JP2010063439A - 細胞培養支持体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】細胞培養支持体の製造において、刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、モノマーが重合してなるプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物中のモノマーの配合量を基材の種類に応じて選択することにより、細胞接着性、細胞シートの剥離性又は単一細胞の剥離性を最適化することができる。
【選択図】なし
Description
(2)前記基材が、表面が接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面にウレタンアクリレートを被覆したポリエチレンテレフタレート、又は表面にウレタンアクリレートを被覆したポリカーボネートであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が3〜20重量%である、(1)の方法。
(3)前記基材が、表面がプラズマ処理されたポリカーボネート、又は表面化プラズマ処理されたポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が2〜8重量%である、(1)の方法。
(4)前記基材が、表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネート、又は表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであるであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が1〜4重量%である、(1)の方法。
(5)前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された比である、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかの方法により製造された細胞培養支持体。
(7)温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造工程であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含む前記製造工程において、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを調節する方法であって、
前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量を、前記基材の種類に応じて調節することを含む方法。
(8)前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比を、前記基材の種類に応じて調節することを含む(7)の方法。
本発明は、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化(すなわちグラフト化)された細胞培養支持体の製造方法に関する。
刺激応答性高分子としては特に温度応答性ポリマーが好ましいがこれには限定されない。
塗布用組成物が塗布される基材は、その表面が、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含むものである限り特に限定されない。表面のみが、前記応答性ポリマーと放射線照射により共有結合し得る材料を含むものであってもよいし、基材の全部がそのような材料を含むものであってもよい。このような基材の材料は、通常細胞培養に用いられるガラス類、プラスチック類、セラミックス、金属等が挙げられるが、細胞培養が可能な材料であれば特に限定されない。基材の表面または中間層に本発明の目的を妨げない限り任意の層を設けてもよいし、任意の処理を施してもよい。例えば、支持体表面にオゾン処理、プラズマ処理、スパッタリング等の処理技術を用いて親水化を施すことができる。
本発明の方法には、放射線照射により重合して前記ポリマーを形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を用いる。この塗布用組成物はオリゴマー又はプレポリマーを含むことから、有機溶媒が少量の場合にも結晶化しにくい。このため、この塗布用組成物を基材表面に塗布し、放射線照射により重合を進行させると、基材表面の全面に亘り均一なポリマー層を形成することができる。
放射線重合成のモノマーについては上記の通りである。塗布用組成物にはモノマーが単独又は複数種含まれる。
塗布用組成物の粘度は5×10−3Pa・s〜10Pa・sであることが好ましい。
親水性の高い基材、濡れ性の高い基材、および空隙率の高い(比重の低い)基材は、刺激応答性分子が細胞表面にグラフト化により導入されたとき、細胞接着性が低く、細胞シート及び単一細胞の剥離性が劣る傾向がある。一方、疎水性の高い基材、濡れ性の低い基材、および空隙率の低い(比重の高い)基材は、刺激応答性分子が細胞表面にグラフト化により導入されたとき、細胞接着性が高く、細胞シート及び単一細胞の剥離性が優れる傾向がある。本発明の特徴は、基材の親/疎水性、濡れ性、空隙率等の性質に応じて、塗布用組成物中のモノマーの配合量を調整することにより、得られる細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを所定の程度にすることにある。塗布用組成物中のモノマーの配合量とオリゴマー又はプレポリマーの配合量との比を、得られる細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを所定の程度にするように設定することが更に好ましい。
本発明の方法は、前記塗布用組成物を、前記基材の表面に塗布してその表面上に塗膜を形成する塗布工程を含む。
本工程で形成される塗膜の塗布量はグラフトポリマーが機能(例えば温度応答性)を発揮する必要な塗布量である50mg/m2以上あればよい。塗布量の上限は特にないが、40g/m2未満が好ましく、10g/m2以下がより好ましい。塗布量が40g/m2以上である場合には、厚みが増して塗膜厚が安定しないこと、厚みが増して放射線の貫通・照射量が安定しないこと、並びに照射エネルギーに由来する膜内の対流によりグラフトポリマーの被覆量にムラが生じることが本実施例中で確認されている。また、グラフトされない遊離のポリマーを洗浄するための洗浄時間を短くするためには塗膜量は10g/m2以下が望ましい。
大面積への塗布方法としてはブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーディング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が使用できる。
本発明の方法は、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応(すなわちグラフト化)を進行させる放射線照射工程を含む。ここでいう形成反応(グラフト化)は、遊離のモノマーが基材表面に結合した後に当該モノマーを基点としてポリマー鎖が伸張する現象だけでなく、放射線照射による重合によってモノマーからin situで形成された遊離のポリマーが基材表面に結合する現象などを包含する。
放射線の線量の範囲は、電子線であれば5Mrad〜50Mradが好ましく、γ線であれば0.5Mrad〜5Mradが好ましい。
本発明の方法は、前記塗膜を乾燥させて塗布用組成物に由来する有機溶媒を除去する乾燥工程を含む。
前記塗布工程で形成される塗膜は残留溶剤量の影響により結晶が形成されることがないため、乾燥前の塗膜に放射線を照射した後、乾燥を行ってもよいし、塗膜を乾燥した後に放射線を照射してもよい。ただし、乾燥前のウェットな状態の塗膜に放射線照射を行うと、環境変化や異物、塗膜厚変動等の影響を受ける可能性があることから、塗膜を乾燥した後に放射線を照射することが好ましい。
乾燥方法としては特に限定されないが、典型的にはドライエア乾燥法、熱風(温風)乾燥法、(遠)赤外乾燥法などが挙げられる。
上述の各工程を経て形成された細胞培養支持体のポリマー層には、基材表面上に共有結合により固定化されたポリマー分子だけでなく、固定化されていない遊離のポリマー分子や、モノマー又はオリゴマー分子等が存在している。そこでこれらの遊離ポリマー或いはモノマー又はオリゴマー分子を除去するために洗浄を行う洗浄工程を更に含むことが好ましい。
洗浄方法としては特に限定されないが、典型的には浸漬洗浄、遥動洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。また洗浄液としては典型的には各種水系、アルコール系、炭化水素系、塩素系、酸・アルカリ洗浄液が挙げられる。洗浄方法と洗浄液の組み合わせは洗浄される細胞培養支持体に応じて適宜選択すればよい。
本発明はまた、本発明の方法により製造された細胞培養支持体に関する。本発明の細胞培養支持体は、細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所望の範囲に最適化されている。また発明の方法により製造された細胞培養支持体は、原料モノマー/溶媒混合物を塗布用組成物として用いる従来法により製造された細胞培養支持体と比較してより均一なグラフトポリマー層を有することを特徴とする。
本発明の細胞培養支持体を用いて、種々の細胞、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々組織に存在する幹細胞、さらには骨髄細胞、ES細胞等から細胞シートを作製することができる。こうして作製された細胞シートは表面の接着因子が損なわれていないことに加えて、細胞培養面に接した部分が均一な品質を有することから、再生医療などへの利用に適したものである。また、細胞シートを利用することでバイオセンサー等の検出デバイスへの応用へも展開できる。
(試験1)
実施例1〜3として、イソプロピルアクリルアミドモノマー(興人社製)とポリイソプロピルアクリルアミド(アルドリッチ社製、565311)を、図1a, bに示す重量%となるようにイソプロピルアルコールに溶解して塗工液(塗布用組成物)とした。図1a, bにおいて重量%とは塗工液全量に対する重量%である。以下実施例では塗工液S、A、B、C、D、E、FおよびGと呼ぶ。
基材1: 易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)、水接触角:78
基材2:ポリカーボネート(PC)シート(200μm厚、帝人社製)、水接触角:72(プラズマ処理後)
基材3:サイクロポアメンブレンシート(20μm厚、ワットマン社製。材質ポリカーボネート、孔径0.4μm、孔密度1.0 x 10E8/cm2)、接触角:65(プラズマ処理後)
各条件で作製した塗工フィルムを洗浄・乾燥し、ディッシュサイズに切り抜いたものを粘着剤でディッシュに固定してEOG滅菌して細胞培養支持体を得た。
実施例1〜3は基材1の易接着PET上に塗工液S(モノマー40%、ポリマー2%)、B、Eの3種類を用いて、細胞培養支持体を作製した。比較例1として市販のポリスチレン細胞培養ディッュ(Tissue Cell Poly Styrene (TCPS) ベクトンデッキントン社製)を用いた。
評価1: 細胞接着力の評価
35mm細胞培養ディツシユにトリプシン処理によって継代・剥離した6×104個のHH細胞懸濁液を実施例1〜3、比較例1の支持体(ディッシュ)に播種し、播種6時間後に培地交換とともに上清培養液を別の細胞培養ディッシュで18時間培養し、非接着細胞を観察した。
評価2: シングルセルの剥離性の評価
35mm細胞培養ディツシユにトリプシン処理によって継代・剥離した104個のHH細胞懸濁液を実施例1〜3、比較例1の支持体(ディッシュ)に播種し、24時間後に低温インキュベータ(20℃、5%CO2)へ移動した、移動前(0分)、移動後10分、30分、60分、120分の接着細胞の剥離を観察した。
評価3: 細胞シートの剥離性の評価
35mm細胞培養ディツシユにトリプシン処理によって継代・剥離した6×104個のHH細胞懸濁液を実施例1〜3、比較例1の支持体(ディッシュ)に播種し、培養6日後のコンフレントな増殖・単層HH細胞を低温インキュベータ(20℃、5%CO2)へ移動し、20分後にディッシュ底、約3〜5mm内側に単層細胞へ切り込みを入れ、円形の細胞シートが剥離しきるのを観察・時間計測した。測定は2回行い、それぞれについて剥離に要する時間を計測した。
評価1および3の方法でHH細胞を播種したところ、支持体表面への6時間後接着残りの細胞数は塗工液のモノマー比率の高いものほど多く、塗工液AとBを用いた支持体では6日間で十分な接着・増殖が得られず、コンフレントな状態にならなかった。C〜Eは十分な増殖でコンフレント状態を得た。評価3の低温化処理ではC〜E全てで短時間で細胞シートを形成した。ただし、Cで細胞間接着が弱く、シート剥離時に破損するものが観察された。
評価2のシングルセル剥離では全ての支持体で60分以内に視野内の細胞が剥離し、培養液中に浮遊した。
評価1および3の方法でHH細胞を播種したところ、支持体表面への6時間後接着残りの細胞数は塗工液のモノマー比率の高いものほど多く、塗工液CとDを用いた支持体では6日間で十分な接着・増殖が得られず、コンフレントな状態にならなかった。E〜Gは十分な増殖でコンフレント状態を得た。評価3の低温化処理ではC〜E全てで短時間で細胞シートを形成した。ただし、Cで細胞間接着が弱く、シート剥離時に破損するものが観察された。
評価2のシングルセル剥離では全ての支持体で60分以内に視野内の細胞が剥離し、培養液中に浮遊した。
Claims (8)
- 温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造方法であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含み、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された配合量である、前記方法。
- 前記基材が、表面が接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面にウレタンアクリレートを被覆したポリエチレンテレフタレート、又は表面にウレタンアクリレートを被覆したポリカーボネートであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が3〜20重量%である、請求項1の方法。
- 前記基材が、表面がプラズマ処理されたポリカーボネート、又は表面化プラズマ処理されたポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が2〜8重量%である、請求項1の方法。
- 前記基材が、表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネート、又は表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであるであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が1〜4重量%である、請求項1の方法。
- 前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された比である、請求項1〜4のいずれかの方法。
- 請求項1〜5のいずれかの方法により製造された細胞培養支持体。
- 温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造工程であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含む前記製造工程において、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを調節する方法であって、
前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量を、前記基材の種類に応じて調節することを含む方法。 - 前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比を、前記基材の種類に応じて調節することを含む請求項7の方法。
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