JP2009528017A - 酵母の凝集性に関与するタンパク質をコードする遺伝子及びその用途 - Google Patents
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Abstract
【選択図】なし
Description
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(4)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(5)DNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(6)以下の(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(j) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(k)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(l)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び
(m)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド。
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(8a)以下の(x)〜(z)の構成要素を含む発現カセットを含む上記(7)に記載のベクター:
(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター
(y)該プロモーターにセンス方向又はアンチセンス方向で結合した、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(z)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナル。
(8b)以下の(x)〜(z)の構成要素を含む発現カセットを含む上記(8)に記載のベクター:
(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター
(y)該プロモーターにセンス方向で結合した、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(z)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナル。
(8c)以下の(x)〜(z)の構成要素を含む発現カセットを含む上記(8)に記載のベクター:
(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター
(y)該プロモーターにアンチセンス方向で結合した、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(z)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナル。
(9)上記(6)に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(11)凝集性が増大した上記(10)に記載の酵母。
(12)上記(7)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって凝集性が増大した上記(11)に記載の酵母。
(13)(A)上記(8)〜(9)のいずれかに記載のベクターを導入することによって、(B)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を破壊することによって、あるいは(C) プロモーターに変異を加えることによって、またはプロモーターを組み換えることによって、上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された酵母。
(14)凝集性が低下した上記(10)または(13)に記載の酵母。
(16)醸造する酒類が麦芽飲料である上記(15)に記載の酒類の製造方法。
(17)醸造する酒類がワインである上記(15)に記載の酒類の製造方法。
(18)上記(15)〜(17)のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
(19a)上記(19)に記載の方法によって、凝集性が高い、あるいは低い酵母を選別する方法。
(19b)上記(19a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
(20)被検酵母を培養し、配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の凝集性を評価する方法。
(20a)上記(20)に記載の方法で、被検酵母を評価し、酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現量が高い、あるいは低い酵母を選別する、酵母の選択方法。
(20b)上記(20a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
(22)基準酵母及び被検酵母を培養して配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与する遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現、あるいは低発現である被検酵母を選択する、上記(21)に記載の酵母の選択方法。
(23)基準酵母及び被検酵母を培養して各酵母における上記(7)に記載のタンパク質を定量し、基準酵母よりも該タンパク質量の多い、あるいは少ない被検酵母を選択する、上記(21)に記載の酵母の選択方法。即ち、複数の酵母を培養して各酵母における上記(7)に記載のタンパク質を定量し、その中で該タンパク質量の多い、あるいは少ない被検酵母を選択する、上記(21)に記載の酵母の選択方法。
まず、本発明は、(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであってもよい。
本発明で対象とするポリヌクレオチドは、上記のビール酵母由来の凝集性に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与するタンパク質が挙げられる。
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2のアミノ酸配列と約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ酵母に凝集性を付与するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
なお、酵母凝集性の判定は、例えば特開平8-205890号公報に記載の方法によって測定することができる。
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J. Mol. Biol. 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメータは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメータは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。
本発明は、上記ポリヌクレオチド(a)〜(i)のいずれかにコードされるタンパク質も提供する。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与するタンパク質である。
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、上記したような数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与するタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ酵母に凝集性を付与するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
次に、本発明は、上記したポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。本発明のベクターは、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)又は上記(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する。また、本発明のベクターは、通常、(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター;(y)該プロモーターにセンス方向又はアンチセンス方向で結合した、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA);及び(z)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。
本発明においては、後述するビールの醸造において、上記本発明のタンパク質を高発現させる場合は、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を促進するようにこれらのポリヌクレオチドを該プロモーターに対してセンス方向に導入する。また、後述するビールの醸造において、上記本発明のタンパク質の発現を抑制させる場合は、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を抑制するようにこれらのポリヌクレオチドを該プロモーターに対してアンチセンス方向に導入する。
また、上記本発明のタンパク質の発現を抑制させる場合は、上記(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチドが発現可能なようにベクターに導入することもできる。なお、本発明においては、ターゲットとする上記遺伝子(DNA)を破壊することによって、上記DNAの発現または上記タンパク質の発現を抑制することができる。遺伝子の破壊は、ターゲットとする遺伝子における遺伝子産物の発現に関与する領域、例えば、コード領域やプロモーター領域の内部へ単一あるいは複数の塩基を付加あるいは欠失させたり、これらの領域全体を欠失させることにより行うことができる。このような遺伝子破壊の手法は、公知の文献を参照することができる(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 4951(1979) 、Methods in Enzymology, 101, 202(1983)、特開平6-253826号公報など参照)。
また、本発明においてはプロモーターに変異を加えることによって、あるいはプロモーターを相同組み換えによって組み換えることによってターゲット遺伝子の発現量を制御することもできる。このような変異の導入方法はNucleic Acids Res. 29、 4238-4250(2001)に、また、プロモーターの変換による遺伝子の発現制御方法は、例えば、Appl Environ Microbiol.,72,5266-5273 (2006)に記載されている。
上記のように構築されるベクターは、宿主酵母に導入される。宿主酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール,ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにウイスキー酵母、例えばサッカロマイセス セレビシエNCYC90等、ワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌスが好ましく用いられる。
より具体的には、宿主酵母を標準酵母栄養培地(例えばYEPD培地“Genetic Engineering. Vo1.1, Plenum Press, New York, 117(1979)”等)で、OD600nmの値が1〜6となるように培養する。この培養酵母を遠心分離して集め、洗浄し、濃度約1〜2Mのアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオンで前処理する。この細胞を約30℃で、約60分間静置した後、導入するDNA(約1〜20μg)とともに約30℃で、約60分間静置する。ポリエチレングリコール、好ましくは約4,000ダルトンのポリエチレングリコールを、最終濃度が約20%〜50%となるように加える。約30℃で、約30分間静置した後、この細胞を約42℃で約5分間加熱処理する。好ましくは、この細胞懸濁液を標準酵母栄養培地で洗浄し、所定量の新鮮な標準酵母栄養培地に入れて、約30℃で約60分間静置する。その後、選択マーカーとして用いる抗生物質等を含む標準寒天培地上に植えつけ、形質転換体を取得する。
その他、一般的なクローニング技術に関しては、「モレキュラークローニング第3版」、“Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)”等を参照することができる。
上述した本発明のベクターあるいはDNA断片を目的とする酒類の醸造に適した酵母に導入し、該遺伝子の発現量を制御することによって、目的とする酒類に好適な凝集性を示す酵母を得ることができ、酒類の製造を高効率に行うことが可能となる。すなわち、上述した本発明のベクターあるいはDNA断片を導入した酵母、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)の発現が制御(促進又は抑制)された酵母または下記の本発明の酵母の評価方法によって選択された酵母を用いて酒類製造のための発酵を行い、酒類の製造工程において酵母の沈降を調節することによって、所望の酒類を高効率に製造することができる。対象となる酒類としては、これらに限定されないが、例えば、ビール、発泡酒などのビールテイストドリンク、ワイン、ウイスキー、清酒等のほか、燃料用などの実用アルコールなども挙げることができる。
これらの酒類を製造する場合は、親株の代わりに本発明において得られた醸造酵母を用いる以外は公知の手法を利用することができる。したがって、原料、製造設備、製造管理等は従来法と全く同一でよく、酒類を製造するためのコストを増加させることはない。つまり、本発明によれば、既存の施設を用い、コストを増加させることなく、酒類の製造を高効率に行うことができる。
本発明は、配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、被検酵母の凝集性について評価する方法に関する。このような評価方法の一般的手法は公知であり、例えば、WO01/040514号公報、特開平8−205900号公報などに記載されている。以下、この評価方法について簡単に説明する。
まず、被検酵母のゲノムを調製する。調製方法は、Hereford法や酢酸カリウム法など、公知の如何なる方法を用いることができる(例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, p130 (1990))。得られたゲノムを対象にして、酵母に凝集性を付与するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(好ましくは、ORF配列)に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、被検酵母のゲノムにその遺伝子あるいはその遺伝子に特異的な配列が存在するか否かを調べる。プライマー又はプローブの設計は公知の手法を用いて行うことができる。
PCR 法の反応条件は、特に限定されないが、例えば、変性温度:90〜95℃、アニーリング温度:40〜60℃、伸長温度:60〜75℃、サイクル数:10回以上などの条件を用いることができる。得られる反応生成物はアガロースゲルなどを用いた電気泳動法等によって分離され、増幅産物の分子量を測定することができる。この方法により、増幅産物の分子量が特異部分のDNA 分子を含む大きさかどうかによって、その酵母の凝集性について予測・評価する。また、増幅物の塩基配列を分析することによって、さらに上記性質についてより正確に予測・評価することが可能である。
さらに、被検酵母を培養して、配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与するタンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、目的とする凝集性に応じた前記遺伝子発現量の酵母を選択することによって、所望の酒類の醸造に好適な酵母を選択することができる。また、基準酵母および被検酵母を培養し、各酵母における前記遺伝子発現量を測定し、基準酵母と被検酵母の前記遺伝子発現量を比較して、所望の酵母を選択してもよい。具体的には、例えば、基準酵母(例えば、ゲノム解読株サッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株)及び被検酵母を培養して配列番号:1の塩基配列を有する遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現(すなわち、発現が促進されている)、あるいは低発現である(すなわち、発現が抑制されている)被検酵母を選択することによって、目的とする酒類の醸造に好適な酵母を選択することができる。
これらの場合、被検酵母または基準酵母としては、例えば、上述した本発明のベクター又はDNAフラグメントを導入した酵母、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)の発現が制御された酵母、突然変異処理が施された酵母、自然変異した酵母などが使用され得る。酵母の凝集性は、例えば特開平8-205890号公報に記載の方法によって測定することができる。突然変異処理は、例えば、紫外線照射や放射線照射などの物理的方法、EMS(エチルメタンスルホネート)、N−メチル−N−ニトロソグアニジンなどの薬剤処理による化学的方法など、いかなる方法を用いてもよい(例えば、大嶋泰治編著、生物化学実験法39 酵母分子遺伝学実験法、p67-75、学会出版センターなど参照)。
なお、基準酵母、被検酵母として使用され得る酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール、ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母(例えば、サッカロマイセス パストリアヌス、サッカロマイセス セレビシエ、およびサッカロマイセス カールスベルゲンシス)が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲン シス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセスパストリアヌスが好ましく用いられる。基準酵母、被検酵母は、上記酵母から任意の組み合わせで選択しても良い。
特開2004-283169に記載の比較データベースを用いて検索した結果、醸造酵母の凝集性に関与するタンパク質をコードする遺伝子、nonScKRE9を見出した(配列番号:1)。得られた塩基配列情報を基に、それぞれ全長遺伝子を増幅するためのプライマーnonScKRE9_F(配列番号:3)/nonScKRE9_R(配列番号:4)を設計し、ゲノム解読株サッカロマイセス パストリアヌス W34/70株(「W34/70株」と略記することがある。)の染色体DNAを鋳型としたPCRによってnonScKRE9の全長遺伝子を含むDNA断片を取得した。
ビール酵母サッカロマイセス パストリアヌスW34/70株を用いてビール試醸を行った。
麦汁エキス濃度 12.69%
麦汁容量 70L
麦汁溶存酸素濃度 8.6ppm
発酵温度 15℃
酵母投入量 12.8×106cells/mL
発酵液を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(図1)、外観エキス濃度(図2)の経時変化を観察した。またこれと同時に酵母菌体をサンプリングし、調製したmRNAをビオチンラベルして、ビール酵母DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた。シグナルの検出はジーンチップオペレーティングシステム(GCOS;GeneChip Operating Software 1.0、アフィメトリクス社製)を用いて行った。nonScKRE9遺伝子の発現パターンを図3に示す。この結果より、通常のビール発酵においてnonScKRE9遺伝子が発現していることを確認した。
文献 (Goldstein et al., yeast. 15 1541 (1999)) の方法にしたがい、薬剤耐性マーカーを含むプラスミド(pFA6a (G418r), pAG25 (nat1), pAG32 (hph)) をテンプレートとしたPCRによって遺伝子破壊用断片を作製した。PCR用のプライマーとして、nonScKRE9_delta_for(配列番号:5)、nonScKRE9_delta _rv(配列番号:6)を用いた。
上述の方法で作製した遺伝子破壊用断片でビール酵母サッカロマイセス パストリアヌスW34/70株より分離した胞子クローン株(W34/70-2)を形質転換した。形質転換は特開平07-303475号公報に記載された方法で行い、ジェネチシン(Geneticin)300mg/Lあるいはノーセオスリシン(Nourseothricin) 50mg/LあるいはハイグロマイシンB(Hygromycin B) 200mg/Lを含むYPD平板培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース、2%寒天)で形質転換体を選択した。
実施例3で得られた破壊株および親株(W34/70-2株)の凝集性を以下の方法で評価した。
酵母を50mLのglucoseCM培地(3%glucose, 1%bacto peptone、0.5%yeast extract, 0.5%KH2PO4, 0.2%MgSO4・7H2O)に接種し、30℃で2日間静置培養した。この全量を450mLのglucoseCM培地に移し、15℃で4日間静置培養した。遠心分離によって集菌後、5℃の冷水で2回洗浄し、得られた湿潤菌体を正確に1.5g秤量して20mLの2mM Ca含有0.1M酢酸バッファー(pH4.5)に懸濁して15℃恒温室で温度平衡化させた。
以下測定手順は15℃恒温室で行った。酵母懸濁液をボルテックスミキサーで30秒間撹拌したものをビュレットに注ぎ入れ、直ちに2mLを採取して0minサンプルとした。そのまま静置し、10分後に2mLを採取して10minサンプルとした。
それぞれ採取した酵母懸濁液のOD600を測定し、以下の計算式を用いて酵母凝集性(Sedimentation Index; SI)とした。結果を図4に示す。値はn=2の測定の平均値である。
SI=(OD10min-OD0min)/OD0min*100
図4に示すように、親株のSI=232に比べて破壊株ではSI=117となり、nonScKRE9破壊によって酵母の凝集性が低下することが明らかとなった。
実施例1に記載のnonScKRE9/pCR2.1-TOPOを制限酵素SacIおよびNotI消化し、タンパク質コード領域全長を含むDNA断片を調製する。この断片を制限酵素SacIおよびNotI処理したpYCGPYNotに連結させ、nonScKRE9高発現ベクターnonScKRE9/pYCGPYNotを構築する。pYCGPYNotはYCp型の酵母発現ベクターであり、導入された遺伝子はピルビン酸キナーゼ遺伝子PYK1のプロモーターによって高発現される。酵母での選択マーカーとしてジェネチシン耐性遺伝子G418rを、また大腸菌での選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子Amprを含んでいる。
上述の方法で作製した高発現ベクターを用い、特開平07-303475に記載された方法でサッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株を形質転換し、ジェネチシン300mg/Lを含むYPD平板培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース、2%寒天)で形質転換体を選択する。
上述の方法で得られる高発現株および親株(W34/70株)の凝集性を実施例4と同様な方法で評価する。
Claims (24)
- 以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。 - 以下の(g)〜(i)からなる群から選択される請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。 - 配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
- 以下の(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(j) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(k)請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(l) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び
(m)請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド。 - 請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
- 請求項6に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
- 請求項8または9に記載のベクターが導入された酵母。
- 凝集性が増大した請求項10に記載の酵母。
- 請求項7に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって、凝集性が増大した請求項11に記載の酵母。
- (A)請求項8もしくは請求項9に記載のベクターを導入することによって、(B)請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を破壊することによって、あるいは(C) プロモーターに変異を加えることによって、またはプロモーターを組み換えることによって、請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された酵母。
- 凝集性が低下した請求項10または13に記載の酵母。
- 請求項10から14のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
- 醸造する酒類が麦芽飲料である請求項15に記載の酒類の製造方法。
- 醸造する酒類がワインである請求項15に記載の酒類の製造方法。
- 請求項15〜17のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
- 配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、被検酵母の凝集性について評価する方法。
- 被検酵母を培養し、配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の凝集性を評価する方法。
- 被検酵母を培養して、請求項7に記載のタンパク質を定量または配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、目的とする凝集性に応じた前記タンパク質量または前記遺伝子発現量の被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
- 基準酵母及び被検酵母を培養して配列番号:1の塩基配列を有する酵母に凝集性を付与する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現、あるいは低発現である被検酵母を選択する、請求項21に記載の酵母の選択方法。
- 基準酵母及び被検酵母を培養して各酵母における請求項7に記載のタンパク質を定量し、基準酵母よりも該タンパク質量の多い、あるいは少ない被検酵母を選択する、請求項21に記載の酵母の選択方法。
- 請求項10〜14に記載の酵母および請求項21〜23に記載の方法により選択された酵母のいずれかの酵母を用いて酒類製造のための発酵を行うことを特徴とする、酒類の製造方法。
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