JP2010000679A - アルミニウム材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】バリア層とポア構造を有する酸化膜ならびにポア構造上のアクリル樹脂層の作用に基づき、樹脂密着性、耐食性及び加工性に優れたアルミニウム材を提供する。
【解決手段】アルミニウム基材とその少なくとも一方の表面に形成した酸化膜を有するアルミニウム材であって、前記酸化膜は50nm〜500nmの厚みを有し、かつ、アルミニウム素地側の3nm〜30nmの厚みを有するバリア層とその反対側のポア構造とを備え、当該ポア構造は5nm〜20nmの直径を有する小孔を有し、前記酸化膜のポア構造上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物重合体が1mg/m〜1000mg/mの量で付着していることを特徴とするアルミニウム材。
【選択図】なし

Description

本発明は、表面処理を施したアルミニウム材に関し、特に塗装板、接着用板及びラミネート板として用いられる樹脂密着性、耐食性及び加工性に優れたアルミニウム材及びその製造方法に関する。
純アルミニウム板又はアルミニウム合金板(アルミニウム板)は、軽量で適度な機械的特性を有し、かつ美感、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種容器類、構造材、機械部品等に広く使われている。
近年、アルミニウム板の持つ高い熱伝導性に注目し、プリント配線基板としての用途が急速に増加している。すなわち、近年の電機・電子機器の小型化、軽量化に伴い、プリント配線基板には従来以上の多層化、高集積化及び高密度化が要求されるようになっている。そして、従来の絶縁体を用いた基板では、高密度に実装された電子部品から発する熱を放散しきれず回路の不安定化を招いていた。これに対し、熱伝導性に優れたアルミニウム板を基板として採用することにより、基板自身による電子部品の冷却が可能となり、回路全体の性能を向上させることができる。
一般にアルミニウム板を用いたプリント配線基板は、アルミニウム板に銅箔等の金属箔を貼り付けて製造される。その際、接着剤としてエポキシ系樹脂やポリイミド系樹脂等が用いられるのであるが、これらの樹脂とアルミニウム板表面の密着性を向上させるため、従来さまざまな処理方法が提案されてきた。
例えば特許文献1には、貫通孔を設けたアルミニウム板を液温40〜90℃のアルカリ性溶液を用いて電気量80〜250C/dmにて交流波形により8〜30秒間の電解処理し、貫通孔に樹脂を充填して孔埋めした後、このアルミニウム板に回路体を積層する方法が示されている。
また特許文献2には、アルミニウム板の少なくとも片面に厚さが50〜3000オングストロームの無孔質陽極酸化皮膜を形成し、さらにこの無孔質陽極酸化皮膜の上にシランカップリング剤等の処理塗膜層を形成し、この塗膜層の上に熱可塑性樹脂被覆膜を形成する方法が示されている。
特開平09−18140号公報 特開2002−155397号公報
しかし、上記のような従来技術には、以下のような問題があった。
すなわち、近年の電機・電子製品の急速な小型化とともに、外装デザインもますます多様化している。これに対応するために、配線基板の一部に対し、折り曲げ加工等が加えられる場合がある。こうした技術的動向に対し、特許文献1のようなアルミニウム酸化膜自体の樹脂密着性を向上させる方法は、未加工状態における樹脂密着力こそ保たれるものの、折り曲げ加工等の変形に耐えられず、加工部の剥離を生ずる場合があった。また特許文献2のような陽極酸化膜の上に処理塗膜等を塗布する方法は、加工により緻密な酸化膜が凝集破壊し、やはり加工部の剥離に結びつく場合があった。
本発明者は、上記問題を解決すべく検討を重ねた結果、アルミニウム素地側の緻密なバリア層とその反対側のポア構造とを有する酸化膜をアルミニウム基材に設け、酸化膜の上にアクリル酸化合物重合体の樹脂付着層を設けた構造が極めて有効であることを見出した。具体的には、酸化膜全体の厚みを50nm〜500nmとし、バリア層の厚みを3nm〜30nmとし、ポア構造は直径5nm〜20nmの小孔を有するものとした。そして、酸化膜のポア構造上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物重合体が1mg/m〜1000mg/mの量で付着する樹脂層が設けられる。
このような酸化膜を形成することにより、バリア層により耐食性がもたらされる。また、ポア構造により酸化膜の接触面積が増大し、ポア構造上にアクリル酸化合物重合体の樹脂層が付着した構造により酸化膜とアクリル酸化合物重合体の接触面積がきわめて大きくなる。その結果、酸化膜とアクリル酸化合物重合体との密着力が増大するとともに、アクリル酸化合物重合体と接着剤層等との樹脂密着性も向上する。更に、アクリル酸化合物重合体による樹脂密着性向上及び接着剤層等との接着界面の柔軟性向上により、優れた加工性が発揮される。
本発明は請求項1において、アルミニウム基材とその少なくとも一方の表面に形成した酸化膜を有するアルミニウム材であって、前記酸化膜は50nm〜500nmの厚みを有し、かつ、アルミニウム素地側の3nm〜30nmの厚みを有するバリア層とその反対側のポア構造とを備え、当該ポア構造は5nm〜20nmの直径を有する小孔を有し、前記酸化膜のポア構造上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物重合体が1mg/m〜1000mg/mの量で付着していることを特徴とするアルミニウム材とした。
本発明は請求項2において、アルミニウム基材を電極とし、pH9〜13で液温35℃〜80℃のアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数20Hz〜100Hz、電流密度4A/dm〜50A/dm及び電解時間5秒〜60秒の条件下でアルカリ交流電解することにより酸化膜を形成する工程と、前記酸化膜上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃〜300℃以下の雰囲気で1秒〜600秒乾燥させることにより、1mg/m〜1000mg/mの樹脂付着層を形成する工程と、を備えるアルミニウム材の製造方法とした。
本発明により、バリア層とポア構造を有する酸化膜ならびにポア構造上のアクリル樹脂層の作用に基づき、樹脂密着性、耐食性及び加工性に優れたアルミニウム材を提供することができる。
以下、本発明の詳細を順に説明する。
本発明は、バリア層の上にポア構造を有するアルミニウム酸化膜上にアクリル酸化合物の重合体(以下、「アクリル樹脂」と呼称する)の層を設けることにより、アルミニウム材の樹脂密着性、耐食性及び加工性を向上及び確保するものである。
A.アルミニウム基材について
本発明で用いるアルミニウム基材としては、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材(以下、これらを「アルミニウム基材」と呼称する)が用いられ、用途や要求特性に応じて適宜選択することができる。アルミニウム合金としては、1000系、3000系、5000系及び6000系等が好適に用いられる。アルミニウム基材は、通常0.5〜2.0mmの厚さのアルミニウム板が好適に用いられる。
B.酸化膜の構造について
本発明者らは、従来技術におけるアルカリ交流電解処理に注目し、TEM(透過型電子顕微鏡)及びFT―IR(赤外吸収分光法)等により酸化膜の性状評価を行った。その結果、以下に示す要件を達成することにより、極めて優れた特性が得られることを見出したものである。
酸化膜は、アルミニウム素地側の緻密なバリア層とその反対側のポア構造から構成される。酸化膜全体の厚みは50nm〜500nmである。50nm未満では、ポア構造の厚さが十分でないことから樹脂密着性が不足するためである。一方、500nmを超えると、酸化膜自体が凝集破壊を生じ易くなり、これまた樹脂密着性が低下するためである。
バリア層は緻密な酸化膜層であり、その厚みは3nm〜30nmとする。このバリア層はアルミニウム素地に強固な耐食性をもたらす他、このバリア層を介してポア構造とアルミニウム素地の強固な結合が達成される。バリア層が3nm未満では、ポア構造から水分が浸入した際の耐食性が確保できず、30nmを超えると、その緻密性ゆえに加工時の凝集破壊が生じ易く、アルミニウム材の加工性が低下してしまう。
また、酸化膜はその表面から深さ方向に向かう小孔を備えたポア構造を有し、小孔の直径は5nm〜20nmである。ポア構造とは、酸化膜の表面全体にわたって形成され深さ方向においてバリア層に達する多数の小孔から成る構造を指す。このポア構造の小孔内には、後述するアクリル樹脂がある程度(発明者らの実験によれば、ポア構造の体積に対し約10〜50%程度)浸潤して硬化する。その結果、酸化膜とアクリル樹脂層との接触面積が増大し、また酸化膜とアクリル樹脂層との間に残された空気層が成型加工の際のクッションとなり、さらにアクリル樹脂層の形状が物理的なアンカー効果をも生ずるため、本発明の樹脂密着性が発揮される。ポア構造の小孔の直径が5nm未満の場合には、アクリル樹脂がポア構造に十分に取り込まれない。一方、20nmを超える場合には、酸化膜自身の強度が失われることによる凝集破壊が発生し易くなる。したがって、いずれの場合も樹脂密着性が低下してしまう。
なお、酸化膜の表面積に対するポア構造の小孔の全孔面積の比については特に制限されるものではないが、酸化膜の見かけ上の表面積(表面の微小な凹凸等を考慮せず、長さと幅の乗算で表される面積)に対し25%〜75%が好ましい。25%未満ではアクリル樹脂との接触面積が十分に確保できず、75%を超えると酸化膜自身の強度が失われることによる凝集破壊が発生し易くなる。また、ポア構造の酸化膜表面からの深さについては、酸化膜厚みとバリア層厚みとの関係にも依存するが、50nm以上であることが望ましい。50nm未満では、アクリル樹脂と酸化膜との接触面積が不十分であったり、アクリル樹脂層のアンカー効果が不足したりする場合がある。
C.アクリル樹脂について
本発明において、酸化膜上に設けるアクリル樹脂層としては、重量平均分子量5000〜1000000で、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル樹脂が用いられる。このアクリル樹脂は、水溶性、溶剤性、或いは、これらに非溶解性であってもよい。このようなアクリル樹脂は、含有するカルボキシル基が、アルミニウム酸化膜と水素結合して強固に結びつくとともに、適度の重合度を有する樹脂の骨格部が上塗り樹脂成分と溶融接着層を形成することにより、アルミニウム酸化膜と上塗り樹脂の双方に対して強力な結合作用を発揮するためである。重量平均分子量が5000未満では、上塗り樹脂成分との相互作用が弱く密着性に劣る。一方、重量平均分子量が1000000を超えると、アクリル樹脂自体が硬く脆く凝集破壊を起こし易くなり加工性に劣る。カルボキシル基の量が、重量平均分子量500につき1個未満のアクリル樹脂の場合、アルミニウム酸化膜に対する結合作用が不足するため、樹脂密着性が不足する。
本発明におけるアクリル樹脂の付着量は、1mg/m〜1000mg/mである。この付着量は、上記にて説明したアクリル樹脂の効果を発揮するために必要な量である。この量が1mg/m未満では特に上塗り樹脂に対する結合作用が不足するため、密着性が不足する。一方、1000mg/mを超えると、性能的な不具合は特に生じないものの、アクリル樹脂の効果が飽和するため不経済となる。
以上の要件を満たす限りにおいて、本発明においてポア構造上に設けられる樹脂層のアクリル樹脂には、公知のものがそのまま適用できる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリヒドロキシアクリル酸、ポリヒドロキシアクリル酸エステル及びそれらの共重合体などが好適に用いられる。加えて、アンモニア、アミン類、或いは、アルカリ金属水酸化物等でpH調整したアクリル樹脂も、同様に好適に用いることができる。さらに、メラミン系化合物及びユリア系化合物を架橋剤として添加したアクリル樹脂も、同様に好適に用いることができる。
D.製造方法について
本発明に係るアルミニウム材は、アルミニウム基材を電極とし、pH9〜13で液温35℃〜80℃のアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数20Hz〜100Hz、電流密度4A/dm〜50A/dm及び電解時間5秒〜60秒の条件下でアルカリ交流電解することにより酸化膜を形成する工程と、前記酸化膜上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃〜300℃以下の雰囲気で1秒〜600秒乾燥させることにより、1mg/m〜1000mg/mの樹脂付着層を形成する工程と、を備える。なお、電解工程においては、他方の電極として黒鉛電極等が用いられる。
電解溶液として用いるアルカリ性水溶液は、りん酸ナトリウム、りん酸水素カリウム、ピロりん酸ナトリウム、ピロりん酸カリウム及びメタりん酸ナトリウム等のりん酸塩や;水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や;水酸化アンモニウム溶液;或いは、これらの混合物の水溶液を用いることができる。後述するように電解溶液のpHを特定の範囲に保つ必要があることから、バッファー効果の期待できるりん酸塩系物質を含有するアルカリ水溶液を用いるのが好ましい。このようなアルカリ成分の濃度は、電解液溶液のpHが所望の値になるように調整されるが、通常、1×10−4〜1モル/リットルである。なお、これらのアルカリ性水溶液には、汚れ成分に対する除去能力の向上のために界面活性剤を添加してもよい。
電解溶液のpHは9〜13とする必要があり、9.5〜12とするのが好ましい。pHが9未満の場合には、電解溶液のアルカリエッチング力が弱いため酸化膜が不定形皮膜となる。その結果、ポア構造及びバリア層が形成されない。一方、pHが13を超えると、アルカリエッチング力が過剰になるため酸化膜が成長し難くなり、更にバリア層形成も阻害される。
電解溶液温度は35℃〜80℃とする必要があり、40℃〜70℃とするのが好ましい。電解溶液温度が35℃未満では、アルカリエッチング力が不足するため酸化膜のポア構造が不完全となる。一方、80℃を超えるとアルカリエッチング力が過剰になるため、バリア層及びポア構造ともに成長が阻害される。
アルカリ交流電解においては、バリア層とポア構造を含めた酸化膜全体の厚みは電気量、すなわち電流密度と電解時間の積によって制御され、基本的に電気量が多いほど酸化膜全体の厚みが増加する。バリア層ならびにポア構造の電解条件は以下の通りである。
用いる周波数は20Hz〜100Hzである。これは、20Hz未満では、電気分解としては直流的要素が高まる結果、ポア構造の直径が小さくなり過ぎ、5nm以上のポア直径が達成されない。一方、100Hzを超えると、陽極と陰極の反転が速すぎるために粗大なポアが形成され、20nm以下のポア直径が達成されない。
電流密度は4A/dm〜50A/dmとする必要がある。電流密度が4A/dm未満では、バリア層のみが優先的に形成されるためにポア構造が得られない。一方、50A/dmを超えると、電流が過大になるため酸化膜の厚みの制御が困難となり処理ムラが起こり易い。
電解時間は5秒〜60秒とする必要がある。5秒未満の処理時間では、酸化膜の形成が急激過ぎるためポア構造もバリア層も十分に形成されず、不定形のアルミ酸化物から構成される酸化膜となるためである。一方、60秒を超えると、酸化膜が厚くなり過ぎたり再溶解する虞があるだけでなく、更に生産性も低下する。
本発明に係るアルミニウム材における酸化膜のポア構造を確認するためには断面TEM観察が、酸化膜のポア構造上に付着しているアクリル樹脂量を測定するためには反射FT−IR測定及び固体TOC(全炭素量測定)が、それぞれ好適に用いられる。断面TEM観察は、観察対象物をウルトラミクロトーム等で薄片に加工することにより実施される。
ところで、従来技術において人為的にアルミニウム酸化膜を形成させる方法として、陽極酸化処理(いわゆるアルマイト処理)がある。これは、主に酸性の処理浴を用いるとともに、被処理アルミニウムを陽極として直流電気分解する手法であるが、この手法を用いる限りにおいては、本発明の要請事項の達成は極めて困難である。すなわち、これらアルマイトにおける酸化膜厚みは数μm前後が常識的であり、50nm〜500nmという膜厚の制御は困難であり、加えて、アルニウム素地との界面にバリア層、その上にポア構造を有する酸化膜を作り込むことは不可能に近い。従って、本発明を実施するにあたっては、上述の方法が最善である。
このような交流電解処理によって得られる酸化膜の上に、本発明の要件に適合するアクリル樹脂を乾燥重量にて1mg/m〜1000mg/mの量で付着させる方法としては、既存の技術をそのまま適用することができる。具体的には、アクリル樹脂を水又は有機溶剤に分散又は溶解した塗料溶液を、バーコーターやロールコーター等の手法により酸化膜の上に塗布し、次いで30℃〜300℃の雰囲気にて1秒〜600秒乾燥させればよい。雰囲気温度が30℃未満では、アクリル樹脂溶液の溶媒の揮発が遅くなり生産性を阻害する。雰囲気温度が300℃を超えると、アクリル樹脂自身の分解が発生する恐れがある。乾燥時間が1秒未満では溶媒が十分に揮発しきれない恐れがあり、600秒を超えると、生産性を著しく阻害する。なお、上記塗料溶液におけるアクリル樹脂濃度は、通常、5〜300g/リットルである。
本発明では、酸化膜はアルミニウム基材の両面のうち少なくとも一方に形成される。すなわち、片面に酸化膜が形成された場合には、その酸化膜のポア構造上にアクリル樹脂の付着層が形成される。一方、両面に酸化膜が形成された場合には、それぞれの酸化膜においてポア構造上にアクリル樹脂の付着層が形成される。酸化膜を片面に形成するか両面に形成するかは、用途等に応じて適宜選択される。
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
実施例1〜19及び比較例1〜13
アルミニウム基材として、アルミニウム合金板(板厚1.0mmのJIS5052合金板)を使用した。このアルミニウム合金板を電極に用い(対電極には黒鉛電極を用い)、ピロりん酸ナトリウムを主成分とするアルカリ水溶液を電解溶液として用いた。これらのアルカリ成分の濃度は、0.5モル/リットルとするとともに、塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液(いずれも濃度0.1モル/リットル)によってpHの調製を行なった。表1に示す電解条件にて、交流電解処理を実施して酸化膜を形成した。なお、比較例13では、アルカリ交流電解処理に代わって、従来技術に基づいた硫酸アルマイト処理(厚さ2.5μm、封孔処理あり)を実施した。
Figure 2010000679
次に、酸化膜のポア構造上にアクリル樹脂の付着層を下記にようにして形成した。表2に示す性状のアクリル樹脂を水又は有機溶媒(2−ブタノン)に溶解したものを塗料溶液に用いた。表2のアクリル樹脂には、A:ポリアクリル酸、B:ポリアクリル酸、C:ポリメタクリル酸エステル、D:ポリアクリル酸エステル、E:ポリアクリル酸、F:ポリアクリル酸エステル、G:ポリアクリル酸を用いた。塗料溶液におけるアクリル樹脂濃度は、100g/リットルであった。この塗料溶液を、ステンレスバーコーターにて酸化膜のポア構造上に表1に示す乾燥重量となるように塗布した。次いで、表1に示す乾燥条件下に乾燥してサンプルを作製した。
Figure 2010000679
上記のようにして作製したサンプルの表面分析結果を、表3に示す。
Figure 2010000679
上記サンプルの片面に、エポキシ樹脂を20μmの厚さに塗布し、厚さ35μmの電解銅箔を積層した後、ホットプレスにて165℃×90分の加熱圧着を行い、プリント配線基板のサンプルを作製した。
このようにして作製したプリント配線基板サンプルに対し、以下の評価を実施した。
(耐熱接着性試験)
上記のプリント配線基板サンプルを55mm×25mmの大きさに切断し、オートクレーブ中にて121℃×16時間吸湿処理した。次いで、サンプルを260℃の溶融はんだ浴上に30秒間フロートし、銅箔を引き剥がした後のアルミニウム素地露出面積率により、樹脂に対するアルミニウム板の耐熱接着性を評価した。評価判定は以下の通りであり、◎、○、△を合格とし、××、×を不合格とした。
露出面積率0% ・・・◎
露出面積率0%を超えて10%以下 ・・・○
露出面積率10%を超えて25%以下 ・・・△
露出面積率25%を超えて50%以下 ・・・×
露出面積率50%を超える ・・・××
(耐食性試験)
上記のプリント配線基板サンプルを50mm×100mmの大きさに切断した後、カッターを用いて銅箔接着面からアルミニウム素地に達する深さの、長さ40mmのクロスカットを入れた。次いで、サンプルを、クエン酸−水和物(濃度=1重量%)と塩化ナトリウム(濃度=0.5重量%)の70℃混合溶液に72時間浸漬し、クロスカット端面に発生した耐食を評価した。評価判定は以下の通りであり、◎、○、△を合格とし、××、×を不合格とした。
腐食発生率0% ・・・◎
腐食発生率0%を超えて10%以下 ・・・○
腐食発生率10%を超えて25%以下 ・・・△
腐食発生率25%を超えて50%以下 ・・・×
腐食発生率50%を超える ・・・××
(加工性試験)
上記のプリント配線基板サンプルを55mm×25mmの大きさに切断した後、銅箔接着面を外面として、外面の曲げ半径=1mm、曲げ角度=90度の曲げ加工を実施した。これをオートクレーブ中にて121℃×16時間吸湿処理し、水分を拭き取った後、曲げ部にセロハンテープを貼り、ただちに引き剥がして、銅箔の剥離度合いを評価した。評価判定は以下の通りであり、◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
露出面積率0% ・・・◎
露出面積率0%を超えて10%以下 ・・・○
露出面積率10%を超えて25%以下 ・・・△
露出面積率25%を超えて50%以下 ・・・×
露出面積率50%を超える ・・・××
耐熱接着性試験、耐食性試験及び加工性試験の評価結果を、表4に示す。表4において、評価項目が全て◎の場合は総合評価を◎とし、評価項目が全て○の場合は総合評価を○とし、評価項目に◎と○が含まれる場合においては、◎が二つの場合は総合評価を◎とし、○が二つの場合は総合評価を○とした。また、評価項目に××、×が含まれる場合は、そのうち最も悪い評価を総合評価をとした。
Figure 2010000679
表4から明らかなように、実施例1〜19は、本発明要件を満たすため、耐熱接着性試験、耐食性試験及び加工性試験とも良好な評価結果を示した。
一方、比較例1〜13は、本発明の要件を満たしていないため、耐熱密着性試験、耐食性試験及び加工性試験の評価が劣る結果となった。
比較例1では、電解溶液のpHが高過ぎ、かつ、電解溶液の温度も高温過ぎたため、酸化膜の全体厚みが薄過ぎ、バリア層厚みも不足した。その結果、耐熱接着性、耐食性及び加工性のいずれも劣っていた。
比較例2では、電解溶液のpHが低過ぎたためバリア層が健全に形成されず、その結果、耐食性に劣った。
比較例3では、電解溶液の温度が低過ぎたためエッチングが十分に行なわれず、そのためバリア層が不完全になり耐食性に劣った。
比較例4では、電解周波数が低周波数過ぎたためポア構造の直径が小さ過ぎた。その結果、アクリル樹脂の接触面積が不足し耐熱接着性及び加工性に劣った。
比較例5では、電解周波数が高周波数過ぎたためポア構造の直径が大き過ぎた。その結果、酸化膜自体の強度が低下して剥離が発生し加工性に劣った。
比較例6では、電流密度が小さ過ぎたため安定した電解が行なわれず、結果としてバリア層のみが極端に成長した結果、加工性に劣った。
比較例7では、電流密度が大き過ぎたため電解の制御が適切に行なわれず、結果として酸化膜全体が成長し過ぎた結果、加工性に劣った。
比較例8では、電解時間が極端に短く、酸化膜全体の形成が不完全になったため、結果として耐熱接着性、耐食性及び加工性のいずれも劣っていた。
比較例9ではアクリル樹脂の分子量が小さ過ぎたため、耐熱接着性及び加工性のいずれも劣っていた。
比較例10ではアクリル樹脂の分子量が大き過ぎたため加工性に劣った。
比較例11ではアクリル樹脂のカルボキシル基含有量が不足した。その結果、耐熱接着性及び加工性に劣った。
比較例12では、アクリル樹脂層の付着量が不足したため耐熱接着性及び加工性に劣った。
比較例13は単なるアルマイト処理であり、耐熱接着性及び加工性において本発明に比べて大きく劣っていた。
以上のように、本発明の請求項に従って作られたアルミニウム材は、特徴的な構造を有する酸化膜ならびにその上に塗布されたアクリル樹脂の作用により、樹脂密着性、耐食性及び加工性において優れた特性を有する。

Claims (2)

  1. アルミニウム基材とその少なくとも一方の表面に形成した酸化膜を有するアルミニウム材であって、
    前記酸化膜は50nm〜500nmの厚みを有し、かつ、アルミニウム素地側の3nm〜30nmの厚みを有するバリア層とその反対側のポア構造とを備え、当該ポア構造は5nm〜20nmの直径を有する小孔を有し、
    前記酸化膜の上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物重合体が1mg/m〜1000mg/mの量で付着していることを特徴とするアルミニウム材。
  2. アルミニウム基材を電極とし、pH9〜13で液温35℃〜80℃のアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数20Hz〜100Hz、電流密度4A/dm〜50A/dm及び電解時間5秒〜60秒の条件下でアルカリ交流電解することにより酸化膜を形成する工程と、
    前記酸化膜上に、重量平均分子量5000〜1000000で重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃〜300℃以下の雰囲気で1秒〜600秒乾燥させることにより、1mg/m〜1000mg/mの樹脂付着層を形成する工程と、を備えるアルミニウム材の製造方法。
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