JP2010082554A - 複層塗膜形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 低温における耐チッピング性に優れた複層塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】 電着塗膜が形成された鋼板の電着塗膜上に、耐チッピング塗料、中塗塗料、ベースコート塗料、及びクリヤーコート塗料を順次塗り重ねて複層塗膜を形成する塗膜形成方法において、耐チッピング塗料の硬化塗膜が−20℃において、伸び率が150〜800%、抗張力が150〜600kgf/cmであり、中塗塗料が、平均粒子径が3〜30μm、平均厚さが0.1〜3μmの偏平顔料を中塗塗料の固形分の全量に対して1〜5質量%含んでなり、かつクリヤーコート塗料の硬化塗膜が20℃において、伸び率が20〜80%、抗張力が120〜280kgf/cmであることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、自動車車体などの鋼板上の塗膜形成方法に関する。さらに詳しくは、特に低温における耐チッピング性に優れた複層塗膜形成方法に関する。
一般に自動車は、表面処理鋼板等からなる車体に、外観の向上、および防食性の付与を目的として塗装が施されている。しかしながら、走行中に小石等が強く衝突し、塗膜が局部的に剥離する現象が起きる場合がある。このような塗膜の剥離が生じた場合に、その剥離部に水等が侵入すると被塗物の素地面に錆が発生し、結果として被塗物が腐食してしまう。また、上塗塗膜が剥離することにより塗装面の美観性が著しく損なわれるといった問題点がある。
特に、北米、カナダ、北欧等の寒冷地では、降雪時の交通網を確保するため、路面に岩塩と砕石からなる凍結防止剤を散布することが行われている。そのような地域では、環境が低温であるので塗膜の剥離が起こりやすく、また、岩塩により素地傷からの腐食が進行しやすいため、特に自動車外板の塗膜における耐チッピング性は重要であり、低温において優れた耐チッピング性を有する塗膜が望まれている。
自動車車体鋼板上に電着プライマーを塗装した後、塗膜形成成分である樹脂(固形分)100重量部に対し、平均粒径が約10〜約20μmであるタルク粉20〜50重量部を配合してなる第一中塗塗料を塗装し、ついでタルク粉を配合しない第二中塗塗料を塗り重ね、さらに上塗り塗料を塗装することを特徴とする自動車車体の塗装方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ここで開示されている塗装方法は、チッピングによる傷を鋼板面に達しないよう剥離させるものであり、鋼板の錆発生は減少するが、剥離による塗装面の美観性が著しく損なわれる問題点は解決されなかった。
また、自動車車体の外板に、電着塗料、耐チッピング塗料、中塗塗料、および上塗塗料を塗り重ねる塗装方法において、(1)前記耐チッピング塗料が、(A)水酸基を有するエポキシ樹脂の樹脂固形分100重量部に対して、10〜70重量部の環状エステルを反応させて得られる、水酸基を含有し、数平均分子量500〜5,000のエポキシ樹脂、(B)水酸基を含有し、数平均分子量400〜1,000のポリエステルポリオール樹脂および(C)イソシアネート基がブロックされているポリイソシアネート化合物とを、(A)成分および(B)成分の水酸基1当量に対し、(C)成分のイソシアネート基が0.5〜2.0当量となる割合で配合した塗料組成物であって、前記組成物の硬化塗膜のガラス転移温度が−20℃〜0℃であって、伸び率が温度20℃において10〜100%、温度−20℃において1〜50%であり、抗張力が温度20℃において400〜700Kgf/cmである塗料組成物であり、前記耐チッピング塗料を乾燥膜厚25〜150μの範囲にて塗装後、前記耐チッピング塗料の塗膜ゲル分率が70〜100%の範囲となる様乾燥させ、次いで中塗塗料を塗装する塗装方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、ここで開示されている塗装方法は耐チッピング塗料硬化塗膜の伸び率が充分高くなく、また、上に塗装される中塗塗料、上塗塗料が特定されていないため耐チッピング性が充分でなかった。よって、耐チッピング性の効果を発揮するには耐チッピング塗料を乾燥膜厚25〜150μmの高膜厚に塗装しなければならず、厚膜に塗装されるために中塗とのウエット・オン・ウエット塗装性に問題があり、耐チッピング塗料の塗膜ゲル分率が70〜100%の範囲となる様、乾燥工程を設ける必要があり、工程が煩雑であった。乾燥工程を設けない場合、耐チッピング塗膜層が中塗に含有される溶剤により溶解し、ピンホール、わき、仕上がり光沢低下などの塗装作業性欠陥が生じ、耐チッピング性も低下するという問題点があった。
また、基材の上に、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤およびエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群に属する溶剤の合計含有量が全揮発成分中50質量%未満であるプライマー塗料により、得られる塗膜の破断伸張率が50〜700%、破断強度が100〜600kg/cmであるプライマー塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次備えてなり、かつ、クリヤー塗膜の破断伸張率が5〜80%、破断強度(=抗張力)が250〜600kg/cmである塗装方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、この塗装方法は、プライマー塗料中の溶剤によりプラスチック素材が溶解され、耐衝撃性を低下する原因となっていること、および、伸びや強度等の塗膜物性が耐衝撃性に大きく影響することを突き止め、素材に直接塗装するプライマー塗料として、樹脂を溶解させて悪影響を及ぼすような特定溶剤の量が一定未満であり、かつ、該プライマー塗料により形成される塗膜の破断伸張率および破断強度が特定範囲となるような塗料を選択すれば、塗装による耐衝撃性の低下を抑制しうるばかりか、逆にこの塗装によって、高温下に長期間曝された場合におこる素材自体の耐衝撃性の低下をも大幅に抑制することができることを見出したことにより発明されたもので、電着塗膜が形成された鋼板上では鋼板の粗度を隠蔽することが出来ず、表面が平滑で光沢のある塗装面を得ることが出来ないという問題点があった。また、基材の上に塗装される膜厚が薄いため、チッピングによる傷が鋼板面に達しやすく、鋼板の錆発生が高くなるという問題点があった。
特公昭53−45813号公報 特開平8−10694号公報 特開2006−124645号公報
本発明は、上記現状に鑑み、低温においても耐チッピング性に優れた複層塗膜形成方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の塗膜物性を有する耐チッピング塗料、特定の顔料を配合する中塗塗料および特定の塗膜物性を有するクリヤーコート塗料を組み合わせた複層塗膜形成方法により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、電着塗膜が形成された鋼板の電着塗膜上に、耐チッピング塗料、中塗塗料、ベースコート塗料、及びクリヤーコート塗料を順次塗り重ねて複層塗膜を形成する塗膜形成方法において、耐チッピング塗料の硬化塗膜が−20℃において、伸び率が150〜800%、抗張力が150〜600kgf/cmであり、中塗塗料が、平均粒子径が3〜30μm、平均厚さが0.1〜3μmの偏平顔料を中塗塗料の固形分の全量に対して1〜5質量%含んでなり、かつクリヤーコート塗料の硬化塗膜が20℃において、伸び率が20〜80%、抗張力が120〜280kgf/cmであることを特徴とする複層塗膜形成方法を提供するものである。
本発明の複層塗膜形成方法によれば、初期の外観が優れるのは勿論のこと、寒冷地で車が高速走行するなど、低温において小石等が強く衝突する環境下においても塗膜の局部的剥離が発生し難く、塗装面の美観性を保持し、また、鋼板の錆発生を抑えることができる複層塗膜を形成できる。
本発明においては、電着塗膜が形成された鋼板の電着塗膜上に、耐チッピング塗料、中塗塗料、ベースコート塗料、及びクリヤーコート塗料を順次塗り重ねて複層塗膜を形成する。
電着塗膜が形成された鋼板において、鋼板に用いられる金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等及びこれらの金属を含む合金を挙げることができる。鋼板の具体的としては、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体及び部品を挙げることができる。
鋼板に電着塗料を塗装する前に、鋼板は、表面処理されることが好ましい。表面処理としては、例えば、リン酸塩、クロム酸塩等による化成処理などが挙げられる。
電着塗料としては、種々の電着塗料が挙げられるが、好ましくはカチオン電着塗料である。
鋼板に塗装された電着塗膜層は、焼付け硬化させることが好ましい。焼付け温度は、100〜200℃が好ましく、焼付け時間は10〜50分間が好ましい。
電着塗料の乾燥塗膜の膜厚は、1〜50μmが好ましく、より好ましくは、5〜40μmである。
電着塗膜が形成された鋼板としては、自動車用鋼板をリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理し、カチオン電着塗装を施したものが好適である。
本発明に用いられる耐チッピング塗料は、その硬化塗膜が−20℃において、伸び率が150〜800%であり、好ましくは170〜750%、特に好ましくは180〜700%である。伸び率が150%に満たない場合は、小石等が衝突した場合の衝撃緩和が十分でなく、耐チッピング性に劣る。一方、800%を超える場合においては塗膜の凝集力が低下し、耐チッピング塗料の塗膜凝集剥離が発生し易い。
本発明に用いられる耐チッピング塗料の硬化塗膜は、−20℃において、抗張力が150〜600kgf/cmであり、好ましくは200〜500kgf/cmである。抗張力が150kgf/cmよりも低い場合、耐チッピング試験において耐チッピング塗料の塗膜凝集による剥離が発生し易い。一方、抗張力が600kgf/cmよりも高い場合、衝撃緩和が十分でなく、中塗塗膜やベースコート塗膜の界面で剥離が発生し易い。
上記耐チッピング塗料には、樹脂成分として、基体樹脂及び硬化剤を含有することができる。その基体樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、マレイン酸をグラフトしたポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、硬化剤としては、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記耐チッピング塗料は、上記の樹脂成分の他に、二酸化チタン、カーボンブラック、べんがら、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系等の着色顔料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、カオリン等の体質顔料等の顔料、三級アミン、有機錫化合物等の硬化触媒、流動調整剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を適宜1種以上を含有することができる。これらの成分は、1種又は2種以上を組合せて用いることができる。これら、顔料、硬化触媒、添加剤等の含有量は、特に限定するものでないが、顔料については、前述の硬化塗膜物性を得るため、樹脂成分総計量に対し、150質量%以下とするのが望ましい。より好ましくは、10〜100質量%であり、さらに好ましくは20〜80質量%である。顔料の量が150質量%を超えると、硬化塗膜の−20℃における伸び率が低下することがある。
上記耐チッピング塗料は、水に溶解もしくは分散することにより水溶性塗料、水分散型塗料、エマルション型塗料等として用いることができる。また、耐チッピング塗料は、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、及びメチルエチルケトン等のケトン系溶剤を単独で又は2種以上混合して用いた有機溶剤に溶解もしくは分散し、有機溶剤系塗料として用いることもできる。
本発明においては、耐チッピング塗料を、電着塗膜が形成された鋼板の電着塗膜上に塗装し、耐チッピング塗膜層を形成し、その耐チッピング塗膜層上に中塗塗料を塗装する。耐チッピング塗膜層と中塗塗膜層は、各層を形成するごとに焼付けることができるが、省エネルギー及び工程短縮の点からウェットオンウェット方式で塗装することが好ましい。塗膜層の焼付け条件は、各層ごとに焼付ける場合又はウェットオンウェット方式で形成される場合にかかわらず、120〜180℃で20〜30分間の条件で行うことが好ましい。この場合のウェットオンウェット方式とは、耐チッピング塗膜層を乾燥しない状態、又は十分に乾燥しない状態で、中塗塗料を塗装することをいう。
耐チッピング塗料の乾燥塗膜の膜厚は、1〜24μmが好ましく、より好ましくは、4〜20μmである。膜厚が、1μm未満では耐チッピング性が充分でなく、24μmを超えると耐チッピング塗料の乾燥が充分でない場合に外観性が低下することがある。
本発明に用いられる中塗塗料の樹脂成分として、基体樹脂及び硬化剤を含有することができる。その基体樹脂としては、特に制限がなく、公知の水系または溶剤系の樹脂成分を用いることができる。例えば、樹脂成分の基体樹脂の具体例としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
硬化剤としては、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記中塗塗料は、平均粒子径が3〜30μm、平均厚さが0.1〜3μmの偏平顔料を1〜5質量%含有する。扁平顔料の好ましい平均粒子径は5〜20μmであり、扁平顔料の好ましい平均厚さは0.2〜2μmである。扁平顔料の平均粒子径が3μm未満では、中塗による衝撃緩和力が充分でなく、耐チッピング性が充分でない。一方、平均粒子径が30μmを超えると中塗硬化塗膜表面に偏平顔料が突出し、上塗外観性を低下させることがある。また、扁平顔料の平均厚さが0.1μm未満では自動車塗装ラインのサーキュレーションにおいて塗料循環ポンプ等により扁平顔料が変形し、効果を発揮できない場合がある。一方、扁平顔料の平均厚さが3μmを超えると、中塗硬化塗膜の光沢が低下し、その上に塗装される上塗の光沢を低下させることがある。
中塗塗料中の扁平顔料の含有量は、中塗塗料の固形分の全量に対して1〜5質量%であり、好ましくは2〜4質量%である。扁平顔料が1質量%未満の場合、耐チッピング性試験後において、鋼板からの錆が発生しやすい。一方、5質量%を超えると耐チッピング性試験後において、中塗塗膜での凝集剥離が大きくなる。また、中塗の光沢が低下し、上塗の外観性が低下する場合がある。ここで、中塗塗料の固形分とは、基体樹脂や硬化剤などの樹脂成分や、顔料や、固体の添加剤など固形の全ての成分が含まれる。
扁平顔料の具体例としては、タルク、板状酸化鉄顔料、アルミフレーク、雲母、金属酸化物被覆雲母等のうち、前述した特定範囲の平均粒子径、平均厚さを満たすものが挙げられる。
中塗塗料には、無機顔料、有機顔料、体質顔料などの各種顔料、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上を含有させてもよい。
本発明においては、中塗塗料を、耐チッピング塗膜上に塗装し、中塗塗膜層を形成し、その中塗塗膜層を硬化して、中塗硬化塗膜を形成する。中塗塗膜層の硬化は、120〜180℃で20〜30分間の条件で行うことが好ましい。
本発明の中塗塗料の硬化塗膜の膜厚は、20〜50μmが好ましく、より好ましくは、25〜45μmである。膜厚が、20μm未満の場合、鋼板の粗度を隠蔽することが出来ず、表面が平滑で光沢のある塗装面を得ることが出来ない。また、耐チッピング塗料を自動車車体の一部にのみ塗装した場合に、被塗物に耐チッピング塗料がミスト状に塗装された部位の外観性が劣ることがある。膜厚が50μmを超える場合には垂直で塗装された部位にタレが生じやすい。
中塗塗料の硬化塗膜は、ベースコート塗料を塗装する前に硬化させることが好ましい。
本発明に用いられるベースコート塗料は、特に制限がなく、公知の水系または溶剤系の塗料を用いることができる。
本発明に用いられるベースコート塗料の樹脂成分として、基体樹脂及び硬化剤を含有することができる。その基体樹脂としては、特に制限がなく、公知の水系または溶剤系の樹脂成分を用いることができる。例えば、樹脂成分の基体樹脂の具体例としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などの樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
硬化剤としては、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ベースコート塗料には、無機顔料、有機顔料、アルミ顔料、パール顔料、体質顔料などの各種顔料、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などなどの1種以上を含有させてもよい。
本発明においては、ベースコート塗料を、中塗塗膜上に塗装し、ベースコート塗膜層を形成し、さらに、そのベースコート塗膜層上に、クリヤーコート塗料を塗装する。
ベースコート塗料の乾燥膜厚は、8〜25μmが好ましく、より好ましくは、10〜20μmである。膜厚が8μm未満では、ベースコート塗料の隠蔽性が劣る場合、中塗塗膜の色が透けて見え、ベースコート塗料本来の発色が得られない場合がある。一方、25μmを超える塗装時にタレが発生しやすくなり、光輝材が配合されたベースコート塗料では光輝材の配向性に劣る場合がある。
ベースコート塗膜層の硬化は、次のクリヤーコート塗料を塗装する前に、行うこともできるが、クリヤーコート塗料を塗装した後、クリヤーコート塗膜層の硬化と一緒に行うことが好ましい。この場合、クリヤーコート塗料の塗装は、ウェットオンウェット方式で行うことが好ましい。本発明において、ウェットオンウェット方式とは、下塗りの塗膜層を乾燥しない状態、又は充分に乾燥しない状態で、上塗りの塗料を塗装することをいう。
本発明に用いられるクリヤーコート塗料は、その硬化塗膜が20℃において、伸び率が20〜80%であり、好ましくは30〜75%である。伸び率が20%に満たない場合、低温における耐チッピング性試験において、クリヤーコート塗膜の冷却による収縮応力が大きくなり、ベースコート塗膜の界面で剥離が発生し易い。一方、80%を超える場合は、乾布にて乾拭きした場合に深い傷が付きやすい、ガソリン等の有機溶剤により塗膜が軟化、膨潤の異常を生じやすい等の問題がある。
クリヤーコート塗料の硬化塗膜は、20℃において、抗張力が120〜280kgf/cmであり、好ましくは130〜270kgf/cmである。抗張力が120kgf/cmよりも低い場合、耐チッピング試験においてクリヤーコート塗膜表面に傷が入りやすく、乾布にて乾拭きした場合の耐擦り傷性、耐溶剤性、耐候性等も低下する。一方、抗張力が280kgf/cmよりも高い場合、耐チッピング性が不十分であり、中塗塗膜とベースコート塗膜の界面で剥離が発生し易い。
本発明に用いられるクリヤーコート塗料には、樹脂成分として基体樹脂と硬化剤を含有することができる。基体樹脂としては、前述した特定範囲の硬化塗膜物性を形成しうるものであれば、特に限定されるものではない。通常クリヤーコート塗料に用いられる樹脂が使用できるが、好ましい基体樹脂としては、塗膜の耐候性に優れるアクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂は、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性多価アルコールモノ(メタ)アクリレート、例えば市販品では、プラクセルFA−1(商品名、ダイセル化学工業(株)製、2−ヒドロキシエチルアクリレート1モルにε−カプロラクトン1モルを開環付加した単量体)、プラクセルFM−1D、プラクセルFM−2D、プラクセルFM−3、プラクセルFM−4(いずれも商品名、ダイセル化学工業(株)製、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1モルにε−カプロラクトンをそれぞれ1モル、2モル、3モル、4モルを開環付加した単量体)などの水酸基含有ラジカル重合性モノマーを必須とし、必要に応じて、その他のラジカル重合性モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸及びそのアルキル置換体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基酸のエステル;スチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、エチルスチレン等の核置換スチレン;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、及び塩化ビニル等を含む単量体成分を常法により重合して得ることができる。
硬化剤としては、イソシアネート化合物、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。前述した特定範囲の硬化塗膜物性を得るためには、特にイソシアネート化合物が好ましい。イソシアネート化合物としては、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートと多価アルコール及び/又は低分子量のポリエステルポリオールとの反応物、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートの重合体であるイソシアヌレート体や、ウレタン結合にさらに反応して得られるビューレット体などが挙げられる。また、これらの重合体におけるイソシアネート基が水酸基を有する化合物などでマスクされたブロックイソシアネートも好ましく用いられる。また、上記以外のジイソシアネート化合物重合体など、種々のポリイソシアネート化合物も使用できる。
本発明に用いられるクリヤーコート塗料は、上記の樹脂成分の他に、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、有機錫化合物等の硬化触媒、ワックス等の流動調整剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を含有することができる。
本発明に用いられるクリヤーコート塗料の形態は、特に制限されるものでないが、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、及びメチルエチルケトン等のケトン系溶剤を単独または2種以上混合して用いた有機溶剤に溶解もしくは分散した有機溶剤系塗料が好ましい。
本発明においては、クリヤーコート塗料を、ベースコート塗膜上に塗装し、クリヤーコート塗膜層を形成し、そのクリヤーコート塗膜層を焼付け硬化させる。
クリヤーコート塗膜層の焼付け温度は、通常120〜180℃の範囲で適宜選定すればよく、焼付け時間は、通常10〜60分間の範囲で適宜選定すればよい。
クリヤーコート塗膜層の乾燥膜厚は、20〜50μmが好ましく、より好ましくは、25〜45μmである。膜厚が、20μm未満の場合、ベースコート塗料に光輝材を配合している場合、光沢が低下しやすい。一方、膜厚が50μmを超える場合には垂直で塗装された部位にタレが生じやすい。
本発明においては、上述の各種塗料の塗装は、通常の塗装方法、例えば、エアースプレー、静電エアースプレー、エアレススプレーなどのスプレー塗装方法、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機等の通常使用される塗装機を用いる塗装方法、又は刷毛、バーコーター、アプリケーターなどを用いる塗装方法が挙げられる。これらのうちスプレー塗装方法が好ましい。
以下、本発明について実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、配合量、含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
<耐チッピング塗料A−1の製造>
ポリウレタンエマルジョン「アイゼラックスS−4040N」(商品名、保土ヶ谷化学工業株式会社製、不揮発分45%)50.79部に、二酸化チタン「タイピュアR−706」(商品名、デュポン株式会社製)17.04部、カーボンブラック「MA−100」(商品名、三菱化学株式会社製)0.1部、2−エチルヘキサノール 1部、脱イオン水31.07部を加え、顔料分散機‘MINI’MOTORMILL(EIGER JAPAN K.K製)にて、ジルコンビーズをメディアとして用い、ゲージ8、分散時間20分の条件で顔料分散を行い、水系の耐チッピング塗料A−1を得た。次に脱イオン水を用いて希釈し、塗料粘度を14秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。
<耐チッピング塗料A−2の製造>
オレフィン樹脂系の溶剤型耐チッピング塗料「プライマックプライマーUN102」(商品名、BASFコーティングスジャパン株式会社製)をトルエン/キシレン=50/50(質量比)の混合溶剤にて、塗料粘度を14秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。
<耐チッピング塗料A−3の製造>
熱可塑性エラストマー「タフプレンA」(商品名、旭化成ケミカルズ株式会社製、不揮発分100%)36.36部に、トルエン20部、キシレン35部、メチルイソブチルケトン5部を加えて溶解し、次いで、二酸化チタン「タイピュアR−706」3.54部、カーボンブラック「MA−100」0.1部を加え、耐チッピング塗料A−1の製造と同様に顔料分散機で分散し、耐チッピング塗料A−3を得た。次にトルエンを用いて希釈し、塗料粘度を14秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。
<中塗塗料B−1、B−2の製造>
ヘキサデセニル無水コハク酸10部、シクロヘキサン−1,4−ジメチロール10部、ネオペンチルグリコール23.5部、トリメチロールプロパン9.5部、アジピン酸2部、イソフタル酸35部、および無水フタル酸10部を反応させ、酸価10、重量平均分子量4600、数平均分子量1910のポリエステル樹脂を製造した。次にこのポリエステル樹脂をキシレンで不揮発分が60質量%になるように希釈し、ポリエステル樹脂ワニスP−1を得た。次に表1に示した配合割合により、分散機に、ポリエステル樹脂ワニスP−1、二酸化チタン「タイピュアR−706」、カーボンブラック「MA−100」、扁平顔料「MS−P」とキシレン、ノルマルブチルアルコールを仕込み、チッピング塗料A−1の製造と同様に分散を行い、次いで、残りの原料を加えて取り出し、均一になるように充分攪拌をし、中塗塗料B−1、B−2を作成した。作成した中塗塗料B−1、B−2をソルベッソ100(商品名、エクソン化学株式会社製、芳香族系溶剤)にて、塗料粘度を25秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。
Figure 2010082554
表中の注記原料を下記に示す。
1:タイピュアR−706(商品名、デュポン株式会社製、二酸化チタン)
2:MA−100(商品名、三菱化学株式会社製、カーボンブラック)
3:MS−P(商品名、日本タルク株式会社製、タルク、平均粒径13μm、平均厚さ0.2μm)
4:ユーバン21R(商品名、三井化学株式会社社製、ブチル化メラミン樹脂ワニス、加熱残分50質量%)
5:エピコート828(商品名、ヘキシオンスペシャリティケミカルス株式会社製、エポキシ樹脂、加熱残分100質量%)
6:ソルベッソ100(商品名、エクソン化学株式会社製、芳香族系溶剤)
7:偏平顔料(%) 塗料固形分に対する偏平顔料MS−Pの質量%を示した。
<クリヤーコート塗料C−1の製造>
アクリル樹脂の主剤塗料「プライマックNo.8650クリヤー」(商品名、BASFコーティングスジャパン株式会社製)100部とウレタン硬化剤「硬化剤PB」(商品名、BASFコーティングスジャパン株式会社製、ウレタン樹脂溶液、不揮発分60%)20部を混合し、ソルベッソ100にて、塗料粘度を25秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。
<クリヤーコート塗料C−2の製造>
アクリル・メラミン樹脂系塗料「プライマックNo.5900クリヤー」(商品名、BASFコーティングスジャパン株式会社製)をソルベッソ100にて、塗料粘度を25秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。

<クリヤーコート塗料C−3の製造>
アクリル・メラミン樹脂系塗料「ベルコートNo.6200クリヤー」(商品名、BASFコーティングスジャパン株式会社製)をソルベッソ100にて、塗料粘度を25秒(#4フォードカップ/20℃)に調整した。
(実施例1)
厚さ0.8mm、長さ150mm、幅70mmの亜鉛メッキ鋼板にリン酸亜鉛化成処理を施し、次いでカチオン電着塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製カチオン型電着塗料「カソガード500」)を用いて乾燥膜厚25μmになるよう電着塗装を行い、170℃×20分間焼き付けて、電着塗膜を形成し、被塗物とした。次に、この電着塗膜上に耐チッピング塗料A−1を乾燥膜厚10μmになるようにスプレー塗装して耐チッピング塗膜層を形成し、この耐チッピング塗膜層を80℃×5分間乾燥させた後、乾燥した耐チッピング塗膜層上に、中塗塗料B−1を乾燥膜厚30μmになるようにスプレー塗装し、中塗塗膜層を形成し、140℃×20分間焼き付けた。次に、中塗塗膜上に、ベースコート塗料として、ポリウレタン・ポリエステル・メラミン樹脂系の黒色水系ベースコート塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製水系ベースコート「アクアBC−3 ブラックソリッド」)を乾燥膜厚15μmになるようにスプレー塗装し、ベースコート塗膜層を形成し、80℃×5分間乾燥させた後、乾燥したベースコート塗膜層上にクリヤーコート塗料A−1を乾燥膜厚30μmになるようにスプレー塗装し、クリヤーコート塗膜層を形成し、室温で10分間放置した後、140℃×20分間焼き付けた。得られた試験片の耐チッピング性および耐チッピング試験後の錆発生を表2の下段に示した。
(実施例2〜3、比較例1〜3)
表2に示す耐チッピング塗料、中塗塗料、クリヤーコート塗料を用いて、実施例1と同様に試験板を作成した。ただし、耐チッピング塗料の塗装と中塗塗料の塗装の間は80℃×5分間の乾燥を行わず、室温で5分間放置した後、ウエット・オン・ウエット塗装により行った。得られた試験片の耐チッピング性および耐チッピング試験後の錆発生を表2の下段に示した。
<硬化塗膜の伸び率および抗張力の測定>
耐チッピング塗料およびクリヤーコート塗料を各々錫箔上に乾燥膜厚20μmになるようにスプレー塗装し、140℃×20分間焼付た。その後、水銀アマルガム法にて錫箔を除去し、フリーフィルムを得た。このフリーフィルムを10mm×50mmの長方形にカッティングし、試験片とした。この試験片を引っ張り試験機(オリエンテック株式会社製、TENSILON UTM−III−200)を用い、サンプル引っ張り速度20mm/分にて、耐チッピング塗料は−20℃、クリヤーコート塗料は20℃の条件下で測定を行った。試験片は各々の塗料につき5枚ずつ作成し、5回の測定で得られた平均値を伸び率および抗張力の値とした。
<耐チッピング性>
−20℃に冷却した低温室内で試験板を冷却し、飛石試験機(スガ試験機株式会社、JA−400型)の試験板装着部に水平から角度90°になるよう試験板を垂直に固定し、5kgf/cmの空気圧で7号砕石100gを5秒間で吹き付け、試験板に傷を付けた。その後、試験板を水洗、乾燥させ、試験板塗面にセロハンテープを密着させ、テープの一端を持って引き剥がし、チッピングにより浮き上がった塗膜を除去して、はがれ傷の程度を下記の基準で評価した。はがれ傷の評価は、被衝撃部の縦70mm×横70mmの枠内で行った。
◎:最も良好。評価面積当たりの剥離面積率0.0〜0.7%未満。
○:良好。評価面積当たりの剥離面積率0.7〜1.2%未満。
△:劣る。評価面積当たりの剥離面積率1.2〜3.5%未満。
×:最も劣る。評価面積当たりの剥離面積率3.5%以上。
<耐チッピング試験後の錆発生>
耐チッピング試験を行った試験板をJIS K 5600 7−1に準じて塩水噴霧試験を48時間行い、被衝撃部からの錆発生の程度を下記の基準で評価した。
◎:最も良好。錆発生が認められない。
○:良好。1〜3点の錆発生が認められる。
△:劣る。4〜10点の錆発生が認められる。
×:最も劣る。10点以上の錆発生が認められる。
Figure 2010082554

Claims (1)

  1. 電着塗膜が形成された鋼板の電着塗膜上に、耐チッピング塗料、中塗塗料、ベースコート塗料、及びクリヤーコート塗料を順次塗り重ねて複層塗膜を形成する塗膜形成方法において、耐チッピング塗料の硬化塗膜が−20℃において、伸び率が150〜800%、抗張力が150〜600kgf/cmであり、中塗塗料が、平均粒子径が3〜30μm、平均厚さが0.1〜3μmの偏平顔料を中塗塗料の固形分の全量に対して1〜5質量%含んでなり、かつクリヤーコート塗料の硬化塗膜が20℃において、伸び率が20〜80%、抗張力が120〜280kgf/cmであることを特徴とする複層塗膜形成方法。
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