まず、本実施例に係るハイブリッド車両の構成について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、ハイブリッド車両及び駆動装置の概略構成を示す模式図である。図2は、駆動装置に設けられたデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。
ハイブリッド車両1は、原動機となる内燃機関5及び電気モータ(モータジェネレータ、以下、単に「モータ」とも言う。)50と、内燃機関5で発生した機械的動力を伝達する機関出力軸8と、機関出力軸8を介して伝達された機械的動力を変速しトルクを変化させて伝達する駆動装置10と、駆動装置10から伝達された動力により回転する駆動輪82と、エアコンディショナ用のA/Cコンプレッサ90と、各部の動作を制御するハイブリッド車両用電子制御装置(以下「ECU」とも言う。ECU:Electronic Control Unit)100と、を有する。なお、モータ50は、機関出力軸8を介することなく、駆動装置10に機械的動力を伝達する。また、ハイブリッド車両1は、図1に示す以外にもハンドル、アクセル等の操作手段や、車両本体等、従来のハイブリッド車両と同様の車両を構成する種々の構成要素を有している。
内燃機関5は、燃料の化学的エネルギを燃焼により機械的エネルギに変換して出力する熱機関であり、ピストン往復動機関である。内燃機関5は、燃料噴射装置、点火装置、及びスロットル弁装置を備えている。この内燃機関5の各装置は、ECU100により制御される。次に、機関出力軸(クランク軸、出力軸)8は、一方の端部が内燃機関5と結合されており、他方の端部が後述する駆動装置10のデュアルクラッチ機構20の入力側に結合される。機関出力軸8は、内燃機関5で発生した機械的動力を駆動装置10に伝達する。また、機関出力軸8には、機関出力軸8の回転角位置(以下「クランク角」とも言う。)を検出するクランク角センサが設けられており、クランク角に係る信号をECU100に送出している。また、ECU100は、各部入力信号や、制御条件や、クランク角の検出結果に基づいて、内燃機関5の動作を制御することで、機関出力軸8から出力される機械的動力を調整する。
駆動装置10は、内燃機関5及びモータ50からの機械的動力を駆動輪82に伝達する動力伝達装置であり、機関出力軸8及びモータ50からの機械的動力を変速しトルクを変化させて、駆動軸80に向けて出力する。駆動装置10は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のいずれかを用いて内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を後述する変速機構に伝達するデュアルクラッチ機構20と、内燃機関5から第1クラッチ21を介して伝達される機械的動力を、第1入力軸27で受けて、第1群の変速段(以下「ギヤ段」とも言う。)31,33,35のうちいずれか1つにより変速して、第1出力軸37から第1駆動ギヤ37c及び後述する動力統合ギヤ58を介して推進軸66に伝達可能な第1変速機構30と、内燃機関5から第2クラッチ22を介して伝達される機械的動力を、第2入力軸28で受けて、第2群の変速段42,44,49のうちいずれか1つにより変速して、第2出力軸48から第2駆動ギヤ48c及び後述する動力統合ギヤ58を介して推進軸66に伝達可能な第2変速機構40と、第1変速機構30及び/または第2変速機構40から伝達された機械的動力を伝達する動力統合ギヤ58及び推進軸66と、推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に駆動輪82に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70とを有している。
デュアルクラッチ機構20は、機関出力軸8と第1変速機構30との係合/解放状態、及び、機関出力軸8と第2変速機構40との係合/解放状態を切り替え、内燃機関5から出力され機関出力軸8に伝達された機械的動力を第1変速機構30及び/または第2変速機構40に伝達させる動力伝達装置である。また、後ほど詳述するが、デュアルクラッチ機構20は、第1変速機構30及び/または第2変速機構40から伝達された機械的動力を機関出力軸8及び内燃機関5にも伝達する。デュアルクラッチ機構20は、機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能な摩擦クラッチ装置である第1クラッチ21と、機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能な摩擦クラッチ装置である第2クラッチ22とを有している。なお、第1クラッチ21及び第2クラッチ22には、湿式多板クラッチや、乾式単板クラッチを用いることができる。
第1クラッチ21は、円板状の摩擦板を有し、摩擦板の摩擦力により機械的動力を伝達する摩擦式ディスククラッチ等で構成されている。第1クラッチ21は、内燃機関5の機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27との係合/解放状態を切り替える。第1クラッチ21は、機関出力軸8と第1入力軸27とを係合させることで、機関出力軸8と第1入力軸27とを一体に回転させ、内燃機関5から機関出力軸8を介して伝達された機械的動力を、第1変速機構30に伝達させることができる。また、第1クラッチ21は、機関出力軸8と第1入力軸27とを解放状態、つまり機関出力軸8と第1入力軸27とが係合していない状態とすることで、機関出力軸8から第1入力軸27に、機械的動力が伝達しないようにすることもできる。または、同様に第1クラッチ21により、係合/解放状態を切り替えることで、第1入力軸27から機関出力軸8への機械的動力の伝達の可否も切り替えることができる。
一方、第2クラッチ22は、第1クラッチ21と同様に、摩擦式ディスククラッチ等で構成されている。第2クラッチ22は、内燃機関5の機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28との係合/解放状態を切り替える。第2クラッチ22は、機関出力軸8と第2入力軸28とを係合させることで、機関出力軸8と第2入力軸28を一体に回転させ、内燃機関5から機関出力軸8を介して伝達された機械的動力を、第2変速機構40に伝達することができる。また、第2クラッチ22は、機関出力軸8と第2入力軸28とを解放状態、つまり機関出力軸8と第2入力軸28とが係合していない状態とすることで、機関出力軸8から第2入力軸28に、機械的動力が伝達しないようにすることもできる。または、同様に第2クラッチ22により、係合/解放状態を切り替えることで、第2入力軸28から機関出力軸8への機械的動力の伝達の可否も切り替えることができる。
なお、このような、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、アクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、デュアルクラッチ機構20において、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうちいずれか一方を係合状態にして、他方を解放状態にすることで、内燃機関5からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方に伝達させることができる。
ここで、図2を用いてデュアルクラッチ機構20の詳細な構造について説明する。図2に示すように、デュアルクラッチ機構20は、駆動ギヤ14cと、第1ギヤ16と第2ギヤ18とを有する。ここで、第1変速機構30の第1入力軸27と第2変速機構40の第2入力軸28とは、所定の間隔を空けて平行に延びるよう配置されている。駆動ギヤ14cは、機関出力軸8の端に結合されており、第1ギヤ16及び第2ギヤ18と噛み合っている。また、第1ギヤ16は、第1クラッチ21に結合されており、第2ギヤ18は、第2クラッチ22に結合されている。内燃機関5から機関出力軸8に伝達された機械的動力は、駆動ギヤ14cから第1ギヤ16を介して第1クラッチ21に伝達され、駆動ギヤ14cから第2ギヤ18を介して第2クラッチ22に伝達される。
第1変速機構30及び第2変速機構40は、前進に第1速ギヤ段31から第5速ギヤ段35までの5つの変速段を有しており、後進に1つの変速段、後進ギヤ段39を有している。前進の変速段である第1速〜第5速ギヤ段31〜35の減速比は、第1速ギヤ段31、第2速ギヤ段42、第3速ギヤ段33、第4速ギヤ段44、第5速ギヤ段35の順に小さくなるよう設定されている。
第1変速機構30は、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、基本的に、第1入力軸27と、第1群の変速段と、第1出力軸37と、第1駆動ギヤ37cとを有する。ここで、第1群の変速段は、奇数段すなわち第1速ギヤ段31と、第3速ギヤ段33と、第5速ギヤ段35とを有する。また、第1変速機構30は、さらに、第1速ギヤ段31と第1出力軸37との係合/解放状態を切り替える第1速カップリング機構31eと、第3速ギヤ段33と第1出力軸37との係合/解放状態を切り替える第3速カップリング機構33eと、第5速ギヤ段35と第1出力軸37との係合/解放状態を切り替える第5速カップリング機構35eと、を有する。また、第1変速機構30の第1入力軸27には、後述するモータ50のロータ52が結合されている。また、第1変速機構30は、前進の変速段31,33,35のうち、第1速ギヤ段31が最も低速側の変速段となっている。
第1速ギヤ段31は、歯車対で構成されており、第1入力軸27に結合されている第1速メインギヤ31aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第1速メインギヤ31aと噛み合う第1速カウンタギヤ31cとを有する。また、第1速カップリング機構31eは、第1速カウンタギヤ31cと第1出力軸37との係合/解放状態を切り替える。
ECU100は、運転条件に基づいて、機械的動力を伝達するギヤ段として、第1速ギヤ段31を選択したら、第1速カップリング機構31eにより第1速カウンタギヤ31cと第1出力軸37とを係合させる。これにより、機械的動力は、第1入力軸27から第1速メインギヤ31a及び第1速カウンタギヤ31cを介して第1出力軸37に伝達される。第1変速機構30は、このようにして、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第1速ギヤ段31により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達する。
第3速ギヤ段33は、歯車対で構成されており、第1入力軸27に結合されている第3速メインギヤ33aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第3速メインギヤ33aと噛み合う第3速カウンタギヤ33cとを有する。また、第3速カップリング機構33eは、第3速カウンタギヤ33cと第1出力軸37との係合/解放状態を切り替える。
ECU100は、運転条件に基づいて、機械的動力を伝達するギヤ段として、第3速ギヤ段33を選択したら、第3速カップリング機構33eにより第3速カウンタギヤ33cと第1出力軸37とを係合させる。これにより、機械的動力は、第1入力軸27から第3速メインギヤ33a及び第3速カウンタギヤ33cを介して第1出力軸37に伝達される。第1変速機構30は、このようにして、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第3速ギヤ段33により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達する。
第5速ギヤ段35は、歯車対で構成されており、第1入力軸27に結合されている第5速メインギヤ35aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第5速メインギヤ35aと噛み合う第5速カウンタギヤ35cとを有する。また、第5速カップリング機構35eは、第5速カウンタギヤ35cと第1出力軸37との係合/解放状態を切り替える。
ECU100は、運転条件に基づいて、機械的動力を伝達するギヤ段として、第5速ギヤ段35を選択したら、第5速カップリング機構35eにより第5速カウンタギヤ35cと第1出力軸37とを係合させる。これにより、機械的動力は、第1入力軸27から第5速メインギヤ35a及び第5速カウンタギヤ35cを介して第1出力軸37に伝達される。第1変速機構30は、このようにして、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第5速ギヤ段35により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達する。
ここで、第1変速機構30の第1出力軸37には、第1駆動ギヤ37cが結合されており、第1駆動ギヤ37cは、動力統合ギヤ58と噛み合っている。また、動力統合ギヤ58には、推進軸66が結合されている。推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪82が結合された駆動軸80と係合している。つまり、第1変速機構30の第1出力軸37は、第1駆動ギヤ37c及び動力統合ギヤ58を介して駆動軸80と係合している。したがって、第1出力軸37に伝達された機械的動力は、第1駆動ギヤ37c及び動力統合ギヤ58を介して駆動軸80に伝達され、駆動軸80に結合された駆動輪82に伝達される。
なお、ECU100は、第1変速機構30の変速段31,33,35のうちいずれか1つの変速段を選択する場合、選択する変速段に対応するカップリング機構を係合状態にすると共に、第1変速機構30において選択していない変速段に対応するカップリング機構を解放状態にする。これにより、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、選択された変速段で変速して、第1出力軸37に伝達し、駆動軸80に向けて出力することができる。
また、ECU100が、第1変速機構30の変速段31,33,35をいずれも選択しない場合、第1変速機構30のカップリング機構31e,33e,35eを全て解放状態にする。これにより、第1変速機構30は、第1入力軸27と第1出力軸37との間における機械的動力の伝達を遮断することができる。
一方、第2変速機構40は、第1変速機構30と同様に、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、基本的に、第2入力軸28と、第2群の変速段と、第2出力軸48と、第2駆動ギヤ48cとを有する。また、第2群の変速段は、偶数段、すなわち第2速ギヤ段42と、第4速ギヤ段44と、後進ギヤ段49とを有する。また、第2変速機構40は、さらに、第2速ギヤ段42と第2出力軸48との係合/解放状態を切り替える第2速カップリング機構42eと、第4速ギヤ段44と第2出力軸48との係合/解放状態を切り替える第4速カップリング機構44eと、後進ギヤ段49と第2出力軸48との係合/解放状態を切り替える後進カップリング機構49eとを有する。第2変速機構40の変速段42,44のうち、第2速ギヤ段42が最も低速側の変速段となっている。
第2速ギヤ段42は、歯車対で構成されており、第2入力軸28に結合されている第2速メインギヤ42aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第2速メインギヤ42aと噛み合う第2速カウンタギヤ42cとを有している。また、第2速カップリング機構42eは、第2速カウンタギヤ42cと第2出力軸48との係合/解放状態を切り替える。
ECU100は、運転条件に基づいて、機械的動力を伝達するギヤ段として、第2速ギヤ段42を選択したら、第2速カップリング機構42eにより第2カウンタギヤ42cと第2出力軸48とを係合させる。これにより、機械的動力は、第2入力軸28から第2速メインギヤ42a及び第2速カウンタギヤ42cを介して第2出力軸48に伝達される。第2変速機構40は、このようにして、第2入力軸28から受けた機械的動力を、第2速ギヤ段42により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達する。
第4速ギヤ段44は、歯車対で構成されており、第2入力軸28に結合されている第4速メインギヤ44aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第4速メインギヤ44aと噛み合う第4速カウンタギヤ44cとを有している。また、第4速カップリング機構44eは、第4速カウンタギヤ44cと第2出力軸48との係合/解放状態を切り替える。
ECU100は、運転条件に基づいて、機械的動力を伝達するギヤ段として、第4速ギヤ段44を選択したら、第4速カップリング機構44eにより第4カウンタギヤ44cと第2出力軸48とを係合させる。これにより、機械的動力は、第2入力軸28から第4速メインギヤ44a及び第4速カウンタギヤ44cを介して第2出力軸48に伝達される。第2変速機構40は、このようにして、第2入力軸28から受けた機械的動力を、第4速ギヤ段44により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達する。
また、後進ギヤ段49は、第2入力軸28に結合されている後進メインギヤ49aと、後進メインギヤ49aと噛み合う後進中間ギヤ49bと、後進中間ギヤ49bと噛み合い、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられたルーズ歯車である後進カウンタギヤ49cとを有している。また、後進カップリング機構49eは、後進カウンタギヤ49cと第2出力軸48との係合/解放状態を切り替える。
ECU100は、運転条件に基づいて、機械的動力を伝達するギヤ段として、後進ギヤ段49を選択したら、後進カップリング機構49eにより後進カウンタギヤ49cと第2出力軸48とを係合させる。これにより、機械的動力は、第2入力軸28から後進メインギヤ49a、後進中間ギヤ49b及び後進カウンタギヤ49cを介して第2出力軸48に伝達される。第2変速機構40は、このようにして、第2入力軸28から受けた機械的動力を、後進ギヤ段49により、回転方向を逆方向に変えると共に変速し、トルクを変化させて第2出力軸48に伝達する。
ここで、第2変速機構40の第2出力軸48には、第2駆動ギヤ48cが結合されており、第2駆動ギヤ48cは、動力統合ギヤ58と噛み合っている。また、動力統合ギヤ58には、推進軸66が結合されており、推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪82に結合された駆動軸80と係合している。つまり、第2変速機構40の第2出力軸48は、第2駆動ギヤ48c及び動力統合ギヤ58を介して駆動軸80と係合している。したがって、第2出力軸48に伝達された機械的動力は、第2駆動ギヤ48c及び動力統合ギヤ58を介して駆動軸80に伝達され、駆動軸80に結合された駆動輪82に伝達される。
なお、ECU100は、第2変速機構40の変速段42,44,49のうちいずれか1つの変速段を選択する場合、選択する変速段に対応するカップリング機構を係合状態にすると共に、第2変速機構40において選択していない変速段に対応するカップリング機構を解放状態にする。これにより、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、選択された変速段で変速して、第2出力軸48に伝達し駆動軸80に向けて出力することができる。
また、ECU100が、第2変速機構40の変速段42,44,49をいずれも選択しない場合には、第2変速機構40のカップリング機構42e,44e,49eを全て解放状態にする。これにより、第2変速機構40は、第2入力軸28と第2出力軸48との間における機械的動力の伝達を遮断することができる。
モータ50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換して回収する発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。モータ50は、永久磁石式交流同期電動機で構成されており、後述するインバータ110から三相の交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するステータ54と、回転磁界に引き付けられて回転する回転子であるロータ52とを有している。モータ50には、ロータ52の回転角位置を検出するレゾルバが設けられており、ロータ52の回転角位置に係る信号をECU100に送出している。
モータ50のロータ52は、減速機構56を介して第1変速機構30の第1入力軸27に結合されている。減速機構56は、第1入力軸27に係合されているメインギヤ56aと、モータ軸56eに係合され、メインギヤ56aと噛み合うカウンタギヤ56cとを有している。モータ軸56eは、ロータ52に係合されている。減速機構56は、モータ50のロータ52から出力されてカウンタギヤ56cに伝達された機械的動力を、回転速度を減速させつつトルクを増大させて、メインギヤ56aから第1入力軸27に伝達する。また、モータ50は、駆動輪82から第1出力軸37、減速機構56を介してロータ52に伝達された機械的動力(トルク)を交流電力に変換して二次電池120に回収する。
また、本実施例では、第1入力軸27とロータ52との間に、ロータ52の回転速度を低下させて、つまり減速して第1入力軸27に伝達する減速機構56を設けたが、これに限定されない。例えば、減速機構56を設けることなく、第1入力軸27に直接ロータ52を接続させてもよい。
ここで、以下の説明において、モータ50を電動機として機能させて、モータ50がロータ52から機械的動力を出力することを「力行」と記す。これに対して、モータ50を発電機として機能させて、駆動輪82からモータ50のロータ52に伝達された機械的動力を電力に変換して回収すると共に、このときロータ52に生じる回転抵抗により、ロータ52及びこれに係合する部材(例えば、駆動輪82)の回転を制動することを「回生制動」と記す。ハイブリッド車両1は、駆動輪82の回転をロータ52に伝達させると共にモータ50を発電機として機能させて駆動輪82を制動する回生制動を行うことが可能となっている。
また、回生制動を行うことにより、モータ50のロータ52に係合する駆動軸80及び駆動輪82に作用するトルクを「回生制動トルク」と記す。また、回生制動を行うことにより、ハイブリッド車両1を制動し減速させるよう駆動輪82に作用する機械的動力[kW]を「回生制動動力」と記す。つまり、回生制動動力は、回生制動トルクに駆動軸80及び駆動輪82の回転速度(車輪速)を乗じた値となっている。なお、モータ50による力行と回生制動、すなわちモータ50の電動機/発電機としての機能の切替えと、回生制動トルク及び回生制動動力は、ECU100により制御される。
インバータ110は、モータ50に交流電力を供給する電力供給装置であり、二次電池120から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ50に供給する。また、インバータ110は、モータ50からの交流電力を直流電力に変換して二次電池120に回収する。なお、インバータ110からモータ50への電力供給、及びモータ50からの電力回収は、ECU100により制御される。
終減速装置70は、原動機から推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に、駆動輪82に係合する左右の駆動軸80に分配する。終減速装置70は、推進軸66に結合された駆動ピニオン68と、駆動ピニオン68とリングギヤ72が直交して噛み合う差動機構74とを有している。終減速装置70は、原動機すなわち内燃機関5及びモータ50のうち少なくとも一方から推進軸66に伝達された機械的動力を、駆動ピニオン68及びリングギヤ72により減速し、差動機構74により左右の駆動軸80に分配して、駆動軸80に結合されている駆動輪82を回転駆動することが可能となっている。
また、ハイブリッド車両1には、駆動輪82の回転速度から、ハイブリッド車両1の速度を検出する車速センサ84が設けられている。車速センサ84は、検出した駆動輪82の回転速度から算出されるハイブリッド車両1の車速に係る信号をECU100に送出している。
また、ハイブリッド車両1には、運転者により操作されるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ(以下「アクセルセンサ」ともいう。)86も設けられている。アクセルセンサ86は、検出したアクセルペダルの操作量に係る信号をECU100に送出している。
さらに、ハイブリッド車両1には、二次電池120の蓄電状態(state-of-charge、SOC)を検出する電池監視ユニットが設けられており、検出した二次電池120の蓄電状態に係る信号を、ECU100に送出している。また、ハイブリッド車両1には、運転者によりブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルストロークセンサも設けられており、検出されたブレーキペダルの操作量に係る信号をECU100に送出している。
A/Cコンプレッサ90は、外部からの機械的動力を受けて作動する被駆動機械(以下「補機」ともいう。)である。A/Cコンプレッサ90は、ハイブリッド車両1の内部の室温を調整するエアコンディショナの一部であり、エバポレータから吸引した冷媒を圧縮してコンデンサーに供給する。A/Cコンプレッサ90は、ロータ52からの機械的動力を受けて作動する。
A/Cコンプレッサ90は、モータ50の力行の有無に拘らず、ロータ52が「正方向」に回転している場合、ロータ52から伝達される機械的動力を受けて作動することが可能になる。なお、「正方向」とは、第1及び第2変速機構30,40の前進用の変速段31,33,35,42,44により、ロータ52と駆動輪82を係合させた場合に、ハイブリッド車両1が前進するように駆動輪82が回転するロータ52の回転方向(向き)である。これに対して、ロータ52が「逆方向」に回転している場合や、回転していない(静止している)場合、A/Cコンプレッサ90は、その作動を停止して非作動状態となる。つまり、A/Cコンプレッサ90は、電気モータ50のロータ52が、所定の「正方向」に回転している場合に、作動することとなる。
A/Cコンプレッサ90は、連続可変容量式のコンプレッサであり、ロータ52の1回転あたりの冷媒の排出量(以下「コンプレッサ容量」という。)を連続的に変化させることが可能に構成されている。A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量、すなわち補機の出力(仕事率)は、ECU100により制御可能となっている。A/Cコンプレッサ90は、ロータ52が同一の回転速度で回転している場合、ECU100によりコンプレッサ容量を大きく制御するに従って、時間あたりの冷媒の吐出量が増大して、A/C冷却能力が増大する。ここで、A/Cコンプレッサ90は、コンプレッサ容量を大きくするとモータ50のロータ52の1回転に必要な力が大きくなる。
また、ハイブリッド車両1には、運転者が、エアコンディショナの冷媒装置としての作動を選択するため、ECU100にA/Cコンプレッサ90の作動を要求するスイッチ(以下「A/Cスイッチ」という。)94が設けられている。A/Cスイッチ94は、車室内のインスツルメントパネル等、運転者により操作可能な場所に設けられており、運転者の操作により、オン(ON)状態と、オフ(OFF)状態とを切換可能に構成されている。A/Cスイッチ94は、オン/オフ状態に係る信号を、ECU100に送出している。
また、ハイブリッド車両1には、運転者に対して、エアコンディショナの冷房装置としての作動を告知するランプ(以下「A/Cランプ」という。)96が設けられている。A/Cランプ96は、基本的に、エアコンディショナが冷房装置として作動している場合に点灯して、その作動を運転者に認識させることが可能となっている。A/Cランプ96の点灯/消灯は、ECU100により制御される。
ECU100は、第1変速機構30及び第2変速機構40において選択されている変速段、すなわちカップリング機構31e,42e,33e,42e,35e、49e(以下単に「31e〜49e」ともいう。)の係合/解放状態と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態とを検出し、検出結果に基づいて、内燃機関5及びモータ50と、第1及び第2クラッチ21,22と、第1及び第2変速機構30,40とを協調して制御する制御機能も有する。
また、ECU100は、クランク角センサからの機関出力軸8の回転角位置(クランク角)に係る信号と、レゾルバからのモータ50のロータ52の回転角位置に係る信号と、車速センサ84からのハイブリッド車両1の車速に係る信号とを検出している。また、ECU100は、アクセルセンサ86からのアクセルペダルの操作量に係る信号と、ブレーキペダルストロークセンサからのブレーキペダルの操作量に係る信号とを検出している。また、ECU100は、二次電池120の蓄電状態に係る信号を検出している。
ECU100は、これら信号に基づいて、各種制御変数を算出している。制御変数には、内燃機関5の機関出力軸8の回転速度(以下「機関回転速度」とも言う。)と、内燃機関5が機関出力軸8から出力するトルク(以下「機関負荷」とも言う。)と、モータ50のロータ52の回転速度(以下「モータ回転速度」とも言う。)と、回生制動を行うことにより駆動輪82及び駆動軸80に作用するトルクである「回生制動トルク」と、回生制動を行うことにより駆動輪82及び駆動軸80に作用する機械的動力である回生制動動力と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態と、第1及び第2変速機構30,40において現在選択されている変速段と、ハイブリッド車両1の走行速度(以下「車速」とも言う。)と、二次電池120の蓄電状態(SOC)と、運転者により要求される駆動力等がある。
これら制御変数に基づいて、ECU100は、内燃機関5及びモータ50の運転状態を把握しており、第1及び第2変速機構30,40において選択される変速段及び変速動作、すなわち各カップリング機構31e〜49eによるカウンタギヤ31c〜49cと第1出力軸37または第2出力軸48との係合/解放状態と、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態とを制御することが可能となっている。また、ECU100は、モータ50の力行と回生制動、すなわち、モータ回転速度、モータの出力トルク、及び回生制動トルクと、内燃機関5の機関負荷及び機関回転速度とを制御する。
また、ECU100は、A/Cコンプレッサ90の動作を制御するコンプレッサ制御手段102と、デュアルクラッチ機構20の動作を制御するクラッチ制御手段104と、モータ50の動作を制御するモータ制御手段106とを有する。各部の機能については後ほど詳細に説明する。
ハイブリッド車両1は、基本的に以上のような構成である。ハイブリッド車両1は、上述したように、ECU100が運転条件に基づいて、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35のうちいずれか1つの変速段を選択したら、選択した変速段に対応するカップリング機構によりカウンタギヤと第1出力軸37とを係合状態にして、さらに第1クラッチ21を係合状態にすると共に第2クラッチ22を解放状態にする。これにより、機関出力軸8が、第1入力軸27、第1出力軸37、動力統合ギヤ58、推進軸66、終減速装置70を介して駆動軸80と係合され、第1変速機構30は、内燃機関5の機関出力軸8及びモータ50のロータ52の少なくとも一方から出力された機械的動力を、第1入力軸27で受けて、変速段(奇数段)31,33,35のうち選択した変速段により変速し、トルクを変化させて、駆動輪82に係合する駆動軸80に向けて出力することができる。
このとき、駆動輪82の回転は、動力統合ギヤ58を介して第2変速機構40の第2出力軸48にも伝達される。ECU100が第2変速機構40の第2群の変速段42,44,49のうちいずれか1つの変速段を選択して、対応するカップリング機構により、カウンタギヤと第2出力軸48とを係合状態とすると、動力統合ギヤ58から第2出力軸48に伝達された機械的動力は、第2変速機構40の変速段(偶数段)42,44及び後進ギヤ段49のうち選択されている変速段により変速され、第2入力軸28に伝達されて、当該第2入力軸28を回転させる。なお、ECU100が第2変速機構40の変速段42,44,49をいずれも選択しない場合、すなわち第2変速機構40のカップリング機構42e,44e,49eを全て解放状態にしている場合は、第2出力軸48と第2入力軸28との間で動力伝達が遮断されて、駆動輪82の回転が第2入力軸28に伝達されることはない。
一方、ECU100が運転条件に基づいて、第2変速機構40の第2群の変速段42,44,49のうちいずれか1つの変速段を選択したら、選択した変速段に対応するカップリング機構によりカウンタギヤと第2出力軸とを係合状態にして、さらに第2クラッチ22を係合状態にすると共に第1クラッチ21を解放状態にする。これにより、機関出力軸8が、第2入力軸28、第2出力軸48、動力統合ギヤ58、推進軸66、終減速装置70を介して駆動軸80と係合され、第2変速機構40は、内燃機関5の機関出力軸8から出力された機械的動力を、第2入力軸28で受けて、各変速段(偶数段)42,44、及び後進ギヤ段49のうち選択した変速段により変速し、トルクを変化させて、駆動輪82に係合する駆動軸80に向けて出力することができる。
このとき、駆動輪82の回転は、動力統合ギヤ58を介して第1変速機構30の第1出力軸37にも伝達される。ECU100が第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35のうちいずれか1つの変速段を選択し、対応するカップリング機構31e,33e,35eにより、カウンタギヤと第1出力軸37とを係合状態とすると、動力統合ギヤ58から第1出力軸37に伝達された機械的動力は、第1変速機構30の変速段(奇数段)31,33,35のうち選択された変速段により変速され、第1入力軸27に伝達されて、モータ50のロータ52を回転させる。なお、ECU100が第1変速機構30の変速段31,33,35をいずれも選択しない場合、すなわち第1変速機構30のカップリング機構31e,33e,35eを全て解放状態にしている場合は、第1出力軸37と第1入力軸27との間で動力伝達が遮断されて、駆動輪82の回転は、第1入力軸27に伝達されることはない。
以上のように構成されたハイブリッド車両1は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を交互につなぎ替えることで、変速時において、機関出力軸8と駆動輪82との間における動力伝達の途切れを抑制することが可能となっており、以下に詳細を説明する。
まず、ECU100が第1及び第2変速機構30,40の変速段31,42,33,44,35,49のうちいずれか1つの変速段を選択する。例えば、選択した変速段が第1変速機構30の変速段31,33,35のうち第1速ギヤ段31である場合、ECU100は、第1速ギヤ段31に対応する第1速カップリング機構31eにより、カウンタギヤ31cと第1出力軸37とを係合状態にすると共に、その他のカウンタギヤ33c,35cと第1出力軸37とを解放状態にする。そして、ECU100は、第1クラッチ21を係合状態にすると共に第2クラッチ22を解放状態にする。これにより、駆動装置10は、内燃機関5からの機械的動力を、第1入力軸27で受け、第1群(奇数段)の変速段31,33,35のうち選択した変速段である第1速ギヤ段31により変速し、第1出力軸37から駆動軸80に伝達して、駆動輪82を回転駆動することができる。
このとき、ECU100は、第2変速機構40の変速段42,44,49のうち、第1変速機構30において選択している変速段である第1速ギヤ段31より、一段高速(ハイギヤ)側の変速段である第2速ギヤ段42を選択し、対応する第2速カップリング機構42eにより、第2カウンタギヤ42cと第2出力軸48とを係合状態とする。ECU100は、第2カウンタギヤ42cと第2出力軸48とを係合状態にすることで、第2出力軸48から第2入力軸28に機械的動力を伝達し、第2入力軸28を空転させる。このようにして、ECU100は、第1速ギヤ段31から第2速ギヤ段42への変速動作、すなわち第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放動作に備えている。
そして、第1変速機構30の第1速ギヤ段31から、第2変速機構40の第2速ギヤ段42への変速(アップシフト)を行う場合、ECU100は、第1クラッチ21を解放状態にしながら第2クラッチ22を係合状態にすることで、駆動装置10は、第1クラッチ21と第2クラッチ22とを掴み替える動作、いわゆる「クラッチ・トゥ・クラッチ」を行う。この動作により、駆動装置10は、機関出力軸8からの動力伝達経路を、徐々に第1変速機構30の第1入力軸27から第2変速機構40の第2入力軸28に移していき、第2速ギヤ段42への変速が完了することとなる。なお、このとき、第2クラッチ22は、解放状態から、半係合状態、いわゆる半クラッチ状態となり、その後、係合状態とされ、第1クラッチ21は、係合状態から、半係合状態とされ、その後、解放状態とされる。
このようにして、駆動装置10は、第1変速機構30の変速段、すなわち奇数段である第1速ギヤ段31から、第2変速機構40の変速段、すなわち偶数段である第2速ギヤ段42への変速時において、機関出力軸8から駆動軸80への動力伝達に途切れを生じさせることなく変速することができる。
また、ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5とモータ50とを併用又は選択使用することで、様々な車両走行(走行モード)を実現することができる。例えば、原動機として内燃機関5のみを選択使用する「エンジン走行」、原動機として内燃機関5及びモータ50を併用する「ハイブリッド走行」、原動機としてモータ50のみを選択使用する「モータ走行」等がある。
これら走行モードは、運転者が要求する車両駆動力や、モータ50に供給する電力を貯蔵する二次電池120の蓄電状態に応じて、ECU100により、逐次、自動的に切替えられる。以下に、各走行モードにおけるECU100の制御と、内燃機関5、第1クラッチ21及び第2クラッチ22、第1変速機構30及び第2変速機構40、及びモータ50の動作を併せて説明する。
まず、原動機として内燃機関5のみを選択使用するエンジン走行は、以下のようにして原動機の動力を使用する。まず、変速段として第1変速機構30の変速段31,33,35のいずれか1つを選択した場合は、ECU100により、第1クラッチ21を係合状態にすると共に第2クラッチ22を解放状態にして、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第1入力軸27に伝達し、伝達した機械的動力を第1変速機構30の変速段31,33,35のいずれか1つにより変速し、第1出力軸37から動力統合ギヤ58を介して駆動軸80に伝達することで、駆動輪82を回転駆動する。また、変速段として、第2変速機構40の変速段42,44,49のいずれか1つを選択した場合は、ECU100により、第1クラッチ21を解放状態にすると共に第2クラッチ22を係合状態にして、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第2入力軸28に伝達し、伝達した機械的動力を第2変速機構40の変速段42,44,49のいずれか1つにより変速し、第2出力軸48から動力統合ギヤ58を介して駆動軸80に伝達し、駆動輪82を回転駆動する。
次に、原動機として内燃機関5とモータ50とを併用するハイブリッド走行は、以下のようにして原動機の動力を使用する。
まず、変速段として第1変速機構30の変速段31,33,35のいずれか1つを選択して内燃機関5の機械的動力を使用している場合は、さらに、ECU100によりモータ50を力行させて、ロータ52から第1入力軸27に出力トルクを伝達する。これにより、駆動装置10は、モータ50のロータ52からの機械的動力と内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力とを、第1入力軸27で統合し、第1変速機構30により変速して、動力統合ギヤ58を介して駆動軸80に伝達することができる。
また、変速段として第2変速機構40の変速段42,44,49のいずれか1つを選択して内燃機関5の機械的動力を使用している場合は、さらに、ECU100によりモータ50を力行させて、ロータ52から第1入力軸27に出力トルクを伝達する。具体的には、第1クラッチ21を解放した状態で、第1変速機構30の変速段31,33,35のいずれか1つを選択し、モータ50から第1入力軸27に伝達された動力を選択した変速段により第1出力軸37に伝達する。これにより、駆動装置10は、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力と、モータ50のロータ52からの機械的動力とを、それぞれ第1変速機構30、第2変速機構40で変速し、動力統合ギヤ58で統合して駆動軸80に伝達することができる。
また、ハイブリッド車両1に原動機としてモータ50のみを選択使用するモータ走行は、以下のようにして、原動機の動力を使用する。この場合は、上述のエンジン走行及びハイブリッド走行の制御とは異なり、まず、ECU100は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を双方共に解放状態にして、モータ50を力行させる。また、ECU100は、第1変速機構30の変速段31,33,35のうち、いずれか1つの変速段を選択し、対応するカップリング機構を係合状態にする。駆動装置10は、モータ50のロータ52からの機械的動力を、第1入力軸27で受け、第1変速機構30の変速段31,33,35のうち選択した変速段で変速して、動力統合ギヤ58から駆動軸80に伝達して駆動輪82を回転駆動する。
また、ハイブリッド車両1は、アクセルペダルとブレーキペダルが双方共に操作されていない場合において、原動機による駆動力や摩擦ブレーキによる制動力を生じさせることなくハイブリッド車両1を走行させる、いわゆる「コーストダウン走行」を行う場合がある。この場合、ハイブリッド車両1は、ECU100による制御で、モータ50を発電機として機能させて回生制動を行うことにより、ハイブリッド車両1を、摩擦ブレーキにより制動する場合に比べて、緩やかに減速させることができる。ハイブリッド車両1は、通常、駆動輪82の回転を、第1変速機構30の変速段31,33,35のいずれか1つにより変速し、第1入力軸27からロータ52に伝達させることで回生制動を行うことができる。また、ECU100は、ブレーキペダルが操作され、駆動力や摩擦ブレーキにより制動力を生じさせる際に、モータ50も発電機として機能させて回生制動を行うことにより、さらに減速させるようにしてもよい。このように回生制動を行い、モータ50を発電機として機能させることで、二次電池120に蓄電することができる。
次に、図3とともに、ハイブリッド車両1の走行開始時のECU100による制御について説明する。図3は、ECU100による制御の一例を示すフロー図である。まず、ECU100は、ステップS10として、車速センサ84から送られる信号に基づいて、ハイブリッド車両1(以下単に「車両1」とも言う。)が停止しているかを判定する。具体的には、車速センサ84により、車両1の速度が0であるかを判定する。ECU100は、ステップS10にて、車両1が停止していると判定したら、ステップS12に進み、車両1が停止していない、つまり、車速が0でなく走行中であると判定したら、ステップS10に進み、ステップS10を繰り返す。
次に、ECU100は、ステップS12として、アクセルがオン(ON)の状態であるかを判定する。つまり、ECU100は、アクセルセンサ86から送られる信号に基づいてアクセルペダルが踏まれているか否かを判定する。なお、アクセルペダルが踏まれている状態が、アクセルがオンの状態であり、アクセルペダルが踏まれていない状態が、アクセルがオフの状態である。ECU100は、ステップS12でアクセルがオンであると判定したらステップS28に進み、アクセルがオフであると判定したらステップS14に進む。
次に、ECU100は、ステップS14として、エアコンディショナがオンであるかを判定する。ECU100は、ステップS14で、エアコンディショナがオンであると判定したら、ステップS16に進み、エアコンディショナがオフであると判定したらステップS10に進み、上述した動作を繰り返す。
次に、ECU100は、ステップS16として、第1変速機構30及び第2変速機構40の全てのギヤ段をオフにする。つまり、第1速ギヤ段31から第5速ギヤ段35、及び後進ギヤ段49の全てのギヤ段が選択されていない状態とする。ECU100は、全てのギヤ段をオフにしたら、ステップS18として、クラッチ制御手段104により第1クラッチ21をオフにさせる。つまり、第1クラッチ21のクラッチ圧をゼロとして、第1クラッチ21が解放された状態とする。このように、ECU100は、ステップS16、ステップS1で、ギヤ段及びクラッチを解放することで、ギヤ段及びクラッチを介して、内燃機関5と駆動輪82に動力が伝達されないようにする。
次に、ECU100は、ステップS20として、モータ制御手段106によりモータ50を駆動させる。ここで、クラッチ及びギヤ段は解放されているため、モータ50から出力された動力は、内燃機関5及び駆動輪82には伝達されない。その後、ECU100は、ステップS22として、コンプレッサ制御手段102によりA/Cコンプレッサ90の流量制御弁のデューティをA(t1)とする。このように、コンプレッサ制御手段102は、流量制御弁のデューティを設定することで、A/Cコンプレッサ90の容量を所定容量に設定する。つまり、モータ50のロータ52の1回転あたりの冷媒の吐出量を設定する。次に、ECU100は、ステップS24として、モータ要求駆動力をP(A(t1))とし、モータ制御手段106によりモータ50の駆動力がP(A(t1))となるように制御する。ここで、ECU100は、ステップS22で設定した流量制御弁のデューティA(t1)から算出されるロータ52の1回転あたりの冷媒の吐出量を吐出できるモータ50の駆動力を算出し、その駆動力を要求駆動力P(A(t1))とする。このように、車両停止時は、モータ50を駆動させ、モータ50から伝達される動力をA/Cコンプレッサ90に伝達することで、内燃機関5を駆動させることなく、エアコンディショナを駆動させることができる。また、A/Cコンプレッサ90の容量に応じたモータの駆動力とすることで、A/Cコンプレッサ90に効率よく動力を伝達することができる。
次に、ステップS10で車両が停止していると判定され、ステップS12でアクセルがオンであると判定された場合の制御について説明する。ここで、ECU100は、ステップS12でアクセルがオンであると判定したら、二次電池120からモータ50への電力の供給を停止し、モータ50は自由回転するようにする。
次に、ECU100は、ステップS28として、A/Cコンプレッサ90の流量制御弁のデューティをA(t2)とする。ここで、A(t2)は、A(t1)よりも大きい値である。デューティがA(t2)とされることで、コンプレッサ制御手段102は、A/Cコンプレッサ90の容量をより大きくする。次に、ECU100は、ステップS30として、モータ50の要求駆動力をP(A(t2))とする。モータ制御手段106は、モータ50の駆動力がP(A(t2))となるように制御する。このように、A/Cコンプレッサ90の容量を大きくすることで、モータ50への要求駆動力も大きくなるため、モータ50の回転に対する抵抗が大きくなる。モータ50への抵抗が大きくなることで、モータ50の回転数、つまり回転速度は、低下していく。
次に、ECU100は、ステップS34として、モータ50の回転数がN1よりも低いか否かを判定する。つまり、(モータ50の回転数)<N1であるかを判定する。ここで、回転数N1は、第1出力軸37が回転していない場合でも第1変速機構30のギヤ段を選択できる、つまり、カップリング機構によりメインギヤとカウンタギヤとを係合させることができるモータの最高回転数である。ECU100は、ステップS34にて、(モータ50の回転数)<N1である場合は、ステップS36に進み、(モータ50の回転数)≧N1の場合は、ステップS10に進む。
次に、ECU100は、ステップS36として、モータ制御手段106により、モータ50への要求駆動力を0にする。つまり、モータ50に負荷がかかっておらず、かつ、二次電池120からモータ50に電力が供給されていない状態とする。次に、ECU100は、ステップS38として、クラッチ制御手段104により第1クラッチ21のクラッチ圧を0とする。
次に、ECU100は、ステップS40として変速機構のギヤ段のいずれかを選択し、選択したギヤ段をオンする。つまり、選択したギヤ段、始動時は、通常、第1速ギヤ段31のカップリング機構によりメインギヤとカウンタギヤとを係合させる。その後、ECU100は、ステップS42として、選択したギヤ段がオンになっているかを判定する。ECU100は、ステップS42にて、ギヤ段がオンになっていると判定したら、つまり、ギヤ段がオンになっていることを確認したら、ステップS44に進み、ギヤ段がオフになっている場合は、ステップS40に進み、再度、ギヤ段をオンにする。
次に、ECU100は、ステップS44として、モータ50の要求駆動力をP(acc)とする。ここで、P(acc)は、アクセルセンサ86で検出したアクセルペダルのアクセル開度に対応する車速で走行するために必要な駆動力である。ECU100により要求駆動力が設定されたら、モータ制御手段106は、モータ50から要求駆動力が出力されるように、二次電池120から電力を供給する。このように、選択されたギヤ段が係合された状態で、モータ制御手段106によりモータ50を駆動させることで、車両1は、モータ走行を開始する。
次に、ECU100は、ステップS46として、モータ要求駆動力P(acc)がP(V1)よりも大きいかを判定する。つまり、P(V1)<P(acc)であるかを判定する。ここでP(V1)は、所定の車速とするために必要な駆動力であり、モータ走行のみで可能な車速における駆動力である。ここで、V1としては、例えば、エネルギの利用効率も加味したモータ走行の限界の車速を用いる。つまり、ECU100は、ステップS46で、設定された車速に対応する駆動力よりも大きな駆動力が要求されているかを判定、確認する。ECU100は、ステップS46にて、P(V1)<P(acc)であると判定した場合は、ステップS48に進み、P(acc)≦P(V1)であると判定した場合は、ステップS40に進み、モータ走行を継続する。
次に、ECU100は、ステップS48において、第1クラッチ21または第2クラッチ22をオンにする。次に、ECU100は、ステップS50として、第1クラッチ21または第2クラッチ22のうち、選択したクラッチのクラッチ圧をPx1とする。ここで、クラッチ圧Px1は、クラッチが完全に係合するクラッチ圧よりも高いクラッチ圧である。これにより、選択したクラッチは、完全に係合した状態となり、入力軸からの機関出力軸8に動力が伝達する。次に、ECU100は、ステップS52として、選択したクラッチがオンになっているかを判定する。ECU100は、ステップS52にて、選択したクラッチがオンであると判定したら、ステップS54に進み、選択したクラッチがオフであると判定したら、ステップS48に進む。
ECU100は、ステップS54として、モータ50の要求駆動力をP(acc1)とする。ここで、P(acc1)は、車両1の所定の速度での走行を維持しつつ、半係合されているクラッチを介して内燃機関5に動力を伝達することができる駆動力である。その後、ECU100は、内燃機関5の回転数が一定以上となったら、ファイアリング、つまり燃焼を開始し、ステップS56に進む。このように、モータ50の駆動力を内燃機関5に伝達し、内燃機関5の回転数を一定以上にさせた後にファイアリングを開始させることで、車両1が共振する共振周波数帯域でファイアリングさせることなく、内燃機関5を駆動させることができる。これにより、ファイアリング開始時に車両1が共振することを防止できる。また、燃料の利用効率が悪い低回転域での燃料の使用を抑制することができ、燃料を効率よく利用することができる。
ECU100は、ステップS56として、内燃機関がオンとなっているかを判定する。具体的には、内燃機関5がファイアリングしており、駆動力を発生させているかを判定する。ECU100は、ステップS56にて、内燃機関5がオンとなっていると判定したらステップS58に進み、内燃機関5がオンになっていない、つまりファイアリングをしていないと判定したらステップS54に進み、再び、ファイアリングを開始させる制御を行う。
次に、ECU100は、ステップS58として、モータ50の要求駆動力をP(acc)とし、処理を終了する。なお、ステップS58における要求駆動力P(acc)は、内燃機関5のみから出力される駆動力でアクセル開度に応じた車速を出力でき、モータ50から出力される駆動力を必要としない場合は、0となり、内燃機関5から出力される駆動力とモータ50から出力される駆動力の両方を用いる場合に、必要な要求駆動力とされる。
次に、図4を用いて、ハイブリッド車両についてより詳細に説明する。図4は、ハイブリッド車両1の各部の走行開始時の動作状況を示すグラフである。ここで、図4は、横軸を時間とし、縦軸を各種値とした。また、図4は、車両停止時にエアコンディショナを使用している状態から、ハイブリッド走行するまでの各部の動作の流れを示している。まず、t=0のときは、車両が停止しており、エアコンディショナを作動させている。このため、車速は0km/hであり、クラッチ圧は、0であり、A/Cコンプレッサ90の容量は、所定の容量であり、アクセルはオフであり、モータ50は、A/Cコンプレッサ90の容量を所定容量とするために、所定の回転数で回転している。この状態は、図3に示すフロー図では、ステップS24での状態に相当する。また、アクセルがオンであると判定されるまで、ステップS10からS24が繰り返され、同じ状態が続く。
その後、t=t1となると、アクセルがオンにされ(ステップS12)、モータ50への電力の供給が停止し、流量制御弁のデューティが高くされ、A/Cコンプレッサ90の容量が多くされ(ステップS28)ることで、モータ50に回転を止める力が作用し、モータ50の回転数が徐々に低下していく。
このように、モータ50の回転数が低下され、t=t2で、モータ50の回転数がN1より低くなったら(ステップS34)、選択したギヤ段、具体的には第1速ギヤ段31をオンにする(ステップS40)。その後、t=t3で、第1速ギヤ段31の係合が完了したら、モータ要求駆動力をP(acc)とし(ステップS44)、モータ50の回転数を徐々に上昇させ、かつ、選択したクラッチ、具体的には第1クラッチ21のクラッチ圧も徐々に上昇させる。その後、一定の駆動力が駆動輪82に伝達されて、t=t4で車両1が発進し、t=t5で第1クラッチ21のクラッチ圧がPx1となり、完全に係合される(ステップS50)。その後、モータ走行が続き、モータ要求駆動力がP(V1)よりも大きくなり、t=t6で、モータ50の回転数が一定の速度となったら、内燃機関5を始動させる。なお、内燃機関5の始動時、つまりファイアリング開始時は、第1クラッチ21を一時的に解放しても、半係合としてもよい。第1クラッチ21を一時的に解放、半係合とすることで、ファイアリング開始時に内燃機関5の回転数が変動した場合でも車速が急変することを防止できる。その後は、モータ50の駆動力と内燃機関5の駆動力が駆動輪82に伝達されて、車速がさらに上昇する。また、必要に応じて、A/Cコンプレッサ90の容量も大きくされ、車両1の室内を冷却する。車両1は、以上のようにして制御される。
このように、車両停止中に、エアコンディショナを使用している際に、アクセルがオンされたら、つまり、発進信号が入力されたら、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させることで、モータ50の回転が停止する方向に力を作用させることができる。これにより、エアコンディショナを作動させるために回転しているモータ50の回転をより短時間で低下させることができ、アクセルがオンされてから、選択したギヤ段をオンしてモータ50の駆動力を駆動輪82に伝達し、モータ走行で車両1の走行を開始させるまでにかかる時間を短くすることができる。これにより、アクセルを踏んでから発進するまでの時間を短くすることができ、ドライバビリティを高くすることができる。また、低速ではエネルギの利用効率が悪いエンジン走行ではなく、モータ走行で走行を開始させることができるため、エネルギの利用効率も高くすることができる。
また、上記実施例では、ステップS12でアクセルがオンであると判定したら、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させることで、短時間でモータ50の回転数を低下、つまりモータの回転を減速させたが、これに限定されない。例えば、ステップS12でアクセルがオンであると判定したら、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させることに加え、モータ制御手段106により、モータを回生制動させ、クラッチ制御手段104により、選択したクラッチのクラッチ圧を機関出力軸8から入力軸にトルクが伝達されないクラッチ圧とするようにしてもよい。また、クラッチを半クラッチ、つまり半係合として、一定のトルクが機関出力軸8から入力軸に伝達するようにしてもよい。
以下、図5とともに、ハイブリッド車両1の走行開始時のECU100による制御の他の一例について説明する。図5は、ECU100による制御の他の例を示すフロー図である。ここで、図5に示すECU100による制御は、ステップS12でアクセルがオンであると判定してからステップS34で(モータ50の回転数)<N1を判定するまでの間の制御を除いて、他の制御方法は、図3に示すECU100による制御と同様の手順であるので、同様の部分は詳細な説明を省略し、図5に示すECU100による制御に特有の点を重点的に説明する。
まず、ECU100は、ステップS10として、車速センサ84から送られる信号に基づいて車両1が停止しているかを判定する。ECU100は、ステップS10にて、車両1が停止していると判定したら、ステップS12に進み、車両1が停止していない、つまり、車速が0でなく走行中であると判定したら、ステップS10に進み、ステップS10を繰り返す。
次に、ECU100は、ステップS12として、アクセルがオンの状態であるかを判定する。ECU100は、ステップS12でアクセルがオンであると判定したらステップS26に進み、アクセルがオフであると判定したらステップS14に進む。ECU100がステップS12で、アクセルがオフであると判定した場合の以下の制御は、図3に示すフロー図と同様であるので、説明は省略する。
次に、ECU100は、ステップS12でアクセルがオンであると判定したら、ステップS26として、モータ制御手段106により、モータ50を回生制動させる。モータ50は、自由回転しているため、回生制動されることで、回転数が徐々に低下していく。次に、ECU100は、ステップS28として、A/Cコンプレッサ90の流量制御弁のデューティをA(t2)とする。ここで、A(t2)は、A(t1)よりも大きい値である。デューティがA(t2)とされることで、コンプレッサ制御手段102は、A/Cコンプレッサ90の容量をより大きくする。次に、ECU100は、ステップS30として、モータ50の要求駆動力をP(A(t2))とする。モータ制御手段106は、モータ50の駆動力がP(A(t2))となるように制御する。このように、A/Cコンプレッサ90の容量を大きくすることで、モータ50への要求駆動力も大きくなるため、モータ50の回転に対する抵抗が大きくなる。モータ50への抵抗が大きくなることで、モータ50の回転数は、低下していく。
さらに、ECU100は、ステップS32として、クラッチ制御手段104により、第1クラッチ21のクラッチ圧をPxとする。つまり、クラッチ制御手段104は、第1クラッチ21のクラッチ圧がPxとなるように、クラッチを操作する。ここで、Pxは、クラッチが解放されている状態のクラッチ圧よりも高く、クラッチを介して入力軸から機関出力軸にトルクが伝達されるクラッチ圧よりも低いクラッチ圧である。以下、クラッチ圧Pxについてより詳細に説明する。ここで、図6は、伝達トルク及びクラッチすべりと、クラッチ圧との関係を示すグラフである。図6では、縦軸を伝達トルク及びクラッチすべりとし、横軸を第1クラッチ及び第2クラッチのクラッチ圧とした。図6に示すように、第1クラッチ21及び第2クラッチ22は、クラッチ圧が0のときにクラッチすべりが最も大きく、その後、クラッチ圧が高くなるにつれて、クラッチすべりが小さくなり、クラッチが完全に係合されるクラッチ圧P2でクラッチすべりが0になる。また、第1クラッチ21及び第2クラッチ22は、クラッチ圧がP1以下のときは、トルクを伝達せず、クラッチ圧がP1からP2に増えるに従って伝達トルクが大きくなり、クラッチが完全に係合した後は、伝達トルクは変化しない。伝達トルク及びクラッチすべりと、クラッチ圧とは以上のような関係であり、クラッチ制御手段104により、クラッチ圧Pxを、0より大きくP1よりも小さいクラッチ圧とすることで、入力軸からの動力をトルクとして機関出力軸8に伝達させることなく、モータ50とともに回転している入力軸に対して負荷をかけることができる。つまり、完全に解放されている場合よりも、クラッチすべりが低下している分がクラッチでの抵抗となり、入力軸に対して回転を止める方向に力が作用する。このように、入力軸に負荷をかけることで、モータ50の回転に対しても負荷をかけることができ、モータ50の回転数を低下させることができる。また、クラッチ圧PxをP1よりも大きくP2よりも小さいクラッチ圧とすることで、イナーシャトルクによりエネルギを熱に変換させ、より早くモータ回転数を低下させることも可能である。
次に、ECU100は、ステップS34として、モータ50の回転数がN1よりも低いか否かを判定する。ステップS34以降の制御は、図3に示すフロー図と同様であるので、説明を省略する。
このように、車両停止中に、エアコンディショナを使用している際に、アクセルがオンされたら、つまり、発進信号が入力されたら、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させることに加え、モータ制御手段106により、モータ50を回生制動させ、クラッチ制御手段104により、選択したクラッチのクラッチ圧をPxとすることで、モータ50の回転が停止する方向により強い力を作用させることができる。これにより、エアコンディショナを作動させるために回転しているモータ50の回転をより短時間で低下させることができ、アクセルがオンされてから、選択したギヤ段をオンしてモータ50の駆動力を駆動輪80に伝達し、モータ走行で車両1の走行を開始させるまでにかかる時間をより短くすることができる。これにより、アクセルを踏んでから発進するまでの時間をより短くすることができ、ドライバビリティを高くすることができる。また、低速ではエネルギの利用効率が悪いエンジン走行ではなく、モータ走行で走行を開始させることができるため、エネルギの利用効率も高くすることができる。
また、上記実施例では、より短時間でモータ50の回転数を低下、つまりモータ50の回転を減速させることができるため、ステップS12でアクセルがオンであると判定したら、モータ制御手段106により、モータ50を回生制動させ、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させ、クラッチ制御手段104により、選択したクラッチのクラッチ圧をPxとするようにしたが、これにも限定されない。ハイブリッド車両1は、ステップS12でアクセルがオンとされたら、少なくとも、図3に示す実施例のように、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させ、モータ50の回転を減速させる力を作用させればよく、上述した3つの手段のうち2つの手段のみを作動させるようにしてもよい。つまり、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させ、かつ、モータ制御手段106により、モータ50を回生制動させてもよく、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させ、かつ、クラッチ制御手段104により、クラッチ圧をPxとしてもよい。
また、モータ制御手段106により、モータ50を回生制動させることと、コンプレッサ制御手段102により、A/Cコンプレッサ90の容量を増大させることと、クラッチ制御手段104により、選択したクラッチのクラッチ圧をPxとすることとの処理順序は、特に限定されず、同時に行っても、順番に行ってもよい。
また、本実施例において、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1出力軸37から駆動輪82と係合する動力統合ギヤ58に伝達し、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2出力軸48から動力統合ギヤ58に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40の態様は、これに限定されるものではない。第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ入力軸27,28で受けた機械的動力を、駆動輪82に向けて伝達可能であれば良く、例えば、第1変速機構30と第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27、第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪82と係合する共通の出力軸に伝達するものとしても良い。
また、本実施例において、駆動装置10は、内燃機関5の機関出力軸8及びモータ50のロータ52からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうち少なくとも一方により変速して、動力統合ギヤ58から、推進軸66、終減速装置70の差動機構74を介して駆動輪82に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40から駆動輪82に向けての動力伝達の態様は、これに限定されるものではない。駆動装置10において、第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27及び第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪82に向けて伝達可能であれば良く、例えば、動力統合ギヤ58、又は当該動力統合ギヤ58と噛み合う第1及び第2駆動ギヤ37c,48cが、直接に差動機構74のリングギヤ72を駆動するものとしても良い。
ここで、図2に示す実施例では、第1入力軸27と第2入力軸28とを、所定の間隔を空けて平行に延びるよう配置したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1変速機構30の第1入力軸27と第2変速機構40の第2入力軸28は同軸に配置してもよい。図7は、変形例のデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。以下、図7を用いてデュアルクラッチ機構20の詳細な構造の他の一例について説明する。図7に示すように、デュアルクラッチ機構20は、機関出力軸8と結合されているクラッチハウジング14aと、クラッチハウジング14aに収容された摩擦板27a,28aとを有する。クラッチハウジング14aは、機関出力軸8と結合されており、機関出力軸8と一体に回転する。クラッチハウジング14aは、後述する摩擦板27a,28aが収容されている。
ここで、本実施例においては、第1変速機構30の第1入力軸27と、第2変速機構40の第2入力軸28は、同軸に配置されており、2重軸構造となっている。具体的には、第2入力軸28は、中空シャフトであり、第2入力軸28内には、第1入力軸27が延びている。内側の軸である第1入力軸27は、外側の軸である第2入力軸28に比べて軸方向に長く構成されている。このように同軸上に配置された第1変速機構及び第2変速機構は、機関出力軸8側から駆動輪82側に向かうに従って、第2変速機構40の各変速段のメインギヤ42a,44a,49aが第2入力軸28に配設され、次に、第1変速機構30の各変速段のメインギヤ31a,33a,35aが、第1入力軸27の、第2入力軸28よりも機関出力軸8から離れた位置に配設されている。
摩擦板27aは、円盤形状であり、第1入力軸27の端部が結合されている。摩擦板28aは、円盤形状であり、第2入力軸28の端部が結合されている。また、摩擦板28aの中心部には、開口が形成されており、この開口には、第1入力軸27が通されている。摩擦板27a,28aは、上述したように、クラッチハウジング14a内に収容されている。
第1クラッチ21は、摩擦板27aと、摩擦板27aに対向してクラッチハウジング14a内に設けられた摩擦相手板と、摩擦相手板を駆動するアクチュエータとで構成される。第1クラッチ21は、摩擦相手板により摩擦板27aをクラッチハウジング14aに押し付けることで、機関出力軸8と、第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させる。
第2クラッチ22は、摩擦板28aと、摩擦板28aに対向してクラッチハウジング14a内に設けられた摩擦相手板と、摩擦相手板を駆動するアクチュエータとで構成される。第2クラッチ22は、摩擦相手板により摩擦板28aをクラッチハウジング14aに押し付けることで、機関出力軸8と、第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させる。
このように、第1入力軸と第2入力軸とを同軸上に配置してもよい。また、上述した実施例では、変速機構に対応して、出力軸を設けたが、2つの入力軸とそれぞれの変速機構とが対応付けられていれば、出力軸は同一としてもよい。なお、ギヤ段は、変速比が高い順番または、低い順番に交互に、第1入力軸と係合するギヤ段と、第2入力軸に係合するギヤ段となるようにする。つまり、奇数のギヤ段が一方の入力軸と係合し、偶数のギヤ段が他方の入力軸と係合するようにする。
また、上記実施例では、変速機として、内燃機関と連結された機関出力軸と係合する2つのクラッチと、2つのクラッチにそれぞれ接続された入力軸と、それぞれの入力軸に係合された変速機構とを有するデュアルクラッチ式変速機を用いたが、これに限定されず、機関出力軸と係合するクラッチ、入力軸がそれぞれ1つの変速機の場合も同様に用いることができる。なお、変速機としてデュアルクラッチ式変速機を用いることで、駆動力抜けを発生させることなく、ギヤ段の切換ができる。また、モータ走行に使用するギヤ段と、ファイアリング前に内燃機関の回転数を上昇させるために、モータの駆動力を内燃機関に伝達させるギヤ段とを異なるギヤ段とすることができる。
なお、本実施例に係るハイブリッド車両では、補機として、作動することによりエアコンディショナに圧縮した冷媒を吐出して供給し、且つロータの1回転あたりの冷媒の吐出量であるコンプレッサ容量を変化可能な可変容量式のA/Cコンプレッサを用いたが、これに限定されない。補機としては、ロータが所定方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化させることができるものであればよく、例えば、負圧式のブレーキ倍力装置の負圧タンクに負圧を供給する可変容量式の負圧ポンプを用いることもできる。補機として負圧ポンプを用いる場合は、負圧ポンプの負圧供給能力を増大させること、および、モータの回転を止める力を作用させることができ、モータの回転数をより迅速に低下させることができる。