しかし、発明者は、上述した高周波数成分増幅補償を実行したとしても空燃比センサの出力値が適切に補償されない場合があることを見出した。以下、この点について述べる。
上述したように、空燃比センサが劣化すると、その出力及び応答速度等(以下、これらのパラメータを総称して「応答性」とも称呼する。)が低下する。劣化した空燃比センサの出力値は、空燃比センサが配設されている部位を流れる排ガスの空燃比が変動したとき、その変動に十分に追従することができない。具体的に述べると、空燃比センサが劣化すると、排ガスの空燃比の変動のうちの高周波数成分が検知され難くなるとともに、その出力値の大きさが空燃比センサが劣化していないときに比較して小さくなる(即ち、出力値の波形の振幅が小さくなる。)傾向がある。
一方、空燃比センサの出力値には、高周波ノイズが混入する場合がある。上述したように、劣化した空燃比センサは、劣化していない空燃比センサの出力値(以下、「通常出力値」とも称呼する。)に比較して振幅が小さく且つ高周波数成分が少ない出力値(以下、「劣化出力値」とも称呼する。)を出力する傾向がある。そのため、一般に、劣化出力値に上記高周波ノイズが混入したときの高周波ノイズの影響は、通常出力値に高周波ノイズが混入したときの高周波ノイズの影響よりも大きい。高周波ノイズが混入した劣化出力値に対して上述した「高周波数成分増幅補償」を行うと、劣化出力値に混入した高周波ノイズが増幅されるので、更に高周波ノイズの影響が大きくなる。
上述したように、上記空燃比制御装置は、空燃比センサの出力値に基づいて排ガスの空燃比を算出するようになっている。高周波ノイズの影響が十分に小さいとき、排ガスの実際の空燃比(以下、便宜上、「実空燃比」とも称呼する。)と空燃比センサの出力値に基づいて算出される空燃比(以下、「検出空燃比」とも称呼する。)とは、空燃比制御を実行する上で問題が無い程度に一致する。しかし、高周波ノイズの影響が大きいとき、実空燃比と検出空燃比との差が大きくなるので、機関の空燃比を適切に制御することができない。その結果、機関のエミッションが悪化するという問題が生じる。
更に、空燃比センサが劣化するとき、空燃比がリッチ側からリーン側に変動する場合の空燃比センサの応答性(以下、「リーン方向応答性」とも称呼する。)と空燃比がリーン側からリッチ側に変動する場合の空燃比センサの応答性(以下、「リッチ方向応答性」とも称呼する。)とが同程度に低下しない場合がある。なお、以下では、リーン方向応答性及びリッチ方向応答性が同程度に低下する劣化を「対称劣化」とも称呼する。
リーン方向応答性又はリッチ方向応答性のうちの何れか一方のみが低下したとき、又は、リーン方向応答性の低下の度合いとリッチ方向応答性の低下の度合いとが異なるとき(以下、これらの劣化を「非対称劣化」とも称呼する。)、空燃比センサの出力値は、実空燃比がリーン方向へ変動した場合とリッチ方向へ変動した場合とにおいて異なる挙動を示す(以下、出力値のこのような挙動を「非対称応答」とも称呼する。)。一般に、空燃比センサが非対称劣化するときの機関のエミッションは、空燃比センサが対称劣化するときの機関のエミッションよりも悪化する。
上述した「高周波数成分増幅補償」は、空燃比センサの出力値「全体」に対して行われる。従って、非対称応答を示している出力値に対して「高周波数成分増幅補償」を行ったとしても、非対称応答は解消されない。更に、非対称応答を示している出力値「全体」に対して「高周波数成分増幅補償」を行うと、応答性が高い方向の出力値の高周波数成分が過度に増幅される。空燃比センサの出力値がこのように補償されたとき、上記同様に実空燃比と検出空燃比との差が大きくなるので、機関の空燃比を適切に制御することができない。これらの結果、機関のエミッションが更に悪化するという問題も生じる。
本発明は、上記課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、空燃比センサが非対称に劣化した場合にもその出力値を適切に補正し、もって、機関のエミッションを良好に維持することができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
より具体的に述べると、本発明の内燃機関の第1の空燃比制御装置は、
(1)内燃機関の排気通路に配設されるとともに配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する空燃比センサと、
(2)前記排ガスの空燃比が増大したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリーン方向応答時定数、及び、前記排ガスの空燃比が減少したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリッチ方向応答時定数を取得する応答時定数取得手段と、
(3)基準応答時定数を、前記リーン方向応答時定数及び前記リッチ方向応答時定数のうちの何れか大きい方の応答時定数である劣化側応答時定数に基づいて同劣化側応答時定数以上となるように決定するとともに、同基準応答時定数に対応する時定数を有するローパスフィルタ処理を前記空燃比センサの出力値に対して施すことによって処理後出力値を得るセンサ出力処理手段と、
(4)前記処理後出力値に基づいて前記機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比に一致させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、
を備える。
上記構成によれば、排ガスの空燃比が増大する(リッチ側からリーン側に変動する)ときの空燃比センサの応答時定数が、「リーン方向応答時定数」として取得される。更に、排ガスの空燃比が減少する(リーン側からリッチ側に変動する)ときの空燃比センサの応答時定数が、「リッチ方向応答時定数」として取得される。
本発明において、「リーン方向応答時定数」及び「リッチ方向応答時定数」は、例えば以下のように定めることができる。
「リーン方向応答時定数」は、実空燃比を「理論空燃比stoichよりも所定値αだけ小さい空燃比(stoich−α)を始点とし、同始点から終点である理論空燃比stoichよりも所定値αだけ大きい空燃比(stoich+α)まで」ステップ状に変化させたとき、検出空燃比が「同始点を基準として同始点から同終点までの空燃比の変化量(+2α)のうちの所定割合(例えば、63.2%)の空燃比」に達するまでの「時間」とすることができる。
「リッチ方向応答時定数」は、実空燃比を「理論空燃比stoichよりも所定値αだけ大きい空燃比(stoich+α)を始点とし、同始点から終点である理論空燃比stoichよりも所定値αだけ小さい空燃比(stoich−α)まで」ステップ状に変化させたとき、検出空燃比が「同始点を基準として同始点から同終点までの空燃比の変化量(−2α)のうちの所定割合(例えば、63.2%)の空燃比」に達するまでの「時間」とすることができる。
即ち、応答時定数は「空燃比センサの応答性を示す指標」であり、その値が小さいほど「空燃比センサの出力値に基づいて算出される空燃比(検出空燃比)」が「排ガスの実際の空燃比(実空燃比)」に速やかに追従する。即ち、応答時定数の値が「小さい」ほど空燃比センサの応答性が「高い」。
第1の空燃比制御装置においては、上記「リーン方向応答時定数」及び「リッチ方向応答時定数」のうちの何れか「大きい」方の応答時定数(以下、「劣化側応答時定数」とも称呼する。)「以上」となるように、「基準応答時定数」が決定される。即ち、基準応答時定数は、空燃比センサのリーン方向応答性及びリッチ方向応答性のうちの応答性が「低い」方向の応答性(以下、「劣化側応答性」とも称呼する。)、又は、劣化側応答性よりも更に「低い」応答性に対応する応答時定数である。
そして、上述した基準応答時定数に対応する時定数を有するローパスフィルタ処理が、空燃比センサの出力値に対して施される。更に、このように処理された出力値に基づき、機関の空燃比がフィードバック制御される。
従って、上記ローパスフィルタ処理により、空燃比センサの出力値のうちの基準応答時定数によって定まるカットオフ周波数よりも大きい周波数成分が、空燃比センサの出力値から実質的に除去される。この結果、ローパスフィルタ処理が施された空燃比センサの出力値(以下、「処理後出力値」とも称呼する。)は、実質的に、上記カットオフ周波数以下の周波数成分のみによって構成される。即ち、上記処理によって空燃比センサの「応答性が高い側の出力値」が「応答性が低い側の出力値」に合わせこまれるので、処理後出力値は対称な応答性を示すようになる。
その結果、空燃比フィードバック制御は対称な応答性を示す処理後出力値に基づいて実行されるので、機関の空燃比は適切に制御される。従って、機関のエミッションを良好に維持することができる。
ここで、上述した「基準応答時定数」は、「劣化側応答時定数そのもの」であってもよく、又は、「劣化側応答時定数に所定の正の値が加算された値」であってもよい。ここで、「加算される正の値」は、機関の運転状態、機関に要求される排ガス浄化能力及び燃費等を考慮した適値とすることができる。
また、「基準応答時定数に対応する時定数」は、「基準応答時定数そのもの」でもよく、又は、「基準応答時定数に所定の正の値が加算された値」であってもよい。ここで、「加算される正の値」は、上記同様、機関の運転状態、機関に要求される排ガス浄化能力及び燃費等を考慮した適値とすることができる。
更に、第1の空燃比制御装置において、
前記センサ出力処理手段(3)は、
前記基準応答時定数を前記機関が第1の運転状態にあるときの前記劣化側応答時定数に基づいて決定するように構成され、且つ、
前記機関が前記第1の運転状態とは異なる第2の運転状態にある場合、「前記劣化側応答時定数を同第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値」に対応する時定数を前記ローパスフィルタの時定数として採用するように構成されることが好適である。
上記「劣化側応答時定数を第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値に対応する時定数」は、「劣化側応答時定数を第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値そのもの」でもよく、又は、「劣化側応答時定数を第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値に所定の正の値が加算された値」であってもよい。ここで、「加算される正の値」は、機関の運転状態、機関に要求される排ガス浄化能力及び燃費等を考慮した適値とすることができる。
空燃比センサの出力値は、一般に、測定対象である排ガスの状態(例えば、排ガスの流量、圧力、温度及び成分等)の影響を受ける。従って、排ガスの状態に影響を与える機関の運転状態(例えば、負荷、機関回転速度、及び、筒内吸入空気量等のパラメータ等)は、空燃比センサの応答性(従って、劣化側応答時定数)を変化させ得る。そこで、上記構成においては、機関の第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて「第1の運転状態にて得られた劣化側応答時定数」が補正されるとともに、補正された劣化側応答時定数に対応する時定数が第2の運転状態におけるローパスフィルタの時定数として採用される。
上記構成により、ローパスフィルタの時定数を運転状態に応じて適切に決定することができる。即ち、第1の運転状態と第2の運転状態とにおいて劣化側応答時定数が変化する場合であっても、ローパスフィルタの時定数を各運転状態における劣化側応答時定数以上の値に設定することができる。従って、空燃比センサの出力値に過剰又は過小なローパスフィルタ処理を施すことを避けることができる。この結果、機関のエミッションを更に良好に維持することができる。
ここで、「機関の運転状態に応じたパラメータ」として採用されるパラメータは、空燃比センサの応答性に影響を及ぼすパラメータであり、機関に要求される排ガス浄化性能及び燃費等を考慮して適宜決定することができる。例えば、「機関の運転状態に応じたパラメータ」は、機関の負荷、機関回転速度及び筒内吸入空気量のうちの一つ又は任意の二以上の組み合わせであってもよい。
また、第1の空燃比制御装置において、
前記センサ出力処理手段(3)は、
前記基準応答時定数を前記機関が第1の運転状態にあるときの前記劣化側応答時定数に基づいて決定するように構成され、且つ、
前記機関が前記第1の運転状態とは異なる第2の運転状態にある場合、「前記基準応答時定数を同第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値」に対応する時定数を前記ローパスフィルタの時定数として採用するように構成されることが好適である。
上述したように、劣化側応答時定数は、機関の運転状態(例えば、負荷、機関回転速度、及び、筒内吸入空気量等のパラメータ)によって変化し得る。そこで、上記構成においては、機関の運転状態に応じたパラメータに基づいて「基準応答時定数」が補正されるとともに、「補正された基準応答時定数」に対応する時定数がローパスフィルタの時定数として採用される。
上記構成によっても、ローパスフィルタの時定数を運転状態に応じて適切に決定することができる。即ち、第1の運転状態と第2の運転状態とにおいて劣化側応答時定数が変化する場合であっても、ローパスフィルタの時定数を各運転状態における劣化側応答時定数以上の値に設定することができる。従って、空燃比センサの出力値に過剰又は過小なローパスフィルタ処理を施すことを避けることができる。この結果、機関のエミッションを更に良好に維持することができる。
この場合においても、「機関の運転状態に応じたパラメータ」として採用されるパラメータは、空燃比センサの応答性に影響を及ぼすパラメータであり、機関に要求される排ガス浄化性能及び燃費等を考慮して適宜決定することができる。例えば、「機関の運転状態に応じたパラメータ」は、機関の負荷、機関回転速度及び筒内吸入空気量のうちの一つ又は任意の二以上の組み合わせであってもよい。
本発明の第2の空燃比制御装置は、
(1)内燃機関の排気通路に配設された触媒と、
(2)前記排気通路であって前記触媒よりも上流側の部位に配設されるとともに同配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する上流側空燃比センサと、
(3)前記排気通路であって前記触媒よりも下流側の部位に配設されるとともに同配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する下流側空燃比センサと、
を備えた内燃機関に適用される。
第2の空燃比制御装置は、
(4)前記上流側空燃比センサの出力値に応じた値と理論空燃比に対応する上流側目標値との偏差に対してハイパスフィルタ処理を施した値、及び、前記上流側空燃比センサの出力値に応じた値に対してハイパスフィルタ処理を施した値と理論空燃比に対応する上流側目標値との偏差の何れか一方に基づき、前記機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御するためのメインフィードバック補正量を、少なくとも一つのゲインを含む第1フィードバック制御係数を用いて算出するメインフィードバック補正量算出手段と、
(5)前記下流側空燃比センサの出力値に応じた値と理論空燃比に対応する下流側目標値との偏差に対してローパスフィルタ処理を施した値に基づき、前記機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御するためのサブフィードバック補正量を、前記メインフィードバック補正量の算出とは独立して算出するサブフィードバック補正量算出手段と、
(6)前記メインフィードバック補正量及び前記サブフィードバック補正量に基づいて前記機関に供給される混合気の空燃比を理論空燃比に一致するようにフィードバック制御する空燃比制御手段と、
(7)前記排ガスの空燃比が増大したときの前記上流側空燃比センサの応答時定数であるリーン方向応答時定数、及び、前記排ガスの空燃比が減少したときの前記上流側空燃比センサの応答時定数であるリッチ方向応答時定数を取得する応答時定数取得手段と、
(8)前記リーン方向応答時定数と前記リッチ方向応答時定数との差の絶対値である診断指標値が所定の許容値よりも大きいか否かを判定する空燃比センサ診断手段と、
を備える。
更に、第2の空燃比制御装置において、
前記メインフィードバック補正量算出手段(4)は、
前記空燃比センサ診断手段によって前記診断指標値が前記許容値よりも大きいと判定されたとき、前記第1フィードバック制御係数に代え、前記第1フィードバック制御係数に含まれるゲインのうちの少なくとも一つのゲインを小さくして得られる第2フィードバック制御係数を用いて前記メインフィードバック補正量を算出するように構成される。
第2の空燃比制御装置においては、触媒の上流側に配設された上流側空燃比センサからの出力値に基づき、「メインフィードバック補正量」が算出される。また、触媒の下流側に配設された下流側空燃比センサの出力値に基づき、「サブフィードバック補正量」が算出される。そして、「メインフィードバック補正量」及び「サブフィードバック補正量」に基づき、機関に供給される混合気の空燃比が理論空燃比に一致するように制御される。
具体的に述べると、「メインフィードバック補正量」は、「上流側空燃比センサの出力値に応じた値と理論空燃比との偏差に対してハイパスフィルタ処理を施した値」及び「上流側空燃比センサの出力値に応じた値に対してハイパスフィルタ処理を施した値と理論空燃比との偏差」の何れか一方に基づき、少なくとも一つのゲインを含む第1フィードバック制御係数を用いて算出される。
また、「サブフィードバック補正量」は、「下流側空燃比センサの出力値に応じた値と理論空燃比に対応する下流側目標値との偏差に対してローパスフィルタ処理を施した値」に基づき、上述したメインフィードバック補正量の算出とは独立して算出される。
上述したように、第2の空燃比制御装置は、上流側空燃比センサの出力値に基づく値にハイパスフィルタ処理を施すとともに、下流側空燃比センサの出力値に基づく値にローパスフィルタ処理を施す。この理由について以下に述べる。
第2の空燃比制御装置に用いられる触媒(三元触媒)は、セラミック等からなる担持体に触媒成分(白金及びロジウム等の貴金属)及び酸素吸蔵物質(CeO2等)を担持している。酸素吸蔵物質は、空燃比が理論空燃比よりもリーン側である排ガスが触媒に流入するときに酸素を吸蔵するとともに、空燃比が理論空燃比よりもリッチ側である排ガスが触媒に流入するときに触媒活性点に酸素を放出する機能(所謂酸素吸蔵能力)を有している。このため、触媒「上流」の排ガスの空燃比の変動における高周波数成分、及び、同変動における振幅(理論空燃比からの偏移量)が小さい低周波数成分は、触媒が有する酸素吸蔵能力により吸収され、触媒「下流」の排ガスの空燃比の変動として現れない。
一方、触媒「上流」の排ガスの空燃比の変動における振幅が大きい低周波数成分は、触媒の酸素吸蔵能力によっては吸収され難いので、少し遅れて触媒「下流」の排ガスの空燃比の変動として現れる。この結果、上流側空燃比センサの出力値と下流側空燃比センサの出力値とが理論空燃比に対して互いに逆方向に偏移した空燃比を示す値となる場合がある。この場合、メインフィードバック制御に基づく機関の空燃比制御とサブフィードバック制御に基づく機関の空燃比制御とが互いに干渉し、その結果、良好な空燃比制御を行うことができない。
そこで、上流側空燃比センサの出力値の変動における周波数成分のうちの触媒「下流」の空燃比の変動として現れ得る程度の周波数成分である「所定の周波数(以下、「第1カットオフ周波数」とも称呼する。)以下の低周波数成分」を実質的に除去(ハイパスフィルタ処理)した後の上流側空燃比センサの出力値をメインフィードバック制御に使用すれば、空燃比制御が干渉することを防ぐことができる。
また、下流側空燃比センサの出力値の変動における周波数成分のうちの「所定の周波数(以下、「第2カットオフ周波数」とも称呼する。)以上の高周波数成分」を実質的に除去(ローパスフィルタ処理)した後の下流側空燃比センサの出力値をサブフィードバック制御に使用すれば、本来は触媒下流に現れることのない「空燃比の変動の高周波数成分」及び「高周波数の外乱成分(例えば、上述した高周波ノイズ)」が下流側空燃比センサの出力値に混入する場合であっても、それらの成分を除去した後の出力値をサブフィードバック制御に使用することができる。これにより、機関の空燃比を確実且つ正確に制御することができる。
以上の観点に基づき、上流側空燃比センサの出力値に基づく値にハイパスフィルタ処理が施され、下流側空燃比センサの出力値に基づく値にローパスフィルタ処理が施される。
更に、第2の空燃比制御装置は、第1の空燃比制御装置と同様にリーン方向応答時定数及びリッチ方向応答時定数を取得するとともに、これらの差の絶対値(診断指標値)が所定の許容値よりも大きいとき、第1フィードバック制御係数に代えて「第1フィードバック制御係数に含まれるゲインのうちの少なくとも一つのゲインを小さくして得られる第2フィードバック制御係数」を用いてメインフィードバック制御を行う。即ち、第2の空燃比制御装置は、上流側空燃比センサの非対称劣化を監視するとともに、上流側空燃比センサが非対称劣化したときには「第2フィードバック制御係数」を用いてメインフィードバック制御を行う。
フィードバック制御係数に含まれるゲインの大きさは、フィードバック補正量の大きさに影響を与える。また、上流側空燃比センサの出力値に対して上述したハイパスフィルタ処理が施されることにより、その高周波数成分(排ガスの空燃比の変動のうちの高周波数成分)がメインフィードバック制御に用いられる。そこで、第2制御装置は、上流側空燃比センサが非対称劣化したときに「第2フィードバック制御係数」を採用することより、排ガスの空燃比の変動のうちの「高周波数成分」に基づく補正量を小さくする。これにより、サブフィードバック制御により算出される「低周波数成分に基づく補正量」に対するメインフィードバック制御により算出される「高周波数成分に基づく補正量」の影響を小さくすることができる。
この結果、上流側空燃比センサの非対称応答による影響を出来る限り小さくすることができ、もって、機関のエミッションを良好に維持することができる。
ここで、本発明における「理論空燃比」は、厳密な理論空燃比に限られない。上述したように、触媒は、触媒に流入する排ガスの空燃比が所定の空燃比幅内にある場合、高い効率にて未燃物と窒素酸化物とを浄化することができる。そこで、本発明において、この空燃比幅内の空燃比を「理論空燃比」と表現する。
メインフィードバック制御及びサブフィードバック制御に用いる「第1カットオフ周波数」及び「第2カットオフ周波数」は、機関に要求される排ガス浄化性能及び燃費等を勘案した適値とすることができる。また、第1カットオフ周波数及び第2カットオフ周波数は、同一であっても異なってもよい。
「第1フィードバック制御係数」及び「第2フィードバック制御係数」に含まれるゲインは、機関に要求される排ガス浄化性能及び燃費等を勘案して決定することができる。
以下、本発明による内燃機関の制御装置の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る制御装置(以下、「第1制御装置」とも称呼する。)について説明する。
<装置の概要>
図1は、第1制御装置が適用される内燃機関10の一例を示す概略断面図である。図1は、第1制御装置を4サイクル火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。なお、図1は、特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、変速制御装置80(電磁弁を含む油圧回路)により制御される変速装置90(自動変速機)と、を含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21の壁面及びピストン22の上面は、シリンダヘッド部30の下面とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角及びリフト量を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
なお、機関10は、上記インジェクタ39に代えて或いは上記インジェクタ39に加えて、燃料を燃焼室25内に直接噴射する筒内インジェクタ(図示省略)を備えてもよい。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42及び吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットルバルブ43を備えている。スロットルバルブ43は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ43aにより吸気管41内で回転駆動されるようになっている。
排気系統50は、各気筒の排気ポート34に一端が接続された複数の枝部を含むエキゾーストマニホールド51、各エキゾーストマニホールド51の枝部の他端であって総ての枝部が集合している集合部に接続されたエキゾーストパイプ52、エキゾーストパイプ52に配設された触媒53を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
なお、排気系統50は、触媒53に加えて、エキゾーストパイプ52の触媒53よりも下流側に下流側触媒(図示省略)を備えてもよい。
触媒53(上記下流側触媒が配設される場合、触媒53及び下流側触媒のそれぞれ。以下同じ。)は、所謂、ジルコニア等のセラミックからなる担持体に「白金等の貴金属からなる触媒成分」及び「セリア(CeO2)等の酸素吸蔵物質」を担持する三元触媒装置(排気浄化触媒)である。各触媒は、触媒物質の温度が活性温度以上であり、且つ、触媒53に流入するガスの空燃比が理論空燃比である場合、未燃物(HC,CO等)と窒素酸化物(NOx)との酸化還元反応を促進し、流入するガスを浄化する。
この制御装置は、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、カムポジションセンサ63、クランクポジションセンサ64、水温センサ65、上流側空燃比センサ66、下流側空燃比センサ67、アクセル開度センサ68及び車速センサ(図示省略)を備えている。
エアフローメータ61は、吸気管41内を流れる吸入空気の質量流量(機関10に単位時間あたりに吸入される空気の質量。本発明においては、単に「流量」とも称呼する。)Gaに応じた信号を出力するようになっている。
スロットルポジションセンサ62は、スロットルバルブ43の開度(スロットルバルブ開度)を検出し、スロットルバルブ開度TAを表す信号を出力するようになっている。
カムポジションセンサ63は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。
クランクポジションセンサ64は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、後述する電気制御装置70によって機関回転速度NEに変換される。
水温センサ65は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。
上流側空燃比センサ66は排気通路に配設されている。上流側空燃比センサ66の配設位置は、エキゾーストマニホールド51の枝部の集合部又はその集合部よりも下流側である。上流側空燃比センサ66は、周知の限界電流式の酸素濃度センサである。上流側空燃比センサ66は、図2に示したように、「被検出ガス」の空燃比A/Fに応じた電圧である出力値Vabyfsを出力するようになっている。従って、本実施形態において、上流側空燃比センサ66は、排気通路であって上流側空燃比センサ66が配設されている部位を流れるガスの空燃比(従って、触媒53に流入するガスの空燃比、及び、機関に供給される混合気の空燃比)に応じた出力値Vabyfsを出力するようになっている。
この出力値Vabyfsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比であるときに値Vstoichに一致する。出力値Vabyfsは、被検出ガスの空燃比が大きくなる(リーンになる)ほど増大する。上流側空燃比センサ66は、被検出ガスの空燃比の変化に対して出力が連続的に変化する広域空燃比センサである。
後述する電気制御装置70は、図2に示したテーブル(マップ)Mapabyfsを記憶しており、そのテーブルMapabyfsに実際の出力値Vabyfsを適用することによって空燃比を検出する(検出空燃比abyfsを取得する)ようになっている。以下、上流側空燃比センサ66の出力値VabyfsとテーブルMapabyfsとによって取得される空燃比を、「上流側空燃比abyfs」とも称呼する。
下流側空燃比センサ67は、排気通路であって触媒53よりも下流側に配設されている。なお、下流側触媒が配設される場合、下流側空燃比センサ67は、触媒53と下流側触媒との間の排気通路に配設されることが好適である。下流側空燃比センサ67は、周知の起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニアを用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。下流側空燃比センサ67は、排気通路であって下流側空燃比センサ67が配設されている部位を流れるガスである被検出ガスの空燃比(機関に供給される混合気の空燃比の時間的平均値)に応じた出力値Voxsを発生するようになっている。
この出力値Voxsは、図3に示したように、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチのとき最大出力値max(例えば、約0.9V)となり、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンのとき最小出力値min(例えば、約0.1V)となり、被検出ガスの空燃比が理論空燃比であるとき最大出力値maxと最小出力値minの略中間の電圧Vst(中間電圧Vst、例えば、約0.5V)となる。更に、この出力値Voxsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比へと変化する際に最大出力値maxから最小出力値minへと急変し、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比からリッチな空燃比へと変化する際に最小出力値minから最大出力値maxへと急変する。
再び、図1を参照すると、アクセル開度センサ68は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
車速センサ(図示省略)は、例えば駆動輪周辺に設置され、車速SPDを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、ROM72、RAM73、バックアップRAM74、及び、ADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース75は、上記センサ61〜68と接続され、CPU71にセンサ61〜68からの信号を供給するようになっている。更に、インターフェース75は、CPU71の指示に応じて各アクチュエータ(可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39及びスロットルバルブアクチュエータ43a等)に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
<空燃比制御>
以下、第1制御装置における空燃比制御を説明する。
第1制御装置は、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに基づいて得られる上流側空燃比abyfsを上流側目標空燃比abyfrに一致させるための「メインフィードバック制御」、及び、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsを下流側目標値Voxsrefに一致させるための「サブフィードバック制御」を含む空燃比フィードバック制御を実行する。ここで、第1制御装置は、上流側空燃比センサ66の応答性の劣化を随時判定するとともに、上流側空燃比センサ66が「非対称劣化」していると判定される場合、「その出力値Vabyfsに対してローパスフィルタ処理を施して得られる処理後出力値Vabyfslow」に基づいてメインフィードバック制御を実行する。
具体的には、まず、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfs(上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判定される場合、処理後出力値Vabyfslow)が、「下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとの出力偏差量Dvoxsを小さくするように算出されたサブフィードバック補正量Vafsfb」により補正される。そして、この補正によって得られた「フィードバック制御用出力値Vabyfc」が上述したテーブルMapabyfs(図2を参照。)に適用されることにより、「フィードバック制御用空燃比(補正検出空燃比)abyfsc」が算出される。更に、このフィードバック制御用空燃比abyfscが「上流側目標空燃比abyfr」に一致するように燃料噴射量が制御される。第1制御装置においては、このように空燃比フィードバック制御が行われる。以下にて、この空燃比フィードバック制御をより詳細に説明する。
1.メインフィードバック制御
より具体的に述べると、第1制御装置は、フィードバック制御用出力値Vabyfcを下記(1)式に従って算出する。(1)式において、Vabyfsは上流側空燃比センサ66の出力値、Vafsfbは下流側空燃比センサ67の出力値Voxsに基づいて算出されるサブフィードバック補正量である。これらの値は、何れも現時点において得られている値である。サブフィードバック補正量Vafsfbの算出方法は後述される。
Vabyfc=Vabyfs+Vafsfb ・・・(1)
第1制御装置は、下記(2)式に示したように、フィードバック制御用出力値Vabyfcを図2に示したテーブルMapabyfsに適用することによってフィードバック制御用空燃比abyfscを得る。
abyfsc=Mapabyfs(Vabyfc) ・・・(2)
一方、第1制御装置は、現時点(時点k)にて気筒内に吸入される空気量である筒内吸入空気量Mc(k)を求める。筒内吸入空気量Mc(k)は、各気筒の吸気行程毎に、その時点のエアフローメータ61の出力Gaと機関回転速度NEとに基づいて求められ(例えば、エアフローメータ61の出力Gaに対して一次遅れ処理を施した値を機関回転速度NEで除することにより求められ)、各吸気行程に対応されながらRAM73内に記憶される。筒内吸入空気量Mc(k)は、周知の空気モデル(吸気通路における空気の挙動を模した物理法則に従って構築されたモデル)により算出されてもよい。
第1制御装置は、下記(3)式に示したように、その筒内吸入空気量Mc(k)を現時点における上流側目標空燃比abyfr(k)によって除すことにより基本燃料噴射量Fbaseを求める。なお、上流側目標空燃比abyfr(k)は、各吸気行程に対応されながらRAM73内に記憶される。
Fbase=Mc(k)/abyfr(k) ・・・(3)
第1制御装置は、下記(4)式に示したように、基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック補正量DFiにより補正する(基本燃料噴射量Fbaseにメインフィードバック補正量DFiを加える)ことにより、最終燃料噴射量Fiを算出する。そして、第1制御装置は、最終燃料噴射量Fiの燃料を吸気行程を迎えている気筒のインジェクタ39から噴射する。メインフィードバック補正量DFiの算出方法は後述される。
Fi=Fbase+DFi ・・・(4)
上記(4)式におけるメインフィードバック補正量DFiは、以下のようにして求められる。
まず、第1制御装置は、下記(5)式に示したように、現時点よりもNサイクル(即ち、N・720°クランク角)「前」の時点における筒内吸入空気量Mc(k−N)を、上記フィードバック制御用空燃比(補正検出空燃比)abyfscにて除すことにより、現時点よりもNサイクル前の時点において燃焼室25に実際に供給された燃料の量である「筒内供給燃料量Fc(k−N)」を求める。
Fc(k−N)=Mc(k−N)/abyfsc ・・・(5)
このように、現時点からNサイクル前の筒内燃料供給量Fc(k−N)を求めるために、現時点からNサイクル前の筒内吸入空気量Mc(k−N)をフィードバック制御用空燃比abyfscで除するのは、燃焼室25内で燃焼された混合気が上流側空燃比センサ66に到達するまでにNサイクルに相当する時間を要しているからである。
次に、第1制御装置は、下記(6)式に示したように、現時点からNサイクル前の筒内吸入空気量Mc(k−N)を現時点からNサイクル前の上流側目標空燃比abyfr(k−N)で除すことにより現時点からNサイクル前の「目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)」を求める。
Fcr(k−N)=Mc(k−N)/abyfr(k−N) ・・・(6)
第1制御装置は、下記(7)式に示したように、現時点からNサイクル前の目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)から筒内燃料供給量Fc(k−N)を減じた値を「筒内燃料供給量偏差DFc」として設定する。この筒内燃料供給量偏差DFcは、「Nサイクル前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分」を表す量となる。
DFc=Fcr(k−N)−Fc(k−N) ・・・(7)
その後、第1制御装置は、下記(8)式に基づいてメインフィードバック補正量DFiを求める。この(8)式において、Gpは予め設定された比例ゲイン、Giは予め設定された積分ゲインである。(8)式の係数KFBは、機関回転速度NE及び筒内吸入空気量Mc等により可変とすることが好適である。なお、ここでは係数KFBを「1」としている。また、(8)式の値SDFcは筒内燃料供給量偏差DFcの積分値である。即ち、第1制御装置は、フィードバック制御用空燃比abyfscと上流側目標空燃比abyfrとに基づく比例積分制御によりメインフィードバック補正量DFiを算出する。このメインフィードバック補正量DFiは上記(4)式に示したように基本燃料噴射量Fbaseに加えられ、それにより、最終的な燃料噴射量Fiが算出される。
DFi=(Gp・DFc+Gi・SDFc)・KFB ・・・(8)
更に、第1制御装置は、随時、上流側空燃比センサ66の応答性の劣化を診断(判定)するとともに、診断の結果に応じて上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsを補正する。
上流側空燃比センサ66の応答性劣化の診断(判定)方法を、図4に示すタイムチャートを参照して説明する。図4は、「触媒53の上流側における排ガスの実空燃比の変動(a)」に対する「上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsから得られる検出空燃比abyfs(b)の変動」の一例を示すタイムチャートである。
まず、図4(a)に示すように、時刻t1にて、実空燃比を「理論空燃比stoichよりもαだけ小さい空燃比(stoich−α)」から「理論空燃比stoichよりもαだけ大きい空燃比(sstoich+α)」までステップ状に変化させる。そして、時刻t1から時刻t3まで(期間Tp)、実空燃比を「stoich+α」に維持する。このとき、図4(b)に示すように、検出空燃比abyfsが「stoich+α」に到達するには、ある程度の時間を要する。ここで、「検出空燃比abyfsが実空燃比の変化量Aのうちの所定割合β(例えば、β=0.632)に相当する値(stoich−α+β・A)に到達するまでの時間」(即ち、時刻t1から時刻t2までの時間)を、リーン方向応答時定数Tafleanとして取得する。
次いで、時刻t3にて、実空燃比を「stoich+α」から「stoich−α」までステップ状に変化させる。そして、時刻t3から時刻t5まで(期間Tp)、実空燃比を「stoich−α」に維持する。このとき、上記同様、検出空燃比abyfsが「stoich−α」に到達するには、ある程度の時間を要する。ここで、「検出空燃比abyfsが実空燃比の変化量Aのうちの所定割合β(例えば、上記同様、β=0.632)に相当する値(stoich+α−β・A)に到達するまでの時間」(即ち、時刻t3から時刻t4までの時間)を、リッチ方向応答時定数Tafrichとして取得する。
そして、取得されたリーン方向応答時定数Tafleanとリッチ方向応答時定数Tafrichとの「差の絶対値」が所定の許容値よりも大きいとき、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判定される。
更に、第1制御装置は、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判定したとき、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsを補正する。上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsの補正方法を、以下に説明する。
上記方法によって上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判断されたとき、下記(9)式に従い、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対してローパスフィルタ処理が施されて処理後出力値Vabyfslowが取得される。(9)式において、Vabyfslow(k)は更新された後の処理後出力値、Vabyfslow(k−1)は更新される前の処理後出力値、Tsは本処理の実行周期、Tafはリーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichのうちの何れか大きい方の応答時定数(劣化側応答時定数)である。
Vabyfslow(k)=Vabyfslow(k−1)
+Ts/Taf・(Vabyfs(k)−Vabyfslow(k−1)) ・・・(9)
これにより、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsのうちの劣化側応答時定数Tafによって定まるカットオフ周波数よりも大きい周波数成分が、出力値Vabyfsから実質的に除去される。この結果、上記ローパスフィルタ処理が施された出力値Vabyfs(処理後出力値)は、実質的に、上記カットオフ周波数以下の周波数成分のみによって構成される。即ち、上記補正によって空燃比センサの「応答性が高い側の出力値」が「応答性が低い側の出力値」に合わせこまれるので、処理後出力値は対称な応答性を示すようになる。
第1制御装置は、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判定したとき、上記(1)式における出力値Vabyfsを上記(9)式にて取得した処理後出力値Vabyfslowに置換する。そして、第1制御装置は、処理後出力値Vabyfslow及びサブフィードバック補正量Vafsfbに基づき、上記(1)式に従ってフィードバック制御用出力値Vabyfcを算出する。その後、第1制御装置は、上記(2)式乃至上記(8)式に示すようにメインフィードバック制御を実行する。
2.サブフィードバック制御
第1制御装置は上述したサブフィードバック補正量Vafsfbを次のように算出する。
即ち、第1制御装置は、下記(10)式に示したように、下流側目標値Voxsrefから現時点の下流側空燃比センサ67の出力値Voxsを減じることにより出力偏差量DVoxsを求める。
DVoxs=Voxsref−Voxs ・・・(10)
第1制御装置は、下記(11)式に基づいてサブフィードバック補正量Vafsfbを求める。(11)式において、Kpは予め設定された比例ゲイン(比例定数)、Kiは予め設定された積分ゲイン(積分定数)である。また、SDVoxsは、出力偏差量DVoxsの積分値である。
Vafsfb=Kp・DVoxs+Ki・SDVoxs ・・・(11)
このように、第1制御装置は、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとに基づく比例積分制御によりサブフィードバック補正量Vafsfbを算出する。このサブフィードバック補正量Vafsfbは、上述した(11)式に示したように、フィードバック制御用出力値Vabyfcを算出するために使用される。
以上に説明したように、第1制御装置は、サブフィードバック補正量Vafsfbを加えることによって上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfs又は処理後出力値Vabyfslowを補正し、その補正によって得られたフィードバック制御用出力値Vabyfc(=Vabyfs+Vafsfb)に基づいてフィードバック制御用空燃比abyfscを取得する(図2を参照。)。そして、第1制御装置は、取得したフィードバック制御用空燃比abyfscが上流側目標空燃比abyfrに一致するように燃料噴射量Fiを制御する。
その結果、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに相当する上流側空燃比abyfsは上流側目標空燃比abyfrに近づき、同時に、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsは下流側目標値Voxsrefに近づく。即ち、第1制御装置は、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsとサブフィードバック補正量Vafsfbとに基づいて機関の混合気の空燃比を上流側目標空燃比abyfrに一致させる空燃比フィードバック制御手段を備えている。
なお、上述した上流側目標空燃比abyfr及び下流側目標値Voxsrefの設定方法は、後述される。
<実際の作動>
以下、第1制御装置の実際の作動について説明する。
第1制御装置のCPU71は、図5乃至図8にフローチャートにより示した各ルーチンを所定の時間毎に繰り返し実行するようになっている。
より具体的に述べると、CPU71は、所定のタイミングにて図5に示す燃料噴射制御ルーチンを実行し、最終燃料噴射量Fiの算出及び燃料噴射の指示を行う。CPU71は、このルーチンを、所定の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、その気筒(以下、「燃料噴射気筒」とも称呼する。)に対して繰り返し実行するようになっている。即ち、CPU71は、図5のステップ500から処理を開始し、後述するステップ510乃至ステップ540の処理を順に行い、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ510:CPU71は、エアフローメータ61により計測された吸入空気量Gaと機関回転速度NEとに基づき、燃料噴射気筒に吸入される空気量である筒内吸入空気量Mc(k)を取得する。
ステップ520:CPU71は、上記(3)式に従って基本燃料噴射量Fbaseを求める。
ステップ530:CPU71は、上記(4)式に従って基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック補正量DFiにより補正し、最終燃料噴射量Fiを求める。
ステップ540:CPU71は、最終燃料噴射量Fiの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射する。
以上により、最終燃料噴射量Fiの燃料が燃料噴射気筒に対して噴射される。以下、上述したメインフィードバック補正量DFiの算出方法について説明する。
CPU71は、所定時間が経過する毎に図6に示すセンサ出力補正用時定数取得ルーチンを実行し、上流側空燃比センサ66が非対称劣化しているか否かを判定するとともに、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判定された場合には出力値Vabyfsを補正するための劣化側応答時定数Tafを取得する。即ち、CPU71は、所定のタイミングにて図6のステップ600から処理を開始し、ステップ610に進んで「センサ劣化診断実行条件」が成立しているか否かを判定する。第1制御装置において、センサ劣化診断実行条件は、上流側空燃比センサ66が活性状態であるときに成立する。
ここで、現時点にて、センサ劣化診断実行条件が成立すると仮定する。本仮定に従えば、CPU71は、そのステップ610にて「Yes」と判定してステップ620に進み、図示しない時定数取得ルーチンにより別途検出(取得)されている「リーン方向応答時定数Taflean」及び「リッチ方向応答時定数Tafrich」を取得する。
ここで、時定数取得ルーチンは、機関10が「スロットルバルブ開度TAの単位時間あたりの変化量ΔTAが所定の閾値ΔTAth以下(ΔTA≦ΔTAth)、機関回転速度NEが所定の第1機関回転速度NE1以上第2機関回転速度NE2以下(NE1≦NE≦NE2)、且つ、筒内吸入空気量Mcが第1筒内吸入空気量Mc1以上第2筒内吸入空気量Mc2以下(Mc1≦Mc≦Mc2)」である定常運転を行っているときに実行される。なお、本例において、「機関回転速度NEが所定の第1機関回転速度NE1以上第2機関回転速度NE2以下(NE1≦NE≦NE2)、且つ、筒内吸入空気量Mcが第1筒内吸入空気量Mc1以上第2筒内吸入空気量Mc2以下(Mc1≦Mc≦Mc2)」である運転状態を「第1の運転状態」と称呼する。時定数取得ルーチンにおいては、上述したように、排ガスの実空燃比を図4(a)に示すようにステップ状に変化させたときの検出空燃比abyfsの変動に基づき、リーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichが取得される。なお、時定数取得ルーチンは、機関10が上記第1の運転状態にて運転されている場合であって、今回の機関10の始動後に一度も実行されていない場合にのみ実行されるようにプログラムされていてもよい。
次いで、CPU71は、ステップ630に進み、「リーン方向応答時定数Tafleanとリッチ方向応答時定数Tafrichとの差の絶対値」が所定の許容値δよりも大きいか否かを判定する。第1制御装置においては、上記「差の絶対値」が許容値δよりも大きい場合、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判断される。一方、上記「差の絶対値」が許容値δ以下である場合、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していないと判断される。
ここで、現時点では、上述した「差の絶対値」が許容値δ以下である(即ち、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していない)と仮定する。本仮定に従えば、CPU71は、そのステップ630にて「No」と判定してステップ640に進み、センサ非対称劣化フラグXSADの値を「0」に設定する。その後、CPU71は、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
センサ非対称劣化フラグXSADは、その値が「1」であるとき、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していることを示す。一方、センサ非対称劣化フラグXSADは、その値が「0」であるとき、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していないことを示す。なお、センサ非対称劣化フラグXSADの値は、図示しないイグニッション・キー・スイッチがオフからオンに変更されたときに実行されるイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されようになっている。
更に、CPU71は、所定のタイミングにて図7に示すメインフィードバック補正量DFi算出ルーチンを実行し、図5のルーチンに示す処理(ステップ530を参照。)にて使用するメインフィードバック補正量DFiを算出する。即ち、CPU71は、ステップ700から処理を開始してステップ705に進み、メインフィードバック制御条件(上流側空燃比フィードバック制御条件)が成立しているか否かを判定する。第1制御装置において、メインフィードバック制御条件は、触媒53の暖機期間が終了しており、フューエルカット運転の実行中でなく、機関10の冷却水温THWが所定の第1温度以上であり、機関の一回転当りの吸入空気量(負荷)が所定値以下であり、且つ、上流側空燃比センサ66が活性化しているときに成立する。
ここで、現時点にて、上記メインフィードバック制御条件が成立すると仮定する。本仮定に従えば、CPU71は、図7のステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進み、センサ非対称劣化フラグXSADの値が「1」であるか否かを判定する。上述したように、現時点でのセンサ非対称劣化フラグXSADの値は「0」である。従って、CPU71は、そのステップ710にて「No」と判定してステップ715に直接進む。次いで、CPU71は、後述するステップ715乃至ステップ745の処理を順に行い、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ715:CPU71は、上記(1)式に従ってフィードバック制御用出力値Vabyfcを取得する。なお、第1制御装置においては、上流側目標空燃比abyfrは理論空燃比に設定される。
ステップ720:CPU71は、上記(2)式に従ってフィードバック制御用空燃比abyfscを取得する。
ステップ725:CPU71は、上記(5)式に従って筒内燃料供給量Fc(k−N)を取得する。
ステップ730:CPU71は、上記(6)式に従って目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)を取得する。
ステップ735:CPU71は、上記(7)式に従って筒内燃料供給量偏差DFcを取得する。
ステップ740:CPU71は、上記(8)式に従ってメインフィードバック補正量DFiを取得する。なお、第1制御装置において、係数KFBは「1」に設定されている。筒内燃料供給量偏差DFcの積分値SDFcは次のステップ745にて求められる。
ステップ745:CPU71は、その時点における筒内燃料供給量偏差DFcの積分値SDFcに上記ステップ740にて求められた筒内燃料供給量偏差DFcを加えることにより、新たな筒内燃料供給量偏差の積分値SDFcを取得(更新)する。
以上により、メインフィードバック補正量DFiが比例積分制御(PI制御)により求められ、このメインフィードバック補正量DFiが最終燃料噴射量Fiに反映される(図5のステップ530を参照。)。
一方、ステップ705の判定時においてメインフィードバック制御条件が成立しないとき、CPU71は、そのステップ705にて「No」と判定してステップ750に進み、メインフィードバック補正量DFiの値をゼロに設定する。次いで、CPU71は、ステップ755に進み、筒内燃料供給量偏差の積分値SDFcの値をゼロに設定する。その後、CPU71は、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、メインフィードバック制御条件が成立しないとき、メインフィードバック補正量DFiはゼロに設定される。従って、このとき、基本燃料噴射量Fbaseのメインフィードバック補正量DFiによる補正は行われない。
更に、CPU71は、所定のタイミングにて図8に示すサブフィードバック補正量Vafsfb算出ルーチンを実行し、図7のルーチンに示す処理(ステップ715を参照。)にて使用するサブフィードバック補正量Vafsfbを算出する。即ち、CPU71は、図8のステップ800から処理を開始してステップ810に進み、サブフィードバック制御条件が成立しているか否かを判定する。第1制御装置において、サブフィードバック制御条件は、図7に示すメインフィードバック条件(ステップ705を参照。)が成立し、機関の冷却水温THWが上記第1温度よりも高い第2温度以上であり、且つ、下流側空燃比センサ67が活性化しているときに成立する。
ここで、現時点にて、サブフィードバック制御条件が成立すると仮定する。本仮定に従えば、CPU71は、図8のステップ810にて「Yes」と判定してステップ820に進む。次いで、CPU71は、後述するステップ820乃至ステップ840の処理を順に行い、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ820:CPU71は、上記(10)式に従って下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとの差である出力偏差量DVoxsを取得する。なお、第1制御装置においては、下流側目標値Voxsrefは理論空燃比に対応する値に設定する。
ステップ830:CPU71は、上記(11)式に従ってサブフィードバック補正量Vafsfbを取得する。なお、この時点における比例ゲインKp及び積分ゲインKiは、予め求められた適値に設定されている。
ステップ840:CPU71は、その時点における出力偏差量の積分値SDVoxsに上記ステップ830にて求めた出力偏差量DVoxsを加えて、新たな出力偏差量の積分値SDVoxsを取得する。
以上により、サブフィードバック補正量Vafsfbが比例積分制御(PI制御)により求められ、このサブフィードバック補正量Vafsfbによって上述した上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsが補正される(図7のステップ715を参照。)。そして、補正されたフィードバック制御用出力値Vabyfcに基づいてメインフィードバック量DFiが求められ(図7のステップ740を参照。)、このメインフィードバック量DFiが最終燃料噴射量Fiに反映される(図5のステップ530を参照)。
一方、ステップ810の判定時においてサブフィードバック制御条件が成立しないとき、CPU71は、そのステップ810にて「No」と判定してステップ850に進み、サブフィードバック補正量Vafsfbの値をゼロに設定する。次いで、CPU71は、ステップ860に進み、出力偏差量の積分値SDVoxsの値をゼロに設定する。その後、CPU71は、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、サブフィードバック制御条件が成立しないとき、サブフィードバック補正量Vafsfbはゼロに設定される。従って、このとき、基本燃料噴射量Fbaseのサブフィードバック補正量Vafsfbによる補正は行われない。
ここで、現時点にて、経年劣化等の理由によって上流側空燃比センサ66が非対称劣化したと仮定する。更に、現時点にて、センサ劣化診断実行条件も成立していると仮定する。上記仮定(センサ劣化診断実行条件が成立している。)に従えば、CPU71は、図6のステップ600から処理を開始すると、ステップ610にて「Yes」と判定してステップ620に進み、リーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichを取得してステップ630に進む。そして、上記仮定(上流側空燃比センサ66が非対称劣化している。)に従えば、リーン方向応答時定数Tafleanとリッチ方向応答時定数Tafrichとの差の絶対値は、許容値δよりも大きい。従って、CPU71は、そのステップ630にて「Yes」と判定してステップ650に進み、センサ非対称劣化フラグXSADの値を「1」に設定する。
次いで、CPU71は、ステップ660に進み、リッチ方向応答時定数Tafrichがリーン方向応答時定数Tafleanよりも大きいか否かを判定する。ここで、現時点では、リッチ方向応答時定数Tafrichがリーン方向応答時定数よりも大きいと仮定する。本仮定に従えば、CPU71はそのステップ660にて「Yes」と判定してステップ670に進み、劣化側応答時定数Tafにリッチ方向応答時定数Tafrichを格納する。その後、CPU71は、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、ステップ660の判定時において、リーン方向応答時定数Tafleanがリッチ方向応答時定数Tafrichよりも大きいと、CPU71は、ステップ660にて「No」と判定してステップ680に進み、劣化側応答時定数Tafにリーン方向応答時定数を格納する。その後、CPU71は、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このとき、CPU71は、図7のステップ700から処理を開始すると、上述したメインフィードバック制御条件が成立すれば、ステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進む。上述したように、現時点でのセンサ非対称劣化フラグXSADの値は「1」である。従って、CPU71は、そのステップ710にて「Yes」と判定してステップ760に進む。
CPU71は、そのステップ760にて、上記(9)式に従って上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対して「劣化側応答時定数Tafを時定数とするローパスフィルタ処理」を施し、処理後出力値Vabyfslowを取得する。次いで、CPU71は、ステップ765に進み、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに上記ステップ760にて取得した処理後出力値Vabyfslowを格納する。本処理により、出力値Vabyfsが処理後出力値Vabyfslowに置換される。
次いで、CPU71は、ステップ765にて得られた出力値Vabyfs(上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsをローパスフィルタ処理して得られる処理後出力値Vabyfslow)に基づき、上記同様、ステップ715乃至ステップ745の処理を順に行ってメインフィードバック補正量DFiを取得する。
以上により、処理後出力値Vabyfslowに基づくメインフィードバック補正量DFiが比例積分制御(PI制御)により求められ、このメインフィードバック補正量DFiが最終燃料噴射量Fiに反映される(図5のステップ530を参照。)。
更に、CPU71は、図8のステップ800から処理を開始すると、上述したサブフィードバック制御条件が成立すれば、ステップ810にて「Yes」と判定してステップ820以降に進む。次いで、CPU71は、上記同様、ステップ820乃至ステップ840の処理を順に行ってサブフィードバック補正量Vafsfbを取得する。
以上により、サブフィードバック補正量Vafsfbが比例積分制御(PI制御)により求められ、このサブフィードバック補正量Vafsfbによって上述した上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfs(上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsをローパスフィルタ処理して得られる処理後出力値Vabyfslow)が補正される(図7のステップ715を参照。)。そして、補正されたフィードバック制御用出力値Vabyfcに基づいてメインフィードバック量DFiが求められ(図7のステップ740を参照。)、このメインフィードバック量DFiが最終燃料噴射量Fiに反映される(図5のステップ530を参照)。
上述したように、第1制御装置においては、上流側空燃比センサ66のリーン方向応答時定数Tafleanとリッチ方向応答時定数Tafrichとの差の絶対値が所定の許容値δよりも大きくなったとき、上流側空燃比センサ66が非対称劣化したと判断される。そして、上流側空燃比センサ66が非対称劣化したと判断されたとき、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対して劣化側応答時定数Tafを時定数とするローパスフィルタ処理が施される。そして、このローパスフィルタ処理によって得られる処理後出力値Vabyfslowに基づき、機関10の空燃比に対するフィードバック制御が実行される。一方、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していないときには上記ローパスフィルタ処理は行われず、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに基づいて機関10の空燃比に対するフィードバック処理が実行される。
以上、説明したように、第1制御装置は、
内燃機関10の排気通路に配設されるとともに配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値Vabyfsを出力する空燃比センサ(上流側空燃比センサ66)と、
前記排ガスの空燃比が増大したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリーン方向応答時定数Taflean、及び、前記排ガスの空燃比が減少したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリッチ方向応答時定数Tafrichを取得する応答時定数取得手段(図6のステップ620を参照。)と、
基準応答時定数を、前記リーン方向応答時定数Taflean及び前記リッチ方向応答時定数Tafrichのうちの何れか大きい方の応答時定数である劣化側応答時定数Tafに基づいて同劣化側応答時定数Taf以上となるように決定する(本例では、基準応答時定数は劣化側応答時定数Tafと等しくなるように決定される。図6のステップ660乃至ステップ680を参照。)。更に、第1制御装置は、同基準応答時定数に対応する時定数(本例では、劣化側応答時定数Taf)を有するローパスフィルタ処理を前記空燃比センサの出力値Vabyfsに対して施すことによって処理後出力値Vabyfslowを得るセンサ出力処理手段(図7のステップ760を参照。)と、
前記処理後出力値に基づいて前記機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比に一致させる空燃比フィードバック制御を実行する(図7のステップ765、及び、ステップ715乃至ステップ745を参照。)空燃比制御手段と、
を備える。
このように、第1制御装置は、空燃比センサの劣化の度合いをリーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichの大きさに基づいて評価する。そして、空燃比センサが非対称劣化していると判断されたとき、劣化の度合いが大きい方向の応答時定数(劣化側応答時定数Taf。即ち、リーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichのうちの何れか大きい方の応答時定数)を時定数とするーパスフィルタ処理が、出力値Vabyfsに対して施される。即ち、第1制御装置においては、劣化側応答時定数Tafが基準応答時定数として採用されるとともに、この基準応答時定数を時定数とするローパスフィルタ処理が実行されている。
上記ローパスフィルタ処理により、空燃比センサの出力値Vabyfsのうちの劣化側応答時定数Tafに対応する周波数(カットオフ周波数)よりも大きい周波数成分が、空燃比センサの出力値から実質的に除去される。これにより、上述したように、対称な応答性を示す処理後出力値を得ることができる。そして、この処理後出力値Vabyfslowに基づいて空燃比フィードバック制御を実行することにより、機関の空燃比を適切に制御することができる。その結果、機関のエミッションを良好に維持することができる。
第1制御装置は、「劣化側応答時定数Taf」を基準応答時定数とするように構成されている。しかし、本発明の制御装置は、基準応答時定数を、劣化側応答時定数Tafに所定値Δを加算して得られる「劣化側応答時定数以上の値(Taf+Δ)」とするように構成することもできる。このとき、劣化側応答時定数に加えられる所定値Δは、機関の運転状態、機関に要求される排ガス浄化能力及び燃費等を考慮した適値とすることができる。
ここで、第1制御装置は、上流側空燃比センサ66の非対称劣化の度合いを評価するとともに、その度合いが所定値よりも大きいとき(図6のステップ630を参照。)、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsをローパスフィルタ処理するように構成されている(図7のステップ760を参照。)。しかし、本発明の制御装置は、上流側空燃比センサ66の非対称劣化の度合いを評価する処理を含まずに(即ち、図6のステップ630乃至ステップ650及び図7のステップ710を削除して)常に劣化側応答時定数を時定数とするローパスフィルタ処理を行うように構成されてもよい。また、このローパスフィルタ処理の時定数は、上述したように劣化側応答時定数以上の値としてもよい。
第1制御装置は、メインフィードバック補正量DFiを比例積分制御(PI制御)により求めている。しかし、本発明の制御装置は、メインフィードバック補正量DFiを、例えば比例積分微分制御(PID制御)により求めるように構成されてもよい。
本発明において、上流側目標空燃比abyfr及び下流側目標値Voxsrefは、上述した値に限られず、機関の運転状態、機関に要求される排ガス浄化能力及び燃費等を考慮した適値とすることができる。
上述した「閾値開度TAth」、「第1機関回転速度NE1」、「第2機関回転速度NE2」、「第1筒内吸入空気量Mc1」及び「第2筒内吸入空気量Mc2」は、機関に要求される排ガス浄化能力及び燃費等を考慮した適値とすることができる。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態に係る制御装置(以下、「第2制御装置」とも称呼する。)について説明する。第2制御装置は、そのCPUが、図5乃至図8のフローチャートに示す処理に加えて図9のフローチャートに示す処理を実行する点についてのみ、第1制御装置と相違している。従って、以下、この相違点を中心として説明を加える。
第2制御装置は、第1制御装置と同様、図5及び図6のフローチャートに示す処理を所定の時間毎に繰り返し実行する。即ち、第2制御装置は、図5に示す処理により、現時点での目標空燃比abyfr(k)及び筒内吸入空気量Mc(k)に基づいて基本燃料噴射量Fbaseを算出する。そして、第2制御装置は、この基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック補正量DFiによって補正し、最終燃料噴射量Fiを取得する。次いで、第2制御装置は、最終燃料噴射量Fiの燃料を燃料噴射気筒に対して噴射するようインジェクタ等の燃料噴射機構に指示を与える。また、第2制御装置は、図6に示す処理により、所定のタイミングにて上流側空燃比センサ66の劣化を診断するとともに、上流側空燃比センサ66が非対称劣化しているとき、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsを補正するための劣化側応答時定数Tafを取得する。以下では、上流側空燃比センサ66が非対称劣化しており(図6のステップ630にて「Yes」と判定され)、センサ非対称劣化フラグXSADの値が「1」に設定されていると仮定し、説明を続ける。
第2制御装置は、所定のタイミングにて図9に示す応答時定数補正ルーチンを実行し、機関10の運転状態に基づいて劣化側応答時定数Tafを補正する。即ち、CPU71は、図9のステップ900から処理を開始してステップ910に進み、センサ非対称劣化フラグXSADの値が「1」であるか否かを判定する。上記仮定に従えば、センサ非対称劣化フラグXSADの値は「1」であるので、CPU71は、そのステップ910にて「Yes」と判定してステップ920に進む。CPU71は、そのステップ920にて、筒内吸入空気量Mc及び機関回転速度NE対する補正係数Kctcの関係を予め定めた補正係数テーブルMapKctc(Mc,NE)に現時点における筒内吸入空気量Mc及び機関回転速度NEを適用することにより、現時点における補正係数Kctcを取得する。
なお、補正係数Kctcは、リーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichが取得される「第1の運転状態(即ち、機関回転速度NEが所定の第1機関回転速度NE1以上第2機関回転速度NE2以下(NE1≦NE≦NE2)、且つ、筒内吸入空気量Mcが第1筒内吸入空気量Mc1以上第2筒内吸入空気量Mc2以下(Mc1≦Mc≦Mc2)である運転状態)」に対しては「1」に設定されている。本例において、第1の運転状態以外の運転状態は、便宜上、「第2の運転状態」とも称呼される。
次いで、CPU71は、ステップ930に進み、図6に示す処理(ステップ660乃至ステップ680を参照。)にて取得した劣化側応答時定数Tafに対して上記補正係数Kctcを乗算する(Kctc×Taf)ことによって劣化側応答時定数Tafを補正する。更に、CPU71は、同乗算の結果得られた値を、改めて劣化側応答時定数Tafに格納する。その後、CPU71は、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、ステップ910の判定時において、センサ非対称劣化フラグXSADの値が「0」であるとき(即ち、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していないとき)、CPU71は、そのステップ910にて「No」と判定してステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、このとき、劣化側応答時定数Tafの補正は行われない。
更に、CPU71は、第1制御装置と同様、所定のタイミングにて図7に示すルーチンを実行する。ここで、現時点にて、上述したメインフィードバック条件が成立すると仮定する。また、上述したように、現時点でのセンサ非対称劣化フラグXSADの値は「1」である。従って、CPU71は、図7のステップ700から処理を開始すると、ステップ705及びステップ710の双方にて「Yes」と判定してステップ760に進む。
CPU71は、そのステップ760にて、「図9のルーチンに示す処理により補正された劣化側応答時定数Taf」を時定数とするローパスフィルタ処理を上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対して施し、処理後出力値Vabyfslowを取得する。次いで、CPU71は、ステップ765に進み、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに上記ステップ760にて取得した処理後出力値Vabyfslowを格納する。
そして、CPU71は、ステップ765にて得られた出力値Vabyfs(上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsをローパスフィルタ処理して得られる処理後出力値Vabyfslow)に基づき、第1制御装置と同様、ステップ715乃至ステップ745の処理を順に行ってメインフィードバック補正量DFiを取得する。更に、CPU71は、第1制御装置と同様、図8に示すルーチンを実行してサブフィードバック補正量Vafsfbを取得する。
以上により、サブフィードバック補正量Vafsfbが比例積分制御(PI制御)により求められ、このサブフィードバック補正量Vafsfbによって上述した上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfs(上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsをローパスフィルタ処理して得られる処理後出力値Vabyfslow)が補正される(図7のステップ715を参照。)。そして、補正されたフィードバック制御用出力値Vabyfcに基づいてメインフィードバック量DFiが求められ(図7のステップ740を参照。)、このメインフィードバック量DFiが最終燃料噴射量Fiに反映される(図5のステップ530を参照)。
上述したように、第2制御装置においては、上流側空燃比センサ66が非対称劣化したとき、劣化側応答時定数Tafが機関の運転状態(筒内吸入空気量及び機関回転速度)に基づいて補正される。そして、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対し、補正された劣化側応答時定数Tafを時定数とするローパスフィルタ処理が施される。その後、第1制御装置と同様、このローパスフィルタ処理によって得られる処理後出力値Vabyfslowに基づき、機関10の空燃比に対するフィードバック制御が実行される。
以上、説明したように、第2制御装置において、
第1制御装置におけるセンサ出力処理手段は、
前記基準応答時定数を前記機関10が第1の運転状態にあるときの前記劣化側応答時定数Tafに基づいて決定するように構成され(図6のステップ660乃至ステップ680を参照。)、且つ、
前記機関10が前記第1の運転状態とは異なる第2の運転状態にある場合、前記「劣化側応答時定数Taf」を同第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値(図9のステップ920及びステップ930を参照。)に対応する時定数を前記ローパスフィルタの時定数として採用する(図7のステップ760を参照。)ように構成される。
上述したように、機関10の運転状態は上流側空燃比センサ66の応答性に影響を与える。そのため、特定の運転状態(本例では、第1の運転状態)において決定されたローパスフィルタの時定数は、別の運転状態(本例では、第2の運転状態)においては最適な値ではなくなる虞がある。そこで、第2制御装置は、上流側空燃比センサ66の劣化側応答時定数Tafを機関の運転状態に基づいて補正する。そして、第2制御装置は、本補正によって得られる応答時定数Tafに基づいて上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsを補正する。本構成により、機関10の運転状態が変化した場合であっても、ローパスフィルタの時定数を各運転状態における劣化側応答時定数以上の値となるように設定することができる。
従って、ローパスフィルタ処理に用いる時定数をより適切に決定することができ、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに過剰又は過小なローパスフィルタ処理を施すことを避けることができる。この結果、機関のエミッションを更に良好に維持することができる。
ここで、第2制御装置は、「劣化側応答時定数Taf」を機関10の運転状態に応じて補正し、補正された劣化側応答時定数Tafに基づいて基準応答時定数(従って、ローパスフィルタの時定数)を決定するように構成されている。しかし、第2制御装置は、まず劣化側応答時定数Tafに基づいて基準応答時定数を決定し、決定された「基準応答時定数」を機関10の運転状態に応じて補正するように構成されてもよい。
即ち、第1制御装置におけるセンサ出力処理手段は、
前記基準応答時定数を前記機関が第1の運転状態にあるときの前記劣化側応答時定数に基づいて決定するように構成され、且つ、
前記機関が前記第1の運転状態とは異なる第2の運転状態にある場合、前記「基準応答時定数」を同第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正し、その補正した値に対応する時定数を前記ローパスフィルタの時定数として採用するように構成されてもよい。
第2制御装置において、「補正した値に対応する時定数」とは、「第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値そのもの」でもよく、「第2の運転状態に応じたパラメータに基づいて補正した値に所定の正の値が加算された値」であってもよい。
第2制御装置は、機関10の運転状態に応じたパラメータとして、筒内吸入空気量Mc及び機関回転速度NEを採用している(図9のステップ920及びステップ930を参照。)。しかし、本発明においては、機関10の運転状態に応じたパラメータとして、筒内吸入空気量Mc及び機関回転速度NEに代えて又は加えてアクセルペダル開度Accpや機関負荷率KL等を採用してもよい。また、これらのパラメータのうちの1つ又は複数を運転状態に応じたパラメータとして採用してもよい。
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態(以下、「第3制御装置」とも称呼する。)について説明する。
<装置の概要>
第3制御装置は、第1制御装置が適用される内燃機関と同様の内燃機関に適用することができる。従って、第3制御装置が適用される内燃機関の構成についての詳細な説明は省略する。
<空燃比制御>
以下、第3制御装置における空燃比制御を説明する。
第3制御装置は、図10の機能ブロック図に示すように、A1〜A12の各手段等を含むように構成されている。なお、図10の機能ブロック図の詳細は、特開2004−257377に開示されている。以下、図10を参照し、これらの手段について説明する。
1.基本燃料噴射量の算出
まず、筒内吸入空気量算出手段A1は、現時点(時点k)にて気筒内に吸入される空気量である筒内吸入空気量Mc(k)を求める。筒内吸入空気量Mc(k)は、各気筒の吸気行程毎に、その時点のエアフローメータ61の出力Gaと機関回転速度NEとに基づいて求められ(例えば、エアフローメータ61の出力Gaに対して一次遅れ処理を施した値を機関回転速度NEで除することにより求められ)、各吸気行程に対応されながらRAM73内に記憶される。筒内吸入空気量Mc(k)は、周知の空気モデル(吸気通路における空気の挙動を模した物理法則に従って構築されたモデル)により算出されてもよい。ここで、添え字の(k)は、今回の吸気行程に対する値であることを示す(以下、他のパラメータについても同様。)。
上流側目標空燃比設定手段A2は、機関10の運転状態である機関回転速度NE、及びスロットル弁開度TA等に基づいて所定の上流側目標値に相当する上流側目標空燃比abyfr(k)を決定する。この上流側目標空燃比abyfr(k)は、例えば、機関10の暖機終了後においては、特殊な場合を除き理論空燃比に設定されている。また、上流側目標空燃比abyfrは、各気筒の吸気行程に対応されながらRAM73に記憶される。
基本燃料噴射量算出手段A3は、下記(12)式に示したように、筒内吸入空気量Mc(k)を上流側目標空燃比abyfr(k)で除することにより、基本燃料噴射量Fbaseを求める。基本燃料供給量Fbaseは、各気筒の吸気行程に対応されながらRAM73に記憶される。
Fbase=Mc(k)/abyfr(k) ・・・(12)
上述したように、筒内吸入空気量算出手段A1、上流側目標空燃比設定手段A2及び基本燃料噴射量算出手段A3によって基本燃料噴射量Fbaseが求められる。
2.燃料噴射量の算出
サブフィードバック制御用燃料噴射量算出手段A4は、下記(13)式に示したように、基本燃料噴射量Fbaseに後述するPIDコントローラA16により求められるサブフィードバック制御係数(サブフィードバック補正量)KFiを乗算することによってサブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbを求める。
Fbaseb=KFi・Fbase ・・・(13)
燃料噴射量算出手段A5は、下記(14)式に示したように、サブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbに後述するメインフィードバック補正量DFiを加えることにより、最終燃料噴射量Fiを求める。
Fi=Fbasesb+DFi ・・・(14)
このように、第3制御装置は、サブフィードバック制御用燃料噴射量算出手段A4及び燃料噴射量算出手段A5により、基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック補正量DFiとサブフィードバック制御係数KFiとに基づいて補正する。そして、本補正によって得られる燃料噴射量Fiの燃料を、今回の吸気行程を迎える気筒に対してインジェクタ39から噴射する。
3.メインフィードバック補正量の算出
テーブル変換手段A6は、下記(15)式に示したように、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsと図2に示したテーブル(マップ)Mapabyfsとに基づき、現時点における検出空燃比abyfsを求める。
abyfs=Mapabyfs(Vabyfs) ・・・(15)
筒内吸入空気量遅延手段A7は、筒内吸入空気量算出手段A1により吸気行程毎に求められRAM73に記憶されている筒内吸入空気量Mcのうち、現時点からNサイクル前に吸気行程を迎えた気筒の筒内吸入空気量McをRAM73から読み出し、これを筒内吸入空気量Mc(k−N)として設定する。
筒内燃料供給量算出手段A8は、下記(16)式に示したように、現時点からNサイクル前の筒内吸入空気量Mc(k−N)を検出空燃比abyfsで除することにより、現時点からNサイクル前の実際の筒内燃料供給量Fc(k−N)を求める。
Fc(k−N)=Mc(k−N)/abyfs ・・・(16)
このように、現時点からNサイクル前の実際の筒内燃料供給量Fc(k−N)を求めるために、現時点からNサイクル前の筒内吸入吸気量Mc(k−N)を現時点における検出空燃比abyfsで除するのは、燃焼室25内で燃料された混合気が上流側空燃比センサ66に到達するまでにNサイクルに相当する時間を要しているからである。
次に、目標筒内燃料供給量遅延手段A9は、下記(17)式に示したように、現時点からNサイクル前の筒内吸入空気量Mc(k−N)を現時点からNサイクル前の上流側目標空燃比abyfr(k−N)で除すことにより現時点からNサイクル前の「目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)」を求める。
Fcr(k−N)=Mc(k−N)/abyfr(k−N) ・・・(17)
筒内燃料供給量偏差算出手段A10は、下記(18)式に従い、現時点からNサイクル前の目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)から筒内燃料供給量Fc(k−N)を減じた値を「筒内燃料供給量偏差DFc」として設定する。この筒内燃料供給量偏差DFcは、「Nサイクル前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分」を表す量となる。
DFc=Fcr(k−N)−Fc(k−N) ・・・(18)
筒内燃料供給量偏差DFcは、ハイパスフィルタA11に入力される。ハイパスフィルタA11は、下記(19)式に示す特性を有する。第3制御装置は、入力される筒内燃料供給量偏差DFcに対して下記(19)式に示すハイパスフィルタ処理を施し、ハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差DFchiを出力する。下記(19)式において、sはラプラス演算子、τは時定数である。ハイパスフィルタA11は、入力される信号のうちのカットオフ周波数(1/τ)以下の低周波数成分を実質的に除去する。
1−1/(1+τ・s) ・・・(19)
PIコントローラA12は、ハイパスフィルタA11から出力値されるハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差DFchiを比例積分処理(PI処理)することにより、下記(20)式に従ってNサイクル前の燃料供給量(におけるカットオフ周波数以上の高周波数成分)の過不足を補償するためのメインフィードバック補正量DFiを求める。下記(20)式において、GPは比例ゲイン(比例定数)、GIは積分ゲイン(積分定数)、SDFchiはハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差DFchiの時間積分値である。(20)式の係数KFBは、エンジン回転速度NE及び筒内吸入空気量Mc等により可変とすることが好適である。
DFi=(Gp・DFchi+Gi・SDFchi)・KFB ・・・(20)
ここで、第3制御装置は、第1制御装置と同様に上流側空燃比センサ66の応答性の劣化を診断(判定)するとともに、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していないと判定されたとき、上記(20)式における比例ゲイン及び積分ゲインとして、予め設定された第1比例ゲインGp及び第1微分ゲインGiを採用する(以下、第1比例ゲインGp及び第1微分ゲインGiを総称して「第1フィードバック制御係数」とも称呼する。)。一方、第3制御装置は、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判定されたとき、第1フィードバック制御係数に含まれるゲインのうちの少なくとも一つを小さくして得られる「第2フィードバック制御係数」を採用する。
上述したように、第3制御装置は、上流側目標空燃比abyfrと上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsとに基づき、メインフィードバック補正量DFiを求める。そして、上記(14)式に示すように、メインフィードバック補正量DFiはサブフィードバック制御によって求められるサブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbに加算される。これにより、メインフィードバック補正量DFiによって機関10の空燃比が補正される。なお、サブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbの算出方法は、後述される。
4.サブフィードバック補正量の算出
下流側目標値設定手段A13は、上述した上流側目標空燃比設定手段A2と同様、内燃機関10の運転状態であるエンジン回転速度NE、及びスロットル弁開度TA等に基づいて下流側目標空燃比に対応する下流側目標値(所定の下流側目標値)Voxsrefを決定する。この下流側目標値Voxsrefは、例えば、内燃機関10の暖機終了後においては、特殊な場合を除き理論空燃比に対応する値に設定されている。また、第3制御装置においては、下流側目標値Voxsrefは、同下流側目標値Voxsrefに対応する下流側目標空燃比が上述した上流側目標空燃比abyfr(k)と常に一致するように設定される。
出力偏差量算出手段A14は、下記(21)式に従い、現時点での下流側目標値Voxsrefから現時点での下流側空燃比センサ67の出力値Voxsを減じることにより、出力偏差量DVoxsを求める。
DVoxs=Voxsref−Voxs ・・・(21)
出力偏差量DVoxsは、ローパスフィルタA15に入力される。ローパスフィルタA15は、下記(22)式に示す特性を有する。第3制御装置は、入力される出力偏差量DVoxsに対して下記(22)式に基づくローパスフィルタ処理を施し、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを出力する。下記(22)式において、sはラプラス演算子、τは上記(19)式における時定数と同一の時定数である。ローパスフィルタA15は、入力される信号のうちのカットオフ周波数(1/τ)以上の高周波数成分を実質的に除去する。
1/(1+τ・s) ・・・(22)
次いで、下記(23)式に従い、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowの微分値DDVoxslowを求める。下記(23)式において、DVoxslowはローパスフィルタ通過後出力偏差量、DVoxslow1は更新前のローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslow、Δtは本ルーチンの計算周期である。
DDVoxslow=(DVoxslow−DVoxslow1)/Δt ・・・(23)
PIDコントローラA16は、ローパスフィルタA15から出力されるローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを下記(24)式に従って比例積分微分処理(PID処理)することにより、サブフィードバック制御係数KFiを求める。下記(24)式において、Kpは予め設定された比例ゲイン(比例定数)、Kiは予め設定された積分ゲイン(積分定数)、Kdは予め設定された微分ゲイン(微分定数)、SDVoxslowはローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowの時間積分値、DDVoxslowはローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowの時間微分値である。
KFi=(Kp・DVoxslow+Ki・SDVoxslow+Kd・DDVoxslow)+1 ・・・(24)
上述したように、第3制御装置は、下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとに基づき、サブフィードバック制御係数KFiを求める。そして、上記(13)式に示すように、サブフィードバック制御係数KFiは基本燃料噴射量Fbaseに乗算される。これにより、サブフィードバック制御係数KFiによって機関10の空燃比が補正される。本補正よって得られたサブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbは、上述したように、更にメインフィードバック補正量DFiによって補正される。
以上、説明したように、第3制御装置は、メインフィードバック制御回路とサブフィードバック制御回路とを内燃機関10に対して並列に接続している(図10を参照。)。第3制御装置は、下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとに基づくサブフィードバック制御係数KFiを求め、このサブフィードバック制御係数KFiによって機関10の空燃比を補正する。更に、第3制御装置は、上流側目標空燃比abyfrと上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsとに基づくメインフィードバック補正量DFiを求め、このメインフィードバック補正量DFiによって機関10の空燃比を補正する。即ち、メインフィードバック制御による空燃比の補正とサブフィードバック制御による空燃比の補正は、独立して実行される。
なお、上述した上流側目標空燃比abyfr及び下流側目標値Voxsrefの設定方法は、後述される。
<実際の作動>
以下、第3制御装置の実際の作動について説明する。
第3制御装置のCPU71は、図6、及び、図10乃至図13にフローチャートにより示した各ルーチンを所定の時間毎に繰り返し実行するようになっている。
より具体的に述べると、CPU71は、所定のタイミングにて図11に示す燃料噴射制御ルーチンを実行し、最終燃料噴射量Fiの計算及び燃料噴射の指示を行う。CPU71は、このルーチンを、所定の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、その気筒(以下、「燃料噴射気筒」とも称呼する。)に対して繰り返し実行するようになっている。即ち、CPU71は、図11のステップ1100から処理を開始し、後述するステップ1110乃至ステップ1150の処理を順に行い、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1110:CPU71は、エアフローメータ61により計測された吸入空気量Gaと機関回転速度NEとに基づき、燃料噴射気筒に吸入される空気量である筒内吸入空気量Mc(k)を取得する。
ステップ1120:CPU71は、上記(12)式に従って基本燃料噴射量Fbaseを求める。
ステップ1130:CPU71は、上記(13)式に従って基本燃料噴射量Fbaseをサブフィードバック補正量KFiにより補正し、サブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbを求める。
ステップ1140:CPU71は、上記(14)式に従ってサブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbをメインフィードバック補正量DFiにより補正し、最終燃料噴射量Fiを求める。
ステップ1150:CPU71は、最終燃料噴射量Fiの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射する。
以上により、最終燃料噴射量Fiの燃料が燃料噴射気筒に対して噴射される。以下、上述したメインフィードバック補正量DFiの算出方法について説明する。
第3制御装置は、第1制御装置と同様、図6に示す処理により、所定のタイミングにて上流側空燃比センサ66の劣化を診断する。以下では、上流側空燃比センサ66が非対称劣化しており(図6のステップ630にて「Yes」と判定され)、センサ非対称劣化フラグXSADの値が「1」に設定されていると仮定し、説明を続ける。
第3制御装置は、所定のタイミングにて図12に示すメインフィードバック補正量DFi算出ルーチンを実行し、図11のルーチンに示す処理(ステップ1140を参照。)にて使用するメインフィードバック補正量DFiを算出する。即ち、CPU71は、ステップ1200から処理を開始してステップ1205に進み、メインフィードバック制御条件が成立しているか否かを判定する。第3制御装置において、メインフィードバック制御条件は、第1制御装置と同様、触媒53の暖機期間が終了しており、フューエルカット運転の実行中でなく、機関10の冷却水温THWが所定の第1温度以上であり、機関の一回転当りの吸入空気量(負荷)が所定値以下であり、且つ、上流側空燃比センサ66が活性化しているときに成立する。
ここで、現時点にて、上記メインフィードバック制御条件が成立すると仮定する。本仮定に従えば、CPU71は、図12のステップ1205にて「Yes」と判定してステップ1210に進む。次いで、CPU71は、後述するステップ1210乃至ステップ1230の処理を順に行い、ステップ1235に進む。
ステップ1210:CPU71は、上記(15)式に従って検出空燃比abyfsを取得する。
ステップ1215:CPU71は、上記(16)式に従って筒内燃料供給量Fc(k−N)を取得する。なお、第3制御装置においては、上流側目標空燃比abyfrは理論空燃比に設定される。
ステップ1220:CPU71は、上記(17)式に従って目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)を取得する。
ステップ1225:CPU71は、上記(18)式に従って筒内燃料供給量偏差DFcを取得する。
ステップ1230:CPU71は、上記(19)式に示すハイパスフィルタ処理を筒内燃料供給量偏差DFcに施し、ハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差DFchiを取得する。
CPU71は、そのステップ1235にて、センサ非対称劣化フラグXSADの値が「1」であるか否かを判定する。上述したように、現時点でのセンサ非対称劣化フラグXSADの値は「0」である。従って、CPU71は、そのステップ1235にて「No」と判定してステップ1240に直接進む。
CPU71は、そのステップ1240にて上記(20)式に従ってメインフィードバック補正量DFiを取得する。ここで、第3制御装置は、第1フィードバック制御係数(第1比例ゲインGp及び第1微分ゲインGi)に基づいてメインフィードバック補正量DFiを算出する。また、第3制御装置において、係数KFBは「1」に設定されている。
次いで、CPU71は、ステップ1245に進み、その時点におけるハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差DFchiの積分値SDFchiに上記ステップ1230にて求められたハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差DFchiを加えることにより、新たなハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差の積分値SDFchiを取得(更新)する。その後、CPU71は、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、メインフィードバック補正量DFiが第1フィードバック制御係数に基づく比例積分制御(PI制御)により求められ、このメインフィードバック補正量DFiが最終燃料噴射量Fiに反映される(図11のステップ1140を参照。)。
一方、ステップ1205の判定時においてメインフィードバック制御条件が成立しないとき、CPU71は、そのステップ1205にて「No」と判定してステップ1255に進み、メインフィードバック補正量DFiの値をゼロに設定する。次いで、CPU71は、ステップ1260に進み、ハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差の積分値SDFchiの値をゼロに設定する。その後、CPU71は、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、メインフィードバック制御条件が成立しないとき、メインフィードバック補正量DFiはゼロに設定される。従って、このとき、サブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesbのメインフィードバック補正量DFiによる補正は行われない。
更に、CPU71は、所定のタイミングにて図13に示すサブフィードバック補正係数KFi算出ルーチンを実行し、図11のルーチンに示す処理(ステップ1130を参照。)にて使用するサブフィードバック補正係数KFiを算出する。即ち、CPU71は、図13のステップ1300から処理を開始してステップ1310に進み、サブフィードバック制御条件が成立しているか否かを判定する。第3制御装置において、サブフィードバック制御条件は、第1制御装置と同様、図12に示すメインフィードバック条件(ステップ1205を参照。)が成立し、機関の冷却水温THWが上記第1温度よりも高い第2温度以上であり、且つ、下流側空燃比センサ67が活性化しているときに成立する。
ここで、現時点にて、サブフィードバック制御条件が成立すると仮定する。本仮定に従えば、CPU71は、図13のステップ1310にて「Yes」と判定してステップ1320に進む。次いで、CPU71は、後述するステップ1320乃至ステップ1370の処理を順に行い、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1320:CPU71は、上記(21)式に従って下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとの差である出力偏差量DVoxsを取得する。なお、第1制御装置においては、下流側目標値Voxsrefは理論空燃比に対応する値に設定する。
ステップ1330:CPU71は、上記(22)式に示すローパスフィルタ処理を出力偏差量DVoxsに施し、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを取得する。
ステップ1340:CPU71は、上記(23)式に従ってローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowの微分値DDVoxslowを求める。
ステップ1350:CPU71は、上記(24)式に従ってサブフィードバック制御係数KFiを取得する。この時点における比例ゲインKp、積分ゲインKi及び微分ゲインKdは、予め求められた適値に設定されている。
ステップ1360:CPU71は、現時点におけるローパスフィルタ経過後出力偏差量DVoxlowの積分値SDVoxslowに上記ステップ1330にて求めたローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを加えて、新たなローパスフィルタ通過後出力偏差量の積分値SDVoxslowを取得する。
ステップ1370:CPU71は、現時点におけるローパスフィルタ経過後出力偏差量DVoxlowを、次回のステップ1340での処理時に用いるローパスフィルタ経過後出力偏差量DVoxlow1に格納する。
以上により、サブフィードバック補正係数KFiが比例積分積分制御(PID制御)により求められ、このサブフィードバック補正係数KFiによって基本燃料噴射量Fbaseが補正される(図11のステップ1130を参照。)。そして、補正された基本燃料噴射量Fbase(サブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesb)に対して上記メインフィードバック補正量DFiが加算され、最終燃料噴射量Fiが決定される(図11のステップ1140を参照。)。
一方、ステップ1310の判定時においてサブフィードバック制御条件が成立しないとき、CPU71は、そのステップ1310にて「No」と判定してステップ1380に進み、サブフィードバック補正係数KFiの値をゼロに設定する。次いで、CPU71は、ステップ1390に進み、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowの値をゼロに設定する。その後、CPU71は、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、サブフィードバック制御条件が成立しないとき、サブフィードバック補正係数KFiはゼロに設定される。従って、このとき、基本燃料噴射量Fbaseのサブフィードバック補正係数KFiによる補正は行われない。
ここで、現時点にて、経年劣化等の理由によって上流側空燃比センサ66が非対称劣化したと仮定する。更に、現時点にて、センサ劣化診断実行条件も成立していると仮定する。上記仮定(センサ劣化診断実行条件が成立している。)に従えば、CPU71は、図12のステップ1200から処理を開始すると、ステップ1205にて「Yes」と判定した後、ステップ1210乃至ステップ1230の処理を順に実行してステップ1235に進む。上記仮定(上流側空燃比センサ66が非対称劣化している。)に従えば、CPU71は、そのステップ1235にて「Yes」と判定してステップ1260に進む。
第3制御装置は、上流側空燃比センサ66が非対称劣化しているとき、メインフィードバック補正量DFiを算出する際の制御係数として、上述した第1フィードバック制御係数に代えて「第2フィードバック制御係数」を採用する。第3制御装置においては、第2フィードバック制御係数として、「第1比例ゲインGpよりも小さい第2比例ゲインGpsmall、及び、第1積分ゲインGiよりも小さい第2積分ゲインGiamallからなる第2フィードバック制御係数」が採用される。
即ち、CPU71は、そのステップ1260にて第1比例ゲインGpの値に第2比例ゲインGpsmallを格納し、ステップ1260に続くステップ1265にて第1積分ゲインGiの値に第2積分ゲインGiamallを格納する。
そして、CPU71は、ステップ1240に進み、上記第2フィードバック制御係数に基づいてメインフィードバック補正量DFiを取得する。次いで、CPU71は、ステップ1245に進んでハイパスフィルタ通過後筒内燃料供給量偏差の積分値SDFchiを取得(更新)し、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPU71は、図13のステップ1300から処理を開始すると、上述したサブフィードバック制御条件が成立すれば、ステップ1310にて「Yes」と判定してステップ1320以降に進む。次いで、CPU71は、上記同様、ステップ1320乃至ステップ1370の処理を順に行ってサブフィードバック補正係数KFiを取得する。
以上により、サブフィードバック補正係数KFiが比例積分微分制御(PID制御)により求められ、このサブフィードバック補正係数KFiによって基本燃料噴射量Fbaseが補正される(図11のステップ1130を参照。)。そして、補正された基本燃料噴射量Fbase(サブフィードバック制御用燃料噴射量Fbasesb)に対して上記メインフィードバック補正量DFiが加算され、最終燃料噴射量Fiが決定される(図11のステップ1140を参照。)。
以上、説明したように、第3制御装置は、
内燃機関10の排気通路に配設された触媒53と、
前記排気通路であって前記触媒53よりも上流側の部位に配設されるとともに同配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値Vabyfsを出力する上流側空燃比センサ66と、
前記排気通路であって前記触媒53よりも下流側の部位に配設されるとともに同配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値Voxsを出力する下流側空燃比センサ67と、
を備えた内燃機関に適用される。
第3制御装置は、
前記上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに応じた値と理論空燃比に対応する上流側目標値との偏差DFc(図12のステップ1225を参照。)に対してハイパスフィルタ処理を施した値DFchi(図12のステップ1230を参照。)、及び、前記上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに応じた値に対してハイパスフィルタ処理を施した値と理論空燃比に対応する上流側目標値との偏差の何れか一方に基づき、前記機関10に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御するためのメインフィードバック補正量DFiを、少なくとも一つのゲインを含む第1フィードバック制御係数(図12のステップ1240におけるGp及びGi)を用いて算出するメインフィードバック補正量算出手段と、
前記下流側空燃比センサ67の出力値Voxsに応じた値と理論空燃比に対応する下流側目標値との偏差DVoxs(図13のステップ1320を参照。)に対してローパスフィルタ処理を施した値DVoxslowに基づき(図13のステップ1330を参照。)、前記機関10に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御するためのサブフィードバック補正量Fbasesbを、前記メインフィードバック補正量の算出とは独立して算出するサブフィードバック補正量算出手段と、
前記メインフィードバック補正量DFi及び前記サブフィードバック補正量Fbasesbに基づいて前記機関10に供給される混合気の空燃比を理論空燃比に一致するようにフィードバック制御する(図11のルーチンを参照。)空燃比制御手段と、
前記排ガスの空燃比が増大したときの前記上流側空燃比センサ66の応答時定数であるリーン方向応答時定数Taflean、及び、前記排ガスの空燃比が減少したときの前記上流側空燃比センサ66の応答時定数であるリッチ方向応答時定数Tafrichを取得する応答時定数取得手段(図6のステップ620を参照。)と、
前記リーン方向応答時定数Tafleanと前記リッチ方向応答時定数Tafrichとの差の絶対値である診断指標値が所定の許容値δよりも大きいか否かを判定する(図6のステップ630を参照。)空燃比センサ診断手段と、
を備える。
第3制御装置において、
前記メインフィードバック補正量算出手段は、
前記空燃比センサ診断手段によって前記診断指標値が前記許容値δよりも大きいと判定されたとき(図6のステップ630にて「Yes」と判定されたとき)、前記第1フィードバック制御係数に代え、前記第1フィードバック制御係数に含まれるゲインのうちの少なくとも一つのゲインを小さくして得られる第2フィードバック制御係数(Gpsmall及びGismall。図12のステップ1260及びステップ1265を参照。)を用いて前記メインフィードバック補正量DFiを算出する(図12のステップ1240を参照)ように構成される。
このように、第3制御装置は、空燃比センサの劣化の度合いをリーン方向応答時定数Taflean及びリッチ方向応答時定数Tafrichの大きさに基づいて評価する。ここで、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判断されないとき、第1フィードバック制御係数(ゲインとして、Gp及びGiを含む。)に基づいてメインフィードバック制御が実行される。一方、上流側空燃比センサ66が非対称劣化していると判断されたとき、第1フィードバック制御係数よりも小さいゲインを含む第2フィードバック制御係数(ゲインとして、Gpよりも小さいGpsmall、及び、Giよりも小さいGismallを含む。)に基づいてメインフィードバック制御が実行される。
フィードバック制御係数に含まれるゲインの大きさは、フィードバック補正量の大きさに影響を与える。また、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに基づく値に対してハイパスフィルタ処理が施されることにより、その高周波数成分(排ガスの空燃比の変動のうちの高周波数成分)がメインフィードバック制御に用いられる。よって、上流側空燃比センサが非対称劣化(高周波数成分への応答性が劣化)したときに「第2フィードバック制御係数」を採用することより、排ガスの空燃比の変動のうちの高周波数成分に基づく補正量(メインフィードバック補正量)が小さくなる。これにより、サブフィードバック補正量に対するメインフィードバック補正量の影響を小さくすることができる。この結果、上流側空燃比センサの非対称応答による影響を出来る限り小さくすることができ、もって、機関のエミッションを良好に維持することができる。
第3制御装置は、「上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに応じた値と理論空燃比に対応する上流側目標値との偏差DFc」に対してハイパスフィルタ処理を施し、本処理によって得られる値DFi、及び、第1フィードバック制御係数又は第2フィードバック制御係数に基づきメインフィードバック制御を実行している。しかし、第3制御装置は、まず「上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに応じた値」に対してハイパスフィルタ処理を施し、処理された出力値Vabyfsと理論空燃比に対応する上流側目標値との偏差、及び、第1フィードバック制御係数又は第2フィードバック制御係数に基づきメインフィードバック制御を実行するように構成されてもよい。
第3制御装置は、比例積分制御(PI制御)によってメインフィードバック制御を実行している。しかし、第3制御装置は、例えば比例積分微分制御(PID制御)によってメインフィードバック制御を実行するように構成されてもよい。また、上述した第1フィードバック制御係数が微分ゲイン(Dゲイン)を含む場合、第2フィードバック制御係数はその微分ゲインのみを小さくするように構成されてもよい。
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
また、本発明の内燃機関の空燃比制御装置は、以下のように構成することもできる。
即ち、本発明の内燃機関の空燃比制御装置は、
(1)内燃機関の排気通路に配設されるとともに配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する空燃比センサと、
(2)前記空燃比センサの出力値に基づいて前記機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比に一致させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、
を備える内燃機関の空燃比制御装置に適用され、
(3)前記排ガスの空燃比が増大したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリーン方向応答時定数、及び、前記排ガスの空燃比が減少したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリッチ方向応答時定数を取得する応答時定数取得手段と、
(4)前記リーン方向応答時定数と前記リッチ方向応答時定数との差の絶対値である診断指標値が所定の許容値よりも大きいか否かを判定する空燃比センサ診断手段と、
(5)前記空燃比センサ診断手段によって前記診断指標値が前記許容値よりも大きいと判定されたとき、前記リーン方向応答時定数が前記リッチ方向応答時定数よりも大きい場合には前記目標空燃比を第1補正分だけ減少し、前記リッチ方向応答時定数が前記リーン方向応答時定数よりも大きい場合には前記目標空燃比を第2補正分だけ増大する空燃比補正手段と、
を備えるように構成することもできる。
上述したように、空燃比センサが非対称劣化したとき、空燃比センサの出力値は、応答性が低い方向への排ガスの空燃比の変動に対して十分に追従することができない。この場合、検出空燃比は、実空燃比の変動とは異なる挙動を示す。これにより、検出空燃比に基づいて実行される空燃比フィードバック制御も適切に実行されない。
例えば、空燃比センサのリッチ方向応答性のみが劣化した場合(即ち、リッチ方向応答時定数がリーン方向応答時定数よりも大きくなる場合)、空燃比センサの出力値は、排ガスの空燃比のリッチ方向への変動に十分に追従することができない。この場合、空燃比センサの出力値が実空燃比に追従することができない期間、検出空燃比は実空燃比よりも大きくなる(リーン側の値となる)。そのため、この期間において、実際には必要とされない過剰なフィードバック制御(空燃比をリッチ側に向かわせる制御)がなされる。この結果、触媒に流入する排ガスの空燃比の中心(以下、「平均空燃比」とも称呼する。)は目標空燃比よりもリッチ側の空燃比となり、機関のエミッションが悪化する。
そこで、第3の空燃比制御装置は、空燃比センサが非対称劣化したとき、この空燃比センサの劣化に対応するように「目標空燃比」を補正する。具体的には、第3の空燃比制御装置は、空燃比センサのリーン方向応答時定数がリッチ方向応答時定数よりも大きい場合(即ち、リーン方向応答性がリッチ方向応答性よりも低下した場合)、目標空燃比を第1補正分だけ「減少」する。また、第3の空燃比制御装置は、リッチ方向応答時定数がリーン方向応答時定数よりも大きい場合(即ち、リッチ方向応答性がリーン方向応答性よりも低下した場合)、目標空燃比を第2補正分だけ「増大」する。
目標空燃比が上述したように補正されたとしても、空燃比センサの出力値の非対称応答は解消されない。しかし、上記補正により、触媒に流入する排ガスの「平均空燃比」を本来の目標空燃比に出来る限り近づけることができる。この理由を、上述した「空燃比センサのリッチ方向応答性のみが劣化した場合」を参照し、以下に説明する。
上述したように、空燃比センサのリッチ方向応答性のみが劣化した場合、触媒に流入する排ガスの平均空燃比は目標空燃比abyfrよりもリッチ側の空燃比(abyfr−β1)となる。このとき、目標空燃比abyfrが所定の補正分(γ)だけ増大するように補正されると、これ以降のフィードバック制御が補正された目標空燃比(abyfr+γ)に基づいて実行される。上述したように、目標空燃比が補正されたとしても、空燃比センサの出力値の非対称応答は解消されない。従って、上記同様、触媒に流入する排ガスの平均空燃比は「補正された目標空燃比(abyfr+γ)よりもリッチ側の空燃比(abyfr+γ−β2)」となる。ここで、目標空燃比abyfrの補正分(γ)を適切に設定することにより、触媒に流入する排ガスの平均空燃比を本来の目標空燃比abyfrに出来る限り近づけることができる(例えば、γ=β2のとき、平均空燃比は目標空燃比に一致する)。
なお、上記とは逆に空燃比センサのリーン方向応答性がリッチ方向応答性よりも低下した場合においても、上記同様の手法により、触媒に流入する排ガスの平均空燃比を本来の目標空燃比abyfrに出来る限り近づけることができる。従って、機関のエミッションを良好に維持することができる。
ここで、「第1補正分」及び「第2補正分」は、例えば以下のように決定することができる。まず、「劣化していない空燃比センサのリッチ方向応答時定数及びリーン方向応答時定数」が予め取得される。次いで、これらの応答時定数と劣化診断時点における各応答時定数とが比較されることにより、「応答性の劣化の度合い」が評価される。そして、この応答性の劣化の度合いに対応するように、「第1補正分」及び「第2補正分」が適宜決定される。
更に、本発明の内燃機関の空燃比制御装置は、以下のように構成することもできる。
即ち、本発明の内燃機関の空燃比制御装置は、
(1)内燃機関の排気通路に配設されるとともに配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する空燃比センサと、
(2)前記空燃比センサの出力値に基づいて前記機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比に一致させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、
を備える内燃機関の空燃比制御装置に適用され、
(3)前記排ガスの空燃比が増大したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリーン方向応答時定数、及び、前記排ガスの空燃比が減少したときの前記空燃比センサの応答時定数であるリッチ方向応答時定数を取得する応答時定数取得手段と、
(4)前記リーン方向応答時定数と前記リッチ方向応答時定数との差の絶対値である診断指標値が所定の許容値よりも大きいか否かを判定する空燃比センサ診断手段と、
(5)前記空燃比センサ診断手段によって前記診断指標値が前記許容値よりも大きいと判定されると、前記リーン方向応答時定数が前記リッチ方向応答時定数よりも大きい場合には前記空燃比センサの出力値が増大する場合にその高周波数成分を増幅し、前記リッチ方向応答時定数が前記リーン方向応答時定数よりも大きい場合には前記空燃比センサの出力値が減少する場合にその高周波数成分を増幅するセンサ出力補正手段と、
を備えるように構成することもできる。
上述したように、空燃比センサが非対称劣化したとき、空燃比センサの出力値は非対称応答を示す。ここで、上述したように、非対称応答を示す出力値「全体」に対して「高周波数成分増幅補償」を行うと、劣化の度合いが小さい方向の出力値の高周波数成分が過度に増幅され、その結果、機関のエミッションが悪化する。そこで、第4の空燃比制御装置は、非対称応答を示す出力値のうちの「劣化の度合いが大きい方向の出力値」に対してのみ高周波数成分を増幅する補正を行う。
具体的には、第4の空燃比制御装置は、リーン方向応答時定数がリッチ方向応答時定数よりも大きいとき(即ち、リーン方向応答性がリッチ方向応答性よりも低下したとき)、空燃比センサの出力値が増大する場合(出力値がリーン方向に変動する場合)にその高周波数成分を増幅するように空燃比センサの出力値を補正する。また、第4の空燃比制御装置は、リッチ方向応答時定数がリーン方向応答時定数よりも大きいとき(即ち、リッチ方向応答性がリーン方向応答性よりも低下したとき)、空燃比センサの出力値が減少する場合(出力値がリッチ方向に変動する場合)にその高周波数成分を増幅するように空燃比センサの出力値を補正する。
上記補正により、劣化側の度合いが大きい方向の出力値のみが増幅されるので、空燃比センサの出力値の非対称応答を解消することができる。更に、上記補正により、実空燃比の変動に対して遅れのない出力値を得ることができる。これらの結果、機関のエミッションを良好に維持することができる。
ここで、上記補正を行うにあたり、空燃比センサの出力値が変動する方向を特定する必要がある。「空燃比センサの出力値が変動する方向」は、例えば、以下のように判断することができる。まず、所定時間の経過毎に空燃比センサの出力値が取得されるとともに、取得した出力値に時刻番号(1、2、3・・・N−1、N、N+1・・・)が付与される。次いで、時刻Nにて取得された出力値と時刻N−1にて取得された出力値とが比較される。この比較により、「空燃比センサの出力値が変動する方向」が判断される。
出力値の高周波数成分を増幅する際の「増幅の度合い」は、例えば、以下のように決定することができる。まず、上記第3の空燃比制御装置と同様の手法により、空燃比センサの劣化の度合いが評価される。次いで、この応答性の劣化の度合いに対応するように適切な「増幅の度合い」が決定される。
10…内燃機関、25…燃焼室、39…インジェクタ、52…エキゾーストパイプ(排気管)、53…三元触媒(第1触媒)、54…三元触媒(第2触媒)、66…上流側空燃比センサ、67…下流側空燃比センサ、70…電気制御装置、71…CPU