以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
<LED用ヒートシンク>
図1に、本発明のLED用ヒートシンクの一例の模式的な斜視図を示す。ここで、LED用ヒートシンク1は、低熱膨張率層3と、その低熱膨張率層3上に形成された高熱伝導率層2と、その高熱伝導率層2上に形成された低熱膨張率層3との積層構造体から構成されている。
ここで、高熱伝導率層2は、25℃における熱伝導率が235W/(m・K)以上の金属からなる金属層であり、なかでも、本発明のLED用ヒートシンク1の放熱性を高くする観点からは、高熱伝導率層2としては、銅およびアルミニウムの少なくとも一方を含む金属からなる金属層を用いることが好ましい。
また、低熱膨張率層3は、線膨張率が7×10-6(1/K)以下の金属からなる金属層であり、なかでも、本発明のLED用ヒートシンク1の熱による変形を抑制する観点からは、低熱膨張率層3としては、モリブデンおよびタングステンの少なくとも一方を含む金属からなる金属層を用いることが好ましい。
ここで、本発明のLED用ヒートシンク1においては、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3とを含む積層構造体からなるLED用ヒートシンク1の全体の厚さhが0.1mm以下であることを特徴としている。
本発明のLED用ヒートシンク1においては、たとえば後述する方法により、LED用ヒートシンク1の全体の厚さhを0.1mm以下といったような従来と比べて非常に薄い厚さに形成することができる一方で、そのような薄い厚さの本発明のLED用ヒートシンク1は、機械的な除去により厚さが低減されているわけではないため、機械的な除去により形成された傷などに起因する反りがほとんど生じることがない。
さらに、本発明のLED用ヒートシンク1においては、従来のように機械的な除去により厚さを低減することなく全体の厚さhを0.1mm以下としているために材料コストを低減することができるとともに、その薄さによりLED用ヒートシンク1の切断などの加工性も向上するために非常に有用な効果が得られる。
図2に、図1に示すLED用ヒートシンク1の模式的な断面図を示す。ここで、たとえば図2に示すように、本発明のLED用ヒートシンク1を構成する高熱伝導率層2の厚さh1は、低熱膨張率層3の厚さh2よりも厚くなっていることが好ましい。高熱伝導率層2の厚さh1を低熱膨張率層3の厚さh2よりも厚くすることによって、熱の放熱性に優れる特性と熱による変形を抑制できる特性とをともに高いレベルで兼ね備えたLED用ヒートシンク1を得ることができる傾向が大きくなるためである。
図3に、本発明のLED用ヒートシンクの他の一例の模式的な斜視図を示す。ここで、LED用ヒートシンク1は、高熱伝導率層2と、その高熱伝導率層2上に形成された低熱膨張率層3と、その低熱膨張率層3上に形成された高熱伝導率層2との積層構造体から構成されている。
図3に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、LED用ヒートシンク1の全体の厚さhは0.1mm以下とされるため、上記と同様の理由で、機械的除去による傷に起因する反りがほとんど生じない一方で、材料コストを低減することができるとともに、LED用ヒートシンク1の切断などの加工性も向上させることができる。
図4に、図3に示すLED用ヒートシンク1の模式的な断面図を示す。ここでも、たとえば図4に示すように、本発明のLED用ヒートシンク1を構成する高熱伝導率層2の厚さh1は、低熱膨張率層3の厚さh2よりも厚くなっていることが好ましい。その理由は、上記と同様に、高熱伝導率層2の厚さh1を低熱膨張率層3の厚さh2よりも厚くすることによって、熱の放熱性に優れる特性と熱による変形を抑制できる特性とをともに高いレベルで兼ね備えたLED用ヒートシンク1を得ることができる傾向が大きくなるためである。
図5に、本発明のLED用ヒートシンクの他の一例の模式的な断面図を示す。ここで、本発明のLED用ヒートシンク1においては、高熱伝導率層2と、その高熱伝導率層2上に形成された低熱膨張率層3と、その低熱膨張率層3上に形成された高熱伝導率層2との積層構造体から構成されており、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3との間にそれぞれ相互拡散層4が形成されている。
なお、相互拡散層4とは、高熱伝導率層2を構成する金属と低熱膨張率層3を構成する金属とが混ざり合った層のことであり、たとえば、高熱伝導率層2を構成する金属が低熱膨張率層3側に拡散するとともに、低熱膨張率層3を構成する金属が高熱伝導率層2側に拡散することによって形成することができる。
図5に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、LED用ヒートシンク1の全体の厚さhは0.1mm以下とされるため、上記と同様の理由で、機械的除去による傷に起因する反りがほとんど生じない一方で、材料コストを低減することができるとともに、LED用ヒートシンク1の切断などの加工性も向上させることができる。
さらに、図5に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においては、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3との間に相互拡散層4が形成されていることによって、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3との間の接合強度が向上するため、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3との間の層間剥離を有効に防止することができる傾向にある。
また、図5に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、上記と同様の理由により、高熱伝導率層2の厚さh1は、低熱膨張率層3の厚さh2よりも厚いことが好ましい。
図6に、本発明のLED用ヒートシンク1の他の一例の模式的な断面図を示す。ここで、本発明のLED用ヒートシンク1においては、低熱膨張率層3と、その低熱膨張率層3上に形成された高熱伝導率層2と、その高熱伝導率層2上に形成された低熱膨張率層3との積層構造体から構成されており、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3との間にそれぞれ相互拡散層4が形成されている。
図6に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、LED用ヒートシンク1の全体の厚さhは0.1mm以下とされるため、上記と同様の理由により、機械的除去による傷に起因する反りがほとんど生じない一方で、材料コストを低減することができるとともに、LED用ヒートシンク1の切断などの加工性も向上させることができる。
さらに、図6に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、上記と同様の理由により、高熱伝導率層2と低熱膨張率層3との間の層間剥離を有効に防止することができる傾向にある。
また、図6に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、上記と同様の理由により、高熱伝導率層2の厚さh1は、低熱膨張率層3の厚さh2よりも厚いことが好ましい。
なお、本発明のLED用ヒートシンクは、上記の構成に限定されないことは言うまでもなく、高熱伝導率層と低熱膨張率層とを含む積層構造体であれば特に限定はされない。
ここで、本発明において、積層構造体とは、積層構造体に含まれる高熱伝導率層と低熱膨張率層とがそれぞれ層として存在している構造体のことを意味しており、高熱伝導率層および低熱膨張率層がそれぞれ少なくとも1層ずつ含まれていれば、高熱伝導率層および低熱膨張率層はそれぞれ積層構造体のどの位置に存在していても構わない。また、積層構造体において、高熱伝導率層と低熱膨張率層とは接していてもよく、高熱伝導率層と低熱膨張率層との間に他の層(たとえば相互拡散層4などの高熱伝導率層および低熱膨張率層以外の層)が存在していてもよい。なお、積層構造体の反りを抑制する観点からは、積層構造体の厚み方向の中央部から上方の部分と積層構造体の厚み方向の中央部から下方の部分とが積層構造体の厚み方向の中央部に関して対称となっていることが好ましい。
また、本発明のLED用ヒートシンクは、高熱伝導率層と低熱膨張率層とを含む積層構造体であって全体の厚さが0.1mm以下であれば特に限定はされないが、なかでも好ましい構成としては、たとえば図1および図2に示すような低熱膨張率層3、高熱伝導率層2および低熱膨張率層3の順序で積層された積層構造体、またはたとえば図3および図4に示すような高熱伝導率層2、低熱膨張率層3および高熱伝導率層2の順序で積層された積層構造体であって、高熱伝導率層2が銅からなるとともに、低熱膨張率層3がタングステンからなる構成が挙げられる。これらの構成とすることによって、熱の放熱性に優れる特性と熱による変形を抑制できる特性とをともに高いレベルで兼ね備えたLED用ヒートシンクとすることができる傾向がさらに大きくなる。
また、図2および図4〜図6にそれぞれ記載されている複数の高熱伝導率層2の厚さh1はすべて同一であってもよく、その少なくとも1つが異なる厚さであってもよい。また、図2および図4〜図6にそれぞれ記載されている複数の低熱膨張率層3の厚さh2はすべて同一であってもよく、その少なくとも1つが異なる厚さであってもよい。
なかでも、熱の放熱性に優れる特性と熱による変形を抑制できる特性とをともに高いレベルで兼ね備えたLED用ヒートシンクとする観点からは、高熱伝導率層2の厚さh1の合計は低熱膨張率層3の厚さh2の合計の1.2倍以上2倍以下であることが好ましく、1.4倍以上1.6倍以下であることがより好ましい。
<LED素子の製造方法>
以下、本発明のLED用ヒートシンクを備えた本発明のLED素子の製造方法の一例を説明するが、本発明のLED素子の製造方法はこれに限定されるものでないことは言うまでもない。
まず、たとえば図7の模式的斜視図に示すような形状を有する基板5を用意する。ここで、基板5の材質は特に限定されないが、基板5としては、鉄基板、シリコン基板またはステンレス基板を用いることが好ましい。基板5としてシリコン基板を用いた場合には、基板5の加工が容易となる傾向にある。また、基板5としてステンレス基板を用いた場合には、後述する溶融塩浴がより高温であってもよく、またステンレス基板の表面に酸化膜が形成されやすいためその酸化膜の除去により後工程におけるステンレス基板の分離が容易となる傾向にある。さらに、基板5として鉄基板を用いた場合には、後述する積層構造体を基板5上に形成した後にたとえばウエットエッチングなどにより基板5を容易に除去することができる傾向にある。
ここで、基板5としてシリコン基板などの絶縁性基板を用いた場合には、基板5の表面に導電層(図示せず)を形成する。なお、導電層としては、たとえば、ニッケル、銅およびチタンからなる群から選択された少なくとも1種の金属薄膜などを形成することができる。また、ニッケル、銅およびチタンからなる群から選択された少なくとも1種の金属薄膜は、たとえば、スパッタ法などにより50nm程度の厚さに形成することができる。
次に、基板5の表面(基板5がシリコン基板などの絶縁性基板である場合には基板5の表面上に形成された導電層の表面)上に低熱膨張率層3を形成する。ここで、低熱膨張率層3は、たとえば以下のようにして形成することができる。
まず、図8の模式的構成図に示すように、低熱膨張率層3を構成する金属原子を含む溶融塩浴8を容器7に収容する。
なお、溶融塩浴8としては、低熱膨張率層3を構成する金属原子を含んでおり、低熱膨張率層3を構成する金属を溶融塩浴8の電解により析出することができるものであれば特に限定はされないが、低熱膨張率層3がタングステンから構成される場合の溶融塩浴8の好ましい構成については後述する。
次に、容器7に収容された溶融塩浴8中に、基板5および対向電極6をそれぞれ浸漬させる。ここで、対向電極6としては、導電性の電極であれば特に限定なく用いることができ、たとえば、金属からなる電極などを用いることができる。
次に、基板5を陰極にするとともに、対向電極6を陽極として、基板5と対向電極6との間に電圧を印加して溶融塩浴8を電解することによって、溶融塩浴8中の低熱膨張率層3を構成する金属が基板5(基板5がシリコン基板などの絶縁性基板である場合には基板5の表面上に形成された導電層の表面)の表面上に堆積して低熱膨張率層3を形成する。
次に、図9の模式的斜視図に示すように、低熱膨張率層3の形成後の基板5を溶融塩浴8から取り出し、たとえばイオン交換水などによって低熱膨張率層3に付着している溶融塩浴8を洗って除去するとともに、その後、たとえば所定の酸で洗うことによって、低熱膨張率層3の表面に形成された酸化膜を除去する。
次に、図10の模式的な構成図に示すように、低熱膨張率層3の形成後の基板5および対向電極6をそれぞれ容器7に収容された電気めっき液9中に浸漬させ、基板5と対向電極6との間に電圧を印加して電気めっき液9を電解することによって、電気めっき液9中の高熱伝導率層2を構成する金属を低熱膨張率層3の表面上に堆積して高熱伝導率層2を形成する。
ここで、電気めっき液9としては、高熱伝導率層2を構成する金属原子を含んでおり、高熱伝導率層2を構成する金属を電気めっき液9の電解により析出することができるものであれば特に限定はされないが、たとえば高熱伝導率層2が銅から構成される場合には、電気めっき液9としてたとえば市販の硫酸銅めっき液などを用いることができる。
次に、図11の模式的斜視図に示すように、高熱伝導率層2の形成後の基板5を電気めっき液9から取り出し、たとえばイオン交換水などによって高熱伝導率層2に付着している電気めっき液9を洗って除去するとともに、その後、たとえば所定の酸で洗うことによって、高熱伝導率層2の表面に形成された酸化膜を除去する。
次に、図12の模式的構成図に示すように、高熱伝導率層2の形成後の基板5および対向電極6をそれぞれ容器7に収容された溶融塩浴8中に浸漬させ、基板5を陰極にするとともに、対向電極6を陽極として、基板5と対向電極6との間に電圧を印加して溶融塩浴8を電解することによって、溶融塩浴8中の低熱膨張率層3を構成する金属を高熱伝導率層2の表面上に堆積して高熱伝導率層2を形成する。なお、溶融塩浴8としては、上記で低熱膨張率層3の形成に用いた溶融塩浴8と同様のものを用いることができる。
その後、低熱膨張率層3の形成後の基板5を溶融塩浴8から取り出し、たとえばイオン交換水などによって低熱膨張率層3に付着している溶融塩浴8を洗って除去するとともに、その後、たとえば所定の酸で洗うことによって、低熱膨張率層3の表面に形成された酸化膜を除去する。
以上により、図13の模式的斜視図に示すように、基板5の表面上にLED用ヒートシンク1が形成された本発明のLED用ヒートシンク前駆体10が得られる。
ここで、図13に示すLED用ヒートシンク前駆体10の一部を構成するLED用ヒートシンク1の全体の厚みhは0.1mm以下とされる。
次に、図14の模式的斜視図に示すように、上記のようにして得られたLED用ヒートシンク前駆体10の低熱膨張率層3の表面にLED構造体14を接合する。ここで、LED構造体14の接合は、たとえば、LED用ヒートシンク前駆体10の低熱膨張率層3の表面にたとえば無電解めっきなどによって金などの金属をめっきした後に、たとえばはんだを介してLED用ヒートシンク前駆体10とLED構造体14とを接合することができる。
なお、本発明において、LED構造体14は、p型半導体層11とn型半導体層13と活性層12とを含み、p型半導体層11とn型半導体層13との間に活性層12が設置されており、電流の注入により活性層12から発光する構造であれば特に限定なく用いることができ、たとえば、従来から公知のLED構造体を用いることができる。
なかでも、LED構造体14としては、p型半導体層11、活性層12およびn型半導体層13にそれぞれIII族元素(Al、InおよびGaからなる群から選択された少なくとも1種)とV族元素(窒素)との化合物であるIII−V族窒化物半導体を用いることが好ましい。この場合には、活性層12から青色の光を発光させることが可能となる。
なお、p型半導体層11はp型不純物がドープされているp型の導電型を有する半導体層のことであり、n型半導体層13はn型不純物がドープされているn型の導電型を有する半導体層のことであることは言うまでもない。また、活性層12は、p型またはn型のいずれか一方の導電型を有していてもよく、p型不純物およびn型不純物のいずれの不純物もドープされていないアンドープの半導体層であってもよい。さらに、LED用ヒートシンク前駆体10とp型半導体層11との間、p型半導体層11と活性層12との間、活性層12とn型半導体層13との間、およびn型半導体層13の表面上にはそれぞれ他の層が含まれていてもよい。
次に、図15の模式的斜視図に示すように、基板5を除去することによって、本発明のLED用ヒートシンク1を備えたLEDウエハ15が得られる。ここで、基板5の除去は、たとえばエッチングなどにより行なうことができる。
その後、LEDウエハ15の表面を構成するn型半導体層13の表面上にn側電極を形成した後に、たとえば円形回転刃などでLEDウエハ15を切断することによって、図16に示す模式的な断面を有する個々のLED素子15aに分割する。これにより、本発明のLED用ヒートシンク1を備えた本発明のLED素子15aが得られる。
ここで、本発明のLED素子15aは、本発明のLED用ヒートシンク1と、LED用ヒートシンク1上に接合されたLED構造体14とを備えており、LED構造体14のn型半導体層13の表面上にn側電極16が形成された構成を有している。
そして、このような構成を有する本発明のLED素子15aのn側電極16を陰極とし、本発明のLED用ヒートシンク1を陽極として、これらの間に電圧を印加して、LED構造体14の内部に本発明のLED用ヒートシンク1側からn側電極16側に向かって電流を流す。すると、LED構造体14のp型半導体層11とn型半導体層13との間の活性層12で発光する。
ここで、本発明においては、従来よりも大幅に厚みが低減されたLED用ヒートシンク1を用いていることから、LED用ヒートシンク1の材料コストを低減できるとともに、LEDウエハ15からLED素子15aへの分割の際におけるLED用ヒートシンク1の切断が容易であるため、加工性が向上する。さらには、本発明のLED用ヒートシンク1はその厚みが非常に薄いために、本発明のLED素子15aの厚みも低減することができる。
以上においては、溶融塩浴8を用いて低熱膨張率層3を形成することによってLED用ヒートシンク1の厚みを低減することができるため、LED用ヒートシンク1の材料コストを低減することができる。また、LED用ヒートシンク1の切断などの加工が容易となるため、LED用ヒートシンク1の加工性も向上することができる。
なお、上記においては、電解めっき液9を用いて高熱伝導率層2を形成し、溶融塩浴8を用いて低熱膨張率層3を形成することによって本発明のLED用ヒートシンク1を形成したが、高熱伝導率層2および低熱膨張率層3の形成方法はそれぞれこれらに限定されないことは言うまでもない。たとえばスパッタ法などの従来から公知の気相法により高熱伝導率層2および低熱膨張率層3をそれぞれ形成することによって、全体の厚さが0.1mm以下である本発明のLED用ヒートシンク1を形成することもできる。また、高熱伝導率層2は、たとえば、上記の電気めっき液の電解による形成とスパッタ法などの気相法による形成とを組み合わせて形成されてもよく、低熱膨張率層3は、たとえば、上記の溶融塩浴の電解による形成とスパッタ法などの気相法による形成とを組み合わせて形成されてもよい。
また、上記においては、LEDウエハ15のLED用ヒートシンク1側とは反対側の表面にたとえばサファイア基板などの成長基板を備えていてもよい。ここで、成長基板は、たとえば従来から公知のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などにより、成長基板上に、p型半導体層11、活性層12およびn型半導体層13などを結晶成長させてLED構造体14を形成するために用いられる基板のことである。なお、成長基板は、本発明のLED用ヒートシンク1とLED構造体14との接合後に除去されることが、成長基板による光の吸収を防止して、発光効率を向上させる観点からは好ましい。ここで、成長基板の除去は、たとえば、成長基板側からレーザ光を照射してLED構造体14の一部の半導体層を加熱して溶融させることなどによって除去することができる。
また、上記においては、基板5を除去したが、基板5を残していてもよいことは言うまでもない。
<その他の形態>
図17に、本発明のLED用ヒートシンクの他の一例の模式的な斜視図を示す。ここで、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1は、高熱伝導率層2と、その高熱伝導率層2上に形成された低熱膨張率層3と、その低熱膨張率層3上に形成された高熱伝導率層2との積層構造体を有している。さらに、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1は、その積層構造体の一方の表面上に形成された拡散バリア層21と、拡散バリア層21上に形成された密着強化層22とを有している。
ここで、拡散バリア層21としては、たとえば、ロジウム、白金、パラジウム、ルテニウムおよびイリジウムからなる群から選択された少なくとも1種の白金族元素などを用いることができる。
また、密着強化層22としては、たとえば、ニッケル、ニッケル合金、または金などを用いることができる。また、密着強化層22に用いられるニッケル合金としては、たとえば、ニッケル−鉄、ニッケル−コバルト、ニッケル−リン、またはニッケル−マンガンなどを用いることができる。
図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、LED用ヒートシンク1の全体の厚さhは0.1mm以下とされるため、上記と同様の理由で、機械的除去による傷に起因する反りがほとんど生じない一方で、材料コストを低減することができるとともに、LED用ヒートシンク1の切断などの加工性も向上させることができる。
図18に、図17に示すLED用ヒートシンク1の模式的な断面図を示す。ここで、図18に示すように、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においては、高熱伝導率層2の厚さh1は、低熱膨張率層3の厚さh2よりも薄くなっている。
図19に、本発明のLED用ヒートシンクの他の一例の模式的な斜視図を示す。ここで、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1も、高熱伝導率層2と、その高熱伝導率層2上に形成された低熱膨張率層3と、その低熱膨張率層3上に形成された高熱伝導率層2との積層構造体を有している。
そして、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1は、上記の積層構造体の一方の表面上に拡散バリア層21aを備えているとともに、拡散バリア層21aの表面上に密着強化層22aを備えている。
さらに、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1は、上記の積層構造体の他方の表面上に拡散バリア層21bを備えているとともに、拡散バリア層21bの表面上に密着強化層22bを備えている。
図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、LED用ヒートシンク1の全体の厚さhは0.1mm以下とされるため、上記と同様の理由で、機械的除去による傷に起因する反りがほとんど生じない一方で、材料コストを低減することができるとともに、LED用ヒートシンク1の切断などの加工性も向上させることができる。
図20に、図19に示すLED用ヒートシンク1の模式的な断面図を示す。ここで、図20に示すように、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1においても、高熱伝導率層2の厚さh1は、低熱膨張率層3の厚さh2よりも薄くなっている。
なお、本発明のLED用ヒートシンク1の反りを抑制する観点からは、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1および図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1のいずれにおいても、LED用ヒートシンク1の厚み方向の中央部から上方の部分とLED用ヒートシンク1の厚み方向の中央部から下方の部分とがLED用ヒートシンク1の厚み方向の中央部に関して対称となっていることが好ましい。
以下、図21〜図27の模式的断面図を参照して、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1の製造方法の一例について説明する。
まず、図21に示すように鉄基板25を用意し、図22に示すように鉄基板25の一方の表面上に密着強化層22を形成する。ここで、密着強化層22は、たとえば電気めっき法および/または気相法などにより形成することができる。
次に、図23に示すように、密着強化層22の表面上に拡散バリア層21を形成する。ここで、拡散バリア層21は、たとえば電気めっき法および/または気相法などにより形成することができる。
次に、図24に示すように拡散バリア層21の表面上に高熱伝導率層2を形成し、図25に示すように高熱伝導率層2の表面上に低熱膨張率層3を形成し、さらには、図26に示すように低熱膨張率層3の表面上に高熱伝導率層2を形成する。ここで、高熱伝導率層2および低熱膨張率層3はそれぞれ上記と同様に、電気めっき法および/または気相法で形成することができる。
その後、図27に示すように、鉄基板25を除去することによって、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1を得ることができる。ここで、鉄基板25の除去は、たとえば硫酸を含むエッチング液によりウエットエッチングすることなどにより行なうことができる。
以下、図28〜図33の模式的断面図を参照して、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1の製造方法の一例について説明する。
まず、図28に示すように、鉄基板25の一方の表面上に密着強化層22bを形成する。ここで、密着強化層22bは、上記の密着強化層22と同様に、たとえば電気めっき法および/または気相法などにより形成することができる。
次に、図29に示すように、密着強化層22bの表面上に拡散バリア層21bを形成する。ここで、拡散バリア層21bは、上記の拡散バリア層21と同様に、たとえば電気めっき法および/または気相法などにより形成することができる。
次に、図30に示すように、拡散バリア層21bの表面上に、高熱伝導率層2、低熱膨張率層3および高熱伝導率層2をこの順に形成する。ここで、高熱伝導率層2および低熱膨張率層3はそれぞれ上記と同様にして形成することができる。
次に、図31に示すように、高熱伝導率層2の表面上に拡散バリア層21aを形成する。ここで、拡散バリア層21aも、上記の拡散バリア層21と同様に、たとえば電気めっき法および/または気相法などにより形成することができる。
次に、図32に示すように、拡散バリア層21aの表面上に密着強化層22aを形成する。ここで、密着強化層22aも、上記の密着強化層22と同様に、たとえば電気めっき法および/または気相法などにより形成することができる。
その後、図33に示すように、鉄基板25を除去することによって、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1を得ることができる。
ここで、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1の製造は鉄基板25と高熱伝導率層2との間に拡散バリア層21を設けて行なわれており、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1の製造は鉄基板25と高熱伝導率層2との間に拡散バリア層21bを設けて行なわれている。
そのため、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1および図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1のそれぞれの製造においては、高熱伝導率層2を構成する銅などの金属の拡散が拡散バリア層21または拡散バリア層21bで防止されるため、高熱伝導率層2を構成する銅などの金属が鉄基板25の表面まで拡散しにくくなり、鉄基板25の表面に拡散した高熱伝導率層2を構成する金属の存在に起因する鉄基板25の剥離を有効に抑止することができる。
また、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1の製造は鉄基板25と拡散バリア層21との間に密着強化層22を設けて行なわれており、図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1の製造は鉄基板25と拡散バリア層21bとの間に密着強化層22bを設けて行なわれている。
そのため、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1および図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1のそれぞれの製造においては、密着強化層22または密着強化層22bによって、鉄基板25と拡散バリア層21との間の密着力または鉄基板25と拡散バリア層21bとの間の密着力をより強固なものとすることができるため、鉄基板25の剥離を有効に防止することができる。
なお、上記において、拡散バリア層(拡散バリア層21、拡散バリア層21aまたは拡散バリア層21b)が気相法で形成される場合には、密着強化層(密着強化層22、密着強化層22aまたは密着強化層22b)は形成しなくてもよい。
また、拡散バリア層の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。拡散バリア層の厚さが0.1μm以上である場合には拡散バリア層における金属の拡散の防止効果を十分に発揮することができる傾向にある。また、拡散バリア層の厚さは3μm以下であることが好ましい。拡散バリア層の厚さが3μm以下である場合には本発明のLED用ヒートシンクのヒートシンクとしての特性が向上する傾向にある。したがって、拡散バリア層の厚さは0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。
また、密着強化層の厚さは0.2μm以上であることが好ましい。密着強化層の厚さが0.2μm以上である場合には鉄基板と拡散バリア層との間の密着力をさらに向上させることができる傾向にある。また、密着強化層の厚さは3μm以下であることが好ましい。密着強化層の厚さが3μm以下である場合には本発明のLED用ヒートシンクのヒートシンクとしての特性が向上する傾向にある。したがって、密着強化層の厚さは0.2μm以上3μm以下であることが好ましい。
また、図17に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1を用いたLED素子および図19に示す構成の本発明のLED用ヒートシンク1を用いたLED素子は、たとえば、上記のようにして作製した本発明のLED用ヒートシンク1と上記のLED構造体とを接合してLEDウエハを形成した後に、そのLEDウエハを切断することなどによって作製することができる。
<溶融塩浴の好ましい構成>
本発明に用いられる溶融塩浴8の好ましい構成の一例について以下に述べるが、本発明に用いられる溶融塩浴8は、以下の構成に限定されるものではない。
たとえば、タングステンからなる低熱膨張率層3を溶融塩浴8を用いて形成する場合には、リチウム原子と、ナトリウム原子と、カリウム原子と、タングステン原子と、酸素原子と、塩素原子とを含む溶融塩浴8が好適に用いられる。
ここで、ナトリウム原子は、溶融塩浴8中に、リチウム原子100原子に対して25原子以上400原子以下の割合で含まれている。また、カリウム原子は、溶融塩浴8中に、リチウム原子100原子に対して25原子以上185原子以下の割合で含まれている。また、タングステン原子は、溶融塩浴8中に、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して10原子以上40原子以下の割合で含まれている。また、酸素原子は、溶融塩浴8中に、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して40原子以上160原子以下の割合で含まれている。さらに、塩素原子は、溶融塩浴8中に、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して20原子以上80原子以下の割合で含まれている。
なお、上記の溶融塩浴8に、ナトリウム原子がリチウム原子100原子に対して25原子以上400原子以下の割合で含まれておらず、かつカリウム原子がリチウム原子100原子に対して25原子以上185原子以下の割合で含まれていない場合には、溶融塩浴8の融点が上昇して、タングステンが析出する基材(たとえば高熱伝導率層2など)への熱による悪影響が大きくなるため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さない傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、タングステン原子の含有量が、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して40原子を超える場合には、溶融塩浴8の融点が上昇して、溶融塩浴8の粘度が増大するため、タングステンが析出する基材(たとえば高熱伝導率層2など)へのタングステンイオンの供給が抑制されて、表面が平滑なタングステン析出物が得られない傾向にある。また、この場合には、未溶解塩が溶融塩浴8中を浮遊して、タングステン析出物に取り込まれるなどの不具合の原因となるため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さなくなる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、タングステン原子の含有量が、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して10原子未満である場合には、溶融塩浴8中におけるタングステンの濃度が少ないためにタングステンが析出する基材(たとえば高熱伝導率層2など)へのタングステンイオンの供給が十分に行なわれず、タングステン析出物がデンドライト状になりやすいため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さなくなる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、酸素原子の含有量がリチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して160原子を超える場合には、溶融塩浴8の粘度が高くなりすぎるため、基材(たとえば高熱伝導率層2など)の表面へのタングステンイオンの供給が遅くなる。これにより、デンドライト状のタングステン析出物が得られやすくなり、タングステン析出物中に酸素原子が取り込まれやすくなって、タングステン析出物中における酸素の含有量が増大して不純物が増加するため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さなくなる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、酸素原子の含有量がリチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して40原子未満である場合には、タングステンの配位状態が変わり、タングステン析出物からなる低熱膨張率層3の表面の平滑性が悪化するため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さなくなる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、塩素原子の含有量がリチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して80原子を超える場合には、タングステンの配位状態が変わり、タングステン析出物からなる低熱膨張率層3の表面の平滑性が悪化するため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さなくなる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、塩素原子の含有量がリチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して20原子未満である場合には、溶融塩浴8の粘度が増大して、基材(たとえば高熱伝導率層2など)へのタングステンイオンの供給が抑制され、表面の平滑なタングステン析出物からなる低熱膨張率層3が得られなくなるため、タングステン析出用の溶融塩浴に適さなくなる傾向にある。
上記の溶融塩浴8中において、ナトリウム原子は、リチウム原子100原子に対して70原子以上85原子以下の割合で含まれていることが好ましい。上記の溶融塩浴8中におけるナトリウム原子の含有量がリチウム原子100原子に対して70原子以上85原子以下の範囲内にある場合には表面の平滑性の高いタングステン析出物からなる低熱膨張率層3が得られる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、カリウム原子は、リチウム原子100原子に対して40原子以上50原子以下の割合で含まれていることが好ましい。上記の溶融塩浴8中におけるカリウム原子の含有量がリチウム原子100原子に対して40原子以上50原子以下の範囲内にある場合には溶融塩浴8の融点の上昇を抑えることができるため、表面の平滑性の高いタングステン析出物からなる低熱膨張率層3が得られる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、タングステン原子は、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して20原子以上30原子以下の割合で含まれていることが好ましい。上記の溶融塩浴8中におけるタングステン原子の含有量がリチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して20原子以上30原子以下である場合に比較的低い温度域で電解することができる傾向にある。また、電解時の温度が同一である場合でも、他の溶融塩浴と比べて溶融塩浴8の粘度が低くなるため、基材(たとえば高熱伝導率層2など)へのタングステンイオンの供給が早くなり、タングステンを析出するための電流密度の範囲が広がる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8中において、酸素原子は、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して80原子以上120原子以下の割合で含まれていることが好ましい。上記の溶融塩浴8中における酸素原子の含有量がリチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して80原子以上120原子以下の範囲内にある場合には溶融塩浴8の粘度が低く、タングステンの配位状態が電解に好適であり、タングステンを析出するための電流密度の範囲が広がる傾向にある。
上記の溶融塩浴8中において、塩素原子は、リチウム原子とナトリウム原子とカリウム原子との総原子数100原子に対して40原子以上60原子以下の割合で含まれていることが好ましい。上記の溶融塩浴8中における塩素原子の含有量がリチウム原子100原子に対して40原子以上60原子以下の範囲内にある場合には溶融塩浴8の粘度が低く、タングステンの配位状態が電解に好適であり、タングステンを析出するための電流密度の範囲が広がる傾向にある。
また、上記の溶融塩浴8は、上記の原子に加えて、さらにフッ素原子を含んでいることが好ましい。ここで、上記の溶融塩浴8中において、フッ素原子は、タングステン原子100原子に対して5原子以上165原子以下の割合で含まれていることがより好ましく、タングステン原子100原子に対して10原子以上20原子以下の割合で含まれていることがさらに好ましい。
上記の溶融塩浴8がフッ素原子を含む場合には、上記の溶融塩浴8を電解して析出したタングステン析出物からなる低熱膨張率層3の表面の平滑性が向上する傾向にある。なかでも、上記の溶融塩浴8中におけるフッ素原子の含有量がリチウム原子100原子に対して5原子以上165原子以下である場合、特にタングステン原子100原子に対して10原子以上20原子以下である場合には、上記の溶融塩浴8を電解して析出したタングステン析出物からなる低熱膨張率層3の表面の平滑性がさらに向上する傾向にある。
なお、上記のリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、タングステン原子、酸素原子、塩素原子およびフッ素原子の溶融塩浴8中における形態は特に限定されず、たとえばイオンとして存在したり、錯体を構成した状態で存在していてもよい。また、上記の溶融塩浴8を構成する酸素原子以外の原子は、本発明の溶融塩浴を水に溶解させた試料についてICP分光分析(inductively coupled plasma spectrometry)を行なうことによって検出することができる。
また、上記の溶融塩浴8中の酸素原子は、上記の溶融塩浴8について不活性ガス融解赤外吸収法を用いることによって確認することができる。ここで、不活性ガス融解赤外吸収法は、たとえば以下のようにして行なうことができる。
まず、ヘリウムガス雰囲気中においてカーボン坩堝に上記の溶融塩浴8を収容した後に、カーボン坩堝を加熱することによって上記の溶融塩浴8中から酸素を生じさせる。すると、この酸素がカーボン坩堝の炭素と反応して一酸化炭素や二酸化炭素を生成する。次に、生成した一酸化炭素や二酸化炭素を含む雰囲気中に赤外線を照射する。最後に、雰囲気中の一酸化炭素や二酸化炭素が吸収することによって生じた赤外線の減衰量を調査することによって上記の溶融塩浴8中の酸素の存在および含有量を確認することができる。
上記の溶融塩浴8は、たとえば、少なくとも、タングステン酸リチウムと、タングステン酸ナトリウムと、タングステン酸カリウムと、アルカリ金属の塩化物とを混合することにより作製することができる。
ここで、アルカリ金属の塩化物は、塩化リチウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
そして、タングステン酸リチウムと、タングステン酸ナトリウムと、タングステン酸カリウムと、アルカリ金属の塩化物とを混合して混合物を作製し、その混合物を加熱して溶融させることにより、上記の溶融塩浴8を製造することができる。
なお、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウムおよびアルカリ金属の塩化物がそれぞれ固体ではなく融液の状態にある場合には、タングステン酸リチウムの融液、タングステン酸ナトリウムの融液、タングステン酸カリウムの融液およびアルカリ金属の塩化物の融液を混合するだけで上記の溶融塩浴8を製造することができる。
また、上記の溶融塩浴8は、たとえば、タングステン酸リチウム100物質量に対してタングステン酸ナトリウムを24物質量以上400物質量以下混合し、タングステン酸カリウムを5物質量以上184物質量以下混合することにより作製することができる。また、アルカリ金属の塩化物は、たとえば、タングステン酸リチウム100物質量に対して115物質量以上1770物質量以下の割合で混合することができる。
また、上記の溶融塩浴8中にフッ素原子を含有させる場合には、上記の成分に、たとえば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムからなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ金属のフッ化物を混合することにより作製することができる。
上記の溶融塩浴8を電解することによって析出したタングステン析出物からなる低熱膨張率層3は、表面の平滑性が向上することに特徴がある。
ここで、上記の溶融塩浴8を電解することによって析出したタングステン析出物からなる低熱膨張率層3の表面が平滑になる原因を本発明者が鋭意検討した結果、上記の溶融塩浴8を電解することによって析出したタングステン析出物にはβ−タングステンの含有量が多く、α−タングステンの含有量が少ない傾向にあることがわかった。
ここで、上記の溶融塩浴8を電解することによって析出したタングステン析出物からなる低熱膨張率層3は、5体積%以上のβ−タングステンを含むことが好ましく、10体積%以上のβ−タングステンを含むことがより好ましい。上記の溶融塩浴8を電解することによって析出したタングステン析出物からなる低熱膨張率層3が5体積%以上のβ−タングステンを含む場合、特に10体積%以上のβ−タングステンを含む場合には、粗に成長しがちなα−タングステンの成長を抑制して、核発生を促進する効果が得られるため、タングステン析出物からなる低熱膨張率層3の表面の平滑性がさらに向上する傾向にある。
ここで、タングステン析出物からなる低熱膨張率層3中におけるβ−タングステンの含有量(体積%)はX線回折装置によりタングステン析出物の結晶構造に基づくX線回折パターンをθ−2θ法により求め、α−タングステンとβ−タングステンとのそれぞれのX線回折ピーク強度から以下の式(1)によって求めることができる。
β−タングステンの含有量(体積%)=100×(β−タングステンに対応するX線回折ピーク強度)/{(β−タングステンに対応するX線回折ピーク強度)+(α−タングステンに対応するX線回折ピーク強度)} …(1)
なお、上記の式(1)において、β−タングステンに対応するX線回折ピークは2θ=39.885°付近に存在するX線回折ピークである。また、α−タングステンに対応するX線回折ピークは2θ=40.265°付近に存在するX線回折ピークである。
また、本発明において、溶融塩浴8としては、上記以外にも、たとえば、フッ化カリウム(KF)と酸化ホウ素(B2O3)と酸化タングステン(WO3)とをたとえば67:26:7のモル比で混合した混合物を溶融して作製した溶融塩浴などを用いることもできる。
<実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体の作製>
まず、直径が100mmの円形状の表面を有し、厚さが500μmのシリコン基板を18枚用意した。
次に、18枚のシリコン基板のそれぞれの表面上にスパッタ法によりニッケル層を100nm程度の厚さに形成して導電層を形成した。
次に、容器としてのアルミナ製の坩堝中に下記の表1〜表4に示す構成原子比の実施例1〜18の溶融塩浴をそれぞれ作製して収容した。なお、表1〜表4における構成原子比の欄の数値は、リチウム原子の含有量を100原子としたときの各原子の含有量が原子数で表わされている。
ここで、実施例1〜18の溶融塩浴が、表1〜表4の実施例1〜18の構成原子比の欄に示される原子数比の原子から構成されるように、タングステン酸リチウム粉末、タングステン酸ナトリウム粉末、タングステン酸カリウム粉末、塩化リチウム粉末、塩化ナトリウム粉末、塩化カリウム粉末およびフッ化カリウム粉末をそれぞれ所定量ずつ混合した混合物を作製し、その混合物をアルミナ製の坩堝(株式会社ニッカトー製 SSA−Sグレード B4タイプ)に投入した。
ここで、タングステン酸リチウム粉末、タングステン酸ナトリウム粉末、タングステン酸カリウム粉末、塩化リチウム粉末、塩化ナトリウム粉末、塩化カリウム粉末およびフッ化カリウム粉末はそれぞれAr(アルゴン)雰囲気のグローブボックス内でそれぞれ秤量され、同じグローブボックス内にあるアルミナ製の坩堝に投入された。
次に、上記の混合物が投入されたアルミナ製の坩堝をマントルヒーターを用いて600℃に加熱して、上記の混合物を溶融させて、実施例1〜18の溶融塩浴をそれぞれ作製した。
次に、上記のグローブボックス内で、実施例1〜18の溶融塩浴のそれぞれに、タングステン板からなる対向電極(陽極)とともに上記の導電層の形成後のシリコン基板(陰極)を1枚ずつ対向電極と対向するように浸漬させた。
ここで、上記の陽極および陰極にはそれぞれニッケル線を溶接し、それぞれのニッケル線から陽極と陰極との間に電流を供給できる構造とした。
そして、実施例1〜18の溶融塩浴の温度をそれぞれ600℃に保持した状態で、陽極および陰極を揺動させながら陽極の表面1cm2当たり25mA(ミリアンペア)の電流(電流密度25mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を120分間流した。
このような条件で実施例1〜18の溶融塩浴の電解を行なうことにより、陰極であるシリコン基板の導電層の表面上にタングステンを析出させてタングステン析出物からなる低熱膨張率層を19μmの厚さに形成した。
次に、上記のグローブボックスの外で、上記の低熱膨張率層の形成後のシリコン基板を実施例1〜18の溶融塩浴からそれぞれ取り出し、イオン交換水によって低熱膨張率層に付着している溶融塩浴を洗って除去した後に、酸で洗うことによって低熱膨張率層の表面に形成された酸化膜を除去した。
次に、上記のグローブボックスの外で、上記の低熱膨張率層の形成後の18枚のシリコン基板を、パイレックス(登録商標)ビーカーに収容された硫酸銅めっき液(上村工業(株)製のレブコEX)中のそれぞれに1枚ずつ含リン銅からなる対向電極とともに、シリコン基板と対向電極とが対向するようにして浸漬させた。
そして、硫酸銅めっき液の温度を30℃に保持した状態で、陽極としての対向電極および陰極としてのシリコン基板の表面1cm2当たり20mA(ミリアンペア)の電流(電流密度20mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を180分間流した。
このような条件で硫酸銅めっき液の電解を行なうことにより、陰極であるシリコン基板に形成された低熱膨張率層の表面上にそれぞれ銅を析出させて銅析出物からなる高熱伝導率層を62μmの厚さに形成した。
次に、上記のグローブボックスの外で、高熱伝導率層の形成後のシリコン基板を硫酸銅めっき液から取り出し、イオン交換水によって高熱伝導率層に付着している硫酸銅めっき液を洗って除去するとともに、その後、酸で洗うことによって高熱伝導率層の表面に形成された酸化膜を除去した。
次に、再度、上記のグローブボックス内で、実施例1〜18の溶融塩浴のそれぞれに、タングステン板からなる対向電極(陽極)とともに上記の高熱伝導率層の形成後のシリコン基板(陰極)を1枚ずつ対向電極と対向するように浸漬させた。ここで、シリコン基板は、上記の低熱膨張率層の形成時に用いた溶融塩浴と同一の溶融塩浴に浸漬させた(たとえば、実施例1の溶融塩浴にシリコン基板を浸漬させて上記の低熱膨張率層を形成した場合には、実施例1の溶融塩浴に浸漬させた)。
そして、実施例1〜18の溶融塩浴の温度をそれぞれ600℃に保持した状態で、陽極および陰極を揺動させながら陽極の表面1cm2当たり25mA(ミリアンペア)の電流(電流密度25mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を120分間流した。
このような条件で実施例1〜18の溶融塩浴の電解をそれぞれ行なうことにより、陰極であるシリコン基板の高熱伝導率層の表面上にタングステンを析出させてタングステン析出物からなる低熱膨張率層を19μmの厚さに形成した。
次に、上記の低熱膨張率層の形成後のシリコン基板を実施例1〜18の溶融塩浴からそれぞれ取り出し、イオン交換水によって低熱膨張率層に付着している溶融塩浴を洗って除去した後に、酸で洗うことによって低熱膨張率層の表面に形成された酸化膜を除去した。その後、低熱膨張率層の形成後のシリコン基板を50℃の大気雰囲気下で30分間曝すことによって乾燥させた。
以上により、実施例1〜18の溶融塩浴を用いて形成された、厚さ19μmのタングステンからなる低熱膨張率層、厚さ62μmの銅からなる高熱伝導率層および厚さ19μmのタングステンからなる低熱膨張率層がこの順序で積層された積層構造体からなる実施例1〜18のLED用ヒートシンク(全体の厚さ:0.1mm)がシリコン基板の表面上に形成された実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体をそれぞれ得た。
なお、表1〜4には、実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体のタングステンからなる低熱膨張率層の表面粗さおよびβ−タングステンの含有量(体積%)がそれぞれ示されているが、これらは以下の方法により算出したものである。
まず、実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層の表面粗さは、レーザ顕微鏡(キーエンス社製の型番「VK−8500」)を用いて算術平均粗さRa(JIS B0601−1994)を求めることにより評価した。ここで、表1〜4に示す表面粗さの欄の数値(算術平均粗さRaの値)が小さいほど、より平滑な表面を有する低熱膨張率層であることを示している。
また、実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層中におけるβ−タングステンの含有量(体積%)はX線回折装置によりタングステン析出物の結晶構造に基づくX線回折パターンをθ−2θ法により求め、α−タングステンとβ−タングステンとのそれぞれのX線回折ピーク強度の比率から体積比率を算出したものである。ここで、β−タングステンの含有量(体積%)は、上記の式(1)により算出した。また、表1〜4に示すβ−タングステン(体積%)の欄の数値が大きいほど、β−タングステンの含有量が多いことを示している。
<実施例1〜18のLED素子の作製>
次に、上記のようにして得られた実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層の表面上にLED構造体を接合した。
ここで、LED構造体の接合は、実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層の表面に無電解めっきによって厚さ1μmの金めっきを行なった後に、Au系のろう材(金−錫合金)を320℃に加熱して実施例1〜18のLED用ヒートシンク前駆体のそれぞれとLED構造体とを接合して実施例1〜18のLEDウエハを作製した。なお、本実施例においては、Au系のろう材としては金−錫合金を用いたが、本発明においてAu系ろう材としては、たとえば金−シリコン合金などを用いることもできる。
なお、LED構造体としては、直径が100mmの円形状の表面を有し、厚さが100μmのサファイア基板上に、GaNバッファ層を形成した後に、n型GaN/InGaN/p型GaNをこの順序で結晶成長した積層構造を有する従来から公知のLED構造体を用いた。
その後、シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(5mol/l)に2時間浸漬させることによって、シリコン基板をエッチングして完全に除去した。
次に、レーザーリフトオフ装置を用いて、サファイア基板側からレーザ光を照射して、サファイア基板上のGaNバッファ層を溶融させることによって、サファイア基板を分離した。
次に、サファイア基板の分離後の実施例1〜18のLEDウエハをそれぞれ円形回転刃で10mm×10mmの正方形状の表面を有する大きさのLED素子に分割することによって、実施例1〜18のLED素子をそれぞれ得た。
<実施例1〜18のLED素子の評価>
銅板およびタングステン板を圧接により接合してタングステン/銅/タングステンの積層構造体からなる全体の厚さが1mmのLED用ヒートシンクとLED構造体とを接合してLED素子を形成したこと以外は上記と同様にして比較例のLED素子を作製した。
そして、上記で作製した実施例1〜18のLED素子と、上記の比較例のLED素子との発光特性を比較したところ発光特性は同等であった。
しかしながら、実施例1〜18のLED素子のLED用ヒートシンクの厚さは0.1mmであり、比較例のLED素子のLED用ヒートシンクの厚さは1mmであったため、実施例1〜18のLED素子は比較例のLED素子と比べてLED用ヒートシンクの材料コストを低減することができ、さらには円形回転刃によるLEDウエハの切断が容易であったため加工性も向上することが確認された。
<実施例19のLED用ヒートシンク前駆体の作製>
まず、直径が100mmの円形状の表面を有し、厚さが500μmのステンレス(SUS304)基板を1枚用意した。
次に、フッ化カリウム(KF)粉末と酸化ホウ素(B2O3)粉末と酸化タングステン(WO3)粉末とを67:26:7のモル比で混合した混合物を作製し、その混合物をSiC製の坩堝(アズワン(株)製)に投入した。
ここで、フッ化カリウム(KF)粉末、酸化ホウ素(B2O3)粉末および酸化タングステン(WO3)粉末はそれぞれAr(アルゴン)雰囲気のグローブボックス内で秤量され、同じグローブボックス内にあるアルミナ製の坩堝に投入された。
次に、上記の混合物が投入されたアルミナ製の坩堝をマントルヒーターを用いて850℃に加熱することによって上記の混合物を溶融し、実施例19の溶融塩浴を作製した。
次に、上記のグローブボックス内で、実施例19の溶融塩浴に、タングステン板からなる対向電極(陽極)とともに上記のステンレス基板(陰極)を1枚ずつ対向電極と対向するように浸漬させた。
ここで、上記の陽極および陰極にはそれぞれニッケル線を溶接し、ニッケル線から陽極と陰極との間に電流を供給できる構造とした。
そして、実施例19の溶融塩浴の温度を850℃に保持した状態で、陽極および陰極を揺動させながら陽極の表面1cm2当たり30mA(ミリアンペア)の電流(電流密度30mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を68分間流した。
このような条件で実施例19の溶融塩浴の電解を行なうことにより、陰極であるステンレス基板の表面上にタングステンを析出させてタングステン析出物からなる低熱膨張率層を20μmの厚さに形成した。
次に、上記のグローブボックスの外で、上記の低熱膨張率層の形成後のステンレス基板を実施例19の溶融塩浴から取り出し、イオン交換水によって低熱膨張率層に付着している溶融塩浴を洗って除去した後に、酸で洗うことによって低熱膨張率層の表面に形成された酸化膜を除去した。
次に、上記のグローブボックスの外で、上記の低熱膨張率層の形成後のステンレス基板を、パイレックス(登録商標)ビーカーに収容された硫酸銅めっき液(上村工業(株)製のレブコEX)中に1枚の含リン銅からなる対向電極とともに、ステンレス基板と対向電極とが対向するようにして浸漬させた。
そして、硫酸銅めっき液の温度を30℃に保持した状態で、陽極としての対向電極および陰極としてのステンレス基板の表面1cm2当たり20mA(ミリアンペア)の電流(電流密度20mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を180分間流した。
このような条件で硫酸銅めっき液の電解を行なうことにより、陰極であるステンレス基板に形成された低熱膨張率層の表面上に銅を析出させて銅析出物からなる高熱伝導率層を60μmの厚さに形成した。
次に、上記のグローブボックスの外で、高熱伝導率層の形成後のステンレス基板を硫酸銅めっき液から取り出し、イオン交換水によって高熱伝導率層に付着している硫酸銅めっき液を洗って除去するとともに、その後、酸で洗うことによって高熱伝導率層の表面に形成された酸化膜を除去した。
次に、再度、上記のグローブボックス内で、実施例19の溶融塩浴に、タングステン板からなる対向電極(陽極)とともに上記の高熱伝導率層の形成後のステンレス基板(陰極)を1枚ずつ対向電極と対向するように浸漬させた。
そして、実施例19の溶融塩浴の温度を850℃に保持した状態で、陽極および陰極を揺動させながら陽極の表面1cm2当たり30mA(ミリアンペア)の電流(電流密度30mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を68分間流した。
このような条件で実施例19の溶融塩浴の電解を行なうことにより、陰極であるステンレス基板の高熱伝導率層の表面上にタングステンを析出させてタングステン析出物からなる低熱膨張率層を20μmの厚さに形成した。
次に、上記の低熱膨張率層の形成後のステンレス基板を実施例19の溶融塩浴から取り出し、イオン交換水によって低熱膨張率層に付着している溶融塩浴を洗って除去した後に、酸で洗うことによって低熱膨張率層の表面に形成された酸化膜を除去した。その後、低熱膨張率層の形成後のステンレス基板を50℃の大気雰囲気下で30分間曝すことによって乾燥させた。
以上により、実施例19の溶融塩浴を用いて形成された、厚さ20μmのタングステンからなる低熱膨張率層、厚さ60μmの銅からなる高熱伝導率層および厚さ20μmのタングステンからなる低熱膨張率層がこの順序で積層された積層構造体からなる実施例19のLED用ヒートシンク(全体の厚さ:0.1mm)がステンレス基板の表面上に形成された実施例19のLED用ヒートシンク前駆体を得た。
次に、上記のようにして得られた実施例19のLED用ヒートシンク前駆体のタングステンからなる低熱膨張率層の表面粗さ(算術平均粗さRa)およびβ−タングステンの含有量(体積%)をそれぞれ実施例1〜18と同様にして求めた。その結果、実施例19のLED用ヒートシンク前駆体のタングステンからなる低熱膨張率層の表面粗さ(算術平均粗さRa)は5.1μmであって、β−タングステンの含有量(体積%)は0%であった。
<実施例19のLED素子の作製>
次に、上記のようにして得られた実施例19のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層の表面上にLED構造体を接合した。
ここで、LED構造体の接合は、実施例19のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層の表面に無電解めっきによって厚さ1μmの金めっきを行なった後に、Au系のろう材(金−錫合金)を320℃に加熱して実施例19のLED用ヒートシンク前駆体とLED構造体とを接合して実施例19のLEDウエハを作製した。
また、ここでも、LED構造体としては、直径が100mmの円形状の表面を有し、厚さが100μmのサファイア基板上に、GaNバッファ層を形成した後に、n型GaN/InGaN/p型GaNをこの順序で結晶成長した積層構造を有する従来から公知のLED構造体を用いた。
その後、実施例19のLED用ヒートシンク前駆体のステンレス基板の表面に形成された不動態皮膜とタングステンからなる低熱膨張率層との界面で機械的に剥離することにより除去することによって、実施例19のLEDウエハからステンレス基板を分離した。
次に、レーザーリフトオフ装置を用いて、サファイア基板側からレーザ光を照射して、サファイア基板上のGaNバッファ層を溶融させることによって、実施例19のLEDウエハからサファイア基板を分離した。
次に、サファイア基板の分離後の実施例19のLEDウエハを円形回転刃で10mm×10mmの正方形状の表面を有する大きさのLED素子に分割することによって、実施例19のLED素子を得た。
<実施例19のLED素子の評価>
上記で作製した実施例19のLED素子と、上記の比較例のLED素子との発光特性を比較したところ発光特性は同等であった。
しかしながら、実施例19のLED素子のLED用ヒートシンクの厚さは0.1mmであり、比較例のLED素子のLED用ヒートシンクの厚さは1mmであったため、実施例19のLED素子は比較例のLED素子と比べてLED用ヒートシンクの材料コストを低減することができ、さらには円形回転刃によるLEDウエハの切断が容易であったため加工性も向上することが確認された。
また、上記の実施例1〜19においては、高熱伝導率層が銅から構成されており、低熱膨張率層がタングステンから構成されている場合について説明したが、高熱伝導率層に銅以外のアルミニウムなどの金属を用いた場合および低熱膨張率層にタングステン以外のモリブデンなどの金属を用いた場合にも上記の実施例と同様の結果が得られることも確認された。
<実施例20のLED用ヒートシンク前駆体の作製>
まず、直径が50mmの円形状の表面を有し、厚さが300μmの鉄基板を1枚用意した。
次に、鉄基板を市販のアルカリ脱脂液(奥野製薬工業(株)製のエースクリーンA220)に浸漬させることによって鉄基板の表面を洗浄し、その後、鉄基板を希硫酸(硫酸濃度:10質量%)に浸漬させて鉄基板の表面の酸化膜を除去した。
次に、上記の酸化膜の除去後の鉄基板をニッケルめっき浴(日鉱メタルプレーティング(株)製のV−ニッケルめっき液)に浸漬させて、電気めっき法により、鉄基板の表面に1μmの厚さのニッケル膜からなる密着強化層を形成した。ここで、電気めっき法による密着強化層の形成は、陰極である鉄基板と、ニッケルめっき浴中に浸漬させた陽極である対向電極との間に5A/dm2の電流密度で1分間電流を流すことにより行なった。
次に、上記の密着強化層の形成後の鉄基板をロジウムめっき浴(田中貴金属工業(株)製のローデックス)に浸漬させて、電気めっき法により、鉄基板の表面に0.2μmの厚さのロジウム膜からなる拡散バリア層を形成した。ここで、電気めっき法による拡散バリア層の形成は、陰極である鉄基板と、ロジウムめっき浴中に浸漬させた陽極である対向電極との間に1.3A/dm2の電流密度で1分間電流を流すことにより行なった。
次に、上記の拡散バリア層の形成後の鉄基板をパイレックス(登録商標)ビーカーに収容された硫酸銅めっき液(上村工業(株)製のレブコEX)中のそれぞれに1枚ずつ含リン銅からなる対向電極とともに、鉄基板と対向電極とが対向するようにして浸漬させた。
そして、硫酸銅めっき液の温度を30℃に保持した状態で、陽極としての対向電極および陰極としての鉄基板の表面1cm2当たり20mA(ミリアンペア)の電流(電流密度20mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を50分間流した。
このような条件で硫酸銅めっき液の電解を行なうことにより、陰極である鉄基板に形成された拡散バリア層の表面上に銅を析出させて銅析出物からなる高熱伝導率層を19.8μmの厚さに形成した。
次に、高熱伝導率層の形成後の鉄基板を硫酸銅めっき液から取り出し、イオン交換水によって高熱伝導率層に付着している硫酸銅めっき液を洗って除去するとともに、その後、酸で洗うことによって高熱伝導率層の表面に形成された酸化膜を除去した。
次に、再度、上記のグローブボックス内で、実施例19の溶融塩浴に、タングステン板からなる対向電極(陽極)とともに上記の高熱伝導率層の形成後の鉄基板(陰極)を対向電極と対向するように浸漬させた。
そして、実施例19の溶融塩浴の温度を850℃に保持した状態で、陽極および陰極を揺動させながら陽極の表面1cm2当たり30mA(ミリアンペア)の電流(電流密度30mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を210分間流した。
このような条件で実施例19の溶融塩浴の電解を行なうことにより、陰極である鉄基板の高熱伝導率層の表面上にタングステンを析出させてタングステン析出物からなる低熱膨張率層を59.2μmの厚さに形成した。
次に、上記のグローブボックスの外で、上記の低熱膨張率層の形成後の鉄基板を実施例19の溶融塩浴から取り出し、イオン交換水によって低熱膨張率層に付着している溶融塩浴を洗って除去した後に、酸で洗うことによって低熱膨張率層の表面に形成された酸化膜を除去した。
次に、上記のグローブボックスの外で、上記の低熱膨張率層の形成後の鉄基板を、パイレックス(登録商標)ビーカーに収容された硫酸銅めっき液(上村工業(株)製のレブコEX)中に1枚の含リン銅からなる対向電極とともに、鉄基板と対向電極とが対向するようにして浸漬させた。
そして、硫酸銅めっき液の温度を30℃に保持した状態で、陽極としての対向電極および陰極としての鉄基板の表面1cm2当たり20mA(ミリアンペア)の電流(電流密度20mA/cm2)が流れるように上記の陽極と陰極との間に電流を50分間流した。
このような条件で硫酸銅めっき液の電解を行なうことにより、陰極である鉄基板に形成された低熱膨張率層の表面上に銅を析出させて銅析出物からなる高熱伝導率層を19.8μmの厚さに形成した。
次に、上記のグローブボックスの外で、高熱伝導率層の形成後の鉄基板を硫酸銅めっき液から取り出し、イオン交換水によって高熱伝導率層に付着している硫酸銅めっき液を洗って除去するとともに、その後、酸で洗うことによって高熱伝導率層の表面に形成された酸化膜を除去した。これにより、1μmの厚さのニッケル膜からなる密着強化層、0.2μmの厚さのロジウム膜からなる拡散バリア層、厚さ19.8μmの銅からなる高熱伝導率層、厚さ59.2μmのタングステンからなる低熱膨張率層および厚さ19.8μmの銅からなる高熱伝導率層が鉄基板上にこの順に積層された実施例20のLED用ヒートシンク前駆体を得た。
<実施例20のLED用ヒートシンクの作製>
上記のようにして得られた実施例20のLED用ヒートシンク前駆体を50℃の希硫酸(硫酸濃度:10質量%)に浸漬させて鉄基板を除去することによって、上記の密着強化層、拡散バリア層、高熱伝導率層、低熱膨張率層および高熱伝導率層がこの順に積層された構成の実施例20のLED用ヒートシンク(全体の厚さ:0.1mm)を得た。
<実施例20のLED素子の作製>
次に、上記のようにして得られた実施例20のLED用ヒートシンク前駆体の低熱膨張率層の表面上にLED構造体を接合した。
ここで、LED構造体の接合は、実施例20のLED用ヒートシンクの高熱伝導率層の表面に無電解めっきによって厚さ1μmの金めっきを行なった後に、Au系のろう材(金−錫合金)を320℃に加熱して実施例20のLED用ヒートシンクとLED構造体とを接合して実施例20のLEDウエハを作製した。
また、ここでも、LED構造体としては、直径が50mmの円形状の表面を有し、厚さが100μmのサファイア基板上に、GaNバッファ層を形成した後に、n型GaN/InGaN/p型GaNをこの順序で結晶成長した積層構造を有する従来から公知のLED構造体を用いた。
次に、レーザーリフトオフ装置を用いて、サファイア基板側からレーザ光を照射して、サファイア基板上のGaNバッファ層を溶融させることによって、実施例20のLEDウエハからサファイア基板を分離した。
次に、サファイア基板の分離後の実施例20のLEDウエハを円形回転刃で10mm×10mmの正方形状の表面を有する大きさのLED素子に分割することによって、実施例20のLED素子を得た。
<実施例20のLED素子の評価>
上記で作製した実施例20のLED素子と、上記の比較例のLED素子との発光特性を比較したところ発光特性は同等であった。
しかしながら、実施例20のLED素子のLED用ヒートシンクの厚さは0.1mmであり、比較例のLED素子のLED用ヒートシンクの厚さは1mmであったため、実施例20のLED素子は比較例のLED素子と比べてLED用ヒートシンクの材料コストを低減することができ、さらには円形回転刃によるLEDウエハの切断が容易であったため加工性も向上することが確認された。
また、上記の実施例20においては、高熱伝導率層が銅から構成されており、低熱膨張率層がタングステンから構成されている場合について説明したが、高熱伝導率層に銅以外のアルミニウムなどの金属を用いた場合および低熱膨張率層にタングステン以外のモリブデンなどの金属を用いた場合にも上記の実施例と同様の結果が得られることも確認された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 LED用ヒートシンク、2 高熱伝導率層、3 低熱膨張率層、4 相互拡散層、5 基板、6 対向基板、7 容器、8 溶融塩浴、9 電解めっき液、10 LED用ヒートシンク前駆体、11 p型半導体層、12 活性層、13 n型半導体層、14 LED構造体、15 LEDウエハ、15a LED素子、21,21a,21b 拡散バリア層、22,22a,22b 密着強化層、25 鉄基板。