以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
(実施形態1)
図1は、ベルト式無段変速機を備えた車両の動力伝達部分における全体を示す構成図である。図1に示すように、車両100は、動力発生手段としての内燃機関120から取り出された回転が、トルクコンバータ130と、前後進切換機構140と、ベルト式無段変速機110と、減速装置150と、差動装置160と、ドライブシャフト170とを介して車輪180に伝えられる。これにより、車輪180は回転し、車輪180が路面に前記回転を伝達する。このようにして、車両100は走行する。
ベルト式無段変速機110は、入力側回転体としてのプライマリプーリ50と、出力側回転体としてのセカンダリプーリ60と、ベルト80とを含んで構成される。ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50に回転が入力される。プライマリプーリ50に入力された回転は、回転速度が調節されてセカンダリプーリ60に伝えられる。
セカンダリプーリ60に伝えられた回転は、減速装置150に伝えられる。なお、入力軸であるプライマリシャフト51の回転速度をセカンダリシャフト61の回転速度で除算した値を変速比という。また、変速比を変更することを、以下、変速という。
ベルト式無段変速機110は、例えば、プライマリプーリ50がベルト式無段変速機110の変速比を調節し、セカンダリプーリ60がプライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間でのベルト80の張力を調節する。但し、プライマリプーリ50及びセカンダリプーリ60は、後述する可動シーブと固定シーブとの距離を変更する点で共通し、構成も同様である。よって、以下、プライマリプーリ50を主に説明する。
図2は、実施形態1に係るプライマリプーリを示す断面図である。プライマリプーリ50は、プライマリシャフト51と、プライマリ固定シーブ52と、可動部材としてのプライマリ可動シーブ53と、プライマリプーリ油圧室54と、スプライン部55と、プライマリシリンダ56と、作動油閉じ込み装置10とを備える。
プライマリシャフト51は、図1に示すように、軸受81、軸受82によってインプットシャフト131の回転軸と同軸上に回転可能に支持される。また、セカンダリシャフト61は、軸受83、軸受84によってプライマリシャフト51に対して平行に回転可能に支持される。
プライマリシャフト51は、筒状に形成される。図2に示すように、プライマリシャフト51は、回転軸RLを軸として回転する。プライマリ固定シーブ52は、通常、プライマリシャフト51と一体に形成される。なお、プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51と別個に形成され、プライマリシャフト51に固定して設けられてもよい。
プライマリ固定シーブ52は、回転軸RLを軸にプライマリシャフト51と一体に回転する。ここで、回転軸RLと直交する方向を径方向という。プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51の外周から径方向に突出して形成される。
プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51とは別個に形成される。プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51が嵌め込まれる貫通孔を有して形成される。
前記貫通孔の内周面には、スプライン部55が形成される。スプライン部55は、キー溝となるスプラインと、前記スプラインに嵌め込まれる凸部とが対になって構成される。ベルト式無段変速機110は、プライマリ可動シーブ53の前記貫通孔の内周面に前記スプラインが形成され、プライマリシャフト51の外周面に前記凸部が形成される。
プライマリ可動シーブ53は、前記スプラインが、プライマリシャフト51の凸部に嵌め込まれて、プライマリシャフト51に取り付けられる。プライマリ可動シーブ53は、プライマリ固定シーブ52と対向してプライマリシャフト51に嵌め込まれる。
スプライン部55は、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をプライマリシャフト51の回転軸RLに沿って摺動できるようにプライマリ可動シーブ53を支持する。加えて、スプライン部55は、回転軸RLを軸とする回転をプライマリシャフト51からプライマリ可動シーブ53へ伝える。
上記構成により、プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51と一体に回転すると共に、プライマリシャフト51上をプライマリ固定シーブ52に対して近づく方向及びプライマリ固定シーブ52に対して遠ざかる方向にスライドして移動する。
プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間には、略V字形状のプライマリ溝80aが形成される。また、セカンダリプーリ60にも、図1に示すように、プライマリ溝80aと同様のセカンダリ溝80bが形成される。プライマリ溝80aとセカンダリ溝80bとの間には、金属で形成された無端のベルト80が巻き掛けられている。これにより、ベルト80は、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間で回転を伝える。
プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をスライド移動することにより、プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との距離が変化する。また、プライマリ可動シーブ53の移動と共に、図1に示すセカンダリ可動シーブ63もセカンダリ固定シーブ62に対して移動する。これにより、ベルト式無段変速機110は変速比が変わる。以下にプライマリ可動シーブ53を移動させるための機構と変速比が変化するメカニズムとを説明する。
図2に示すように、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリシャフト51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリシリンダ56とによって囲まれて形成される空間である。プライマリシリンダ56は、第1開口56aと第2開口56bとを有して形成される。
第2開口56bは、第1開口56aよりも大きい開口である。プライマリシリンダ56は、第1開口56a及び第2開口56bにプライマリシャフト51が嵌め込まれる。ここで、プライマリシャフト51は、第2開口56bからプライマリシリンダ56に嵌め込まれる。
第2開口56bには、プライマリ可動シーブ53も嵌め込まれる。ここで、プライマリ可動シーブ53は、プライマリ可動シーブ53の一部分がプライマリシリンダ56の内壁面に接触する。なお、プライマリシリンダ56の内壁面とは、プライマリシャフト51の回転軸RL側の壁面である。本実施形態では、プライマリ可動シーブ53は、プライマリ可動シーブ53の最も径方向外側の部分がプライマリシリンダ56の内壁面に隙間無く接触する。
第1開口56aは、プライマリシャフト51と隙間無く接触する。これにより、プライマリシャフト51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリシリンダ56の内壁面とによって密閉された空間が形成される。この空間が、プライマリプーリ油圧室54である。
なお、例えば、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリシリンダ56とプライマリ可動シーブ53との隙間にシール部材を介在されて隙間が低減されている。しかしながら、プライマリ可動シーブ53はプライマリシリンダ56に対して摺動するため、プライマリ可動シーブ53とプライマリシリンダ56との間に微小な隙間が生じる。本実施形態では、このように実際は微小な隙間がある場合でも、隙間がないものとして説明する。
プライマリプーリ油圧室54には、作動油が供給されると、プライマリプーリ油圧室54内での前記作動油の圧力により、プライマリ可動シーブ53は、プライマリ固定シーブ52側へ押される。これにより、プライマリ可動シーブ53とプライマリ固定シーブ52との間の距離が小さくなる。
すると、ベルト80は、径方向外側へ移動する。ここで、ベルト80とプライマリ溝80aとが接触する部分と、回転軸RLとの距離を接触半径という。このようにして、プライマリプーリ油圧室54に作動油が供給されて、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52に近づく方向へスライド移動すると、プライマリプーリ50の接触半径が増加する。
一方、セカンダリプーリ60では、セカンダリ可動シーブ63はセカンダリ固定シーブ62から遠ざかる方向へスライド移動する。これは、ベルト80の長さは一定であり、ベルト80の張力を略一定に保つためである。ベルト式無段変速機110は、セカンダリプーリ60での接触半径を減少させることにより、ベルト80のプライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間の張力を略一定に保つ。
このようにして、プライマリプーリ50での接触半径とセカンダリプーリ60での接触半径とが変化することにより変速比が変化する。ここで、具体的には、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52側へ近づくと、変速比は小さくなる。つまり、ベルト式無段変速機110はいわゆるシフトアップする。一方、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52から遠ざかると、変速比は大きくなる。つまり、ベルト式無段変速機110はいわゆるシフトダウンする。
作動油閉じ込み装置10は、作動油が溜められるオイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に至るまでにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油が流れるメイン油路上に設けられる。作動油閉じ込み装置10は、プライマリプーリ油圧室54を強制的に閉じ込める手段である。なお、作動油閉じ込み装置10の詳細な構成の説明は後述する。
次に、作動油が溜められるオイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に至るまでにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油が流れるメイン油路の構成及び前記メイン油路上に設けられる各構成を説明する。
図3は、プライマリプーリ油圧室に供給される作動油が流れる油路を示す模式図である。以下、作動油の流れの上流側を単に上流側といい、作動油の流れの下流側を単に下流側という。
前記メイン油路は、図3に示すように、オイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、シャフト外メイン作動油用油路OL21と、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11と、シャフト内軸方油路OL01と、シャフト内径方油路OL02と、可動シーブ油路OL03とを含んで構成される。
シャフト外メイン作動油用油路OL21上には、オイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、オイルポンプOPと、調圧弁OR01と、流量調節弁OFとが設けられている。
オイルポンプOPは、シャフト外メイン作動油用油路OL21を介してオイルパンOT内の作動油を吸い上げて、下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21へ前記作動油を送る。
調圧弁OR01は、オイルポンプOPから送り出された作動油がシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して供給される。調圧弁OR01は、調圧弁OR01よりも下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21へ流す作動油の圧力を調節する。
調圧弁OR01によって作動油の圧力が調節された結果、調圧弁OR01に供給された作動油のうちシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して下流側の流量調節弁OFに供給されない作動油は、ドレン油路OLd01を介してオイルパンOTへ戻される。
流量調節弁OFは、調圧弁OR01によって圧力を調節されてシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して作動油が供給される。流量調節弁OFは、下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21へ流す作動油の流量を調節する。
流量調節弁OFによって流量が調節された結果、流量調節弁OFに供給された作動油のうちシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して下流側の作動油閉じ込み手段としての作動油閉じ込み装置10に供給されない作動油は、ドレン油路OLd02を介してオイルパンOTへ戻される。
シャフト外メイン作動油用油路OL21は、下流側の端部が作動油閉じ込み装置10に接続される。流量調節弁OFによって流量を調節された作動油は、シャフト外メイン作動油用油路OL21を介して下流側の作動油閉じ込み装置10に供給される。作動油閉じ込み装置10は、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11を有する。
作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11の一方の端部OL11aは、シャフト外メイン作動油用油路OL21と連通する。また、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11の他方の端部OL11bは、シャフト内軸方油路OL01と連通する。
シャフト内軸方油路OL01は、図2に示すように、回転軸RLに沿ってプライマリシャフト51に形成される。プライマリシャフト51には、回転軸RLに沿って軸方向孔57が形成される。シャフト内軸方油路OL01は、軸方向孔57の一部である。
具体的には、軸方向孔57は、開口としての入口57aと、閉塞部としての底部57bとが形成される。作動油閉じ込み装置10は、入口57aから軸方向孔57に挿入される。ここで、軸方向孔57の軸方向の長さは、作動油閉じ込み装置10の軸方向の長さよりも長く形成される。作動油閉じ込み装置10は、軸方向孔57に挿入される際に、端部OL11bが底部57bよりも浅い位置、つまり入口57a側に配置される。
このようにして、端部OL11bと底部57bとの間に形成された空間がシャフト内軸方油路OL01となる。シャフト内径方油路OL02は、一方の端部OL02aがシャフト内軸方油路OL01と連通し、他方の端部OL02bがプライマリシャフト51の外周面に開口する。
前記外周面とはプライマリ可動シーブ53と対向するプライマリシャフト51の側周部である。プライマリシャフト51の前記外周面と対向するプライマリ可動シーブ53の面をプライマリ可動シーブ53の内周面とする。
可動シーブ油路OL03は、プライマリ可動シーブ53に形成される。可動シーブ油路OL03は、一方の端部OL03aがシャフト内径方油路OL02の端部OL02bと連通し、他方の端部OL03bがプライマリプーリ油圧室54に開口する。ここで、端部OL03aは、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をスライド移動しても、常に空間部58を介して端部OL02bと連通するように構成される。
このようにして、作動油閉じ込み装置10の作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11を介してシャフト内軸方油路OL01に供給された作動油は、シャフト内径方油路OL02、空間部58、可動シーブ油路OL03を順に介してプライマリプーリ油圧室54に供給される。
また、プライマリプーリ油圧室54から排出される作動油は、可動シーブ油路OL03、空間部58、シャフト内径方油路OL02、シャフト内軸方油路OL01、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11を順に介してプライマリプーリ50の外部に排出される。次に、作動油閉じ込み装置10の構成を詳細に説明する。
図4は、作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。作動油閉じ込み装置10は、シリンダ11と、ピストン12と、油圧室構成部材13と、スナップリング14a及びスナップリング14bと、ピストン動作用油圧室15と、弁体16と、押付手段としてのスプリング17とを含んで構成される。なお、前記押付手段は、スプリング17に限定されない。押付手段は、例えば弾性部材であり、板バネや、ゴム等でもよい。
ここで、作動油閉じ込み装置10は、プライマリシャフト51の軸方向孔57に挿入されて配置されるため、プライマリシャフト51と共に回転軸RLを中心に回転する。しかし、以下では説明の便宜上、プライマリシャフト51が回転していないものとして説明する。
よって、実際はプライマリシャフト51と共に回転軸RLを軸に回転する部材であっても、プライマリシャフト51に対して相対移動しない部材を単に静止部材という。一方、プライマリシャフト51に対して相対移動する部材を可動部材という。
シリンダ11は、静止部材である。シリンダ11は、貫通孔11aを有するように筒状に形成される。シリンダ11は、外径が軸方向孔57の入口57aの内径と略同一に形成される。シリンダ11は、軸方向孔57に入口57aから挿入される。この際、軸方向孔57の内壁面と、シリンダ11の外周面との間の隙間を低減するために、軸方向孔57の壁面と、シリンダ11の外周面との間にはシール部材SL01が介在される。
ここで、軸方向孔57の内壁面には、例えば段差部57cが形成される。具体的には、段差部57cの位置より底部57b側の軸方向孔57の内径よりも、段差部57cの位置より入口57a側の軸方向孔57の内径の方が大きく形成される。また、シリンダ11の外径は、段差部57cより底部57b側の軸方向孔57の内径よりも大きい。これにより、シリンダ11は、底部57b側へ向かう軸方向の移動が段差部57cにより規制される。
また、シリンダ11は、段差部57c側と反対側の端部がスナップリング14aと接触する。スナップリング14aは、軸方向孔57の内壁面に形成された溝に嵌め込まれる。これにより、シリンダ11は、入口57a側へ向かう軸方向の移動がスナップリング14aにより規制される。
このようにして、シリンダ11は、段差部57cとスナップリング14aとによって挟まれて軸方向の移動が規制される。しかしながら、例えば、段差部57cは必ずしも形成されなくてもよい。シリンダ11に働く軸方向の力は、通常、シリンダ11が底部57bに近づく方向の力よりも、シリンダ11が入口57aに近づく方向の力の方が大きい。よって、シリンダ11は、少なくとも入口57a側へ近づく方向の移動が規制されればよい。
また、シリンダ11の入口57a側へ近づく方向の移動を規制する手段は、スナップリング14aに限定されない。例えば、軸方向孔57の内壁面にメスネジを形成し、シリンダ11の外周面にオスネジを形成して、シリンダ11は軸方向孔57の内部にねじ込まれて固定されてもよい。この場合であっても、シリンダ11は、軸方向の移動が規制される。
ピストン12は、軸方向に移動する可動部材である。ピストン12は、貫通孔12aを有するように筒状に形成される。ピストン12は、シリンダ11の貫通孔11aに先端部12bが挿入される。先端部12bの外径は、貫通孔11aの内径と略同一に形成される。ピストン12は、先端部12bの外周面がシリンダ11の貫通孔11aの内周面と接触しながら軸方向に移動する。このように、シリンダ11の貫通孔11aは、ピストン12の軸方向の移動をガイドする。
ピストン12は、段差部12cを有する。ピストン12は、段差部12cの位置より底部57b側の先端部12bの外径よりも、段差部12cの位置より入口57a側の大外径部12dの外径の方が大きく形成される。
また、シリンダ11は、段差部12cと対向する位置に段差部11bが形成される。シリンダ11は、段差部11bの位置より底部57b側の貫通孔11aの内径よりも、段差部11bの位置より入口57a側の貫通孔11aの内径の方が大きく形成される。また、段差部12cの位置より入口57a側の大外径部12dの外径は、段差部11bの位置より底部57b側の貫通孔11aの内径よりも大きく形成される。
これにより、ピストン12が底部57bに近づく方向に移動すると、段差部12cが段差部11bに当たる。これにより、ピストン12は、段差部12cが段差部11bに当たる位置よりも底部57b側へ移動できない。このようにして、ピストン12は、段差部11b及び段差部12cによって、ピストン12が底部57b側へ近づく方向の移動が規制される。
また、ピストン12は、最大外径部12mが形成される。最大外径部12mは、大外径部12dよりも入口57a側に形成される。最大外径部12mの外径は、軸方向孔57の内径と略同一に形成される。軸方向孔57の内壁面と、ピストン12の最大外径部12mの外周面との間の隙間を低減するために、軸方向孔57の内壁面と、最大外径部12mの外周面との間にはシール部材SL02が介在される。
油圧室構成部材13は、静止部材である。油圧室構成部材13は、貫通孔13aを有するように筒状に形成される。油圧室構成部材13は、ピストン12の大外径部12d部分の貫通孔12aに先端部13bが挿入される。
先端部13bの外径は、ピストン12の大外径部12dの内径と略同一に形成される。ここで、大外径部12dの内径は、具体的には、後述する段差部12eよりも入口57a側の貫通孔12aの径である。ピストン12は、大外径部12dの内周面が、油圧室構成部材13の先端部13bの外周面と接触しながら軸方向に移動する。このように、油圧室構成部材13は、ピストン12の軸方向の移動をガイドする。
また、油圧室構成部材13は、ピストン12の入口57a側への移動を規制する機能も実現する。ピストン12は、段差部12eを有する。段差部12eは、大外径部12dの貫通孔12aの内周面と、先端部12bの貫通孔12aの内周面との境目に形成される。段差部12eより入口57a側の貫通孔12aの内径は、段差部12eより底部57b側の貫通孔12aの内径よりも大きい。
油圧室構成部材13は、先端部13bが段差部12eよりも入口57a側の貫通孔12aに挿入される。ここで、油圧室構成部材13の端部13cは、ピストン12の段差部12eと軸方向に対向する。よって、ピストン12が、入口57a側へ移動すると、段差部12eが油圧室構成部材13の端部13cに当たる。これにより、ピストン12は、段差部12e及び油圧室構成部材13によって、ピストン12が入口57a側へ近づく方向の移動が規制される。
油圧室構成部材13は、段差部13eを有する。段差部13eは、ピストン12の最も入口57a側に形成されるピストン12の端面である受圧面12fよりも入口57a側に形成される。油圧室構成部材13は、段差部13eより入口57a側の大外径部13dの外径の方が、段差部13eより底部57b側の先端部13bの外径よりも大きく形成される。
ピストン動作用油圧室15は、例えば、ピストン12の受圧面12fと、油圧室構成部材13の先端部13bの外周面と、段差部13eの回転軸RLと直交する面と、軸方向孔57の内周面とで囲まれる空間である。
本実施形態では、油圧室構成部材13の大外径部13dの外周面と、軸方向孔57の内周面とで囲まれる空間を、ピストン動作用油圧室15に作動油を供給するためのピストン動作用第3油路OL14として取り扱う。但し、油圧室構成部材13の大外径部13dの外周面と、軸方向孔57の内周面とで囲まれる空間をピストン動作用油圧室15として取り扱ってもよい。ピストン動作用油圧室15は、受圧面12fに弁体16側にピストン12を押す力を与えられる構成であればよい。
ここで、作動油閉じ込み装置10は、ピストン12が最も入口57a側に位置する場合であっても、ピストン12の受圧面12fが段差部13eの回転軸RLと直交する面に接触しないように構成されると好ましい。つまり、作動油閉じ込み装置10は、段差部13eと受圧面12fとの間には常に隙間が存在するように構成される。これにより、作動油閉じ込み装置10は、受圧面12fの面積をより広く確保できる。
油圧室構成部材13は、最大外径部13fの外径が、軸方向孔57の内径と略同一に形成される。また、油圧室構成部材13は、最大外径部13fの外周面と軸方向孔57の内周面との隙間にシール部材SL03が介在される。これにより、油圧室構成部材13は、軸方向孔57に最大外径部13fが隙間無く挿入される。
また、油圧室構成部材13は、入口57a側の端部がスナップリング14bと接触する。スナップリング14bは、軸方向孔57の内壁面に形成された溝に嵌め込まれる。これにより、油圧室構成部材13は、入口57a側へ向かう軸方向の移動がスナップリング14bにより規制される。
シリンダ11は、貫通孔11aにピストン12の先端部12bが挿入される部分よりも底部57b側に弁孔11cと台座面11dとが形成される。弁孔11cは、設けられる位置の上流側と下流側とを連通する孔である。メイン作動油は、弁孔11cを介して流れる。弁孔11cの直径は、球体である弁体16の直径よりも小さい。台座面11dは、弁孔11cに近づくほど回転軸RLとの距離が小さくなる斜面である。
弁体16は、弁孔11cに入口57a側へ向かって押し付けられることにより、弁孔11cを塞ぐ。これにより、弁体16が弁孔11cに押し付けられている最中、弁孔11cよりも底部57b側の作動油は、弁孔11cよりも入口57a側へは流動できない。
スプリング17は、一方の端部が弁体16に固定され、他方の端部が静止部材に固定される。ここでは、スプリング17は、シリンダ11に固定された構造部材に他方の端部が固定される。スプリング17は、弁体16を弁孔11cに入口57a側へ向かって最低限の力で押し付ける。
ここで、スプリング17が弁体16を弁孔11cに押し付ける「最低限の力」を説明する。弁体16は、弁孔11cよりも底部57b側の作動油によって、自然と弁孔11cに押し付けられる。しかしながら、例えば、弁孔11cよりも入口57a側の作動油の圧力と、弁孔11cよりも底部57b側の作動油の圧力とが一致する場合、弁体16は弁孔11cに押し付けられない。
これにより、弁体16は、例えば、自重により弁孔11cから離れるおそれがある。また、弁体16は、振動や、メイン作動油の揺らぎ等のわずかな外力によって、弁孔11cから離れるおそれがある。スプリング17は、弁体16を弁孔11cに最低限の力で押し付けて、弁体16を弁孔11cの近傍に留める。
よって、前記最低限の力とは、弁孔11cよりも入口57a側の作動油の圧力と、弁孔11cよりも底部57b側の作動油の圧力とが一致する場合でも、弁体16を弁孔11c近傍に留めることができる力である。次に、作動油閉じ込み装置10が備える油路を説明する。
作動油閉じ込み装置10は、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11と、ピストン動作用第1油路OL12と、ピストン動作用第2油路OL13と、ピストン動作用第3油路OL14とを備える。
作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11は、貫通孔13aと、貫通孔12aとを含んで構成される。作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内は、図2に示すプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油が流れる。
一方、ピストン動作用第1油路OL12内、ピストン動作用第2油路OL13内、ピストン動作用第3油路OL14内は、ピストン12を弁体16側へ押すための作動油が流れる。ピストン動作用第1油路OL12は、回転軸RLに沿って油圧室構成部材13に形成される。
ピストン動作用第2油路OL13は、径方向に沿って油圧室構成部材13に形成される。ピストン動作用第2油路OL13は、一方の開口端がピストン動作用第1油路OL12に連通し、他方の開口端がピストン動作用第3油路OL14に連通する。
ピストン動作用第3油路OL14は、油圧室構成部材13の大外径部13dの外周面と軸方向孔57の内周面との間に形成される空間である。ピストン動作用第3油路OL14は、ピストン動作用油圧室15と連通する。上述したように、ピストン動作用第3油路OL14を、ピストン動作用油圧室15の一部として取り扱ってもよい。
ピストン12を弁体16側へ押すための作動油は、ピストン動作用第1油路OL12と、ピストン動作用第2油路OL13と、ピストン動作用第3油路OL14とを介してピストン動作用油圧室15に供給される。
ここで、ピストン12を弁体16側へ押すためにピストン動作用油圧室15に供給される作動油とプライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側へ押すためにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油とを区別するために、ピストン12を弁体16側へ押すためにピストン動作用油圧室15に供給される作動油をピストン動作用作動油という。
また、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側へ押すためにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油を、メイン作動油という。但し、本実施形態では、ピストン動作用作動油とメイン作動油とは、実際は同じ作動油である。
図5は、ピストンが底部側へ移動した後の作動油閉じ込み装置を示す断面図である。ピストン動作用油圧室15にピストン動作用作動油が供給され、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力が所定の圧力に達すると、ピストン12は、図5に示すように、段差部12cが段差部11bに当たるまで底部57b側へ移動する。
すると、ピストン12の弁体16側の端部である先端部分12gが弁体16を底部57b側へ押す。これにより、弁体16は、弁孔11cから離れて底部57b側へ移動する。これにより、弁孔11cと弁体16との間に隙間が生じる。メイン作動油は、前記隙間を流れて、シャフト内軸方油路OL01から弁孔11cを介して作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11に向かって流れる。
図6は、ピストンの先端と弁体とを拡大して示す図である。図6に示すように、先端部分12gは、スリット12hが形成される。スリット12hは、例えば、軸方向に沿って先端部分12gの底部57b側の端部から入口57a側に向かって形成される。スリット12hは、貫通孔12aの内部と外部とを連通する。本実施形態では、先端部分12gは、例えば、3つのスリット12hを有する。
これにより、先端部分12gには、図6に示すように3つの突起部12jが形成される。弁体16は、この3つの突起部12jにより底部57b側へ押される。ここで、弁体16は、例えば、1つの突起部により底部57b側へ押されるよりも、複数の突起部12jにより底部57b側へ押される方が好ましい。
弁体16は、複数の突起部12jにより底部57b側へ押される方が、1つの突起部により底部57b側へ押されるよりも、弁体16と突起部12jとの接点が増える。前記接点が増えるとピストン12が弁体16を押すための支点が増えるため、ピストン12はより安定して弁体16に対して力を与える。
また、弁体16と突起部12jとの接点が増えると、弁体16と突起部12jとの接触面積も大きくなる。ここで、与えられる力が同じであれば、接触面積が大きいほど、接触部分の摩耗は抑制される。よって、ベルト式無段変速機110は、複数の前記突起部で弁体16を押すことにより、弁体16及び前記突起部の摩耗を抑制できる。
また、先端部分12gの弁体16と接触する端部は、弁体16の形状に合わせてテーパ面12iが形成される。これにより、先端部分12gは、端部にテーパ面12iが形成されない場合よりも、端部にテーパ面12iが形成される場合の方が、弁体16と接触する際により広い面で弁体16と接触する。よって、弁体16は、先端部分12gとの接触による摩耗が抑制される。
なお、1つの突起部により弁体16を押す場合も、突起部の先端には正確には面が形成されている。よって、従来のように、1つの突起部により弁体16を押す場合も、正確にはピストンは面で弁体16を押している。
しかしながら、本実施形態は、ピストン12の先端部分12gと弁体16との接触面積を広く確保するように先端部分12gが形成される点に特徴がある。よって、ピストン12の先端部に複数の突起部が形成されていないもの、または、弁体と先端部との接触部分に弁体の形状に合わせてテーパ面が形成されていないものは点で弁体を押すものとする。
図7は、ピストンの他の先端と弁体とを拡大して示す図である。ここで、スリット12hは、必ずしも形成されなくてもよい。以下に、ピストン12の先端部分12gにスリット12hが形成されない一例を説明する。先端部分12gには、図7に示すような複数の孔12kが形成される。
孔12kは、軸方向と直交する方向、つまりピストン12の肉厚方向に、ピストン12を形成する部材を貫通する孔である。これにより、弁体16がテーパ面12iに接触していても、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11の内部と作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11の外部とは孔12kを介して連通する。
このように、図7に示す先端部分12gは、図6に示すスリット12hが形成されない。よって、この場合、ピストン12は、複数の突起部ではなく、単数の突起部によって弁体16を押す。しかしながら、このような場合であっても、ピストン12は、例えば弁体16の中心近傍を一点で押す場合よりも、より確実に弁体16を底部57b側へ押すことができる。
また、先端部分12gには、端部にテーパ面12iが形成さる。これにより、ベルト式無段変速機110は、ピストン12が面で弁体16を押すことにより、弁体16及び先端部分12gの摩耗を抑制できる。
ピストン動作用作動油がピストン動作用油圧室15に供給されると、ピストン12が図5に示すように弁体16側に移動する。すると、弁体16と弁孔11cとの間の隙間と、図6に示すスリット12hとを介してメイン作動油がシャフト内軸方油路OL01から作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11へ流れる。
または、弁体16と弁孔11cとの間の隙間と、図7に示す孔12kとを介してメイン作動油は、シャフト内軸方油路OL01から作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11へ流れる。このようにして、図3に示すプライマリプーリ油圧室54は開放状態となる。
次に、ピストン動作用作動油の供給元を説明する。本実施形態では、ピストン動作用作動油の供給元は、信号用作動油である。信号用作動油とは、ベルト式無段変速機110が備えるスプール弁や、電磁弁に入力される「信号油圧」を発生させる作動油である。
前記スプール弁は、例えば、入力される複数の前記信号油圧の大きさのバランスに基づいて、油路を切り替える。また、前記電磁弁はオンオフ制御されることで、前記信号用作動油を塞き止めたり流したりする。これにより、前記電磁弁はパルス信号を発生させる。
信号用作動油は、図3に示すシャフト外信号油圧用油路OL22を流れる。シャフト外信号油圧用油路OL22は、一方の端部が調圧弁OR01と流量調節弁OFとの間のシャフト外メイン作動油用油路OL21と連通する。また、シャフト外信号油圧用油路OL22は、他方の端部が、作動油閉じ込み装置10のピストン動作用第1油路OL12に連通する。信号用作動油は、前記一方の端部から前記他方の端部に向かって流れる。
シャフト外信号油圧用油路OL22上には、上流側から順に、減圧弁OR02、オンオフ切り替え弁OVが設けられる。減圧弁OR02は、調圧弁OR01によって圧力が調整されたメイン作動油が供給される。減圧弁OR02は、前記メイン作動油の圧力を信号油圧まで下げる。これにより、前記メイン作動油は、信号用作動油となる。なお、信号油圧とは、例えば、0.5Mpa程度である。
減圧弁OR02から送り出された作動油は、シャフト外信号油圧用油路OL22を介してオンオフ切り替え弁OVに供給される。オンオフ切り替え弁OVは、作動油閉じ込み装置10を制御する作動油閉じ込み制御装置10Eと例えば電気的に接続されて、作動油閉じ込み制御装置10Eにより開弁及び閉弁が制御される。なお、作動油閉じ込み制御装置10Eは、例えば、図1に示す車両100を制御する車両制御装置にプログラムとして組み込まれて、オンオフ切り替え弁OVを制御する。
オンオフ切り替え弁OVが開弁すると、信号用作動油がオンオフ切り替え弁OVより下流側のシャフト外信号油圧用油路OL22、図4に示すピストン動作用第1油路OL12、ピストン動作用第2油路OL13、ピストン動作用第3油路OL14を介して、ピストン動作用油圧室15に供給される。これにより、ピストン12が弁体16側へ移動し、プライマリプーリ油圧室54が開放状態となる。
また、プライマリプーリ油圧室54が開放されている状態から、オンオフ切り替え弁OVが閉弁すると、ピストン動作用油圧室15への信号用作動油の供給が止まる。これにより、ピストン12が入口57a側へ移動し、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態となる。次に、信号用作動油の圧力、すなわち信号油圧で図4に示す、ピストン12を軸方向に移動させるために必要な受圧面12fの大きさを説明する。
図8は、実施形態1に係る開口部及び受圧面を回転軸方向に投影した投影図である。図9は、回転軸を含む面で弁体及び台座面を切った断面図である。図10は、回転軸に含む面で他の弁体及び台座面を切った断面図である。図8に示すシール面積S01は、図9及び図10に示すように、弁体16と台座面11dとが接触する部分に囲まれた領域の面積である。
本実施形態では、図9に示す弁体16は、弁孔11cの縁に接触する。よって、この場合、弁孔11cの大きさがシール面積S01となる。しかしながら、シール面積S01は、必ずしも弁孔11cの大きさと等しくはならない。
例えば、図10に示すように、弁孔11cの縁ではなく、台座面11dに弁体16が接触する場合は、弁孔11cの大きさがシール面積S01とならずに、弁体16と台座面11dとが接触する部分に囲まれた領域の面積がシール面積S01となる。また、受圧面積S02は、図4に示す受圧面12fの面積である。
ここで、図4に示す弁体16が入口57a側に押される力は、シール面積S01にプライマリプーリ油圧室54側のメイン作動油の圧力Pinを乗算したものに、スプリング17が弁体16を台座面11dに押し付ける力Fを加算した値である。
また、ピストン12が弁体16を底部57b側に押す力は、受圧面積S02にピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力Psを乗算した値である。よって、以下の式(1)が成立するように、シール面積S01及び受圧面積S02は決定される。
S01・Pin+F<S02・Ps ・・・(1)
ここで、上述のように、ピストン動作用作動油は、信号用作動油である。よって、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力Psは、信号油圧となる。よって、本実施形態では、圧力Psは例えば0.5Mpaである。
一方、プライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力Pinは、ベルト式無段変速機110の仕様やベルト式無段変速機110の運転状況によって変化するが、通常、概ね1.3Mpa〜3.0Mpa程度である。また、ベルト80のプライマリ溝80aに対する滑りを確実に抑制できるプライマリプーリ油圧室54内の圧力としては、5.0Mpa程度が考えられる。
よって、図8に示す受圧面積S02は、シール面積S01の3倍〜6倍、より好ましくは10倍の面積に設定される。シール面積S01に対して受圧面積S02を大きく確保できるほど、ピストン12が弁体16を底部57b側へ押す力は大きくなる。よって、ベルト式変速機110は、より確実に作動油閉じ込み装置10を開弁できる。
ここで、受圧面積S02をシール面積S01で除算した値をより大きく確保するためには、2つ方法が考えられる。1つ目の方法は、図8に示す受圧面積S02の外側の径を拡大する方法である。
しかしながら、上述のように、作動油閉じ込み装置10は、図2に示すプライマリシャフト51の軸方向孔57内に配置される。よって、図8に示す受圧面積S02の外側の径を拡大する場合、作動油閉じ込み装置10の径方向の大きさが大型化するため、軸方向孔57の内径を拡大する必要がある。しかしながら、軸方向孔57の内径を拡大すると、プライマリシャフト51の剛性が低下する。よって、軸方向孔57の内径の拡大には限界がある。結果として、受圧面積S02の外側の径の拡大は困難である。
そこで、本実施形態では、2つ目の方法で受圧面積S02をシール面積S01で除算した値をより大きく確保する。2つ目の方法とは、シール面積S01を縮小する方法である。具体的には、シール面積S01は、「必要最小の面積」の大きさまで縮小される。「必要最小の面積」とは、ベルト式無段変速機110に必要とされる最小の変速速度を確保できる大きさである。
メイン作動油は、図5に示す弁孔11cを介してプライマリプーリ油圧室54に供給される。また、メイン作動油は、弁孔11cを介してプライマリプーリ油圧室54から排出される。よって、弁孔11cの面積、つまりシール面積S01が減少するほど、弁孔11cを介して流動するメイン作動油の流量も減少する。これにより、シール面積S01が減少するほど、プライマリ可動シーブ53の移動速度が低下する。
結果として、シール面積S01が減少するほどベルト式無段変速機110の変速速度が低下する。シール面積S01は、ベルト式無段変速機110に必要とされる最小の変速速度を確保できる大きさに設定される。具体的には、本実施形態では、シール面積S01は、前記最小の変速速度を確保できる大きさか、または前記最小の変速速度を確保できる大きさよりも若干の余裕を持たせた大きさに設定される。
また、上述したように、図4に示すピストン12が最も入口57a側に位置する場合であっても、ピストン12の受圧面12fが段差部13eの回転軸RLと直交する面に接触しないように作動油閉じ込み装置10を構成することも、受圧面積S02をシール面積S01で除算した値をより大きく確保するために有効である。
例えば、ピストン12が最も入口57a側に位置する場合に、ピストン12の受圧面12fが段差部13eの回転軸RLと直交する面に接触すると、受圧面積S02が減少する。具体的には、ピストン12が最も入口57a側に位置する際に、受圧面12fが段差部13eと接触するために、その面積分、受圧面積S02が小さくなる。
よって、ピストン12が最も入口57a側に位置する場合であっても、ピストン12の受圧面12fが段差部13eの回転軸RLと直交する面に接触しないように作動油閉じ込み装置10を構成することにより、作動油閉じ込み装置10は、受圧面積S02をシール面積S01で除算した値を、ピストン12の位置に関係なく一定に確保できる。
このようにして、式(1)を満たすように、シール面積S01と受圧面積S02とが設定されることにより、ベルト式無段変速機110は、以下に記す効果を実現できる。ベルト式無段変速機110は、比較的狭い空間であるプライマリシャフト51の軸方向孔57内に作動油閉じ込み装置10が配置された場合であっても、確実に作動油閉じ込み装置10が開弁及び閉弁する。
このように、ベルト式無段変速機110は、比較的狭い空間であるプライマリシャフト51の軸方向孔57内に作動油閉じ込み装置10が配置されることにより、作動油閉じ込み装置10が小型化される。また、作動油閉じ込み装置10が、回転軸RLに沿って配置されるため、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50の重心が回転軸RLからずれるおそれが低減される。また、作動油閉じ込み装置10が小型化されることにより、作動油閉じ込み装置10を備えるベルト式無段変速機110が小型化される。
また、本実施形態では、ピストン12を移動させるための油圧が信号油圧である。前記信号油圧は、メイン作動油の油圧よりも小さい。このように、ベルト式無段変速機110は、ピストン12を作動させるための油圧としてメイン作動油の油圧よりも小さい圧力の信号油圧を用いても、確実に作動油閉じ込み装置10の開弁と閉弁とを制御できる。
また、ピストン動作用作動油の油圧が小さいほど、作動油閉じ込み装置10のピストン動作用油圧室15を構成する部材に働く負荷が小さくなる。具体的には、本実施形態では例えば、ピストン12、油圧室構成部材13、軸方向孔57に働くピストン動作用作動油の圧力が小さくなる。
これにより、ベルト式無段変速機110は、ピストン12の移動によりピストン12と衝突する部分の摩耗が低減される。ピストン12と衝突する前記部分とは、例えば、段差部12cと衝突する段差部11b、先端部分12gと衝突する弁体16である。上述したように、作動油閉じ込み装置10が配置される軸方向孔57は比較的狭い空間である。よって、ピストン12及びピストン12と衝突する部分の大きさも比較的小さい。
衝突を繰り返す部分の大きさが小さくなればなるほど、前記部分に負荷される力の大きさが同じでも前記部分の耐久性は低下する。つまり、衝突を繰り返す部分の大きさが小さくなればなるほど不具合が発生するおそれが増す。
しかしながら、本実施形態では、ベルト式無段変速機110は、上述のように、衝突を繰り返す部分へ負荷される力を低減できるため、前記部分に不具合が発生するおそれを低減できる。
また、ピストン動作用作動油の油圧が小さいほど、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用油圧室15を構成する部材間の隙間及び各油路を構成する部材間の隙間を介して漏れるピストン動作用作動油の量を低減できる。
具体的には、ベルト式無段変速機110は、シール部材SL02が介在されるピストン12の最大外径部12mの外周面と軸方向孔57の内壁面との間の隙間を漏れるピストン動作用作動油の量と、シール部材SL03が介在される油圧室構成部材13の最大外径部13fの外周面と軸方向孔57の内壁面との間の隙間を漏れるピストン動作用作動油の量とを低減できる。
(実施形態2)
図11は、ピストン動作用作動油が流れる油路を示す模式図である。実施形態2に係るベルト式無段変速機110は、ピストン動作用作動油の圧力が、メイン作動油の圧力と同一である点に特徴がある。実施形態1では、ベルト式無段変速機110は、信号用作動油をピストン動作用作動油として用いたが、本実施形態では、ベルト式無段変速機110は、メイン作動油をピストン動作用作動油として用いる。
図11に示すように、ベルト式無段変速機110は、シャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23を備える。シャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23は、一方の端部が調圧弁OR01と流量調節弁OFとの間のシャフト外メイン作動油用油路OL21と連通する。また、シャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23は、他方の端部が、作動油閉じ込み装置10のピストン動作用第1油路OL12に連通する。ピストン動作用作動油は、前記一方の端部から前記他方の端部に向かって流れる。
シャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23上には、オンオフ切り替え弁OVが設けられる。減圧弁OR02は、シャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23上には設けられない。つまり、ピストン動作用作動油は、メイン作動油の圧力から圧力が調節されずに作動油閉じ込み装置10に供給される。
なお、実施形態1では、図3に示す減圧弁OR02により圧力が信号油圧に調節された時点で、メイン作動油がピストン動作用作動油となるとした。本実施形態では、メイン作動油が、シャフト外メイン作動油用油路OL21から分岐してシャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23に供給された時点でメイン作動油がピストン動作用作動油となるものとする。
図12は、実施形態2に係る開口部及び受圧面を回転軸方向に投影した投影図である。実施形態1と同様に弁孔11cの広さとシール面積S01とが一致するものとして説明する。上述したように、実施形態2に係るピストン動作用作動油の供給元はメイン作動油である。よって、ピストン動作用作動油の圧力は、信号油圧よりも高い。よって、実施形態2に係る受圧面積S03が、実施形態1に係る受圧面積S02よりも小さくても、ピストン12は軸方向に移動できる。
但し、シール面積S01と受圧面積S03とは、以下の式(2)を満たすように設定される。
S01・Pin+F<S03・Ps ・・・(2)
ここで、圧力Pinは、プライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力である。プライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力は、弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力と略同一である。これは、弁体16を挟んでメイン作動油の圧力に差が生じないように、図11に示す調圧弁OR01が弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力を調節するためである。
例えば、弁体16を挟んでメイン作動油の圧力に差が生じると、作動油閉じ込み装置10が開弁した時に、この圧力の差によってベルト式無段変速機110はショックが生じる。調圧弁OR01は、前記ショックを抑制するため、弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力をプライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力と略同一になるように調節する。
ここで、ピストン動作用作動油の圧力は、弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力と一致する。このように、プライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力Pinは、弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力と略同一であり、弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力は、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力Psと等しい。結果として、プライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力Pinは、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力Psと略同一である。
よって、上記式(2)を整理すると、以下の式(3)となる。
S01+F/Pin<S03 ・・・(3)
なお、圧力Pinは、上述したように、最大で5.0Mpa程度が考えられる。ここで、力Fの値は、上述のように「最低限の力」であるため、F/Pinは無視できるほど小さい値となる。よって、F/Pinを0とみなした場合、式(3)を整理すると以下の式(4)となる。
S01<S03 ・・・(4)
このように、図11に示す調圧弁OR01よりも下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21からシャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23を分岐して、シャフト外ピストン動作用作動油用油路OL23からピストン動作用作動油を得る場合、ベルト式無段変速機110は、図12に示す受圧面積S03がシール面積S01よりも大きければ作動油閉じ込み装置10を開弁できる。
但し、上述の式(4)は、F/Pinを0とみなしているため、正確には、ベルト式無段変速機110は式(3)を満たすように、シール面積S01及び受圧面積S03が設定される。すなわち、ベルト式無段変速機110は、受圧面積S03からシール面積S01を減算した値がF/Pinよりも大きければ、確実に作動油閉じ込み装置10を開弁できる。
このように、調圧弁OR01よりも下流のシャフト外メイン作動油用油路OL21を流れるメイン作動油から減圧せずにピストン動作用作動油を得ることにより、ベルト式無段変速機110は、信号用作動油をピストン動作用作動油として用いる場合の受圧面積S02よりも、受圧面積S03を小さくできる。これにより、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10の大きさをさらに小さくできる。
また、受圧面積S03を例えば図8に示す受圧面積S02と同じ大きさに設定した場合、ベルト式無段変速機110は、以下の効果を奏する。本実施形態では、受圧面積が変わらずに、受圧面12fに働く作動油の圧力が大きくなる。ここで、ピストン12に働く力は、受圧面積とピストン動作用作動油の圧力との積である。
よって、実施形態2に係るベルト式無段変速機110は、ピストン12に働く力が実施形態1に係るピストン12に働く力よりも大きくなる。これにより、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10の開弁の動作がより確実になる。
また、ピストン12に働く力よりも大きくなるほど、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10のピストン12の移動速度が速くなる。これにより、ベルト式無段変速機110は、弁体16の移動速度も速くなる。結果として、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10の動作速度が速くなる。
作動油閉じ込み装置10の動作速度が速くなると、ベルト式無段変速機110は、より頻繁に作動油閉じ込み装置10を動作させてプライマリプーリ油圧室54を閉じ込めたり開放したりできる。これは、作動油閉じ込み装置10の動作速度が速ければ速い程、所定時間以内に作動油閉じ込み装置10を動作させられる回数が増えるためである。
ここで、作動油閉じ込み装置10を動作させてプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする代表的な理由は、車両100が単位燃料量あたりで走行できる距離の低下を抑制するためである。
作動油閉じ込み装置10を備えないベルト式無段変速機の場合、変速比を一定に保つためには、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力を一定に保つ必要がある。これにより、作動油閉じ込み装置10を備えないベルト式無段変速機では、変速比を一定に保つ際にオイルポンプOPが作動油を加圧する必要がある。
しかしながら、作動油閉じ込み装置10を備えるベルト式無段変速機110は、変速比を一定に保つ際に作動油閉じ込み装置10を閉弁させてプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする。これにより、オイルポンプOPが作動油を加圧しなくても、ベルト式無段変速機110は変速比を一定に保てる。
ここで、通常、オイルポンプOPは、内燃機関120のクランクシャフト121から作動油を加圧するために必要な動力を得ている。よって、オイルポンプOPが消費する動力が増加すると、クランクシャフト121の有するエネルギーが消費される。このエネルギーの消費を補うために、内燃機関120は、燃料の噴射量が増加する。このように、オイルポンプOPが消費する動力が増加すると、内燃機関120の燃料の消費量が増加する。
しかしながら、作動油閉じ込み装置10を備えるベルト式無段変速機110は、変速比を一定に保つ際にオイルポンプOPが消費する動力が低減される。このようにして、ベルト式無段変速機110は、変速比を一定に保つ際の内燃機関120の燃料の消費量を低減できる。
よって、ベルト式無段変速機110は、所定期間内により頻繁に作動油閉じ込み装置10を動作できるため、車両100が単位燃料量あたりで走行できる距離の低下を抑制できる機会が増える。結果として、ベルト式無段変速機110は、車両100が単位燃料量あたりで走行できる距離の低下を抑制できる。
また、例えば、所定時間、ピストン動作用油圧室15を閉じ込み状態にする場合、ピストン動作用油圧室15を実際に閉じ込み状態にできる時間は前記所定時間よりも短い。これは、作動油閉じ込み装置10に開弁の指令が入力されてから、実際に開弁するまでの時間である無駄時間が必要であるためである。
ここで、作動油閉じ込み装置10の前記無駄時間は、作動油閉じ込み装置10の動作速度が速いほど短くなる。よって、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10の前記無駄時間が低減される。これにより、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用油圧室15を実際に閉じ込み状態にできる時間が長くなる。
上述したように、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態である期間は、車両100が単位燃料量あたりで走行できる距離の低下が抑制されている期間である。よって、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用油圧室15を実際に閉じ込み状態にできる時間をより長く確保できるため、車両100が単位燃料量あたりで走行できる距離の低下をより好適に抑制できる。
また、作動油閉じ込み装置10の動作速度が向上することで、ベルト式無段変速機110は、車両100の運転者に対するドライバビリティの低下を抑制できる。例えば、車両100が定常走行中であって、ベルト式無段変速機110のプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であるとする。この状態から、車両100の運転者が車両100に対して加速を要求したとする。
ベルト式無段変速機110は、車両100の運転者の加速の要求に対応して変速しようとする。そこで、まず、作動油閉じ込み装置10が開弁する。この時に、作動油閉じ込み装置10の開弁が完了するまでに経過する時間が長いほどと、車両100の運転者が加速を要求してから実際に変速が開始されるまでの時間が増大する。これにより、車両100の運転者は、違和感を得る。
しかしながら、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10の動作速度が向上することで、車両100の運転者が例えば加速を要求してから実際に変速が開始されるまでの時間の増大が抑制される。これにより、ベルト式無段変速機110は、車両100の運転者に対するドライバビリティの低下を抑制できる。
なお、作動油閉じ込み装置10は、プライマリシャフト51に形成される軸方向孔57に挿入されて配置される場合を説明したが、作動油閉じ込み装置10は、プライマリシャフト51の外部に配置されてもよい。作動油閉じ込み装置10は、例えば、図2に示すプライマリシリンダ56に隣接して配置されてもよい。
但し、上述のように、プライマリシャフト51に形成される軸方向孔57は比較的狭い空間である。よって、作動油閉じ込み装置が軸方向孔57に挿入されて配置される場合の方が、作動油閉じ込み装置がプライマリシャフト51の外部に配置される場合よりも、より作動油閉じ込み装置に小型化が求められる。
実施形態1及び実施形態2の作動油閉じ込み装置10は、上述のように、小型化と開弁動作をより確実にすることとを両立できる。よって、作動油閉じ込み装置が軸方向孔57に挿入されて配置されるベルト式無段変速機の場合は特に、実施形態1及び実施形態2の作動油閉じ込み装置10を用いると好ましい。