以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態が説明される。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす部位には同一の参照符号が付されており、その説明は、特に必要がなければ、繰り返さない。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における超電導線材の製造手順を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明に係る超電導線材の製造方法としては、まず原料粉末の準備(S10)を実施する。次に第1の金属管の伸線(S20)を実施する。次に第2の金属管への嵌合(S30)を実施する。次に第2の金属管の伸線(S40)を実施する。そして扁平加工(S51)を実施する。この次に中間熱処理(S52)を実施する。そして1次圧延(S53)を実施する。さらに1次熱処理(S60)を実施する。多芯線を圧延する工程および、多芯線を熱処理する工程を2回ずつ行なう場合には、図1に示すようにさらに、2次圧延(S70)および2次熱処理(S80)を実施する。次に、上述した各工程について詳述する。
図1に示すように、まず、原料粉末の準備(S10)を行なう。これは具体的には、各工程を行なった後に(最終的に)酸化物超電導体の超電導相を形成するための原料となる原料粉末を準備する工程である。
原料粉末には、超電導相を形成したときに液体窒素温度において優れた超電導特性を備える、すなわち77K以上の高い臨界温度を示す高品質な超電導体を形成しうるように配合した粉末を用いることが好ましい。この原料粉末には、複合酸化物を所定の組成比となるように混合した粉末のみならず、その混合粉末を焼結し、これを粉砕した粉末も含まれる。
たとえば、各工程を行なった後に(最終的に)酸化物超電導体であるBi2223系超電導線材を得る場合、原料粉末としてはたとえばBi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOを用いることが好ましい。これらの粉末を混合したものを700℃〜870℃で10〜40時間、大気雰囲気または減圧雰囲気下にて少なくとも1回焼結を行なう。このような焼結により、Bi2223相よりもBi2212相が主体となった原料粉末を得ることができる。この時点ではBi2223相よりもBi2212相を主体とした原料粉末を準備した方が、後の工程にて電気的特性の良好な(Bi2223相を主体とする)超電導相を得ることができる。
具体的な組成比は、BiaPbbSrcCadCueとしたときに(a+b):c:d:e=1.7〜2.8:1.7〜2.5:1.7〜2.8:3を満足するものが好ましい。特に、(BiまたはBi+Pb):Sr:Ca:Cu=2:2:2:3付近の組成比となることが好ましく、Biは1.8付近、Pbは0.3〜0.4、Srは2付近、Caは2.2付近、Cuは3.0付近であることが特に好ましい。
また、当該原料粉末は、最大粒径が0.1μm以上2.0μm以下であり、平均粒径が0.5μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このように微細な粉末を用いれば、臨界温度の高い、高品質な高温超電導相を容易に生成することができる。なお、その中でも、最大粒径が0.1μm以上1.0μm以下、平均粒径が0.6μm以上0.9μm以下であることがさらに好ましい。
次に第1の金属管の伸線(S20)を実施する。これは具体的には、先の工程(S10)において準備した原料粉末を、安定化材となる金属パイプ(第1の金属管)の内部に充填し、この金属パイプを伸線加工する工程である。
図2は、第1の金属管である金属パイプの内部に原料粉末を充填する工程を示す概略図である。図2に示すように、たとえば円柱形状を有する金属パイプ1の内部に、先の工程(S10)において準備した原料粉末2を充填する。ここで用いる金属パイプ1の材料としては、Ag、Cu、Fe、Ni、Cr、Ti、Mo、W、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む合金を用いることが好ましい。また、図2においては、金属パイプ1の断面形状が円形のものを挙げているが、円形のほかに、たとえば多角形の断面形状を有するものを金属パイプ1に用いてもよい。多角形としては正多角形、特に正六角形の断面形状を有するものを用いることが特に好ましい。このようにして、原料粉末2を充填した金属パイプ1である、単芯線としての素線3を形成する。
そして、素線3を所望の断面積となるよう伸線加工を行なう。図3は、原料粉末を充填した素線を丸ダイスを用いて細線化する工程を示す概略図である。図3に示すように、素線3を丸ダイス4に通すことにより、素線3が所望の断面積となるよう(当初よりも細くなるよう)伸線加工を行なう。この伸線加工により、安定化材である金属パイプ1中に超電導相の原料粉末2が単芯に配置された、所望の断面積で長尺形状を有する素線3が形成される。素線3の断面についても金属パイプ1と同様に、円形のものを用いてもよいし、多角形状のものを用いてもよい。
続いて第2の金属管への嵌合(S30)を行なう。これは具体的には、先述した金属パイプ1とは異なる金属パイプ(第2の金属管)の内部に、先の工程(S20)にて形成した素線3を複数本束ねて挿入(嵌合)し、多芯線を形成する工程である。
多芯線を形成する金属パイプ(第2の金属管)の断面形状は、たとえば円形や正多角形など、任意の形状を用いることができる。断面形状が正多角形である場合は特に、たとえば正方形や正六角形、正八角形など、平行な対辺を持つ形状が好ましい。製造容易性や、超電導線材としての安定性などを考慮すると、断面形状が正六角形のものを用いることが特に好ましい。
図4は、第2の金属管への嵌合(S30)を行なった後における多芯線の状態を示す概略図である。なお、図4〜図7および図10〜図13については、各図の左側には、断面形状が正六角形である多芯線の概略図を、各図の右側には、断面形状が円形である多芯線の概略図を示す。
断面形状が正六角形である第2の金属管としての六角パイプ5、および断面形状が円形である第2の金属管としての円柱パイプ7は、いずれも図4に示すように、複数本の素線3を束ねたものを収納しうるサイズを有している。六角パイプ5、円柱パイプ7の材質は、金属パイプ1と同様である。また、第2の金属管の内部に素線3を収納する際は、図4に示すように、断面形状が正六角形の六角パイプ5の内部に複数本の素線3を多角形状に配置してもよいし、断面形状が円形の円柱パイプ7の内部に複数本の素線3を多角形状に配置してもよい。また、それぞれの第2の金属管の内部に複数本の素線3を円形状に配置してもよい。このようにして図4に示す多芯線として、六角多芯線6や円柱多芯線8を形成することができる。
以上の手順で第2の金属管への嵌合を行なった後、第2の金属管の伸線(S40)を行なう。これは具体的には、先の工程(S30)にて形成した多芯線を伸線する工程である。先の工程(S20)と同様にたとえば丸ダイスを用いて、多芯線であるたとえば六角多芯線6や円柱多芯線8を伸線することにより、多芯線が所望の断面積となるよう(当初よりも細くなるよう)伸線加工を行なう。図5は、第2の金属管の伸線(S40)を行なった後における多芯線の状態を示す概略図である。工程(S40)を行なうことにより、図5に示すように、所望の断面積で長尺形状を有する六角多芯線6や円柱多芯線8が形成される。これらの六角多芯線6や円柱多芯線8が、最終的に超電導線材の外形をなす構成となる。
次に、扁平加工(S51)を実施する。これは具体的には、先の工程(S40)にて形成した六角多芯線6や円柱多芯線8などの多芯線を扁平状となるように加工する工程である。この工程を行なうことにより、後に行なう本格圧延である1次圧延(S53)を行なう前に多芯線の内部に複数本配置されている素線3の原料粉末2を高密度化し、反応性を良好な状態とすることができる。反応性が良好となるため、続く中間熱処理(S52)において原料粉末2がなすたとえばBi2212結晶の粒径を大きくし、1次圧延(S53)を行なった際にBi2212結晶の配向性を良好なものとすることができる。結晶の配向性が良好であれば、形成される超電導相の臨界電流や臨界電流密度を向上させることができる。
図6は、扁平加工(S51)を行なう前の多芯線の断面の状態を示す概略図である。すなわち図6の断面図は、図5に示す工程(S40)を行なった後における多芯線の断面の状態を示す概略図である。また、図7は、扁平加工(S51)を行なった後における多芯線の断面の状態を示す概略図である。
扁平加工(S51)においては、多芯線であるたとえば六角多芯線6や円柱多芯線8が扁平状となるよう圧縮加工を行なう。ここで圧縮する方向は、多芯線の長軸方向(延在方向)に交差する方向であり、たとえば図6の左側に示す六角多芯線6の場合は、断面を形成する正六角形の対辺に交差する(たとえば対辺に垂直な)方向に六角多芯線6を圧縮することが好ましい。この圧縮応力を、六角多芯線6の長軸に対して加える。このようにすれば、多芯線の内部に複数本配置されている素線3がせん断により位置のずれを起こすことを抑制することができる。その結果、多芯線の断面は、図6に示す圧縮を行なう前の形状に比べて、扁平状となるように変形される。図6および図7の右側に示す円柱多芯線8の場合においても同様に、円柱多芯線8の長軸方向(延在方向)に交差する(たとえば対辺に垂直な)方向に、円柱多芯線8の長軸に対して圧縮する応力を加えることが好ましい。なお、断面の形状が正多角形や円形以外の形状である多芯線の場合においても同様に、長軸方向(延在方向)に交差する方向に、多芯線の長軸に対して圧縮する応力を加えることが好ましい。
なお、扁平加工(S51)においては、多芯線が扁平状となるよう圧縮する方向における多芯線の寸法が、多芯線を扁平状に加工する前の多芯線寸法の30%以上45%以下となるように加工を行なうことが好ましい。すなわち、たとえば図7に示す扁平加工(S51)による圧縮を行なった後における六角多芯線6の断面の上下方向(ここでは圧縮を行なった方向と仮定)は、図6に示す扁平加工(S51)を行なう前における六角多芯線6の断面の上下方向の寸法の30%以上45%以下となるように圧縮を行なうことが好ましい。図6および図7に示す円柱多芯線8の断面図に関しても同様である。
上述した扁平加工(S51)は、たとえばロール圧延または矩形ダイス伸線のいずれかの加工方法を用いて行なうことが好ましい。図8は、ロール圧延による扁平加工(S51)を示す概略図である。また、図9は、矩形ダイス伸線による扁平加工(S51)を示す概略図である。
ロール圧延とは、図8に示すように、たとえば多芯線12の長軸に関して両側から1対のロール11を用いて多芯線12を挟みこんだ状態で、ロール11を多芯線12の一端Aから多端Bへ、長軸方向に沿った方向に相対的に移動させる。具体的には、位置が固定された1対のロール11の間隙に多芯線12を挟み込み、ロール11を回転させて多芯線12の一端A側から多芯線12を引き抜く。すると、ロール11に挟まれた多芯線12は圧延され、図8に示すように、扁平状のテープ状前駆体線材13を形成する。このときの圧縮する応力が大きくなり、多芯線12が破断を起こさない程度の圧縮応力にて圧縮を行なうため、上述した扁平加工(S51)を行なった後における多芯線12を圧縮した方向における多芯線12の寸法が、圧縮を行なう前の寸法の30%以上となるように圧縮を行なうことが好ましい。
また、矩形ダイス伸線とは、先述した工程(S20)および工程(S40)における伸線を行なう工程と同様に、ダイスを用いて多芯線の断面積を減少する加工方法である。たとえば図9に示す異型ダイス14を用いて、多芯線15を図9中のA側からB側へ、異型ダイス14を介して移動させることにより、多芯線15をその断面が扁平状のテープ状前駆体線材16となるように伸線加工する。特にこの伸線加工を行なう際に、多芯線15が伸線加工により断線することを抑制するために、上述した扁平加工(S51)を行なった後における多芯線15を圧縮した方向における多芯線15の寸法が、圧縮を行なう前の寸法の30%以上となる程度の条件で加工を行なうことが好ましい。
また、上述したロール圧延および矩形ダイス伸線のいずれの方法を用いるにせよ、多芯線を扁平状に加工する前の多芯線寸法の45%を超える(つまり圧下率が55%未満)となるように、多芯線を扁平状に加工した場合、Bi2212相などの原料粉末を充分に高密度化させることができない。したがって、上述した扁平加工(S51)を行なった後における多芯線を圧縮した方向における多芯線の寸法が、圧縮を行なう前の寸法の45%以下となるように圧縮加工を行なうことが好ましい。圧縮を行なう前の寸法の45%以下となるような条件にて加工を行なえば、原料粉末2(図2参照)を充分高密度化できる。
以上のように、扁平加工(S51)においては、多芯線が扁平状となるよう圧縮する方向における多芯線の寸法が、多芯線を扁平状に加工する前の多芯線寸法の30%以上45%以下となるように加工を行なうことが好ましい。しかしそのなかでも、多芯線が扁平状となるよう圧縮する方向における多芯線の寸法が、多芯線を扁平状に加工する前の多芯線寸法の35%以上40%以下となるように加工を行なうことがより好ましい。
なお、上述した事由により、工程(S51)により、扁平状に加工された多芯線であるテープ状前駆体線材13、16は、その断面を形成する矩形状の幅/厚みで表わされる比であるアスペクト比は2.0以上4.0以下とすることが好ましい。そのなかでも、上述したアスペクト比が2.5以上3.5以下となるように加工を行なうことがより好ましい。このとき、多芯線の内部に複数本配置されている素線3に関して、素線3が圧縮される方向における素線3の寸法が、圧縮する前の素線3の寸法の50%程度、より具体的には40%以上60%以下となるように加工を行なうことがより好ましい。そのなかでも、上述した寸法は45%以上55%以下となるように加工を行なうことがより好ましい。
ここで、たとえば図6や図7の断面図に示すように、複数本の素線3を多角形に配置して六角多芯線6や円柱多芯線8を得た場合、素線3の対角方向または対辺方向を保持するように六角多芯線6や円柱多芯線8をロール圧延または矩形ダイス伸線することが好ましい。そのためには扁平加工(S51)において、たとえば矩形ダイス伸線を行なう場合には、伸線に用いる異型ダイス14の対辺方向または対角方向(つまり扁平加工(S51)により得られる扁平状のテープ状前駆体線材13、16の延在方向に垂直な方向での断面における外形の対辺方向または対角方向)と、扁平加工を行なう多芯線15(図8参照)における素線3(図5参照)の対辺方向または対角方向とがそれぞれ略一致するように配置した上で伸線加工を行なうことが好ましい。このようにすれば、図6や図7の断面図に示すように多角形に配置された素線3の整列状態を保ったまま、多芯線15を伸線することができる。同様に扁平加工(S51)において、たとえばロール圧延を行なう場合には、一方のロール11と他方のロール11とを結ぶ方向、すなわち圧延(圧縮)を行なう方向と、ロール11に挟まれる多芯線12(図7参照)における素線3(図5参照)の対辺方向または対角方向とがそれぞれ略一致するように配置した上で伸線加工を行なうことが好ましい。このようにすれば、図6や図7の断面図に示すように多角形に配置された素線3の整列状態を保ったまま、多芯線15を圧延することができる。
以上の手順により、原料粉末2が高密度化された多芯線(テープ状前駆体線材13、16)に対して、中間熱処理(S52)を行なう。これは具体的には、先の工程(S51)にて高密度化を行なった多芯線である、テープ状前駆体線材13またはテープ状前駆体線材16の素線3に含まれる原料粉末2に対して、加熱を行なうことにより原料粉末2を粒径の大きい結晶となるように熱処理する工程である。
先の工程(S51)にて圧縮を行なうことにより、テープ状前駆体線材13またはテープ状前駆体線材16の素線3に含まれる原料粉末2の粒同士が互いに密着した状態となっている。粒同士が密着しているため、たとえばこの状態で熱処理などを施せば、原料粉末2の粒同士が互いに密着しない状態で加熱を行なった場合に比べ、個々の原料粉末2の反応性が良好となっている。
しかし、先の工程(S51)にて圧縮を行なうことにより、原料粉末2の粒同士が互いに密着して反応性が良好となっていると同時に、圧縮により個々の原料粉末2が粉砕されている。このため、工程(S51)を終えた段階では、原料粉末2は高密度化されているが、原料粉末2の粒を形成する結晶が粉砕されて微小となっている。結晶が微細であると、続く本格圧延である1次圧延(S53)を行なった際に結晶の配向性が乱れる。そこで、1次圧延(S53)において結晶の配向性を容易に向上させる目的で、結晶の粒径を大きくするために、原料粉末2に対して加熱を行なう工程が、中間熱処理(S52)である。扁平加工(S51)を終えた状態で当該中間熱処理(S52)により当該原料粉末2を加熱すれば、原料粉末2の粒同士が互いに密着しない状態で加熱を行なった場合に比べ、個々の原料粉末2の反応性が良好となっている結果、原料粉末2の粒同士が反応により結合して大きな粒径を持つ結晶を容易に形成することができる。
なお、この工程(S52)における加熱は、最終目的である超電導相であるたとえばBi2223相などを形成する前段階の加熱である。このため、中間熱処理(S52)においては、Bi2223相などが形成されない程度の、すなわち後に行なう1次熱処理(S60)や2次熱処理(S80)における熱処理温度よりも低い温度となるよう、テープ状前駆体線材13、16を加熱することが好ましい。より具体的には、工程(S52)においては、多芯線であるテープ状前駆体線材13またはテープ状前駆体線材16を、740℃以上780℃以下に加熱することが好ましい。また、加熱を行なう時間範囲は、1.5時間以上3時間以下とすることが好ましい。これは先述したように、原料粉末2同士が反応して大きな粒径の結晶を形成するが、(Ca、Sr)2CuO3などの非超電導相が超電導相の前駆体の内部に形成されない程度の、温度ないし時間の範囲である。上述した(Ca、Sr)2CuO3などの非超電導相が結晶成長すると、続く第1圧延(S53)において超電導導体部分の配向性を乱すことがある。したがって、上述した(Ca、Sr)2CuO3などの非超電導相が結晶成長しない程度の加熱条件とすることが好ましい。なお、その中でも、多芯線であるテープ状前駆体線材13またはテープ状前駆体線材16を750℃以上770℃以下に加熱することがさらに好ましく、加熱を行なう時間範囲については、2時間以上2.5時間以下とすることがさらに好ましい。
図10は、中間熱処理(S52)を行なった後における多芯線の断面の状態を示す概略図である。中間熱処理(S52)は原料粉末2の粒径を大きくするための処理であるため、図10に示す、原料粉末2よりもマクロな次元の概略図においては前の工程(S51)を行なった後の状態を示す図9に対して大きな変化はない。
工程(S52)により、超電導相の前駆体を形成する結晶の粒径が大きくなった多芯線に対して、1次圧延(S53)を行なう。これは具体的には、あらかじめ先の工程(S51)において扁平状となるように加工した多芯線であるテープ状前駆体線材13、16を本格的に圧延(圧縮)することにより、最終的に形成される超電導線材としてのテープ状線材の外形を確立する工程である。また、この1次圧延(S53)を行なうことにより、最終的に形成される超電導線材の、超電導相の結晶の向きを揃える。ここで、先の工程(S52)により超電導相の前駆体の結晶の粒径を大きくしているため、超電導相の前駆体の結晶の配向性をより良好なものとすることができる。
たとえば、先述した原料粉末2の粒同士が結合して大きな粒径の結晶を形成した場合、大きな粒径の結晶が多数存在するテープ状前駆体線材13またはテープ状前駆体線材16に対して1次圧延(S53)を行なえば、大きな粒径の結晶が圧延され、当該結晶は長尺形状に近い形状をとることになる。すると長尺形状を有する結晶の長軸方向が、複数個の結晶間でほぼ同一方向に揃うことになる。すなわち、圧延されたテープ状前駆体線材13またはテープ状前駆体線材16である、テープ状線材は長尺形状となるが、その長軸方向と、複数個の大きな粒径の結晶の長軸方向とが、ほぼ同一方向に揃うことになる。これに対して、たとえば小さな粒径の結晶が存在するテープ状前駆体線材に対して1次圧延(S53)を行なえば、小さな粒径の結晶は圧延されてもその長軸形状の長軸方向が一方向に沿った方向に揃いにくい。以上の理由により、中間熱処理(S52)において結晶の粒径を大きくした方が、後の1次圧延(S53)を行なう際に、テープ状線材の長軸方向に沿った方向に、個々の結晶の配向性を揃えることが容易となる。
以上のように1次圧延(S53)により、テープ状線材を構成する、超電導相の前駆体の結晶の配向性を揃える(配向性を良好とする、向上させる)ことにより、最終的に形成される超電導線材の臨界電流密度を高くすることができる。一般に、酸化物系の超電導導体は結晶の方向により流すことができる電流密度に大きな違いがある。このため、個々の結晶の配向性を揃えることにより、最終的に形成される超電導線材の長軸方向に流れる電流値を向上させることができる。
なお、先述した素線3を、第2の金属管に複数本束ねて挿入(嵌合)し、多芯線を形成する場合にたとえば先述した図4のように素線3を多角形に配置して製造した多芯線を圧延する際は、圧延(圧縮)する方向を多角形に配置した素線3の対角方向または対辺方向に沿った方向とすることが好ましい。
図11は、1次圧延(S53)を行なった後における多芯線の断面の状態を示す概略図である。図11に示すように、素線3の対角方向に沿った方向(すなわち図11の上下方向に沿った方向)に多芯線(テープ状線材)を圧延する場合、素線3に含まれる超電導相の前駆体を含むフィラメント(すなわち素線3が圧縮されたもの)はテープ状線材の厚み方向に整列して並ぶ。その結果、テープ状線材の幅方向(図11の左右方向)の中央部に最も多数のフィラメントが積層され、両端部にフィラメントの積層数が少なくなる配列となる。中でも、中央部のフィラメントが最も大きく圧縮されているため、中央部の電気特性が特に良好なテープ状線材を得ることができる。
一方、素線3の対辺方向に沿った方向、すなわち多角形に配置された素線3の対向する対辺のうち一方から他方に向かう方向に沿った方向に多芯線(テープ状線材)を圧延する場合、フィラメントはテープ状線材の厚み方向に交互に整列して並ぶ。その結果、テープ状線材の幅方向の大部分にわたってほぼ均等にフィラメントが配列される。このため、Jc特性(臨界電流密度の特性)が良好なテープ状線材を得ることができる。特に上述した対辺方向に沿った方向への圧延を行なう場合は、圧延が行ないやすく、より小さい力で圧延を行なうことができる。
また、先述したように素線3を、第2の金属管に複数本多角形状に束ねて挿入(嵌合)し、多芯線を形成する場合には、これら複数本の素線3のうち、多角形の頂点に位置する素線3を、超電導相となるべき原料を含まないフィラー線に置換することが好ましい。このフィラー線としては、通常の超電導相となるべき原料を含む素線3であるクラッド線よりも圧縮変形しやすい材料で構成されたものを用いることが好ましい。一般的には、金属線が利用できる。より具体的には、たとえばAg線またはAg合金線などを用いることが好ましい。その他、Cu、Fe、Ni、Cr、Ti、Mo、W、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osからなる群から選択されるいずれか1つを含む金属線、または2つ以上の金属の合金とすることが好ましい。
このフィラー線を設けることにより、多角形状に配置した複数本の素線3の対辺方向および対角方向を容易に目視にて確認することができる。多芯線を形成する場合、先述した第2の金属管への嵌合(S30)において、複数本の素線3を多角形状となるように配置して、先述した第2の金属管であるたとえば六角パイプ5、円柱パイプ7に挿入する。しかし、その後の第2の金属管の伸線(S40)において各素線3に応力が加わると、いずれの素線3も、当初の整然とした多角形状が崩れて円形に近い形状に配置されて、多角形状に配置された素線3のうち頂点に位置する素線3をそれ以外の素線3と区別することが困難になることがある。そのため、多角形状の頂点に位置する素線3を、超電導相を含まないフィラー線とすることにより容易に頂点の位置がわかり、対辺方向および対角方向を識別することができる。
また、フィラー線を用いることで、1次圧延(S53)を行なう際に、多角形上に配置した素線3の対角方向、対辺方向を意識することなく圧延しても、ほぼ対角方向から圧延することができる。これは、フィラー線がクラッド線よりも圧縮変形しやすいため、多芯線をどのような方向から圧延しても、まず多角形の対角線のうち、最も圧縮方向軸に沿った対角線上に位置する1対のフィラー線から圧縮されることになる。その結果、多芯線は回転するなどして、ほぼ対角方向から圧延されることになると考えられる。ただし、圧延方向を意識しなくても、偶然対辺方向に沿った方向に圧延(圧縮)した場合には、最初に対角位置のフィラー線から圧縮されるわけではなく、対辺方向に沿った方向に圧縮が行なわれると考えられる。
なお、1次圧延(S53)は、多芯線を圧縮する方向における多芯線の寸法が、先の扁平加工(S51)を実施する前の多芯線寸法の16%以上17.5%以下となるように加工を行なうことが好ましい。仮に工程(S53)を、上述した寸法が17.5%以上となるような圧延条件にて行なうと、変形量が少ないために、Bi2212の配向性を向上させることが困難となる。また、仮に工程(S53)を、上述した寸法が16%以下となるような圧延条件にて行なうと、変形量が多くなりすぎるため、原料粉末2中にクラックが発生することがある。このため、上述した範囲内の多芯線寸法となるように1次圧延(S53)を行なうことが好ましい。
そして1次圧延(S53)に続いて、1次熱処理(S60)を行なう。具体的には、先の工程(S53)によりテープ状線材としての外形を決定した多芯線を加熱する工程である。この工程を行なうことにより、素線3の内部に含まれる超電導導体を構成するべき原料を含むフィラメントを、たとえば主としてBi2223相などの超電導相とすることができる。
図12は、1次熱処理(S60)を行なった後における多芯線の断面の状態を示す概略図である。1次熱処理(S60)は素線3の内部に含まれるフィラメントをたとえば主としてBi2223相などの超電導相とするための処理である。このため、図12に示す、原料粉末2よりもマクロな次元の概略図においては前の工程(S53)を行なった後の状態を示す図9に対して大きな変化はない。
ここでの熱処理温度は、Bi2223相などの超電導相を生成するために、先の中間熱処理(S52)よりも高温であることが好ましく、815℃以上860℃以下とすることが好ましい。なお、830℃以上850℃以下とすることがさらに好ましい。また、加熱処理を行なう時間範囲は、50時間以上250時間以下とすることが好ましい。
また、1次熱処理(S60)は、大気雰囲気中にて行なうことができる。ただし、大気と同成分からなる気流中にて熱処理を行なうことがさらに好ましい。その際、当該熱処理を行なう雰囲気中における水分の含有率を通常の大気中の水分の含有率より低下させることがより好ましい。
上述した1次圧延(S53)および1次熱処理(S60)は、1回ずつのみ実施してもよいが、複数回繰り返し行なうことがより好ましい。すなわち、図1に示すように、1次熱処理(S60)に続いて、2次圧延(S70)および2次熱処理(S80)を実施することが好ましい。
図13は、2次圧延(S70)を行なった後における多芯線の断面の状態を示す概略図である。1次圧延(S53)は多芯線の、テープ状線材としての外形を確立する工程であったのに対し、2次圧延(S70)は具体的には、先の1次熱処理(S60)の際に超電導相内に形成された空隙を押し潰し、後に行なう2次熱処理(S80)にて超電導導体(超電導相)内部の結晶同士を強固に結合させるために再度圧延を行なう工程である。したがって、図13に示すように、原料粉末2よりもマクロな次元の概略図においては前の工程(S60)を行なった後の状態を示す図12に対して大きな変化はない。このため図13は図12と同様に描写している。
2次熱処理(S80)とは具体的には、以下のような工程である。すなわち、先の中間熱処理(S52)にて結晶の粒径を大きくし、1次熱処理(S60)にて超電導導体としての超電導相を形成している。その後、2次圧延(S70)にて超電導相内の空隙を押し潰している。そして、2次熱処理(S80)では、主としてBi2223相などの結晶粒同士を強固に結合させ、当該超電導相のJcなどの電気特性値を向上させることを目的としている。したがって、先の図13に示すように、原料粉末2よりもマクロな次元の概略図においては先の工程(S60)を行なった後の状態を示す図12に対して大きな変化はない。このため工程(S80)を行なった後の状態は、原料粉末2よりもマクロな次元の概略図においては工程(S70)を行なった後の状態と同じであり、工程(S80)を行なった後の状態は工程(S70)を行なった後の状態と同じく図13中にまとめて表現している。
2次熱処理(S80)における熱処理温度も、1次熱処理(S60)と同様に、815℃以上860℃以下とすることが好ましい。なお、830℃以上850℃以下とすることがさらに好ましい。ただし、特に、先述した1次熱処理(S60)を840℃以上850℃以下とし、2次熱処理(S80)を830℃以上840℃以下の温度に加熱して行なうことがさらに好ましい。このようにすれば、Bi2223相の結晶粒同士がより強固になるという効果を奏する。さらに、2次熱処理(S80)については、上述した温度範囲内の異なる温度で多段階(特に2段階)に行なってもよい。このようにすれば、良好な超電導特性が得られるという効果を奏する。
また、加熱処理を行なう時間範囲についても、1次熱処理(S60)と同様に、50時間以上250時間以下とすることが好ましい。ただし、2次熱処理(S80)については、100時間以上250時間以下とすることがさらに好ましい。このようにすれば、Bi2223相の結晶粒同士がより強固になるという効果を奏する。
また、2次熱処理(S80)についても、1次熱処理(S60)と同様に、大気雰囲気中にて行なうことができる。ただし、大気と同成分からなる気流中にて熱処理を行なうことがさらに好ましい。その際、当該熱処理を行なう雰囲気中における水分の含有率を低下させることがより好ましい。以上の手順を踏むことにより、本発明の実施の形態における、主としてBi2223相を超電導相とする超電導線材(テープ状線材)を得ることができる。
上述した本発明の実施の形態における超電導線材の製造手順を基準に、実際に様々な条件にて超電導線材のサンプルを製作し、そのIc(臨界電流)の値の評価を行なった。
まず、原料粉末の準備(S10)として、Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOの各粉末を1.81:0.40:1.98:2.20:3.01のモル比にて混合したものを原料粉末2(図2参照)として準備した。この原料粉末2をまず大気中にて700℃×8時間、800℃×10時間の熱処理を行なった後、133Pa(1Torr)の減圧雰囲気中にて760℃×8時間の熱処理を順次行なった。このようにして得られた原料粉末2に対してさらに845℃×12時間の熱処理を施すことにより、原料粉末2の調整を行なった。
続く第1の金属管の伸線(S20)において、原料粉末2を、断面形状が外径25mm、内径22mmの円形であるAg製の円柱パイプ7(図4参照)の内部に充填したものを、丸ダイス4(図3参照)を用いて伸線を行なった。このようにして、断面の円形の外径が2.4mmとなるよう伸線を行なった素線3(クラッド線、図3参照)を形成した。
第2の金属管への嵌合(S30)としては、このクラッド線としての素線3を61本束ねて六角形状(図4参照)となるように配置した。そして、この素線3の集合体を、断面形状が外径25mm、内径22mmの円形である、Ag製の円柱パイプ7(図4参照)の内部に挿入した。そして第2の金属管の伸線(S40)として、丸ダイス4(図3参照)を用いて伸線を行ない、断面が直径1.58mmの円形形状である円柱多芯線8(図4参照)を得た。61芯の素線3(クラッド線)はAg製の円柱パイプ7の内部に挿入した際、図4に示すように円柱パイプ7の内径に内接する六角形状となるように配置した。ここまで処理を行なったところで、各サンプルである円柱パイプ7の一部を切り取り、原料粉末2の密度(粉末密度)を測定した。
そして、各サンプルに対して扁平加工(S51)を行なった。先述したように、扁平加工(S51)を行なう前における各サンプル(多芯線)の断面の直径は1.58mmであるが、扁平加工(S51)における処理を行なう条件はサンプルごとに変化させ、扁平加工(S51)において多芯線が扁平状となるよう圧縮する方向における多芯線の寸法(これを「線材厚み」と定義する)が様々となるように、図7に示すロール圧延により扁平加工(S51)の処理を行なった。ここまで処理を行なったところでも、各サンプルである円柱パイプ7の一部を切り取り、原料粉末2の密度(粉末密度)を測定した。
続いて、中間熱処理(S52)を実施した。これについても後述するように、熱処理を行なう温度、加熱時間をサンプルごとに変化させて処理を行なった。そして、中間熱処理(S52)を施した後、各サンプルのBi2212相のBi2212粒径および、加熱によりBi2223が生成した割合(質量%)を測定した。なお、Bi2212粒径の測定は画像法を用いて行ない、また、Bi2223の生成割合はXRD、θ−2θ法で確認されるBi2212(0012)ピーク強度(I2212)とBi2223(0014)ピーク強度(I2223)とからI2223/(I2212+I2223)を算出するという方法で測定した。
次に1次圧延(S53)を行なった。ここでも後述するように、扁平加工(S51)と同様、処理を行なう条件をサンプルごとに変化させ、1次圧延(S53)を行なった後における線材厚みがサンプルごとに様々となるように処理を実施した。なお、この工程は、六角形状に配置された素線3の対角方向に沿った方向に圧延を行なった。そして、処理を行なった後に各サンプルである円柱パイプ7の一部を切り取り、Bi2212相の配向性のずれの程度を示すBi2212配向ずれ角を測定した。なお、配向ずれ角は(XRD、ロッキングカーブ半値幅の半分)という方法で測定した。
1次圧延(S53)により得られたテープ状線材の各サンプルに対して、1次熱処理(S60)を施し、Bi2223相を主とする超電導相を生成させた。これは、大気雰囲気中にてサンプルを840℃〜850℃に加熱し、50時間の熱処理を施した。そして、2次圧延(S70)を行なうことにより、超電導相の内部に形成された空隙の除去を行なった。なお、2次圧延(S70)は、圧下率8%、すなわち圧縮を行なう方向における寸法が、工程を行なう前の92%になるという加工条件にて行なった。このため、2次圧延(S70)後の各サンプルの寸法は、1次圧延(S53)後の各サンプルの寸法に近い値となっている。最後に2次熱処理(S80)として、各サンプルを840℃にて100時間の熱処理を施した。
以上の各工程を終えたテープ状の酸化物超電導線材の各サンプルについて、外部磁場を印加しない状態で、77Kにおける臨界電流Icを測定した。また、各サンプルの一部を切り取り、超電導相であるBi2223相の結晶の配向性のずれの程度を示すBi2223配向ずれ角を測定した。なお、ここでの配向ずれ角の測定方法は、1次圧延(S53)を行なった後のBi2212配向ずれ角の測定方法と同様である。
表1は、臨界電流の測定結果が220A未満であったサンプルの各工程における各処理条件や測定結果を示す表である。また、表2は、臨界電流の測定結果が220A以上であったサンプルの各工程における各処理条件や測定結果を示す表である。表1の各サンプルはA1〜A12とナンバリングし、表2の各サンプルはB1〜B14とナンバリングしている。
なお、各表の扁平加工(S51)前の「多芯線直径」とは、第2の金属管の伸線(S40)を行なった後における多芯線の直径(mm)を示すものであり、「粉末密度」とは、扁平加工(S51)を行なう直前での多芯線の内部の素線に充填された原料粉末の密度(g/cm3)を示すものである。
また、各表には、扁平加工(S51)を行なった後の各サンプルの線材厚み(mm)と多芯線寸法(%)を示している。この多芯線寸法とは、扁平加工(S51)前における多芯線直径に対する、扁平加工(S51)を行なった後の多芯線が扁平加工(S51)により圧縮された方向における多芯線寸法(mm)の割合を%単位にて示したものである。また、ここでもBi2212相の粉末密度(g/cm3)を示している。
中間熱処理(S52)では、その条件(加熱温度(保持温度)や加熱時間(保持時間))をサンプルごとに変化させ、当該条件が処理後の超電導相前駆体であるBi2212相を構成する結晶の粒径に与える影響について調査している。また、当該工程にてBi2212からBi2223が生成された質量の割合を調査している。それらの条件およびデータを示している。
また、1次圧延(S53)、2次圧延(S70)についても、扁平加工(S51)と同様に、処理を行なった後における線材厚み(mm)を示し、さらに1次圧延(S53)については多芯線寸法(%)を示している。また、1次圧延(S53)については、工程を行なった後における超電導相前駆体であるBi2212の結晶の長軸方向の配向がどの程度ずれを起こしているかを表わす、Bi2212配向ずれ角(°)を示している。なお、当該配向ずれ角は、1次圧延(S53)を行なった後の配向ずれ角が2次熱処理(S80)後の配向ずれ角を支配するため、2次圧延(S70)を行なった後の配向ずれ角については表1、表2において省略している。
また、表1、表2における2次熱処理(S80)後のカラムでは、最終的に2次熱処理(S80)まで完了した超電導線材の臨界電流(Ic)の値(A)および、この超電導線材の超電導相であるBi2223相の結晶の長軸方向の配向がどの程度ずれを起こしているかを表わすBi2223配向ずれ角(°)を示している。
表1に示すサンプルA1〜A12に関して、表1からわかるように、扁平加工(S51)を行ない、結晶同士を密着させ、反応性を良好にさせた後に熱処理を行なった方が、結晶同士の結合性が良好となり、臨界電流の特性が向上することが示されている。サンプルA1からA4については、多芯線寸法%の値が大きい(45%以上となっている)ため、工程(S51)において充分に結晶同士を密着できておらず、このことが臨界電流の特性を劣化させる原因となっていると思われる。
逆にA8およびA9については、多芯線寸法%の値が小さい。すなわち扁平加工(S51)において強い条件にて圧縮を行なったため、金属管を構成するAgが破断を起こした。以上、A1〜A4およびA8、A9のような問題を起こさないためには、表2の各サンプルのデータが示すように、扁平加工(S51)を行なった後における多芯線寸法(%)の値は30%以上45%以下であることが好ましいといえる。
また、A5およびA6は中間熱処理(S52)において、3時間以上、加熱を継続している。A7については中間熱処理(S52)を780℃で行なっている。その結果、A5、A6およびA7については、中間熱処理(S52)の過程でBi2223が生成しており、このことが臨界電流Icの値を低下させる原因となっているものと思われる。中間熱処理(S52)にて形成されたBi2223相は、Bi2223結晶粒の配向性が低下したため、臨界電流Icの値を低下させている。従って、中間熱処理(S52)における加熱の保持時間は3時間以下とすることが好ましい。なお、表2のサンプルB7においては保持時間を1.5時間としているため、1.5時間以上の加熱を行なうことが好ましいと考えられる。
A10、A11は、第1圧延(S53)における多芯線寸法(S53)の値が17.5%以上と大きくなっているため、工程(S53)において充分に結晶同士を密着できておらず、このことが臨界電流の特性を劣化させる原因となっていると思われる。逆に、A12は、第1圧延(S53)における多芯線寸法(S53)の値が16%以下と小さい。このため、圧縮を行なう力が強すぎてBi2223相の結晶にクラックが発生し、そのことが臨界電流の特性を低下させた原因となったものと考えられる。従って、表2のB1〜B14において多芯線寸法は16%以上17.5%以下となっていることから、第1圧延(S53)を行なった後における多芯線寸法(%)の値が、当初多芯線寸法の16%以上17.5%以下とすることが好ましい。
各工程における各条件を良好に選択し、220A以上の臨界電流Icの値を出力した、表2に示すサンプルB1〜B14においては、中間熱処理(S52)を行なった後におけるBi2212の結晶の粒径が一部を除いて5.5μm以上となっている。なお、ここでは各結晶粒の長軸方向の最大の寸法を「粒径」と定義することにする。従来は当該熱処理工程を行なった後における結晶の粒径は3.5μm以上であったため、本発明において開示する、扁平加工(S51)にて結晶の反応性を良好にさせた上で中間熱処理(S52)を行なうことにより、結晶の反応が促進され、大きな粒径の結晶が生成されていることが示される。
なお表2のデータ中、サンプルB2のみ、Bi2212の粒径が3.3μmと小さくなっているが、これは中間熱処理(S52)を行なった温度が738℃と低かったため、結晶粒の反応が促進されなかったためと考えられる。したがって、中間熱処理(S52)においては、740℃以上780℃以下の温度にて加熱を行なうことが好ましい。なお、780℃以下とするのは、Bi2223の生成を抑制するためである。
また、表1に示すサンプルA1〜A12は、第1圧延(S53)を行なった後におけるBi2212配向ずれ角が14%以上となっているが、表2に示すサンプルB1〜B14は、当該Bi2212配向ずれ角がいずれも12.5%以下となっている。また、表1に示すサンプルA1〜A12は、第2熱処理(S80)を完了した後におけるBi2223配向ずれ角についてはいずれも5%以上となったが、表2に示すサンプルB1〜B14は、第2熱処理(S80)を完了した後におけるBi2223配向ずれ角がいずれも5%以下となった。このように、超電導相の結晶の配向性が向上された結果、臨界電流Icの値が向上したものと考えられる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 金属パイプ、2 原料粉末、3 素線、4 丸ダイス、5 六角パイプ、6 六角多芯線、7 円柱パイプ、8 円柱多芯線、11 ロール、12,15 多芯線、13,16 テープ状前駆体線材、14 異型ダイス。