JP2010116480A - ポリ乳酸樹脂の結晶化成形体及びその製造方法 - Google Patents

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【課題】本発明は、ガラス転移温度域でも弾性率の極度な低下がなく、かつ、生分解性の低下を抑制することができる生分解性樹脂組成物(成形体)を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリ乳酸樹脂を含有するマトリックス樹脂中に、ポリ乳酸樹脂を分解する分解促進剤を含有する成形体であって、10℃/分で昇温させたDSC測定において130〜160℃に発熱ピークを有する、結晶化成形体を提供する。また、本発明は、ポリ乳酸樹脂と分解促進剤を混合し、60℃以上120℃未満の範囲の温度で加熱することを特徴とする、結晶化成形体の製造方法を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明はポリ乳酸樹脂の結晶化成形体及びその製造方法に関する。
包装資材として生分解性のポリ乳酸樹脂組成物などが提案されている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、これらのポリ乳酸樹脂組成物は、ガラス転移温度域(50〜55℃)以上で弾性率が極度に低下してしまうために(弾性体から粘性体へ移行)、使用温度域が低温域に限定される。また、ポリ乳酸樹脂は結晶構造としてα晶、α'晶をとることが知られていて、結晶化度を高めることにより弾性率の低下をある程度抑制することができるが、この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の分解率は著しく低下する。
また、分解性を改善した生分解性樹脂組成物も提案されている(特許文献3参照)。この生分解性樹脂組成物は、優れた生分解性を示すが、ガラス転移温度域(50〜55℃)以上で弾性率が極度に低下してしまうために(弾性体から粘性体へ移行)、やはり使用温度域が低温域に限定される。
特開平11−116788号公報 特開平9−316181号公報 国際公開第2008/38648号パンフレット
ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上させるには、同樹脂を熱処理して結晶化させることが考えられる。しかし、従来の結晶化ポリ乳酸樹脂は、結晶化と共に生分解性が低下するという問題があった。したがって、本発明は、ガラス転移温度域でも弾性率の極度な低下がなく、かつ、生分解性の低下を抑制することができる生分解性樹脂組成物(成形体)を提供することを目的とする。
本発明は、ポリ乳酸樹脂を含有するマトリックス樹脂中に、分解促進剤を含有する成形体であって、10℃/分で昇温させたDSC測定において130〜160℃に発熱ピークを有する、結晶化成形体を提供する。
また、本発明は、ポリ乳酸樹脂と分解促進剤を混合し、60℃以上120℃未満の範囲の温度で加熱することを特徴とする、結晶化成形体の製造方法を提供する。
本発明によれば、50℃〜55℃でも弾性率の極度な低下がなく、従来より高温での使用が可能で、かつ、生分解性の低下を抑制することができる生分解性樹脂組成物(成形体)を提供することができる。
本発明の成形体は、ポリ乳酸樹脂を含有するマトリックス樹脂中に、分解促進剤を含有する結晶化成形体である。
ここでいう成形体とは、公知の成形法で成形される成形体であればよい。公知の成形法とは射出成形法、押出成型法、シート成形法などである。得られる成形体の層構成は単層構造に限らず多層構造であってもよい。
例えば、樹脂の種類に応じた数の押出機を用いて、多層多重ダイを用いて押出成形を行うことで多層フィルム、多層シート、多層パリソン又は多層パイプ等が成形できる。また、樹脂の種類に応じた数の射出成形機を用いて、同時射出法や逐次射出法等の共射出成形によりボトル成型用の多層プリフォームを製造することができる。このような多層フィルム、パリソン、プリフォームをさらに加工することにより、本発明の成形体を得ることができる。
フィルム等の包装材料は、種々の形態のパウチや、トレイ・カップの蓋材として用いることができる。パウチとしては、例えば、三方又は四方シールの平パウチ類、ガセット付パウチ類、スタンディングパウチ類、ピロー包装袋等が挙げられる。製袋は公知の製袋法で行うことができる。また、フィルム又はシートを、真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形等の手段に付することにより、カップ状、トレイ状等の包装容器が得られる。
多層フィルムや多層シートの製造には、押出コート法や、サンドイッチラミネーションを用いることができる。また、予め形成された単層及び多層フィルムをドライラミネーションによって積層することもできる。
また、パリソン、パイプ又はプリフォームを一対の割型でピンチオフし、その内部に流体を吹込むことにより容易にボトルやチューブを成形できる。また、パイプ、プリフォームを冷却した後、延伸温度に加熱し、軸方向に延伸すると共に、流体圧によって周方向にブロー延伸することにより、延伸ブローボトル等が得られる。
ポリ乳酸樹脂としては、乳酸を重合して得られるポリエステル樹脂であれば特に限定されず、ポリ乳酸のホモポリマー、共重合体、ブレンドポリマーなどであってもよい。乳酸は光学異性体でありL体、D体が存在するが、どちらの乳酸からなるポリ乳酸でもよく、ポリ乳酸中にL体とD体のランダムコポリマー、ブロックコポリマーがあってもよい。
また、ポリ乳酸以外の樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で、マトリックス樹脂中に配合してもよい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどの水溶性の樹脂の他、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、酸変性ポリオレフィン、エチレンーメタクリル酸共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステルゴム、ポリアミドゴム、スチレンーブタジエンースチレン共重合体、ポリマンデル酸、ポリリンゴ酸などを配合することができる。
なお、ポリ乳酸樹脂を分解する分解促進剤の分散性を向上させる目的でポリ乳酸樹脂と分解促進剤の共重合体を配合してもよい。
ポリ乳酸樹脂を含有するマトリックス樹脂には、さらに添加剤として、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、顔料、フィラー、無機充填剤、離型剤、耐電防止剤、香料、滑剤、発泡剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤などを含んでいてもよい。
本発明の結晶化成形体が含有する分解促進剤は、加水分解性又は水溶性を有するものが好ましい。分解促進剤としては、例えば0.005g/mlの濃度で水に溶解させたときのpHが2以下の酸、例えばpHが1.5以下、pHが1.3以下、好ましくはpHが1.0以下の酸を加水分解により放出する分解促進剤などが挙げられる。放出される酸として、好ましくはシュウ酸、マレイン酸である。このような分解促進剤としては、ポリエチレンオキサレート(PEOx)、ポリ(ネオペンチル)オキサレート(PNOx)、ポリエチレンマレエートなどが挙げられる。これらはコポリマー、単独での使用、2種以上を組み合わせての使用でもよい。
分解促進剤や共重合体を形成する成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アントラセンジカルボン酸などのジカルボン酸;グリコール酸、L-乳酸、D-乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、マンデル酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;グリコリド、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
また本明細書では、ホモポリマー、共重合体、ブレンド体において、少なくとも一つのモノマーとしてシュウ酸を重合したポリマーをポリオキサレートとする。
この中で好ましい分解促進剤はポリオキサレートである。
マトリックス樹脂中の分解促進剤の含有量は、好ましくは5〜40wt.%であり、より好ましくは10〜30wt.%である。
また、分解促進剤の融点は、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度以上であるまたは分解促進剤が非晶性であることが好ましく、より好ましくはポリ乳酸樹脂のガラス転移温度よりも40℃〜120℃高い温度である。
本発明の結晶化成形体は、熱処理により結晶化させ、その結晶化度に限りはないが、結晶化度として10%以上が好ましく、さらに20%以上が好ましい。また、10℃/分で昇温させたDSC測定において、130〜160℃に発熱ピークを有する。このようなDSCチャートを示す結晶化成形体は、例えばポリ乳酸樹脂と分解促進剤とを混合し、60℃以上120℃未満の範囲の温度で加熱することにより得ることができる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(分解液の作製)
pH7の60mmol/lリン酸緩衝液10mlに、CLE酵素液(リパーゼ活性653U/mLを示すCryptococcus sp. S-2由来リパーゼ(独立行政法人酒類総合研究所))48μlを添加して分解液を作製した。なお、リパーゼ活性は基質としてパラニトロフェニルラウレートを用いて測定した。ここで、リパーゼ活性の1Uとは1μmol/minのパラニトロフェノールをパラニトロフェニルラウレートから遊離させた時の酵素量で定義される。
(ポリエチレンオキサレート(PEOx)の合成)
マントルヒーター、攪拌装置、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLのセパラブルフラスコにシュウ酸ジメチル354g(3.0mol)、エチレングリコール223.5g(3.6mol)、テトラブチルチタネート0.30gを入れ窒素気流下フラスコ内温度を110℃からメタノールを留去しながら170℃まで加熱し、9時間反応させた。最終的に210mlのメタノールを留去した。その後内温150℃で0.1〜0.5mmHgの減圧下で1時間攪拌し、内温170℃〜190℃で7時間反応後、粘度が上がり取り出した。合成物の融点は165℃(DSCで測定)、ηinhは0.12だった。
溶液粘度(ηinh)の測定は、120℃で一晩真空乾燥させた合成したポリエチレンオキサレートをm−クロロフェノール/1,2,4−トリクロロベンゼン=4/1(重量比)混合溶媒に浸漬し、150℃で約10分溶解させ濃度0.4g/dlの溶液を作り、ついでウベローデ粘度計を用いて30℃で溶液粘度を測定した(単位dl/g)。
(PEOxの性質)
モノマーであるシュウ酸は0.005g/ml濃度でpH1.6であり、PEOxは水溶液中で加水分解によりシュウ酸、またはシュウ酸オリゴマーを溶出する。
(生分解性樹脂フィルムの作製)
ポリ乳酸(Natureworks社製4032D、ガラス転移温度55℃)とPEOxをドライブレンドし、超小型混練機(株式会社東洋精機製作所製)で成形温度200℃及びスクリュー回転速度50rpmにて混練し、ペレットを作製した。該ペレットを200℃で5分間融解後、40−50kgf/cm2の圧力で加熱加圧(ホットプレス)し、生分解性樹脂フィルムを作製した。
(DSCによる発熱ピーク測定)
結晶構造は、後述する熱処理を行った、或いは、行わなかった生分解性樹脂フィルム(5〜10mg)を用いて示差走査熱量測定(セイコーインスツルメント株式会社製:DSC6220)を行った。測定条件は窒素雰囲気下、0℃〜200℃まで10℃/分の昇温速度で測定し、130℃から160℃に発熱ピークを有するものをα’晶、発熱ピークを有さないものをα晶とした。チャートを図1に示す。
(結晶化度測定)
結晶化度はエックス線解析装置を用い測定した。装置は株式会社リガク製のRad-rBを用いて行った。エックス線はCuKα線、出力は40kV,140mAで行った。結晶化度は下記式で求めた。
結晶化度=Σ結晶質の散乱強度/(Σ結晶質の散乱強度+Σ非晶質の散乱強度)×100
計算範囲は2θ=5℃〜30℃の範囲で行った。
(分解率)
分解率は、生分解性樹脂フィルムの初期重量を測定し、1週間分解させた後、乾燥機で45℃一晩乾燥させた生分解性樹脂フィルムの重量を測定し、下記の式にて算出した。
((生分解性樹脂フィルムの初期重量−分解後のフィルムの重量)/生分解性樹脂フィルムの初期重量)×100=分解率(%)
(弾性率保持率の測定)
後述する熱処理を行った、或いは、行わなかった生分解性樹脂フィルム(10mm×10mm)を用いて動的粘弾性測定(セイコーインスツルメント株式会社製:DMS6100)を行った。測定条件は歪振幅10μm、最小張力10mN、張力/圧縮力ゲイン1.5、力振幅初期値50mN、周波数1Hz、及び30℃〜200℃まで2℃/分の昇温速度で行い、30℃の生分解性樹脂フィルムの貯蔵弾性率を測定し、55℃の生分解性樹脂フィルムの貯蔵弾性率を測定し、下記の式にて弾性率保持率を算出した。
(55℃の生分解性樹脂フィルムの貯蔵弾性率/30℃の生分解性樹脂フィルムの貯蔵弾性率)×100=弾性率保持率
(フィルムの成形性)
ホットプレスでの生分解性樹脂フィルム成形後に良好な外観を示し、形状を維持できるものを○、ややもろくなったものを△、フィルム形状を維持できなかったものを×とした。
(実施例1)
PEOxの含有率が1wt%である生分解性樹脂フィルムを90℃の加熱オーブン下にて1.5時間熱処理をした。次いで、分解液10mlを注入した25mlのバイアル瓶内に、2cm×2cmに切り出した生分解性樹脂フィルム(重量:50mg)を入れ、37℃100rpmで7日間振とうさせた。なお、pHの極度な低下を避けるため、7日間を2日、2日、3日に分け、それぞれ分解液を交換して行った。生分解性樹脂フィルムの結晶構造、分解率及び弾性率保持率の測定、並びにフィルム成形性の結果を表1に示す。
(実施例2)
PEOxの含有率を5wt.%とした以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例3)
PEOxの含有率を10wt.%とした以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例4)
PEOxの含有率を20wt.%とした以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例5)
PEOxの含有率を30wt.%とした以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例6)
PEOxの含有率を40wt.%とした以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例7)
PEOxの含有率を50wt.%とした以外は、実施例1と同様に行った。
(比較例1)
PEOxを含有しない生分解性樹脂フィルムとし、120℃の加熱オーブン下にて0.5時間熱処理をした以外は、実施例1と同様に行った。
(比較例2)
PEOxの含有率を5wt.%とした以外は、比較例1と同様に行った。
(比較例3)
PEOxの含有率を10wt.%とした以外は、比較例1と同様に行った。
(比較例4)
PEOxを含有しない生分解性樹脂フィルムとし、熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に行った。
(比較例5)
PEOxの含有率を1wt.%とし以外は、比較例4と同様に行った。
(比較例6)
PEOxの含有率を5wt.%とし以外は、比較例4と同様に行った。
(比較例7)
PEOxの含有率を10wt.%とし以外は、比較例4と同様に行った。
(比較例8)
PEOxを含有しない生分解性樹脂フィルムとした以外は、実施例1と同様に行った。
Figure 2010116480
実施例1〜7より、分解促進剤を含有した生分解性樹脂フィルムはα’晶をとることで50〜55℃でも、貯蔵弾性率の極度な低下がなく、かつ、生分解性を有することがわかった。
実施例2は比較例2と比較して、生分解性に優れていることがわかり、さらに同等の貯蔵弾性率保持率を示すことが分かった。またともに結晶化度35%でありながら分解量がα'の方が多いことから、生分解性は結晶構造の違いで異なることがわかった。
非晶、α’晶及びα晶のDSCチャートである。

Claims (7)

  1. ポリ乳酸樹脂を含有するマトリックス樹脂中に、分解促進剤を含有する成形体であって、10℃/分で昇温させたDSC測定において130〜160℃に発熱ピークを有する、結晶化成形体。
  2. マトリックス樹脂中の分解促進剤の含有量が5〜40wt.%である、請求項1記載の結晶化成形体。
  3. 分解促進剤が加水分解性又は水溶性を有する、請求項1又は2記載の結晶化成形体。
  4. 分解促進剤の融点がポリ乳酸樹脂のガラス転移温度以上であるか、又は分解促進剤が非晶性である、請求項1〜3のいずれか1項記載の結晶化成形体。
  5. 分解促進剤がポリオキサレートである、請求項1〜4のいずれか1項記載の結晶化成形体。
  6. ポリ乳酸樹脂と分解促進剤とを混合し、60℃以上120℃未満の範囲の温度で加熱することを特徴とする、結晶化成形体の製造方法。
  7. 分解促進剤がポリオキサレートである、請求項6記載の製造方法。
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