しかしながら、このような発泡ニッケル板の表面には、微小な凹凸が無数に存在しており、同発泡ニッケル板において、該凹凸形状や無害のニッケル粒子と類似した粒子状になっている微小金属異物を感度良好に判別し、選択的に除去することが困難となっている。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、正極電極基板(正極板)に存在する微小金属異物を感度良好に検出して除去し、得られるアルカリ蓄電池の信頼性を向上できるアルカリ蓄電池用正極板の製造方法及びアルカリ蓄電池の製造方法を提供することにある。
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、電極基板から形成され、アルカリ蓄電池に配設される正極板の製造方法であって、前記電極基板を検査対象物として搬送しつつ、当該電極基板に分布する異物をその大きさに基づいてオンラインで検出する1次スクリーニング工程と、前記異物が検出された部分に、電池の短絡の原因となる微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬が溶媒に含まれる薬液をオンラインで付着させる薬液付着工程と、前記電極基板において、前記薬液により発光した部分をオンラインで検出する発光部分検出工程と、前記検出された発光部分を微小金属異物が存在する不良部分として選択的に除去する不良部分除去工程とを備えること、を要旨とする。
同構成によれば、1次スクリーニング工程において、電極基板の異物をその大きさに基づいてオンラインで検出し、さらに異物が検出された部分に、薬液付着工程において、電池の短絡の原因となる微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬を含む薬液を付着させる。このため、1次スクリーニング工程において、本来検出すべき微小金属異物の検査漏れを少なくするために検査感度を高めに設定することによって、微小金属異物以外の異物が検出された場合でも、薬液付着工程において、本来検出すべきでない異物の検出を排除することができるようになる。つまり、検査感度を一定値とし、電極基板の異物をその大きさに基づいて単一の工程で検出するだけの場合と比較して、微小金属異物の検査漏れを低減することができるとともに、微小金属異物以外の異物を誤って検出してしまう誤検出も低減することができるようになる。そしてこれにより、微小金属異物を電極基板から高い精度で選択的に除去することができるようになる。しかも、電極基板においては、異物が検出された部分に、微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬が溶媒に含まれる薬液を選択的に付着させる。このため、電極基板の全幅方向に亘って薬液を付着させる場合と比較して、薬液の使用量の節減を図ることができるようにもなる。以上の結果、電極基板から高い収率で正極板を形成する(採取する)ことができるようになり、製造コストの節減につながる。しかも得られる正極板も微小金属異物の付着が僅少のものとなって、最終的に高い信頼性を有するアルカリ蓄電池が得られるようになる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記電極基板が発泡ニッケル板、前記金属が銅、且つ、前記試薬がルミノールであり、該試薬を含む前記薬液は、溶媒中にアルカリ性物質を含んでアルカリ性を呈するようにした状態でさらに過酸化水素を含むこと、を要旨とする。
同構成によれば、電極基板が発泡ニッケル板、微小金属異物として検出すべき金属が銅、且つ、試薬がルミノールであり、該試薬を含む薬液は、溶媒中にアルカリ性物質を含んでアルカリ性を呈するようにした。このため、銅を光触媒とするルミノールの発光現象(光ルミネセンス現象)を利用して銅又は銅合金からなる微小金属異物を感度良好に検出することができるようになる。しかも、試薬としてルミノールを含む薬液は、三次元の網目構造を有する発泡ニッケル板によく滲み込むことから、電極基板の内部に存在する微小金属異物としての銅又は銅合金をもルミノールの発光現象を利用して感度良好に検出することができるようになる。また、溶媒中の酸化剤である過酸化水素は、揮発時に残渣が残らない特長があり、電極基板を熱風乾燥等することによってほぼ完全に除去することができ、作業環境を汚染する度合も少なくて済むようになる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記薬液には、銅を光触媒とするルミノールの発光現象を促進すべく、アンモニアが含まれること、を要旨とする。
同構成によれば、薬液には、アンモニアが含まれるので、当該アンモニアが銅に配位して水溶性の銅アンミン錯体が生成し、水溶液である試薬に対する銅の溶解性が高められる。これにより、銅を光触媒とするルミノールの発光現象(光ルミネセンス現象)が促されるようになる。また、アンモニアは、水酸化ナトリウム等の他のアルカリ性物質と比較して粘度が低く、発泡ニッケル板への浸透性が良好である。この結果、銅又は銅合金からなる微小金属異物の検出感度がさらに高められ、当該微小金属異物をさらに高い精度で選択的に除去することができるようになる。また、アンモニアは、それ自体が−OH基を放出するので、ルミノールを含む薬液にアルカリ性物質を添加しなくても当該薬液がアルカリ性となり、ルミノールが溶媒に対して溶解されることが促進される。そしてこれによって使用する化学物質の使用量の節減ができるようにもなる。また、アンモニアは80℃程度でほぼ完全に揮発するので、例えば、電極基板を熱風乾燥することによってほぼ完全に除去することができ、アンモニアによる環境汚染や作業者の健康被害も効果的に抑制しうる。さらに、アンモニアは、入手が容易であり、安価であって、工業的に大量に使用することに適しているという利点も備えている。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記薬液には、溶媒に対して、0.05質量%以上1質量%以下のルミノールが含まれること、を要旨とする。
同構成によれば、薬液には、溶媒に対して、0.05質量%以上1質量%以下のルミノールが含まれる。このため、銅を光触媒とした発光現象を生じさせるために必要十分なルミノール濃度を確保することができる。つまり、ルミノール濃度が0.05質量%未満となることで当該ルミノールの発光強度が低下してしまうことがなくなるとともに、ルミノールが1質量%を超える場合にその使用量が過多となり、コスト増につながることが解消されるようにもなる。
請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記薬液には、溶媒に対して、2質量%以上4質量%以下のアンモニアが含まれること、を要旨とする。
同構成によれば、薬液には、溶媒に対して、2質量%以上4質量%以下のアンモニアが含まれる。このため、銅を光触媒とした発光現象を生じさせるための必要十分なアンモニア濃度を確保することができる。つまり、アンモニア濃度が2質量%未満となることでルミノールの発光強度が低下してしまうことがなくなるとともに、アンモニアが4質量%を超える場合にその使用量が過多となり、アンモニアの臭気により作業環境や作業者の健康に悪影響を与え、さらにはコスト増につながることが解消されるようにもなる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記1次スクリーニング工程は、前記検査対象物としての電極基板にオンラインでX線を照射して透過させ、得られたX線透過像に基づいて前記電極基板にて異物が検出された部分を特定するX線透過検査工程であり、前記発光部分検出工程では、イメージインテンシファイアを用いて、前記薬液により発光した部分を検出するようにしたこと、を要旨とする。
同構成によれば、1次スクリーニング工程としてのX線透過検査工程では、検査対象物としての電極基板にオンラインでX線を照射して透過させ、得られたX線透過像に基づいて電極基板にて異物が存在する部分を特定するようにした。このようにX線を用いることにより、可視光が透過せず、不透明な電極基板においても効率的に異物が存在する部分を特定することができる。また、X線の照射によって、電極基板を変質や損傷させる虞も一切ない。さらに、発光部分検出工程では、イメージインテンシファイアを用いて薬液により発光した部分、即ち、本来検出すべき微小金属異物が存在する部分が検出されるので、当該微小金属異物が存在する不良部分を高感度で特定することができる。この結果、微小金属異物をさらに高い精度で選択的に除去することができるようになる。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記検査対象物としての電極基板をその幅方向に並列する複数列の帯状領域に区分し、各帯状領域ごとにオンラインで前記異物及び前記発光部分の検出を行うようにしたこと、を要旨とする。
同構成によれば、検査対象物としての電極基板をその幅方向に並列する複数列の帯状領域に区分し、各帯状領域ごとにオンラインで微小金属異物の検査を行うようにした。これにより、複数列の帯状領域によって、電極基板が幅方向に複数に分割されて異物が検査されるようになる。つまり、1次スクリーニング工程において、各帯状領域ごとに異物が検出され、当該異物に対して、薬液付着工程において、各帯状領域の範囲内で薬液が付着されることになる。このため、電極基板が全幅方向に亘って同時に検査され、当該全幅方向に亘って薬液が付着される場合と比較して、薬液の付着面積が小さくて済むようになり、それに伴い、当該薬液の使用量がさらに節減されるようになる。
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記不良部分除去工程では、前記電極基板をその厚さ方向に打ち抜くパンチング処理により前記不良部分を除去するようにしたこと、を要旨とする。
同構成によれば、不良部分除去工程では、電極基板の厚さ方向に打ち抜くパンチング処理により電極基板の不良部分を除去するようにした。このため、例えば、電極基板を短冊状に切り取って正極板を形成する(採取する)場合に、パンチング処理によりパンチング孔が穿孔された正極板については、その質量が規定質量より減少するので、その質量を測定することで、微小金属異物が存在しない良品の正極板と選別することができるようになる。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記パンチング処理の頻度に応じ、該頻度が規定値より小さい場合には、前記電極基板を搬送する速度を高めるとともに、該頻度が規定値より大きい場合には、前記電極基板を搬送する速度を低くし、さらに、該頻度が規定値とほぼ等しい場合には、前記電極基板を搬送する速度を維持するようにしたこと、を要旨とする。
同構成によれば、パンチング処理の頻度に応じ、該頻度が規定値より小さい場合には、電極基板の搬送速度を高めるとともに、該頻度が規定値より大きい場合には、電極基板の搬送速度を低くし、さらに、該頻度が規定値とほぼ等しい場合には、電極基板の搬送速度を維持するようにした。このため、パンチング処理の頻度を時間当たりほぼ一定割合に保つことができるようになり、パンチング処理の頻度が多い場合に、各種の検査装置やパンチング装置の負担を下げ、検査ミスの発生を未然に防止することができるとともに、パンチング処理の頻度が少ない場合に、アルカリ蓄電池用正極板の製造速度を上昇させ、その生産効率を高めることができるようにもなる。
請求項10に記載の発明は、請求項8又は請求項9に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法であって、前記パンチング処理の頻度が規定値より大きい場合において、前記パンチング処理により除去する電極基板の面積を拡大するようにしたこと、を要旨とする。
同構成によれば、パンチング処理の頻度が規定値より大きい場合において、パンチング処理により除去する電極基板の面積を拡大するようにした。このため、電極基板において、微小金属異物が検出された部分の周囲に高い確度で存在すると考えられるさらに微小で検出の困難な金属異物をも選択的に除去することが可能となり、得られるアルカリ蓄電池の信頼性をさらに向上することができる。
請求項11に記載の発明は、正極板、負極板及び電解液が配設されるアルカリ蓄電池の製造方法であって、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法を用いて前記正極板を製造すること、を要旨とする。
同構成によれば、アルカリ蓄電池の製造に際して、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池用正極板の製造方法を用いることで、正極板への微小金属異物の混在が僅少であり、高い信頼性を有するアルカリ蓄電池を製造することができるようになる。
請求項12に記載の発明は、電極基板から形成される正極板を有するアルカリ蓄電池の製造方法であって、前記電極基板を検査対象物として搬送しつつ、当該電極基板にオンラインでX線を照射して透過させ、得られたX線透過像に基づいて前記電極基板にて異物が検出された部分を特定するX線透過検査工程と、前記異物が検出された部分に、電池の短絡の原因となる微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光するルミノールが溶媒に含まれる薬液をオンラインで付着させる薬液付着工程と、前記電極基板において、前記薬液により発光した部分をオンラインで検出する発光部分検出工程と、前記検出された発光部分を微小金属異物が存在する不良部分として選択的に除去する不良部分除去工程とを備えること、を要旨とする。
同構成によれば、X線透過検査工程において、電極基板の異物をその大きさに基づいてオンラインで検出し、さらに異物が検出された部分に、薬液付着工程において、電池の短絡の原因となる微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬を含む薬液を付着させる。このため、X線透過検査工程において、本来検出すべき微小金属異物の検査漏れを少なくするために検査感度を高めに設定することによって、微小金属異物以外の異物が検出された場合でも、薬液付着工程において、本来検出すべきでない異物の検出を排除することができるようになる。つまり、検査感度を一定値とし、電極基板の異物をその大きさに基づいて単一の工程で検出するだけの場合と比較して、微小金属異物の検査漏れを低減することができるとともに、微小金属異物以外の異物を誤って検出してしまう誤検出も低減することができるようになる。そしてこれにより、微小金属異物を電極基板から高い精度で選択的に除去することができるようになる。
さらに、X線透過検査工程では、検査対象物としての電極基板にオンラインでX線を照射して透過させ、得られたX線透過像に基づいて電極基板にて異物が存在する部分を特定するようにした。このようにX線を用いることにより、可視光が透過せず、不透明な電極基板においても効率的に異物が存在する部分を特定することができる。また、X線の照射によって、電極基板を変質や損傷させる虞も一切ない。
さらにまた、試薬がルミノールであるので、銅や鉄を光触媒とするルミノールの発光現象(化学ルミネセンス現象)を利用して銅又は銅合金からなる微小金属異物を感度良好に検出することができるようになる。しかも、試薬としてルミノールを含む薬液は、三次元の網目構造を有する発泡ニッケル板によく滲み込むことから、電極基板の内部に存在する微小金属異物としての銅又は銅合金をもルミノールの発光現象を利用して感度良好に検出することができるようになる。
しかも、電極基板においては、異物が検出された部分に、微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬が溶媒に含まれる薬液を選択的に付着させるので、電極基板の全幅方向に亘って薬液を付着させる場合と比較して、薬液の使用量の節減を図ることができるようにもなる。
以上の結果、電極基板から高い収率で正極板を形成する(採取する)ことができるようになり、製造コストの節減につながる。しかも得られる正極板も微小金属異物の付着が僅少のものとなって、最終的に高い信頼性を有するアルカリ蓄電池が得られるようになる。
本発明によれば、正極板に混在する微小金属異物を感度良好に検出して除去することで、得られるアルカリ蓄電池の信頼性を向上することができる。
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態に係るアルカリ蓄電池1は、電気自動車(PEV)やハイブリッド自動車(HEV)の電源として用いられるニッケル水素蓄電池であり、所謂角形電池モジュールの形態を採っている。
アルカリ蓄電池1は、略直方体形状をなす電池容器10、電池容器10の内部に収容された複数の発電要素11、外部機器と電気的に接続するための外部正極端子12a及び外部負極端子12bを備えており、電池容器10の内部には水酸化カリウムを主成分とするアルカリ性の電解液(図示せず)が注入されている。
電池容器10は、平面視略長方形状の容器上面部13aと、これに略平行な容器下面部13bと、容器上面部13aの短辺と容器下面部13bの短辺とを結ぶ第1容器側面部14a及び第2容器側面部14bと、容器上面部13aの長辺と容器下面部13bの長辺とを結ぶ第3容器側面部14c及び第4容器側面部14dとによって区画形成されている。また、電池容器10の内部は、第1及び第2容器側面部14a,14bに略平行とされた5個の容器隔壁部14e,…によって、6箇所の空間に略均等に分割されている。
各空間には、発電要素11が収容され、単電池であるセル15を構成している。各発電要素11は、正極板11aと負極板11bとが、スルホン化されたポリプロピレン材料からなるセパレータ11cを挟むように交互に積層されて構成されている。これら正極板11a及び負極板11bは、前記電解液と接触するようにされている。また、各発電要素11には、導電材(ニッケルメッキ鋼板)からなり、略板状且つ略長方形状の正極集電板16aと負極集電板16bが配設されている。各正極集電板16a及び負極集電板16bは、それぞれ、容器隔壁部14eを貫通する図示しない接続部材を介して、隣接するセル15の各正極集電板16a及び負極集電板16bに接続され、各セル15が電気的に直列に接続されている。さらに、最も外部正極端子12a側に位置するセル15の正極集電板16aは、第1容器側面部14aを貫通する外部正極端子12aと溶接されることで、外部正極端子12aと電気的に接続されている。最も外部負極端子12b側に位置するセル15の負極集電板16bは、第2容器側面部14bを貫通する外部負極端子12bと溶接されることで、外部負極端子12bと電気的に接続されている。このような構成により角形電池モジュールが形成されている。
図1(b)に示すように、正極板11aは、発泡ニッケルを芯材とする電極基板(電極基板110)を大板に切断した後、公知の手法により、水酸化ニッケルを含む正極活物質に導電剤や結着剤を適宜混合したペーストを塗着する。さらにプレス後に所定形状(5cm×10cm程度の短冊状)に切断成形されたものである。一方、負極板11bは、MmNi5である水素吸蔵合金の微粉末に導電剤、結着剤を添加してペースト状とし、金属多孔板(パンチングメタル)に塗着、プレスしたものから所定形状(5cm×10cm程度の短冊状)に切断成形されたものである。
本実施形態では、この正極板11aが所定形状に切り取られる(採取される)前の段階での電極基板110(図2参照)において、アルカリ蓄電池1の正極電位で溶解し負極電位で析出する金属である銅(Cu)を含む銅合金(黄銅)からなる微小金属異物(微小金属異物Me)が存在していることを想定する。
また、本実施形態においては、粒径が100μm以上の銅合金からなる微小金属異物を電極基板から検出し、当該微小金属異物を含む部分を不良部分として同電極基板から除去することを目的としている。尚、この微小金属異物は、芯材の発泡ニッケル板(電極基板)の製造の段階で汚染物(コンタミネーション)として混入したり、その保管や輸送段階で粉塵として付着したりするものと考えられる。また、「正極電位で溶解し負極電位で析出する金属」としては、銅(Cu)以外に、例えば、鉛(Pb)、銀(Ag)、スズ(Sn)等を例示できる。
このような微小金属異物が正極板11aに存在すると、製造されたアルカリ蓄電池1において、時間の経過と共に正極板11aで溶解して電解液中を移動し、負極板11bで析出して、正極板11a及び負極板11b間で短絡現象を生じる場合がある。特に銅は負極板11bで析出すると針状結晶となって正極板11aに向けてデンドライト(樹枝)状に成長し、短絡を生じ易いため、銅又は銅合金からなる微小金属異物を確実に検査し、除去することが望ましい。
そこで、本実施形態では、アルカリ蓄電池1の正極板11aの製造工程において、以下に説明する微小金属異物検査工程を設け、電極基板110に銅又は銅合金からなる微小金属異物が存在するか否かを検出する。そして、存在する場合には、当該微小金属異物が存在する不良部分を電極基板110から選択的に除去するようにしている。
以下、図2〜図6を参照しながら、検査対象物としての長尺の電極基板110(ここでは、幅が200mmのものを用いる。)から微小金属異物をオンライン(ここでは、初期の搬送速度0.17m/secとする。)で検査する微小金属異物検査工程としての微小金属異物検出工程及びパンチング工程(不良部分除去工程)について詳細に説明する。尚、この微小金属異物検出工程には、さらにX線透過検査工程(1次スクリーニング工程)、薬液付着工程、及び発光部分検出工程が含まれる。
先ず、図2を参照しながら、この微小金属異物検査工程において用いる微小金属異物検査装置2について説明すると、該装置2では、同検査工程の最初に位置するフープ20aから発泡ニッケル(発泡Ni)を芯材とする検査対象物としての長尺の電極基板110が所定速度(初期の搬送速度0.17m/sec)で巻き出される。そして、同電極基板110は、駆動モータ20cを介して同所定速度で同検査工程の最後に位置するフープ20bに巻き取られるまでに、検査工程内に設けられた各種の検査装置等による光学的手段を用いて銅又は銅合金からなる微小金属異物がオンラインで検出され、さらに同微小金属異物が存在する不良部分がパンチング処理(打ち抜き)によって除去される。
微小金属異物検査装置2は、各種の検査装置等として、X線透過検査装置21、薬液吹付装置22、光センサ装置24、パンチング装置25、洗浄水吹付装置26、熱風乾燥装置27を備えている。これら各種の検査装置及び駆動モータ20cは、制御装置28に対し、制御可能な状態で電気的に接続されている。また、この微小金属異物検査装置2では、薬液吹付装置22と、光センサ装置24との間に所定時間(0〜1分間程度)、電極基板110を保持するためのダンサロール23が設けられている。この所定時間(電極基板110の保持時間)はダンサロール23において任意に設定可能となっている。そして、これら各種の検査装置等は、光学的手法による検査効率を向上させるため、検査対象物としての電極基板110と共に暗室20内に収容されている。さらに、暗室20には、排気ダクト装置29が設けられており、室内で揮発し、気中に存在する各種の化学物質が外部に排出されるように構成されている。
X線透過検査装置21では、制御装置28によって制御され、X線照射器21aにより所定速度で搬送される電極基板110にX線が照射される。そして、検査感度を調節したX線イメージセンサ21bによって、同電極基板110を透過したX線からX線透過検査信号(X線透過像)が取得され、同X線透過検査信号に基づいて、前記制御装置28を介して、例えば、図3に示すような微小金属異物Meとしての銅又は銅合金(黄銅等)や無害のニッケル粒子からなる金属粒子が検出される。
ここで、X線透過検査装置21としては、特に限定されるものでないが、東研(株)製、TFX110SX(型番)を用い、その検査尖値を70以上90以下に設定する。この「検査尖値」とは、同装置21の検査感度を示す指標であって、数字を小さく設定すると、判定が緩くなり、同装置21による刎ねだし(篩い落とし)の割合が減少し(誤検出が少なくなり)、数字を大きく設定すると、判定が厳しくなり、同装置21による刎ねだしの割合が増加する(誤検出が増加する)ようになる。
詳しくは、図4(a)に示すように、X線透過検査装置21の検査感度が低い状態(検査装置21の検査尖値が64未満の状態)では、銅又は銅合金からなる微小金属異物Meは、その粒径が300μmのものは検出可能であり、検査不合格とすることができる。ところが、その粒径が200μmのものは検出不可能であり、検査合格となってしまい、検査漏れとなる。尚、このとき、X線透過検査装置21において、図4(d)(i)に示すように、微小金属異物Me(粒径:300μm)のX線透過検査信号は、大きな信号強度S(S大)として検出される。また、図4(d)(ii)に示すように、微小金属異物Me(粒径:200μm)のX線透過検査信号は、中程度の信号強度S(S中)として検出される。
また、図4(b)に示すように、X線透過検査装置21の検査感度が中程度の状態(検査装置21の検査尖値が65を超え、84未満の状態)では、微小金属異物Meは、その粒径が100μmのものは検出可能であり、検査不合格とすることができる。ところが、このとき、本来検出すべきでないニッケル粒子も検査不合格となり、誤検出が次第に増加するようになる。尚、このとき、図4(d)(iii)に示すように、X線透過検査装置21において、微小金属異物Me(粒径:100μm)のX線透過検査信号は、小さな信号強度S(S小)として検出される。
さらに、図4(c)に示すように、X線透過検査装置21の検査感度が高い状態(検査装置21の検査尖値が85を超える状態)では、微小金属異物Meは、その粒径が100μmのものは当然に検出可能であり、検査不合格とすることができる。ところが、このとき、ニッケル粒子の検査不合格となる頻度が増え、誤検出がさらに増加するようになる。
図2に戻り、薬液吹付装置22では、微小金属異物Meとして検出すべき金属(ここでは、銅)の存在下で発光する試薬を含む薬液がオンラインで電極基板110に吹き付けられる(付着される)。
詳しくは、試薬としてルミノール(Luminol:5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-フタラジンジオン)を用い、該ルミノールを含む前記薬液は、純水中にアルカリ性物質としてアンモニアを含んでアルカリ性を呈するようにしている。ここで薬液(水溶液)をアルカリ性としているのは、ルミノールによる緑青色の強い化学ルミネセンス現象(発光現象)は、アルカリ性の水溶液においてルミノールの酸化に随伴して発生するものだからである。
具体的には、薬液としては、ルミノール(分子式:C8H7N3O2)-過酸化水素(化学式:H2O2)-アンモニア(化学式:NH4OH)の3元系試薬を純水に溶かしたものを用いる。このようにアンモニアを用いるのは、銅を光触媒とするルミノールの化学ルミネセンス現象(発光現象)を促進するためである。つまり、アンモニアが銅に配位して水溶性の銅アンミン錯体が生成し、水溶液である薬液に対する銅の溶解性(銅のイオン化)が促進される。これにより、銅を光触媒とするルミノールの発光現象が効果的に増強されるようになる。
ここで、ルミノールの濃度は、溶媒としての純水に対して、0.05質量%以上1質量%以下、好ましくは、0.05質量%以上0.08質量%以下の範囲とすることがよい。これにより、ルミノールの濃度が0.05質量%未満となることで当該ルミノールの発光強度が低下してしまうことがなくなるとともに、ルミノールが1質量%を超える場合にその使用量が過多となり、コスト増につながることが解消されるようにもなる。
また、酸化剤である過酸化水素の濃度は、溶媒としての純水に対して、1質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることにより、ルミノールを含む薬液のpHをその発光現象の発生に適する10〜11とすることができる。尚、この過酸化水素は、揮発性が良好であり、電極基板110を熱風乾燥等することによってほぼ完全に除去することができ、作業環境を汚染する度合も少なくて済む。
さらに、アンモニアの濃度は、後述する<実験例1>における表1に示す実験結果に基づき、溶媒としての純水に対して2質量%以上4質量%以下の範囲とすることが好ましい。これにより、アンモニアが2質量%未満となることでルミノールの発光強度が低下してしまうことがなくなるとともに、アンモニアが4質量%を超える場合にその使用量が過多となり、臭気が強くなって作業環境の悪化や作業者の健康被害につながることや、さらにはコスト増につながることが解消されるようにもなる。
図2に示すように、光センサ装置24では、光電子増倍作用を有し、微弱な光の光量を増倍するイメージインテンシファイア24aを用いて、電極基板110において薬液により発光した部分が検出される。そして、イメージインテンシファイア24aからビデオ信号が制御装置28に出力され、同制御装置28において画像処理が行われ、コントラストがついたイメージ画像が得られる。尚、この光センサ装置24は、イメージインテンシファイア24aの光電子増倍効果による発光の検出効果を向上させるため、暗室化されている。つまり、本実施形態において、ルミノールの発光現象が検出される環境は、この光センサ装置24及び暗室20によって2重の暗室とされている。また、後述する<実験例1>における表1及び<実験例2>における表2に示す実験結果より、イメージインテンシファイア24aによって検出に必要なルミノールによる発光現象は、薬液を検査対象物に塗布した後、3秒後に開始し、その発光強度は30秒後にほぼ一定となり、以降、この発光強度のままで発光現象が継続することが確認されている。このため、電極基板110が薬液吹付装置22と光センサ装置24との間を通過する時間は、イメージインテンシファイア24aによって検出可能な光量を得る観点から、ダンサロール23において3秒以上30秒以下、好ましくは3秒以上10秒以下に設定することが好ましい。
本実施形態において、イメージインテンシファイア24aとしては、特に限定されるものでないが、DELFT社製,XX2050(型番)を用い、その光増倍率(ゲイン)を10000倍に設定する。すると、粒径が100μm以上の銅又は銅合金からなる微小金属異物Meについては、ルミノールの発光現象が発生し、最終的に検査不合格となしうる一方、X線透過検査装置21で異物として検出され、検査不合格となったニッケル粒子については、ルミノールの発光現象が発生せず、最終的に検査合格となしうる。
即ち、前述したように、本実施形態では、無害のニッケル粒子の誤検出がない状態で、粒径が100μm以上の銅又は銅合金からなる微小金属異物Meを検出し、当該微小金属異物Meを含む部分を不良部分として電極基板110から除去することを目的としている。このため、図4(a)〜図4(c)に示す低感度から高感度までのいずれの検査感度にX線透過検査装置21を設定しても、このX線透過検査装置21だけでは、目的を達成できないことになる。
ところが、本実施形態のように、X線透過検査装置21に加え、薬液吹付装置22及び光センサ装置24を用いることにより、図4(b)に示す中程度の検査感度(65<検査尖値<84)にX線透過検査装置21を設定し、さらにこの検査感度において、光センサ装置24で検査することで下表Aに示すような結果が得られる。即ち、X線透過検査装置21において、本来検出すべき微小金属異物Meの検査漏れを少なくするために検査感度を高めである中程度に設定することによって、微小金属異物Me以外の異物であるニッケル粒子が検出された場合でも、薬液吹付装置22によって、本来検出すべきでないニッケル粒子の検出を排除することができるようになる。
下表Aに、本実施形態の微小金属異物検査装置2において、X線透過検査における検査感度を3段階に変更した場合の微小金属異物Meの検査結果を示す。
上表Aより、検査感度が低の(1)では、微小金属異物Meが全く検出されず、発光による検査結果を踏まえた異物を見逃す割合(頻度)は大であり、総合評価で「不適」となった。また、検査感度が中の(2)では、微小金属異物Meが検出され、ニッケル粒子(Ni粒子)の誤検出が次第に増加するが、異物を見逃す割合(頻度)は中程度であって、パンチング処理の頻度(回数)は過多とならず、これにより総合評価で「適」の結果が得られた。さらに、検査感度が高の(3)では、微小金属異物Meが検出され、異物を見逃す割合は小となるが、ニッケル粒子の誤検出がさらに増加し、検査回数の増大により、総合評価で「不適」となった。
そして、図2に示すように、パンチング装置25では、制御装置28によって制御され、電極基板110において検出された発光部分が、微小金属異物Meである銅又は銅合金が存在する不良部分として、例えば、パンチング刃25aを用いたパンチング処理によって選択的に除去される。
図5に示すように、本実施形態では、X線透過検査装置21、薬液吹付装置22、光センサ装置24、及びパンチング装置25による異物の各検査及び除去操作は、検査対象物としての電極基板110を幅方向に並列する3列(複数列)の帯状領域I,II,IIIに区分し、各帯状領域I,II,IIIごとにオンラインで行われるように構成している。
具体的には、電極基板110の検査工程にX線透過検査装置21を配置し、各帯状領域I,II,IIIにおいて、それぞれ、X線照射器21aとX線イメージセンサ21bとを対向させた状態で検査対象物としての電極基板110を挟み込む。そして、各X線照射器21aから出射され、電極基板110を透過したX線から、X線イメージセンサ21bによりX線透過検査信号(X線透過像)を取得する。
次に、各帯状領域I,II,IIIにおいて、それぞれ薬液吹付装置22を配置し、前記薬液をオンラインで電極基板110に吹き付ける。
続いて、電極基板110の検査工程に暗室化された光センサ装置24を配置し、各帯状領域I,II,IIIにおいて、それぞれイメージインテンシファイア24aによって、前記薬液により発光した部分を検出する。
そして、各帯状領域I,II,IIIにおいて、パンチング装置25を配置し、パンチング刃25aを用いたパンチング処理により、電極基板110において、検出された発光部分の周辺を直径1cm程度の大きさのパンチング孔110aにて穿孔することで、微小金属異物Meである銅又は銅合金が存在する不良部分として選択的に除去するようにしている。
図2に戻り、洗浄水吹付装置26では、制御装置28によって制御され、電極基板110に残存した薬液を洗い落とすべく、純水からなる洗浄液が噴射される。ここでは、複数の噴射ノズル26a,…が設けられており、各噴射ノズル26a,…から電極基板110に向けて洗浄液が噴射され、使用後の洗浄液は、図示しない回収槽にて回収されるように構成されている。
熱風乾燥装置27では、制御装置28によって制御され、電極基板110に残存した洗浄液としての純水が、残存した薬液と共にブロワ27aからの熱風により乾燥され、除去される。そして、乾燥後の電極基板110は、前記フープ20bに巻き取られる。
尚、これらの洗浄水吹付装置26及び熱風乾燥装置27は、パンチング処理後の電極基板110の状態、例えば、電極基板110へのアンモニアの残存状態に応じて適宜省略することが可能である。
<実験例1>
本実験例1では、ルミノール、過酸化水素の添加量をそれぞれ純水に対して0.1質量%、2質量%で固定するとともに、アンモニア(NH4OH)の濃度を変化させて各種の薬液を調整し、各薬液のpH、臭気、検査対象物に塗布した場合のルミノールの発光強度をオフライン(固定状態、非搬送状態)で評価した。ここでは、検査対象物として、発泡ニッケル板上に、微小金属異物Meに見立てた黄銅の粒子(粒径:100μm)が付着したものを用いた。また、検査装置として、前記光センサ装置24(図2参照)を使用し、イメージインテンシファイア24aの光増倍率(ゲイン)を10000倍に設定し、前記薬液により発光した部分を検出した。得られた結果を下表1に示す。
本実験例1において、ルミノールによる発光現象(イメージインテンシファイア24aにより検出に必要な発光)は、前記薬液を検査対象物に塗布した後、3秒後に開始した。これは、薬液に対し、黄銅から銅がイオン化して溶出するまでに少なくとも3秒程度を要するためと推定される。したがって、前記検査対象物として電極基板110を使用し、オンラインで発光を検出する場合、薬液を電極基板110に吹付けてから発光の検出までに少なくとも3秒以上の時間差を設定することが好ましい。また、オンラインでルミノールによる発光現象を検出する場合は、発光の残像が線状に観察されるので、検出が容易となることが確認された。
尚、本実験例1において、微小金属異物Meとしての黄銅によるルミノールの発光現象を検出するために最適な薬液は、得られる発光強度に加えて、さらにアンモニアの臭気を考慮し、ルミノールを0.1質量%、過酸化水素を2質量%、アンモニアを2質量%をそれぞれ純水中に含むものであることが確認された。
<実験例2>
本実験例2では、検査対象物として、150μm、250μm、500μmと粒径の異なる金属粒子(ここでは、銅粒子)を発泡ニッケル板上に付着させたものをそれぞれ用意し、微小金属異物Meに見立てた金属粒子の粒径(μm)別に、時刻及び発光現象の関係、並びに発光面積をオフラインで調査した。ここでは、薬液は、ルミノールを0.1質量%、過酸化水素を2質量%、アンモニアを2〜4質量%をそれぞれ純水中に含むものを用いた。また、ここでは、<実験例1>と同様、前記光センサ装置24を使用し、イメージインテンシファイア24aの光増倍率(ゲイン)を10000倍に設定し、前記薬液により発光した部分を検出した。得られた結果を下表2に示す。
尚、本実験例2において、金属粒子の粒径(μm)に依らず、ルミノールは、該ルミノールを含む薬液を検査対象物に添加した直後から発光を開始し、その発光強度は30秒後にほぼ一定となり、以降、この発光強度のままで発光現象が継続した。また、発光面積は、金属粒子の粒径(μm)の影響が見られ、粒径が大きい程、発光面積が大きくなる傾向が観察された。これは、薬液に溶出した銅イオンが金属粒子の周囲に滞留したためであり、金属粒子の粒径が大きい程、銅イオンの滞留が大きいためと考えられる。
次に、図6を参照しながら、前記した微小金属異物検査装置2によって実施される微小金属異物検査方法について説明する。本検査方法によって、アルカリ蓄電池1に配設される所定形状の正極板11aに混在する銅又は銅合金等の微小金属異物が除去される。尚、本検査方法は、微小金属異物検査装置2によって実施されるものであるが、他の構成の微小金属異物検査装置によっても実施されうるものである。
図6に示すように、まず、検査対象物として、フープ20aに巻回された発泡ニッケル(発泡Ni)を芯材とする長尺の電極基板110を用意するとともに、該フープ20aから電極基板110を巻き取るための速度を設定する(S101)。ここでは、制御装置28によって、該巻き取り速度は、電極基板110を駆動モータ20cによりフープ20bに巻き取るための初期値の搬送速度としての0.17m/secに設定する。
次に、フープ20aから電極基板110を前記速度で巻き取る(S102)。そして、搬送される電極基板110にオンラインでX線を照射してX線透過像を取得し、該X線透過像に基づいて、電極基板110に銅又は銅合金からなる微小金属異物Me(図3参照)が存在するか否かを検出する(S103;X線透過検査工程)。ここでは、X線透過検査装置21のX線照射器21a(図2,図5参照)により電極基板110にX線を照射し、イメージセンサ21b(図2,図5参照)によって、同電極基板110を透過したX線からX線透過検査信号(X線透過像)を取得し、該X線透過検査信号に基づいて制御装置28を介して異物を検出する。
次いで、異物が検出された部分に、銅(銅イオン)の存在下で発光する試薬を純水中に含む薬液をオンラインで付着させる(S104;薬液付着工程)。ここでは、試薬としてルミノールを使用し、薬液には、純水を溶媒として、ルミノールを1質量%、アンモニアを2質量%、過酸化水素を2質量%含むアルカリ性の水溶液を用いる。尚、ルミノールは、十分な発光量が確保される限り、0.05質量%以上1質量%以下の範囲内で適宜変更することができる。
続いて、電極基板110上において、前記薬液により発光した部分を検出する(S105;発光部分検出工程)。ここでは、光センサ装置24のイメージインテンシファイア24a(図2,図5参照)を用いて、電極基板110上において、銅又は銅合金からなる微粒子(図3参照)が存在し、薬液により発光した部分が検出される。
そして、検出された発光部分を微小金属異物Meが存在する不良部分として選択的に除去する(S106;不良部分除去工程)。ここでは、当該不良部分がパンチング装置25(図2,図5参照)によってパンチング処理により除去される。
この際、前記制御装置28によって、パンチング装置25が実行したパンチング処理が発生した頻度(回数/sec)が所定のサンプリング周期でカウントされる(S107)。そして、同制御装置28において、この頻度が所定の規定値と比較され、同規定値より小さいと判断された場合には、制御装置28により駆動モータ20cが制御され、ステップS101において、フープ20aの巻き取り速度が増加される(S108a)。
一方、それ以外の場合、即ち、規定値より大きいかほぼ等しい場合には、ステップS109に進み(S109)、当該ステップS109において、同規定値より大きいと判断された場合には、制御装置28により駆動モータ20cが制御され、ステップS101において、フープ20aの巻き取り速度が減少される(S109a)。
そして、所定の規定値にほぼ等しいと判断された場合には、フープ20aの巻き取り速度が維持されるとともに、電極基板110への洗浄水吹付処理(S110)、熱風による乾燥処理(S111)が行われ、最後にフープ20bに巻き取られる(S112)。
尚、本実施形態では、パンチング装置25によるパンチング処理の頻度に依らず、各帯状領域I,II,IIIにおいて、パンチング刃25aを用いて電極基板110に穿孔するパンチング孔110aの面積は直径1cm程度の一定の大きさとしている。
そして、フープ20bに巻き取られた電極基板110は、その後の製造工程において、正極板11aと同様の所定形状のものが複数枚採取可能な大板に切断成形される。さらにこの後、パンチング処理がなされた不合格品は、規定質量との比較によって篩い落とされて製造工程のラインから外される。一方、規定質量を満足した大板の合格品には、さらに正極活物質層が塗布形成され、圧延後、切断されて正極板11a(図1(b)参照)となり、アルカリ蓄電池1の製造に供される。
一方、従来公知の方法により、水素吸蔵合金の微粉末に導電剤、結着剤を添加してペースト状とし、金属多孔板(パンチングメタル)に塗着、プレスしたものからなる負極板11bも作製しておく。
その後、従来公知の方法に従い、発電要素11を作製するとともに、正極板11aに正極集電板16aを溶接接合し、負極板11bに負極集電板16bを溶接接合する。そして、この接合体を電池容器10に収容し、外部正極端子12aと一端に配置された正極集電板16a、外部負極端子12bと他端に配置された負極集電板16b、及び、それ以外の正極集電板16aと負極集電板16bを、それぞれ溶接接合する。その後、電池容器10内に電解液を注入することにより、本実施形態のアルカリ蓄電池1が完成する。
本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)X線透過検査工程(S103)において、電極基板110上の異物をその大きさに基づいてオンラインで検出し、さらに異物が検出された部分に、薬液付着工程(S104)において、電池の短絡の原因となる微小金属異物Meとして検出すべき金属(ここでは、銅)の存在下で発光する試薬を含む薬液をオンラインで付着させる。このため、容易に異物が検出された部分にのみ集中的に薬液を付着させることができることから、電極基板110の全幅方向に亘って薬液を付着させる必要があるオフラインでの検査等に比較して薬液の使用量が少なくて済むようになる。またこのため、X線透過検査工程(S103)において、本来検出すべき微小金属異物Me(図3参照)の検査漏れを少なくするために検査感度を高めに設定することによって、微小金属異物Me以外の異物が検出された場合でも、薬液付着工程(S104)において、本来検出すべきでないニッケル粒子等の異物の検出を排除することができるようになる。つまり、検出感度を一定値とし、電極基板110上の異物をその大きさに基づいて単一の工程で検出するだけの場合と比較して、微小金属異物Meの検査漏れを低減することができるとともに、微小金属異物Me以外の異物を誤って検出してしまう誤検出も低減することができるようになる。そしてこれにより、微小金属異物Meを電極基板110から高い精度で選択的に除去することができるようになる。
(2)X線透過検査工程(S103)では、検査対象物としての電極基板110にオンラインでX線を照射して透過させ、得られたX線透過検査信号に基づいて電極基板110上にて異物が存在する部分を特定するようにした。このようにX線を用いることにより、可視光が透過せず、不透明な電極基板110においても効率的に異物が存在する部分を特定することができる。また、X線の照射によって、電極基板110を変質や損傷させる虞も一切ない。
(3)発光部分検出工程(S105)では、イメージインテンシファイア24aを用いて薬液により発光した部分、即ち、本来検出すべき微小金属異物Meが存在する部分が検出されるので、当該微小金属異物Meが存在する不良部分を高感度で特定することができる。この結果、微小金属異物Meをさらに高い精度で選択的に除去することができるようになる。
(4)微小金属異物Meの検出に用いる試薬がルミノールであるので、銅や鉄を光触媒とするルミノールの発光現象(化学ルミネセンス現象)を利用して銅又は銅合金からなる微小金属異物Meを感度良好に検出することができるようになる。しかも、試薬としてルミノールを含む薬液は、三次元の網目構造を有する発泡ニッケル板によく滲み込むことから、電極基板110の内部に存在する微小金属異物Meとしての銅又は銅合金をもルミノールの発光現象を利用して感度良好に検出することができるようになる。
(5)電極基板110においては、異物が検出された部分に、微小金属異物Meとして検出すべき金属(ここでは、銅)の存在下で発光する試薬が溶媒としての純水に含まれる薬液を選択的に付着させるので、電極基板110の全幅方向に亘って薬液を付着させる場合と比較して、薬液の使用量の節減を図ることができるようにもなる。
(6)微小金属異物Meの検出に用いる薬液には、アンモニアが含まれるので、当該アンモニアが銅に配位して水溶性の銅アンミン錯体が生成し、水溶液である試薬に対する銅の溶解性が高められる。これにより、銅を光触媒とするルミノールの発光現象(光ルミネセンス現象)が促されるようになる。また、アンモニアは、粘度が低い溶媒であり、発泡ニッケル板への浸透性が良好である。この結果、銅又は銅合金からなる微小金属異物Meの検出感度がさらに高められ、当該微小金属異物をさらに高い精度で選択的に除去することができるようになる。また、アンモニアは、それ自体が−OH基を放出する溶媒であるため、当該薬液がアルカリ性となり、ルミノールが容易に溶解し、アルカリ性水溶液下でのルミノールの発光現象を生じさせることができる。そしてこれによって使用する化学物質の使用量の節減ができるようにもなる。また、アンモニアは80℃程度でほぼ完全に揮発するので、電極基板110を熱風乾燥することによってほぼ完全に除去することができ、アンモニアによる環境汚染や作業者の健康被害も効果的に抑制しうる。さらに、アンモニアは、入手が容易であり、安価であって、工業的に大量に使用することに適しているという利点も備えている。
(7)検査対象物としての電極基板110をその幅方向に並列する3列(複数列)の帯状領域I,II,IIIに区分し、各帯状領域I,II,IIIごとにオンラインで微小金属異物Meの検査を行うようにした。これにより、3列(複数列)の帯状領域I,II,IIIによって、電極基板110が幅方向に3つ(複数)に分割されて異物が検査されるようになる。つまり、1次スクリーニング工程としてのX線透過検査工程(S103)において、各帯状領域I,II,IIIごとに異物が検出され、当該異物に対して、薬液付着工程(S104)において、各帯状領域I,II,IIIの範囲内で薬液が付着されることになる。このため、電極基板110が全幅方向に亘って同時に検査され、当該全幅方向に亘って薬液が付着される場合と比較して、薬液の付着面積が小さくて済むようになり、それに伴い、当該薬液の使用量がさらに節減されるようになる。
(8)不良部分除去工程(S106)では、電極基板110の厚さ方向に打ち抜くパンチング処理により電極基板110の不良部分を除去するようにした。このため、電極基板110を短冊状に切り取って正極板11aを採取する場合に、パンチング処理によりパンチング孔110aが穿孔された正極板11aについては、その質量が規定質量より減少するので、その質量を測定することで、微小金属異物Meが存在しない良品の正極板11aと選別することができるようになる。
(9)パンチング処理の頻度に応じ、該頻度が規定値より小さい場合には、電極基板110の搬送速度を高めるとともに、該頻度が規定値より大きい場合には、電極基板110の搬送速度を低くし、さらに、該頻度が規定値とほぼ等しい場合には、電極基板110の搬送速度を維持するようにした。このため、パンチング処理の頻度を時間当たりほぼ一定割合に保つことができるようになり、パンチング処理の頻度が多い場合に、各種の検査装置やパンチング装置25の負担を下げ、検査ミスの発生を未然に防止することができるとともに、パンチング処理の頻度が少ない場合に、正極板11aの製造速度を上昇させ、その生産効率を高めることができるようにもなる。
(10)以上の結果、電極基板110から高い収率で正極板11aを形成する(採取する)ことができるようになり、製造コストの節減につながる。しかも得られる正極板11aも微小金属異物Meの付着(混在)が僅少のものとなって、最終的に高い信頼性を有するアルカリ蓄電池1が得られるようになる。
尚、上記実施形態は以下のように変形してもよい。
・上記実施形態では、試薬としてルミノールを用いた。しかしこれに限られず、特に銅を光触媒とする化学ルミネセンス現象を生じるものであれば、他の化合物、例えば、緑青色の強い化学ルミネセンスを生じるルシゲニン(lucigenin)、ロフィン(lophine)等の含窒素複素環式化合物を用いることもできる。
・上記実施形態では、検出された発光部分を微小金属異物Meが存在する不良部分として選択的に除去するにあたり、当該不良部分をパンチング(打ち抜き)によって除去するようにした。しかしこれに限られず、オンラインでの除去に適した方法であれば、その他の不良部分除去方法を用いることも可能である。また、不良部分のパンチングによる除去は、一旦電極基板110から正極板11aの原料となる大板を切断形成した後、当該大板について、オフラインで行うことも可能である。さらには、単に電極基板110の不良部分近傍にインク等を用いて印を付けるマーキングを施すだけでもよい。これによれば、後の工程において、電極基板110の何処が不良部分であるかを容易に判別できるので、オンラインでの除去を含め、生産上最も都合の良い工程で不良部分を排除できるようになる。また、これによれば、オンラインで正極活物質層を塗布形成する場合に工程上妨げとなるパンチング孔110a(図5参照)が電極基板110に形成されることがなくなるので、オンラインで正極活物質層を塗布形成する場合に好都合となる。
・上記実施形態では、パンチング装置25が実行したパンチング処理の頻度に応じ、該頻度が規定値より小さい場合には、電極基板110のフープ20bへの巻き取り速度(電極基板110の搬送速度)を高めるとともに、該頻度が規定値より大きい場合には、該巻き取り速度を低くし、さらに、該頻度が規定値とほぼ等しい場合には、該巻き取り速度を維持するようにした。具体的には、前述したように、パンチング処理の頻度に応じ、フープ20aの巻き取り速度をオンオフ制御によって変更するようにした。しかしこれに限られず、その他の制御方式、例えば、パンチング処理の頻度に応じ、フープ20aの巻き取り速度をPID制御によって変更することもできる。また、制御の指標としては、パンチング処理の頻度に代えて、不良部分の発生頻度を用いることも可能である。
・上記実施形態では、X線透過検査装置21、薬液吹付装置22、光センサ装置24、及びパンチング装置25による各検査は、検査対象物としての電極基板110を幅方向に並列する3列(複数列)の帯状領域I,II,IIIに区分し、各帯状領域I,II,IIIごとにオンラインで微小金属異物の検査を行うように構成した。しかしこれに限られず、前記した各検査は、検査対象物としての電極基板110を幅方向に並列する2列又は4列以上の帯状領域に区分し、各帯状領域ごとにオンラインで微小金属異物の検査を行うように構成してもよい。また、このような帯状領域に区分することは必ずしも必須ではない。
・上記実施形態では、パンチング装置25によるパンチング処理の頻度に依らず、各帯状領域I,II,IIIにおいて、パンチング刃25aを用いて電極基板110に穿孔するパンチング孔110aの面積は一定の大きさとした。しかしこれに限られず、パンチング処理の頻度が規定値より大きい場合に、微小金属異物Meを除去するためのパンチング孔110aの面積(電極基板110の面積)を拡大することも可能である。これにより、微小金属異物Meが検出された部分の周囲に高い確度で存在すると考えらえる微小金属異物検査装置2の検出限界を超えた微小な金属異物をも除去することが可能となり、得られるアルカリ蓄電池の信頼性をさらに向上することができる。
さらに、前記した実施形態および変形例より把握できる技術的思想について以下に記載する。
○アルカリ蓄電池に配設される正極板が形成される電極基板に混在する微小金属異物の除去方法であって、
前記電極基板を検査対象物とし、当該電極基板の異物をその大きさに基づいてオンラインで検出する1次スクリーニング工程と、
前記異物が検出された部分に、異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬を含む薬液をオンラインで付着させる薬液付着工程と、
前記電極基板において、薬液により発光した部分を検出する発光部分検出工程と、
前記検出された発光部分を微小金属異物が存在する不良部分として選択的に除去する不良部分除去工程とを備えることを特徴とする微小金属異物の除去方法。
同構成によれば、1次スクリーニング工程において、電極基板の異物をその大きさに基づいてオンラインで検出し、さらに異物が検出された部分に、薬液付着工程において、電池の短絡の原因となる微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬を含む薬液を付着させる。このため、1次スクリーニング工程において、本来検出すべき微小金属異物の検査漏れを少なくするために検査感度を高めに設定することによって、微小金属異物以外の異物が検出された場合でも、薬液付着工程において、本来検出すべきでない異物の検出を排除することができるようになる。つまり、検査感度を一定値とし、電極基板の異物をその大きさに基づいて単一の工程で検出するだけの場合と比較して、微小金属異物の検査漏れを低減することができるとともに、微小金属異物以外の異物を誤って検出してしまう誤検出も低減することができるようになる。そしてこれにより、微小金属異物を電極基板から高い精度で選択的に除去することができるようになる。しかも、電極基板においては、異物が検出された部分に、微小金属異物として検出すべき金属の存在下で発光する試薬が溶媒に含まれる薬液を選択的に付着させるので、電極基板の全幅方向に亘って薬液を付着させる場合と比較して、薬液の使用量の節減を図ることができるようにもなる。以上の結果、電極基板から高い収率で正極板を形成する(採取する)ことができるようになり、製造コストの節減につながる。
○アルカリ蓄電池に配設される正極板の製造方法であって、所定形状の正極板が形成される電極基板に存在し、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属を含む異物を同電極基板から除去すべく、前記技術的思想の微小金属異物の除去方法を用いることを特徴とする電極基板の製造方法。
同構成によれば、前記微小金属異物の除去方法を用いることで、微小金属異物の付着が僅少であり、高い品質を備える正極板を高い収率で製造することができるようになる。
○正極板が設けられるアルカリ蓄電池の製造方法であって、所定形状の正極板が形成される電極基板に存在し、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属を含む異物を同電極基板から除去すべく、前記技術的思想の微小金属異物の除去方法を用いることを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。
同構成によれば、前記微小金属異物の除去方法を用いることで、正極板への微小金属異物の付着が僅少であり、高い信頼性を有するアルカリ蓄電池を製造することができるようになる。
1…アルカリ蓄電池、2…微小金属異物検査装置、11a…正極板、11b…負極板20a、20b…フープ、21…X線透過検査装置、22…薬液吹付装置、23…ダンサロール、24…光センサ装置、24a…イメージインテンシファイア、25…パンチング装置、110…電極基板、I,II,III…帯状領域、Me…微小金属異物。