以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されることなく、種々工夫して用いることが可能である。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による面型光導体素子の構成を図1に示す。この実施形態による面型光半導体素子は、面発光レーザであって、GaAs基板1上に半導体多層膜反射鏡層2が設けられ、半導体多層膜反射鏡層2上にクラッド層3が設けられ、クラッド層3上に活性層4が設けられている。また、活性層4上にクラッド層5が設けられ、クラッド層5上に半導体多層膜反射鏡層6が設けられ、この半導体多層膜反射鏡層6に、例えばプロトンを注入することにより形成された不純物領域8が形成されている。この不純物領域8によって半導体多層膜反射鏡層6内に電流が狭窄されて流れる複数の電流狭窄層9a、9bが形成される。不純物領域8は電流狭窄層9a、9bよりも抵抗が高い。すなわち、半導体多層膜反射鏡層6には、不純物領域8によって電流を狭窄する電流狭窄構造が形成されるとともに、電流が狭窄される電流狭窄領域9a、9bが形成されることになる。なお、不純物領域8の深さ、すなわち、プロトン注入の深さは活性層4に到達しない深さであることが好ましい。プロトン注入がクラッド層5に達していても活性層4にダメージを与えない範囲であればよい。プロトン注入がクラッド層5に達しないと活性層4にダメージを与えない構造を確実に形成できる。なお、半導体多層膜反射鏡層2、6によって基板1に対して垂直方向の共振器を形成している。
半導体多層膜反射鏡層6上には導電性の半導体電流拡散層7が設けられ、半導体電流拡散層7の表面に、複数の電流狭窄層9a、9bを取り囲むようにコンタクト層7aが設けられている。半導体電流拡散層7およびコンタクト層7aはパッシベーション膜10によって覆われている。パッシベーション膜10内に底部にコンタクト層7aが露出した開口が設けられ、この開口に埋め込まれるように例えば金属からなる表面側電極11が設けられている。したがって、表面側電極11の上記開口に埋め込まれた部分であるコンタクト領域11aを介して表面側電極11とコンタクト層7aが電気的に接続されている。コンタクト層7aは半導体からなっており、不純物濃度を高くすることにより金属からなる電極11との接触抵抗が低くなるように構成されている。また、表面側電極11には、コンタクト層7aが複数の電流狭窄層9a、9bを取り囲んでいる領域に対応して開口部12が設けられている。そして、基板1の半導体多層膜反射鏡層2が設けられた側と反対側に基板側電極13が設けられている。
このように構成された本実施形態の面型光半導体素子において、表面側電極11と基板側電極13との間に電流を流すと、半導体電流拡散層7および複数の電流狭窄領域9a、9bを介して、活性層4に電流が注入され、活性層4から発光された光は、半導体多層膜反射鏡層2、6からなる共振器によって共振されて開口部12からレーザ光が外部に発射される。
本実施形態の面型光半導体素子においては、半導体電流拡散層7および複数の電流狭窄領域9a、9bが設けられているため、表面側電極11からの電流は半導体電流拡散層7を介して複数の電流狭窄領域9a、9b中を実質的に均一に流れ、活性層4に注入される。
また、本実施形態においては、発光する領域、すなわち電流狭窄領域9a、9bに対応する活性層の領域の総面積を大きくした場合でも、各発光する領域の面積を大きくする必要がなく、注入した電流が個別の電流狭窄領域の内部で均一に広がりやすい。加えて、本実施の形態では、半導体電流拡散層7を設けたことにより、各電流狭窄領域9a、9b間で注入する電流密度の均一性を高めることができるので、全体として均一な電流注入が可能となる。このため、全体の注入電流密度を高くして全体の光出力を大きくしても各発光する領域の内部での電流注入密度の分布が生じにくく、均一な動作を得ることができる。
また、本実施形態では、半導体電流拡散層7を設けたことにより、各電流狭窄領域9a、9bに個別の電極を設けたり、各電流狭窄領域の直近に電極を設けたりする必要が無い。
このため、各電流狭窄領域をイオン注入の位置精度の範囲で互いに近づけて形成することが可能となり、高密度に電流狭窄領域を形成することができる。また電流狭窄領域間の距離を波長オーダーまで近づけることが可能であることから、光の干渉を起こさせることも可能であり、設計によっては各電流狭窄層を独立の素子として稼動させることも、一体の素子として稼動させることも可能となる。各電流狭窄層を独立の素子として稼動させた場合、各電流狭窄領域に対応して発光領域層に注入される電流密度が高くなる部分ができ、発光強度に分布が発生する。ここで、各電流狭窄領域に対応する発光強度の高い領域が独立の素子として動作して各発光強度の高い領域の光の間で直接は相関がなくても、多層膜反射鏡2と多層膜反射鏡6の間で多層膜反射鏡2と多層膜反射鏡6に垂直方向に光が伝播して伝播方向と垂直方向に光が広がることにより、各電流狭窄領域からの光が干渉して共同現象としてレーザ動作していてもよい。
また、本実施形態においては、半導体多層膜反射鏡層6中にイオン注入により形成した不純物領域8とこの不純物領域8によって電流が狭窄される電流狭窄領域9a、9bが形成されており、半導体多層膜反射鏡層6の上部に導電性の半導体電流拡散層7が形成され、この半導体電流拡散層7上に金属の電極11が設けられている。このため、半導体電流拡散層7を設けていない場合と異なり、光が外部に放出される領域、すなわち開口部12の外側の半導体電流拡散層7の表面に電極の金属11を設けて、半導体電流拡散層7と金属の電極11との間でオーミック接合を形成することが可能となる。このため、電極11の形成位置が電流狭窄領域9a、9bに対応する部分に制約されずに電極11の面積を大きくとることが可能となり、電極抵抗を小さくすることができる。
また、電極11の下に、不純物濃度が高く金属との接触抵抗の低いコンタクト層7aを設けてオーミック接触抵抗を下げているが、電流狭窄領域に対応する表面部分にはコンタクト層が存在しないため、光の吸収損失が生じるのを防ぐことができる。
また、コンタクト層と金属は、開口部12の外側に設けられており、従来の素子のように電流狭窄領域の表面で光学的開口径を決める役割を果たしてはいない。このため、従来の素子ほどには、イオン注入による電流狭窄位置、コンタクト層の内径、電極の内径の加工精度が素子特性に影響を与える事がない。
特に、導電性の半導体電流拡散層の抵抗を小さくすれば、電極の位置と電流狭窄領域の位置を離すことも可能であり、電極形成位置に関する設計の自由度を高めることができる。導電性の半導体電流拡散層7の抵抗率を電流狭窄領域よりも低くして、
(電極部分から電流狭窄領域までの電流路の抵抗)/(電流狭窄領域での抵抗)
の値を小さくすると電流狭窄領域が抵抗に対して占める割合を高くすることができて、均一な電流注入が可能となる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による面型光半導体素子の構成を図2を参照して説明する。本実施形態の面型光半導体素子は、図1に示す第1実施形態の面型光半導体素子において、コンタクト層7aによって取り囲まれている複数の電流狭窄領域9a、9bを含む領域の中心からコンタクト層7aに向かうに従って、電流を注入するための素子抵抗が大きくなるように複数の電流狭窄領域9a、9bを配列した構成となっている。このような構成は、例えば図2に示すように、コンタクト層7aによって取り囲まれている複数の電流狭窄領域9a、9bを含む領域の中心に比較的面積の広い電流狭窄領域9aを設け、この電流狭窄領域9aを中心にして同心円状に電流狭窄領域9aよりも面積の狭い電流狭窄領域9bを複数個(図2のおいては12個)設ければよい。同一の同心円に沿って設けられた電流狭窄層9bは6個であって、異なる同心円に設けられた電流狭窄層9bは放射状に配列された構成となっている。なお、図2は、本実施形態のよる面型光半導体素子の平面図であって、開口部12内の半導体電流拡散層7およびパッシベーション膜10を削除した平面図である。
このように、コンタクト層7aによって取り囲まれている複数の電流狭窄領域9a、9bを含む領域の中心からコンタクト層7aに向かうにしたがって、電流を注入するための素子抵抗が大きくなるように構成したことにより、コンタクト層7aから遠い位置にある電流狭窄領域9aに、近い位置にある電流狭窄領域9bよりも電流が流れ易くすることが可能となり、コンタクト層7aからの距離が遠くなるにつれて注入電流量が低下するのを防止することができる。これにより、複数の電流狭窄領域9a、9b中を実質的に均一に電流が流れることになる。
なお、コンタクト層7aから遠い位置にある電流狭窄領域9aの面積を、近い位置にある電流狭窄領域9bの面積よりもかなり大きくすることにより、電流狭窄領域9aにより多くの電流を流して電流狭窄領域9aに流れる電流の密度を増大させ、これにより光密度を電流狭窄領域9aに対応する活性層4で高くすることが可能となり、横モードの安定した発光が得られる。
この第2実施形態も第1実施形態と同様の効果を奏することは云うまでもない。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による面型光半導体素子の構成を図3に示す。この実施形態の面型光半導体素子は、第1または第2実施形態の面型光半導体素子において、半導体多層膜反射鏡層6と半導体電流拡散層7との間に気相成長または接着することによって形成される半導体多層膜反射鏡層6aを設けた構成となっている。半導体多層膜反射鏡層6aは、気相成長または接着することによって形成され、プロトンが注入された領域は備えていない。
この実施形態の面型光半導体素子は、活性層4上に設けられる半導体多層膜反射鏡層6、6aの合計膜厚が厚い、例えば光通信用に用いられる1.3μm帯や1.5μm帯レーザのような場合で、かつイオン注入領域8を活性層4のできるだけ近くに形成して電流狭窄領域9a、9bの全体の面積と活性層4での電流注入面積をほぼ一致させる場合に、有効である。
本実施形態においては、電流狭窄領域9a、9bの全体の面積と活性層4での電流注入面積をほぼ一致させることができ、低閾値動作が可能となって、モードの安定性が高い面発光レーザを得ることができる。
なお、本実施形態も第1または第2実施形態と同様の効果を奏することは云うまでもない。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による面型光半導体素子の構成を図4aに示す。この実施形態の面型光半導体素子は、この実施形態の面型光半導体素子は、図1に示す第1実施形態の面型光半導体素子において、複数の電流狭窄領域9a、9bを一つの電流狭窄領域とし、半導体電流拡散層7を複数層(図4aにおいては2層)の電流拡散膜71、72を積層した構成となっている。活性層4により近い電流拡散膜71は、電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分では電流狭窄領域9の中心に近い中央部分に比べて抵抗が高くなるように構成され、活性層4により遠い電流拡散膜72はキャリア濃度および膜厚がほぼ一定となるように構成されている。ここで、電流拡散膜71は、電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分では電流狭窄領域9の中心に近い中央部分に比べてキャリア濃度低くして抵抗が高くする構成としても、異動度を低くして抵抗を高くする構成としても、厚さを厚くして縦方向の抵抗を高くする構成としてもよい。特に、厚さを厚くすると、素子の活性層4に対する垂直方向の抵抗は高くなり、平行方向の抵抗は低くなるので、電流狭窄領域9に均一に電流を注入する上で有効である。電流拡散膜72は、電流拡散膜71の電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分よりもキャリア濃度が高く抵抗が低い。なお、図4aにおいて、符号16は後述する実施例で説明する選択成長マスクである。
このように構成したことにより、電流拡散層7を均一な構成とした場合と比べて、電流狭窄領域9の中央部分により電流が流れやすくなり、電流狭窄領域の中央部分の電流密度を相対的に高くして均一に電流を注入することができる。
なお、本実施形態においては、半導体電流拡散層7は複数の電流拡散膜が積層された構成となっていたが、半導体電流拡散層7は単層であってもよい。この場合、半導体電流拡散層7が、電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分では活性層4側での抵抗が高くかつコンタクト層7a側での抵抗が低く、電流狭窄領域9の中心に近い中央部分では抵抗が低くなるように構成されていれば、同様の効果を奏することができ、実効的に複数の電流拡散膜が積層されているとみなすことができる。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による面型光半導体素子の構成を図4bに示す。この実施形態の面型光半導体素子は、図4aに示した第4実施形態の面型光半導体素子において、複数の電流狭窄領域9a,9bを設けた構成になっている。本実施の様態では半導体電流拡散層7は複数層(図4bにおいては2層)の電流拡散膜71、72を積層した構成となっている。活性層4により近い電流拡散膜71は、電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分では電流狭窄領域9の中心に近い中央部分に比べてキャリア濃度が低くかつ厚さも厚くて抵抗が高くなるように構成され、活性層4により遠い電流拡散膜72はキャリア濃度および膜厚がほぼ一定となるように構成されている。ここで、電流拡散膜72は、電流拡散膜71の電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分よりもキャリア濃度が高く抵抗が低い。
なお、図4bにおいて、符号16は後述する実施例で説明する選択成長マスクである。
このように構成したことにより、第1乃至第3実施形態の場合に比べて、中央部に位置する電流狭窄領域9aにより電流が流れやすくなり、電流狭窄領域により均一に電流を注入することができる。
なお、本実施形態においては、半導体電流拡散層7は複数の電流拡散膜が積層された構成となっていたが、半導体電流拡散層7は単層であってもよい。この場合、半導体電流拡散層7が、電流狭窄領域9の中心から遠い周辺部分では活性層4側での抵抗が高くかつコンタクト層7a側での抵抗が低く、電流狭窄領域9の中心に近い中央部分での抵抗が低くなるように構成されていれば、同様の効果を奏することができ、実効的に複数の電流拡散膜が積層されているとみなすことができる。
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態による面型光半導体素子の構成を図5に示す。この実施形態の面型光半導体素子は、図1に示す第1実施形態の面型光半導体素子において、複数の電流狭窄領域9a、9bを一つの電流狭窄領域9とし、かつ(a)半導体電流拡散層7と電極11とのコンタクト抵抗が半導体電流拡散層7の縦方向(膜厚方向)の抵抗よりも大きくするとともに、(b)電流狭窄領域9と電極11との間の半導体電流拡散層7の横方法(膜面方向)の抵抗を縦方向の抵抗よりも低くなるように構成されている。
レーザに適用可能な1×1018cm−3程度のキャリア濃度の導電性の半導体層の接触抵抗はおよそ160/(接触面積)Ω/μm2のオーダーであり、電極11の半径をLミクロン、半導体電流拡散層7の厚さをsミクロンメートル、電流狭窄領域9と導電性の半導体電流拡散層7の接合面における電流狭窄領域9の中央と端部の最短距離をrミクロンメートル、半導体電流拡散層7の抵抗率をρΩ・cmとすると、
コンタクト抵抗は160/(s×L)Ωと表され、
半導体電流拡散層7の縦方向の抵抗はs÷(π×r×r)×ρΩと表されるから
コンタクト抵抗 > 半導体電流拡散層の縦方向抵抗
の条件は
160/(s×L)Ω > s÷(π×r×r)×ρΩ (1)
となる。電極11の開口部12は電流狭窄領域9よりも径が大きいことが望ましいが、同時に大きすぎないことが望ましいので、電極11の半径Lと電流狭窄領域9の中央と端部の最短距離rはほぼ同程度の大きさとなる。ρはキャリア濃度が1x1018cm−3の場合2.5×10−3Ω・cmの程度であることから、上述の(1)の不等式から
s < 5√r (2)
が望ましい。上式の(2)の範囲において、上述の(a)の関係
コンタクト抵抗 > 半導体電流拡散層の縦方向の抵抗
が満たされ、オーミック電極の実効的な面積を広げて素子の抵抗を低減する効果を享受することができる。
また、本実施形態においては、上述の(b)の関係から
s >((√2−1)/2)×r (3)
の関係が得られる。この(3)の条件を満たしていると、電流狭窄領域9と電極11との間の半導体電流拡散層7の横方向の抵抗を縦方向の抵抗よりも小さくすることができる。
これは以下の理由による。電流狭窄領域9の上部の断面が円形であるとして近似すると半導体電流拡散層7での縦方向の抵抗は
抵抗率×s/(π×r×r) (4)
と近似することができる。
一方、一般に電流を狭窄すると電流狭窄領域の外側では電流は概略45度の角度で広がる。このことから半導体電流拡散領域7での横方向の抵抗は
抵抗率×(s/2)/(2×π×(r+s)×s) (5)
と近似することができる。(4)と(5)の不等式を連立すると(3)の関係が得られる。
このような関係を満たしている場合、電流拡散領域9において電流拡散の横方向の抵抗を縦方向の抵抗に対して小さくすることができる。この条件が満たされる範囲に電流狭窄領域9の大きさと半導体電流拡散層7の厚さを維持すれば、電流が電流狭窄領域9から電極11まで拡がるための抵抗が十分小さくなり、半導体電流拡散層7によって電流を広げることで電極面積を広げたことによる素子抵抗の低下の効果を享受することができる。
また、本実施形態においては、半導体電流拡散領域7の不純物濃度は2×1018cm−3以下でなければならない。これは次の理由による。半導体で不純物濃度が1×1019cm−3を越える濃度まで上昇すると、不純物のワニエ励起子半径と不純物原子間の距離がほぼ一致するようになり、急激に物性の変化を起こし、バンド端よりも小さなエネルギーの光吸収係数が大きくなる。このため、このような不純物濃度が1×1019cm−3を越える層を光が通過する素子構造を選択すると、光損失が大きく、光出力を大きくすることが難しくなり、レーザとしての閾値も高くなる。
したがって、不純物濃度は1×1019cm−3以下とすることが必要であり、更に、不純物原子間の距離を十分にとるためには、不純物原子間距離をワニエ励起子半径の2倍以上とすることが望ましい。この条件はキャリア濃度が2×1018cm−3以下に相当している。このような条件を満たせば、バンド端以下での光吸収係数は比較的小さく、出射光の透過する半導体電流拡散層7としての利用が可能となる。特にここで留意すべきことは、前述したように、本実施形態では、縦方向に対して横方向の抵抗を下げて面発光レーザ(以下、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitted Laser diode)とも云う)の電流の広がり分布を制御することを目的としおり、従来の技術とは異なり、半導体電流拡散層の厚さと横方向の広がりという幾何的構造を制御することで、過剰なキャリア濃度の領域を設けず、素子の中央へのキャリア注入効率を上げてモードの安定なVCSELの素子特性を向上させることができるようになる点である。
ここで、電流狭窄路領域9の断面形状がほぼ円形であり電流狭窄領域9の中央と端部の最短距離rが一定であると、上述の説明の近似の精度が高くなり、半導体電流拡散層の効果をより確実に得られるようになる。
ここで、半導体電流拡散層7の厚さを電極11の内径より大きくすると、半導体電流拡散層7の横方向の抵抗が縦方向の抵抗よりも小さくなり、電流は各電流狭窄領域9に均一に注入されて均一な光出力を得ることができ、更に良い。
また、本実施形態においては、素子の出射光側からみて、コンタクト層7aを電流狭窄領域9の外側に設けているため、コンタクト層7aのキャリア濃度を1×1019cm−3以上とすれば、光の損失を大きくせずに、かつ、半導体のキャリア濃度を金属からなる電極11との抵抗が急激に下がる濃度に設定でき、光出力、温度特性の優れた素子を実現できる。
なお、本実施形態で説明した(2)、(3)式の条件は第1乃至第3実施形態の面型光半導体素子および後述する第7乃至第8実施形態の面型光半導体素子に適用してもよい。
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態による面型光半導体素子の構成を図6に示す。この実施形態の面型光半導体素子は、第6実施形態の面型光半導体素子において、半導体多層膜反射鏡層6と半導体電流拡散層7との間に気相成長または接着することによって形成される半導体多層膜反射鏡層6aを設けた構成となっている。半導体多層膜反射鏡層6aは、気相成長または接着することによって形成され、プロトンが注入された領域は備えていない。
この実施形態の面型光半導体素子は、活性層4上に設けられる半導体多層膜反射鏡層6、6aの合計膜厚が厚い、例えば光通信用に用いられる1.3μm系のレーザや1.5μm帯のレーザなどの場合で、かつイオン注入領域8を活性層4のできるだけ近くに形成して電流狭窄領域9の断面積と活性層4での電流注入面積をほぼ一致させる場合に、有効である。
本実施形態においては、電流狭窄領域9の断面積と活性層4での電流注入面積をほぼ一致させることができ、低閾値動作が可能となって、モードの安定性が高い面発光レーザを得ることができる。
なお、本実施形態も第6実施形態と同様の効果を奏することは云うまでもない。
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態による面型光半導体素子の構成を図5を参照して説明する。この実施形態の面型光半導体素子は、図1に示す第1実施形態の面型光半導体素子において、複数の電流狭窄領域9a、9bを一つの電流狭窄領域とし、かつ電流狭窄領域9の深さが電流狭窄領域9の断面の半径よりも大きくした構成となっている。ここで電流狭窄領域の半径とは、電流狭窄領域の断面の主要部分の長辺である。たとえば円であれば半径であり、楕円であれば長径であり、長方形であれば対角線の長さの半分である。
このように構成された本実施形態においては、電流狭窄層9の深さが電流狭窄領域9の半径よりも大きいことから電流狭窄領域9の内部において、活性層4内で注入された電流が概略均一に広がり、低抵抗で、光出力が高く、モードの安定した面型光半導体素子を得ることができる。
なお、本実施形態のように、電流狭窄領域の深さが電流狭窄領域の断面の半径よりも大きくした構成は、第4,第6および第7実施形態の面型光半導体素子にも適用することができる。更に、複数の電流狭窄領域を有する第1ないし第3、第5の実施形態の面型光半導体素子にも適用可能である。本実施形態を用いると個々の電流狭窄領域の電流の均一性を保ったまま、発光領域の総面積を電流狭窄領域の数で増加させることができる。このため、このため、本実施形態は高出力な発光素子に特に有利となる。
次に、本発明の実施形態を、実施例を参照してより詳細に説明する。
(実施例1)
本発明の実施例1による面型光半導体素子を図5を参照して説明する。この実施例の面型光半導体素子は、半導体活性層4の両側にInGaAlP系材料のクラッド層3,5と、AlGaAs系材料よりなる半導体多層膜反射鏡層2,6とを配置した、650nm帯の赤色AlGaInP面発光レーザである。
この面発光レーザは、n型のGaAs基板1上に、AlqGa1−qAs(q=0.95)からなる層とAlsGa1−sAs(s=0.5)からなる層を交互に60層ずつ積層した基板側半導体多層膜反射鏡層2と、In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5Pよりなるn型の導電型の基板側クラッド層3と、InGaP量子井戸およびIn0.5(Ga0.5Al0.5)0.5P量子井戸バリアの四重量子井戸からなる発光波長650nmの活性層4と、In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5Pよりなるp型の導電型の表面側クラッド層5、AlsGa1−sAs(s=0.5)層とAlqGa1−qAs(q=0.95)層を交互に50層ずつ積層したトータル厚さ2.5μmの表面側半導体多層膜反射鏡層6とが形成されている。
更に、表面側半導体多層膜反射鏡6上には、AlaGa1−aAs(a=0.6)よりなる厚さ1.5μmの半導体電流拡散層7が形成され更にその上の一部分にGaAsよりなるコンタクト層7aが形成されている。ここで、半導体電流拡散層7のキャリア濃度は1×1018cm−3とし、コンタクト層7aのキャリア濃度は2×1019cm−3とする。表面側半導体多層膜反射鏡層6の中にプロトン注入による高抵抗化領域(または絶縁領域)8が形成されて、高抵抗化領域8の内側に直径4μmの電流狭窄領域9が形成されている。ここでプロトン打ち込みは濃度のピークが2μmとなる条件で行った。このような条件だとプロトン打ち込みによる不純物領域8の厚さが電流狭窄領域9の半径よりも大きくなる。このため、実施形態9に該当し、電流狭窄領域への均一な電流注入が可能となる。また、半導体電流拡散層7の厚さ(s)と電流狭窄領域の直径(r)が第6実施形態を満たし、電流狭窄領域に均一な電流注入が可能となる。
コンタクト層7aの表面の一部分とコンタクト層7aを除去した部分の半導体電流拡散層7の表面にはSiO2のパッシベーション膜10が形成されている。更に、Ti/Pt/Auよりなる表面側電極11が、コンタクト領域11aでコンタクト層7aに接触するように形成されている。ここではコンタクト領域11aの幅は10μmとした。表面側電極11から注入された電流はコンタクト層7a、半導体電流拡散層7を介して、電流狭窄領域9で狭窄されて活性層4に注入される。また、表面側電極11には電流狭窄領域9に対応する部分を含む開口部12が設けられており、開口部12の電流狭窄領域9に対応する部分からレーザ光が取り出される。また、基板1の裏面には、AuGaNi/Auよりなる基板側電極13が形成されており、基板側電極13から供給されたキャリアは、基板側半導体多層膜反射鏡2を介して、活性層4に注入される。
このような本実施例の面発光レーザでは、半導体電流拡散層7を設けたために、電流狭窄領域9よりも外周側にコンタクト領域11aを形成することができ、電流狭窄領域9を狭くしてもコンタクト領域11aの広さに制約を加える必要がない。また、コンタクト層7aを電流狭窄領域9の外側の光密度の小さい領域に形成することができるので、コンタクト層7aの不純物濃度を高くしても出力光を吸収する影響を大きく低減できる。これらの二つの理由によって、表面側電極11のコンタクト抵抗を大きく下げることが可能となる。
更に、表面側電極11の開口部12とコンタクト層7aの内側のコンタクト層7aが形成されていない領域の小さい方と比べて電流狭窄領域9を小さくできることから、電流をこれらの領域より狭い領域に集中することができ、光の横モード制御とは独立に動作電流を小さくすることができるとともに、発光領域の中央部分での電流密度を高くできることからモードの安定化をはかることができる。
本実施例では、パッシベーション膜10はコンタクト領域11aの内側にも設けられている。面発光レーザは表面から光を取り出すために、開口部12の表面状態により特性が大きな影響を受ける。このため、光取り出し部分にはパッシベーション膜を形成することが望ましい。
これに対して、従来のイオン注入型の面発光レーザでは電極コンタクト部分が電流狭窄領域に対応する部分に形成されている。このため、パッシベーション膜を形成する場合、その内側に形成する必要があった。この場合、パッシベーション膜の端部が光密度の高い部分と重なるために、光を散乱する要因となり、光出力やモードの制御の阻害要因となる。
一方、本実施例の場合、コンタクト領域11aを電流狭窄領域9の外側に形成しているので、パッシベーション膜のコンタクト領域11aの内側の部分に関してもその端部を電流狭窄領域よりも外側の光密度の低い部分に形成することができ、パッシベーション膜の端部が出力光を散乱する問題の影響を大幅に低減することができる。このため、光出力やモードが安定でかつ信頼性の高い面発光レーザを得ることが可能となる。
(実施例2)
次に、本発明の実施例2による面型光半導体素子を図5を参照して説明する。本実施例においては、実施例1の構成において、電流狭窄領域9の外径を4μmとした構成となっている。
本実施例では、AlsGa1−sAs(s=0.5)とAlqGa1−qAs(q=0.95)を交互に50層ずつ積層した表面側半導体多層膜反射鏡層6が形成されている。
半導体多層膜反射鏡層6は、発光波長を0.65μmとすると全体の厚さが2.5μmであり、イオン注入によりこのうち2μm以上を高抵抗化すると、その深さは、電流狭窄領域9の半径2μmよりも大きくなる。プロトンのイオン注入はピークの深さが2μmの深さとなるように行う。半導体電流拡散層7のキャリア濃度を1×1018cm−3、電流狭窄領域9のキャリア濃度を1×1018cm−3とすると。電流は電流狭窄領域9の端部から電流狭窄領域9内にほぼ45度の角度で広がるために、活性層4側では電流狭窄領域9全体に広がり、均一な電流注入が可能となる。
従来の技術では、電流狭窄領域に対応する表面側半導体多層膜反射鏡層の表面にオーミック電極を形成することになる。表面側半導体多層膜反射鏡層の表面をキャリア濃度1×1018cm−3のAl0.5Ga0.5Asとして、コンタクト領域の外径を4μm、内径を3μmとすると、コンタクト抵抗率が1x10−5Ω・cm2のオーダーであることから、コンタクト抵抗は160Ωを越える。
これに対して、本実施例では、キャリア濃度1×1018cm−3、厚さ1.5μmのAl0.6Ga0.4As半導体電流拡散層7を設け、電流狭窄領域9の外側にキャリア濃度2×1019cm−3のGaAsコンタクト層7aを設け、その上に外形10μm、内径5μmコンタクト領域11aを形成することで、コンタクト抵抗率を1x10−6Ω・cm以下のオーダーに下げられる効果と、コンタクト領域11aの面積を広げられる効果により、コンタクト抵抗を10Ω以下に下げることができる。この場合、電流狭窄領域9の外径rは2.5μmであり半導体電流拡散層7の厚さsは1.5μmである。このため、第6実施形態に該当しており、素子抵抗の低減が可能である。この点を実際の数値を持って説明する。コンタクト領域11aから半導体電流拡散層7を通って電流狭窄領域9に電流が流れるための抵抗は
半導体電流拡散層の抵抗率×(縦方向の形状係数(半導体電流拡散層の厚さ/電流狭窄領域の面積)+横方向の形状係数(半導体電流拡散層での電流の横方向拡がり距離/電流拡散層内で電流が流れる断面積の最大値))
と近似することができる。そしてキャリア濃度1×1018cm−3のAl0.6Ga0.4As半導体電流拡散層7の抵抗率は0.06Ω・cm程度であることから、
0.06Ω・cm×(1.5μm/(π×3.5μm×2μm)+1.5μm/2/(2×π×3.5μm×1.5μm))〜68Ω
となる。この結果、トータルの抵抗はコンタクト抵抗と半導体電流拡散層7の抵抗を加えることで80Ω以下となり、従来の場合に対して5割以下に低減することができる。
更に、発熱量の大きなコンタクト領域11aを電流狭窄領域9の外側に広げることができるので、素子温度が上昇する効果を抑制することもできる。なおここで、コンタクト層7aのキャリア濃度を高くすることがコンタクト抵抗を下げる上で重要であるが、キャリア濃度を高くするとレーザ光に対する吸収係数も大きくなる。本実施例では、コンタクト層7aを電流狭窄領域9の外側に設けて光密度の高い部分から離しているためにキャリア濃度を高くすることができる。
また本実施例では、レーザ光の波長は650nmであり、そのエネルギーはキャリア濃度の高い結晶を成長しやすいGaAsのバンドギャップよりも大きい。本実施例では、GaAsのコンタクト層7aを電流狭窄領域9の外側の光密度の低い部分に設けるので、出力損失の影響が小さく、高出力のレーザを得ることができる。
本実施例に関連して半導体電流拡散層7の厚さの上限について説明する。上述したように半導体電流拡散層7を設けるとコンタクト層7aを形成する自由度が増してコンタクト抵抗を低減することができるが、半導体電流拡散層7が厚すぎるとこの層を通り抜ける抵抗が大きくなるために、厚さの上限に適正な値がある。素子全体の抵抗を下げるためには、半導体電流拡散層7の縦方向の抵抗が加わったことによる抵抗増大を、コンタクト抵抗の低下よりも小さな値に抑制する必要がある。
このためには、
コンタクト抵抗 > 半導体電流拡散層の縦方向の抵抗
の関係を満たす必要がある。この関係は、第6実施形態で説明したように、半導体電流拡散層7の厚さをs、電流狭窄領域9と半導体電流拡散層7の接合面における電流狭窄領域9の中央と端部の最短距離をrとすると、
s < 5√r
の条件が満たされることが必要となる。
更に、イオン注入型の面発光レーザ横方向のシングルモード動作を行うためにはr<〜6μmとすることが望ましいことから、半導体電流拡散層7の厚さsは12μm以下とすることが望ましい。
一方、半導体電流拡散層7での縦横の抵抗比を考えると、第6実施形態で説明したように、
s>((√2−1)/2)×r
の関係を満たすことが望ましく、したがって、s>1.2μmとなる。
上記、図5に示す面発光レーザは、以下の方法により形成することができる。
まず、GaAs基板1上に、例えば有機金属気相成長法によって、基板側半導体多層膜反射鏡層2、n型の導電型の基板側クラッド層3、半導体活性層4、p型の導電型の表面側クラッド層5、表面側半導体多層膜反射鏡層6を順次形成する。MOCVD成長はIn原料としてトリメチルインジウム、Ga原料としてトリメチルガリウムあるいはトリエチルガリウム、Al原料としてトリメチルアルミニウム、砒素原料としてアルシンまたはターシャリーブチルアルシン、燐原料としてフォスフィンまたはターシャリーブチルフォスフィンを使用する。n型ドーパント原料にはシラン、p型ドーパント原料にはジメチル亜鉛または四臭化炭素を用いることが可能である。特にAlxGa1−xAs(x=0.5)とAlyGa1−yAs(y=0.95)を交互に50層ずつ積層してなる表面側半導体多層膜反射鏡6と、後述するAlaGa1−aAs(a=0.6)よりなる半導体電流拡散層7に関してはドーパントとしてカーボンを用いることが望ましい。p型不純物としてカーボンを用いると高濃度にドープできかつ活性層4へのp型不純物の拡散はほとんど起こらない。ここで、半導体多層膜反射鏡層2,6の厚さはレーザ発振させる波長650nmの光に対して光学距離が波長/4となるようにAlGaAs(Al組成0.5)層とAlGaAs(Al組成0.95)層の厚さを47nmと52nmにそれぞれ設定する。
また、n型の導電型の基板側クラッド層3、半導体活性層4、p型の導電型の表面側クラッド層5のトータルの光学距離はレーザの発振波長に対してm/4 ×波長(mは奇数)となるように設定する。
次に、SiO2を堆積して通常のリソグラフィー法によりイオン注入のマスクを形成する。プロトン注入により不純物領域8を形成し、イオン注入を行わない部分に電流狭窄領域9を形成する。ここで、電流狭窄領域9の径は、横モードの設計事項ではあるが一般的には4μm〜10μmが適正な値となる。プロトンの注入は、注入によるダメージが活性層4に与える影響を低減する上で表面側半導体多層膜反射鏡層6の中だけにとどめることが望ましいが、表面側クラッド層5の中まで達しても良い。具体的には、本実施例ではプロトンを濃度ピークの位置が表面から2μmの位置となる条件で打ち込んだ。この場合、注入の先端は2.5μmとなるが、プロトンの注入はプロセス誤差が3%程度あることから、実際のプロトン打ち込みの先端は半導体多層膜反射鏡6の最も活性層4に近い低屈折率AlyGa1−yAs(y=0.95)層の中に形成されているかまたは表面側クラッド層3の中に達している可能性がある。図7に、プロトン注入が表面側クラッド層5に達した本実施例の変形例による面発光レーザの構成を示す。この変形例においては、プロトン注入によって形成された不純物領域8がクラッド層5にまで到達している。
次に、発光領域層4の中の電流広がりを抑制するために、電流狭窄領域9を形成するプロトン注入による不純物領域8の位置および製法に制約があることを示す。
電流が表面側半導体多層膜反射鏡層6の低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れる際にポテンシャルバリアがありキャリアが横方向に広がりやすい。低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の横方向に高抵抗領域を設けてこの影響を低減する必要があり、不純物領域8によって活性層4に注入される電流広がりを効果的に抑制するためには、発光領域からみてできるだけ近くの低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合まで横方向に不純物領域(高抵抗領域)8を設けて横方向の電流広がりを抑制することが重要となる。面発光レーザではエタロン構造を形成するために、発生する光の波長をλ、AlGaAs層の屈折率をnとすると、活性層4に最も近い半導体多層膜反射鏡層6の高Al組成AlGaAs層と活性層の中央との距離はλ(波長)/2nの整数倍とする必要があり、低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合までの距離は、上記値(λ/2n×整数倍)にλ/4nを加えた値となる。そこで、イオン注入条件として、発光領域層では注入したイオンの濃度が低く発光領域層に対するダメージが小さく、発光領域層からλ/2×整数(1以上)+λ/4より遠い位置ではイオン注入濃度が高くて横方向の電流広がりを制限できることが必要となる。
発光波長が650nmのGaInP系のレーザでは、プロトンを、注入電圧150keV〜700keVの条件で打ち込むことで、イオン注入を行う際の結晶表面から1.5μm〜3.5μmの注入深さとなるようにすると、活性層からみて五番目の低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の低AlGaAs層の中にピークがある条件を選択することが望ましい。このような条件にすると、活性層からみて最も近い低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合を含めて表面側で高抵抗化が進み、なおかつ活性層にはプロトンはほとんど注入されない。ここで、GaAsに注入されたプロトン濃度ピークの深さとその拡がりを考えると、注入の深さが0.43μmのときに広がりが0.32μm、注入深さが1μmの時に0.43μm、注入深さが1.5μmの時に0.48μm、注入深さが2μmの時に0.5μm、注入深さが2.2μmの時に0.52μm、注入深さが3.5μmの時に0.59μmといった値が知られている。このため、上述の条件を満たすためには、プロトンを、注入電圧150keV〜700keVの条件で打ち込み、イオン注入を行う際の結晶表面から1.5μm〜3.5μmの注入深さとなるようにする。打ち込まれたプロトンの先端がプロトン濃度ピークに比べて0.48μm〜0.59μmの広がりを持つ。この範囲でイオン注入の打ち込み深さと結晶の厚さの両者を調整すると上述の条件を満たすことができる。逆に、所定の位置にイオン打ち込みの先端を形成するためには、先端の位置の誤差が所定の範囲にある必要がある。このため、プロトンの打ち込み濃度のピークと先端の広がりを0.48μm〜0.59μmの範囲に制御したときだけ、「活性層からみて五番目の低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の低AlGaAs層の中にピークがあり、かつ、活性層からみて最も近い低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合を含めて表面側で高抵抗化が進み、なおかつ活性層にはプロトンはほとんど注入されない。」条件を実現できる。
ここで、イオン注入のピークの先端との距離は、ピークと比べ平均濃度が一桁以上小さくなり、イオン注入の効果が小さくなる距離を考えている。
このように、イオン注入のピークをAl組成が低いAlGaAs層の内部に設けることで、低抵抗でバンドギャップが小さい低抵抗のAlGaAsからの電流の漏洩をより効率よく抑制する。
次に、SiO2を弗酸アンモニア溶液で除去して、その後、半導体多層膜反射鏡6上に、半導体電流拡散層7とコンタクト層7aを形成する。ここで、気相成長法で形成する場合は、例えば、MOCVD法で実施すればよい。気相成長法で形成する場合、成長前の結晶表面の気相エッチング量が各層の光学厚さに対して少ないので、再成長で形成しても設計どおりの厚さの膜が形成できる。
半導体接合で形成する場合には、第二のGaAs基板上にコンタクト層7a、半導体電流拡散層7をこの順で形成し、半導体電流拡散層7を表面側半導体多層膜反射鏡層6に対向して接触させて、アルシン雰囲気中で、数MPaの圧力をかけて650〜850℃程度の温度でアニールする。このような方法で接合した後、第二のGaAs基板のコンタクト層7aよりも第二の基板側の部分をエッチングにより除去する。例えば、第二の基板上で厚さ数μmのGaInP層を成長してからGaAsのコンタクト層7aを形成する。GaInP層とGaAsでは硫酸過酸化水素系のエッチャントを用いるとエッチング速度が異なることから、GaInP層をエッチングストップ層としてGaAs基板だけを除去することができる。この後、GaAsがエッチングされない塩酸系のエッチャントを用いることでGaInP層を除去することができて、GaAsのコンタクト層7aの表面を出すことができる。
このように気相成長あるいは半導体接合によって半導体電流拡散層7およびコンタクト層7aを形成した後に、イオン注入領域による電流狭窄領域9の外径よりも3μm大きな内径を持ち、幅が10μmのコンタクト領域11aに対応する部分を除いてプロセスマージン0.75μmでコンタクト層7aのパターンエッチングを行う。次に、SiO2からなるパッシベーション膜10の堆積を行う。パッシベーション膜10に対してリソグラフィーによりプロセスマージン1μmで幅7μmでコンタクト領域11aを形成するための開口部を設ける。
この後、Ti/Pt/Auの表面側電極11を、レーザ光に対する開口部12を残して蒸着して、コンタクト領域11aにオーミック接合を持つp側電極を形成する。ここで、開口部12を形成する最のプロセスマージンを0.75μmとした。更にその後、AuGeNi/Auの基板側電極13を蒸着してn型電極を形成する。
本実施例の面発光レーザの作製プロセスでは、リソグラフィーを±0.75μmと通常の精度で行っても、電極の開口部12が電流狭窄領域9と重なることは無く、面発光レーザの特性に大きな影響を与えることはない。しかし、本実施例を用いないイオン注入型の面発光レーザで本実施例のように電流狭窄領域の径を4μmにしてプロセス精度0.75μmで作製した場合、電極11の開口径12の制御性に従って、同一の光出力を得るために必要な電流が60%以上異なってしまい、特性のそろった素子を再現性良く得ることはきわめて難しい。
このように本実施例は、小口径の、しきい値が低く、光モードの安定性が高い面発光レーザを、酸化型の面発光レーザと比べて信頼性の高いイオン注入型の面発光レーザで再現性および均一性良く得られる点で優れている。
(実施例3)
次に、本発明の実施例3による面発光レーザを図6を参照して説明する。この実施例の面発光レーザは、実施例1の面発光レーザとほぼ同一であり、異なる点は、表面側半導体多層膜反射鏡層6を途中まで2μm成長した後に、プロトン注入を実施し、その後、気相成長あるいは接着によって、厚さ1.2μmの表面側半導体多層膜反射鏡層の上部6a、半導体電流拡散層7、コンタクト層7aが形成されている。その他の点に関しては、実施例1乃至実施例2と製造方法を含めて大きな違いは無い。
このような構造の面発光レーザでは、プロトン注入深さを浅くして、活性層4の近くまで正確にプロトン濃度の制御が行えて効率良く電流の狭窄が行えるので、レーザの動作電流値、特に発振閾値を小さくすることができる。本実施例の場合、表面側多層膜反射鏡層6,6aの合計の膜厚は3.2μmとなる。この場合、プロトン注入を表面側多層膜反射鏡層6の表面からイオン注入の先端の深さで3μm行えば、不純物領域8の発光領域層4からの距離は0.2μmとなり、電流狭窄領域の径を3μmにした場合に発光領域の広がり径は3.4μmまで広がる。
しかし、本実施例を用いると、半導体電流拡散層6を2μm成長した後イオン注入の先端が2μmの深さとなる条件でイオン注入することで、半導体活性層4から0.1μm以内までイオン注入することができて電流狭窄領域9の径と活性層4での電流注入径とをほぼ一致させることができる。また、イオン注入深さを浅くすることができるので電流狭窄領域9の径の制御精度も高くすることができる。
更に、活性層にGaAs/GaInNAs/GaAs量子井戸を用いて1.3μmのレーザ光を得る場合、表面側多層膜反射鏡層を低屈折率のAlqGa1−qAs(q=0.95、厚さ111nm)と高屈折率のAlsGa1−sAs(s=0.5 厚さ104nm)を交互に50層積層して形成すると、表面側多層膜反射鏡層のトータルの厚さは波長の変化に応じて5.4μmの厚さになる。この場合、表面側半導体多層膜反射鏡層の表面からイオン濃度のピークが3μmの深さとなる条件でイオン注入を行っても、イオン注入先端部と活性層との間での電流が広がりの影響が大きい。電流狭窄領域の径を3μmとしても活性層での電流径は7.8μm程度になる。このため素子の特性を制御することはきわめて難しい。
これに対して、本実施例の構造を用いて、表面側半導体多層膜反射鏡層6を2μm成長した段階で不純物イオン(例えばプロトン)の濃度ピークの位置が1.5μmとなる条件でイオン注入して電流狭窄領域9を形成した後に、表面側多層膜反射鏡層上部6bを形成すると、電流狭窄領域9の径と発光領域層4内での電流拡がり径の拡大を0.3μm以内と極めて小さくすることがことができる。このために低閾値動作が可能でモードの安定性が高い面発光レーザが得られる。
ここで、実施例1と同様に、電流狭窄効果を高めて活性層4の電流広がりを抑制して面発光レーザの低電流動作を実現するためには、プロトン注入の条件に制約が加わる。プロトンを注入電圧50〜400keVで打ち込むと0.4μm〜2.2μmの位置にプロトンの濃度ピークが発生する。この時、打ち込みの先端部分は、ピークから0.33μm〜0.54μmの位置に形成される。1.3μm帯のGaInNAs系量子井戸レーザではλ/nが0.43μm程度であることから、活性層4からみて二番目の低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の低AlGaAs層の中にプロトン濃度のピークを形成することで、活性層4からみて最も近いの低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の側部を高抵抗化して活性層4に高濃度のイオンが届かないようにすることができる。本実施例の素子はこの条件でイオン注入を行っている。第二の条件としてプロトンを400keV〜500keVのエネルギーで打ち込み、プロトン濃度のピーク位置を2.2μm〜2.6μmの位置に形成すると、打ち込まれたプロトンの先端は濃度がピークとなる位置からから0.54μm〜0.56μm深い位置に現れる。プロトンの打ち込みにあたって濃度のピークが活性層からみて三番目の低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の低AlGaAs層の中に形成されるような条件を選べば、発光領域層4からみて最も近いの低Al組成AlGaAs層から高Al組成AlGaAs層にキャリアが流れるヘテロ接合の側部が高抵抗化されて、なおかつ活性層4に高濃度のプロトンが届かないようにすることができる。本実施例では第一の範囲であるイオン注入のピークの深さが1.5μmとなる条件で打ち込んでいる。
GaInNAs/GaAs系量子井戸を用いた1.3μm帯の面発光レーザの場合、GaAsの吸収端よりも長波長のレーザ光を用いるので、GaAsによる吸収が弱い。このため、基板側半導体多層膜反射鏡層2,および表面側半導体多層膜反射鏡層6ではAlGaAsとGaAsあるいはGaAsとAlGaAsの積層構造を用いることができ、クラッド層3,5にはGaAsを用いることができ、半導体電流拡散層7にはGaAsを用いることができる。この場合にはコンタクト層7aは半導体電流拡散層7の表面側の不純物濃度を高くするだけでよい。
また、表面側半導体多層膜反射鏡層6の内部にGaAs層を用いることができるので、表面側半導体多層膜反射鏡層6を途中まで成長してイオン注入後に表面側半導体多層膜反射鏡層上部6bを成長する時の再成長界面あるいは接着面をGaAs層の内部に界面を設けることができる。2元系結晶であるGaAsを界面に用いることで、再現性良く良質な特性の界面を形成することができる。
上記、図6の面発光レーザはの形成方法は上述のように実施例1の面発光レーザとほぼ同様に実施できるが、GaInNAs/GaAs系の量子井戸を有機金属気相成長法で形成する場合、Asの原料としてはアルシン(AsH3の他にタシャリーブチルアルシン(TBA)を用いてもよい。また窒素の原料としてはディメチルヒドラジン(DMHy)あるいはディメチルヒドラジン(DMHy)とアンモニアガス(NH3)の組み合わせを用いてもよい。
(実施例4)
本発明の実施例4による面発光レーザを説明する。この実施例の面発光レーザは第6実施形態の面発光レーザである。本実施例では、特に、半導体電流拡散層7の厚さsが電流狭窄領域9の径rとの関係で規定されている。電流狭窄領域9の径をシングルモードで素子を動作させる場合に望ましい8μmとして、半導体電流拡散層7の厚さを2μmとすると、この素子は、5×√r>sを満たすので、電極抵抗に対して縦方向の抵抗が小さくなる。
また、s>(√2−1)/2×rの関係を満たしている。このため電極抵抗を下げて均一な電流注入が可能となるが、ここでは、縦横の抵抗比の関係を詳述する。
Al0.6Ga0.4As半導体電流拡散層7のキャリア濃度を5×1017cm−3とすると抵抗率は0.12Ω・cmの程度であり、
縦方向の抵抗は、2μm/(π×4μm×4μm)×抵抗率であるからほぼ45オームとなり、
横方向の抵抗は、2μm/2/(2×π×(4μm+1μm)×2μm)×抵抗率でありからほぼ38オームとなり、実際に横方向の抵抗が小さくなる。
このため、電極から電流狭窄領域に電流が広がる場合に、電流狭窄領域の外周部分に広がる電流密度と電流狭窄領域の中央部分に広がる電流密度の比を2倍以下に抑制することができる。更に電流狭窄領域内の多層膜反射鏡層のヘテロ接合での抵抗と活性層内部での電流広がりの効果があるために、活性層内部での電流密度の均一性が改善されて、均一な光出力が得られるようになり、モードの安定した半導体面発光レーザを得ることができる。
なお、実施例3の面発光レーザのように表面側半導体多層膜反射鏡層6の形成途中でイオン注入してその上に表面側半導体多層膜反射鏡層上部6aを形成する場合には表面側半導体多層膜反射鏡層上部6aと半導体電流拡散層7のトータルの厚さをsとみなすことができる。
(実施例5)
本発明の実施例5による面発光レーザを図1、図2を参照して説明する。
本実施例の面発光レーザにおいては、中央の電流狭窄領域9aの直径が5μmであり、周辺の2列の計12個の電流狭窄領域9bの直径は4μmである。各電流狭窄領域の中心間の距離は6μmであり、中央の電流狭窄領域9aと周辺の電流狭窄領域9bの端部間の距離は1.5μmであり、周辺の電流狭窄領域の端部間の距離は2μmである。コンタクト領域11aは全ての電流狭窄領域の外側に設けられており内径が16μmである。この面発光レーザは、n型のGaAs基板1上に、AlqGa1−qAs(q=0.9)とAlsGa1−sAs(s=0.5)を交互に50層ずつ積層した基板側半導体多層膜反射鏡層2、In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5Pよりなるn型の導電型の基板側クラッド層3と、InGaP量子井戸とIn0.5(Ga0.5Al0.5)0.5P量子井戸バリアの二重量子井戸からなる発光波長650nmの発光領域を有する半導体活性層4と、In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5Pよりなる厚さ110nmのp型の導電型の表面側クラッド層5と、AlsGa1−sAs(s=0.5)とAlqGa1−qAs(q=0.95)を交互に26層ずつ積層した厚さが2.58μmとなる表面側半導体多層膜反射鏡層6とが形成されている。
更に表面側半導体多層膜反射鏡6上には、AlaGa1−aAs(a=0.5)よりなる厚さ12μmの半導体電流拡散層7が形成され、更にその上の一部分にGaAsよりなるコンタクト層7aが形成されている。ここで、半導体電流拡散層7のキャリア濃度は1×1018cm−3であり、コンタクト層7aのキャリア濃度は1×1019cm−3である。表面側半導体多層膜反射鏡層6の中にピークの深さが2.05μmとなる条件で注入したプロトン注入による高抵抗化領域8が形成されており、高抵抗化領域8によって電流狭窄領域9が形成されている。コンタクト層7aの表面の一部分とコンタクト層7aを除去した部分の半導体電流拡散層7の表面にはSiO2のパッシベーション膜10が形成されている。更に、Ti/Pt/Auよりなる表面側電極11が、コンタクト領域11aでコンタクト層7aに接触するように形成されている。ここではコンタクト領域の幅は10μmである。表面側電極11から注入された電流はコンタクト層7a、半導体電流拡散層7を介して、電流狭窄領域9で狭窄分割されて活性層4に注入される。また、表面側電極11にはコンタクト領域の内側に開口部12が設けられており、この部分からレーザ光が取り出される。基板1の裏面には、AuGaNi/Auよりなる基板側電極メタル13が形成されており、基板側電極メタル13から供給されたキャリアは、基板側半導体多層膜反射鏡2を介して、活性層4に注入される。
本実施例では電流狭窄領域9によって形成される発光領域層4中の高光密度領域の外周は素子全体の中央と外側の列の電流狭窄領域の最外点との距離で決まっており、14μmである。また、電極の内径は16μmである。
本実施例では電流注入領域の中心を中心として電流狭窄領域の最外周に接する円の半径rが14μmで、半導体電流拡散層7の厚さsが12μmであることから、(√2−1)/2×r<s<5×√rを満たしており、第1実施形態に、第5実施形態で説明した(2)、(3)式を適用したものになる。このため、各電流狭窄領域内に均一な電流注入が可能となる。
本実施例の素子の作成方法は実施例1の素子の作製方法とほぼ同様であり、異なる点は、プロトン注入により複数の電流狭窄領域を形成する点と、コンタクト層のうち選択エッチングにより残される領域、コンタクト領域、電極のいずれもがほぼ複数の電極狭窄領域の全体の外周の外側に形成される点である。
本実施例の素子を電流値50mAで駆動するとレーザ発振が起こる。この時、中央部分の電流狭窄領域での光密度と二列目の電流狭窄領域に相当する半径での光密度と最外周の電流狭窄領域に相当する半径での光密度の比は概略5:4:4となる。光密度は中央で若干高くその外側で均一なプロファイルが得られる。この時の動作電圧は2Vとなる。これに対して半導体電流拡散層の厚さを3μmとした素子を電流値50mAで駆動すると、中央部分の光密度と二列目の電流狭窄領域に対応する半径での光密度と外側の電流狭窄領域に相当する半径での光密度の比は概略1:2:5となり、外周部分で光密度が高いプロファイルが得られる。この時の動作電圧は3.7Vとなる。
本実施例のように半導体電流拡散層7の厚さを12μmとして電流狭窄領域の最外周の半径7μmや電極の内径8μmよりも大きくした場合には、電流が基板の表面方向に流れる抵抗が減り、電極と電流狭窄領域が離れていても各電流狭窄領域まで電流が均一に広がって注入されるようになり、光密度が均一になるとともに抵抗が低下するものである。
これに対して、半導体電流拡散層が3μmと電極の内径8μmよりも小さい比較例の素子では、電流が横方向十分に広がらず外周部分の電流狭窄領域に流れ込んで不均一な動作を起こす。
本実施例では、電流狭窄領域9が複数あり電極11の内径よりも厚い半導体電流拡散層7を有する。このため、電流拡散層7の厚さは単一の電流拡散領域9の径よりも大きい。
本実施例の素子は、電流狭窄領域の総面積が半径14.7μmの素子と一致するこのため、半径8μm程度の素子と比べて注入電流に対する光出力のリニアリティが高く、最大光出力は3倍以上にできる。また、電流狭窄領域が区切られているために電流狭窄領域の中での電流不均一が起きにくい。特に、本実施例の素子においては、各電流狭窄領域の半径2μm乃至2.5μmに対して半導体多層膜反射鏡層の厚さ2.48μmの方が大きく、各電流狭窄領域の内部での電流均一性が高い。このため、高出力で動作させた場合にも光モードの安定性が高い。
また、電流の注入領域が分散されていることと、電流の注入領域が均一になっていることにより素子抵抗が低くなり、光出力を大きくした時の素子の温度変化が小さくかつ光出力を変えた時の波長の安定性が高い。また、同一光出力で動作させた場合に活性層4のキャリア密度が低い状態で動作しているので、周囲温度の上昇に対する無効キャリアの増大が少なく、素子特性が安定している。
この実施例では、素子中央に直径5μm、半径6μmと12μmの円周上に直径4μmの電流狭窄領域をそれぞれ6個ずつ二列配したが、電流狭窄領域の配置はこのような形態に限られるものではない。例えば中央と周囲一列に配する形状でもよく、二列であっても、一列目と違う角度の位置に配してもよい。一列目とニ列目の電流狭窄領域の数や大きさが異なってもよい。列数を増やしてもよい。また間隔を変えて良いのはもちろんであり、不均一にしても良い。また、電流狭窄領域を正方格子上に配してもよいし、六方格子状に配してもよい。また、中心には電流狭窄領域がなくてもよい。例えば3個の電流狭窄領域を三角形上に配してもよい。5個以下の電流狭窄領域を一列で配置した場合、素子全体のサイズを小さくできることから、特に高周波特性を向上する上で有利である。
(実施例6)
本発明の実施例6による面発光レーザを図4bを参照して説明する。
本実施例の面発光レーザは実施例5の面発光レーザとほぼ同様の構成をしており、半導体電流拡散層7は直径26μmで限定された領域に形成されていることとその外側にSiO2マスク16が設けられた点が異なっている。
また、本実施例の面発光レーザにおいては、半導体電流拡散層は複数層からなっており、下側に電流均一化領域層71を設け、上側には低抵抗領域層72を設けている。電流均一化層は周辺部分ではキャリア濃度が低く厚さも厚く抵抗が高い。半導体電流拡散層の低抵抗領域領域層72の厚さはほぼ11μmとし、キャリア濃度は1×1018cm−3とする。半導体電流拡散層の電流均一化領域層71は外側での厚さが概略1μmでキャリア濃度は1×1016cm−3で、中央部分では厚さが概略0.3μmでキャリア濃度は3×1016cm−3である。また、コンタクト層7a、コンタクト領域11aの幅はそれぞれ5μm、3μmとする。
本実施例の面発光レーザ素子は実施例5の面発光レーザ素子と同様の方法で作成するが、半導体電流拡散層7の形成方法に特徴がある。半導体電流拡散層7の形成前に、半導体多層膜反射鏡層6の上にSiO2マスク16を堆積する。SiO2マスク16をパターニングして半導体電流拡散層7に対応する直径30μmの開口部を設け、SiO2マスクを選択成長マスクとして半導体電流拡散層を実施例1と同様の有機金属気相成長法で形成する。ここで、電流均一化領域層71を形成する際には、成長温度を620℃〜650℃として、常圧で成長する。この成長条件では選択成長マスク16により成長速度に大きな影響が出る。このため、選択成長マスク16に近い外周部分では成長速度が大きくなる。これに対して中央部分では、選択成長マスク16の効果が小さく成長速度は小さな値で一定となる。また、ここではp型不純物として亜鉛を用い、原料としてはディメチルジンク(DMZn)を用いた。亜鉛はII族元素であり、III族サイトに取り込まれる。このためIII族元素とサイト競合を起こし、成長速度が増大すると添加効率が低下する。選択成長を行うと原料の取り込まれ効率の高いIII族元素はマスク上の原料の拡散によって表面濃度増大して結晶成長速度が増大するが、原料の取り込まれ効率の低いII族原料ガスでは選択成長の影響はほとんどない。このため、選択成長マスクの近くでは成長速度が高く不純物濃度を低くすることができ、選択成長マスクから離れると成長速度が通常の値となり、不純物濃度も通常の値となる。ここで、p型不純物としてディエチルジンク(DEZn)を原料としてZnを用いても良く、シクロペンタディエニルマグネシウム(Cp2Mg)等を原料としてMgを用いることやディメチルカドミニウム(DMCd)やディエチルカドミニウム(DECd)を原料としてCdを用いることができる。
また、本実施例と導電型を反転させて半導体電流拡散層としてn型の導電型の半導体電流拡散層を用いる場合にはSiH4やSi2H6を用いてSiを添加しても同様の効果が得られる。電流均一化領域層71の上には低抵抗領域層72を、50Torrで700℃で成長した。成長圧力を下げることで、原料ガスの拡散距離が延びて選択成長マスクによる成長速度の分布は小さくなる。ここでは、低抵抗領域層72は、電流均一化領域71の場合の約1/15の圧力であり、厚さの分布は10%以下にできる。また、このためにキャリア濃度の分布も10%以下にできて抵抗率分布が10%以下にできる。
本実施例の素子を電流値50mAで駆動するとレーザ発振する。この時、中央部分の電流狭窄領域での光密度と二列目の電流狭窄領域に相当する半径での光密度と最外周の電流狭窄領域に相当する半径での光密度の比は概略3:2:1.5となる。光密度は中央で高くその外側で弱いプロファイルが得られる。この時の動作電圧は2.5Vとなる。
本実施例の面発光レーザでは実施例5の面発光レーザと比べて、半導体電流拡散層7中に電流均一化層71を設けたことにより、電流密度の均一化が図れる。このため、電流狭窄領域の面積比が小さい素子の外周部分において光出力密度が低く、素子の中心部分において光出力密度が高くなる。電流均一化層71を設けたことにより実施例5の面発光レーザと比べると素子抵抗は若干高くなるが、大きな素子の中で電流が均一に注入されるために素子抵抗の増大は限定的である。
本実施例の素子は電流注入密度が素子中央で高く光密度が高いことから、光の基本モードで動作しやすく、高周波で動作させた場合にもモードの変動が起こりにくい。
本実施例では半導体電流拡散層7の電流均一化領域層71を選択成長で形成したが、電流均一化層を予め形成した後、パターニングとエッチングにより中央部分の少なくとも途中までを除去して薄くして、その後低抵抗領域層72を形成しても良い。パターニングとエッチングだけでは、選択成長により電流均一化領域層71を形成した上述の実施例のように電流均一化領域層71にキャリア濃度の分布を生じさせることはできないが、厚さの分布に関しては自由に大きくとることができるので、抵抗率x厚さで決まる電流均一化領域層の縦方向抵抗の分布に関しての制御性はより高い。
実施例1から実施例6として面発光レーザに本発明を適用したが、本発明は面発光レーザに限られるものではない。半導体多層膜構造を有する共鳴型光発光素子にも適用可能であることはもちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で半導体多層膜反射鏡を有する面型光半導体素子に適用可能である。
また、材料系としてもAlGaAs/GaAs系の半導体多層膜に限られるものではなく、GaAlInP/GaIn(Al)P系材料、In(Al)GaAs/AlGaInAs系材料、InP/AlGaInAs系材料、InP/GaInAsP系材料、AlGaAs/GaAs系材料を用いた半導体多層膜を用いた面型光半導体素子、あるいはこれらの材料に、NやSbなどを添加した半導体の組み合わせ、GaSbとInAsあるいはGaSbとGaAlSbの組み合わせあるいはこれらの材料をベースとして、各種III族元素あるいはV族元素を加えた半導体多層膜反射鏡を用いる面型光半導体素子に対して本発明の適用が可能である。
以上説明したように、本発明の各実施形態によれば、素子外部へのリーク電流を抑制し、低しきい値化、高速応答性、量産性の向上を図り、異方性酸化により生じる非酸化領域、出射ビームパターンの形状、モード制御の改善を図り、Al高濃度層を酸化するときに伴う体積収縮により発光領域へ印加される圧縮応力を緩和し、界面での亀裂や破損を抑制し、選択酸化プロセス後の熱プロセスに対しての耐性性を高め、素子の信頼性の向上、長寿命化を図ることが可能な面発光型半導体発光素子を提供することが可能となる。