本発明の実施形態に係る駆動部支持構造としてのエンジン支持構造10について、図1〜図11に基づいて説明する。先ず、エンジン支持構造10が適用された自動車Aの概略全体構成を説明し、次いで、エンジン支持構造10について詳細に説明することとする。なお、図中矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向をそれぞれ示すものとする。
(自動車の概略構成)
図4には、エンジン支持構造10が適用された自動車Aの模式的な内部構造が側面図にて示されている。この図に示される如く、自動車Aは、車両前後方向に長手とされた車体骨格を成すサイドメンバ12を備えている。図示は省略するが、自動車Aでは、左右一対のサイドメンバ12が車幅方向に並列されている。各サイドメンバ12は、それぞれ車両前後方向に延在する前部12Aと中間部12Bと後部12Cとを有し、前部12Aと中間部12Bとの間及び中間部12Bと後部12Cとの間がそれぞれ車両前後方向に対し傾斜されたキック部12D、12Eにて連結されて構成されている。この実施形態では、中間部12Bが前部12A、後部12Cに対し低位に位置する構成とされている。
サイドメンバ12の前部12Aには、車幅方向に延在するフロントクロスメンバ14が支持されている。具体的には、フロントクロスメンバ14は、左右のサイドメンバ12の前端からそれぞれ垂下された左右のブラケット15の下端間を架け渡している。図4では、後述するエンジンマウント24を示すために、ブラケット15は一部切り欠いて図示されている。
また、サイドメンバ12の前部12Aから中間部12Bにかけての部分には、フロントサスペンションメンバ(サブフレームともいう)16が支持されている。フロントサスペンションメンバ16は、それぞれ車両前後方に延在する左右一対のサイドレール16Aと、車幅方向に延在して左右のサイドレール16A間を架け渡す少なくとも1つのクロスメンバ16Bとを含んで構成されている。したがって、フロントサスペンションメンバ16は、例えば平面視で略コ字状、略H字状、略矩形枠状、又は井桁状等を成している。このフロントサスペンションメンバ16は、左右のサイドレール16Aの前部がブラケット18を介して対応するサイドメンバ12の前部12Aに支持されると共に、左右のサイドレール16Aの後部がブラケット20を介して対応するサイドメンバ12のキック部12Dに支持されている。
以上により、この実施形態に係るエンジン支持構造10では、フロントクロスメンバ14及びフロントサスペンションメンバ16は、それぞれ車体骨格であるサイドメンバ12に対し、左右のブラケット15、18、20を介して剛的に接続されている。そして、エンジン支持構造10では、本発明における駆動系装置、内燃機関としてのエンジン22が、フロントクロスメンバ14、フロントサスペンションメンバ16を介してサイドメンバ12すなわち車体に支持されている。
具体的には、エンジン22は、その車両前後方向の前端部22Aがエンジンマウント24を介してフロントクロスメンバ14に支持されると共に、その後端部22Bがエンジンマウント26を介してフロントサスペンションメンバ16のクロスメンバ16Bに支持されている。エンジンマウント24、26は、それぞれゴム等の弾性材を含んで構成されている。したがって、エンジン22は、エンジンマウント24、26によって、フロントクロスメンバ14、フロントサスペンションメンバ16のクロスメンバ16B(を介してサイドメンバ12)に弾性的に支持されている。なお、図示は省略するが、エンジン22は、車幅方向両端側において、左右のエンジンマウントを介してサイドメンバ12に弾性的に支持されている。
エンジン22は、この実施形態では4ストロークの6気筒エンジンとされている。図4の例では、エンジン22にはトランスミッションが組み付けられており、該トランスミッション部分がエンジンマウント26を介してフロントサスペンションメンバ16のクロスメンバ16Bに支持されているものと捉えることもできる。そして、このエンジン22(トランスミッション)にはプロペラシャフト28の前端部が連結されており、プロペラシャフト28の後端部は、本発明における伝達装置としてのリヤディファレンシャルギヤボックス30に接続されている。
この実施形態では、自動車Aの駆動系(パワートレーン)を構成する差動装置としてのリヤディファレンシャルギヤボックス30は、リヤサスペンションメンバ32を介してサイドメンバ12に支持されている。具体的には、リヤサスペンションメンバ32は、それぞれ車両前後方向に延在する左右一対のサイドレール32Aを車幅方向に延在する前後一対のクロスメンバ32B、32Cが連結して、平面視で略井桁状を成している。リヤサスペンションメンバ32は、左右のサイドレール32Aの前後端がそれぞれブラケット34、36を介してサイドメンバ12の後部12Cに剛的に結合されている。
そして、リヤディファレンシャルギヤボックス30は、その前端部30Aがデフマウント38を介して前側のクロスメンバ32Bに支持されると共に、その後端部30Bがデフマウント40を介して後側のクロスメンバ32Cに支持されている。デフマウント38、40は、それぞれゴム等の弾性材を含んで構成されている。したがって、リヤディファレンシャルギヤボックス30は、デフマウント38、40によって、リヤディファレンシャルギヤボックス30(を介してサイドメンバ12)に弾性的に支持されている。
以上説明した自動車Aでは、サイドメンバ12、フロントクロスメンバ14、フロントサスペンションメンバ16、リヤサスペンションメンバ32、各ブラケット15、18、20、34、36のうち、フロントクロスメンバ14を含む一部又は全部の部材が高張力鋼板にて構成されている。この実施形態における高張力鋼板とは、例えば引張強さが350MPa以上の自動車用鋼板とされている。この高張力鋼板にて構成された部材(少なくともフロントクロスメンバ14)は、通常の鋼板にて同等の強度に構成される場合と比較して、薄肉化されており、車重の軽量化に寄与している。
また、この自動車Aでは、中間部12Bの上方に乗員が着座するためのシートSが配置されている。エンジン支持構造10は、このシートSに着座した乗員の少なくとも耳位置でのこもり音を低減する構成とされている。以下、具体的に説明する。
(エンジン支持構造の構成)
以上説明した自動車Aに適用されたエンジン支持構造10は、高張力鋼板より成るフロントクロスメンバ14の振動に起因するこもり音を低減するようになっている。このフロントクロスメンバ14の振動系について補足すると、図5に示される如く、この実施形態に係るエンジン22は、クランクシャフトCSの軸線方向が車幅方向に略一致する横置きエンジンとされている。このエンジン22では、各気筒が2回転につき1回爆発してトルクを発生させるため、クランクシャフトCSの出力軸トルクは、脈動することとなる(この脈動については、後に詳述する)。このトルクを発生する際、エンジン22は、出力軸トルクの反力を支持するために、出力軸トルクとは逆向きに回転変位(図5の矢印R参照)してエンジンマウント24、エンジンマウント26を押し縮める力が作用する。このように脈動を伴う力がフロントクロスメンバ14を振動させ、車室内にこもり音を生じさせる原因となる。
このフロントクロスメンバ14の振動系をより模式的に示すと、図6に示す如くなる。すなわち、フロントクロスメンバ14は、車室(キャビン)を構成するサイドメンバ12にブラケット15(の剛性)を介して結合されると共に、エンジン22に対しエンジンマウント24の剛性(弾性部45のばね定数)を介して結合されている。上記の如くフロントクロスメンバ14がブラケット15を介してサイドメンバ12に剛的に結合された(弾性部45の剛性に対しブラケット15の剛性が十分に高い)エンジン支持構造10では、実質的にはフロントクロスメンバ14を質量要素、エンジンマウント24(弾性部45)をばね要素、エンジン22を強制振動の入力源とする振動系として把握することができる。
エンジン支持構造10では、フロントクロスメンバ14とエンジン22との間に介在するエンジンマウント24が、ばね特性のうち少なくともばね定数を変化させ得る制御マウントとされている。制御マウントの構造の一例を図7に示す。この図に示される如く、制御マウントであるエンジンマウント24は、エンジン22に固定されるエンジン固定部42と、フロントクロスメンバ14に固定されるボディ固定部44との間に、ゴム等の弾性体より成る弾性部45が設けられている。この実施形態では、弾性部45内には、液体を封入するための液室45Aが形成されており、液室45A内に設けられたオリフィス46を液体が通過することで所要の減衰特性が得られる構成とされている。そして、エンジンマウント24では、液室45Aの下方にソレノイドコイル48を有するアクチュエータ部50が設けられている。エンジンマウント24のアクチュエータ部50では、ソレノイドコイル48に印加する電圧に応じて弾性部45の液室45Aが圧縮され、ばね定数が大きくなる構成とされている。
したがって、この実施形態では、フロントクロスメンバ14が本発明における支持部材に、エンジンマウント24の弾性部45が本発明における弾性体に、該エンジンマウント24のアクチュエータ部50が本発明におけるばね特性可変装置にそれぞれ相当する。
以上により、エンジン支持構造10では、制御マウントであるエンジンマウント24のばね定数を変化させることで、図6に模式的に示されるフロントクロスメンバ14の共振周波数を変化させ得る構成とされている。そして、エンジン支持構造10は、図4に示される如く、制御装置としてのこもり音低減ECU52を備えており、該こもり音低減ECU52がエンジンマウント24のアクチュエータ部50(アクチュエータ部50への印加電圧)を制御するようになっている。なお、エンジン支持構造10におけるこもり音低減ECU52を除いた機械的な構成が、本実施形態に係る駆動支持系の制御方法が適用される本発明の「駆動支持系」に相当する。
こもり音低減ECU52は、エンジンマウント24(アクチュエータ部50)、エンジン22の作動を制御するエンジンECU54、自動車Aの走行速度に応じた信号を出力する車速センサ56のそれぞれに電気的に接続されている。こもり音低減ECU52は、エンジンECU54から入力されるエンジン22のスロットル開度(又はアクセル開度、以下同じ)に応じた信号、車速センサ56から入力される車速信号に基づいて、エンジンマウント24のアクチュエータ部50への印加電圧すなわちエンジンマウント24のばね定数を制御するようになっている。
具体的には、こもり音低減ECU52は、振動してこもり音を生じ得るフロントクロスメンバ14の共振周波数が、エンジン22のトルク変動の谷と(トルク変動が極小に)なる特定の周波数(以下、「極小周波数」ということとする)に一致するか又は近づくように、エンジンマウント24のばね定数を制御するようになっている。
より具体的には、エンジン22のトルク変動すなわちエンジン22の作動に伴うエンジン強制力(強制振動の起振力)は図1(A)に示される如く特定の回転数bで極小をとるとの知見に基づいて、その特定の回転数[rpm]を換算した極小周波数fTmin(Hz)に対し、図1(B)に示される如くフロントクロスメンバ14の共振周波数frが一致するか又は近づくように、こもり音低減ECU52がエンジンマウント24のばね定数を制御する構成である。なお、図1(A)〜図1(C)は、横軸を回転数[rpm]で統一して示している。
そして、こもり音は、図1(A)に示すエンジン強制力Fと、図1(B)に示すフロントクロスメンバ14から車室(ボディ)への伝達関数Hとの積として捉えられることから、エンジン支持構造10では、こもり音低減ECU52によるエンジンマウント24の制御によってフロントクロスメンバ14の共振周波数frを極小周波数fTminに一致させるか又は近づけることで、図1(C)に示される如くこもり音が低減されるようになっている。すなわちエンジン支持構造10では、フロントクロスメンバ14から車室への伝達関数H(フロントクロスメンバ14の振動のこもり音になり易さ)は、該フロントクロスメンバ14の共振周波数frでピークとなることから、上記の通り、この共振周波数frと極小周波数fTminとを一致させるか又は近接させることで、図1(C)に示される如くこもり音が抑制される構成とされている。
この実施形態では、エンジンマウント24が制御を受けない場合のフロントクロスメンバ14の共振周波数frは、他の要求によって決められたエンジンマウント24(弾性部45)のばね定数(支持剛性)、高張力鋼板の薄板にて構成されたフロントクロスメンバ14自体の剛性)によって決まっており、極小周波数fTmin(Hz)に対し低い値とされている。エンジン支持構造10は、こもり音低減ECU52がエンジンマウント24のソレノイドコイル48に電圧を印加する(制御を行う)ことで、フロントクロスメンバ14の共振周波数frと極小周波数fTminとを一致させるか又は近づける(高くする)ように、エンジンマウント24のばね定数を制御する(大きくする)構成とされている。
ここで、図1(A)に示すエンジン22のエンジン強制力(トルク変動)の谷について補足すると、内燃機関であるエンジン22では、低回転領域では、爆発(の不連続性)によるエンジン強制力が支配的であり、回転数が上昇するに従ってピストンPの慣性力によるエンジン強制力が大きくなる。ピストンPの慣性力によるエンジン強制力は、爆発によるエンジン強制力とは力の向きが逆であることから、これらピストンPの慣性力によるエンジン強制力と爆発によるエンジン強制力との大きさが等しくなる回転数bでエンジン強制力の谷が生じる。なお、極小周波数fTminに対応する回転数bよりも高い回転数では、ピストンPの慣性力によるエンジン強制力が支配的となり、エンジン強制力は徐々に大きくなる。
また、こもり音低減ECU52は、エンジン22のスロットル開度(アクセル開度)に応じて、エンジンマウント24のアクチュエータ部50を制御するようになっている。すなわち、エンジン支持構造10では、エンジン強制力の谷が生じる回転数b(極小周波数fTmin)が図8に例示する如くスロットル開度に依存するとの知見に基づいて、スロットル開度毎に、フロントクロスメンバ14の共振周波数frが一致するか又は近づくべき極小周波数fTminを設定するようになっている。
この点について補足すると、エンジン22の爆発によるトルク変動の大きさは、図9に例示される如きトルク性能特性図に従って、回転数に応じて変化するところ、このトルク性能特性図(すなわち回転数とトルクとの関係)はエンジンの負荷(トルク)に応じて変化する。エンジン支持構造10では、このエンジン負荷に対応する制御パラメータとして、スロットル開度を用いている。そして、ピストン慣性力によるトルク変動はスロットル開度(エンジン負荷)の影響を受けないので、図9に示すスロットル開度毎のトルク性能特性図の比較から、スロットル開度が大きいほどトルク変動の極小周波数fTminが高回転数(高周波)側になることが判る。
以上まとめると、エンジン支持構造10を構成するこもり音低減ECU52は、図2に示される如く、エンジン22のスロットル開度に応じて、極小周波数fTminすなわちフロントクロスメンバ14の目標共振周波数を求める目標周波数設定手段60を備えている。また、こもり音低減ECU52は、フロントクロスメンバ14の共振周波数を目標周波数設定手段60が求めた目標共振周波数に一致させるか又は近づけるべきエンジンマウント24のばね定数を求める目標ばね定数設定手段62を備えている。さらに、こもり音低減ECU52は、エンジンマウント24のばね定数をばね定数設定手段62で求めた目標ばね定数に一致させるか又は近づけるためのソレノイドコイル48への印加電圧を求める制御量設定手段64を備えている。そして、こもり音低減ECU52は、制御量設定手段64で求めた電圧をエンジンマウント24のアクチュエータ部50を構成するソレノイドコイル48に印加する構成とされている。
次に、第1の実施形態の作用について、図3に示すこもり音低減ECU52の制御フローチャートを参照しつつ説明する。
上記構成のエンジン支持構造10では、こもり音低減ECU52は、ステップS10で、車速センサ56からの信号に基づいて、自動車Aの車速が20km/h以上であるか否かを判断する。自動車Aの車速が20km/h以上であると判断した場合、こもり音低減ECU52は、ステップS12に進み、エンジンECU54からスロットル開度値aに対応する信号を読み込む。次いで、こもり音低減ECU52は、ステップS14に進み、スロットル開度値aが5%以上であるか否かを判断する。
ステップS10で自動車Aの車速が20km/h未満であると判断した場合、及びステップS14でスロットル開度値aが5%未満であると判断した場合には、こもり音低減ECU52は、ステップS16に進み、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に対し制御電圧eが印加されている否かを判断する。エンジンマウント24のアクチュエータ部50に対し制御電圧eが印加されていると判断した場合は、ステップS18で制御をOFF(制御電圧e=0)とした後、ステップS10に戻る。また、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に対し制御電圧eが印加されていないと判断した場合は、そのままステップS10に戻る。
すなわち、エンジン支持構造10では、スロットル開度が5%未満の場合にはエンジン22の爆発力に起因するこもり音が小さく問題とならないことが判っているため、これらの場合には、こもり音低減ECU52は、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に対する制御を行わない。
一方、ステップS14でスロットル開度値aが5%以上であると判断した場合、こもり音低減ECU52は、ステップS20に進み、ステップS12で読み込んだスロットル開度値aに基づいて、エンジン22の強制力の谷となる回転数bを、計算式又はマップを用いて求める(算出する)。次いで、こもり音低減ECU52は、ステップS22に進み、エンジン22の回転数b[rpm]をフロントクロスメンバ14の目標共振周波数c[Hz]すなわち極小周波数fTminに略一致する周波数に換算する。4サイクル6気筒エンジンであるエンジン22では、c=b/60×気筒数/2=b×6/120=b/20となる。以上のステップS20、S22が図2に示す目標周波数設定手段60に相当する。
さらに、こもり音低減ECU52は、ステップS24に進み、フロントクロスメンバ14の共振周波数を目標共振周波数cとするためのエンジンマウント24の目標ばね定数dを、計算式又はマップを用いて求める(算出する)。このステップS24が、図2に示す目標ばね定数設定手段62に相当する。
次いで、こもり音低減ECU52は、ステップS26に進み、エンジンマウント24のばね定数を目標ばね定数dとするためにアクチュエータ部50のソレノイドコイル48に印加すべき制御電圧eを計算式又はマップを用いて求める(算出する)。このステップS26が、図2に示す制御量設定手段64に相当する。
そして、こもり音低減ECU52は、ステップS26の実行後、ステップS28に進み、ステップS26で求めた制御電圧eをアクチュエータ部50のソレノイドコイル48へ印加する。こもり音低減ECU52は、ステップS28の実行後、ステップS10に戻り、エンジン22の作動期間中に亘り上記制御を繰り返す。
ここで、エンジン支持構造10では、上記したこもり音低減ECU52のステップS28の実行によって、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に制御電圧eが印加され、エンジンマウント24のばね定数が目標ばね定数dに略一致されることで、フロントクロスメンバ14の共振周波数が目標共振周波数cに略一致される。すなわち、エンジン支持構造10では、図1(B)に示される如く、フロントクロスメンバ14の共振周波数frが、図1(A)に示されるエンジン22のトルク変動の谷となる極小周波数fTminに略一致される。
そして、シートSの乗員の耳位置でのこもり音(室内音)は、図1(A)に示すエンジン強制力(起振力)Fと、図1(B)に示す伝達関数Hの積で決まるため、上記の如く伝達関数Hにおけるピーク周波数であるフロントクロスメンバ14の共振周波数frを、エンジン強制力の谷となる極小周波数fTminに略一致させることで、図1(C)に示される如くこもり音が著しく低減される。
例えば、エンジンマウント24に対する制御を行わない場合には、図1(B)に一点鎖線にて示される如き伝達関数Hとなり、この伝達関数Hと図1(A)に示すエンジン強制力との積により得られるこもり音は、図1(C)に一点鎖線にて示される如く、フロントクロスメンバ14の共振周波数に一致する周波数のエンジン強制力が入力される場合に大きくなる(問題となる)。なお、こもり音が特に問題となりやすいのは、例えば40〜200[Hz](エンジン22の回転数で800〜4000[rpm])の範囲に存在するフロントクロスメンバ14の共振周波数に入力されるエンジン強制力の周波数が一致した場合となる。
これに対して本発明の実施形態に係るエンジン支持構造10では、上記した通り伝達関数Hのピーク周波数であるフロントクロスメンバ14の共振周波数frをエンジン強制力の谷となる極小周波数fTminに略一致させる制御によって、フロントクロスメンバ14の共振周波数でのフロントクロスメンバ14への振動伝達が効果的に抑制される。これにより、フロントクロスメンバ14の振動に起因するこもり音が効果的に抑制される。
この点について、図10に示す実験結果に基づいて補足する。なお、図10(A)〜図10(C)において、実線は、エンジンマウント24に対するこもり音低減ECU52の制御を実行した場合の実験結果を示し、一点鎖線は、エンジンマウント24に対するこもり音低減ECU52の制御を実行しない場合の実験結果を示している。図10(A)は、エンジン22の強制力Fに対応する振動加速度と回転数の関係を示す線図であり、この実験時のスロットル開度では3300[rpm]近傍にエンジン強制力の谷が存在することが判る。
図10(B)は、フロントクロスメンバ14から車室(この実験では運転席であるシートSの乗員耳位置)への伝達関数Hに相当する音圧感度[dB]と回転数の関係を示す線図である。この線図から、エンジンマウント24のばね定数を制御することで、フロントクロスメンバ14の共振周波数frが略2600[rpm]から略2850[rpm]に変化されたことが判る。すなわち、この実験では、エンジンマウント24を制御することで、フロントクロスメンバ14の共振周波数frがエンジン強制力の谷(極小周波数fTmin)に近づくことが確かめられた。なお、この音圧感度のピーク[dB]は、制御前後でほぼ同等であることが判る。
そして、図10(C)は、運転席での音圧[dB]回転数の関係を示す線図であり、この図から、エンジン回転数で略2600[rpm](略130[Hz])のこもり音が大きく低減することが確かめられた。すなわち、この実験では、エンジンマウント24のばね定数を増す制御によって、音圧感度すなわち伝達関数Hのピーク[dB]は同等であるものの、該ピークが生じする共振周波数frをエンジン強制力の谷(極小周波数fTmin)に近づけることで、運転席のこもり音を5[dB]も低減させることができることが確かめられた。
また、エンジン支持構造10では、こもり音低減ECU52が目標周波数設定手段60(ステップS20、S22)によって、エンジン22のスロットル開度に応じて目標共振周波数を求めるため、スロットル開度に応じて変化するエンジン強制力の谷となる回転数b(極小周波数fTmin)に対し、フロントクロスメンバ14の共振周波数を一致させるか又は近づけることができる。すなわちエンジン支持構造10では、エンジン22の運転状態(スロットル開度)によらず、こもり音を効果的に低減することができる。
以上説明したように、本発明の第1の実施形態に係るエンジン支持構造10では、エンジンマウント24のばね定数を制御することによって、エンジン22の作動に伴うフロントクロスメンバ14の振動、該フロントクロスメンバ14の振動に伴うこもり音の発生を効果的に抑制することができる。
この点を、さらに、エンジン強制力Fを制御してこもり音を低減する技術の比較で説明する。ここで、こもり音現象について補足すると、エンジン22の作動に起因するこもり音は、複数の伝達経路の強制力Fiと伝達関数Hiとの積の重ね合わせと捉えることができる。すなわち、
こもり音=Σ(Fi×Hi)
と表すことができる。複数の伝達経路としては、フロントクロスメンバ14(エンジンマウント24)、フロントサスペンションメンバ16(エンジンマウント26)、サイドメンバ12(左右のエンジンマウント)、排気管等を挙げることができる。これら複数の経路から伝達される各こもり音成分(Fi×Hi)は、それぞれ大きさと位相を持つ。また、各強制力Fi、伝達関数Hiは、エンジン22の回転数毎に異なるため、回転数毎に異なるベクトル図を描くことができる。
そして、エンジン22の常用域である1000〜4000[rpm]で問題となる(うるさく感じる)こもり音は、エンジン22の支持部材の共振周波数すなわち単一の経路で決まる(単一の経路のこもり音が支配的となる)場合が多く、4000[rpm]を超えて高回転数になると、現象が複雑になり複数の経路のこもり音の複合が問題となる場合が多い。前者のベクトル図は図11(B)に示される如くなり、後者のベクトル図は図11(C)に示される如くなる。
このようなこもり音に対し、強制力Fを制御する場合、図11(B)、図11(C)に破線にて示される如く、強制力Fに対し逆位相の制御力Fcを発生させることとなる。この制御力Fcにより、音を相殺してこもり音を低減することとなる。このように強制力Fに対し逆位相の制御力Fcを発生させるためには、例えばエンジン22のスロットル開度等のエンジン負荷(燃焼圧)を予測するための情報を組み合わせ、エンジンの燃焼圧を推定する等することとなる。
以上の構成(方法)では、図11(B)に示す如く単一の経路の場合、こもり音を低減させるためには、該伝達経路の共振周波数(伝達関数)、強制力の位相、レベルを精度良く予測して、ピンポイントで制御力Fcを発生させる必要があるが、現実の制御でこれを実行するのは非常に難しい。このため、制御力Fcにて音を相殺するはずの制御によってこもり音が大きくなることも懸念され、例えばこもり音を検出して制御により音が大きくなった場合に制御を停止する等の対策が要求される。このように、強制力Fを制御する構成では、制御しない場合に対しこもり音を小さくすることができない場合がある。
これに対して本発明の実施形態に係るエンジン支持構造10では、こもり音が問題となりやすいフロントクロスメンバ14の共振を特定し、この共振によるこもり音がほぼ単一経路に決まることに着目して、該単一経路の伝達関数Hを制御することで、上記の通りこもり音を抑制している。すなわち、エンジン支持構造10では、フロントクロスメンバ14の共振周波数frをエンジン強制力の谷側にずらすシンプルな制御を行うため、強制力Fと制御された伝達関数Hcとの積で決まるこもり音(特定回転数のこもり音)は、図11(A)に示される如く、想像線にて示す制御なし場合と比較して、必ず小さくなる。この点は、上記した図10の実験結果でも確かめられている。
そして、本エンジン支持構造10における制御で精度が要求されるのは、フロントクロスメンバ14単体の共振周波数だけであり、伝達関数Hのレベル(図10(B)に示されるピークの大きさ等)や位相は関係ない。したがって、エンジン支持構造10における制御は、車両側のばらつきの影響が小さく抑えられるロバスト制御とされる。
以上により、エンジン支持構造10では、薄肉の高張力鋼板にて構成されることで低剛性で共振周波数が低いフロントクロスメンバ14を採用しながら、該フロントクロスメンバ14の振動に起因するこもり音を効果的に低減することができる。したがって、エンジン支持構造10が適用された自動車Aは、高張力鋼板を用いて軽量化を図りながら、フロントクロスメンバ14の剛性を低下する(共振周波数がエンジン22の使用範囲の回転数域に存在する)ことで懸念されるこもり音を効果的に低減することができる。
次に、本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については、上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付して説明を省略し、また図示を省略する場合がある。
(第2の実施形態)
図12には、本発明の第2の実施形態に係るエンジン支持構造70が適用された自動車Aの模式的な内部構造が側面図にて示されている。この図に示される如く、エンジン支持構造70は、フロントクロスメンバ14とエンジン22との間に介在するエンジンマウント24に代えて、フロントサスペンションメンバ16(クロスメンバ16B)とエンジン22との間に介在するエンジンマウント26が、こもり音低減ECU52により制御される制御マウントされている点で、第1の実施形態に係るエンジン支持構造10とは異なる。エンジンマウント26は、図7に示される第1の実施形態におけるエンジンマウント24と同様に構成されている。
したがって、この実施形態では、フロントサスペンションメンバ16が本発明における支持部材に、エンジンマウント26の弾性部45が本発明における弾性体に、該エンジンマウント26のアクチュエータ部50が本発明におけるばね特性可変装置にそれぞれ相当する。
このフロントサスペンションメンバ16の振動系をより模式的に示すと、図13に示す如くなる。すなわち、フロントサスペンションメンバ16は、車室(キャビン)を構成するサイドメンバ12にブラケット18、20(の剛性)を介して結合されると共に、エンジン22に対しエンジンマウント26の剛性(弾性部45のばね定数)を介して結合されている。上記の如くフロントサスペンションメンバ16がブラケット18、20を介してサイドメンバ12に剛的に結合された(弾性部45の剛性に対しブラケット15の剛性が十分に高い)エンジン支持構造70では、実質的にはフロントサスペンションメンバ16を質量要素、エンジンマウント26(弾性部45)をばね要素、エンジン22を強制振動の入力源とする振動系として把握することができる。
また、この実施形態では、少なくともフロントサスペンションメンバ16が高張力鋼板にて構成されている。エンジン支持構造70の他の構成は、こもり音低減ECU52による制御も含めて、エンジン支持構造10の対応する構成と同様に構成されている。
したがって、第2の実施形態に係るエンジン支持構造70では、エンジンマウント26のばね定数を変化させて、フロントサスペンションメンバ16の共振周波数を極小周波数fTmin(エンジン強制力の谷となる回転数b)に一致させるか又は近づけることで、フロントサスペンションメンバ16の振動、該フロントサスペンションメンバ16の振動に起因するこもり音を効果的に低減することができる。
(第3の実施形態)
図14には、本発明の第3の実施形態に係るリヤデフ支持構造80が適用された自動車Aの模式的な内部構造が側面図にて示されている。この図に示される如く、エンジン支持構造70は、フロントクロスメンバ14とエンジン22との間に介在するエンジンマウント24に代えて、リヤサスペンションメンバ32(前後のクロスメンバ32B、32C)とリヤディファレンシャルギヤボックス30との間に介在するデフマウント38、40が、こもり音低減ECU52により制御される制御マウントされている点で、第1の実施形態に係るエンジン支持構造10とは異なる。デフマウント38、40は、図7に示される第1の実施形態におけるエンジンマウント24と同様に構成されている。
したがって、この実施形態では、リヤサスペンションメンバ32が本発明における支持部材に、デフマウント38、40の弾性部45が本発明における弾性体に、該デフマウント38、40のアクチュエータ部50が本発明におけるばね特性可変装置にそれぞれ相当する。すなわち、この実施形態では、駆動系装置としてのリヤディファレンシャルギヤボックス30からの強制力に対するリヤサスペンションメンバ32の振動、こもり音を低減するようになっている。
このリヤサスペンションメンバ32の振動系は、基本的に図13に示されるフロントサスペンションメンバ16の振動系と同様にモデル化することができる。すなわち、図示は省略するが、リヤサスペンションメンバ32は、車室(キャビン)を構成するサイドメンバ12にブラケット34、36(の剛性)を介して結合されると共に、リヤディファレンシャルギヤボックス30に対しデフマウント38、40の剛性(弾性部45のばね定数)を介して結合されている。上記の如くリヤサスペンションメンバ32がブラケット34、36を介してサイドメンバ12に剛的に結合された(弾性部45の剛性に対しブラケット15の剛性が十分に高い)リヤデフ支持構造80では、実質的にはリヤサスペンションメンバ32を質量要素、デフマウント38、40(弾性部45)をばね要素、リヤディファレンシャルギヤボックス30を強制振動の入力減とする振動系として把握することができる。
また、この実施形態では、少なくともリヤサスペンションメンバ32が高張力鋼板にて構成されている。リヤデフ支持構造80の他の構成は、こもり音低減ECU52による制御も含めて、エンジン支持構造10の対応する構成と同様に構成されている。
したがって、第3の実施形態に係るリヤデフ支持構造80では、デフマウント38、40のばね定数を変化させて、リヤサスペンションメンバ32の共振周波数を極小周波数fTmin(エンジン強制力の谷となる回転数b)に一致させるか又は近づけることで、リヤサスペンションメンバ32の振動、該リヤサスペンションメンバ32の振動に起因するこもり音を効果的に低減することができる。
(第4の実施形態)
図15には、本発明の第4の実施形態に係るエンジン支持構造90を構成するこもり音低減ECU92の制御フローが示されている。エンジン支持構造90は、機械的にはエンジン支持構造10(又は、エンジン支持構造70、90)と同様に構成されており、こもり音低減ECU52に代えて備える音低減ECU92による制御が、こもり音低減ECU52による制御とは異なる。
具体的には、こもり音低減ECU92は、単位時間当たりのスロットル開度値aの変化量Δaが閾値Δat以上(Δa≧Δat)であることを条件に、エンジンマウント24に対する制御量eの変化を許容するようになっている。また、こもり音低減ECU92は、エンジン22の回転数がエンジン強制力の谷となる回転数bよりも低いことを条件に、第1の実施形態で示したエンジンマウント24のアクチュエータ部50に対する制御を行うようになっている。
このこもり音低減ECU92の制御における主にこもり音低減ECU52による制御と異なる部分を、図15に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
上記構成のエンジン支持構造90では、こもり音低減ECU92は、ステップS20の実行後、ステップS30に進み、単位時間当たりのスロットル開度Kの変化量Δaが閾値Δat(Δa≧Δat)以上であるか否かを判断する。この実施形態では、0.3秒間のスロットル開度値aの変化量Δaが10%以上であるか否かが判断される。この変化量Δaが10%未満であると判断した場合、こもり音低減ECU92は、ステップS10に戻る。したがって、制御電圧e(e=0である制御なしの場合を含む)が維持される。
一方、ステップS30で変化量Δaが10%以上であると判断した場合、こもり音低減ECU92は、ステップS32に進み、エンジン22の回転数が、エンジン強制力の谷となる回転数b未満であるか否かを判断する。エンジン22の回転数が上記回転数b未満であると判断したこもり音低減ECU92は、ステップS22〜ステップS28に進み、エンジン支持構造10と同様の制御を行う。
他方、ステップS32でエンジン22の回転数が上記回転数b以上であると判断した場合、こもり音低減ECU92は、ステップS16、S18に進み、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に制御電圧eの印加されない状態を維持し、又は制御電圧eを印加する制御をOFFにする。
以上説明したように、エンジン支持構造90では、基本的にはこもり音低減ECU52が実行する各ステップをこもり音低減ECU92が実行するので、エンジン支持構造10と同様の作用によってエンジン支持構造10と同様の効果を得ることができる。すなわち、エンジン支持構造90では、図16(A)に示されるエンジン強制力の谷となる回転数b(極小周波数fTmin)に対し、図16(B)に示される伝達関数Hのピーク(フロントクロスメンバ14の共振周波数fr)を一致させるか又は近づけることで、図16(C)に示される如く、こもり音の低減効果が得られる。
また、エンジン支持構造90では、エンジン22の回転数が上記回転数b以上となった場合に、エンジンマウント24のばね定数を大きくする制御を停止するため、エンジン22の回転数が上記回転数b以上の回転数域において、こもり音を低減することができる。図16(C)の破線は、回転数b以上の高回転域でエンジンマウント24への制御電圧eの印加を続ける場合(エンジン支持構造10の制御)のこもり音を示しており、該エンジン支持構造10との比較でこもり音が効果的に低減されることが判る。
さらに、エンジン支持構造90では、単位時間当たりのスロットル開度値aの変化量Δaが閾値Δat未満である場合に、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に印加する制御電圧eを維持するため、短い間隔で制御電圧eを変化させることに伴うショックの発生が抑制される。
なお、上記したこもり音低減ECU92の制御における単位時間の0.3秒、スロットル開度変化量10%は、例示であり、適宜変更して設定することが可能である。また、スロットル開度の変化量に代えて、スロットル開度の変化率を用いることも可能である。
さらに、図15のフローチャートに示すこもり音低減ECU92の制御は、第2、第3の実施形態に係るエンジン支持構造70、リヤデフ支持構造80に適用しても良い。
(第5の実施形態)
図17には、本発明の第5の実施形態に係るエンジン支持構造100を構成するこもり音低減ECU92の制御フローが示されている。エンジン支持構造100は、機械的にはエンジン支持構造10、90と同様に構成されており、こもり音低減ECU92に代えて備える音低減ECU102による制御が、こもり音低減ECU92(こもり音低減ECU52)による制御とは異なる。
具体的には、こもり音低減ECU102は、エンジンマウント24に制御電圧eを印加してもフロントクロスメンバ14の共振周波数frがエンジン強制力の谷(極小周波数fTmin)に至らない場合の最適制御が組み込まれている。エンジン支持構造100では、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に印加し得る最大電圧emaxを印加した場合に得られるフロントクロスメンバ14の最高共振周波数cmaxを、エンジン22の回転数に換算した値bmaxに基づいて、エンジンマウント24を制御するようになっている。より具体的には、こもり音低減ECU102は、エンジン22の回転数がbmax未満の場合には、エンジン支持構造10と同様にフロントクロスメンバ14の共振周波数frがエンジン強制力の谷に近づくようにエンジンマウント24のばね定数を大きくする制御を行い、エンジン22の回転数がbmax以上の場合に、エンジンマウント24に制御電圧eが印加されないようする構成とされている。
このこもり音低減ECU102の制御における主にこもり音低減ECU92による制御と異なる部分を、図17に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
上記構成のエンジン支持構造100では、こもり音低減ECU102は、ステップS26の実行後、ステップS40に進み、ステップS26で求めた制御電圧eが上記した最大電圧emax未満であるか否かを判断する。制御電圧eが上記した最大電圧emax未満であると判断した場合、こもり音低減ECU102は、ステップS28に進み、ステップS26で求めた制御電圧eをエンジンマウント24のアクチュエータ部50に印加し、ステップS10に戻る。この点は、こもり音低減ECU52、92の制御と同様である。
一方、ステップS40で制御電圧eが上記した最大電圧emax以上である、すなわちフロントクロスメンバ14の共振周波数frが制御し得る最高共振周波数に達すると判断した場合、こもり音低減ECU102は、ステップS42に進む。ステップS42でこもり音低減ECU102は、エンジン22の回転数が上記した回転数bmax未満であるか否かを判断する。エンジン22の回転数が上記した回転数bmax未満であると判断した場合、こもり音低減ECU102は、ステップS44に進み、制御電圧emaxをエンジンマウント24のアクチュエータ部50に印加し、ステップS10に戻る。
他方、こもり音低減ECU102は、ステップS42でエンジン22の回転数が上記した回転数bmax以上であると判断した場合、ステップS16、S18に進み、エンジンマウント24のアクチュエータ部50に制御電圧eの印加されない状態を維持し、又は制御電圧eを印加する制御をOFFにする。
以上説明したように、エンジン支持構造100では、基本的にはこもり音低減ECU52、92が実行する各ステップをこもり音低減ECU102が実行するので、エンジン支持構造10、90と同様の作用によってエンジン支持構造10と同様の効果を得ることができる。すなわち、エンジン支持構造100では、図16(A)に示されるエンジン強制力の谷となる回転数b(極小周波数fTmin)に対し、図16(B)に示される伝達関数Hのピーク(フロントクロスメンバ14の共振周波数fr)を一致させるか又は近づけることで、図16(C)に示される如く、こもり音の低減効果が得られる。
また、エンジン支持構造100では、図18(B)に示される如く、エンジンマウント24の制御後の回転数bmax(最高共振周波数cmax)が図18(A)に示されるエンジン強制力の谷となる回転数bに至らない場合(例えばスロットル開度が大きい場合)であって、エンジン22の回転数が回転数bmax未満の場合にフロントクロスメンバ14の共振周波数frをエンジン強制力の谷(極小周波数fTmin)に近づけるため、こもり音が高周波側にシフトする。高周波のこもり音のほうが低周波のこもり音よりも乗員にとって許容しやすいので、乗員にとっての騒音(不快感)低減が果たされる。一方、エンジン22の回転数が回転数bmax以上となった場合に、エンジンマウント24のばね定数を大きくする制御を停止するため、エンジン22の回転数が上記回転数bmax以上の回転数域において、こもり音を低減することができる。図18(C)の破線は、回転数bmax以上の回転数域でエンジンマウント24への制御電圧eの印加を続ける場合(エンジン支持構造10の制御)のこもり音を示しており、エンジン支持構造10との比較でこもり音が効果的に低減されることが判る。
なお、図17のフローチャートに示すこもり音低減ECU102の制御は、第2、第3の実施形態に係るエンジン支持構造70、リヤデフ支持構造80に適用しても良い。
(第6の実施形態)
図20には、本発明の第6の実施形態に係るエンジン支持構造110が適用された自動車Aの模式的な内部構造が側面図にて示されている。この図に示される如く、エンジン支持構造110では、フロントサスペンションメンバ16が前後のボデーマウント112を介してサイドメンバ12に対し弾性支持されている点で、第2の実施形態に係るエンジン支持構造70とは異なる。
したがって、エンジン支持構造110は、フロントサスペンションメンバ16に対するサイドメンバ12側及びエンジン22側に弾性体が介在された、換言すれば、サイドメンバ12とエンジン22との間に前後のボデーマウント112とエンジンマウント24、26とが2段階で設けられた防振サスメン構造とされている。なお、この実施形態では、リヤサスペンションメンバ32がサイドメンバ12に対しボデーマウント114を介して弾性支持されており、自動車Aのリヤ側では防振デフ構造が採用されている。エンジン支持構造110の他の機械的な構成は、エンジン支持構造70の対応する構成と同じである。
そして、エンジン支持構造110を構成するこもり音低減ECU116は、フロントサスペンションメンバ16の共振周波数frを極小周波数fTmin(エンジン強制力の谷となる回転数b)に一致させるか又は近づける制御を行うエンジン22の回転数の上限が設定されている点で、こもり音低減ECU52、92、102とは異なる。この実施形態では、100[Hz]を回転数に換算した2000[rpm]が上記制御を行うエンジン回転数の上限とされている。
この上限の回転数は、防振サスメン構造を採る本実施形態のエンジン支持構造110において、主に100[Hz]以下にエンジン22の作動に伴うフロントサスペンションメンバ16の共振点が存在する点、100〜130[Hz]にはフロントサスペンションメンバ16にて支持されるフロントサスペンションの共振点が存在することを考慮して、設定されている。したがって、エンジン支持構造110では、2000[rpm](100[Hz])以上で、フロントサスペンションメンバ16の共振周波数を高くする制御が行われない又は停止されるようになっている。
このこもり音低減ECU116の制御における主にこもり音低減ECU102による制御と異なる部分を、図19に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
上記構成のエンジン支持構造100では、こもり音低減ECU116は、ステップS20の実行後、ステップS50に進み、エンジン22の回転数が上限回転数blim未満であるか否かを判断する。エンジン22の回転数が上限回転数blim未満であると判断した場合、こもり音低減ECU116は、音低減ECU102と同様に、ステップS30以下を実行する。
一方、ステップS50でエンジン22の回転数が上限回転数blim以上であると判断した場合、こもり音低減ECU116は、ステップS16、S18に進み、エンジンマウント26のアクチュエータ部50に制御電圧eの印加されない状態を維持し、又は制御電圧eを印加する制御をOFFにする。
以上説明したように、エンジン支持構造100では、基本的にはこもり音低減ECU52、92が実行する各ステップをこもり音低減ECU102が実行するので、エンジン支持構造10、90と同様の作用によってエンジン支持構造10、70、100と同様の効果を得ることができる。
また、エンジン支持構造110では、エンジン22の回転数が上限回転数blim以上になるとフロントサスペンションメンバ16の共振周波数を高くする制御を解除するため、該制御によって前輪やフロントサスペンションを経由して入力される変動、振動(ロードノイズ)が悪化されることがない。
このように、本発明は、防振サスメン構造に対しても効果的に適用し得る。この図19のフローチャートに示すこもり音低減ECU116の制御は、防振デフ構造を採るリヤサスペンションメンバ32側のリヤデフ支持構造に適用しても良い。
なお、上記した各実施形態では、制御マウントがエンジンマウント24、26、デフマウント38、40の何れかである例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、複数のマウントを制御マウントとしても良い。特に、図20に示す防振サスメン構造、防振デフ構造では、エンジンマウント24、エンジンマウント26、デフマウント38、40に代えて又はこれらと共に、前後のボデーマウント112、114の一部又は全部を防振マウントしても良い。
また、上記した各実施形態では、制御マウントの構造の一例として図7の構造を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、可変オリフィスや電気粘性流体等を利用した可変剛性マウントを制御マウントとして用いても良い。
さらに、上記した実施形態では、エンジン22のスロットル開度から、目標共振周波数、目標ばね定数、エンジンマウント24に付加する制御量(制御電圧e)を順に求める例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、スロットル開度と制御量との関係をマップとして記憶しておき、スロットル開度情報から直接的にエンジンマウント24に付加する制御量(制御電圧e)を求める構成としても良い。
またさらに、上記した実施形態では、内燃機関の負荷に対応する情報としてスロットル開度(アクセル開度)を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、エンジン22への燃料供給量や空気流入量、負荷トルク、出力トルク等を内燃機関の負荷に対応する情報として用いても良い。
また、上記した実施形態では、エンジン22が自動車Aの前部に横置きされると共に、プロペラシャフト28を介してリヤディファレンシャルギヤボックス30に駆動力(の少なくとも一部)が伝達される自動車A(例えば、4輪駆動車)に、エンジン支持構造10、70、90、100、110、又はリヤデフ支持構造80が適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、横置きのエンジン22にて前輪のみを駆動する構造、縦置きのエンジンにてリヤディファレンシャルギヤボックス30に動力の少なくとも一部を伝達する構造(所謂FR車やエンジン縦置きの4輪駆動車等)に本発明を適用しても良い。また、内燃機関以外にモータ等の駆動源を有する自動車に本発明を適用しても良いことは言うまでもない。
さらに、上記した各実施形態の制御における「未満」、「以上」、「≧」、「<」等は、適宜「以下」、「超える(上回る)」、「≦」、「>」等と読み替えて実行するようにしても良い。