以下、本発明を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の経皮吸収貼付剤の好適な実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、経皮吸収貼付剤1は、支持基材11と、支持基材11の一方の面側に設けられた第1の粘着剤層12と、第1の粘着剤層12の支持基材11とは反対側の面側に設けられ、皮膚に貼付する面を有する第2の粘着剤層13と、第1の粘着剤層12と第2の粘着剤層13との間に設けられ、液状の薬物を含有する薬物貯蔵層14と、第2の粘着剤層13の皮膚に貼着する側の面に設けられた剥離シート15を有している。
そして、経皮吸収貼付剤1は、剥離シート15を剥離し、皮膚に第2の粘着剤層13を介して貼付することにより用いられるものである。
支持基材11は、シート状をなしており、薬物貯蔵層14、第1の粘着剤層12および第2の粘着剤層13を支持する機能を有する。かかる支持基材11は、可撓性(柔軟性)を有し、貼付時における曲面追従性をもち、加工時における裁断または打ち抜き等に適したものが好ましい。
このような支持基材11としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリスルホン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、アクリル等の樹脂からなるプラスチックフィルム、織物、編物および不織布を用いることが可能である。さらに、プラスチックフィルムと、プラスチックフィルム、織物、編物、不織布および紙等とのラミネートシートや金属蒸着を施したプラスチックフィルムを用いることが可能である。
支持基材11の平均厚さは、2〜4000μmであるのが好ましく、10〜300μmであるのがより好ましい。
第1の粘着剤層12は、支持基材11の一方の面に接合され、第2の粘着剤層13および薬物貯蔵層14を支持基材11に固定する機能を有している。また、第1の粘着剤層12は、粘着剤および、薬物貯蔵層14から浸透した薬物を含んで構成されている。
また、本実施形態では、第1の粘着剤層12の外周部は、第2の粘着剤層13の外周部と直接接合し、薬物貯蔵層14を密閉している。これにより、後述する薬物貯蔵層14に含まれる液状の薬物が、不本意に外部に流出することが防止される。
第1の粘着剤層12を構成する粘着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
また、第1の粘着剤層12を構成する粘着剤は、後述する第2の粘着剤層13に含まれる粘着剤と共通の成分(特に、後述する共重合体X)を含むことが好ましい。これにより、第1の粘着剤層12の外周部と第2の粘着剤層13の外周部との密着性が高いものとなる。また、薬物貯蔵層14から第1の粘着剤層12中に浸透した薬物が、より化学的に安定した状態で保持される。
また、薬物貯蔵層14に含まれる液状の薬物が、ニコチン等の比較的分解しやすい薬物である場合、第1の粘着剤層12を構成する粘着剤は、実質的に水酸基、およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与して薬物の分解が促進されることが防止される。
また、第1の粘着剤層12を形成するのに用いる材料中には、必要に応じて、可塑剤、粘着付与剤、安定剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
なお、本願明細書において、「水酸基およびカルボキシル基を有さない」とは、化学構造中にフリーの水酸基およびカルボキシル基を有さない場合を指す。
また、「第1の粘着剤層を構成する粘着剤が水酸基およびカルボキシル基を実質的に有しない」とは、具体的には、第1の粘着剤層を構成する粘着剤が下記のような酸価、水酸基価を満足することをいう。
また、第1の粘着剤層12における粘着剤の酸価は10mgKOH/g以下であることが好ましい。これにより、第1の粘着剤層12において薬物が分解することがより好適に防止される。
また、第1の粘着剤層12における粘着剤の水酸基価は10mgKOH/g以下であることが好ましい。これにより、第1の粘着剤層12において薬物が分解することがより好適に防止される。
また、第1の粘着剤層12の平均厚さは、10〜150μmであることが好ましく、15〜100μmであることがより好ましい。
薬物貯蔵層14は、第1の粘着剤層12を介して上記支持基材11の一方の面側に接合されており、繊維状の基体やバインダ成分等に液状の薬物を含有させたものである。
薬物貯蔵層14は、液状の薬物を保持する機能を備えている。また、薬物貯蔵層14は、液状の薬物を第2の粘着剤層13に供給する機能を有している。第2の粘着剤層13に供給される液状の薬物の量、速度は、薬物貯蔵層14の液状の薬物の保持力と第2の粘着剤層13の液状の薬物の保持力との平衡関係による。
薬物貯蔵層14を構成する液状の薬物としては、例えば、ニコチン、ニトログリセリン等が挙げられる。上述した中でも、ニコチンは、常温下において液状で揮発性を有し、毒性の強い薬物であるとともに、水や有機溶剤への溶解性が高いため、経皮吸収貼付剤とした場合に薬物放出速度をコントロールするのが難しい薬物であるが、本発明の経皮吸収貼付剤を用いることにより、その薬物放出速度を容易に制御することができる。
薬物貯蔵層14に含まれる薬物の含有量は、0.1〜50質量%であるのが好ましく、1〜30質量%であるのがより好ましい。
薬物貯蔵層14には、薬物を保持させる目的で、バインダ成分等が含まれていてもよい。このような成分としては、高分子成分、充填剤などが挙げられる。
上記の高分子成分としては、例えば、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン重合体、スチレン−ブタジエン重合体、イソプレン重合体、イソブチレン重合体、ブタジエン重合体、シリコーン系重合体、アクリル系重合体、ポリウレタン系重合体などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、薬物貯蔵層14は、上記成分を、繊維状物質で構成された基体に含浸させてなるものであるのが好ましい。これにより、上述したような薬物および所望により配合されるバインダ成分を薬物貯蔵層14内に効果的に保持することができるとともに、第2の粘着剤層13に薬物を好適に供給でき、薬物の持続的な徐放性をより優れたものとすることができる。なお、上記成分の基体への含浸方法としては塗布、浸漬、滴下、噴霧等の手段が挙げられる。
繊維状物質で構成された基体としては、例えば、織布、編物、不織布および紙等が挙げられる。上述した中でも織布を用いるのが好ましい。これにより、薬物を薬物貯蔵層14内により効果的に保持することができるとともに、第2の粘着剤層13に薬物を好適に供給でき、薬物の持続的な徐放性をより優れたものとすることができる。
また、繊維状物質を構成する材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
また、繊維状物質は、多孔性の中空繊維(多孔性中空繊維)であるのが好ましい。これにより、上述したような薬物および所望により配合されるバインダ成分等を薬物貯蔵層14(繊維の中空部)内により確実に保持することができるとともに、第2の粘着剤層13に薬物を好適に供給でき、薬物の持続的な徐放性を特に優れたものとすることができる。なお、本明細書中において、多孔性中空繊維とは、繊維軸方向に沿って中空部を有する中空繊維の壁面に細孔を有し、かつ、少なくともその細孔の一部は繊維の中空部にまで貫通している繊維をいう。
繊維状物質として多孔性中空繊維を用いた場合、その単糸の太さは、1〜500μmであるのが好ましく、3〜250μmであるのがより好ましい。
また、多孔性中空繊維の壁面の細孔の空隙率は、0.1〜70%であるのが好ましく、1〜60%であるのがより好ましい。
また、多孔性中空繊維の中空部の空隙率は、3〜90%であるのが好ましく、5〜80%であるのがより好ましい。
また、多孔性中空繊維の細孔および中空部の空隙率の合計は、10〜95%であるのが好ましく、20〜85%であるのがより好ましい。
なお、本明細書中において、多孔性中空繊維の中空部の空隙率および細孔の空隙率は、多孔性中空繊維の容積に対する多孔性中空繊維の中空部の容積および細孔の容積として算出する。ここで、多孔性中空繊維の中空部の容積および細孔の容積は、水銀圧入法により測定することができる。
本実施形態において、薬物貯蔵層14は、図1に示すように、第1の粘着剤層12と第2の粘着剤層13とで密封されている。このように密封することにより、薬物貯蔵層14内の薬物の揮発や劣化を防止することができ、薬物をより確実に皮膚へと移行させることができる。
薬物貯蔵層14の平均厚さは、5〜5000μmであるのが好ましく、10〜500μmであるのがより好ましい。なお、本発明において、平均厚さとは、薬物貯蔵層14を密封状態にするよう構成された端部(図中の左右方向の端部)近傍を除く、図中の中心近傍の平均厚さのことを指す。
なお、薬物貯蔵層14中には、上記成分の他、例えば、安定化剤、抗酸化剤、香料やpH調整剤等を必要に応じて添加してもよい。
上述したような薬物貯蔵層14の皮膚に貼着する側の面には、第2の粘着剤層13が接合して設けられている。薬物貯蔵層14に含まれる液状の薬物は、経皮吸収貼付剤1の保管時および使用時において第2の粘着剤層13に浸透(拡散)する。経皮吸収貼付剤1の使用時においては、第2の粘着剤層13に浸透した液状の薬物は、さらに皮膚に浸透(拡散)することにより、経皮吸収貼付剤1から放出される。また、経皮吸収貼付剤1から第2の粘着剤層13を介して薬物が放出された場合、第2の粘着剤層13に対し薬物貯蔵層14から薬物が補給される(浸透する)。
また、本発明では、第2の粘着剤層13を構成する粘着剤として、水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマー(以下、「モノマーA」とも言う。)と、ラクタム環を有するビニルモノマー(以下、「モノマーB」とも言う。)とを含むモノマー組成物の共重合体Xを用いる。
また、共重合体Xは、十分な量の液状の薬物を担持できるものであるとともに、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与して薬物の分解が促進されることを防止することができる。一方で、経皮吸収貼付剤1の貼付時においては、共重合体Xは、液状の薬物を安定的に徐放することができる。
また、共重合体Xは、液状の薬物を比較的多量に含んだ場合であっても、適度な粘着力を有する。このため、貼付中に皮膚から経皮吸収貼付剤1が剥がれてしまうことが防止される。また、共重合体Xは、適度な皮膚への粘着力を有するため、皮膚から経皮吸収貼付剤1を剥がす際に痛みを伴うことが防止される。
この結果、経皮吸収貼付剤1は、保管時において長期にわたって液状の薬物を保持でき、貼付時において液状の薬物を安定して徐放することができ、かつ、粘着特性に優れたものとなる。
水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマー(モノマーA)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステルのいずれかを意味し、以下、(メタ)は同じ意味を有するものとする。このような化合物は、化学構造中に水酸基およびカルボキシル基を有していない。このため、液状の薬物が比較的不安定な物質であっても、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与して薬物の分解が促進されることが防止される。特に、ニコチンは、第2の粘着剤層13にある水酸基、カルボキシル基等により分解が促進されやすいが、このような化合物をモノマーAとして用いることで、経皮吸収貼付剤1の保管時における、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることが防止される。
上述したようなモノマーAとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステルなどが挙げられる。
また、モノマーAとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましく、アルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数は、3〜12であることがより好ましく、4〜8であることが特に好ましい。これにより、第2の粘着剤層13の粘着力を適度なものとすることができる。
また、共重合体中におけるモノマーAのモノマー比率は、とくに限定されないが、65〜95mol%であることが好ましく、67〜93mol%であることがより好ましい。これにより、第2の粘着剤層13の粘着性を十分に保ちつつ、より長期にわたり第2の粘着剤層13に薬物を担持することができる。
ラクタム環を有するビニルモノマー(モノマーB)は、共重合体Xの薬物に対する親和性の向上に寄与する成分である。特に、モノマーBは、共重合体Xのニコチンに対する親和性の向上に寄与することができ、第2の粘着剤層13は、比較的多量のニコチンを保持することができる。
モノマーBとしては、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム等のN−ビニル環状ラクタム類が挙げられ、このうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、N−ビニル−2−ピロリドンは、皮膚に対する親和性に優れており、第2の粘着剤層13の皮膚に対する密着性を高めることができるため好ましい。
モノマーBの共重合体中におけるモノマーBのモノマー比率は、特に限定されないが、5〜35mol%であることが好ましく、7〜33mol%であることがより好ましい。これにより、粘着剤層12の皮膚に対する粘着力を十分なものとしつつ、経皮吸収貼付剤1を皮膚から剥離する際に、粘着剤が皮膚に残存する現象(糊残り)が生じることを防止することができる。また、第2の粘着剤層13の薬物の保持力を高いものとすることができる。これに対し、モノマーBのモノマー比率が前記上限値を超えると、経皮吸収貼付剤1を貼付して剥がした際に皮膚に糊残りが発生しやすくなる場合がある。一方、モノマーBのモノマー比率が前記下限値以下の場合、粘着剤層12の皮膚に対する粘着力が十分とならない場合があり、また、第2の粘着剤層13の薬物の保持力を十分に高いものとすることができない場合がある。
また、モノマーBは、水酸基およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、第2の粘着剤層12において、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることがより好適に防止される。
また、共重合体Xは、重合性不飽和基を複数有するモノマー(以下、「モノマーC」とも言う。)を含むことが好ましい。
重合性不飽和基を複数有するモノマー(モノマーC)は、共重合体Xの凝集力を向上させる機能を有する。すなわち、モノマーCの重合性不飽和基が共重合体Xの重合に関与することによって、共重合体Xを架橋した高分子とすることができる。このように共重合体Xの凝集力が向上することにより、第2の粘着剤層13の糊残りの発生を好適に防止することができる。
一般に、粘着剤の凝集力を向上させるための手段として、粘着剤に用いる高分子を架橋処理することが行われているが、エポキシ基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する架橋剤を用いる場合に、架橋される高分子には、架橋反応をするための水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する官能基が必要である。これらの水酸基、カルボキシル基は薬物(特にニコチン)の分解を促進してしまう。これに対し、モノマーCは、重合性不飽和基によって架橋することにより、水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する官能基を必要としないため、水酸基、カルボキシル基が反応に関与して薬物(特にニコチン)の分解が促進されることを防止することができる。
モノマーCの重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。この中でも、重合性不飽和基としてアクリロイル基を用いた場合、共重合体Xの凝集力を十分に高いものとすることができる。
また、モノマーC中の重合性不飽和基は、複数あるものであればよいが、2〜5個であることが好ましく、2〜3個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。これにより、共重合体Xの粘度を低いものとしつつ、共重合体Xの凝集力を十分に高いものとすることができる。
また、モノマーCは、水酸基およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、第2の粘着剤層13において、薬物が分解することがより好適に抑制される。
上述したようなモノマーCとしては、例えば、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)ブチレングリコール、(ポリ)ペンタメチレングリコール、(ポリ)ヘキサメチレングリコール等のアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、(ポリ)グリセリン等のポリオール類のジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でもアルキレングリコールジアクリレートは、他のモノマーとの反応性に優れているため、好適に共重合体Xの凝集力を高いものとすることができる。
また、共重合体XにおけるモノマーCの共重合比率は、0.000005〜0.005mol%であることが好ましく、0.00001〜0.001mol%であることがより好ましい。
また、共重合体Xに上述したようなモノマー以外のモノマーが含まれていてもよい。このようなモノマーとしては、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。これらのモノマーの共重合体Xにおける共重合比率は、0〜10mol%であることが好ましい。
また、このようなモノマーは、水酸基およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、粘着剤層12において、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることがより好適に防止される。
また、第2の粘着剤層13を形成するのに用いる材料中には、必要に応じて、重合体X以外の粘着剤、可塑剤、粘着付与剤、安定剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
また、第2の粘着剤層13を構成する粘着剤は、実質的に水酸基およびカルボキシル基を有していないことが好ましい。これにより、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与して薬物(特にニコチン)の分解が促進されることを防止することができる。
また、「第2の粘着剤層を構成する粘着剤が水酸基およびカルボキシル基を実質的に有しない」とは、具体的には、第2の粘着剤層を構成する粘着剤が下記のような酸価、水酸基価を満足することをいう。
また、第2の粘着剤層13における粘着剤の酸価は10mgKOH/g以下であることが好ましい。これにより、第2の粘着剤層13において薬物(特にニコチン)が分解することがより好適に防止される。
また、第2の粘着剤層13における粘着剤の水酸基価は10mgKOH/g以下であることが好ましい。これにより、第2の粘着剤層13において薬物(特にニコチン)が分解することがより好適に防止される。
また、第2の粘着剤層13の平均厚さは、50〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。これにより、十分な量の薬物(特にニコチン)を第2の粘着剤層13に含ませることができるとともに、経皮吸収貼付剤1の剥離時において皮膚に糊残りが発生することを防止することができる。
また、第1の粘着剤層12の平均厚さをT1[μm]、第2の粘着剤層13の平均厚さをT2[μm]としたとき、T2/T1≧2.0の関係を満足することが好ましく、T2/T1≧5.0の関係を満足することがより好ましく、T2/T1≧10.0の関係を満足することがさらに好ましい。薬物貯蔵層中に含まれる薬物は、通常、皮膚側の第2の粘着剤層側へ移行するだけでなく、支持基材側の第1の粘着剤層側にも移行する。これにより、第1の粘着剤層12側に移行する薬物の量を抑制することができる。すなわち、より多くの薬物を第2の粘着剤層13側に移行させることができるため、皮膚に対して長期にわたって薬物を徐放することができる。
剥離シート15は、経皮吸収貼付剤1の保管時(未使用時)において、第2の粘着剤層13の貼着面を保護する機能を有するとともに、薬物の拡散を防止する機能を有している。
このような剥離シート15としては、例えば、ポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙等のラミネート紙類;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム等の合成樹脂フィルム等が使用できる。また、剥離シート15は、必要に応じてこれらの材料の片面または両面にシリコーン樹脂等により剥離処理が施されたものを使用してもよい。
また、剥離シート15の平均厚さは、10〜200μmであることが好ましく、15〜100μmであることがより好ましい。
また、経皮吸収貼付剤1に含まれる初期のニコチン含有量に対する8時間後の薬物放出率は、米国薬局方に記載のパドルオーバーディスク法に準じた測定方法において、60〜80質量%であることが好ましい。特に、経皮吸収貼付剤1に含まれる初期のニコチン含有量に対する1時間後の薬物放出率が20〜40質量%であり、8時間後の薬物放出率が60〜80質量%であり、24時間後の薬物放出率が80〜100質量%であることがより好ましい。このような薬物放出プロファイルを有することにより、副作用の発現を抑制しつつ、薬効の発現性を良好なものとすることができる。
また、JIS Z 0237に準じて測定される経皮吸収貼付剤1の粘着力(第2の粘着剤層13の粘着力)は、2.0〜7.0N/25mmであることが好ましく、2.5〜6.0N/25mmであることがより好ましい。これにより、経皮吸収貼付剤1を容易に皮膚に貼着することができるとともに、経皮吸収貼付剤1を皮膚から剥離する場合に、痛みを感じないかもしくは気にならない程度にすることができる。 また、JIS Z 0237に準じて測定される経皮吸収貼付剤1の保持力(第2の粘着剤層13の保持力)は、8000〜100000secであることが好ましく、10000〜50000secであることがより好ましい。これにより、一旦皮膚に貼着された経皮吸収貼付剤1が不本意に剥離することを防止しつつ、経皮吸収貼付剤1を皮膚から剥離する場合に、痛みを感じないかもしくは気にならない程度にすることができる。
次に、上述した経皮吸収貼付剤1の製造方法の一例について説明する。
図2は、本発明の経皮吸収貼付剤の製造方法の一例を示す工程図である。
まず、図2(a)、(b)に示すように、支持基材11を用意し、当該支持基材11上に、第1の粘着剤層12を形成する材料を付与し、第1の粘着剤層12を形成する(第1の粘着剤層形成工程)。
一方、剥離シート15を用意し(図2(c))、剥離シート15の剥離面に、第2の粘着剤層13を形成する材料を塗布、加熱乾燥し、第2の粘着剤層13を形成する(図2(d)、第2の粘着剤層形成工程)。上記の塗布、加熱乾燥は繰り返し行われるものであってもよい。また、複数の粘着剤層を積層して第2の粘着剤層13を形成してもよい。
次に、形成した第2の粘着剤層13上に、繊維状の基体を貼着する。
次に、上記繊維状の基体に、薬物および所望により配合されるバインダ成分等の薬物貯蔵層14を構成する材料を含浸させることにより、薬物貯蔵層14を形成する(図2(e)、薬物貯蔵層形成工程)。
次に、図2(f)に示すように、薬物貯蔵層14を形成した面と、第1の粘着剤層13とを対向させる。
その後、第1の粘着剤層12と薬物貯蔵層14とを圧着させる。この際、第1の粘着剤層12の縁部と、第2の粘着剤層13の縁部とが密着し、薬物貯蔵層14が経皮吸収貼付剤1内に密封される(圧着工程)。
以上により、図2(g)に示すような、経皮吸収貼付剤1(本発明の経皮吸収貼付剤)が得られる。
なお、圧着工程後、所定の形状になるように裁断を行って、経皮吸収貼付剤1としてもよい。
このように、本発明の経皮吸収貼付剤は、簡便な製造方法で製造することができ、経済的にも優れている。
以上、本発明の経皮吸収貼付剤について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、薬物貯蔵層14が第1の粘着剤層12と第2の粘着剤層13とで密封されている構成について説明したが、薬物貯蔵層14の端部(周囲部)は密封されていなくてもよい。
また、本発明の経皮吸収貼付剤の製造方法は、上記方法に限定されない。
次に、本発明の経皮吸収貼付剤の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
まず、アクリル酸2−エチルヘキシル:89.9999mol%と、N−ビニル−2−ピロリドン:10mol%と、ヘキサメチレングリコールジアクリレート:0.0001mol%とからなるモノマー組成物を共重合した共重合体Xの酢酸エチル溶液(固形分:40質量%)を用意した。
次に、剥離シートとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)製リリースライナー(リンテック社製、商品名「SP−PET7511」)を用意し、その離型面に、上記重合体Xの酢酸エチル溶液を乾燥後の平均厚さが20μmとなるように塗布後、加熱乾燥させ、第1の粘着剤層を形成した(第1の粘着剤層形成工程)。その後、支持基材として平均厚さ:12μmのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー」)を第1の粘着剤層にラミネートして、経皮吸収貼付剤中間体Aを作成した。
次に、剥離シートとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)製リリースライナー(リンテック社製、商品名「SP−PET7511」)を用意し、その離型面に、上記重合体Xの酢酸エチル溶液を乾燥後の平均厚さが46μmとなるように塗布後、加熱乾燥させ、得られた粘着剤層を5層積層して、平均厚さ:230μmの第2の粘着剤層を形成した(第2の粘着剤層形成工程)。
次に、形成した第2の粘着剤層と、単糸の太さ18μm、多孔性中空繊維壁面の細孔の空隙率が12%、中空部の空隙率27%、全体の空隙率の合計が39%の多孔性中空繊維の織布(直径30mmの円形状、重量90mg)とを貼り合わせた。次に、織布に、薬物(ニコチン)を、含浸量が17.5mgになるように含浸させ、薬物貯蔵層を形成し(薬物貯蔵層形成工程)、経皮吸収貼付剤中間体Bを形成した。
その後、経皮吸収貼付剤中間体Aの剥離シートを引きはがして、露出した第1の粘着剤層と、経皮吸収貼付剤中間体Bの薬物貯蔵層とを圧着し(圧着工程)、薬物貯蔵層が中央部に位置するようにして、既定の大きさ(直径:36mm)に裁断し、経皮吸収貼付剤を得た。
(実施例2〜11)
共重合体Xのモノマー組成物の配合、第1の粘着剤層および第2の粘着剤層の粘着剤の種類、平均厚さを表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして経皮吸収貼付剤を製造した。
(比較例1〜4)
共重合体Xの代わりに表1に示すような配合のモノマー組成物の共重合体を用い、第1の粘着剤層および第2の粘着剤層の粘着剤の種類、平均厚さを表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして経皮吸収貼付剤を製造した。
表1に各実施例、各比較例で用いたモノマー組成物の配合、第1の粘着剤層および第2の粘着剤層の構成を示す。なお、表1中、「A1」はアクリル酸2−エチルヘキシルを、「A2」はアクリル酸ブチルを、「A3」はメタクリル酸2−エチルヘキシルを、「A4」はメタクリル酸ドデシルを、「AA」はアクリル酸を、「HA」はアクリル酸2−ヒドロキシエチルを、「VP」は、N−ビニル−2−ピロリドンを、「HM」はヘキサメチレングリコールジアクリレートをそれぞれ示す。また、アクリル酸およびアクリル酸2−ヒドロキシエチルは、水酸基またはカルボキシル基を有するモノマーであるが、表の記載の便宜上モノマーAの欄に記載した。また、比較例1〜4の共重合体Xの欄に記載の共重合体は、上述したような共重合体Xの要件を満足していないが、表の記載の便宜上、共重合体Xの欄に記載した。また、各実施例で製造された経皮吸収貼付剤は、第1の粘着剤層と第2の粘着剤層とが、薬物貯蔵層の外周部で直接接合されており、薬物貯蔵層は、これらの粘着剤層により密封されていた。
[2] 粘着剤層の物性試験
[2.1] 酸価
各実施例および各比較例の第1の粘着剤層および第2の粘着剤層に含まれる粘着剤について、酸価の測定を行った。粘着剤:約1gを精密に測りとり、250mLのフラスコに入れ、酢酸エチル、エタノールの混液50mLを加え、加温して試料を溶かした。
次に、フェノールフタレイン試液:1mLを指示薬として加え、0.1mol/L水酸化カリウム液を用いて滴定を行った。また、粘着剤を用いない以外は上記と同様にして空試験を行った。空試験の結果を補正した0.1mol/L水酸化カリウム液の滴定量から、試料:1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を酸価として求めた。
[2.2] 水酸基価
各実施例および各比較例の第1の粘着剤層および第2の粘着剤層に含まれる各粘着剤について、水酸基価の測定を行った。粘着剤:約1gを精密に測りとって丸底フラスコに入れ、無水酢酸・ピリジン試液:5mlを加え、湯浴中で95〜100℃で1時間加熱してアセチル化を行った。その後、試料の入った丸底フラスコを冷却し、冷却後に水:1mLを加えて振り混ぜ、さらに湯浴中で10分間加熱を行った。その後、試料の入った丸底フラスコを再度冷却し、酢酸エチル5mLを用いて、丸底フラスコの側面等にある付着物を洗い込んだ。
次に、フェノールフタレイン試液:1mLを指示薬として加え、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール液を用いて滴定を行った。また、粘着剤を用いない以外は上記と同様にして空試験を行った。
上記の試験で得られた滴定量から、下記式に従い、水酸基価を算出した。
水酸基価=(a−b)×N×56.11/d+c
a: 空試験での水酸化カリウム・エタノール液の消費量[mL]
b: 粘着剤の水酸化カリウム・エタノール液の消費量[mL]
c: 酸価
d: 粘着剤の量[g]
N: 水酸化カリウム・エタノール液中の水酸化カリウムのモル濃度[mol/L]
[2.3] 粘着力
各実施例および各比較例で得られた経皮吸収貼付剤(第2の粘着剤層)について、JIS Z 0237に準じて180度引きはがし粘着力の測定を行った。なお、試験板に対する経皮吸収貼付剤の圧着速さを5mm/s、圧着回数を1往復として試験を行った。また、試験板としてベークライト板を用いた。
[2.4] 保持力
各実施例および各比較例で得られた経皮吸収貼付剤(第2の粘着剤層)について、JIS Z 0237に準じて保持力の測定を行った。
[3] 薬物放出試験
各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤からのニコチンの放出プロファイルを、米国薬局方に記載のパドルオーバーディスク法に準じて以下のようにして測定した。
既定の溶出試験機に、pH7.4のリン酸緩衝液:500mLをセットし、各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤を既定のディスクに店着面が上になるように固定した。次に、液温:32℃、回転数:50rpmにて試験を行い、初期の薬物含有量に対する1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後の薬物放出率を高速液体クロマトグラフィーにて測定した。
[4] 皮膚貼付試験
各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤を被験者の上腕外側部に12時間貼付したときの経皮吸収貼付剤のはがれ、貼付後に引きはがした際の糊残り、痛みの有無について観察を行った。
貼付中における剥がれがなく、貼付後に引きはがした際に、糊残り、痛みがなかったものを「○」と評価した。いずれかの不具合の生じたものを「×」とした。
[5] 経時安定性試験
各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤について、アルミニウム包材にて包装し、温度:40℃、湿度:75%の恒温槽にて6カ月保存し、経皮吸収貼付剤中のニコチン残存量を高速液体クロマトグラフィーを用いて定量し、初期のニコチン含有量に対する比率を求めた。
表2に、[2]〜[5]で得られた結果を示す。
表2から明らかなように、本発明の経皮吸収貼付剤は、保管時において長期にわたってニコチンを保持でき、貼付時においてニコチンを安定して徐放することができ、かつ、粘着特性に優れたものであった。これに対し、各比較例の経皮吸収貼付剤は、すべてを満足する結果が得られなかった。