以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
(実施の形態1)
まず、本発明者らが検討した技術について説明する。背景技術でも説明した様にプラチナ膜からなるゲート電極とゲート絶縁膜の間にチタン膜を挿入すると、水素ガスには応答しなくなることが知られており、本発明者らも確認実験を行った。チタン膜の成膜スピードから割り出した5nmのチタン膜をプラチナ膜とゲート絶縁膜の間に挿入し、チタン膜上に45nmのプラチナ膜からなるゲート電極を形成したSi−MOSFET型の水素ガスセンサを試作したが、この水素ガスセンサは、水素ガスに応答しなかった。これに対し、チタン膜をプラチナ膜とゲート絶縁膜の間に挿入せず、ゲート絶縁膜上に膜厚が45nmのプラチナ膜からなるゲート電極を形成したSi−MOSFET型の水素ガスセンサは、水素ガスに応答した。チタン膜の膜厚は、水素ガスセンサの応答劣化ができるだけ小さいことが期待され、プラチナ膜の接着性が保証できる膜厚として選択した。プラチナ膜の膜厚は、プラチナ膜をゲート電極として使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサで用いられている標準的な値を用いた。
本発明者らは更に、先願技術(特開2002−107322号公報)の記載に従い、最も先願技術で好適として開示されているプラチナ/金属酸化物/絶縁膜/半導体基板の構造を評価した。具体的には、先願技術の実施例1に記載されているパラジウムの代わりにプラチナを用いてゲート絶縁膜である酸化シリコン膜上に酸化チタン膜を形成した後、プラチナ膜からなるゲート電極を45nm被着して形成する実験を行なった。この実験では、ゲート絶縁膜(酸化シリコン膜)上に直接プラチナ膜からなるゲート電極をリフトオフして形成した場合と同じく、プラチナ膜に部分的な膜ハガレが発生し、接着性の改善効果は何ら見られなかった。すなわち、プラチナ膜を酸化チタン膜上に直接積層した場合、プラチナ膜を酸化シリコン膜上に直接形成する場合と同じく接着性が悪いことが分かった。少なくともプラチナ膜については、先願技術(特開2002−107322号公報)に開示されているプラチナ/金属酸化物/絶縁膜/半導体基板の単純な多層構造では、接着性の悪さを改善することは難しいことが分かってきた。
先願技術(特開2002−107322号公報)の実施例4には、Si−MIS型ショットキーダイオードを形成する例が記載されている。具体的には、膜厚は開示されていないがチタン膜をアルゴン(Ar)雰囲気中でスパッタリング法を用いて形成した後、パラジウム膜(膜厚は開示されていない)を連続的に形成するとしている。そして、アルゴン雰囲気において400℃で60分間加熱し、この熱処理でチタン膜が酸化されて酸化チタン膜が形成され、充分な水素ガス応答を示した旨報告されている。さらにMOSFETでも同様な効果があると記載されている。
そこで、先に試作したチタン膜(5nm)とプラチナ膜(45nm)からなるゲート電極と、ゲート絶縁膜(酸化シリコン膜)の間に挟んだ構造のSi−MOSFET型の水素ガスセンサ(チタン膜とプラチナ膜は連続的に形成されている)を、先願技術(特開2002−107322号公報)の実施例4に従い、アルゴン雰囲気において400℃で60分間加熱する熱処理を行って水素ガス応答を調べたが、何らの応答も示さなかった。そこで、今度は雰囲気ガスを変えて、空気中でこの水素ガスセンサを400℃で60分間加熱する熱処理を行って水素ガス応答を調べたが、やはり何らの応答も示さなかった。
先願技術によれば、プラチナ、パラジウム等の白金族から形成される膜/チタンなどの金属膜/絶縁膜/半導体基板からなる積層構造において、チタンなどの金属膜を酸化する方法としては、絶縁膜中の酸素を用いるか、あるいは、熱処理雰囲気中の酸素を用いると開示されているが、本発明者らの実験によれば、少なくともプラチナ膜からなるゲート電極に関しては、プラチナ膜からなるゲート電極がチタン膜を覆っている状態でチタン膜を酸化することは、接している絶縁膜(酸化シリコン膜)から酸素を引き抜いて実現することも、雰囲気ガス中の酸素を用いて酸化することも、プラチナ膜が邪魔をして一般には難しいのではないかと考える様になった。熱力学的安定性の考察から、熱酸化膜の酸化シリコン膜から酸素を奪ってチタン膜などの金属膜を酸化させることは容易ではないと判断した。
一方、仮に先願技術に示されるとおり、チタン膜が酸化チタン膜に酸化できたとしてもチタン膜の体積膨張によりプラチナ膜のモフォロジーが激変することが以下の思考実験から予想された。
基板上に一様な厚さのチタン膜が形成された試料を、酸素雰囲気中で加熱して熱酸化を行う実験を考える。基板からのチタン膜への原子拡散などの影響はないと仮定し、チタン膜は酸化されてチタン酸化物の典型であるルチル構造の酸化チタン(TiO2)の微結晶の薄膜になると仮定する。金属チタン一個当たりの占める体積は17.6Å3程度であり、ルチル構造の酸化チタン(TiO2)の一個当たりの占める体積は31.2Å3である。つまり酸化チタン(TiO2)の体積がチタンの体積に比べて1.77倍大きいことになり、チタン膜がすべてルチル構造の酸化チタン(TiO2)膜に変化したとすれば、膜厚は1.77倍に膨らむことになる。この体積膨張はチタンが酸化チタン(TiO2以外のチタン酸化物(TiO)なども含む)に酸化される過程での不可避的現象である。この現象はシリコン基板表面を窒化シリコン膜(SiN膜)で部分的に覆い、シリコンを酸素雰囲気中で熱酸化させる工程では良く知られた現象である。この場合、窒化シリコン膜に被覆された場所のシリコンは酸化されず、窒化シリコン膜で覆われていない領域のシリコンは酸化シリコン膜になる。この過程で、酸化シリコン膜の一部はもとのシリコン表面位置からみて内部に埋め込まれ、一部はシリコンの表面位置から外側に突き出して成長することが知られている。
次に、プラチナ(Pt)/チタン(Ti)/酸化シリコン(SiO2)/シリコン(Si)の積層構造を熱酸化する場合を考える。仮に、雰囲気ガス中の酸素からチタン膜がすべてルチル構造の酸化チタン(TiO2)膜に変化したとすると、酸化チタン(TiO2)の体積膨張によりプラチナ膜に非常に大きなストレスがかかり、チタン膜上に一様に被着していたプラチナ膜は断裂やハガレなどが起こり、プラチナ膜のモフォロジー(形態)が激変することが予想された。この酸化チタン(TiO2以外のチタン酸化物TiOなども含む)が形成される過程での体積膨張は不可避的現象であり、プラチナ膜のモフォロジーの激変は共通であると考えた。つまり、酸素ガス雰囲気中の加熱により、先願技術(特開2002−107322号公報)に開示されているプラチナ(Pt)/チタン酸化物/酸化シリコン(SiO2)/Si構造のような単純な積層構造を実現することは不可能であると結論した。
このような背景のもと、本発明の最大の目的は、プラチナ膜をゲート電極に使用することを前提として、プラチナ膜とゲート絶縁膜の密着性を上げるには、チタン、モリブデン、タングステンなどの金属膜をゲート絶縁膜との間に挿入せざるを得ない状況の中で、プラチナ膜をゲート電極に使用するSi−MOSFET型のガスセンサの膜ハガレなどの信頼性劣化に強いガスセンサをシリコン半導体プロセス技術と適合する形で如何に実現するかということである。この目的は、プラチナ極薄膜を用いるガス選択性の強いガスセンサのときも同様である。
さらに、水素検知システムへのガスセンサの適用という視点で見ると、Si−MOSFET型の水素ガスセンサのしきい値電圧Vthがウェハ内やウェハ間で均一でなければ、水素ガスセンサから外部に信号を取り出すときに必要となるインターフェース回路を設計することが難しくなる。ところが、プラチナ膜やパラジウム膜からなる金属膜をスパッタリング法で形成したSi−MOSFET型の水素ガスセンサを実際に試作して評価してみると、スパッタリング時に発生するゲート絶縁膜へのスパッタリングダメージが発生し、ゲート絶縁膜中に多くの電子トラップ準位が形成され、水素ガスセンサのしきい値電圧Vthが大きくバラツキ、背景技術の最後に記述した希釈水素アニ―ル程度では、充分に水素ガスセンサのしきい値電圧Vthのばらつきを解決できないという問題が生じている。しかしながら、従来、Si−MOSFET型の水素ガスセンサにおいて、水素ガスセンサのしきい値電圧Vthの均一性や再現性の問題を取り上げた報告例は存在していない。
また、差動増幅方式のガスセンサにおいて、センサFETのしきい値電圧Vthと参照FETのしきい値電圧Vthを揃える技術として、参照FETのゲート電極に水素ガスなど観測対象となるガスに応答しない金属膜を形成する技術は、少なくともゲート電極を形成するホトマスク工程を少なくとも1つは追加せざるを得ず、プロセス工程を長く複雑にするので、ガスセンサの量産化プロセスには適合しない。
以上のことを踏まえ、さらに、考察を進めることにする。まず、水素応答原理に立ち戻り、プラチナ(Pt)/チタン(Ti)/酸化シリコン(SiO2)/Siの構造を再考した。Si−MOSFET型の水素ガスセンサの動作原理からは、よく知られているように、しきい値電圧Vthは、シリコンの仕事関数をφSi、ゲート電極を構成する金属膜の仕事関数をφMとすると、両者の差φMSがしきい値電圧Vthを決めるパラメータとなり、しきい値電圧Vthの表式にφMS=φM−φSiの形で加わる。チタンの仕事関数は4.3eVであり、プラチナの仕事関数は5.5eVであるので、同じゲート絶縁膜上にチタン膜が形成されている場合とプラチナ膜が形成されている場合には1.2eV(5.5eV−4.3eV)のしきい値電圧Vthの差が生じる。
チタンが金属である限り、プラチナ膜によって解離された水素原子はチタン膜とプラチナ膜の界面に到達したとたんに、チタン膜中にトラップされて、チタン中の電子によりプラス電荷をスクリーニング(中和)されるので、水素原子は水素ガスセンサのしきい値電圧Vthの変化には寄与しない。水素ガスセンサの動作原理からは、チタン表面に到達する水素原子数の表面密度よりこのスクリーニングに寄与する電子数シート濃度(チタン中の電子濃度を膜厚方向に積分した値)を小さくしてやれば、スクリーニング効果はなくなっていくと予想できる。
10%の水素ガス濃度でも、しきい値電圧Vthの変化は最大で1000mV程度である。つまり、ゲート絶縁膜上に吸着する水素原子による面積あたりの電荷数密度は1012/cm2程度であり必ずしも多くはない。チタン膜に酸素をドープすることにより、構造欠陥も形成されてチタン中の電子をトラップできるので、チタン膜への酸素のドーピング量としては1021個/cm3以上あればスクリーニング効果を抑制することを実現できると考えられる。
そのため、チタン膜のすべてをチタン酸化物にする必要は必ずしもなく、酸素をチタン中にドープした酸素ドープチタン膜でも良いのではないかと考えた。チタン膜に酸素をドープする程度なら、文献(Journal of Applied Physics, Vol63,(1988)3431-2434)に示されているように、酸素に対しても、プラチナ膜をゲート電極として使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサでプラチナ膜の膜厚を薄くすれば応答するのであるから、酸素は水素に比べて原子の大きさや分子の大きさは数倍大きいが、プラチナ膜の膜厚やチタン膜の膜厚をうまく選ぶことでプラチナ膜を通過した酸素をチタン膜にドープできるのではないかと考え、以下に示すいくつかの実験を行なった。金属膜であるプラチナ膜の蓋がある状態で、チタン膜中に雰囲気ガス中の酸素を取り込むことは、一般には難しいと考えられる。しかし、上述した考察に基づいて、プラチナ膜の場合、酸化されにくい性質をうまく利用すると、プラチナ膜の表面を酸化させずに、すなわちプラチナ膜の触媒機能を劣化させないで、チタン膜の体積膨張も抑えられてプラチナ膜への影響も少なくできるのではないかと考えた。
プラチナは他の材料の原子との相互作用が他の白金族金属と比べて弱く、シリコン基板上の酸化シリコン膜上にプラチナからなる薄膜を形成するとfcc(面心立方格子)結晶構造の微結晶が(111)方向に配向した薄膜になることが、X線回折の実験からよく知られており、本発明者らも確かめている。
チタン膜の膜厚とプラチナ膜の膜厚を何種類か用意して、プラチナ(Pt)/チタン(Ti)/酸化シリコン(SiO2)/Siの積層構造を作製して空気中で加熱した。そして、この積層構造を分析した結果、予想外の現象が複数発見され、チタン膜の膜厚とプラチナ膜の膜厚とアニール温度(熱処理温度)とをうまく選ぶことにより上述した課題のほとんどすべてを解決できることが判明した。
チタン膜とプラチナ膜の形成方法は、後から述べる理由によりEB(電子線ビーム)蒸着法である。シリコン基板上に形成された酸化シリコン膜上に薄膜を形成している。まず、薄膜としてチタン膜のみを形成して評価したところ、膜厚1nm〜10nmのチタン膜は非晶質で結晶粒は観測されず、表面は一様で凹凸はほとんど見られなかった。チタン膜の膜厚を45nmと厚くしても膜中のほとんどは非晶質で、部分的にチタン金属結晶粒が存在する傾向があったが、表面は一様で凹凸はほとんど見られなかった。これは、シリコン基板上に形成された酸化シリコン膜上に形成したプラチナ膜の形態(モフォロジー)とは先に述べたように大きく異なっていた。そこで、シリコン基板上に形成された酸化シリコン膜上に何種類かの膜厚のチタン膜を形成し、膜厚の異なる連続成膜でプラチナ膜を成膜した。このプラチナ膜はやはりfcc(面心立方格子)結晶構造の微結晶が(111)方向に配向した薄膜であった。
まず、新現象発見の契機になった実験結果の概略を述べる。シリコン基板上に形成された酸化シリコン膜上に膜厚が5nmのチタン膜と膜厚が15nmのプラチナ膜を形成し、空気中で400℃の温度で2時間のアニールと800℃の温度で30分のアニールとを実施する実験を行なった。
(1)400℃2時間のアニール実験の結果
チタン原子はプラチナの結晶粒界とその近傍を伝わって、プラチナの表面に抜けるプロセスと、酸素がプラチナの結晶粒界とその近傍を伝わってチタン膜の中に侵入してくるプロセスが発現した。そのため、チタン膜は、酸素ドープチタン膜(酸素高ドープの非晶質のチタン、非晶質の酸化チタンまたは、酸化チタンの微結晶が混じり合った膜)に変質し、このプロセスの途中で、プラチナの(111)方向に配向している微結晶粒は、TiOx膜内にめり込み、めり込み深さが個々のプラチナ(Pt)の(111)方向に配向している微結晶粒により異なるので、プラチナとTiOx膜界面には凹凸が発生する。一方、チタンと酸素が通過したプラチナの微結晶間の粒界領域には酸素高ドープの非晶質のチタンとプラチナ−チタン拡散層からなるPt−Ti−O領域を配する構造が形成されることがわかった。すなわち、プラチナの微結晶間の粒界領域には、チタンと酸素が存在することとなり、このプラチナの粒界領域にチタンと酸素が存在することを、本明細書では、プラチナの微結晶間の粒界領域にPt−Ti−O領域が形成されているということにする。この現象を裏付ける実験の解析は後で開示するとして、成膜時5nmであったチタン膜の膜厚はこのアニール(熱処理)後、厚くなるどころかやや薄くなっているように見える。
プラチナ膜という蓋がある状態でチタン膜が酸化されると体積が膨張してプラチナ膜のモフォロジーが大きく変わるという仮説とは大きく異なった結果であった。その理由は、チタン原子はプラチナの結晶粒界とその近傍を伝わって、プラチナの表面に抜けるプロセスが存在するという発見があったことから説明がつくものである。
(2)800℃30分のアニール実験の結果
チタン膜は酸化チタン膜(ルチル構造)に変わり、膜厚もチタン膜の5nmから10nmに倍増し、酸化シリコン膜上に一様に被膜されている。その酸化チタン膜(ルチル構造)上に形成されているプラチナの微結晶は(111)方向に配向した薄膜であるが、平面寸法が数100nmの大きさに変わり、膜厚は88nmと5.9倍に厚くなり、プラチナ微結晶が一度融解して再結晶した形状に見え、微結晶表面は平坦である。今回のプラチナは微結晶間に約100nm〜300nmの隙間が空いた島状のモフォロジーとなっている。バルクのプラチナ金属とチタン金属の融点はそれぞれ、1768.3℃と1668℃であり、実験温度は800℃と非常に低い温度であるにもかかわらず、プラチナ微結晶が融解したように見える。一方、チタン膜は酸化チタン膜(ルチル構造)にかわり、一様に被膜されているのは新たな発見である。
チタン膜の膜厚が増加し、プラチナ膜のモフォロジーが激変するのはある意味で予想通りであったが、こんな低温でプラチナ膜が融解して微結晶に変わることは予想外であった。
この実験を契機として、以下に示すような酸化プロセスの詳細な検討を行なった。実験した範囲の概略は以下の通りである。
チタン膜の膜厚の範囲:1nm〜30nm
プラチナ膜の膜厚の範囲:2nm〜100nm
アニール温度の範囲:100℃〜900℃
アニール時間の範囲:5分〜3000時間
アニール雰囲気の種類:空気、100%酸素、Ar、窒素
以上の条件の範囲でアニール実験を行なった。
本発明に関わる主要実験結果をまとめると以下の通りである。大略の範囲で分類すると300℃以下、300〜500℃、500〜900℃の3種類の範囲で発生する現象が異なることがわかってきた。以下に、実験結果について説明する。
(1)Arや窒素ガス中でのチタン膜の酸化はない。チタン膜の下層に形成されている酸化シリコン膜からの酸素の供給はほとんど見られない。
(2)300℃以下では、長時間アニールするとチタン膜に1021個/cm3以上の酸素をドープすることができるが、実用上はチタン膜とプラチナ膜の膜厚を薄くする必要がある。
(3)350℃〜475℃の温度領域では、プラチナ膜の膜厚が45nm以上に厚くなると、チタン膜への酸素のドーピングは急速に小さくなり、チタン膜の変化はほとんどなくなり、水素ガス応答はなくなる。これは、先願技術の確認実験において、空気中で400℃の温度で60分間の加熱処理を行なうと水素ガス応答しなかったことと符合する。プラチナ膜の膜厚が厚くなると、プラチナ膜の膜垂直方向の結晶粒界長さが長くなり、結晶粒自身が大きくなる効果もあり、急激に酸素の侵入が抑えられるのである。それに伴い、チタンのプラチナ結晶粒界を通しての流出も抑えられ、本発明での所望の構造には至らなくなる。
(4)350℃〜475℃の温度領域では、プラチナ膜の膜厚が1nm以上30nm以下になると以下の現象が見られ始め、水素ガスセンサに適用できる。チタン原子はプラチナの結晶粒界とその近傍を伝わって、プラチナの表面に抜けるプロセスと酸素がプラチナの結晶粒界とその近傍を伝わってチタン膜の中に侵入してくるプロセスが発現する。そのため、チタン膜は、酸素ドープチタン膜(酸素高ドープの非晶質のチタン、非晶質の酸化チタン、または、酸化チタンの微結晶が混じり合った膜)に変質し、このプロセスの途中で、プラチナの(111)方向に配向している微結晶粒は、酸素ドープチタン膜内にめり込み、めり込み深さが個々のプラチナの(111)方向に配向している微結晶粒により異なるので、プラチナと酸素ドープチタン膜の界面には凹凸が発生する。一方、チタンと酸素が通過したプラチナの微結晶間にある粒界領域には酸素高ドープの非晶質のチタンと、プラチナ−チタン拡散層からなるPt−Ti−O領域を配する構造が形成される。
(5)温度を500℃〜800℃程度に更に上げると、(4)に示すプラチナ膜/チタン膜の形態が変わり始めた。特に800℃で見つかったプラチナの島状構造では、プラチナの微結晶間距離が100nm〜300nmと広すぎてガス選択性の強いセンサとして、感度が落ちる可能性が高い。このため、加熱温度を下げてプラチナの微結晶間隔が数nmから数10nmの間隙を持つ縞状の形態とすることが望ましい。このような高温でのアニールでは、プラチナの微結晶が融合し始める。その過程で、プラチナ微結晶間に小さな間隙が発生し始めると、酸素のチタン膜への侵入が劇的に加速し、チタン膜が酸素ドープの状態から、徐々に酸化チタン膜へと変わっていく。一度、プラチナ微結晶間に小さな間隙が発生し始めるとチタン原子が粒界を伝わってプラチナ膜表面に出て行くことはできなくなるので、酸化チタン膜の膜厚は初期のチタン膜の膜厚に比べて増加する。加熱温度条件とチタン膜、プラチナ膜の膜厚に依存して、プラチナ微結晶間の隙間やチタン膜がどの程度酸化されるかが決まってくる。
プラチナ微結晶間隔が数nmから数10nmの間隙を持つ縞状の形態に変化することを実現するには、650℃前後の温度で、アニール時間が20分、チタン膜の膜厚5nm、プラチナ膜の膜厚10nm程度の条件が良いことがわかってきた。もっとチタン膜やプラチナ膜を厚くして、数nmから数10nmの間隙ができはじめた条件で、温度を400℃程度まで下げてチタン膜に酸素をドープすることでも目的とする素子構造を実現できる。
プラチナ微結晶間の隙間長さが広くなるとゲート絶縁膜の表面にプラチナのない間隙領域とプラチナ微結晶間の静電容量Csが小さくなり、ガス応答の強さが小さくなるので、ガスセンサとして使える構造にするため、チタン膜の膜厚とプラチナ膜の膜厚とアニール温度、酸素分圧の好適条件は以下に詳しく開示する。
以上のように、本発明の目的を実現する方法と手段をまとめると次のように言うことができる。本発明の第1目的を実現する構成としては、以下に示すSi−MOSFET型のガスセンサである。すなわち、本発明のSi−MOSFET型のガスセンサは、プラチナ膜が平坦な絶縁膜上では、(111)配向の微結晶になる性質を利用して、プラチナ微結晶間の粒界領域に酸素高ドープの非晶質のチタン、プラチナ−チタン拡散層からなるPt−Ti−O領域を配する構造を有する。そして、Pt−Ti−O領域下にTiOx膜(酸素高ドープの非晶質のチタン、非晶質酸化チタン、または、酸化チタン微結晶が混じり合った膜)を有し、さらにその下にゲート絶縁膜(酸化シリコン膜を含む)を有する。そして、ゲート絶縁膜の下層にシリコンを配するものである。
次に、本発明の第2目的を実現する構成としては、以下に示すSi−MOSFET型のガスセンサである。すなわち、本発明のSi−MOSFET型のガスセンサは、プラチナ微結晶間隔が数nmから数10nmの間隙を持つ縞状の形態を持ち、プラチナ微結晶下のチタン膜が酸化チタン膜(作製条件により、ルチル構造酸化チタン微結晶の薄膜、或いはルチル構造に加え、アナターゼ構造が混じる酸化チタン微結晶の薄膜、或いは酸素ドープチタンが混じる酸化チタン微結晶の薄膜)となる構造が、ゲート絶縁膜(酸化シリコン膜など)上に形成されていることを特徴とするものである。
続いて、本発明の第3目的を実現する技術は、ゲート絶縁膜上にチタン膜とプラチナ膜を成膜する工程を有するSi−MOSFET型のガスセンサにおいて、EB(電子線ビーム)蒸着法により、チタン膜とプラチナ膜を形成することである。このとき、例えば、薄膜成長速度は0.8〜3Å/sである。
さらに、本発明の第4目的を実現する技術は、ゲート絶縁膜上にチタン膜とプラチナ膜を成膜する工程を有するSi−MOSFET型のガスセンサにおいて、Si−MOSFETのチャネル層を形成した後、チタン膜とプラチナ膜をゲート絶縁膜上に形成し、その後、層間絶縁膜を形成する前に、酸素を含有するガス雰囲気中でアニールすることである。目標寿命の長いガスセンサを実現する場合には、Si−MOSFETのソース電極およびドレイン電極、取り出し配線およびチップ加温用ヒータの配線に金配線を用いることである。この場合、チップと実装基板のつなぎ方は金線によるボンディングが錆防止やパッド部分との接着性を上げるため望ましい。
本発明の特徴は、プラチナ(Pt)/チタン(Ti)/酸化シリコン(SiO2)/シリコン(Si)の構造を酸素ガス雰囲気中で加熱することにある。これにより、チタン膜がプラチナの結晶粒界を通って外部に抜けだし、かつ、酸素がプラチナの結晶粒界を通ってチタン膜に侵入する。この結果、金属であったチタン膜に酸素がドープされて、電気的には抵抗が上がり、かつ、部分的にはチタン酸化物になることにより、チタン膜のキャリア(電子)が実質的になくなるほど激減して水素ガスなどの応答を邪魔しなくなる。その一方で、チタン膜は金属でなければよく、チタンが粒界に侵入することで、プラチナの微結晶間の相互の接着性が向上する。さらには、酸素がプラチナの微結晶間(粒界領域)を通り、かつ、酸素の一部が粒界領域近傍に留まることで、水素ガスの通り道(粒界領域)が太くなる結果、ガスセンサの応答感度がよくなり、かつ、応答速度も速くなる。
次に、本実施の形態1における水素ガスセンサの基本的な構成について説明する。図1は、プラチナ膜をゲート電極として使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサにおいて、ゲート電極とその直下の積層構造を示す模式図である。図1に示すように、シリコンよりなる半導体基板1上に酸化シリコン(SiO2)膜2が形成されている。この酸化シリコン膜2上に形成されている膜は、酸素を含有するチタン膜を示す酸素ドープチタン膜3である。この酸素ドープチタン膜3中には酸化チタン微結晶4が混合している場合が多く、かつ、酸素ドープチタン膜3は非晶質であることが多い。この酸素ドープチタン膜3上にプラチナ膜が形成されている。プラチナ膜は、(111)方向に配向した複数のプラチナ微結晶5からなる膜であり、プラチナ微結晶5間には結晶粒界6が形成されている。この結晶粒界6に沿って形成されている粒界近傍領域7には、チタンと酸素が存在している。つまり、本実施の形態1では、プラチナ微結晶5間に形成されている結晶粒界6の近傍領域である粒界近傍領域7がPt−Ti−O領域となっている。形成条件によっては、この粒界領域6の上部には酸素ドープチタン、または、酸化チタンからなる微結晶8が形成されていることもある。ただし、この微結晶8の存在は、水素ガスセンサの動作自身には必ずしも必要ない。
図2はプラチナ膜をゲート電極として使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサにおいて、ゲート電極とその直下の積層構造を示す断面TEM(透過電子顕微鏡)写真である。図2に示す構造を形成するにあたって、空気中で熱処理温度が400℃、かつ、熱処理時間が2時間の熱処理が行われている。この熱処理前は、チタン膜の膜厚は5nmであり、プラチナ膜の膜厚は15nmであった。チタン膜の下層に形成されているゲート絶縁膜は酸化シリコン(SiO2)膜であり、ゲート絶縁膜の下層にシリコン(Si)よりなる半導体基板が形成されている。図2に示すように熱処理後は、チタン膜にプラチナ結晶粒が沈み込むように入り込み、プラチナの(111)方向に配向したプラチナ微結晶がよく捉えられている。チタン膜の構造解析を行った結果、チタン膜には、酸素ドープの非晶質のチタンと一部結晶化した酸化チタン(丸2)が見られ、図1の模式図とよく対応していることがわかる。
図2に示す(丸1)、(丸2)、(丸5)、(丸6)、(丸7)の部分について、EDX(エネルギー分散型X線分光法)分析を行い、プラチナ微結晶の中心部位(丸6)と粒界近傍領域(丸5)、プラチナ表面近傍領域(丸7)では、チタンと酸素が多く存在している解析結果を得ており、これまで説明してきた酸素ドープの非晶質のチタン、プラチナ−チタン拡散層からなるPt−Ti−O領域を配する構造が形成されていることに対応した結果を得ている。
図3は、熱処理後の表面のモフォロジー観察をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した結果を示す写真である。図3において、表面に白く見える粒状のものはTiOxであり、図2に示す(丸7)の部分に対応している。図3において、黒く見える縞状の領域は粒界近傍領域に形成されているPt−Ti−O領域を示している。
図4および図5は、熱処理前後のゲート構造(ゲート電極とその直下の積層構造)についてのオージェ分析により、Pt,Ti,O,Si,Si(Oxide)の断面方向の分布プロファイルを示す図である。図4は熱処理後の解析結果を示しており、図5は熱処理前の解析結果を示している。両者ともに図1に対応した積層構造をしている。図4や図5の横軸を示すスパッタ時間(表面深さに対応)が0分から5分までの表面付近において、チタン(Ti)、酸素(O)、プラチナ(Pt)の分布は、本実施の形態1における構造をよく反映しているといえる。熱処理前のゲート構造を示す図5では、チタン膜やプラチナ膜に酸素はほとんど見られず、ゲート構造がPt/Ti/SiO2の構造になっているのが見られる。しかし、熱処理後のゲート構造を示す図4ではチタン膜に多量の酸素がドープされ、プラチナ膜内にもチタンと酸素が入り込んでいる様子がわかる。チタン膜の膜厚は熱処理前と熱処理後で変わっていないので、熱処理後、チタン自身がプラチナの粒界を通ってプラチナの表面に流出することの証拠の1つとなっている。オージェ分析は膜内情報を平均した結果であるので、プラチナ膜内にチタンや酸素が見えている状況は、プラチナの粒界領域近傍にチタンや酸素が集まっていると考えられる。以上のように、EDX解析とオージェ分析の結果から本実施の形態1におけるゲート構造が裏付けられているといえる。
図6は、パラジウム膜をゲート電極として使用し、このパラジウム膜をスパッタリング法で形成したSi−MOSFET型のガスセンサにおいて、Si−MOSFET型のガスセンサのしきい値電圧Vthと水素応答強度ΔVgとをそれぞれ複数の素子(Si−MOSFET型のガスセンサ)で計測した結果を示す図である。32個の素子(Si−MOSFET型のガスセンサ)でしきい値電圧Vthが2400mVもの大きなバラツキが発生し、このしきい値電圧Vthのバラツキは、背景技術で説明した希釈水素アニ―ル程度では、充分に解決できないという問題が生じていた。この結果は、パラジウム膜をゲート電極として使用するSi−MOSFET型のガスセンサで生じているものであるが、プラチナ膜をゲート電極として使用するSi−MOSFET型のガスセンサについても同様な傾向を得ている。この問題は、金属膜をスパッタリング法でゲート絶縁膜上に形成するときに発生する不可避的なスパッタリングダメージの影響によるものであり、水素アニールなどの熱処理ではしきい値電圧Vthのバラツキを充分に抑えることには限界がある。
そこで、本発明では、金属膜を形成する際のダメージを軽減する目的で、スパッタリング法に代えてEB(電子線ビーム)蒸着法により、Pt/Ti/SiO2/Siの積層構造を形成している。この場合、チタンやプラチナをEB蒸着法で連続形成したSi−MOSFET型のガスセンサを作製し、このSi−MOSFET型のガスセンサのしきい値電圧Vthのウェハ面内分布やロット間依存性を調べてみた。すると、スパッタリング法でチタン膜やプラチナ膜を形成するよりもEB蒸着法でチタン膜やプラチナ膜を形成した場合のほうが、しきい値電圧Vthのバラツキが小さく、成長速度によりしきい値電圧Vthのバラツキが異なることが分ってきた。例えば、図7は、EB蒸着法でチタン膜やプラチナ膜などの金属膜を形成する場合において、成膜速度としきい値電圧のバラツキとの関係を示す図である。図7に示すように、EB蒸着法でチタン膜やプラチナ膜などのゲート電極を構成する金属膜を形成すると、しきい値電圧Vthのバラツキが小さく、成膜速度によりしきい値電圧Vthのバラツキが異なることがわかる。このように、本発明では、ゲート電極を構成するチタン膜やプラチナ膜の成膜にEB蒸着法を使用することにより、実際に用いる熱処理後のしきい値電圧Vthのバラツキを極めて小さく出来ることを見出している。
続いて、本実施の形態1におけるSi−MOSFET型のガスセンサの製造方法について説明する。Si−MOSFET型のガスセンサの製造方法自体はすでに良く理解されている技術であるので、本実施の形態1では、本発明の主要部分であるゲート構造を製造する工程と、酸素雰囲気中でのアニール処理する工程を中心に説明する。本実施の形態1では、ゲート長(Lg)が20μmでゲート幅(Wg)が300μmのnチャネル型MOSFETを製造している。以下にこの製造方法について図8を参照しながら説明する。
まず、図8に示すように、p型不純物を導入した半導体基板10に局所分離領域11、11aを形成する。この局所分離領域11、11aは、ゲート電極形成領域を定義するため、局所酸化を行って、例えば膜厚が250nmの酸化シリコン膜から形成される。次に、半導体基板10の表面にn型チャネル領域を形成するため、不純物のイオン注入をドーズ量10×1011/cm2で行う。その後、半導体基板10内にソース領域12とドレイン領域13となるn+型半導体領域を形成するためのイオン注入を行ないSi−MOSFETの能動層を形成する。
続いて、半導体基板10(ウェハ)に対して前処理を実施した後、半導体基板10の表面に膜厚が18nmのゲート絶縁膜14を形成する。このゲート絶縁膜14は、例えば、酸化シリコン膜から形成され、酸素雰囲気中の熱酸化法により形成することができる。その後、例えば、リフトオフ法により、ゲート絶縁膜14上にゲート電極15を形成する。ゲート電極15は、この段階では、ゲート絶縁膜14上に形成されたチタン膜と、チタン膜上に形成されたプラチナ膜との積層膜から構成される。チタン膜の膜厚は、例えば、5nmであり、プラチナ膜の膜厚は、例えば、15nmである。このとき、図8に示すように、ゲート電極15の形成領域を規定する局所分離領域11に合わせてソース領域12とドレイン領域13を構成するn+型半導体領域を形成されている。そして、ゲート電極15は、ゲート絶縁膜14上だけでなく、局所分離領域11の淵上を覆うように形成され、ゲート電極15の端部がn+型半導体領域の端部上と重なるように配置される。これは、本実施の形態1では、Si−MOSFETの形成方法として主流であるゲート電極15に対して自己整合的にn+型半導体領域を形成する技術が使えないからである。ゲート電極15を構成するチタン膜とプラチナ膜は電子線照射蒸着法(EB蒸着法)で形成し、その成膜速度は1Å/sである。
次に、高純度の空気中(酸素を含む雰囲気中)において、熱処理温度が400℃で熱処理時間が2時間であるアニール処理(熱処理)を実施することにより、図1に示す本実施の形態1の特徴であるゲート構造(積層構造)を実現することができる。すなわち、この熱処理により、チタンがプラチナの結晶粒界を通って外部に抜けだし、かつ、酸素がプラチナの結晶粒界を通ってチタン膜に侵入する現象が発現して図1に示すゲート構造が形成される。この結果、金属であったチタン膜に酸素がドープされて、電気的には抵抗が上がり、かつ、部分的にはチタン酸化物になることにより、チタン膜のキャリア(電子)が実質的になくなるほど激減して水素ガスなどの応答を邪魔しなくなる。その一方で、チタン膜は金属でなければよく、チタンが粒界に侵入することで、プラチナの微結晶間の相互の接着性が向上する。さらには、酸素がプラチナの微結晶間(粒界領域)を通り、かつ、酸素の一部が粒界領域近傍に留まることで、水素ガスの通り道(粒界領域)が太くなる結果、ガスセンサの応答感度がよくなり、かつ、応答速度も速くなるのである。
その後、図8に示すように、ゲート電極15上を含む半導体基板10上にPSG(リンドープガラス)からなる絶縁膜16を形成する。そして、この絶縁膜16を貫通するコンタクトホールを形成し、表面処理などの工程を経る。絶縁膜16の膜厚は、500nmとした。通常、絶縁膜16の膜厚は、400nm〜1000nmの範囲で選ぶことが多い。そして、コンタクトホール内を含む絶縁膜16上にシリコンを含有するアルミニウム(Al)膜からなるソース電極17およびドレイン電極18を形成する。ソース電極17およびドレイン電極18の膜厚は、例えば、500nmである。図8には図示していないが、ゲート電極15の引き出し電極やチップを加熱するヒータとして、ソース電極17やドレイン電極18と同じシリコンを含有するアルミニウム膜から形成されるアルミニウム配線も形成される。このアルミニウム配線の配線幅は、例えば、10μmであり、配線長は29000μmである。
続いて、アルミニウム配線上に保護膜として機能する絶縁膜19を半導体基板10上に形成する。この絶縁膜19は、例えば、窒化シリコン膜から形成され、低温プラズマCVD法によって形成することができる。絶縁膜19の膜厚は、例えば、700nmである。最後に、ボンディングワイヤと接続するために電極パッド(図示せず)上に開口部を形成し、かつ、図8に示すようにセンサ部であるゲート電極15を露出するように開口部を形成する。このようにして、本実施の形態1におけるSi−MOSFET型のガスセンサを形成することができる。
本実施の形態1では、ゲート絶縁膜14に酸化シリコン膜を使用しているが、この酸化シリコン膜上に酸化タンタル(Ta2O5)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜や窒化シリコン(Si3N4)膜などの絶縁膜を形成してもよい。この工程後、ゲート電極15を構成するチタン膜とプラチナ膜からなる積層膜を形成し、その後は上述した工程と同様の工程を経て、本実施の形態1におけるSi−MOSFET型のガスセンサを形成してもよい。例えば、ゲート絶縁膜14とゲート電極15の間に酸化タンタル膜などを形成することで、水素ガス照射を切った後にガスセンサから水素が抜ける過程を迅速にすることができる。つまり、ゲート絶縁膜14上に酸化タンタル膜などを形成することにより、ゲート絶縁膜(酸化シリコン膜)中に存在するトラップ準位から水素が抜け出る時定数を早くすることができる効果が得られる。この結果、ガスセンサにおける水素応答のテール残りを充分に除去することができる。
また、高純度空気中において、熱処理温度が400℃で熱処理時間が2時間のアニール処理は、ゲート電極15の形成直後に行なわなくてもよく、ガスセンサの製造工程が完了した後に実施することもできる。しかし、ガスセンサの製造工程が終了した後に400℃で2時間のアニール処理を行うと、アルミニウム配線からなる電極パッドの表面が酸化されたり、アルミニウム自身がシリコン酸化物と反応する。このため、電極パッドと接続するワイヤとの接着性などが弱まる問題が生じやすく、さらには、保護膜である絶縁膜19にクラックが発生して信頼性を損なうおそれがある。例えば、長時間(2400時間)の温度加熱試験や高温高湿(85℃95%湿度)試験において、ガスセンサの製造工程が完了した後に熱処理温度が400℃で熱処理時間が2時間のアニール処理を行なうと、保護膜である絶縁膜19にクラックが発生したり、電極パッドに由来する不良が発生した。これに対し、上述したアニール処理をゲート電極15の形成直後に行なった場合には、ガスセンサの不良は起こらなかった。したがって、熱処理温度が400℃で熱処理時間が2時間のアニール処理は、本実施の形態1で説明したように、ゲート電極15の形成直後に行なうことが望ましい。
本実施の形態1に示すSi−MOSFET型のガスセンサにおいては、アルミニウム膜を使用して配線や電極(ソース電極17、ドレイン電極18)を形成する例を説明したが、本実施の形態1の変形例では、配線の信頼性を向上する目的で、金膜を使用した配線とシリコンへのオーミックコンタクトを確実にとる例について図9を参照しながら説明する。本変形例において、絶縁膜16にコンタクトホールを形成するまでの工程は、図8に示す本実施の形態1と同様である。
続いて、コンタクトホール内を含む絶縁膜16上にモリブデン膜(100nm)、金膜(500nm)、モリブデン膜(10nm)を順次形成する。このとき、モリブデン膜(100nm)は、EB蒸着法で形成し、最後に、スパッタリング法で金膜(500nm)とモリブデン膜(10nm)を形成する。そして、これらの積層膜をパターニングすることにより、図9に示すソース電極17(ドレイン電極18は図示せず)と配線20を形成する。金はシリコン中を比較的低温でも拡散する影響があるので、バリアメタルとしてモリブデン膜(100nm)を使用している。この場合、配線20などを形成した後に加熱処理を行なうと、例えば、ソース電極17と半導体基板10の接触領域に、モリブデンとシリコンの合金膜であるモリブデンシリサイド(MoSi)膜21を形成することができる。モリブデン膜(100nm)は金のシリコンへの拡散を抑制するバリア膜として機能する。モリブデン膜(10nm)は絶縁膜19との接着性を良くするために挿入されている。このモリブデン膜(100nm)、金膜(500nm)、モリブデン膜(10nm)からなる配線20はパッド部分にも用いているので、パッド部分の形成時には、表面に出るモリブデン膜(10nm)を除去する。この場合、チップと実装基板のつなぎ方は、金線によるボンディングが錆防止やパッド部分との接着性を上げるため、金線を用いている。
ソース電極17と半導体基板10の間にモリブデンシリサイド膜21を形成することにより、ソース電極17と半導体基板10とのオーミックコンタクトを確実にとることができる。このように配線材料として金膜を使用する構造では、配線材料としてアルミニウム膜を使用する構造に比べて高価になるが、耐湿性や耐酸化性に優れている。このことから、配線の信頼性を確保する観点からは配線に金膜を使用し、コストを低減する観点からは配線にアルミニウム膜を使用するというように配線材料を使い分けることができる。
次に、本実施の形態1とその変形例で開示したSi−MOSFET型のガスセンサにおいて、水素応答強度のアニール温度依存性について説明する。図10は、チタン膜の膜厚を5nm、プラチナ膜の膜厚を15nmにそれぞれ固定し、かつ、空気中でのアニール時間を2時間に固定した状態での水素応答強度ΔVgとアニール温度との関係を示す図である。また、図11は、アニール温度を400℃に固定した状態での水素応答強度ΔVgとアニール時間との関係を示す図である。図10に示すように、アニール温度としては、350℃〜500℃までの温度範囲で良好な水素応答強度ΔVgを得ることができることがわかる。なお、図10において、室温から300℃までのデータは、素子作製工程での熱工程が異なるウェハ間のバラツキを生んだと理解している。また、図11に示すように、アニール温度を400℃とする場合には、アニール時間を、例えば、20分以上にすることにより、良好な水素応答強度ΔVgを得ることができることがわかる。
続いて、4枚の異なるウェハ(#1−#4)について、空気で希釈した3種類の水素濃度ガスについての水素応答電圧を調べた。図12は、4枚の異なるウェハにおいて、水素濃度と水素応答電圧との関係をそれぞれ示す図である。図12に示す結果から、通例のプラチナをゲート電極として使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサに比べて、はるかに高感度であり、通例のパラジウムをゲート電極として使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサの性能をも凌駕している。特に、本実施の形態1における水素ガスセンサでは、1000ppmと10000ppmの水素濃度での応答速度は1〜2秒と高速であることがわかった。
次に、本実施の形態1および変形例のガスセンサにおいて、MOSFET特性のウェハ面内分布や、ロット間やウェハ間におけるMOSFET特性の再現性や均一性について説明する。図13は、水素ガスセンサを構成するMOSFETの100℃における電流電圧特性を示す図である。図13では、高純度空気中において、熱処理する前の状態の5インチウェハ内で、しきい値電圧Vthが大きく離れた2つのMOSFETの特性を示している。両者におけるしきい値電圧Vthの差は300mV程度である。
図14は熱処理後のロットの異なる2個のウェハ(#2、#3)におけるしきい値電圧Vthの面内分布と再現性を示す図である。図14からわかるように、しきい値電圧Vthのバラツキは178mVと非常に小さく再現性も極めてよい。このしきい値電圧Vthのバラツキは図7と図13に示すアニール前のしきい値電圧のバラツキに比べても2倍以上優れていることがわかる。これは、アニール処理によりチタン膜が酸素ドープチタン膜に変わったことで、熱的にも安定なプラチナがしきい値電圧Vthを支配できるようになった効果であると理解している。また、図15は、1000ppmの空気希釈水素ガスに対する規格化水素応答出力の面内分布を示す図である。図15に示すように、本実施の形態1における水素ガスセンサによれば、非常に均一な面内分布を得ることができることがわかる。
これまでは、チタン膜の膜厚を5nm、プラチナ膜の膜厚を15nmに固定して水素ガスセンサの特性を評価したが、続いて、チタン膜とプラチナ膜の膜厚を変化させて水素ガスセンサの特性を評価した結果について説明する。図16および図17は、チタン膜とプラチナ膜の膜厚を変化させるとともに、400℃でのアニール時間を変えて1000ppmの空気希釈水素ガスに対する水素応答電圧を調べた結果を示す図である。図16および図17に示すように、水素応答があるのは、チタン膜の膜厚では1nm以上10nm以下であり、プラチナ膜の膜厚では1nm以上30nm以下であることがわかる。
以上のように、本実施の形態1では製造工程中にゲート電極を構成するプラチナ膜の下層にチタン膜を形成しているSi−MOSFET型の水素ガスセンサについて説明しているが、チタン膜の代わりに、タングステン(W)膜、モリブデン(Mo)膜、タンタル(Ta)膜、ニオブ(Nb)膜、クロム(Cr)膜などを用いても本実施の形態1で説明したのと同様の手法により高信頼性、かつ、高感度の水素ガスセンサを形成できることは言うまでもない。
(実施の形態2)
本実施の形態2では、プラチナ微結晶間に、結晶粒界ではなく、実際に隙間が形成されることを利用して、水素ガス以外のアンモニアやエタノールガスに反応するガス選択性の高いSi−MOSFET型のガスセンサについて説明する。
図18は、プラチナをゲート電極に使用しているSi−MOSFET型のガスセンサにおいて、ガス選択性の高いガスセンサを実現するゲート構造を模式的に示す図である。図18において、シリコンよりなる半導体基板1上に酸化シリコン膜2が形成されている。そして、酸化シリコン膜2上に酸化チタン膜22が形成されている。この酸化チタン膜22は、作製条件により、ルチル構造をした酸化チタン微結晶からなる薄膜、ルチル構造に加えアナターゼ構造が混じる酸化チタン微結晶からなる薄膜、あるいは、酸素ドープチタン膜が混じる酸化チタン微結晶の薄膜である。
本実施の形態2におけるガスセンサのゲート構造の特徴は、(111)方向に配向したプラチナ微結晶23間の粒界領域が消出し、プラチナ微結晶23間に隙間23aが形成されている点である。実用的には、プラチナ微結晶23間に形成される隙間23aの幅は数nmから数10nmであることが望ましい。
図19は、Pt/Ti/SiO2/Siの構造を空気中において800℃の熱処理温度で30分の熱処理時間のアニール処理を行ったときの断面TEM写真と、アニール処理前のPt/Ti/SiO2/Siの構造を写真の右側領域に示す図である。図19に示す断面TEM写真から、アニール処理後、チタン膜の膜厚とプラチナ膜の膜厚が大きく変化していることがわかる。このとき、チタン膜はX線回折からほぼTiO2(ルチル構造)の結晶であることが分かっている。プラチナ膜のモフォロジーも図2に示す400℃の熱処理温度で2時間の熱処理時間のアニール処理後のゲート構造とは大きく異なっていることがわかる。
続いて、図18を参照しながら本実施の形態2におけるガスセンサの動作原理について説明する。センサ応答のメカニズムはSensors and Actuators, B1(1990)15-20(非特許文献2)やその参照文献で議論されているように、アンモニアガスなどが島状のプラチナ微結晶23の表面に付着し、プラチナ微結晶23の表面電位φsを変化させる。これにより、プラチナ微結晶23と酸化シリコン膜2の表面にプラチナの存在しない間隙領域(隙間23a)との間の電気容量CS、間隙領域とチャネル領域1aとの間の電気容量CE、プラチナ微結晶23とチャネル領域1aとの間の電気容量CMの容量系に対して、電気容量CSと電気容量CEが直列に入り、電気容量CMとは並列に構成されている。このため、表面電位φsの変化量Δφsとの間にΔV=ΔφsCS・CE/[CS・CE+ CM(CS+CE)]の関係があり、ガス吸着に対してゲート電位の変化ΔVを観測できる。このようにして、本実施の形態2におけるガスセンサはガス濃度をゲート電位の変化ΔVとして検出することができる。つまり、本実施の形態2におけるガスセンサは、上述した動作原理からプラチナ微結晶の表面電位を変化させるガスであれば検出することができることを意味し、ガス選択性の高いガスセンサであることがわかる。なお、図18に示す隙間23aには、製造工程で絶縁材料が形成される場合があるが、その場合でもガスセンサとしては上述した動作によりガス濃度を検知することができる。
次に、本実施の形態2におけるSi−MOSFET型のガスセンサの製造方法について説明する。前記実施の形態1と本実施の形態2に共通する部分については、詳しく言及せず、本実施の形態2に直接関係する部分を中心に説明する。本実施の形態2では、前記実施の形態1と同様に、ゲート長(Lg)が20μmでゲート幅(Wg)が300μmのnチャネル型MOSFETを製造している。以下にこの製造方法について図20〜図22を参照しながら説明する。図20〜図22中に記載されている符号のうち図8と同じ符号は、同じ構成要素を示している。
まず、図20において、半導体基板10上に局所分離領域11、11aを形成し、イオン注入によりソース領域12およびドレイン領域13であるMOSFETの能動層を形成する工程までは前記実施の形態1と同じである。
続いて、半導体基板10(ウェハ)に対して前処理を実施した後、半導体基板10の表面に膜厚が18nmのゲート絶縁膜14を形成する。このゲート絶縁膜14は、例えば、酸化シリコン膜から形成され、酸素雰囲気中の熱酸化法により形成することができる。その後、電子ビーム照射によるEB蒸着法により、半導体基板10の全面上にチタン膜とプラチナ膜からなる積層膜24を形成する。このとき、チタン膜の膜厚は5nmであり、プラチナ膜の膜厚は15nmである。そして、チタン膜とプラチナ膜の成膜速度は、1Å/sである。
次に、図21に示すように、高純度空気中において、熱処理温度が650℃で、熱処理時間が20分のアニール処理を行って積層膜24を薄膜25に変化させる。薄膜25は、プラチナ微結晶間の隙間(5nm程度)と無数の孔(5nm程度)が形成された構造をしている。この薄膜25を形成する条件と同じ条件で形成したダミーのべた膜をX線で評価するとチタン膜はルチル構造の酸化チタンにアナターゼ構造の酸化チタンが少し混じる構造に変化していた。その後、図22に示すように、フォトリソグラフィ技術により、ゲート電極26と取り出し電極(図示せず)を残す一方、イオンミリング法により、不要なプラチナと酸化チタン膜を除去する。酸化チタン膜は、電気伝導度が極めて低い状態の場合、表面保護膜として残しておく方法もあるが、本実施の形態2では、ゲート電極26の形成領域以外の不要な酸化チタン膜を除去している。これにより、図18に示すゲート構造を実現することができる。
その後、図22に示すように、ゲート電極26上を含む半導体基板10上にPSG(リンドープガラス)からなる絶縁膜16を形成する。そして、この絶縁膜16を貫通するコンタクトホールを形成し、表面処理などの工程を経る。そして、コンタクトホール内を含む絶縁膜16上にシリコンを含有するアルミニウム(Al)膜からなるソース電極17およびドレイン電極18を形成する。ソース電極17およびドレイン電極18の膜厚は、例えば、500nmである。図22には図示していないが、ゲート電極26の引き出し電極やチップを加熱するヒータとして、ソース電極17やドレイン電極18と同じシリコンを含有するアルミニウム膜から形成されるアルミニウム配線も形成される。このアルミニウム配線の配線幅は、例えば、20μmであり、配線長は29000μmである。
続いて、アルミニウム配線上に保護膜として機能する絶縁膜19を半導体基板10上に形成する。この絶縁膜19は、例えば、窒化シリコン膜から形成され、低温プラズマCVD法によって形成することができる。絶縁膜19の膜厚は、例えば、700nmである。最後に、ボンディングワイヤと接続するために電極パッド(図示せず)上に開口部を形成し、かつ、図22に示すようにセンサ部であるゲート電極26を露出するように開口部を形成する。このようにして、本実施の形態2におけるSi−MOSFET型のガスセンサを形成することができる。
この場合、図18に示す隙間23aには絶縁膜(PSG)16が残ることがあるがセンサとしては動作するので問題はない。なお、前記実施の形態1の変形例と同様に、配線をMo/Au/Moによる積層構造から形成するガスセンサも形成している。
本実施の形態2では、ゲート絶縁膜14に酸化シリコン膜を使用しているが、この酸化シリコン膜上に酸化タンタル(Ta2O5)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜や窒化シリコン(Si3N4)膜などの絶縁膜を形成してもよいことは、前記実施の形態1と同様である。ただし、本実施の形態2では、図18に示す隙間23aに残存する絶縁膜(PSG)16を確実に除去したい場合には、酸化シリコン膜とエッチング選択性のある酸化タンタル(Ta2O5)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜や窒化シリコン(Si3N4)膜などの絶縁膜を酸化シリコン膜上に形成することが有効となる。
本実施の形態2ではチタン膜の膜厚を5nm、プラチナ膜の膜厚を15nmというように前記実施の形態1と同じ値を用いている。このように構成されている本実施の形態2におけるガスセンサのアニール温度依存性とアニール時間依存性を調べる。図23は、アニール時間を30分に固定した状態での水素応答強度ΔVgとアニール温度との関係を示す図である。また、図24は、アニール温度を650℃に固定した状態での水素応答強度ΔVgとアニール時間との関係を示す図である。
図23に示すように、アニール温度が800℃に近づくと、プラチナ微結晶間の距離が開き、相互のプラチナ微結晶が分離されている隙間が広がり、水素応答特性(水素応答強度ΔVg)が悪くなる。一方、アニール温度が500℃よりも低温側では、プラチナ微結晶は間隙を有した縞状構造をとり始めるが、隙間のゲート電極平面内での面積が少なく水素応答特性が悪くなる。このことから、結局、チタン膜の膜厚を5nmにし、プラチナ膜の膜厚を15nmとする構造では、アニール温度を650℃近傍にすることで、縞状構造をとる構造で水素応答特性を向上できることがわかる。続いて、図24に示すように、アニール温度が650℃でのアニール時間依存性は、15分〜20分程度がよいことが示されている。
しかし、温度を650℃から変えてアニール時間依存性を取ると図25に示すような特異な傾向が顕在化している。図25は、様々なアニール温度でのアニール時間とガス応答電圧との関係を示す図である。図25に示すように、アニール温度が800℃という高温では、アニール時間を小さくすることでガス応答特性(ガス応答電圧)は向上する。これに対し、アニール温度550℃という低温では、長時間のアニール処理が有効であることがわかる。
次に、チタン膜の膜厚とプラチナ膜の膜厚とを変化させて、ガス応答電圧とチタン(Ti)/プラチナ(Pt)膜厚比との関係を調べてみた。図26は、アニール時間を30分に固定した状態で、3種類のアニール温度でのガス応答電圧とチタン(Ti)/プラチナ(Pt)膜厚比との関係を示す図である。図26に示すように、アニール温度が800℃という高温では、例えば、チタン膜の膜厚を10nmとし、かつ、プラチナ膜の膜厚を20nmというように、チタン膜の膜厚およびプラチナ膜の膜厚を厚くしても、まだガス応答特性(ガス応答電圧)が飽和しない。本実施の形態2で説明したガス選択性の高いガスセンサの場合、チタン膜の膜厚とプラチナ膜の膜厚との最適な膜厚比、最適なアニール温度、最適なアニール時間には大きな幅があり、特別に厚いチタン膜とプラチナ膜でなければガス応答特性を最適化する条件は見つけ出せるのである。例えば、チタン膜の膜厚を1nm以上10nm以下にし、かつ、プラチナ膜の膜厚を1nm以上30nm以下にする条件でもガス応答特性を最適化することができる。
(実施の形態3)
次に、本実施の形態3における水素ガスセンサについて説明する。図27は、本実施の形態3における水素ガスセンサを形成している半導体チップの光学顕微鏡写真である。図27に示すように、2mm×2mmの半導体チップ(シリコンチップ)CHP上には、センサFET27、参照FET28、金属配線からなるヒータ29およびチップ温度を計測するためのPN接合ダイオード30が形成されている。この場合配線幅30μmであり、配線長19000μmの配線ヒータである。センサFET27および参照FET28は、前記実施の形態1で説明したSi−MOSFETを使用している。このセンサFET27および参照FET28の構成を前記実施の形態1と基本的に相違する構成を主として説明する。
本実施の形態3における水素ガスセンサは、半導体チップCHPに2種類のFET(センサFET27と参照FET28)とPN接合ダイオード30を集積させるので、これらのデバイス間を分離する素子間分離が必要である。本実施の形態3では互いに素子を分離するために、最も良く知られているPN接合分離技術を用いている。図28にはn型半導体基板上に形成されたセンサFET27の断面構造が示されており、図29には、n型半導体基板上に形成された参照FET28の断面構造が示されている。図28〜図29中に記載されている符号のうち図8と同じ符号は、同じ構成要素を示している。
図28に示すように、センサFET27には、n型半導体基板10a中にセンサFETの形成領域を定義するp型ウェル31が形成されている。このp型ウェル31は、例えば、イオン注入法により形成されたp型半導体領域から構成される。この場合、p型ウェル31の電位を固定するため、n型半導体基板10aにp+型半導体領域34が、例えば、イオン注入法で形成されている。そして、ソース電極17やドレイン電極18と同じくアルミニウム膜から形成されたp型ウェル電極32をp+型半導体領域34に接続するように形成している。同様にn型半導体基板10aの電位を固定するため、n型半導体基板10aにn+型半導体領域35が、例えば、イオン注入法で形成されている。そして、アルミニウム膜から形成された基板電極33をn+型半導体領域35に接続するように形成している。
図29に示すように、参照FET28にも、n型半導体基板10a中に参照FET28の形成領域を定義するp型ウェル31が形成されている。このp型ウェル31は、例えば、イオン注入法により形成されたp型半導体領域から構成される。この場合、p型ウェル31の電位を固定するため、n型半導体基板10aにp+型半導体領域34が、例えば、イオン注入法で形成されている。そして、ソース電極17やドレイン電極18と同じくアルミニウム膜から形成されたp型ウェル電極32をp+型半導体領域34に接続するように形成している。同様にn型半導体基板10aの電位を固定するため、n型半導体基板10aにn+型半導体領域35が、例えば、イオン注入法で形成されている。そして、アルミニウム膜から形成された基板電極33をn+型半導体領域35に接続するように形成している。
このように構成されたセンサFET27と参照FET28との相違する点は、センサFET27では、ゲート電極15が絶縁膜19から露出しているのに対し、参照FET28では、ゲート電極15が絶縁膜16と19に覆われている点である。この相違は、センサFET27では、水素ガスと接触させる必要があるのに対し、参照FET28は水素ガスと接触させないように構成するためである。
PN接合ダイオード(図示せず)の断面図は省略されているが、接合面積は60μm×200μmである。ダイオード特性である順方向バイアスの立ち上がり電圧Vf=0.3Vで10μAの電流が流れる状態がチップ温度100℃に対応することを温度校正条件から見出している。
本実施の形態3における水素ガスセンサの配線は、例えば、Mo/Au/Mo構造を採用している。同様に、ヒータ29の配線とソース電極17およびドレイン電極18もMo/Au/Mo構造を採用している。一方、ヒータ29の配線とソース電極17およびドレイン電極18は前記実施の形態1で使用しているアルミニウム配線を使用する試作品も製作している。本実施の形態3では、このような2種類の配線材料を使用して信頼性試験を行なっている。この結果、高温熱加速試験や高温高湿試験では、金配線の方がアルミニウム配線に比べて長い寿命である一方、製造コストは高くつくので、適用製品で使い分ける必要がある。
ここで、ゲート電極を形成した後、絶縁膜(PSG)16を形成する。その後、絶縁膜16上に配線を形成し、配線を覆う半導体基板の全面に絶縁膜(窒化シリコン膜)19を形成する。その後、センサFET27の形成領域では、プラチナ膜からなるゲート電極15(センサ感応部)上の絶縁膜16と絶縁膜19とを除去してセンサFET27を形成している。一方、参照FET28の形成領域では、プラチナ膜からなるゲート電極15上の絶縁膜16と絶縁膜19とを除去せずに残存させている。このように構成することで、センサFET27と参照FET28の両者は、ほぼ同じしきい値電圧Vth=1.02Vを実現している。
センサFET27だけを単独で形成するのであれば、高純度空気中において、アニール温度が400℃でアニール時間が2時間であるアニール処理は、ガスセンサの製造工程の途中で行わなくてもよく、ガスセンサの製造工程が完了した時点で行うこともできる。このアニール処理(熱処理)により、熱処理前にはチタンの仕事関数がしきい値電圧Vthの支配的要因であったものが、プラチナの仕事関数がしきい値電圧Vthの支配的要因に変わるので、しきい値電圧Vthは1.2V近く浅くなる。
しかし、参照FET28も同時に半導体チップCHPに集積化して、センサFET27としきい値電圧Vthを揃えようとすると、参照FET28のゲート電極15を保護する絶縁膜16と絶縁膜19が酸素を通さないので、参照FET28のしきい値電圧Vthは元のチタンの仕事関数がしきい値電圧Vthの支配的要因のままである。
図30は、絶縁膜16および絶縁膜19(PSG/SiN)の有無によりゲート電圧Vgsとソースドレイン電流Idsの関係が変化することを示す図である。図30に示すように、ゲート電極15上の絶縁膜16と絶縁膜19の有無により、1mm程度隔てた隣り合うセンサFET27と参照FET28で、しきい値電圧Vthが1.2V程度異なることがわかる。したがって、ガスセンサの製造工程が終了した後に参照FET28とセンサFET27に熱処理を行なって、互いのしきい値電圧Vthを揃えたい場合、ガスセンサの製造工程の途中で、両方のFET(センサFET27と参照FET28)のゲート電極15(センサ感応部)上の絶縁膜16および絶縁膜19(PSG/SiN)を除去する必要がある。そして、両方のFET(センサFET27と参照FET28)とも、高純度空気中において、アニール温度が400℃でアニール時間が2時間のアニール処理を行った後、参照FET28のゲート電極15上に形成された開口部を水素ガスに応答しないように新たな絶縁膜で覆う必要がある。
(実施の形態4)
次に、本実施の形態4では、ゲート電極を構成するプラチナ膜上にパラジウム膜を形成するSi−MOSFET型の水素ガスセンサについて説明する。パラジウム膜をゲート電極に使用するSi−MOSFET型の水素ガスセンサは、低濃度の水素ガスに対して高速応答するという特徴があるので、前記実施の形態1で説明した構造を有するSi−MOSFET型の水素ガスセンサを改良し、プラチナ膜上にパラジウム膜を形成してみる。
パラジウム膜をゲート絶縁膜上に形成したSi−MOSFET型の水素ガスセンサでは、水素被爆やエタノールガス被爆により、吸蔵水素が原因でパラジウムの格子定数が膨張する現象が発生する。この現象により、パラジウム膜に機械的ストレスが発生し、パラジウム膜とゲート絶縁膜(酸化シリコン膜)の界面で、パラジウム膜が部分的に膨れてしまうブリスタ(Blister)という現象が発現することが知られている。このブリスタを回避する方法としては、ゲート絶縁膜上に形成するゲート電極をパラジウム膜とプラチナ膜の2層構造とすることが知られている。すなわち、ゲート絶縁膜上にプラチナ膜を形成し、このプラチナ膜上にパラジウム膜を形成することが知られている。
しかし、プラチナ膜を直接ゲート絶縁膜上に形成する構造では、プラチナ膜自身の膜ハガレが発生するので実用にならないのである。そこで、ゲート構造としてPd/Pt/Ti/SiO2/Siの構造を形成し、この構造に対して、酸素雰囲気中で熱処理温度が400℃近くの熱処理をかける。すると、パラジウム膜の表面が酸化されてしまうので、パラジウム膜の触媒作用が減少してしまう。そこで、ゲート構造をPt/Ti/SiO2/Siの構造で形成した状態で上述した熱処理を加え、この熱処理が終了した後、パラジウム膜をプラチナ膜上に形成する。つまり、プラチナ膜をゲート電極形状に加工して上述した熱処理を実施した後、プラチナ膜をすべて覆うようにパラジウム膜を形成するのである。このようにパラジウム膜を上述した熱処理を加えた後に形成することで、パラジウム膜の表面が酸化されて触媒機能が低下することを抑制できる。
本実施の形態4では、前記実施の形態1における水素ガスセンサの製造方法に即して水素ガスセンサを製造している。本実施の形態4においても、Pt/Ti/SiO2/Siの構造を形成した後、高純度空気中において、熱処理温度が400℃で熱処理時間が2時間の熱処理を実施することにより、図1に示すゲート構造を実現する。その後、再度必要なセンサFETのゲート電極を構成するプラチナ膜を覆うように膜厚が70nmのパラジウム膜(パラジウム電極)をリフトオフ法により形成する。パラジウム電極の厚さは、30nm〜300nmの範囲にすることが望ましい。このとき、プラチナ膜の膜厚は、5nm〜15nmの範囲であり、チタン膜の膜厚は、3nm〜5nmの範囲で用いることが多い。
プラチナ膜とパラジウム膜を含むゲート電極を形成した後、空気中において、比較的低温(250℃〜300℃)な温度で30分程度の時間だけアニール処理(熱処理)することにより、パラジウム膜の表面層をPdO(Pd酸化物)に変換させることができる。この場合、水素応答強度は多少減少するが、長期安定性の高い水素ガスセンサを得ることができる。なぜなら、パラジウムはプラチナと異なり比較的安定な酸化物を形成するからである。このような構造を実現することで、低濃度(約500ppm以下)の水素ガス濃度領域で高速応答し、かつ、ゲート電極の膜ハガレを抑制して信頼性が高い水素ガスセンサを実現することができる。したがって、半導体チップ(シリコンチップ)内に前記実施の形態1における水素ガスセンサと本実施の形態4における水素ガスセンサを形成することにより、低濃度(100ppm)の水素ガスから高濃度(10%)の水素ガスまで広い範囲で水素ガスを検知する水素ガスセンサを製造することができる。つまり、低濃度の水素ガスに対しては、パラジウム膜の触媒作用を積極的に利用した本実施の形態4における水素ガスセンサが有効に機能し、高濃度の水素ガスに対しては、前記実施の形態1における水素ガスセンサが有効に機能するのである。
(実施の形態5)
前記実施の形態1〜前記実施の形態4では、MOSFETを水素ガスセンサに適用する例について説明したが、MOSFETに代えて、MIS型キャパシタやショットキーダイオードを用いても本発明を実現できる。特に、MIS型キャパシタは前記実施の形態1で説明した図8において、ゲート電極15の平面形状をたとえば直径50μm〜100μmの円形形状にし、ソース電極17およびドレイン電極18は、ゲート電極15を同心円状に囲む形状とすることができる。このMIS型キャパシタでは、例えばフラットバンド状態での電圧をしきい値電圧Vthと定義して、水素ガスの応答を測定できる。MIS型キャパシタでは、ゲート電極15が上部電極として機能し、ゲート電極15直下の半導体基板10が下部電極として機能する。そして、この半導体基板10は電気的にソース電極17とドレイン電極18と接続されるように構成することにより、下部電極の引き出し電極がソース電極17およびドレイン電極18となる。さらに、ゲート電極15と半導体基板10との間のゲート絶縁膜14が容量絶縁膜として機能する。このように構成されたMIS型キャパシタによれば、水素ガスの有無によって半導体基板10の表面に形成されるチャネル領域が形成されたり消滅する(水素ガスによってしきい値電圧Vthが変化することに対応する)ことを利用するものである。つまり、半導体基板10に形成されるチャネル領域の有無によってMIS型キャパシタの電気容量が変化するので、この電気容量の変化を検出することで間接的に水素ガスの存在を検知することができるのである。
これまでの例では、Si−MOSFETを水素ガスセンサについて適用した例を示しているが、例えば、炭化シリコン(SiC)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)などの他の半導体材料を用いた素子でも本発明を適用することができる。例えば、このような半導体材料を用いたMIS型キャパシタ、ショットキーゲートのFET、PN接合ゲートのFETについても適用することができる。
(実施の形態6)
前記実施の形態1〜前記実施の形態5では、MOS構造を有するガスセンサに本発明を適用する例について説明したが、本発明の技術的思想は、プラチナ薄膜を積極的に用いる別の原理のガスセンサもしくはプラチナを絶縁体(絶縁膜)もしくは半導体膜上に形成して用いる電極についても適用して有効である。本実施の形態6では、別の原理のガスセンサもしくは電極に、本発明を適用する例について開示する。
まずEMF型水素ガスセンサ(表面技術 2006年57巻N04、15-18ページ)における水素ガスの検出電極に本発明を適用した場合の例を図31に開示する。図31はセンサの平面図を示しており、図32はセンサの断面図(図31のA−A線による断面図)を示している。図31および図32に示すように、アルミナ基板41に固体電解質38としてリンタングステン酸(P2O5・24WO3・nH2O)をイオン交換水に濃度25g/10mlになるように溶解させた溶液を1ml滴下し、乾燥させて固着させた。この固体電解質38に接続するように、5nmのチタン膜と15nmのプラチナ膜よりなる検出電極36を形成した後、空気中において、熱処理温度が400℃で熱処理温度が2時間のアニール処理を実施した。その後、基準電極37として、膜厚が300nmのニッケル膜を形成し、取り出し電極39、40としてアルミニウム膜を700nmの膜厚で形成した。乾燥して固化させた固体電解質38の補強剤として、グラスウールを使用している。
このように構成されたEMF型水素ガスセンサでは、ニッケル膜から形成されている基準電極37の電位に対して、プラチナ膜を含む検出電極36の電位が水素ガスによって変化することを利用して水素ガスを検知するものである。
このとき、例えば、検出電極36を構成するプラチナ膜を直接アルミナ基板41や固体電解質38上に形成すると、プラチナ膜の膜ハガレが発生することが懸念されるが、本実施の形態6で説明している構造では、プラチナ膜の膜ハガレに対する耐性が著しく向上するという効果が得られる。つまり、本実施の形態6の特徴は、プラチナ(Pt)/チタン(Ti)/アルミナ基板41の構造およびプラチナ(Pt)/チタン(Ti)/固体電解質38の構造を酸素ガス雰囲気中で加熱することにある。これにより、チタンがプラチナの粒界に侵入することで、プラチナの微結晶とアルミナ基板41(あるいは、プラチナの微結晶と固体電解質38)間の相互の接着性が向上するのである。なお、アニール処理(熱処理)として、熱処理温度を300℃とする場合には、熱処理時間を240時間としている。また、パラジウムを水素ガスの検出電極36に用いる場合には、前記実施の形態4と同様に、検出電極36をパラジウム(Pd)/プラチナ(Pt)/チタン(Ti)の積層構造とすることで、検出電極36の接着性を向上することができる。
次に、プラチナ電極は広く産業応用で用いられている。本発明のプラチナ薄膜構造(前記実施の形態1で説明している構造)を、例えば、電解結晶成長法などで使用するプラチナ電極に適用できる。電解結晶成長法では、プラチナ電極として、1φ程度のプラチナ線(Pt線)を用いることが多い。例えば、電解移動型有機結晶であるFA2PF6結晶の電界結晶成長法では、電解質を有機溶媒に溶かして通電することでFA2PF6結晶を得ている。電解結晶成長法は、結晶原料を溶解した溶液に電流を流し、陽極に結晶を成長させる手法である。電解結晶成長法で用いる結晶セルは、図33に示すように、ガラス製三角型フラスコ47にニッケルよりなる陽極43を配置し、円柱状試験管48に陰極44を配置している。そして、陽極43の先端には陽極42が形成されており、陽極42と陰極44とを電解溶液でつないでいる。このとき、電解反応で陰極44から発生する異物が陽極42側に拡散しないようにフィルタ45が形成されている。さらに、結晶セルを真空引きして窒素置換できるように真空コック46が設けられている(「伝導性低次元物質の化学」、日本化学会編、化学総記No.42,1983年、学会出版センター参照)。
ここで、陽極43の先端に設けられている陽極42は、通常、単純な1φ程度のプラチナ線から形成されている。この場合、プラチナ線というバルク状態のプラチナを使用するため、プラチナ量が多く必要となり高価になる。そこで、陽極42として、バルク状態のプラチナ線ではなくプラチナの薄膜を使用することが考えられる。例えば、図34は、陽極42としてプラチナの薄膜を使用する構成例を示す図である。図34に示すように、セラミックス基板50の両面を含む全面にわたりプラチナ薄膜49を形成する。そして、このプラチナ薄膜49に陽極43が電気的に接続するように構成するのである。この図34に示すように陽極42をプラチナ薄膜49から構成することにより、陽極42をバルク状態のプラチナ線を使用する場合に比べて、プラチナの使用量を節約することができる。したがって、例えば、FA2PF6結晶を大量、かつ、安価に製造したいときには、図34に示す構造の陽極42を使用することで、プラチナの使用量を著しく節約することができる。
ただし、陽極42として図34に示す構造を使用する場合、セラミックス基板50とプラチナ薄膜49との間の膜ハガレが懸念される。そこで、前記実施の形態1に示した構造と同様に、セラミックス基板50上に、膜厚が5nmのチタン膜と膜厚が15nmのプラチナ膜を形成し、その後、空気中において、熱処理温度が400℃で熱処理時間が2時間のアニール処理を行なう。つまり、プラチナ(Pt)/チタン(Ti)/セラミックス基板50の構造を酸素ガス雰囲気中で加熱する。これにより、チタンがプラチナの粒界に侵入することで、プラチナの微結晶とセラミックス基板50間の相互の接着性が向上するのである。この場合、前記実施の形態1と同様に、チタン膜は酸素ドープチタン膜となっているので、電解溶液中での通電によるチタン膜の劣化も、酸素ドープチタン膜とすることで抑制できるのである。なお、本実施の形態6における電極構造は、電解結晶成長法による電極に使用されるだけでなく、燃料電池などに使用する電極としても有効に働くものである。
なお、チタン膜の代わりに、タングステン(W)膜、モリブデン(Mo)膜、タンタル(Ta)膜、ニオブ(Nb)膜、クロム(Cr)膜などを用いても本実施の形態6で説明したのと同様の手法により高信頼性の電極を形成できることは言うまでもない。
以上、共通する技術的思想としては、触媒電極Ptを絶縁体や半導体に薄膜形成して用いるガスセンサもしくは電極にあっては、本発明の構造と製造方法は非常に効力を発揮する。以上の実施の形態などの説明はすべて、Nチャネル型MISFETの場合で説明したが、Pチャネル型MISFETの場合にも同様に適用できることは言うまでもない。
以上のように、本発明を前記実施の形態1〜前記実施の形態6を用いて説明したが、本発明の効果をまとめると以下に示すようになる。
(1)プラチナ微結晶間の粒界領域がPt−Ti−O領域で埋まり、プラチナ膜の直下
に形成されているTiOxに繋がっているので、プラチナ膜がしっかり固定され、剥がれ
なくなる効果が得られる。つまり、プラチナ膜の接着強度が向上し、ガスセンサの信頼性
を向上することができる。
(2)プラチナ結晶粒界が酸素雰囲気でのアニール処理を実施することにより、プラチ
ナ結晶粒界を通ってチタンが抜け出し、さらに、プラチナ結晶粒界を通って酸素が進入す
ることで粒界領域(Pt−Ti−O領域)を新たに形成でき、単純なプラチナ結晶粒界と
比べて水素ガスを通過しやすくなる。このため、プラチナ膜をゲート電極として使用する
Si−MOSFET型のガスセンサでも、パラジウムをゲート電極として使用するSi−
MOSFET型のガスセンサ並みの高感度と高速応答を実現できる。
(3)本構造を実現するには、チタン膜を形成した後にプラチナ膜を形成するので、チ
タン膜が接着剤の役割を果たして、素子作成工程中のプラチナ膜の膜剥がれを防止する機
能を果たす。さらに、プラチナ膜をマスクとして、空気中または不活性ガスに混合された
酸素ガスなど実質的に酸素ガスが支配的なガス雰囲気中でアニールすることで、プラチナ
結晶粒界を通して、チタンが外部(プラチナ結晶粒上の表面)に析出するとともに、酸素
がプラチナ結晶粒界から入ってきてPt−Ti−O領域を形成することができる。
(4)酸素中のアニ−ル温度を上げることでプラチナ微結晶間隔が数nmから数10n
mの間隙を持つ縞状のプラチナ微結晶を酸化チタン膜(主としてルチル型二酸化チタン、
アナターゼ結晶や酸素ドープの非晶質のチタンが混じることもある)上に形成する構造に
することができるので、水素ガス以外のアンモニア(NH3)、エタノール(C2H5OH)、CO,C2H4にも応答する選択性の高いガスセンサを実現することができる。もともと接着性の高いPt/Ti構造から形成されるPt/酸化チタン構造であり、さらにプラチナ膜の膜厚が厚いこともあり、プラチナ膜の膜ハガレにも強く信頼性の高いガスセンサを提供することができる。
(5)EB(電子ビーム)蒸着法を採用すると、スパッタリング法よりも、しきい値電圧Vthのバラツキが小さい膜を形成することができ、実際に用いる熱処理後のしきい値電圧Vthのバラツキを極めて小さくすることができる。
このように、Si−MOSFETのゲート構造と製造方法を工夫することで、従来から長寿命化が困難といわれていたSi−MOSFET型のガスセンサにおいて、3年〜5年という長寿命化を実現できている。さらに、本発明は、ゲート電極に用いるプラチナ膜の特殊なゲート構造とその製造方法を工夫することで、ガスセンサの信頼性が格段に高まり、危険予知に必要な1000ppm以上の高濃度の水素ガスに対して、非常に速い応答速度(例えば、1秒)を実現することができる。さらに、本構造をゲート電極にプラチナ膜を使用するSi−MOSFETだけでなく、ゲート電極にプラチナ膜とパラジウム膜を使用するSi−MOSFETにも適用し、両方のSi−MOSFETを組み合わせたガスセンサを形成することで、例えば、100ppm〜10%までの広い濃度領域で高感度な検出を実現することができる。
今回開発した水素ガスセンサは、100℃〜110℃という低温での動作においてHMDS(ヘキサメチルジシロキサン)ガスによる被毒性がなく、ガス干渉性の目安である、メタンガス、エタン、イソオクタン、COガスにも反応しないという優れた特性が見出されている。この水素ガスセンサは、チップサイズが2mm×2mmという半導体チップ(シリコンチップ)としては大きいが、消費電力が100mWと極めて小さくすることを実現している。さらに、水素ガスセンサの応答領域も100ppmから10%ときわめて広く、1%以上の高濃度の水素ガスに対しては、応答速度が2秒と高速である結果が得られている。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。