JP2009541446A - フェニルアラニンを含む吸入用粉末 - Google Patents
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Abstract
Description
タンパク質または医薬的に活性な物質を、外部から安定化する従来の方法は、適当な賦形剤を使用することである。賦形剤は、大雑把に以下のカテゴリーに分割することができる:糖およびポリオール、アミノ酸、アミン、塩、ポリマーおよび界面活性剤。
しかし、主として用いられる該賦形剤は、様々な欠点を持っている。例えば、トレハロースおよびマニトールの添加は、噴霧乾燥した処方物の流動性を悪化させる(C. Bosquillon等, 2001 Journal of Controlled Release, 70(3), 329-339)。噴霧乾燥したトレハロースは、しばしば生成する該粒子の重大な粘着を引き起こす(L. Mao等, 2004, 呼吸器系への薬物送達(Respiratory Drug Delivery), IX, S. 653-656)。これは、粉末の収率および該工程の大変さ、並びに得ることのできる微細粒子画分の低減に起因する、肺疾患用途用の粉末の、生物学的利用性の低下と関連する技術的処理の問題である。更に、マニトールは、20質量%を越える量において再結晶化する傾向を有し(Costantino等, 1998, 上記文献)、その結果、この物質の安定化作用は、劇的に低下する。しばしば使用される賦形剤であるラクトースは、噴霧乾燥した処方物の流動性を改善するが(C. Bosquillon等, 2001, 上記文献)、タンパク質またはペプチド/タンパク質-含有活性物質を含む処方物において特に問題となり、その理由は、ラクトースが、その還元性のために、ペプチド/タンパク質と、不活性化メイラード(Maillard)反応を引き起こす可能性があることにある。
タンパク質/ペプチドは、受動的な拡散によって、あるいは肺を介する能動的な輸送によって血流中に入ることができる。受動的な輸送において、吸収率は、該活性物質の分子径の関数である[J.S. Patton, Nature Biotechnology, 16, 141ff, 1998]。
該肺の上皮を介する抗体の能動的な輸送の一つの可能性は、新生児のFc-レセプタである(A. Bitonti, 2004, 呼吸器系への薬物送達(Respiratory Drug Delivery), IX.79-85)。これらレセプタは、新生児のみならず、子供および成人においてさえも、肺中に、十分に大量に存在し、また能動的に活性物質を輸送するために、利用できることが分かっている。
近年、様々な疾患を治療するために、益々多数の吸入性薬物が開発され(Aradigm, MannkindまたはKos, K. Corkery等により製造された、発展的製品としての吸入性インシュリン, レスピラトリーケア(Respiratory Care), 45, 831ff, 2000)、あるいは既に市販されている(例えば、組換えヒトデオキシリボ核酸I(rhDNase)としてのパルモジム(PulmozymeTM)または吸入型のヒトインシュリンとしてのイクシュベラ(Exubera)(US5997848参照)。幾つかの薬物は、容易に肺胞を介して肺に吸収され、直接血流中に入る。吸入による投与は、他の経路(例えば、経口)によって投与することが困難な、巨大分子、例えばタンパク質、ポリペプチドおよび核酸を投与するのに、特に見込みのある方法である。吸入によるこの投与は、肺の局部的な疾患および全身的な疾患両者に対して、効果的に利用することができる。
従って、十分なタンパク質の安定性を持つことに加えて、極めて良好なまたは改善された空気力学的諸特性をも持つ、代りとなる粉末、特に噴霧乾燥された粉末またはタンパク質組成物を提供しなければならないという課題が発生する。
更なる本発明の目的は、吸入によって使用し、特に薬学的または医学的な用途で使用するために、対応する代りの粉末、特に噴霧乾燥された粉末またはタンパク質組成物を提供することにある。
本発明が基礎とする、これらの課題は、以下の態様および添付する特許請求の範囲において詳述される、対象物および方法によって、解決される。
本発明は、更にタンパク質およびフェニルアラニン並びに場合により更に賦形剤、例えば糖またはポリオールを含む粉末であって、該粉末が、少なくとも30%(w/w)のフェニルアラニン、好ましくは少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニンを含むことを特徴とする、該粉末に関するものである。
a) フェニルアラニン溶液を調製する工程;
b) 少なくとも1種のタンパク質および場合により少なくとも1種の更なる賦形剤、例えば糖またはポリオールを添加する工程;
c) かくして得た該溶液または懸濁液を、好ましくは90〜200℃なる範囲の流入温度および好ましくは40〜150℃なる範囲の流出温度にて、噴霧する工程;および
d) 該形成された粒子を、該乾燥ガスから分離する工程。
タンパク質を含む、二成分および三成分粉末が、その空気力学的諸特性および噴霧乾燥後のタンパク質の安定化に関して、例外的な空気力学的諸特性を持つ代替品、好ましくは噴霧乾燥された粉末またはタンパク質組成物の製造にとって、極めて適していることが示された。その主成分は、フェニルアラニンであり、また随意の更なる成分は、フェニルアラニンと比較して良好な水溶性を持つ賦形剤、例えば糖またはポリオールである。
疎水性および溶解度に関して同様な性質を持つ他のアミノ酸(例えば、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)は、該粉末の、対応する良好な空気力学的諸特性を生じることがなく、また結果として少なくとも30%(w/w)のフェニルアラニン、好ましくは少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニン、または上記の他のフェニルアラニン含有率(%(w/w))にてフェニルアラニンを含む、粉末処方物の調製にとっては、不適当であることが示された。
他の芳香族アミノ酸に関するテストは、以下のような結果を生じた:
チロシンは、水に対する溶解度が低過ぎて、処方用の成分の一つとして考えることができない。
トリプトファンを使用した場合、20%なるトリプトファン含有率を持つ粉末処方物のみが、調製できた。これらを少量で使用した場合、該噴霧乾燥された粉末および特に空気力学的諸特性においては、該トリプトファン使用の技術的な利点は、全く検知できなかった。
まとめると、噴霧乾燥に及ぼすフェニルアラニンの該能動的な特性は、他の芳香族アミノ酸を用いて達成することはできないものと、結論付けることができる。
更に、結晶化阻害剤、例えばHASは、粉末の粒子特性を改善できる。結晶化阻害剤は、該粒子のコア内でのアモルファスマトリックスの形成を助け、ここで該コアには、上記糖およびタンパク質等の易水溶性の成分が配置されている。
本発明は、公知技術から発生したものではない。
特に、噴霧乾燥によって、肺に投与するための医薬的粉末の粒子特性を改善する目的で、様々な方法が当分野において公知であり、例えば以下の方法があげられる:US 6,372,258およびUS 2005/0152849における、該粒子表面を疎水性にする試み。US 6,372,258では、噴霧乾燥された粉末を製造するために、フェニルアラニンを含む疎水性のアミノ酸を使用している。
しかし、US 6,372,285は、ロイシンまたはトリプトファン等の他の疎水性アミノ酸と比較して、30%(w/w)なる最少量、または40%(w/w)なる量のフェニルアラニンによる、上記の特に有利な空気力学的な効果も、30%(w/w)なる量、好ましくは40%(w/w)なる量のフェニルアラニン、更なる賦形剤、好ましくは糖またはポリオール、およびタンパク質、特にタンパク活性物質を含む三成分複合体の、特に有利な効果をも記載していない。
WO 970364またはUS 2005/0152849において、重大なことは、該活性物質と所謂接着防止剤との混合である。
これらの特許出願は、特にロイシンの接着防止物質としての使用を記載しており、該接着防止物質は、該粒子が相互に凝集するのを防止すべく、該粒子の被覆のために使用される。しかしながら、US 2005/0152849によれば、該粉末の10%以下が、該賦形剤からなるはずである。
JP 62281847において、噴霧乾燥は、純粋なフェニルアラニンを用いて行われている。しかし、吸入には着眼されていなかった。得られる粒子の粒径は、従ってかなり大きい。
従来技術は、またアミノ酸である、アスパラギン、アルギニン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニンおよびトリプトファンを、タンパク質と共に噴霧することを教示している(N.Y.K. Chew等, 2002, 呼吸による薬物送達(Respiratory Drug Delivery),VIII, S. 743-745)。該アミノ酸の含有率は、一般に5%(w/w)であった。例外はロイシンであり、この場合には更に10%(w/w)なる含有率のアミノ酸が噴霧された。流量および装置に依存して、該FPFにおける改善が、全てのアミノ酸について見出された。しかし、最良の効果は、ロイシンを用いて得られた。ディンキヘイラー(Dinkihaler)および120L/分なる流量を用いて、フェニルアラニンについても、55-60%(w/w)なる範囲のFPFを測定できた。該発明を越える限定が、フェニルアラニンの割合において見出されることになる。更に、三成分混合物は、Chew等の研究においては使用されなかった。
定義:
本明細書の範囲内において使用する用語および名称は、以下に定義される、以下のような意味を持つ。質量部および質量%の詳細は、特に述べない限り、該組成物の乾燥質量または溶液/懸濁液の固形分含有量を基準とするものである。
一般的な表現「含む(containing)」または「含む(contains)」とは、より具体的な用語「からなる(consisting of)」を包含する。更に、「一(one)」および「多数(many)」は、限定的に使用されない。
「粉末」とは、極めて細かく微粉砕された物質を表す。「噴霧乾燥(された)粉末」とは、噴霧乾燥処理によって製造した粉末を意味する。
本発明における意味において、用語「混合物(単数および複数)」とは、全ての成分を含む真の溶液から、あるいは該成分の一種またはそれ以上が懸濁されている溶液から生成された混合物両者を意味する。しかし、本発明の意味において、該用語「混合物(複数)」とは、これら成分の固体粒子から、物理的な混合処理によって製造された、あるいはこれら成分の溶液または懸濁液を、一種またはそれ以上の固体成分に適用することによって形成された混合物をも意味する。
用語「組成物」とは、少なくとも2種の出発物質を含む、液体、半-固体または固体混合物を意味する。
用語「医薬組成物」とは、患者に投与するための組成物を意味する。
用語「医薬上許容される塩」とは、例えば以下のような塩を含むが、これらに限定されない:無機酸の塩、例えば塩化物、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化物、および硝酸塩。同様に有機酸の塩、例えばマレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、パルモエート(palmoate)、サリチル酸塩およびステアリン酸塩、並びにエストレート(estolate)、グルセプテート(gluceptate)およびラクトビアネート(lactobianate)塩をも含む。
「タンパク(質)活性物質」なる用語により、本発明においては、構造上タンパク質として存在し、あるいは構造的にタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを構成する、活性物質を意味する。
遺伝子クローニングにより、重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域のみからなる、短い抗体フラグメントを製造することも可能である。これらは、Fvフラグメント(可変フラグメント=可変部分のフラグメント)として知られている。該定常鎖のシステイン残基を介する共有結合は、これらのFvフラグメントにおいては不可能であるので、これらはしばしばある他の方法で安定化される。この目的のために、該重鎖および軽鎖の可変領域が、しばしば約10〜30個のアミノ酸、好ましくは15個のアミノ酸を含む、短いペプチドフラグメントによって、一緒に結合される。これは、単一のペプチド鎖を生成するが、そこでは、VHおよびVLは、ペプチドリンカーによって一緒に結合されている。このような抗体フラグメントは、また一本鎖Fvフラグメント(scFv)と呼ばれている。scFv抗体の例は公知であり、例えばHuston等, 1988に記載されている。
該用語トリマー(体)とは、当分野において、二価のホモダイマー型scFv誘導体を表すために使用される(Kortt等, 1997)。リンカー配列を使用することなしの、VH-VLの直接的な融合は、トリマーの形成に導く。
二価、三価または四価構造を持つミニ抗体として、当分野において知られている該フラグメントも、scFvフラグメントの誘導体である。このマルチマー化は、ダイマー、トリマーまたはテトラマー型コイルドコイル構造によって達成される(Pack等, 1993および1995; Lovejoy等, 1993)。
医薬上の「賦形剤」は、医薬または医薬組成物の一部であり、また特に活性物質が作用すべきサイトに到達し、そこに放出されることを保証する。賦形剤は、以下の3つの基本的な働き:担体としての機能、該活性物質の放出を制御する機能、および該物質の安定性を高める機能を持つ。賦形剤は、また薬剤の形態を形成し、結果としてその持続性または効果の速さを変更するためにも使用される。
上記用語「ペプチド」、「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、2個を越えるアミノ酸残基からなるアミノ酸のポリマーを意味する。
更に、該用語「ペプチド」、「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、10個を越えるアミノ酸残基からなるアミノ酸のポリマーを意味する。
ここで使用する「タンパク質」なる用語は、20を越える、および特に100個を越えるアミノ酸残基を含むアミノ酸のポリマーを意味する。
上記用語「小(さな)タンパク質」とは、50kD以下または30kD以下、または5-50kDなる範囲のタンパク質を意味する。該「小(さな)タンパク質」なる用語は、更に500未満のアミノ酸残基または300未満のアミノ酸残基を含む、アミノ酸のポリマー、または50-500個なる範囲のアミノ酸残基を持つポリマーを意味する。好ましい小タンパク質は、例えば「ヒト成長ホルモン/その因子」等の成長因子、インシュリン、カルシトニン等である。
上記用語「%(w/w)」とは、上記噴霧乾燥された粉末中の活性物質または賦形剤の、質量基準での、百分率で表された量を意味する。述べられている割合は、該粉末の乾燥物質の質量を基準とする。従って、該粉末中の残留水分は、考慮されていない。
上記の「アモルファス」なる用語は、該粉末化された処方物が、10%未満の、好ましくは7%未満のより好ましくは5%未満の、および最も好ましくは4、3、2または1%未満の結晶画分を含むことを意味する。
上記用語「吸入性(可能な)」とは、該粉末が、肺への投与に適していることを意味する。吸入性粉末は、吸入器によって分散させ、また吸入することができるので、該粒子は、肺に入り、また場合により肺胞を介して全身性の活性を発現できる。吸入性の粒子は、例えば0.4-30μmなる範囲(MMD=質量中央値粒径(mass medium diameter))、通常0.5-20μmなる範囲、好ましくは1-10μmなる範囲の平均粒径、および/または0.5-10μmなる範囲、好ましくは0.5-7.5μmなる範囲、より好ましくは0.5-5.5μmなる範囲、より一層好ましくは1-5μmなる範囲、および最も好ましくは1-4.5μmなる範囲または3-10μmなる範囲の、平均空気力学的粒径(MMAD=質量中央値空気力学的粒径(mass median aerodynamic diameter))を持つことができる。
該用語「平均空気力学的粒径」(=質量中央値空気力学的粒径(MMAD))は、該径において、該粉末の質量を基準として、その粒子の50%が、より小さな空気力学的径を持つ、該空気力学的粒径を示す。疑いのある場合、該MMADを測定するための基準法は、本明細書において特定された方法である。
MMDおよびMMADは相互に異なっており、例えば噴霧乾燥によって生成される中空の球は、MMADの値よりも大きなMMD値を持つ可能性がある。
用語「飛翔時間」とは、以下の実施例の部分においてより一層詳しく説明されるような、標準的な測定方法の名称である。飛翔時間の測定において、該MMADは、規定された測定距離を越える、粒子の飛翔時間を測定することによって決定される。該MMADは、該飛翔時間と相関する。このことは、より大きなMMADを持つ粒子が、対応するより小さな粒子(この課題の一つ:〔実施例〕、方法を参照のこと)よりも長い飛翔時間を要することを意味する。
用語「分散性(し得る)」とは、飛翔の可能性を意味する。粉末の飛翔能力に関する前提条件は、粉末の個々の粒子への解凝集(離解)、および空気中における該個々の粒子の分布である。粒子の凝集塊は、大き過ぎて、肺に入ることができず、またその結果吸入療法にとって不適当である。
用語「周囲温度」とは、約20-25℃(±10%)なる温度を表す。この周囲温度なる用語は、特に25℃なる温度を表す。
用語「モノマー含有率」または「モノマー」とは、タンパク質の単一のサブユニットからなる該タンパク質の百分率による割合を表す。該モノマー含有率と、該モノマーおよびダイマーまたは数個のサブユニットからなるオリゴマーの小さなフラグメントからなる画分とは、明確に区別されなければならない。該モノマー含有率は、例えば排除クロマトグラフィーによって測定される。
上記用語「凝集体(物)」とは、固有の状態にある単一のサブユニットからなるタンパク質の、ダイマーおよびオリゴマーの割合を意味する。
該噴霧乾燥された粉末(ここでは、微細粒子画分FPFが関係する)の飛翔特性を決定する因子は、該粒子のサイズ(飛翔時間の測定により決定される、MMDまたは特にMMAD)および該粉末の分散特性である。該粒子表面の化学的組成および該粒子の形態は、該粉末の分散特性にとって決定的である。従って、該粉末の分散特性は、該粉末の成分、特に該賦形剤の慎重な選択により、決定的な影響を受ける恐れがある。
該粒子のサイズおよび形態は、以下のようにして、噴霧乾燥機内で噴霧された後に、個々の液滴を乾燥した場合に得られる:
吸入性の粉末は、通常2-物質ノズルを用いて製造される。後の粒径の出発点として関連する該液滴のサイズ(MMD)は、該アトマイザーガスの割合に依存して、約8-20μmなる範囲にある。該液滴は、2段階に渡って乾燥される。その第一の段階において、水が、如何なる固形分をも生成しないように蒸発される。該溶液に含まれる物質の溶解度限界に達した後に、固/液の二重相が生成され、最終的に封入された固体層が形成される。該粒子を形成する核は、水および既に析出した該物質よりも、相対的に高い溶解度を持つ溶解物質をも含有する。
該粒子が破壊される傾向は、物質のサイズまたはその製法のみに依存するものではない。寧ろ、該破壊は、該固体の疎水性、到達される溶解度限界および該噴霧用液の固体画分の複雑な関数である。該噴霧用液の溶解度限界および固体画分の組合せも、該粒子層の厚みを制御する。他の影響を及ぼす変数、例えばガラス転移点およびこれに起因する該噴霧用液中の該粉末の粘度も、該破壊傾向に影響する恐れがある。
同様な疎水性および溶解度を持つ賦形剤(バリン、イソロイシン)は、これに匹敵する形態を示さず、また結果的に匹敵する空気力学的な諸特性を全く示さなかった。
本発明は、タンパク質およびフェニルアラニンを含有する粉末に係り、該粉末が、少なくとも30%(w/w)のフェニルアラニンを含有する(少なくとも2成分複合体)ことを特徴とする。
本発明は、タンパク質およびフェニルアラニンを含有する粉末に係り、該粉末が、少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニンを含有する(少なくとも2成分複合体)ことを特徴とする。
本発明は、特にタンパク質、フェニルアラニンおよび少なくとも1種の更なる賦形剤、例えば糖またはポリオールを含有する粉末に係り、該粉末が、少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニンを含有する(少なくとも3成分複合体)ことを特徴とする。
好ましい一態様において、該本発明の粉末(少なくとも2成分または3成分)は、噴霧乾燥された粉末である。
更なる態様において、本発明の粉末は、少なくとも30%(w/w)、31%(w/w)、32%(w/w)、33%(w/w)、34%(w/w)、35%(w/w)、36%(w/w)、37%(w/w)、38%(w/w)、39%(w/w)、40%(w/w)、41%(w/w)、42%(w/w)、43%(w/w)、44%(w/w)、45%(w/w)、46%(w/w),47%(w/w),48%(w/w),49%(w/w),50%(w/w),51%(w/w)、52%(w/w),53%(w/w)、54%(w/w)、55%(w/w)、56%(w/w)、57%(w/w)、58%(w/w)、59%(w/w)、60%(w/w)、61%(w/w)、62%(w/w)、63%(w/w)、64%(w/w)、65%(w/w)、66%(w/w)、67%(w/w)、68%(w/w)、69%(w/w)、70%(w/w)、75%(w/w)、80%(w/w)、85%(w/w)、90%(w/w)、95%(w/w)、99%(w/w)、または99.99%(w/w)のフェニルアラニンを含む。高率でのフェニルアラニンの使用は、著しく効力のあるタンパク質、例えばサイトカインおよびインターフェロン(IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-ω、ペジレート化(pegylated) IFN等)において特に好ましい。というのは、ほんの少量(0.01%(w/w)〜10%(w/w)なる範囲、特に0.01%(w/w)〜5%(w/w)なる範囲および特に0.01%(w/w)〜1%(w/w)なる範囲)の、このタンパク質が、必要とされるに過ぎないからである。
更なる態様において、本発明の粉末は、二糖およびオリゴ糖から選択される非-還元性の糖を含む。好ましい該二糖は、サッカロースまたはトレハロースであり、該オリゴ糖は、三糖、例えばラクトスクロースである。
もう一つの態様において、該糖の割合は、多くとも50%(w/w)、好ましくは5%(w/w)、10%(w/w)、15%(w/w)、20%(w/w)、25%(w/w)、30%(w/w)、35%(w/w)、40%(w/w)、45%(w/w)および特に好ましくは10〜20%(w/w)なる範囲内にある。
更なる態様において、本発明の粉末は、ポリオールを含む。好ましくは、該ポリオールは、マニトールである。
更なる態様において、糖対蛋白質の質量比は、1:10〜10:1なる範囲、好ましくは1:3〜5:1なる範囲内にある。
更なる特に好ましい態様において、該本発明の粉末は、生理的pH値にある。更に、とりわけ好ましい態様において、該本発明の粉末のpHは、7.0〜7.4なる範囲にある。更に好ましい態様において、該本発明の粉末は、フェニルアラニンの等電点に相当しないpHにある。
好ましい一態様において、該タンパク質は、活性物質、好ましくは医薬的に活性な物質、例えば抗体、抗体フラグメント、抗体の一部分との融合タンパク質、または接合抗体、成長因子、ホルモン、酵素、サイトカインまたはインターフェロンである。特に好ましい態様において、該医薬的に活性な物質は、インシュリンまたはカルシトニンである。
更なる態様において、該医薬的に活性な物質は、新生児のFc-レセプタと結合する、抗体フラグメントまたはタンパク質である。
更なる態様において、該タンパク質の含有率は、0.01-70%(w/w)、0.01-60%(w/w)、0.01-50%(w/w)、0.01-40%(w/w)、1-50%(w/w)、10-50%(w/w)および好ましくは30-50%(w/w)なる範囲内にある。
特に好ましい態様において、該粉末は、60/10/30なる質量比にある、フェニルアラニン/ラクトスクロースまたはサッカロース/少量のタンパク質からなる。
更なる態様において、該粉末粒子の平均空気力学的粒径(MMAD=質量中央値空気力学的粒径)は、10μm未満、好ましくは7.5μm未満、より一層好ましくは1-6μmなる範囲または3-6μmなる範囲または5-7μmなる範囲内にある。
更なる態様において、本発明は、医薬組成物に係り、該組成物は、本発明による粉末を含む。
更なる態様において、該医薬組成物は、更に医薬上許容される賦形剤または医薬上許容される賦形剤、例えば医薬上許容される塩、バッファー、洗浄剤等を含む。
a) フェニルアラニン溶液を調製する工程;
b) 少なくとも1種のタンパク質および場合により少なくとも1種の更なる賦形剤、例えば糖またはポリオールを添加する工程;
c) かくして調製した該溶液または懸濁液を、好ましくは90〜200℃なる範囲の流入温度および好ましくは40〜150℃なる範囲の流出温度にて、噴霧する工程;および
d) 該形成された粒子を、該乾燥ガスから分離する工程。
本発明による方法の好ましい一態様において、該溶媒は、水、エタノール、イソプロパノール等である。
本発明の方法の特に好ましい態様においては、該タンパク質は、医薬的に活性な物質である。該医薬的に活性な物質は、好ましくは小タンパク質、抗体、抗体フラグメント、抗体の一部を持つ融合タンパク質、または接合抗体、成長因子、ホルモン、酵素、サイトカインまたはインターフェロンである。特に好ましい態様において、該医薬的に活性な物質は、インシュリン、カルシトニンである。更にとりわけ最も好ましい態様において、該医薬的に活性な物質は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4群の抗体、抗体フラグメント、インターフェロン等である。
本発明の方法の更なる態様において、以下の工程を、該工程a)と工程b)との間において実施する:
-該フェニルアラニン溶液を、好ましくは80℃まで加熱する工程;および
-該フェニルアラニン溶液を、各場合において添加すべき該特定のタンパク質の変性温度以下まで冷却する工程、ここで、該冷却は、好ましくは周囲温度までである。
本発明の方法の好ましい態様において、該溶液または懸濁液は、少なくとも一つの加圧ノズルまたは少なくとも一つのロータリーエバポレータまたは少なくとも一つのベンチュリノズルまたは少なくとも一つの超音波ネブライザーまたは少なくとも一つの2-物質ノズルによって、該工程c)において噴霧される。特に好ましい態様において、該溶液または懸濁液は、少なくとも一つの2-物質ノズルを用いて、該工程c)において噴霧される。
本発明は、更に本発明による粉末または本発明による医薬組成物の、医薬としての使用に関する(第一の医学的効能)。
好ましい医学的利用において、該医薬は、本発明による噴霧乾燥された粉末を含む。
本発明は、更に本発明による粉末または本発明による医薬組成物の、吸入用医薬としての利用に関する。
好ましい医学的利用において、該吸入用医薬組成物は、本発明による噴霧乾燥された粉末を含む。
本発明は、更に本発明による粉末または本発明による医薬組成物の、呼吸器系疾患または全身的疾患を治療するための、医薬の製造における利用に関する(第二の医学的効能)。
好ましい一態様において、呼吸器系疾患または全身的疾患を治療するための、医薬の製造において利用される本発明の該粉末、または本発明により使用される該医薬組成物は、噴霧乾燥される。
本発明の好ましい一態様は、発明に関連する粉末、好ましくは噴霧乾燥された粉末に係り、該粉末は、添加されたステアリン酸マグネシウムを全く含まない。ステアリン酸マグネシウムは、噴霧乾燥によって粒子表面を疎水性にするには不適当である。というのは、該物質は、事実上水に不溶であり、従ってステアリン酸マグネシウム懸濁液を使用する必要があるからである。この場合、所定の粒子被覆を保証するためには、高いステアリン酸マグネシウム濃度が必要とされる。従って、より適した方法は、別の処理工程、例えば該(噴霧乾燥された)粉末と、ステアリン酸マグネシウムとを混合する工程である。
本発明のもう一つの好ましい態様は、添加されたバリンを含まない、本発明の粉末、好ましくは噴霧乾燥された粉末に係る。この好ましい粉末は、バリンを全く含まない。
本発明のもう一つの好ましい態様は、添加されたイソロイシンを含まない、本発明の粉末、好ましくは噴霧乾燥された粉末に関する。この好ましい粉末は、イソロイシンを全く含まない。
本発明のもう一つの好ましい態様は、添加されたロイシンを含まない、本発明による粉末、好ましくは噴霧乾燥された粉末に関する。この好ましい粉末は、ロイシンを全く含まない。
本発明のもう一つの好ましい態様は、添加されたデキストランを含まない、本発明による粉末、好ましくは噴霧乾燥された粉末に関する。この好ましい粉末は、デキストランを全く含まない。デキストラン-含有粉末は、低い分散性を有し、また結果的により好ましくないものとなる。
以下の実施例から、より高い疎水性を持つアミノ酸が、該粒子の膨張を引き起こすことは明らかである。他方、含まれているアミノ酸の機能として、粒子が破壊される傾向は、予想できず、また如何なる構造に基く法則にも従わない。以下の実施例において、この破壊は、驚くべきことに、バリン、イソロイシン、フェニルアラニンの順に増大する。バリンは、丸い粒子を形成するが、フェニルアラニン-含有粒子は、殆ど完全に破壊される。該フェニルアラニン-含有粉末は、驚くべきことに、極めて良好な空気力学的特性を持つ。65-72%なる範囲の部再粒子画分(FPF)を、該アミノ酸の飽和度とは無関係に、達成することができる。
該破壊およびこれに関連する不均一な形状は、ファンデルワールス力を弱める。その上、該フェニルアラニン-含有粒子は、該バリン-含有およびイソロイシン-含有粒子とは違って、実質上より粗い表面構造を持つ。この粗い表面構造は、結晶化によって生じたものである。
以下の実施例において、フェニルアラニン単独で、および特に糖との組合せで、とりわけ噴霧乾燥後に、極めて良好な粉末の空気力学的諸特性をもたらすことを示すことができた。しかし、フェニルアラニン単独では、あらゆるタンパク質、例えば実施例1および2において使用したIgG1-抗体を安定化することはできない。しかし、このようなタンパク質に対して、糖の添加により安定化することが可能である。
以下の実施例は、また該フェニルアラニン-含有粉末が、デキストラン-含有粉末と比較して、実質的により良好なFPF(33.7%に対して59.6%)を持つことも示される。これら2種の粉末の空気力学的粒径は、ほんの僅かに異なっているに過ぎず、あるいは該フェニルアラニン-含有粉末は、僅かに高いMMADを有しているが、これら粉末は、該カプセルから排除されるので、該FPFにおける差は、該粉末の分散特性によるものとすることができる。このことは、該フェニルアラニン-含有粉末が、対応するデキストラン-含有粉末に比して、実質的に良好に分散でき、また結果として粒子間相互作用が減じられることを意味している。
これら実施例の結果は、特に高い湿度における該三成分粉末組成物の適性を強調している。従来の粉末、特に噴霧乾燥して粉末は、一般に高い湿度条件に暴露した際に、その空気力学的諸特性における多大な劣化を示す。他方、フェニルアラニンは、高い湿度下(例えば、相対湿度60%)で保存した際に、該空気力学的特性の安定化をもたらし、あるいは以下の実施例において示すように、これら特性を寧ろ改善する。
以下の実施例によって示されるように、粉末、フェニルアラニン-含有粉末も、またデキストラン-含有粉末も、粉末の大きな凝集体を全く含まない。その上、多数の窪みを、該処方物中に見ることができる。これら2種の形態間の本質的な差は、該フェニルアラニン-含有粉末の高い表面粗さである。この高い表面粗さは、該粉末のより良好な分散特性の原因であると考えられる。
IgG1および溶解度および疎水性において異なる様々なアミノ酸から、二成分溶液を調製した。該噴霧溶液中のアミノ酸の濃度は、使用した該アミノ酸については50%であり、また他の一連のテストにおいては、特定のアミノ酸の達成し得る最大の濃度の90%であった(以下の表1参照のこと)。IgG1とアミノ酸との間の質量比は95/5であった。該アミノ酸の異なる溶解度のために、これに対応して異なる固体画分が得られた。
噴霧乾燥器: SD-ミクロ(Micro)[メサーズニロ(Messrs. Niro)]
入口温度: 120 ℃
出口温度: 90 ℃
アトマイザーガス流量: 5 kg/h
乾燥ガス流量: 28 kg/h
より疎水性の高いアミノ酸が、粒子の膨張を引き起こすことが分かった。粒子の破壊傾向は、バリン、イソロイシンおよびフェニルアラニンの順に増大した。バリンは丸い粒子を形成したが、フェニルアラニンは、殆ど完全に破壊された(図1a-1c参照のこと)。該フェニルアラニン-含有粉末は、驚いたことに極めて良好な空気力学的特性を有していた。該アミノ酸の飽和度とは無関係に、65-72%なる微細粒子画分(FPF)を達成することができた(表2参照のこと)。
該粒子の空気力学的諸特性が、該粒子の形態およびその表面特性に著しく依存するものと推定される。従って、フェニルアラニン-含有粒子の場合におけるような、該粒子または著しく破壊された粒子内の多数の窪みが、吸入にとって理想的なものとなる。
該破壊およびこれに関連する不均一な形状は、ファンデルワールス力を弱める。その上、該フェニルアラニン-含有粒子は、該バリン-含有粒子およびイソロイシン-含有粒子とは違って、実質上より粗い表面構造を持つ。この粗い表面構造は、結晶化によって生じたものである。
上記表2の注b:該FPFは、一段インパクターを用いて測定する。該インパクターの遮断は、39.0L/分なる流量にて、5.0μmにて行う。
上記表2の注c:該達成し得る最大のFPFは、該TOF測定セルにおいて決定した粒径<5μmを持つ粒子の割合に等しい。該インパクター段階を直接通過する該粉末エーロゾルは、該TOF測定セルにて測定する。従って、該TOF測定値は、該測定装置内に予め堆積している粒子部分との関連性はない(カプセル、ハンディヘイラー、SIP)。他方、該FPFは、該カプセル中の質量に依存する。これは、該インパクター段階に達する前に堆積している粒子部分を含む。該FPFが、該TOF測定セル内で見出された粒径<5μmを持つ粒子部分と等しい場合には、結果的に該粉末は、完全に分散されており、また該ハンディヘイラーおよびSIPには、粉末堆積物はない。
実施例2:三成分複合体
実施例1に基いて、三成分混合物を、IgG1、フェニルアラニンおよび他の賦形剤から製造した。該第三の成分は、極めて易水溶性の三糖であるラクトスクロースLS90Pであった。
4種の噴霧用溶液を調製した(表3を参照のこと)。該溶媒は、精製水であった。該噴霧溶液中の固体画分は、各場合において3.83%(w/v)であった。
噴霧乾燥器: SD-ミクロ(Micro)[メサーズニロ]
入口温度: 120 ℃
出口温度: 90 ℃
アトマイザーガス流量: 4 kg/h
乾燥ガス流量: 28 kg/h
図3a〜3bは、様々な三成分粉末のSEM写真を示す。これら4種の粉末は、フェニルアラニンおよびIgG1を含む粉末組成物(実施例1参照)と同様の折目(皺)を示している。該4種の三成分粉末は、相互間の有意な差を示さない。
表4は、該4種の粉末の空気力学的特性を示す。ラクトスクロースを添加した結果として、そのFPFは、上記二成分組成物と比較して、ほんの僅かに低下する。他方、該三成分粉末組成物の噴霧乾燥後の、タンパク質の安定化は、極めて良好である。これら全ての処方物に関するモノマー含有率は、98-99%なる範囲内にあった(表5参照)。
表4:APS*を用いて測定した、噴霧乾燥した粉末の空気力学的特性
前の実施例において、フェニルアラニン自体、および特に糖との組合せが、噴霧乾燥後に、粉末の極めて良好な空気力学的特性を生じることが明らかになった。しかし、フェニルアラニン自体は、あらゆるタンパク質、例えば実施例1および2で使用したIgG1-抗体を安定化することはできない。しかし、このようなタンパク質に対しては、糖の添加による安定化が可能である。本実施例においては、噴霧乾燥後の保存安定性を、検討した。一方で、該フェニルアラニンの含有率を、変化させた(該粉末を基準として80-60%)。他方、該タンパク質の安定性に及ぼす、LS90Pの割合の影響をも検討した。様々なタンパク質対糖の比を使用した(表5および6参照)。
噴霧乾燥器: SD-ミクロ(Micro)[メサーズニロ]
入口温度: 150 ℃
出口温度: 90 ℃
アトマイザーガス流量: 4 kg/h
乾燥ガス流量: 28 kg/h
保存条件:該粉末を、様々な保存条件下(25℃/乾燥、40℃/乾燥、25℃/60%RH)にて、3ヶ月間保存した。25℃/乾燥および40℃/乾燥なる保存条件に対して、該粉末は、乾燥条件下(<30%RH)にあるガラス瓶に移し、ゴム栓およびフランジ付きのキャップで封止した。
25℃および60%RH保存条件は、デシケータ内で、飽和塩水を用いて生成した。該デシケータは、乾燥カップボード内で、調節された。
本実施例は、該タンパク質が、殆ど完全に安定化された状態で、25℃および40℃両者における乾燥保存条件下で、該テストした保存期間全体に渡り、保存可能であることを示している。湿潤条件下では、本実施例において使用した該抗体に対して、幾分か害を及ぼす。
従って、該三成分粉末は、良好な微細粒子画分を持ち、また更に良好な保存安定性をも持つ。
実施例4:比較による保存安定性(デキストラン-およびフェニルアラニン-含有粉末)
フェニルアラニン-含有粉末の諸特性を、他の公知の粉末の諸特性と比較した(表10参照)。これら粉末両者に関連して、該保存期間全体に渡り、その空気力学的粒径における僅かな変動のみが観測される(表11)。
図6は、該安定性の初期値に基く相対的なFPFを示す。ここでは、該フェニルアラニン-含有粉末が、該保存期間全体に渡り、該FPFにおける実質的により低い減衰を示すことは明らかである。フェニルアラニンは、高い湿度条件下で、特に有利である。デキストラン-含有粉末においては、該FPFは、その初期値の45-49%まで低下するが、該フェニルアラニン-含有粉末は、寧ろ2ヶ月間の保存後に該FPFにおける増加を示し、また3ヶ月後においても、該初期値の僅かに89%まで低下するに過ぎない。
この結果は、特に高湿条件における該三成分粉末組成物の安定性を強調するものである。一般に、従来の噴霧乾燥された粉末は、その空気力学的諸特性における多大な低下を示す。他方、フェニルアラニンは、該空気力学的特性の安定化、または本例において示したように、これらを寧ろ改善する。
図7および図8に示したように、何れの粉末(実施例7のフェニルアラニン-含有粉末、実施例8のデキストラン-含有粉末)も、粉末の如何なる大きな凝集体をも含まない。その上、多数の窪みを、これら両処方物において見ることができる。これら2つの形態間の本質的な差は、該フェニルアラニン-含有粉末のより高い表面粗さにある。この高い表面粗さは、より良好な分散特性の原因ともなっているものと思われる。
該疎水性アミノ酸(イソロイシンまたはフェニルアラニン)の添加は、これら粉末両者において、該粒子の表面を、少なくとも部分的に疎水性にするはずである。ここでは、再度、該表面の単なる疎水化が、フェニルアラニンを用いた場合に見られるように、粗い表面構造の生成よりも、該粉末の空気力学的特性の改善にとって、より効果的であるとは全くいえないことを明らかにする。
実施例5:様々なpH値における噴霧乾燥
本例においては、規定された組成を持つ噴霧溶液(表13参照)のpHを、様々な値に調節し、次いで噴霧した。
該噴霧条件を、以下の表14に示す。
該タンパク質の安定化は、該噴霧溶液のpH値に依存する。使用した該抗体は、低pH値においてより安定である。しかし、特に二成分組成物と比較した際のタンパク質溶液の安定化(図2参照)も、9.0という高いpH値において達成し得る。
実施例6:様々な量のフェニルアラニンを用いた、噴霧乾燥
本例においては、該噴霧乾燥粉末中のフェニルアラニン含有率を、50%(w/w)から20%(w/w)に減じる。該粉末中の組成を、以下の表16にまとめた。また噴霧条件を、以下の表17に示す。
該粒子の形態学は、該噴霧乾燥した粉末中の該フェニルアラニン含有率に大きく依存する。50%(w/w)、40%(w/w)および30%(w/w)なるフェニルアラニン含有率において、著しく折目(皺)の付いた、レーズン-様の粒子が得られる(図10a-10c)。該フェニルアラニン含有率が20%まで下げられると、該皺形成の度合いは、急激に低下する。該粒子の形態における変化は、該粉末の空気力学的特性における劣化と相関する。このことは、噴霧溶液を噴霧乾燥する際の、該フェニルアラニンの正の効果が、30%(w/w)以上においてのみ明らかになることを意味する。
実施例7:様々なタンパク質の噴霧乾燥
本例においては、IgG型の抗体に加えて、ホルモンとしてのカルシトニンおよび酵素としてのリゾチームを噴霧乾燥した。調製した該粉末の組成は、以下の表18に示されており、また該噴霧乾燥条件は、以下の表19に指定されている。
実施例8:様々な追加の賦形剤を含む噴霧乾燥粉末の製造
これら一連の実験においては、LS90Pの代わりに、他の賦形剤を、フェニルアラニンおよびIgG1抗体と共に噴霧乾燥した。該好ましい粉末の組成を、以下の表20に示し、その噴霧乾燥条件を、以下の表21に示す。
本実施例は、該噴霧乾燥された粉末が、結晶化阻害剤を使用することにより、最適化できることを立証するためのものである。この目的のために、以下の表23におけるような粉末を製造した。
LS90Pの結晶化エンタルピーは、24.3J/gであり、これはX-線解析においてアモルファスのLS90P(23.8J/g)に相当するものであった。IgG1-含有粉末2を基にして、該粉末のアモルファス特性に基く、該粉末の諸特性は、少量のHSAの添加により最適化することができる。
本実施例は、芳香族アミノ酸であるトリプトファンおよびヒスチジンと、匹敵するフェニルアラニン-含有粉末とを比較するために与えられる。芳香族アミノ酸であるチロシンは、このアミノ酸が十分に水溶性ではないことから、噴霧乾燥用の有力な賦形剤としては除外される。トリプトファンも、フェニルアラニンと比較して、極めて水溶性の低いものであり、従って20%(w/w)以下のトリプトファン含有率が、医薬的に有用な粉末の製造のために使用できる。該芳香族アミノ酸の噴霧乾燥特性を比較するために、各場合において、20%のアミノ酸を含有する粉末を製造した。以下の表27は、該粉末の組成を示し、また表28は、その噴霧条件を示す。
該ヒスチジン-含有粉末を越える、該フェニルアラニン-含有粉末の主な利点は、その低い湿分-感受性にある。該ヒスチジン-含有粉末のFPFは、50%相対湿度に暴露した後に低下するが、該フェニルアラニン-含有粉末の場合には、該FPFは、湿分に暴露した後に、寧ろ改善される。対応する諸特性も、その吐出し質量との関連で観測できる。該ヒスチジン-含有粉末の場合、その吐出し質量は、水分に暴露した際に減少し、一方で該フェニルアラニン-含有粉末の場合、その吐出し質量は増大する。
トリプトファン-含有粉末は、湿分に暴露しても、該FPFおよび吐出し質量に何の変化をも示さない。フェニルアラニンと比較した場合の、このアミノ酸の欠点の一つは、既に前に記載した通り、このものの極めて低い水に対する溶解度である。
ヒスチジンを、更に対応するフェニルアラニン-含有粉末と比較した(表29参照)。その製造方法は、上記表28に指定した噴霧乾燥条件と同様であった。
特に顕著なことは、水分に暴露した後の該空気力学的特性における差である(表31参照)。水分の影響の結果として、該FPFは、テストした該ヒスチジン-含有粉末においては、ほぼ完全に低下される。他方において、該フェニルアラニン-含有粉末は、その空気力学的特性における僅かな改善を示す。
Claims (26)
- タンパク質およびフェニルアラニンを含む粉末であって、該粉末が、少なくとも30%(w/w)のフェニルアラニン、好ましくは少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニンを含むことを特徴とする、前記粉末。
- タンパク質、フェニルアラニンおよび少なくとも1種の更なる賦形剤、例えば糖またはポリオールを含む粉末であって、該粉末が、少なくとも30%(w/w)のフェニルアラニン、好ましくは少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニンを含むことを特徴とする、前記粉末。
- 前記粉末が、噴霧乾燥されている、請求項1または2記載の粉末。
- 少なくとも35%(w/w)、40%(w/w)、45%(w/w)、50%(w/w)、55%(w/w)、60%(w/w)、65%(w/w)、70%(w/w)、75%(w/w)、80%(w/w)、85%(w/w)、90%(w/w)または95%(w/w)および99%(w/w)または99.99%(w/w)のフェニルアラニンが、前記粉末中に含まれている、請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末。
- 前記フェニルアラニンの割合が、30%(w/w)〜99.99%(w/w)なる範囲、好ましくは40%(w/w)〜99.99%(w/w)なる範囲、40%(w/w)〜70%(w/w)なる範囲、60%〜90%なる範囲または特に好ましくは60%〜80%なる範囲内にある、請求項1〜4の何れか1項に記載の粉末。
- 前記糖が、二糖およびオリゴ糖からなる群から選択される非-還元糖である、請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末。
- 前記二糖が、スクロースまたはトレハロースである、請求項6記載の粉末。
- 前記オリゴ糖が、三糖、例えばラクトスクロースである、請求項6記載の粉末。
- 前記ポリオールが、マニトールである、請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末。
- 前記糖の割合が、多くとも50%(w/w)、好ましくは5,10、15、20、25、30、35、40、45%(w/w)および特に好ましくは10〜20%(w/w)なる範囲内にある、請求項6記載の粉末。
- 前記糖対蛋白質の質量比が、1:10〜10:1なる範囲、好ましくは1:3〜5:1なる範囲内にある、請求項1〜10の何れか1項に記載の粉末。
- 前記蛋白質が、活性物質、好ましくは医薬的に活性な物質、例えば抗体、抗体フラグメント、抗体の一部分を含む融合タンパク質または接合抗体、成長因子、ホルモンまたは酵素である、請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末。
- 前記蛋白質の含有率が、0.01〜70%(w/w)、0.01〜60%(w/w)、0.01〜50%(w/w)、0.01〜40%(w/w)、1〜50%(w/w)、10〜50%(w/w)および好ましくは30〜50%(w/w)なる範囲内にある、請求項1〜12の何れか1項に記載の粉末。
- 前記フェニルアラニン/糖/蛋白質の質量比が、40/10/50、99.89/0.1/0.01、90/9/1、90/1/9、80/10/10、30/10/60、好ましくは60/10/30または50/10/40である、請求項2〜13の何れか1項に記載の粉末。
- 前記粉末が、60/10/30なる質量比の、フェニルアラニン/ラクトスクロースまたはサッカロース/および小タンパク質、例えば成長因子、インシュリン、インターフェロン、またはカルシトニンからなる、請求項2〜13の何れか1項に記載の粉末。
- 前記粉末粒子の平均空気力学的粒径(MMAD=質量中央値空気力学的粒径)が、10μm未満、好ましくは7.5μm未満、より好ましくは1〜6μmなる範囲、または3〜6μmなる範囲または5〜7μmなる範囲内にある、請求項1〜14の何れか1項に記載の粉末。
- 請求項1〜16の何れか1項に記載の粉末を含有することを特徴とする、医薬組成物。
- 請求項1〜16の何れか1項に記載の粉末の製造方法であって、
a) フェニルアラニン溶液を調製する工程;
b) 少なくとも1種のタンパク質および場合により少なくとも1種の更なる賦形剤、例えば糖またはポリオールを添加する工程;
c) かくして調製した前記溶液または懸濁液を、好ましくは90〜200℃なる範囲の流入温度および好ましくは40〜150℃なる範囲の流出温度にて、噴霧する工程;および
d) 前記形成された粒子を、前記乾燥ガスから分離する工程、
を含むことを特徴とする、前記方法。 - 前記タンパク質が、医薬的に活性な物質である、請求項18記載の方法。
- 以下の追加の工程を、前記工程a)およびb)の間において実施する、請求項18または19記載の方法:
-前記フェニルアラニン溶液を、好ましくは80℃まで加熱する工程;
-該フェニルアラニン溶液を、各場合において添加すべき前記特定のタンパク質の変性温度以下まで冷却する工程、ここで、該冷却は、好ましくは周囲温度までである。 - 前記溶液または懸濁液を、前記工程c)において、少なくとも一つの加圧ノズルまたは少なくとも一つのロータリーエバポレータまたはベンチュリノズルまたは少なくとも一つの超音波ネブライザーまたは少なくとも一つの2-物質ノズルによって噴霧する、請求項18〜20の何れか1項に記載の方法。
- 前記工程d)の前記粒子の分離を、少なくとも一つの粒子分離器、好ましくは少なくとも一つのサイクロンを使用して実施する、請求項18〜21の何れか1項に記載の方法。
- 請求項1〜16の何れか1項に記載の粉末または請求項17記載の医薬組成物の、薬剤としての使用。
- 請求項1〜16の何れか1項に記載の粉末または請求項17記載の医薬組成物の、吸入用薬剤としての使用。
- 請求項1〜16の何れか1項に記載の粉末または請求項17記載の医薬組成物の、呼吸器系疾患または全身的疾患の治療用医薬製造のための使用。
- 前記疾患が、肺癌、肺の炎症、嚢胞性線維症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、抗-炎症性諸疾患、ウイルス疾患、例えば呼吸器合胞体ウイルス(RSV)によって引き起こされるウイルス疾患からなる群から選択される、請求項25記載の使用。
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