以上より、本発明の目的は、リッチ・リーン応答速度の相違、並びに失火の発生に起因して平均フィードバック補正量が中心値から偏移することにより発生し得る「平均排気空燃比の偏移」を迅速に補償し、平均排気空燃比を理論空燃比に迅速に近づけることができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
本発明に係る第1の空燃比制御装置は、内燃機関の排気通路に配設された触媒(特に、三元触媒)と、前記触媒の上流の前記排気通路に配設されて前記排気通路内の排ガスの空燃比に応じた値を出力する空燃比センサ(即ち、上記上流側空燃比センサ)とを備えた内燃機関に適用される。
この第1の空燃比制御装置は、前記内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比の目標値である目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、前記空燃比センサの出力に基づいて前記内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比を前記目標空燃比に一致するようにフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備えている。
ここで、前記フィードバック制御手段は、吸気行程にて前記燃焼室に吸入された空気の量を理論空燃比で除した値である基本燃料噴射量を取得する基本燃料噴射量取得手段と、前記目標空燃比と前記空燃比センサの出力とに基づいて前記基本燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正量を取得するフィードバック補正量取得手段と、前記基本燃料噴射量を前記フィードバック補正量に基づいて補正することで指令燃料噴射量を算出する指令燃料噴射量算出手段とを備え、前記指令燃料噴射量の燃料の噴射指示を燃料噴射を行う燃料噴射手段に対して行うことで前記燃焼室内の混合気の空燃比を前記目標空燃比に一致するようにフィードバック制御するよう構成されることが好適である。
この第1の空燃比制御装置の特徴は、前記目標空燃比設定手段が、前記空燃比センサの出力がリッチ空燃比方向へ変化する場合における前記空燃比センサの出力の応答速度であるリッチ応答速度、及び、前記空燃比センサの出力がリーン空燃比方向へ変化する場合における前記空燃比センサの出力の応答速度であるリーン応答速度を取得する応答速度取得手段を備え、前記リッチ応答速度と前記リーン応答速度との相違の程度に基づいて前記目標空燃比を設定するように構成されたことにある。
具体的には、例えば、前記リーン応答速度よりも前記リッチ応答速度が大きい場合、前記目標空燃比は理論空燃比よりもリッチな空燃比に設定され、前記リーン応答速度よりも前記リッチ応答速度が小さい場合、前記目標空燃比は理論空燃比よりもリーンな空燃比に設定される。
上記構成によれば、リッチ応答速度がリーン応答速度よりも大きい場合(小さい場合)、即ち、「目標空燃比が理論空燃比に設定される場合において平均排気空燃比が理論空燃比に対してリーン方向(リッチ方向)に偏移する傾向が発生し易い場合」、目標空燃比が理論空燃比よりもリッチな(リーンな)空燃比に設定される。
従って、目標空燃比が理論空燃比に設定される場合に比して、目標空燃比の理論空燃比に対する偏移分だけ平均排気空燃比がリッチ方向(リーン方向)に直ちに偏移し得る。即ち、目標空燃比を理論空燃比から敢えて偏移させることにより、上記「平均排気空燃比の偏移」を迅速に補償し、平均排気空燃比を理論空燃比に迅速に近づけることができる。この結果、未燃成分HC,CO及び窒素酸化物NOxについての触媒の浄化性能を安定させることができる。
この場合、前記リーン応答速度よりも前記リッチ応答速度が大きい場合、前記リーン応答速度に対して前記リッチ応答速度が大きい程度が大きいほど前記目標空燃比がよりリッチな空燃比に設定され、前記リーン応答速度よりも前記リッチ応答速度が小さい場合、前記リーン応答速度に対して前記リッチ応答速度が小さい程度が大きいほど前記目標空燃比がよりリーンな空燃比に設定されることが好適である。
平均フィードバック補正量が中心値から偏移する程度は、減量変化速度と増量変化速度との相違の程度(従って、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度)に依存し、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度が大きいほど、平均フィードバック補正量が中心値から偏移する程度が大きくなる。従って、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度が大きいほど「平均排気空燃比の偏移」の程度も大きくなる。これに伴い、目標空燃比を理論空燃比から偏移させる程度も大きくする必要がある。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度に依存することなく安定して平均排気空燃比を理論空燃比に近づけることができる。
通常、フィードバック補正量は、空燃比センサの出力の変化に対するフィードバック補正量の変化の程度を調整する調整値(例えば、ゲイン)を使用して取得される。ここまでの説明は、この調整値が、検出空燃比が目標空燃比よりもリッチである場合とリーンである場合とで同じ値に設定されることが前提とされていた。この場合、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度は、減量変化速度と増量変化速度との相違の程度と一致し得る。
一方、この調整値が、検出空燃比が目標空燃比よりもリッチである場合とリーンである場合とで異なる値に設定される場合がある(詳細は後述する)。このことは、減量変化速度と増量変化速度との相違の程度が、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度のみならず調整値の設定の仕方にも依存することを意味する。より具体的には、例えば、減量変化速度と増量変化速度との相違の程度は、(リッチ応答速度×「検出空燃比が目標空燃比よりもリッチである場合のゲイン」)と(リーン応答速度×「検出空燃比が目標空燃比よりもリーンである場合のゲイン」)との相違の程度で表すことができる。
即ち、この場合、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度は、減量変化速度と増量変化速度との相違の程度とは一致せず、平均フィードバック補正量が中心値から偏移する程度は、リッチ応答速度とリーン応答速度との相違の程度よりも減量変化速度と増量変化速度との相違の程度により一層強く依存する。
従って、この場合、「リーン応答速度」を「増量変化速度」に、「リッチ応答速度」を「減量変化速度」にそれぞれ置き換えて、増量変化速度よりも減量変化速度が大きい場合、目標空燃比を理論空燃比よりもリッチな空燃比に設定するとともに、増量変化速度よりも減量変化速度が小さい場合、目標空燃比を理論空燃比よりもリーンな空燃比に設定するように構成されることが好ましい。
加えて、増量変化速度よりも減量変化速度が大きい場合、増量変化速度に対して減量変化速度が大きい程度が大きいほど目標空燃比をよりリッチな空燃比に設定するとともに、増量変化速度よりも減量変化速度が小さい場合、増量変化速度に対して減量変化速度が小さい程度が大きいほど目標空燃比をよりリーンな空燃比に設定するように構成されることが好ましい。
また、本発明に係る第2の空燃比制御装置は、上記第1の空燃比制御装置と同様、前記触媒(特に、三元触媒)と、前記触媒上流に配設された前記空燃比センサとを備えた内燃機関に適用され、前記目標空燃比設定手段と、前記フィードバック制御手段とを備えている。
この第2の空燃比制御装置の特徴は、前記目標空燃比設定手段が、(点火装置の異常等に起因する)失火の発生頻度を表す値を取得する失火頻度取得手段と、前記空燃比センサの出力がリーン空燃比方向へ変化する場合における前記空燃比センサの出力の応答速度であるリーン応答速度を取得する応答速度取得手段とを備え、前記失火の発生頻度を表す値と前記リーン応答速度とに基づいて前記目標空燃比を設定するように構成されたことにある。
具体的には、例えば、前記失火の発生頻度が大きいほど、前記リーン応答速度が大きいほど、前記目標空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比であってよりリーンな空燃比に設定されることが好適である。
上記構成によれば、失火が繰り返し発生する場合、即ち、「目標空燃比が理論空燃比に設定される場合において平均排気空燃比が理論空燃比に対してリッチ方向に偏移する傾向が発生し得る場合」、目標空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比に設定される。
従って、目標空燃比が理論空燃比に設定される場合に比して、目標空燃比の理論空燃比に対する偏移分だけ平均排気空燃比がリーン方向に直ちに偏移し得る。即ち、上記第1の空燃比制御装置と同様、目標空燃比を理論空燃比から敢えて偏移させることにより、上記「平均排気空燃比の偏移」を迅速に補償し、平均排気空燃比を理論空燃比に迅速に近づけることができる。この結果、未燃成分HC,CO及び窒素酸化物NOxについての触媒の浄化性能を安定させることができる。
加えて、失火が発生する毎に検出空燃比が実排気空燃比に対してリーン方向に偏移する傾向が発生すること、並びに、検出空燃比がリーン方向に偏移する際においてリーン応答速度が大きいほど検出空燃比がリーン方向に偏移する程度がより大きくなること、を考慮すると、失火の発生頻度が大きいほど、且つ、リーン応答速度が大きいほど、失火に起因して平均フィードバック補正量が中心値に対して増量方向に偏移する程度が大きくなる。従って、失火の発生頻度が大きいほど、且つ、リーン応答速度が大きいほど、平均排気空燃比が理論空燃比に対してリッチ方向へ偏移する程度も大きくなる。これに伴い、目標空燃比を理論空燃比からリーン方向へ偏移させる程度も大きくする必要がある。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、失火の発生頻度、及びリーン応答速度に依存することなく安定して平均排気空燃比を理論空燃比に近づけることができる。
なお、上記第1の空燃比制御装置において、前記目標空燃比設定手段は、前記リッチ応答速度と前記リーン応答速度との相違の程度に基づいて基準空燃比(例えば、理論空燃比)を補正することで前記目標空燃比を設定してもよい。同様に、上記第2の空燃比制御装置において、前記目標空燃比設定手段は、前記失火の発生頻度を表す値と前記リーン応答速度とに基づいて基準空燃比(例えば、理論空燃比)を補正することで前記目標空燃比を設定してもよい。
以下、本発明による内燃機関の空燃比制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による空燃比制御装置を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排気ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これによりクランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともにインテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁43、及びDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ43aを備えている。
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51(実際には、各排気ポート34に連通した各々のエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に接続されたエキゾーストパイプ(排気管)52、エキゾーストパイプ52に配設(介装)された上流側の三元触媒53(上流側触媒コンバータ、以下、「第1触媒53」と称呼する。)、及びこの第1触媒53の下流のエキゾーストパイプ52に配設(介装)された下流側の三元触媒54(以下、「第2触媒54」と称呼する。)を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、カムポジションセンサ63、クランクポジションセンサ64、水温センサ65、第1触媒53の上流の排気通路(本例では、上記各々のエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に配設された空燃比センサ66(以下、「上流側空燃比センサ66」と称呼する。)、第1触媒53の下流であって第2触媒54の上流の排気通路に配設された空燃比センサ67(以下、「下流側空燃比センサ67」と称呼する。)、及びアクセル開度センサ68を備えている。
熱線式エアフローメータ61は、吸気管41内を流れる吸入空気の単位時間あたりの質量流量を検出し、質量流量Gaを表す信号を出力するようになっている。スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁43の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。カムポジションセンサ63は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号を発生するようになっている。クランクポジションセンサ64は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともにクランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、運転速度NEを表す。水温センサ65は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。
上流側空燃比センサ66は、限界電流式の酸素濃度センサであり、図2に示したように、空燃比A/Fに応じて出力される電流に応じた電圧である出力値Vabyfsを出力するようになっている。特に、空燃比が理論空燃比であるときには出力値Vabyfsは上流側目標値Vstoichになる。図2から明らかなように、上流側空燃比センサ66によれば、広範囲にわたる空燃比A/Fを精度良く検出することができる。
下流側空燃比センサ67は、起電力式(濃淡電池式)の酸素濃度センサであり、図3に示したように、理論空燃比近傍において急変する電圧である出力値Voxsを出力するようになっている。より具体的に述べると、下流側空燃比センサ67は、空燃比が理論空燃比よりもリーンのときは略0.1(V)、空燃比が理論空燃比よりもリッチのときは略0.9(V)、及び空燃比が理論空燃比のときは0.5(V)の電圧を出力するようになっている。アクセル開度センサ68は、運転者によって操作されるアクセルペダル81の操作量を検出し、アクセルペダル81の操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、CPU71が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及び定数等を予め記憶したROM72、CPU71が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM73、電源が投入された状態でデータを格納するとともに格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM74、並びにADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース75は、前記センサ61〜68と接続され、CPU71にセンサ61〜68からの信号を供給するとともに、CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、及びスロットル弁アクチュエータ43aに駆動信号を送出するようになっている。
(空燃比制御の概要)
次に、上記のように構成された空燃比制御装置(以下、「本装置」と云う。)が行う空燃比制御の概要について説明する。
本装置は、下流側空燃比センサ67の出力値が理論空燃比に対応する下流側目標値Voxsref(本例では、0.5(V)、図3を参照)となるように(即ち、第1触媒53下流の平均排気空燃比が理論空燃比となるように)、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfs(即ち、第1触媒53上流の空燃比)、及び下流側空燃比センサ67の出力値Voxs(即ち、第1触媒53下流の空燃比)に応じて空燃比を制御する。
より具体的に述べると、本装置は、機能ブロック図である図4に示したように、A1〜A12の各機能ブロックを含んで構成されている。以下、図4を参照しながら各機能ブロックについて説明していく。なお、以下、「フィードバック」を「FB」と称呼することもある。
<指令燃料噴射量の算出>
筒内吸入空気量算出手段A1は、エアフローメータ61が計測している吸入空気流量Gaと、クランクポジションセンサ64の出力に基づいて得られる運転速度NEと、ROM72が記憶しているテーブルMapMcとに基づき、吸気行程を迎える気筒の今回の吸入空気量である筒内吸入空気量Mc(k)を求める。ここで、添え字の(k)は、今回の吸気行程に対する値であることを示している(以下、他の物理量についても同様。)。筒内吸入空気量Mcは、各気筒の吸気行程に対応されながらRAM73に記憶されていく。
基本燃料噴射量決定手段A2は、上記筒内吸入空気量Mc(k)を基準空燃比abyfr0(本例では、理論空燃比stoichと等しい)で除することにより基本燃料噴射量Fbaseを求める。この基本燃料噴射量決定手段A2は、前記「基本燃料噴射量取得手段」に相当する。
指令燃料噴射量算出手段A3は、上記基本燃料噴射量Fbaseに、後述するメインFB補正量DFB(前記「フィードバック補正量」に相当)と、を加えることで、下記(1)式に基づいて指令燃料噴射量Fiを求める。この指令燃料噴射量算出手段A3は、前記「指令燃料噴射量算出手段」に相当する。
Fi=Fbase+DFB ・・・(1)
このようにして、本装置は、基本燃料噴射量FbaseをメインFB補正量DFBに基づいて補正することにより得られる指令燃料噴射量Fiの燃料の噴射指示を今回の吸気行程を迎える気筒についてのインジェクタ39に対して行う。このように燃料の噴射指示を行う手段が前記「フィードバック制御手段」に相当する。
<サブFB補正量の取得>
下流側目標値設定手段A4は、下流側目標値Voxsrefを決定する。本例では、下流側目標値Voxsrefは、理論空燃比に対応する値(0.5(V))で一定に設定される。
出力偏差量算出手段A5は、下記(2)式に基づいて、現時点(具体的には、今回のFiの噴射指示開始時点)での下流側目標値Voxsrefから現時点での下流側空燃比センサ67の出力値Voxsを減じることにより、出力偏差量DVoxsを求める。
DVoxs=Voxsref−Voxs ・・・(2)
PIDコントローラA6は、出力偏差量DVoxsを比例・積分・微分処理(PID処理)することで、下記(3)式に基づいてサブFB補正量Vafsfbを求める。下記(3)式において、Kpは予め設定された比例ゲイン(一定値)、Kiは予め設定された積分ゲイン(一定値)、Kdは予め設定された微分ゲイン(一定値)である。
Vafsfb=Kp・DVoxs+Ki・SDVoxs+Kd・DDVoxs ・・・(3)
また、上記(3)式において、SDVoxsは出力偏差量DVoxsの時間積分値(積算値)であり、DDVoxsは出力偏差量DVoxsの時間微分値である。ここで、PIDコントローラA6は積分項Ki・SDVoxsを含んでいるから、定常状態では出力偏差量DVoxsがゼロになることが保証される。換言すれば、下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとの定常偏差がゼロになる。
このようにして、本装置は、下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとの定常偏差がゼロになるように出力値Voxsに基づいて、サブFB補正量Vafsfbを求める。このサブFB補正量Vafsfbは、後述するように制御用空燃比abyfsの取得に用いられる。
<メインFB補正量の取得>
制御用空燃比相当出力値算出手段A7は、現時点での上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに、サブFB補正量Vafsfbを加えることで、制御用空燃比相当出力値(Vabyfs+Vafsfb)を求める。
テーブル変換手段A8は、上記制御用空燃比相当出力値(Vabyfs+Vafsfb)と、先に説明した図2にグラフにて示した上流側空燃比センサの出力値Vabyfsと空燃比A/Fとの関係を規定したテーブルMapabyfsとに基づいて、現時点での(今回の)制御用空燃比abyfs(k)を求める。これにより、制御用空燃比abyfs(k)は、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対応する空燃比(検出空燃比)に対してサブFB補正量Vafsfbに相当する分だけ異なる空燃比となる。制御用空燃比abyfs(k)は、各気筒の吸気行程に対応されながらRAM73に記憶されていく。
目標空燃比設定手段A9は、空燃比の目標値である現時点での(今回の)目標空燃比abyfr(k)を設定する。この目標空燃比abyfr(k)の設定については、後にフローチャートを参照しながら詳述する。この目標空燃比abyfr(k)は原則的には理論空燃比stoichに設定される。目標空燃比abyfr(k)は、各気筒の吸気行程に対応されながらRAM73に記憶されていく。この目標空燃比設定手段A9は、前記「目標空燃比設定手段」に相当する。
目標空燃比遅延手段A10は、目標空燃比設定手段A9により吸気行程毎に求められRAM73に記憶されている目標空燃比abyfrのうち、現時点からNストローク前の目標空燃比abyfr(k-N)をRAM73から読み出す。ここで、ストローク数Nは、「行程遅れに係る時間」と「輸送遅れに係る時間」と「応答遅れに係る時間」の和(以下、「無駄時間L」と称呼する。)に相当するストローク数である。
「行程遅れに係る時間」は、燃料の噴射指示から、この噴射指示により噴射された燃料の燃焼に基づく排ガスが排気弁35を介して燃焼室25から排気通路へ排出されるまでの時間である。「輸送遅れに係る時間」は、排ガスが排気弁35を介して排気通路へ排出されてから上流側空燃比センサ66(の検出部)に到達するまでの時間である。「応答遅れに係る時間」は、上流側空燃比センサ66(の検出部)に到達した排ガスの空燃比が上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsとして現れるまでの時間である。
空燃比偏差算出手段A11は、下記(4)式に基づいて、今回の制御用空燃比abyfs(k)から、現時点からNストローク前の目標空燃比abyfr(k-N)を減じることにより、空燃比偏差DAFを求める。ここで、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsが現時点から上記無駄時間Lだけ前の噴射指示により噴射された燃料の燃焼に基づく排ガスの空燃比を表すことを考慮すると、この空燃比偏差DAFは、現時点からNストローク前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分を表す量となる。
DAF=abyfs(k)−abyfr(k-N) ・・・(4)
PIコントローラA12は、上記空燃比偏差DAFを比例・積分処理(PI処理)することで、下記(5)式に基づいて、現時点からNストローク前の燃料供給量の過不足を補償するためのメインFB補正量DFBを求める。
DFB=(Gp・DAF+Gi・SDAF) ・・・(5)
上記(5)式において、Gpは比例ゲイン(一定値)、Giは積分ゲイン(一定値)である。SDAFは空燃比偏差DAFの時間積分値(積算値)である。ここで、比例ゲインGp(及び積分ゲインGi)は、前記「調整値」に相当する。このPIコントローラA12は、前記「フィードバック補正量取得手段」に相当する。このように算出されるメインFB補正量DFBが、上述した指令燃料噴射量算出手段A3における指令燃料噴射量Fiの算出(上記(1)式を参照)に使用される。
以上のように、本装置では、現時点からNストローク前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分を補償するために、現時点での制御用空燃比abyfs(k)が現時点からNストローク前の目標空燃比abyfr(k-N)と一致するように空燃比がフィードバック制御される。
加えて、制御用空燃比abyfsは、上述したように、上流側空燃比センサ66の出力値Vabyfsに対応する検出空燃比をサブFB補正量Vafsfbに相当する分だけ補正した空燃比である。従って、制御用空燃比abyfsは出力偏差量DVoxsにも応じて変化する。この結果、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsが下流側目標値Voxsrefに一致するようにも空燃比がフィードバック制御される。このことは、第1触媒53下流の平均排気空燃比(従って、第1触媒53上流の平均排気空燃比)が理論空燃比となるように制御されることを意味する。
更には、PIコントローラA12は積分項Gi・SDAFを含んでいるので、定常状態では空燃比偏差DAFがゼロになることが保証される。換言すれば、目標空燃比abyfr(k-N)と制御用空燃比abyfs(k)との定常偏差がゼロになる。このことは、定常状態において、制御用空燃比abyfsが目標空燃比abyfrに一致すること、従って、第1触媒53の上下流の空燃比が目標空燃比abyfrに一致することが保証されることを意味する。以上が、本装置が行う空燃比制御の概要である。
(目標空燃比の設定)
次に、目標空燃比abyfr(k)を設定する際における本装置の実際の作動についてフローチャートを参照しながら説明する。CPU71は、図5にフローチャートにより示した目標空燃比の設定を行うルーチンを、所定のタイミング毎(例えば、燃料が噴射される気筒について燃料噴射開始時期が到来する毎)に、繰り返し実行するようになっている。
従って、燃料噴射気筒について燃料噴射開始時期が到来すると、CPU71はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、現時点で得られているリッチ応答速度Vrich、及びリーン応答速度Vleanを取得する。
リッチ応答速度Vrich(リーン応答速度Vlean)は、第1触媒53上流の実排気空燃比がリッチ方向(リーン方向)に変化することに伴って上流側空燃比センサ66の出力Vabyfsがリッチ空燃比方向(リーン空燃比方向)(図2において減少方向(増加方向))へ変化する場合における、実排気空燃比の変化に対する上流側空燃比センサ出力Vabyfsの応答遅れの程度を表す。リッチ応答速度Vrich(リーン応答速度Vlean)が大きいとは、実排気空燃比の変化に対する上流側空燃比センサ出力Vabyfsの応答遅れの程度が小さいことを意味する。
リッチ応答速度Vrich(リーン応答速度Vlean)は、例えば、空燃比が理論空燃比よりもリーン(リッチ)の所定のリーン空燃比(所定のリッチ空燃比)に維持されていて、且つ、上流側空燃比センサ出力Vabyfsが所定のリーン空燃比(所定のリッチ空燃比)に対応する値に維持されている状態において、空燃比を所定のリッチ空燃比(所定のリーン空燃比)にステップに切り替えた場合における上流側空燃比センサ出力Vabyfsの応答を監視することで取得され得る。
具体的には、例えば、空燃比の切り替え時点から、上流側空燃比センサ出力Vabyfsが所定のリッチ空燃比(所定のリーン空燃比)に対応する値に近い基準値に達するまでに要する時間(時定数)が検出される。リッチ応答速度Vrich(リーン応答速度Vlean)は、この時間に反比例する値を出力する所定の関数に基づいて決定され得る。なお、触媒が吸蔵し得る酸素の最大量(最大酸素吸蔵量)を取得するために空燃比を理論空燃比から所定量だけリーン方向に偏移したリーン空燃比と理論空燃比から同じ量だけリッチ方向に偏移したリッチ空燃比とに交互に切り替える制御(アクティブ空燃比制御)が広く知られている。リッチ応答速度Vrich(リーン応答速度Vlean)は、このアクティブ空燃比制御の実行により触媒(第1触媒53等)の最大酸素吸蔵量が取得される毎に、併せて取得・更新されることが好適である。
次いで、CPU71はステップ510に進み、速度比率RatioV(=Vrich/Vlean)と、図6にグラフにより示したテーブルとに基づいて速度比率補正値αを決定する。これにより、速度比率RatioVが「1」より大きい場合(即ち、リーン応答速度Vleanよりもリッチ応答速度Vrichが大きい場合)、速度比率補正値αは、リーン応答速度Vleanに対してリッチ応答速度Vrichが大きい程度が大きいほど、負の値であってより小さい値に設定される。一方、速度比率RatioVが「1」より小さい場合(即ち、リーン応答速度Vleanよりもリッチ応答速度Vrichが小さい場合)、速度比率補正値αは、リーン応答速度Vleanに対してリッチ応答速度Vrichが小さい程度が大きいほど、正の値であってより大きい値に設定される。
そして、CPU71はステップ515に進んで、目標空燃比abyfr(k)を下記(6)式に従って決定し、本ルーチンを一旦終了する。上述のごとく、abyfr0は基準空燃比abyfr0(本例では、理論空燃比stoichと等しい)である。
abyfr(k)=abyfr0・(1+α) …(6)
これにより、リーン応答速度Vleanよりもリッチ応答速度Vrichが大きい場合、リーン応答速度Vleanに対してリッチ応答速度Vrichが大きい程度が大きいほど、目標空燃比abyfr(k)が、理論空燃比stoichよりもリッチな空燃比であって且つよりリッチな空燃比に設定される。一方、リーン応答速度Vleanよりもリッチ応答速度Vrichが小さい場合、リーン応答速度Vleanに対してリッチ応答速度Vrichが小さい程度が大きいほど、目標空燃比abyfr(k)が、理論空燃比stoichよりもリーンな空燃比であって且つよりリーンな空燃比に設定される。
以下、目標空燃比abyfr(k)をこのように設定する理由について、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichに設定されていて且つリッチ応答速度Vrich=リーン応答速度Vleanの場合において、上述したアクティブ制御が行われている場合における、第1触媒53上流の実排気空燃比、検出空燃比、及びメインFB補正量DFBの変化の一例を示している。なお、図7において、検出空燃比の位相が実排気空燃比の位相よりも遅れているのは、上述した無駄時間Lに対応するものである。
図7に示すように、この場合、リッチ応答速度Vrich=リーン応答速度Vleanであるから、(対応するタイミング同士での)検出空燃比のリッチ方向への変化速度とリーン方向の変化速度とは等しくなる。加えて、上述のように、本例では、メインFB補正量DFBの算出(上記(5)式を参照)に使用される比例ゲインGp(及び積分ゲインGi)は一定である。従って、(対応するタイミング同士での)メインFB補正量DFBの減少速度(即ち、上記減量変化速度)と増加速度(即ち、上記増量変化速度)も等しくなる。
従って、メインFB補正量DFBの時間に対する平均値(以下、「平均DFB」と称呼する。)がメインFB補正量DFBの中心値「0」(基本燃料噴射量Fbaseが補正されない場合に対応する値)と一致する(図7を参照)。このことは、第1触媒53上流(従って、第1触媒53下流)の実排気空燃比の時間に対する平均値(平均排気空燃比)が理論空燃比に一致することを意味する。
一方、図8は、リッチ応答速度Vrich>リーン応答速度Vleanの場合における図7に対応する図である。リッチ応答速度Vrich>リーン応答速度Vleanの場合は、例えば、上流側空燃比センサ66の検出部内のジルコニアからなる拡散層に目詰まり等が発生して排ガスが拡散層内で拡散し難くなった場合に発生し得る。即ち、分子量が大きい酸素分子O2の拡散速度が特に遅くなり、上流側空燃比センサ出力Vabyfs(従って、検出空燃比)がリーン空燃比方向(図8において、上方向)へ変化する場合における応答性がリッチ空燃比方向(図8において、下方向)へ変化する場合に比して相対的に低くなる。
図8に示すように、この場合、(対応するタイミング同士での)検出空燃比のリーン方向への変化速度がリッチ方向への変化速度に比して相対的に小さくなる(図8における黒矢印を参照)。従って、上述のように比例ゲインGp(及び積分ゲインGi)が一定であることを考慮すると、(対応するタイミング同士での)メインFB補正量DFBの増量変化速度が減量変化速度に比して相対的に小さくなる(図8における黒矢印を参照)。
この結果、図8に示すように、平均DFBが中心値「0」に対して減量方向に偏移する。このことは、第1触媒53上流(従って、第1触媒53下流)の平均排気空燃比が理論空燃比に対してリーン方向に偏移することを意味する。なお、このことは、サブFB補正量Vafsfb(上記(3)式を参照)における積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、本来収束すべき値(即ち、例えば、上流側空燃比センサ66の検出誤差等を補償するための値)に対して増量方向へ偏移することにも繋がる。
この場合、第1触媒53内の雰囲気が平均的にリーン雰囲気となって窒素酸化物NOxについての第1触媒53の浄化性能が低下する。従って、係る「平均排気空燃比のリーン方向への偏移」を迅速に補償して平均排気空燃比を理論空燃比に近づける必要がある。
このため、この第1実施形態では、リッチ応答速度Vrich>リーン応答速度Vleanの場合(即ち、速度比率RatioV>1の場合)、速度比率補正値αを負の値に設定することで(図6を参照)、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichよりもリッチな空燃比に設定(理論空燃比から補正)される(図5のステップ515を参照)。
これにより、目標空燃比abyfrの理論空燃比stoichに対する偏移分だけ実排気空燃比(従って、平均排気空燃比)がリッチ方向に直ちに偏移する。この結果、平均排気空燃比が理論空燃比stoichに迅速に近づく。このことは、サブFB補正量Vafsfbにおける積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、上記本来収束すべき値に収束し得ることにも繋がる。
更には、平均DFBの中心値「0」からの減量方向への偏移量は、メインFB補正量DFBにおける減量変化速度が増量変化速度に対して大きい程度に依存する。上述のように比例ゲインGp(及び積分ゲインGi)が一定であることを考慮すると、メインFB補正量DFBの減量変化速度が増量変化速度に対して大きい程度は、速度比率RatioV(>1)により正確に表すことができる。即ち、平均DFBの中心値「0」からの減量方向への偏移量は速度比率RatioV(>1)に依存し、速度比率RatioV(>1)が大きいほど平均DFBの中心値「0」からの減量方向への偏移量が大きくなる。従って、速度比率RatioV(>1)が大きいほど平均排気空燃比のリーン方向への偏移量も大きくなる。これに伴い、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichからリッチ方向へ偏移させる量も大きくする必要がある。
係る知見に基づき、この第1実施形態では、リッチ応答速度Vrich>リーン応答速度Vleanの場合(即ち、速度比率RatioV>1の場合)、速度比率RatioV(>1)が大きいほど、速度比率補正値αをより小さい負の値に設定することで(図6を参照)、目標空燃比abyfrがよりリッチな空燃比に設定される(図5のステップ515を参照)。これにより、リッチ応答速度Vrich>リーン応答速度Vleanの場合において、速度比率RatioV(>1)に依存することなく安定して平均排気空燃比を理論空燃比stoichに近づけることができる。
以上は、リッチ応答速度Vrich>リーン応答速度Vleanの場合(即ち、速度比率RatioV>1の場合)について説明したが、リッチ応答速度Vrich<リーン応答速度Vleanの場合(即ち、速度比率RatioV<1の場合)についても同様に考えることができる。
即ち、この場合、逆に、平均DFBが中心値「0」に対して増量方向に偏移し、速度比率RatioV(<1)が小さいほど、その偏移量は大きくなる。従って、速度比率RatioV(<1)が小さいほど、第1触媒53上流(従って、第1触媒53下流)の平均排気空燃比が理論空燃比に対してよりリッチ方向に偏移する。なお、このことは、サブFB補正量Vafsfbにおける積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、上記本来収束すべき値に対して減量方向へ偏移することにも繋がる。
この場合、第1触媒53内の雰囲気が平均的にリッチ雰囲気となって未燃成分HC,COについての第1触媒53の浄化性能が低下する。従って、係る「平均排気空燃比のリッチ方向への偏移」を迅速に補償して平均排気空燃比を理論空燃比に近づける必要がある。
このため、この第1実施形態では、リッチ応答速度Vrich<リーン応答速度Vleanの場合(即ち、速度比率RatioV<1の場合)、速度比率RatioV(<1)が小さいほど、速度比率補正値αをより大きい正の値に設定することで(図6を参照)、目標空燃比abyfrがよりリーンな空燃比に設定される(図5のステップ515を参照)。これにより、リッチ応答速度Vrich<リーン応答速度Vleanの場合において、速度比率RatioV(<1)に依存することなく安定して平均排気空燃比を理論空燃比stoichに近づけることができる。このことは、サブFB補正量Vafsfbにおける積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、上記本来収束すべき値に安定して収束し得ることにも繋がる。
なお、リッチ応答速度Vrich<リーン応答速度Vleanの場合は、例えば、長時間に亘って実排気空燃比が理論空燃比stoichよりもリーンな状態が継続したことに起因して上流側空燃比センサ66の検出部の電極の表面上に酸素分子O2の吸着が発生した場合に発生し得る。即ち、排ガス中の未燃成分HC,COが電極の表面上に吸着している酸素分子O2と反応してしまうことで、上流側空燃比センサ出力Vabyfs(従って、検出空燃比)がリッチ空燃比方向へ変化する場合における応答性がリーン空燃比方向へ変化する場合に比して相対的に低くなる。
以上、説明したように、本発明による内燃機関の空燃比制御装置の第1実施形態によれば、上流側空燃比センサ66のリッチ応答速度Vrichとリーン応答速度Vleanとが検出され、速度比率RatioV(=Vrich/Vlean)に基づいて、速度比率RatioV>1の場合(即ち、Vrich>Vleanの場合)に目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichよりもリッチな空燃比に設定され、速度比率RatioV<1の場合(即ち、Vrich<Vleanの場合)に目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichよりもリーンな空燃比に設定される(図6に示したテーブル、及び図5のステップ515を参照)。
これにより、リッチ応答速度Vrichとリーン応答速度Vleanとの相違に起因して平均DFBが中心値「0」から偏移することにより発生し得る「平均排気空燃比の偏移」を迅速に補償し、平均排気空燃比を理論空燃比に迅速に近づけることができる。この結果、未燃成分HC,CO及び窒素酸化物NOxについての第1触媒53の浄化性能を安定させることができる。
本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、メインFB補正量DFBの算出(上記(5)式を参照)に使用される比例ゲインGp(及び積分ゲインGi)は一定である。この場合、上述のように、速度比率RatioVは、メインFB補正量DFBにおける減量変化速度と増量変化速度との相違の程度(従って、平均DFBの中心値「0」からの偏移量)を精度良く表し得る。このことに基づいて、上記第1実施形態では、速度比率RatioVに基づいて目標空燃比abyfrが設定(補正)されている(図6に示したテーブル、及び図5のステップ515を参照)。
他方、例えば、未燃成分HC,COよりも窒素酸化物NOxについてより高い浄化性能が要求される場合がある。このためには、第1触媒53内の平均的な雰囲気を弱リッチ雰囲気に調整する必要がある。このためには、例えば、上記比例ゲインGpについて、検出空燃比が目標空燃比abyfrよりもリーンである場合(即ち、DFBが増量方向に計算される場合)における比例ゲインGp(Gplean)を、検出空燃比が目標空燃比abyfrよりもリッチである場合(即ち、DFBが減量方向に計算される場合)における比例ゲインGp(Gprich)に比して相対的に大きい値に設定すればよい。
このように、比例ゲインGprich,Gpleanが異なる値に設定される場合、上記速度比率RatioV(=Vrich/Vlean)よりも速度比率RatioV1(=(Vrich・Gprich)/(Vlean・Gplean))の方が、メインFB補正量DFBにおける減量変化速度と増量変化速度との相違の程度(従って、平均DFBの中心値「0」からの偏移量)をより一層精度良く表す値となる。
以上より、比例ゲインGprich,Gpleanが異なる値に設定される場合、図6に示したテーブルに代えて図9に示したテーブルを使用して、速度比率RatioVに代えて速度比率RatioV1に基づいて目標空燃比abyfrを設定することが好ましい。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る空燃比制御装置について説明する。第2実施形態では、失火率及び上記リーン応答速度Vleanに基づいて目標空燃比abyfrを設定する点においてのみ、速度比率RatioV(=Vrich/Vlean)に基づいて目標空燃比abyfrを設定する上記第1実施形態と異なる。失火率は、前記「失火の発生頻度を表す値」に相当する。以下、係る相違点について、図5に示したルーチンに対応する図10にフローチャートにより示したルーチンを参照しながら説明する。
第2実施形態のCPU71は、燃料噴射気筒について燃料噴射開始時期が到来すると、ステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで、現時点で得られている失火率、及びリーン応答速度Vleanを取得する。このリーン応答速度Vleanは、上記第1実施形態で説明したものと同じである。
失火率とは、本例では、燃料噴射が所定回数だけ行われた期間内において失火が発生した回数の、前記所定回数に対する割合である。失火の発生は周知の手法の一つに従って検出できるから、失火率は、燃料噴射が前記所定回数だけ行われる毎に取得・更新することができる。なお、この第2実施形態では、エアフローメータ61及びインジェクタ39が正常(即ち、筒内吸入空気量Mc、及び燃料噴射量Fiが正常)であって、点火装置(点火プラグ37、イグナイタ38)の異常(例えば、点火プラグ37のくすぶり等)に起因して発生する失火を想定している。
次いで、CPU71はステップ1010に進み、失火率と、リーン応答速度Vleanと、図11にグラフにより示したテーブルとに基づいて失火補正値βを決定する。これにより、失火率が大きいほど、リーン応答速度Vleanが大きいほど、失火補正値βは、正の値であってより大きい値に設定される。
そして、CPU71はステップ1015に進んで、目標空燃比abyfr(k)を下記(7)式に従って決定し、本ルーチンを一旦終了する。上述のごとく、abyfr0は基準空燃比abyfr0(本例では、理論空燃比stoichと等しい)である。
abyfr(k)=abyfr0・(1+β) …(7)
これにより、失火率が大きいほど、リーン応答速度Vleanが大きいほど、目標空燃比abyfr(k)が、理論空燃比stoichよりもリーンな空燃比であって且つよりリーンな空燃比に設定される。
以下、目標空燃比abyfr(k)をこのように設定する理由について、図12及び図13を参照しながら説明する。図12は、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichに設定されていて、且つ、点火装置の異常に起因する失火が繰り返し発生している場合における、検出空燃比、第1触媒53上流の実排気空燃比、及びメインFB補正量DFBの変化の一例を示している。
図12に示すように、失火が発生する毎に、検出空燃比がリーン方向に偏移する傾向が発生する。なお、検出空燃比がリーン方向に偏移するタイミングが失火発生のタイミングよりも遅れているのは、上述した無駄時間Lに対応するものである。係る失火による検出空燃比のリーン方向への偏移は、以下の理由に基づく。
即ち、点火装置の異常により失火が発生しても、エアフローメータ61及びインジェクタ39は正常であるから、未燃の排ガスの空燃比は理論空燃比stoich(或いは、理論空燃比近傍)に維持されている。従って、未燃の排ガス中には、多量のHC、及び多量の酸素O2が含まれている。
上流側空燃比センサ66(限界電流式の酸素濃度センサ)では、酸素O2の反応速度がHCの反応速度よりも大きい。従って、失火が発生すると、HCよりも多くの多量の酸素O2が上流側空燃比センサ66と反応することで、上流側空燃比センサ66の出力(従って、検出空燃比)は、実排気空燃比に対してリーン方向に偏移する。なお、係る多量のHC及び多量の酸素O2の殆どは第1触媒53内で互いに反応するから、下流側空燃比センサ67には上流側空燃比センサ66のように多量の酸素O2が到達し得ない。従って、下流側空燃比センサ67の出力Voxsが失火によりリーン方向に偏移する傾向は非常に小さい。
このように、検出空燃比が、失火が発生する毎にリーン方向に偏移する傾向が発生すると、図12に示すように、メインFB補正量DFBも、失火が発生する毎に増量方向に偏移する。即ち、失火が繰り返し発生すると、平均DFBが中心値「0」に対して増量方向に偏移する。この結果、第1触媒53上流(従って、第1触媒53下流)の平均排気空燃比が理論空燃比に対してリッチ方向に偏移する。なお、このことは、サブFB補正量Vafsfbにおける積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、上記本来収束すべき値に対して減量方向へ偏移することにも繋がる。
この場合、上記第1実施形態における「リッチ応答速度Vrich<リーン応答速度Vleanの場合(即ち、速度比率RatioV<1の場合)」と同様、未燃成分HC,COについての第1触媒53の浄化性能が低下するから、係る「平均排気空燃比のリッチ方向への偏移」を迅速に補償して平均排気空燃比を理論空燃比に近づける必要がある。
このため、この第2実施形態では、失火補正値βを正の値に設定することで(図11を参照)、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichよりもリーンな空燃比(図13では、AFlean)に設定(理論空燃比から補正)される(図10のステップ1015を参照)。
これにより、図13に示すように、目標空燃比abyfrの理論空燃比stoichに対する偏移分だけ実排気空燃比(従って、平均排気空燃比)がリーン方向に直ちに偏移する。この結果、平均排気空燃比が理論空燃比stoichに迅速に近づく。このことは、サブFB補正量Vafsfbにおける積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、上記本来収束すべき値に収束し得ることにも繋がる。
更には、失火が発生する毎に検出空燃比が実排気空燃比に対してリーン方向に偏移する傾向が発生することを考慮すると、失火に起因する平均DFBの中心値「0」からの増量方向への偏移量は、失火率が大きいほど大きくなる。また、検出空燃比がリーン方向に偏移する際においてリーン応答速度Vleanが大きいほど検出空燃比がリーン方向に偏移する程度がより大きくなることを考慮すると、失火に起因する平均DFBの中心値「0」からの増量方向への偏移量は、リーン応答速度Vleanが大きいほど大きくなる。従って、失火率が大きいほど、且つ、リーン応答速度Vleanが大きいほど、平均排気空燃比のリッチ方向への偏移量も大きくなる。これに伴い、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichからリーン方向へ偏移させる程度も大きくする必要がある。
係る知見に基づき、この第2実施形態では、失火率が大きいほど、且つ、リーン応答速度Vleanが大きいほど、失火補正値βをより大きい正の値に設定することで(図11を参照)、目標空燃比abyfrがよりリーンな空燃比に設定される(図10のステップ1015を参照)。これにより、失火率、及びリーン応答速度Vleanに依存することなく安定して平均排気空燃比を理論空燃比stoichに近づけることができる。なお、このことは、サブFB補正量Vafsfbにおける積分項「Ki・SDVoxs」(或いは、時間積分値SDVoxs)が、上記本来収束すべき値に安定して収束し得ることにも繋がる。
以上、説明したように、本発明による内燃機関の空燃比制御装置の第2実施形態によれば、失火率、及び上流側空燃比センサ66のリーン応答速度Vleanが検出され、失火率、及びリーン応答速度Vleanに基づいて、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichよりもリーンな空燃比に設定される(図11に示したテーブル、及び図10のステップ1015を参照)。
これにより、点火装置の異常により発生する失火に起因して平均DFBが中心値「0」からリッチ方向に偏移することにより発生し得る「平均排気空燃比のリッチ方向への偏移」を迅速に補償し、平均排気空燃比を理論空燃比に迅速に近づけることができる。この結果、未燃成分HC,COについての第1触媒53の浄化性能を安定させることができる。
本発明は上記第1、第2実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1、第2実施形態においては、メインFB補正量DFBの算出においてサブFB補正量Vafsfbが考慮されているが、メインFB補正量DFBの算出においてサブFB補正量Vafsfbが考慮されなくてもよい。即ち、下流側空燃比センサ67を省略してもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、メインFB補正量DFB、及びサブFB補正量Vafsfbに積分項(「Gi・SDAF」、及び「Ki・SDVoxs」)が含まれているが、これらの何れか一方又は両方がなくてもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、速度比率補正値α、及び失火補正値βを「0」を基準として正負を採りえる値に決定し、(1+α)、(1+β)をそれぞれ基準空燃比abyfr0(=stoich)に乗じることで目標空燃比abyfrを設定(補正)しているが、速度比率補正値α、及び失火補正値βを「1」を基準とする正の値に決定し、α,βをそれぞれ基準空燃比abyfr0(=stoich)に直接乗じることで目標空燃比abyfrを設定(補正)してもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、インジェクタ39、エアフローメータ61、及びインジェクタ39に燃料を供給する図示しない燃料ポンプ等に異常(例えば、断線等)が発生したと判定された場合、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichで一定に設定するように(即ち、目標空燃比abyfrの理論空燃比からの補正を行わないように)構成してもよい。
加えて、上記第1実施形態における速度比率補正値α、及び上記第2実施形態における失火補正値βを共に使用して、即ち、速度比率RatioV、及び失火率を共に考慮して、下記(8)式に従って目標空燃比abyfrを設定してもよい。また、上述のように、速度比率補正値α、及び失火補正値βを「1」を基準とする正の値に決定し、下記(9)式に従って目標空燃比abyfrを設定してもよい。
abyfr(k)=abyfr0・(1+α)・(1+β) …(8)
abyfr(k)=abyfr0・α・β …(9)
10…内燃機関、25…燃焼室、37…点火プラグ、39…インジェクタ、53…三元触媒(第1触媒)、61…エアフローメータ、66…上流側空燃比センサ、67…下流側空燃比センサ、70…電気制御装置、71…CPU