J)を、20℃にてウベローデ粘度計のキャピラリー1のフロータイムからSchulz-Blaschke式により算出し、このJ値を用いて下式により求めるものである。
[数1]
=ηsp/c(1+0.31ηsp)(Schulz-Blaschke式)
ηsp=t/t−1
t:溶液のフロータイム(Hagenbach-couette補正式による)
:溶媒のフロータイム(Hagenbach-couette補正式による)
c:溶液の濃度(g/cm
=3.06×10−2Mv0.65
Mv:粘度平均分子量
ポリイソブチレンの粘着剤層中の総含有量(2種以上用いられる場合は合計量)は、好ましくは20〜85重量%、より好ましくは50〜85重量%である。20重量%よりも少ないと貼付中の皮膚接着力維持が困難である可能性があり、一方85重量%より多いと強い皮膚接着力により皮膚刺激が発生する可能性がある。
粘度平均分子量の異なる2種類のポリイソブチレンを使用する場合は、適度な粘着力および薬物溶解性を得る等の観点から、第一のポリイソブチレンと第二のポリイソブチレンとの含有量の比(第一のポリイソブチレン:第二のポリイソブチレン)は重量比で好ましくは1:0.1〜10であり、より好ましくは1:0.5〜5である。
粘着剤層は所望によりタッキファイヤー(粘着付与剤)を含むことができる。タッキファイヤーは、貼付剤または貼付製剤の分野で公知のものを適宜選択して用いればよい。タッキファイヤーとしては、例えば、石油系樹脂(例えば芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂など)、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、スチレンとα−メチルスチレンの共重合体等)、脂環族飽和炭化水素樹脂(好ましくは軟化点(環球法)が50〜200℃のもの)、水添石油樹脂(例えば芳香族系石油樹脂を部分水素添加または完全水素添加することによって得られる脂環族飽和炭化水素樹脂など)、ポリブテン(例えば100℃の動粘性率が1000〜10000mm/sのポリブテンなど)等が挙げられる。中でも、メチルフェニデートおよび/またはその塩の保存安定性が良好になることから、ポリブテンが好ましい。
タッキファイヤーは、一種でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、2種以上を組み合わせて使用する場合には、例えば、種類の異なる樹脂を組み合わせてもよく、同種の樹脂で軟化点の異なる樹脂を組み合わせてもよい。
タッキファイヤーの含有量は、好ましくは15〜55重量%であり、より好ましくは20〜50重量%である。タッキファイヤーの含有量が15重量%未満であると粘着剤層のタック(粘着性)および凝集力が乏しい場合があり、他方55重量%を超えると粘着剤層が固くなり、皮膚接着性が低下する傾向にある。
粘着剤層には液状可塑剤を含有させることで、粘着剤層を柔軟にし、貼付製剤の貼付時および/または剥離時の皮膚刺激を低減することができる。
液状可塑剤としては、それ自体常温で液状であり、粘着剤層に対して可塑化作用を示し、粘着剤層に含まれる前記ポリイソブチレンとの相溶性を示すものを好適に使用することができる。また、例えば構造式中にエステル基を有するものや、メチルフェニデートおよび/またはその塩の経皮吸収性や保存安定性を向上させるものが好ましい。
具体的には、脂肪酸エステル、例えば炭素数が12から16の高級脂肪酸と炭素数が1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルなど;炭素数が8〜10の脂肪酸;高級アルコール(好ましくは炭素数が10〜30の高級アルコール);油脂類等が挙げられる。ただし、これらのうち常温で液状のものを使用することができる。液状可塑剤のさらなる具体例としては、スクアレン、ラノリンが挙げられる。なお、本明細書において、常温で液状であるとは、20℃にて流動性を有することを意味する。
前記の油脂類としてはオリーブ油、ヒマシ油などが挙げられる。前記の炭素数が12から16の高級脂肪酸と炭素数が1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルであって、好ましい脂肪酸エステルとしては、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチルなどが挙げられる。その他の好ましい脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソトリデシル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸オクチルなどが挙げられる。好ましい高級アルコールとしては、2−オクチル−1−ドデカノール(オクチルドデカノール)が挙げられる。
液状可塑剤は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。液状可塑剤の配合量としては、好ましくは5〜30重量%であり、より好ましくは10〜20重量%である。配合量が5重量%未満の場合、粘着剤層の可塑化が不十分となって皮膚刺激性を低減することができない場合があり、逆に30重量%を超える場合、粘着剤(ポリイソブチレン)が有する凝集力によっても液状可塑剤を粘着剤層中に保持させることができない場合があり、粘着剤層表面に液状可塑剤がブルーミングして貼付製剤の皮膚に対する接着性が劣る場合がある。
液状可塑剤は、その親水親油バランス(hydrophile-lipophile balance)を表すHLB値が1.0〜3.3の範囲内にあることが好ましい。HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなることを意味する。
HLB値が3.3以下の液状可塑剤を使用することで、メチルフェニデートおよび/またはその塩の貼付製剤内での安定性をより向上させることができる。また、液状可塑剤のHLB値が1.0以上であることで、メチルフェニデートおよび/またはその塩の粘着剤層に対する相溶性を増強することができ、メチルフェニデートおよび/またはその塩が粘着剤層表面へブルーミングする可能性を低減できる。HLB値はより好ましくは1.0〜2.6である。
かかる観点から液状可塑剤としては具体的には、パルミチン酸イソプロピル(HLB値1.62)、ミリスチン酸イソプロピル(HLB値1.82)、ミリスチン酸イソトリデシル(HLB値1.18)、ラウリン酸エチル(HLB値2.14)、オレイン酸エチル(HLB値1.55)、パルミチン酸オクチル(HLB値1.25)、パルミチン酸2−エチルヘキシル(HLB値1.28)、2−オクチル−1−ドデカノール(オクチルドデカノール)(HLB値2.50)等が好ましい。
なお、本明細書においてHLB値は、小田、寺村らによる次式を用いて算出される値をいう。
HLB値=[(Σ無機性値)/(Σ有機性値)]×10
ここで(Σ無機性値)、(Σ有機性値)は、それぞれ液状可塑剤の分子の構成単位の無機性値、有機性値を加え合わせて求められるものであり、無機性値および有機性値は、藤田穆により提唱された有機概念図に基づき求められる(例えば、藤田穆,「化学の領域」,Vol.11,No.10(1957),719−725等を参照)。より具体的には、無機性値は官能基によって定められた値であり、例えば−OHは100、−COOHは150、−NH(アミン)は70、−COOR(エステル基)は60、−O−は20、−CO−は65、芳香族環(単環式)は15、非芳香族環(単環式)は10である。有機性値は分子の炭素数×20であり、例えばイソプロピル基のような分岐状脂肪族基を有する場合はこの値から10を減じるなどして求められる。計算方法の詳細については、上記文献のほか下記の文献などにも記載されている。
小田,寺村,「界面活性剤の合成と其応用」,槙書店(1957),501頁
貼付製剤の粘着剤層の粘着面には、皮膚へ貼付製剤を貼付する前に粘着面を保護するための剥離ライナーを積層することができる。剥離ライナーとしては特に限定されず、その材質としては、この分野で自体公知のものが挙げられ、具体的にはポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、各種アクリル系及びメタクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、酢酸セルロース、再生セルロース(セロファン)、セルロイド等のプラスチックフィルム、あるいは上質紙またはグラシン紙等とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が例示される。安全性、経済性、薬物移行性の点でポリエステルフィルムを用いることが好ましい。
剥離ライナーは、粘着剤層との剥離を容易にするように粘着剤層との界面側が易剥離処理されたものが好ましい。易剥離処理としては、限定されないが、公知の方法を用いて行うことができ、例えば硬化性シリコーン樹脂を主成分とする離型剤を用いてバーコート、グラビアコートなどの塗布方法により剥離処理層を形成する処理が挙げられる。剥離処理層の厚さは、剥離性および塗膜の均一性確保の観点から0.01〜5μmが好ましい。
剥離ライナーの厚さとしては、柔軟な貼付製剤の形状を一定形状に維持し、貼付製剤を持ちやすくする等の観点から25〜100μm程度が好ましく、40〜80μm程度がより好ましい。
以上のような本発明の貼付製剤の製造方法としては、限定されないが、例えばメチルフェニデートおよび/またはその塩、ポリイソブチレン、ならびに液状可塑剤、および所望によりタッキファイヤー(粘着付与剤)などの成分を溶媒とともに混合し、得られた溶液または分散液を支持体上に塗布し、乾燥して貼付製剤製造用シートを作製し、これを切断することによって製造することができる。前記塗布は、例えばキャスティング、プリンティング、その他当該技術分野で自体公知の技法により実施可能である。
溶媒としては、限定されないが、粘着剤層を構成する前記各成分との相溶性を有し、乾燥工程において容易に揮発させることができ、本発明の効果を損なわないものが好ましい。かかる溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、エタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられ、これらは単独でまたは二種以上組み合わせて用いてもよい。
前記乾燥は、風乾することにより行ってもよく、乾燥装置、熱風、遠赤外線などを用いる公知の方法により行ってもよい。
前記各成分の混合方法としては、制限されないが、ニーダー、プラネタリーミキサーなどの混練機、ホモジナイザーなどの分散機、プロペラ型翼攪拌機などの攪拌機などが挙げられ、これらは単独で使用することも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
前記切断方法としては、限定されず、レーザー、押し切り刃など任意の公知の切断方法を用いることができる。
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下文中で部とあるのは全て重量部を意味する。
<粘着剤組成物A〜Dの調製>
(合成例1)
第一のポリイソブチレン(粘度平均分子量:4,000,000)20部、第二のポリイソブチレン(粘度平均分子量:55,000)20部、およびタッキファイヤーとしてポリブテン(動粘性率:4000mm/s(100℃))60部を混合し、ポリイソブチレンを含む粘着剤組成物Aを調製した。
(合成例2)
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルヘキシル71部、酢酸ビニル22部、およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル7部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系共重合体の粘着剤組成物Bを調製した。
(合成例3)
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルヘキシル95部およびアクリル酸5部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系共重合体の粘着剤組成物Cを調製した。
(合成例4)
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルヘキシル75部、N−ビニル−2−ピロリドン22部、およびアクリル酸3部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系共重合体の粘着剤組成物Dを調製した。
<貼付製剤の製造>
(実施例1〜4)
粘着剤組成物A(3.3g)および溶媒としてのトルエン(6.3mL)を用いて、表1に記載の配合割合にしたがって粘着剤組成物の粘稠トルエン溶液を調製し、得られた溶液をシリコーン剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)製剥離ライナー(厚さ75μm)上に、乾燥後の粘着剤層の厚みが100μmとなるように塗布し、これを熱風循環式乾燥機中で80℃にて10分間乾燥して粘着剤層を形成した。当該粘着剤層の粘着面を厚み25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)の支持体に貼り合わせて貼付製剤製造用シートを作製した。これを押し切り刃にて切断し、シート状の貼付製剤(100mm×400mm)を得た。尚、貼付製剤1枚は約40mgのメチルフェニデートを含む。
(比較例1)
粘着剤組成物Bを用いて、表1に記載の配合割合にしたがって、粘着剤組成物の粘稠酢酸エチル溶液を調製したこと、および熱風循環式乾燥機中での乾燥後に60℃で48時間のエージング処理を行ったこと以外は、実施例1〜4と同様にシート状の貼付製剤を得た。
(比較例2)
粘着剤組成物Cを用いて、表1に記載の配合割合にしたがって、粘着剤組成物の粘稠酢酸エチル溶液を調製したこと、および熱風循環式乾燥機中での乾燥後に60℃で48時間のエージング処理を行ったこと以外は、実施例1〜4と同様にシート状の貼付製剤を得た。なお、AL-A(アルミニウムアセチルアセトナート)は架橋剤である。
(比較例3)
粘着剤組成物Dを用いて、表1に記載の配合割合にしたがって、粘着剤組成物の粘稠酢酸エチル溶液を調製したこと、および熱風循環式乾燥機中での乾燥後に60℃で48時間のエージング処理を行ったこと以外は、実施例1〜4と同様にシート状の貼付製剤を得た。なお、AL-A(アルミニウムアセチルアセトナート)は架橋剤である。
Figure 2010138104
試験例1(含量安定性試験)
実施例1および比較例1〜3で得られた貼付製剤を60℃の保存条件下2週間保存し、HPLCを用いて膏体(粘着剤層)中に存在するメチルフェニデートを保存開始前と2週間保存後に定量し、保存後に残存するメチルフェニデートの割合を求めた。HPLCの条件は下記の通りである。実施例1および比較例1〜3のそれぞれについて、メチルフェニデートの定量は、保存開始前および2週間保存後に、膏体(粘着剤層)の3箇所について行い、定量値から残存するメチルフェニデートの割合の3個のデータを得、その平均値および標準偏差を求めた。残存するメチルフェニデートの割合のデータは、メチルフェニデートの保存開始前の含量に対する2週間保存後の含量の割合として百分率(重量%)で表し、その平均値および標準偏差を表2に示した。
(HPLCの条件)
検出器:紫外吸光光度計(検出波長220nm)
カラム:Inertsil ODS-3(ジーエルサイエンス(株))
カラム温度:25℃
移動相:水/アセトニトリル/トリエチルアミン混液(容積比で160:40:1)にリン酸を加え、pH3.0になるように調節した。
流量:メチルフェニデートの保持時間が約6分となるように調節した。
Figure 2010138104
表2より明らかなように、実施例1では過酷な60℃の保存条件下でもメチルフェニデートの含量の低下はみられなかったのに対して、比較例1〜3では、含量の低下がみられ、特に比較例2では残存するメチルフェニデートの割合(平均値)が11.6重量%であり、著しい含量の低下がみられた。
試験例2(ヒト皮膚透過性試験)
実施例1および比較例1〜3で得られた貼付製剤を用いて、ヒト皮膚透過性について試験を行った。試験は、6mmφの円形状に切断した貼付製剤を、摘出したヒト皮膚(16mmφの円形状に切断、厚さ20μm)の角質層面に貼り付け、これをガラス製拡散セル(例えばキーストンサイエンティフィック(株)などから入手し得るフランツセル)に、皮膚の真皮層側がレセプター液に接するように装着し、一定時間ごとにレセプター液をサンプリングして、レセプター液中のメチルフェニデートをHPLCにて定量することによって行った。レセプター液としては、32℃の生理食塩水を用いた。HPLCの条件は、検出波長を257nmとしたこと以外は試験例1と同様である。
試験は、実施例1および比較例1〜3で得た各貼付製剤について5回ずつ行った。定量値から求めたメチルフェニデートの皮膚に対する透過速度を図1に、メチルフェニデートの皮膚に対する累積透過量を図2に、そして透過性評価パラメータを表3に示した。図中、各プロットは、5回の試験における値の平均値を表す。バーは標準偏差を表す。
Figure 2010138104
表3、図1、および図2より明らかなように、実施例1では、メチルフェニデートの皮膚に対する透過速度および累積透過量はともに高く、メチルフェニデートの利用率は66.4重量%であった。これに対して、比較例1〜3では、メチルフェニデートの皮膚に対する透過速度および累積透過量ともに低く、メチルフェニデートの利用率は40重量%以下であった。
試験例3(含量安定性試験)
実施例1〜4で得られた貼付製剤について、試験例1と同様に試験を行い、保存後に残存するメチルフェニデートの割合を求め、表4に示す平均値および標準偏差を得た。
Figure 2010138104
表4より明らかなように、実施例1では、過酷な60℃保存条件下でもメチルフェニデートの含量の低下はみられなかったのに対して、実施例3〜4では含量の低下がみられ、特に実施例3では残存するメチルフェニデートの割合(平均値)が15.2重量%であり、著しい含量低下がみられた。
本発明の貼付製剤は、優れた皮膚透過性を示し、薬物利用率に優れていることから、注意欠陥障害、注意欠陥多動障害などの治療に好適に使用し得、特に前記障害を患う子供を授業時間を通して、かつ比較的短い時間内に治療するのに効果的である。
図1は、試験例2におけるメチルフェニデートの皮膚に対する透過速度の時間による変化を示す図である。 図2は、試験例2におけるメチルフェニデートの皮膚に対する累積透過量の時間による変化を示す図である。

Claims (5)

  1. 支持体と、支持体の少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有する貼付製剤であって、該粘着剤層は、メチルフェニデートおよび/またはその塩と、ポリイソブチレンと、液状可塑剤とを含むことを特徴とする貼付製剤。
  2. 液状可塑剤のHLB値が1.0〜3.3の範囲内にある、請求項1記載の貼付製剤。
  3. ポリイソブチレンが、粘度平均分子量が160,000〜6,000,000である第一のポリイソブチレンと、粘度平均分子量が30,000〜100,000である第二のポリイソブチレンとを含む、請求項1記載の貼付製剤。
  4. 第一のポリイソブチレンと第二のポリイソブチレンとの含有量比(第一のポリイソブチレン:第二のポリイソブチレン)が重量比で1:0.1〜10である、請求項3記載の貼付製剤。
  5. 粘着剤層が、タッキファイヤーをさらに含む請求項1記載の貼付製剤。
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